本発明は、極細繊維を含む基体上に表皮層が存在する銀付調の皮革様シート状物に関するものである。
本発明における極細繊維とは、0.2dtex以下、好ましくは0.1dtex以下、特に好ましくは0.0001〜0.05dtexの繊度の極細繊維のことである。また、そのような極細繊維の例としては、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステル繊維、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミド繊維を挙げることができる。さらに本発明ではこの極細繊維が束として集合している極細収束繊維が存在していることが必要である。例えばこのような極細集束繊維としては、溶剤溶解性の異なる2成分以上の重合体組成物から複合紡糸法、混合紡糸法などにより海島型繊維として紡糸して得た多成分繊維の少なくとも一成分を除去し極細化した繊維等が挙げられる。ただし該極細繊維は、束状になっている場合、一つの束に極細繊維が好ましくは、10本から5000本、更に好ましくは、100本から2000本含まれていることが好ましい。
本発明の極細繊維を含む基体とは、上記のような極細繊維を含んだシート状物であれば特に制限はなく、繊維全部が極細繊維ではなく一部に極細繊維を含むものでも良い。このような基体としては織編物であっても良いが、風合を向上させるためには不織布が主体であり、織編物は補強用として一部に含むか、全く含まないことが好ましい。
また、本発明の基体はその表皮層以外の部分には、高分子弾性体を含んでいる場合もいない場合も使用できる。しかし繊維の脱落防止や強度を高めるためには、本発明の基体は、繊維に高分子弾性体を充填したシート状物であることが好ましい。このような場合の高分子弾性体/繊維の比率は、30〜80%であることが好ましく、最も好ましくは40〜60%の範囲である。
またこの場合に基体に充填される高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等が挙げられるが、なかでもポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー等のポリウレタン系高分子が好ましい。
このときの高分子重合体は、後に述べる表皮層の高分子弾性体と同じであっても、異なっていても構わないが、好ましくは表皮層の高分子弾性体とは異なり、多孔質高分子弾性体であることが好ましい。すなわちこの基体としては、実質的に極細繊維のみから構成されるものでも良いが、極細繊維と高分子弾性体からなるものであることが、さらには具体的に最も好ましい例としては、高分子弾性体が湿式凝固法による多孔質ポリウレタンであることが好ましい。
上記の基体に用いる高分子弾性体の100%伸長モジュラスは、390〜3000N/cm2であることが好ましい。100%伸長モジュラスが、390N/cm2未満の場合には得られた基体は柔軟性に富むが、耐熱性、耐溶剤性等が減少する傾向にある。逆に3000N/cm2を越える場合には得られた基体の風合いが硬くなる傾向にある。高分子弾性体の100%伸長モジュラスを好ましい範囲に調整する方法としては、例えばポリウレタンエラストマーを用いる場合、ポリマー中の有機ジイソシアネート含有量と鎖伸長剤量を調整することによって容易に行うことができる。
また、本発明の皮革様シート状物は、表皮層が存在し、その表皮層内には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、表皮層を構成する高分子弾性体が繊維束の外周を包囲しているが、繊維束の内部には高分子弾性体が存在していないものである。ここで、表皮層の最表面は、銀付調である以外に、立毛を有するスエード調やヌバック調であることも好ましい。ここで銀付調である皮革様シート状物とは、最表面が高分子弾性体からなるものであり、立毛を有する皮革様シート状物とは、表皮層の最表面近くまで高分子弾性体と極細繊維が存在し、シート状物の最表面に、極細繊維立毛を有しているものである。
さて本発明の皮革様シート状物は、その最表面が高分子弾性体や極細繊維である表皮層を有するものであるが、その表皮層は主として高分子弾性体から構成されている。このような表皮層に用いる高分子弾性体としては、ポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー、ポリアクリル酸樹脂、アクリロニトリル・ブタジエンエラストマー、スチレン・ブタジエンエラストマー等が挙げられるが、なかでもポリウレタンエラストマー、ポリウレアエラストマー、ポリウレタン・ポリウレアエラストマー等のポリウレタン系が好ましい。100%伸長モジュラスは390〜1500N/cm2であることが好ましい。100%伸長モジュラスが、390N/cm2未満の場合には得られた皮革様シート状物は柔軟性に富むが、耐磨耗性、耐熱性、耐溶剤性等が減少する傾向にある。逆に、1500N/cm2を越える場合には得られた皮革様シート状物の風合いが硬くなる傾向や、耐屈曲性、低温時硬さ等の性質が低下する傾向にある。
また、表皮層に用いる高分子重合体は耐溶剤性が高いことが好ましい。より具体的な例を挙げると、80℃の熱トルエン中に3分間浸漬した後の重量減少率が15重量%以下であることが、さらには10重量%以下であることが、最も好ましくは7重量%以下であることが好ましい。さらに、表皮層に用いられる高分子弾性体は、耐溶剤性として耐トルエン溶解性に加えて、耐DMF溶解性を有することが好ましい。このような高分子弾性体としては架橋タイプのものが挙げられ、例えば2液タイプのポリウレタンなどが挙げられる。このような耐DMF溶解性を有することにより、表皮層以外の基体部分の補強などの目的で、DMFに溶解している湿式用のポリウレタン樹脂などを任意の段階で処理することが可能となる。
本発明の皮革様シート状物は、上記のような基体と表皮層からなるものであるが、本発明の最も特徴的な点は、表皮層内には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、表皮層を構成する高分子弾性体が該繊維束の外周を包囲してはいるが、繊維束の内部には高分子弾性体が存在していないことである。逆に表皮層内に極細繊維が繊維束ではなくそのまま極細単繊維の状態で侵入している場合には、極細単繊維が高分子弾性体間に密に存在し、極細単繊維に補強された高分子弾性体が変形しにくいものとなりやすい。また極細繊維と高分子弾性体間の距離も短く、繊維や高分子弾性体の自由度が低くなり、どうしても固い構造物である層が形成される傾向にある。それに比して極細繊維が繊維束で存在する場合には、高分子弾性体が繊維束を包囲して、繊維束内部に高分子弾性体が存在しないので、繊維目付に比して繊維間空隙が大きく、繊維で補強されていない高分子弾性体が比較的大きな塊で存在し、弾性体としての性質が強く引き出され変形しやすい。また、極細繊維と高分子弾性体間の距離が大きく、繊維の自由度が大きくより柔軟な構造物となり、柔軟な風合を実現できる。
本発明では、高分子弾性体が繊維束を包囲しているので、シート状物の小変形時には高分子弾性体のみが変形し小さな応力だけが発生するが、大変形時には補強繊維である高分子弾性体に包囲されている繊維束に変形が伝達され、大きな応力が発生する。このような現象が発生するためには、繊維束が高分子弾性体に充分に囲まれていることが必要であり、できればその断面がほぼ円形であることが好ましい。例えば繊維束の周辺の高分子弾性体に割れ目が存在していたり、その繊維束周囲の空間に、繊維束への応力が伝わりにくい部分、方向が存在すると、高分子弾性体が大変形した時のみ繊維の複合効果が発生するので好ましくない。さらには繊維束を包囲している高分子弾性体の空隙空間を、極細繊維が体積にして20〜80%占めていることが好ましく、さらには30〜70%、最も好ましくは40〜60%を占めている状態が好ましい。繊維束周辺の空隙空間が大きすぎると繊維束への応力が伝わりにくく、伸び止め感の低いものとなる傾向にあり、逆に空隙空間が小さすぎると硬くなる傾向にある。高分子弾性体がこのような構造をとるためには、高分子弾性体からなる極細繊維束が侵入している表皮層は、充実層であることや、または空隙が連続していない独立多孔構造をとることが好ましい。
また、本発明の皮革様シート状物の表皮層の密度は0.6g/cm3以上であることが好ましい。さらには0.8g/cm3以上、最も好ましくは1.0g/cm3以上であることが好ましい。上限は高分子重合体の密度によるが、一般的には1.4g/cm3以下である。密度が低すぎる場合には高分子弾性体が必要以上に変形しやすくなり、伸び止め感の低いものとなる傾向にある。さらには表皮層の厚さが、10〜200μmであることが好ましく、さらには150μm以下であることが、特には20〜100μmであることが最も好ましい。密度や厚さが小さいと表面物性が低下する傾向にあり、逆に大きいと折り曲げ時の小皺外観等の高級外観が低下する傾向にある。また繊維が侵入している表皮層と基材内部とは厚さ方向に沿って構造形態が連続的に変化していることが好ましい。
さらに本発明のシート状物の表皮層は、その最表面が銀付調である場合には、その内部に上記のように極細繊維束が侵入している接着層と、その内部に極細繊維束が侵入していない接着層の外側の外層の2層以上の層からなることが好ましい。繊維束が侵入していない外層が存在する場合、表皮層全体が薄層であっても銀付調の表面の場合には避けるべき表面への極細繊維の毛羽発生を防ぐことができ、また繊維束が侵入している接着層が強いアンカー効果を発揮するため、物理的な接着力を向上させることができる。
さらには、表皮層の全体、または一部が架橋タイプの高分子重合体から構成されていることも好ましい。架橋タイプを用いることによりその表面強度や耐溶剤性を高めることが可能である。
もう一つの本発明である皮革様シート状物の製造方法は、溶剤溶解性の異なる2つ以上の成分からなる極細繊維形成性の海島繊維を含む基体上に、該海島繊維を空隙無く包囲する該高分子弾性体からなる表皮層を形成し、次いで海島繊維の海成分を溶解する溶剤を用いて海成分を除去する方法である。このとき基体は、極細繊維形成性の海島繊維から主として構成されるものであるが、強度を要求される場合には高分子弾性体を含んでいることが好ましい。
このようにすることにより、表面に存在する高分子弾性体内に基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、表皮層を構成する高分子弾性体が該繊維束を包囲してはいるが、繊維束内部に高分子弾性体が存在していない皮革様シート状物を製造することができる。このようなシート状物はソフトで低反発な物となる。
本発明の溶剤溶解性の異なる2つ以上の成分からなる極細繊維形成性の海島繊維としては、例えば具体的には、溶剤溶解性の異なる2成分以上の重合体組成物から複合紡糸法、混合紡糸法などにより紡糸し、海島型繊維としたものである。このとき島成分の繊度は0.2dtex以下、好ましくは0.1dtex以下、特に好ましくは0.0001〜0.5dtexの繊度であることが好ましい。
また、そのような溶剤溶解性の異なる2成分以上の重合体組成物の好ましい組み合わせとしては、不溶解成分としてポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートなどのポリエステルを選定したときには易溶解成分としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンなどのポリオレフィン類が、不溶解成分としてナイロン6、ナイロン66、ナイロン12などのポリアミドを選定した時には易溶解成分としてポリエステル類、ポリオレフィン類が好ましく選定される。
本発明で用いるこのような極細繊維形成性の海島繊維を含む基体としては、シート状であれば特に制限されるものではなく、海島繊維以外の繊維や、高分子弾性体を含んでも良く、繊維も各種織編物や不織布のいずれでもよいが、最も好ましくは、繊維質基材に高分子弾性体を含浸凝固させたものである。また繊維質基材も不織布をベースとするものであることが好ましい。例えば繊維を不織布化するには、公知のカード、レーヤー、ニードルロッカー、流体絡合装置などを用いることができ、交絡繊維密度の高い緻密に3次元絡合した不織布を得ることができる。
さらに、ここで得られた繊維質基材は、高分子弾性体を含浸、塗布などする前に、海島繊維を構成する海成分の軟化温度以上、島成分の軟化温度未満で、あらかじめ海島繊維からなるシート表面をプレスすることで厚みと表面を整える事が好ましい。ここで厚みを整えることで最終的に得られる製品の厚みをコントロールすることができる。さらに、表面を整える事で製品面の平滑性をコントロールすることもできる。また、加熱と加圧の条件を調整することにより、高分子弾性体溶液の浸透度合いを調整することもできる。整えられた面が融着などで膜などを形成する場合、付与される高分子弾性体はほとんど浸透されず、一方融着などで膜などができず最表面の繊維密度も低い場合、高分子弾性体溶液はよく浸透される。
極細繊維形成性の海島繊維を含む基体が、上記のような各種繊維質基材に高分子弾性体を含浸・凝固したものである場合には、繊維質基材全体に高分子弾性体の有機溶剤溶液または分散液(水性エマルジョンを含む)を含浸し、加熱乾燥や湿式凝固法により凝固させる。このとき含浸させる高分子弾性体液の濃度は、5〜25%であることが好ましい。さらには含浸させる高分子弾性体は多孔を有するものとすることが好ましく、最も好ましくは公知のポリウレタン湿式凝固法で得られるような密度が0.5g/cm3以下となる多孔高分子弾性体であることが好ましい。
次いで本発明の製造方法では、極細繊維形成性の海島繊維を含む基体上に、該海島繊維を空隙無く包囲する高分子弾性体からなる表皮層、あるいは含浸層を形成することが必要である。一部に気泡などの独立孔が繊維の周辺に存在することは構わないが、基本的に海島繊維と高分子弾性体には空隙が無いことが好ましい。空隙があった場合には、最終的に高分子弾性体が極細繊維束の外周をうまく包囲することができない。さらには繊維と高分子弾性体間には、空隙は無く、接着もしていないことが好ましい。
表皮層の形成方法としては、公知のいずれの方法を用いることもでき、高分子弾性体からなる溶液や分散液を、基材上にラミネートあるいはコーティングすることにより表皮層とすることができる。
銀付調の皮革様シート状物を得るために、最も好ましい方法はラミネート法であり、具体的には、例えば高分子弾性体からなる溶液を離型紙上に流延し、ついで乾燥してフィルム化し、その後接着層となる高分子弾性体の溶液を再塗布し、その溶液が乾燥する前に基材と張りあわせ、加熱により乾燥、接着を行う方法である。この場合には表皮層は、海島繊維が侵入した接着層と、海島繊維が侵入していないフィルム層の二層から形成されており、表皮層が薄い場合にも繊維の毛羽が表面にでない利点がある。
また、表皮層の形成方法としては、基体の一方の表面に高分子弾性体の溶液を塗布し含浸層を形成させ、高分子弾性体を凝固させる方法であることも好ましい。高分子弾性体からなる溶液や分散液を、基材上にコーティングすることにより含浸層を形成し表皮層とする。このとき高分子弾性体溶液の凝固方法が乾式法であることがさらに好ましい。例えば繊維質基材の一方の面から高分子弾性体の有機溶剤溶液または分散液(水性エマルジョンを含む)を塗布し、基材中に充分しみこませた後、加熱乾燥により凝固させることが好ましい。さらに含浸深さを調整するために塗布回数は1回ではなく、複数回、例えば2〜5回に分けて塗布、乾燥を繰り返し行うことにより、より表層に近い部分の高分子弾性体の含浸量を高くすることができ、風合いを向上させることができる。
このとき塗布させる高分子弾性体液の固型分濃度は、5〜50%であることが好ましい。さらには、7〜30%であることがより好ましく、もっとも好ましくは10〜20%であることが望ましい。5%以下の濃度だと高分子弾性体溶液の粘度が低すぎて基材中へ浸透しすぎたり基材表面を流れてうまく均一に浸透させることができなかったりと加工上困難である。一方高濃度になるほど高分子弾性体溶液の粘度が高くなる傾向があり、基材への浸透度合いのバランスが崩れやすく、均一に高分子弾性体を付与することが困難となる傾向にある。
さらに、コーティング法では付与される高分子弾性体溶液の粘度とその表面張力によってその基材への浸透度合いを調整することができる。高分子弾性体の粘度は、その濃度を調整するほかに一般的な増粘剤を用いることもできる。また、高分子弾性体溶液の表面張力をコントロールするにはその溶液中に種々の添加剤を用いることで調整することができる。
本発明の表皮層に用いる高分子弾性体は、前述した基材全体の含浸に好ましく用いられる高分子弾性体と同様なものを用いることができるが、100%伸長モジュラスは390〜1500N/cm2であることが好ましい。100%伸長モジュラスが小さい場合には得られた皮革様シート状物は柔軟性に富むが、耐磨耗性、耐熱性、耐溶剤性等が低下する傾向にあり、逆に大きい場合には得られた皮革様シート状物の風合いが硬くなり、耐屈曲性、低温時硬さ等の性質が低下する傾向にある。
また、この高分子弾性体は、後の工程で用いる、繊維の海成分のみを溶解する溶剤中に、浸漬した後の重量減少率が15重量%以下であることが好ましい。さらには10重量%以下であることが好ましく、最も好ましくは7重量%以下であることである。重量減少率は小さい方が、処理後の表面外観をより良好とする傾向にある。重量減少率が大きすぎる場合、繊維の海成分のみを溶解する該溶剤中で溶解現象が起こってしまい、その表面外観を維持しにくい傾向になる。
さらに、表皮層の高分子重合体は、繊維の海成分のみを溶解する溶剤中で面積膨潤率2〜160%の膨潤現象は起こるが、該溶剤を除去することで面積変化率において5%以下となりほぼ元の形状に戻る物を選定し用いることが好ましい。繊維の海成分のみを溶解する溶剤中で面積膨潤率が大きい高分子弾性体は、繊維の海成分のみを溶解する溶剤中で分子量の低い部分やその溶剤に対して溶解性のある部分の一部、またはその大半が溶解されてしまいフィルムとしての形状を維持することが出来なくなる傾向にある。また、そうならない場合でも繊維の海成分のみを溶解する溶剤中で面積膨潤率が大きい場合には、その膨潤時の変形が大きく処理後にその表面にシワ等の跡がランダムに残り不安定で外観の悪い製品になってしまう傾向にある。
ここで、重量減少率や面積膨潤率を求める場合には、高分子弾性体の厚さ200μmのフィルムを作成し、処理を行う繊維の海成分のみを溶解する該溶剤中に3分間浸漬した後のフィルムで測定する。例えば海成分にポリエチレンを用いた場合には、溶剤としてはトルエンなどを用いて測定する。また、測定温度としては処理時の温度を用いればよく、例えば80℃の熱トルエンを用いるなどする。
本発明の製造方法では、次いで海島繊維の海成分を溶解する溶剤を用いて、その海成分を除去する。この溶剤は、極細繊維の島成分を溶解しないことが必要であり、基体や、表皮層に用いられている高分子弾性体を少量なら溶解しても良いが、できれば溶解しないことが好ましい。このように海島型繊維の海成分を除去することにより、表皮層において高分子弾性体が島成分の極細繊維とは非接合状態となる構造が形成される。より具体的には、例えば島成分にナイロンを、海成分にポリエチレンを用いた場合には、トルエンを用いることが好ましい。抽出効率を高めるために加熱した溶剤を用いるのも好ましい方法である。
またこのとき、海島型繊維の海成分を除去するのに併せて基材部分を元の面積より収縮させることが好ましい。基材を構成する不織布密度とその不織布に含浸される高分子弾性体のモジュラスおよびその含浸付与量によってその収縮度合いを調整することが出来る。不織布密度を低く、また高分子弾性体のモジュラスを低く、さらにその含浸付与量を少なくすると収縮が大きくなる傾向になり、反対に不織布密度を高く、また高分子弾性体のモジュラスを高く、さらにその含浸付与量を多くすると収縮しにくい傾向となる。そこでこれらの条件を最適化し、基材部分を元の面積から2〜20%収縮させることが好ましい。さらに好ましくは2〜12%の範囲で収縮させることが望ましく、最も好ましくは2〜7%の範囲で収縮させることが望ましい。
一方、表皮層を形成する高分子弾性体は、繊維の海成分のみを溶解する溶剤中で面積膨潤率で2〜100%の膨潤現象は起こるが、該溶剤を除去することで面積変化率が5%以下、さらに好ましくは2%以下となり、ほぼ元の形状に戻ること好ましい。
そして、基材の収縮率から表皮層の収縮率を引いた時の値は、1〜25%であることが好ましい。さらには20%以下、最も好ましくは2〜10%であることが好ましい。このように基材の収縮率の方が表皮層の収縮率よりも大きい場合には、基材は表皮の元の面積に対し収縮しているため表皮層が少しあまり感を持ち、銀面の突っ張り感がないソフトなシート状物を得ることが出来る。表皮の元の面積に対する基材の収縮が少ない場合には、その表皮との面積差が小さく表面層のあまり感がほとんど無く銀面の突っ張り感を感じる傾向にある。一方、表皮の元の面積に対する基材の収縮が大きすぎる場合には、その表皮との面積差が大きすぎ、表面層のあまりからくるシワが多く発生し、外観の悪い表面となる傾向にある。
さらに得られた皮革様シート状物は、その表面に高分子重合体をグラビア処理したり、エンボス処理したりし、最表面をさらに整えることができる。また、本発明の製造方法では、このようにして得られた基材に揉み加工を施すことも好ましい。揉み加工の方法としては、例えばシート状物をクランプに把持し、一方のクランプをシートに揉み変形が加わるように駆動させる方法、あるいは2つの組み合わさった突起を有するステーの間にシート状物を通しシート状物に突起を押し込みながら揉みほぐしを行う方法等が挙げられる。
このようにして得られた本発明の皮革様シート状物は、従来の皮革様シート状物では持ち得なかった天然皮革の持つ特徴である伸び止め感の強さと低反発でくたくた感のある非常に柔らかな風合いを有する物となる。特に高分子弾性体からなる銀付調の皮革様シートの場合には、高品位外観を有しながら銀面の突っ張り感がないソフトなものであり、かつ銀面のあまり感と、折り曲げ時の小皺外観を有するものとなる。本発明の皮革様シート状物は、靴、衣料、家具、手袋などの材料に適したものとなる。
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。実施例で特段断りのない限りパーセント(%)、比率は重量%、または重量比率を示す。実施例における測定値はそれぞれ以下の方法によったものである。
(1)伸長モジュラス
樹脂フィルム(厚さ約0.1mm)より採取したテストピースを、恒速伸長試験器で100%/minにて伸長試験し、100%伸長時点の荷重を読み取りN/cm2単位に換算する。テストピースはJIS−K−6301−2号型ダンベル法に準拠する。
(2)表皮層密度
離型紙上に塗布し乾燥させた後の厚さと、高分子弾性体溶液濃度と塗布目付から計算した重量から求める。
(3)銀面層測定平均値
基材の断面電顕写真より測定する。
(4)厚さ
スプリング式ダイアルゲージ(荷重1.18N/cm2)にて測定する。
(5)重量
10cm×10cmに切断した試験片を、精密天秤にて測定する。
(6)5%伸長応力(σ5)/20%伸長応力(σ20)/引張強力/伸び
皮革様シート状物から採取したテストピースを、恒速伸長試験器で伸長試験し5%、20%伸長時と破断時の荷重の値で示す。また、破断時の伸びも測定する。テストピースはJIS−K−6550 5−2−1に準拠する。
(7)剥離強力
幅2.5cm×長さ15cmのテストピースの銀面層側に、同じサイズの平織り布をはりあわせたPVCシートをウレタン系接着剤で接着する。このテストピースに2cm間隔で5区間の印をつけ、恒速引張試験器で50mm/minの速度で剥離試験を行う。この時の剥離強力を記録計に記し2cm間隔の5区間のそれぞれの部分の最小値を読み、その5点の平均値を幅1cmあたりに換算して表示する。
(8)摩耗(回数)
テーバー摩耗試験器にて摩耗輪CS10荷重1kg(9.8N)にて外観3級までの回数を測定する。
(9)磨耗(減量)
テーバー摩耗試験器にて摩耗輪#280荷重1kg(9.8N)にて100回摩耗時の重量変化(mg)を測定する。
(10)外観/挫屈感/ソフト性
表中の「外観」「挫屈感」「ソフト性」は、1〜10の10段階評価とする。「5」が通常のもので、数が大きいほど優れていることを示す。
(11)腰感
表中の「腰感」は5を普通とし、数が大きくなるほど腰があり、数が小さくなるほど腰がないとして、1から10の10段階評価とする。
(12)剛軟度(カンチレバー法)
サンプルとして2cm×約15cmのものを使用し、JIS L−1096 6.19.1に記載されている45°カンチレバー法に準拠して測定した。単位はcmとした。
(13)折り曲げ回復率
幅1cm×長さ9cmのテストピースの表面を下側とし、測定台の端から1cmはみださせて置く。この後はみ出させた部分を上側に折り曲げ9.8Nの荷重を載せ放置する。荷重をかけてからちょうど一時間後に荷重を解放し、解放してからちょうど30秒後にその折れ目が水平の台からどの程度まで回復しているかを分度器で測定する。水平まで回復した場合(180度)を100%、折れたままで変化がない場合を0%とする。
[実施例1]
島成分であるナイロン−6と海成分である低密度ポリエチレンとを50/50で混合紡糸し、繊度9.0dtexの海島型の複合繊維を得た。得られた海島繊維を、カット長51mmにカットし、原綿を得た。これをカードとクロスレイヤーを用いウェブとし、ニードルパンチングを1000本/cm2実施し、次いで、150℃の熱風チャンバーで加熱処理し、基体が冷える前に30℃のカレンダーロールでプレスし、目付け約370g/m2、厚さ1.4mm、見かけ密度0.26g/cm3の不織布を得た。
次に、高分子弾性体であるクリスボンTF50P(100%伸張応力が1080N/cm2のポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度30重量%)のジメチルホルムアミド溶液(固形分濃度15%、含浸溶液(1))を、先に得た不織布に目付け920g/m2含浸し、12%のDMF水溶液中に浸漬し湿式凝固させた後、40℃の温水中で十分洗浄し、135℃の熱風チャンバーで乾燥して、海島繊維と多孔質高分子弾性体からなる基材を得た。
一方、高分子弾性体としてCu9430NL(100%伸張応力が325N/cm2のポリウレタン樹脂、大日精化工業(株)製、固形分濃度30重量%)をジメチルホルムアミドとメチルエチルケトンの混合溶液(混合比4:6)で希釈した表皮用溶液(1)(固形分濃度15%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に、塗布量、目付け250g/m2(wet)で塗布し、その上に海島繊維と多孔質高分子弾性体からなる基材を貼り合わせた後、100℃で30秒乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後12時間放置冷却を行い離型紙を分離し、表面に高分子弾性体からなる表皮層を持ったシート状物を得た。
このとき基材に貼り合わせずに離型紙上に塗布、乾燥させた表皮用のフィルムの厚さは29μmであり、密度は1.3g/cm3であった。またこの高分子弾性体Cu9430NLフィルム(厚さ200μm)を作成し、80℃のトルエン中で3分浸漬した後の重量減少率は5.5重量%であり、そのときのフィルムの面積膨潤率が113.2%であった。また、このフィルムからトルエンを完全に除去した後の面積減少率は1.2%であり、80℃のトルエン中で処理を行っても外観の変化が少ない高分子弾性体であった。
その後、シート状物を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返して、海島繊維の海成分であるポリエチレン成分を溶解除去し、海島繊維の極細化を行った。次いで、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、極細繊維と高分子弾性体からなるシート状物を得た。この海成分除去工程での基材の面積収縮率は、4%であった。
さらに得られたシート状物の高分子弾性体からなる表皮層を有する面に、100%伸張応力が350N/cm2のポリウレタン樹脂を200メッシュのグラビアロールで仕上げ塗布した後、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた銀付き調皮革様シート状物は、ソフトで腰があり、表面の銀面層に高級な天然皮革に類似したあまり感が発現し、挫屈感も非常に良好なものとなった。またこの表面における接着剥離性能は、29N/cmと非常に良好な結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、表皮層内には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、表皮層を構成する高分子弾性体が該繊維束の外周を包囲しているが、繊維束の内部には高分子弾性体が存在していなかった。またこの表皮層内では、極細繊維と高分子弾性体は実質的に非接合化されており、繊維束の外周を包囲している高分子弾性体の空間間隙を、極細繊維が体積にして50%を占めていた。また繊維が侵入している表皮層と基材内部とは厚さ方向に沿って構造形態が連続的に変化していた。高分子弾性体からなる表皮層は多孔化していない充実層であり、その厚さは平均34.8μmであった。
[実施例2]
海島繊維と高分子弾性体からなる基材を、実施例1と同様の方法で作成した。
一方、実施例1で用いた高分子弾性体の表皮用溶液(1)(濃度15%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に塗布量、目付け100g/m2(wet)で塗布し、初めに100℃で3分間乾燥させた。このとき得られた高分子弾性体のフィルム層の厚みは平均11.5μmであり、密度は1.3g/cm3であった。
次に高分子弾性体クリスボンTA265(100%伸張応力が245N/cm2の架橋型ポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度65重量%)20部、高分子弾性体クリスボンTA290(100%伸張応力が245N/cm2の架橋型ポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度45重量%)80部、コロネートL(イソシアネート系架橋剤、日本ポリウレタン(株)製)15部、クリスボンアクセルT(架橋促進剤、大日本インキ化学工業(株)製)3部、ジメチルホルムアミド10部で配合した表皮用溶液(2)を作成した。先に得られたフィルム層上に、接着層用配合液である表皮用溶液(2)を塗布量、目付け130g/m2(wet)で塗布し、その上に海島繊維と高分子弾性体からなる基材を貼り合わせた後、100℃で30秒乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後、12時間放置冷却を行い、離型紙を分離し、表面に高分子弾性体からなる表皮層を持ったシート状物を得た。
このとき基材に貼り合わせずに離型紙上に塗布、乾燥させた表皮用のフィルム中、接着層の厚さは49μmであり、密度は1.0g/cm3であった。またここで使用した高分子弾性体クリスボンTA265とクリスボンTA290、架橋剤コロネートL、架橋促進剤クリスボンアクセルTからなる表皮用溶液(2)から厚さ200μmのフィルムを作成し、80℃のトルエン中で3分浸漬した後の重量減少率は2.6重量%であり、そのときのフィルムの面積膨潤率が96.0%であった。また、このフィルムからトルエンを完全に除去した後の面積変化率は0.8%となっており、80℃のトルエン中で処理を行っても外観の変化が少ない高分子弾性体であることが確認できた。
その後、得られたシート状物を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返し、海島繊維の海成分であるポリエチレン成分を溶解除去し、海島繊維の極細化を行った。その後、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、極細繊維と高分子弾性体からなるシート状物を得た。このときシート状物の面積収縮は、3%であった。
さらに得られたシート状物の表面に実施例1と同じく、ポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布し、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた銀付き調皮革様シート状物は、ソフトで表面挫屈感の良好なものとなった。またこの表面における接着剥離性能は、27N/cmと非常に良好な結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、表皮層内の接着層中には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入し、接着層を構成する高分子弾性体が該繊維束の外周を包囲しているが、繊維束の内部には高分子弾性体が存在しておらず、また接着層の外層のフィルム層には極細繊維は侵入していなかった。さらに極細繊維と高分子弾性体は実質的に非接合化されており、表皮層内では、繊維束の外周を包囲している高分子弾性体の空間間隙を、極細繊維が体積にして50%を占めていた。また繊維が侵入している表皮層と基材内部とは厚さ方向に沿って構造形態が連続的に変化していた。高分子弾性体からなる表皮層は多孔化していない充実層であり、その厚さは平均65.3μmであった。
[実施例3]
海島繊維と高分子弾性体からなる基材を、実施例1と同様の方法で作成した。
一方、実施例1で用いた高分子弾性体の表皮用溶液(1)(濃度15%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に塗布量、目付け60g/m2(wet)で塗布し、初めに100℃で3分間乾燥させた。このとき得られた高分子弾性体の層の厚みは平均6.9μmであり、密度は1.3g/cm3であった。
次に得られたフィルム上に、実施例2で用いた接着層用配合液である表皮用溶液(2)を、塗布量、目付け90g/m2(wet)で塗布し、その上に海島繊維と高分子弾性体からなる基材を貼り合わせた後、100℃で30秒乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後、12時間放置冷却を行い、離型紙を分離し、表面に高分子弾性体の層を持ったシート状物を得た。このとき基材に貼り合わせずに離型紙上に塗布、乾燥させた表皮用のフィルム中、接着層の厚さは34μmであり、密度は1.0g/cm3であった。
その後、実施例2と同様の加工を行い銀付き調皮革様シート状物として仕上げた。ポリエチレン成分除去工程でのシート状物の面積収縮は、6%であった。
得られた銀付き調皮革様シート状物は、非常にソフトで、表面の銀面層に高級なあまり感が発現し挫屈感の良好なものとなった。またこの表面における接着剥離性能は、26N/cmと良好な結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、実施例2と同様に極細繊維束が存在し、極細繊維と高分子弾性体は実質的に非接合化されていた。また、高分子弾性体からなる表皮層は多孔化していない充実層であり、またその厚みは平均45.0μmであった。また繊維が侵入している表皮層と基材内部とは厚さ方向に沿って構造形態が連続的に変化していた。
[実施例4]
海島繊維と高分子弾性体からなる基材を、実施例1と同様の方法で作成した。
一方、高分子弾性体の水分散液(1)として、水分散タイプの高分子弾性体 ハイドラン TMS−172(水性自己乳化型ポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度35重量%)/DISPERSE HG−950(水分散性黒顔料、大日本インキ化学工業(株)製)/溌水性微粒子S−21(メチル化シリカ含有量12%、松本油脂製薬(株)製、固形分濃度20重量%)/溌水性微粒子C−10(メチル化シリカ含有量5.9%、松本油脂製薬(株)製、固形分重量30%)/ハイドラン WLアシスターT1(ウレタン系増粘剤、大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン WLアシスターC3(イソシアネート系架橋剤、大日本インキ化学工業(株)製)=100/5/30/20/1/4(重量部)で配合した。この水分散液(1)を離型紙(AR―144SM、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に塗布厚300μm(wet)で塗布し、初めに70℃で3分間予備乾燥させた。このときのフィルム中の水含有量は60wt%であった。次いで95℃で3分間、120℃で10分間の3段階で乾燥を行い、厚さ0.10mm、目付59g/m2の高分子弾性体からなる、密度0.59g/cm3の独立多孔を有する多孔質シートを形成した。
次に、高分子弾性体の水分散液(2)として、水分散タイプの高分子弾性体 ハイドラン TMA−168(水性ポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度45重量%)/DISPERSE HG−950(水分散性黒顔料、大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン WLアシスターT1(ウレタン系増粘剤、大日本インキ化学工業(株)製)/ハイドラン WLアシスターC3(イソシアネート系架橋剤、大日本インキ化学工業(株)製)=100/5/1/10(部)で配合した。この水分散液(2)を接着剤配合液として、水分散液(1)から得られた多孔質シート上に、塗布厚150μm(wet)で乾燥目付60g/m2となるように塗布した。塗布後、70℃で2分間予備乾燥を行い、海島繊維と高分子弾性体からなる基材に貼り合わせ、熱シリンダー(表面温度130℃)に離型紙側を接触させて15秒間前加熱をかけ、その後クリアランス1.0mmの条件下で該熱シリンダーを用いて熱ニップし、さらに120℃で2分間のキュアリングを行った。さらに、50℃で24時間エージングを行ったあと、離型紙を分離し、表面に高分子弾性体からなる表皮層を持ったシート状物を得た。このとき基材に貼り合わせずに離型紙上に塗布、乾燥させた表皮用のフィルム中、接着層の厚さは46μmであり、密度は1.3g/cm3であった。
その後、得られたシート状物を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返し、海島繊維の海成分であるポリエチレン成分を溶解除去し、海島繊維の極細化を行った。その後、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、極細繊維と高分子弾性体からなるシート状物を得た。このときシート状物の面積収縮は、7%であった。
さらに得られたシート状物の表面に実施例1と同じく、ポリウレタン樹脂をグラビアロールで塗布し、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた銀付き調皮革様シート状物は、ソフトで腰があり、表面の銀面層の挫屈感の良好なものとなった。またこの表面における接着剥離性能は、25N/cmと良好な結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、実施例2と同様に極細繊維束が存在し、極細繊維と高分子弾性体は実質的に非接合化されていた。また繊維が侵入している表皮層と基材内部とは厚さ方向に沿って構造形態が連続的に変化していた。また、繊維束が侵入していない水分散体(1)からなる高分子弾性体フィルム層は多孔化しているがいるが、また繊維束が侵入している水分散体(2)からなる高分子弾性体接着層においては多孔化しておらず、その表皮層全体の厚みは平均154.5μmであった。
[比較例1]
海島繊維からなる目付け約370g/m2、厚さ1.4mm、見かけ密度0.26g/cm3の不織布を、実施例1と同様の方法で作成した。
次いでこの不織布を、基材含浸する高分子弾性体としてクリスボンTF50P/クリスボンTF300TD(100%伸張応力が2750N/cm2のポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度30重量%)=6/4のジメチルホルムアミド溶液(固形分濃度15%)に浸漬し、含浸液の目付けが920g/m2になるよう余分な含浸液をスクイズし、引き続き表皮層となる高分子弾性体としてクリスボンTF50P/クリスボンTF700S(100%伸張応力が340N/cm2のポリウレタン樹脂、大日本インキ化学工業(株)製、固形分濃度30重量%)=9/1のジメチルホルムアミド溶液(固形分濃度20%)を目付300g/m2となるようにコートした。次いでこの不織布と高分子弾性体とからなるシートを、12%のDMF水溶液中に浸漬し湿式凝固させた後、40℃の温水中で十分洗浄し、135℃の熱風チャンバーで乾燥して、海島繊維と高分子弾性体からなる基材上に、高分子弾性体からなる表皮層を持ったシート状物を得た。ここでの高分子弾性体はいずれも湿式凝固により連続多孔を有する多孔質となっていた。
その後、シート状物を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返して、海島繊維の海成分であるポリエチレン成分を溶解除去し、海島繊維の極細化を行った。次いで、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、極細繊維と多孔高分子弾性体からなるシート状物を得た。さらに得られたシート状物の表皮層を有する面にエンボス加工しシボ柄を付与した後、100%伸張応力が350N/cm2のポリウレタン樹脂を200メッシュのグラビアロールで仕上げ塗布した後、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた銀付き調シート状物は、腰はあるもののソフト性に欠け、表面の銀面層における挫屈感もあまり良くないものであった。一方、この表面における接着剥離性能は、25N/cmと良好な結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、表皮層内には基体を構成する極細繊維が繊維束状態で侵入してはいたものの、表皮層を構成する高分子弾性体が多孔構造で、繊維束の外周を包囲することができず、繊維と高分子弾性体の密着度の低いものだった。また、高分子弾性体を主とする表皮層の厚さは平均230.8μmであった。
[比較例2]
比較例1の表皮層となる高分子弾性体のジメチルホルムアミド溶液(固形分濃度20%)のコート目付を、300g/m2とする代わりに、コート目付150g/m2とした以外は、比較例1と同様にして皮革用シート状物を作成した。
得られた銀付き調シート状物は、腰はあるもののソフト性に欠け、表面の銀面層における挫屈感もあまり良くないものであった。さらに、その表面からは不織布層の繊維が毛羽状に飛び出し非常に外観の悪い物であった。またこの表面における接着剥離性能は、20N/cmと少し低い結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、表皮層を構成する高分子弾性体が連続多孔構造で、繊維束の外周を包囲することができず、繊維と高分子弾性体の密着度の低いものだった。また、高分子弾性体を主とする表皮層の厚さは平均169.2μmであった。
[比較例3]
海島繊維と高分子弾性体からなる基材を、実施例1と同様の方法で作成した。
次いで、表皮層を有さない基材を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返して海島繊維の海成分であるポリエチレン成分を溶解除去し、海島繊維の極細化を行った。その後、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し表面に高分子弾性体の層を持たない極細繊維と高分子弾性体からなる基材用シート状物を得た。
一方、実施例1で用いた高分子弾性体の表皮用溶液(1)(濃度15%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に塗布量、目付け130g/m2(wet)で塗布し、初めに100℃で3分間乾燥させた。このとき得られた高分子弾性体の層の厚みは平均15.0μmであり、密度は1.3g/cm3であった。
次に得られたフィルム上に、実施例2で用いた接着層用配合液である表皮用溶液(2)を、塗布量、目付け100g/m2(wet)で塗布し、その上に極細繊維と高分子弾性体からなる基材用シート状物を貼り合わせた後、100℃で30秒乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後、12時間放置冷却を行い、離型紙を分離し、表面に高分子弾性体の層を持ったシート状物を得た。このとき基材に貼り合わせずに離型紙上に塗布、乾燥させた表皮用のフィルム中、接着層の厚さは37.7μmであり、密度は1.0g/cm3であった。
その後得られたシート状物の表皮層を有する表面に、100%伸張応力が350N/cm2のポリウレタン樹脂を200メッシュのグラビアロールで仕上げた後、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた銀付き調皮革様シート状物は、挫屈感は良好であるものの、表面の突っ張り感があり堅い物となった。またこの表面における接着剥離性能は、18N/cmと少し低い結果が得られた。さらに、該表面の断面を顕微鏡で観察したところ、表皮層に存在する極細繊維は、一部が束状に存在しているものの、極細繊維束中に高分子弾性体が入り込み、繊維と高分子弾性体が接合化されているものであった。また、表皮層を構成する高分子弾性体は非多孔構造であり、その厚さは平均56.5μmであった。
[実施例5]
島成分であるナイロン−6と海成分である低密度ポリエチレンとを50/50で混合紡糸し、繊度9.0dtexの海島型の複合繊維を得た。得られた複合繊維を、カット長51mmにカットし原綿を得た。これをカードとクロスレイヤーを用いウェブとし、ニードルパンチングを1000本/cm2実施し、次いで、150℃の熱風チャンバーで加熱処理し、基材が冷える前に30℃のカレンダーロールでプレスし、目付け450g/m2、厚さ1.5mm、見かけ密度0.30g/cm3の極細繊維形成性の海島型の複合繊維から形成された不織布(シート)を得た。
次に、実施例1で用いたクリスボンTF50P(100%伸長応力が1080N/cm2の高分子弾性体(1)、ポリウレタン樹脂)をジメチルホルムアミド(以下DMFとする)とメチルエチルケトンの混合溶液(混合比4:6)で希釈した含浸タイプの表皮用溶液(1)(濃度15%)を、溶液目付け150g/m2(wet)となるように先に得た不織布の表面に塗布し、シート中に充分しみこませた後、120℃の熱風チャンバーで乾燥した。さらに、同じ含浸タイプの表皮用溶液(3)を目付け150g/m2(wet)となるように先ほど塗布した面に再度塗布し、シート中に充分しみこませ含浸層を形成させた後、140℃の熱風チャンバーで乾燥、凝固し、表面側のみに高分子弾性体(1)が含浸された含浸基材を得た。
このとき含浸付与された高分子弾性体(1)は、充実した状態で表面側より平均120μmの深さまで分布していることを、電顕写真で確認した。基材厚さの8%である。また、使用した高分子弾性体(1)の有機溶剤に対する重量減少率は、トルエン(80℃、3分間)に対して1.6%であった。
その後、該含浸基材を80℃のトルエン中でディップとニップを繰り返して海成分のポリエチレン成分を溶解除去し、複合繊維の極細化を行った。その後、90℃の温水中で基材に含まれているトルエンを共沸除去し、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、繊維が極細繊維化された皮革様シート状物を得た。
さらに得られた皮革様シート状物の樹脂が含浸付与された面に200メッシュのグラビアロールで、含浸ポリウレタン樹脂の良溶媒であるDMFを20g/m2付与、乾燥し、その表面を粒度#320の研磨ペーパーで研磨し表面繊維を起毛加工して立毛を有するスエード調の皮革様シート状物を得た。
該スエード調の皮革様シート状物を含金染料を用いて、染色を行った後、揉み加工をして仕上げた。得られたシート状物の断面を電顕写真で観察したところ高分子弾性体(1)と極細繊維束より形成される表皮層と未含浸層の構造形態は連続的に変化していた。また、表皮層はおおよそ表面側より平均105μmの深さまで分布していることが確認できた。その表皮層の繊維と高分子弾性体の比率は、29:71であり、さらにポリウレタン樹脂の存在しない未含浸部分の繊維目付が207g/m2であった。また、表皮層内では平均繊度0.005dtexの極細繊維が約1000本収束した繊維束状態で存在し、繊維束内部には高分子弾性体は存在しておらず、極細繊維束を包囲している高分子弾性体の空隙空間では、極細繊維が空間体積の50%を占めていた。
得られたシート状物はどの方向にも伸びにくく、カンチレバーによる剛軟度の値がタテ6.2cm、ヨコ6.3cmとなり折り曲げ方向の柔らかな素材の特徴がみられた。σ20/σ5の値はタテ3.7、ヨコ4.8と人工皮革として優れた値でありながら、折り曲げ回復率においてその値が5%とほとんど反発力が無い値となった。得られた皮革様シート状物は、非常に柔らかく低反発な素材であり、持った時に高級で柔らかな天然皮革に類似していた。物性を表3に示す。
[実施例6]
実施例5と同じ、ナイロン−6と低密度ポリエチレンとの海島型の複合繊維を用い、目付けを高くし、ニードルパンチングを1400本/cm2に変更した以外は同様にして、目付け570g/m2、厚さ2.3mm、見かけ密度0.25g/cm3の不織布(シート)を得た。
次に、実施例5と同じ高分子弾性体(1)の含浸タイプの表皮用溶液(3)(濃度15%)を用い、溶液目付けを340g/m2(wet)に変更した以外は実施例5と同様に先に得た不織布の表面に塗布し、シート中に充分しみこませた後、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、表面側のみに高分子弾性体が含浸された含浸基材を得た。このとき含浸付与された高分子弾性体(1)は、充実した形態で表面側より平均150μmの深さまで分布していることを、電顕写真で確認した。基材厚さの6.5%である。
その後、該含浸基材から実施例5と同じくポリエチレン成分を溶解除去し、繊維が極細化された皮革様シート状物を得た。
さらに得られた皮革様シート状物の表面を実施例5と同様に表面処理し、立毛、染色されたスエード調の皮革様シート状物を得た。得られたシート状物の断面を電顕写真で観察したところ高分子弾性体(1)と極細繊維束より形成される表皮層と未含浸層の構造形態は連続的に変化していた。また、表皮層はおおよそ表面側より平均128μmの深さまで分布していることが確認できた。また、表皮層内では極細繊維が繊維束状態で存在し、繊維束内部には高分子弾性体は存在しておらず、極細繊維束を包囲している高分子弾性体の空隙空間では、極細繊維が空間体積の50%を占めていた。
得られたシート状物はその厚みに比して縦横斜めのどの方向にも伸びにくく、持った時に高級で柔らかな天然皮革に類似した非常に柔らかで低反発な素材であった。物性を表3に併せて示す。
[実施例7]
実施例5と同じ、ナイロン−6と低密度ポリエチレンとの海島型の複合繊維を用い、目付けを高くし、ニードルパンチングを1400本/cm2に変更した以外は同様にして、目付け870g/m2、厚さ2.8mm、見かけ密度0.31g/cm3の不織布(シート)を得た。
次に、実施例5と同じ高分子弾性体(1)の含浸タイプの表皮用溶液(3)(濃度15%)を用い、溶液目付けを320g/m2(wet)となるように先に得た不織布の表面に塗布し、シート中に充分しみこませた後、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、ついで同じ含浸溶液を、先ほどと反対の面に、目付け320g/m2となるように表面に塗布し、シート中に充分しみこませた後、120℃の熱風チャンバーで乾燥し、シートの中心部以外の基材両表面側のみが高分子弾性体(1)を含浸した両面含浸基材を得た。このとき含浸付与された高分子弾性体(1)は、充実した形態で基材両表面側よりそれぞれ平均150μmの深さまで分布していることを、電顕写真で確認した。含浸深さは片面4.5%である。
その後、該含浸基材から実施例5と同様にポリエチレン成分を溶解除去し、繊維が極細化されたシート状物を得た。
その後、シート状物の高分子弾性体が含浸付与された両面を、それぞれ200メッシュのグラビアロールでDMFを20g/m2付与、乾燥し、ついでその両表面を粒度#320の研磨ペーパーで研磨し表面繊維を起毛加工した後、高分子弾性体の未含浸部分である厚みの半分の部位でスライスを行い、スエード調の外観の皮革様シート状物を得た。
さらに得られた皮革様シート状物を実施例5と同様に処理し、立毛、染色されたスエード調の皮革様シート状物を得た。得られたシート状物の断面を電顕写真で観察したところ、高分子弾性体(1)と極細繊維束より形成される表皮層と未含浸層の構造形態は連続的に変化していた。また、表皮層はおおよそ表面側より平均125μmの深さまで分布していることが確認できた。また、表皮層内では極細繊維が繊維束状態で存在し、繊維束内部には高分子弾性体は存在しておらず、極細繊維束を包囲している高分子弾性体の空隙空間では、極細繊維が空間体積の50%を占めていた。
得られたシート状物はその厚みに比して縦横斜めのどの方向にも伸びにくく、低応力で変形しやすいが、少し伸びると伸びの止まるソフトな天然皮革特有の特徴がみられた。物性を表3に併せて示す。
[実施例8]
実施例6と同様の加工を行い繊維が極細化された皮革様シート状物を得た。
さらに得られた皮革様シート状物の表面を立毛化処理しスウェード調とする替わりに、銀面調とするために高分子弾性体層を表面に付与した。
すなわち、実施例1で用いた表皮用溶液(1)(100%伸長応力が325N/cm2のポリウレタン樹脂、固形分濃度15重量%)を離型紙(AR―74M、厚さ0.25mm、旭ロール(株)製)上に目付け130g/m2(wet)で塗布し、初めに100℃で3分間乾燥させた。次にこの得られたフィルム上に、実施例2で用いた接着剤用配合液である表皮用溶液(2)を、目付け100g/m2(wet)で塗布し、その上に該皮革様シート状物の高分子弾性体(1)が含浸付与された面を貼り合わせ面として貼り合わせた後、100℃で30秒乾燥し、次いで70℃で48時間エージングを行った後、12時間放置冷却を行い、離型紙を分離し、表面に高分子弾性体の層を持った銀付調の皮革様シート状物を得た。
さらにその後該シート状物の表皮層を有する表面に、100%伸長応力が350N/cm2のポリウレタン樹脂を200メッシュのグラビアロールで仕上げた後、柔軟剤を付与し、揉み加工を行った。
得られた皮革様シート状物の断面を電顕写真で観察したところ高分子弾性体が存在する表皮層中の含浸層は表面側の接着層の下側よりさらに平均128μmの深さまで分布していることが確認できた。またその含浸層の繊維と高分子弾性体の比率は、27:73であり、さらに高分子弾性体の存在しない未含浸部分の繊維目付が266g/m2であった。また、含浸層内では極細繊維が繊維束状態で存在し、繊維束内部には高分子弾性体は存在しておらず、極細繊維束を包囲している高分子弾性体の空隙空間では、極細繊維が空間体積の50%を占めていた。
また、この皮革様シート状物は、挫屈感が良好であり、持った時に高級で柔らかな天然皮革に類似した非常に柔らかで低反発な素材であった。物性を表3に併せて示す。