JP2004115887A - 放電特性に優れたホローカソードガン - Google Patents

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Abstract

【課題】異常放電を伴わずに長時間の安定した使用が可能なHCDガンを提供する。
【解決手段】ホローカソードガンの中空陰極部である円筒状グラファイトの表面に、Ta,W,MoおよびNbのうちから選んだ少なくとも一種を被覆する。
【選択図】    図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HCD(Hollow Cathode Discharge)法によってイオンプレーティングを行う際に用いるホローカソードガンに関し、特にその放電特性を改善することにより、異常放電のない安定した使用を長時間にわたって可能ならしめようとするものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラズマを利用したイオンプレーティング法が、TiN,TiCおよびTiCN等のセラミックコーティングに利用されている。イオンプレーティング法としては、HCD法、EB (Electron Beam)+RF (Radio Frequency)法、マルティ・アーク法およびアーク放電法等の手法が実施されている。
【0003】
これらの手法の中でも、HCD法は、イオン化率が20〜60%と高く、また成膜速度も0.05〜0.5 μm/min と比較的速いため、TiN, TiC, TiCNさらにはCrN等のセラミックコーティングに広く利用されている(例えば非特許文献1参照)。さらに、このHCD法には、Nガス流量、真空度、バイアス電圧、基板温度および基板の前処理等の条件が少々変動しても、容易かつスムーズにセラミックコーティングを行うことができるという利点がある。
【0004】
ところで、現行のHCDガンの材質としては、Taが用いられているが、Taは高価であるため、HCDガンの材質にかかる費用は、コーティング費用の約20〜50%にも達している。
【0005】
そのため、HCDガンの材質の改善については、従来から以下に述べるような種々の提案がなされている。
(1) グラファイトからなる外層と、Ta,W,LaBのうちいずれか一種からなる内層とからなるイオンプレーティング用ホローカソードガン(例えば特許文献1参照)。
(2) 外層の内径および内層の外径を、中空陰極の先端開口へ向かって小さくするイオンプレーティング用ホローカソードガン(例えば特許文献1参照)。
(3) 内層と外層は空隙を隔てる同心配置としたイオンプレーティング用ホローカソードガン(例えば特許文献1参照)。
(4) 水冷した円筒状の鉄のガンとグラファイトとを接合したイオンプレーティング用ホローカソードガン(例えば特許文献2参照)。
【0006】
しかしながら、上記した従来技術はいずれも、以下に述べるような問題を残していた。
(1) のグラファイトからなる外層と、Ta,W,LaBのうちいずれか一種からなる内層とからなるイオンプレーティング用ホローカソードガンでは、内外層の接合部あるいは先端部において異常放電が多発する。
(2) の外層の外径および内層の外径を、中空陰極の先端開口ヘ向かって小さくするイオンプレーティング用ホローカソードガンにおいても、グラファイトと金属の間を完全に密着させることが困難で、この箇所から異常放電が起こる。特に、イオンプレーティングの使用時間が長くなるとグラファイトと金属の聞の隙間が大きくなるため異常放電が多発し使用が困難となった。
(3) の内層と外層は空隙を隔てる同心配置としたイオンプレーティング用ホローカソードガンは、 700〜1500Aの大電流のHCDガンに使用した場合、外層がグラファイトであるため内層のTaやW等の金属も高温になることから、寿命の点に問題があることが判明した。また、内層のTaやW等の金属には60〜80Vの電圧、一方外層のグラファイトには20〜30Vの電圧を印加する構造であるため、ガンの構造が複雑になることの他、取り扱いが煩雑になることが判明した。
(4) の水冷した円筒状の鉄のガンとグラファイトとを接合したイオンプレーティング用ホローカソードガンは、水冷のため安定したプラズマ発生が困難であり、また水冷部の鉄と高温のグラファイトとの接合部で異常放電が多発し、さらに熱膨張差が大きすぎるため鉄と高温のグラファイト間で剥離が生じ、安定した使用が難しいことが判明した。
【0007】
そして、これらのグラファイトカソード使用した場合の共通の問題点は、接合部、表面部あるいは先端部において、プラズマビーム使用中に異常放電が多発して、グラファイトカソード使用が困難になることであった。
さらに、グラファイトカソード使用は、プラズマコーティング中に膜中にCが混入してコーティング膜とマトリックスとの間に剥離を引き起こすことが大きな問題点として指摘された。
【0008】
【非特許文献1】
「金属表面技術 35 (1984) No.1,P.16〜24」
【特許文献1】
特開昭64−65260 号公報(特許請求の範囲、第1図(b) 、第4図)
【特許文献2】
特開昭63−227767号公報(明細書第(2) 頁上右欄)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、安価な材質からなり、しかも異常放電を伴わずに長時間の安定した使用が可能なHCDガンを提供することが、本発明の目的である。
【0010】
【課題を解決するための手段】
さて、本発明者は、上記の目的を達成すべく、プラズマコーティングの際に異常放電がなく、長時間安定して使用することができ、しかも低コストなホローカソードガンの開発に取り組んだ。
その結果、基材としては安価なグラファイトを使用しても、その表面にTa,W,MoおよびNb等を適量被覆することにより、異常放電の発生がなく、安定した長時間の使用に耐え得ることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、円筒状グラファイトからなる中空陰極部をそなえるホローカソードガンであって、該円筒状グラファイトの表面に、Ta,W,MoおよびNbのうちから選んだ少なくとも一種を被覆したことを特徴とする放電特性に優れたホローカソードガンである。
【0012】
本発明において、円筒状グラファイトの先端を、先細り形状とすることは有利である。この場合、テーパ角は45°以下とすることが好ましい。というのは、テーパ角が45°を超えるとカソードの先端部の消耗が激しくなるため、カソード寿命が低下する不利が生じるからである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
まず、本発明を由来するに至った実験結果について説明する。
C:0.077 mass%,Si:3.41mass%,Mn:0.073 mass%,Se:0.020 mass%,Sb:0.025 mass%,Al:0.020 mass%,N:0.0072mass%およびMo:0.011 mass%を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1350℃で3時間加熱したのち、熱間圧延により板厚:2.0 mmの熱延板とし、ついで1030℃, 1分間の均一化焼鈍後、1050℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延により板厚:0.23mmの最終冷延板とした。
【0014】
ついで、この冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキを、グラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向にほぼ直角に幅:200 μm 、間隔:4mmで線状に残存するように塗布した後、200 ℃で3分間焼き付けた。この時のレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅:200 μm、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。この時の電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm、処理時間:20秒の条件で行った。
【0015】
その後、840 ℃の湿H中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO(70mass%), Sr(OH)(10mass%), SbCl(20mass%)の組成になる焼鈍分離剤スラリーを塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、850 ℃から11℃/hの速度で1050℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1220℃の乾H中で純化処理してフォルステライト被膜を有しない一方向性珪素鋼板(膜無し珪素鋼板と呼ぶ)を製造した。
【0016】
かくして得られた膜無し珪素鋼板表面上に、種々の中空陰極(円筒状カソード)をそなえるHCDガン(250 A)を用いてTiNO膜(0.15μm 厚)をコーティングした。
使用した円筒状カソードは次のとおりである。
(1) 先端を先細り形状としたグラファイト製の円筒状カソードの表面に、CVD法によりTaを0.05μm 厚に被覆したもの。
(2) グラファイト製の円筒状カソード
(3−1) グラファイト製の円筒状カソードで先端を先細り形状としたもの(面内等方)
(3−2) グラファイト製の円筒状カソードで先端を先細り形状としたもの(面内非等方)
【0017】
ついで、TiNOをコーティングした後の珪素鋼板の表面に、マグネトロン・スパッタ法を用いて SiN 膜(0.2 μm 厚)を成膜した。
その後、鋼板表面に燐酸塩とコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティング処理液を塗布した後、乾燥し、さらに 815℃の窒素中で1分間焼付け処理後、800℃の窒素中で3時間の焼鈍を施した。
【0018】
かくして得られた製品の磁気特性(磁束密度、鉄損)および被膜密着性について調べた結果を表1に示す。
また、表1には、各円筒状カソードの寿命および使用中における各円筒状カソードの状態について調べた結果も併せて示す。
さらに、図1に、使用後における各円筒状カソードの外観写真を示す。
【0019】
【表1】
Figure 2004115887
【0020】
同表および図1から明らかなように、カソードとしての機能と磁気特性の両方で満足できるのは、本発明の(1) の円筒状カソードであった。
この円筒状カソードは、CVD処理により、次のような反応
2TaCl +5H →2Ta+10 HCl
を生じさせることにより、カソードの表面を緻密にし、かつ電気伝導度を高めたものであり、しかもかような表面被覆によりプラズマを発生し易くなるという利点もある。
【0021】
このように、(1) の円筒状カソードを採用することによって、カソードの異常放電を皆無とすることができ、またカソード寿命延長化および低コスト化が達成可能となった。
さらに、プラズマコーティングも容易にできるようになるので、超低鉄損で密着性の良好な珪素鋼板を得ることが可能となった。
【0022】
また、(2) の円筒状カソードでは、先端部で異常放電と剥離が起こり、また珪素鋼板の鉄損および被膜密着性も劣化した。
【0023】
さらに、(3−1) の円筒状カソード(この場合、カソードの作成に当たっては、面内等方となるように作成した)では、(2) の場合と同様、先端部で異常放電と剥離が起こり、また珪素鋼板の鉄損および被膜密着性も劣化した。
(3−2) の円筒状カソード(この場合は非等方、すなわち長手方向に熱膨張率、伝導度の度合いを良くするように作成した)では、先端部で異常放電と剥離は起こったものの、珪素鋼板の鉄損は超低鉄損を示し、また被膜密着性も良好であった。
【0024】
上述したとおり、グラファイト製のカソードであっても、その表面にCVD処理によりTa等を被覆し、表面を緻密にすると共に電気伝導度を高めることによって、プラズマコーティング中の異常放電を皆無にすることができるのである。
【0025】
なお、グラファイト製のカソード対するCVD処理は、上記したTaの他、WやMo,Nb等の場合にも、次の反応で容易に実施することができる。
例えば、Wの場合のCVD反応は、
WCl+3H →W+6HCl
WF +3H →W+6HF
また、Moの場合のCVD反応は、
MoCl +3H →Mo+6HCl
MoF +3H →Mo+6HF
【0026】
これらの反応は、単独でも十分プラズマ放電の改善効果を発揮するが、TaやWとの複合効果を利用することもできる。
また、これらの被覆厚みは、 0.005〜2.0 μm 程度とすることが好ましい。というのは、被覆厚が 0.005μm に満たないと異常放電の防止効果に乏しく、一方2.0 μm を超えるとグラファイトとの剥離が生じ易くなり、またコストアップとなるからである。
【0027】
【実施例】
C:0.077 mass%, Si:3.41mass%, Mn:0.073 mass%, Se:0.020 mass%,Sb:0.025 mass%, Al:0.020 mass%, N:0.0074mass%およびMo:0.011 mass%を含有し、残部は鉄および不可避的不純物の組成になる珪素鋼連鋳スラブを、1350℃で4時間加熱したのち、熱間圧延により厚み:2.1 mmの熱延板とし、ついで1050℃の均一化焼鈍後、1030℃の中間焼鈍を挟む2回の冷間圧延により0.23mm厚の最終冷延板とした。
【0028】
その後、冷延板の表面に、アルキド系樹脂を主成分とするエッチングレジストインキを、グラビアオフセット印刷により、非塗布部が圧延方向にほば直角に幅:200 μm 、間隔:4mmで線状に残存するように塗布した後、200 ℃で3分間焼き付けた。このときのレジスト厚は2μm であった。このようにしてエッチングレジストを塗布した鋼板に、電解エッチングを施すことにより、幅:200 μm 、深さ:20μm の線状の溝を形成し、ついで有機溶剤中に浸漬してレジストを除去した。このときの電解エッチングは、NaCl電解液中で電流密度:10 A/dm、処理時間:20秒の条件で行った。
【0029】
ついで、840 ℃の湿H中で脱炭・1次再結晶焼鈍を行った後、鋼板表面にMgO(60mass%), Al(3mass%), Sr(OH)(5mass%), SbCl(30mass%), SiO(2mass%)の組成になる焼鈍分離剤スラリーを塗布し、ついで 850℃で15時間の焼鈍後、850℃から10℃/hの速度で1050℃まで昇温してゴス方位に強く集積した2次再結晶粒を発達させた後、1220℃の乾H中で純化処理を施して膜無し一方向性珪素鋼板を作製した。
【0030】
かくして得られた珪素鋼板の表面に、HCDイオンプレーティング装置 (1000A)を用いて、TiNO膜(厚み:0.1 μm )を成膜した。
使用した円筒状カソードは次の4種類である。
(a) グラファイト製の円筒状カソードの表面に、CVD法によりTaを 0.5μm 厚被覆したもの。
(b) 先端を先細り形状としたグラファイト製の円筒状カソードの表面に、CVD法によりWを 0.5μm 厚被覆したもの。
(c) グラファイト製の円筒状カソードの表面に、CVD法によりMoを 0.5μm 厚被覆したもの。
(d) 先端を先細り形状としたグラファイト製の円筒状カソードの表面に、CVD法によりWとMoをそれぞれ 0.3μm, 0.2μm 厚被覆したもの。
【0031】
ついで、上記のTiNOをコーティングした後の珪素鋼板の表面に、マグネトロン・スパッタ法を用いて SiN 膜(0.2 μm 厚)を成膜した。
その後、鋼板表面に燐酸塩とコロイダルシリカを主成分とする絶縁コーティング処理液を塗布した後、乾燥し、さらに 815℃の窒素中で1分間焼付け処理後、800℃の窒素中で3時間の焼鈍を施した。
【0032】
かくして得られた製品の磁気特性(磁束密度、鉄損)および被膜密着性について調べた結果を表2に示す。
また、表2には、各円筒状カソードの寿命および使用中における各円筒状カソードの状態について調べた結果も併せて示す。
【0033】
【表2】
Figure 2004115887
【0034】
同表から明らかなように、本発明に従う表面被覆カソードを用いた場合はいずれも、異常放電や剥離の発生は全くなく、正常な放電を長時間にわたり安定して行うことができた。
【0035】
【発明の効果】
かくして、本発明に従い、グラファイト製カソードの表面に,TaやW,Mo,Nb等を適量被覆することにより、カソードの異常放電防止と長寿命化と低コスト化を同時に達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】使用後の各円筒状カソードの外観写真である。

Claims (2)

  1. 円筒状グラファイトからなる中空陰極部をそなえるホローカソードガンであって、該円筒状グラファイトの表面に、Ta,W,MoおよびNbのうちから選んだ少なくとも一種を被覆したことを特徴とする放電特性に優れたホローカソードガン。
  2. 請求項1において、円筒状グラファイトの先端を、先細り形状としたことを特徴とする放電特性に優れたホローカソードガン。
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