JP2004148369A - 溶接装置及びその溶接条件設定方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】溶接条件の設定入力作業を効率化することで作業性を向上させることができる溶接装置及びその溶接条件設定方法を提供する。
【解決手段】消耗電極ワイヤ送給装置7と、フィラワイヤ送給装置8と、消耗電極ワイヤ5に給電する主溶接電源11と、フィラワイヤ6に給電するフィラ用電源15と、少なくとも消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を設定する設定装置21と、この設定装置21の設定値を基に、少なくとも消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算し、主溶接電源11に出力する主制御部20aと、この主制御部20aと情報伝達可能に接続され、設定装置21の設定値を基に、予め格納されたプログラムに従い、少なくともフィラワイヤ6に印加する電流値・送給速度を指令する信号を演算し、フィラ用電源15に出力するフィラ用電源制御部20bとを備える。
【選択図】 図1
【解決手段】消耗電極ワイヤ送給装置7と、フィラワイヤ送給装置8と、消耗電極ワイヤ5に給電する主溶接電源11と、フィラワイヤ6に給電するフィラ用電源15と、少なくとも消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を設定する設定装置21と、この設定装置21の設定値を基に、少なくとも消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算し、主溶接電源11に出力する主制御部20aと、この主制御部20aと情報伝達可能に接続され、設定装置21の設定値を基に、予め格納されたプログラムに従い、少なくともフィラワイヤ6に印加する電流値・送給速度を指令する信号を演算し、フィラ用電源15に出力するフィラ用電源制御部20bとを備える。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給するダブルワイヤ方式の溶接装置及びその溶接条件設定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、母材との間にアークを発生させる消耗電極ワイヤと、この消耗電極ワイヤに対し溶接方向に後行するフィラワイヤとを併用したいわゆるダブルワイヤ方式のアーク溶接装置が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。このダブルワイヤ方式のアーク溶接装置では、消耗電極ワイヤと母材との間にアークを発生させ、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ及び母材を溶融させつつ、更にその溶融池に送給された後行のフィラワイヤを、通電による加熱に加えて溶融池の熱を利用して溶融させるようになっている。このように、溶融池の熱を利用してフィラワイヤを溶融させることにより、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、消耗電極ワイヤのみを用いたアーク溶接装置(以下、シングルワイヤ方式の溶接装置と記載する)に対し、さほど変わらない給電量でワイヤの溶融速度を高めることができ、高い作業能率を確保できるというメリットがある。
【0003】
ここで、この種のダブルワイヤ方式の溶接装置においては、従来から、消耗電極ワイヤを介して母材に流れる溶接電流の一部をフィラワイヤに分流することで、消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤに給電するための電源を共用することが行われてきた。しかしながら、電源を共用した場合、フィラワイヤに流れる電流は、例えば「電源→消耗電極ワイヤ→母材→フィラワイヤ→電源」という経路で流れるため、その経路中の各部の抵抗によって値が変動する。従って、共用の電源を用いた場合には、例えば溶接箇所等によってもフィラワイヤに流れる電流値が変化してしまい、その結果両ワイヤ間に生じる磁界の反発力に不規則な変化が生じるため、両ワイヤが振れてしまう(結果的に溶接箇所がぶれてしまう)等、品質面や作業能率面で不具合が生じる場合があった。
【0004】
それに対し、先の特許文献1等に記載の溶接装置においては、消耗電極ワイヤに給電するメインの溶接電源とは別にフィラワイヤに給電するフィラ用電源を設け、敢えて互いの電源を別電源化することで両ワイヤに流れる電流値を安定させることにより、上記不具合を解決している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3185071号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、前述のように溶接品質や作業能率を考えれば、やはりフィラワイヤに通電するためのフィラ用電源を、消耗電極ワイヤに通電するメインの溶接電源とは別に設けることが好ましい。従って、半自動又は全自動のダブルワイヤ方式の溶接装置を構築するためには、メインの溶接電源を制御するメインの制御装置と、フィラ用電源を制御するためのフィラ用電源制御装置とをそれぞれ設ける構成が安に考えられる。
【0007】
しかしながら、上記のように、メインの溶接電源とフィラ用電源とをそれぞれ制御する異なる制御装置が存在すると、消耗電極ワイヤの電流や送給速度等といったメインの溶接電源により制御される条件と、フィラワイヤの電流や送給速度等といったフィラ用電源に制御される条件とを、それぞれメインの制御装置とフィラ用電源制御装置とに個別に設定入力する必要があり、こうした条件設定の作業は、特に、溶接箇所が複雑な形状で、度々溶接条件を度々変更する必要がある場合等には、作業者にとって非常に煩わしい作業となる。
【0008】
本発明は上記の事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接条件の設定入力作業を効率化することで作業性を向上させることができる溶接装置及びその溶接条件設定方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置において、前記消耗電極ワイヤを送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記フィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する主溶接電源と、前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値が設定可能な設定手段と、この設定手段で設定された設定値を基に、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算し、前記主溶接電源に出力する主制御手段と、この主制御装置と情報伝達可能に接続され、前記設定手段で設定された設定値を基に、予め格納されたプログラムに従い、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を指令する信号を演算し、前記フィラ用電源に出力するフィラ用電源制御手段とを備える。
【0010】
本発明においては、消耗電極ワイヤに通電する主溶接電源用の主制御手段と、フィラワイヤに通電するフィラ用電源用のフィラ用電源制御手段とが情報伝達可能に接続されている。そしてなおかつ、フィラ用電源制御手段には、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値に応じ、少なくともフィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を演算可能なプログラムが予め格納されている。従って、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力するだけで、フィラ用電源制御手段において、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極ワイヤ側の諸条件に対して適正なフィラワイヤの電流・送給速度が自動的に演算される構成とすることができる。よって、本発明においては、ダブルワイヤ方式の溶接作業において、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、作業性を向上させることができる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤを保持する溶接トーチをアーム先端に取付け、前記主制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備える。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、前記主溶接電源は前記消耗電極ワイヤから前記母材側に電流を流し、前記フィラ用電源は前記母材側から前記フィラワイヤに電流を印加する。
【0013】
(4)上記目的を達成するために、また本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置の溶接条件設定方法において、前記消耗電極ワイヤに通電する主溶接電源用の主制御手段と、前記フィラワイヤに通電するフィラ用電源用のフィラ用電源制御手段とを情報伝達可能に接続すると共に、前記フィラ用電源制御手段に、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値に応じ、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を演算可能なプログラムを予め格納しておき、前記主制御手段又はフィラ用電源制御手段に対し、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の溶接装置の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。この図1において、1は3次元的に動作可能な多関節型のアーム1aを有する溶接ロボット(マニピュレータ)、2はこの溶接ロボット1のアーム1a先端のハンド部1bに設けた溶接トーチ、3,4はこの溶接トーチ2に設けた消耗電極ワイヤ供給チューブ及びフィラワイヤ供給チューブである。5,6はこれらワイヤ供給チューブ3,4にそれぞれ挿通保持された消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤ、7,8はそれぞれリール9,10に巻回されたワイヤ5,6を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むための消耗電極ワイヤ送給装置及びフィラワイヤ送給装置(送給モータ)である。なお、特に図示していないが、溶接トーチ2には、シールドガスを噴射するガスノズルが設けてある。
【0015】
11は消耗電極ワイヤ5に印加する電流・電圧を供給する主溶接電源で、この主溶接電源11のプラス端子11aは消耗電極ワイヤ5(厳密には消耗電極ワイヤ供給チューブ3)に、マイナス端子11bは溶接対象である母材12に対し、それぞれ電線13,14を介して接続している。15はフィラワイヤ6に印加する電流・電圧を供給するフィラ用電源で、このフィラ用電源15のプラス端子15aは溶接対象である母材12に、マイナス端子15bはフィラワイヤ6(厳密にはフィラワイヤ供給チューブ4)に対し、それぞれ電線16,17を介して接続している。また、これら主溶接電源11及びフィラ用電源15の出力端子(図示せず)は、上記消耗電極ワイヤ送給装置7及びフィラワイヤ送給装置8に対し、ケーブル18,19を介して接続しており、両電源11,15からそれぞれ両ワイヤ送給装置7,8に供給される電圧(指令信号)の大きさにより両ワイヤ5,6の送給速度が調整される。
【0016】
20は制御装置(ロボット制御盤)、21は消耗電極ワイヤ5に印加する電流・電圧値、消耗電極ワイヤ5の移動経路、溶接速度、フィラワイヤ6の送給開始時間等の溶接条件を設定し制御装置20に入力するためのティーチングペンダントを兼ねた設定装置である。制御装置20は、溶接ロボット1及び設定装置21に対し、それぞれケーブル22,23を介して接続している。また、制御装置20は、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bを備えている。これら主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bは、互いに情報伝達可能に接続され、なおかつ上記主溶接電源11及びフィラ用電源15に対し、それぞれケーブル24,25を介して接続している。
【0017】
図2は上記主制御部20aの概略構成を表すブロック図である。この図2において、30aは所定の制御手順のプログラムや演算処理に必要な定数等を格納するリードオンリーメモリー(ROM)、31aは時間計測を行うタイマ、32aはROM30aに格納したプログラムに順じて所定の指令信号を演算する中央演算処理装置(CPU)、33aは設定装置21からの溶接条件の設定値を入力する入力部である。また、34aはCPU32aの演算結果や演算途中の数値を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、35aはCPU32aで演算された指令信号を、主溶接電源11、溶接ロボット1、フィラ用電源制御部20bに出力する出力部である。
【0018】
図3は上記フィラ用電源制御部20bの概略構成を表すブロック図である。この図2において、30bは所定の制御手順のプログラムや演算処理に必要な定数等を格納するリードオンリーメモリー(ROM)、31bは時間計測を行うタイマ、32bはROM30bに格納したプログラムに順じて所定の指令信号を演算する中央演算処理装置(CPU)、33bは主制御部20aからの信号や設定値を入力する入力部である。また、34bはCPU32bの演算結果や演算途中の数値を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、35bはCPU32bで演算された指令信号をフィラ用電源15に出力する出力部である。
【0019】
ここで、主制御部20aの制御手順を説明する。まず、消耗電極ワイヤ5の電流値・電圧値、溶接経路、溶接速度、フィラワイヤ送給開始時間等といった溶接条件が設定装置21から入力部33aに入力される。CPU32aは、それら溶接条件を基に、ROM30aに格納された所定の制御プログラムに従って所定の信号を演算する。ここで演算される信号としては、溶接経路や溶接速度を溶接ロボット1に対して指令する信号、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を主溶接電源11に対して指令する信号、フィラ用電源制御部20bに伝達する上記溶接条件等である。なお、本例では、消耗電極ワイヤ5の送給速度を一定値(固定値)とするので、その送給速度は、例えばROM30aにプリセットされており、CPU32aは、そのプリセット値を基に消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値を演算する。
CPU32aにより演算された各信号は、出力部35aを介して、主溶接電源11、溶接ロボット1、フィラ用電源制御部20bのうちそれぞれ対応する機器に出力される。また、これと共に消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値も主溶接電源11に出力され、これを基に主溶接電源11によって消耗電極ワイヤ送給装置7に対する指令信号が出力される。
【0020】
続いて、フィラ用電源制御部20bの制御手順を説明する。まず、消耗電極ワイヤ5の電流値・電圧値、溶接経路、溶接速度、フィラワイヤ送給開始時間等といった溶接条件が主制御部20aから入力部33bに入力される。CPU32bは、それら溶接条件を基に、ROM30bに格納された所定の制御プログラムに従って所定の信号を演算する。
【0021】
このとき、フィラ用電源制御部20bのROM30bには、図4に示すような設定された溶接条件に対応するフィラワイヤ6の電流値・送給速度の組合わせ(テーブル)が多数格納されており、CPU32bは、主制御部20aから入力された溶接条件に対応するテーブルをROM30bの格納情報から選択して読み込み、読み込んだテーブルにおけるフィラワイヤ6の電流値・送給速度を基に、それらをフィラ用電源15に指令する信号を演算する。即ち、例えば消耗電極ワイヤ5の電流値がIa1(A)、電圧値がVa1(V)、溶接速度がX1(cm/min)と設定された場合、図4に示したNo.1のテーブルが該当パターンとして選定され、フィラワイヤ6の電流値がIb1(A)、送給速度がVf1(m/min)に設定される。勿論、異なる条件が設定入力されれば、それに対応して他のテーブルが選定され、そのテーブル上のフィラワイヤ電流値・送給速度を基にフィラ用電源15への指令信号が演算される。
【0022】
そして、CPU32bにより演算された各信号は、入力されたフィラワイヤ6の送給開始時間の経過後、出力部35bを介してフィラ用電源15に出力される。その際の時間経過はタイマ31b(主制御部20aのタイマ31aでも可)によって管理される。フィラワイヤ6の送給速度の指令値はフィラ用電源15に出力され、これを基にフィラ用電源15によってフィラワイヤ送給装置8に対する指令信号が出力されるようになっている。
【0023】
次に、以上の本実施の形態の溶接装置の動作を説明する。
上記構成の溶接装置により溶接作業を行う際には、まず溶接開始前に、設定装置21によって、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値、溶接トーチ2の移動経路、溶接トーチ2の移動速度(溶接速度)、フィラワイヤ6の送給開始時間等の各種溶接条件を設定する。
【0024】
以上の条件設定を行った上で溶接を開始すると、制御装置20の主制御部20aから主溶接電源11にアークスタート信号が出力され、主溶接電源11は、その指令値に応じた電圧・電流を消耗電極ワイヤ5に印加する。これにより、消耗電極ワイヤ5と母材12の溶接箇所との間にアーク40が発生し、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ5の先端部と母材12の溶接箇所とが溶融して溶融池41が形成される。このとき、消耗電極ワイヤ5は、先端から消耗(溶融)していくので、主制御部20aは、設定に応じて消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値を主溶接電源11に出力し、それに応じた大きさのワイヤ送給信号(電圧)を主溶接電源11から出力させることにより、消耗電極ワイヤ送給装置7の駆動速度を制御し、消耗電極ワイヤ5を順次溶接箇所に送給する。
またこれと同時に、溶接ロボット1のアーム1aは、主御装部20aからの動作制御によって、設定の移動経路を設定の移動速度で移動するよう駆動制御される。このとき、溶接ロボット1のアーム1aは、溶接方向(図1中矢印A参照)において、常にフィラワイヤ6に対して消耗電極ワイヤ5が先行する向きに溶接トーチ2を保持するよう、姿勢制御される。
なお、消耗電極ワイヤ5に印加される電流は、「主溶接電源プラス端子11a→電線13→消耗電極ワイヤ5→母材12→電線14→主溶接電源マイナス端子11b」の順に流れる。
【0025】
一方、フィラ用電源制御部20bでは、主制御部20aから伝達された溶接条件の設定値を基に該当するテーブル(図4参照)を選定し、選定したテーブルに従ってフィラワイヤ6の電流値・送給速度を指令する信号を演算し、出力部35bを介してフィラ用電源15に出力する。
このとき、主制御部20aは、上記アークスタート信号出力と同時にアークスタート信号の出力を伝達する信号をフィラ用電源制御部20bに出力し、フィラ用電源制御部20bにおいては、タイマ31bによって、設定のフィラワイヤ送給開始時間(例えば2〜5秒後)が経過した後、CPU32bで演算したフィラワイヤ6の送給速度の指令値をフィラ用電源15に出力する。
【0026】
フィラ用電源15は、フィラ用電源制御部20bからの信号を入力すると、それら指令信号に応じ、設定された大きさの電流をフィラワイヤ6に印加すると共に、フィラ送給信号(電圧)をフィラワイヤ送給装置8に出力する。これにより、上記溶融池41にフィラワイヤ6が設定の送給速度で送給(挿入)され、フィラ用電源15からの印加電流による加熱と溶融池41の熱とにより、フィラワイヤ6が溶融される。
なお、フィラワイヤ6に印加される電流は、消耗電極ワイヤ5とは逆の方向、即ち「フィラ用電源プラス端子15a→電線16→母材12→フィラワイヤ6→電線17→フィラ用電源マイナス端子15b」の順に流れる。
【0027】
以上のように、制御装置20によって、各種設定条件に従って各機器が連動して作動制御され、溶接トーチ2が所定の経路で移動した後には、溶融した母材12、消耗電極ワイヤ5、フィラワイヤ6によって溶接ビード42が形成される。
【0028】
以上のように説明した本実施の形態においては、消耗電極ワイヤ5に通電する主溶接電源11用の主制御部20aと、フィラワイヤ6に通電するフィラ用電源15用のフィラ用電源制御部20bとの間で情報の伝達が可能な構成であり、なおかつフィラ用電源制御部20bには、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値に応じ、フィラワイヤ6に印加する電流値・送給速度を演算可能なプログラムが予め格納されている。従って、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を設定装置21により設定入力するだけで、フィラ用電源制御部20bにおいて、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極ワイヤ5側の諸条件に対して適正なフィラワイヤ6側の条件を設定することができる。従って、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、ダブルワイヤ方式の溶接の作業性を向上させることができる。
【0029】
また、本実施の形態においては、消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6に互いに逆向きの電流を印加することによって、消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6に発生する磁束が互いに反発するので、消耗電極ワイヤ5から発生するアーク40に、フィラワイヤ6から遠ざかる方向に力が作用する。従って、消粍電極ワイヤ5にフィラワイヤ6を近接配置しても、フィラワイヤ6がアーク40によって吹き飛ばされることを防止し、フィラワイヤ6を溶融池41に確実に安定供給することができる。これにより、例えば、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム等を溶接対象としても、高速かつ高能率な作業が可能となる。また、フィラワイヤ6を溶融池41に挿入することにより、溶融池41の温度を低く抑え、溶接ビード42に乱れが生じるいわゆるパッカリング現象の発生や、黒紛付着(酸化物付着)、凝固割れ等といった不具合も抑制される。
【0030】
なお、以上のように、本実施の形態では消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6とに印加する電流を互いに逆方向としたが、条件設定の効率化により作業効率を向上させるという本発明の目的を達成する限りにおいては、必ずしも両ワイヤ5,6の電流を逆向きにしなくても良い。また、本実施の形態においては、溶接トーチ2の移動及びその速度制御をも自動で行ういわゆる全自動式の溶接装置を例示したが、これにも限られず、溶接ロボット1を省略し、印加する電流・電圧、及び両ワイヤ5,6の送給のみを自動で行ういわゆる半自動式の溶接装置に対しても、本発明は適用可能である。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、以上説明した本実施の形態においては、設定装置21からの溶接条件が、主制御部20aを介してフィラ用電源制御部20bに伝達される構成としたが、逆にフィラ用電源制御部20bを介して主制御部20aに伝達される構成としても良いし、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bのそれぞれに対して設定装置21から溶接条件が入力される構成としても良い。
また、図4に示すようなテーブルが、フィラ用電源制御部20b側のROM30b(図3参照)に格納された場合を説明したが、例えばテーブルを主制御装置20a側のROM30a(図2参照)に格納しておいても良い。そして、フィラ用電源制御部20b側のCPU32bが主制御部20a側のROM30aにアクセスしてフィラワイヤ6の電流値・送給速度の指令信号を演算するようにしても良い。
更に、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bの代わりに、それら2つの制御部の機能を兼ね備えた制御部を別途設ける構成としても良い。この場合、消耗電極ワイヤ5側の制御プログラムとフィラワイヤ6側の制御プログラムとを、例えば1つのROMに格納する構成としても良いし、それぞれを格納した2つのROMを備える構成としても良い。
要するに、本実施の形態のように、必ずしも主制御部20aとフィラ用電源制御部20bとを別々にしなくても、主溶接電源11を制御する機能を有する手段とフィラ用電源15を制御する機能を有する手段との間で情報伝達が可能な構成であり、なおかつ単一の設定手段によって、少なくとも両手段のいずれかに消耗電極ワイヤ5側の条件を入力するのみで、ダブルワイヤ方式の溶接装置が作動制御される構成であれば良い。これらの場合も同様の効果を得る。
【0032】
また、図1において、両ワイヤ送給装置7,8をリール側に設けたいわゆるプッシュ方式のワイヤ送給装置を設けた例を説明したが、トーチ側に設けるいわゆるプル方式のワイヤ送給装置であっても、又はこれらを組合せた方式のワイヤ送給装置であっても構わない。また、溶接ロボットとして、多関節型のアームを有するタイプのものを例示したが、これにも限られず、例えば、異なる方向に延設された複数のレールに沿って2次元的或いは3次元的な移動動作が可能なアームを有する溶接ロボットを用いても良い。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力するだけで、フィラ用電源制御手段において、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極側の諸条件に対して適正なフィラワイヤの電流・送給速度を設定することができるので、ダブルワイヤ方式の溶接作業において、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられた主制御部の概略構成を表すブロック図である。
【図3】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられたフィラ用電源制御部の概略構成を表すブロック図である。
【図4】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられたフィラ用電源制御手段に格納された消耗電極ワイヤ側とフィラワイヤ側との条件テーブルを表す概念図である。
【符号の説明】
1 溶接ロボット
1a アーム
2 溶接トーチ
5 消耗電極ワイヤ
6 フィラワイヤ
7 消耗電極ワイヤ送給装置
8 フィラワイヤ送給装置
11 主溶接電源
12 母材
15 フィラ用電源
40 アーク
41 溶融池
20a 主制御部(主制御手段)
20b フィラ用電源制御部(フィラ用電源制御手段)
21 設定装置(設定手段)
【発明の属する技術分野】
本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給するダブルワイヤ方式の溶接装置及びその溶接条件設定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、母材との間にアークを発生させる消耗電極ワイヤと、この消耗電極ワイヤに対し溶接方向に後行するフィラワイヤとを併用したいわゆるダブルワイヤ方式のアーク溶接装置が提唱されている(例えば、特許文献1参照)。このダブルワイヤ方式のアーク溶接装置では、消耗電極ワイヤと母材との間にアークを発生させ、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ及び母材を溶融させつつ、更にその溶融池に送給された後行のフィラワイヤを、通電による加熱に加えて溶融池の熱を利用して溶融させるようになっている。このように、溶融池の熱を利用してフィラワイヤを溶融させることにより、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、消耗電極ワイヤのみを用いたアーク溶接装置(以下、シングルワイヤ方式の溶接装置と記載する)に対し、さほど変わらない給電量でワイヤの溶融速度を高めることができ、高い作業能率を確保できるというメリットがある。
【0003】
ここで、この種のダブルワイヤ方式の溶接装置においては、従来から、消耗電極ワイヤを介して母材に流れる溶接電流の一部をフィラワイヤに分流することで、消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤに給電するための電源を共用することが行われてきた。しかしながら、電源を共用した場合、フィラワイヤに流れる電流は、例えば「電源→消耗電極ワイヤ→母材→フィラワイヤ→電源」という経路で流れるため、その経路中の各部の抵抗によって値が変動する。従って、共用の電源を用いた場合には、例えば溶接箇所等によってもフィラワイヤに流れる電流値が変化してしまい、その結果両ワイヤ間に生じる磁界の反発力に不規則な変化が生じるため、両ワイヤが振れてしまう(結果的に溶接箇所がぶれてしまう)等、品質面や作業能率面で不具合が生じる場合があった。
【0004】
それに対し、先の特許文献1等に記載の溶接装置においては、消耗電極ワイヤに給電するメインの溶接電源とは別にフィラワイヤに給電するフィラ用電源を設け、敢えて互いの電源を別電源化することで両ワイヤに流れる電流値を安定させることにより、上記不具合を解決している。
【0005】
【特許文献1】
特許第3185071号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、ダブルワイヤ方式の溶接装置においては、前述のように溶接品質や作業能率を考えれば、やはりフィラワイヤに通電するためのフィラ用電源を、消耗電極ワイヤに通電するメインの溶接電源とは別に設けることが好ましい。従って、半自動又は全自動のダブルワイヤ方式の溶接装置を構築するためには、メインの溶接電源を制御するメインの制御装置と、フィラ用電源を制御するためのフィラ用電源制御装置とをそれぞれ設ける構成が安に考えられる。
【0007】
しかしながら、上記のように、メインの溶接電源とフィラ用電源とをそれぞれ制御する異なる制御装置が存在すると、消耗電極ワイヤの電流や送給速度等といったメインの溶接電源により制御される条件と、フィラワイヤの電流や送給速度等といったフィラ用電源に制御される条件とを、それぞれメインの制御装置とフィラ用電源制御装置とに個別に設定入力する必要があり、こうした条件設定の作業は、特に、溶接箇所が複雑な形状で、度々溶接条件を度々変更する必要がある場合等には、作業者にとって非常に煩わしい作業となる。
【0008】
本発明は上記の事柄に鑑みてなされたものであり、その目的は、溶接条件の設定入力作業を効率化することで作業性を向上させることができる溶接装置及びその溶接条件設定方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置において、前記消耗電極ワイヤを送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、前記フィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する主溶接電源と、前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源と、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値が設定可能な設定手段と、この設定手段で設定された設定値を基に、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算し、前記主溶接電源に出力する主制御手段と、この主制御装置と情報伝達可能に接続され、前記設定手段で設定された設定値を基に、予め格納されたプログラムに従い、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を指令する信号を演算し、前記フィラ用電源に出力するフィラ用電源制御手段とを備える。
【0010】
本発明においては、消耗電極ワイヤに通電する主溶接電源用の主制御手段と、フィラワイヤに通電するフィラ用電源用のフィラ用電源制御手段とが情報伝達可能に接続されている。そしてなおかつ、フィラ用電源制御手段には、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値に応じ、少なくともフィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を演算可能なプログラムが予め格納されている。従って、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力するだけで、フィラ用電源制御手段において、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極ワイヤ側の諸条件に対して適正なフィラワイヤの電流・送給速度が自動的に演算される構成とすることができる。よって、本発明においては、ダブルワイヤ方式の溶接作業において、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、作業性を向上させることができる。
【0011】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤを保持する溶接トーチをアーム先端に取付け、前記主制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備える。
【0012】
(3)上記(1)又は(2)において、また好ましくは、前記主溶接電源は前記消耗電極ワイヤから前記母材側に電流を流し、前記フィラ用電源は前記母材側から前記フィラワイヤに電流を印加する。
【0013】
(4)上記目的を達成するために、また本発明は、母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置の溶接条件設定方法において、前記消耗電極ワイヤに通電する主溶接電源用の主制御手段と、前記フィラワイヤに通電するフィラ用電源用のフィラ用電源制御手段とを情報伝達可能に接続すると共に、前記フィラ用電源制御手段に、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値に応じ、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を演算可能なプログラムを予め格納しておき、前記主制御手段又はフィラ用電源制御手段に対し、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力する。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の溶接装置の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。この図1において、1は3次元的に動作可能な多関節型のアーム1aを有する溶接ロボット(マニピュレータ)、2はこの溶接ロボット1のアーム1a先端のハンド部1bに設けた溶接トーチ、3,4はこの溶接トーチ2に設けた消耗電極ワイヤ供給チューブ及びフィラワイヤ供給チューブである。5,6はこれらワイヤ供給チューブ3,4にそれぞれ挿通保持された消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤ、7,8はそれぞれリール9,10に巻回されたワイヤ5,6を順次送給し溶接トーチ2を介して溶接箇所に送り込むための消耗電極ワイヤ送給装置及びフィラワイヤ送給装置(送給モータ)である。なお、特に図示していないが、溶接トーチ2には、シールドガスを噴射するガスノズルが設けてある。
【0015】
11は消耗電極ワイヤ5に印加する電流・電圧を供給する主溶接電源で、この主溶接電源11のプラス端子11aは消耗電極ワイヤ5(厳密には消耗電極ワイヤ供給チューブ3)に、マイナス端子11bは溶接対象である母材12に対し、それぞれ電線13,14を介して接続している。15はフィラワイヤ6に印加する電流・電圧を供給するフィラ用電源で、このフィラ用電源15のプラス端子15aは溶接対象である母材12に、マイナス端子15bはフィラワイヤ6(厳密にはフィラワイヤ供給チューブ4)に対し、それぞれ電線16,17を介して接続している。また、これら主溶接電源11及びフィラ用電源15の出力端子(図示せず)は、上記消耗電極ワイヤ送給装置7及びフィラワイヤ送給装置8に対し、ケーブル18,19を介して接続しており、両電源11,15からそれぞれ両ワイヤ送給装置7,8に供給される電圧(指令信号)の大きさにより両ワイヤ5,6の送給速度が調整される。
【0016】
20は制御装置(ロボット制御盤)、21は消耗電極ワイヤ5に印加する電流・電圧値、消耗電極ワイヤ5の移動経路、溶接速度、フィラワイヤ6の送給開始時間等の溶接条件を設定し制御装置20に入力するためのティーチングペンダントを兼ねた設定装置である。制御装置20は、溶接ロボット1及び設定装置21に対し、それぞれケーブル22,23を介して接続している。また、制御装置20は、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bを備えている。これら主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bは、互いに情報伝達可能に接続され、なおかつ上記主溶接電源11及びフィラ用電源15に対し、それぞれケーブル24,25を介して接続している。
【0017】
図2は上記主制御部20aの概略構成を表すブロック図である。この図2において、30aは所定の制御手順のプログラムや演算処理に必要な定数等を格納するリードオンリーメモリー(ROM)、31aは時間計測を行うタイマ、32aはROM30aに格納したプログラムに順じて所定の指令信号を演算する中央演算処理装置(CPU)、33aは設定装置21からの溶接条件の設定値を入力する入力部である。また、34aはCPU32aの演算結果や演算途中の数値を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、35aはCPU32aで演算された指令信号を、主溶接電源11、溶接ロボット1、フィラ用電源制御部20bに出力する出力部である。
【0018】
図3は上記フィラ用電源制御部20bの概略構成を表すブロック図である。この図2において、30bは所定の制御手順のプログラムや演算処理に必要な定数等を格納するリードオンリーメモリー(ROM)、31bは時間計測を行うタイマ、32bはROM30bに格納したプログラムに順じて所定の指令信号を演算する中央演算処理装置(CPU)、33bは主制御部20aからの信号や設定値を入力する入力部である。また、34bはCPU32bの演算結果や演算途中の数値を一時的に記憶するランダムアクセスメモリ(RAM)、35bはCPU32bで演算された指令信号をフィラ用電源15に出力する出力部である。
【0019】
ここで、主制御部20aの制御手順を説明する。まず、消耗電極ワイヤ5の電流値・電圧値、溶接経路、溶接速度、フィラワイヤ送給開始時間等といった溶接条件が設定装置21から入力部33aに入力される。CPU32aは、それら溶接条件を基に、ROM30aに格納された所定の制御プログラムに従って所定の信号を演算する。ここで演算される信号としては、溶接経路や溶接速度を溶接ロボット1に対して指令する信号、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を主溶接電源11に対して指令する信号、フィラ用電源制御部20bに伝達する上記溶接条件等である。なお、本例では、消耗電極ワイヤ5の送給速度を一定値(固定値)とするので、その送給速度は、例えばROM30aにプリセットされており、CPU32aは、そのプリセット値を基に消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値を演算する。
CPU32aにより演算された各信号は、出力部35aを介して、主溶接電源11、溶接ロボット1、フィラ用電源制御部20bのうちそれぞれ対応する機器に出力される。また、これと共に消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値も主溶接電源11に出力され、これを基に主溶接電源11によって消耗電極ワイヤ送給装置7に対する指令信号が出力される。
【0020】
続いて、フィラ用電源制御部20bの制御手順を説明する。まず、消耗電極ワイヤ5の電流値・電圧値、溶接経路、溶接速度、フィラワイヤ送給開始時間等といった溶接条件が主制御部20aから入力部33bに入力される。CPU32bは、それら溶接条件を基に、ROM30bに格納された所定の制御プログラムに従って所定の信号を演算する。
【0021】
このとき、フィラ用電源制御部20bのROM30bには、図4に示すような設定された溶接条件に対応するフィラワイヤ6の電流値・送給速度の組合わせ(テーブル)が多数格納されており、CPU32bは、主制御部20aから入力された溶接条件に対応するテーブルをROM30bの格納情報から選択して読み込み、読み込んだテーブルにおけるフィラワイヤ6の電流値・送給速度を基に、それらをフィラ用電源15に指令する信号を演算する。即ち、例えば消耗電極ワイヤ5の電流値がIa1(A)、電圧値がVa1(V)、溶接速度がX1(cm/min)と設定された場合、図4に示したNo.1のテーブルが該当パターンとして選定され、フィラワイヤ6の電流値がIb1(A)、送給速度がVf1(m/min)に設定される。勿論、異なる条件が設定入力されれば、それに対応して他のテーブルが選定され、そのテーブル上のフィラワイヤ電流値・送給速度を基にフィラ用電源15への指令信号が演算される。
【0022】
そして、CPU32bにより演算された各信号は、入力されたフィラワイヤ6の送給開始時間の経過後、出力部35bを介してフィラ用電源15に出力される。その際の時間経過はタイマ31b(主制御部20aのタイマ31aでも可)によって管理される。フィラワイヤ6の送給速度の指令値はフィラ用電源15に出力され、これを基にフィラ用電源15によってフィラワイヤ送給装置8に対する指令信号が出力されるようになっている。
【0023】
次に、以上の本実施の形態の溶接装置の動作を説明する。
上記構成の溶接装置により溶接作業を行う際には、まず溶接開始前に、設定装置21によって、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値、溶接トーチ2の移動経路、溶接トーチ2の移動速度(溶接速度)、フィラワイヤ6の送給開始時間等の各種溶接条件を設定する。
【0024】
以上の条件設定を行った上で溶接を開始すると、制御装置20の主制御部20aから主溶接電源11にアークスタート信号が出力され、主溶接電源11は、その指令値に応じた電圧・電流を消耗電極ワイヤ5に印加する。これにより、消耗電極ワイヤ5と母材12の溶接箇所との間にアーク40が発生し、そのアーク熱により消耗電極ワイヤ5の先端部と母材12の溶接箇所とが溶融して溶融池41が形成される。このとき、消耗電極ワイヤ5は、先端から消耗(溶融)していくので、主制御部20aは、設定に応じて消耗電極ワイヤ5の送給速度の指令値を主溶接電源11に出力し、それに応じた大きさのワイヤ送給信号(電圧)を主溶接電源11から出力させることにより、消耗電極ワイヤ送給装置7の駆動速度を制御し、消耗電極ワイヤ5を順次溶接箇所に送給する。
またこれと同時に、溶接ロボット1のアーム1aは、主御装部20aからの動作制御によって、設定の移動経路を設定の移動速度で移動するよう駆動制御される。このとき、溶接ロボット1のアーム1aは、溶接方向(図1中矢印A参照)において、常にフィラワイヤ6に対して消耗電極ワイヤ5が先行する向きに溶接トーチ2を保持するよう、姿勢制御される。
なお、消耗電極ワイヤ5に印加される電流は、「主溶接電源プラス端子11a→電線13→消耗電極ワイヤ5→母材12→電線14→主溶接電源マイナス端子11b」の順に流れる。
【0025】
一方、フィラ用電源制御部20bでは、主制御部20aから伝達された溶接条件の設定値を基に該当するテーブル(図4参照)を選定し、選定したテーブルに従ってフィラワイヤ6の電流値・送給速度を指令する信号を演算し、出力部35bを介してフィラ用電源15に出力する。
このとき、主制御部20aは、上記アークスタート信号出力と同時にアークスタート信号の出力を伝達する信号をフィラ用電源制御部20bに出力し、フィラ用電源制御部20bにおいては、タイマ31bによって、設定のフィラワイヤ送給開始時間(例えば2〜5秒後)が経過した後、CPU32bで演算したフィラワイヤ6の送給速度の指令値をフィラ用電源15に出力する。
【0026】
フィラ用電源15は、フィラ用電源制御部20bからの信号を入力すると、それら指令信号に応じ、設定された大きさの電流をフィラワイヤ6に印加すると共に、フィラ送給信号(電圧)をフィラワイヤ送給装置8に出力する。これにより、上記溶融池41にフィラワイヤ6が設定の送給速度で送給(挿入)され、フィラ用電源15からの印加電流による加熱と溶融池41の熱とにより、フィラワイヤ6が溶融される。
なお、フィラワイヤ6に印加される電流は、消耗電極ワイヤ5とは逆の方向、即ち「フィラ用電源プラス端子15a→電線16→母材12→フィラワイヤ6→電線17→フィラ用電源マイナス端子15b」の順に流れる。
【0027】
以上のように、制御装置20によって、各種設定条件に従って各機器が連動して作動制御され、溶接トーチ2が所定の経路で移動した後には、溶融した母材12、消耗電極ワイヤ5、フィラワイヤ6によって溶接ビード42が形成される。
【0028】
以上のように説明した本実施の形態においては、消耗電極ワイヤ5に通電する主溶接電源11用の主制御部20aと、フィラワイヤ6に通電するフィラ用電源15用のフィラ用電源制御部20bとの間で情報の伝達が可能な構成であり、なおかつフィラ用電源制御部20bには、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値に応じ、フィラワイヤ6に印加する電流値・送給速度を演算可能なプログラムが予め格納されている。従って、消耗電極ワイヤ5に印加する電流値・電圧値を設定装置21により設定入力するだけで、フィラ用電源制御部20bにおいて、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極ワイヤ5側の諸条件に対して適正なフィラワイヤ6側の条件を設定することができる。従って、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、ダブルワイヤ方式の溶接の作業性を向上させることができる。
【0029】
また、本実施の形態においては、消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6に互いに逆向きの電流を印加することによって、消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6に発生する磁束が互いに反発するので、消耗電極ワイヤ5から発生するアーク40に、フィラワイヤ6から遠ざかる方向に力が作用する。従って、消粍電極ワイヤ5にフィラワイヤ6を近接配置しても、フィラワイヤ6がアーク40によって吹き飛ばされることを防止し、フィラワイヤ6を溶融池41に確実に安定供給することができる。これにより、例えば、炭素鋼、合金鋼、アルミニウム等を溶接対象としても、高速かつ高能率な作業が可能となる。また、フィラワイヤ6を溶融池41に挿入することにより、溶融池41の温度を低く抑え、溶接ビード42に乱れが生じるいわゆるパッカリング現象の発生や、黒紛付着(酸化物付着)、凝固割れ等といった不具合も抑制される。
【0030】
なお、以上のように、本実施の形態では消耗電極ワイヤ5とフィラワイヤ6とに印加する電流を互いに逆方向としたが、条件設定の効率化により作業効率を向上させるという本発明の目的を達成する限りにおいては、必ずしも両ワイヤ5,6の電流を逆向きにしなくても良い。また、本実施の形態においては、溶接トーチ2の移動及びその速度制御をも自動で行ういわゆる全自動式の溶接装置を例示したが、これにも限られず、溶接ロボット1を省略し、印加する電流・電圧、及び両ワイヤ5,6の送給のみを自動で行ういわゆる半自動式の溶接装置に対しても、本発明は適用可能である。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0031】
また、以上説明した本実施の形態においては、設定装置21からの溶接条件が、主制御部20aを介してフィラ用電源制御部20bに伝達される構成としたが、逆にフィラ用電源制御部20bを介して主制御部20aに伝達される構成としても良いし、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bのそれぞれに対して設定装置21から溶接条件が入力される構成としても良い。
また、図4に示すようなテーブルが、フィラ用電源制御部20b側のROM30b(図3参照)に格納された場合を説明したが、例えばテーブルを主制御装置20a側のROM30a(図2参照)に格納しておいても良い。そして、フィラ用電源制御部20b側のCPU32bが主制御部20a側のROM30aにアクセスしてフィラワイヤ6の電流値・送給速度の指令信号を演算するようにしても良い。
更に、主制御部20a及びフィラ用電源制御部20bの代わりに、それら2つの制御部の機能を兼ね備えた制御部を別途設ける構成としても良い。この場合、消耗電極ワイヤ5側の制御プログラムとフィラワイヤ6側の制御プログラムとを、例えば1つのROMに格納する構成としても良いし、それぞれを格納した2つのROMを備える構成としても良い。
要するに、本実施の形態のように、必ずしも主制御部20aとフィラ用電源制御部20bとを別々にしなくても、主溶接電源11を制御する機能を有する手段とフィラ用電源15を制御する機能を有する手段との間で情報伝達が可能な構成であり、なおかつ単一の設定手段によって、少なくとも両手段のいずれかに消耗電極ワイヤ5側の条件を入力するのみで、ダブルワイヤ方式の溶接装置が作動制御される構成であれば良い。これらの場合も同様の効果を得る。
【0032】
また、図1において、両ワイヤ送給装置7,8をリール側に設けたいわゆるプッシュ方式のワイヤ送給装置を設けた例を説明したが、トーチ側に設けるいわゆるプル方式のワイヤ送給装置であっても、又はこれらを組合せた方式のワイヤ送給装置であっても構わない。また、溶接ロボットとして、多関節型のアームを有するタイプのものを例示したが、これにも限られず、例えば、異なる方向に延設された複数のレールに沿って2次元的或いは3次元的な移動動作が可能なアームを有する溶接ロボットを用いても良い。これらの場合も上記同様の効果を得ることができる。
【0033】
【発明の効果】
本発明によれば、消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力するだけで、フィラ用電源制御手段において、予め格納されたプログラムに応じ、消耗電極側の諸条件に対して適正なフィラワイヤの電流・送給速度を設定することができるので、ダブルワイヤ方式の溶接作業において、効率的に溶接条件の設定作業を行うことができ、作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の溶接装置の一実施の形態の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられた主制御部の概略構成を表すブロック図である。
【図3】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられたフィラ用電源制御部の概略構成を表すブロック図である。
【図4】本発明の溶接装置の一実施の形態に備えられたフィラ用電源制御手段に格納された消耗電極ワイヤ側とフィラワイヤ側との条件テーブルを表す概念図である。
【符号の説明】
1 溶接ロボット
1a アーム
2 溶接トーチ
5 消耗電極ワイヤ
6 フィラワイヤ
7 消耗電極ワイヤ送給装置
8 フィラワイヤ送給装置
11 主溶接電源
12 母材
15 フィラ用電源
40 アーク
41 溶融池
20a 主制御部(主制御手段)
20b フィラ用電源制御部(フィラ用電源制御手段)
21 設定装置(設定手段)
Claims (4)
- 母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置において、
前記消耗電極ワイヤを送給する消耗電極ワイヤ送給装置と、
前記フィラワイヤを送給するフィラワイヤ送給装置と、
前記消耗電極ワイヤ及び消耗電極ワイヤ送給装置に給電する主溶接電源と、
前記フィラワイヤ及びフィラワイヤ送給装置に給電するフィラ用電源と、
少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値が設定可能な設定手段と、
この設定手段で設定された設定値を基に、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を指令する信号を演算し、前記主溶接電源に出力する主制御手段と、
この主制御装置と情報伝達可能に接続され、前記設定手段で設定された設定値を基に、予め格納されたプログラムに従い、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を指令する信号を演算し、前記フィラ用電源に出力するフィラ用電源制御手段と
を備えたことを特徴とする溶接装置。 - 請求項1記載の溶接装置において、前記消耗電極ワイヤ及びフィラワイヤを保持する溶接トーチをアーム先端に取付け、前記主制御装置からの指令信号に応じて前記溶接トーチを移動させる溶接ロボットを備えたことを特徴とする溶接装置。
- 請求項1又は2記載の溶接装置において、前記主溶接電源は前記消耗電極ワイヤから前記母材側に電流を流し、前記フィラ用電源は前記母材側から前記フィラワイヤに電流を印加することを特徴とする溶接装置。
- 母材と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させ母材及び消耗電極ワイヤを溶融させつつ、溶融池にフィラワイヤを送給する溶接装置の溶接条件設定方法において、
前記消耗電極ワイヤに通電する主溶接電源用の主制御手段と、前記フィラワイヤに通電するフィラ用電源用のフィラ用電源制御手段とを情報伝達可能に接続すると共に、
前記フィラ用電源制御手段に、前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値に応じ、少なくとも前記フィラワイヤに印加する電流値・フィラワイヤ送給速度を演算可能なプログラムを予め格納しておき、
前記主制御手段又はフィラ用電源制御手段に対し、少なくとも前記消耗電極ワイヤに印加する電流値・電圧値を設定入力することを特徴とする溶接条件設定方法。
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2002
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