JP2004115482A - 病理標本保存袋 - Google Patents
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Abstract
【課題】ホルムアルデヒドガスのバリア性に極めて優れた病理標本保存袋を提供すること。
【解決手段】エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層を少なくとも一層有する多層フィルムからなり、該A層が、病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋が提供される。本発明の病理標本保存袋は、ホルムアルデヒドガスの透過を抑制するため悪臭発生がなく、健康に障害を与えることもない。さらに、省スペース化に貢献し、透明性、耐水性、耐薬品性に優れているため、視認性を高め、接触観察が可能となる。
【選択図】 図5
【解決手段】エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層を少なくとも一層有する多層フィルムからなり、該A層が、病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋が提供される。本発明の病理標本保存袋は、ホルムアルデヒドガスの透過を抑制するため悪臭発生がなく、健康に障害を与えることもない。さらに、省スペース化に貢献し、透明性、耐水性、耐薬品性に優れているため、視認性を高め、接触観察が可能となる。
【選択図】 図5
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、病理学上の標本等を保存する病理標本保存袋に関する。さらに詳しくは、病理学上の標本を、固定液としてホルマリンを用いて、病理標本保存袋に密封保存した場合に、ホルマリンに由来するホルムアルデヒドガスの袋内部からの透過量が極めて少ないことを特長とする病理標本保存袋に関する。
【0002】
【従来の技術】
病理学あるいはその他の医学関連領域における標本の作製には、ホルマリンを欠くことができない。しかし、ホルマリンを用いた病理標本の保存方法には、種々の不便を伴うことが、従来から、よく知られている。例えば、ホルマリン液やホルムアルデヒドガスが漏れて眼や気管を刺激し、場合によっては観察者の健康を害したり、また標本が乾燥してしまうことがある。また、最近では環境面に及ぼす影響も問題視されている。さらに、標本を、瓶やプラスチック製の容器に収納する場合は、保存するためのスペースを多く必要としたり、標本を直接手で持って観察することが困難で、検索性に乏しいなどの問題がある。また、展示用標本を作る場合、技術と時間を要し、さらにその運搬も容易ではなかった。
【0003】
このような課題を解決するため、プラスチック多層フィルムからなる袋を使用することが提案されている。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリアミドなどのプラスチックフィルムを適宜選択して、これらを積層した袋を用いることが検討されている(特許文献1)。この特許文献1には、上記プラスチックフィルムのそれぞれの特性、例えば、透明性、耐水性、耐薬品性などを生かして、ホルムアルデヒドガスが透過しない病理学上の標本の保存、視覚観察、接触観察を可能とする病理内蔵標本保存袋が得られると記載されている。しかし、特許文献1に記載された上記プラスチックフィルムの組合せでは、ホルムアルデヒドガスのバリア性が不十分な場合があり、刺激臭などをはじめとする上記課題のより一層の解決が望まれている。
【0004】
さらに、上記特許文献1以外にもプラスチックフィルムからなる病理標本保存袋が複数販売され、使用されている。しかし、これらの病理標本保存袋を使用しても、ホルムアルデヒド臭が充分に解消されているとはいえない。また、近年の環境問題から、塩化ビニル、塩化ビニリデンを含むフィルム素材は塩化水素ガスやダイオキシンの発生原因となる可能性があるため使用することは好ましくない。また、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどによってポリエチレンなどのプラスチックフィルムを表面コート処理することでガスバリア性を高めることはよく知られているが、このようなフィルムを使用して病理標本保存袋を作成した場合、屈曲などによって、多層積層フィルムにひび割れのような荒れが発生して、病理標本の視認性が損なわれてしまうことがある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭51−42627号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
プラスチックフィルム製の病理標本保存袋の特長は、使用前の体積は非常に小さい、病理標本の保存に要するスペースは標本の大きさに依存するが比較的小さいスペースで良い、標本を入れた病理標本保存袋上に、その標本に関するデータを簡便に記入あるいは貼付できるために検索性が極めて優れている、透明であるため標本の視認性に優れているなどの点である。そこで、固定液であるホルマリン由来のホルムアルデヒドガスの病理標本保存袋からの漏洩が極めて少なく、ハロゲン元素を含まない素材からなり、視認性(透明性)に優れ、取り扱いやすく、運搬しやすいプラスチックフィルム製の病理標本保存袋が望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以後、EVOHと記す)(A)を主成分とする層(A層)を少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋が上記課題を解決することを見出した。
【0008】
本発明は、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層を少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が、病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋を提供する。
【0009】
また、本発明は、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層をそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋を提供する。
【0010】
本発明は、さらに、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)層を主成分とするB層と、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層とをそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、外側から内側に向かって、B層/A層/C層の順に積層され、該C層同士がヒートシールされてなる病理標本保存袋を提供する。
【0011】
好ましい実施態様においては、前記ポリアミド系樹脂が、芳香族系ポリアミド樹脂である。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記ポリオレフィン系樹脂(C)がエチレンホモポリマーまたはエチレンコポリマーであり、前記C層の厚みが50〜300μmである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるEVOH(A)は、エチレン含有量が20〜65モル%であることが好ましい。EVOHのエチレン含有量が20モル%未満では溶融成形性が悪く、また、高湿度下でのガスバリア性が悪化し、65モル%以上ではガスバリア性が不足する。より好ましくは25〜58モル%である。
【0014】
また、EVOHのけん化度は90モル%以上であることが好ましい。けん化度が90%未満では高湿度下でのガスバリア性および熱安定性が悪くなる。好ましくは、けん化度は95モル%以上である。
【0015】
エチレン含有量が20〜65モル%、けん化度が90モル%以上のEVOHは、例えば、メタノール、t−ブタノール、ジメチルスルホキシドなどの溶媒中で、加圧下に過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いて、エチレンとビニルエステルとを当業者が用いる方法で重合させ、続いて酸、またはアルカリ触媒でけん化して得られる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルエステルが代表例として挙げられるが、その他の脂肪酸エステル(例えばプロピオン酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステルなど)を使用することもできる。
【0016】
「EVOH(A)を主成分とする」とは、EVOHのみで構成されてもよく、また、EVOHに加えて、本発明の目的が阻害されない範囲で、EVOHを形成するモノマー以外のモノマーとの共重合体またはEVOH以外の樹脂を含有していてもよいことを意味する。例えば、プロピレン、ブチレン、不飽和カルボン酸またはそのエステル{例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)など}、ビニルシラン化合物(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン)、ビニルピロリドン(N−ビニルピロリドンなどのモノマーを共重合し、共重合体とすることもできる。EVOH以外の樹脂としては、たとえば、部分けん化エチレン−酢酸ビニル、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、EVOH(A)は、エチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよく、また、重合度やけん化度の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。さらにエチレン含有量と重合度あるいはけん化度が共に異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。EVOH(A)が異なるEVOHの混合物である場合、混合物のエチレン含有量が20〜65モル%、けん化度が90モル%以上であればよい。
【0018】
さらに、本発明のEVOH(A)には、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、ホウ素化合物、アルカリ金属塩、リン化合物などをブレンドすることもできる。
【0019】
EVOH(A)のメルトインデックス(MI)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜50g/10minであることが好ましく、0.5〜20g/10minであることが更に好ましい。
【0020】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするA層と、病理標本固定液とが直接接触することがないように、すなわち、A層が病理標本保存袋の最内層とならないようにすることが重要である。A層は、親水性の強い樹脂からなるために、固定液となるホルマリン(一般的には、10〜20%のホルムアルデヒド水溶液)と直接接触すると、A層のホルムアルデヒドガスのバリア性が著しく悪化するため好ましくない。
【0021】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするフィルム(A層)と、適切な各種プラスティックフィルムとを積層することが重要である。病理標本の包装材としては(1)耐水性があること、(2)ガス透過性が極めて少ないこと、(3)透明性に優れていること、(4)ホルマリンは酸を含有するので、耐酸性であること、(5)ヒートシール性のあること、等が要求される。しかし、一枚で上記病理標本の包装材としての特性をすべて具備しているプラスチックフィルムは、現在、存在しない。透明性に関しては、多くの優れた素材が存在するが、耐酸性があり、かつ、ガス透過性の極めて少ない素材は見当たらない。そこで、EVOH以外の、各種プラスチックフィルムが有する種々の特性、すなわち透明性、耐水性、耐薬品性、ガス透過性、ヒートシール性などに着目し、異なる特性を有する、1または2以上のプラスチックフィルムを、EVOH(A)を主成分とするフィルム(A層)と積層する。このようにして得られる包装材は、それぞれのプラスチックフィルムが有する特性が活かされると共に、それぞれのプラスチックフィルムが有する包装材としての欠点が相互に補完され、一つの優れた包装材となる。このような包装材を用いることにより、上記の病理標本の保存に要求される性能を有し、かつ長期保存安定性にも優れた病理標本保存袋を製造することができる。
【0022】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするA層と積層する層として、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層およびポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層が好ましく用いられる。ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層は、ガス透過性・通気性の少ないプラスチックフィルムである。他方、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、ガス透過性は高いが、ヒートシール性、耐酸性に優れている。これらの各層を1または2以上組合せて、本発明の病理標本保存袋が製造される。
【0023】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂(B)としては、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが使用できる。芳香族ポリアミド系樹脂のガスバリア性が脂肪族ポリアミド樹脂のガスバリア性よりも優れているので、芳香族ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。芳香族系ポリアミド樹脂のなかでも、非晶質ポリアミドが好ましく用いられる。芳香族ポリアミド樹脂を構成するモノマーと脂肪族ポリアミド樹脂を構成するモノマーとの共重合体、あるいはこれらのブロック共重合体も用いられる。
【0024】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6−11、ナイロン6−12などの汎用ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0025】
芳香族系ポリアミド樹脂とは、ジアミン成分、ジカルボン酸成分のいずれか一方、あるいは、両方が芳香族化合物である重縮合体である。代表例として、メタキシリレン基含有ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0026】
メタキシリレン基含有ポリアミド樹脂としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスベラミドなどの単独重合体、および、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体などのような共重合体が挙げられる。また、上記単独重合体または共重合体の成分と、ヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジンのような脂環式ジアミン、パラ−ビス−(2−アミノエチル)ベンゼンのような芳香族ジアミン、テレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸、ε−ジカプロラクタムのようなラクタム、アミノヘプタン酸のようなアミノカルボン酸、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等とを共重合した共重合体が挙げられる。
【0027】
中でも、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと、α、ω−脂肪族ジカルボン酸とから生成される構成単位を含有する重合体が好ましく用いられる。混合キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンが80モル%以下であることが好ましく、75モル%以下であることがより好ましい。α、ω−脂肪族ジカルボン酸は、炭素数が6〜10個であることが好ましい。また、キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから生成された構成単位を、分子鎖中において少なくとも70モル%以上有するのが好ましく、75モル%以上有するのが更に好ましい。パラキシリレンジアミンが80モル%以下であるメタキシリレンジアミンとの混合キシリレンジアミンと、炭素数が6〜10個のα、ω−脂肪族ジカルボン酸とから生成される構成単位を、分子鎖中において少なくとも70モル%以上含有する共重合体が好ましく用いられる。
【0028】
また、上記芳香族系ポリアミド樹脂と上記脂肪族ポリアミド樹脂との混合物を利用するときには、成形時にこれらを混合してもよく、あるいは、予めこれらを配合した製品を利用してもよい。
【0029】
芳香族系ポリアミド樹脂として使用される非晶質ポリアミドとは、ジアミン成分、ジカルボン酸成分のうちの少なくとも一方が芳香族化合物である重縮合体であって、DSC測定において実質上吸熱結晶溶解ピークを有さないポリアミドをいう。その代表例としては、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸の重縮合体が挙げられる。
【0030】
上記脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)−メタン、2,2−ビス−(4−アミノヘキシル)−イソプロピリデン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,5−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノブタンおよび1,3−ジアミノプロパンが好適に用いられる。
【0031】
上記芳香族カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、アルキル置換イソフタル酸、アルキル置換テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は一種またはそれ以上を同時に用いることができる。中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが熱成形性、透明性およびガスバリア性などの面で好適である。
【0032】
非晶性ポリアミドの具体例としては、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸/テレフタル酸の重縮合体、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体などが挙げられる。中でも、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸/テレフタル酸の重縮合体においては、イソフタル酸/テレフタル酸のモル比が60/40〜95/5であるのが好ましく、65/35〜90/10であるのがより好ましい。
【0033】
なお、「ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層」は、ポリアミド系樹脂(B)のみで構成されてもよく、また、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の配合物、例えば、帯電防止材、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等が配合されていてもよい。また、「ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層」は、単一の樹脂層で構成されていてもよいし、複数の樹脂層が積層された積層体で構成されていてもよい。このような積層体としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする層(B1層)と、芳香族ポリアミド樹脂を主成分とする層(B2層)を積層した積層体を挙げることができる。このような積層体として、例えば、B1層/B2層/B1層の順で積層された積層体が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂(C)としては、押出成形性、延伸性およびヒートシール性に優れたものが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂としては、以下の樹脂:線状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと略称する)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン(以下、VLDPEと略称する)、これらのポリエチレンの混合物(例えば、VLDPEと少量のLLDPEとの混合樹脂)、およびエチレンコポリマー(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など);プロピレンホモポリマー;プロピレンコポリマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略称する)などのエチレンとビニルエステル単量体との共重合体;脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステルより選ばれる単量体とエチレンとの共重合体;アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等から選ばれるアクリル系単量体とエチレンとの共重合体;アイオノマー樹脂;LLDPEとEVAの混合樹脂;結晶性プロピレン−エチレン共重合体とポリプロピレン系エラストマーの混合樹脂;などが好ましく用いられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルなどを使用することもできる。これらの中でもとりわけ、ヒートシール性、耐水性が共に優れた層を形成するという観点から、LLDPE、高密度ポリエチレンなどのエチレンホモポリマー、これらの混合樹脂、あるいはエチレンコポリマーが好適に使用される。
【0035】
「ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層」は、ポリオレフィン系樹脂(C)のみで構成されてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲で、帯電防止材、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等の配合物を含んでいてもよい。
【0036】
上記EVOH(A)を主成分とするA層を必須の層とし、このA層と、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層および/またはポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層を、A層が直接ホルムアルデヒド水溶液と接することがないように(即ち、最内層にならないように)積層し、例えば、ヒートシールなどにより、袋状に成形して、本発明の病理標本保存袋が得られる。各層は、各々一層でもよく、複数であってもよい。
【0037】
本発明において、多層フィルムを形成する各層(フィルム)間の接着力が充分に得られない場合に、接着剤を介して接着してもよい。このような接着剤としては、各層同士を接着できるものであれば、特に限定されない。例えば、二液硬化型ポリウレタン系の接着剤;不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体[例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)共重合体)]にグラフト重合して得られるグラフト重合体を主成分とする接着剤などを挙げることができる。
【0038】
二液硬化型ポリウレタン系接着剤としては、エステル結合、エーテル結合、およびウレタン結合からなる群から選ばれる少なくとも一種の結合を主鎖に含み、かつ水酸基を2個以上含む主剤と、多官能イソシアネートの硬化剤とからなる接着剤が挙げられる。
【0039】
主剤としては、例えば、ポリプロピレングリコールとビスフェノールAとを反応させたポリエーテル;ポリプロピレングリコールとトリレンジイソシアネートまたはm−キシリレンジイソシアネートとを反応させたポリエーテルポリウレタン;イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸またはアジピン酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、あるいはネオペンチルグリコールとを反応させたポリエステルポリウレタンなどが挙げられる。
【0040】
多官能イソシアネートの硬化剤としては、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとの反応物;ポリプロピレングリコール付加グリセリンとm−キシリレンジイソシアネートとの反応物;m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート類が例示される。
【0041】
接着剤の塗布量は、固形分として0.05〜4g/m2、好ましくは0.1〜4g/m2、より好ましくは0.1〜3g/m2である。
【0042】
本発明の病理標本保存袋を構成する多層フィルムの各層の厚み(同じ層を2層以上含む場合は、その合計の厚み)は、特に限定されない。EVOH(A)を主成分とするA層は、通常1〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層は、通常1〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、通常10〜500μm、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。また、病理標本保存袋全体の厚みとしては、硬さ、取り扱いやすさなどの面から、10〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは50〜300μmである。
【0043】
上記の様に、EVOH(A)を主成分とするA層を必須の層とし、これに、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層および/またはポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層を積層して、本発明の病理標本保存袋が製造される。各層は、一層のみを用いてもよく、二層以上を用いても良い。本発明の病理標本保存袋を構成する多層フィルムの層構成は、A層がホルマリン液に直接接触しない構成であれば、特に制限されるものではない。多層フィルムの層の構成は、接着剤(接着性樹脂)層をAdとした場合に、最外層からA/B、A/C、B/A/C、B/A/Ad/C、B/Ad/A/Ad/C、A/B/Ad/C、A/Ad/C、C/Ad/B/A/Ad/C、C/Ad/A/A/Ad/Cなどが代表的なものとして挙げられる。なかでも、B/A/Ad/C、B/Ad/A/Ad/Cなどのように、B層を最外層、A層を中間層、C層を最内層となるように配置することが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層はヒートシール性、および耐酸性に優れるため、ホルマリン液に接する最内層とすることが好ましい。
【0044】
なお、最内層と最外層の両方にC層を設ける場合、それぞれの層を形成する樹脂は同じものであっても、異なるものであってもよい。また本発明の効果を損なわない範囲で、成形時に発生するトリムなどのスクラップは、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層にブレンドしてもよいし、別途回収層を設けて再利用してもよい。
【0045】
本発明の病理標本保存袋は、一般的には、A層、B層、およびC層を適宜組み合わせた多層フィルムを製造し、ついで、この多層フィルムを、例えば、ヒートシールなどの方法により、袋体とすることにより、製造される。
【0046】
本発明の病理標本保存袋の製造に用いる多層フィルムは、当業者が多層フィルムを製造する際に通常用いる方法によって、製造される。例えば、ドライラミネート法、押出しラミネート法、共押出しラミネート法、共押出し成形法、共押出しパイプ成形法、共射出成形法、溶液コート法などが挙げられる。ドライラミネート法、押出しラミネート法、共押出しラミネート法などが好適に使用される。
【0047】
積層される各層(各フィルム)としては、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム、圧延フィルムなどのいずれのフィルムも使用できる。EVOH(A)を主成分とするA層は、二軸延伸されていることが好ましい。また、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層も、二軸延伸されていることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、無延伸であることが好ましい。二軸延伸されたA層およびB層を有し、無延伸のC層を有する多層フィルムは、薄くて、優れたガスバリア性を有する。
【0048】
このようにして得られる各フィルムを、樹脂接着剤を用いてドライラミネート法により積層して得られる多層フィルムが好ましく用いられる。多層フィルムをドライラミネート法で成形する際には、各フィルムのフィルム成形時の流れ方向(MD)を同一方向にして積層することが、直線カット性の観点から特に好ましい。
【0049】
直線カット性とは、例えば、長方形の多層フィルムの上辺を両手でつまんで持ち上げて自然に垂らし、多層フィルムの上辺から下辺に向かって鉛直方向に引裂いた際の、切断線の直線性を指す。すなわち、直線カット性に優れるということは、切断線が直線状であり、多層フィルムを引裂開始位置から鉛直方向に引裂いた場合に、引裂終端位置から下辺に垂直に引いた直線と該下辺との交点をAとし、上辺の引裂開始位置から下辺に垂直に引いた直線と該下辺との交点をBとした場合に、交点Aと交点Bの間隔が小さいことを意味する。
【0050】
直線カット性は、内容物を充填したフレキシブルパウチの形体をとる病理標本保存袋とする場合は特に重要であり、直線カット性が不十分の場合は、袋を引裂いて開口する際に内容物がこぼれやすくなる。
【0051】
得られた多層フィルムの強度、ガスバリア性、光遮蔽性、その他の付加的性能などを高めるために、必要に応じて、アルミニウムなどの金属または金属酸化物の蒸着層を設けてもよいし、紙、合成紙、レーヨン紙などを接着した層を設けてもよい。これらの層は、固定液と直接接触しないように配置されていれば、どこに配置されていてもよい。しかし、透明性が低下するので、病理標本の視認性が損なわれる。
【0052】
さらに、病理標本保存袋には、内容物記入欄などの各種の印刷が施されていてもよいが、病理標本保存袋に成形する前の多層フィルムに、予め内容物記入欄などの各種の印刷が施されていてもよい。また、多層フィルムをコーティングしてもよいが、コーティング(例えば、共押出しコーティング)の前および/または後に、溶融多層体の片面または両面にオゾン処理、コロナ放電処理、電子線照射処理などが施されてもよい。また、得られた多層フィルムに、必要に応じて30〜80℃の温度でエージング処理を行ってもよい。
【0053】
上記の様にして作成したフィルムを使用して、当業者が通常使用する方法を用い、プラスチックフィルムバッグとして加工することによって、本発明の病理標本保存袋が得られる。袋の形状には、特に制限がなく、通常、病理標本保存袋として用いられる種々の形状が使用できる。病理標本保存袋は、例えば、長方形の3辺がシールされ、1辺を取り出し口とし、この取り出し口から固定液と標本を導入した後にヒートシールを行うような単純な2枚重ねのフィルムであってもよい。あるいは、上部(取り出し口)にチャックシーラーによる開閉機構を有し、底部を展開すると自立できるスタンドタイプとしてもよい。チャック機構を有することで、病理標本の出し入れが容易となり、さらに、繰り返し使用できる。また、スタンドタイプにすることにより、縦置きができて視認性が高まる、横に寝かせるよりもスペースを取らないなどの利点が多い。
【0054】
本発明の病理標本保存袋の一例を図1に示す。図1は、スタンドタイプの病理標本保存袋1の正面図である。病理標本保存袋1は、矩形であり、上辺2を除く左辺3、右辺4および下辺5がヒートシールされている。上部(取り出し口)にチャックシール6による開閉機構を有し、下部には、スタンドタイプとして展開できるように底面7が折り畳まれている。この病理標本保存袋1は、図2に示されるような、B層、A層およびC層の順になるように形成された多層フィルムを用いて、図3のようにして製造される。すなわち、図3に示すように、2つの多層フィルム8および9を、C層が相対するように配置する。ついで、底面7を構成するフィルムを折り曲げて、フィルム8と9との間には挟み込む。次いで、上辺2を除く各辺3、4および5をヒートシールすることにより、底部を展開すると自立できるスタンドタイプの病理標本保存袋1が得られる。なお、底面7を構成するフィルムは、保存袋としたときに、最内部にA層が来ないように構成すれば、特に制限がなく、EVOH以外の単一のヒートシール性のフィルムであってもよい。シール性を向上させるためには、低面7を構成するフィルムは、好ましくは、フィルム8および9と同じ層構成とし、底面7を構成するフィルムのC層が外側になるように折り曲げ、このC層がフィルム8および9のC層と接するように配置して、ヒートシールすればよい。
【0055】
チャックシーラー6は、病理標本保存袋の開閉を容易にし、標本の取り出し、入れ替えを容易にするので、設けることが好ましい。チャックシーラー6の断面を、図4に例示する。チャックシーラー6は、突起12を有する突状シール部11と、突起12と密に嵌合する凹部15を有する凹状シール部14とから構成されている。チャックシーラー6を構成する素材には、特に制限がない。単一の樹脂であってもよく、フィルム8および9と同じ構成の樹脂を使用してもよい。しかし、本発明の目的を考慮すると、ホルムアルデヒドガスがチャックシール部分から漏洩することは好ましくないため、ガスバリア性を確保することが重要である。チャックシール6を構成する樹脂としては、病理標本保存袋の最内層と、突状シール部11の平面部13および凹状シール部14の平面部16とが密着するような樹脂を選択すればよい。ヒートシール性に優れた樹脂を使用してヒートシールする方法が好適に採用されるが、これに限定されない。接着剤を使用して接着してもよい。
【0056】
チャックシーラー6は複数個設けてもよい。チャックシーラー6を複数設けることにより、ホルムアルデヒドガスや保存溶液(例えば、ホルマリン液)の漏洩、密閉度(気密性)がさらに高められる。図1は、チャックシーラー6を2つ設けた病理標本保存袋である。チャックの噛み合わせ強度は、1.5kg/5cm以上、好ましくは2.0kg/5cm以上であることが好ましい。噛み合わせ強度は、5cmのチャックシールを剥離するのに必要な強度をいう。また、ホルムアルデヒドガスや保存溶液(例えば、ホルマリン液)が漏洩しない様に袋を二重にすることなども有効である。
【0057】
さらに、図1に示すように、病理標本保存袋1の表面にラベル21を貼付してもよい。ラベル21は、予め、B層表面上に印刷しておいてもよい。また、表面のラベル21には、空欄を設けて、文字を記入してもよい。あるいはラベル21をカラーラベルとし、色で識別や区分できるようにしてもよい。また、袋全体を、視認性を損なわない程度に薄く着色してもよく、カードを差し込めるホルダーを取り付けてもよい。図5は、上記方法で得られた本発明の病理標本保存袋(例ではスタンドタイプ)の使用形態を示す。病理標本22が、固定液のホルマリン23中に保存され、チャックシール6でシールされている。
【0058】
一般に固定液中の病理標本は、−5〜30℃で、より好ましくは、0〜25℃で保存されるので、本発明の病理標本保存袋の使用可能温度範囲は、−5〜40℃であることが好ましい。
【0059】
固定液としては、一般にホルマリンが使用される。ホルマリンは原液(37〜40%程度のホルムアルデヒド水溶液)でも使用可能であるが、一般的には10〜20%ホルムアルデヒド水溶液が使用される。ホルマリンの量を少なくすれば視覚観察としてだけでなく、病理標本保存袋を手に取っての接触観察も可能となる。また、本発明の病理標本保存袋は、塩素、臭素などのハロゲン系元素や酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどに由来する無機物を含まないため、標本ごと焼却処理することも可能である。
【0060】
本発明の病理標本保存袋の容量や形状は、病理標本のサイズや加えるホルマリンの量に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。一般に、50〜5000mlの容量が収納できる袋が、取り扱い性が良好である。
【0061】
また、本発明の病理標本保存袋は、ホルマリン固定臓器標本や胎仔骨格標本向けの病理標本保存袋であるが、病理標本の保存に限らず、広く一般資料の標本保存袋にも応用できる。
【0062】
本発明を以下に具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例に使用した樹脂の一覧を表1に示す。
【0063】
以下実施例および比較例において、ホルムアルデヒド透過性試験は以下の要領で実施した。
(試験方法)
作製した病理標本保存袋に400mlの10%中性緩衝ホルマリンを入れ、二重チャックで密閉して、容積が20リットルのガラス容器中に収納し、以下に記載の試験における所定の条件で放置した。各ガラス容器内のホルムアルデヒド濃度を、経時的に、ガス検知管(ガステック製No.91L検知管:測定範囲0.1〜5ppm)で測定した。1点の測定につき3回測定の平均値を採用した。標準試験は温度25℃、湿度40%にて実施し、苛酷試験として温度40℃、湿度60%で実施した。
【0064】
(実施例1)
エチレン含有量32モル%、けん化度99.5%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH(A1))からなる二軸延伸フィルムと、ポリアミド樹脂(B)(PA−1)からなる二軸延伸積層フィルムを、2液硬化型ポリウレタン系接着剤(三井武田ケミカル(株)製タケラックA385/A50(塗布量3g/m2))を使用したドライラミネート法によって加熱下で貼合せ、A/B層を有するフィルム(A/B)を形成した。なお、PA−1からなる二軸延伸積層フィルムは、ナイロン6/芳香族ナイロン(レニ6001(三菱化学製))/ナイロン6=5/5/5(μm)の構成を有する。
【0065】
次に、未延伸LLDPE(C)(三井石油化学工業(株)製ミラソン11)フィルム(C層)に同じ2液硬化型ポリウレタン接着剤を塗布・乾燥し、C層の接着剤塗布面に上記フィルム(A/B)のA層が接触するようにドライラミネート法によって加熱貼合せ処理を行い、LLDPE(150μm)/EVOH(15μm)/ポリアミド系樹脂(15μm)構成の多層フィルムを得た。
【0066】
この多層フィルムを用いて、つぎのように、図1の病理標本保存袋を作成した。まず、多層フィルムを2枚用意し、それぞれのC層が相対するように配置し、LLDPE製のチャックシール6を2枚の多層フィルムの間に二本配置した。次に、同じ構成の多層フィルムをC層が外側になるように折り畳んで作成した底面7部分を2枚の多層フィルムの間に挟み込んだ。そして、各辺3、4および5をヒートシール加工して、図1の形態の病理標本保存袋を得た。フィルム構成を表1に、上記の評価方法を用いて測定したホルムアルデヒドガスバリア性試験結果を表2に示す。なお、1ヶ月の試験期間中に病理標本保存袋および病理標本に変形や劣化は認められなかった。
【0067】
(実施例2〜3)
表1に示すフィルム構成を用いる以外は、実施例1と同様の方法を使用して病理標本保存袋を作成し、実施例2〜3に示す構成のフィルムでホルムアルデヒドガスバリア性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0068】
(比較例1〜5)
表1に示すフィルム構成を用いる以外は、実施例1と同様の方法を使用して病理標本保存袋を作成し、比較例1〜5に示す構成のフィルムでホルムアルデヒドガスバリア性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1〜3から明らかなように、本発明の病理標本保存袋は、極めてホルムアルデヒドガスバリア性が高く、病理標本保存袋として極めて有用であることが明らかである。比較例1および2は本発明のEVOH(A)を含まないフィルムであり、表2から明かなように、ホルムアルデヒドガスバリア性能が劣る。また、比較例3および4は、EVOH(A)のエチレン含量が本発明の範囲(20〜65モル%)を逸脱する場合であり、ホルムアルデヒドのガスバリア性能が劣ることがわかる。また、比較例5は、最内層にEVOH(A)を配置し、EVOH(A)とホルムアルデヒド水溶液が直接接触する構成とされており、ホルムアルデヒドガスバリア性能が著しく劣ることがわかる。
【0072】
【発明の効果】
本発明は、ガス透過性が極めて少く、透明性、耐水性、耐酸性に優れ、しかも、長期に安定して病理標本を保存できる病理標本保存袋を提供する。本発明の病理標本保存袋は、極めてガス透過性の小さい素材であるEVOHを主成分とするフィルム(層)を有する多層フィルムを用い、かつEVOH層をホルムアルデヒド水溶液と直接接触しないように構成する。この構成により、ホルムアルデヒドガスによる悪臭発生や健康に障害を与えることなく、省スペース化に貢献し、視認性を高め、接触観察が可能となる病理標本保存袋が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の病理標本保存袋の一例を示す正面図である
【図2】図1の病理標本保存袋に用いた多層フィルムの断面図である。
【図3】スタンドタイプの病理標本保存袋の製造方法を示す模式図である。
【図4】図1の病理標本保存袋に用いるチャックシールの構造断面図である。
【図5】本発明のスタンドタイプの病理標本保存袋の使用形態を示す図である。
【符号の説明】
1 病理標本保存袋
2 上辺
3 左辺
4 右辺
5 下辺
6 チャックシーラー
7 底面
8 多層フィルム
9 多層フィルム
11 突状シール部
12 突起
13 平面部
14 凹状シール部
15 凹部
16 平面部
21 ラベル
22 病理標本
23 ホルマリン
【発明の属する技術分野】
本発明は、病理学上の標本等を保存する病理標本保存袋に関する。さらに詳しくは、病理学上の標本を、固定液としてホルマリンを用いて、病理標本保存袋に密封保存した場合に、ホルマリンに由来するホルムアルデヒドガスの袋内部からの透過量が極めて少ないことを特長とする病理標本保存袋に関する。
【0002】
【従来の技術】
病理学あるいはその他の医学関連領域における標本の作製には、ホルマリンを欠くことができない。しかし、ホルマリンを用いた病理標本の保存方法には、種々の不便を伴うことが、従来から、よく知られている。例えば、ホルマリン液やホルムアルデヒドガスが漏れて眼や気管を刺激し、場合によっては観察者の健康を害したり、また標本が乾燥してしまうことがある。また、最近では環境面に及ぼす影響も問題視されている。さらに、標本を、瓶やプラスチック製の容器に収納する場合は、保存するためのスペースを多く必要としたり、標本を直接手で持って観察することが困難で、検索性に乏しいなどの問題がある。また、展示用標本を作る場合、技術と時間を要し、さらにその運搬も容易ではなかった。
【0003】
このような課題を解決するため、プラスチック多層フィルムからなる袋を使用することが提案されている。例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、ポリアミドなどのプラスチックフィルムを適宜選択して、これらを積層した袋を用いることが検討されている(特許文献1)。この特許文献1には、上記プラスチックフィルムのそれぞれの特性、例えば、透明性、耐水性、耐薬品性などを生かして、ホルムアルデヒドガスが透過しない病理学上の標本の保存、視覚観察、接触観察を可能とする病理内蔵標本保存袋が得られると記載されている。しかし、特許文献1に記載された上記プラスチックフィルムの組合せでは、ホルムアルデヒドガスのバリア性が不十分な場合があり、刺激臭などをはじめとする上記課題のより一層の解決が望まれている。
【0004】
さらに、上記特許文献1以外にもプラスチックフィルムからなる病理標本保存袋が複数販売され、使用されている。しかし、これらの病理標本保存袋を使用しても、ホルムアルデヒド臭が充分に解消されているとはいえない。また、近年の環境問題から、塩化ビニル、塩化ビニリデンを含むフィルム素材は塩化水素ガスやダイオキシンの発生原因となる可能性があるため使用することは好ましくない。また、酸化ケイ素や酸化アルミニウムなどによってポリエチレンなどのプラスチックフィルムを表面コート処理することでガスバリア性を高めることはよく知られているが、このようなフィルムを使用して病理標本保存袋を作成した場合、屈曲などによって、多層積層フィルムにひび割れのような荒れが発生して、病理標本の視認性が損なわれてしまうことがある。
【0005】
【特許文献1】
特開昭51−42627号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
プラスチックフィルム製の病理標本保存袋の特長は、使用前の体積は非常に小さい、病理標本の保存に要するスペースは標本の大きさに依存するが比較的小さいスペースで良い、標本を入れた病理標本保存袋上に、その標本に関するデータを簡便に記入あるいは貼付できるために検索性が極めて優れている、透明であるため標本の視認性に優れているなどの点である。そこで、固定液であるホルマリン由来のホルムアルデヒドガスの病理標本保存袋からの漏洩が極めて少なく、ハロゲン元素を含まない素材からなり、視認性(透明性)に優れ、取り扱いやすく、運搬しやすいプラスチックフィルム製の病理標本保存袋が望まれている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意検討した結果、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(以後、EVOHと記す)(A)を主成分とする層(A層)を少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋が上記課題を解決することを見出した。
【0008】
本発明は、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層を少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が、病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋を提供する。
【0009】
また、本発明は、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層をそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が病理標本固定液と直接接触しないように構成されている病理標本保存袋を提供する。
【0010】
本発明は、さらに、エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)層を主成分とするB層と、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層とをそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、外側から内側に向かって、B層/A層/C層の順に積層され、該C層同士がヒートシールされてなる病理標本保存袋を提供する。
【0011】
好ましい実施態様においては、前記ポリアミド系樹脂が、芳香族系ポリアミド樹脂である。
【0012】
好ましい実施態様においては、前記ポリオレフィン系樹脂(C)がエチレンホモポリマーまたはエチレンコポリマーであり、前記C層の厚みが50〜300μmである。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に用いられるEVOH(A)は、エチレン含有量が20〜65モル%であることが好ましい。EVOHのエチレン含有量が20モル%未満では溶融成形性が悪く、また、高湿度下でのガスバリア性が悪化し、65モル%以上ではガスバリア性が不足する。より好ましくは25〜58モル%である。
【0014】
また、EVOHのけん化度は90モル%以上であることが好ましい。けん化度が90%未満では高湿度下でのガスバリア性および熱安定性が悪くなる。好ましくは、けん化度は95モル%以上である。
【0015】
エチレン含有量が20〜65モル%、けん化度が90モル%以上のEVOHは、例えば、メタノール、t−ブタノール、ジメチルスルホキシドなどの溶媒中で、加圧下に過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリルなどの重合開始剤を用いて、エチレンとビニルエステルとを当業者が用いる方法で重合させ、続いて酸、またはアルカリ触媒でけん化して得られる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルエステルが代表例として挙げられるが、その他の脂肪酸エステル(例えばプロピオン酸ビニルエステル、ピバリン酸ビニルエステルなど)を使用することもできる。
【0016】
「EVOH(A)を主成分とする」とは、EVOHのみで構成されてもよく、また、EVOHに加えて、本発明の目的が阻害されない範囲で、EVOHを形成するモノマー以外のモノマーとの共重合体またはEVOH以外の樹脂を含有していてもよいことを意味する。例えば、プロピレン、ブチレン、不飽和カルボン酸またはそのエステル{例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)など}、ビニルシラン化合物(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン)、ビニルピロリドン(N−ビニルピロリドンなどのモノマーを共重合し、共重合体とすることもできる。EVOH以外の樹脂としては、たとえば、部分けん化エチレン−酢酸ビニル、ポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0017】
また、EVOH(A)は、エチレン含有量の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよく、また、重合度やけん化度の異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。さらにエチレン含有量と重合度あるいはけん化度が共に異なる2種類以上のEVOHの混合物であってもよい。EVOH(A)が異なるEVOHの混合物である場合、混合物のエチレン含有量が20〜65モル%、けん化度が90モル%以上であればよい。
【0018】
さらに、本発明のEVOH(A)には、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色剤、フィラー、ホウ素化合物、アルカリ金属塩、リン化合物などをブレンドすることもできる。
【0019】
EVOH(A)のメルトインデックス(MI)(190℃、2160g荷重下)は0.1〜50g/10minであることが好ましく、0.5〜20g/10minであることが更に好ましい。
【0020】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするA層と、病理標本固定液とが直接接触することがないように、すなわち、A層が病理標本保存袋の最内層とならないようにすることが重要である。A層は、親水性の強い樹脂からなるために、固定液となるホルマリン(一般的には、10〜20%のホルムアルデヒド水溶液)と直接接触すると、A層のホルムアルデヒドガスのバリア性が著しく悪化するため好ましくない。
【0021】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするフィルム(A層)と、適切な各種プラスティックフィルムとを積層することが重要である。病理標本の包装材としては(1)耐水性があること、(2)ガス透過性が極めて少ないこと、(3)透明性に優れていること、(4)ホルマリンは酸を含有するので、耐酸性であること、(5)ヒートシール性のあること、等が要求される。しかし、一枚で上記病理標本の包装材としての特性をすべて具備しているプラスチックフィルムは、現在、存在しない。透明性に関しては、多くの優れた素材が存在するが、耐酸性があり、かつ、ガス透過性の極めて少ない素材は見当たらない。そこで、EVOH以外の、各種プラスチックフィルムが有する種々の特性、すなわち透明性、耐水性、耐薬品性、ガス透過性、ヒートシール性などに着目し、異なる特性を有する、1または2以上のプラスチックフィルムを、EVOH(A)を主成分とするフィルム(A層)と積層する。このようにして得られる包装材は、それぞれのプラスチックフィルムが有する特性が活かされると共に、それぞれのプラスチックフィルムが有する包装材としての欠点が相互に補完され、一つの優れた包装材となる。このような包装材を用いることにより、上記の病理標本の保存に要求される性能を有し、かつ長期保存安定性にも優れた病理標本保存袋を製造することができる。
【0022】
本発明においては、EVOH(A)を主成分とするA層と積層する層として、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層およびポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層が好ましく用いられる。ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層は、ガス透過性・通気性の少ないプラスチックフィルムである。他方、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、ガス透過性は高いが、ヒートシール性、耐酸性に優れている。これらの各層を1または2以上組合せて、本発明の病理標本保存袋が製造される。
【0023】
本発明に用いられるポリアミド系樹脂(B)としては、脂肪族ポリアミド樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などが使用できる。芳香族ポリアミド系樹脂のガスバリア性が脂肪族ポリアミド樹脂のガスバリア性よりも優れているので、芳香族ポリアミド系樹脂が好ましく用いられる。芳香族系ポリアミド樹脂のなかでも、非晶質ポリアミドが好ましく用いられる。芳香族ポリアミド樹脂を構成するモノマーと脂肪族ポリアミド樹脂を構成するモノマーとの共重合体、あるいはこれらのブロック共重合体も用いられる。
【0024】
脂肪族ポリアミド樹脂としては、ナイロン6、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン6−11、ナイロン6−12などの汎用ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0025】
芳香族系ポリアミド樹脂とは、ジアミン成分、ジカルボン酸成分のいずれか一方、あるいは、両方が芳香族化合物である重縮合体である。代表例として、メタキシリレン基含有ポリアミド樹脂が挙げられる。
【0026】
メタキシリレン基含有ポリアミド樹脂としては、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリメタキシリレンセバカミド、ポリメタキシリレンスベラミドなどの単独重合体、および、メタキシリレン/パラキシリレンアジパミド共重合体、メタキシリレン/パラキシリレンアゼラミド共重合体などのような共重合体が挙げられる。また、上記単独重合体または共重合体の成分と、ヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、ピペラジンのような脂環式ジアミン、パラ−ビス−(2−アミノエチル)ベンゼンのような芳香族ジアミン、テレフタル酸のような芳香族ジカルボン酸、ε−ジカプロラクタムのようなラクタム、アミノヘプタン酸のようなアミノカルボン酸、パラ−アミノメチル安息香酸のような芳香族アミノカルボン酸等とを共重合した共重合体が挙げられる。
【0027】
中でも、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンを含む混合キシリレンジアミンと、α、ω−脂肪族ジカルボン酸とから生成される構成単位を含有する重合体が好ましく用いられる。混合キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンが80モル%以下であることが好ましく、75モル%以下であることがより好ましい。α、ω−脂肪族ジカルボン酸は、炭素数が6〜10個であることが好ましい。また、キシリレンジアミンと脂肪族ジカルボン酸とから生成された構成単位を、分子鎖中において少なくとも70モル%以上有するのが好ましく、75モル%以上有するのが更に好ましい。パラキシリレンジアミンが80モル%以下であるメタキシリレンジアミンとの混合キシリレンジアミンと、炭素数が6〜10個のα、ω−脂肪族ジカルボン酸とから生成される構成単位を、分子鎖中において少なくとも70モル%以上含有する共重合体が好ましく用いられる。
【0028】
また、上記芳香族系ポリアミド樹脂と上記脂肪族ポリアミド樹脂との混合物を利用するときには、成形時にこれらを混合してもよく、あるいは、予めこれらを配合した製品を利用してもよい。
【0029】
芳香族系ポリアミド樹脂として使用される非晶質ポリアミドとは、ジアミン成分、ジカルボン酸成分のうちの少なくとも一方が芳香族化合物である重縮合体であって、DSC測定において実質上吸熱結晶溶解ピークを有さないポリアミドをいう。その代表例としては、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジカルボン酸の重縮合体が挙げられる。
【0030】
上記脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)−メタン、2,2−ビス−(4−アミノヘキシル)−イソプロピリデン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、1,5−ジアミノペンタン、1,4−ジアミノブタンおよび1,3−ジアミノプロパンが好適に用いられる。
【0031】
上記芳香族カルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、アルキル置換イソフタル酸、アルキル置換テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが挙げられる。これらのジカルボン酸は一種またはそれ以上を同時に用いることができる。中でも、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸などが熱成形性、透明性およびガスバリア性などの面で好適である。
【0032】
非晶性ポリアミドの具体例としては、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸の重縮合体、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸/テレフタル酸の重縮合体、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンとテレフタル酸の重縮合体などが挙げられる。中でも、ヘキサメチレンジアミンとイソフタル酸/テレフタル酸の重縮合体においては、イソフタル酸/テレフタル酸のモル比が60/40〜95/5であるのが好ましく、65/35〜90/10であるのがより好ましい。
【0033】
なお、「ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層」は、ポリアミド系樹脂(B)のみで構成されてもよく、また、本発明の目的が阻害されない範囲で、他の配合物、例えば、帯電防止材、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等が配合されていてもよい。また、「ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層」は、単一の樹脂層で構成されていてもよいし、複数の樹脂層が積層された積層体で構成されていてもよい。このような積層体としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂を主成分とする層(B1層)と、芳香族ポリアミド樹脂を主成分とする層(B2層)を積層した積層体を挙げることができる。このような積層体として、例えば、B1層/B2層/B1層の順で積層された積層体が挙げられる。
【0034】
本発明に用いられるポリオレフィン系樹脂(C)としては、押出成形性、延伸性およびヒートシール性に優れたものが好ましい。このようなポリオレフィン系樹脂としては、以下の樹脂:線状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEと略称する)、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン(以下、VLDPEと略称する)、これらのポリエチレンの混合物(例えば、VLDPEと少量のLLDPEとの混合樹脂)、およびエチレンコポリマー(例えば、エチレン−プロピレン共重合体など);プロピレンホモポリマー;プロピレンコポリマー;エチレン−酢酸ビニル共重合体(以下、EVAと略称する)などのエチレンとビニルエステル単量体との共重合体;脂肪族不飽和カルボン酸、脂肪族不飽和カルボン酸エステルより選ばれる単量体とエチレンとの共重合体;アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル等から選ばれるアクリル系単量体とエチレンとの共重合体;アイオノマー樹脂;LLDPEとEVAの混合樹脂;結晶性プロピレン−エチレン共重合体とポリプロピレン系エラストマーの混合樹脂;などが好ましく用いられる。また、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルなどを使用することもできる。これらの中でもとりわけ、ヒートシール性、耐水性が共に優れた層を形成するという観点から、LLDPE、高密度ポリエチレンなどのエチレンホモポリマー、これらの混合樹脂、あるいはエチレンコポリマーが好適に使用される。
【0035】
「ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層」は、ポリオレフィン系樹脂(C)のみで構成されてもよく、本発明の目的が阻害されない範囲で、帯電防止材、滑剤、耐ブロッキング剤、安定剤、染料、顔料等の配合物を含んでいてもよい。
【0036】
上記EVOH(A)を主成分とするA層を必須の層とし、このA層と、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層および/またはポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層を、A層が直接ホルムアルデヒド水溶液と接することがないように(即ち、最内層にならないように)積層し、例えば、ヒートシールなどにより、袋状に成形して、本発明の病理標本保存袋が得られる。各層は、各々一層でもよく、複数であってもよい。
【0037】
本発明において、多層フィルムを形成する各層(フィルム)間の接着力が充分に得られない場合に、接着剤を介して接着してもよい。このような接着剤としては、各層同士を接着できるものであれば、特に限定されない。例えば、二液硬化型ポリウレタン系の接着剤;不飽和カルボン酸またはその無水物(無水マレイン酸など)をオレフィン系重合体または共重合体[例えば、ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル、エチルエステルなど)共重合体)]にグラフト重合して得られるグラフト重合体を主成分とする接着剤などを挙げることができる。
【0038】
二液硬化型ポリウレタン系接着剤としては、エステル結合、エーテル結合、およびウレタン結合からなる群から選ばれる少なくとも一種の結合を主鎖に含み、かつ水酸基を2個以上含む主剤と、多官能イソシアネートの硬化剤とからなる接着剤が挙げられる。
【0039】
主剤としては、例えば、ポリプロピレングリコールとビスフェノールAとを反応させたポリエーテル;ポリプロピレングリコールとトリレンジイソシアネートまたはm−キシリレンジイソシアネートとを反応させたポリエーテルポリウレタン;イソフタル酸、テレフタル酸、セバシン酸またはアジピン酸と、ジエチレングリコール、エチレングリコール、あるいはネオペンチルグリコールとを反応させたポリエステルポリウレタンなどが挙げられる。
【0040】
多官能イソシアネートの硬化剤としては、トリメチロールプロパンとイソホロンジイソシアネートとの反応物;ポリプロピレングリコール付加グリセリンとm−キシリレンジイソシアネートとの反応物;m−キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートなどのジイソシアネート類が例示される。
【0041】
接着剤の塗布量は、固形分として0.05〜4g/m2、好ましくは0.1〜4g/m2、より好ましくは0.1〜3g/m2である。
【0042】
本発明の病理標本保存袋を構成する多層フィルムの各層の厚み(同じ層を2層以上含む場合は、その合計の厚み)は、特に限定されない。EVOH(A)を主成分とするA層は、通常1〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層は、通常1〜50μm、好ましくは1〜30μm、さらに好ましくは2〜20μmである。また、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、通常10〜500μm、好ましくは30〜300μm、さらに好ましくは50〜200μmである。また、病理標本保存袋全体の厚みとしては、硬さ、取り扱いやすさなどの面から、10〜500μm、好ましくは20〜400μm、より好ましくは50〜300μmである。
【0043】
上記の様に、EVOH(A)を主成分とするA層を必須の層とし、これに、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層および/またはポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層を積層して、本発明の病理標本保存袋が製造される。各層は、一層のみを用いてもよく、二層以上を用いても良い。本発明の病理標本保存袋を構成する多層フィルムの層構成は、A層がホルマリン液に直接接触しない構成であれば、特に制限されるものではない。多層フィルムの層の構成は、接着剤(接着性樹脂)層をAdとした場合に、最外層からA/B、A/C、B/A/C、B/A/Ad/C、B/Ad/A/Ad/C、A/B/Ad/C、A/Ad/C、C/Ad/B/A/Ad/C、C/Ad/A/A/Ad/Cなどが代表的なものとして挙げられる。なかでも、B/A/Ad/C、B/Ad/A/Ad/Cなどのように、B層を最外層、A層を中間層、C層を最内層となるように配置することが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層はヒートシール性、および耐酸性に優れるため、ホルマリン液に接する最内層とすることが好ましい。
【0044】
なお、最内層と最外層の両方にC層を設ける場合、それぞれの層を形成する樹脂は同じものであっても、異なるものであってもよい。また本発明の効果を損なわない範囲で、成形時に発生するトリムなどのスクラップは、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層にブレンドしてもよいし、別途回収層を設けて再利用してもよい。
【0045】
本発明の病理標本保存袋は、一般的には、A層、B層、およびC層を適宜組み合わせた多層フィルムを製造し、ついで、この多層フィルムを、例えば、ヒートシールなどの方法により、袋体とすることにより、製造される。
【0046】
本発明の病理標本保存袋の製造に用いる多層フィルムは、当業者が多層フィルムを製造する際に通常用いる方法によって、製造される。例えば、ドライラミネート法、押出しラミネート法、共押出しラミネート法、共押出し成形法、共押出しパイプ成形法、共射出成形法、溶液コート法などが挙げられる。ドライラミネート法、押出しラミネート法、共押出しラミネート法などが好適に使用される。
【0047】
積層される各層(各フィルム)としては、無延伸フィルム、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム、圧延フィルムなどのいずれのフィルムも使用できる。EVOH(A)を主成分とするA層は、二軸延伸されていることが好ましい。また、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層も、二軸延伸されていることが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層は、無延伸であることが好ましい。二軸延伸されたA層およびB層を有し、無延伸のC層を有する多層フィルムは、薄くて、優れたガスバリア性を有する。
【0048】
このようにして得られる各フィルムを、樹脂接着剤を用いてドライラミネート法により積層して得られる多層フィルムが好ましく用いられる。多層フィルムをドライラミネート法で成形する際には、各フィルムのフィルム成形時の流れ方向(MD)を同一方向にして積層することが、直線カット性の観点から特に好ましい。
【0049】
直線カット性とは、例えば、長方形の多層フィルムの上辺を両手でつまんで持ち上げて自然に垂らし、多層フィルムの上辺から下辺に向かって鉛直方向に引裂いた際の、切断線の直線性を指す。すなわち、直線カット性に優れるということは、切断線が直線状であり、多層フィルムを引裂開始位置から鉛直方向に引裂いた場合に、引裂終端位置から下辺に垂直に引いた直線と該下辺との交点をAとし、上辺の引裂開始位置から下辺に垂直に引いた直線と該下辺との交点をBとした場合に、交点Aと交点Bの間隔が小さいことを意味する。
【0050】
直線カット性は、内容物を充填したフレキシブルパウチの形体をとる病理標本保存袋とする場合は特に重要であり、直線カット性が不十分の場合は、袋を引裂いて開口する際に内容物がこぼれやすくなる。
【0051】
得られた多層フィルムの強度、ガスバリア性、光遮蔽性、その他の付加的性能などを高めるために、必要に応じて、アルミニウムなどの金属または金属酸化物の蒸着層を設けてもよいし、紙、合成紙、レーヨン紙などを接着した層を設けてもよい。これらの層は、固定液と直接接触しないように配置されていれば、どこに配置されていてもよい。しかし、透明性が低下するので、病理標本の視認性が損なわれる。
【0052】
さらに、病理標本保存袋には、内容物記入欄などの各種の印刷が施されていてもよいが、病理標本保存袋に成形する前の多層フィルムに、予め内容物記入欄などの各種の印刷が施されていてもよい。また、多層フィルムをコーティングしてもよいが、コーティング(例えば、共押出しコーティング)の前および/または後に、溶融多層体の片面または両面にオゾン処理、コロナ放電処理、電子線照射処理などが施されてもよい。また、得られた多層フィルムに、必要に応じて30〜80℃の温度でエージング処理を行ってもよい。
【0053】
上記の様にして作成したフィルムを使用して、当業者が通常使用する方法を用い、プラスチックフィルムバッグとして加工することによって、本発明の病理標本保存袋が得られる。袋の形状には、特に制限がなく、通常、病理標本保存袋として用いられる種々の形状が使用できる。病理標本保存袋は、例えば、長方形の3辺がシールされ、1辺を取り出し口とし、この取り出し口から固定液と標本を導入した後にヒートシールを行うような単純な2枚重ねのフィルムであってもよい。あるいは、上部(取り出し口)にチャックシーラーによる開閉機構を有し、底部を展開すると自立できるスタンドタイプとしてもよい。チャック機構を有することで、病理標本の出し入れが容易となり、さらに、繰り返し使用できる。また、スタンドタイプにすることにより、縦置きができて視認性が高まる、横に寝かせるよりもスペースを取らないなどの利点が多い。
【0054】
本発明の病理標本保存袋の一例を図1に示す。図1は、スタンドタイプの病理標本保存袋1の正面図である。病理標本保存袋1は、矩形であり、上辺2を除く左辺3、右辺4および下辺5がヒートシールされている。上部(取り出し口)にチャックシール6による開閉機構を有し、下部には、スタンドタイプとして展開できるように底面7が折り畳まれている。この病理標本保存袋1は、図2に示されるような、B層、A層およびC層の順になるように形成された多層フィルムを用いて、図3のようにして製造される。すなわち、図3に示すように、2つの多層フィルム8および9を、C層が相対するように配置する。ついで、底面7を構成するフィルムを折り曲げて、フィルム8と9との間には挟み込む。次いで、上辺2を除く各辺3、4および5をヒートシールすることにより、底部を展開すると自立できるスタンドタイプの病理標本保存袋1が得られる。なお、底面7を構成するフィルムは、保存袋としたときに、最内部にA層が来ないように構成すれば、特に制限がなく、EVOH以外の単一のヒートシール性のフィルムであってもよい。シール性を向上させるためには、低面7を構成するフィルムは、好ましくは、フィルム8および9と同じ層構成とし、底面7を構成するフィルムのC層が外側になるように折り曲げ、このC層がフィルム8および9のC層と接するように配置して、ヒートシールすればよい。
【0055】
チャックシーラー6は、病理標本保存袋の開閉を容易にし、標本の取り出し、入れ替えを容易にするので、設けることが好ましい。チャックシーラー6の断面を、図4に例示する。チャックシーラー6は、突起12を有する突状シール部11と、突起12と密に嵌合する凹部15を有する凹状シール部14とから構成されている。チャックシーラー6を構成する素材には、特に制限がない。単一の樹脂であってもよく、フィルム8および9と同じ構成の樹脂を使用してもよい。しかし、本発明の目的を考慮すると、ホルムアルデヒドガスがチャックシール部分から漏洩することは好ましくないため、ガスバリア性を確保することが重要である。チャックシール6を構成する樹脂としては、病理標本保存袋の最内層と、突状シール部11の平面部13および凹状シール部14の平面部16とが密着するような樹脂を選択すればよい。ヒートシール性に優れた樹脂を使用してヒートシールする方法が好適に採用されるが、これに限定されない。接着剤を使用して接着してもよい。
【0056】
チャックシーラー6は複数個設けてもよい。チャックシーラー6を複数設けることにより、ホルムアルデヒドガスや保存溶液(例えば、ホルマリン液)の漏洩、密閉度(気密性)がさらに高められる。図1は、チャックシーラー6を2つ設けた病理標本保存袋である。チャックの噛み合わせ強度は、1.5kg/5cm以上、好ましくは2.0kg/5cm以上であることが好ましい。噛み合わせ強度は、5cmのチャックシールを剥離するのに必要な強度をいう。また、ホルムアルデヒドガスや保存溶液(例えば、ホルマリン液)が漏洩しない様に袋を二重にすることなども有効である。
【0057】
さらに、図1に示すように、病理標本保存袋1の表面にラベル21を貼付してもよい。ラベル21は、予め、B層表面上に印刷しておいてもよい。また、表面のラベル21には、空欄を設けて、文字を記入してもよい。あるいはラベル21をカラーラベルとし、色で識別や区分できるようにしてもよい。また、袋全体を、視認性を損なわない程度に薄く着色してもよく、カードを差し込めるホルダーを取り付けてもよい。図5は、上記方法で得られた本発明の病理標本保存袋(例ではスタンドタイプ)の使用形態を示す。病理標本22が、固定液のホルマリン23中に保存され、チャックシール6でシールされている。
【0058】
一般に固定液中の病理標本は、−5〜30℃で、より好ましくは、0〜25℃で保存されるので、本発明の病理標本保存袋の使用可能温度範囲は、−5〜40℃であることが好ましい。
【0059】
固定液としては、一般にホルマリンが使用される。ホルマリンは原液(37〜40%程度のホルムアルデヒド水溶液)でも使用可能であるが、一般的には10〜20%ホルムアルデヒド水溶液が使用される。ホルマリンの量を少なくすれば視覚観察としてだけでなく、病理標本保存袋を手に取っての接触観察も可能となる。また、本発明の病理標本保存袋は、塩素、臭素などのハロゲン系元素や酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどに由来する無機物を含まないため、標本ごと焼却処理することも可能である。
【0060】
本発明の病理標本保存袋の容量や形状は、病理標本のサイズや加えるホルマリンの量に応じて選択すればよく、特に限定されるものではない。一般に、50〜5000mlの容量が収納できる袋が、取り扱い性が良好である。
【0061】
また、本発明の病理標本保存袋は、ホルマリン固定臓器標本や胎仔骨格標本向けの病理標本保存袋であるが、病理標本の保存に限らず、広く一般資料の標本保存袋にも応用できる。
【0062】
本発明を以下に具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。各実施例および比較例に使用した樹脂の一覧を表1に示す。
【0063】
以下実施例および比較例において、ホルムアルデヒド透過性試験は以下の要領で実施した。
(試験方法)
作製した病理標本保存袋に400mlの10%中性緩衝ホルマリンを入れ、二重チャックで密閉して、容積が20リットルのガラス容器中に収納し、以下に記載の試験における所定の条件で放置した。各ガラス容器内のホルムアルデヒド濃度を、経時的に、ガス検知管(ガステック製No.91L検知管:測定範囲0.1〜5ppm)で測定した。1点の測定につき3回測定の平均値を採用した。標準試験は温度25℃、湿度40%にて実施し、苛酷試験として温度40℃、湿度60%で実施した。
【0064】
(実施例1)
エチレン含有量32モル%、けん化度99.5%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH(A1))からなる二軸延伸フィルムと、ポリアミド樹脂(B)(PA−1)からなる二軸延伸積層フィルムを、2液硬化型ポリウレタン系接着剤(三井武田ケミカル(株)製タケラックA385/A50(塗布量3g/m2))を使用したドライラミネート法によって加熱下で貼合せ、A/B層を有するフィルム(A/B)を形成した。なお、PA−1からなる二軸延伸積層フィルムは、ナイロン6/芳香族ナイロン(レニ6001(三菱化学製))/ナイロン6=5/5/5(μm)の構成を有する。
【0065】
次に、未延伸LLDPE(C)(三井石油化学工業(株)製ミラソン11)フィルム(C層)に同じ2液硬化型ポリウレタン接着剤を塗布・乾燥し、C層の接着剤塗布面に上記フィルム(A/B)のA層が接触するようにドライラミネート法によって加熱貼合せ処理を行い、LLDPE(150μm)/EVOH(15μm)/ポリアミド系樹脂(15μm)構成の多層フィルムを得た。
【0066】
この多層フィルムを用いて、つぎのように、図1の病理標本保存袋を作成した。まず、多層フィルムを2枚用意し、それぞれのC層が相対するように配置し、LLDPE製のチャックシール6を2枚の多層フィルムの間に二本配置した。次に、同じ構成の多層フィルムをC層が外側になるように折り畳んで作成した底面7部分を2枚の多層フィルムの間に挟み込んだ。そして、各辺3、4および5をヒートシール加工して、図1の形態の病理標本保存袋を得た。フィルム構成を表1に、上記の評価方法を用いて測定したホルムアルデヒドガスバリア性試験結果を表2に示す。なお、1ヶ月の試験期間中に病理標本保存袋および病理標本に変形や劣化は認められなかった。
【0067】
(実施例2〜3)
表1に示すフィルム構成を用いる以外は、実施例1と同様の方法を使用して病理標本保存袋を作成し、実施例2〜3に示す構成のフィルムでホルムアルデヒドガスバリア性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0068】
(比較例1〜5)
表1に示すフィルム構成を用いる以外は、実施例1と同様の方法を使用して病理標本保存袋を作成し、比較例1〜5に示す構成のフィルムでホルムアルデヒドガスバリア性試験を実施した。結果を表2に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
実施例1〜3から明らかなように、本発明の病理標本保存袋は、極めてホルムアルデヒドガスバリア性が高く、病理標本保存袋として極めて有用であることが明らかである。比較例1および2は本発明のEVOH(A)を含まないフィルムであり、表2から明かなように、ホルムアルデヒドガスバリア性能が劣る。また、比較例3および4は、EVOH(A)のエチレン含量が本発明の範囲(20〜65モル%)を逸脱する場合であり、ホルムアルデヒドのガスバリア性能が劣ることがわかる。また、比較例5は、最内層にEVOH(A)を配置し、EVOH(A)とホルムアルデヒド水溶液が直接接触する構成とされており、ホルムアルデヒドガスバリア性能が著しく劣ることがわかる。
【0072】
【発明の効果】
本発明は、ガス透過性が極めて少く、透明性、耐水性、耐酸性に優れ、しかも、長期に安定して病理標本を保存できる病理標本保存袋を提供する。本発明の病理標本保存袋は、極めてガス透過性の小さい素材であるEVOHを主成分とするフィルム(層)を有する多層フィルムを用い、かつEVOH層をホルムアルデヒド水溶液と直接接触しないように構成する。この構成により、ホルムアルデヒドガスによる悪臭発生や健康に障害を与えることなく、省スペース化に貢献し、視認性を高め、接触観察が可能となる病理標本保存袋が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の病理標本保存袋の一例を示す正面図である
【図2】図1の病理標本保存袋に用いた多層フィルムの断面図である。
【図3】スタンドタイプの病理標本保存袋の製造方法を示す模式図である。
【図4】図1の病理標本保存袋に用いるチャックシールの構造断面図である。
【図5】本発明のスタンドタイプの病理標本保存袋の使用形態を示す図である。
【符号の説明】
1 病理標本保存袋
2 上辺
3 左辺
4 右辺
5 下辺
6 チャックシーラー
7 底面
8 多層フィルム
9 多層フィルム
11 突状シール部
12 突起
13 平面部
14 凹状シール部
15 凹部
16 平面部
21 ラベル
22 病理標本
23 ホルマリン
Claims (5)
- エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層を少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が、病理標本固定液と直接接触しないように構成されている、病理標本保存袋。
- エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)を主成分とするB層をそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、該A層が病理標本固定液と直接接触しないように構成されている、病理標本保存袋。
- エチレン含有量20〜65モル%、けん化度90モル%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を主成分とするA層と、ポリアミド系樹脂(B)層を主成分とするB層と、ポリオレフィン系樹脂(C)を主成分とするC層とをそれぞれ少なくとも一層有する多層フィルムからなる病理標本保存袋であって、外側から内側に向かって、B層/A層/C層の順に積層され、該C層同士がヒートシールされてなる、病理標本保存袋。
- 前記ポリアミド系樹脂が、芳香族系ポリアミド樹脂である、請求項2または3に記載の病理標本保存袋。
- 前記ポリオレフィン系樹脂(C)がエチレンホモポリマーまたはエチレンコポリマーであり、前記C層の厚みが50〜300μmである、請求項3に記載の病理標本保存袋。
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Legal Events
Date | Code | Title | Description |
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A711 | Notification of change in applicant |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A711 Effective date: 20041119 |
|
A521 | Written amendment |
Effective date: 20041119 Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A821 |