JP2004076797A - チェーン張力付与装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】エンジン始動時におけるチェーンのバタツキ異音、及びチェーンの張り過ぎ時に発生するヒュー音を防止でき、組み立て構造が簡便で耐久性に優れたチェーン張力付与装置を提供すること。
【解決手段】プランジャ120を付勢する突出付勢用バネ130と、前記プランジャ摺動孔111の先端開口側拡径凹部111a内で変移するカム受けリング140と、該カム受けリング140をプランジャ120の突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネ150と、前記カム受けリング140のスロープ状カムガイド溝141内を滑動するとともに前記プランジャ120外周のラック121、121に噛合する一対の楔状カムチップ160、160と、この楔状カムチップ160の噛み外れを誘導規制するカム誘導用リング170と、前記先端開口側拡径凹部111a内を封入する封止プレート180とを備えたチェーン張力付与装置100。
【選択図】  図4

Description

【特許請求の範囲】
【請求項1】走行するチェーンに向けて進退自在に突出するプランジャと、該プランジャを進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔が形成されたハウジング本体と、該ハウジング本体に対してプランジャを突出方向に付勢する突出付勢用バネと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌してプランジャの軸方向に変位するカム受けリングと、該カム受けリングをプランジャの突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネと、前記カム受けリングに形成されたスロープ状カムガイド溝内を滑動するとともに前記プランジャの外周に刻設された複数のラックにそれぞれ噛合する複数の楔状カムチップと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌して複数の楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するカム誘導用リングと、前記プランジャを進退自在に嵌挿するとともに前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内に順次配置したカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングを移動自在に封入する封止プレートとを備え、
前記カム誘導用リングが、先端開口側拡径凹部内で封止プレートの裏面に当接する際に楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するようにしたことを特徴とするチェーン張力付与装置。
【請求項2】前記プランジャの最小バックラッシュ量をXとし、最大バックラッシュ量をYとし、前記カム受けリングの最大変位幅をSとし、前記ラックのピッチをPとしたとき、前記プランジャとハウジング本体とカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングとの配置形態が
X=S
Y=P+S
を満足するように構成されている
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、車両用エンジンの内部で掛け回される伝動チェーンに適正な張力を付与するために用いられるチェーン張力付与装置に関し、特に、クランクシャフト側スプロケットとカムシャフト側スプロケットとの間で回転を伝達するタイミングチェーンに用いられるチェーンテンショナと称するものである。
【0002】
【従来の技術】
図10に示すような本出願人が開発した従来のチェーン張力付与装置500は、走行するチェーンに向けて進退自在に突出するプランジャ520と、プランジャ520を進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔511が形成されたハウジング本体510と、ハウジング本体510に対してプランジャ520を突出方向に付勢する突出付勢用バネ530と、プランジャ摺動孔511の開口先端側に形成したカムガイド溝512内に遊挿されて前記プランジャ520の外周を二分割する対向位置にそれぞれ刻設したラック521に噛合する楔状カムチップ540と、プランジャ520に遊嵌して楔状カムチップ540をプランジャ摺動孔511に押し込むように付勢するカム付勢用バネ550と、プランジャ摺動孔511の開口先端側に当接配置してカム付勢用バネ550を支持する封止プレート560とを備えている。
【0003】
そこで、このチェーン張力付与装置500は、エンジン運転時にチェーンが伸びてくると、プランジャ520が一歯分ずつ順次前進することによって、適切なバックストップ量(バックラッシュ量)を規制し、チェーンに発生しがちな騒音を抑制するとともに適正なチェーン張力を維持しようとしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のチェーン張力付与装置500は、前述したようなバックストップ機能を確実かつ適切に発揮するためのバックラッシュ量について特に配慮されておらず、エンジン始動時などにおけるチェーンのバタツキによるバタツキ音、および、プランジャの過飛び出しによって発生するチェーンの張り過ぎ時のヒュー音が発生するという問題があった。 そして、このような問題は、バックラッシュ量の設定が個々のエンジンに合っていないことから起きる場合が多く、一般的に、バックラッシュ量が大きいと、エンジン始動時にチェーンのバタツキによるバタツキ音が発生しやすく、バックラッシュ量が小さいと、プランジャ520が過剰に飛び出してチェーンの張り過ぎによるヒュー音が発生しやすい傾向にある。
また、前記バックラッシュ量は、楔状カムチップ540がプランジャ520に刻設されたラック521の一歯を乗り越える前後で変わり、楔状カムチップ540がラック521の一歯を乗り越える直前のバックラッシュ量を最大バックラッシュ量とし、楔状カムチップ540がラック521の一歯を乗り越えた直後のバックラッシュ量を最小バックラッシュ量とすると、最大バックラッシュ量と最小バックラッシュ量とのバランスも上述したような異音に大きな影響を及ぼすことになる。
【0005】
そこで、これらの問題を解決するために、プランジャ520のラック歯丈を設計変更して、バックラッシュ量を調整することも工夫されたが、楔状カムチップ540やラック521の磨耗、歯の強度不足による歯欠けなどを生じてしまうという問題があった。
しかも、プランジャ520のラックや楔状カムチップ540を設計する際の歯強度などの著しい制約によって、調整可能なバックラッシュ量は極めて狭い範囲のものとなり様々なエンジンに対応することができず、結局、前述したように、チェーンのバタツキ異音、及びプランジャ520の過剰な飛出しによるヒュー音が発生するという問題があった。
【0006】
さらに、従来のチェーン張力付与装置500は、楔状カムチップ540をプランジャ摺動孔511に押し込むように付勢して楔状カムチップ540のプランジャ突出方向への飛び出しを規制するため、カム付勢用バネ550を楔状カムチップ540よりも先端側に配置しなければならず、テンショナ本体のコンパクト化が望めず、エンジンレイアウト上の狭いスペースにテンショナが対応できないという問題があった。
【0007】
また、チェーン張力が調整される際に、カム付勢用バネ550が螺旋状形態で弾性変形するため、このカム付勢用バネ550のカム側端面において相対する位置で当接しているそれぞれの楔状カムチップ540、540はプランジャ520のラック521を同時に一歯分乗り越えることができず、片側の楔状カムチップ540のみでチェーン張力による付加を受けるという状態が発生し、このような状態が楔状カムチップ540の耐久性に悪影響を及ぼすという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点を解消するものであって、エンジン始動時におけるチェーンのバタツキ異音、及び、プランジャ過飛び出し時におけるチェーンの張り過ぎによるヒュー音を防止して適正なチェーン張力を維持することができ、様々なエンジンから要求されるバックラッシュ量を自由に、かつ広範囲に設定でき、しかも、組み立て構造が簡便で耐久性に優れたチェーン張力付与装置を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本請求項1に係るチェーン張力付与装置は、走行するチェーンに向けて進退自在に突出するプランジャと、該プランジャを進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔が形成されたハウジング本体と、該ハウジング本体に対してプランジャを突出方向に付勢する突出付勢用バネと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌してプランジャの軸方向に変位するカム受けリングと、該カム受けリングをプランジャの突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネと、前記カム受けリングに形成されたスロープ状カムガイド溝内を滑動するとともに前記プランジャの外周に刻設された複数のラックにそれぞれ噛合する複数の楔状カムチップと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌して楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するカム誘導用リングと、前記プランジャを進退自在に嵌挿するとともに前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内に順次配置したカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングを移動自在に封入する封止プレートとを備え、前記カム誘導用リングが先端開口側拡径凹部内で封止プレートの裏面に当接する際に楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するようにしたことによって、前述したような課題を解決するものである。
【0010】
また、本請求項2に係るチェーン張力付与装置は、請求項1に記載された構成に加えて、前記プランジャの最小バックラッシュ量をXとし、最大バックラッシュ量をYとし、前記カム受けリングの最大変位幅をSとし、前記ラックのピッチをPとしたとき、前記プランジャとハウジング本体とカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングとの配置形態が
X=S
Y=P+S
を満足するように構成されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0011】
ここで、本発明で云うところの「最大バックラッシュ量Y」とは、楔状カムチップが一歯乗り越える直前位置からバックストップ状態までのプランジャの戻り量を意味しており、「最小バックラッシュ量X」とは、楔状カムチップが一歯乗り越えた瞬間からバックストップ状態までのプランジャの戻り量を意味する。
【0012】
また、本発明のチェーン張力付与装置におけるスロープ状カムガイド溝の形状については、プランジャの進退動作に応じてスロープ状カムガイド溝内を迫り上がったり潜り込んだりして円滑に滑動することができる形状であれば、如何なる形状であっても差し支えないが、プランジャの突出方向に対するスロープ状カムガイド溝の傾斜角度をθとしたとき、スロープ状カムガイド溝の形状を
15゜<θ<70゜
となるように設定するとより好ましい。すなわち、スロープ状カムガイド溝の傾斜角度θが15゜より小さいとカムチップの歯先とラックの歯先とが当接し易くなり、歯欠けや過剰なロックが発生し易くなり、スロープ状カムガイド溝の傾斜角度θが70゜より大きいと、カムチップの動きが鈍くなり、プランジャに対するクサビ作用を充分に発揮できなくなる。
【0013】
なお、本発明のチェーン張力付与装置は、内装式と称するエンジン内部に密閉装着されるチェーン張力付与装置、外装式と称するエンジン外部から挿入装着されるチェーン張力付与装置の何れであっても良い。
【0014】
また、本発明のチェーン張力付与装置における突出付勢用バネについては、ハウジング本体に対してプランジャを突出方向に付勢することが可能であれば、プランジャの先端部と封止プレートとの間、若しくは、プランジャの後端部とプランジャ摺動孔の底部との間のいずれに介在させても良い。
【0015】
また、本発明のチェーン張力付与装置は、エンジンのクランクシャフト側スプロケットとカムシャフト側スプロケットとの間に掛け回されるタイミングチェーンを対象にして説明しているが、このようなタイミングシステムに限らず、バランサーシステムやオイルポンプシステムなどに掛け回されるチェーンにも適用可能であり、さらに、ベルトに対しても同様に適用可能であることは言うまでもない。
【0016】
【作用】
本発明のチェーン張力付与装置によれば、エンジン運転時にチェーンが伸びてくると、プランジャが一歯分ずつ順次前進することによって、適切なバックストップ量(バックラッシュ量)を規制し、始動時の異音を防止するとともにチェーンの張り過ぎ時に発生するヒュー音を防止して、適正なチェーン張力を維持する。
【0017】
さらに、詳しく説明すると、走行するチェーンに向けて突出するプランジャと、このプランジャを進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔が形成されたハウジング本体と、このハウジング本体に対してプランジャを突出方向に付勢する突出付勢用バネとを備えていることによって、走行するチェーンが弛緩してくると、突出付勢用バネによって突出方向に付勢されているプランジャが直ちに突進する。
【0018】
バックストップ状態から、プランジャが突進していくと、先端開口側拡径凹部内のカム受けリングも、カム受けリング付勢用バネの付勢力によってプランジャの突出方向に変位し、このカム受けリングの変位に伴って複数の楔状カムチップとカム誘導用リングも先端開口側拡径凹部内を封止プレートの裏面に向けてプランジャの突出方向に変動する。
【0019】
つぎに、前記カム誘導用リングが先端開口側拡径凹部内で封止プレートの裏面に当接して行き止まると、楔状カムチップはカム受けリングのスロープ状カムガイド溝内を滑動してカム受けリングをプランジャの突出方向と逆方向へ押し戻しながら、プランジャのラックとの噛合が外れるまでリング外周側に向けて迫り上がる。
【0020】
そして、楔状カムチップとプランジャのラックとの噛合が外れた瞬間、カム誘導用リングが先端開口側拡径凹部内で封止プレートの裏面に当接して行き止まっているため、楔状カムチップは、一変してカム受けリングのスロープ状カムガイド溝内を滑動してプランジャのラックと一歯分だけズレた位置で噛合するまでプランジャの軸芯側に向けて潜り込み、その反動によって相対的にカム受けリングがプランジャの突出方向へ再び変位する。
【0021】
このような状態において、本発明のチェーン張力付与装置にチェーン側からプランジャを押し戻すような外力が加わると、プランジャのラックを一歯分だけ乗り越えた複数の楔状カムチップは、プランジャのラックを一歯分だけ乗り越える前と同様に、プランジャに対してクサビ作用を発揮することができるため、プランジャの後退変位を阻止するバックストップ機能を発揮する。
【0022】
そして、プランジャの後退変位を阻止するバックストップ機能が作動するとき、プランジャの外周を少なくとも二分割する対向位置にそれぞれ刻設した複数のラックに噛合する楔状カムチップを備えていることによって、前述したプランジャを介して押し戻される力がプランジャの外周を少なくとも二分割する対向位置にそれぞれ配置された楔状カムチップに均等に付加されて分散される。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のチェーン張力付与装置の好ましい実施の形態にある実施例を図面に基づいて説明する。ここで、図1は、本発明の第1実施例であるチェーン張力付与装置の設置図であり、図2は、図1に示すチェーン張力付与装置を一部破断した概要図であり、図3は、図1に示すチェーン張力付与装置の分解組み立て図であり、図4は、図2に示すチェーン張力付与装置の要部を拡大した断面図であり、図5乃至図9は、図1に示すチェーン張力付与装置の作動状態を示す図であって、図5は、プランジャのバックストップ機能が作動した状態を示す図であり、図6は、楔状カムチップがプランジャのラックから噛み外れを開始するまでのプランジャによる張力付加機能の作動状態を示す図であり、図7は、楔状カムチップがプランジャのラックを一歯乗り越える直前の状態を示す図であり、図8は、プランジャがラックの一歯分だけ前進した直後のプランジャによる張力付加機能の作動状態を示す図であり、図9は、プランジャがラックの一歯分だけ前進してバックストップ機能が作動した状態を示す図である。
【0024】
本実施例のチェーン張力付与装置100は、図1に示すような自動車用エンジンのクランクシャフト側スプロケットS1とカムシャフト側スプロケットS2との間に掛け回されたタイミングチェーンTCの走行時に生じる振動を抑止し、かつ、適正な張力を維持するために、エンジン外部から挿入装着する外装式チェーン張力付与装置として用いたものであって、エンジンブロック壁Eに装着されるハウジング本体110の前方を走行するタイミングチェーンTCに向けて突出してバネ付勢される円柱状のプランジャ120がエンジンブロック壁Eに揺動自在に軸支されているテンショナレバーTLの揺動端近傍の背面を押圧することにより、テンショナレバーTLのシュー面がタイミングチェーンTCの弛み側に摺動接触して張力を付加するようになっている。
なお、図1における符号TGは、エンジンブロック壁Eに固定されてタイミングチェーンTCをバタツカないように走行案内するテンショナガイドである。
【0025】
そこで、本実施例のチェーン張力付与装置100は、図2乃至図4に示すように、プランジャ120を進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔111が形成されたハウジング本体110と、このハウジング本体110に対してプランジャ120を突出方向に付勢する突出付勢用バネ130と、前記プランジャ摺動孔111の先端開口側拡径凹部111a内でプランジャ120に外嵌してプランジャ120の軸方向に変位するカム受けリング140と、該カム受けリング140をプランジャ120の突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネ150と、前記カム受けリング140に形成されたスロープ状カムガイド溝141内を滑動するとともに前記プランジャ120の外周を二分割する対向位置にそれぞれ刻設された二筋のラック121、121にそれぞれ噛合する一対の楔状カムチップ160、160と、前記プランジャ摺動孔111の先端開口側拡径凹部111a内でプランジャ120に外嵌して複数の楔状カムチップ160、160の噛み外れを誘導規制する樹脂製のカム誘導用リング170と、前記プランジャ120を進退自在に嵌挿するとともに前記プランジャ摺動孔111の先端開口側拡径凹部111a内に順次配置したカム受けリング付勢用バネ150とカム受けリング140と楔状カムチップ160、160とカム誘導用リング170を移動自在に封入する封止プレート180とを備え、前記カム誘導用リング170が、先端開口側拡径凹部111a内で封止プレート180の裏面に当接する際に楔状カムチップ160の噛み外れを誘導規制するようにしている。
なお、本実施例のカム誘導用リング170は樹脂製のものを採用したが、金属製のものであっても差し支えない。
【0026】
前記突出付勢用バネ130の設置形態については、プランジャ120の後端部とプランジャ摺動孔111の底部との間に介在させた設置形態を採用しているが、ハウジング本体110に対してプランジャ120を突出方向に付勢することが可能であれば、プランジャ120の先端部と封止プレート180との間に介在させても良い。また、前記突出付勢用バネ130は、走行するチェーン張力に応じてハウジング本体110に対してプランジャ120を突出方向に付勢するためのバネであるから、単に、カム受けリング140をプランジャ120の突出方向に付勢するためのカム受けリング付勢用バネ150よりも、大きな付勢力を充分に発揮することができることは言うまでもない。
【0027】
なお、本実施例のチェーン張力付与装置100では、図4に示すように、カム受けリング140に形成されたスロープ状カムガイド溝141の傾斜角度θを、楔状カムチップ160がプランジャ120の進退動作に応じてスロープ状カムガイド溝141内を迫り上がったり潜り込んだりして円滑に滑動することができるようにするため45゜に設定しているが、個々のエンジンに要求されるバックラッシュ量に応じる場合には15゜<θ<70゜の範囲内で自由に設定しても構わない。
【0028】
前記ハウジング本体110の後端部には、図示しない外部油供給源から油圧をプランジャ120の後端部に作用させてプランジャ120の突出付勢力をきめ細かに調整するための油圧バルブ機構190が設けられ、この油圧バルブ機構190は、後述するリテーナ193に圧入されたボールシート191と、このボールシート191に対して当接自在となるチェックボール192と、このチェックボール192を保持するリテーナ193などから構成されており、プランジャ摺動孔111とプランジャ120の後端部との間に形成される高圧油室195への油の流入を許容し逆に高圧油室195からの油の逆流を阻止して、プランジャ120を介したチェーン張力の付与と維持をよりきめ細かに達成することができるようになっている。
【0029】
そして、本実施例のチェーン張力付与装置100におけるハウジング本体110、プランジャ120、カム受けリング140、カム受けリング付勢用バネ150、楔状カムチップ160、カム誘導用リング170の配置については、プランジャ120の最小バックラッシュ量をXとし、最大バックラッシュ量をYとし、カム受けリング140の最大変位幅をSとし、ラック121のピッチをPとしたとき、
X=S
Y=P+S
を満足するように構成することによって、前述した始動時の異音に影響を与える最大バックラッシュ量Y、最小バックラッシュ量Xを、カム受けリング140の最大変位幅Sで調整でき、すなわち、カム誘導用リング170のリング厚みR、先端開口側拡径凹部111aの奥行寸法W、カム受けリング140の下部長さVの少なくとも一つを変更すれば、簡単に調整することができる。また、最大バックラッシュ量Yは、ラック121の噛合ピッチPを変更することによっても調整することができ、これらにより、様々な特性を備えたエンジンへの適応範囲が広まるようになっている。
【0030】
したがって、本実施例のチェーン張力付与装置100を種々のエンジンへ適応させる際に、先端開口側拡径凹部111aの奥行寸法Wを変更し、バックラッシュ量を調整する場合、カム受けリング140、カム誘導用リング170などの統一化を図ることができ、カム誘導用リング170のリング厚みRを変更しバックラッシュ量を調整する場合、ハウジング本体110、カム受けリンク140などの統一化を図ることができ、いずれにしても、様々な特性を備えたエンジンから要求されるバックラッシュ量を、従来のようなスロープ状カムガイド溝141の傾斜角度θのみに依存することなく、自由にかつ広範囲に設定することができる。
【0031】
なお、本実施例で意味するところの「最大バックラッシュ量Y」とは、楔状カムチップ160が一歯乗り越える直前の位置Lyからバックストップ状態の位置Lbまでのプランジャ120の戻り量を意味しており、また、「最小バックラッシュ量X」とは、楔状カムチップ160が一歯乗り越える直前の位置、すなわち、一歯乗り越えた瞬間の位置Lyからバックストップ状態の位置Lxまでのプランジャ120の戻り量を意味する。
【0032】
以上のようにして得られた本実施例のチェーン張力付与装置100は、図5に示すようなプランジャ120のバックストップ機能が作動した状態から、タイミングチェーンTCが弛緩してくると、図6に示すように、突出付勢用バネ130によって突出方向に付勢されているプランジャ120が直ちに前進する。
なお、図5における引き出し線Lbは、バックストップ状態におけるプランジャ120の先端位置を示している。
【0033】
すなわち、バックストップ状態から、プランジャ120が走行するタイミングチェーンTCに向けて前進していくと、図6に示すように、先端開口側拡径凹部111a内のカム受けリング140も、カム受けリング付勢用バネ150の付勢力によってプランジャ120の突出方向に変位し、このようなカム受けリング140の変位に伴って一対の楔状カムチップ160、160とカム誘導用リング170も先端開口側拡径凹部111a内を封止プレート180の裏面に向けてプランジャ120の突出方向に変動する。
なお、図6における引き出し線Lbは、バックストップ状態におけるプランジャ120の先端位置を示し、引き出し線Lsは、カム受けリング140が最大変位幅Sだけ突出方向に変位した状態におけるプランジャ120の先端位置を示し、引き出し線Lyは、一対の楔状カムチップ160、160がプランジャ120のラック121、121を一歯乗り越える直前のプランジャ120の先端位置をそれぞれ示している。
【0034】
つぎに、カム誘導用リング170が先端開口側拡径凹部111a内で封止プレート180の裏面に当接して行き止まると、図7に示すように、一対の楔状カムチップ160、160は、カム受けリング140に形成された二筋のスロープ状カムガイド溝141、141内をそれぞれ滑動してカム受けリング140をプランジャ120の突出方向と逆方向へ押し戻しながら、プランジャ120のラック121、121との噛合が外れるまでリング外周側に向けて迫り上がる。
なお、図7における引き出し線Lbは、バックストップ状態におけるプランジャ120の先端位置を示し、引き出し線Lyは、一対の楔状カムチップ160、160がプランジャ120のラック121、121を一歯乗り越える直前のプランジャ120の先端位置を示し、引き出し線Lxは、プランジャ120がラック121、121の一歯分だけ前進してバックストップ機能が作動した状態におけるプランジャ120の先端位置をそれぞれ示している。
【0035】
そして、一対の楔状カムチップ160、160とプランジャ120のラック121、121との噛合が外れた瞬間、カム誘導用リング170が先端開口側拡径凹部111a内で封止プレート180の裏面に当接して行き止まった状態となっているため、図8に示すように、一対の楔状カムチップ160、160は、一変してカム受けリング140のスロープ状カムガイド溝141、141内をそれぞれ滑動してプランジャ120のラック121、121と一歯分だけズレた位置で噛合するまでプランジャ120の軸芯側に向けて潜り込み、その反動によって、相対的にカム受けリング140がプランジャ120の突出方向へ再び変位する。
なお、図8における引き出し線Lyは、一対の楔状カムチップ160、160がプランジャ120のラック121、121を一歯乗り越えた瞬間のプランジャ120の先端位置を示し、引き出し線Lxは、ラック121の一歯分だけ前進したプランジャ120が引き出し線Lyの位置からカム受けリング140の最大変位幅Sだけ突出方向と逆方向に変位してバックストップ機能が作動した状態におけるプランジャ120の先端位置をそれぞれ示している。
【0036】
このような状態において、本実施例のチェーン張力付与装置100にチェーン側からプランジャ120を押し戻すような外力が加わると、プランジャ120のラック121を一歯分だけ乗り越えた一対の楔状カムチップ160、160は、図9に示すように、プランジャ120のラック121を一歯分だけ乗り越える前と同様に、プランジャ120に対してクサビ作用を発揮することができるため、プランジャ120の後退変位を阻止するバックストップ機能を発揮する。
なお、図9における引き出し線Lxは、ラック121の一歯分だけ前進したプランジャ120が引き出し線Lyの位置からカム受けリング140の最大変位幅Sだけ突出方向と逆方向に変位してバックストップ機能が作動した状態におけるプランジャ120の先端位置をそれぞれ示している。
【0037】
そして、プランジャ120の後退変位を阻止するバックストップ機能が作動するとき、プランジャ120の外周を少なくとも二分割する対向位置にそれぞれ刻設した二筋のラック121、121に噛合する一対の楔状カムチップ160、160を備えていることによって、前述したプランジャ120を介して押し戻される力がプランジャ120の外周を少なくとも二分割する対向位置にそれぞれ配置された一対の楔状カムチップ160、160に均等に付加される。
このとき、プランジャ120から受ける力Fは、図9に示すように、プランジャ120の外周を二分割する対向位置でそれぞれf1、f1で示すように分散付加されて軽減される。
【0038】
このようにして、本実施例のチェーン張力付与装置100は、適切なバックストップ機能を発揮してチェーンのバタツキによるバタツキ音、及びプランジャ120の過飛出しによって発生するチェーンの張り過ぎによるヒュー音を防止し、適正なチェーン張力を維持することができるとともに、前述したような異音に影響を与える最大バックラッシュ量Yと最小バックラッシュ量Xを、カム受けリング140の最大変位幅Sで調整でき、すなわち、カム誘導用リング170のリング厚みR、先端開口側拡径凹部111aの奥行寸法W、カム受けリンク下部長さVの少なくとも一つを変更すれば、簡単に調整することができる。また、最大バックラッシュ量Yは、ラック121の噛合ピッチPを変更することによっても調整することができ、これらにより、様々な特性を備えたエンジンへの適応範囲を拡大することができるなど、その効果は甚大である。
【0039】
【発明の効果】
本発明のチェーン張力付与装置は、ハウジング本体のプランジャ摺動孔内に設けられたスロープ状カムガイド溝内を滑動するとともにプランジャ外周に刻設された複数のラックにそれぞれ噛合する複数の楔状カムチップを備えていることにより、エンジン運転時のチェーンが伸びてくると、プランジャが一歯分ずつ順次前進することによって、適切なバックストップ量(バックラッシュ量)を規制して、始動時の異音を防止し、また、チェーンの張り過ぎによるヒュー音を防止して、適正なチェーン張力を維持することができ、これに加えて、以下のような本発明に特有の効果を奏する。
【0040】
すなわち、本請求項1記載のチェーン張力付与装置によれば、ハウジング本体に形成されたプランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌してプランジャの軸方向に変移するカム受けリングと、該カム受けリングをプランジャの突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネと、前記カム受けリングに形成されたスロープ状カムガイド溝内を滑動するとともに前記プランジャの外周に刻設された複数のラックにそれぞれ噛合する複数の楔状カムチップと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌して複数の楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するカム誘導用リングとを備え、前記カム誘導用リングが先端開口側拡径凹部内で封止プレートの裏面に当接する際に楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するようにしたことによって、複数の楔状カムチップを剛体であるカム誘導用リングで位置決めすることができるため、図に示すような従来のカム付勢用バネを使用していた場合に比較すると、それぞれの楔状カムチップのアンバランスな動きがなくなり、一方の楔状カムチップのみがプランジャのラックに噛み合うという現象が回避され、カムの耐久性が向上する。
特に、カム誘導用リングを樹脂製とした場合には、鉄系金属製やアルミ製のものに比較すると、カム誘導用リングと楔状カムチップとの摩擦係数を低く抑えられるため、楔状カムチップの挙動が滑らかになり、追従性が向上する。また、図に示すような従来のカム付勢用バネに換えてカム誘導用リングを採用できるような構造にしたことによって、楔状カムチップより先端側のテンショナ構造を簡素化することができるとともに、ラックが刻設されたより先端側のプランジャ長を短くすることができるので、テンショナの全長を短縮することができ、しかも、優れた耐久性を発揮することができる。
【0041】
本請求項2記載のチェーン張力付与装置によれば、請求項1に記載されたチェーン張力付与装置による効果に加えて、プランジャとハウジング本体とカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングとの配置形態が
X=S
Y=P+S
を満足するように構成されていることにより、個々のエンジンに要求されるバックラッシュ量を自由にかつ広範囲に設定することが可能となった為に、プランジャラックの歯丈などに依存してバックラッシュ量を調整した場合に生じる歯先磨耗、歯欠けを回避するとともに、適切なバックストップ機能を発揮してチェーンのバタツキによるバタツキ音及びプランジャの過飛出しによって発生するチェーンの張り過ぎによるヒュー音を更に一段と防止することができ、しかも、上記異音に影響を与える最大バックラッシュ量Yと最小バックラッシュ量Xを、カム受けリングの最大変位幅Sで調整でき、すなわち、カム誘導用リングのリング厚み、先端開口側拡径凹部の奥行寸法、カム受けリンク下部長さの少なくとも一つを変更すれば、簡単に調整することができる。また、最大バックラッシュ量Yは、ラックの噛合ピッチPを変更することによっても調整することができ、これらにより、様々な特性を備えたエンジンへの適応範囲を拡大することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例であるチェーン張力付与装置の設置図。
【図2】図1に示すチェーン張力付与装置を一部破断した概要図。
【図3】図1に示すチェーン張力付与装置の分解組み立て図。
【図4】図2に示すチェーン張力付与装置の要部を拡大した断面図。
【図5】プランジャのバックストップ機能が作動した状態を示す図。
【図6】楔状カムチップがプランジャのラックから噛み外れを開始するまでのプランジャによる張力付加機能の作動状態を示す図。
【図7】楔状カムチップがプランジャのラックを一歯乗り越える直前の状態を示す図。
【図8】プランジャがラックの一歯分だけ前進した直後のプランジャによる張力付加機能の作動状態を示す図。
【図9】プランジャがラックの一歯分だけ前進してバックストップ機能が作動した状態を示す図。
【図10】従来のチェーン張力付与装置を一部破断した概要図。
【符号の説明】
100,500 ・・・ チェーン張力付与装置
110,510 ・・・ ハウジング本体
111,511 ・・・ プランジャ摺動孔
111a ・・・ 先端開口側拡径凹部
120,520 ・・・ プランジャ
121,521 ・・・ ラック
130,530 ・・・ 突出付勢用バネ
140 ・・・ カム受けリング
141,512 ・・・ スロープ状カムガイド溝
150 ・・・ カム受けリング付勢用バネ
160,540 ・・・ 楔状カムチップ
170 ・・・ カム誘導用リング
180 ・・・ 封止プレート
190 ・・・ 油圧バルブ機構
191 ・・・ ボールシート
192 ・・・ チェックボール
193 ・・・ リテーナ
195 ・・・ 高圧油室
S1 ・・・ 駆動軸側スプロケット
S2 ・・・ 従動軸側スプロケット
TC ・・・ タイミングチェーン
TG ・・・ テンショナガイド
TL ・・・ テンショナレバー
E ・・・ エンジンブロック壁

Claims (2)

  1. 走行するチェーンに向けて進退自在に突出するプランジャと、該プランジャを進退自在に嵌挿するプランジャ摺動孔が形成されたハウジング本体と、該ハウジング本体に対してプランジャを突出方向に付勢する突出付勢用バネと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌してプランジャの軸方向に変位するカム受けリングと、該カム受けリングをプランジャの突出方向に付勢するカム受けリング付勢用バネと、前記カム受けリングに形成されたスロープ状カムガイド溝内を滑動するとともに前記プランジャの外周に刻設された複数のラックにそれぞれ噛合する複数の楔状カムチップと、前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内でプランジャに外嵌して複数の楔状カムチップの噛み外れを誘導規制するカム誘導用リングと、前記プランジャを進退自在に嵌挿するとともに前記プランジャ摺動孔の先端開口側拡径凹部内に順次配置したカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングを移動自在に封入する封止プレートとを備えたことを特徴とするチェーン張力付与装置。
  2. 前記プランジャの最小バックラッシュ量をXとし、最大バックラッシュ量をYとし、前記カム受けリングの最大変位幅をSとし、前記ラックのピッチをPとしたとき、前記プランジャとハウジング本体とカム受けリング付勢用バネとカム受けリングと楔状カムチップとカム誘導用リングとの配置形態が
    X=S
    Y=P+S
    を満足するように構成されていることを特徴とする請求項1記載のチェーン張力付与装置。
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