JP2006175458A - 消耗電極式アーク溶接方法及びその装置 - Google Patents

消耗電極式アーク溶接方法及びその装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 フィラワイヤの送給開始時における送給速度を制御することにより、溶接作業全体の作業性を向上させ、良好な溶接品質を確保できるようにする。
【解決手段】 消耗電極ワイヤ7の先端を母材11に近接させ、消耗電極ワイヤ7の先端から母材11の表面に向けたアークを発生させる。そして、このアークによる発熱で母材11の溶接部位に溶融池12を形成する。次に、溶融池12に向けてフィラワイヤ10を送給し始めるときに、フィラワイヤ10の送給速度を最初は遅い速度に抑え、その後に正規の速度まで段階的に増速させる。このため、フィラワイヤ10の先端部が溶融池12の底部に接触するよりも十分に早い段階で、送給速度の遅いフィラワイヤ10内にフィラ電流を流すことができ、このときの通電加熱によりフィラワイヤ10の加熱温度を高めるようにする。
【選択図】 図4

Description

本発明は、例えば消耗電極ワイヤとフィラワイヤとを用いて溶接作業を行うようにした消耗電極式アーク溶接方法及びその装置に関する。
一般に、消耗電極ワイヤとフィラワイヤとからなる2本の溶接ワイヤを用いて溶接作業を行うようにした消耗電極式アーク溶接方法及びその装置は知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
この種の従来技術による消耗電極式アーク溶接装置では、まず、溶接作業を開始するときに消耗電極ワイヤと溶接対象物との間に大きな電流を流してアークを発生させ、このアークにより溶接対象物を消耗電極ワイヤの先端側と共に溶融させて溶接対象物上に溶融池を形成する。
そして、その後(作業開始の数秒後に)は、この溶融池に向けてフィラワイヤ供給装置からフィラワイヤを送給し、該フィラワイヤの先端側を溶融池内で溶融させることにより溶融金属量を増加させ、高速、高効率な溶接作業を実現するものである。
このため、前記消耗電極ワイヤとフィラワイヤとを用いた溶接作業は、例えば消耗電極ワイヤのみを用いた溶接作業に比較してワイヤの溶融速度を速めることができ、溶接時の作業性を向上することができるという利点がある。
一方、他の溶接方法として非消耗電極を用いるアーク溶接方法も知られている。この溶接方法は、非消耗電極と溶接対象物との間のアーク形成部にフィラワイヤを送給し、これに同期した電流を非消耗電極に流すことにより前記アーク形成部にアークを形成しつつ、このアークにより溶接対象物をフィラワイヤの先端側と共に溶融させて溶接作業を行うものである(例えば、特許文献3参照)。
そして、この非消耗電極式アーク溶接方法では、最初のフィラワイヤ供給時に先端が溶接対象物に一旦接触すると、フィラワイヤの送給を停止させ、非消耗電極への通電によりアークを発生させてフィラワイヤの先端部を溶融した後に、実際の溶接作業のためにフィラワイヤを正規の送給速度でアーク形成部に向けて送給するようにしている。
特開2004−148370号公報 特開2004−148371号公報 特開平5−200555号公報
ところで、上述した従来技術(特許文献1,2)では、溶接作業の開始時にフィラワイヤを溶接対象物の溶融池に向けて送給するときに、このフィラワイヤは加熱が不十分なままの状態で送給され、フィラワイヤの先端部は、加熱によって軟化、溶融される前に溶融池内へと導かれることがある。
そして、このような場合のフィラワイヤは、その先端部が溶融池の底部に直に接触し、このときにフィラワイヤ内を流れるフィラ電流の起電力による磁束等の影響を受けて座屈され、さらにはせん断される。このため、せん断されたフィラワイヤの一部は、破片となって溶接ビート上に残ったり、溶接ノズルの先端に付着したりする等の不具合が発生する。
そして、せん断されたフィラワイヤの破片が溶接ビート上に残った場合には、溶接部の外観が悪くなるので、この破片を取除く作業が必要となる。このために、結果として作業工数が増加することになり、溶接作業全体の作業性を向上させることができないという問題がある。
また、せん断されたフィラワイヤの破片が溶接ノズルの先端に付着した場合には、溶接ノズルへのスパッタ付着を助長し、シールドガスによるシールド性が低下する原因となり、溶接欠陥が発生し易くなる等、溶接品質の低下を招くという問題がある。
一方、他の従来技術(特許文献3)による非消耗電極式アーク溶接方法では、最初のフィラワイヤ供給時に先端が溶接対象物に接触すると、フィラワイヤの送給を一旦停止させるようにし、これによって、フィラワイヤの先端部が座屈されたり、せん断されたりするのを防止するようにしている。
しかし、消耗電極ワイヤとフィラワイヤとからなる2本の溶接ワイヤを用いて溶接作業を行う場合には、前述の如く非消耗電極を用いたアーク溶接に比較して溶接速度が速く、単位時間当たりの溶融金属量も大きく増大するものである。
このため、他の従来技術によるフィラワイヤの送給方法を、消耗電極式アーク溶接方法に適用したとしても、溶接開始時にフィラワイヤの送給を一旦停止させた状態で、フィラワイヤの先端部が座屈されたり、せん断される等の問題が生じる虞れがある。
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、フィラワイヤの送給開始時における送給速度を制御することにより、溶接作業全体の作業性を向上でき、良好な溶接品質を確保することができるようにした消耗電極式アーク溶接方法及びその装置を提供することにある。
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接方法に適用される。
そして、請求項1の発明が採用する溶接方法の特徴は、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで段階的に増速させるようにしたことにある。
また、請求項2の発明によると、前記フィラワイヤ供給手段は、前記フィラワイヤを溶融池に向けて送給するフィラ供給モータを有し、前記溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時には、前記フィラ供給モータへの駆動信号を段階的に制御することによって、前記フィラワイヤの送給速度を段階的に増速させるようにしている。
一方、請求項3の発明が採用する溶接方法の特徴は、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで徐々に増速させるようにしたことにある。
また、請求項4の発明によると、前記フィラワイヤ供給手段は、前記フィラワイヤを溶融池に向けて送給するフィラ供給モータを有し、前記溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時には、前記フィラ供給モータへの駆動信号を漸次増大させることによって、前記フィラワイヤの送給速度を徐々に増速させるようにしている。
一方、請求項5の発明は、溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接装置において、前記フィラワイヤ供給手段には、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで段階的に増速させる手段を設ける構成としたことにある。
また、請求項6の発明は、溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接装置において、前記フィラワイヤ供給手段には、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで徐々に増速させる手段を設ける構成としたことにある。
上述の如く、請求項1に記載の発明によれば、フィラワイヤを溶接対象物の溶融池に向けて送給し始めるときに、フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで段階的に増速させるため、フィラワイヤの先端部を前記溶融池に送給した段階でフィラワイヤの加熱温度を良好に高めることができ、フィラワイヤの先端部を加熱によって軟化させ、溶融池内でフィラワイヤの先端部を溶融可能な状態に保つことができる。
このため、フィラワイヤの送給開始時に該フィラワイヤの先端部が座屈されたり、せん断されたりするのを防ぐことができ、前記溶融池に向けてフィラワイヤを円滑に送給し続けることができる。これにより、溶接作業全体の作業性を向上でき、良好な溶接品質を確保することができる。
また、請求項2に記載の発明によると、フィラワイヤ供給手段は、溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時にフィラ供給モータへの駆動信号を段階的に制御することにより、前記溶融池に向けて送給するフィラワイヤの送給速度を、例えば1段、2段または3段階以上で段階的に増速させることができる。
一方、請求項3に記載の発明は、フィラワイヤを溶接対象物の溶融池に向けて送給し始めるときに、フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで徐々に増速させることにより、フィラワイヤの先端部を前記溶融池に送給した段階でフィラワイヤを加熱した状態におくことができ、フィラワイヤの先端部を加熱によって軟化させ、溶融池内でフィラワイヤの先端部を溶融可能な状態に保つことができる。この結果、フィラワイヤの送給開始時に該フィラワイヤの先端部が座屈したり、せん断したりするのを防ぐことができ、前記溶融池に向けてフィラワイヤを円滑に送給し続けることができる。
また、請求項4に記載の発明によると、フィラワイヤ供給手段は、溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時にフィラ供給モータへの駆動信号を漸次増大させることにより、前記溶融池に向けて送給するフィラワイヤの送給速度を徐々に増速させることができる。
一方、請求項5に記載の消耗電極式アーク溶接装置においても、請求項1に記載の発明とほぼ同様に、溶接作業全体の作業性を向上でき、良好な溶接品質を確保することができる。また、請求項6に記載の消耗電極式アーク溶接装置においても、請求項3に記載の発明とほぼ同様に、溶接作業全体の作業性を向上でき、良好な溶接品質を確保することができる。
以下、本発明の実施の形態による消耗電極式アーク溶接方法及びその装置を、添付図面に従って詳細に説明する。
ここで、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は消耗電極式アーク溶接装置の溶接トーチを構成する溶接ノズルで、該溶接ノズル1は、例えば溶接ロボットのアーム(図示せず)等により矢示W方向に移動され、後述の母材11に対する溶接作業を行うものである。
2は溶接ノズル1内に設けられたチップボディを示し、該チップボディ2は、導電性材料により中空の筒状体として形成されている。また、チップボディ2の下部側には、導電性の筒体からなる通電チップ3が一体に設けられている。そして、チップボディ2と通電チップ3の内周側には、後述の消耗電極ワイヤ7が母材11側に向けて移動可能に挿通されている。
4は溶接ノズル1内に設けられた他の通電チップで、該通電チップ4は、図2に示す溶接方向(矢示W方向)に関してチップボディ2(通電チップ3)の後側となる位置に配置され、両者は溶接方向の前,後に寸法Lだけ離間している。また、通電チップ4の下側には、電気絶縁性材料からなる筒状のガイドチップ5が一体に設けられている。
そして、この通電チップ4内には、ガイドチップ5内に向けて後述のフィラワイヤ10が挿通され、このフィラワイヤ10は、ガイドチップ5の先端側から後述する母材11の溶融池12に向けて、例えば図3中の矢示F方向に送給されるものである。
また、溶接ノズル1には、例えばチップボディ2の周方向に複数のガス噴出孔(図示せず)が設けられ、これらのガス噴出孔から溶接部位に向けてシールドガス(例えば、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス)を噴出させる。そして、このシールドガスは、溶接欠陥の原因となる水素、酸素等が後述する溶融池12の周囲に侵入するのを防ぐものである。
6は消耗電極ワイヤ供給手段としてのワイヤ供給モータで、該ワイヤ供給モータ6は、モータ制御回路(図示せず)から駆動信号が出力されることにより回転駆動され、消耗電極ワイヤ7を図1に示す如くチップボディ2、通電チップ3を介して母材11側へと送給するものである。また、消耗電極ワイヤ7は、ワイヤ供給モータ6に付設のワイヤ供給ドラム(図示せず)等に予め巻回され、ワイヤ供給モータ6の回転駆動により先端側がチップボディ2側に向けて送給される。
この場合、消耗電極ワイヤ7は、その先端側が図3、図4に示す如く母材11の表面側に近付けられ、この位置で母材11の溶接部位に向けてアークを発生させる。そして、消耗電極ワイヤ7は、このときのアークによる発熱で先端側から溶融され、後述の溶融池12を母材11の溶接部位に形成すると共に、先端側の溶融速度に対応した送給速度をもって消耗電極ワイヤ7は、図1に示すワイヤ供給モータ6から連続的に送出されるものである。
8はフィラ供給制御装置で、該フィラ供給制御装置8は、後述のフィラ供給モータ9と共にフィラワイヤ供給手段を構成している。そして、フィラ供給制御装置8は、図7に例示する駆動信号をフィラ供給モータ9に出力し、フィラ供給モータ9の回転速度等を可変に制御するものである。
9はフィラ供給制御装置8と共にフィラワイヤ供給手段を構成するフィラ供給モータで、図1に示す如くフィラ供給制御装置8から駆動信号が出力されることにより回転駆動され、フィラワイヤ10を通電チップ4、ガイドチップ5を介して後述の溶融池12側へと送給するものである。また、フィラワイヤ10は、フィラ供給モータ9に付設のワイヤ供給ドラム(図示せず)等に予め巻回され、フィラ供給モータ9の回転駆動により通電チップ4側に向けて送給される。
この場合、フィラワイヤ10の送給速度は、フィラ供給モータ9の回転速度に応じて増減され、フィラ供給モータ9の回転速度は、前記フィラ供給制御装置8からの駆動信号に応じて可変に制御される。そして、フィラワイヤ10は、フィラ供給モータ9から通電チップ4、ガイドチップ5を介して溶融池12内へと送給され、溶融池12内で加熱溶融されることにより、その溶融金属量を増大させるものである。
11は溶接対象物としての母材で、該母材11の溶接部位となる表面側は、消耗電極ワイヤ7からのアークによる発熱で溶融され、図3、図4に示すように溶融池12が形成される。そして、この溶融池12内には、消耗電極ワイヤ7による溶融金属とフィラワイヤ10による溶融金属とが、母材11からの溶融金属と一緒に溜められる。
13は母材11の溶接部位に形成される溶着金属で、該溶着金属13は、一般に溶接ビートと呼ばれ、母材11の表面側で溶融池12内の溶融金属が徐々に固化(冷却)されることにより形成されるものである。即ち、母材11に対する溶接作業時には、溶接ノズル1が溶接ロボットのアーム等により矢示W方向に移動され、これに伴って溶融池12も同方向に移動する。このため、溶融池12の後方となる位置には冷却、固化された溶着金属13が、図5、図6に示すように溶接ビートとなって残されるものである。
14は消耗電極ワイヤ7に通電を行う溶接電源装置で、この溶接電源装置14は、図1に示す如くプラス側の端子がリード線15を介してチップボディ2、通電チップ3に接続され、マイナス側の端子がリード線16を介して母材11に接続されている。
そして、溶接電源装置14は、チップボディ2側から通電チップ3を介して消耗電極ワイヤ7に矢示A方向の通電を行い、例えば電流値が300〜500A(アンペア)、電圧値が20〜50V(ボルト)の電力を電極ワイヤ7と母材11との間に給電する。これにより、電極ワイヤ7の先端には、図3、図4中に点線で示す如く母材11の表面に向けたアークが発生し、このアークによる発熱で母材11の溶接部位に溶融池12が形成されるものである。
17はフィラワイヤ10に通電を行うフィラ用電源で、このフィラ用電源17は、図1に示すようにプラス側の端子がリード線18を介して母材11に接続され、マイナス側の端子がリード線19を介して通電チップ4に接続されている。そして、フィラ用電源17は、フィラワイヤ10が溶融池12内に送給(浸漬)された段階で母材11側からフィラワイヤ10に向け通電チップ3を介して矢示B方向にフィラ電流を流すものである。
この場合、フィラ用電源17は、例えば電流値が80〜120A、電圧値が8〜20Vの電力を母材11側からフィラワイヤ10内へと給電する。この結果、フィラワイヤ10は、内部抵抗による発熱で加熱(抵抗加熱)され、この通電による加熱と溶融池12からの熱とによって、フィラワイヤ10は先端側から溶融されるものである。
また、フィラワイヤ10内には矢示B方向にフィラ電流が流れ、電極ワイヤ7内を流れる電流の向き(矢示A方向)とは逆向きになっているので、両ワイヤ7,10に発生する磁束は互いに反発し合う関係となる。このため、消耗電極ワイヤ7の先端から母材11の表面に向けて発生するアークには、フィラワイヤ10から遠ざかる方向の力(電磁気的な力)を作用させることができ、図2に示すワイヤ7,10間の寸法L(通電チップ3,4間の離間寸法)を小さくできるものである。
本実施の形態による消耗電極式アーク溶接装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その溶接方法について図3、図4等を参照して説明する。
まず、溶接ロボットのアーム等を用いて溶接ノズル1を、溶接対象物となる母材11の表面側に移送して溶接開始位置に配置する。そして、この状態で消耗電極ワイヤ7用のワイヤ供給モータ6を駆動し、消耗電極ワイヤ7をチップボディ2、通電チップ3を介して母材11側へと送給する。
また、このときに溶接電源装置14を作動させ、チップボディ2側から通電チップ3を介して消耗電極ワイヤ7に矢示A方向の通電を行う。そして、電極ワイヤ7の先端が母材11の表面側に近接した段階で、電極ワイヤ7の先端から母材11の表面に向けたアークを図3中に点線で示す如く発生させる。
このため、母材11の表面側は発生したアークによる発熱で溶融され、母材11のアーク照射位置(溶接部位)には溶融池12が形成される。また、消耗電極ワイヤ7も、このときのアークによる発熱で先端側から溶融され、この溶融金属は母材11の溶融池12内に溜められる。そして、この消耗電極ワイヤ7は、先端側の溶融速度に対応した送給速度をもって図1に示すワイヤ供給モータ6から連続的に送出される。
一方、母材11上に溶融池12を形成した段階で、フィラ供給制御装置8からフィラ供給モータ9に駆動信号を出力し、フィラ供給モータ9の回転駆動を開始する。これにより、フィラワイヤ10の先端側を通電チップ4、ガイドチップ5側から溶融池12に向けて送給することができる。また、フィラワイヤ10の先端側が溶融池12の表面に接触した段階では、フィラ用電源17から母材11を介してフィラワイヤ10に向け矢示B方向にフィラ電流が流れる。
このため、フィラワイヤ10の先端側を、フィラ電流による通電加熱と溶融池12から発生する熱とによって加熱溶融することができ、溶融池12内の溶融金属量をフィラワイヤ10からの溶融金属により増大させることができる。
このようにして、母材11に対する溶接作業が開始され、溶接ロボット等により溶接ノズル1を矢示W方向に連続的に移動させる。そして、母材11上の溶融池12は、これに伴って矢示W方向に移動するため、溶融池12の後方となる位置には冷却、固化された溶着金属13が、図4ないし図6に示すように溶接ビートとなって残される。
また、このような溶接作業を実行している間は、フィラワイヤ10内に矢示B方向のフィラ電流が流れ、電極ワイヤ7内を流れる矢示A方向の電流とは互いに逆向きになっている。このため、両ワイヤ7,10に発生する磁束を、互いに反発し合うような関係とすることができ、消耗電極ワイヤ7の先端から母材11の表面に向けて発生するアークには、フィラワイヤ10から遠ざかる方向の力を作用させることができる。
この結果、図2に示すワイヤ7,10間の寸法L(通電チップ3,4間の離間寸法)が小さくなるように、フィラワイヤ10を消耗電極ワイヤ7に近接させて配置した場合でも、フィラワイヤ10がアークによって吹き飛ばされるのを防止でき、フィラワイヤ10を溶融池12に向けて円滑に送給し続けることできる。
かくして、このような溶接方法を採用することにより、溶接対象の母材11が炭素鋼、合金鋼、アルミニウム等の金属材料であっても、溶接速度を速くすることができ、高速、高能率で、作業性の良い溶接作業を行うことができる。また、前述の如くフィラワイヤ10を溶融池12内に送給することにより、溶融池12の温度が過剰に高くなるのを抑えることができる。
これにより、溶接ビートの乱れを生じさせるパッカリング現象の発生を抑制できると共に、溶接部への酸化物の付着(黒粉付着)を抑えることができ、凝固割れ等の発生も良好に抑えることができる。
ところで、上述の如き溶接作業を高速で行う場合には、単位時間当たりの溶着金属量を増加させる上でフィラワイヤ10の送給速度を速くすることが望ましい。しかし、フィラワイヤ10の送給速度を速くした場合には、フィラ送給開始直後の段階でフィラワイヤ10の通電による加熱が不十分になり易く、下記のような不具合が生じる。
即ち、消耗電極ワイヤ7の先端から母材11の表面に向けて図3中に点線で示す如くアークを発生させて溶接作業を開始し、例えば2秒程度が経過した時間t1 の時点で図7中に二点鎖線で示す特性線20のように、フィラワイヤ10の送給速度を速度V2 (例えば、5m/分)まで速くした場合、フィラワイヤ10の先端部は、加熱によって軟化、溶融される前に溶融池12内へと導かれることになる。
そして、このような場合のフィラワイヤ10は、その先端部が溶融池12の底部に直に接触し、このときにフィラワイヤ10内を流れるフィラ電流の起電力による磁束等の影響を受けて、図8に示す比較例のようにフィラワイヤ10の先端側が座屈されることがある。そして、このままの状態で溶接作業を続けると、図9に例示するようにフィラワイヤ10の先端側は、せん断または破断されてしまう。
このため、せん断されたフィラワイヤ10の破片10′は、図10、図11に例示するように溶着金属13(溶接ビート)上に残ってしまい、溶接部の外観を悪くする。また、場合によっては、せん断されたフィラワイヤ10の破片10′が、図12に例示するように溶接ノズル1の先端に付着することもある。
そこで、本実施の形態では、このような不具合の発生を防ぐために、図7中に実線で示す特性線21の如く、時間t1 でフィラワイヤ10の送給を開始するときに、フィラ供給制御装置8からフィラ供給モータ9に出力する駆動信号を2段階で制御し、時間t1 〜t2 の間は駆動信号を低い信号値S1 に抑え、時間t2 (例えば、溶接を開始して5秒後)に達した段階で正規の信号値S2 まで増加させる構成としている。
これにより、フィラワイヤ10の送給速度を、図7中に実線で示す特性線22の如くフィラワイヤ10の送給開始時には、例えば2m/分程度の遅い速度V1 に抑え、その後に時間t2 に達した段階で予め決められた正規の速度V2 (例えば、5m/分)まで増速させるものである。
この結果、フィラワイヤ10の送給開始時には、時間t1 〜t2 の間にわたりフィラワイヤ10の送給速度を低い速度V1 に抑えることができ、この間にフィラワイヤ10の先端部は溶融池12内に接触し、図7中の特性線23の如くフィラ電流Iが流れることになる。
このため、フィラワイヤ10の先端部が溶融池12の底部に接触するよりも十分に早い段階で、送給速度の遅いフィラワイヤ10内にフィラ電流Iを確実に流すことができ、このときの通電加熱によりフィラワイヤ10の加熱温度を良好に高めることができる。
従って、フィラワイヤ10の先端部を時間t1 〜t2 (図7参照)の間に十分に加熱して軟化させることができ、溶融池12内でフィラワイヤ10の先端部を溶融可能な状態に保つことができる。このため、フィラワイヤ10の送給開始時に該フィラワイヤ10の先端部が座屈したり、せん断したりするのを防ぐことができる。
そして、時間t2 の経過後には、図7中の特性線22の如くフィラワイヤ10の送給速度を正規の速度V2 まで増速させるので、フィラワイヤ10を溶融池12に向けて円滑に送給し続けることができる。このため、従来技術で述べたように図10ないし図12に例示した破片10′の除去作業等を不要にすることができ、溶接作業全体の作業性を向上できると共に、その溶接品質を確実に高めることができる。
次に、図13は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、本実施の形態の特徴は、フィラワイヤ10の送給開始時に、該フィラワイヤ10の送給速度を徐々に増速させる構成としたことにある。
即ち、本実施の形態にあっては、フィラワイヤ10の送給を開始するときに、フィラ供給制御装置8からフィラ供給モータ9に出力する駆動信号を、図13中に示す特性線31の如く時間t1 〜t2 の間で直線的に漸増させるように制御し、その後に時間t2 (例えば、溶接を開始して5秒後)以降では正規の信号値S2 に制御するものである。
これにより、フィラワイヤ10の送給速度は、特性線32に示すように時間t1 〜t2 の間では直線的に徐々に増速され、時間t2 に達した以降は予め決められた正規の速度V2 に保たれるものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、フィラワイヤ10の送給開始時に、その送給速度を直線的に増速させるようにしている。
このため、フィラワイヤ10の先端部を溶融池12に送給するときに、その送給速度がまだ遅い段階においてフィラワイヤ10を加熱することができ、フィラワイヤ10の先端部を加熱によって軟化させ、溶融池12内でフィラワイヤ10の先端部を溶融可能な状態に保つことができる。
次に、図14は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。しかし、本実施の形態の特徴は、フィラワイヤ10の送給開始時に、該フィラワイヤ10の送給速度を曲線的に漸増させる構成としたことにある。
即ち、本実施の形態にあっては、フィラワイヤ10の送給を開始するときに、フィラ供給制御装置8からフィラ供給モータ9に出力する駆動信号を、図14中に示す特性線41の如く時間t1 〜t2 の間で凸湾曲状に漸増させるように制御し、その後に時間t2 (例えば、溶接を開始して5秒後)以降では正規の信号値S2 に制御するものである。
これにより、フィラワイヤ10の送給速度は、特性線42に示すように時間t1 〜t2 の間では曲線的に徐々に増速され、時間t2 に達した以降は予め決められた正規の速度V2 に保たれるものである。
かくして、このように構成される本実施の形態でも、前記第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、本実施の形態では、フィラワイヤ10の送給開始時に、その送給速度を曲線的に増速させるので、フィラワイヤ10の先端部を溶融池12に送給した段階で、フィラワイヤ10を加熱した状態に保つことができ、フィラワイヤ10の先端部を加熱によって軟化させ、溶融池12内でフィラワイヤ10の先端部を溶融させることができる。
なお、前記第1の実施の形態では、フィラワイヤ10を溶融池12に向けて送給し始めるときに、フィラ送給速度を図7中に示す特性線22の如く、遅い速度V1 と正規の速度V2 との2段階で制御する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば3段階以上でフィラ送給速度を変化させるようにしてもよい。
また、前記第3の実施の形態では、フィラワイヤ10を溶融池12に向けて送給し始めるときに、フィラ送給速度を図14中に示す特性線42の如く、凸湾曲状に漸増させる場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば凹湾曲状にフィラ送給速度を漸増させるようにしてもよいものである。
本発明の第1の実施の形態による消耗電極式アーク溶接装置を示す全体構成図である。 図1中の溶接ノズルを拡大して示す要部拡大図である。 図2の溶接ノズルを用いて母材に対する溶接作業を開始した状態を示す部分断面図である。 図3中の溶融池内にフィラワイヤを送給した状態を示す部分断面図である。 母材上に溶着金属からなる溶接ビートを形成した状態を示す平面図である。 図5中の矢示VI−VI方向からみた断面図である。 第1の実施の形態によるフィラ供給モータへの駆動信号、フィラ送給速度およびフィラ電流の特性を示す特性線図である。 比較例によるフィラワイヤが座屈した状態を示す部分断面図である。 比較例によるフィラワイヤの先端側がせん断された状態を示す部分断面図である。 比較例による母材上の溶接ビート等を示す平面図である。 図10中の矢示XI−XI方向からみた断面図である。 比較例によるフィラワイヤの破片が溶接ノズルに付着した状態を示す要部拡大図である。 第2の実施の形態によるフィラ供給モータへの駆動信号、フィラ送給速度およびフィラ電流の特性を示す特性線図である。 第3の実施の形態によるフィラ供給モータへの駆動信号、フィラ送給速度およびフィラ電流の特性を示す特性線図である。
符号の説明
1 溶接ノズル
3,4 通電チップ
6 ワイヤ供給モータ
7 消耗電極ワイヤ
8 フィラ供給制御装置(フィラワイヤ供給手段)
9 フィラ供給モータ
10 フィラワイヤ
11 母材(溶接対象物)
12 溶融池
13 溶着金属(溶接ビート)
14 溶接電源装置
17 フィラ用電源

Claims (6)

  1. 溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該消耗電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接方法において、
    前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで段階的に増速させることを特徴とした消耗電極式アーク溶接方法。
  2. 前記フィラワイヤ供給手段は、前記フィラワイヤを溶融池に向けて送給するフィラ供給モータを有し、前記溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時には、前記フィラ供給モータへの駆動信号を段階的に制御することによって、前記フィラワイヤの送給速度を段階的に増速させてなる請求項1に記載の消耗電極式アーク溶接方法。
  3. 溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接方法において、
    前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで徐々に増速させることを特徴とした消耗電極式アーク溶接方法。
  4. 前記フィラワイヤ供給手段は、前記フィラワイヤを溶融池に向けて送給するフィラ供給モータを有し、前記溶融池に対するフィラワイヤの送給開始時には、前記フィラ供給モータへの駆動信号を漸次増大させることによって、前記フィラワイヤの送給速度を徐々に増速させてなる請求項3に記載の消耗電極式アーク溶接方法。
  5. 溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該消耗電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接装置において、
    前記フィラワイヤ供給手段には、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで段階的に増速させる手段を設ける構成としたことを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
  6. 溶接対象物と消耗電極ワイヤとの間にアークを発生させて該電極ワイヤと溶接対象物を溶融させつつ、フィラワイヤ供給手段から前記溶接対象物の溶融池に向けてフィラワイヤを送給してなる消耗電極式アーク溶接装置において、
    前記フィラワイヤ供給手段には、前記溶融池に対する前記フィラワイヤの送給を開始するときに該フィラワイヤの送給速度を、予め決められた所定の送給速度まで徐々に増速させる手段を設ける構成としたことを特徴とする消耗電極式アーク溶接装置。
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