本発明は、オフセット印刷分野で使用される感熱性平版印刷版に関し、特にコンピュータ等によるデジタル信号から直接製版できるネガ型のコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)用感熱性平版印刷版に関する。
オフセット印刷分野で使用する平版印刷版として、PS版が長く用いられてきた。PS版とは、親水化処理を施した表面を有する基板上に感熱性樹脂層を形成させたものであり、銀塩マスクフィルムを通して露光、現像といったフォトリソグラフィ技術により画像を形成する。
一方、近年のコンピュータ画像処理技術やレーザー技術の進展に伴い、画像情報をデジタル化し、デジタル化された画像情報に基づいてレーザー光を照射して、平版印刷版の感光層又は感熱層に描画するコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)システムが提案され、脚光を浴びている。
CTPシステムで使用する平版印刷版(以下、CTP版と略す。)は、可視光や紫外光に感応する銀塩や高感度フォトポリマー感剤を用いる感光性CTP版と、赤外線吸収剤等を利用し、近赤外光や赤外光を吸収して発生する熱に感応する感剤を用いる感熱性CTP版とに大別できる。感光性CTP版は高感度であるため小出力のレーザーが使用可能であるが、暗室での作業が必要であり、取り扱い性や作業性に問題があった。これに対して感熱性CTP版は、感光性CTP版に比べて感度は低いが、最近小型で高出力の近赤外線レーザーが開発されたこと、可視光や紫外光には感応しないので明室等の明るい場所での作業性に優れていること、及び、解像度が高いことから急速に普及してきた。
中でも、ネガ型CTP版は、ポジ型CTP版に比べ、レーザー照射が、小面積の画線部のみで済むことから、開発が進められている。しかし、従来のネガ型CTP版は、レーザー照射後、画線部をプレヒートさせる必要があった。
プレヒートを必要としないネガ型CTP版として、カルボキシル基を有する水不溶性樹脂にアンモニア又はアミンを反応させて得られる水溶性アンモニウム塩又はアミン塩と光を吸収して熱に変換する光熱変換性物質とを有効成分として含有する感熱層を支持体上に設けた感熱性CTP版が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。前記感熱性CTP版の感熱層は、レーザー露光部が加熱され、加熱部分のアンモニウム塩又はアミン塩が分解してアンモニア又はアミンが遊離、揮発し、その結果、露光部が不溶化するものである。しかしながら、このようにして得られる感熱層を現像して得られる刷版は、画線部の耐水性が低く、そのために充分な耐刷性が得られないという問題点があった。
また、自己水分散性熱可塑性樹脂から成る微粒子と赤外線吸収剤(以下、IR吸収剤と略す。)とを有効成分として含有する感熱層を支持体上に設けた感熱性CTP版も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この感熱性CTP版感熱層は、レーザー光照射部において、IR吸収剤によって光エネルギーが熱に変換され、この熱により熱可塑性樹脂微粒子が融着して画像潜像を形成するものである。前記融着した熱可塑性樹脂微粒からなる画像潜像は、アルカリ性現像液に対する溶解度が低下しているので、レーザー露光後の感熱性CTP版は、未露光部の感熱層をアルカリ性現像液で洗い流すだけで刷版とすることができる。しかしながら、前記CTP版では、露光部の微粒子を完全に融着させることは困難で、印刷中に未融着部由来のひびが発生し、充分な耐刷性が得られないという問題点があった。
また、親水性結合剤と親水性結合剤中に分散された疎水性樹脂微粒子とを主成分として含有する感熱層を支持体上に設けた感熱性CTP版が提案されている(例えば、特許文献3、4参照。)。しかし、この感熱性CTP版をレーザー露光し、現像して得られる刷版は、画線部の耐水性が低く、湿し水を利用した長時間の印刷時に画像欠損が生じ、充分な耐刷性が得られないといった問題点があった。
本発明が解決しようとする課題は、親水性表面を有する支持体の表面にアルカリ可溶性重合体から成る感熱層を形成した感熱性平版印刷版において、感熱層にレーザー光の照射によって発生する熱により画像潜像を形成した後、アルカリ性現像液で現像して得られる刷版の画線部の解像度及び耐刷性に優れたネガ型CTP版を提供することにある。
本発明者らは、前記感熱性平版印刷版において、感熱層に、親水性と疎水性とのバランスに優れるアルカリ可溶性重合体を使用することで、解像度及び耐刷性に優れる感熱性CTP版が得られること、そして、該アルカリ可溶性重合体の親水性と疎水性とのバランスは、感熱層表面と水との接触角で判断できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は上記課題を解決するために、親水性表面を有する支持体の表面にアルカリ可溶性重合体から成る感熱層を形成した感熱性平版印刷版において、
前記感熱層表面と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°〜110°の範囲にあり、150℃で3分間加熱した後の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb2)が、加熱前の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb1)よりも大きく、且つ、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が1°よりも大きく40°よりも小さいことを特徴とする感熱性平版印刷版を提供する。
また、本発明は上記課題を解決するために、上記感熱性平版印刷版の感熱層に、レーザー光の照射によって発生する熱により画像潜像を形成した後、前記感熱層をpH9〜14のアルカリ性現像液で現像することを特徴とする画像形成方法を提供する。
本発明の感熱性平版印刷版は、感熱層表面と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°〜110°の範囲であり、且つ、150℃で3分間加熱した後の、前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb2)が、加熱前の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb1)よりも大きく、且つ、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が1°よりも大きく40°よりも小さいので、感熱層にレーザー光の照射によって発生する熱により画像潜像を形成した後、アルカリ性現像液で現像して得られる刷版の画線部は、解像度及び耐刷性に優れる。
また、感熱層に使用するアルカリ可溶性重合体として、カルボキシ基を有する単量体と疎水性単量体との共重合体を用いた本発明の感熱性平版印刷版は、特に解像度及び耐刷性に優れる。
さらに、感熱層に使用するアルカリ可溶性重合体として、アクリル酸又はメタクリル酸と、スチレン、スチレン誘導体及びメタクリル酸メチルから選ばれる疎水性単量体との共重合体を用いた本発明の感熱性平版印刷版は、高湿度下の保存安定性に優れる。
本発明の感熱性平版印刷版は、レーザー光の照射によって発生する熱により画像潜像を形成した後、pH9〜14のアルカリ性現像液を使用して現像することで、解像度及び耐刷性に優れた刷版を得ることができる。
本発明で使用するアルカリ可溶性重合体(以下、本発明で使用する重合体と略す。)は、カルボキシ基等の酸性基を有し、アルカリ性水溶液に可溶性の重合体を指す。
本発明で使用する重合体は、水が貧溶媒となるように設計することが好ましい。水が良溶媒となるような、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂を使用したものは、本発明で規定する接触角の範囲内に入らない。
本発明で使用する重合体が有する前記酸性基の量は、重合体を構成する単量体の種類によって異なるが、重合体の酸価が40〜500となる量が好ましく、45〜300となる量が特に好ましい。
本発明で使用する重合体は、カルボキシ基等の酸性基を有する単量体を成分とする重合性組成物を重合させて得られる。酸性基を有する単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。これらの中でも、アクリル酸又はメタクリル酸を使用すると、他の単量体と共重合しやすく、樹脂の設計が容易となる。
前述のように、本発明の重合体は、酸性基を有する単量体と、疎水性単量体との共重合物が好ましい。疎水性単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル等のメタクリル酸エステル類、スチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−n−ブチルスチレン、4−tert−ブチルスチレン、4−n−ヘキシルスチレン、4−n−オクチルスチレン、4−n−ノニルスチレン、4−n−デシルスチレン、4−ヒドロキシスチレン、4−アセトキシスチレン、4−クロロメチルスチレン、4−n−ドデシルスチレン、4−メトキシスチレン、4−フェニルスチレン、4−クロロスチレン、3,4−ジクロロスチレン等のスチレン誘導体、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
疎水性単量体として、芳香環を有する単量体、アルキル鎖の短いメタクリル酸エステルから選ばれる単量体を用いると、保存安定性に優れた感熱性CTP版が得られる。これらの中でも、スチレン、スチレン誘導体及びメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも一種の疎水性単量体を使用するのが好ましい。
前記酸性基を有する単量体の使用割合は、得られる重合体の酸価が、40〜500となる割合が好ましく、45〜300となる割合が特に好ましい。
本発明で使用する重合体が、酸性基を有する単量体と疎水性単量体との共重合体であり、且つ重合体中の酸性基量が同じである場合、使用する単量体の種類によって、得られる共重合体のアルカリ性水溶液への溶解性が異なる。例えば、共重合体を構成する単量体としてスチレン等の疎水性の高い単量体を使用した場合、得られる共重合体のアルカリ可溶性は低くなる傾向にあり、また、共重合体を構成する単量体としてメタクリル酸メチル等の疎水性の低い単量体を使用した場合、得られる共重合体のアルカリ可溶性は高くなる傾向にある。本発明で使用する共重合体のアルカリ性水溶液への溶解性が高すぎると、得られる感熱性平版印刷版の感熱層表面と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°より小さくなり、画線部までもが現像液に溶解してしまい、画像が得られない。また、本発明で使用する共重合体のアルカリ性水溶液への溶解性が低すぎると、前進接触角(θf1)が110°よりも大きくなり、現像不良あるいは現像不能となる。
このため、共重合体を構成する単量体として疎水性の高い単量体を使用する時は、酸性基を有する単量体の使用量を増加させるとよい。また、共重合体を構成する単量体として疎水性の低い単量体を使用する時は、酸性基を有する単量体の使用量を減少させるとよい。
より具体的には、例えば、単量体としてスチレンとアクリル酸の二成分から成る共重合体では、スチレン単位とアクリル酸単位との比率は質量比で60:40〜85:15となるようにすればよく、メタクリル酸メチルとアクリル酸の二成分から成る共重合体では、メタクリル酸メチル単位とアクリル酸単位との比率は質量比で86:14〜95:5となるようにすればよい。
本発明で使用する重合体として、スチレン、スチレン誘導体及びメタクリル酸メチルから選ばれる少なくとも一種の単量体を含有する重合性組成物から成る共重合体を用いた場合、保存安定性に優れた感熱性平版印刷版が得られる。特に、スチレン60〜85質量%、アクリル酸又はメタクリル酸40〜15質量%から成る共重合体を用いた場合、高湿度下の保存安定性に優れた感熱性平版印刷版が得られる。
本発明で使用する重合体は、ガラス転移温度(以下、Tgと略す。)が40〜150℃であることが好ましく、50〜140℃であることがより好ましく、60〜130℃であることが最も好ましい。Tgが40℃未満であると、画線部の硬度が十分ではなく、保存安定性や耐刷性に劣る傾向がある。一方、Tgが150℃を越えると、画像形成に大きな熱量を必要とし、特にレーザー光を使用するときに実用的ではない。特に、Tgが60〜150℃、好ましくは60〜130℃であると、室温での保存安定性に優れた感熱性平版印刷版を得ることができる。
本発明で使用する重合体は、質量平均分子量が5,000以上200,000以下であることが好ましく、10,000以上200,000以下であることがより好ましい。前記質量平均分子量が5,000未満では、耐刷性が低下する。また、前記質量平均分子量が200,000を超えるとアルカリ性水溶液に溶解させることが困難となる。
上記単量体の重合反応は、塊状重合、溶液重合等公知の方法が利用できる。中でも簡便な溶液重合が好ましく、使用する溶媒は有機溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類などが挙げられる。これらの有機溶媒は、2種類以上を混合して用いることもできる。
溶液重合の際に使用する重合開始剤は、公知のラジカル重合開始剤を用いればよく、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系重合開始剤、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシド、tert−ブチルパーオキシ2−エチルへキサノエート等の過酸化物系重合開始剤などが挙げられる。
本発明で使用する重合体は、アルカリ性水溶液に溶解させて感熱性組成物とした上で、感熱層の形成に用いられる。本発明で使用する重合体をアルカリ性水溶液に溶解させる方法としては、例えば、必要に応じて、前記重合体中の有機溶媒を除去した後、アルカリ性水溶液に溶解させる方法が挙げられる。アルカリ性水溶液としては、アンモニア、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの如きアルカリ金属の水酸化物等のアルカリ性化合物を水に溶解させたものが挙げられる。これらの中でも、アンモニア又は低分子量のアミン化合物の水溶液を用いて現像した場合には、優れた耐刷性を示す感熱性平版印刷版が得られる。特にアンモニアを使用した場合は、レーザー照射の熱で容易にアンモニアが揮散し、表面がより疎水性になりやすいので、特に好ましい。
アルカリ性水溶液の濃度は、本発明で使用する重合体が有する酸性基の量や、重合体を構成する単量体の種類により一慨には決められないが、一般に0.1〜20質量%の濃度のアルカリ性水溶液を使用する。また、本発明で使用する重合体は、乾燥固形分が10〜40質量%の溶液となるように濃度を調節するとよい。
本発明で使用する感熱性組成物は、光を吸収して熱を発生する物質を加えると、レーザー光を使用して画像潜像を形成することができる。光を吸収して熱を発生する物質とは、画像潜像を形成する際に使用するレーザー波長を含む領域に吸収がある物質であり、具体的には500nmから3000nmに極大吸収波長(λmax)を有する化合物である。特に760nm〜3000nmの近赤外から遠赤外領域に極大吸収波長(λmax)を有する化合物(以下、IR吸収剤と略す)を使用すると、感熱性平版印刷版を明室下で取り扱うことができ、より好ましい。
IR吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、フタロシアニン、ナフタロシアニン、シアニン等の顔料や染料、ポリメチン系顔料や染料、スクワリリウム色素などの赤色吸収剤、銅イオン錯体、アンチモンをドープした酸化スズの微粒子などの有機又は無機の赤外線吸収剤が挙げられる。これらは単独で用いても、二種以上を混合して用いてもよい。本発明で使用する感熱性組成物へのIR吸収剤の添加量は、使用する光源の波長領域における感熱性組成物の吸光度が0.5〜3程度となるように調節するが、具体的には不揮発分に対して0.5〜50質量%の範囲が好ましく、1〜30質量%の範囲がより好ましい。0.5質量%より少ないと熱の発生が少ないために、画像が充分に形成されず、また、50質量%より多い場合は、感熱性平版印刷版がもろくなり表面が傷つきやすく、耐刷性を低下させたり、非画線部の汚れが生じやすくなったりする。
IR吸収剤が水溶性である場合は、前記重合体のアルカリ性水溶液に直接添加し、混合すればよい。また、IR吸収剤が水溶性でない場合は、前記重合体のアルカリ性水溶液に、予め少量の有機溶媒に溶解したIR吸収剤を添加し、混合すればよい。混合方法としては、公知の、超音波分散機、サンドミル、ボールミル、ペイントコンディショナーなどの分散機を使用することができる。
このようにして、本発明で使用する感熱性組成物を得ることができる。
本発明で使用する感熱性組成物は、着色してあると、現像後の画像を視認することができる。着色剤としては、例えば、クリスタルバイオレット、マラカイトグリーン、ビクトリアブルー、メチレンブルー、エチルバイオレット、ローダミンB等の染料、あるいは、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンレッド等の顔料が挙げられる。該着色剤は、通常、感熱性組成物の不揮発分に対し、0.1〜10質量%の範囲で使用する。着色剤は、前記IR吸収剤と同様の方法で、感熱性組成物に添加することができる。
本発明で使用する感熱性組成物は、親水性表面を有する支持体の表面に、界面活性剤等を特に使用することなく塗装することができ、平滑で良好な塗装面が得られる。そのため、通常の使用においては特別な助剤を必要とはしないが、例えば、粘度調整のための天然水溶性高分子や合成水溶性高分子;レベリング剤;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アセトン等の水溶性の有機溶媒;アクリルアミド、メチロールアクリルアミド、メチロールメタクリルアミド、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル、又はメタアクリル酸ヒドロキシエチルのホモポリマー及びコポリマー、無水マレイン酸/メチルビニルエーテル重合体、ゼラチン、多糖類等の天然高分子等の親水性結合剤、完全ケン化又は部分ケン化ポリビニルアルコール、各種界面活性剤等を、必要に応じて添加してもよい。
本発明で使用する感熱性組成物は、水を必須成分とする。前記感熱性組成物から得られる感熱層は、150℃で3分間加熱することによって、化学反応を伴うことなくアルカリ性現像液に対して不溶となる。その理由は明らかではないが、水を必須成分として含有するアルカリ性水性媒体中で、前記重合体の分子鎖が、酸性基を外側にしたゆるい「糸まり」状の微細構造を形成しているものと推測される。この微細構造は、感熱層を形成されても保持されるが、感熱層に、分子鎖のミクロブラウン運動が起こりうるような熱が加わると、力学緩和現象がおこり「糸まり」が融解し、外側に極在化していた酸性基が均一に拡散してしまうため、アルカリ性現像液に対して不溶となり、画像が形成されるものと考えられる。
従って、前記感熱性組成物が水を含有せず、有機溶媒のみであるときは、重合体が均一に溶解して微細構造を形成しないので、得られる感熱層は加熱の有無にかかわらず、アルカリ性現像液に不溶である。本発明で使用する感熱性組成物は、水に相溶性のある有機溶媒を含有していてもよいが、その含有量は前記重合体の微細構造を消滅させない範囲でなければならない。しかし、感熱性組成物が水を含有していても、高沸点の有機溶媒を多量に使用すると、感熱性組成物を支持体上に塗布、乾燥する際、水が先に揮発する結果、残留した有機溶媒によって重合体の微細構造が均一化されるため現像が困難となる。本発明で使用する感熱性組成物に使用可能な有機溶媒としては、比較的低沸点の有機溶剤であって、樹脂を溶解しにくい有機溶媒が好ましい。そのような有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノールなどの低沸点のアルコール類などが挙げられる。本発明の感熱性組成物にそのような有機溶媒を使用する場合、その使用割合は、感熱性組成物の40質量%以下、より好ましくは、20%以下である。また、2−メトキシエタノールなどの比較的高沸点のアルコール類、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランなど、前記重合体を溶解しやすい溶媒は、10%以下、より好ましくは、5%以下で使用することが好ましい。感熱性組成物中で、重合体の微細構造を崩さないように、溶媒の種類を選択し、使用量を調整する必要がある。
本発明で使用する感熱性組成物は、アルカリ性水溶液に前記重合体が溶解した状態で、好ましくは不揮発成分が1〜50質量%となるように調製した後、親水性表面を有する支持体上に乾燥後の塗膜厚が0.5〜10μmとなるように塗布後、乾燥して、感熱性平版印刷版が得られる。
支持体の基材としては、例えば、アルミニウム、亜鉛、ステンレス、鉄等の金属板類;ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリビニルアセタール、ポリエチレン等のプラスチックフィルム類、合成樹脂を溶融塗布あるいは合成樹脂液を塗布した紙やプラスチックフィルムに真空蒸着やラミネート等の方法によって親水性金属で被覆した複合支持体等が挙げられる。これらは、表面に親水層を設けるか、親水化処理を施した後、親水性表面を有する支持体として使用する。これらのうち、特にアルミニウム板や、プラスチックフィルム表面をアルミニウムで被覆した複合支持体の使用が好ましい。支持体がアルミニウム板である場合は、表面の保水性を高め、感熱層との密着性を向上させる目的で、砂目立てや陽極酸化処理等の表面処理をしてあることが望ましい。
感熱性組成物の塗布方法としては、例えば、スピンコーター等による回転塗布法、ディップ塗布法、ロール塗布法、カーテン塗布法、ブレード塗布法、エアーナイフ塗布法、スプレー塗布法、バーコーター塗布法等が挙げられる。
支持体の表面に本発明で使用する感熱性組成物を塗布した後、乾燥して感熱層を形成する。乾燥方法は、常温で乾燥させる方法、真空乾燥機で乾燥させる方法、温風乾燥機、赤外線乾燥機等を使用し、熱で乾燥させる方法等がある。熱で乾燥させる場合、乾燥温度は、130℃以下で、かつ、本発明で使用する重合体のTgより10℃低い温度に設定し、乾燥に費やす時間は、乾燥温度によって異なるが、10秒から10分間が好ましく、10秒から5分間がより好ましい。乾燥温度を本発明で使用する重合体のTg付近、もしくは、それ以上の温度に設定することもできるが、この場合、感熱層が乾燥により、アルカリ性現像液に対して、全面、あるいは、部分的に不溶とならないように、より短時間で乾燥させることが必要である。
本発明で使用する重合体の親水性と疎水性とのバランスが適切な範囲にあることは、該重合体を使用した感熱性平版印刷版の感熱層と水との接触角から確認することができる。本発明の感熱性平版印刷版においては、その感熱層表面と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°〜110°の範囲であり、且つ、150℃で3分間加熱した後の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb2)が、加熱前の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb1)よりも大きく、加熱前後の後退接触角差(θb2−θb1)が1°よりも大きく40°よりも小さい場合に、保存安定性に優れ、かつ該印刷版から得られる刷版は耐刷性に優れる。
接触角の測定方法としては、液滴法、気泡法等の固体平板に付着した液体の接触角を直接測定する方法や、ウィルヘルミーの垂直板法等の動的接触角を間接的に測定する方法が知られているが、本発明における接触角は、ウィルヘルミーの垂直板法によって測定される値を用いる。
ウィルヘルミーの垂直板法は、図1に示したように、測定試料を液面に対し垂直に浸漬していく際に、前記測定試料を支えるのに要する上向きの力(f)を連続的に測定することによって、下記式(1)から前進接触角(θf)を求めることができる。同様に、図2に示したように、液面に浸漬した測定試料を液面に対し垂直に引き上げていく際に、前記測定試料を支えるのに要する上向きの力(f)を測定することによって、下記式(2)から後退接触角(θb)を求めることができる。本法によれば、面全体を平均化した値として前進接触角あるいは後退接触角を測定することができるので、再現性がよく、しかも、連続的に、あるいは、繰り返して、容易に測定することができる。
(式中、測定試料の液面と平行な面の長辺及び短辺をそれぞれa及びbとする時、pは(a+b)×2に相当する水平周長を表わし、γは液体の表面張力を表わし、θfは前進接触角を表わし、θbは後退接触角を表わし、Aは測定試料の液面と平行な面の断面積(a×b)を表わし、ρは液体の密度を表わし、yは試料の浸漬深さを表わし、mは測定試料の質量を表わし、gは重力加速度を表わす。)
本発明における前進接触角及び後退接触角は、10cm×10cmの測定試料を用い、浸漬速度及び引上速度をそれぞれ6mm/分とした時の測定値である。前記した速度で測定することにより、測定値にブレが生じることがなく、液面が乱れることもなく、さらに、測定値にノイズが生じることもない。
ウィルヘルミーの垂直板法を利用して前進接触角及び後退接触角を測定する際は、水と接触する測定試料の6面全てに感熱層が設けられていることが望ましい。本発明の感熱性平版印刷版の前進接触角及び後退接触角をウィルヘルミーの垂直板法で測定する際の測定試料は、後述する理由により、測定試料の6面全てに感熱層を設けることを省略して、以下の方法により調製したものを用いる。即ち、支持体の両面に感熱層を設けた感熱性平版印刷版の場合には、所定の大きさに裁断して、測定試料に供すればよい。また、支持体の片面に感熱層を設けた感熱性平版印刷版の場合には、感熱層を設けた面とは反対側の支持体の面同士を適当な接着剤で貼り合わせた2枚の感熱性平版印刷版を所定の大きさに裁断して、測定試料に供すればよい。
以上のように調製された測定試料は、その端面に感熱層が形成されていないが、感熱性平版印刷版の板厚は、一般に0.1〜0.5mmと比較的薄く、試料の水平周長(p)が板厚の400〜2000倍であるので、測定試料の一部の面に感熱層が設けられていないことに伴う影響を無視することができる。
以上の原理に基づいて前進接触角と後退接触角を測定できる装置としては、ドイツ国クルス社製の自動表面張力・接触角測定装置「K12」が挙げられる。
感熱層表面を150℃で3分間加熱する方法としては、150℃に加熱した温風乾燥機中に、感熱性平版印刷版を3分間静置する方法が挙げられる。加熱後は、自然放冷あるいは強制的に放冷させる。その後、ウィルヘルミー法により前進接触角及び後退接触角を測定する。図3に、それぞれのTgの異なる二種類のアルカリ可溶性重合体を含有する感熱層を有する本発明の感熱性平版印刷版の後退接触角の経時変化を表わす。感熱層表面を150℃に加熱した場合、3分後にはTgの変化が殆どなくなることがわかる。
本発明の感熱性平版印刷版は、前記感熱層表面と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°〜110°の範囲を満たし、且つ、150℃で3分間加熱した後の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb2)が、加熱前の前記感熱層表面と25℃の水との後退接触角(θb1)よりも大きく、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が1°よりも大きく40°よりも小さい。加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が1°よりも小さいものは、現像不能であり、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が40°よりも大きいものは、感熱層表面が粗く、耐刷性が低い。また、前記条件を満足するものの中でも、前記後退接触角(θb1)が5゜〜50゜の範囲で、かつ、前記後退接触角(θb2)が30゜〜60゜の範囲のものが特に好ましい。さらに、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)が10゜〜30゜の範囲のものは、耐刷性に特に優れるので、好ましい。
前記接触角の条件を満たす本発明の感熱性平版印刷版が、何故耐刷性に優れるのかについては、いろいろな理由が考えられる。
本発明の感熱性平版印刷版を使用して刷版を得るには、該印刷版の感熱層に、レーザー光の照射によって発生する熱により画像潜像を形成する。これを現像処理すると、感熱層の加熱された部分は現像液に不溶となって、画線部となり、その他の部分は現像液に溶解して除去される。レーザー光の照射によって発生する熱に代えて、サーマルヘッドで該印刷版の感熱層に熱を加えることにより画像潜像を形成することもできる。
感熱性平版印刷版と25℃の水との前進接触角(θf1)が70°より小さいということは、画線部となった感熱層の親水性が高い、あるいは、表面粗さが大きいということを意味する。感熱層の親水性が高いと、印刷中の湿し水によって画線部が浸食されてしまい充分な耐刷性が得られず、表面粗さが大きいと、局部的に大きな力が加わり、この場合も充分な耐刷性が得られないと考えられる。
一方、感熱性平版印刷版と25℃の水との前進接触角(θf1)が110°より大きいということは、加熱されなかった感熱層の親水性が低いことを意味する。感熱層の親水性が低いと、現像不能か、あるいは現像不良による地汚れを発生しやすい。
即ち、前進接触角(θf1)が70°〜110°の範囲を満たすものは、感熱層が、アルカリ現像に適し、親水性と疎水性のバランスに優れており、かつ、表面粗さの少ない版であると考えられる。中でも、前進接触角(θf1)が75〜110°の範囲が好ましく、80〜105°の範囲が最も好ましい。
一方、後退接触角(θb1)は、加熱前後で変化し、150℃で3分間加熱した後の感熱層は、後退接触角が大きくなる。
一般に、後退接触角(θb1)が高いものは、表面が疎水性であることを示す。即ち、加熱により後退接触角が高くなるということは、加熱により、感熱層表面が疎水性に変化することを示している。感熱層表面が疎水性に変化するためには、感熱層表面がより滑らかになるように変化する、あるいは、表面と水との親和性が低下し、化学的に疎水性になる、の二つの場合が考えられる。
1.加熱により、感熱層表面がより滑らかに変化する理由
本発明で使用する重合体にとって、水は貧溶媒となる。即ち、本発明で使用する重合体をアルカリ性水溶液に溶解させると、該重合体は水中で、前記重合体の分子鎖が、酸性基を外側にしたゆるい「糸まり」状の微細構造を形成するものと推測される。従って、これを支持体の表面に塗布乾燥して得られた感熱層も、この微細構造を維持している。原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope: 以下、AFMと略す)で観察すると、感熱層表面に、ナノスケールの凹凸が形成されていることが観察できる。これは、分子鎖の部分的な「糸まり」が表面に浮き出て、ナノスケールの凹凸を形成していると推定できる。該感熱層を150℃で3分間加熱すると、加熱後の感熱層表面は、表面の凹凸が僅かながら小さくなっていることがAFMで観察できる。これは、分子鎖の部分的な「糸まり」が、熱によって消滅もしくは小さくなることを意味する。加熱温度150℃は、本発明で使用する重合体にとってはTg以上もしくはTg近傍の温度であり、重合体の分子鎖がミクロブラウン運動を起こしうる温度である。このことから、150℃で3分間加熱すると、感熱層中の重合体は緩和され、「糸まり」状の分子鎖がほどけて伸長し、内部の微細構造が均一になるものと推測される。部分的な「糸まり」状の微細構造がなくなるので、感熱層表面はより滑らかになり、この結果、後退接触角が高くなるのだと推測できる。
この推測は、本発明で使用する重合体を良溶媒である有機溶媒に溶解させた組成物を塗布乾燥して形成した感熱層では、150℃で3分間の加熱前後で後退接触角に変化が生じないことからも説明できる。
本発明の感熱性平版印刷版の感熱層を構成する重合体として、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等を使用することができないが、使用できない理由としては、これらの重合体が、水が良溶媒であるので、加熱前に、既に感熱層内の分子鎖が均一で、加熱しても力学緩和現象が起こらないことに起因していると推測される。
2.加熱により、感熱層表面が疎水性になる理由
本発明で使用する重合体は、アルカリ性水溶液中で酸性基を外側にしたゆるい「糸まり」状の微細構造を形成していると考えられ、これを支持体の表面に塗布乾燥して得られた感熱層表面には、酸性基が局在化していると推定できる。感熱層を加熱すると、表面に分布していた酸性基が感熱層内部に入り込み、従って、表面が疎水性になると考えられる。
酸性基を中和しているアンモニア等の塩基性化合物が加熱により揮散し、表面が疎水性になるという考え方もあるが、本発明の感熱性平版印刷版は、真空乾燥等によって、アンモニア等の塩基性化合物を感熱層中に殆ど含まない感熱性平版印刷版であっても、熱によって画像潜像を形成した後、現像することによって画像形成することができる。このことから、アンモニア等の揮散が画像形成の直接の因子ではない。
即ち、本発明の感熱性平版印刷版は、従来のアンモニアの揮発、あるいは、粒子融着とは全く異なるメカニズムによって画像形成されると推定できる。
本発明の感熱性平版印刷版は、ウィルヘルミーの垂直板法で、浸漬、引き上げを繰り返し行っても、一定の前進接触角、後退接触角を示し、接触角の変化が生じないような感熱性平版印刷版が好ましい。
また、ウィルヘルミーの垂直板法で、浸漬、引き上げを繰り返し行うような、繰り返し測定をしたとき、一回目の前進接触角、後退接触角の測定値に比べて、二回目の測定値が低下し、二回目以降の測定値がほぼ一定となるような感熱性平版印刷版では、その低下率が30%以下であれば、本発明の感熱性平版印刷版として好ましく使用することができる。二回目以降の測定値の低下率が30%を越えてしまうと、耐刷性に劣る傾向にあり、特に、二回目以降の測定値の低下率が50%を越えてしまうものは、感熱層自体が水を吸着あるいは吸収する傾向にあるため、好ましくない。さらに、繰り返し測定によって、測定値が徐々に低くなる様な感熱性平版印刷版は、親水性が高く、耐刷性に劣る傾向にある。
本発明の感熱性平版印刷版の感熱層に、画像情報に基づく、レーザー光の照射によって発生する熱で画像潜像を形成した後、感熱層をpH9〜14のアルカリ性現像液で現像することによって、画像を形成することができる。特に、光を吸収して熱を発生する物質を含有する感熱層を有する感熱性平版印刷版を用いた場合には、レーザー光の照射によって、より高解像度の画像を得ることができる。
画像潜像を形成する際に使用するレーザーとしては、発振波長が500nmから3000nmのレーザーが挙げられる。特に760nm〜3000nmの近赤外から遠赤外領域に最大強度を有するレーザー光源を使用する感熱性平版印刷版は、明室下で取り扱うことができるという利点がある。そのようなレーザーとしては、例えば、半導体レーザー、YAGレーザーが挙げられる。これらのレーザー光の発信波長は、使用する光を吸収して熱を発生する物質の吸収波長と対応させればよい。
本発明の感熱性平版印刷版の感熱層に画像潜像を形成した後、未加熱部をアルカリ性現像液で溶解除去することにより現像して刷版とする。アルカリ性現像液としては、アルカリ性物質の水溶液が好ましい。アルカリ性物質としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、第二又は第三リン酸のナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩、メタケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、アンモニア等の無機のアルカリ化合物;モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エチレンイミン、エチレンジアミン等の有機のアルカリ化合物が挙げられる。
現像液中のアルカリ性物質の含有割合は、0.005〜10質量%が好ましく、0.05〜5質量%が特に好ましい。これらの現像液には、必要に応じて、有機溶媒;亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム等の水溶性亜硫酸塩;アルカリ可溶性ピラゾロン化合物、アルカリ可溶性チオール化合物等のヒドロキシ芳香族化合物;ポリリン酸塩、アミノポリカルボン酸類等の硬水軟化剤;イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、n−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム等の各種界面活性剤や各種消泡剤を使用することもできる。
該アルカリ性現像液は、市販されているネガ型PS版用又はポジ型PS版用の現像液を使用することもできる。本発明の感熱性平版印刷版は、市販のPS版に使用するpH13.5〜14の現像液でも、また、より希薄な低pHの現像液でも、使用する樹脂を選択することにより現像できるが、pH9より低い希薄な現像液で現像できる感熱性平版印刷版は、耐水性に劣り、湿し水を使用した印刷時に感熱層の劣化を生じ、耐刷性の低下をもたらす。
本発明の感熱性平版印刷版は、前記した方法により画像潜像を形成した後、前述のアルカリ性現像液に浸漬して現像して刷版とする。このときの現像液の温度は、15〜40℃の範囲が好ましく、浸漬時間は1秒〜2分の範囲が好ましい。必要に応じて、現像中に軽く表面を擦ることもできる。
現像後、水洗した刷版は、更に必要に応じて水系の不感脂化剤を塗布する。水系の不感脂化剤としては、例えば、アラビアゴム、デキストリン、カルボキシメチルセルロース等の水溶性天然高分子やポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等の水溶性合成高分子等の水溶液が挙げられ、必要に応じて酸や界面活性剤等を加えることができる。不感脂化剤を塗布した後、感熱性平版印刷版を乾燥して、刷版が完成する。
これらの工程は一工程づつ実施しても良いが、実際には画像露光機や自動現像機を使用して連続して行うことが好ましい。例えば、YAGレーザーや赤外線半導体レーザー等のレーザーを光源とした画像露光機に、本発明の感熱性平版印刷版を装着し、コンピュータからのデジタル化された画像情報に基づいて、直接該印刷版の感熱層上にレーザー光を照射して、画像潜像を形成する。その後、自動現像機を使用して現像することによって、刷版が得られる。
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。なお、不揮発成分、質量平均分子量、Tg、接触角、窒素含有率、及び耐刷性は、下記の方法で測定した。
[不揮発成分の測定]
試料約1gを130℃の乾燥機で1時間乾燥し、乾燥前後の質量を測定し、試料中に含まれる不揮発成分の割合を算出した。
[質量平均分子量の測定]
ウオーターズ社製のゲル浸透クロマトグラフィー測定装置「610示差屈折計システム」(以下、GPCと略す。)により測定し、ポリスチレン換算分子量として記した。
[Tgの測定]
島津製作所社製の示差走査熱量計「島津熱流束示差走査熱量計DSC−50」(以下、DSCと略す。)を使用し、試料を昇温速度10℃/分で150℃に昇温後、液体窒素で0℃以下に急冷し、再度10℃/分で150℃まで昇温し、吸熱し始める点をTgとした。対照試料としてはアルミナを使用した。
[平均粒径の測定]
米マイクロトラック社製のレーザードップラー式粒度分布計「マイクロトラックUPA−150」で平均粒径を測定した。
[ウィルヘルミー(Wilhelmy)の垂直板法による接触角の測定]
10cm角に裁断した二枚の感熱性平版印刷版を、感熱層が外側となるように接着剤で貼り合わせ、2cm角に切り出し、測定試料とした。ドイツ国クルス社製の自動表面張力・接触角測定装置「K12」を用い、該測定試料を25℃の蒸留水中に、測定する面が液面と垂直になるように毎分6mmの速度で浸漬して前進接触角を測定した後、毎分6mmの速度で引き上げて後退接触角を測定した。
[窒素含有率の測定]
感熱性平版印刷版を0.5×1cmに裁断し、アルゴン−酸素気流中、800〜900℃で燃焼させ、発生した一酸化窒素をオゾンで二酸化窒素に酸化する際の化学発光量を、三菱化学(株)社製の化学発光検出装置「TOX−100」を用いて測定した。別途測定した検量線から該試料中の窒素含有量を、燃焼前後の試料の秤量から感熱層の試料質量をそれぞれ求め、感熱層の窒素含有率を計算した。尚、ここで測定している窒素は、感熱層中のアルカリ性化合物及びIR吸収剤に由来するものである。
[親水性表面を有する支持体の作成]
A2サイズで厚さ0.3mm厚のアルミニウム板表面をパミストンの水懸濁液を用いてナイロンブラシで研磨して、その表面を砂目立てし、次いで20%硫酸電解液中、電流密度2A/dm2で陽極酸化して、2.7g/m2の酸化被膜を形成した後、水洗し、乾燥させて、親水性表面を有する支持体を得た。
[解像度の評価方法]
Creo社製のプレートセッター「トレンドセッター3244F」に、試験用感熱性平版印刷版を装着し、所定のパターンを露光した。現像後の画像をルーペで観察し、網点再現範囲を記録した。ただし、この評価方法は、着色した感熱層を有する感熱性平版印刷版に限って適用可能である。
[促進耐刷試験による耐刷性の評価方法]
TOHAMA社製の平版印刷機「N−600輪転機」に試験用刷版を装着し、印刷速度を12万部/時間、印圧を0.25として印刷した。印刷用紙には中越パルプ新聞用ザラ紙を、インキには大日本インキ化学工業社製の新聞用墨インキ「MKHS−EZ」を、湿し水には大日本インキ化学工業社製の「FST−212」の2%水溶液を使用した。
<重合体合成例1>
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAcと略す。)300gを仕込み、窒素雰囲気中、攪拌しながら125℃まで昇温した後、スチレン230g、アクリル酸70g、ジ−t−ブチルペルオキシド15gの混合物を3時間かけて滴下した。滴下後、さらに6時間撹拌を続けることによって、不揮発成分が50%、質量平均分子量40,000、Tg125℃、酸価173のアルカリ可溶性重合体(以下、重合体(1)と略す。)のPGMEAc溶液を得た。
<重合体合成例2>
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、PGMEAc300gを仕込み、窒素雰囲気中、攪拌しながら125℃まで昇温した後、スチレン60g、メタクリル酸メチル147g、メタクリル酸ブチル66g、アクリル酸27g、ジ−t−ブチルペルオキシド15gの混合物を3時間かけて滴下した。滴下後、さらに6時間撹拌を続けることによって、不揮発成分が50%、質量平均分子量35,000、Tg82℃、酸価67のアルカリ可溶性重合体(以下、重合体(2)と略す。)のPGMEAc溶液を得た。
<重合体合成例3>
前記重合体(1)の調製における、スチレン230g、アクリル酸70gに代えて、スチレン246g、アクリル酸54gを使用した以外は、重合体(1)の合成と同様の操作を行い、不揮発成分50%、質量平均分子量35,000、Tg108℃、酸価133のアルカリ可溶性重合体(以下、重合体(3)と略す。)のPGMEAc溶液を得た。
<重合体合成例4>
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、PGMEAc300gを仕込み、攪拌しながら125℃まで昇温した後、メタクリル酸メチル230g、アクリル酸30g、メタクリル酸40g、ジ−t−ブチルペルオキシド15gの混合物を3時間かけて滴下した。滴下後、さらに6時間撹拌を続けることによって、不揮発成分が50%、質量平均分子量35,000、Tg126℃、酸価157のアルカリ可溶性重合体(以下、重合体(4)と略す。)のPGMEAc溶液を得た。
<重合体合成例5>
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置を備えた容量1Lの四つ口フラスコに、メチルエチルケトン(以下、MEKと略す。)300gを仕込み、攪拌しながら80℃まで昇温した後、メタクリル酸メチル230g、アクリル酸30g、メタクリル酸40g、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート12gの混合物を3時間かけて滴下した。滴下6時間後、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート1.5gを加え、さらに4時間後、t−ブチル−ペルオキシ−2−エチルヘキサノエート1.5g加え、4時間撹拌を続けることによって、不揮発成分が50%、質量平均分子量20,000、Tg115℃、酸価157のアルカリ可溶性重合体(以下、重合体(5)と略す。)のMEK溶液を得た。
<重合体合成例6>
前記重合体(1)の調製における、スチレン230g、アクリル酸70gに代えて、スチレン260g、アクリル酸40gを使用した以外は、重合体(1)の合成と同様の操作を行い、不揮発成分50%、質量平均分子量35,000、Tg104℃、酸価99ルカリ可溶性の重合体(以下、重合体(6)と略す。)のPGMEAc溶液を得た
<重合体合成例7>
攪拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置2つを供えた容量1Lの4つ口フラスコに、蒸留水150g、メタクリル酸メチル0.22g、日本乳化剤社製の乳化剤「NEWCOL560SF」0.44gを仕込み、窒素雰囲気中、攪拌しながら80℃まで昇温した後、メタクリル酸メチル0.44gを加えさらに15分攪拌を続けた。次いで過硫酸アンモニウム0.15gを蒸留水5gに溶解した溶液を加え、15分間攪拌を続けた。次いで、メタクリル酸メチル22g、乳化剤「NEWCOL560SF」1g、0.15gの過硫酸アンモニウムを蒸留水50gに溶解した溶液を2時間かけて滴下した。滴下後、更に3時間攪拌を続けることによって、不揮発成分が50%、Tg100℃、平均粒径100nmのポリメタクリル酸メチル粒子の水分散液を得た。
<感熱性組成物(A)の調製>
撹拌装置、溶剤留去装置を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、重合体合成例1で得られた重合体(1)のPGMEAc溶液300gを入れ、窒素雰囲気中、攪拌しながら常圧で200℃まで昇温した。その後、徐々に減圧しながらPGMEAcを留去した。減圧度が0.03MPaに達し、溶剤が留去しなくなった時点で常圧に戻した。溶融状態の共重合体を冷却後、粉砕して、重合体(1)の固形物を得た。撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、該重合体(1)の固形物50g、25%アンモニア水10g、水218gを仕込み、90℃に保ちながら攪拌し、重合体(1)のアンモニウム塩の18%水溶液(以下、これを感熱性組成物(A)という。)を得た。
<感熱性組成物(B)の調製>
感熱性組成物(A)20gに、IR吸収剤として4−メチルベンゼンスルホン酸2−(2−(2−クロロ−3−((1,3−ジヒドロ−1,1,3−トリメチル−2H−ベンズ(e)インドール−2−イリデン)エチリデン)−1−シクロヘキセン−1−イル)エテニル)−1,1,3−トリメチル−1H−ベンズ(e)インドリウム280mg、着色剤としてクリスタルバイオレット40mgを、エタノール4gと2−メトキシエタノール1gとの混合溶媒に溶解させたものを撹拌しながら加え、感熱性組成物(B)を得た。
<感熱性組成物(C)の調製>
前記感熱性組成物(A)の調製における、25%アンモニア水10g、水218gに代えて、ジメチルエタノールアミン13g、水215gを使用した以外は、感熱性組成物(A)の調製と同様の操作を行い、重合体(1)のジメチルエタノールアミン塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gを用いて、感熱性組成物(B)の調製と同様の操作を行い、感熱性組成物(C)を得た。
<感熱性組成物(D)の調製>
撹拌装置、溶剤留去装置を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、重合体合成例2で得られた重合体(2)のPGMEAc溶液300gを入れ、窒素雰囲気下、攪拌しながら常圧で200℃まで昇温した。その後、徐々に減圧しながらPGMEAcを留去し、減圧度が0.03MPaに達し、溶剤が留去しなくなった時点で常圧に戻した。溶融状態の共重合体を冷却後、粉砕して、重合体(2)の固形物を得た。
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、該重合体(2)の固形物50g、25%アンモニア水4g、水224gを仕込み、90℃に保ちながら攪拌して重合体(2)を溶解し、重合体(2)のアンモニウム塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gに、山本化成社製のIR吸収剤「YKR−3070」0.3g、クリスタルバイオレット40mg、エタノール4gと2−メトキシエタノール1gを加えた後、超音波分散機で5分間分散処理し、感熱性組成物(D)を得た。
<感熱性組成物(E)の調製>
前記感熱性組成物(A)の調製における、25%アンモニア水10g、水218gに代えて、25%アンモニア水7.5g、水220gを使用した以外は、感熱性組成物(A)の調製と同様の操作を行い、重合体(1)のアンモニウム塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gを用いて、感熱性組成物(D)の調製と同様の操作を行い、感熱性組成物(E)を得た。
<感熱性組成物(F)の調製>
前記感熱性組成物(A)の調製における、重合体(1)のPGMEAc溶液300gに代えて、重合体(3)のPGMEAc溶液300gを使用し、25%アンモニア水10g、水218gに代えて、25%アンモニア水8.5g、水220gを使用した以外は、感熱性組成物(A)の調製と同様の操作を行い、重合体(3)のアンモニウム塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gを用いて、感熱性組成物(D)の調製と同様の操作を行い、感熱性組成物(F)を得た。
<感熱性組成物(G)の調製>
前記感熱性組成物(A)の調製における、重合体(1)のPGMEAc溶液300gの代わりに、重合体(4)のPGMEAc溶液300gを使用した以外は、感熱性組成物(A)の調製と同様の操作を行い、重合体(4)のアンモニウム塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gを用いて、感熱性組成物(D)の調製と同様の操作を行い、感熱性組成物(G)を得た。
<比較例用感熱性組成物(H)の調製>
重合体合成例1で得た重合体(1)のPGMEAc溶液8gに、更にPGMEAc19gを加え、感熱性組成物(H)を得た。
<比較例用感熱性組成物(I)の調製>
撹拌装置、還流装置、温度計付き窒素導入管及び滴下装置を備えた容量500mLの四つ口フラスコに、感熱性組成物(A)の調製で得た重合体(1)の固形物100g、MEK100gを加え、80℃で2時間撹拌し、重合体(1)のMEK溶液を得た。該溶液100gに、5%アンモニア10gを加え、次に撹拌しながら水500gをゆっくり加え、転相乳化を経て、MEKを含有する水分散体を得た。減圧しながらMEK及び過剰の水を留去させ、平均粒径200nm、乾燥固形分18%の水分散液を得た。この水分散液20gに、山本化成社製のIR吸収剤「YKR−3070」0.3g、エタノール5gを加え、1mmジルコニアビーズ180gとともにペイントコンディショナーで1時間撹拌した後、ジルコニアビーズを濾過除去し、感熱性組成物(I)を得た。
<比較例用感熱性組成物(J)の調製>
重合体合成例5で得た重合体(5)のMEK溶液100gに5%アンモニア水7gを加え、撹拌しながら水500gをゆっくり加え、転相乳化を経て、MEKを含有する重合体(5)の水分散体を得た。減圧しながらMEK、及び過剰の水を留去させ、平均粒径200nm、乾燥固形分18%の重合体(5)の水分散液を得た。この水分散液20gに、山本化成社製のIR吸収剤「YKR−3070」0.3g、エタノール5gを加え、1mmジルコニアビーズ180gとともにペイントコンディショナーで1時間撹拌した後、ジルコニアビーズを濾過除去し、感熱性組成物(J)を得た。
<比較例用感熱性組成物(K)の調製>
和光純薬工業社製の平均分子量が5,000のポリアクリル酸20gを水80gに溶解し、感熱性組成物(K)を得た。
<比較例用感熱性組成物(L)の調製>
重合体合成例7で得たポリメタクリル酸メチル粒子の水分散液11.25gに、攪拌しながら、オリエンタル化学社製のカーボンブラックの15%水分散液「BONJET BLACK CW−1」5.83g、蒸留水7.9g、及びケン化度98%のポリビニルアルコールの2%水溶液25gを加え、不揮発成分が5%の感熱性組成物(L)を得た。
<比較例用感熱性組成物(M)の調製>
前記感熱性組成物(A)の調製における、重合体(1)の代わりに、重合体(6)を使用し、25%アンモニア水10g、水218gの代わりに、25%アンモニア水6.5g、水221gを使用した以外は同様の操作を行い、重合体(6)のアンモニウム塩の18%水溶液を得た。この水溶液20gを用いて、感熱性組成物(D)の調製と同様の操作を行い、感熱性組成物(M)を得た。
<実施例1>
支持体上に、感熱性組成物(A)を、8番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(A−1)を2枚作成した。このときの感熱層の窒素含有率は0.86%であった。
感熱性平版印刷版(A−1)の1枚を半分に切り、1枚をそのまま、もう1枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。加熱前の前進接触角(θf1)は88.2°、後退接触角(θb1)は39.8°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は、55.3°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は15.5°であった。
次に、もう1枚の感熱性平版印刷版(A−1)を半分に切り、そのうちの1枚を120℃で1分間加熱した。加熱後の感熱層の窒素含有率は0.45%であった。加熱後の感熱性平版印刷版(A−1)を、コダックポリクロームグラフィックス社製のポジ用PS版現像液「PD−1」(以下、現像液と略す。)の1:99水希釈溶液(pH12.3)に、30℃で25秒間浸漬したところ、感熱層は膨潤したりはがれたりしなかった。一方、加熱していないもう1枚の感熱性平版印刷版(A−1)を、現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬したところ、感熱層全てが溶解した。このことから、感熱性平版印刷版(A−1)の感熱層は、120℃で1分間加熱することで、現像液の1:99水希釈溶液に不溶化することが判った。
加熱後、現像液の1:99水希釈溶液に浸漬した感熱性平版印刷版(A−1)を刷板として、20,000枚の促進耐刷試験を行った。その結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例2>
実施例1における、60℃で4分間の乾燥に代えて、真空度20Paの真空乾燥機中で一昼夜放置した以外は実施例1と同様の操作を行い、感熱性平版印刷版(A−2)を2枚得た。このときの感熱層の窒素含有率は0.46%であった。
感熱性平版印刷版(A−2)の1枚を半分に切り、実施例1と同様にして接触角を測定した。加熱前の前進接触角(θf1)は89.0°、後退接触角(θb1)は40.5°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は55.6°と、加熱前の後退接触角(θb1)より大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は、15.1°であった。
次に、もう1枚の感熱性平版印刷版(A−2)を半分に切り、そのうちの1枚を120℃で1分間加熱した。加熱後の感熱層の窒素含有率は0.45%と、加熱前と殆ど変化しなかった。加熱後の感熱性平版印刷版(A−2)を現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬したところ、感熱層は膨潤したりはがれたりしなかった。一方、加熱していないもう1枚の感熱性平版印刷版(A−2)を、現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬したところ、感熱層全てが溶解した。このことから、感熱性平版印刷版(A−2)の感熱層は、加熱により、感熱層の窒素含有率に変化がなくても現像液に不溶化することが判った。
加熱後現像液の1:99水希釈溶液に浸漬した感熱性平版印刷版(A−2)を刷板として、20,000枚の促進耐刷試験を行った。その結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例3>
支持体上に、感熱性組成物(B)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(B−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(B−1)を半分に切り、1枚をそのまま、もう1枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は93.4°、後退接触角(θb1)は25.1°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は44.2°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は19.1°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(B−1)に、Creo社製の近赤外線半導体レーザーを搭載した露光機トレンドセッター「3244F」で、出力7.2W、150回転の条件で180mJ/cm2のレーザー光を照射して画像潜像を形成させた。次いで、現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬して現像し、水洗した後、乾燥させて刷版を得た。得られた刷版の解像度は、1〜99%であった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例4>
支持体上に、感熱性組成物(C)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(C−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(C−1)を半分に切り、1枚をそのまま、もう1枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は84.5°、後退接触角(θb1)は7.8°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は33.7°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は25.9°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(C−1)を使用し、実施例3と同様にして刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜98%であった。この刷版の非画線部の窒素含有率は1.65%であり、画像部の窒素含有率は1.64%と、殆ど変わらなかった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例5>
支持体上に、感熱性組成物(D)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(D−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(D−1)を半分に切り、一枚をそのまま、一枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は88.1°、後退接触角(θb1)は23.1°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は51.9°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は28.8°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(D−1)を使用し、実施例3と同様にして画像潜像を形成させた。次いで、現像液の1:8水希釈溶液(pH13.6)に、30℃で25秒間浸漬して現像し、水洗した後、乾燥させて刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜98%であった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例6>
支持体上に、感熱性組成物(E)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(E−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(E−1)を半分に切り、一枚をそのまま、一枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は101.0°、後退接触角(θb1)は20.9°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は43.6°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は22.7°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(E−1)を使用し、実施例3と同様にして刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜98%であった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、得られた印刷物にも、刷版にも異常は見られなかった。
<実施例7>
支持体上に、感熱性組成物(F)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(F−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(F−1)を半分に切り、一枚をそのまま、一枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は106.8°、後退接触角(θb1)は26.6°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は58.0°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は31.4°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(F−1)を使用し、実施例3と同様にして画像潜像を形成させた。次いで、現像液の1:49水希釈溶液(pH13.1)に、30℃で25秒間浸漬して現像し、水洗した後、乾燥させて刷版を得た。得られた刷版の解像度は、1〜98%であった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、15,000枚印刷した段階で、刷版にごく僅かの傷が見られたが、得られた印刷物には異常は見られなかった。
<実施例8>
支持体上に、感熱性組成物(G)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(G−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(G−1)を半分に切り、一枚をそのまま、一枚を150℃で3分間加熱し、冷却した後、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は76.9°、後退接触角(θb1)は42.7°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は45.4°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は2.7°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(G−1)を使用し、実施例3と同様にして画像潜像を形成させた。次いで、現像液の1:199水希釈溶液(pH11.9)に、30℃で25秒間浸漬して現像し、水洗した後、乾燥させて刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜98%であった。この刷版の20,000枚の促進耐刷試験をした結果、15,000枚印刷した段階で、刷版にごく僅かの傷が見られたが、得られた印刷物には異常は見られなかった。
<比較例1>
支持体上に、感熱性組成物(H)を8番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(H−1)を作成した。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(H−1)を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は91.7°、後退接触角(θb1)は49.7°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は49.5°と、加熱前の後退接触角(θb1)と殆ど変わらなかった。加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は0.2°であった。
加熱前及び加熱後の感熱性平版印刷版(H−1)をそれぞれ現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬したが、感熱層は膨潤したりはがれたりしなかった。このことから、感熱性平版印刷版(H−1)の感熱層は、現像液で現像できず、画像形成できないことが判った。
<比較例2>
支持体上に、感熱性組成物(I)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(I−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(I−1)を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は116°、後退接触角(θb1)は18.7°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は18.0°と、加熱前の後退接触角(θb1)と殆ど変わらなかった。加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は0.7°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(I−1)を使用し、実施例3と同様にして刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜98%であった。この刷版の促進耐刷試験をした結果、3000枚印刷試験後、感熱層表面に画像欠損が多数確認された。
<比較例3>
支持体上に、感熱性組成物(J)を9番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(J−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(J−1)を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は68.8°、後退接触角(θb1)は7.4°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は12.5°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は5.1°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(J−1)を使用し、実施例3と同様にして刷版を得た。得られた刷版の解像度は、5〜98%であった。この刷版の促進耐刷試験をした結果、5,000枚印刷試験後、感熱層表面に画像欠損が多数確認された。
<比較例4>
支持体上に、感熱性組成物(K)を、8番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分間乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(K−1)を2枚作成した。
感熱性平版印刷版(K−1)の1枚を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は14.7°、後退接触角(θb1)は6.2°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は6.5°と、加熱前の接触角(θb1)と殆ど変わらず、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は0.3°であった。
次に、もう1枚の感熱性平版印刷版(K−1)を半分に切り、1枚をそのまま、もう1枚を150℃で3分間加熱した。未加熱の感熱性平版印刷版、加熱後の感熱性平版印刷版とも、現像液の1:99水希釈溶液に30℃で25秒間浸漬すると、感熱層全体が溶解してしまった。このことから、感熱性平版印刷版(K−1)の感熱層は、加熱によって画像が形成されないことが判った。
<比較例5>
支持体上に、感熱性組成物(L)を、20番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(L−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(L−1)を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は77.6°、後退接触角(θb1)は22.2°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は22.3°と、加熱前の後退接触角(θb1)と殆ど変わらず、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は0.1°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(L−1)を使用し、実施例2と同様にして刷版を得た。この刷版の促進耐刷試験をした結果、3000枚印刷試験後、感熱層表面に画像欠損が確認された。
<比較例6>
支持体上に、感熱性組成物(M)を、20番のバーコーターを用いて塗布した後、60℃で4分乾燥させて、膜厚2μmの感熱層を有する感熱性平版印刷版(M−1)を得た。これを2枚作成した。
1枚の感熱性平版印刷版(M−1)を半分に切り、一枚をそのまま、もう一枚を150℃で3分間加熱し、それぞれの接触角を測定した。その結果、加熱前の前進接触角(θf1)は117.9°、後退接触角(θb1)は29.7°であり、加熱後の後退接触角(θb2)は63.2°と、加熱前の後退接触角(θb1)よりも大きくなった。また、加熱前後の後退接触角の差(θb2−θb1)は33.5°であった。
もう1枚の感熱性平版印刷版(M−1)を使用し、実施例3と同様にして画像潜像を形成させた。次いで、現像液の1:49水希釈溶液(pH13.1)に、30℃で40秒間浸漬して現像し、水洗した後、乾燥させて刷版を得た。得られた刷版の解像度は、2〜95%であった。この刷版の促進耐刷試験をした結果、3000枚印刷試験後、感熱層表面に画像欠損が確認された。
オフセット印刷分野で使用される感熱性平版印刷版、特にコンピュータ等によるデジタル信号から直接製版できるネガ型のコンピュータ・トゥ・プレート(CTP)用感熱性平版印刷版に適用できる。
ウィルヘルミーの垂直板法によって、前進接触角を測定する原理を示した図面である。
ウィルヘルミーの垂直板法によって、後退接触角を測定する原理を示した図面である。
感熱層表面を150℃で加熱したときの後退接触角の経時変化を表わす図である。
符号の説明
a 測定試料の液面と平行な面の長辺
b 測定試料の液面と平行な面の短辺
γ 液体の表面張力
θf 前進接触角
θb 後退接触角
y 測定試料の浸漬深さ
f 浸漬あるいは引上時に測定試料を支えるのに要する上向きの力