JP2004148370A - 溶接装置及びこれを用いた溶接方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】シングルワイヤ方式から、溶接条件が複数変更される場合においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行できる溶接装置及びこれを用いた溶接方法を提供する。
【解決手段】消耗電極ワイヤ4を保持する溶接トーチ2と、この溶接トーチ2を介し消耗電極ワイヤ4を溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置5と、消耗電極ワイヤ4及び消耗電極ワイヤ送給装置5に給電する溶接電源7と、少なくとも消耗電極ワイヤ4に印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置12と、この制御装置12に内蔵され、フィラワイヤ送給開始、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤ4に印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部12aと、このフィラ用電源制御部12aからの指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備える。
【選択図】 図1
【解決手段】消耗電極ワイヤ4を保持する溶接トーチ2と、この溶接トーチ2を介し消耗電極ワイヤ4を溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置5と、消耗電極ワイヤ4及び消耗電極ワイヤ送給装置5に給電する溶接電源7と、少なくとも消耗電極ワイヤ4に印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置12と、この制御装置12に内蔵され、フィラワイヤ送給開始、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤ4に印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部12aと、このフィラ用電源制御部12aからの指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備える。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させる消耗電極式アーク溶接装置に係り、特に、アーク熱により生じる溶融池にフィラワイヤを送給するいわゆるダブルワイヤ方式に移行可能な溶接装置及びこれを用いた溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、母材との間にアークを発生させる消耗電極ワイヤと、この消耗電極ワイヤに対し溶接方向に後行するフィラワイヤとを併用したいわゆるダブルワイヤ方式のアーク溶接装置が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。このダブルワイヤ方式のアーク溶接装置では、消耗電極ワイヤと母材との間にアークを発生させ、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ及び母材を溶融させつつ、更にその溶融池に送給された後行のフィラワイヤを、通電による加熱に加えて溶融池の熱を利用して溶融させるようになっている。このように、溶融池の熱を利用してフィラワイヤを溶融させることにより、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、消耗電極ワイヤのみを用いたアーク溶接装置(以下、シングルワイヤ方式の溶接装置と記載する)に対し、さほど変わらない給電量でワイヤの溶融速度を高めることができ、高い作業能率を確保できるというメリットがある。
【0003】
ここで、この種のダブルワイヤ方式の溶接装置においては、従来から、消耗電極ワイヤを介して母材に流れる溶接電流の一部をフィラワイヤに分流することで、消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤに給電するための電源を共用することが行われてきた。しかしながら、電源を共用した場合、フィラワイヤに流れる電流は、例えば「電源→消耗電極ワイヤ→母材→フィラワイヤ→電源」という経路で流れるため、その経路中の各部の抵抗によって値が変動する。従って、共用の電源を用いた場合には、例えば溶接箇所等によってもフィラワイヤに流れる電流値が変化してしまい、その結果両ワイヤ間に生じる磁界の反発力に不規則な変化が生じるため、両ワイヤが振れてしまう(結果的に溶接箇所がぶれてしまう)等、品質面や作業能率面で不具合が生じる場合があった。
【0004】
それに対し、先の特許文献1等に記載の溶接装置においては、消耗電極ワイヤに給電する溶接電源とは別にフィラワイヤに給電するフィラ用電源を設け、敢えて互いの電源を別電源化することで両ワイヤに流れる電流値を安定させることにより、上記不具合を解決している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3185071号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上述のシングルワイヤ方式の溶接装置は、一般的に、少なくとも消耗電極ワイヤを保持する溶接トーチと、この溶接トーチを介し消耗電極ワイヤを溶接箇所に順次送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、消耗電極ワイヤへの給電量及び消耗電極ワイヤの送給速度を制御する制御装置とで主に構成される。更に、全自動の溶接装置の場合、上記に対し、アーム先端に上記溶接トーチを備え、上記制御装置からの指令に応じた移動経路で溶接トーチを移動させる溶接ロボットが追設される。各種工場においては、こうしたシングルワイヤ方式の溶接装置を所有している場合も多いため、既存のシングルワイヤ方式の溶接装置をダブルワイヤ方式の溶接装置として運用できるように改修することが望まれるケースも少なくない。
【0007】
シングルワイヤ方式の溶接装置からダブルワイヤ方式の溶接装置へ改修する場合、前述のように溶接品質や作業能率を考えれば、既存の溶接電源に加えてフィラ用電源を追加する必要が生じる。また、半自動又は全自動のダブルワイヤ方式の溶接装置を構築するためには、既存の消耗電極ワイヤへの電力供給及び消耗電極ワイヤの送給等に対し、フィラワイヤへの電力供給及びフィラワイヤの送給が連動するようにしなければならない。そこで、この技術的課題を解決する1つの方策として、既存の制御装置の出力端子に、別途設けたフィラ用電源制御用の第2の制御装置を接続し、この第2の制御装置によりフィラ用電源を作動させるよう構成することが考えられる。
【0008】
しかしながら、通常、制御装置の出力端子からの出力信号はON/OFF信号であるため、単に第2の制御装置を既存の制御装置に接続する構成とした場合、次のような課題が存在する。
例えば、溶接条件の異なる溶接箇所が複数存在する場合においては、消耗電極ワイヤ側の各種条件と同様に、フィラワイヤ側の各種条件を適宜変更しなければならない場合がある。ところが、それぞれの制御装置は単にON/OFF信号で連動するのみであるため、第2の制御装置は、既存の制御装置との間に情報の伝達がなく、消耗電極ワイヤ側の条件に応じて条件を変更することができない。そのため、フィラワイヤ側の条件を変更する際には、その都度作業を中断して条件を設定し直さなければならず、溶接条件が複数変更される作業を行う場合には、連続的な作業を行うことが困難である。
【0009】
本発明は上記の事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、シングルワイヤ方式から、溶接条件が複数変更される場合においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行できる溶接装置及びこれを用いた溶接方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明の溶接装置は、消耗電極ワイヤを保持する溶接トーチと、この溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、この制御装置に内蔵され、前記溶接トーチに保持されるフィラワイヤの送給開始、フィラワイヤの送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備える。
【0011】
本発明においては、フィラワイヤ送給開始時間、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤに印加する電流値等を入力し、これらを指令する指令信号を演算するフィラ用電源制御部を、消耗電極ワイヤ側の給電量やワイヤ送給速度等を制御する制御装置内に設けることにより、フィラ用電源を追加した場合にも、消耗電極ワイヤ側の制御とフィラワイヤ側の制御とが共通の制御装置により制御される。これにより、フィラ用電源制御部は、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度等を指令する信号を、入力された設定値に従って順序立てて複数演算し、それぞれ消耗電極ワイヤ側の挙動に合わせて順次フィラ用電源に出力することが可能となる。従って、例えば複数の溶接箇所を溶接する場合であっても、その都度作業を中断しなくても、予め入力された条件に応じ、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度を適宜変化させて連続的に溶接作業を行うことができる。このように、本発明によれば、シングルワイヤ方式から、複数の溶接条件下においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行でき、十分な作業性を確保することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、少なくとも、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値、前記フィラワイヤに印加する電流値、前記フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤの送給開始時間を設定し、前記制御装置に出力可能な設定手段を設ける。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、前記溶接トーチをアーム先端に取付け、前記制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備える。
【0014】
(4)また、上記目的を達成するために、本発明の溶接方法は、溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、この制御装置に内蔵され、フィラワイヤ送給開始、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備えた溶接装置に対し、前記溶接トーチを介しフィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、前記外部信号出力端子に接続され、前記フィラ用電源制御部からの信号に応じ前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源とを追設してダブルワイヤ方式の溶接装置を構成し、この溶接装置を用いて、前記消耗電極ワイヤに電流を印加して前記アークを発生させると共に、前記フィラワイヤに前記消耗電極ワイヤと逆方向に電流を印加し前記アークの熱により生じた溶融池に該フィラワイヤを送給する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の溶接装置の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。この図1において、1は3次元的に動作可能な多関節型のアーム1aを有する溶接ロボット(マニピュレータ)、2はこの溶接ロボット1のアーム1aの先端部に設けた溶接トーチ、3はこの溶接トーチに設けた消耗電極ワイヤ供給チューブである。4は溶接トーチ2の消耗電極ワイヤ供給チューブ3に挿通保持された溶接ワイヤ(消耗電極ワイヤ)、5はリール6に巻回された消耗電極ワイヤ4を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むための消耗電極ワイヤ送給装置(送給モータ)である。なお、特に図示していないが、溶接トーチ2には、シールドガスを噴射するガスノズルが設けてある。
【0016】
7は消耗電極ワイヤ4に印加する電流・電圧を供給する溶接電源で、この溶接電源7のプラス端子7aは消耗電極ワイヤ4(厳密には消耗電極ワイヤ供給チューブ3)に、マイナス端子7bは溶接対象である母材8に対し、それぞれ電線9,10を介して接続している。また、この溶接電源7の出力端子(図示せず)は、上記消耗電極ワイヤ送給装置5に対し、ケーブル11を介して接続している。
【0017】
12は制御装置(ロボット制御盤)で、内部にフィラ用電源制御部12aを備えている。13は各種溶接条件の設定手段としてのティーチングボックスで、このティーチングボックス13は、制御装置12とケーブル14を介して接続しており、例えばフィラワイヤ31(後述、図2参照)に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度(溶接速度)、フィラワイヤ31の送給開始時間、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、溶接速度、消耗ワイヤ4の移動経路等といった各種溶接条件を任意に設定し、それら各種設定条件を制御装置12に対して出力するものである。
【0018】
上記フィラ用電源制御部12aは、予めダブルワイヤ方式用にプログラミングされたソフトウェアを備えており、ティーチングボックス13から入力された設定値を基に、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度、フィラワイヤ31の送給開始等をそれぞれフィラ用電源34(後述、図2参照)に指令する信号を演算する。
【0019】
また、制御装置12は、このフィラ用電源制御部12aとは別に、ティーチングボックス13からの設定値を入力し、それを基に消耗電極ワイヤ4への電流・電圧の印加開始(アークスタート)、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、消耗電極ワイヤ4の送給速度等を溶接電源7に指令する信号、及び、溶接速度、溶接経路を溶接ロボット1に指令する信号を演算する主制御部を備えている。
【0020】
更に、制御装置12には、以上の各信号を出力するための外部信号出力端子が複数設けられており、溶接ロボット1にはケーブル15、溶接電源7にはケーブル16〜18を介してそれぞれ接続されている。そして、19〜21は、フィラ用電源34(図2参照)を追加した場合(詳細は後述)に、上記外部信号出力端子のうちの外筒箇所のものを介し、フィラ用電源34に接続するためのケーブルである。
【0021】
図2は以上の本実施の形態の溶接装置をダブルワイヤ方式に移行する際に追加する各設備及びその接続例を表す図で、先の図1と同様の部分には同符号を付し説明を省略する。この図2において、30は上記溶接トーチ2に設けるフィラワイヤ供給チューブ、31はこのフィラワイヤ供給チューブ30に挿通保持される溶接ワイヤ(フィラワイヤ)、32はリール33に巻回されたフィラワイヤ31を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むためのフィラワイヤ送給装置(送給モータ)である。
【0022】
34はフィラワイヤ31に印加する電流・電圧を供給するフィラ用電源で、このフィラ用電源34のプラス端子34aは溶接対象である母材8に、マイナス端子34bはフィラワイヤ31(厳密にはフィラワイヤ供給チューブ30)に対し、それぞれ電線35,36を介して接続させる。また、このフィラ用電源34の出力端子(図示せず)は、上記フィラワイヤ送給装置32に対し、ケーブル37を介して接続させる。
【0023】
次に、以上の本実施の形態の溶接装置を用いたダブルワイヤ方式の溶接方法を説明する。
本発明の溶接装置を用いてダブルワイヤ方式の溶接を行うに際し、まず図1に示した本実施の形態の溶接装置に対し、フィラワイヤ送給装置32と、フィラ用電源34とを追加して設け、ダブルワイヤ方式の溶接装置を構築する。具体的には、母材8にフィラ用電源34のプラス端子34aを、溶接トーチ2に取付けたフィラワイヤ供給チューブ30にフィラ用電源34のマイナス端子34bを、それぞれ電線35,36を介して接続する。そして、フィラ用電源34の出力端子(図示せず)を、ケーブル37を介してフィラワイヤ送給装置32に接続すると共に、上記したケーブル19〜21を介してフィラ用電源34の入力端子と制御装置12に内蔵のフィラ用電源制御部12aに対応する外部信号出力端子(図示せず)とを接続する。
【0024】
次に、溶接開始前に、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、溶接トーチ2の移動経路(溶接経路)、溶接速度、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度、フィラワイヤ31の送給開始時間等の各種溶接条件を、ティーチングボックス13により設定する。設定された各種溶接条件は、ケーブル14を介して制御装置12に入力される。
【0025】
以上の条件設定を行った上で溶接を開始すると、制御装置12から溶接電源7にアークスタート信号が出力され、溶接電源7により、設定に応じた電圧・電流が消耗電極ワイヤ4に印加される。これにより、消耗電極ワイヤ4と母材8の溶接箇所との間にアーク40が発生し、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ4の先端部と母材8の溶接箇所とが溶融して溶融池41(図2参照)が形成される。このとき、消耗電極ワイヤ4は、先端から消耗(溶融)していくので、制御装置12は、消耗電極ワイヤの設定送給速度を溶接電源7に出力し、それに応じた大きさのワイヤ送給信号(電圧)を溶接電源7に出力させることにより、消耗電極ワイヤ送給装置5の駆動速度を制御し、消耗電極ワイヤ4を順次溶接箇所に送給する。
なお、消耗電極ワイヤ4に印加される電流は、「溶接電源プラス端子7a→電線9→消耗電極ワイヤ4→母材8→電線10→溶接電源マイナス端子7b」の順に流れる。
【0026】
またこれと同時に、溶接ロボット1のアーム1aは、制御部12の位置制御部、速度制御部(共に図示せず)からの指令信号(ロボット動作制御信号)によって、設定の溶接経路を設定の溶接速度で溶接トーチ2が移動するよう駆動制御される。このとき、溶接ロボット1のアーム1aは、溶接方向(図2中矢印A参照)において、常にフィラワイヤ31に対して消耗電極ワイヤ4が先行する向きに溶接トーチ2を保持するよう、姿勢制御される。
【0027】
一方、制御装置12に内蔵されたフィラ用電源制御部12aは、上記アークスタート信号が出力されると、内蔵のタイマによって所定時間後(設定のフィラワイヤ送給開始時間後、例えば2〜5秒後)、フィラーON(送給開始)、フィラワイヤ31の電流・電圧の制御値、フィラワイヤ31の設定送給速度を指令する信号を演算し、対応の外部出力端子及びケーブル19〜21を介してフィラ用電源34に出力する。
【0028】
フィラ用電源34は、フィラ用電源制御部12aからの指令信号を入力すると、それら指令信号に応じ、設定された大きさの電流をフィラワイヤ31に印加すると共に、フィラ送給信号(電圧)をフィラワイヤ送給装置32に出力する。これにより、上記溶融池41にフィラワイヤ31が設定の送給速度で送給(挿入)され、フィラ用電源34からの印加電流(又は電圧)による加熱と溶融池41の熱とにより、フィラワイヤ31が順次溶融されていく。
なお、フィラワイヤ31に印加される電流は、消耗電極ワイヤ4とは逆の方向、即ち「フィラ用電源プラス端子34a→電線35→母材8→フィラワイヤ31→電線36→フィラ用電源マイナス端子34b」の順に流れる。また、フィラワイヤ31に印加する電流は、フィラワイヤ31からアークが発生しない範囲に制限される。
【0029】
以上のように、フィラ用電源制御部12aを内蔵した制御装置12によって、各種設定条件に従って各機器が連動して作動制御され、溶接トーチ2が所定の経路で移動した後には、溶融した母材8、消耗電極ワイヤ4、フィラワイヤ31によって溶接ビード42が形成される。
【0030】
以上のように、本実施の形態においては、フィラワイヤ側の溶接条件を入力し、これらを指令する指令信号を演算するフィラ用電源制御部12aを、消耗電極ワイヤ側の給電量やワイヤ送給速度等を制御する制御装置12内に設けることにより、フィラ用電源34等といったフィラ用設備を追加した場合にも、消耗電極ワイヤ側の制御とフィラワイヤ側の制御とを共通の制御装置12に行わせることができる。これにより、フィラ用電源制御部12aは、フィラワイヤ31に印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度等を指令する信号を、入力された設定値に従って時系列的に複数演算し、それぞれ消耗電極ワイヤ側の挙動に合わせて順次フィラ用電源34に出力することが可能となる。従って、例えば複数の溶接箇所を溶接する場合であっても、その都度作業を中断しなくても、予め入力された条件に応じ、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ送給速度を適宜変化させて連続的に溶接作業を行うことができる。よって、本実施の形態の溶接装置によれば、シングルワイヤ方式から、複数の溶接条件下においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行でき、十分な作業性を確保することができる。
【0031】
なお、制御装置12の上記主制御部と上記フィラ用電源制御部12aとを情報伝達可能に接続することで、フィラ用電源制御部12aに予め消耗電極ワイヤ4側の条件と関連付けたフィラワイヤ31側の条件テーブルを格納しておけば、消耗電極ワイヤ4側の条件をティーチングボックス13より入力するのみで、それに応じてフィラワイヤ18側の条件を演算出力させるように構成しても同様に効果を得ることができる。
【0032】
更に、消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31に互いに逆向きの電流を印加することによって、消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31に発生する磁束が互いに反発するので、消耗電極ワイヤ4から発生するアーク40に、フィラワイヤ31から遠ざかる方向に力が作用する。従って、消粍電極ワイヤ4にフィラワイヤ31を近接配置しても、フィラワイヤ31がアーク40によって吹き飛ばされることを防止し、フィラワイヤ31を溶融池41に確実に安定供給することができる。これにより、例えば、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム等を溶接対象としても、高速かつ高能率な作業が可能となる。また、フィラワイヤ31を溶融池41に挿入することにより、溶融池41の温度を低く抑え、溶接ビード42に乱れが生じるいわゆるパッカリング現象の発生や、黒紛付着(酸化物付着)、凝固割れ等といった不具合も抑制される。
【0033】
なお、以上のように、本実施の形態では消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31とに印加する電流を互いに逆方向としたが、シングルワイヤ方式の溶接装置から、溶接条件が変化しても連続作業可能なダブルワイヤ方式の溶接装置への移行を可能とする本発明の本質的効果を得る限りにおいては、必ずしも両ワイヤ4,31の電流を逆向きにしなくても良い。また、本実施の形態においては、溶接トーチ2の移動及びその速度制御をも自動で行ういわゆる全自動式の溶接装置を例示したが、これにも限られず、溶接ロボット1を省略し、印加する電流・電圧、及び両ワイヤ4,31の送給のみを自動で行ういわゆる半自動式の溶接装置に対しても、本発明は適用可能である。また、図1及び図2において、両ワイヤ送給装置5,32をリール側に設けたいわゆるプッシュ方式のワイヤ送給装置を設けた例を説明したが、トーチ側に設けるいわゆるプル方式のワイヤ送給装置であっても、又はこれらを組合せた方式のワイヤ送給装置であっても構わない。これらの場合も同様の効果を得る。これらの場合も同様の効果を得る。
【0034】
また、フィラ用電源制御部12aを含めた制御装置12は、単に設定の溶接条件に基づいて指令出力する構成としたが、例えば、両ワイヤ送給装置5,32の回転速度、溶接ロボット1のアーム1aの各関節の角度、両ワイヤ4,31の電流値・電圧値等を検出するセンサからの検出信号を基にフィードバック制御する機能を有するタイプの溶接装置にも本発明は適用可能である。また、溶接ロボットとして、多関節型のアームを有するタイプのものを例示したが、これにも限られず、例えば、異なる方向に延設された複数のレールに沿って2次元的或いは3次元的な移動動作が可能なアームを有する溶接ロボットを用いても良い。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、シングルワイヤ方式の溶接装置から、溶接条件が複数変更される場合においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の溶接装置の一実施の形態をダブルワイヤ方式に移行する際に追加する各設備及びその接続例を表す図である。
【符号の説明】
1 溶接ロボット
1a アーム
2 溶接トーチ
4 消耗電極ワイヤ
5 消耗電極ワイヤ送給装置
7 溶接電源
12 制御装置
12a フィラ用電源制御部
13 ティーチングボックス(設定手段)
31 フィラワイヤ
32 フィラワイヤ送給装置
34 フィラ用電源
【発明の属する技術分野】
本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させる消耗電極式アーク溶接装置に係り、特に、アーク熱により生じる溶融池にフィラワイヤを送給するいわゆるダブルワイヤ方式に移行可能な溶接装置及びこれを用いた溶接方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、母材との間にアークを発生させる消耗電極ワイヤと、この消耗電極ワイヤに対し溶接方向に後行するフィラワイヤとを併用したいわゆるダブルワイヤ方式のアーク溶接装置が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。このダブルワイヤ方式のアーク溶接装置では、消耗電極ワイヤと母材との間にアークを発生させ、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ及び母材を溶融させつつ、更にその溶融池に送給された後行のフィラワイヤを、通電による加熱に加えて溶融池の熱を利用して溶融させるようになっている。このように、溶融池の熱を利用してフィラワイヤを溶融させることにより、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、消耗電極ワイヤのみを用いたアーク溶接装置(以下、シングルワイヤ方式の溶接装置と記載する)に対し、さほど変わらない給電量でワイヤの溶融速度を高めることができ、高い作業能率を確保できるというメリットがある。
【0003】
ここで、この種のダブルワイヤ方式の溶接装置においては、従来から、消耗電極ワイヤを介して母材に流れる溶接電流の一部をフィラワイヤに分流することで、消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤに給電するための電源を共用することが行われてきた。しかしながら、電源を共用した場合、フィラワイヤに流れる電流は、例えば「電源→消耗電極ワイヤ→母材→フィラワイヤ→電源」という経路で流れるため、その経路中の各部の抵抗によって値が変動する。従って、共用の電源を用いた場合には、例えば溶接箇所等によってもフィラワイヤに流れる電流値が変化してしまい、その結果両ワイヤ間に生じる磁界の反発力に不規則な変化が生じるため、両ワイヤが振れてしまう(結果的に溶接箇所がぶれてしまう)等、品質面や作業能率面で不具合が生じる場合があった。
【0004】
それに対し、先の特許文献1等に記載の溶接装置においては、消耗電極ワイヤに給電する溶接電源とは別にフィラワイヤに給電するフィラ用電源を設け、敢えて互いの電源を別電源化することで両ワイヤに流れる電流値を安定させることにより、上記不具合を解決している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3185071号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、上述のシングルワイヤ方式の溶接装置は、一般的に、少なくとも消耗電極ワイヤを保持する溶接トーチと、この溶接トーチを介し消耗電極ワイヤを溶接箇所に順次送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、消耗電極ワイヤへの給電量及び消耗電極ワイヤの送給速度を制御する制御装置とで主に構成される。更に、全自動の溶接装置の場合、上記に対し、アーム先端に上記溶接トーチを備え、上記制御装置からの指令に応じた移動経路で溶接トーチを移動させる溶接ロボットが追設される。各種工場においては、こうしたシングルワイヤ方式の溶接装置を所有している場合も多いため、既存のシングルワイヤ方式の溶接装置をダブルワイヤ方式の溶接装置として運用できるように改修することが望まれるケースも少なくない。
【0007】
シングルワイヤ方式の溶接装置からダブルワイヤ方式の溶接装置へ改修する場合、前述のように溶接品質や作業能率を考えれば、既存の溶接電源に加えてフィラ用電源を追加する必要が生じる。また、半自動又は全自動のダブルワイヤ方式の溶接装置を構築するためには、既存の消耗電極ワイヤへの電力供給及び消耗電極ワイヤの送給等に対し、フィラワイヤへの電力供給及びフィラワイヤの送給が連動するようにしなければならない。そこで、この技術的課題を解決する1つの方策として、既存の制御装置の出力端子に、別途設けたフィラ用電源制御用の第2の制御装置を接続し、この第2の制御装置によりフィラ用電源を作動させるよう構成することが考えられる。
【0008】
しかしながら、通常、制御装置の出力端子からの出力信号はON/OFF信号であるため、単に第2の制御装置を既存の制御装置に接続する構成とした場合、次のような課題が存在する。
例えば、溶接条件の異なる溶接箇所が複数存在する場合においては、消耗電極ワイヤ側の各種条件と同様に、フィラワイヤ側の各種条件を適宜変更しなければならない場合がある。ところが、それぞれの制御装置は単にON/OFF信号で連動するのみであるため、第2の制御装置は、既存の制御装置との間に情報の伝達がなく、消耗電極ワイヤ側の条件に応じて条件を変更することができない。そのため、フィラワイヤ側の条件を変更する際には、その都度作業を中断して条件を設定し直さなければならず、溶接条件が複数変更される作業を行う場合には、連続的な作業を行うことが困難である。
【0009】
本発明は上記の事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、シングルワイヤ方式から、溶接条件が複数変更される場合においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行できる溶接装置及びこれを用いた溶接方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明の溶接装置は、消耗電極ワイヤを保持する溶接トーチと、この溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、この制御装置に内蔵され、前記溶接トーチに保持されるフィラワイヤの送給開始、フィラワイヤの送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備える。
【0011】
本発明においては、フィラワイヤ送給開始時間、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤに印加する電流値等を入力し、これらを指令する指令信号を演算するフィラ用電源制御部を、消耗電極ワイヤ側の給電量やワイヤ送給速度等を制御する制御装置内に設けることにより、フィラ用電源を追加した場合にも、消耗電極ワイヤ側の制御とフィラワイヤ側の制御とが共通の制御装置により制御される。これにより、フィラ用電源制御部は、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度等を指令する信号を、入力された設定値に従って順序立てて複数演算し、それぞれ消耗電極ワイヤ側の挙動に合わせて順次フィラ用電源に出力することが可能となる。従って、例えば複数の溶接箇所を溶接する場合であっても、その都度作業を中断しなくても、予め入力された条件に応じ、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度を適宜変化させて連続的に溶接作業を行うことができる。このように、本発明によれば、シングルワイヤ方式から、複数の溶接条件下においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行でき、十分な作業性を確保することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、好ましくは、少なくとも、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値、前記フィラワイヤに印加する電流値、前記フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤの送給開始時間を設定し、前記制御装置に出力可能な設定手段を設ける。
【0013】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、前記溶接トーチをアーム先端に取付け、前記制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備える。
【0014】
(4)また、上記目的を達成するために、本発明の溶接方法は、溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、この制御装置に内蔵され、フィラワイヤ送給開始、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備えた溶接装置に対し、前記溶接トーチを介しフィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、前記外部信号出力端子に接続され、前記フィラ用電源制御部からの信号に応じ前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源とを追設してダブルワイヤ方式の溶接装置を構成し、この溶接装置を用いて、前記消耗電極ワイヤに電流を印加して前記アークを発生させると共に、前記フィラワイヤに前記消耗電極ワイヤと逆方向に電流を印加し前記アークの熱により生じた溶融池に該フィラワイヤを送給する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の溶接装置の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。この図1において、1は3次元的に動作可能な多関節型のアーム1aを有する溶接ロボット(マニピュレータ)、2はこの溶接ロボット1のアーム1aの先端部に設けた溶接トーチ、3はこの溶接トーチに設けた消耗電極ワイヤ供給チューブである。4は溶接トーチ2の消耗電極ワイヤ供給チューブ3に挿通保持された溶接ワイヤ(消耗電極ワイヤ)、5はリール6に巻回された消耗電極ワイヤ4を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むための消耗電極ワイヤ送給装置(送給モータ)である。なお、特に図示していないが、溶接トーチ2には、シールドガスを噴射するガスノズルが設けてある。
【0016】
7は消耗電極ワイヤ4に印加する電流・電圧を供給する溶接電源で、この溶接電源7のプラス端子7aは消耗電極ワイヤ4(厳密には消耗電極ワイヤ供給チューブ3)に、マイナス端子7bは溶接対象である母材8に対し、それぞれ電線9,10を介して接続している。また、この溶接電源7の出力端子(図示せず)は、上記消耗電極ワイヤ送給装置5に対し、ケーブル11を介して接続している。
【0017】
12は制御装置(ロボット制御盤)で、内部にフィラ用電源制御部12aを備えている。13は各種溶接条件の設定手段としてのティーチングボックスで、このティーチングボックス13は、制御装置12とケーブル14を介して接続しており、例えばフィラワイヤ31(後述、図2参照)に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度(溶接速度)、フィラワイヤ31の送給開始時間、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、溶接速度、消耗ワイヤ4の移動経路等といった各種溶接条件を任意に設定し、それら各種設定条件を制御装置12に対して出力するものである。
【0018】
上記フィラ用電源制御部12aは、予めダブルワイヤ方式用にプログラミングされたソフトウェアを備えており、ティーチングボックス13から入力された設定値を基に、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度、フィラワイヤ31の送給開始等をそれぞれフィラ用電源34(後述、図2参照)に指令する信号を演算する。
【0019】
また、制御装置12は、このフィラ用電源制御部12aとは別に、ティーチングボックス13からの設定値を入力し、それを基に消耗電極ワイヤ4への電流・電圧の印加開始(アークスタート)、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、消耗電極ワイヤ4の送給速度等を溶接電源7に指令する信号、及び、溶接速度、溶接経路を溶接ロボット1に指令する信号を演算する主制御部を備えている。
【0020】
更に、制御装置12には、以上の各信号を出力するための外部信号出力端子が複数設けられており、溶接ロボット1にはケーブル15、溶接電源7にはケーブル16〜18を介してそれぞれ接続されている。そして、19〜21は、フィラ用電源34(図2参照)を追加した場合(詳細は後述)に、上記外部信号出力端子のうちの外筒箇所のものを介し、フィラ用電源34に接続するためのケーブルである。
【0021】
図2は以上の本実施の形態の溶接装置をダブルワイヤ方式に移行する際に追加する各設備及びその接続例を表す図で、先の図1と同様の部分には同符号を付し説明を省略する。この図2において、30は上記溶接トーチ2に設けるフィラワイヤ供給チューブ、31はこのフィラワイヤ供給チューブ30に挿通保持される溶接ワイヤ(フィラワイヤ)、32はリール33に巻回されたフィラワイヤ31を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むためのフィラワイヤ送給装置(送給モータ)である。
【0022】
34はフィラワイヤ31に印加する電流・電圧を供給するフィラ用電源で、このフィラ用電源34のプラス端子34aは溶接対象である母材8に、マイナス端子34bはフィラワイヤ31(厳密にはフィラワイヤ供給チューブ30)に対し、それぞれ電線35,36を介して接続させる。また、このフィラ用電源34の出力端子(図示せず)は、上記フィラワイヤ送給装置32に対し、ケーブル37を介して接続させる。
【0023】
次に、以上の本実施の形態の溶接装置を用いたダブルワイヤ方式の溶接方法を説明する。
本発明の溶接装置を用いてダブルワイヤ方式の溶接を行うに際し、まず図1に示した本実施の形態の溶接装置に対し、フィラワイヤ送給装置32と、フィラ用電源34とを追加して設け、ダブルワイヤ方式の溶接装置を構築する。具体的には、母材8にフィラ用電源34のプラス端子34aを、溶接トーチ2に取付けたフィラワイヤ供給チューブ30にフィラ用電源34のマイナス端子34bを、それぞれ電線35,36を介して接続する。そして、フィラ用電源34の出力端子(図示せず)を、ケーブル37を介してフィラワイヤ送給装置32に接続すると共に、上記したケーブル19〜21を介してフィラ用電源34の入力端子と制御装置12に内蔵のフィラ用電源制御部12aに対応する外部信号出力端子(図示せず)とを接続する。
【0024】
次に、溶接開始前に、消耗電極ワイヤ4に印加する電流値・電圧値、溶接トーチ2の移動経路(溶接経路)、溶接速度、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ31の送給速度、フィラワイヤ31の送給開始時間等の各種溶接条件を、ティーチングボックス13により設定する。設定された各種溶接条件は、ケーブル14を介して制御装置12に入力される。
【0025】
以上の条件設定を行った上で溶接を開始すると、制御装置12から溶接電源7にアークスタート信号が出力され、溶接電源7により、設定に応じた電圧・電流が消耗電極ワイヤ4に印加される。これにより、消耗電極ワイヤ4と母材8の溶接箇所との間にアーク40が発生し、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ4の先端部と母材8の溶接箇所とが溶融して溶融池41(図2参照)が形成される。このとき、消耗電極ワイヤ4は、先端から消耗(溶融)していくので、制御装置12は、消耗電極ワイヤの設定送給速度を溶接電源7に出力し、それに応じた大きさのワイヤ送給信号(電圧)を溶接電源7に出力させることにより、消耗電極ワイヤ送給装置5の駆動速度を制御し、消耗電極ワイヤ4を順次溶接箇所に送給する。
なお、消耗電極ワイヤ4に印加される電流は、「溶接電源プラス端子7a→電線9→消耗電極ワイヤ4→母材8→電線10→溶接電源マイナス端子7b」の順に流れる。
【0026】
またこれと同時に、溶接ロボット1のアーム1aは、制御部12の位置制御部、速度制御部(共に図示せず)からの指令信号(ロボット動作制御信号)によって、設定の溶接経路を設定の溶接速度で溶接トーチ2が移動するよう駆動制御される。このとき、溶接ロボット1のアーム1aは、溶接方向(図2中矢印A参照)において、常にフィラワイヤ31に対して消耗電極ワイヤ4が先行する向きに溶接トーチ2を保持するよう、姿勢制御される。
【0027】
一方、制御装置12に内蔵されたフィラ用電源制御部12aは、上記アークスタート信号が出力されると、内蔵のタイマによって所定時間後(設定のフィラワイヤ送給開始時間後、例えば2〜5秒後)、フィラーON(送給開始)、フィラワイヤ31の電流・電圧の制御値、フィラワイヤ31の設定送給速度を指令する信号を演算し、対応の外部出力端子及びケーブル19〜21を介してフィラ用電源34に出力する。
【0028】
フィラ用電源34は、フィラ用電源制御部12aからの指令信号を入力すると、それら指令信号に応じ、設定された大きさの電流をフィラワイヤ31に印加すると共に、フィラ送給信号(電圧)をフィラワイヤ送給装置32に出力する。これにより、上記溶融池41にフィラワイヤ31が設定の送給速度で送給(挿入)され、フィラ用電源34からの印加電流(又は電圧)による加熱と溶融池41の熱とにより、フィラワイヤ31が順次溶融されていく。
なお、フィラワイヤ31に印加される電流は、消耗電極ワイヤ4とは逆の方向、即ち「フィラ用電源プラス端子34a→電線35→母材8→フィラワイヤ31→電線36→フィラ用電源マイナス端子34b」の順に流れる。また、フィラワイヤ31に印加する電流は、フィラワイヤ31からアークが発生しない範囲に制限される。
【0029】
以上のように、フィラ用電源制御部12aを内蔵した制御装置12によって、各種設定条件に従って各機器が連動して作動制御され、溶接トーチ2が所定の経路で移動した後には、溶融した母材8、消耗電極ワイヤ4、フィラワイヤ31によって溶接ビード42が形成される。
【0030】
以上のように、本実施の形態においては、フィラワイヤ側の溶接条件を入力し、これらを指令する指令信号を演算するフィラ用電源制御部12aを、消耗電極ワイヤ側の給電量やワイヤ送給速度等を制御する制御装置12内に設けることにより、フィラ用電源34等といったフィラ用設備を追加した場合にも、消耗電極ワイヤ側の制御とフィラワイヤ側の制御とを共通の制御装置12に行わせることができる。これにより、フィラ用電源制御部12aは、フィラワイヤ31に印加する電流値・電圧値、フィラワイヤ送給速度等を指令する信号を、入力された設定値に従って時系列的に複数演算し、それぞれ消耗電極ワイヤ側の挙動に合わせて順次フィラ用電源34に出力することが可能となる。従って、例えば複数の溶接箇所を溶接する場合であっても、その都度作業を中断しなくても、予め入力された条件に応じ、フィラワイヤ31に印加する電流値、フィラワイヤ送給速度を適宜変化させて連続的に溶接作業を行うことができる。よって、本実施の形態の溶接装置によれば、シングルワイヤ方式から、複数の溶接条件下においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行でき、十分な作業性を確保することができる。
【0031】
なお、制御装置12の上記主制御部と上記フィラ用電源制御部12aとを情報伝達可能に接続することで、フィラ用電源制御部12aに予め消耗電極ワイヤ4側の条件と関連付けたフィラワイヤ31側の条件テーブルを格納しておけば、消耗電極ワイヤ4側の条件をティーチングボックス13より入力するのみで、それに応じてフィラワイヤ18側の条件を演算出力させるように構成しても同様に効果を得ることができる。
【0032】
更に、消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31に互いに逆向きの電流を印加することによって、消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31に発生する磁束が互いに反発するので、消耗電極ワイヤ4から発生するアーク40に、フィラワイヤ31から遠ざかる方向に力が作用する。従って、消粍電極ワイヤ4にフィラワイヤ31を近接配置しても、フィラワイヤ31がアーク40によって吹き飛ばされることを防止し、フィラワイヤ31を溶融池41に確実に安定供給することができる。これにより、例えば、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム等を溶接対象としても、高速かつ高能率な作業が可能となる。また、フィラワイヤ31を溶融池41に挿入することにより、溶融池41の温度を低く抑え、溶接ビード42に乱れが生じるいわゆるパッカリング現象の発生や、黒紛付着(酸化物付着)、凝固割れ等といった不具合も抑制される。
【0033】
なお、以上のように、本実施の形態では消耗電極ワイヤ4とフィラワイヤ31とに印加する電流を互いに逆方向としたが、シングルワイヤ方式の溶接装置から、溶接条件が変化しても連続作業可能なダブルワイヤ方式の溶接装置への移行を可能とする本発明の本質的効果を得る限りにおいては、必ずしも両ワイヤ4,31の電流を逆向きにしなくても良い。また、本実施の形態においては、溶接トーチ2の移動及びその速度制御をも自動で行ういわゆる全自動式の溶接装置を例示したが、これにも限られず、溶接ロボット1を省略し、印加する電流・電圧、及び両ワイヤ4,31の送給のみを自動で行ういわゆる半自動式の溶接装置に対しても、本発明は適用可能である。また、図1及び図2において、両ワイヤ送給装置5,32をリール側に設けたいわゆるプッシュ方式のワイヤ送給装置を設けた例を説明したが、トーチ側に設けるいわゆるプル方式のワイヤ送給装置であっても、又はこれらを組合せた方式のワイヤ送給装置であっても構わない。これらの場合も同様の効果を得る。これらの場合も同様の効果を得る。
【0034】
また、フィラ用電源制御部12aを含めた制御装置12は、単に設定の溶接条件に基づいて指令出力する構成としたが、例えば、両ワイヤ送給装置5,32の回転速度、溶接ロボット1のアーム1aの各関節の角度、両ワイヤ4,31の電流値・電圧値等を検出するセンサからの検出信号を基にフィードバック制御する機能を有するタイプの溶接装置にも本発明は適用可能である。また、溶接ロボットとして、多関節型のアームを有するタイプのものを例示したが、これにも限られず、例えば、異なる方向に延設された複数のレールに沿って2次元的或いは3次元的な移動動作が可能なアームを有する溶接ロボットを用いても良い。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、シングルワイヤ方式の溶接装置から、溶接条件が複数変更される場合においても連続作業が可能なダブルワイヤ方式に容易に移行することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の溶接装置の一実施の形態をダブルワイヤ方式に移行する際に追加する各設備及びその接続例を表す図である。
【符号の説明】
1 溶接ロボット
1a アーム
2 溶接トーチ
4 消耗電極ワイヤ
5 消耗電極ワイヤ送給装置
7 溶接電源
12 制御装置
12a フィラ用電源制御部
13 ティーチングボックス(設定手段)
31 フィラワイヤ
32 フィラワイヤ送給装置
34 フィラ用電源
Claims (4)
- 消耗電極ワイヤを保持する溶接トーチと、
この溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、
前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、
少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、
この制御装置に内蔵され、前記溶接トーチに保持されるフィラワイヤの送給開始、フィラワイヤの送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、
このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子と
を備えたことを特徴とする溶接装置。 - 請求項1記載の溶接装置において、少なくとも、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値、前記フィラワイヤに印加する電流値、前記フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤの送給開始時間を設定し、前記制御装置に出力可能な設定手段を設けたことを特徴とする溶接装置。
- 請求項1又は2記載の溶接装置において、前記溶接トーチをアーム先端に取付け、前記制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備えたことを特徴とする溶接装置。
- 溶接トーチを介し前記消耗電極ワイヤを溶接箇所に送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する溶接電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電圧値・電流値及び消耗電極ワイヤ送給速度を制御する制御装置と、この制御装置に内蔵され、フィラワイヤ送給開始、フィラワイヤ送給速度、フィラワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算するフィラ用電源制御部と、このフィラ用電源制御部からの前記指令信号を出力可能な少なくとも1つの外部信号出力端子とを備えた溶接装置に対し、
前記溶接トーチを介しフィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、前記外部信号出力端子に接続され、前記フィラ用電源制御部からの信号に応じ前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源とを追設してダブルワイヤ方式の溶接装置を構成し、
この溶接装置を用いて、前記消耗電極ワイヤに電流を印加して前記アークを発生させると共に、前記フィラワイヤに前記消耗電極ワイヤと逆方向に電流を印加し前記アークの熱により生じた溶融池に該フィラワイヤを送給することを特徴とする溶接方法。
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Cited By (2)
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CN100354064C (zh) * | 2005-06-20 | 2007-12-12 | 北京工业大学 | 一种双丝mag焊接控制方法及其焊接电源 |
JP2017029986A (ja) * | 2015-07-28 | 2017-02-09 | 株式会社神戸製鋼所 | 消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法 |
-
2002
- 2002-10-31 JP JP2002317047A patent/JP2004148370A/ja active Pending
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JP2017029986A (ja) * | 2015-07-28 | 2017-02-09 | 株式会社神戸製鋼所 | 消耗電極式ガスシールドアーク溶接方法 |
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