JP2004142000A - ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線、及びそのワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供するものである。
【解決手段】本発明に係るワイヤ放電加工用電極線10は、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に積層してなる被覆層12を設けたものである。
【選択図】 図1
【解決手段】本発明に係るワイヤ放電加工用電極線10は、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に積層してなる被覆層12を設けたものである。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0003】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
この特開平5−339664号公報に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0005】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0007】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の一の目的は、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を設けたものである。また、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を、被覆層全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、被覆層の層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように設けたものである。
【0011】
より具体的には、請求項3に示すように、上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層した請求項1又は2記載のワイヤ放電加工用電極線である。
【0012】
また、請求項4に示すように、上記Zn層を純Znで、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成することが好ましい。
【0013】
また、請求項5に示すように、上記心材を、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
又はCu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、及びSnの元素の内の少なくとも1種を添加した合金で形成することが好ましい。
【0014】
これによって、心材は導電率が高く、被覆層は全体ではZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となることから、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。
【0015】
一方、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を形成した後、この被覆線材に縮径加工を施すものである。
【0016】
より具体的には、請求項7に示すように、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、被覆層としてZn条とCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する。
【0017】
これによって、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を、安価に製造することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0019】
第1の実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線の横断面図を図1に示す。
【0020】
本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたものであり、心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層を設けたものである。
【0021】
具体的には、図1に示すように、電極線10は、心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に四層に積層してなる被覆層12を、被覆層12全体のZn濃度が43〜49重量%(好ましくは45〜49重量%、特に好ましくは48重量%前後)となるように設けたものである。また、被覆層12の層厚tと電極線10全体の外径Dとの比(t/D)が0.06〜0.2(好ましくは0.10〜0.16、特に好ましくは0.14前後)となるように設けたものである。被覆層12全体のZn濃度及びt/Dは、Zn層13a,13b及びCu−Zn合金層14a,14bの各層厚を調整することで、自在に調整することができる。
【0022】
Zn層13a,13bは純Znで構成され、また、Cu−Zn合金層14a,14bは、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成される。
【0023】
ここで、被覆層12全体のZn濃度を43〜49重量%と規定したのは、Zn濃度が43重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が49重量%を超えるとZnの占める割合が多くなり、電極線10自体の引張強度が低下するためである。
【0024】
また、層厚tと外径Dとの比t/Dを0.06〜0.2と規定したのは、t/Dが0.06%未満だと放電加工時に被覆層12が瞬時に消耗してしまい、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためである。また、t/Dが0.2を超えると電極線10全体に占める被覆層12の断面積割合が増加することから、電極線10自体の引張強度の低下及び導電率の低下を招き、放電加工速度の向上が望めないためである。
【0025】
また、Cu−Zn合金層14a,14bのZn濃度を32〜40重量%と規定したのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0026】
また、心材11を構成するCu又はCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。特に、高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するCu合金が好ましく、例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
又はCu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、及びSnの元素の内の少なくとも1種を添加した合金などが挙げられる。
【0027】
本実施の形態の電極線10においては、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に4層に積層した場合について説明を行ったが、層数は4層に限定するものではなく、2層、3層、又は5層以上であってもよい。ここで、偶数層に積層する際の積層順序は、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。また、奇数層に積層する際の積層順序は、Cu−Zn合金層、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。
【0028】
次に、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
図2に示すように、先ず、Cu又はCu合金からなる心材21の外周に、被覆層を形成する。具体的には、心材21の外周に、Zn条23a,23bとCu−Zn合金条24a,24bとを交互に4層に積層した積層体を圧延してなる積層テープ22を縦添えする。その後、積層テープ22の突き合わせ部25に、図3に示すように溶接処理を施し、突き合わせ溶接部35を有する被覆線材30を形成する。被覆線材30においては、心材21と積層テープ22との間には微小隙間Sが形成される。次に、微小隙間Sを無くすべく、被覆線材30に圧延ロールによる圧延加工を施し、心材21と積層テープ22とを密着させる。
【0030】
その後、この被覆線材30に所定の温度、時間(例えば、200〜400℃×0.1〜1.0時間)の熱処理を施し、突き合わせ溶接部35及びその近傍の均一化処理を行う。その結果、図1に示した心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に四層に積層してなる被覆層12を有するワイヤ放電加工用電極線10が得られる。
【0031】
得られた電極線10を伸線ダイスに通し、電極線10に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線10を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、95%以上、好ましくは98%以上、特に好ましくは99.5%以上である。尚、本実施の形態に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材30に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材30に熱処理を施す。
【0032】
従来、高Zn濃度、例えば、Zn濃度が40重量%以上のCu−Zn合金からなるワイヤ放電加工用電極線は、高速の放電加工が可能である(優れた放電加工性を有する)ものの、伸線加工性が悪かったことから、これまで実用に供し得なかった。そこで、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線10においては、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層12を設けている。
【0033】
電極線10の内層部である心材11は、Cu又はCu合金、好ましくは高い導電率、高い引張強度、高温耐熱性を有するCu合金で構成しているため、放電加工速度の向上を図ることができる。
【0034】
一方、電極線10の外層部である被覆層12は、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなるものである。Cu−Zn合金層を構成するCu−Zn合金のZn濃度は、従来の単体型の電極線に用いられているCu−Zn合金のZn濃度と殆ど変わらないが、このCu−Zn合金層を、Zn層と組み合わせて用いることで、見かけ上、被覆層12のZn濃度が高くなる。放電加工時においては、被覆層12のZn層とCu−Zn合金層とが交互に放電し、その結果、被覆層12全体はZn濃度の高いCu−Zn合金層として作用するようになる。また、被覆層12は、導電率及び引張強度の低下を避けるべく、全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、t/Dが0.06〜0.2となるように調整しているため、十分な導電率及び引張強度を確保したまま放電加工速度の向上を図ることができる。また、被覆層12は、その最外層に、Zn層ではなく、伸線加工性が良好なCu−32〜40重量%Zn合金からなるCu−Zn合金層(図1中ではCu−Zn合金層14b)を配置形成していることから、被覆層12全体での伸線加工性は良好である。
【0035】
これらの結果、電極線10は、放電加工速度の向上(良好な放電加工性)と良好な伸線加工性の両方を図ることができる。
【0036】
また、電極線10は良好な伸線加工性を有していることから、伸線加工時(縮径加工時)において、熱間加工と比較して安価な冷間加工による伸線加工が可能となり、その結果、最終製品を安価に製造することが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線は、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成する際、前述した従来の電極線のように拡散熱処理を必要としない。その結果、従来と比較して熱処理分のコスト低減を図ることができ、最終製品を更に安価に製造することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0039】
【実施例】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを交互に4層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.08mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.3mmである。
【0041】
次に、この被覆線材に熱処理を施した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製する。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0042】
(実施例2)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0043】
(実施例3)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0044】
(実施例4)
心材の組成がCu−5Agである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0045】
(比較例1)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.025mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.37mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0046】
(比較例2)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.125mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.27mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0047】
(比較例3)
積層テープ全体の厚さが0.24mm(各純Zn層の層厚が0.02mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.1mm)、被覆線材の線径がφ4.48mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0048】
(比較例4)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.15mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.6mm)、被覆線材の線径がφ7.0mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0049】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35重量%Zn合金からなる電極線母材を作製する。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0050】
実施例1〜4、比較例1〜4、及び従来例1における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層全体のZn濃度(重量%)、t/D、及び放電加工試験時の放電加工速度を表1に示す。
【0051】
ここで、t/Dは、被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比であるが、実際には積層テープの厚さと被覆線材の外径との比で代用した。また、放電加工速度は、従来例1における電極線の放電加工速度を1.00とした時の相対速度で評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
t/D :被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比
放電加工速度:従来例1の放電加工速度を1.00とした時の相対速度
表1に示すように、実施例1〜4の各電極線の放電加工速度は1.30、1.31、1.27、1.29であり、比較例1と比べて放電加工速度が30%前後(25〜36%)も高速であった。また、各電極線は、いずれも伸線加工性が容易であった。
【0054】
これに対して、比較例1の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より低い39重量%であるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られなかった。このため、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0055】
また、比較例2の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より高い55重量%であるため、電極線全体において十分な引張強度が得られなかった。このため、放電加工速度が1.15しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0056】
また、比較例3の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より小さい0.05であり、被覆層の層厚が薄すぎるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られず、放電加工速度は1.10であった。
【0057】
また、比較例4の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より大きい0.21であり、被覆層の層厚が厚すぎるため、電極線全体の引張強度が低かった。このため、放電加工時に断線が生じてしまい、放電加工試験を行うことができなかった。
【0058】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0059】
(1) 本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を設けたことで、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。
【0060】
(2) 本発明に係る製造方法によれば、(1)のワイヤ放電加工用電極線を、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係るワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【図2】心材に積層テープを縦添えした状態を示す横断面図である。
【図3】図2における積層テープの突き合わせ部を溶接した後の横断面図である。
【符号の説明】
10 ワイヤ放電加工用電極線
11,21 心材
12 被覆層
13a,13b Zn層
14a,14b Cu−Zn合金層
22 積層テープ
23a,23b Zn条
24a,24b Cu−Zn合金条
25 突き合わせ部
35 突き合わせ溶接部
30 被覆線材
t 被覆層の層厚
D 電極線全体の外径
【発明の属する技術分野】
本発明は、ワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に係り、特に、被覆型のワイヤ放電加工用電極線及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般的なワイヤ放電加工用電極線として、Cu−Zn合金単体からなる電極線が活用されている。この電極線は、加工速度、加工精度などの放電特性に優れていると共に、コスト的にも有利な特質を有している。このタイプの電極線の放電加工速度を向上させるには、電極線をZn濃度が高いCu−Zn合金で形成することが望ましい。しかしながら、Cu−Zn合金中のZn濃度が40重量%を超えると、伸線加工性が著しく低下し、電極線の製造が困難となる。このため、このタイプの電極線の構成材として、一般的に、32〜36重量%のZnを含むCu−Zn合金、すなわちCu−35重量%Zn合金(65/35黄銅線)が使用されてきた。
【0003】
近年、ワイヤ放電加工用電極線の高速加工性が重視されるようになっている。このため、例えば、Cu−2.0重量%Sn合金、Cu−0.3重量%Sn合金などのCu合金からなる心材の周りに、従来よりもZn濃度が高いCu−Zn合金層を被覆した被覆型の放電加工用電極線が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特開平5−339664号公報
この特開平5−339664号公報に記載された被覆型の放電加工用電極線の製造方法は、心材の周りに、Cu−38〜49重量%ZnからなるCu−Zn合金層を押出被覆するものである。
【0005】
また、被覆型の放電加工用電極線の他の製造方法としては、例えば、心材の周りにZn層を被覆してなる被覆線材を加熱炉中に通して拡散熱処理を施すことで、電極線の表層にZn濃度の高いCu−Zn合金層を形成する方法が挙げられ、この他にも種々の方法が提案されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平5−339664号公報に記載の製造方法では、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、Cu−Zn合金層の単一層を形成するには、熱間押出被覆を行う必要があり、製造コストが非常に高くなるという問題があった。また、Cu−Zn合金層のZn濃度が38〜49重量%と高いことから、伸線加工性が著しく悪く、その結果、生産性が良好でないという問題があった。
【0007】
また、後者の拡散熱処理による製造方法では、拡散熱処理に非常に長い時間を要することから、生産性が低いという問題があった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の一の目的は、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を提供することにある。
【0009】
また、本発明の他の目的は、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を安価に製造可能な製造方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成すべく本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を設けたものである。また、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を、被覆層全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、被覆層の層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように設けたものである。
【0011】
より具体的には、請求項3に示すように、上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層した請求項1又は2記載のワイヤ放電加工用電極線である。
【0012】
また、請求項4に示すように、上記Zn層を純Znで、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成することが好ましい。
【0013】
また、請求項5に示すように、上記心材を、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
又はCu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、及びSnの元素の内の少なくとも1種を添加した合金で形成することが好ましい。
【0014】
これによって、心材は導電率が高く、被覆層は全体ではZn濃度が高く、かつ、伸線加工性が良好となることから、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。
【0015】
一方、本発明に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を形成した後、この被覆線材に縮径加工を施すものである。
【0016】
より具体的には、請求項7に示すように、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、被覆層としてZn条とCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する。
【0017】
これによって、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を、安価に製造することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0019】
第1の実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線の横断面図を図1に示す。
【0020】
本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたものであり、心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層を設けたものである。
【0021】
具体的には、図1に示すように、電極線10は、心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に四層に積層してなる被覆層12を、被覆層12全体のZn濃度が43〜49重量%(好ましくは45〜49重量%、特に好ましくは48重量%前後)となるように設けたものである。また、被覆層12の層厚tと電極線10全体の外径Dとの比(t/D)が0.06〜0.2(好ましくは0.10〜0.16、特に好ましくは0.14前後)となるように設けたものである。被覆層12全体のZn濃度及びt/Dは、Zn層13a,13b及びCu−Zn合金層14a,14bの各層厚を調整することで、自在に調整することができる。
【0022】
Zn層13a,13bは純Znで構成され、また、Cu−Zn合金層14a,14bは、Cu−32〜40重量%Zn合金(好ましくはCu−32〜38重量%Zn合金、特に好ましくはCu−35重量%前後Zn合金)で構成される。
【0023】
ここで、被覆層12全体のZn濃度を43〜49重量%と規定したのは、Zn濃度が43重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が49重量%を超えるとZnの占める割合が多くなり、電極線10自体の引張強度が低下するためである。
【0024】
また、層厚tと外径Dとの比t/Dを0.06〜0.2と規定したのは、t/Dが0.06%未満だと放電加工時に被覆層12が瞬時に消耗してしまい、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためである。また、t/Dが0.2を超えると電極線10全体に占める被覆層12の断面積割合が増加することから、電極線10自体の引張強度の低下及び導電率の低下を招き、放電加工速度の向上が望めないためである。
【0025】
また、Cu−Zn合金層14a,14bのZn濃度を32〜40重量%と規定したのは、Zn濃度が32重量%未満だと放電加工速度を向上させる効果が十分に得られないためであり、Zn濃度が40重量%を超えると伸線加工性が著しく低下するためである。
【0026】
また、心材11を構成するCu又はCu合金としては、被覆型のワイヤ放電加工用電極線の心材に慣用的に用いられているものであれば特に限定するものではない。特に、高い導電率、高い引張強度及び高温耐熱性を有するCu合金が好ましく、例えば、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
又はCu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、及びSnの元素の内の少なくとも1種を添加した合金などが挙げられる。
【0027】
本実施の形態の電極線10においては、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に4層に積層した場合について説明を行ったが、層数は4層に限定するものではなく、2層、3層、又は5層以上であってもよい。ここで、偶数層に積層する際の積層順序は、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。また、奇数層に積層する際の積層順序は、Cu−Zn合金層、Zn層、…Cu−Zn合金層とする。
【0028】
次に、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線の製造方法を添付図面に基づいて説明する。
【0029】
図2に示すように、先ず、Cu又はCu合金からなる心材21の外周に、被覆層を形成する。具体的には、心材21の外周に、Zn条23a,23bとCu−Zn合金条24a,24bとを交互に4層に積層した積層体を圧延してなる積層テープ22を縦添えする。その後、積層テープ22の突き合わせ部25に、図3に示すように溶接処理を施し、突き合わせ溶接部35を有する被覆線材30を形成する。被覆線材30においては、心材21と積層テープ22との間には微小隙間Sが形成される。次に、微小隙間Sを無くすべく、被覆線材30に圧延ロールによる圧延加工を施し、心材21と積層テープ22とを密着させる。
【0030】
その後、この被覆線材30に所定の温度、時間(例えば、200〜400℃×0.1〜1.0時間)の熱処理を施し、突き合わせ溶接部35及びその近傍の均一化処理を行う。その結果、図1に示した心材11の外周に、Zn層13a,13bとCu−Zn合金層14a,14bとを交互に四層に積層してなる被覆層12を有するワイヤ放電加工用電極線10が得られる。
【0031】
得られた電極線10を伸線ダイスに通し、電極線10に適宜縮径加工(冷間伸線加工)を施して所望の線径に形成することで、最終製品が得られる。ここで、縮径加工によって所望の線径が得られるまで、電極線10を複数台の伸線ダイスに通す。また、縮径加工の減面率は、95%以上、好ましくは98%以上、特に好ましくは99.5%以上である。尚、本実施の形態に係る製造方法においては、熱処理後に縮径加工を行う場合について説明を行ったが、熱処理前の被覆線材30に対して縮径加工を行ってもよく、その場合、縮径後の被覆線材30に熱処理を施す。
【0032】
従来、高Zn濃度、例えば、Zn濃度が40重量%以上のCu−Zn合金からなるワイヤ放電加工用電極線は、高速の放電加工が可能である(優れた放電加工性を有する)ものの、伸線加工性が悪かったことから、これまで実用に供し得なかった。そこで、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線10においては、Cu又はCu合金からなる心材11の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなる被覆層12を設けている。
【0033】
電極線10の内層部である心材11は、Cu又はCu合金、好ましくは高い導電率、高い引張強度、高温耐熱性を有するCu合金で構成しているため、放電加工速度の向上を図ることができる。
【0034】
一方、電極線10の外層部である被覆層12は、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に複数層に積層してなるものである。Cu−Zn合金層を構成するCu−Zn合金のZn濃度は、従来の単体型の電極線に用いられているCu−Zn合金のZn濃度と殆ど変わらないが、このCu−Zn合金層を、Zn層と組み合わせて用いることで、見かけ上、被覆層12のZn濃度が高くなる。放電加工時においては、被覆層12のZn層とCu−Zn合金層とが交互に放電し、その結果、被覆層12全体はZn濃度の高いCu−Zn合金層として作用するようになる。また、被覆層12は、導電率及び引張強度の低下を避けるべく、全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、t/Dが0.06〜0.2となるように調整しているため、十分な導電率及び引張強度を確保したまま放電加工速度の向上を図ることができる。また、被覆層12は、その最外層に、Zn層ではなく、伸線加工性が良好なCu−32〜40重量%Zn合金からなるCu−Zn合金層(図1中ではCu−Zn合金層14b)を配置形成していることから、被覆層12全体での伸線加工性は良好である。
【0035】
これらの結果、電極線10は、放電加工速度の向上(良好な放電加工性)と良好な伸線加工性の両方を図ることができる。
【0036】
また、電極線10は良好な伸線加工性を有していることから、伸線加工時(縮径加工時)において、熱間加工と比較して安価な冷間加工による伸線加工が可能となり、その結果、最終製品を安価に製造することが可能となる。
【0037】
また、本実施の形態に係るワイヤ放電加工用電極線は、高Zn濃度のCu−Zn合金層を形成する際、前述した従来の電極線のように拡散熱処理を必要としない。その結果、従来と比較して熱処理分のコスト低減を図ることができ、最終製品を更に安価に製造することが可能となる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0039】
【実施例】
次に、本発明について、実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
線径がφ4.0mmで、Cu−0.19Sn−0.2Inからなる心材に、純Zn条とCu−35重量%Zn合金条とを交互に4層に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えする。その後、積層テープの突き合わせ部に溶接処理を施し、線径がφ5.52mmの被覆線材を形成する。積層テープは、厚さ0.76mm、幅13mmであり、各純Zn層の層厚は0.08mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚は0.3mmである。
【0041】
次に、この被覆線材に熱処理を施した後、圧延ロールによる圧延加工を施し、電極線母材を作製する。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0042】
(実施例2)
心材の組成がCu−0.16Zrである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0043】
(実施例3)
心材の組成がCu−10Znである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0044】
(実施例4)
心材の組成がCu−5Agである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0045】
(比較例1)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.025mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.37mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0046】
(比較例2)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.125mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.27mm)、被覆線材の線径がφ5.58mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0047】
(比較例3)
積層テープ全体の厚さが0.24mm(各純Zn層の層厚が0.02mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.1mm)、被覆線材の線径がφ4.48mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0048】
(比較例4)
積層テープ全体の厚さが0.79mm(各純Zn層の層厚が0.15mm、各Cu−35重量%Zn合金層の層厚が0.6mm)、被覆線材の線径がφ7.0mmである以外は実施例1と同様にし、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0049】
(従来例1)
連続鋳造機を用いて、Cu−35重量%Zn合金からなる電極線母材を作製する。この母材を複数台の伸線ダイスに通して冷間で縮径加工を施し、線径がφ0.25mmのワイヤ放電加工用電極線を作製する。
【0050】
実施例1〜4、比較例1〜4、及び従来例1における各電極線の、心材組成(重量%)、被覆層全体のZn濃度(重量%)、t/D、及び放電加工試験時の放電加工速度を表1に示す。
【0051】
ここで、t/Dは、被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比であるが、実際には積層テープの厚さと被覆線材の外径との比で代用した。また、放電加工速度は、従来例1における電極線の放電加工速度を1.00とした時の相対速度で評価した。
【0052】
【表1】
【0053】
t/D :被覆層の層厚tと電極線全体の外径Dとの比
放電加工速度:従来例1の放電加工速度を1.00とした時の相対速度
表1に示すように、実施例1〜4の各電極線の放電加工速度は1.30、1.31、1.27、1.29であり、比較例1と比べて放電加工速度が30%前後(25〜36%)も高速であった。また、各電極線は、いずれも伸線加工性が容易であった。
【0054】
これに対して、比較例1の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より低い39重量%であるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られなかった。このため、放電加工速度が1.21しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0055】
また、比較例2の電極線は、被覆層全体のZn濃度が規定範囲(43〜49重量%)より高い55重量%であるため、電極線全体において十分な引張強度が得られなかった。このため、放電加工速度が1.15しか得られず、生産性及び製造コストを考慮すると、放電加工性はあまり良好とは言えなかった。
【0056】
また、比較例3の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より小さい0.05であり、被覆層の層厚が薄すぎるため、放電加工速度を向上させる効果が十分に得られず、放電加工速度は1.10であった。
【0057】
また、比較例4の電極線は、t/Dが規定範囲(0.06〜0.2)より大きい0.21であり、被覆層の層厚が厚すぎるため、電極線全体の引張強度が低かった。このため、放電加工時に断線が生じてしまい、放電加工試験を行うことができなかった。
【0058】
【発明の効果】
以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0059】
(1) 本発明に係るワイヤ放電加工用電極線は、Cu又はCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を設けたことで、放電加工性及び伸線加工性が良好なワイヤ放電加工用電極線を得ることができる。
【0060】
(2) 本発明に係る製造方法によれば、(1)のワイヤ放電加工用電極線を、安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係るワイヤ放電加工用電極線の横断面図である。
【図2】心材に積層テープを縦添えした状態を示す横断面図である。
【図3】図2における積層テープの突き合わせ部を溶接した後の横断面図である。
【符号の説明】
10 ワイヤ放電加工用電極線
11,21 心材
12 被覆層
13a,13b Zn層
14a,14b Cu−Zn合金層
22 積層テープ
23a,23b Zn条
24a,24b Cu−Zn合金条
25 突き合わせ部
35 突き合わせ溶接部
30 被覆線材
t 被覆層の層厚
D 電極線全体の外径
Claims (7)
- Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を設けたことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
- Cu又はCu合金からなる心材の外周に被覆層を設けたワイヤ放電加工用電極線において、上記心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を、被覆層全体のZn濃度が43〜49重量%となるように、かつ、被覆層の層厚と電極線全体の外径との比が0.06〜0.2となるように設けたことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線。
- 上記被覆層の最外層がCu−Zn合金層となるように、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層した請求項1又は2記載のワイヤ放電加工用電極線。
- 上記Zn層を純Znで、上記Cu−Zn合金層をCu−32〜40重量%Zn合金で形成した請求項1から3いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線。
- 上記心材を、
Cu−0.02〜0.2重量%Zr合金、
Cu−0.15〜0.25重量%Sn−0.15〜0.25重量%In合金、
Cu−0.15〜0.70重量%Sn合金、
Cu−5〜30重量%Zn合金、
Cu−0.2〜20重量%Ag合金、
又はCu−5〜30重量%Zn合金に、Zr、Cr、Si、Mg、Al、Fe、P、Ni、Ag、及びSnの元素の内の少なくとも1種を添加した合金で形成した請求項1から4いずれかに記載のワイヤ放電加工用電極線。 - Cu又はCu合金からなる心材の外周に、Zn層とCu−Zn合金層とを交互に積層してなる被覆層を形成した後、この被覆線材に縮径加工を施すことを特徴とするワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
- Cu又はCu合金からなる心材の外周に、被覆層としてZn条とCu−Zn合金条とを交互に積層した積層体を圧延してなる積層テープを縦添えし、その積層テープの突き合わせ部を溶接して被覆線材を形成する請求項6記載のワイヤ放電加工用電極線の製造方法。
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