JP2004076224A - 反応染料を用いて染色とセリシン・フィブロイン付着を同時に行った物品とその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】農家毛羽や工場毛羽等の副産物から得られるセリシンやフィブロインを、反応染料を用いる簡便な手段によって、汎用物品を染色と同時に機能高度化のために利用することのできる方策を提供する。
【解決手段】セルロースを主成分とする物品を養蚕業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシンまたは絹フィブロインもしくはその両者および反応染料を含む水溶液で接触処理してセルロースおよびタンパク質を主成分とする繊維物品の表面に絹セリシンまたは絹フィブロインもしくはその両者を付着させる。
【選択図】 なし
【解決手段】セルロースを主成分とする物品を養蚕業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシンまたは絹フィブロインもしくはその両者および反応染料を含む水溶液で接触処理してセルロースおよびタンパク質を主成分とする繊維物品の表面に絹セリシンまたは絹フィブロインもしくはその両者を付着させる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維産業分野で反応染料を用いて繊維基質の染色を行うこととセリシン・フィブロインを反応染料を仲立ちとして繊維に付着させた物品とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、従来より繊維製品として汎用的に用いられている綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維、又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維やタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などに、蚕糸業や製糸工場の副産物から得られる絹セリシンや絹フィブロインという絹タンパク成分を付着させること及び染色を同時に行うことで、肌触りの向上や吸水性・吸湿性の向上などの優れた性質を付与すること及び繊維基質を染色することができる、セリシン・フィブロイン付着染色物品とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
繊維製品の高付加価値加工として、抗菌性、イージーケア性、防縮性、吸湿性、紫外線遮断性、皮膚への刺激低減など種々の目的のものが知られている。
また、近年は、人間の健康志向、環境への負荷を低減すること、未利用天然物の有効利用などの立場から、天然タンパク質を用いた繊維の加工が行われ、シルクプロテイン被覆繊維やシルクプロテインと合成繊維とで紡糸した糸などが商品化されている。天然繊維として古くから用いられてきた絹は、生糸の芯であるフィブロインとこの周りを覆うセリシンとで構成されており、絹フィブロインは衣料素材として用いられている。また、セリシンは精練工程を経ることによって取り除かれ、廃棄物として処理されてきている。生糸の場合、セリシンとフィブロインとの重量比は、25〜30:75〜70である。ただ、廃棄物として処理されているセリシンにはセリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジンなど親水性に富むアミノ酸残基が全体の50%以上あることから、その有効利用が求められており、これまでにも、例えば特許出願公開特許公報「セリシンの分離回収法(特開平11−131318)」にあるような回収法や、回収したセリシンを繊維の加工剤として用いる方法「吸収性物品(特開平9−322911)」、「繊維質肌当て用品(特開平10−1872)」等が提案されている。
【0003】
回収されたセリシンは凍結乾燥法で粉末とされることが多いが、現在の繊維加工業では、処理方法が簡便なことや従来からの装置を用いることを理由として、水溶液系での加工方法が一般的である。絹タンパク質を繊維加工剤として利用する場合も、浸染法、スプレー法など加工方法は種々あるものの、セリシン水溶液として加工に供されており、セリシン粉末を再度水溶液として用いている。
【0004】
一方、絹フィブロインはアラニンやグリシン、セリンを主成分としたタンパク質で、絹糸ではβ構造をとっている。このような絹フィブロインについても、その利用分野の拡大についての検討が進められてきており、例えば、坪内らの研究では、このフィブロインをアルカリ処理し、次いで力学的な粉砕を行うことによって結晶構造を残した微粉末を得、この微粉末をボールペンの軸や、腕時計の裏に塗布することが行われている。
【0005】
また、力学的な粉砕を行わずにフィブロインを溶解・粉末化する方法としては、平林らによるアルカリ加水分解、中和、脱塩、乾燥法が良く知られている。さらには、「シルクパウダーの製造方法(特開平6−70702)」のように、中性無機塩と強酸とを添加した水溶液中で、85〜150℃の温度で処理することによって、フィブロインの溶解を行い、脱塩後乾燥させて粉末を得る例もある。
【0006】
汎用反応染料は、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、トリクロロトリアジンのような構造であったり、ビニルスルホンやフッ素等の官能基を含む構造であることが知られている。セリシンを含む生糸をジクロロトリアジン系反応染料及びモノクロロトリアジン系反応染料で染色し、セリシン定着と染色の同時処理を試みた例がある(特公昭40−8050)。
【0007】
上石らによると、2官能反応染料と水溶性多官能エポキシド(ナガセ化成工業(株)、デナコールEX−313)とを併用することによって、セリシン定着と染色の同時処理が可能であると報告されている。
【0008】
特開2000−119973では、反応染料の基本構造とも云うべき骨格トリアジン架橋反応を施し、セリシン定着を行い、その後の特殊な精練によってセリシンを除去した織編物の製造方法及びそれによって製造された織編物を提供している。
【0009】
しかしながら、これらの技術は生糸のセリシン定着を目的としたもので、他種の繊維を染色することと、繭毛羽、生糸等から抽出したセリシンを反応染料を介して繊維に付着させることの処理は行われていなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、絹セリシンや絹フィブロインについての有効利用や利用分野の拡大が検討されているものの、従来においてはいくつかの課題が残されていた。例えばセリシンの場合にはこれを回収する原料としてはほとんどが生糸や絹布であって、農家等での蚕糸業の副産物としての毛羽や工場での毛羽等に着目し、これを積極的に利用しようとする試みや技術的検討はなされていない。農家毛羽や工場毛羽はセリシン含量が約40%と非常に高く、抗菌性や抗酸化性を示す物質もまゆ(繭)の表層に近い部分に多いことから、このような特徴のあるセリシンを有効活用することには大きな技術的、経済的な価値がある。
【0011】
また、このようなセリシンの利用については当然にも農家や工場の毛羽等からのフィブロインの利用についても考慮されねばならない。
【0012】
しかし、残念ながら、従来では、以上のようなセリシン、フィブロインの利用についての提案や開発技術については知られていないのが実情である。
【0013】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みて農家毛羽や工場毛羽などの蚕糸業や製糸業の副産物から得られたセリシンやフィブロインを簡便な手段によって、汎用物品の機能高度化のために利用することのできる方策を提供すること、より実際的には、汎用素材としての、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維やタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などの表面加工剤として用いることにより、セリシンが示す柔軟性や親水性、フィブロインが示すサラサラ感などの風合いや機能性に優れる製品、さらには反応染料による染色と染料を仲立ちとして絹タンパク質成分を繊維基質に付着した物品やその製造方法を提供することを課題としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者が綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれらを主成分とする物品に付着されていることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供する。
【0015】
また、第2には、上記の副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での工場毛羽、キャリア及びきびそのうち少なくとも1種から得られたものであることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供し、第3には、上記のセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれら1種以上のものの集合品であることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供する。
【0016】
そして、本発明は、第4には、セルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品を蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者の水溶液で接触処理してセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品の表面に反応染料を介して絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者を付着させることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0017】
第5には、上記の絹セリシンの分子量は10,000〜200,000であり、絹フィブロインの分子量は1,000〜30,000の範囲であることを特徴とする、セリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第6には、100℃以下の温度で反応染料を含む水溶液による接触処理を行うことを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第7には、染色加工に付随して、またはその一部として反応染料水溶液による接触処理を行うことを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0018】
さらに、第8には、上記の副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での工場毛羽、キャリア及びきびそのうちの少なくとも1種から得られたものであることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第9には、上記のセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれら1種以上のものの集合体であることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の特徴を実現するための形態としては、例えば以下のように例示することができる。
【0021】
(1)綿糸や麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維又はタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などに、農家毛羽や工場毛羽から直接得たセリシン及びフィブロインさらに反応染料を含む水溶液、あるいはどちらか一方と反応染料を含む所定濃度の水溶液中で、例えば60〜80℃で30分間〜90分間処理することによって絹タンパク質を反応染料を仲立ちとして繊維基質に付着させることと染色を同時に行う。
【0022】
(2)セリシン及びフィブロインは農家毛羽や工場毛羽から抽出するが、毛羽の夾雑物を除くため、あるいは絹フィラメントの方向を揃えるために、カード機あるいは同じ機能を備える装置で開繊することが好ましい。このことによって、夾雑物を取り除くことのみならず、セリシンやフィブロインの抽出効率を増すことができる。
【0023】
(3)開繊された毛羽を、チーズ染色機、ロータリー染色機、オーバーマイヤー染色機などのような染色機や圧力釜、圧力鍋などのような高圧容器に入れ、例えば浴比(毛羽:水)を1:5〜1:100,望ましくは1:10〜20で、100〜140℃、望ましくは130℃で1〜2時間処理する。この操作で、毛羽重量の40%に相当するセリシンが抽出され、浴比に応じた濃度のセリシン水溶液を得ることができる。
【0024】
(4)セリシン水溶液を取り除き、次いで同じ圧力容器中で、同様の浴比条件、例えば140℃〜180℃、望ましくは140〜160℃で2時間フィブロインを抽出する。この操作で、フィブロイン重量の約20%をフィブロイン水溶液として得ることができる。
【0025】
(3)のセリシン水溶液及び(4)のフィブロイン水溶液をそれぞれ単独、あるいは適当な割合で混合した水溶液をチーズ染色機あるいはオーバーマイヤー染色機、綛染め機、ロータリー染色機、液流染色機等に入れ、2官能又は3官能反応染料をこの水溶液に加え、加工される綿糸や麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維又はタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などがこれらの染色機中で、例えば60〜80℃、望ましくは80℃で60分間処理し、その後60℃で30分間処理する。
【0026】
本発明で利用される繊維素材は、綿糸や麻糸、各種レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維やこれらからなる繊維製品、繊維集合体、不織布、紙などであり、綿に関してはシルケット加工を施されていても可能である。また、不織布、紙、繊維集合体に合成樹脂製のバインダー等が用いられていても、セリシン及びフィブロイン水溶液中で、このセリシンやフィブロイン、及び反応染料と繊維素材が接触することができると、本発明を施すことができる。
【0027】
本発明で利用される綿糸や麻糸、各種レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維やこれらからなる繊維製品、繊維集合体、不織布、紙などは特殊な前処理を行わずに反応染料を用いたセリシン・フィブロイン加工に供することができる。
【0028】
本発明のセリシン、フィブロイン及び2官能反応染料水溶液中の加工温度は、通常の染色条件と同じ60〜80℃であり、加工時間は30分〜2時間であるが、加工温度の上昇及び加工時間の増加と伴に絹タンパク質の分子量が低下することから、望ましくは80℃で60分間処理し、その後60℃で30分間処理する。処理水は一カ所にとどまる静水系ではなく、染色加工機のように水が循環する機構が望ましい。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例で行った評価方法は次の通りである。
【0030】
タンパク質繊維を染色する酸性染料(Inolar Fast Red MNW,(株)井上化学工業)を用いて、反応染料を仲立ちとしたセリシン及びフィブロイン加工後にハイドロサルファイト等の還元剤で脱色した試料について染色試験を行った(染色試験)。
これらの試料について、分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて反射率を測定し、K/S値を求めた。
【0031】
未加工試料では酸性染料の染着座席が無いため汚染となるが、タンパク成分が導入された試料では染色される。しかしながら、反応染料は還元処理によって酸性染料との結合部が形成される可能性があるので、酸性染料染色布と染料水溶液について、前者では分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて反射率を測定し、後者については分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて吸光度を測定後、反射率を求めた。
【0032】
未加工試料と加工試料の蛍光顕微鏡観察(オリンパス(株))を行った。セリシンやフィブロインが付着すると、蛍光を発する。
【0033】
手触りを感覚で評価した。
【0034】
未加工試料と加工試料の接触冷温感qmaxをカトーテック(株)精密迅速熱物性試験機を用いて測定した。この値が大きいほど“冷”と感じる。
【0035】
未加工試料と加工試料の動摩擦係数をカトーテック(株)風合い試験機表面特性試験機を用いて測定した。
【0036】
【実施例1】
特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法でセリシン水溶液を抽出した(濃度1.8%)。
【0037】
このセリシン水溶液を用い、染色堅ろう度試験添付白布の綿布(金巾3号)に対して、上記の回転ポット染色試験機を用いて次のように加工を行った。
【0038】
▲1▼1.8%セリシン水溶液100mlに水を100ml加え、200mlとして80℃まで加熱し、2官能反応染料(Sumifix Supra Blue BRF,住化ケムテックス(株))を0.08g加え、60分間80℃に保つ。
【0039】
▲2▼液温を60℃まで低下させ、綿布4g、ソーダ灰5gを加え、60℃で30分間処理を行う。反応染料濃度は2%owfであり、浴比は1:50である。
【0040】
▲3▼常温での水洗を行った後に、90℃の水中で5分間洗浄を行い、さらに常温水で十分な流水洗浄を行った。
【0041】
▲4▼次に、ハイドロサルファイト3%水溶液中、80℃で10分間脱色を行った後、常温で流水洗浄を十分に行った。
【0042】
▲5▼酸性染料(Inolar Fast Red MNW(株)井上化学工業)を0.1%owfとなるように調整した染液中で、▲4▼処理布を90℃で10分間染色を行い、通常の後処理としてノニオン界面活性剤1%を含む洗浄液中、50℃で10分間洗浄を行い、その後、常温で流水洗浄を十分行った後、風乾した(加工布)。
【0043】
対照布は、▲1▼でセリシンを加えずに処理し、その後同様の処理を行った綿布(コントロール)、▲1▼の加工条件で反応染料を加えないで同様の処理を行った綿布(セリシン)、及び未加工綿布に対して酸性染料染色▲5▼処理を行った綿布(原布)である。さらに、染色堅ろう度添付白布の絹布(羽二重)に▲5▼の酸性染料染色を行った(絹)。それぞれの綿布及び絹布について▲5▼処理後のK/S値を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から、反応染料・セリシン加工を行った試料では、染色は汚染でなく染料が染着していることが分かる。対照とした布のK/S値は小さく、汚染程度であることが分かる。
【0046】
図1に酸性染料水溶液、コントロール布、加工布の反射率曲線を示すが、加工布は染料の反射率曲線と似ており、加工布に反応染料とセリシンが付着し、そのセリシンが染色されていることが分かる。
【0047】
表2に蛍光顕微鏡観察結果を示すが、加工布ではタンパク質に基づく励起が認められた。
【0048】
【表2】
【0049】
これらのことから、反応染料・セリシン加工では、反応染料を仲介とした染色とセリシンの繊維への付着を行うことができた。
【0050】
【実施例2】
▲6▼回転ポット染色試験機を用いて、綿布4g、ソーダ灰5g、水100mlとして、60℃で30分間処理を行う。反応染料濃度は2%owfであり、浴比は1:25である。
【0051】
▲7▼その後、1.8%セリシン水溶液を100ml加え、80℃で60分間セリシン加工を施す。
【0052】
▲8▼その後、実施例1に示した▲3▼〜▲5▼の処理を行った。
【0053】
対照として、セリシンを加えずに▲7▼の処理を行い、その後全て同じ処理を行った試験布(コントロール)。反応染料濃度を10倍及び1/5倍として▲6▼の処理を行い、その後全て同じ処理を行った試験布(10倍、1/5倍)。
【0054】
実施例1と同様に、酸性染料染色後のK/Sを表2に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
このように、K/S値は加工布とコントロール、反応染料10倍、1/5倍を比較して、顕著な差は見られなかった。このことから、▲6▼の処理で反応染料はそのほとんどが2官能成分ともに綿と反応していると考えられる。
【0057】
以上のことから、反応染料を仲立ちとして染色とセリシンの付着を行うためには、セリシンと反応染料とを反応させることが重要である。
【0058】
従来は架橋剤などを仲介して絹タンパク質成分を繊維表面に付与していたが、本発明では、容易に繊維表面に絹タンパク質成分を付与することができ、さらに、セリシンやフィブロインの性質を反映した手触りを得ることができる。
【0059】
【実施例3】
a)特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法で装置をテクサム技研(株)高温高圧ロータリー染色試験機としてセリシン水溶液を抽出した(濃度1.8%)。
【0060】
b)次いで、セリシン抽出残さを充分水洗後、セリシン抽出と同様に特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法で装置をテクサム技研(株)高温高圧ロータリー染色試験機としてフィブロイン水溶液を得た。この水溶液の濃度は、0.6%であった。
【0061】
a)とb)の水溶液をそれぞれの成分が1:1となるようにブレンド調製して、
濃度1%の水溶液とした。
【0062】
このように混合調製した水溶液を(絹タンパク調製水溶液)用い、レーヨン紡績糸(20番双糸)に対して、信江工業(株)製 自動噴射式染色機を用いて次のように加工を行った。
【0063】
c)絹タンパク調製水溶液を5%owfとなるように上記の染色機に入れ、さらに水を加え、浴比1:30になるように調製した。
【0064】
d)調製した水溶液に室温で、レーヨン紡績糸を入れ、その温度のまま3分間水溶液に充分馴染ませた後、2官能反応染料(Procion Red MX−5B、三井化学(株))3%owf入れ、染液(染料)とレーヨン紡績糸を3分間馴染ませる。
【0065】
e)その後、30℃まで染液を昇温させて、無水亡硝を100g/Lを投入し、20分間、30℃を保持する。
【0066】
f)ここから徐々に60℃まで染液を昇温させ、60℃になったらソーダ灰を4%owf添加し、その後5分間ごとに2回同量のソーダ灰を添加した。染液を60℃のまま60分間保持し、排水後、40℃で湯洗、充分に水洗を行った後、風乾した。(加工糸)
【0067】
対照糸は、染液に絹タンパク調製水溶液を加えずに処理を行った糸である。(コントロール)
【0068】
表4に動摩擦係数の結果および接触冷温感qmaxの結果を示すが、加工糸の方が動摩擦係数値が小さく絹タンパク付着により、表面のなめらかさが増したことが分かる。
【0069】
【表4】
【0070】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、本発明によって、農家毛羽や工場毛羽等の副産物から得られるセリシンやフィブロインを、簡便な手段によって、汎用物品としてのセルロースおよびタンパク質繊維の染色ならびに機能高度化のために利用することのできる方策が提供される。
【0071】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における反射率曲線である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維産業分野で反応染料を用いて繊維基質の染色を行うこととセリシン・フィブロインを反応染料を仲立ちとして繊維に付着させた物品とその製造方法に関するものである。さらに詳しくは、本発明は、従来より繊維製品として汎用的に用いられている綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維、又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維やタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などに、蚕糸業や製糸工場の副産物から得られる絹セリシンや絹フィブロインという絹タンパク成分を付着させること及び染色を同時に行うことで、肌触りの向上や吸水性・吸湿性の向上などの優れた性質を付与すること及び繊維基質を染色することができる、セリシン・フィブロイン付着染色物品とその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
繊維製品の高付加価値加工として、抗菌性、イージーケア性、防縮性、吸湿性、紫外線遮断性、皮膚への刺激低減など種々の目的のものが知られている。
また、近年は、人間の健康志向、環境への負荷を低減すること、未利用天然物の有効利用などの立場から、天然タンパク質を用いた繊維の加工が行われ、シルクプロテイン被覆繊維やシルクプロテインと合成繊維とで紡糸した糸などが商品化されている。天然繊維として古くから用いられてきた絹は、生糸の芯であるフィブロインとこの周りを覆うセリシンとで構成されており、絹フィブロインは衣料素材として用いられている。また、セリシンは精練工程を経ることによって取り除かれ、廃棄物として処理されてきている。生糸の場合、セリシンとフィブロインとの重量比は、25〜30:75〜70である。ただ、廃棄物として処理されているセリシンにはセリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、リジンなど親水性に富むアミノ酸残基が全体の50%以上あることから、その有効利用が求められており、これまでにも、例えば特許出願公開特許公報「セリシンの分離回収法(特開平11−131318)」にあるような回収法や、回収したセリシンを繊維の加工剤として用いる方法「吸収性物品(特開平9−322911)」、「繊維質肌当て用品(特開平10−1872)」等が提案されている。
【0003】
回収されたセリシンは凍結乾燥法で粉末とされることが多いが、現在の繊維加工業では、処理方法が簡便なことや従来からの装置を用いることを理由として、水溶液系での加工方法が一般的である。絹タンパク質を繊維加工剤として利用する場合も、浸染法、スプレー法など加工方法は種々あるものの、セリシン水溶液として加工に供されており、セリシン粉末を再度水溶液として用いている。
【0004】
一方、絹フィブロインはアラニンやグリシン、セリンを主成分としたタンパク質で、絹糸ではβ構造をとっている。このような絹フィブロインについても、その利用分野の拡大についての検討が進められてきており、例えば、坪内らの研究では、このフィブロインをアルカリ処理し、次いで力学的な粉砕を行うことによって結晶構造を残した微粉末を得、この微粉末をボールペンの軸や、腕時計の裏に塗布することが行われている。
【0005】
また、力学的な粉砕を行わずにフィブロインを溶解・粉末化する方法としては、平林らによるアルカリ加水分解、中和、脱塩、乾燥法が良く知られている。さらには、「シルクパウダーの製造方法(特開平6−70702)」のように、中性無機塩と強酸とを添加した水溶液中で、85〜150℃の温度で処理することによって、フィブロインの溶解を行い、脱塩後乾燥させて粉末を得る例もある。
【0006】
汎用反応染料は、モノクロロトリアジン、ジクロロトリアジン、トリクロロトリアジンのような構造であったり、ビニルスルホンやフッ素等の官能基を含む構造であることが知られている。セリシンを含む生糸をジクロロトリアジン系反応染料及びモノクロロトリアジン系反応染料で染色し、セリシン定着と染色の同時処理を試みた例がある(特公昭40−8050)。
【0007】
上石らによると、2官能反応染料と水溶性多官能エポキシド(ナガセ化成工業(株)、デナコールEX−313)とを併用することによって、セリシン定着と染色の同時処理が可能であると報告されている。
【0008】
特開2000−119973では、反応染料の基本構造とも云うべき骨格トリアジン架橋反応を施し、セリシン定着を行い、その後の特殊な精練によってセリシンを除去した織編物の製造方法及びそれによって製造された織編物を提供している。
【0009】
しかしながら、これらの技術は生糸のセリシン定着を目的としたもので、他種の繊維を染色することと、繭毛羽、生糸等から抽出したセリシンを反応染料を介して繊維に付着させることの処理は行われていなかった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、絹セリシンや絹フィブロインについての有効利用や利用分野の拡大が検討されているものの、従来においてはいくつかの課題が残されていた。例えばセリシンの場合にはこれを回収する原料としてはほとんどが生糸や絹布であって、農家等での蚕糸業の副産物としての毛羽や工場での毛羽等に着目し、これを積極的に利用しようとする試みや技術的検討はなされていない。農家毛羽や工場毛羽はセリシン含量が約40%と非常に高く、抗菌性や抗酸化性を示す物質もまゆ(繭)の表層に近い部分に多いことから、このような特徴のあるセリシンを有効活用することには大きな技術的、経済的な価値がある。
【0011】
また、このようなセリシンの利用については当然にも農家や工場の毛羽等からのフィブロインの利用についても考慮されねばならない。
【0012】
しかし、残念ながら、従来では、以上のようなセリシン、フィブロインの利用についての提案や開発技術については知られていないのが実情である。
【0013】
そこで、本発明は、上記の点に鑑みて農家毛羽や工場毛羽などの蚕糸業や製糸業の副産物から得られたセリシンやフィブロインを簡便な手段によって、汎用物品の機能高度化のために利用することのできる方策を提供すること、より実際的には、汎用素材としての、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維やタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などの表面加工剤として用いることにより、セリシンが示す柔軟性や親水性、フィブロインが示すサラサラ感などの風合いや機能性に優れる製品、さらには反応染料による染色と染料を仲立ちとして絹タンパク質成分を繊維基質に付着した物品やその製造方法を提供することを課題としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記の課題を解決するものとして、第1には、蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者が綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれらを主成分とする物品に付着されていることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供する。
【0015】
また、第2には、上記の副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での工場毛羽、キャリア及びきびそのうち少なくとも1種から得られたものであることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供し、第3には、上記のセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれら1種以上のものの集合品であることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品を提供する。
【0016】
そして、本発明は、第4には、セルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品を蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者の水溶液で接触処理してセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品の表面に反応染料を介して絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者を付着させることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0017】
第5には、上記の絹セリシンの分子量は10,000〜200,000であり、絹フィブロインの分子量は1,000〜30,000の範囲であることを特徴とする、セリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第6には、100℃以下の温度で反応染料を含む水溶液による接触処理を行うことを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第7には、染色加工に付随して、またはその一部として反応染料水溶液による接触処理を行うことを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0018】
さらに、第8には、上記の副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での工場毛羽、キャリア及びきびそのうちの少なくとも1種から得られたものであることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を、第9には、上記のセルロース繊維及びタンパク繊維を主成分とする物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれら1種以上のものの集合体であることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法を提供する。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明は上記のとおりの特徴を持つものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0020】
本発明の特徴を実現するための形態としては、例えば以下のように例示することができる。
【0021】
(1)綿糸や麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維又はタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などに、農家毛羽や工場毛羽から直接得たセリシン及びフィブロインさらに反応染料を含む水溶液、あるいはどちらか一方と反応染料を含む所定濃度の水溶液中で、例えば60〜80℃で30分間〜90分間処理することによって絹タンパク質を反応染料を仲立ちとして繊維基質に付着させることと染色を同時に行う。
【0022】
(2)セリシン及びフィブロインは農家毛羽や工場毛羽から抽出するが、毛羽の夾雑物を除くため、あるいは絹フィラメントの方向を揃えるために、カード機あるいは同じ機能を備える装置で開繊することが好ましい。このことによって、夾雑物を取り除くことのみならず、セリシンやフィブロインの抽出効率を増すことができる。
【0023】
(3)開繊された毛羽を、チーズ染色機、ロータリー染色機、オーバーマイヤー染色機などのような染色機や圧力釜、圧力鍋などのような高圧容器に入れ、例えば浴比(毛羽:水)を1:5〜1:100,望ましくは1:10〜20で、100〜140℃、望ましくは130℃で1〜2時間処理する。この操作で、毛羽重量の40%に相当するセリシンが抽出され、浴比に応じた濃度のセリシン水溶液を得ることができる。
【0024】
(4)セリシン水溶液を取り除き、次いで同じ圧力容器中で、同様の浴比条件、例えば140℃〜180℃、望ましくは140〜160℃で2時間フィブロインを抽出する。この操作で、フィブロイン重量の約20%をフィブロイン水溶液として得ることができる。
【0025】
(3)のセリシン水溶液及び(4)のフィブロイン水溶液をそれぞれ単独、あるいは適当な割合で混合した水溶液をチーズ染色機あるいはオーバーマイヤー染色機、綛染め機、ロータリー染色機、液流染色機等に入れ、2官能又は3官能反応染料をこの水溶液に加え、加工される綿糸や麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維又は絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維あるいはこれらのセルロース繊維又はタンパク繊維を主成分とする繊維製品や繊維集合体、不織布、紙などがこれらの染色機中で、例えば60〜80℃、望ましくは80℃で60分間処理し、その後60℃で30分間処理する。
【0026】
本発明で利用される繊維素材は、綿糸や麻糸、各種レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維やこれらからなる繊維製品、繊維集合体、不織布、紙などであり、綿に関してはシルケット加工を施されていても可能である。また、不織布、紙、繊維集合体に合成樹脂製のバインダー等が用いられていても、セリシン及びフィブロイン水溶液中で、このセリシンやフィブロイン、及び反応染料と繊維素材が接触することができると、本発明を施すことができる。
【0027】
本発明で利用される綿糸や麻糸、各種レーヨン糸などのセルロース繊維あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維やこれらからなる繊維製品、繊維集合体、不織布、紙などは特殊な前処理を行わずに反応染料を用いたセリシン・フィブロイン加工に供することができる。
【0028】
本発明のセリシン、フィブロイン及び2官能反応染料水溶液中の加工温度は、通常の染色条件と同じ60〜80℃であり、加工時間は30分〜2時間であるが、加工温度の上昇及び加工時間の増加と伴に絹タンパク質の分子量が低下することから、望ましくは80℃で60分間処理し、その後60℃で30分間処理する。処理水は一カ所にとどまる静水系ではなく、染色加工機のように水が循環する機構が望ましい。
【0029】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。以下の実施例及び比較例で行った評価方法は次の通りである。
【0030】
タンパク質繊維を染色する酸性染料(Inolar Fast Red MNW,(株)井上化学工業)を用いて、反応染料を仲立ちとしたセリシン及びフィブロイン加工後にハイドロサルファイト等の還元剤で脱色した試料について染色試験を行った(染色試験)。
これらの試料について、分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて反射率を測定し、K/S値を求めた。
【0031】
未加工試料では酸性染料の染着座席が無いため汚染となるが、タンパク成分が導入された試料では染色される。しかしながら、反応染料は還元処理によって酸性染料との結合部が形成される可能性があるので、酸性染料染色布と染料水溶液について、前者では分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて反射率を測定し、後者については分光光度計(倉敷紡績(株)製 COLOR−7X)を用いて吸光度を測定後、反射率を求めた。
【0032】
未加工試料と加工試料の蛍光顕微鏡観察(オリンパス(株))を行った。セリシンやフィブロインが付着すると、蛍光を発する。
【0033】
手触りを感覚で評価した。
【0034】
未加工試料と加工試料の接触冷温感qmaxをカトーテック(株)精密迅速熱物性試験機を用いて測定した。この値が大きいほど“冷”と感じる。
【0035】
未加工試料と加工試料の動摩擦係数をカトーテック(株)風合い試験機表面特性試験機を用いて測定した。
【0036】
【実施例1】
特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法でセリシン水溶液を抽出した(濃度1.8%)。
【0037】
このセリシン水溶液を用い、染色堅ろう度試験添付白布の綿布(金巾3号)に対して、上記の回転ポット染色試験機を用いて次のように加工を行った。
【0038】
▲1▼1.8%セリシン水溶液100mlに水を100ml加え、200mlとして80℃まで加熱し、2官能反応染料(Sumifix Supra Blue BRF,住化ケムテックス(株))を0.08g加え、60分間80℃に保つ。
【0039】
▲2▼液温を60℃まで低下させ、綿布4g、ソーダ灰5gを加え、60℃で30分間処理を行う。反応染料濃度は2%owfであり、浴比は1:50である。
【0040】
▲3▼常温での水洗を行った後に、90℃の水中で5分間洗浄を行い、さらに常温水で十分な流水洗浄を行った。
【0041】
▲4▼次に、ハイドロサルファイト3%水溶液中、80℃で10分間脱色を行った後、常温で流水洗浄を十分に行った。
【0042】
▲5▼酸性染料(Inolar Fast Red MNW(株)井上化学工業)を0.1%owfとなるように調整した染液中で、▲4▼処理布を90℃で10分間染色を行い、通常の後処理としてノニオン界面活性剤1%を含む洗浄液中、50℃で10分間洗浄を行い、その後、常温で流水洗浄を十分行った後、風乾した(加工布)。
【0043】
対照布は、▲1▼でセリシンを加えずに処理し、その後同様の処理を行った綿布(コントロール)、▲1▼の加工条件で反応染料を加えないで同様の処理を行った綿布(セリシン)、及び未加工綿布に対して酸性染料染色▲5▼処理を行った綿布(原布)である。さらに、染色堅ろう度添付白布の絹布(羽二重)に▲5▼の酸性染料染色を行った(絹)。それぞれの綿布及び絹布について▲5▼処理後のK/S値を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から、反応染料・セリシン加工を行った試料では、染色は汚染でなく染料が染着していることが分かる。対照とした布のK/S値は小さく、汚染程度であることが分かる。
【0046】
図1に酸性染料水溶液、コントロール布、加工布の反射率曲線を示すが、加工布は染料の反射率曲線と似ており、加工布に反応染料とセリシンが付着し、そのセリシンが染色されていることが分かる。
【0047】
表2に蛍光顕微鏡観察結果を示すが、加工布ではタンパク質に基づく励起が認められた。
【0048】
【表2】
【0049】
これらのことから、反応染料・セリシン加工では、反応染料を仲介とした染色とセリシンの繊維への付着を行うことができた。
【0050】
【実施例2】
▲6▼回転ポット染色試験機を用いて、綿布4g、ソーダ灰5g、水100mlとして、60℃で30分間処理を行う。反応染料濃度は2%owfであり、浴比は1:25である。
【0051】
▲7▼その後、1.8%セリシン水溶液を100ml加え、80℃で60分間セリシン加工を施す。
【0052】
▲8▼その後、実施例1に示した▲3▼〜▲5▼の処理を行った。
【0053】
対照として、セリシンを加えずに▲7▼の処理を行い、その後全て同じ処理を行った試験布(コントロール)。反応染料濃度を10倍及び1/5倍として▲6▼の処理を行い、その後全て同じ処理を行った試験布(10倍、1/5倍)。
【0054】
実施例1と同様に、酸性染料染色後のK/Sを表2に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
このように、K/S値は加工布とコントロール、反応染料10倍、1/5倍を比較して、顕著な差は見られなかった。このことから、▲6▼の処理で反応染料はそのほとんどが2官能成分ともに綿と反応していると考えられる。
【0057】
以上のことから、反応染料を仲立ちとして染色とセリシンの付着を行うためには、セリシンと反応染料とを反応させることが重要である。
【0058】
従来は架橋剤などを仲介して絹タンパク質成分を繊維表面に付与していたが、本発明では、容易に繊維表面に絹タンパク質成分を付与することができ、さらに、セリシンやフィブロインの性質を反映した手触りを得ることができる。
【0059】
【実施例3】
a)特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法で装置をテクサム技研(株)高温高圧ロータリー染色試験機としてセリシン水溶液を抽出した(濃度1.8%)。
【0060】
b)次いで、セリシン抽出残さを充分水洗後、セリシン抽出と同様に特願2001−370842、特願2001−370846、特願2001−370851に示される方法で装置をテクサム技研(株)高温高圧ロータリー染色試験機としてフィブロイン水溶液を得た。この水溶液の濃度は、0.6%であった。
【0061】
a)とb)の水溶液をそれぞれの成分が1:1となるようにブレンド調製して、
濃度1%の水溶液とした。
【0062】
このように混合調製した水溶液を(絹タンパク調製水溶液)用い、レーヨン紡績糸(20番双糸)に対して、信江工業(株)製 自動噴射式染色機を用いて次のように加工を行った。
【0063】
c)絹タンパク調製水溶液を5%owfとなるように上記の染色機に入れ、さらに水を加え、浴比1:30になるように調製した。
【0064】
d)調製した水溶液に室温で、レーヨン紡績糸を入れ、その温度のまま3分間水溶液に充分馴染ませた後、2官能反応染料(Procion Red MX−5B、三井化学(株))3%owf入れ、染液(染料)とレーヨン紡績糸を3分間馴染ませる。
【0065】
e)その後、30℃まで染液を昇温させて、無水亡硝を100g/Lを投入し、20分間、30℃を保持する。
【0066】
f)ここから徐々に60℃まで染液を昇温させ、60℃になったらソーダ灰を4%owf添加し、その後5分間ごとに2回同量のソーダ灰を添加した。染液を60℃のまま60分間保持し、排水後、40℃で湯洗、充分に水洗を行った後、風乾した。(加工糸)
【0067】
対照糸は、染液に絹タンパク調製水溶液を加えずに処理を行った糸である。(コントロール)
【0068】
表4に動摩擦係数の結果および接触冷温感qmaxの結果を示すが、加工糸の方が動摩擦係数値が小さく絹タンパク付着により、表面のなめらかさが増したことが分かる。
【0069】
【表4】
【0070】
【発明の効果】
以上詳しく説明したとおり、本発明によって、農家毛羽や工場毛羽等の副産物から得られるセリシンやフィブロインを、簡便な手段によって、汎用物品としてのセルロースおよびタンパク質繊維の染色ならびに機能高度化のために利用することのできる方策が提供される。
【0071】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における反射率曲線である。
Claims (9)
- 蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者が反応染料を仲立ちとして繊維基質に付着及び繊維基質が染色されていることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品。
- 副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での毛羽、キャリア(繭から糸が正常に解除され、さらに、順調に繰糸されるようにするために巻き取られた繭外周部の絹糸)及びきびそ(絹の糸口を見つけるため取り除かれる繭最外周部の絹糸)のうちの少なくとも1種から得られたものであることを特徴とする請求項1のセリシン・フィブロイン付着染色物品。
- 多官能反応染料を用いることから、反応染料との反応基を含む物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸などのセルロース繊維、あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸などのタンパク繊維及びこれら1種以上のものの集合品であることを特徴とする請求項1又は2のセリシン・フィブロイン付着染色物品。
- セルロース繊維あるいはタンパク繊維を主成分とする物品を、蚕糸業あるいは製糸工場での副産物である絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者及び反応染料を含む水溶液で接触処理して、セルロース繊維あるいはタンパク繊維を主成分とする物品の表面に絹セリシン又は絹フィブロインもしくはその両者を付着させることを特徴とするセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
- 絹セリシンの分子量は10,000〜200,000であり、絹フィブロインの分子量は5,000〜30,000の範囲であることを特徴とする請求項4のセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
- 100℃以下の温度で水溶液による接触処理を行うことを特徴とする請求項4又は5のセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
- 染色工程に付随して、又はその一部として水溶液による接触処理を行うことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかのセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
- 副産物である絹セリシン又は絹フィブロインは、蚕糸業での農家毛羽、製糸工場での工場毛羽、キャリア及びきびそのうちの少なくとも1種から得られたものであることを特徴とする請求項4ないし7のいずれかのセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
- セルロース繊維あるいはタンパク繊維を主成分とする物品を主成分とする物品は、綿糸、麻糸、レーヨン糸、あるいは絹糸、羊毛糸、獣毛糸及びこれら1種以上のものの集合品であることを特徴とする請求項4ないし8のいずれかのセリシン・フィブロイン付着染色物品の製造方法。
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