JP2004114586A - 強化繊維基材、プリフォームおよびそれよりなる繊維強化樹脂成形体ならびに繊維強化樹脂成形体の製造方法 - Google Patents

強化繊維基材、プリフォームおよびそれよりなる繊維強化樹脂成形体ならびに繊維強化樹脂成形体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】高繊維含有率にも拘わらず樹脂含浸性に優れるとともに、優れたコンポジット特性を有するFRPが得られる強化繊維基材およびプリフォームならびにこれらからなるFRPおよびその製造方法の提供。
【解決手段】次の要件(1)および(2)のいずれをも満足することを特徴とする強化繊維基材1。接着条件:温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下でかつ接着時間が3時間以内であること。要件(1):強化繊維基材1を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。要件(2):強化繊維基材を強化繊維2の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2αの3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secの範囲内であること。
【選択図】図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化樹脂成形体(以下、FRPと記す。)ならびにそれを構成するのに適した強化繊維基材およびプリフォームおよびその製造方法の改良に関し、詳しくは、後述するRTM法やVaRTM法により高品質のFRPを製造するにあたり、高繊維含有率(Vf)にも拘わらず、マトリックス樹脂の含浸が良好で、例えば航空機の翼や胴体などの構造体に適する優れたコンポジット特性を発現せしめる強化繊維基材およびプリフォームならびにそれからなるFRPおよびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、航空機構造部材などの高品質が要求されるFRPの製造方法として、強化繊維基材にあらかじめマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグを用い、これを型に積層した上でバッグフィルムで覆い、オートクレーブ(加熱加圧炉)内で加熱、加圧し、樹脂を硬化させるオートクレーブ成形法が多用されている。この成形法は、FRPにおいてもボイドの発生が少なく、均質であるとともに高品質であることから好ましく使用されている。
【0003】
しかし、近年成形および材料コストの低減を図るべくオートクレーブを使用せずに、上型と下型の間に形成されたキャビティにドライ状態の強化繊維基材をセットし、クリアランス内を真空減圧し液状のマトリックス樹脂の注入を行うResin Transfer Molding process(以下、RTM法と記す。)や、成形型上にドライ状態の強化繊維基材を積層し、バッグフィルムで覆いバッグ内を真空にした後、マトリックス樹脂を注入するいわゆる減圧注入成形法(Vacuum assisted Resin Transfer Molding process、以下、VaRTM法と記す。)などの注入成形法が航空機構造部材に適用されてきつつある。
【0004】
ここで、RTM法などにおいては、ドライ状態の強化繊維基材に液状のマトリックス樹脂を含浸させることから強化繊維基材への樹脂含浸のし易さが成形性に大きく影響を及ぼすため、樹脂含浸しやすい基材が求められる。樹脂含浸を容易にするという観点からは、例えば特許文献1に1層の基材通気量が20〜300cm/cm・secの織物が、特許文献2に1層の基材通気量が2〜50cm/cm・secの強化繊維シートが提案されている。これらの強化繊維基材は、ハンドレイアップ成形法により強化繊維基材1枚積層させる毎にマトリックス樹脂を含浸させるコンクリート構造物の補修・補強補強用強化繊維基材としては取り扱いやすく樹脂含浸しやすい基材と言える。
【0005】
しかしながら、これらの基材はRTM法などの注入成形に必要な多層のプリフォームを形成できないといった問題点を有していた。また、ハンドレイアップ成形により得られるFRPの繊維体積率(以下、Vfと記す。)は通常20〜40%程度である。しかし、RTM法やVaRTM法などによって得られるFRPのVfは40〜60%と高く、通気量に関してハンドレイアップ成形法のように強化繊維基材1枚毎にマトリックス樹脂の含浸と脱泡を交互に繰り返し、かつ、低VfのFRPを作製する場合においては1層の通気量が樹脂の含浸の指標となるが、RTM法などのように強化繊維基材を複数層積層したプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させ、かつ、高VfのFRPが得たい場合においてはその通気量が必ずしもマトリックス樹脂の含浸性と一致しないという問題があった。
【0006】
一方、特許文献3には、強化繊維基材同士の接着性を有するプリフォームが記載されている。このプリフォームは強化繊維基材同士が接着性を有していることからプリフォームを製造する段階で強化繊維の配向がずれることがないのでRTM法用の基材として好ましい材料である。しかし、マトリックス樹脂の含浸性については記載されていない。
【0007】
本発明者らは、係るプリフォームを製造し、試してみたところ、用いる樹脂や接着条件によって含浸性が大幅に異なることが分かった。すなわち、強化繊維基材1枚における通気量の大きい強化繊維基材がFRP用の基材として好適であるとは言えず、RTM法やVaRTM法により高品質のFRPを製造するにあたり、高Vfにも拘わらず、マトリックス樹脂の含浸が良好な強化繊維基材はいまだ見いだされていないのが現状である。
【0008】
【特許文献1】
特開平10−102792号公報(第3頁、段落0011)
【0009】
【特許文献2】
特開2002−106176号公報(第3頁、段落0013)
【0010】
【特許文献3】
特表平8−509922号公報(第5頁)
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解決すること、すなわち、RTM法やVaRTM法などの注入成形法により、ドライ状態の強化繊維基材に液状のマトリックス樹脂を含浸させて、航空機の構造部材などの高品質FRPを作製する際に、高Vfにも拘わらず樹脂含浸性に優れるとともに、優れたコンポジット特性を有するFRPが得られる強化繊維基材およびプリフォームならびにこれらからなるFRPおよびその製造方法を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
発明者は、上記した問題点を解決するために鋭意検討を行い、RTM法などによりドライ状態の基材を積層したプリフォームに液状のマトリックス樹脂を含浸させる際の樹脂含浸性と積層体における通気性に密接な関係があることを見い出すとともに、以下の構成を有することにより、樹脂含浸性に優れ、高Vfでかつ強化繊維の持つ高強度・高弾性率の特性を十分に発揮できるFRPが得られることを見い出すに至った。
【0013】
すなわち、本発明の第1の強化繊維基材は、強化繊維糸条が並行に配列された強化繊維シートの少なくとも片面に、ガラス転位点Tgが0〜95℃である接着樹脂が付着されてなる強化繊維基材であって、次の接着条件で複数枚の強化繊維基材同士を接着させた状態において、次の要件(1)および(2)のいずれをも満足することを特徴とするものである。
【0014】
接着条件:温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下でかつ接着時間が3時間以内であること。
【0015】
要件(1):強化繊維基材を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。
【0016】
要件(2):強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2αの3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secの範囲内であること。
【0017】
また、本発明の第2の強化繊維基材は、強化繊維糸条が互いに並行に配列した状態のシートを形成し、このシートの複数枚がそれぞれのシートの強化繊維の交差角が異なる角度で積層された状態で、ステッチ糸により一体にされた強化繊維ステッチ基材であって、この強化繊維ステッチ基材における強化繊維の総重量が300〜900g/mで、かつその通気量が0.5〜20cm/cm・secであることを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の強化繊維基材積層体は、前記強化繊維基材の少なくとも2枚以上が接着樹脂により接着され、一体化されていることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明のプリフォームは、前記強化繊維基材、この基材を複数積層してなる強化繊維基材積層体、またはそれらの組み合わせからなり、かつ接着樹脂により接着されて一体となっていることを特徴とするものである。
【0020】
また、本発明の繊維強化樹脂成形体は、前記強化繊維基材、積層強化繊維基材、プリフォームにマトリックス樹脂を含浸し、硬化させてなることを特徴とするものである。
【0021】
また、本発明のプリフォームの製造方法は、強化繊維糸条が並行に配列された強化繊維シートの少なくとも片面に、ガラス転位点Tgが0〜95℃の接着樹脂が付着した強化繊維基材を所定枚数積層し、隣接する繊維基材同士を接着させるとともに次の要件のいずれをも満足することを特徴とするものである。
【0022】
要件(1):強化繊維基材を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。
【0023】
要件(2):強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が強化繊維を0°/αの2層または交差角が0°/α/2α、の3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secであること。
【0024】
また、本発明の繊維強化樹脂成形体の製造方法は、前記プリフォームを用い、このプリフォームに樹脂拡散媒体を介してマトリックス樹脂の含浸を行った後、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とするものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に、まず本発明の強化繊維基材の望ましい実施の形態を図を用いて説明する。
【0026】
図1は、本発明の強化繊維基材の一実施例の斜視図である。
【0027】
図において、本発明の強化繊維基材1は、長手方向に並行に配向されたたて糸である強化繊維糸条2の直交方向に、よこ糸3が強化繊維糸条2の1本毎に交互に上下に配列された一方向性織物であって、かつ、その一方の表面の全面に樹脂4が点状に分散された状態で付着したものである。
【0028】
そして、本発明の強化繊維基材1の通気量は、強化繊維糸条が並行に配列した強化繊維シートの少なくとも片面にガラス転位点Tgが0〜95℃である接着樹脂が付着した複数枚の強化繊維基材1を、次の接着条件で接着した後、強化繊維基材同士を接着させた状態において、次の要件(1)および(2)のいずれをも満足することを特徴とするものである。
【0029】
接着条件:温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下でかつ接着時間が3時間以内であること。
【0030】
要件(1):強化繊維基材1を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。
【0031】
要件(2):強化繊維基材1を強化繊維の総重量が300〜700g/m
なるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2αの3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secの範囲内であること。
【0032】
すなわち、RTM法やVaRTM法においては、バッグ面あるいは金型に設けた注入口から樹脂を注入し、強化繊維基材積層体の厚み方向および積層体の層間の面内方向に樹脂が流れつつ強化繊維基材に樹脂含浸されるが、積層体の通気量が小さいと厚み方向への含浸速度が遅く積層体の層間の面内方向に樹脂が先に流れることになり、強化繊維ストランドにおいては周囲から中央部に向かって樹脂含浸が進行し、強化繊維ストランド中央部が樹脂未含浸になりやすい。
【0033】
一方、積層体の通気量が大きければ樹脂含浸しやすく成形性は良いものの、強化繊維ストランド間の隙間などの通気パス部分が樹脂リッチとなり、この樹脂リッチ部分が成形時の硬化温度と常温の温度差によりサーマルクラックと呼ばれるクラックが発生しやすくなる。このサーマルクラックは、樹脂が温度差により収縮するのに対し、強化繊維は寸法変化がほとんどないことから発生するものであるが、特に航空機構造部材においては耐熱性が要求されることからFRP成形時の樹脂の硬化温度も高くなり、よりサーマルクラックが発生しやすくなる。なお、このサーマルクラックについては、発生しなくても繊維と樹脂の界面で残留応力が発生することになるので小さな負荷でFRPにクラックが発生することにもなる。このようなことから、RTM法やVaRTM法で使用する強化繊維基材は、物性の低下を起こさない範囲で可能な限り樹脂が流れやすいものであることが要求される。
【0034】
そして、FRP構造体においては、通常強化繊維基材を同一方向に積層するのではなく、疑似等方性を得るために積層体を構成する各基材の強化繊維同士の配向交角が、0°/90°/・・・・のように互いに接する基材の強化繊維同士の交差角が90°になる交差積層や、+45°/0°/−45°/90°/・・・・のように互いに接する基材の強化繊維同士の交差角が45°になる交差積層が用いられることから、これらの積層構成での樹脂含浸性が重要となる。なお、ここでいう0°とは連続した強化繊維基材の長手方向のことであり、強化繊維が一方向に配列したトウシートや一方向性織物においては、強化繊維の配列方向のことであり、二方向性織物においては、たて糸の配列方向のことである。そのような中、強化繊維の重量が300〜700g/mの範囲で、基材のそれぞれの強化繊維同士の交差角が0°/αまたは0°/α/2α、(α=30°〜120°)0°/90°積層のように1つ以上の接着させた層間を有する積層体において、通気量から積層体の厚み方向における樹脂の含浸性に相関関係があることがわかり、また、この通気量を最適化することにより、高Vfでありながら樹脂含浸が良好で成形性に優れ、かつ、優れたコンポジット特性を有することがわかった。
【0035】
すなわち、本来成形しようとするFRPと同じ構成になるように複数枚の繊維基材を積層した状態での強化繊維基材積層体の通気量を測定することができれば、その積層体における樹脂の含浸性の目安を知ることができるが、この積層体における通気量は極めて小さく通気度試験機では測定できない。一方、1枚の強化繊維基材における通気量からはハンドレイアップ成形法のように強化繊維基材1枚毎に積層、樹脂含浸させる際の樹脂含浸性の目安を知りうることができるが、RTM法やVaRTM法においては、プリフォームにおけるその厚み方向や層内の面方向への樹脂の含浸性が重要となり、プリフォームにおける強化繊維基材の重なりの状態やその接着状態により左右され、1枚の強化繊維基材の通気量よりも積層し接着された強化繊維基材積層体の状態での通気量が目安となる得ることがわかった。
【0036】
そして、強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mの範囲になるように強化繊維基材のそれぞれの強化繊維同士の交差角を0°/αまたは0°/α/2α、(α=30°〜120°)に積層し、強化繊維同士を接着させた時の強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secであると、前述したストランド中央部の樹脂未含浸部が発生しにくく、かつ、サーマルクラックなども発生しにくく強化繊維の持つ優れた特性を発揮できることを見い出したものである。
【0037】
なお、本発明における強化繊維基材の通気量の測定は、JIS L1096:1999の8.27.1のA法(フラジュール形法)に従って測定したものである。すなわち、直径が7cmの円筒の一端に、20cm×20cm基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mの範囲になるように、0°/αまたは0°/α/2α、(α=30°〜120°)積層のように2または3枚積層した試験片を取り付け、加減抵抗器によって傾斜形気圧計が水柱1.27cmの圧力を示すように吸込ファンを調整し、そのときの垂直形気圧計の示す圧力と、使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の表によって試験片を通過する空気量(cm/cm・sec)を求め、測定は5回とし、その平均値を通気量とし、本発明においては、(株)大栄科学精器製作所製コンパクト型通気度試験機AP−360Sを使用した。
【0038】
本発明に用いる強化繊維基材を構成する強化繊維糸条としては、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維やPBO(ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維などの高強度、高弾性率繊維である。なかでも、炭素繊維は、これらの繊維の中でもより高強度、高弾性率であることから、優れた機械的特性のFRPが得られることからより好ましい。さらに好ましくは、引張強さが4500MPa以上で、かつ、引張弾性率が250GPa以上の炭素繊維であるとより優れたコンポジット特性が得られる。
【0039】
また、強化繊維シートの形態としては、強化繊維糸条を一方向に配列させたいわゆるトウシートや強化繊維糸条を一方向または二方向に配列させた一方向性織物や二方向性織物などである。ここで、トウシートにおいては基材の通気性を確保するためにストランド間に適度の隙間を確保するように強化繊維を配列するとよい。なかでも、たて糸に強化繊維糸条を用いよこ糸に細い補助糸を用いた一方向性織物は、強化繊維糸条の伸直性が大きいことから優れたコンポジット特性が得られるとともにたて糸とよこ糸の交錯により並行する強化繊維間に空隙部が形成され、適度な通気性を有することから好ましい。なお、この一方向性織物における補助糸としては、繊度が50〜500デシテックスの細い繊維が好ましい。繊度が小さいとよこ糸が存在することによるたて糸のクリンプを極力小さくすることができ好ましい。また、糸の種類としては、並行する補強繊維糸を一体に保持するためのものであることから特に限定されず、炭素繊維やガラス繊維などの無機繊維、ポリアラミド繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維などの有機繊維が使用できる。
【0040】
ここで、強化繊維基材表面に付着している樹脂は、プリフォームを作製する段階で強化繊維基材同士を接着固定するためのものであり、接着樹脂のガラス転位点Tgは、0〜95℃である。すなわち、Tgが0℃未満であると常温においてべたつくため取り扱いにくい強化繊維基材になってしまう。一方、95℃を越えると常温でべたつきはないものの強化繊維基材同士を接着させるための加熱温度を高くする必要があり接着させにくいものとなる。なお、ここでいうTgとは示差走査熱量分析計DSC(Differential scanning calorimetry)により測定した値をいう。
【0041】
また、強化繊維基材表面に付着している樹脂の付着量としては。特に限定されないが、樹脂の含浸性を阻害しないようにできるだけ少ない方が好ましい。そして、この接着樹脂が付着した強化繊維基材を同一方向に積層し、温度がTg〜
(Tg+50℃)の範囲内でかつ、圧力が0.1MPa以下でかつ時間が3時間以内にて処理し、強化繊維基材同士を接着させた状態において、層間の剥離強さが10N/m以上である。すなわち、剥離強さが10N/m未満であれば、積層した強化繊維基材が剥離しやすく、プリフォームを作製する際に固定が不十分となり、基材に皺が入ったり強化繊維の配向のずれが生じやすく、強化繊維基材の通気量が場所により変化し、樹脂の流れやすい箇所や流れにくい箇所が存在することになり樹脂の未含浸部分が発生しやすくなることやFRPにした際に所定のコンポジット特性が得られなくなってしまう。
【0042】
なお、ここでいう剥離強さとは、JIS K6854−3(接着剤−剥離接着強さ試験方法−第3部:T形剥離)に準じて測定した値をいう。具体的には強化繊維の配向方向に250mm、その直角方向に150mmの長さになるように強化繊維基材を裁断したものを2層積層し、強化繊維の配列方向に長さ60mmの非接着部を設けた。そして、この基材同士を熱接着により一体化させ、25mm幅に5本試験片をサンプリングした。そして、非接着部の端部を把持し、引張試験機により試験速度10mm/分で剥離長さが150mmになるように剥離試験を行った。なお、試験結果は、150mmの剥離長さにおける最初と最後の25mmの長さを除いた100mmの剥離長さを剥離するの要した平均剥離荷重(N)を剥離長さ100mmで除した値を剥離強さ(N/m)とする。
【0043】
航空機の1次構造材用の材料においては飛翔物の衝突や修理中における工具の落下による損傷の影響を受けにくいように衝撃後の残存圧縮強さ(Compression After Impact、以下CAIと記す。)が高いことが要求され、FRPの層間に高靭性の材料を配置することにより、CFRPに作用した衝撃力をこの材料の変形や破壊によりエネルギーを吸収することができるため高CAI特性が得られることから、基材表面に付着させる樹脂を最適化することによって接着性のみならず耐衝撃吸収性も向上させることができる。
【0044】
この強化繊維基材表面に付着している樹脂は、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂またはそれらの混合物である。プリフォームとしての接着性のみが要求される場合においては、熱硬化性樹脂あるいは熱可塑性樹脂をそれぞれ単独で用いてもよいが、CAIなどの耐衝撃性が要求される場合においては、靭性の優れた熱可塑性樹脂と低粘度化しやすく強化繊維基材への接着が容易な熱硬化性樹脂との混合物を用いると適度の靭性を有しながら強化繊維シートへの適度な接着性を有することから好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などである。熱可塑性樹脂としては、ポリ酢酸ビニル、ポリカーボナート、ポリアセターアル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフイド、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアラミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリエチレン、ポリプロピレン、酢酸セルロース、酪酸セルロースなどである。
【0045】
付着形態は、点状、線状または不連続線状である。点状に付着させるためには、粉体を強化繊維基材表面に散布し、熱融着させるとよい。また、線状または、不連続線状に付着させるためには、不織布や織物などの連続繊維からなる布帛をいったん作製した後、強化繊維基材表面に貼り合わせ熱融着させることよい。このようにすることにより、プリフォーム作製において適度な接着性を有するとともにFRPの成形時には強化繊維基材の厚み方向への樹脂の含浸を阻害することがない。
【0046】
また、強化繊維基材積層体やプリフォームにおける空隙率は、30〜70%であることが好ましい。ここでいう空隙率は、強化繊維基材積層体またはプリフォームにおいて強化繊維の存在しない部分の割合のことであり、次式によって表される。
【0047】
空隙率(%)=[1−(強化繊維体積)/(強化繊維基材積層体またはプリフォームの体積)]×100
そして、強化繊維基材積層体またはプリフォームにおける空隙率が30%未満であれば、積層体中に占める強化繊維の割合が大きくなることから成形において樹脂が含浸しにくくなる。一方、空隙率が70%を越えると積層体またはプリフォームが嵩高となるので高Vfにするためには基材の嵩を小さくする必要が生じ、この際に曲面などの形状を有する場合においては、部分的に糸がつっぱったりゆるんだりする箇所が生じ、コンポジット物性の低下が生じる。このため、強化繊維基材積層体またはプリフォームにおける空隙率が30〜70%であることが好ましい。
【0048】
なお、ここでいう強化繊維基材積層体またはプリフォームの厚みとは、JISR7602(炭素繊維織物の試験方法)に従って測定される厚みのことであり、50kPaに圧力を20秒間かけたときの厚みを5箇所測定し、その平均値で表されるものである。
【0049】
また、本発明においては、前述した強化繊維基材をあらかじめ少なくとも2枚以上積層し、かつ、強化繊維基材同士が少なくとも樹脂により接着され一体化した積層強化繊維基材を作製した後、これを単独または適宜強化繊維基材と組み合わせてプリフォームを作製して使用してもよい。
【0050】
さらに、強化繊維基材として、強化繊維糸条が互いに並行に配列し、シートを形成し、このシートの複数枚がそれぞれのシートの強化繊維の配列方向が異なる角度で積層された状態で、ステッチ糸により一体にされた強化繊維基材であって、この基材における強化繊維の総重量300〜900g/mで、通気量が0.5〜20cm/cm・secであってもよい。この強化繊維基材においては、強化繊維の積層体がステッチ糸により一体化されていることから前述した接着樹脂により強化繊維基材同士が接着された積層強化繊維基材と同様の効果が得られる。また、ステッチ糸に沿って積層体の厚み方向に通気パスが形成され、FRP成形時の樹脂流路となりうることから強化繊維基材における強化繊維の総重量が大きくても構わない。そして、強化繊維基材においても強化繊維の総重量300〜900g/mで、通気量が0.5〜20cm/cm・secであれば、強化繊維同士を接着させた強化繊維基材積層体の場合と同様に前述したストランド中央部の樹脂未含浸部が発生しにくく、かつ、サーマルクラックなども発生しにくく強化繊維の持つ優れた特性を発揮できる。
【0051】
なお、ステッチ糸としては、ガラス繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維などである。
【0052】
本発明のプリフォームの製造方法としては、前記強化繊維基材を2枚以上積層する過程において、アイロンやヒートガンなどの熱風発生装置などを使用し、基材表面に付着している接着樹脂を接着樹脂のガラス転位点Tg以上に加熱し、軟化させた後、冷却固化させることにより強化繊維基材同士が接着したプリフォームを得ることができるが、好ましくは、前記強化繊維基材を2枚以上積層し、次の要件を満足することが好ましい。
【0053】
要件(1):強化繊維基材を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上である。
【0054】
要件(2):強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2α、の3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通
気量が0.5〜20cm/cm・secである。
【0055】
なお、この条件を満たすことができる接着条件としては、次の条件が挙げられる。
【0056】
接着条件:温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa
以下で、かつ時間が3時間以内であること。
【0057】
そして、このような条件で接着させることにより強化繊維基材全体において接着樹脂が適度に溶融することから強化繊維基材同士の接着強さも場所によるばらつきも小さく、その通気量も安定することから樹脂含浸しやすいプリフォームを得ることができる。また、前記強化繊維基材、積層強化繊維基材、またはそれらの組み合わせまたは前記プリフォームのいずれかにマトリックス樹脂を含浸し硬化させることにより高Vfにも関わらず樹脂含浸性およびコンポジット特性に優れたFRPを得ることができる。なかでも、Vfが50〜65%の高Vf成形品であれば、軽量でありながら強化繊維の持つ優れた特性を有効に発揮できる。また、FRPの厚みが10mm以上の肉厚品であれば高剛性にすることができ航空機の構造材などを作製する場合において好適である。
【0058】
次に、本発明のプリフォームを用いてVaRTMによりFRPを成形する本発明のFRPの第1の製造方法の望ましい一実施例を図を用いて工程順に説明する。
【0059】
図2は、本発明の製造方法の実施に用いる製造装置の一態様例を示した概略断面図である。
【0060】
図において、強化繊維基材1を所定枚数積層し接着させた強化繊維積層体からなるプリフォーム5を成形型6の表面に配置し、このプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させFRPを成形するものであり、樹脂の含浸手段として強化繊維基材積層体の他にピールプライ7、樹脂含浸媒体8、バッグフィルム9、エッジ・ブリーザー10、シール材11から構成される。また、12、13、14は、いずれもプリフォーム5への樹脂供給手段であり、それぞれ真空吸引口、樹脂吐出口、バルブである。
【0061】
本発明の製造方法は、例えば、かかる製造装置を用いて以下に述べる手順にて行われる。
【0062】
まず、成形型6の表面に、強化繊維基材1を所定枚数積層した強化繊維基材積層体からなるプリフォーム5を配置する。ここで、成形型6は、金属、FRPなどからなり、後述するバッグ内の真空吸引などにおいて変形しにくい高剛性の材料から構成されたものを用いるのが好ましい。
【0063】
次に、このプリフォーム5の表面に樹脂が硬化した後に引き剥がして、不要樹脂および樹脂拡散媒体を除去するためのシート、いわゆるピールプライ7を積層し、さらにその上に樹脂を強化繊維基材上面全体に拡散させるための樹脂拡散媒体8を置く。
【0064】
次に、プリフォーム5が成形型6と接した周囲には、真空バッグ内の空気を連続してバッグ外部に逃がす通気材料となるエッジ・ブリーザー10として織物や不織布などの多孔性の材料を複数枚積層して張り巡らす。ここで、樹脂拡散媒体8は真空吸引口やエッジ・ブリーザーに接しているかもしくは近すぎると、樹脂拡散媒体8に流れ込んだ樹脂がプリフォーム5に含浸するよりも先に真空吸引口およびエッジ・ブリーザーの方に流れてしまうことから、真空吸引口12やエッジ・ブリーザー10から最も近い樹脂拡散媒体8までの距離が10mm以上離れるように樹脂拡散媒体8の平面視の最大外形が樹脂拡散媒体面のプリフォーム5の平面視の最大外形よりも10〜50mm程度小さくなるように配置するとよい。
【0065】
次いで、全体をバッグフィルム9で覆い、空気が漏れないようにバッグフィルムと成形型6の周囲を、ブチルゴム系やシリコーンゴム系のシール材11で型に接着させ、次いでバッグフィルムの上部に図示しない樹脂タンクから注入される樹脂の吐出口13とバルブ14を図示の如く樹脂拡散媒体8に接するように取り付ける。一方、図示しない真空ポンプの空気吸引口を真空吸引口12に接続する。なお、真空吸引口12は樹脂の吐出口13から遠いエッジ・ブリーザー上に取り付け、吐出口および吸引口の取り付け部から空気が漏れないようにシール材で接着させる。そして、真空吸引口12から吸引しバッグフィルム内が0.08〜0.1MPaの圧力になるように真空吸引する。さらに、あらかじめ樹脂タンクには、硬化剤を所定量入れたシロップ状の常温もしくは加熱硬化型のマトリックス樹脂を入れておき、先の強化繊維基材同士の接着が完了した時点からすぐにバルブ14を解放して樹脂拡散媒体8から樹脂を注入する。注入された樹脂は、バッグフィルムで覆われた中が真空状態であることから、樹脂拡散媒体8の内部を面内方向に拡散しつつピールプライ7を通過した後、ピールプライ7と接するプリフォーム5の厚み方向に含浸が進行するので短時間に樹脂含浸が完了する。真空ポンプは少なくとも強化繊維基材への樹脂含浸が完了するまで運転し、バッグフィルムの中を真空状態に保つことが好ましい。そして、常温放置または加熱により樹脂を硬化させる。樹脂の硬化後は、バッグフィルムを除去し、さらに、成形型6より脱型した後、ピールプライ7および樹脂含浸媒体8を除去すれば、FRP成形品を得ることができる。
【0066】
なお、上記のFRPの製造方法においては、プリフォームを別工程にて作製した場合について記載したが、本発明においては特にこの方法に限定されるものではなく、積層した強化繊維基材を未接着状態で成形型上に配置し、バッグフィルムで覆った後、真空吸引する過程において、温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下で、かつ時間が3時間以内処理することで強化繊維基材同士が接着したプリフォームを作製してもよい。
【0067】
本発明に用いられるマトリックス樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、変性エポキシ樹脂などの常温もしくは加熱により硬化する熱硬化性樹脂である。中でも加熱硬化型の樹脂は、短時間に樹脂を硬化させることができ、成形サイクルを短くできるので好ましい。
【0068】
本発明の成形に用いられるピールプライ7は、マトリックス樹脂を通過させることができることが必要であり、例えばナイロン繊維織物、ポリエステル繊維織物やガラス繊維織物などである。なお、「ピールプライ」とは、樹脂が硬化した後成形品表面に固着し、成形品表面から引き剥がすことにより、実質的に余剰樹脂や樹脂拡散媒体を一緒に除去できる材料のことを言う。
【0069】
なお、ナイロン繊維織物やポリエステル繊維織物は安価であるため、ピールプライとして好ましく用いられるが、これら織物を製造する際に用いられている油剤やサイジング剤がFRPの樹脂に混入するのを防ぐため、精錬を行い、また、成形で用いる樹脂の硬化発熱などの熱による収縮を防ぐため、熱セットされた織物を使用することが好ましい。
【0070】
本発明の方法に用いることのできる樹脂拡散媒体8の一実施態様例を図3に示した。樹脂拡散媒体は、バッグ内の真空圧力を繊維基材に伝え、かつ注入される樹脂を樹脂拡散媒体の隙間を通して、媒体側の繊維基材上面に樹脂を行きわたらせるものである。
【0071】
すなわち、バッグフィルムとピールプライ間に配置する樹脂拡散媒体に樹脂が注入されると、図3において、注入された樹脂はバッグフィルムに接するA群のバー16の隙間を流れて、バー16の方向とB群のバー17の隙間を流れるから全面に樹脂が均一に拡散することになる。また、バー16にかかる力をバー17に伝えることができる。バーの太さは特に限定されるものではないが、0.2〜2mmが好ましい。また、隙間の幅は0.2〜2mmが好ましい。樹脂拡散媒体の具体的なものとしては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ塩化ビニルや金属などからなるメッシュ状のシートで、たとえば、メッシュ状樹脂フィルム、織物、網状物や編物などであり、必要に応じてこれらを数枚重ねて使用することができる。バッグフィルム9は、気密性であることが必要であり、例えばナイロンフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、PVC(塩化ビニル)フィルム、ポリプロピレンフィルムやポリイミドフィルムなどが用いられ得るものである。また、エッジ・ブリーザー10は、空気および樹脂を通過させることができることが必要であり、例えばナイロン繊維織物、ポリエステル繊維織物、ガラス繊維織物やナイロン繊維、ポリエステル繊維からなる不織布を使用することができる。また、バッグフィルムと樹脂拡散媒体間には押さえ板となるカウルプレートを介在させてもよい。そうすることにより、強化繊維基材のラップ部分など厚みが大きい箇所があるとこの部分の厚みが大きくなってしまうが、カウルプレートを挿入することで厚みの大きい部分のみを強制的に加圧することができ、厚みが均一なFRPを得ることができる。なお、このカウルプレートは、加圧の際に変形すると所定の寸法に成形できなくなることから高剛性であることが必要であり、鉄板やアルミニウム板などの金属板やFRP板などからなる。
【0072】
なお、本発明の製造方法においては、強化繊維基材の積層体への樹脂の含浸性が良好であることから積層体の厚みが10mm以上の肉厚成形品の製造に適し、また、積層体における空隙率が30〜70%であれば樹脂含浸性が良好であるとともに高Vfにすることが可能である。なかでも、接着樹脂がマトリックス樹脂に溶解する組成であれば樹脂注入時においては強化繊維基材における空隙率が大きく樹脂が流れ易い状態を確保しつつ樹脂の含浸後に強化繊維基材の空隙率が小さくなりFRPを高Vf化しやすいのでより好ましい。
【0073】
なお、前記FRPの製造方法において、液状樹脂の注入温度において、樹脂含浸開始時から1時間経過するまでの樹脂粘度が樹脂粘度が10〜1500mPa・sであれば、短時間に樹脂含浸が可能であることから好ましい。すなわち、10mPa・sより小さければ樹脂粘度が低すぎるために先に積層体の層間の面内方向に樹脂が先に流れることになり、強化繊維ストランドにおいては周囲から中央部に向かって樹脂含浸が進行し、強化繊維ストランド中央部が樹脂未含浸になりやすい。一方、1500mPa・sを越えると積層体そのものは適度な通気性を有していても樹脂粘度が高いことから樹脂が含浸しにくく樹脂含浸不良部が生じる。このため、液状樹脂の注入温度において、樹脂含浸開始時から1時間経過するまでの樹脂粘度が樹脂粘度が10〜1500mPa・sであることが好ましい。
【0074】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。
【0075】
実施例1
強化繊維基材1としては、引張強さが5800MPa、引張弾性率が290GPaのフィラメント数が24,000本の炭素繊維をたて糸2に、また、よこ糸3としてガラス繊維ECE225 1/0を用い、たて糸密度が2.1本/cm、よこ糸密度が3.0本/cmである炭素繊維の重量が190g/mの織物を製織した。そして、この織物を製織する過程において、ポリエーテルスルホンとエポキシ樹脂の配合割合が60:40の混合樹脂を粉砕した接着樹脂(Tg:62℃)の粉体を織物表面に散布した後、熱融着させることにより炭素繊維基材を得た。なお、炭素繊維維基材における接着樹脂の付着量は、18g/m(8重量%)であった。
【0076】
そして、この炭素繊維基材の通気性を調査するために強化繊維基材を0°/90°/180°(0°と同じ)の交差積層した後バッグフィルムで覆い、バッグ内を真空吸引しながら70℃の雰囲気下で1時間放置し、3枚の炭素繊維基材を接着させ、通気量測定用の試験体を作製した。そして、炭素繊維積層体の通気量を測定したところ、0.88cm/cm・secであった。
【0077】
また、剥離強さを調査するために強化繊維基材を同一方向に2枚重ねた後バッグフィルムで包み、バッグ内を真空吸引しながら70℃の雰囲気下で1時間放置し、2枚の炭素繊維基材を接着させ、剥離強さ測定用の試験体を作製した。そして、炭素繊維積層体の層間の剥離強さを測定したところ、32N/mであった。
【0078】
また、樹脂含浸性を調査するために、炭素繊維基材を70cm×70cmの大きさになるように裁断し、(−45°/0°/+45°/90°)3S構成で24枚の積層体からなるプリフォームを作製した。成形型の上にこのプリフォームを配置した後、ピールプライ、プラスチックネット(樹脂含浸媒体)の順で積層し、これらをバッグフィルムで覆い、成形型とバックフィルム間をシールテープでシールした。そして、このバッグフィルム内を真空吸引し、70℃で1時間加熱し強化繊維基材を接着させた後、プリフォームへの樹脂注入を行った。ここで、マトリックス樹脂としては、70℃(注入温度)における樹脂粘度が130mPa・s、70℃で1時間経過後の樹脂粘度が320mPa・sの液状エポキシ樹脂を用い、樹脂注入において、40分で樹脂が真空吸引チューブまで流出することが観察された。さらに、樹脂注入開始後1.5時間経過した後、130℃まで、1.5℃/分で昇温した後、130℃で2時間保持し、2.5℃/分で常温まで降温しプレキュアを行った。そして、常温でバッグフィルムや樹脂拡散媒体、ピールプライなどの成形副資材を除去した後、さらに、アフターキュアとして1.5℃/分で180℃まで昇温し、180℃で2時間保持した後、2.5℃/分で常温まで降温した。
【0079】
得られたCFRPの中央部をダイヤモンドカッターでカットし、顕微鏡により樹脂の含浸状態を観察したところ、ボイドもなく樹脂含浸が良好であるとともにサーマルクラックも観察されなかった。また、得られた成形板は厚みが5.21mmでVfは56.3%であった。
【0080】
実施例2
実施例2として、実施例1と同じ炭素繊維とガラス繊維をそれぞれたて糸およびよこ糸に使用して、たて糸の密度が3.2本/cm、よこ糸の密度が3.0本/cmで炭素繊維の重量が330g/mの織物を製織した。そして、この織物を製織する過程において、実施例1と同じ接着樹脂の粉体を織物表面に散布した後、熱融着させることにより炭素繊維基材を得た。なお、炭素繊維維基材における接着樹脂の付着量は、27g/m(8重量%)であった。
【0081】
そして、この炭素繊維基材の通気性を調査するために強化繊維基材を0°/90°の交差積層し、実施例1と同じ条件で接着させた後、通気量測定用の試験体を作製した。そして、炭素繊維積層体の通気量を測定したところ、18.6cm/cm・secであった。
【0082】
また、剥離強さを調査するために実施例1と同じようにして、2枚の炭素繊維基材を接着させ、剥離強さ測定用の試験体を作製した。そして、炭素繊維積層体の層間の剥離強さを測定したところ、15N/mであった。
【0083】
また、樹脂含浸性を調査するために炭素繊維基材を70cm×70cmの大きさになるように裁断し、(−45°/0°/+45°/90°)2S構成で16枚の積層体からなるプリフォームを作製した。そして実施例1と同じようにして樹脂含浸性を調査したところ樹脂注入後20分で樹脂が真空吸引チューブまで流出することが観察された。
【0084】
さらに、樹脂注入開始後実施例1と同じように樹脂を硬化させ、得られたCFRPの中央部をダイヤモンドカッターでカットし、顕微鏡により樹脂の含浸状態を観察したところ、ボイドもなく樹脂含浸が良好であるとともにサーマルクラックも観察されなかった。また、得られた成形板は厚みが5.32mmでVfは55.1%であった。
【0085】
比較例1
比較例1として、強化繊維シートにおける炭素繊維重量が330g/mになるように炭素繊維を一方向に配列し、実施例2と同じ接着樹脂の粉体をシート表面に散布した後、熱融着させることにより炭素繊維基材を得た。なお、この炭素繊維基材は並行する炭素繊維が粉体のみで接着されていることから非常に取り扱いにくく、実際の評価に当たって離型紙と一緒に巻き取り裁断する際には裁断部に粘着テープを貼りばらけないように慎重に取り扱った。そして、この基材を用いた他は実施例2と同じようにして通気量、剥離強さおよび樹脂含浸性を調査した。
【0086】
ここで、剥離強さは、50N/mであったものの通気量は、測定不能(0.28cm/cm・sec以下)であった。
【0087】
また、断面観察による樹脂含浸観察結果においては、基材周囲から2cm程度は厚み方向にすべて含浸しているものの中央部は樹脂含浸媒体面から厚み方向に2mm程度しか含浸していなかった。
【0088】
比較例2
比較例2として、織物の経糸に撚りをかけ集束させて、並行する炭素繊維ストランド間に空隙ができるようにして織物を作製した他は実施例1と同じようにして通気量、剥離強さおよび樹脂含浸性を調査した。
【0089】
ここで、炭素繊維基材積層体における通気量は、38cm/cm・sec、剥離強さは、26N/mであった。また、成形性については10分で樹脂が真空吸引チューブまで流出することが観察された。さらに、断面観察による樹脂含浸観察結果においては、強化繊維基材全体に樹脂が含浸しているものの並行する炭素繊維ストランド間の空隙が大きくこの部分が樹脂リッチとなっており、樹脂の硬化収縮によるサーマルクラックが多数観察された。
【0090】
比較例3
比較例3として、織物における接着樹脂量が6g/m(2重量%)である他は実施例1と同じようにして通気量、剥離強さおよび樹脂含浸性を調査した。
【0091】
ここで、炭素繊維基材積層体における通気量は、23.6cm/cm・sec、剥離強さは、4N/mであった。なお、剥離強さが小さいため積層過程において強化繊維基材のずれをが発生し、部分的に皺が生じた。また、成形性については38分で樹脂が真空吸引チューブまで流出することが観察された。さらに、断面観察による樹脂含浸観察結果においては、強化繊維基材全体に樹脂が含浸しており、サーマルクラックも観察されなかった。
【0092】
これらの評価結果をまとめると表1のようになる。
【0093】
【表1】
Figure 2004114586
【0094】
表1に示すように、実施例1および2のものは、樹脂拡散媒体を用いたVaRTM法において高Vfでありながら短時間に樹脂含浸が可能であり、また、樹脂含浸不良部やサーマルクラックも観察されなかった。一方、実施例1においては、通気量が小さいために部分的にしか樹脂が含浸しなかった。さらに、実施例2においては、通気量が大きいことから炭素繊維積層体には短時間に樹脂を含浸させることができたが炭素繊維ストランド間の空隙部が大きいことから成形板においてサーマルクラックが観察された。さらに、実施例3においては、短時間に樹脂含浸は可能であり、樹脂含浸性も良好でサーマルクラックも観察されなかったが、基材同士の接着が不十分であったことからプリフォーム作製段階で基材が剥離しやすく皺を生じ、取り扱いにくい材料であった。
【0095】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の強化繊維基材およびそれからなるプリフォームは、上述したように特定範囲の通気量を有することから、樹脂含浸性に優れるとともに高品質のFRPを得ることができる。また、プリフォーム作製時においても、強化繊維基材の層間が一定値以上の剥離強さを有することから、成形型の曲面に追従させても成形過程において途中で剥離するようなことがなく作業性に優れたFRPの成形用材料である。
【0096】
また、前述したプリフォームを用いた本発明の繊維強化樹脂成形体およびその製造方法は、特に樹脂拡散媒体を用いたVaRTM法などのように真空減圧下で先に積層した強化繊維基材の面内方向に拡散させてから各基材の厚み方向に含浸を行う方法であるので、短時間で強化繊維基材積層体の全体に渡って樹脂含浸が可能となり、その結果ボイドの発生がほとんどない高品質のFRPを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における強化繊維基材の一実施例の斜視図である。
【図2】本発明の製造方法の実施に用いる製造装置の一態様例を示した概略断面図である。
【図3】本発明の製造方法で使用する樹脂拡散媒体の斜視図である。
【符号の説明】
1:強化繊維基材
2:強化繊維(たて糸)
3:よこ糸
4:樹脂
5:プリフォーム
6:成形型
7:ピールプライ
8:樹脂拡散媒体
9:バッグフィルム
10:エッジ・ブリーザー
11:シール材
12:真空吸引口
13:樹脂吐出口
14:バルブ
15:A群のバー
16:B群のバー

Claims (19)

  1. 強化繊維糸条が並行に配列された強化繊維シートの少なくとも片面に、ガラス転位点Tgが0〜95℃である接着樹脂が付着されてなる強化繊維基材であって、次の接着条件で複数枚の強化繊維基材同士を接着させた状態において、次の要件(1)および(2)のいずれをも満足することを特徴とする強化繊維基材。
    接着条件:温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下でかつ接着時間が3時間以内であること。
    要件(1):強化繊維基材を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。
    要件(2):強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2αの3層(α=30°〜120°)に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secの範囲内であること。
  2. 強化繊維糸条が互いに並行に配列された状態のシートを形成し、このシートの複数枚がそれぞれのシートの強化繊維の交差角が異なる角度で積層された状態で、ステッチ糸により一体にされた強化繊維ステッチ基材であって、この強化繊維ステッチ基材における強化繊維の総重量が300〜900g/mで、かつその通気量が0.5〜20cm/cm・secであることを特徴とする強化繊維基材。
  3. 強化繊維基材積層体における空隙率が30〜70%であることを特徴とする請求項1または2に記載の強化繊維基材。
  4. 強化繊維糸条が炭素繊維であることを特徴とする請求項3の強化繊維基材。
  5. 強化繊維糸条は、その引張強さが4500MPa以上、引張弾性率が250GPa以上であることを特徴とする請求項4記載の強化繊維基材。
  6. 強化繊維シートが一方向性織物であることを特徴とする請求項1、3〜5のいずれかに記載の強化繊維基材。
  7. 強化繊維基材における接着樹脂の付着形態が点状、線状または不連続線状であることを特徴とする請求項1、3〜6のいずれかに記載の強化繊維基材。
  8. 請求項1、3〜7のいずれかに記載の強化繊維基材の少なくとも2枚以上が接着樹脂により接着され、一体化されていることを特徴とする強化繊維基材積層体。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維基材、この基材を複数積層してなる強化繊維基材積層体、またはそれらの組み合わせからなり、かつ接着樹脂により接着されて一体となっていることを特徴とするプリフォーム。
  10. 空隙率が30〜70%であることを特徴とする請求項9に記載のプリフォーム。
  11. 請求項1〜8のいずれかに記載の強化繊維基材、強化繊維基材積層体、それらの組み合わせ、または請求項9〜10のいずれかに記載のプリフォームに、マトリックス樹脂を含浸し、硬化させてなることを特徴とする繊維強化樹脂成形体。
  12. 繊維強化樹脂成形体中における強化繊維の体積割合(Vf)が50〜65%であることを特徴とする請求項11に記載の繊維強化樹脂成形体。
  13. 厚みが10mm以上であることを特徴とする請求項11または請求項12記載の繊維強化樹脂成形体。
  14. 強化繊維糸条が並行に配列された強化繊維シートの少なくとも片面に、ガラス転位点Tgが0〜95℃の接着樹脂が付着した強化繊維基材を所定枚数積層し、隣接する繊維基材同士を接着させるとともに、次の要件のいずれをも満足することを特徴とするプリフォームの製造方法。
    要件(1):強化繊維基材を同一方向に積層した場合における層間の剥離強さが10N/m以上であること。
    要件(2):強化繊維基材を強化繊維の総重量が300〜700g/mになるように、それぞれの強化繊維基材の強化繊維糸条の交差角が0°/αの2層または交差角が0°/α/2α(α=30°〜120°)の3層に積層した場合における強化繊維基材積層体の通気量が0.5〜20cm/cm・secの範囲内であること。
  15. 接着条件は、その接着温度がTg〜(Tg+50℃)の範囲内で、圧力が0.1MPa以下で、かつ接着時間が3時間以内であることを特徴とする請求項14に記載のプリフォームの製造方法。
  16. 請求項14または15に記載されたプリフォームを用い、このプリフォームに樹脂拡散媒体を介してマトリックス樹脂の含浸を行った後、マトリックス樹脂を硬化させることを特徴とする繊維強化樹脂成形体の製造方法。
  17. プリフォームの厚みが10mm以上であることを特徴とする請求項16に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
  18. プリフォームにおける空隙率が30〜70%であることを特徴とする請求項16または17に記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
  19. マトリックス樹脂の注入温度での樹脂粘度が、樹脂含浸開始時から1時間経過するまでの間、10〜1500mPa・sであることを特徴とする請求項16〜18のいずれかに記載の繊維強化樹脂成形体の製造方法。
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