JP4374529B2 - マルエージング鋼及び薄帯 - Google Patents

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Description

本発明は、疲労強度に優れたマルエージング鋼及びそれを用いた薄帯に関するものである。
マルエージング鋼は、2000MPa前後の非常に高い引張強さをもつため、高強度が要求される部材、例えば、ロケット用部品、遠心分離機部品、航空機部品、自動車エンジンの無段変速機用部品、金型、等種々の用途に使用されている。
このマルエージング鋼は、通常、強化元素として、Mo、Ti、を適量含んでおり、時効処理を行うことによって、NiMo、NiTi、FeMo等の金属間化合物を析出させて高強度を得ることのできる鋼である。このMoやTiを含んだマルエージング鋼の代表的な組成としては、質量%で18%Ni−8%Co−5%Mo−0.45%Ti−0.1%Al−Bal.Feが挙げられる。
しかし、マルエージング鋼は、非常に高い引張強度が得られる一方、疲労強度に関しては必ずしも高くない。この疲労強度を劣化させる最大の要因に、TiNやTiCN等といった窒化物や炭窒化物のTi系の窒化物系介在物(以下、Ti系介在物と記す)があり、このTi系介在物が鋼中で大きく成長してしまうと、Ti系介在物を起点として疲労破壊を生じることになる。
そのため、一般的に鋼中に存在する介在物を少なくするために、真空アーク再溶解(以下、VARと記す)法が用いられている。
このVAR法で製造されるマルエージング鋼は、均質(成分偏析が少ない)でしかも、非金属介在物の量が少なくなると言った利点を有するものである。
しかしながら、VAR法で製造するマルエージング鋼にも、比較的大きなTi系介在物が残留し、残留した大きなTi系介在物は、VAR後に行う熱間鍛造、熱処理、熱間圧延、冷間圧延を行った後の素材中にもそのまま残留し、残留する大きなTi系介在物を起点とした疲労破壊を生じる原因となっていた。
この問題に対しては種々の提案がなされており、例えば特開2001−214212号(特許文献1参照)に、TiN系介在物を含まない含Ti鋼用原材料を真空誘導炉で溶解し、鋳造して製造した含Ti鋼材を電極として真空アーク溶解法で再溶解するTiN系介在物を微細にする含Ti鋼の製造方法がある。
特開2001−214212号公報
上述した介在物のサイズを小さくする技術は、疲労強度の改善に極めて有効である。しかし、実際に工業的に量産するためには、安定して目的の介在物品位が得られる技術を確立する必要がある。さらにもっとも重要なのは、市場をリードできる低コスト化が達成できる技術でなくてはならない。
上述した特許文献1等に記載される技術は、コストを惜しまない技術開発としては有効であるが、低コストを達成できる高性能のマルエージング鋼ではない。
本発明の目的は、上記課題に鑑み低コストであるにも係わらず、疲労強度の優れた高性能なマルエージング鋼及び薄帯を提供することである。
本発明者等は、マルエージング鋼の製造過程において、VARに使用する消耗電極に強制的にMgを添加したものとすると、Ti系介在物のサイズがMg無添加の場合よりも格段に小さくなること、そのためにVARを数トン以上に大型化しても、1トン以下のVARと同等以下のTi系介在物のサイズとなりうることを見いだした。
そして、この手法で製造したマルエージング鋼は、Mgを含有する酸化物を核とするTi系介在物の割合がMg無添加の場合よりも多くなるという独特の介在物形態を有するものであること、そしてこのような独特の形態を有するマルエージング鋼であっても、極めて優れた疲労強度等の機械特性を発揮できることを見いだし本発明に到達した。
即ち本発明は、質量%でTi:0.2〜3.0%、Mg:1〜5ppm、酸素:10ppm未満、窒素:15ppm未満、C:0.01%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:3.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Al:1.7%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下、残部はFe及び不可避的不純物でなるマルエージング鋼において、Ti系の窒化物系介在物の最大長さが10μm以下であり、且つ断面の100mm中に存在する3μm以上の最大長さを有するTi系の窒化物系介在物総個数のうち、Mgを含有する酸化物を核とするTi系の窒化物系介在物の割合が5%以上であり、酸化物系介在物の最大長さが20μm以下のマルエージング鋼である。
上述のマルエージング鋼を用いて厚さが0.5mm以下の薄帯としても良い。
本発明のマルエージング鋼は、大型鋼塊により製造が可能であるとともに、優れた疲労強度を有するものとなる。
特に、製品の厚さが薄い用途において最適であり、例えば自動車エンジンの無段変速機用部品として最適である。
本発明の最大の特徴は、大型鋼塊により製造が可能であるTi系介在物の最大長さが10μm以下であり、且つ断面の100mm中に存在する3μm以上の最大長さを有するTi系介在物総個数のうち、Mgを含有する酸化物を核とするTi系介在物の割合が5%以上であるという独特の組織をもつマルエージング鋼が、通常のマルエージング鋼と遜色ない疲労強度等の機械特性を有することを見いだしたことにある。
以下に本発明の限定理由を述べる。なお、各元素の範囲については質量%として示す。
Ti:0.2〜3.0%
Tiは時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与するマルエージング鋼において必要不可欠な元素であり0.2%以上含有させるが、その含有量が3.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を0.2〜3.0%とした。好ましくは、0.3〜2.0%の範囲である。
Mg:1〜5pp
Mgは本発明において必須で含有する元素であるが、Mgが5ppmを超えて残留すると、製品としてのマルエージング鋼や塑性加工を行う素材としてのマルエージング鋼として、Mgの過度の残留は靭性の点から好ましくなく、例えば真空再溶解を適用してMgを5ppm以下まで低減させたものである。Mgの下限は1ppmである。製造方法については後に詳しく説明する。
なお、本発明で言うマルエージング鋼とは、通常定義される通り、マルテンサイト組織にエージング(時効硬化処理)を施すことで2000Mpa前後の非常に高い強度と優れた延性が得られる合金であり、Niを8〜25%含む時効硬化型の超強力鋼を言う。
次に、必須で規定する介在物について説明する。
先ず、本発明において、Ti系介在物に着目したのは、Tiを必須で含有するマルエージング鋼中に残存する介在物のうち、断面の形状が矩形となることが多いことに加え、塑性加工を加えても破砕が難しく、製鋼工程の段階での微細化が特に重要であるためである。そして、その最大長さが10μm以下としたのは、10μmを超える大型の介在物は疲労破壊の起点となり易いためである。好ましくは8μm以下、更に好ましくは6μm以下の範囲である。
なお、本発明で言う最大長さとは、Ti系介在物に外接する円の直径で評価し、この外接する円の直径を最大の長さと定義する。
次に、断面の100mm中に存在する3μm以上の最大長さとしたのは、本来であれば調査する対象物の全断面を観察するのが最も良いが、それは現実的ではなく、従来からの経験として100mmの領域を観察すれば、100mmの領域を越える広い領域を測定した場合と大きな誤差を生じないことから、観察領域を100mmとした。
そして、100mm中に見られるTi系介在物について、3μm以上の最大長さを持つものとしたのは、3μm以上のものが疲労破壊に影響を及ぼすものと判断したことと、3μm未満のTi系介在物においては、総個数の確認が困難であるためである。
なお、上記の断面での観察を行う理由は、Ti系介在物の断面の核の存在の有無、核の組成を調査するに必要な断面観察を走査型電顕微鏡(以下、SEMと記す)で行うためである。
そして、Ti系介在物総個数のうち、Mgを含有する核を持ったTi系介在物の割合が5%以上としたのは、従来行われてきた製法において、炉壁等から混入するMgによって得られる組織と区別するためである。好ましくは10%以上である。
例えば、真空誘導溶解(以下、VIMと記す)やVARの製造条件をコントロールし、鋼塊のサイズを1トン程度の小型のものとすれば、Ti系介在物の大きさを10μm以下にも調整は可能であるが、この時のTi系介在物には核としてMgを含有する核を持ったものはTi系介在物総個数のうち5%未満である。なお、従来のマルエージング鋼に見られるTi系介在物の形態は、Alを主成分として、CaやZr等との複合酸化物や、Alを核として有するものがある。
なお、本発明で言うMgを含有する核とは、例えばMgの酸化物単独、MgとAlの複合酸化物等が代表的であるが、MgとAlに加えてCa等も検出される場合や、稀に硫化物と複合化する場合もある。中でも特に多いのは、Al−Mg−O系(MgO・Al系)のスピネル系の酸化物を核として持つものが多い。
上記のスピネル系の介在物とは、組織中の介在物を例えばEDX(エネルギー分散型エックス線分析装置)で定性/定量分析を行った時、介在物を構成するガス成分のうち、O(酸素)ピークが主体となって検出され、O以外の検出された元素のうち、Alが85mass%未満であり、Mgが検出される介在物を言う。
図1に示すように、断面において、これらの酸化物がTi窒化物中に包含されているものを本発明では核と呼ぶ。
また、本発明のマルエージング鋼は、酸化物系介在物の最大長さが20μm以下であることが好ましい。これは、上述したTi系介在物を微細化しても、酸化物系介在物が過剰に大きなサイズのものがあると、やはり疲労破壊の起点となるため20μm以下とした。
なお、酸化物系介在物も、その大きさは可能な限り微細な方が良いが、今現在の技術的な限界としては最大長さを10μmとするのがせいぜいである。
また、本発明で言う酸化物系介在物の最大長さとは、酸化物系介在物に外接する円の直径で評価し、この外接する円の直径を最大の長さと定義する。
次に、上述のマルエージング鋼の組成の範囲について説明する。
なお、必須元素として含有する、Ti:0.2〜3.0%、Mg:5ppm以下の理由については先に述べたので割愛する。
酸素:10ppm未満
O(酸素)は酸化物系介在物を形成するため、10ppm未満に制限する。Oが10ppm以上含有すると疲労強度が著しく低下する恐れがあるため、その含有量を10ppm未満にした。なお、下限については、今現在の技術的な限界としては1ppmとするのがせいぜいである。
窒素:15ppm未満
N(窒素)は窒化物や炭窒化物系のTi系介在物を形成するため、15ppm未満に制限する。Nが15ppm以上含有すると疲労強度が著しく低下する恐れがあるため、その含有量を15ppm未満にした。なお、下限については、今現在の技術的な限界としては2ppmとするのがせいぜいである。
C:0.01%以下
Cは炭化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため本発明ではCの上限を0.01%以下とした。なお、下限については、今現在の技術的な限界としては10ppmとするのがせいぜいである。
Ni:8.0〜22.0%
Niは靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素であるが、8.0%未満では靱性が劣化する。一方、22%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは8.0〜22.0%とした。
Co:3.0〜20.0%
Coはマトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与するが、その含有量が3.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また20.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は3.0〜20.0%にした。
Mo:2.0〜9.0%
Moは時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素であるが、その含有量が2.0%未満の場合その効果が少なく、また9.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させるFe,Moを主要元素とする粗大析出物を形成しやすくなるため、Moの含有量を2.0〜9.0%とした。
Al:1.7%以下
Alは、時効析出した強化に寄与するだけでなく、脱酸作用を持っているが、1.7%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.7%以下とした。好ましい下限は0.05%とすれば良い。
P:0.01%以下,S:0.01%以下
P、Sは粒界脆化させたり、介在物を形成して疲労強度を低下させるので、0.01%以下とすると良く、無添加レベル以下で良い。
残部はFe及び不可避的不純物
本発明では上述した元素以外はFe及び不可避的不純物である。
不純物元素のうち、Si,Mnは脆化をもたらす粗大な金属間化合物の析出を促進して延性、靭性を低下させたり、介在物を形成して疲労強度を低下させるので、Si,Mn共に0.1%以下に、望ましくは0.05%以下とすれば良い。
次に、本発明のマルエージング鋼の厚さを0.5mm以下の薄帯とした理由も含めて、本発明の特殊な介在物形態を持ったマルエージング鋼の最良の製造方法について説明する。
先ず、本発明のマルエージング鋼を得るには、VARに用いる消耗電極中に特定量のMgを添加することが必要である。
消耗電極製造時にMgを積極的に添加すると、溶解中に存在する酸素は、親和力の高いMgと結びついてMgOを生成し、このMgOを核として持つTi系介在物が消耗電極中に形成される。
そして更に、このMgを添加して消耗電極を製造すれば、Ti系介在物の他に、酸化物系介在物も微細化させることができる。
Mgを適量添加すると、消耗電極製造過程で溶解中に存在する酸素は、典型的な介在物であるアルミナの起源となるAlよりも親和力の高いMgと結びついてMgOを主体とするMgO系介在物を多く生成する。
そして、このMgO系介在物の凝集性はアルミナより弱いため、電極中には極端に大きな酸化物系介在物は少なくなる。なお、実際の酸化物系介在物の形態としては、上述のMgO系酸化物に加えて、Al−Mg−O系(MgO・Al系)のスピネル系の介在物となるものが多い。
このような消耗電極に対して真空再溶解を適用すると、高温領で揮発性元素であるMgの蒸発が起こり、MgO系酸化物やスピネル系の介在物が分解され、酸素の気相および液相への拡散が起こる。つまり、MgOの分解により、酸化物の低減は促進されることになる。一部液相に拡散する酸素もあるが、この酸素によって新たに発生する酸化物系介在物は多くなく結果として酸化物系介在物は微細なものとなる。
一方、Ti系介在物もMgOを核として消耗電極中に存在するため、再溶解中にTi系介在物の熱分解が促進され、結果としてTi系介在物の微細化が達成される。
以上の作用により、著しく介在物が微細化されたマルエージング鋼を提供することが可能になる。
代表的なマルエージング鋼においては、TiやAlといった時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する元素を必要とする一方で、これらの元素は、介在物を形成するという避けられない問題を抱えていた。
そのため、Mgを利用した製造技術の開発は、窒化物系及び酸化物系の両方に対する低減効果と微細化効果が両立できるという、極めて有効なブレークスルー技術であり、Tiを0.2〜3.0%の範囲で積極添加するタイプのマルエージング鋼において最良の方法となる。
なお、真空再溶解とは真空排気を行いながら、再溶解を行うものである。
上述の作用効果を得るためには、消耗電極中にMgを2ppm以上含有させる必要がある。これは、Mgが2ppm未満ではMg添加による介在物の低減と微細化の効果が顕著に現れないためである。望ましくは5ppm以上含有させるのが良い。
なお、消耗電極でのMg濃度の上限は、再溶解後の鋼塊または製品の靭性を考慮すると300ppm以下であり、5〜250ppmであれば上記の効果がより確実に得られるので上限は250ppmとするのが好ましい。
但し、揮発性の強いMgの添加は歩留が低く経済的でなく、またMgは真空再溶解で激しく蒸発し、操業を害するだけでなく鋼塊肌を悪くする場合があることからMg濃度の好ましい上限は200ppmとすると良い。より好ましい範囲は10〜150ppmの範囲である。
本発明において、消耗電極の製造はVIMの適用が望ましい。これは、ルツボ内の溶解原料を真空中で溶解するため、大気中の酸素、窒素と溶鋼との反応による鋼中の酸化物、窒炭化物の増加を避けられる点、酸素と活性なMgを安定して溶鋼中に添加するのに有利である点、原料から不可避的に混入する酸素、窒素を除去できる機能を有している点を有しているからである。
特に、マルエージング鋼では活性なTiを含有しているため、溶湯と大気との接触はできる限り避けた方がよく、大気と遮断された環境中でから消耗電極を製造可能なVIMの適用は最適である。
なお、同様の機能すなわち大気による溶鋼の汚染を防止でき、Mgを添加できる機能を有している溶解設備であればVIMの代わりとすることもできる。
ところで、真空再溶解法にはVARの他に、電子ビーム再溶解法があるが、電子ビーム再溶解法はランニングコストが高いこと、高真空下でビームが照射される溶鋼表面温度が高く元素の選択的蒸発が起こり成分制御が難しいことがある。また真空エレクトロスラグ再溶解法は真空アーク再溶解法同様にMg添加の効果は得られるが、スラグによりMgの蒸発現象が抑制されるため、Mg添加効果が低減されることから、本発明において真空再溶解にはVARを用いるのが最も効果的である。
上述した方法により製造されたマルエージング鋼を、自動車エンジンの無段変速機用部品に適用する場合、熱間圧延や冷間圧延等の塑性加工により、0.5mm以下の薄帯とする。
この塑性加工によって、酸化物系介在物は真空再溶解後に行う塑性加工等によって、破砕されたり伸展されさらには引き千切られた状態となって更に微細なものとすることが可能となる。例えば、Mg添加によって生成されたMgOや、真空再溶解時で生成するスピネル系の介在物凝集体も、熱間や冷間での塑性加工により分断し、微細化していくことから、疲労強度向上に大きく寄与する。
この塑性加工を組み合わせることで、高疲労強度を有する無段変速機用部品用マルエージング鋼薄帯として特に好適となる。
なお、薄帯の下限については、鋼帯の寸法精度を考慮すると0.10mm程度である。
上述したマルエージング鋼を、より無段変速機用部品用マルエージング鋼薄帯に好適とするためには、真空再溶解後の鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、1000〜1300℃で少なくとも5時間以上の保持を行い、成分の偏析を軽減する均質化熱処理を適用すると良い。
均質化熱処理を施すと、成分偏析を更に低減できる。均質化熱処理の温度は、高温で長時間行うとより成分偏析は少なくなるが、保持温度が1300℃を超えると表面酸化が過度に促進してしまう。逆に1000℃より低いとその効果は低くいため、1000℃〜1300℃の範囲で行うと良い。
また、均質化熱処理の保持時間が5時間より短いと均質化の効果が低いため、保持時間は少なくとも5時間以上が良く、この均質化熱処理を施すと、特に成分偏析を起こし易いTi及びMoの成分偏析を、EPMAにて線分析した時、TiとMoそれぞれの最大値と最小値とを測定して、その比(最大値/最小値)を算出して1.3以下の範囲とすることができる。
上述したように、Mgを適量添加することでTi系介在物、酸化物系介在物のサイズを小さくすることが可能となる。この効果をより確実に得るには以下の方法が有効である。
(1)消耗電極鋼塊製造時の凝固速度を高めること、
(2)消耗電極鋼塊の窒素濃度を下げること、
以上のような製造方法を単独若しくは組合せて適用することが有効である。
上述した製造方法を適用したマルエージング鋼では、Mgの積極添加により、従来のマルエージング鋼では見られない特徴的な酸化物系介在物の形態となるだけでなく、Ti系介在物の微細化も達成される。
鋼帯中に見られる酸化物系介在物は、非常に僅かではあり例えばSEM観察でも容易に発見することはできないが、MgO単独の介在物が存在したり、10μm以上の酸化物系介在物の総個数に対して、10μm以上のアルミナ系の介在物が70%未満である。より好ましい範囲は10μm以上のアルミナ系の介在物が50%未満の範囲であり、更に好ましくは30%未満の範囲である。
なお、上記のアルミナ系の介在物とは、組織中の介在物を例えばEDXで定性/定量分析を行った時、介在物を構成するガス成分のうち、O(酸素)ピークが主体となって検出され、O以外の検出された元素のうち、Alが85mass%以上となる介在物を言う。
上述したようにVARの製造条件のコントロールによってはTi系介在物を10μm以下に制御することも技術的に可能であるが、消耗電極やVAR後の鋼塊が1トンを超えるような大型鋼塊となれば冷却速度も低下し、Ti系介在物が成長するため、結果として鋼塊の大型化と介在物の微細化の両立は困難であった。
これに対し、本発明のMgを添加する方法を用いればTi系介在物の大きさを10μm以下とすることができ、1トンを超えるような大型鋼塊としても介在物の粗大化も防止でき、生産コストを低減できるという効果が得られる。
以下、実施例として更に詳しく本発明を説明する。
マルエージング鋼の代表成分に、Mg含有量を3通りに変化させたVAR溶解用の消耗電極をVIMで製造した。また比較材としてVIMでMg無添加の条件で製造した消耗電極も製造した。消耗電極にはそれぞれ鋳型寸法鋳型比は同一のφ650mmを用いて電極鋼塊を造り、電極製造時の鋳型比は2.5とし、鋳造後鋳型の衝風冷却によって、凝固速度を高めた。VIMでは原料は窒素含有量が15ppmといった窒素含有量の低い原料を精選し真空精錬を行なった。
これらの電極鋼塊を据込み鍛造、鍛伸、旋削によりVAR用の消耗電極を(φ450mm)を用意した。
これら炭窒化物のための処置に加えNi−Mg合金によるMgの添加を行ないVAR造塊に供する電極を製造した。
Mgの添加については、Ni−Mg,Fe−MgをはじめとするMg合金や金属Mgを溶鋼へ直接添加する方法があるが、今回は取り扱いが容易で、Mgの成分調整が容易なことからNi−Mg合金による添加を行った。
なお、Mg添加による窒化物や炭窒化物への影響を明確にするため、窒素濃度を10ppmに調整した消耗電極を製造した。
これらVIMで製造した消耗電極を同一条件の下でVARを用いて再溶解し、3トン鋼塊(No.1〜4)を製造した。VARの鋳型はそれぞれ同一のものを用い、真空度は1.3Pa、投入電流は鋼塊の定常部で8.0KAで溶解した。
また、比較のためにNo.4と同様の組成の消耗電極を(φ300mm)を用意し、No.5として0.5トン鋼塊も製造した。溶解条件は上記と同じである。
VIMで製造した消耗電極及びその電極をVARにて真空再溶解して得られた鋼塊の化学組成を表1に示す。なお、消耗電極は「電極」として、VAR後のものは「鋼塊」として示し、( )で示される元素はppmとして示した。
なお、表1のNo.4及び5のMg含有レベルは炉壁等から混入したレベルのものである。
上記のVAR後の鋼塊を1250℃×20時間のソーキングを行なった後、熱間鍛造を行なって熱間鍛造品とした。
次に、これら材料に熱間圧延、820℃×1時間の溶体化処理、冷間圧延、820℃×1時間の溶体化処理と480℃×5時間の時効処理を行ない、厚み0.5mmのマルエージング鋼帯を製造した。
No.1〜5のマルエージング鋼の鋼帯から介在物測定用に試験片を切出した。切出した試験片の断面を鏡面研磨し、SEMで100mmの領域の観察を行ない、Ti系介在物の総個数と核の組成をEDXにて分析・測定し、3μm以上の最大長さを有するTi系介在物総個数のうち、Mgを含有する酸化物を核とするTi系介在物の総個数に対する割合を求めた。
酸化物系介在物については、鋼帯から100gの金属片を採取し、混酸溶液または臭素メタノール溶液等で溶解後、フィルターでろ過し、フィルター上の酸化物からなる残渣をSEMで観察を行ない、酸化物系介在物の組成及びサイズを測定した。なお、介在物の最大長さの測定は、Ti系介在物、酸化物系介在物共に外接する円の直径で評価し、この外接する円の直径を最大の長さとして測定した。図1にNo.1のマルエージング鋼の鋼帯中に見られたMgを含有する核を有する代表的なTi系介在物の電子顕微鏡写真を示す。TiNに包含される黒色の部分がMgを含有する酸化物の核である。
マルエージング鋼の鋼帯の化学組成を表2に、介在物測定結果を表3に示す。
今回の結果から、Mgを積極添加する製造方法を適用したマルエージング鋼帯中にのTi系介在物の大きさは、最大でも7μm程度であり、且つ20μmを越える酸化物系介在物がなくなっていることがわかる。
なお、酸化物系介在物に付いては、10μm以上の酸化物系介在物の総個数に対して、10μm以上のアルミナ系の介在物の割合も求めた結果、No.1の鋼帯では10μm以上のアルミナ系の介在物の割合が16%、No.2及びNo.3は0%であり、殆どがスピネル型介在物であった。No.4の比較例の鋼帯は、10μm以上のアルミナ系の介在物の割合が80%、No.5の比較例の鋼帯は、10μm以上のアルミナ系の介在物の割合が78%となっていた。
なお、No.1〜3のマルエージング鋼帯の断面をEPMAにてTiとMoそれぞれの最大値と最小値とを線分析し、その比(最大値/最小値)を算出したところ、全ての試料で偏析比が1.3以下となっていたのを確認した。
次に、上記の「鋼塊」から疲労試験用のサンプルを採取した。
サンプルは、No.1〜5の試験片を1250℃×20時間のソーキングを行なった後、熱間鍛造を行なって、直径15mmの棒材とした。次に、棒材を820℃×0.5時間の溶体化処理後、480℃×3時間の時効処理を行い、各々10本の超音波疲労試験片を作製した。
この超音波疲労試験片を、超音波疲労試験機にて、応力振幅400MPaで疲労試験を行った。疲労試験は、20kHzの振動速度の運転期間が80ms、冷却のための停止が190msとなるように行い、試験片が破断するまで繰返した。
破断した試験片の破断起点部を観察した結果、試験片は介在物を起点に疲労亀裂が進展し、破断に至ったことが確認され、本発明No.1〜3及び比較例5では、平均破断寿命は10回以上と長寿命であったが、比較例No.4平均破断寿命は10回であった。
以上の結果から、本発明の製造方法を適用したマルエージング鋼は、鋼塊サイズを3トンと大型化して、製造コストを低減したにもかかわらず、Ti系介在物の大きさも小さくすることができ、且つ酸化物系介在物も小さくすることができることも分かり、優れた疲労強度を有するものとなっていることが分かる。
本発明のマルエージング鋼の薄帯は、自動車エンジンの無段変速機用部品として最適である。
本発明によれば、マルエージング鋼のTi系介在物の大きさを小さくすることができ、更に、酸化物系介在物も小さくすることが可能であり、厳しい疲労強度を要求されるような用途に最適である。代表的な用途しては、例えば自動車エンジンの無段変速機用部品として最適となる。
Mgを含有する酸化物を核とするTi系介在物の断面電子顕微鏡写真である。

Claims (2)

  1. 質量%でTi:0.2〜3.0%、Mg:1〜5ppm、酸素:10ppm未満、窒素:15ppm未満、C:0.01%以下、Ni:8.0〜22.0%、Co:3.0〜20.0%、Mo:2.0〜9.0%、Al:1.7%以下、P:0.01%以下、S:0.01%以下、残部はFe及び不可避的不純物でなるマルエージング鋼において、Ti系の窒化物系介在物の最大長さが10μm以下であり、且つ断面の100mm中に存在する3μm以上の最大長さを有するTi系の窒化物系介在物総個数のうち、Mgを含有する酸化物を核とするTi系の窒化物系介在物の割合が5%以上であり、酸化物系介在物の最大長さが20μm以下であることを特徴とするマルエージング鋼。
  2. 請求項1に記載のマルエージング鋼を用いた厚さが0.5mm以下のマルエージング鋼薄帯。
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