JP2004105057A - L−システインの測定方法及び測定用試薬 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】試料中のL−システインに、L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素をピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させ、生成されたいずれかの反応生成物を定量するL−システインの測定方法、及びL−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しない酵素及びピリドキサル−5’−リン酸を含むL−システインの測定用試薬。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵素による、安価で正確かつ簡便なL−システインの測定方法及び測定用試薬に関する。
【0002】
【従来の技術】
システインやメチオニンは生体中のタンパク質を構成する硫黄含有アミノ酸として知られており、生体内では一連の代謝サイクルの中で恒常性を維持している。植物では硫黄を硫酸イオンの形で取り込み、硫化物イオンまで還元した後、システイン合成が行われ、さらにメチオニン合成へと続く。動物では食物連鎖によりメチオニンを食物中のタンパク質から摂取し、通常、生体内でシステインに代謝される。
【0003】
この代謝過程で中間体として生成するホモシステインは、再メチル化によるメチオニンへの変換、あるいはセリンとの縮合によるシスタチオニンの形成後、システインに導かれる経路により速やかに代謝されるため正常時にはほとんど存在しない。しかしながら、メチル化を触媒する酵素であるメチルテトラヒドロ葉酸メチルトランスフェラーゼやその補助因子である葉酸及びビタミンB12の欠乏、シスタチオニン形成を触媒するシスタチオニンβシンターゼの機能不全等により、代謝サイクルの中で異常が発生すると、ホモシステインが蓄積してしまう。最近、この代謝過程で中間体として生成されるホモシステインが、心筋梗塞あるいは脳梗塞などの血栓塞栓症あるいは動脈硬化症において、独立したリスクファクターとして注目されており、血中濃度と疾患との関係における臨床データが数多く報告されている。
【0004】
一方、システインはメチオニンの代謝により生成するアミノ酸であることから、ホモシステイン代謝異常の原因把握の補助的な指標とも成り得るため、ホモシステインとの関連が注目されている。最近、ホモシステインとシステインの比を指標として、シスタチオニンβシンターゼのヘテロ接合体遺伝子異常のスクリーニングに有用であるとの報告もなされている(非特許文献1参照)。したがって、ホモシステインのみならずシステインの血中濃度測定は有用と考えられる。
【0005】
システインの酵素的測定法として、グルタチオン・スルヒィドリル・オキシダーゼを用いた方法が開示されているが(特許文献1参照)、該酵素はグルタチオンやジチオスレイトールのようなチオール化合物にも反応を示すなど基質特異性に乏しく、特異的な測定法とは言い難かった。
【0006】
【非特許文献1】
ボディーら(Boddie et.al.),メタボリズム(Metabolism ),47(2),207〜211(1998)
【0007】
【特許文献1】
特許第1594895号明細書
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
システインの酵素的測定法は、操作性などの面から有用と考えられるが、上述したように、現在までその測定系に応用可能な特異的な酵素が見出されておらず、酵素的測定系の開発は実現されていない。
【0009】
したがって、本発明の主な目的は、安価であり、正確かつ簡便で多数の検体処理が可能なL−システインの酵素的測定方法及び測定用試薬を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することを主な目的として、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、試料中のL−システインに、L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素を、ピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させ、生成されたいずれかの反応生成物を定量することを特徴とするL−システインの測定方法を開発し、本発明により、試料中のL−システインを安価で、正確かつ簡便に測定することが可能となること、また、L−システイン測定において多数の検体処理が可能となることを見出した。
【0011】
即ち、本発明は以下の構成からなる。
【0012】
1.試料中のL−システインに、L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素を、ピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させ、生成されたアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の反応生成物を定量することを特徴とするL−システインの測定方法。
【0013】
2.L−システイン分解酵素が、口腔内に存在する細菌由来のものである1記載のL−システインの測定方法。
【0014】
3.L−システイン分解酵素が、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれかの細菌由来のものである2に記載のL−システインの測定方法。
【0015】
4.L−システイン分解酵素が、配列番号1記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
【0016】
5.L−システイン分解酵素が、配列番号2記載の塩基配列、その相補配列、又はそれらとストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列のいずれかによってコードされるものである1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
【0017】
6.L−システイン分解酵素が、配列番号3記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
【0018】
7.L−システイン分解酵素が、更にセリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しない酵素である1〜6のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
【0019】
8.以下の(a)〜(e)のいずれかの工程を有する1〜7のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
(a)生成された硫化水素を、硫化物イオンの発色検出により測定する工程、
(b)生成されたアンモニアを、グルタミン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(c)生成されたピルビン酸を、ピルビン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADまたはNADPの存在下において作用させ、生成されたNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(d)生成されたピルビン酸を、乳酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(e)生成されたピルビン酸をピルビン酸酸化酵素の反応の基質とし、色原体及びペルオキシダーゼの存在下において作用させ、反応に伴い増加するキノン色素を発色定量する工程。
【0020】
9.L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しない酵素及びピリドキサル−5’−リン酸を含むことを特徴とするL−システインの測定用試薬。
【0021】
10.L−システイン分解酵素が、口腔内に存在する細菌由来のものである9記載のL−システインの測定用試薬。
【0022】
11.L−システイン分解酵素が、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれかの細菌由来のものである10に記載のL−システインの測定用試薬。
【0023】
12.L−システイン分解酵素が、配列番号1記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
【0024】
13.L−システイン分解酵素が、配列番号2記載の塩基配列、その相補配列、又はそれらとストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列のいずれかによってコードされるものである9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
【0025】
14.L−システイン分解酵素が、配列番号3記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
【0026】
15.L−システイン分解酵素が、更にセリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しない酵素である9〜14のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
【0027】
16.更に、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素及びピルビン酸酸化酵素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の酵素を含む9〜15のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
【0028】
17.乳酸脱水素酵素が、D−乳酸脱水素酵素である16に記載のL−システインの測定用試薬。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0030】
L− システイン分解酵素
本発明で用いられる酵素としては、L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素であれば特に制限はない。
L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応は、具体的には、以下の化学式で表される。
また、D−システイン、ホモシステインと実質的に反応しないとは、L−システインとの反応と比較して、全く反応しないか又はほとんど反応しないことを意味する。例えば、図1においてL−システインのかわりにD−システイン、ホモシステインを用いて同様の試験を行った場合に、図1におけるL−システインが0mMのときとほぼ同様の測定結果が得られることを意味する。測定結果の判定には、定量検査や分析化学の領域における最小測定限界・検出限界・定量限界・実効感度などの評価法等、従来用いられている任意の検定方法を適宜採用することができる。
本発明のL−システイン分解酵素は、D−システイン、ホモシステインと実質的に反応せず、高い基質特異性を有していることから、試料に対する測定精度が高く、L−システインの正確な定量が可能となる。
【0031】
本発明のL−システイン分解酵素は、更に、セリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しないものが好ましい。セリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンと実質的に反応しないとは、L−システインとの反応と比較して、全く反応しないか又はほとんど反応しないことを意味する。
【0032】
セリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しないことによって、基質特異性が更に高まり、従って、試料に対する測定精度が高まって、L−システインのより正確な定量が可能となる。
本発明のL−システイン分解酵素は、好ましくは、口腔内に存在する細菌由来、より好ましくは口腔内常在細菌由来のものである。ここで、口腔内常在細菌とは、頻繁に口腔内から検出される細菌を意味する。
口腔内常在細菌としては、例えば、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・サリバリアス(Streptococcus salivarius)、ストレプトコッカス・ソブリナス(Streptococcus sobrinus)、ストレプトコッカス・ゴルドニー(Streptococcus gordonii)、ストレプトコッカス・オラリス(Streptococcus oralis)、アクチノマイセス・ネスランディー(Actinomyces naeslundii)、ペプトストレプトコッカス・ミクロス(Peptostreptococcus micros)、キャプノサイトファーガ・オクラセア(Capnocytophaga ochracea)、キャンピロバクター・グラシリス(Campylobacter gracilis)、ユーバクテリウム・ノダタム(Eubacterium nodatum)等が例示される。
このうち、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれかの細菌に由来するL−システイン分解酵素が酵素反応性の点で好ましい。更に、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)に由来するL−システイン分解酵素が酵素反応性と、安定性の点でもっとも好ましい。
【0033】
また、本発明における、L−システイン分解酵素として、好ましくは、以下のものが挙げられる。
【0034】
配列番号1記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むL−システイン分解酵素。
【0035】
配列番号2記載の塩基配列、その相補配列、又はそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列のいずれかによってコードされるL−システイン分解酵素。
【0036】
配列番号3記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むL−システイン分解酵素。
【0037】
配列番号1記載のアミノ酸配列を含むL−システイン分解酵素としては、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)由来の酵素が挙げられる。
【0038】
配列番号2記載の塩基配列によってコードされるL−システイン分解酵素としては、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)由来の酵素が挙げられる。
【0039】
配列番号3記載のアミノ酸配列を含むL−システイン分解酵素としては、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)由来の酵素が挙げられる。
【0040】
上記において、アミノ酸配列の1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換したものとは、従来周知の技術により得ることができ、かつ、上述した酵素の性質及び機能が失われていない範囲内のものである。
【0041】
また、上記において、「ストリンジェントな条件」とは、特異的なハイブリダイゼーションのみが起き、非特異的なハイブリダイゼーションが起きないような条件をいう。このような条件とは、通常、「1xSSC,0.1%SDS,37℃」程度、好ましくは「0.5xSSC,0.1%SDS,42℃」程度、更に好ましくは、「0.2xSSC,0.1%SDS,65℃」程度である。
【0042】
本発明で用いられる酵素は、該酵素を生産する微生物、例えば上述した口腔内に存在する細菌を培養して菌体を回収し、この菌体を超音波処理等により破砕して得られる破砕液を、必要に応じて、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ハイドロキシアパタイトゲル、ゲル濾過等のカラムクロマトグラフィを組合せて精製することにより得ることができる。
【0043】
L− システインの測定方法
本発明のL−システインの測定方法は、試料中のL−システインに、上述のL−システイン分解酵素を、ピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させ、生成されたアンモニア、ピルビン酸又は硫化水素のいずれかの反応生成物を定量することを特徴とする。
【0044】
反応生成物を定量する方法としては、例えば、生成された硫化水素を、一般的に知られた硫化物イオンの測定法、すなわち、発色検出として、2,2’−ジピリジルジスルファイド(Svenson, Anal. Biochem.,107;51〜55(1980))やニトロプルシッドナトリウムを用いる方法、強酸性下で、N,N−ジメチル−P−フェニレンジアミンと塩化第二鉄を用いてメチレンブルーを生成させ青色発色を検出する方法(メチレンブルー法)、セレニウムを触媒として色素(トルジンブルーやメチレンブルー)の退色量及び速度を測定する方法(Mousavi等,Bull. Chem.Soc. Jpn,65;2770〜2772(1992)、Gokmen等,Analyst,119;703〜708(1994))などで定量する方法等が挙げられる。
【0045】
また、生成されたアンモニアを、グルタミン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する方法等が挙げられる。
【0046】
また、生成されたピルビン酸を、ピルビン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADまたはNADPの存在下において作用させ、生成されたNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する方法、或いは、生成されたピルビン酸を乳酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する方法等が挙げられる。また、生成されたピルビン酸をピルビン酸酸化酵素の反応の基質とし、色原体及びペルオキシダーゼの存在下において作用させ、反応に伴い増加するキノン色素を発色定量するなどの手法と組合せることもできる。
【0047】
このうち、乳酸脱水素酵素を用いて反応生成物を定量する方法が酵素の安定性の点で好ましい。また、乳酸脱水酵素としてD−乳酸脱水素酵素を用いる場合がより好ましい。D−乳酸脱水素酵素は、生体試料に存在するL−乳酸による影響を受ける可能性がないため、本発明においてより好ましく用いることができる。
【0048】
本発明の測定方法におけるL−システイン分解酵素の使用濃度は特に限定されないが、0.0005〜1mg/mlであり、特に0.001〜0.01mg/mlの範囲とすることが好ましい。
【0049】
また本発明において、補酵素として用いるピリドキサル−5’−リン酸の使用濃度も特に限定されないが、通常0.001〜0.1mmol/mlであり、特に0.005〜0.05mmol/mlの範囲が好ましい。
【0050】
本発明において、更に補酵素(電子供与体)としてNADHまたはNADPHを用いる場合には、NADHまたはNADPHの使用濃度は、通常0.01〜10mmol/mlであり、特に0.05〜0.2mmol/mlの範囲が好ましい。補酵素の還元体を定量するために、還元されることによって発色する発色剤を併用してもよい。かかる発色剤は、使用する補酵素に応じて適宜選択すればよく、例えばNADの還元体であるNADHを定量するために、電子キャリアーとして、フェナジンメトサルフェートやジアホラーゼとテトラゾリウム塩を共存させ、生成されるホルマザン色素を比色定量する方法等が挙げられる。
【0051】
本発明においては、緩衝液として、pH6〜10のリン酸緩衝液、グリシン緩衝液、トリス塩酸緩衝液、グッド緩衝液、ホウ酸緩衝液等の、通常使用されるものを用いることができる。
【0052】
本発明の測定方法が適用される試料(検体)としては、L−システインの濃度を測定したいものであれば特に制限はない。例えば、血液、血清、血漿、髄液、尿などの生体試料、又はこれらの生体試料から調製された試料等が好適に使用される。
【0053】
L− システイン測定用試薬
本発明のL−システイン測定用試薬は、上述したL−システイン分解酵素とピリドキサル−5’−リン酸を含むことを特徴とする。
【0054】
本発明のL−システイン測定用試薬には、更に、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素及びピルビン酸酸化酵素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の酵素を含むことが好ましい。
【0055】
また、該乳酸脱水素酵素は、D−乳酸脱水素酵素であることがより好ましい。
【0056】
本発明のL−システイン測定用試薬を生体試料に添加して反応を行わせた後、生成されたアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の反応生成物を定量することによって、L−システインの測定を行うことができる。
【0057】
本発明の測定試薬におけるL−システイン分解酵素の含有濃度は特に限定されないが、通常0.0005〜1mg/mlであり、特に0.001〜0.01mg/mlの範囲とすることが好ましい。
【0058】
また、ピリドキサル−5’−リン酸の含有濃度も特に限定されないが、通常0.001〜0.1mmol/mlであり、特に0.005〜0.05mmol/mlの範囲が好ましい。
【0059】
更に補酵素(電子供与体)としてNADHまたはNADPHを用いる場合には、NADHまたはNADPHの含有濃度は、通常0.01〜10mmol/mlであり、特に0.05〜0.2mmol/mlの範囲が好ましい。
【0060】
本発明のL−システイン測定用試薬は、補酵素及び測定用酵素を別々に組合せたものでもよい。具体的には、NADHと脱水素酵素とを含む第1試薬と、L−システイン分解酵素とピリドキサル−5’−リン酸とを含む第2試薬との組合わせなどが挙げられる。
【0061】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0062】
酵素製造例( L− システイン分解酵素の製造)
(1)染色体DNA の調製
ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus) FW73株をブレインハートインフージョン(brain heart infusion)(Difco Laboratories)ブロス中において、5%二酸化炭素存在下で37℃、一昼夜培養した。定常期に達した菌液に等量の培地を加えて、さらに同じ条件下で約1時間培養した。さらに、培養液の3/20容量の20% グリシン(glycine)溶液を加え、約1時間培養した。その後、培養液を遠心して上清を取り除き、培養液の1/50容量の緩衝液(50 mM Tris−HCl, 50 mM glucose, 1 mM EDTA; pH 8)で菌体を懸濁した。同懸濁液 (250 μl) に 1.0 mg/ml (1,000 U/ml) のムタロライシン K−1(mutanolysin K−1) (25 μl) を加え37℃で30分間反応させた。同反応液に100 μl のリゾチーム(10mg/ml; 和光純薬工業)を加え、37℃で60分間反応させた。その後、溶液中のRNAを除去するために、10 μlのリボヌクレアーゼ(10 mg/ml; ニッポンジーン)を加え、37℃で30分間反応させた。さらに、 10 μl のプロテイナーゼK(Proteinase K) (140 U/ml; Sigma Chemicals, USA) を混合し、37℃で60分間反応させた。続いて同反応液にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を1%になるように加え、穏やかに混合した。この反応液を用いて、フェノール・クロロホルム(1:1、v/v)混合溶液による抽出を4回程度行い、さらにクロロホルムによる抽出を1回行った。この抽出液と等量のイソプロパノールを緩やかに混合した際、白雲状に認められる染色体DNAをガラス棒で絡め取り、70%エタノールで洗浄した後、適当量のTE溶液(10 mM Tris−HCl, 1 mM EDTA; pH 8.0)に溶解し、使用時まで4℃で保存した。なお、本実施例で用いたストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus) FW73株は、九州大学大学院歯学研究院口腔保健推進学講座で継代保存されているものを用いた。
【0063】
(2)L−システイン分解酵素遺伝子を発現させるプラスミドの構築
ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus) FW73株のL−システイン分解酵素をコードする遺伝子は、すでに、吉田らによってクローン化され、その塩基配列は国際DNAデータベースである、DNA Data Bank of Japan (DDBJ)に登録されている(登録番号:AB084812)。その塩基配列をもとに、BamHIおよびSalIの制限酵素サイトを付したプライマーを設計した(フォワードプライマー; 5’−TCCGGATCCCGCAAATACAATTTTCAAA−3’(配列番号4)、リバースプライマー; 5’−GACGTCGACTTATTGCGCCAAACAATGCA−3’(配列番号5))。Taq DNAポリメラーゼを用いて、ストレプトコッカス・アンジノサス FW73株の染色体DNAを鋳型としたPCR法にてL−システイン分解酵素をコードする約1.2 kbのDNA断片を増幅した。以上のPCR産物は、QIAquick PCR Purification Kit (Qiagen) を用いて未反応のdNTPおよびプライマーを除去した。発現ベクターとして、N末端にグルタチオン−S−トランスフェラーゼ (GST)をコードする遺伝子および プレサイション プロテアーゼ(PreScission Protease)切断部位を含むpGEX−6P−1 (Amarsham)を用いた。得られたDNA断片をBamHIおよびSalIで切断した後に、同様にBamHIおよびSalIで切断し、脱リン酸化処理した発現ベクターpGEX−6P−Iと等モルずつライゲーションした。こうして得られたプラスミドをエシェリヒア コリ(Esherichia coli )BL21株に形質導入した。本プラスミドはpMILCD110と名付けた。
【0064】
(3)組換えL−システイン分解酵素の精製
組換えL−システイン分解酵素の精製にはRediPack GST Purification Module (Amersham) を用い、操作はキットに添付されている指示書にしたがって行った。まず、BL21株にpMILCD110を導入した形質転換株を、100 μg/mlのアンピシリンを含む 2 ×YT培地を用いて37°Cで培養し、この菌液が550 nmでの吸光度約1.0 に達した時点でIPTGを1 mMになるように加え、さらに37°Cで1.5時間培養した。その後、培養液を4°C、6,000×gで10分間遠心して集菌した。この菌体を1 g (湿重量) あたり2−5 mlの氷冷したPBS (140 mM NaCl、2.7 mM KCl、10 mM K2HNO3、1.8 mM KH2NO3; pH 7.3) で懸濁し、超音波破砕機 (Heat Systems−Ultrasonics Inc., USA) を用いて、氷上にて冷却しながら出力30%、パルス幅0.5秒で30秒の菌体破砕を、冷却のため60秒の休止をおきながら合計5回行った。菌体破砕液は4°C、12,000×gで30分間遠心して上清を回収した。次に、グルタチオン セファロース(Glutathione Sepharose) 4Bの入ったカラムを氷冷したPBS 600 μlで平衡化した後、600 μlの菌体破砕液上清を加え、4°C、3,000×gで1分間遠心してカラムに吸着させた。このカラムを600 μlの氷冷したPBSで3回洗浄したのち、600 μlの氷冷したプレサイションクリベージバッファー(PreScission Cleavage Buffer) (50 mM Tris/HCl、150 mM NaCl、1 mM EDTA、1 mM ジチオスレイトール(dithiothreitol; pH 7.0) で2回洗浄した。これに180 μlのプレサイションクリベージバッファー(PreScission Cleavage Buffer)および10 μlのプレサイションプロテアーゼ(PreScission Protease (Amersham)) を加え、4°Cで一晩GST融合タンパクを消化した後に、カラムを4°C、3,000×gで1分間遠心して精製し、L−システイン分解酵素であるL−システインデスルフヒドラーゼ(L−cysteine desulfhydrase)を得た。
【0065】
実施例 1
上記酵素製造例で得られたL−システイン分解酵素、及び、電子供与体として補酵素NADH(オリエンタル酵母製)を用いて、以下に示すL−システイン定量用試薬を作成した。
【0066】
試薬組成:
<第1試薬>
50mM:リン酸緩衝液(pH7.0)
0.12mM:NADH
60U/ml :D−乳酸脱水素酵素(東洋紡績社製)
<第2試薬>
50mM:リン酸緩衝液(pH7.0)
0.06mM:ピリドキサル−5’−リン酸
0.022mg/ml:L−システイン分解酵素
そして、この試薬を用いて、以下に示すようにして、各種濃度(0.1〜1.0mM)のL−システイン溶液を測定した。
【0067】
各濃度のL−システイン溶液各10μlに対し、第1試薬0.25mlを添加して37℃で5分反応させ、次に第2試薬0.05mlを添加して37℃で5分反応させ、波長340nmの吸光度を12秒毎に測定して、生成されたピルビン酸の定量を行った。これらの操作は、日立7150形自動分析装置により行った。水及びL−システイン溶液を試料として用いた際のタイムコースを図1に示す。
【0068】
12秒毎の測定を1ポイントとし、50ポイントの値より26ポイントの値を引くことで、測定値を求めた。その結果を図2に示す。
【0069】
図2から明らかなように、L−システイン濃度0〜1mMまで、直線的な吸光度変化の上昇が得られた。得られた直線の関係は、y=145x、r2=0.999(ここで、yは吸光度変化、xはシステイン濃度、rは相関係数)であって、正確なL−システインの定量が可能であることが分かった。
【0070】
実施例 2
上記酵素製造例で得られたL−システイン分解酵素、及び、電子供与体として補酵素NADH(オリエンタル酵母製)を用いて、以下に示すL−システイン定量用試薬を作成した。
【0071】
試薬組成:
<第1試薬>
50mM:リン酸緩衝液(pH7.0)
0.12mM:NADH
60U/ml :D−乳酸脱水素酵素(東洋紡績社製)
<第2試薬>
50mM:リン酸緩衝液(pH7.0)
0.06mM:ピリドキサル−5’−リン酸
0.0087mg/ml:L−システイン分解酵素
そして、この試薬を用いて、以下に示すようにして各種濃度(1〜10mM)のL−システイン溶液を測定した。
【0072】
各濃度のL−システイン溶液各10μlに対し、第1試薬0.25mlを添加して37℃で5分反応させ、次に第2試薬0.05mlを添加して37℃で5分反応させ、波長340nmの吸光度変化を12秒毎に測定し、レイトアッセイ(反応速度の測定)を実施した。測定結果は時間あたりの吸光度変化として表した。これらの操作は、日立7150形自動分析装置により行った。その結果を図3に示す。
【0073】
図3から明らかなように、L−システイン濃度0〜10mMまで、直線的な吸光度変化の上昇が得られた。得られた直線の関係式は、y=45.5x、r2=0.996(ここで、yは時間あたりの吸光度変化、xはシステイン濃度、rは相関係数)であって、正確なL−システインの定量が可能であることが分かった。
【0074】
実施例 3
上記酵素製造例で得られたL−システイン分解酵素を用いて、以下に示すL−システイン定量用試薬を作成した。
【0075】
試薬組成:
50mM:リン酸緩衝液(pH6.5)
3U/ml:ピルビン酸酸化酵素(東洋紡績社製)
5U/ml:ペルオキシダーゼ(東洋紡績社製)
0.5mM:チアミンピロリン酸
0.01mM:FAD
10mM:硫酸マグネシウム
0.5mM:4−アミノアンチピリン
0.6mM:色原体TOOS(N−エチル−N(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−m−トルイジン)
0.01mM:ピリドキサル−5’−リン酸
0.009mg/ml:L−システイン分解酵素
そして、この試薬を用いて、以下に示すようにして各種濃度(1〜6mM)のL−システイン溶液を測定した。
【0076】
各濃度のL−システイン溶液各10μlに対し、試薬0.3mlを添加して37℃で10分反応させ、10分後の波長546nmの吸光度変化を測定し、生成されたピルビン酸の定量を行った。
【0077】
これらの操作は、日立7150形自動分析装置により行った。その結果を下記表1に示す。
【0078】
表1の結果から明らかなように、L−システイン濃度の増加に従って、吸光度変化の上昇が得られ、L−システインの定量が可能であることが分かった。
【0079】
【発明の効果】
このように、本発明によれば、L−システインを含む試料にL−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素を、ピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させることにより、L−システイン分解酵素が、L−システインに直接作用して、生成されたいずれかの化合物を測定することにより、正確なL−システインの定量が可能となる。本発明により、安価であり、正確かつ簡便なL−システインの測定方法及び測定用試薬が提供される。また、本発明においては、主に関与する酵素は、L−システイン分解酵素のみであることから、複雑な酵素共役系を介することなく、簡便に、安価に、かつ正確にL−システインを定量することが可能となる。更に、汎用の自動分析装置を用いて多数の検体処理を行うことも可能となる。
【0080】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明によるL−システイン測定のタイムコースを示す。図中の●◆▲は、それぞれ、L−システイン溶液のL−システイン濃度が0mM、0.1mM、0.2mMである時の結果を示す。
【図2】図2は、本発明によるL−システイン測定の結果を示す。
【図3】図3は、本発明によるL−システイン測定の結果を示す。
Claims (17)
- 試料中のL−システインに、L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しないL−システイン分解酵素を、ピリドキサル−5’−リン酸の存在下において作用させ、生成されたアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の反応生成物を定量することを特徴とするL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、口腔内に存在する細菌由来のものである請求項1記載のL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれかの細菌由来のものである請求項2に記載のL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、配列番号1記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、配列番号2記載の塩基配列、その相補配列、又はそれらとストリンジェントな条件でハイブリダイズする配列のいずれかによってコードされるものである請求項1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、配列番号3記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
- L−システイン分解酵素が、更にセリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しない酵素である請求項1〜6のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
- 以下の(a)〜(e)のいずれかの工程を有する請求項1〜7のいずれかに記載のL−システインの測定方法。
(a)生成された硫化水素を、硫化物イオンの発色検出により測定する工程、
(b)生成されたアンモニアを、グルタミン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(c)生成されたピルビン酸を、ピルビン酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADまたはNADPの存在下において作用させ、生成されたNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(d)生成されたピルビン酸を、乳酸脱水素酵素の反応の基質とし、NADHまたはNADPHの存在下において作用させ、反応に伴い減少するNADHまたはNADPHを紫外部吸光により定量する工程、
(e)生成されたピルビン酸をピルビン酸酸化酵素の反応の基質とし、色原体及びペルオキシダーゼの存在下において作用させ、反応に伴い増加するキノン色素を発色定量する工程。 - L−システインに反応してアンモニア、ピルビン酸及び硫化水素を生成する反応を触媒し、D−システイン、ホモシステインとは実質的に反応しない酵素及びピリドキサル−5’−リン酸を含むことを特徴とするL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、口腔内に存在する細菌由来のものである請求項9記載のL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、ストレプトコッカス・アンジノサス(Streptococcus anginosus)又はフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum)のいずれかの細菌由来のものである請求項10に記載のL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、配列番号1記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである請求項9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、配列番号2記載の塩基配列、その相補配列、又はそれらとストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列のいずれかによってコードされるものである請求項9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、配列番号3記載のアミノ酸配列又は該アミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、付加又は置換した配列を含むものである請求項9〜11のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
- L−システイン分解酵素が、更にセリン、アラニン、L−システインメチルエステル、L−メチオニンとも実質的に反応しない酵素である請求項9〜14のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
- 更に、グルタミン酸脱水素酵素、ピルビン酸脱水素酵素、乳酸脱水素酵素及びピルビン酸酸化酵素からなる群から選ばれる1種又は2種以上の酵素を含む請求項9〜15のいずれかに記載のL−システインの測定用試薬。
- 乳酸脱水素酵素が、D−乳酸脱水素酵素である請求項16に記載のL−システインの測定用試薬。
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