JP7330862B2 - 母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
C :0.03質量%~0.10質量%、
Si:0.05質量%~0.40質量%、
Mn:0.90質量%~1.60質量%、
P :0質量%超、0.010質量%以下、
S :0質量%超、0.010質量%以下、
Al:0.010質量%~0.060質量%、
Ni:0.50質量%~1.1質量%、
Nb:0.007質量%~0.022質量%、
Ti:0.007質量%~0.017質量%、
N :0.0025質量%~0.0060質量%、および
残部が鉄および不可避不純物からなり、
下記(1)式で規定されるBIが5.30以上、6.2以下であり、
全組織に占めるフェライトの分率が85面積%以上、かつパーライトの分率が10面積%未満であり、前記フェライトの平均円相当結晶粒径が7μm以下でその標準偏差が3.7μm以下である、母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板である。
BI=12×(C+5Nb)+2Mn+Cu+Ni+300B・・・(1)
式(1)中、C、Nb、Mn、Cu、Ni、Bはそれぞれ、質量%で示したC、Nb、Mn、Cu、Ni、Bの鋼中含有量を示し、含まれない元素は0質量%として計算する。
B :0質量%超、0.002質量%以下、
Ca:0質量%超、0.003質量%以下、および
Cu:0質量%超、0.35質量%以下よりなる群から選択される1種以上の元素を含有する、態様1に記載の母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板である。
態様1または2に記載の成分組成を有する鋼片を加熱後、下記(a)~(c)の条件を満たすように熱間圧延を行い、熱間圧延後、圧延終了温度~(Ar3変態点-30℃)以上の制御冷却開始温度から、Ar3変態点~500℃の制御冷却終了温度までを、0.6℃/s以上、10℃/s以下の平均冷却速度で冷却する、母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板の製造方法である。
(a)鋼板の板厚の1/4位置の温度が950~875℃のときは、35%以上の累積圧下率で圧下する。
(b)鋼板の板厚の1/4位置の温度が820℃以下、Ar3変態点以上のときは、30%以上の累積圧下率で圧下する。
(c)鋼板の板厚の1/4位置の温度が、875℃未満、820℃超と、二相温度域にあるときは、圧下を行わない。
BI=12×(C+5Nb)+2Mn+Cu+Ni+300B・・・(1)
式(1)中、C、Nb、Mn、Cu、Ni、Bはそれぞれ、質量%で示したC、Nb、Mn、Cu、Ni、Bの鋼中含有量を示し、含まれない元素は0質量%として計算する。
本発明の鋼板は、全組織に占めるフェライトの分率が85面積%以上であり、前記フェライトの平均円相当結晶粒径が7μm以下であり、その標準偏差が3.7μm以下である。本発明では、上記の通り、フェライト分率を適正化し、かつ、フェライト粒の微細化と均一化を図ることによって、高強度と優れた低温靭性を両立させた鋼板を実現することができる。前記フェライトの平均円相当結晶粒径は、好ましくは6.9μm以下である。本発明の鋼板の製造条件等を考慮すれば、前記フェライトの平均円相当結晶粒径の下限は、4.5μm程度である。また、上記円相当結晶粒径の標準偏差を3.7μm以下とすることで、より確実に高強度かつ低温靭性に優れた鋼板を実現することができる。前記標準偏差は、好ましくは3.6μm以下、より好ましくは3.5μm以下である。
次に、本発明の鋼板の成分組成について説明する。
Cは、高強度化に寄与する元素であるため、0.03質量%以上含有させる。C量は、好ましくは0.04質量%以上、より好ましくは0.050質量%以上である。一方、C量が過剰であると、パーライト分率が増加し、母材靭性の低下や継手靭性の低下、更には溶接性の劣化を招くため、C量は0.10質量%以下とする。C量は、好ましくは0.090質量%以下であり、更に0.080質量%以下とすることもできる。
Siは、鋼を溶製する際に脱酸剤として作用し、また、鋼の強度を上昇させる効果を発揮する。こうした効果を発揮させるため、0.05質量%以上含有させる。Si量は、好ましくは0.07質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上である。一方、Si量が過剰になると、母材の靭性、継手部の靭性が低下するため、Si量は0.40質量%以下とする。Si量は、好ましくは0.35質量%以下、より好ましくは0.30質量%以下である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、変態温度を低温化させることで、圧延による組織微細化に有効な元素である。また、高強度化に有効な元素でもある。よって、Mnを、0.90質量%以上含有させる。Mn量は、好ましくは1.00質量%以上、より好ましくは1.10質量%以上である。一方、Mnを過剰に含有させると、MnSの粗大化とパーライト分率の増加が生じて母材と継手の靭性が劣化し、また継手にMAが形成されて、継手の靭性の更なる低下を招くため、Mn量の上限を1.60質量%とする。Mn量は、好ましくは1.55質量%以下である。
不可避不純物であるPは、母材と溶接部の靭性に悪影響を及ぼすため、0.010質量%以下に抑制する。工業上、P量を0質量%にすることは困難であり、P量の下限は0.002質量%程度である。
Sは、MnSを形成して靭性を劣化させる元素であるため、0.010質量%以下に抑制する必要がある。S量は、好ましくは0.005質量%以下である。工業上、S量を0質量%にすることは困難であり、S量の下限は0.001質量%程度である。
Alは、脱酸に必要な元素であり、該効果を発揮させるため、0.010質量%以上含有させる。Al量は、好ましくは0.015質量%以上である。一方、Alが過剰に含まれると、アルミナ系の粗大な介在物を形成し靭性が低下するため、Al量の上限を0.060質量%とする。Al量は、好ましくは0.050質量%以下である。
Niは、鋼板における良好な低温靭性を確保し、鋼板の強度と低温靭性の両特性を向上させるのに有用な元素である。本発明においてNiは、前述の通り、オーステナイトを安定化させ、変態温度を低温化、すなわちAr3変態点を低下させるのに有用な元素である。前記Ar3変態点の低下により、圧延による組織微細化を図ることができ、上記特性を向上できる。該効果を発揮させるため、Ni量を0.50質量%以上とする。Ni量は、好ましくは、0.60質量%以上、より好ましくは0.65質量%以上、更に好ましくは0.70質量%以上である。一方、Ni量が過剰になると、Niによる強度と靭性に及ぼす効果のバランスが崩れて、低温での延性破壊の抑制効果よりも強度上昇効果が勝り、低温靭性が劣化する。本発明では、前述の通り、強度向上とともに低温での母材靭性の向上を図るため、Ni量を1.1質量%以下とする。Ni量は、好ましくは1.0質量%以下であり、より好ましくは0.80質量%以下である。
Nbは、オーステナイト粒の再結晶抑制効果を通じてフェライト粒の微細化効果を有する元素である。該効果を得るため、Nbを0.007質量%以上含有させる。Nb量は、好ましくは0.010質量%以上である。一方、Nb量が過剰になると靭性が低下するため、その上限を0.022質量%とした。Nb量は好ましくは0.020質量%以下である。
Tiは、強力な窒化物形成元素であり、微量でTiNの微細析出による結晶粒の微細化効果を発揮する。該効果を発揮させるため、Ti量を0.007質量%以上とする。Ti量は、好ましくは0.010質量%以上である。一方、Ti量が過剰であると、かえって継手の靭性の低下を招く。よってTi量は、0.017質量%以下、好ましくは0.015質量%以下とする。
Nは、AlNを生成し、熱間圧延前の加熱時、および溶接時におけるγ粒の粗大化を防止し、母材や継手の靭性を向上させるのに有効な元素である。該効果を発揮させるため、Nを0.0025質量%以上含有させる。N量は、好ましくは0.0030質量%以上である。一方、Nを過剰に含有させると、固溶Nの増大により、母材靭性が劣化する。よってN量は、0.0060質量%以下、好ましくは0.0050質量%以下とする。
これらの元素は、強度または靭性の向上に寄与し、高強度と低温靭性のバランスを更に高めることに寄与する。各元素について、下記に示す。
Bは、BNを生成することで靭性に悪影響を及ぼす固溶Nを低下させる作用を有する。また、オーステナイトを安定化させ、Ar3変態点を低下させることで、圧延による組織微細化に寄与する元素でもある。必要に応じて該効果を発揮させる場合は、B量を0質量%超とすることが好ましく、より好ましくは0.0003質量%以上とする。一方、B含有量が多過ぎると、Bの析出物を増加させて靭性が却って劣化するので、0.002質量%以下に抑えることが好ましい。
Caは、介在物の制御により鋼板の靭性を向上させるのに有効な元素である。必要に応じて該効果を発揮させる場合、Ca量を0質量%超とすることが好ましく、より好ましくは0.0005質量%以上である。一方、Caが過剰に含まれると、靭性が低下するため、Ca量は0.003質量%以下とすることが好ましい。
Cuは、強度向上に有効な元素である。必要に応じて該効果を発揮させる場合は、Cu量を0質量%超とすることが好ましく、より好ましくは0.05質量%以上である。Cu含有量が多過ぎると、熱間加工の際に割れが発生しやすくなるので、Cu量は0.35質量%以下とすることが好ましく、より好ましくは0.30質量%以下である。
本発明の高張力鋼板は、引張強さ、母材の低温靭性(vTrs)、引張強さと母材の低温靭性との積(TS×vTrs)、および、-65℃以下、-70℃以上の温度域の継手靭性が、何れも高いレベルにある。本発明の高張力鋼板のこれらの特性について以下に詳述する。
490MPa以上のTSを有する。これにより十分な強度を確保できる。TSは好ましくは500MPa以上、より好ましくは510MPa以上、更に好ましくは520MPa以上である。
vTrsが-80℃以下である。該vTrsは、好ましくは-90℃以下、より好ましくは-100℃以下である。
TS×vTrsは-41000(MPa・℃)以下である。TS×vTrsは、好ましくは-42000(MPa・℃)以下、より好ましくは-43000(MPa・℃)以下、更に好ましくは-46000(MPa・℃)以下である。
本発明の鋼板は、後記の実施例に示す通り入熱量4~5kJ/mmの溶接を行ったときに形成される継手が、優れた低温靭性を有する。具体的には、継手の-65℃以下、-70℃以上の温度域でのシャルピー吸収エネルギーvEが27J以上である。前記vEは、好ましくは40J以上、より好ましくは50J以上、更に好ましくは80J以上である。
上記組織を有する本発明の高張力鋼板を製造するため、その製造条件を下記の通り制御する。即ち、上述した成分組成を満たす鋼片を加熱後に、下記の条件で熱間圧延を行う。圧延前の加熱工程では、スラブ等の鋼片を、例えば1000~1250℃で加熱することが挙げられる。
(a)鋼板の板厚の1/4位置の温度が950~875℃のときは、35%以上の累積圧下率で圧下する。
(b)鋼板の板厚の1/4位置の温度が820℃以下、Ar3変態点以上のときは、30%以上の累積圧下率で圧下する。
(c)鋼板の板厚の1/4位置の温度が、875℃未満、820℃超と、二相温度域にあるときは、圧下を行わない。
オーステナイト粒を微細化するには、前記加熱後の再結晶温度域で、十分圧下する必要がある。再結晶温度域で累積圧下率35%以上の圧下を加えることによって、オーステナイト粒内に転位を蓄積させ、この転位を駆動力として新たな結晶粒を生成でき、これが結晶粒の微細化に寄与する。本発明の鋼板の成分組成では、875℃以上で圧下を加えることによって再結晶が生じる。一方、圧下を加える温度が高すぎると微細化に寄与する効果が小さい。よって、圧下を加える温度を950℃以下とした。つまり本発明では、オーステナイト粒の微細化に有効な圧下温度域(再結晶有効温度域)を950~875℃に設定した。なお本発明において、圧下には、圧延が挙げられ、その他に鍛造等が挙げられる。
[(c)鋼板の板厚の1/4位置の温度が、875℃未満、820℃超と、二相温度域にあるときは、圧下なし]
フェライト粒の生成核となりうる変形帯を増やすため、未再結晶温度域においても十分な圧下を必要とする。再結晶温度域よりも低温域で圧下を加えることによって、オーステナイト粒は新たな結晶粒を生成できず扁平した組織となり、粒内に変形帯を導入することができる。しかしながら、再結晶温度域より低温であっても、未再結晶温度域の高温側で圧下を行うと、混粒組織が生じやすく、粗大なフェライト粒が生成されやすい。これらのことから、本発明では、未再結晶温度域の低温側の、圧下を加える温度域を、820℃以下、Ar3変態点以上とした。また、未再結晶温度域の高温側である、875℃未満、820℃超の温度域では、圧下を行わないこととした。
Ar3変態点=868-369×[C]+24.6×[Si]-68.1×[Mn]-36.1×[Ni]-20.7×[Cu]-24.8×[Cr]+29.6×[Mo]・・・(2)
式(2)中、[C],[Si],[Mn],[Ni],[Cu],[Cr]および[Mo]は、夫々C,Si,Mn,Ni,Cu,CrおよびMoの鋼中含有量(質量%)を示し、含まれない元素は0質量%として計算する。
950~875℃の温度域での累積圧下率(%)=(H1-H2)/H1×100
820℃以下、Ar3変態点以上での累積圧下率(%)=(H2-t)/H2×100
上記において、
H1は、950~875℃の温度域での圧延開始時の板厚(例えばスラブ厚)、
H2は、950~875℃の温度域での圧延終了時の板厚=820℃以下、Ar3変態点以上の温度域での圧延開始時の板厚、
tは仕上厚であり、いずれも単位はmmである。
後述する衝撃試験片採取位置と同位置である、各鋼板の表面から板厚方向に6~7mmの位置において、光学顕微鏡を用いて倍率100倍で、1視野が600μm×800μmの領域を観察し、画像解析ソフトを用いて、フェライトとパーライトの分率を測定した。また、フェライト粒径は、各鋼板の表面から板厚方向に6~7mmの位置において、光学顕微鏡を用いて倍率100倍で観察し、フェライト粒の大きさを円と仮定したときの直径を円相当結晶粒径として求め、その平均値(平均円相当結晶粒径)と標準偏差を求めた。
各鋼板の全厚から、圧延方向に対して直角の方向に、JIS Z 2201の1B号試験片を採取して、JIS Z 2241の要領で引張試験を行ない、引張強さ(TS)を測定した。そして引張強さが490MPa以上のものを、高強度であると評価した。
各鋼板の表面から、板厚方向へ6~7mmの位置がシャルピー試験片の中心部と同一となり、試験片の長手方向が圧延方向と直角となるように、試験片を採取した。そして、JIS Z 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、破面遷移温度vTrsを測定した。そして、破面遷移温度vTrsが-80℃以下のものを低温靭性に優れていると評価した。
入熱4~5kJ/mmで溶接を行って得た溶接物から試験片を採取した。試験片は、溶接物の継手において、母材と同じ表面から板厚方向へ6~7mmの位置がシャルピー試験片の中心部と同一となり、かつ試験片の長手方向が、溶接線方向と直角であって圧延方向と直角となるように、試験片を採取した。そして、JIS Z 2242の要領でシャルピー衝撃試験を行い、-65℃または-70℃でのシャルピー吸収エネルギーを求めて、継手(Bond)部の靭性を評価した。
Claims (2)
- 成分組成が、
C :0.03質量%~0.10質量%、
Si:0.05質量%~0.40質量%、
Mn:0.90質量%~1.60質量%、
P :0質量%超、0.010質量%以下、
S :0質量%超、0.010質量%以下、
Al:0.010質量%~0.060質量%、
Ni:0.50質量%~1.1質量%、
Nb:0.007質量%~0.022質量%、
Ti:0.007質量%~0.017質量%、
N :0.0025質量%~0.0060質量%、ならびに
B :0質量%超、0.002質量%以下、
Ca:0質量%超、0.003質量%以下、および
Cu:0質量%超、0.35質量%以下よりなる群から選択される1種以上の元素を含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
下記(1)式で規定されるBIが5.30以上、6.2以下であり、
全組織に占めるフェライトの分率が85面積%以上、かつパーライトの分率が10面積%未満であり、前記フェライトの平均円相当結晶粒径が7μm以下であり、その標準偏差が3.7μm以下である、母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板。
BI=12×(C+5Nb)+2Mn+Cu+Ni+300B・・・(1)
式(1)中、C、Nb、Mn、Cu、Ni、Bはそれぞれ、質量%で示したC、Nb、Mn、Cu、Ni、Bの鋼中含有量を示し、含まれない元素は0質量%として計算する。 - 請求項1に記載の高張力鋼板を製造する方法であって、
請求項1に記載の成分組成を有する鋼片を加熱後、下記(a)~(c)の条件を満たすように熱間圧延を行い、熱間圧延後、圧延終了温度~(Ar3変態点-30℃)の制御冷却開始温度から、Ar3変態点~500℃の制御冷却終了温度までを、0.6℃/s以上、10℃/s以下の平均冷却速度で冷却する、母材と継手の低温靭性に優れた高張力鋼板の製造方法。
(a)鋼板の板厚の1/4位置の温度が950~875℃のときは、35%以上の累積圧下率で圧下する。
(b)鋼板の板厚の1/4位置の温度が820℃以下、Ar3変態点以上のときは、30%以上の累積圧下率で圧下する。
(c)鋼板の板厚の1/4位置の温度が、875℃未満、820℃超と、二相温度域にあるときは、圧下を行わない。
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