JP2004090022A - マルエージング鋼の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】マルエージング鋼の疲労強度を高めるために、マルエージング鋼中に残留する非金属介在物を少なく且つ大きさを小さくできるマルエージング鋼の製造方法を提供する。
【解決手段】断面が略長方形モールドを用いてエレクトロスラグ再溶解を適用して得られた断面が略長方形のインゴットを塑性加工するマルエージング鋼の製造方法であり、好ましくは、略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比が、(モールド長辺)/(モールド短辺)で1.25以上であるマルエージング鋼の製造方法である。
【選択図】 なし
【解決手段】断面が略長方形モールドを用いてエレクトロスラグ再溶解を適用して得られた断面が略長方形のインゴットを塑性加工するマルエージング鋼の製造方法であり、好ましくは、略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比が、(モールド長辺)/(モールド短辺)で1.25以上であるマルエージング鋼の製造方法である。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はマルエージング鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルエージング鋼は、2000MPa前後の非常に高い引張強さをもつため、高比強度が要求される部材、例えば、ロケット用部品、遠心分離機部品、航空機部品、自動車用無段変速用部品等種々の用途に使用されている。
その代表的な組成には、18%Ni−8%Co−5%Mo−0.45%Ti−0.1%Al−bal.Feが挙げられる。そして、マルエージング鋼は、強化元素として、Mo、Tiを適量含んでおり、時効処理を行うことによって、Ni3Mo、Ni3Ti、Fe2Mo等の金属間化合物を析出させて高強度を得ることのできる鋼である。
【0003】
このマルエージング鋼を構造用材料として用いる場合の設計強度としては、繰返し回数107回での疲労強度が用いられる。しかし、最近では繰返し応力が107回を超えて負荷される場合があり、従来の107回での疲労強度を設計強度として用いたマルエージング鋼では信頼性が低く、107回を超える繰返し回数、例えば108回程度の繰返し数を設計強度とした場合にでも充分使用に耐え得るマルエージング鋼が求められるようになった。
ところで、107回以下の繰返し数での疲労強度を評価した従来の技術では、最終熱処理方法等が疲労強度を決定する重要な要素であった。しかし、マルエージング鋼において通常、107回以下の繰返し数では表面起点の疲労破断が起こるが、107回を超える繰返し数では特定の大きさより大きな非金属介在物を起点として疲労破壊を起すため、破壊のメカニズムが大きく異なる。
従って、107回を超える繰返し数の使用をする場合、従来に増して非金属介在物の大きさが問題となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところでマルエージング鋼は、例えば真空誘導溶解(以下、VIMと呼ぶ)等の後、エレクトロスラグ再溶解(以下、ESRと呼ぶ)を施すと、均質(成分偏析が少ない)でしかも、非金属介在物の少ない鋼となることが知られており、塑性加工によって任意の形状に加工が施されて使用されている。
しかしながら、上記の二重溶解で製造するマルエージング鋼にも、絶対数は少ないものの大きなAl2O3等の酸化物系非金属介在物やTiN、TiCN等の窒化物系非金属介在物が残留する。
そして、残留した大きな非金属介在物は、二重溶解後に行う熱間鍛造、熱処理、熱間圧延、冷間圧延等を行った後の素材中にもそのまま残留し、残留した大きな非金属介在物を起点とした疲労破壊を生じることが心配され、特に20μmを超えるような大型の酸化物系非金属介在物及び10μmを越える窒化物系非金属介在物の残留は問題である。
本発明の目的は、マルエージング鋼中に残留する非金属介在物を少なく且つ大きさを小さくできるマルエージング鋼の製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述したように、マルエージング鋼を二重溶解し、その後任意の形状に塑性加工して製造する場合において、ESRを行うことで成分を均質にでき易いという利点がある。本発明者等は、この利点を損なうことなく、非金属介在物の大きさを特定の大きさ以下にする製造条件について鋭意検討を行った。
その結果、従来から行われるESRでは、モールドの形状は断面が円形であるため、この円形形状のモールドで製造された鋼塊においては、鋼塊表層近傍と鋼塊内部での冷却速度に大きな違いがあった。特に鋼塊内部での冷却速度は遅く、この冷却速度が非金属介在物の大型化に大きな影響を及ぼしていることを知見した。
そこで本発明者は、冷却速度を速めることが可能なモールドの形状と非金属介在物を詳細に調査した結果、断面が略長方形であれば非金属介在物が大型化するのを抑制できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
即ち本発明は、断面が略長方形モールドを用いてエレクトロスラグ再溶解を適用して得られた断面が略長方形のインゴットを塑性加工するマルエージング鋼の製造方法である。
好ましくは、略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比が、(モールド長辺)/(モールド短辺)で1.25以上であるマルエージング鋼の製造方法である。
更に好ましくは、上述のマルエージング鋼の化学組成が質量%で、C:0.01%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:7.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Ti:0.1〜2.0%、Al:0.15%以下、N:0.003%以下、O:0.0015%以下、残部は実質的にFeからなるマルエージング鋼の製造方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の最大の特徴は、ESRを行う際にモールド形状を調整することでマルエージング鋼としての特性を著しく劣化するAl2O3等の酸化物系非金属介在物やTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物の両方の大きさを小さく制御できることにある。
以下に、本発明を詳しく説明する。
先ず、本発明において再溶解方法としてESRとした理由を説明する。
マルエージング鋼に存在する酸化物系非金属介在物は、例えば高真空のVIMで作製した電極鋼塊においても皆無にすることは不可能であり、再溶解により除去する必要がある。再溶解方法としてはESRの他に真空アーク再溶解法(以下、VARと記す)が挙げられる。
【0008】
ESRでは電極鋼塊を再溶解し、フラックスと呼ばれる溶解酸化物中を通過させ、その後再凝固する。この際、フラックスは酸化物系非金属介在物をこしとるフィルターの役目を果たし、電極鋼塊中に含まれていた粗大な酸化物系非金属介在物はフラックスに吸収され除去される。
一方、VARでは酸化物系非金属介在物を高真空下での酸化物還元反応、または溶鋼プール内の浮上分離によって除去するが、マルエージング鋼のように酸素溶解度の低い鋼種では酸化物の還元反応は維持できず、加えて対流が発生している溶解プールにおいて完全に浮上分離することも困難であるため、一部の酸化物系非金属介在物は鋼塊中に残存する。
従って、ESRを用いた場合、15μm以上の大きさより大きなAl2O3等の酸化物系非金属介在物を除去することができるが、VARの場合は20μmを超える非金属介在物の残存が生じ易いため、本発明ではESRを行うと規定した。
【0009】
次に、ESRを用いて窒化物系非金属介在物を小さくする方法について説明する。
マルエージング鋼は窒素との親和力が大きいTi或いは更にAlを含有していることから、VIMにて作製したESR用の電極鋼塊製造段階でTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物が存在し、中には20μmを超えるような大型の非金属介在物も存在する。
これらの窒化物系非金属介在物は再溶解時に、一部はTiN→Ti+N、TiCN→Ti+C+NやAlN→Al+Nの反応により溶鋼中へ溶解し、溶存窒素や溶存炭素が増加する。また一部は完全には溶解せずにTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物の状態で溶鋼プール内に浮遊する。
【0010】
溶鋼プール内では凝固殻への抜熱により逐次凝固が進行していくが、凝固前面付近では溶鋼温度が低下し、溶鋼中に溶存している窒素や炭素は溶解度の低下に伴ない上述の未固溶のTiN、TiCNやAlN表面上に晶出し成長していく。
この時の凝固前面での温度低下量(以下、冷却速度と呼ぶ)が大きい場合、TiN、TiCNやAlNの晶出・成長が抑制されるため、得られる窒化物系非金属介在物の大きさを20μm以下程度に小さくすることが出来る。
【0011】
上述のように冷却速度を大きくすることは20μm以下の非金属介在物を得るためには有効な手段であり、そのためには再溶解鋼塊中心と冷却モールドとの距離を小さくすることが有効である。
例えば、モールド形状が丸型若しくは正方形状の場合、再溶解鋼塊の中心と冷却モールドとの距離は等方的であり冷却速度を大きくするためにはモールド径を小さくするあるいは辺長を短くする必要があり、そうした場合には断面積は小さくなる。
投入電流が同じである場合、断面積が小さくなることで電流密度が増加するため、溶鋼プールあるいはスラグ浴に対する熱量が増加し、冷却速度が大きくなる効果が低減してしまう。
【0012】
そこで、モールド形状を長辺と短辺とで長さの異なる略長方形状とした場合、再溶解鋼塊の抜熱は主に短辺側の距離に従うため、断面積の低減無しに鋼塊の冷却速度を大きくすることができ、非金属介在物の大きさを小さくすることができる。
なお、略長方形状とはモールド断面の長辺と短辺の中心線が断面の中心付近で直行するものであり、その長辺と短辺の長さの異なるものを指す。角部は丸みを帯びた形状でも良く、短辺長さの1/3以下程度の丸みを帯びていても良い。また、辺部についてはモールドの変形を考慮して辺長の10%程度の湾曲があっても構わない。
【0013】
上述する略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比は、(モールド長辺)/(モールド短辺)として求め、長辺側の冷却と短辺側の冷却との間に差異があることが必要であるため、長辺と短辺の長さの比は1.25以上であれば良い。モールド形状の長辺と短辺の長さの比が1.25以上であれば、非金属介在物の大きさを15μm以下にすることも可能であり、特に望ましい。
なお、角部に丸みがあったり、辺の長さ方向に湾曲があったりする場合では、縦方向の最大長さと、横方向の最大長さによって比を求めると良い。
また、モールド形状の長辺と短辺の長さの比に関しては特に上限は定めない。例えば、幅の広いマルエージング鋼の板材が求められる場合や、成分偏析を抑制するソーキングの効果をより効果的に行う場合は短辺方向の厚みは薄くした方が有利であり、これに伴い(モールド長辺)/(モールド短辺)として求める比は大きくなるためである。
但し、モールドの寿命、変形量等を考慮すると3以下が好ましい。
【0014】
またESRを行う際に考慮すべき点として、鋼塊内の窒素値は窒化物サイズに影響するので、ESRは外気を遮断しArで置換した雰囲気もしくは減圧下で行い、かつフラックスを追加する場合にはAr雰囲気を壊さないようArガスにてシールした管内を通して装入することにより操業中の窒素ピックアップを防止すると更に好ましい。
また、ESRに使用するフラックスについては目的とするマルエージング鋼の成分が達成できれば基本的にはどのようなものであってもよいが、例えばCaF2−Al2O3−TiO2系又はCaF2−CaO−Al2O3−TiO2系が好ましい。
【0015】
次に、本発明では上記のESRを行った後、鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、1000〜1300℃で少なくとも5時間以上の保持を行い、成分の偏析を軽減する均質化熱処理を適用すると良い(この高温保持を以下ソーキングと呼ぶ)。
これは、ESRで均質となった鋼塊をより成分偏析の少ないものとすることで、疲労強度を更に向上させることができるためである。
このソーキングはESR後の鋼塊状態または熱間鍛造後の何れで行っても良く、より高温でより長時間行うとより成分偏析は少なくなる。しかし、保持温度が1300℃を超えると表面酸化および窒化が促進し非金属介在物品位が悪化する。逆に1000℃より低いとその効果は低くいため、1000℃〜1300℃の範囲で行うと良い。
【0016】
また、ソーキングの保持時間が5時間より短いと均質化の効果が低いため、保持時間は少なくとも5時間以上必要である。また、ソーキングは二回以上行ってもよく、例えば、ESR後の鋼塊状態と熱間鍛造後の両方で行っても合計の保持時間が5時間以上であればよい。
よって、ソーキングを行う場合は、鋼塊サイズ、熱間鍛造比、ソーキング加熱炉の容量、加工工程、求められる強度等を考慮して、鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、少なくとも一回以上のソーキングを適宜行えば良く、勿論、熱間鍛造→ソーキング→熱間鍛造→ソーキングと言った工程でも良い。
【0017】
このソーキングにおいて、加熱温度や加熱時間は、鋼塊や熱間鍛造後の厚みを考慮し、加熱温度、加熱時間、場合によっては処理を行う雰囲気適宜決定すると良い。
なお、ソーキングにおいて、略長方形状の鋼塊をソーキングする場合には同じ断面積を持つ丸型もしくは正方形状の鋼塊をソーキングする場合と比較して、中心部まで均熱化が充分に行なえるため、材料の成分均質化をより効果的に行うこともでき、略長方形状の鋼塊へのソーキングの適用は特に好ましい。
【0018】
そして本発明では最終製品の用途形状に応じて適用する塑性加工としては、上述の熱間鍛造や、熱間加工または冷間加工の何れか若しくは両方を適時組み合わせることができる。
例えば、鋼板が必要な場合は、1100℃にて熱間圧延を施したのち、Fe、Moを主成分とする未固溶の金属間化合物を残留させないために、760〜950℃で固溶化処理を行い、その後、冷間圧延に形を整えると供に加工歪を付加して、その後、二回目の固溶化処理を実施する事によって微細に再結晶させ、その後、時効処理を施すと良い。
【0019】
次に、本発明の好ましい組成の限定理由について述べる。
Cは炭化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため本発明ではCの上限を0.01%以下とした。
Niは靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素であるが、8.0%未満では靱性が劣化する。一方、20%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは8.0〜22.0%とした。
【0020】
Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与するが、その含有量が7.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また20.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は7.0〜20.0%にした。
Moは時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素であるが、その含有量が2.0%未満の場合その効果が少なく、また9.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させるFe、Moを主要元素とする粗大析出物を形成しやすくなるため、Moの含有量を2.0〜9.0%とした。
【0021】
Tiは、Moと同様に時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する元素であり、0.1%以上であるとその効果が少なく、2.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を0.1〜2.0%以下とした。
Alは脱酸作用を持つだけでなく、時効析出して強化に寄与するが、1.5%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.5%以下とした。
【0022】
Nは窒化物系非金属介在物を形成するため、0.003%を超えて含有すると窒化物系非金属介在物を20μm以下とすることが困難となる。よって、その含有量を0.003%以下に制限する。
Oは酸化物系非金属介在物を形成するため、0.0015%を超えて含有すると酸化物系非金属介在物を20μm以下とすることが困難となる。よって、その含有量を0.0015%以下にした。
【0023】
なお、本発明ではこれら規定する元素以外は実質的にFeとしているが、例えばBは、結晶粒を微細化するのに有効な元素でるため、靱性が劣化しない0.01%以下で含有させても良い。
また、不可避的に含有する不純物元素のうち、Si、MnはFe、Moを主用元素とする金属間化合物を粗大化させ靭性に悪影響をもたらすため、Si、Mn共に0.10%以下とすれば良い。また、P、Sも粒界脆化させたり熱間加工性を低下させるので、0.01%以下とすると良い。
なお、上述してきた本発明の製造方法は、非金属介在物の残留によるマルエージング鋼の特性の劣化が顕著になる薄い厚みの1mm以下の鋼帯の製造方法として好適であり、0.5mm以下の鋼帯の製造方法として特に有効である。
【0024】
【実施例】
以下、実施例として更に詳しく本発明を説明する。
真空溶解で鋳造した表1に示す化学組成の消耗電極鋼塊を用意し、モールド断面積を200,000mm2〜800,000mm2(丸型形状の場合ではφ500mm〜φ1000mm相当)の範囲で変化させることにより、ESRを行って鋼塊を作製した。
(モールド長辺)/(モールド短辺)を2.50としてESRを行ったものは本発明としてAを、(モールド長辺)/(モールド短辺)を1.50としてESRを行ったものは本発明としてBを、またBの(モールド短辺)を変えずに(モールド長辺)のみを大きくして(モールド長辺)/(モールド短辺)を2.30としてESRを行なったものは本発明としてCを、比較例として丸型モールドを用いてESRを行ったものはDとし、それぞれ下記表1のNo.の後に1A、1B、1C、1Dと言うように記号として付して、以後説明する。このときの断面積は、A≒B≒D<Cの順である。
なお、本発明に用いたモールドの形状はいずれも略長方形状であり、コーナー部に丸みを持たせたものを使用した。辺部は直線形状のものを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
No.1A、1B、1Cの材料は、ESR後の鋼塊で1250℃×20時間のソーキングを行い、次いで熱間鍛造を行い熱間鍛造品とした。また、No,2A、2B、2Cの材料は、ESR後の鋼塊に熱間鍛造を行い、1250℃×20時間のソーキングを行った。
次に、これら材料に熱間圧延、820℃×2時間の固溶化処理、冷間圧延、820℃×1時間の固溶化処理と480℃×3時間の時効処理を行い、厚み0.5mmのマルエージング鋼の鋼帯を作製した。この鋼帯幅は600mmであった。
【0027】
得られたマルエージング鋼の鋼帯から介在物測定用の試験片を50g採取した。採取した試験片を混酸(硝酸+塩酸)で溶解後、フィルタで濾過し、濾過面全面を走査型電子顕微鏡で観察し、最大の酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物をそれぞれ探した。
その後、最大の酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物について1000倍で観察し、最長部の長さを測定し、酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物の大きさとして、それぞれ表2に示した。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、酸化物系非金属介在物はESR材では比較例No.1D、2Dを含め20μm以下である。
また、ESR材において、断面積が同程度の場合、(モールド長辺)/(モールド短辺)が大きいほど窒化物系非金属介在物が微細になっており、本発明のNo.1A、2A、1B、2B、1C、2Cでは20μm以下である。
なお、観察された窒化物系非金属介在物はTiNやTiCNであった。
【0030】
また、略長方形状で(モールド短辺)が同じ場合、窒化物系非金属介在物の大きさには差が無く、(モールド長辺)/(モールド短辺)を大きくすることにより鋼塊単重を大きくすることも可能である。本発明のNo.1B、1Cおよび2B、2Cがその例である。
【0031】
次に、上述のマルエージング鋼帯の圧延方向における中央部について、試験片を採取し、化学組成を分析した。化学組成を表3に示す。
なお、表3中に示す偏析は、偏析測定用試験片を切だして、EPMAにてマルエージング鋼で特に成分偏析を起こし易いTi及びMoの成分偏析を測定した。
EPMAにて線分析した時、TiとMoそれぞれの最大値と最小値とを測定し、その比(最大値/最小値)を算出して1.2〜1.3のものには○印を、1.2以下のものには◎印を付して示した。
【0032】
【表3】
【0033】
表3より、再溶解による化学成分変化は殆ど起こっていない。マルエージング鋼帯の圧延方向における先・後端部についても中央部と同様に化学組成を分析したが、中央部と差違が無かった。
また、成分偏析の結果から、ESRを施しているため、成分偏析そのものが低く抑制されているが、特に略長方形断面としている本発明の製造方法を適用したものでは、特に成分偏析が抑制できた。
【0034】
最後に、上述のマルエージング鋼帯の圧延方向における中央部について、試験片を採取し、圧延方向及び板圧方向を含む面を鏡面研磨し、EPMAの面分析でTi、Moについて成分偏析を評価したが、No.1A、1B、1C、1D、2A、2B、2C、2Dの何れの試料にも縞状の偏析がみられず均質であった。特に、No.1A、1B、1C、2A、2B、2Cの試料は成分偏析が抑制されているのを確認した。
また、マルエージング鋼帯の圧延方向における先・後端部についても中央部と同様に面分析を行ったが、中央部と同様、縞状の偏析がなく均質であった。
【0035】
また、本発明の製造方法を適用したNo.1A、1B、1C、2A、2B、2Cの鋼帯では、TiNやTiCNの窒化物系非金属介在物の大きさも、表2に示すレベルで小さいことが、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の断面観察からも確認できた。
一方、比較例のNo.1C、2Cでは、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の断面観察からも比較的大きなTiN、TiCNの窒化物系非金属介在物が確認され、この非金属介在物を起点とした疲労破壊が起こる可能性が大きい結果となった。
また、酸化物系非金属介在物については、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の全ての断面観察で確認できるものは5μm以下であり、断面観察によっては差違が確認されなかった。
【0036】
【発明の効果】
以上のような結果から、本発明の製造方法を適用すると、Al2O3等の酸化物系非金属介在物とTiN、TiCN等の窒化物系非金属介在物の両方の大きさが小さく、しかも、成分偏析も少なくすることができるため、繰返し応力が107回を超える例えば108乗回程度の疲労強度が求められる用途にも適用でき、優れた疲労強度を有する高清浄マルエージング鋼を製造することが出来る。
【発明の属する技術分野】
本発明はマルエージング鋼の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルエージング鋼は、2000MPa前後の非常に高い引張強さをもつため、高比強度が要求される部材、例えば、ロケット用部品、遠心分離機部品、航空機部品、自動車用無段変速用部品等種々の用途に使用されている。
その代表的な組成には、18%Ni−8%Co−5%Mo−0.45%Ti−0.1%Al−bal.Feが挙げられる。そして、マルエージング鋼は、強化元素として、Mo、Tiを適量含んでおり、時効処理を行うことによって、Ni3Mo、Ni3Ti、Fe2Mo等の金属間化合物を析出させて高強度を得ることのできる鋼である。
【0003】
このマルエージング鋼を構造用材料として用いる場合の設計強度としては、繰返し回数107回での疲労強度が用いられる。しかし、最近では繰返し応力が107回を超えて負荷される場合があり、従来の107回での疲労強度を設計強度として用いたマルエージング鋼では信頼性が低く、107回を超える繰返し回数、例えば108回程度の繰返し数を設計強度とした場合にでも充分使用に耐え得るマルエージング鋼が求められるようになった。
ところで、107回以下の繰返し数での疲労強度を評価した従来の技術では、最終熱処理方法等が疲労強度を決定する重要な要素であった。しかし、マルエージング鋼において通常、107回以下の繰返し数では表面起点の疲労破断が起こるが、107回を超える繰返し数では特定の大きさより大きな非金属介在物を起点として疲労破壊を起すため、破壊のメカニズムが大きく異なる。
従って、107回を超える繰返し数の使用をする場合、従来に増して非金属介在物の大きさが問題となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところでマルエージング鋼は、例えば真空誘導溶解(以下、VIMと呼ぶ)等の後、エレクトロスラグ再溶解(以下、ESRと呼ぶ)を施すと、均質(成分偏析が少ない)でしかも、非金属介在物の少ない鋼となることが知られており、塑性加工によって任意の形状に加工が施されて使用されている。
しかしながら、上記の二重溶解で製造するマルエージング鋼にも、絶対数は少ないものの大きなAl2O3等の酸化物系非金属介在物やTiN、TiCN等の窒化物系非金属介在物が残留する。
そして、残留した大きな非金属介在物は、二重溶解後に行う熱間鍛造、熱処理、熱間圧延、冷間圧延等を行った後の素材中にもそのまま残留し、残留した大きな非金属介在物を起点とした疲労破壊を生じることが心配され、特に20μmを超えるような大型の酸化物系非金属介在物及び10μmを越える窒化物系非金属介在物の残留は問題である。
本発明の目的は、マルエージング鋼中に残留する非金属介在物を少なく且つ大きさを小さくできるマルエージング鋼の製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述したように、マルエージング鋼を二重溶解し、その後任意の形状に塑性加工して製造する場合において、ESRを行うことで成分を均質にでき易いという利点がある。本発明者等は、この利点を損なうことなく、非金属介在物の大きさを特定の大きさ以下にする製造条件について鋭意検討を行った。
その結果、従来から行われるESRでは、モールドの形状は断面が円形であるため、この円形形状のモールドで製造された鋼塊においては、鋼塊表層近傍と鋼塊内部での冷却速度に大きな違いがあった。特に鋼塊内部での冷却速度は遅く、この冷却速度が非金属介在物の大型化に大きな影響を及ぼしていることを知見した。
そこで本発明者は、冷却速度を速めることが可能なモールドの形状と非金属介在物を詳細に調査した結果、断面が略長方形であれば非金属介在物が大型化するのを抑制できることを見出し本発明に到達した。
【0006】
即ち本発明は、断面が略長方形モールドを用いてエレクトロスラグ再溶解を適用して得られた断面が略長方形のインゴットを塑性加工するマルエージング鋼の製造方法である。
好ましくは、略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比が、(モールド長辺)/(モールド短辺)で1.25以上であるマルエージング鋼の製造方法である。
更に好ましくは、上述のマルエージング鋼の化学組成が質量%で、C:0.01%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:7.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Ti:0.1〜2.0%、Al:0.15%以下、N:0.003%以下、O:0.0015%以下、残部は実質的にFeからなるマルエージング鋼の製造方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の最大の特徴は、ESRを行う際にモールド形状を調整することでマルエージング鋼としての特性を著しく劣化するAl2O3等の酸化物系非金属介在物やTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物の両方の大きさを小さく制御できることにある。
以下に、本発明を詳しく説明する。
先ず、本発明において再溶解方法としてESRとした理由を説明する。
マルエージング鋼に存在する酸化物系非金属介在物は、例えば高真空のVIMで作製した電極鋼塊においても皆無にすることは不可能であり、再溶解により除去する必要がある。再溶解方法としてはESRの他に真空アーク再溶解法(以下、VARと記す)が挙げられる。
【0008】
ESRでは電極鋼塊を再溶解し、フラックスと呼ばれる溶解酸化物中を通過させ、その後再凝固する。この際、フラックスは酸化物系非金属介在物をこしとるフィルターの役目を果たし、電極鋼塊中に含まれていた粗大な酸化物系非金属介在物はフラックスに吸収され除去される。
一方、VARでは酸化物系非金属介在物を高真空下での酸化物還元反応、または溶鋼プール内の浮上分離によって除去するが、マルエージング鋼のように酸素溶解度の低い鋼種では酸化物の還元反応は維持できず、加えて対流が発生している溶解プールにおいて完全に浮上分離することも困難であるため、一部の酸化物系非金属介在物は鋼塊中に残存する。
従って、ESRを用いた場合、15μm以上の大きさより大きなAl2O3等の酸化物系非金属介在物を除去することができるが、VARの場合は20μmを超える非金属介在物の残存が生じ易いため、本発明ではESRを行うと規定した。
【0009】
次に、ESRを用いて窒化物系非金属介在物を小さくする方法について説明する。
マルエージング鋼は窒素との親和力が大きいTi或いは更にAlを含有していることから、VIMにて作製したESR用の電極鋼塊製造段階でTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物が存在し、中には20μmを超えるような大型の非金属介在物も存在する。
これらの窒化物系非金属介在物は再溶解時に、一部はTiN→Ti+N、TiCN→Ti+C+NやAlN→Al+Nの反応により溶鋼中へ溶解し、溶存窒素や溶存炭素が増加する。また一部は完全には溶解せずにTiN、TiCNやAlN等の窒化物系非金属介在物の状態で溶鋼プール内に浮遊する。
【0010】
溶鋼プール内では凝固殻への抜熱により逐次凝固が進行していくが、凝固前面付近では溶鋼温度が低下し、溶鋼中に溶存している窒素や炭素は溶解度の低下に伴ない上述の未固溶のTiN、TiCNやAlN表面上に晶出し成長していく。
この時の凝固前面での温度低下量(以下、冷却速度と呼ぶ)が大きい場合、TiN、TiCNやAlNの晶出・成長が抑制されるため、得られる窒化物系非金属介在物の大きさを20μm以下程度に小さくすることが出来る。
【0011】
上述のように冷却速度を大きくすることは20μm以下の非金属介在物を得るためには有効な手段であり、そのためには再溶解鋼塊中心と冷却モールドとの距離を小さくすることが有効である。
例えば、モールド形状が丸型若しくは正方形状の場合、再溶解鋼塊の中心と冷却モールドとの距離は等方的であり冷却速度を大きくするためにはモールド径を小さくするあるいは辺長を短くする必要があり、そうした場合には断面積は小さくなる。
投入電流が同じである場合、断面積が小さくなることで電流密度が増加するため、溶鋼プールあるいはスラグ浴に対する熱量が増加し、冷却速度が大きくなる効果が低減してしまう。
【0012】
そこで、モールド形状を長辺と短辺とで長さの異なる略長方形状とした場合、再溶解鋼塊の抜熱は主に短辺側の距離に従うため、断面積の低減無しに鋼塊の冷却速度を大きくすることができ、非金属介在物の大きさを小さくすることができる。
なお、略長方形状とはモールド断面の長辺と短辺の中心線が断面の中心付近で直行するものであり、その長辺と短辺の長さの異なるものを指す。角部は丸みを帯びた形状でも良く、短辺長さの1/3以下程度の丸みを帯びていても良い。また、辺部についてはモールドの変形を考慮して辺長の10%程度の湾曲があっても構わない。
【0013】
上述する略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比は、(モールド長辺)/(モールド短辺)として求め、長辺側の冷却と短辺側の冷却との間に差異があることが必要であるため、長辺と短辺の長さの比は1.25以上であれば良い。モールド形状の長辺と短辺の長さの比が1.25以上であれば、非金属介在物の大きさを15μm以下にすることも可能であり、特に望ましい。
なお、角部に丸みがあったり、辺の長さ方向に湾曲があったりする場合では、縦方向の最大長さと、横方向の最大長さによって比を求めると良い。
また、モールド形状の長辺と短辺の長さの比に関しては特に上限は定めない。例えば、幅の広いマルエージング鋼の板材が求められる場合や、成分偏析を抑制するソーキングの効果をより効果的に行う場合は短辺方向の厚みは薄くした方が有利であり、これに伴い(モールド長辺)/(モールド短辺)として求める比は大きくなるためである。
但し、モールドの寿命、変形量等を考慮すると3以下が好ましい。
【0014】
またESRを行う際に考慮すべき点として、鋼塊内の窒素値は窒化物サイズに影響するので、ESRは外気を遮断しArで置換した雰囲気もしくは減圧下で行い、かつフラックスを追加する場合にはAr雰囲気を壊さないようArガスにてシールした管内を通して装入することにより操業中の窒素ピックアップを防止すると更に好ましい。
また、ESRに使用するフラックスについては目的とするマルエージング鋼の成分が達成できれば基本的にはどのようなものであってもよいが、例えばCaF2−Al2O3−TiO2系又はCaF2−CaO−Al2O3−TiO2系が好ましい。
【0015】
次に、本発明では上記のESRを行った後、鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、1000〜1300℃で少なくとも5時間以上の保持を行い、成分の偏析を軽減する均質化熱処理を適用すると良い(この高温保持を以下ソーキングと呼ぶ)。
これは、ESRで均質となった鋼塊をより成分偏析の少ないものとすることで、疲労強度を更に向上させることができるためである。
このソーキングはESR後の鋼塊状態または熱間鍛造後の何れで行っても良く、より高温でより長時間行うとより成分偏析は少なくなる。しかし、保持温度が1300℃を超えると表面酸化および窒化が促進し非金属介在物品位が悪化する。逆に1000℃より低いとその効果は低くいため、1000℃〜1300℃の範囲で行うと良い。
【0016】
また、ソーキングの保持時間が5時間より短いと均質化の効果が低いため、保持時間は少なくとも5時間以上必要である。また、ソーキングは二回以上行ってもよく、例えば、ESR後の鋼塊状態と熱間鍛造後の両方で行っても合計の保持時間が5時間以上であればよい。
よって、ソーキングを行う場合は、鋼塊サイズ、熱間鍛造比、ソーキング加熱炉の容量、加工工程、求められる強度等を考慮して、鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、少なくとも一回以上のソーキングを適宜行えば良く、勿論、熱間鍛造→ソーキング→熱間鍛造→ソーキングと言った工程でも良い。
【0017】
このソーキングにおいて、加熱温度や加熱時間は、鋼塊や熱間鍛造後の厚みを考慮し、加熱温度、加熱時間、場合によっては処理を行う雰囲気適宜決定すると良い。
なお、ソーキングにおいて、略長方形状の鋼塊をソーキングする場合には同じ断面積を持つ丸型もしくは正方形状の鋼塊をソーキングする場合と比較して、中心部まで均熱化が充分に行なえるため、材料の成分均質化をより効果的に行うこともでき、略長方形状の鋼塊へのソーキングの適用は特に好ましい。
【0018】
そして本発明では最終製品の用途形状に応じて適用する塑性加工としては、上述の熱間鍛造や、熱間加工または冷間加工の何れか若しくは両方を適時組み合わせることができる。
例えば、鋼板が必要な場合は、1100℃にて熱間圧延を施したのち、Fe、Moを主成分とする未固溶の金属間化合物を残留させないために、760〜950℃で固溶化処理を行い、その後、冷間圧延に形を整えると供に加工歪を付加して、その後、二回目の固溶化処理を実施する事によって微細に再結晶させ、その後、時効処理を施すと良い。
【0019】
次に、本発明の好ましい組成の限定理由について述べる。
Cは炭化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため本発明ではCの上限を0.01%以下とした。
Niは靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素であるが、8.0%未満では靱性が劣化する。一方、20%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは8.0〜22.0%とした。
【0020】
Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与するが、その含有量が7.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また20.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は7.0〜20.0%にした。
Moは時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素であるが、その含有量が2.0%未満の場合その効果が少なく、また9.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させるFe、Moを主要元素とする粗大析出物を形成しやすくなるため、Moの含有量を2.0〜9.0%とした。
【0021】
Tiは、Moと同様に時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する元素であり、0.1%以上であるとその効果が少なく、2.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を0.1〜2.0%以下とした。
Alは脱酸作用を持つだけでなく、時効析出して強化に寄与するが、1.5%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.5%以下とした。
【0022】
Nは窒化物系非金属介在物を形成するため、0.003%を超えて含有すると窒化物系非金属介在物を20μm以下とすることが困難となる。よって、その含有量を0.003%以下に制限する。
Oは酸化物系非金属介在物を形成するため、0.0015%を超えて含有すると酸化物系非金属介在物を20μm以下とすることが困難となる。よって、その含有量を0.0015%以下にした。
【0023】
なお、本発明ではこれら規定する元素以外は実質的にFeとしているが、例えばBは、結晶粒を微細化するのに有効な元素でるため、靱性が劣化しない0.01%以下で含有させても良い。
また、不可避的に含有する不純物元素のうち、Si、MnはFe、Moを主用元素とする金属間化合物を粗大化させ靭性に悪影響をもたらすため、Si、Mn共に0.10%以下とすれば良い。また、P、Sも粒界脆化させたり熱間加工性を低下させるので、0.01%以下とすると良い。
なお、上述してきた本発明の製造方法は、非金属介在物の残留によるマルエージング鋼の特性の劣化が顕著になる薄い厚みの1mm以下の鋼帯の製造方法として好適であり、0.5mm以下の鋼帯の製造方法として特に有効である。
【0024】
【実施例】
以下、実施例として更に詳しく本発明を説明する。
真空溶解で鋳造した表1に示す化学組成の消耗電極鋼塊を用意し、モールド断面積を200,000mm2〜800,000mm2(丸型形状の場合ではφ500mm〜φ1000mm相当)の範囲で変化させることにより、ESRを行って鋼塊を作製した。
(モールド長辺)/(モールド短辺)を2.50としてESRを行ったものは本発明としてAを、(モールド長辺)/(モールド短辺)を1.50としてESRを行ったものは本発明としてBを、またBの(モールド短辺)を変えずに(モールド長辺)のみを大きくして(モールド長辺)/(モールド短辺)を2.30としてESRを行なったものは本発明としてCを、比較例として丸型モールドを用いてESRを行ったものはDとし、それぞれ下記表1のNo.の後に1A、1B、1C、1Dと言うように記号として付して、以後説明する。このときの断面積は、A≒B≒D<Cの順である。
なお、本発明に用いたモールドの形状はいずれも略長方形状であり、コーナー部に丸みを持たせたものを使用した。辺部は直線形状のものを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
No.1A、1B、1Cの材料は、ESR後の鋼塊で1250℃×20時間のソーキングを行い、次いで熱間鍛造を行い熱間鍛造品とした。また、No,2A、2B、2Cの材料は、ESR後の鋼塊に熱間鍛造を行い、1250℃×20時間のソーキングを行った。
次に、これら材料に熱間圧延、820℃×2時間の固溶化処理、冷間圧延、820℃×1時間の固溶化処理と480℃×3時間の時効処理を行い、厚み0.5mmのマルエージング鋼の鋼帯を作製した。この鋼帯幅は600mmであった。
【0027】
得られたマルエージング鋼の鋼帯から介在物測定用の試験片を50g採取した。採取した試験片を混酸(硝酸+塩酸)で溶解後、フィルタで濾過し、濾過面全面を走査型電子顕微鏡で観察し、最大の酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物をそれぞれ探した。
その後、最大の酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物について1000倍で観察し、最長部の長さを測定し、酸化物系非金属介在物及び窒化物系非金属介在物の大きさとして、それぞれ表2に示した。
【0028】
【表2】
【0029】
表2より、酸化物系非金属介在物はESR材では比較例No.1D、2Dを含め20μm以下である。
また、ESR材において、断面積が同程度の場合、(モールド長辺)/(モールド短辺)が大きいほど窒化物系非金属介在物が微細になっており、本発明のNo.1A、2A、1B、2B、1C、2Cでは20μm以下である。
なお、観察された窒化物系非金属介在物はTiNやTiCNであった。
【0030】
また、略長方形状で(モールド短辺)が同じ場合、窒化物系非金属介在物の大きさには差が無く、(モールド長辺)/(モールド短辺)を大きくすることにより鋼塊単重を大きくすることも可能である。本発明のNo.1B、1Cおよび2B、2Cがその例である。
【0031】
次に、上述のマルエージング鋼帯の圧延方向における中央部について、試験片を採取し、化学組成を分析した。化学組成を表3に示す。
なお、表3中に示す偏析は、偏析測定用試験片を切だして、EPMAにてマルエージング鋼で特に成分偏析を起こし易いTi及びMoの成分偏析を測定した。
EPMAにて線分析した時、TiとMoそれぞれの最大値と最小値とを測定し、その比(最大値/最小値)を算出して1.2〜1.3のものには○印を、1.2以下のものには◎印を付して示した。
【0032】
【表3】
【0033】
表3より、再溶解による化学成分変化は殆ど起こっていない。マルエージング鋼帯の圧延方向における先・後端部についても中央部と同様に化学組成を分析したが、中央部と差違が無かった。
また、成分偏析の結果から、ESRを施しているため、成分偏析そのものが低く抑制されているが、特に略長方形断面としている本発明の製造方法を適用したものでは、特に成分偏析が抑制できた。
【0034】
最後に、上述のマルエージング鋼帯の圧延方向における中央部について、試験片を採取し、圧延方向及び板圧方向を含む面を鏡面研磨し、EPMAの面分析でTi、Moについて成分偏析を評価したが、No.1A、1B、1C、1D、2A、2B、2C、2Dの何れの試料にも縞状の偏析がみられず均質であった。特に、No.1A、1B、1C、2A、2B、2Cの試料は成分偏析が抑制されているのを確認した。
また、マルエージング鋼帯の圧延方向における先・後端部についても中央部と同様に面分析を行ったが、中央部と同様、縞状の偏析がなく均質であった。
【0035】
また、本発明の製造方法を適用したNo.1A、1B、1C、2A、2B、2Cの鋼帯では、TiNやTiCNの窒化物系非金属介在物の大きさも、表2に示すレベルで小さいことが、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の断面観察からも確認できた。
一方、比較例のNo.1C、2Cでは、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の断面観察からも比較的大きなTiN、TiCNの窒化物系非金属介在物が確認され、この非金属介在物を起点とした疲労破壊が起こる可能性が大きい結果となった。
また、酸化物系非金属介在物については、EPMA用に作製した鏡面仕上げ試料の全ての断面観察で確認できるものは5μm以下であり、断面観察によっては差違が確認されなかった。
【0036】
【発明の効果】
以上のような結果から、本発明の製造方法を適用すると、Al2O3等の酸化物系非金属介在物とTiN、TiCN等の窒化物系非金属介在物の両方の大きさが小さく、しかも、成分偏析も少なくすることができるため、繰返し応力が107回を超える例えば108乗回程度の疲労強度が求められる用途にも適用でき、優れた疲労強度を有する高清浄マルエージング鋼を製造することが出来る。
Claims (3)
- 断面が略長方形モールドを用いてエレクトロスラグ再溶解を適用して得られた断面が略長方形のインゴットを塑性加工することを特徴とするマルエージング鋼の製造方法。
- 略長方形のモールド形状の長辺と短辺の長さの比が、(モールド長辺)/(モールド短辺)で1.25以上であり、断面積が100,000mm2以上であることを特徴とする請求項1に記載のマルエージング鋼の製造方法。
- 請求項1または2に記載のマルエージング鋼の化学組成が質量%で、C:0.01%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:7.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Ti:0.1〜2.0%、Al:0.15%以下、N:0.003%以下、O:0.0015%以下、残部は実質的にFeからなることを特徴とするマルエージング鋼の製造方法。
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EP3156151A4 (en) * | 2014-06-10 | 2017-12-27 | Hitachi Metals, Ltd. | Process for producing maraging steel |
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2002
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