JP2004081739A - ハイドロキシアパタイト−ポリマー複合材料の止血用組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】創傷部位における有効な止血用組成物の提供。
【解決手段】生体適合性ポリマーマトリックス中に平均粒子径50μm以下のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする止血用組成物。
【選択図】 なし
【解決手段】生体適合性ポリマーマトリックス中に平均粒子径50μm以下のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする止血用組成物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は止血用組成物に関し、より具体的には、創傷部に施用または埋植することにより創傷部からの出血を防止ないしは軽減できる組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯槽膿漏の症状は一般に歯石や歯垢が原因となり歯肉の炎症を引き起こし、炎症が進行すると歯肉と歯の間に隙間(歯周ポケット)ができ、次いで歯根膜や歯槽骨が破壊、吸収され最終的に歯が抜け落ちる。治療法としては歯槽膿漏の原因とされている歯石の除去や、炎症を起こしている歯肉の除去などの外科的治療が行われている。現在歯槽膿漏になった場合、破壊された歯根膜や歯槽骨の再生は原則的には不可能だといわれている。
【0003】
しかし、コラーゲン・天然アパタイト複合材[Bone Ject(商標)]を使用してスペースメイキングを行った場合には、歯周組織にある程度の新生骨の形成が認められるとの報告もある。そして、「コラーゲンは生体材料としてさまざまな応用がなされており、・・・人工骨移植材とコラーゲンゲルの混合移植を行った結果、人工骨移植材の単独使用に比べ骨再生において有効である報告もある」として、コラーゲンと人工骨移植材との混合使用のさらなる作用についての示唆もされている(日歯周誌34(1):220〜231、1992;同41(2):125〜143、1999)。
【0004】
他方、本発明者の一部は、生体親和性に優れ、骨に近似した結晶構造を有するハイドロキシアパタイトを担持するハイドロゲル複合体(ヒドロゲル−ハイドロキシアパタイト複合材)は広く、医療用材料、人工骨、並びに骨以外の柔軟性等が要求される各種生体組織等に有用であることを見出して特許出願した[例えば、国際公開第99/58447号(WO 99/58447)参照]。そして、これらの一部、例えば、ハイドロキシアパタイト(以下、HAと略記する場合あり)−コラーゲンゲル、HA−アガロースゲルおよびHA−ポリアクリルアミドゲルは細胞接着活性を示し、そして埋植試験において、例えば、組織に対する刺激性はポリマー自体のゲルと同程に穏和であることも報告されている(Taguchi et al.,Bioceramics Vol.9(1999)375−378;岸田ら、高分子論文集、Vol.57,(2000)No.4、pp.159−166)。
【0005】
[発明の要約]
本発明者らは、上述のような広範な医療用途が考えられるHA−ヒドロゲル複合材料を、例えば、ボーンジェクト[Bone Ject(商標)]に代えて歯周組織の再生に利用することを検討してきたところ、HA粒子がある一定の粒度を有する場合には、歯周組織の再生(例えば、新生骨の形成を随伴する)に利用できることのみならず、抜歯窩のような歯周部の創傷における出血を有効に防止しうることも見出した。その上、かような出血防止作用は、例えば、抜歯窩のごとき開放創における出血だけでなく、のう胞や腫瘍による骨欠損などの閉鎖創における出血においても認められ、多種多様な創傷の止血に適用できることを見出した。また、同様な止血効果が、炭酸カルシウム−ヒドロゲル複合材料にも認められた。
【0006】
したがって、本発明によれば、ポリマーマトリックス、好ましくは生体適合性ポリマーマトリックスである生分解性ポリマーマトリックス中に平均粒子径約200μm以下、好ましくは約50μm以下、より好ましくは約20μm以下、特にはサブミクロンのハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする止血用組成物が提供される。
【0007】
本発明の止血用組成物による有効な止血効果は、例えば、サル(カニクイザル)における抜歯直後の出血中にボーンジェクトを抜歯窩に充填した場合には、血液に乗ってボーンジェクトは流れ出てしまうが、本発明の組成物を用いると、充填操作終了時(操作開始から約2分後)には止血が認められることによって確認できる。また、このサルを用いる試験例では、抜歯窩の囲辺組織では、2〜3ケ月後に新生骨の形成も認められる。このことにより、ボーンジェクトと比較してはるかに操作性に優れている。理論によって、本発明の範囲または態様を拘束するものでないが、ボーンジェクトは、通常、300〜600μmまたは600〜1000μmの大きさの牛骨由来のHA粒子とアテロコラーゲンからなる複合材料であるのに対し、本発明の複合材料では、それらより遥かに小さい粒径のHAを生体適合性ポリマーマトリックス中に担持しており、かような小さな粒径のHAが血液凝固の核または足場となり得ることにより、迅速な止血が達成できるものと推測される。また、別の様式としては、本発明の複合材料はそのHA粒子が小さな粒径をもつため、抜歯窩を初めとする各種創傷部により密に充填できることも、迅速な止血効果に寄与しうるのかも知れない。
【0008】
[発明の好ましい実施の形態]
本発明で使用できる生体適合性ポリマーとしては、上述した推定しうる作用効果および生体での使用に際して悪影響を及ぼさないものであれば、医療用材料として現に利用されているか、また、利用されうるものとして提案されている天然、半合成または合成のポリマーを主体とするいかなるものであってもよい。「主体とする」とは、ポリマー分子の少なくとも90%は示しているポリマーからなるが、必要により、物理的・化学的架橋等を有していてもよい、ことを意味している。限定されるものでないが、かようなポリマーとしては、多糖類、ポリペプチド(またはタンパク質)、その他の生分解性ポリマー、その他のポリマー、例えばリグニン、ポリオルチニン、ポリロタキサン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのポリマーは、場合によって、部分的に架橋が施されることにより、あるいはポリマーそれら自体が、例えば、水性媒体中で相互に水素結合等によって架橋して、水膨潤性を示すものであることが好ましい。こうして、本発明で利用されうるポリマーは、水性媒体中でヒドロゲルを形成する。かような性質を有する多糖類としては、メトキシ、エトキシ−もしくはプロポキシ−またはヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース誘導体、α化デンプン、キトサン、キトサン−キチン共重合体、デキストラン、デキストラン硫酸、その他の天然の多糖類、例えば、アガロース(もしくは寒天)、ヒアルロン酸、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、マンナン、キチンを挙げることができる。これらの多糖類は、それ自体公知の方法で部分的に架橋が施されたものであってよい。架橋が施されたものの例示としては、アガロースを参照すれは、アガロースゲル顆粒(Pharmacia Biotech 社)およびバイオゲル(商標)A(Bio Rad Laboratories)等がある。
【0009】
また、ポリペプチド(またはタンパク質)としては、ポリ(アスパラテート)、ポリ(グルタメート)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリリジン等の合成ポリペプチド、ならびにコラーゲン、ゼラチン化コラーゲン、ゼラチン、カゼイン等を挙げることができる。これらのポリペプチドは、それらが有する官能基(例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等)を介して、それ自体公知の方法により部分的に化学的架橋を施したものであってもよい。
【0010】
以上のポリマーのうち、多糖類が好ましくは使用できる。したがって、本発明にいう生体適合性ポリマーとは、生体内易分解性であるかまたは施用または埋植した場合に、生体組織に悪影響を及ぼさない(刺激性や細胞傷害性をもたない)ポリマーである。そして、ポリマーマトリックスとは、水性媒体に溶解または分散させたとき、ポリマー相互間でそれらの、例えば、水素結合を介する物理的架橋または化学的架橋により形成されうる形態ないしは構造を意味する。
【0011】
本発明に従えば、かようなポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料が使用される。「ポリマーマトリックス中に」とは、上記のような水性媒体中での架橋によって形成されるゲル内にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムが存在するだけでなく、本発明の目的に沿う限り、それらが乾燥状態にあるときは、粉末もしくは顆粒または膜表面上にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムが存在していてもよい。
【0012】
本発明に関して、称する「ハイドロキシアパタイト」とは、それらが天然の骨、歯等の主要な構成層を形成するものに限定されることなく、所謂、生体模倣反応、その他の人工的方法によって形成された骨類似の無機材料を包含する概念で使用している。同様に「炭酸カルシウム」は、カルシウムイオン含有溶液と炭酸イオン含有溶液との反応によりポリマーマトリックスにおいて形成されたものであることができる。かようなハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムは平均粒径が約200μm以下、好ましくは約50μm以下の粒子として、例えばポリマーマトリックスの格子上に担持されていることができる。これらの粒子の平均粒径は、より好ましくは約20μm以下、特にサブミクロン、より具体的には、1000nm以下、500nm以下、数nm〜400nmにあるのが好ましい。これらのハイドロキシアパタイトは、乾燥状態の総複合材料重量当り、2〜98重量%であることが好ましい。本発明の複合材料は、施用または埋植等の使用の態様により、乾燥粉末、膜状物、または多種多様な形態に調整されたヒドロゲル状であることができる。
【0013】
限定されるものでないが、本発明で特に都合よく使用できる複合材料としては、上記WO 99/58447に記載されている、本発明者らの一部によって開発された方法により製造されうるものを挙げることができる。簡潔に述べると、粉末状またはヒドロゲル状のポリマーを、カルシウムイオンを含み、かつ実質的にリン酸イオンを含まない第1の水溶液と、場合により、リン酸イオンまたは炭酸イオンを含み、かつ実質的にカルシウムウオンを含まない第2の水溶液とに、浸漬させて、ポリマーマトリックスの少なくとも表面にまたはマトリックス内にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを生成させる交互浸漬工程を、目的に応じて数回から数十回、さらに必要により数百回、数千回行うことにより、所望の粒径のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウム粒子をポリマーマトリックス中に担持させればよい。
【0014】
本発明に使用する複合材料は、施用または埋植の目的(例えば、止血と同時に、骨再生や組織再成を促進したり、または止血作用を促進する)または部位に応じて、各種細胞の増殖因子(例えば、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子等)、血液凝固因子(例えば、トロンビン、第VIII因子等)、または抗菌剤(抗生物質等)を含むことができる。これらの物質は、上記浸漬工程に用いるいずれかの水溶液中に存在させておくか、ゲル形成時にゲルマトリックス中に封入しておくことによって、ポリマーマトリックス中またはハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウム粒子上に担持させることができる。
【0015】
こうして得られる本発明の複合材料は、哺乳動物、特にヒトにおける開放創、例えば、抜歯窩、歯周ポケット、閉鎖創、例えば、のう胞や骨欠損における出血部位へ、適量(通常、窩全体に充填されるように)施用または埋植することにより、止血できるか、あるいは止血もしくは血液凝固時間を大幅に短縮できる。さらに、本発明の複合材料は骨欠損部位に適用される場合には、上記止血防止効果とともに、または独立して骨を伝導することで失われた骨を再生または新生骨を形成し、組織の形態を保持ないしは再成することができる。本発明にいう骨欠損部位としては、例えば、歯科口腔外科の抜歯・嚢胞摘出後、歯周病、腫瘍摘出術後の骨欠損あるいは歯槽骨の骨増大術が挙げられ、脳外科手術の頭蓋骨、整形外科の術後の形成(四肢、脊椎、頚椎、大腿骨頭骨折術後)、耳鼻咽喉科の顔面腫瘍等の欠損の形成、豊頬術等が挙げられる。また、本発明の複合材料を、適当な支持体、例えば、包帯等に支持した状態で使用してもよい。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を、特定の例を挙げて、具体的に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものでない。
<複合材料の調製>
(a) アガロース(Bio Products 製)の0.45gを熱水(15ml)で溶解させた後、冷却しゲル化させシート状(厚さ、約1mm)のアガロースゲルを調製した。調製したシート状のアガロースゲルを直径10mmに打ち抜きディスク状に成形し交互浸漬法に用いた。
(b) CaCl2(2.22g)を超純水100mlに溶解し、HClを加えpH=7.4の濃度200mM CaCl2/HCl溶液を調製した。
(c) Na2HPO4(1.70g)を超純水100mlに溶解し、濃度120mM Na2HPO4溶液を調製した。
【0017】
(a)で得られたディスクを(b)のCaCl2/HCl溶液1mlに2時間浸漬した。次いで、該ディスクを超純水で洗浄した後、(c)のNa2HPO4溶液1mlに2時間浸漬した。この両浸漬工程を12回繰り返すことにより、アガロースのポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイト粒子(平均粒径約200nm)が担持された複合材料(アガロース−HA粒子)を得た。
<止血試験>
サル(カニクイザル)5〜6齢(各6匹に)にケタラール麻酔を施した後、右上顎の小臼歯を抜歯し、放置する(対照)か、抜歯直後に、ボーンジェクト(高研から入手)を抜歯窩が完全に埋まるのに十分量を専用シリンジと剥離子を用いて注入した(比較)。
【0018】
他方、同様にサルの左上顎の小臼歯を抜歯し、上記に従って調製したアガロース−HA粒子の破砕物の硬いペーストを1ml用注射器と剥離子を用いて抜歯窩に詰めた(本発明)。
【0019】
それぞれの処置後の観察結果は、対照では約5分後に抜歯窩の止血がみられ、他方、比較では、抜歯窩からボーンジェクトが血流とともに流出し、それらの流出が完全に終了した(約5分)後、約10分して自然に止血した。また、約30分後に後出血を認め、約20分経て自然に止血した。
【0020】
以上の処置に対し、本発明に従う処置では、アガロース−HA粒子の詰め込み操作(約2分間)終了とほぼ同時に抜歯窩の止血が観察された。
<骨欠損部への充填試験>
本試験は、ウサギで作成した骨欠損部が抜歯窩やのう胞あるいは腫瘍により生じた骨欠損の形態様に類似していることを考慮して行った。
【0021】
上記調製に従って得たアガロース−HA複合体粒子の破砕物の硬いペーストを注射器を用いて、常法により作成したウサギの骨欠損部へ埋入した。埋入3週間後の組織切片写真を図1に示す。図1a)に示すように埋入したHA−アガロース複合体の周囲では新生骨の形成が確認できた。また、図1b)に示すように複合体は骨欠損部に密に充填され、死腔はほとんど観察されなかった。また、術部に充填した複合体の上部は薄い新生骨で覆われており、術部の陥没は観察されず充填した複合体の排出が起こっていないと考えられる。なお、対照として、ボーンジェクト(高研から入手)を用いた場合には、術部に明確な陥没が観察された。さらに、処置後3ケ月目における処置部位の肉眼観察の結果を示す図に代わる写真を図2に、そして病理組織観察の結果を示す処置組織の拡大図に代わる写真を図3に示す。これらの写真から、本発明に従う複合材料は止血効果のみならず、骨欠損部位、例えば、歯周組織の歯槽骨の骨再生または新生骨の形成をも惹起しうる。さらに、これらの作用効果は比較ボーンジェクト処置に比べて、有意に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【図1】ウサギの骨欠損部にアガロース−HA複合材料を埋入した後の組織の拡大図に代わる顕微鏡拡大写真である。なお、写真中、HApと記載しているのはハイドロキシアパタイトの略号である。
【図2】図1に関する処置後、3ケ月目における処置部位の肉眼観察の結果を示す図に代わる写真である。写真中、control(コントロール)とあるのは未処置部位を表す。(a)はコントロールと本発明の複合材料による処理後の部位であり、そして(b)はコントロールとボーンジェクト処置後の部位に相当する。
【図3】図2に相当する処置部位の病理組織観察の結果を示す処置組織の拡大図に代わる顕微鏡写真である。左側の写真が本発明の組成物で処置した組織であり、右側の写真が公知のボーンジェクトで処置した組織である。(a)は本発明の複合体による処置した組織の写真であり、矢印の指し示す箇所に新生骨が認められる。(b)はボーンジェクトで処置した組織の写真であり、未だ、遊離したボーンジェクトの顆粒が認められる。
【発明の属する技術分野】
本発明は止血用組成物に関し、より具体的には、創傷部に施用または埋植することにより創傷部からの出血を防止ないしは軽減できる組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯槽膿漏の症状は一般に歯石や歯垢が原因となり歯肉の炎症を引き起こし、炎症が進行すると歯肉と歯の間に隙間(歯周ポケット)ができ、次いで歯根膜や歯槽骨が破壊、吸収され最終的に歯が抜け落ちる。治療法としては歯槽膿漏の原因とされている歯石の除去や、炎症を起こしている歯肉の除去などの外科的治療が行われている。現在歯槽膿漏になった場合、破壊された歯根膜や歯槽骨の再生は原則的には不可能だといわれている。
【0003】
しかし、コラーゲン・天然アパタイト複合材[Bone Ject(商標)]を使用してスペースメイキングを行った場合には、歯周組織にある程度の新生骨の形成が認められるとの報告もある。そして、「コラーゲンは生体材料としてさまざまな応用がなされており、・・・人工骨移植材とコラーゲンゲルの混合移植を行った結果、人工骨移植材の単独使用に比べ骨再生において有効である報告もある」として、コラーゲンと人工骨移植材との混合使用のさらなる作用についての示唆もされている(日歯周誌34(1):220〜231、1992;同41(2):125〜143、1999)。
【0004】
他方、本発明者の一部は、生体親和性に優れ、骨に近似した結晶構造を有するハイドロキシアパタイトを担持するハイドロゲル複合体(ヒドロゲル−ハイドロキシアパタイト複合材)は広く、医療用材料、人工骨、並びに骨以外の柔軟性等が要求される各種生体組織等に有用であることを見出して特許出願した[例えば、国際公開第99/58447号(WO 99/58447)参照]。そして、これらの一部、例えば、ハイドロキシアパタイト(以下、HAと略記する場合あり)−コラーゲンゲル、HA−アガロースゲルおよびHA−ポリアクリルアミドゲルは細胞接着活性を示し、そして埋植試験において、例えば、組織に対する刺激性はポリマー自体のゲルと同程に穏和であることも報告されている(Taguchi et al.,Bioceramics Vol.9(1999)375−378;岸田ら、高分子論文集、Vol.57,(2000)No.4、pp.159−166)。
【0005】
[発明の要約]
本発明者らは、上述のような広範な医療用途が考えられるHA−ヒドロゲル複合材料を、例えば、ボーンジェクト[Bone Ject(商標)]に代えて歯周組織の再生に利用することを検討してきたところ、HA粒子がある一定の粒度を有する場合には、歯周組織の再生(例えば、新生骨の形成を随伴する)に利用できることのみならず、抜歯窩のような歯周部の創傷における出血を有効に防止しうることも見出した。その上、かような出血防止作用は、例えば、抜歯窩のごとき開放創における出血だけでなく、のう胞や腫瘍による骨欠損などの閉鎖創における出血においても認められ、多種多様な創傷の止血に適用できることを見出した。また、同様な止血効果が、炭酸カルシウム−ヒドロゲル複合材料にも認められた。
【0006】
したがって、本発明によれば、ポリマーマトリックス、好ましくは生体適合性ポリマーマトリックスである生分解性ポリマーマトリックス中に平均粒子径約200μm以下、好ましくは約50μm以下、より好ましくは約20μm以下、特にはサブミクロンのハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする止血用組成物が提供される。
【0007】
本発明の止血用組成物による有効な止血効果は、例えば、サル(カニクイザル)における抜歯直後の出血中にボーンジェクトを抜歯窩に充填した場合には、血液に乗ってボーンジェクトは流れ出てしまうが、本発明の組成物を用いると、充填操作終了時(操作開始から約2分後)には止血が認められることによって確認できる。また、このサルを用いる試験例では、抜歯窩の囲辺組織では、2〜3ケ月後に新生骨の形成も認められる。このことにより、ボーンジェクトと比較してはるかに操作性に優れている。理論によって、本発明の範囲または態様を拘束するものでないが、ボーンジェクトは、通常、300〜600μmまたは600〜1000μmの大きさの牛骨由来のHA粒子とアテロコラーゲンからなる複合材料であるのに対し、本発明の複合材料では、それらより遥かに小さい粒径のHAを生体適合性ポリマーマトリックス中に担持しており、かような小さな粒径のHAが血液凝固の核または足場となり得ることにより、迅速な止血が達成できるものと推測される。また、別の様式としては、本発明の複合材料はそのHA粒子が小さな粒径をもつため、抜歯窩を初めとする各種創傷部により密に充填できることも、迅速な止血効果に寄与しうるのかも知れない。
【0008】
[発明の好ましい実施の形態]
本発明で使用できる生体適合性ポリマーとしては、上述した推定しうる作用効果および生体での使用に際して悪影響を及ぼさないものであれば、医療用材料として現に利用されているか、また、利用されうるものとして提案されている天然、半合成または合成のポリマーを主体とするいかなるものであってもよい。「主体とする」とは、ポリマー分子の少なくとも90%は示しているポリマーからなるが、必要により、物理的・化学的架橋等を有していてもよい、ことを意味している。限定されるものでないが、かようなポリマーとしては、多糖類、ポリペプチド(またはタンパク質)、その他の生分解性ポリマー、その他のポリマー、例えばリグニン、ポリオルチニン、ポリロタキサン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレート等を挙げることができる。これらのポリマーは、場合によって、部分的に架橋が施されることにより、あるいはポリマーそれら自体が、例えば、水性媒体中で相互に水素結合等によって架橋して、水膨潤性を示すものであることが好ましい。こうして、本発明で利用されうるポリマーは、水性媒体中でヒドロゲルを形成する。かような性質を有する多糖類としては、メトキシ、エトキシ−もしくはプロポキシ−またはヒドロキシエチルセルロースのようなセルロース誘導体、α化デンプン、キトサン、キトサン−キチン共重合体、デキストラン、デキストラン硫酸、その他の天然の多糖類、例えば、アガロース(もしくは寒天)、ヒアルロン酸、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、マンナン、キチンを挙げることができる。これらの多糖類は、それ自体公知の方法で部分的に架橋が施されたものであってよい。架橋が施されたものの例示としては、アガロースを参照すれは、アガロースゲル顆粒(Pharmacia Biotech 社)およびバイオゲル(商標)A(Bio Rad Laboratories)等がある。
【0009】
また、ポリペプチド(またはタンパク質)としては、ポリ(アスパラテート)、ポリ(グルタメート)、ポリ(γ−グルタミン酸)、ポリリジン等の合成ポリペプチド、ならびにコラーゲン、ゼラチン化コラーゲン、ゼラチン、カゼイン等を挙げることができる。これらのポリペプチドは、それらが有する官能基(例えば、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等)を介して、それ自体公知の方法により部分的に化学的架橋を施したものであってもよい。
【0010】
以上のポリマーのうち、多糖類が好ましくは使用できる。したがって、本発明にいう生体適合性ポリマーとは、生体内易分解性であるかまたは施用または埋植した場合に、生体組織に悪影響を及ぼさない(刺激性や細胞傷害性をもたない)ポリマーである。そして、ポリマーマトリックスとは、水性媒体に溶解または分散させたとき、ポリマー相互間でそれらの、例えば、水素結合を介する物理的架橋または化学的架橋により形成されうる形態ないしは構造を意味する。
【0011】
本発明に従えば、かようなポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料が使用される。「ポリマーマトリックス中に」とは、上記のような水性媒体中での架橋によって形成されるゲル内にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムが存在するだけでなく、本発明の目的に沿う限り、それらが乾燥状態にあるときは、粉末もしくは顆粒または膜表面上にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムが存在していてもよい。
【0012】
本発明に関して、称する「ハイドロキシアパタイト」とは、それらが天然の骨、歯等の主要な構成層を形成するものに限定されることなく、所謂、生体模倣反応、その他の人工的方法によって形成された骨類似の無機材料を包含する概念で使用している。同様に「炭酸カルシウム」は、カルシウムイオン含有溶液と炭酸イオン含有溶液との反応によりポリマーマトリックスにおいて形成されたものであることができる。かようなハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムは平均粒径が約200μm以下、好ましくは約50μm以下の粒子として、例えばポリマーマトリックスの格子上に担持されていることができる。これらの粒子の平均粒径は、より好ましくは約20μm以下、特にサブミクロン、より具体的には、1000nm以下、500nm以下、数nm〜400nmにあるのが好ましい。これらのハイドロキシアパタイトは、乾燥状態の総複合材料重量当り、2〜98重量%であることが好ましい。本発明の複合材料は、施用または埋植等の使用の態様により、乾燥粉末、膜状物、または多種多様な形態に調整されたヒドロゲル状であることができる。
【0013】
限定されるものでないが、本発明で特に都合よく使用できる複合材料としては、上記WO 99/58447に記載されている、本発明者らの一部によって開発された方法により製造されうるものを挙げることができる。簡潔に述べると、粉末状またはヒドロゲル状のポリマーを、カルシウムイオンを含み、かつ実質的にリン酸イオンを含まない第1の水溶液と、場合により、リン酸イオンまたは炭酸イオンを含み、かつ実質的にカルシウムウオンを含まない第2の水溶液とに、浸漬させて、ポリマーマトリックスの少なくとも表面にまたはマトリックス内にハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを生成させる交互浸漬工程を、目的に応じて数回から数十回、さらに必要により数百回、数千回行うことにより、所望の粒径のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウム粒子をポリマーマトリックス中に担持させればよい。
【0014】
本発明に使用する複合材料は、施用または埋植の目的(例えば、止血と同時に、骨再生や組織再成を促進したり、または止血作用を促進する)または部位に応じて、各種細胞の増殖因子(例えば、上皮増殖因子、線維芽細胞増殖因子等)、血液凝固因子(例えば、トロンビン、第VIII因子等)、または抗菌剤(抗生物質等)を含むことができる。これらの物質は、上記浸漬工程に用いるいずれかの水溶液中に存在させておくか、ゲル形成時にゲルマトリックス中に封入しておくことによって、ポリマーマトリックス中またはハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウム粒子上に担持させることができる。
【0015】
こうして得られる本発明の複合材料は、哺乳動物、特にヒトにおける開放創、例えば、抜歯窩、歯周ポケット、閉鎖創、例えば、のう胞や骨欠損における出血部位へ、適量(通常、窩全体に充填されるように)施用または埋植することにより、止血できるか、あるいは止血もしくは血液凝固時間を大幅に短縮できる。さらに、本発明の複合材料は骨欠損部位に適用される場合には、上記止血防止効果とともに、または独立して骨を伝導することで失われた骨を再生または新生骨を形成し、組織の形態を保持ないしは再成することができる。本発明にいう骨欠損部位としては、例えば、歯科口腔外科の抜歯・嚢胞摘出後、歯周病、腫瘍摘出術後の骨欠損あるいは歯槽骨の骨増大術が挙げられ、脳外科手術の頭蓋骨、整形外科の術後の形成(四肢、脊椎、頚椎、大腿骨頭骨折術後)、耳鼻咽喉科の顔面腫瘍等の欠損の形成、豊頬術等が挙げられる。また、本発明の複合材料を、適当な支持体、例えば、包帯等に支持した状態で使用してもよい。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を、特定の例を挙げて、具体的に説明するが、これらの例に本発明を限定することを意図するものでない。
<複合材料の調製>
(a) アガロース(Bio Products 製)の0.45gを熱水(15ml)で溶解させた後、冷却しゲル化させシート状(厚さ、約1mm)のアガロースゲルを調製した。調製したシート状のアガロースゲルを直径10mmに打ち抜きディスク状に成形し交互浸漬法に用いた。
(b) CaCl2(2.22g)を超純水100mlに溶解し、HClを加えpH=7.4の濃度200mM CaCl2/HCl溶液を調製した。
(c) Na2HPO4(1.70g)を超純水100mlに溶解し、濃度120mM Na2HPO4溶液を調製した。
【0017】
(a)で得られたディスクを(b)のCaCl2/HCl溶液1mlに2時間浸漬した。次いで、該ディスクを超純水で洗浄した後、(c)のNa2HPO4溶液1mlに2時間浸漬した。この両浸漬工程を12回繰り返すことにより、アガロースのポリマーマトリックス中にハイドロキシアパタイト粒子(平均粒径約200nm)が担持された複合材料(アガロース−HA粒子)を得た。
<止血試験>
サル(カニクイザル)5〜6齢(各6匹に)にケタラール麻酔を施した後、右上顎の小臼歯を抜歯し、放置する(対照)か、抜歯直後に、ボーンジェクト(高研から入手)を抜歯窩が完全に埋まるのに十分量を専用シリンジと剥離子を用いて注入した(比較)。
【0018】
他方、同様にサルの左上顎の小臼歯を抜歯し、上記に従って調製したアガロース−HA粒子の破砕物の硬いペーストを1ml用注射器と剥離子を用いて抜歯窩に詰めた(本発明)。
【0019】
それぞれの処置後の観察結果は、対照では約5分後に抜歯窩の止血がみられ、他方、比較では、抜歯窩からボーンジェクトが血流とともに流出し、それらの流出が完全に終了した(約5分)後、約10分して自然に止血した。また、約30分後に後出血を認め、約20分経て自然に止血した。
【0020】
以上の処置に対し、本発明に従う処置では、アガロース−HA粒子の詰め込み操作(約2分間)終了とほぼ同時に抜歯窩の止血が観察された。
<骨欠損部への充填試験>
本試験は、ウサギで作成した骨欠損部が抜歯窩やのう胞あるいは腫瘍により生じた骨欠損の形態様に類似していることを考慮して行った。
【0021】
上記調製に従って得たアガロース−HA複合体粒子の破砕物の硬いペーストを注射器を用いて、常法により作成したウサギの骨欠損部へ埋入した。埋入3週間後の組織切片写真を図1に示す。図1a)に示すように埋入したHA−アガロース複合体の周囲では新生骨の形成が確認できた。また、図1b)に示すように複合体は骨欠損部に密に充填され、死腔はほとんど観察されなかった。また、術部に充填した複合体の上部は薄い新生骨で覆われており、術部の陥没は観察されず充填した複合体の排出が起こっていないと考えられる。なお、対照として、ボーンジェクト(高研から入手)を用いた場合には、術部に明確な陥没が観察された。さらに、処置後3ケ月目における処置部位の肉眼観察の結果を示す図に代わる写真を図2に、そして病理組織観察の結果を示す処置組織の拡大図に代わる写真を図3に示す。これらの写真から、本発明に従う複合材料は止血効果のみならず、骨欠損部位、例えば、歯周組織の歯槽骨の骨再生または新生骨の形成をも惹起しうる。さらに、これらの作用効果は比較ボーンジェクト処置に比べて、有意に優れていた。
【図面の簡単な説明】
【図1】ウサギの骨欠損部にアガロース−HA複合材料を埋入した後の組織の拡大図に代わる顕微鏡拡大写真である。なお、写真中、HApと記載しているのはハイドロキシアパタイトの略号である。
【図2】図1に関する処置後、3ケ月目における処置部位の肉眼観察の結果を示す図に代わる写真である。写真中、control(コントロール)とあるのは未処置部位を表す。(a)はコントロールと本発明の複合材料による処理後の部位であり、そして(b)はコントロールとボーンジェクト処置後の部位に相当する。
【図3】図2に相当する処置部位の病理組織観察の結果を示す処置組織の拡大図に代わる顕微鏡写真である。左側の写真が本発明の組成物で処置した組織であり、右側の写真が公知のボーンジェクトで処置した組織である。(a)は本発明の複合体による処置した組織の写真であり、矢印の指し示す箇所に新生骨が認められる。(b)はボーンジェクトで処置した組織の写真であり、未だ、遊離したボーンジェクトの顆粒が認められる。
Claims (14)
- ポリマーマトリックス中に平均粒子径200μm以下のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする止血用組成物。
- ハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムの平均径が50μm以下である請求項1記載の止血用組成物。
- ハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムの平均粒子径が5〜1000nmである請求項1記載の止血用組成物。
- 止血が歯周部の創傷において行われる請求項1〜3のいずれかに記載の止血用組成物。
- ポリマーマトリックスがヒドロゲル形成性ポリマーに由来する請求項1〜4のいずれかに記載の止血用組成物。
- ヒドロゲル形成性ポリマーが、部分的に物理的・化学的な架橋がされていてもよい、1)アガロース、アルギン酸、プルラン、ペクチン、デンプン、α化デンプン、ヒアルロン酸、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、マンナン、キトサン、キチン、キトサン−キチン共重合体、デキストランおよびデキストラン硫酸からなる群より選ばれる多糖類、または2)ポリアスパラテート、コラーゲン、ゼラチン、ポリγ−グルタミン酸、ポリリジンおよびカゼインからなる群より選ばれるポリペプチド、または3)ポリ乳酸、ポリグリコール酸およびポリ乳酸−グリコール酸共重合体からなる群より選ばれるその他の生分解性ポリマー、または4)リグニン、ポリオルニチン、ポリロタキサン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドンおよびポリ(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリレートからなる群より選ばれる生体適合性ポリマーである請求項4記載の止血用組成物。
- 多糖類がアガロースである請求項6記載の止血用組成物。
- 複合材料が乾燥粉末または膜状物もしくは膜状物の破砕物である請求項1〜7のいずれかに記載の止血用組成物。
- さらに、新生骨の形成のための用途も併せもつ請求項1〜8のいずれかに記載の止血用組成物。
- ポリマーマトリックス中に平均粒子径200μm以下のハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを担持した複合材料を有効成分とする骨欠損部位における新生骨の形成のための組成物。
- ハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムの平均粒子径が50μm以下である請求項10記載の新生骨の形成のための組成物。
- ハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムの平均粒子径が5〜1000nmである請求項10記載の新生骨の形成のための組成物。
- ポリマーマトリックスがヒドロゲル形成性ポリマーに由来する請求項10〜12のいずれかに記載の新生骨の形成のための組成物。
- ヒドロゲル形成性ポリマーがアガロースである請求項13記載の新生骨の形成のための組成物。
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