JP5043081B2 - 生体試料中のl−リジンの定量法 - Google Patents

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Description

本発明は、生体試料中のL−リジンをL−リジン ε−オキシダーゼを用いて定量可能な生成物に変換し、この生成物を定量することでL−リジンの含有量を測定する方法に関するものである。
アミノ酸は、タンパク質の構成単位であるとともに、エネルギー源、栄養素、代謝系の中間体としても重要である。L−リジンは、タンパク質構成アミノ酸の1つであるが、体内で生産できない必須アミノ酸である。L−リジンを含むアミノ酸の濃度は、生体内では、恒常性が維持されているが、先天性代謝異常や内臓疾患により、血中濃度が大きく変動する。L−リジンに限らず、生体内のアミノ酸濃度は疾病を検出する有用な手段となり得る。このため、1種類もしくは多種類のアミノ酸の血中濃度を測定することにより、これらの疾病を検出することが可能となる(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2)。但し、特許文献1、非特許文献1、非特許文献2には、L−リジンの血中濃度測定に関する記載はない。
アミノ酸の定量法として酵素を用いる方法が多数知られており、酵素を用いる方法は、機器分析的手法と比べ安価で簡易的に行うことができるという利点がある。定量用酵素としては、例えば、デヒドロゲナーゼまたはオキシダーゼが多く用いられる。オキシダーゼを用いる場合、アミノ酸にオキシダーゼを作用させることで生産される過酸化水素をペルオキシダーゼで検出し、定量する。この検出及び定量には、比色法、蛍光法、電極法のいずれの方法も利用可能である。
L−リジンの定量法としても酵素を用いる方法が知られている。例えば、オキシダーゼによる定量には、L−リジン α−オキシダーゼ[EC. 1. 4. 3. 14]が用いられてきた(特許文献2)。トリコデルマ ビリデ(Tricoderma viride)由来のL−リジンα−オキシダーゼは、他のL-アミノ酸オキシダーゼと比べ、L−リジンに対する特異性が高く、市販もされていることから、酵素センサーなどの素子として利用されてきた(非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5、非特許文献6)。
国際公開WO2006/129513号公報 特開昭55-43409号公報
Hepatology Reserch 34:170-177(2006) Anal.Chem. 81:307-314(2009) Sensors and Actuators B 126:424-430 (2007) Enzyme and Microbial Technology 26:537-543 (2000) Biosensors & Bioelectronics 14:211-220 (1999) Biosensors & Bioelectronics 14:67-75 (1999) Anal. Bioanal. Chem.391:1255-1261(2008) Biochimica. et. Biophysica. Acta. 1721:193-203(2005) Journal of Bacteriology 188, No.7:2493-2501(2006) Biochimica. et. Biophysica. Acta. 1764:1577-1585(2006) Journal of Bacteriology 190, No.15:5493-5501(2008)
しかし、L−リジン α−オキシダーゼは、定量の際、複数のアミノ酸に対して弱いながら活性を示す(特許文献2)。そのため、血漿のような多種類のアミノ酸を含有する試料をL-リジン α−オキシダーゼを用いて定量した場合、過剰評価になる傾向がある(後述の実施例図2参照)。
また、最近、上記L-リジン α−オキシダーゼより特異性の高いL−リジンα−オキシダーゼ及びこの酵素を用いたL−リジンの定量法が報告された(非特許文献7)。しかし、このL−リジンα−オキシダーゼは、海水魚の粘液由来であり、培養による酵素生産は報告されておらず、現状ではこの酵素を用いるL−リジンの定量法の汎用は困難である。
L−リジンのオキシダーゼによる定量法は有用な方法であると考えられるが、上述のように、現在まで利用されている酵素では、基質特異性の面から十分な性能を有していなかった。
そこで、本発明は、生体試料中のL−リジンを、他のアミノ酸が共存する場合であっても特異的に定量可能である酵素的定量法を提供することを目的とする。
さらに本発明は、上記酵素的定量法を実施する際に利用できる測定用のキットを提供することも目的とする。
加えて本発明は、上記酵素的定量法に利用できる酵素センサーを提供することも目的とする。
本発明者らが種々検討した結果、L−リジンに作用させる酵素としてL−リジンε−オキシダーゼを用いることで、検出可能な生成物がL−リジンから定量的に生じること、さらにはL-リジンε−オキシダーゼは、L−リジンに他のアミノ酸が共存しても、L−リジンに特異的に反応して、検出可能な生成物がL−リジンの存在量に比例して生成することを見出して本発明を完成した。
本発明は、以下に示す通りである。
[1]
L−オルニチンを含有する可能性がある生体試料を含有する検体に、L−リジンε−オキシダーゼを作用させ、生じた生成物を定量することを含む、前記生体試料に含有されるL−リジンの測定方法。
[2]
L−リジンε−オキシダーゼがマリノモナス・メディテラネア(Marinomonas mediterranea)由来の酵素である[1]に記載のL−リジンの測定方法。
[3]
前記生成物が過酸化水素である[1]または[2]に記載のL−リジンの測定方法。
[4]
過酸化水素を、ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する[3]に記載のL−リジンの測定方法。
[5]
過酸化水素を、過酸化水素電極を用いた電流検出型センサーにより測定する[3]に記載のL−リジンの測定方法。
[6]
前記生成物がアンモニアである[1]または[2]に記載のL−リジンの測定方法。
[7]
アンモニアを、アンモニア検出薬を用いて測定する[6]に記載のL−リジンの測定方法。
[8]
前記生成物がL−リジンの脱アミノ化生成物2-アミノアジピン酸 6-セミアルデヒドである[1]または[2]に記載のL−リジンの測定方法。
[9]
L−リジンの2-アミノアジピン酸 6-セミアルデヒドを、アルデヒドデヒドロゲナーゼまたはアルコールデヒドロゲナーゼを用いて測定する[8]に記載のL−リジンの測定方法。
[10]
L−オルニチンを含有する可能性がある生体試料が血漿、血清、または尿である[1]〜[9]のいずれかに記載のL−リジンの測定方法。
[11]
以下の試薬を含む、L−オルニチンを含有する可能性がある検体におけるL−リジンの測定用キット。
(1)L−リジンε−オキシダーゼ
(2)L−リジンε−オキシダーゼにより生成する生成物検出用試薬
[12]
生成物検出用試薬がペルオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ用発色剤を含む[11]に記載の測定用キット。
[13]
生成物検出用試薬がアンモニア検出薬を含む[11]に記載の測定用キット。
[14]
生成物検出用試薬がアルコールデヒドロゲナーゼを含む[11]に記載の測定用キット。
[15]
反応用緩衝液をさらに含む[11]〜[14]のいずれかに記載の測定用キット。
[16]
L−リジンε−オキシダーゼを用いることを特徴とするL−オルニチンを含有する可能性がある検体におけるL−リジンの測定用酵素センサー。
[17]
L−リジンε−オキシダーゼから生成される生成物の定量反応に用いられる酵素をさらに用いる[16]に記載の酵素センサー。
[18]
電気化学メディエーターをさらに用いる[16]または[17]に記載の酵素センサー。
[19]
L−リジン測定用である[16]〜[18]のいずれかに記載のセンサー。
上記のように、本発明によれば、L−リジンε−オキシダーゼがL−リジンのε位のアミノ基に作用するため、他のアミノ酸に作用することなく多種類のアミノ酸を含む試料中であっても、特異的にL−リジンのみを定量することができる。
また、本発明は、血漿、血清または尿のような生体試料に対し特に有効であり、ペルオキシダーゼ等の酵素とカップリングさせることにより発色法や蛍光法でL−リジンを定量できるのみならず、電極型酵素センサーを提供することもできる。
L−リジンε−オキシダーゼの各精製段階におけるSDS-PAGE L−リジンε−オキシダーゼを用いたL−リジン定量の検量線 L−リジンα−オキシダーゼ及びL−リジンε−オキシダーゼを用いた酵素法及び超高速アミノ酸分析システムを用いたL-リジン定量の比較
<L−リジンの測定方法>
本発明のL−リジンの測定方法は、生体試料を含有する検体に、L−リジンε−オキシダーゼを作用させ、生じた生成物を定量することを含むものである。
本発明の測定対象となる生体試料は、L−リジンを含む可能性のある試料であれば、如何なるものでもよい。生体試料にL−リジンε−オキシダーゼを作用させて生じる、どの生成物を定量することで生体試料中のL−リジンの濃度を測定するのかにより、生体試料は適宜選択することができる。例えば、発色剤や蛍光剤を利用して上記生成物を定量する場合には、タンパク質を含まず、無色の水溶液であることが好ましく、例えば、限外濾過等で除タンパク質処理を行った、血清及び血漿が挙げられる。
本発明において用いるL-リジンε−オキシダーゼは、マリノモナス メディテラネア(Marinomonas mediterranea)が分泌する抗細菌タンパク質としてはじめて報告されたものである(非特許文献8)。さらに、その後、該当タンパク質がL−リジンを基質とするオキシダーゼであることが明らかとなった(非特許文献9)。さらに、その後に、反応により生じる過酸化水素が非特許文献4で報告されていた抗細菌活性の正体であることが確かめられ、L−リジンε−オキシダーゼとして報告された(非特許文献10)。しかし、本酵素をL−リジンの定量に用いることを報告した例は、これまでになかった。
本発明で用いるL−リジン ε−オキシダーゼは、特定の種より生産されるものに限られるものではなく、特異的にL-リジンのε位のアミノ基を酸化的脱アミノ化するのに伴い過酸化水素を生産する酵素を意味する。L−リジン ε−オキシダーゼとしては、例えば、上記マリノモナス メディテラネア(Marinomonas mediterranea)が生産するL−リジン ε−オキシダーゼを挙げることができる。あるいは、非特許文献11に記載のシュードアルテロモナス ツニカタ(Pseudoalteromonas tunicate) が生産するL−リジン ε−オキシダーゼも挙げることができる。
さらに、このL-リジン ε−オキシダーゼの遺伝子、またはこのL−リジン ε−オキシダーゼと同様の活性を有するタンパク質の遺伝子を大腸菌などの宿主において発現させて得られる酵素またはタンパク質も、本発明で用いるL-リジン ε−オキシダーゼに含まれる。L−リジン ε−オキシダーゼの遺伝子またはL-リジン ε−オキシダーゼのホモログ体の遺伝子の情報は、以下の表1に記載の遺伝子アクセッションナンバーに基づいて入手できるが、本発明はこれらの遺伝子にのみ限られるものではない。
また、異種発現による生産法としては、例えば、上記該当菌株よりそれぞれのゲノムDNAから該当する遺伝子をPCRにて増幅しpETもしくはpUCなどに組み込みのプラスミドベクターを構築したのち、BL21、JM109などの宿主菌株に形質転換し、培養する方法が挙げられる。これら以外の公知の方法も適宜用いることができる。
L−リジン α−オキシダーゼによるL−リジンの酸化反応を以下の反応式A(上段)に示し、L−リジン ε−オキシダーゼによるL−リジンの酸化反応を以下の反応式B(下段)に示す。
本発明で用いるL-リジン ε−オキシダーゼとは、上記反応式Bに示す反応を触媒する酵素を意味し、従って、その由来やアミノ酸配列の違いで限定されることはない。
L−リジン ε−オキシダーゼによるL-リジンの酸化反応においては、反応式Bに示すように、生成物として過酸化水素(H22)、アンモニア(NH3)及びL−リジンの脱アミノ化生成物である2-アミノアジピン酸 6-セミアルデヒドが得られる。
定量に用いられる生成物が過酸化水素である場合、過酸化水素は、例えば、ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する方法等の公知の方法で定量することができる。ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する場合、使用可能なペルオキシダーゼは、過酸化水素の定量に利用可能な酵素であればよく、例えば、西洋わさび由来ペルオキシダーゼが挙げられる。また、発色法を採用した場合の発色剤としては、使用するペルオキシダーゼの基質となり得るものであれば良く、西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる場合には、4-アミノアンチピリン:フェノールなどが挙げられる。西洋ワサビペルオキシダーゼを用いる過酸化水素の定量のための反応は以下に示す通りである。
4−アミノアンチピリン等の発色剤や蛍光剤は、使用されるペルオキシダーゼの種類によって適宜選択することが可能である。
上記生成物である過酸化水素は、過酸化水素電極を用いた電流検出型センサーを用いて測定することもできる。過酸化水素電極としては、例えば、ペルオキシダーゼをBSA(牛血清アルブミン)とともにグルタルアルデヒドに固定化した膜とフェロセンをカーボンペーストに含有させたものを電極として用いるセンサーを挙げることができる。
定量に用いられる生成物がアンモニアである場合、アンモニアはアンモニア検出薬を用いて測定することができる。例えば、遊離するアンモニウムイオンをインドフェノール(インドフェノール青法等)やo-フタル酸アルデヒド等の検出試薬を用いて定量する方法が挙げられる。また、グルタミン酸デヒドロゲナーゼを用いる酵素法も利用できる。インドフェノール青法の原理は、アンモニア窒素が次亜塩素酸塩と反応しモノクロラミンを生成し、さらにモノクロラミンとフェノールとが[化3]のように反応して生ずるインドフェノール青の吸光度を測定することでアンモニア窒素を定量するものである。o-フタル酸アルデヒドを用いる方法は、アンモニアとo-フタル酸アルデヒドから[化4]のように反応して生じる蛍光物質を測定する方法である。また、L−グルタミン酸デヒドロゲナーゼを用いる方法は、[化5]のようにグルタミン酸デヒドロゲナーゼの活性により2-オキソグルタル酸とアンモニアからグルタミン酸が生じるのに伴いNADHがNAD+に変換されることを利用して行う方法である。
定量に用いられる生成物が2-アミノアジピン酸 6-セミアルデヒドである場合、そのアルデヒド基の定量法としては、例えばアルコールデヒドロゲナーゼやアルデヒドデヒドロゲナーゼを用いてNAD(P)Hの減少もしくは増加を測定する方法が挙げられる。以下に脱アミノ化反応により生じるアルデヒド基を、アルデヒドデヒドロゲナーゼを用いて測定する方法の反応式を示す。
生体試料を含有する検体に対し、L−リジンε−オキシダーゼを作用させる反応、及び生じた生成物を定量する反応は、一般的に酵素反応が可能な4〜80℃の範囲で、その酵素の至適温度を考慮して適宜決定される。上述のマリノモナス メディテラネア由来の酵素および西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる場合、好ましくは、常温付近で15℃〜40℃で実施することが望ましい。また、反応液のpHは、L−リジンε−オキシダーゼ及び生成物の定量に酵素を用いる場合には、使用する酵素及びその他の試薬の安定性、可溶性が許す範囲においていずれのpHでも可能であるが、好ましくはその酵素の至適pH付近で行うことが望ましい。特に上述のマリノモナス メディテラネア由来の酵素および西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる場合は、中性付近(pH6〜8)が望ましい。
また、L−リジンε−オキシダーゼを作用させる反応、及び生じた生成物を定量する反応は、同一の反応容器内で、同時(並行して)実施することもできるし、逐次実施することもできる。
本発明は、以下の試薬を含むL−リジンの測定用キットも包含する。
(1)L−リジンε−オキシダーゼ
(2)L−リジンε−オキシダーゼにより生成する生成物検出用試薬
(1)のL−リジンε−オキシダーゼは、天然型の酵素であっても、遺伝子組換技術により生産された酵素であってもよい。天然型の酵素は、例えば、前述のマリノモナス メディテラネア(Marinomonas mediterranea)の培養物よりL−リジンε−オキシダーゼを採取し、必要により精製することで調製できる。遺伝子組換技術により生産された酵素は、表1に示す情報に基づいて入手した遺伝子若しくはそのホモログ、またはその改変体であって発現タンパク質がL−リジンε−オキシダーゼ活性を有する遺伝子を導入した形質転換体、例えば、大腸菌を常法により培養し、得られた菌体からL−リジンε−オキシダーゼを採取し、必要により精製することで調製できる。
(2)のL−リジンε−オキシダーゼにより生成する生成物検出用試薬は、検出対象となる生成物に応じて適宜決定できる。例えば、検出対象となる生成物が過酸化水素の場合は、生成物検出用試薬は、ペルオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ用発色剤を含むものであることができる。検出対象となる生成物がアンモニアの場合は、生成物検出用試薬は、アンモニア検出薬を含むものであることができる。検出対象となる生成物が2-アミノアジピン酸 6-セミアルデヒドの場合は、生成物検出用試薬は、アルデヒド基に作用する酵素および補酵素、例えばアルコールデヒドロゲナーゼとNAD(P)Hまたは、アルデヒドデヒドロゲナーゼとNAD(P)+を含むものであることができる。
本発明の測定用キットは、上記(1)及び(2)に加えて、反応用緩衝液をさらに含むものであることができる。反応用緩衝液は特に制限はなく、L−リジンε−オキシダーゼ及び生成物の定量に酵素を用いる場合にはその酵素の反応を阻害しないことを条件に至適pHを考慮して適宜決定される。
<酵素センサー>
本発明は、L−リジンε−オキシダーゼを用いることを特徴とする酵素センサーに関する。このセンサーは、L−リジン測定用アミノ酸センサーとして利用できる。
本発明の酵素センサーは、少なくともL−リジンε−オキシダーゼを含むものであり、ペルオキシダーゼあるいはアルデヒドデヒドロゲナーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼなどのL−リジンε−オキシダーゼから生成される生成物の定量反応に用いられる酵素をさらに含むものであることもできる。さらに、本発明の酵素センサーは、上記酵素以外に、電子伝達タンパク質やジアホラーゼなど検出に寄与するタンパク質を含むことができる。上記L−リジンε−オキシダーゼ及びその他の酵素は、電極に直接または間接的に固定化するか、または別途、試験対象液等に添加することもできる。本発明の酵素センサーは、L-リジンε−オキシダーゼおよび上記の生成物の定量反応に用いる酵素を用い、その上で、公知の酵素センサーで採用されている構成をそのまままたは適宜改変して利用することができる。
本発明における酵素センサーは、公知の酵素電極の基本的な構成にL−リジンε−オキシダーゼを組み合わせた物であり、直接もしくは間接的にL−リジンε−オキシダーゼおよび前述の生成物定量用酵素を固定化した酵素電極を用いる電極型酵素センサーであることができる。さらに、この酵素電極の電極付近に酵素と電極の間の電子の授受を容易にする電気化学メディエーターを存在させたものであることもできる。電気化学メディエーターとしては、例えば、フェロセンまたはフェロセンメタノール、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを挙げることができる。電極型酵素センサーの具体例を以下に示す。
電極型酵素センサー(例1)
酵素電極:カーボン電極上にペルオキシダーゼ、L−リジンε−オキシダーゼを固定化
電極型酵素センサー(例2)
酵素電極:カーボン電極上にペルオキシダーゼ、L−リジンε−オキシダーゼを固定化
電気化学メディエーター:3,3’,5,5’−テトラメチルベンジジン
電極型酵素センサー(例3)
酵素電極:金電極上にL−リジンε−オキシダーゼ、ジアホラーゼ、アルデヒドデヒドロゲナーゼを固定化
電気化学メディエーター:フェロセンメタノール
*試料中にNAD+を添加
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが本発明はこれに限定されるものではない。
1.L−リジンε−オキシダーゼの調製例
(1)L−リジンオキシダーゼ活性測定用試薬の調製
反応試薬A(20 mL)
0.6 mL 1M リン酸カリウムバッファー(pH7.0)
50 mg フェノール
脱イオン水で20 mLに調整
反応試薬B(3 mL)
2 mg 西洋わさび由来ペルオキシダーゼ(Wako),
30 mg 4-アミノアンチピリン
脱イオン水で3 mL に調整
基質溶液
0.1M L−リジン塩酸塩
L−リジンオキシダーゼ活性測定試薬 (10回分)
反応試薬A 1 mL
反応試薬B 20 μL
基質溶液 0.5 mL
(2)L−リジンオキシダーゼ活性測定
上述のL−リジンオキシダーゼ活性測定試薬 0.15 mLを96ウェルマイクロプレートに加え、最終容量が0.2 mLとなるように脱イオン水を加えた後、適量(50μL以下)の酵素サンプルの添加により反応を開始した。活性の測定は、TECAN Infinite M200を用いて、500 nmの吸光度を測定し行った。
(3)Marinomonas mediterranea 培養上清の調製
Marinomonas mediterranea NBRC 103028T は、NBRCより入手したものを使用した。前培養として5 mLのMarine broth 2216 (Difco)を含む試験管で25℃、200 rpmで12時間培養後、500 mLのMarine brothを含む2 Lのバッフル付き三角フラスコに殖菌し、25℃、150 rpmで48時間培養した。培養後、5000xg, 10分間遠心分離し、培養上清を得た。
(4)L−リジンε−オキシダーゼの精製
培養上清を、冷却済みの脱イオン水で3倍に希釈し50 mM リン酸カリウムバッファー(KPB)(pH7.0)で平衡化したDEAE-sephacel (GEヘルスケア)を充てんしたカラムに添加した。0.1、0.2、0.3 MのNaClを含む50 mM KPB (pH7.0)で順次溶出を行い、上記活性測定法により検出した活性画分(0.3 M溶出)を集め50 mM KPB(pH 7.0)に透析した。続いて同じく50 mM KPB (pH 7.0)で平衡化したDEAE-sephacelを充てんしたカラムに透析したサンプルを添加し、NaCl濃度0〜0.35 Mまでのリニアグラジェント溶出を行い、活性画分を分取した。再度、透析後50 mM KPB (pH7.0)で平衡化したMonoQに添加し、0〜0.5 Mのリニアグラジェント溶出を行い活性画分を同様の緩衝液に透析した。最終的に精製酵素として比活性36.9 U/mg proteinを得た。図1に精製酵素のSDS-PAGEを示す。図1から明らかなように、上記3段階の精製操作によりSDS−PAGE的に単一なタンパク質として精製された。
2.L−リジンε−オキシダーゼとL−リジン α−オキシダーゼのアミノ酸に対する基質特異性の比較
上述の活性測定における基質溶液を、20種すべてのタンパク質構成アミノ酸およびL−オルニチンでそれぞれ作成し、上述の精製酵素および市販のL−リジン α−キシダーゼ(YAMASA)で基質特異性の比較を行った結果を表2に示す。
表2から明らかなように、L-リジン α−オキシダーゼでは、L−リジンの他、L−オルニチン、L−フェニルアラニン、L−ロイシンL−ヒスチジン、L−チロシン、L−アルギニンで活性がみられた。それに対し、L−リジンε−オキシダーゼでは、L−オルニチンでのみL−リジンの3.4%の活性が検出されたのみであり、L−リジンε−オキシダーゼがL−リジンα−オキシダーゼよりも、高い基質特異性を有していることが分かった。
*L−グリシン,L−アラニン,L−アスパラギン,L−アスパラギン酸,L−グルタミン,L−グルタミン酸,L−プロリン,L−バリン,L−イソロイシン,L−トリプトファン,L−スレオニン,L−セリン,L−システイン,L−メチオニンでは、いずれの酵素においても活性なし。特許文献2は酸素電極による計測結果。
3.L−リジン定量反応
(1)L−リジン 定量反応試薬の調製
定量反応試薬(10回分)
反応試薬A(上記) 0.1 mL
反応試薬B(上記) 50 μL
L−リジンε−オキシダーゼ 1 U
脱イオン水を加え1.5 mLに調整
(2)L−リジン定量法
試料溶液 50μLを96ウェルマイクロプレートに添加し、上記定量反応試薬、150μLを加えた後、30℃で20分間振蕩した。反応終了後直ちにTECAN Infinite M200を用いて、500 nmの吸光度を測定した。
(3)L−リジンの検量線の作成
前述の定量法に則り0, 50, 100, 200, 300, 500μMのリジン塩酸塩水溶液を標準試料として用いて検量線を作成した。作成した検量線を図2に示す。
図2で明らかなように本定量法では、0〜500μMの範囲で、直線的な吸光度の増加がみられた。得られた直線の関係は、y = 0.8585x + 0.0455(R2 = 0.9999)[ここでのyは500 nmの吸光度、xは、L−リジン濃度、Rは、相関係数を示す]であって正確なL-リジン定量が可能であることが分かった。
(4)L−リジン ε−オキシダーゼによるL−リジン定量に対するL−オルニチンの影響
100μMおよび500μMの L−オルニチンと150μMのL−リジン塩酸塩を含む試料溶液について、前述の検量線を用いてL−リジンの定量を行った結果を表3に示す。
表3から明らかなようにL-オルニチンは、L-リジン ε−オキシダーゼを用いた定量には、影響を与えないことが分かった。
*測定値は、L−リジン濃度(n=4)
4.ヒト血清および血漿中のL-lysine 定量における超高速アミノ酸分析システムとの比較
(1)定量用ヒト血清およびヒト血漿の前処理
血清及び血漿試料は、コージンバイオよりそれぞれ3本づつ(pool 1、個体別 2)を購入し-20℃で保管した。使用時には、流水で解凍後、測定の前処理として13,600 rpm 10分遠心分離後、上清を回収し変性タンパク質等の浮遊物を沈殿として除去した。タンパク質の除去は、Microcon YM-10 (Millipore)により行った。
(2)ヒト血清及び血漿の超高速アミノ酸分析システムによるL−リジンの定量
L−リジン定量の比較対象として、超高速アミノ酸分析システムを用いたプレカラム誘導体化法による定量を行った。前述の前処理済み血清及び血漿試料0.01 mLをWaters AccQ-Tag Ultra derivatization kitを用いて誘導化し、超高速アミノ酸分析システム[Waters Acquity ultra performance LC (UPLC)]を用いて分析を行った。誘導体化条件を以下に示す。
誘導体化条件
トータルリカバリーバイアルに試料10μLに対し70μLのホウ酸塩緩衝液を加え混和後20μLのAccQ-Tag Ultra試薬を加え攪拌後室温で1分静置したのち、55℃で10分間加温し誘導体化試料とした。
分析条件
注入量 :1μL
検出 :蛍光検出器
移動相 :A: 10% AccQ-Tag Ultra 溶離濃縮液A
B: AccQ-Tag Ultra 溶離濃縮液B(原液)
分析温度 :60℃
メソッド :FLR_Cell_Cult_Seq07
標準試料として、Amino Acid Standard H (Thermo)によりリテンションタイムの設定を行い、上記酵素法と同じL−リジン塩酸塩溶液を用いて検量線を作成した。
(3)ヒト血漿及び血清中のL−リジン定量のL-リジンα−オキシダーゼとL-リジンε−オキシダーゼを用いた酵素法および超高速アミノ酸分析システムとの比較
各定量法による結果を図3に示す。血漿の結果が上部、血清の結果が下部である。図中の「α−オキシダーゼ」が、L−リジンα−オキシダーゼ用いた酵素法の結果、「ε−オキシダーゼ」がL−リジンε−オキシダーゼを用いた酵素法の結果、「アミノ酸分析」が超高速アミノ酸分析システムを用いた結果である。図3が示すとおり、いずれの試料においてもL-リジン α−オキシダーゼを用いた酵素法に比べ本発明によるL−リジン ε−オキシダーゼによる方法は、超高速アミノ酸分析システムと近い値を示した。したがってL-リジン ε−オキシダーゼは、L−リジン α−オキシダーゼに比べ、正確な定量が可能であることが分かった。
L−リジンに関しては、先天性アミノ酸代謝異常の一つとして高リジン血症が知られており、マススクリーニングの方法として本発明は有望である。また、L−リジンは、必須アミノ酸であり食物として取り込む場合でも不足しがちである。代謝系に与える影響も大きいことから動物実験等における代謝研究用あるいは食品等のL−リジン測定キットとしても需要が期待される。また、複数のアミノ酸の濃度より算出される「アミノインデックス」による疾病検出にも他のアミノ酸定量用酵素と組み合わせて使用することが可能である。これらの利用法に関し、実施例で示す発色法以外に蛍光法、電極法などでの測定、酵素センサーとして構築し、小型酵素センサーとして事業化可能である。

Claims (7)

  1. L−オルニチンを含有する可能性がある生体試料を含有する検体に、L−リジンε−オキシダーゼを作用させてL−リジンε−オキシダーゼによるL−リジンの酸化反応終了後に、前記酸化反応で生じた過酸化水素を定量することを含む、前記生体試料に含有されるL−リジンの測定方法であって、
    前記検体及びL−リジンε−オキシダーゼを含有する反応液は、前記検体に由来するL−オルニチンの最大濃度が125μMである、前記測定方法
  2. L−リジンε−オキシダーゼがマリノモナス・メディテラネア(Marinomonas mediterranea)由来の酵素である請求項1に記載のL−リジンの測定方法。
  3. 過酸化水素を、ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する請求項1または2に記載のL−リジンの測定方法。
  4. 前記L−オルニチンを含有する可能性がある生体試料が血漿、血清、または尿である請求項1〜のいずれかに記載のL−リジンの測定方法。
  5. 以下の試薬を含む、L−オルニチンを含有する可能性がある検体におけるL−リジンの測定用キットであって、前記検体及び下記L−リジンε−オキシダーゼを含有する反応液は、前記検体に由来するL−オルニチンの最大濃度が125μMであり、L−リジンε−オキシダーゼによるL−リジンの酸化反応終了後に前記酸化反応で生じた過酸化水素を定量することによる前記検体に含まれるL−リジンの測定に用いるための前記キット
    (1)L−リジンε−オキシダーゼ
    (2)L−リジンε−オキシダーゼにより生成する過酸化水素検出用試薬
  6. 過酸化水素検出用試薬がペルオキシダーゼ及びペルオキシダーゼ用発色剤を含む請求項に記載の測定用キット。
  7. 反応用緩衝液をさらに含む請求項のいずれかに記載の測定用キット。
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