JP2004124066A - 高誘電体組成物 - Google Patents

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川▲さき▼ 学
Yoshitake Hara
原 義豪
Yuka Yamaho
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Abstract

【課題】無機フィラーと樹脂からなる高誘電体組成物において高い誘電率を得る。
【解決手段】無機フィラーと樹脂により形成される高誘電体組成物であって、高誘電体組成物全体に占める無機フィラーの割合が60体積%以上90体積%以下であり、かつ、無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布において、最大度数となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の10%以上であることを特徴とする高誘電体組成物。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機フィラーと樹脂からなる高誘電体組成物、特に、比誘電率が50以上と高いものであり、コンデンサや、コンデンサとしての機能を有する回路基板材料として好適な特性を示す高誘電体組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、電子機器の小型化、信号の高速化や大容量化の要求に伴って、実装回路部品の高密度化が進んでいることにより、電気的ノイズが増大し、データエラーが発生することが問題になってきている。この電気的ノイズの発生を抑え、半導体デバイスを安定に動作させるためには、半導体デバイスに近い位置から必要量の電流を供給することが重要である。このためには半導体デバイス直下のプリント配線板に容量の大きなコンデンサを配置することが有効である。
【0003】
プリント配線板にコンデンサを配置する方法として、プリント配線板にチップコンデンサなどの外部コンデンサを配置する方法もあるが、プリント配線板の内層に無機フィラーを加え、プリント配線板自体にコンデンサ機能を持たせる方法が小型化の点で有利である。
【0004】
このプリント配線板自体にコンデンサ機能を持たせる方法として、無機フィラーと樹脂を混合した複合体をプリント配線板の内層に用いる方法が知られている(特許文献1、2参照)。
【0005】
しかし、従来の無機フィラーと樹脂とを混合した複合体の誘電率は10〜40程度であり、低いものであった。無機フィラーの含有率を増やすことによりある程度までは誘電率を上げることはできるものの、無機フィラーの含有率が50体積%を越えると無機フィラーの含有率を増加させても誘電率が上がらない現象がみられた。これは無機フィラー高含有率領域では複合体中の無機フィラーの充填率が上がりにくいことが原因と考えられている。そこで、2種類以上の粒径を混合して無機フィラーを高充填化するという手法が提案されている(特許文献3、4参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開平5−57852号公報
【0007】
【特許文献2】
特開平6−85413号公報
【0008】
【特許文献3】
特開昭53−88198公報
【0009】
【特許文献4】
特開2000−260227号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら上記技術では、高充填化の効果を充分得るためには2種類の粒径の比が5倍以上ある必要があり、大粒径の無機フィラーとして一般的に粒径10μm程度の大きな無機フィラーを使用する場合が多い。しかし、誘電率を向上させるために無機フィラー含有率を高くすると表面の凹凸が大きくなり、膜面内方向におけるインピーダンスが不均一になったり、組成物上に配線など別の回路材料を配置する際に加工性が悪くなるという問題があった。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち本発明は、比誘電率が50以上の良好な誘電特性を有し、μmオーダーの薄膜化が可能な高誘電体組成物を提供するために、下記の構成からなる。
【0012】
(1)無機フィラーと樹脂により形成される高誘電体組成物であって、高誘電体組成物全体に占める無機フィラーの割合が60体積%以上90体積%以下であり、かつ、無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布において、最大度数となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の10%以上であることを特徴とする高誘電体組成物。
【0013】
(2) 無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布が最大度数となる粒径の5倍以上の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の5%以下であることを特徴とする(1)記載の高誘電体組成物。
【0014】
(3) 無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布における最大度数となる粒径が0.2μm以上1μm以下を満たすことを特徴とする(1)記載の高誘電体組成物。
【0015】
(4)無機フィラーがペロブスカイト型結晶構造を有することを特徴とする(1記載の高誘電体組成物。
【0016】
(5)樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする(1)記載の高誘電体組成物。
【0017】
(6)熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする(5)記載の高誘電体組成物。
【0018】
(7)高誘電体組成物の膜厚が2μm以上20μm未満であることを特徴とする(1)〜(6)のいずれか記載の高誘電体組成物。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、無機フィラーの分散状態と比誘電率の関係を詳細に検討し、無機フィラー高含有率領域では、無機フィラーの粒径分布が比誘電率に大きな影響を与えていることを見出し、本発明に到達した。
【0020】
本発明における高誘電体組成物とは無機フィラーと樹脂を含有し、使用目的に応じた比誘電率、誘電正接を有する組成物である。本発明において高誘電率である、または比誘電率が大きい、とは高誘電体組成物の比誘電率が50以上であることを意味し、低誘電損失である、または誘電正接が小さい、とは高誘電体組成物の誘電正接が3%以下であることを意味する。誘電体組成物をキャパシタ用の層間絶縁材料として利用する場合、小容積で大きな静電容量を得るためには誘電体組成物の比誘電率が大きいほど有利である。また、キャパシタにおける電気的ノイズは誘電正接および周波数の増大に伴って大きくなるので、誘電正接が3%より大きくなると特に周波数MHz〜GHzの高周波数領域において電気信号の伝送損失が大きくなり好ましくない。一方、誘電正接が小さいほど伝送損失を低減できるが、誘電正接が0.01%以下になると誘電率の値を50以上にすることは困難である。本発明で得られる高誘電体組成物の形態は、膜状、棒状、球状など、用途に合わせて選択することができるが、特に膜状であることが好ましい。ここでいう膜とは、フィルム、シート、板、ペレットなども含まれる。もちろん、導通のためのビアホール形成、インピーダンスや静電容量あるいは内部応力の調整、または、放熱機能付与など、用途にあわせたパターン形成を行うこともできる。
【0021】
本発明で用いられる無機フィラーは、焼結体の誘電率が50〜20000の高誘電率のものをもちいるのがよい。好ましくは、誘電率が100〜10000のものである。誘電率が50未満のものを用いると高誘電体組成物の誘電率が十分高いものが得られない。また、20000以上のものでは、温度特性が悪くなる傾向があるため、好ましくない。
【0022】
本発明で使用する無機フィラーとしては、組成物の比誘電率を大きくする材料が好ましく、無機フィラー自身の比誘電率が大きい材料が好ましい。無機フィラーの比誘電率、誘電正接(以下、二つの物性を総称して誘電特性と称する)は、たとえば無機フィラーを加熱、焼成することにより得られる焼結体の誘電特性から類推できる。焼結体の誘電特性は以下の手順によって測定する。無機フィラーをポリビニルアルコールのようなバインダー樹脂、有機溶剤もしくは水を混合してペースト状組成物を作製した後、ペレット成型器の中に充填して乾燥させ、ペレット状固形物を得る。そのペレット状固形物を、例えば900〜1200℃程度まで加熱、焼成することにより、バインダー樹脂を分解、除去し、無機フィラーを焼結させることで焼結体ペレットを得ることができる。この焼結体ペレットに上下電極を形成し、JIS K6911に準じて誘電正接を測定でき、一方、測定された静電容量と焼結体ペレットの寸法より比誘電率を計算できる。
【0023】
本発明の誘電体組成物全体に占めるフィラーの割合(フィラー率という)は60体積%以上90体積%以下であることが好ましく、より好ましくは70体積%以上90体積%以下、さらに好ましくは80体積%以上90体積%以下である。フィラーの割合が60体積%より低いと、誘電体組成物の機械的強度が不十分な場合がある。また、フィラーの割合が90体積%を越えるとフィラーの分散制御が難しくなるので、誘電率増大および誘電正接低減が難しくなるだけでなく、製膜時の成形性が悪化する、製膜後に温度変化によりクラックが入りやすくなる、などの問題が発生する場合がある。
【0024】
本発明の高誘電体組成物は、組成物中の無機フィラーの粒径について、粒径分布において最大度数となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の10%以上、より好ましくは20%以上40%以下であることが好ましい。粒径分布において最大度数となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の10%より小さい場合、無機フィラーが高誘電率であっても組成物の誘電率は50に達しない。また、40%より大きい場合、粒径の大きな粒子が多く存在することになるので表面粗度が大きくなり、薄膜化にとって不利となるので好ましくない。
【0025】
更に、高誘電体組成物中の無機フィラーの粒径について、無機フィラーの粒径分布が最大度数となる粒径の5倍以上の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の5%以下であることが好ましい。無機フィラーの粒径分布が最大度数となる粒径の5倍以上の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の5%より大きくなると、薄膜化した場合の表面粗度が大きくなり好ましくない。
【0026】
すなわち、本発明においては、無機フィラーの分散状態を制御された不均一状態にすることが重要である。従来は、単一分散の無機フィラーが高含有率でかつ樹脂中に均一に分散しているか、粒径の差が5倍以上の2種類以上の粒径分布の無機フィラーが分散しているものが好ましいとされてきた。しかしながら、本発明者らは、無機フィラーの分散状態と比誘電率の関係を詳細に検討し、無機フィラー高含有率領域では、無機フィラーの分散状態が制御された不均一状態にある場合に高誘電率が得られることを見出した。その作用の詳細は不明であるが以下のように推察している。無機フィラーが樹脂中に均一に分散している場合、無機フィラーの容量成分と無機フィラー間を埋める樹脂成分の容量成分が電気等価回路で直列的につながった状態になり、複合体の比誘電率は比誘電率が低い樹脂成分に大きく影響されてしまい、無機フィラーを増加させても比誘電率の向上は小さい。むしろ、不均一に分布させ、無機フィラーが膜厚方向に連続して分布する状態で、無機フィラーの容量成分と樹脂成分の容量成分が電気等価回路で並列的につながった状態になり、無機フィラーの高誘電率が活かされる。
【0027】
このような制御された不均一状態を実現するために、種々検討した結果、無機フィラー全てを一次粒子まで粉砕せず、二次粒子の凝集体を残し、かつ粗大な粒径の無機フィラーが存在しないような粒径分布を得ることが有効であった。
【0028】
高誘電体組成物の粒径分布は、高誘電体組成物薄膜を形成し、その薄膜の膜厚方向に膜断面を切り出した超薄切片に対してXMA測定、および透過型電子顕微鏡(TEM)観察を行うことにより評価可能である。無機フィラーと樹脂で電子線に対する透過率が異なるので、TEM観察像中で無機フィラーと樹脂はコントラストの違いにより識別できる。複数種の無機フィラーが使用されている場合の各無機フィラーの同定はXMA測定に基づく元素分析および電子線回折像観察による結晶構造解析を行うことにより可能である。このようにして得られたフィラーと樹脂の面積の分布を画像解析により求め、無機フィラーの断面を円形と近似して面積から粒径を算出できる。算出された粒径の分布を0.1μm刻みのヒストグラムで表し、度数が最大となる級(最多値)の中心値を粒径分布の度数が最大となる粒径とする。粒径の評価は倍率5000倍のTEM像写真について行えばよい。なお、粒径分布の評価法としては上記の方法でTEMの代わりに走査型電子顕微鏡(SEM)を用いても良い。何れの手法を用いた場合でも、充分なデータ数を得るために、評価対象の面積は100μm以上である方が好ましい。観察する方向は膜厚方向および膜厚方向に垂直方向また、度数が最大となる粒径を再現性良く評価するために、ヒストグラムの粒径の刻みは0.1μmとする。
【0029】
無機フィラーの粒径分布が最大度数となる粒径は0.2μm以上1μm以下が好ましい。粒径が0.2μmより小さくなると、無機フィラーの体積に対する表面積の影響が大きくなるので高誘電率の結晶が得られにくい。また、無機フィラー自身が組成物中で凝集しやすくなる上、製造が難しくなるのでコストに関しても不利となる。一方、粒径が大きいほど無機フィラーの誘電率が高くなる傾向があるが、組成物の表面粗度が増大するおそれがある。表面粗度はインピーダンスのばらつきに直結するので、表面粗度は適切にコントロールする必要がある。表面粗度の許容範囲は膜厚との関係で決めることが実用的であるが、低膜厚化による静電容量増大という観点で、表面粗度を1μm以下であることが好ましい。無機フィラーの粒径分布が最大度数となる粒径を1μm以下にすることが表面粗度を1μm以下にコントロールする上で好ましい。
【0030】
無機フィラーの構造として、好ましくは、ペロブスカイト型結晶構造を有するものを用いるのがよい。例えば、二酸化チタン系、チタン酸バリウム系、チタン酸ジルコン酸バリウム系、チタン酸ストロンチウム系、チタン酸カルシウム系、チタン酸ビスマス系、チタン酸マグネシウム系、チタン酸バリウムネオジミウム系、チタン酸バリウム錫系、マグネシウムニオブ酸バリウム系、マグネシウムタンタル酸バリウム系、チタン酸鉛系、ジルコン酸鉛系、チタン酸ジルコン酸鉛系、ニオブ酸鉛系、マグネシウムニオブ酸鉛系、ニッケルニオブ酸鉛系、タングステン酸鉛系、タングステン酸カルシウム系、マグネシウムタングステン酸鉛系などのペロブスカイト型結晶構造、あるいは複合ペロブスカイト型結晶構造を有するフィラーを用いることができ、これらのうち1種を単独で用いたり、2種以上を混合して用いたりすることができる。また、誘電特性や温度安定性を向上させる目的で、シフター、デプレッサー剤などを添加して用いることも可能である。
【0031】
無機フィラーの形状は、球形、楕円形、三角状、長方形状、針状などのいずれでもよく、それらを取り合わせて用いることも可能である。
【0032】
無機フィラーを作製する方法は、固相法、水熱合成法、超臨界水熱合成法、ゾルゲル法、蓚酸法など従来の方法を用いることが出来る。
【0033】
次に、本発明で用いられる樹脂は、熱可塑性、熱硬化性樹脂のいずれでも良いが、はんだ耐熱性などの点から、好ましくは熱硬化性樹脂を用いる。熱可塑性樹脂では、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、液晶ポリマー樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン樹脂、フッ素樹脂などを用いることができる。また、熱硬化性樹脂では、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、シアネート樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂など一般的にプリント配線板の絶縁層に使用される樹脂を用いることができる。特に、熱硬化収縮性、粘性などの点からエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ樹脂とは分子構造中にエポキシ基(オキシラン環)を2個以上含むプレポリマーおよび、それと硬化剤とを組合せた樹脂である。また、この硬化剤には、フェノールノボラック樹脂、ビスフェノールA型ノボラック樹脂、アミノトリアジン化合物、ナフトール化合物など、従来から用いられている硬化剤を用いることができる。
【0034】
本発明に好ましく使用されるエポキシ樹脂には、必要に応じて2−エチル−4−メチルイミダゾール、トリフェニルホスフィン等の硬化促進剤やジクミルパーオキサイド等の重合開始剤を添加することができる。さらに必要に応じて、安定化剤、分散剤、沈降防止剤、可塑剤、酸化防止剤などを添加しても良い。
【0035】
本発明で用いられる無機フィラーと樹脂の割合は、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は60体積%以上、さらに好ましくは70体積%以上である。無機フィラーの含有量が60体積%より低いと、組成物の誘電率を高くすることが難しい。本発明によれば、無機フィラーの含有率を増やすに従って、高い比誘電率を有する高誘電体組成物を得ることができるが、90体積%より大きい含有率になると製膜時の成形性が悪くなり、無機フィラーの分散の制御も難しくなる。
【0036】
本発明で用いられる無機フィラーの樹脂への分散は、超音波分散、3本ロール、クレアミックス、ホモジナイザー、メディア分散機など、従来の方法を用いることができるが、分散状態の制御の点で3本ロール、メディア分散機を用いるのが好ましい。
【0037】
本発明では分散状態を制御された不均一状態にすることが重要である。従って、この分散状態の制御のため、無機フィラーの分散性を適切に制御しなければならない。一般的に無機フィラーの分散性を向上させる、すなわち、無機フィラーを樹脂中に均一に分散させるための方法として、無機フィラー表面の修飾、分散剤の添加、溶剤の添加などが行われる。しかしながら、本発明では、無機フィラーを不均一に分布させ、無機フィラーが膜厚方向に連続して分布する状態としなければならない。従って、無機フィラーの表面の修飾としてはロジン処理、酸性処理、塩基性処理など、また、分散剤としてはノニオン性、カチオン性、アニオン性の界面活性剤、多価カルボン酸などの湿潤剤、両親和性物質、高立体障害の置換基を有する樹脂などが挙げられるが、これらの使用については分散状態を過度に均一化しないものを選択する必要がある。また、溶剤の添加によって分散時または分散後の系の極性を制御する場合においても、その選択、使用量については、分散状態を過度に均一化しないものを選択する必要がある。また、分散時間、分散濃度、分散粘度などについても、分散状態を過度に均一化しないようにしなければならない。
【0038】
以上のようにして、無機フィラーと樹脂、さらに適宜、溶剤、分散剤などからなるペースト溶液を基板上に塗布し、製膜することによって本発明の高誘電体組成物が得られる。
【0039】
ペーストを基板上に塗布する方法としては、スピンナー、スクリーン印刷、ブレードコーター、ダイコーターなどが挙げられる。
【0040】
基板は有機系基板、無機系基板、およびこれらの基板に回路の構成材料が配置されたものから選択できる。有機系基板の例としては、ガラス布・エポキシ銅張積層板などのガラス基材銅張積層板、ガラス不織布・エポキシ銅張積層板などのコンポジット銅張積層板、ポリエーテルイミド樹脂基板、ポリエーテルケトン樹脂基板、ポリサルフォン系樹脂基板などの耐熱可塑性基板、ポリエステル銅張フィルム基板、ガラス布・エポキシ銅張積層基板、ポリイミド銅張フィルム基板などのフレキシブル基板が挙げられる。無機系基板の例としては、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、炭化ケイ素基板、などのセラミック基板、アルミニウムベース基板、鉄ベース基板などの金属系基板が挙げられる。回路の構成材料の例としては、銀、金、銅などの金属を含有する導体、無機系酸化物などを含有する抵抗体、ガラス系材料および/または樹脂などを含有する低誘電体、樹脂や無機フィラーなどを含有する高誘電体、ガラス系材料などを含有する絶縁体などが挙げられる。
【0041】
このようにして、塗布した膜をホットプレート、オーブンなどの加熱装置を用いて、溶剤の除去や熱硬化を行う。
【0042】
膜として用いる場合の膜厚は、静電容量が所望の値を満たす範囲内で任意に設定することができるが、2μm以上20μm未満であることが好ましい。コンデンサとして大きな静電容量を確保するには膜厚が薄い方が好ましいが、2μmより薄い場合にはピンホールなどが発生しやすく、電気的絶縁が得られにくくなる。また、膜厚が20μm以上であると十分なコンデンサ性を得るために非常に大きな誘電率が必要となる上、実装密度向上の観点から好ましくない。
【0043】
コンデンサの面積あたりの静電容量としては、5〜20nF/cmの範囲にあることが好ましい。静電容量の温度変化、面内ばらつきは小さい方が回路設計上好ましい。温度変化についてはできるだけ小さい方が好ましく、例えば、X7R特性(−55〜125℃において静電容量の温度変化率が±15%以内)を満たすことが好ましい。静電容量の面内ばらつきは平均値に対して5%以下(静電容量の平均値−5%≦静電容量≦静電容量の平均値+5%)であることが好ましい。
【0044】
高誘電体組成物の静電容量、比誘電率、誘電正接は例えばJIS K6911に準じて以下のようにして測定できる。すなわち、面積10cm×10cm、厚さ0.3mmのアルミニウム基板上の全面に高誘電体組成物の塗膜を形成する。塗膜上に導電性ペーストをパターン印刷することにより測定用電極を形成する。測定用電極とアルミニウム基板に挟まれた部分が測定対象領域となる。測定対象領域の静電容量と誘電正接をインピーダンスアナライザー(例えば、アジレントテクノロジー(株)製4294A)により測定する。比誘電率は静電容量と測定対象領域の寸法から算出する。測定ノイズ低減の観点から、塗膜上の測定用電極のパターンは円形であること、測定用電極の外周から0.5〜1mm離して円形パターンを囲むようにリング状の電極(ガード電極という)を配した方が好ましい。測定対象領域の寸法、すなわち、測定用電極の直径(面積)、高誘電体組成物の膜厚は測定精度に影響するので、高誘電体組成物の物性に合った条件を選択する必要がある。本発明では、測定用電極は直径10mmの円形パターン、ガード電極は内径11.5mmのリング状パターン、高誘電体組成物の膜厚は10μm〜20μmの範囲とした。高誘電体組成物の塗膜はスピンコートしたペースト組成物を適宜加熱し、溶媒蒸発、樹脂硬化させることにより形成した。また、温度、吸湿状態も誘電特性に影響するので、高誘電体組成物を測定条件である一定の温度、湿度雰囲気下に24hr放置した後に測定を行うことで再現性良く誘電特性の評価ができる。
【0045】
本発明で得られる高誘電体組成物は、誘電率層としてプリント配線基板の内蔵キャパシタ作製に用いられる他、多層基板の層間絶縁膜、周波数フィルター、無線用アンテナ、電磁シールドなど、多くの電子部品、装置への適用が可能である。
【0046】
【実施例】
実施例1
エポキシ樹脂の主剤としてジシクロペンタジエン系のHP7200(大日本インキ工業(株)製)20重量部、硬化剤としてフェノールノボラック系のTD−2131(大日本インキ工業(株)製)8重量部、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(北興化学(株)製)を0.28重量部、溶剤γ−ブチロラクトン30.5重量部を混合し、エポキシ樹脂溶液を作製した。この樹脂溶液に、無機フィラーとして、平均粒径0.5μmのチタン酸バリウムSB05(東邦チタニウム(株)製)210重量部を混合して、樹脂組成物を調整した。このとき、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は64体積%であった。次に、この樹脂組成物を3本ロールミルにて混練を行ったのち、厚さ300μmのアルミ基板上にダイコーターを用いて塗布し、オーブンを用いて、80℃×15分間で乾燥させた後、175℃×1時間で樹脂を硬化させ、膜厚10μmの高誘電体組成物を得た。
【0047】
この高誘電体組成物の断面組織の観察を行った。高誘電体組成物から膜厚方向における超薄切片(厚さ:100nm)を切り出し、5000倍にて拡大観察したTEM像写真から10μm四方の微小部における粒径分布を評価した。得られた粒径分布を粒径0.1μmのヒストグラムとして表し(図1)、度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ10%、0%であった。
【0048】
次に、この高誘電体組成物にアルミ電極を蒸着法により形成し、1MHzにおける誘電特性をインピーダンスアナライザ4294Aおよびサンプルホルダー16451B(共にアジレントテクノロジー社製)を用いて、JIS K 6911に準じて測定した結果、比誘電率は63、誘電正接は2.5%であり、面積あたりの静電容量は5.6nF/cmであった。
【0049】
実施例2
樹脂組成物の作製において、エポキシ樹脂溶液に含まれる硬化剤を多官能フェノールノボラック系樹脂であるカヤハードTPM(日本化薬(株)製)とした以外は実施例1に記載した内容と同様にして組成物を作製した。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ20%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は72、誘電正接は2.6%であり、面積あたりの静電容量は6.4nF/cmであった。
【0050】
実施例3
樹脂組成物の作製において、添加する無機フィラーの量を366重量部とした以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。このとき、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は70体積%であった。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ20%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は88、誘電正接は2.5%であり、面積あたりの静電容量は7.8nF/cmであった。
【0051】
実施例4
樹脂組成物の作製において、チタン酸バリウムとして平均粒径0.4μmのチタン酸バリウムであるBT−04(堺化学工業(株)製)と平均粒径2μmのチタン酸バリウムであるBT−SA(共立マテリアル(株)製)を重量分率で80:20の割合で混合したものを用いた以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ10%、10%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は63、誘電正接は2.5%であった。また、表面粗度は0.4であり、面積あたりの静電容量は5.4〜5.8nF/cmと若干ばらついたが静電容量の平均値からのばらつきは5%以下であり許容範囲内であった。
【0052】
実施例5
樹脂組成物の作製において、添加する無機フィラーの量を180重量部とした以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。このとき、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は60体積%であった。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ13%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は57、誘電正接は2.2%であり、面積あたりの静電容量は5.0nF/cmであった。
【0053】
実施例6
樹脂組成物の作製において、チタン酸バリウムとして平均粒径0.2μmのチタン酸バリウムであるBT−02(堺化学工業(株)製)を用いた以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.1μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ10%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は58、誘電正接は2.4%であった。面積あたりの静電容量は5.1nF/cmであり、実施例1の場合より低下したが許容範囲内であった。
【0054】
比較例1
樹脂組成物の作製において、エポキシ樹脂溶液に含まれる硬化剤をビスフェノールAノボラック系樹脂であるVH4150(大日本インキ工業(株)製)とした以外は実施例1と同様にして組成物を得た。得られた組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ5%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は48、誘電正接は2.3%であり、面積あたりの静電容量は4.3nF/cmと小さかった。
【0055】
比較例2
樹脂組成物の作製において、添加する無機フィラーの量を118重量部とした以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。このとき、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は50体積%であった。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ11%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は45、誘電正接は2.0%であり、面積あたりの静電容量は4.0nF/cmであった。
【0056】
比較例3
樹脂組成物の作製において、添加する無機フィラーの量を1360重量部とした以外は実施例1と同様にして高誘電体組成物を得た。このとき、無機フィラーと樹脂の合計量を100体積%としたとき、無機フィラーの含有量は92体積%であった。得られた高誘電体組成物の度数が最大となる粒径は0.4μmであった。度数が最大となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラーおよび5倍以上の粒径を有する無機フィラーが全無機フィラーに占める割合をそれぞれ求めたところ、それぞれ11%、0%であった。この組成物の誘電特性を評価したところ、比誘電率は43、誘電正接は2.8%であり、面積あたりの静電容量は3.8nF/cmであった。
【0057】
【発明の効果】
本発明は上述のごとく構成したので、無機フィラーと樹脂からなり、比誘電率50以上、誘電正接3%以下の誘電特性を示す材料を得ることができる。この材料をプリント配線板に内蔵するコンデンサとして利用することにより、プリント配線板の高密度化、高性能化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1の粒径分布を表すヒストグラム。
【符号の説明】
1 粒径分布において度数が最大となる粒径
2 粒径分布において度数が最大となる粒径の2倍値
3 粒径分布において度数が最大となる粒径の3倍値
4 粒径分布において度数が最大となる粒径の5倍値

Claims (7)

  1. 無機フィラーと樹脂により形成される高誘電体組成物であって、高誘電体組成物全体に占める無機フィラーの割合が60体積%以上90体積%以下であり、かつ、無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布において、最大度数となる粒径の2倍以上3倍以下の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の10%以上であることを特徴とする高誘電体組成物。
  2. 無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布が最大度数となる粒径の5倍以上の粒径を有する無機フィラー数が全無機フィラー数の5%以下であることを特徴とする請求項1記載の高誘電体組成物。
  3. 無機フィラーの粒径分布を粒径の階級幅を度数分布で表したとき、該粒径分布における最大度数となる粒径が0.2μm以上1μm以下を満たすことを特徴とする請求項1記載の高誘電体組成物。
  4. 無機フィラーがペロブスカイト型結晶構造を有することを特徴とする請求項1記載の高誘電体組成物。
  5. 樹脂が熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1記載の高誘電体組成物。
  6. 熱硬化性樹脂がエポキシ樹脂であることを特徴とする請求項5記載の高誘電体組成物。
  7. 高誘電体組成物の膜厚が2μm以上20μm未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか記載の高誘電体組成物。
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