JP7187606B2 - 耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金 - Google Patents
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本発明は、高温用材料として使用される、耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金を提供することを課題とする。
(1)質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上であることを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
(2)前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%,Sn:0.05%以下、Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
(3)溶接構造物に用いられる(1)または(2)記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
<成分組成>
Cは、高温材料、耐熱合金の強度を確保するために添加される。特に高温強度特性が必要な場合は0.015%以上,好ましくは0.05%以上添加する。その上限を0.15%以下の含有量に制限する。本合金ではCはTiC析出物として合金中に存在するが、0.15%を超えて含有させるとCr炭化物が生成するようになり、高温特性および耐食性が劣化する。好ましくは0.10%以下、更に好ましくは0.085%以下である。
Siは、脱酸および耐酸化性向上のため0.05%以上、好ましくは0.2%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加すると鋼の凝固割れ感受性を低下させるとともに金属間化合物が析出しやすくなり、高温特性が劣化する。そのため、上限を2.0%に限定する。好ましい上限は1.5%,更に好ましい上限は0.8%である。
Mnはオーステナイト相の安定度を増加させ耐熱性を改善する効果を有する。このため、本発明合金では積極的に添加することが好ましい。耐熱特性の改善のため0.05%以上、好ましくは0.2%以上,更に好ましくは0.3%以上添加する。しかしながら、2.0%を超えて添加すると逆に金属間化合物が析出しやすくなり耐熱特性が劣化する。そのため、上限を2.0%に規定する。好ましい上限は1.5%、さらに好ましい上限は1.3%である。
Pは原料から不可避に混入する元素であり、凝固割れ感受性を高める作用を有するため、0.035%以下に限定する。好ましくは、0.030%以下である。
Sは原料から不可避に混入する元素であり、熱間加工性、耐酸化性をも劣化させるとともに、粒界へのSの偏析によりHAZ割れ感受性を増大させるため極力低減させる必要がある。そのため上限を0.0015%、好ましくは0.0010%以下に限定する。
酸素は、本発明合金中でCa,Mg,Al,Tiとの間に酸化物系介在物を形成する。酸素の含有量は酸化物系介在物の総量に対応し、合金の脱酸状態の指標ともなる重要なものである。加えてこれらの酸化物系介在物は板加工や管の拡管性に対して悪影響を及ぼす。更に、後述のとおり本発明では粒界へのSの偏析を極力抑制するために、CaによるS固定により脱硫を促進させるが、そのためには酸素含有量の上限を0.0020%とする必要がある。また、O:≦0.0020%まで脱酸が行われている鋼においてCaによるSの固定が充分に行われたか否かを判断する指標として、O+Sの値を0.0020%以下とする必要がある。一方、過剰な脱酸は炉体およびスラグに含まれるCa、Mgを還元し合金中に過剰Ca、過剰Mgを発生させることがあり、この場合は熱間加工性、溶接高温割れ感受性を逆に低下させる。このため、酸素含有量は0.0003%以上あることが好ましい。
Crは、高温用材料としての耐熱合金の耐酸化性をになう必須の元素であり、16%以上、好ましくは18%以上を含有させる。一方で、30%を超えて含有させると、Niを多く含有させたとしても高温組織安定性が低下し、金属間化合物が析出するようになり、耐熱特性を劣化させる。好ましい上限の値は28%,更に好ましい上限は26%である。なお、最適な含有量はNi,Si,Moやその他の元素の含有量により異なってくる。たとえばNiが30%程度の場合、Crは20%程度が最適である。あるいはNi+Cuが45%程度の場合、Cr+Moが25%程度が最適な含有量である。
Niは、高温でのオーステナイト組織を安定にし、各種酸に対する耐食性、靭性をも改善するため、18%以上、好ましくは20%以上、更に好ましくは25%以上含有させる。Ni含有量を増加することにより、耐熱特性のために必要なCr,Mo,Al,Tiをより多く含有させることが可能になる。一方Niは高価な合金であり、本発明鋼ではコストの観点より上限を50%、好ましくは48%、更に好ましくは45%に規定する。
Alは、脱酸元素であるとともに高Ni合金中でNiAl規則相を形成し高温強度を高める作用を有する。本発明では、酸化物の組成を制御して熱間加工性を高めるために、0.01%以上、好ましくは0.05%以上の含有が必要である。一方でAlが1.0%を超えると金属間化合物が析出しやすくなって耐熱特性を阻害するようになる。また、過剰に含有すると溶接高温割れ感受性、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を低下させる。このためその含有量の上限を1.0%と定めた。好ましい上限は0.60%である。
Tiは、高Ni合金中でNiTi規則相を形成し高温強度を高める作用を有する。このためには0.01%以上、好ましくは0.15%以上の含有が必要である。更に好ましくはAlとTiを合計で0.80%以上含有する。一方でTiが1.5%を超えると金属間化合物が析出しやすくなって耐熱特性を阻害するようになる。また、過剰に含有すると溶接高温割れ感受性、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を低下させる。好ましい上限は1.0%である。
Nは高温強度や耐食性向上に有効な元素であるが、本発明ではTi,Alを積極的に添加する。AlNまたはTiNを生成して非金属介在物となり材料特性を劣化するとともに、酸化物と複合化して連続鋳造時のノズル閉塞を促進する有害な元素となる。このため、Nの含有量の上限は0.02%以下とする。好ましい含有量は0.01%以下である。
Moは、耐熱合金の強度を高める元素である。耐熱性改善の目的のために添加する場合は0.05%以上、好ましくは0.2%以上含有させる。一方で高価な元素であり、本発明鋼では本鋼の合金コストを抑制する観点より8%の含有量を上限とする。好ましい上限は3%、更に好ましい上限は2%である。Moは含有しなくても良い。
Cuは、合金の酸に対する耐食性および高温機器でしばしば問題となる耐露点腐食性を高める元素であり、かつ高温強度および組織安定性を改善する作用を有する元素である。これらの耐熱性・耐食性改善のために添加する場合は0.05%以上、好ましくは0.1%以上含有させる。一方、4%を超えて含有させると凝固時に脆化を発生するようになるので上限を4%とした。Cuの好ましい上限は3.0%,更に好ましい上限は2.0%である。Cuは含有しなくても良い。
Coは合金の高温組織安定性と耐食性を高めるために有効な元素であり、添加する場合はこれらの特性改善のために0.1%以上含有させる。3.0%を超えて含有させると高価な元素であるためコストに見合った効果が発揮されないようになるため上限を3.0%と定めた。Coの好ましい上限は1.5%である。Coは含有しなくても良い。
Caは、合金の熱間加工性および溶接高温割れ感受性、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を改善するための重要な元素であり、合金中のSをCaSとして固定し、熱間加工性を改善するために含有させる。この反応は、以下のようになる。Caは、合金中の酸素と結合してCaO、CaO-Al2O3を生成し、合金中の溶存酸素(Free酸素)をほとんどゼロとしたのちに、残余のCaと合金中のSが反応してCaSを生成する。本発明合金ではその目的のためにCaを0.0010%以上、更に好ましくは0.0015%以上含有させる。一方で、過剰なCa添加は1100℃付近の高温の延性を低下させる。このため、Caの含有量の上限を0.0050%とした。
本発明では強脱酸によるMgのピックアップにより0.0010%以上のMgが含有される。Mgは、一般的には微量であれば合金の熱間加工性の改善の効果が得られる元素であるが、本発明においては溶接時のHAZ割れ感受性を高めるMgO系の介在物生成を促進するという悪影響がある。加えて酸化物を生成しない余剰なMgは粒界に偏析して高温域(例えば900℃)における粒界強度を低下させることにより高温域での熱間加工性の低下およびHAZ割れ感受性の増大を生じさせる。含有量の上限を0.0050%とした。好ましい上限は0.0040%である。
酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度:0.70%以上
介在物中のSの平均濃度は、合金断面の一定の測定視野におけるFE-SEM-EDS分析によって求められるOまたはSを含有する酸化物または硫化物系介在物、および介在物を接種核として生成した析出物中に含まれるSの平均濃度である。O濃度、S濃度を質量%で合計0.0020%以下に規定した鋼においては、介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上となるようにSを介在物中に固定することで、溶接時のHAZ割れに悪影響をおよぼすSの粒界偏析が抑制され、良好なHAZ割れ性を保つことが可能となる。
以下に本発明の製造方法について記載する。
脱酸強化にはAlによる脱酸に加え、Sの固定能が高いCaを添加することで脱酸力を強化する。二次精錬最終工程の出鋼前、または連続鋳造時のCa合金添加による脱酸・脱硫が有効である。加えて、二次精錬時に溶鋼表面に形成されるスラグの組成として、CaOリッチな介在物が生成する塩基度の高いスラグ組成とする必要があり、スラグ中のCaOとAl2O3の比率C/Aを質量比で1.5以上とするのが好ましく、2.0以上とするとなお好ましい。なお、融点調整のためのCaF2添加も炉体損傷が生じない範囲であれば実施することができる。加えて、Ca添加直後にはスラグからのMgのピックアップによりMg濃度が上昇する場合がある。Caの添加は連続鋳造時よりも二次精錬時の最終工程でCa添加を行う方が好ましく、その場合でも連続鋳造への移行の5分前もしくはそれ以上前にCa添加を行うことが好ましい。
<成分組成>
Bは鋼の熱間加工性を改善する元素であり、熱間加工の高温域の絞りを格段に向上する。このため、請求項2ではBが含有される。Bの熱間加工性の向上機構は明確ではないが、粒界に偏析することで粒界強度を高めると言われる。B含有による熱間引張の改善効果は0.0002%以上で発現することから、B添加する場合は下限を0.0002%とする。一方で、過剰な添加は凝固割れを促進するため、その含有量の上限を0.0030%に定めた。好ましい上限は0.0015%である。
Zn+Pb+Bi:0.0010%以下
Zr:0.5%以下
Hf:0.5%以下
La+Ce+Nd:0.0050%以下
Snは鋼の耐食性、高温クリープ強度を向上させる元素であり、必要に応じ添加することができる。ただし、0.05%を超える添加は熱間加工性を低下させるため、上限を0.05%と規定した。また、Pb,Zn,Biもオーステナイト単相系の合金では熱間加工性を著しく低下させるため、上限を厳しく規定する必要があり、Pb,Zn,Biの合計で0.0010%以下に規定した。
Zr,HfはいずれもP,Sを固定することで鋼の凝固割れ感受性,耐高温酸化性を向上させる効果があり、必要に応じて添加することができる。一方で0.5%を超える多量の添加は熱間加工性等の製造性および表面性状を低下させる。従い、これらの添加量上限を0.5%に規定した。
La,Ce,NdはいずれもP,Sの固定により耐酸化性、凝固割れ感受性を改善する元素であるが、その一方で合計で0.0050%を超える添加はTiC系析出物の増加を促進し鋼の液化割れ感受性を増大させる。従い、含有量の上限をこれらの元素の総和で0.0050%と規定した。なお、これらの元素の添加方法としては、各々の金属もしくは合金での添加、ミッシュメタルでの添加などの方法がある。
Wは、Moと同様に耐熱合金の強度を高める元素であり、必要に応じて添加することができる。本発明鋼において耐熱性を高める目的のためには3%を上限に含有させる。
V,Nb,Taについて説明する。V,Nb,Taは何れも必要に応じて添加することができ、合金の高温特性を向上させる作用を有する。コストに見合った含有量とするため、Nb、Taの含有量の上限を1.0%と定めた。好ましい含有量上限は0.8%である。Vの含有量上限は0.5%とした。添加する場合の含有量の下限はVでは0.01%、Nb、Taでは0.002%、好ましくは0.03%である。また、好ましい含有量範囲は、0.03%~0.8%である。
・各成分の平均含有量(質量%)=Σ(各粒子の分析値(質量%)×表面積(mm2))/(粒子数×平均表面積(mm2))
この方法で得られた介在物中のS濃度と、HAZ割れ総長さの測定結果を表2に示す。あわせて、図1にHAZ割れ総長さと介在物中のS濃度との関係を示す。
拡大する高Ni合金の需要に対して安定的な溶接品質を提供することができるようになり、産業の発展に寄与するところは極めて大である。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.15%以下、Si:0.05~2.0%、Mn:0.05~2.0%、P:0.035%以下、S:0.0015%以下、O:0.0020%以下、かつO+Sの合計で0.0020%以下、Cr:16~30%、Ni:18~50%、Al:0.01~1.0%、Ti:0.01~1.5%、N:0.02%以下、Mo:8%以下、Cu:4%以下、Co:3%以下、Ca:0.0010~0.0050%、Mg:0.0010~0.0050%を含有し、残部がFeおよび不純物よりなり、酸化物系介在物および硫化物系介在物中のSの平均濃度が質量%で0.70%以上であることを特徴とする耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
- 前記Feの一部に替え、さらに質量%で、B:0.0002~0.0030%、Sn:0.05%以下,Zn+Pb+Bi:0.0010%以下,Zr:0.5%以下、Hf:0.5%以下、La+Ce+Nd:0.0050%以下、W:3%以下、V:0.01~0.5%、Nb:0.002~1.0%、Ta:0.002~1.0%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
- 溶接構造物に用いられる請求項1または請求項2記載の耐溶接高温割れ性に優れた高Ni合金。
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