JP2004068067A - 銅系合金材、その製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Snを1〜30質量%含有する銅系合金材であって、
前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が主として選択的に除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、
1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である。
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や船舶等の輸送機械、その他の一般産業機械、家電製品、OA機器、或いはガス・水道配管・その他の建築・構築材料や印刷等に使用される銅系合金材に関する。特に、摺動性や耐食性に優れた銅系合金材に関する。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
銅系合金は、熱・電気伝導性が良く、又、耐食性・加工性も良好な為、建築・構築・印刷・電機・自動車などの各種産業分野において利用されている。特に、耐食性・摺動性が良好な為、各種ギヤ、ガイドレール、自動車部品、家電部品、ポンプ、モータ、OA機器などの摺動部品に幅広く使用されている。
【0003】
ところで、潤滑油が使用できない環境や、長期の耐久性が要求される場合には、摺動面に表面処理を施すことが行われている。
【0004】
例えば、高耐候性や汚れ付着防止、撥水性、潤滑性に優れたフッ素樹脂系の塗膜や、耐熱性、耐磨耗性、親水性、光触媒性、遠赤外線反射機能を持つ機能性セラミック膜を設けることが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらの膜は、一般的に、基材である銅系合金との密着性が良くなく、耐久性に乏しい。
【0006】
例えば、特開平5−157115号公報には、焼結銅合金中にポリアミド、ポリイミドなどの樹脂を含浸させる方法が開示されている。しかしながら、この種の樹脂は、焼結銅合金の気孔中への含浸が可能なことから、密着性が良いものの、摺動性の面ではポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素系樹脂に比較して劣っている。この為、十分な摺動性能が得られ無い。そして、ポリアミド、ポリイミドなどの樹脂に代えて潤滑性が良いフッ素系樹脂を用いた場合には、含浸し難く、密着性が良くない。すなわち、PTFEや二硫化モリブデン等の固体潤滑剤は、耐熱性、摺動性に優れているものの、含浸や塗布が困難であり、基材である銅合金材との密着性に劣っている。
【0007】
そこで、密着性を改善する為、銅系合金材を砂やセラミック粒子でブラストすることが考えられた。
【0008】
しかしながら、この技術は、密着性は改善するものの、軟質な銅系合金材にブラスト粒子が刺さる為、この刺さったブラスト粒子によって相手材が摩耗し、又、基材が変形したり、更には耐焼付性や耐久性が低下すると言った新たな問題が起きる。
【0009】
ところで、上記のような潤滑性に優れた皮膜の密着性が改善されたとしても、そもそも、基材である銅系合金材そのものの摺動性能を向上させておくことは大事である。なぜならば、皮膜密着性が高いとしても、不測の事態が起きた場合には、潤滑性皮膜が剥離しないとも限らないからである。すなわち、潤滑性皮膜が剥離しても、基材である銅合金材そのものの摺動性能が高ければ、不測の事態にもそれなりに対応できる確率は高くなる。
【0010】
従って、本発明が解決しようとする課題は、摺動性や耐久性に優れた銅系合金材を提供することである。
【0011】
又、更なる摺動性を得る為に、銅系合金材表面にPTFEや二硫化モリブデンなどの潤滑性皮膜を設けた場合、潤滑性皮膜が強固に密着固定され、無給油環境下や腐食性環境下においても良好な摺動性や耐焼付性が得られる銅系合金材を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決する為の研究を鋭意押し進めて行った結果、厳しい腐食環境下では銅系合金中の亜鉛などの腐食し易い成分(易腐食性成分)が腐食して酸化生成物を作り、これによって焼き付きが速まることが判って来た。又、これを防止する為、PTFEや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤を表面に塗布しても、基材である銅系合金材との密着性が悪く、十分な効果が得られないことも判って来た。
【0013】
そこで、更なる検討を鋭意押し進めて行くうちに、過酸化物、ペルオキソ化合物、クロム酸および過マンガン酸の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を含む溶液を用いて易腐食性成分や酸化生成物を選択的に除去し、この除去によって表面に凹凸を形成した場合、表面に設けられたPTFEや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤による皮膜が前記凹凸に喰い込み、密着性が向上し、しかも腐食性成分が少なくなることから、耐久性(耐食性)も向上していることが判って来た。
【0014】
かつ、上記選択的エッチング液で選択エッチングが行われた場合、銅系合金材がSnを含む場合、このSn成分はエッチングされ難く、銅系合金材の表面層にはSnが多く存在するようになることも判って来た。そして、表面層にSnが多く残っていると、摺動性が一段と向上することも判った。
【0015】
このような知見に基づいて本発明がなされたものである。すなわち、Snを含有する銅合金をSnが残るように選択エッチングした場合、表面層に多く残存するSnの作用によって、銅系合金材そのものの摺動性が向上し、しかも表面層からは腐食性成分が少なくなることから、耐久性(耐食性)も向上し、更には、潤滑性皮膜をその上に設けた場合、選択エッチングによって形成された凹凸に皮膜が喰い込み、密着性は向上し、摺動性(潤滑性)に優れたものとなることが判り、これに基づいて本発明が達成されたものである。
【0016】
すなわち、上記の課題は、Snを含有する銅系合金材であって、
前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、
1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である
ことを特徴とする銅系合金材によって解決される。
【0017】
特に、Snを含有する銅系合金材であって、
前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が主として選択的に除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、
1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である
ことを特徴とする銅系合金材によって解決される。
【0018】
更には、上記凹凸部が形成された銅系合金材の表面に金属リン酸塩および/または金属酸化物が設けられてなる銅系合金材によって解決される。
【0019】
更には、表面の中心線平均粗さRaが0.5〜5μmである銅系合金材によって解決される。
【0020】
又、Snを含有する銅系合金材の製造方法であって、
前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する
ことを特徴とする銅系合金材製造方法によって解決される。
【0021】
特に、Snを1〜30質量%の割合で含有する銅系合金材の製造方法であって、
前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する
ことを特徴とする銅系合金材製造方法によって解決される。
【0022】
本発明のSn含有銅系合金材表面の凹凸部は、選択的化学エッチング液で銅系合金材を処理することで形成される。尚、合金がSn−Cuの場合には、Cuが選択的にエッチングされて凹凸が形成される。合金が更にZn,Pb等をも含む場合には、ZnやPbが優先的にエッチングされる。つまり、Snがエッチングされずに残存するようになり、凹凸が形成される。そして、この凹凸の凸の部分におけるSn含有割合がそれより下層におけるSn含有割合より相対的に高くなる。処理液の温度や処理時間は特に限定されないが、例えば室温〜50℃の温度で、1〜10分程度の時間である。これによって、表面の中心線平均粗さRaが0.5〜5μm、好ましくは0.7〜2.5μmのものが得られる。
【0023】
この選択的化学エッチング液としては、好ましくは過酸化物、ペルオキソ化合物、クロム酸および過マンガン酸の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を含む溶液である。特に、過酸化物やペルオキソ化合物を含む水溶液である。ペルオキソ化合物としては、例えばペルオキソ硫酸、ペルオキソりん酸、ペルオキソバナジン酸、ペルオキソニオブ酸、ペルオキソタンタル酸、ペルオキソほう酸、ペルオキソチタン酸、ペルオキソタングステン酸、ペルオキソモリブデン酸、ペルオキソクロム酸などやこれらの可溶性塩が好ましい。特に、ペルオキソ硫酸やその塩である。中でも、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩は特に好ましい。好ましい過酸化物は過酸化水素である。これらの水溶液における過酸化物やペルオキソ化合物等の好ましい濃度は1〜30質量%、特に3〜20質量%である。これは、濃度が低すぎると、易腐食性成分や酸化物の選択除去効果が小さく、逆に、濃度が高すぎると、結晶が析出し、液が不安定となるからである。
【0024】
選択的化学エッチング液には、過酸化物あるいはペルオキソ化合物と共に、りん酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ジルコンフッ酸、チタンフッ酸、チタン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、ニオブ酸、及び有機キレート剤(銅に対してキレート効果を持つものが好ましく、例えば酒石酸、クエン酸、EDTA、有機ホスホン酸、フィチン酸など)の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物も含まれているのが好ましい。
【0025】
好ましい組み合わせの選択的化学エッチング液としては、例えばリン酸−ペルオキソ硫酸、ペルオキソりん酸−硫酸、りん酸−過酸化水素、酒石酸−過酸化水素、りん酸−硝酸−過酸化水素、硫酸−過酸化水素などの水溶液である。
【0026】
選択的化学エッチング液のpHは、特に好ましくは1〜5である。このpH調整は、アンモニア水、炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを適宜用いることで行える。
【0027】
本発明において、特に過酸化物やペルオキソ化合物を用いるのは、ブラスト処理による機械的な表面粗化方法や、通常の酸とかアルカリによる化学エッチングでは、易腐食性成分や酸化物の選択除去が出来ず、過酸化物やペルオキソ化合物等を用いることによって、易腐食性成分や酸化物の選択除去が効果的に出来、この選択除去された表面上に設けられた皮膜に対するアンカー効果が非常に高かったからである。
【0028】
上記選択的化学エッチング液には、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、銅、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウム、インジウム、及びクロムの群の中から選ばれる一種または二種以上の金属イオンを含んでいるのが好ましい。例えば、上記金属の硫酸塩、酢酸塩、塩化物、リン酸塩、炭酸塩、酸素酸塩、若しくは水酸化物と言った金属イオン水溶液の形態で含んでいるのが好ましい。若しくは酸化物のコロイドゾルと言った形態のものであっても良い。これにより、選択的化学エッチングを受けて凹凸が形成されている銅系合金材の表面に、金属リン酸塩および/または金属酸化物の層が設けられる。好ましい厚さは0.1〜2μm、特に0.2〜1μmである。そして、この層によって、耐食性が向上し、かつ、上層の皮膜の密着性が向上する。
【0029】
上記処理(選択的化学エッチング処理あるいは金属リン酸塩および/または金属酸化物層形成処理)が終わった後、速やかに水洗し、銅系合金材に残存する酸を除去することは好ましい。例えば、銅系合金材に酸が残存すると、耐食性低下の原因となる。特に、超音波洗浄すると、銅系合金材表面に残存しているスマット等も除去され、より密着性に優れた表面が得られる。
【0030】
上記水洗処理の後、アルカノールアミン等の有機アルカリ化合物を含む水溶液で処理することが好ましい。これによって、前工程における合金中に残存した酸が中和され、耐食性が向上する。かつ、この上に形成される皮膜の密着性が向上する。有機アルカリ化合物としては、分子構造中に少なくとも一つのアミノ基を有する低分子化合物が好ましい。例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの外、モルホリンやこれらの誘導体、各種アミノ基を有するアルコキシシランが挙げられる。これらの化合物は、表面の固体潤滑性皮膜の密着性や塗料の濡れ性を高め、実用上さらに優れた効果を与える。
【0031】
上記のようにして処理された銅系合金材の表面に潤滑性皮膜、特に固体潤滑剤系皮膜が設けられる。
【0032】
この皮膜としては、固体潤滑剤を含む塗膜がある。固体潤滑剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(TPA)、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化タングステン、窒化チタン等が挙げられる。塗膜のバインダ成分としては、例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアクリル、ポリアミドやポリイミド、更にはシリケート等の熱可塑性樹脂を適宜用いることが出来る。これらの塗料としては、例えば日本パーカライジング(株)製のFL−J4668や川邑研究所(株)製のEB3,LHF4B等を用いることが出来る。そして、これら各種の成分を含む塗料をスプレー法、ディップ法やロールコータ法などにより塗布し、焼き付けることによって塗膜が得られる。塗膜の厚みは、例えば2〜20μm、特に1〜10μmが好ましい。
【0033】
本発明が対象とする銅系合金材はSnを含有する銅合金である。好ましくは、Sn含有量が1〜30質量%(特に、3〜20質量%)で、かつ、銅含有量が20〜99質量%(特に、50〜90質量%)の銅合金である。勿論、Sn,Cu以外にも、Zn,Ni,Pbなどが含まれていても良い。これは、目的とする製品の要求によって決まる。例えば、BC2(Sn,Zn含有)、BC1,BC6(Sn,Pb,Zn含有)等の青銅鋳物、PBC2(Sn,P含有)等のりん青銅鋳物、C4250等のSn含有黄銅などがある。
【0034】
尚、選択的化学エッチング処理に先だって、脱脂洗浄などによって予め銅系合金材表面の付着油分を除去しておくことは好ましい。
【0035】
そして、上記のようにして得られた複合材は、耐久性や耐焼付性(摺動性)が大幅に向している。
【0036】
【発明の実施の形態】
本発明になる銅系合金材は、Snを含有する銅系合金材であって、前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である。特に、Snを含有する銅系合金材であって、前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が主として選択的に除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である。特に、前記の値は、1.1〜50、更には1.2以上、更には2以上であって、20以下である。更には、上記凹凸部が形成された銅系合金材の表面に金属リン酸塩および/または金属酸化物が設けられてなる。
【0037】
本発明になる銅系合金材製造方法は、Snを含有する銅系合金材の製造方法であって、前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する方法である。特に、Snを1〜30質量%の割合で含有する銅系合金材の製造方法であって、前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する方法である。
【0038】
本発明のSn含有銅系合金材表面の凹凸部は、選択的化学エッチング液で銅系合金材を処理することで形成される。尚、合金がSn−Cuの場合には、Cuが選択的にエッチングされて凹凸が形成される。合金が更にZn,Pb等をも含む場合には、ZnやPbが優先的にエッチングされる。つまり、Snがエッチングされずに残存するようになり、凹凸が形成される。そして、この凹凸の凸の部分におけるSn含有割合がそれより下層におけるSn含有割合より相対的に高くなる。処理液の温度や処理時間は特に限定されないが、例えば室温〜50℃の温度で、1〜10分程度の時間である。これによって、表面の中心線平均粗さRaが0.5〜5μm、特に0.7〜2.5μmのものが得られる。
【0039】
選択的化学エッチング液としては、好ましくは過酸化物、ペルオキソ化合物、クロム酸および過マンガン酸の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を含む溶液である。特に、過酸化物やペルオキソ化合物を含む水溶液である。ペルオキソ化合物としては、例えばペルオキソ硫酸、ペルオキソりん酸、ペルオキソバナジン酸、ペルオキソニオブ酸、ペルオキソタンタル酸、ペルオキソほう酸、ペルオキソチタン酸、ペルオキソタングステン酸、ペルオキソモリブデン酸、ペルオキソクロム酸などやこれらの可溶性塩が用いられる。特に、ペルオキソ硫酸やその塩である。中でも、ペルオキソ二硫酸のアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩は特に好ましい。好ましい過酸化物は過酸化水素である。これらの水溶液における過酸化物やペルオキソ化合物等の好ましい濃度は1〜30質量%、特に3〜20質量%である。
【0040】
選択的化学エッチング液には、過酸化物あるいはペルオキソ化合物と共に、りん酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ジルコンフッ酸、チタンフッ酸、チタン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、ニオブ酸、及び有機キレート剤(有機キレート剤としては特に限定されないが、銅に対してキレート効果を持つものが好ましく、例えば酒石酸、クエン酸、EDTA、有機ホスホン酸、フィチン酸など)の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物も含まれる場合がある。好ましい組み合わせの選択的化学エッチング液は、例えばリン酸−ペルオキソ硫酸、ペルオキソりん酸−硫酸、りん酸−過酸化水素、酒石酸−過酸化水素、りん酸−硝酸−過酸化水素、硫酸−過酸化水素などの水溶液である。選択的化学エッチング液のpHは、特に、1〜5である。このpH調整は、アンモニア水、炭酸アンモニウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリを適宜用いることで行える。上記選択的化学エッチング液には、場合によっては、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、銅、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウム、インジウム、及びクロムの群の中から選ばれる一種または二種以上の金属イオンを含む。例えば、上記金属の硫酸塩、酢酸塩、塩化物、リン酸塩、炭酸塩、酸素酸塩、若しくは水酸化物と言った金属イオン水溶液の形態で含む。若しくは酸化物のコロイドゾルと言った形態のもので含む。これにより、選択的化学エッチングを受けて凹凸が形成されている銅系合金材の表面に、厚さが0.1〜2μm、特に0.2〜1μmの金属リン酸塩および/または金属酸化物の層が設けられる。
【0041】
上記処理(選択的化学エッチング処理あるいは金属リン酸塩および/または金属酸化物層形成処理)が終わった後、速やかに水洗、特に超音波洗浄し、銅系合金材に残存する酸を除去する。上記水洗処理の後、場合によっては、アルカノールアミン等の有機アルカリ化合物を含む水溶液で処理する。有機アルカリ化合物としては、分子構造中に少なくとも一つのアミノ基を有する低分子化合物が用いられる。例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンの外、モルホリンやこれらの誘導体、各種アミノ基を有するアルコキシシランが用いられる。
【0042】
上記のようにして処理された銅系合金材の表面に潤滑性皮膜、特に固体潤滑剤系皮膜が設けられる。固体潤滑剤としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(TPA)、グラファイト、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化タングステン、窒化チタン等が挙げられる。塗膜のバインダ成分としては、例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリアクリル、ポリアミドやポリイミド、更にはシリケート等の熱可塑性樹脂を適宜用いることが出来る。これらの塗料としては、例えば日本パーカライジング(株)製のFL−J4668や川邑研究所(株)製のEB3,LHF4B等を用いることが出来る。そして、これら各種の成分を含む塗料をスプレー法、ディップ法やロールコータ法などにより塗布し、焼き付けることによって塗膜が得られる。塗膜の厚みは、例えば2〜20μm、特に1〜10μmである。
【0043】
本発明が対象とする銅系合金材はSnを含有する銅合金である。好ましくは、Sn含有量が1〜30質量%(特に、3〜20質量%)で、かつ、銅含有量が20〜99質量%(特に、50〜90質量%)の銅合金である。勿論、Sn,Cu以外にも、Zn,Ni,Pbなどが含まれていても良い。これは、目的とする製品の要求によって決まる。例えば、BC2(Sn,Zn含有)、BC1,BC6(Sn,Pb,Zn含有)等の青銅鋳物、PBC2(Sn,P含有)等のりん青銅鋳物、C4250等のSn含有黄銅などがある。
【0044】
尚、選択的化学エッチング処理に先だって、脱脂洗浄などによって予め銅系合金材表面の付着油分を除去しておく。
【0045】
以下、具体的な実施例を比較例と共に挙げて説明する。
【実施例】
用いた銅系合金材の組成を下記の表−1に示す。
【0046】
そして、これらの銅系合金材を切断し、機械加工して試験片を作製し、この試験片をアルカリ脱脂剤(FC−315:日本パーカライジング(株)製)を使用して濃度20g/l,60℃で2分間脱脂、水洗した。そして、実施例では下記に示す選択的化学エッチング処理を行った。尚、下記で用いた試薬は和光純薬(株)製の試薬1級品であり、希釈に用いた水は脱イオン水である。
【0047】
[実施例1]
上記の銅系合金材No1を、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(濃度8質量%)水溶液に27℃で180秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0048】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0049】
[実施例2]
上記の銅系合金材No1を、過酸化水素(濃度0.5質量%)と硫酸(濃度5質量%)とを含む水溶液に27℃で60秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0050】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0051】
[実施例3]
上記の銅系合金材No2を、ペルオキソリン酸ナトリウム(濃度5質量%)とリン酸(10質量%)とを含む水溶液に27℃で120秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0052】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0053】
[実施例4]
上記の銅系合金材No2を、過酸化水素(濃度2質量%)とリン酸(濃度8質量%)とを含む水溶液に27℃で300秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0054】
次いで、リン酸(5質量%)と硫酸ニッケル(2質量%)とを含む水溶液に45℃で60秒間浸漬し、そして超音波(25KHz×30秒)水洗した。
【0055】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0056】
[実施例5]
上記の銅系合金材No3を、過酸化水素(濃度0.8質量%)とジルコンフッ酸(濃度2質量%)とを含む水溶液に27℃で240秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0057】
次いで、りん酸(濃度10質量%)と硝酸亜鉛(濃度2質量%)と硝酸カルシウム(濃度1質量%)とを含む水溶液に45℃で60秒間浸漬し、そして水洗した。
【0058】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0059】
[実施例6]
上記の銅系合金材No3を、バナジン酸(濃度5質量%)と過酸化水素(濃度2質量%)とを含む水溶液に27℃で180秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0060】
次いで、モノエタノールアミン(濃度0.5質量%)水溶液中に15秒間浸漬し、引き上げてから120℃で10秒間乾燥した。
【0061】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0062】
[実施例7]
上記の銅系合金材No4を、フッ化水素酸(濃度5質量%)と過酸化水素(濃度1質量%)とを含む水溶液に27℃で300秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0063】
次いで、クロム酸(濃度3質量%)と硝酸(濃度0.5質量%)とを含む水溶液に45℃で60秒間浸漬し、そして水洗した。
【0064】
次いで、トリエタノールアミン(濃度0.5質量%)水溶液中に15秒間浸漬し、引き上げてから120℃で10秒間乾燥した。
【0065】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0066】
[実施例8]
上記の銅系合金材No4を、ペルオキソ二硫酸カリウム(濃度5質量%)と酒石酸(濃度5質量%)とを含む水溶液に27℃で180秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0067】
次いで、リン酸(濃度5質量%)と水酸化マグネシウム(濃度2質量%)とを含む水溶液に45℃で60秒間浸漬し、そして超音波(25KHz×30秒)水洗した。
【0068】
次いで、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(濃度1質量%)水溶液中に15秒間浸漬し、引き上げてから120℃で10秒間乾燥した。
【0069】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0070】
[比較例1]
上記の銅系合金材No1に何らの処理も施さないで、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0071】
[比較例2]
上記の銅系合金材No1を、硫酸(濃度15質量%)水溶液に27℃で240秒間浸漬し、そして流水で洗浄した。
【0072】
この後、日本パーカライジング(株)製のFL−J4668(主成分はPTFE)を乾燥厚が3μmとなるようにスプレーガンで塗布し、200℃で焼き付けた。
【0073】
[特性]
上記各例で得たものについて、(銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)[Sn比]を調べたので、その結果を表−1に示す。又、皮膜を設ける前であって、エッチング処理後の銅系合金材の摺動性を調べたので、これについても併せて表−1に示す。又、エッチング処理後における銅系合金材表面における凹凸性の有無(多孔質性の有無および選択的エッチングの有無)を調べたので、これについても併せて表−1に示す。
【0074】
又、潤滑膜の密着性、耐食性、摺動性を調べたので、その結果を表−2に示す。
【0075】
Sn比:島津製作所(株)製XPS;ESCA850型を使用して表面層の組成分析を行い、原始比から質量%を算出した数値を基にしてSn比を算出した。
銅系合金材表面の特性:化学エッチング後の表面における多孔質性の有無は、日本電子(株)製の走査型電子顕微鏡を用いて凹凸性を調べた。
摺動性:SRV摩擦磨耗試験機を使用し、焼き付きが発生するまでの荷重(N)が5000N以上のものを◎、4000〜5000Nのものを○、2000〜4000Nのものを△、2000N未満のものを×で表示した。荷重は50N/minの速度でステップアップし、振動数が50Hz、振幅が2mm、相手剤として10mmφのSUJ−2製鋼球を使用した。尚、潤滑剤は使用しなかった。
【0076】
密着性:カッターナイフを使用し、1mm各の碁盤目を100個カットしてセロハン粘着テープを貼り付け、引き剥がして全く剥離しなかったものを◎、3個以内のものを○、4〜20個剥離したものを△、20個を超えて剥離したものを×で表示した。
耐食性:JIS−K5400塩水噴霧試験法に準じて耐食性試験を行い、480時間錆の発生が認められなかったものを合格(○)とし、錆の発生が認められたものを不合格(△)とした。
摺動性:SRV摩擦磨耗試験機を使用し、焼き付きが発生するまでの荷重(N)が5000N以上のものを◎、4000〜5000Nのものを○、2000〜4000Nのものを△、2000N未満のものを×で表示した。荷重は50N/minの速度でステップアップし、振動数が50Hz、振幅が2mm、相手剤として10mmφのSUJ−2製鋼球を使用した。尚、潤滑剤は使用しなかった。
【0077】
これによれば、本発明になる複合材は、選択的化学エッチング液による処理によって、銅系合金材における銅系合金に含まれる易腐食性成分や酸化物が除去され、銅系合金材表面に多孔質性の凹凸が形成されており、このような特徴の凹凸が形成されている為、その上に設けられた皮膜の密着性に優れており、かつ、耐食性や摺動性にも優れていることが判る。
【0078】
又、選択的化学エッチング液による処理によって、銅系合金材表面層におけるSn含有割合が高くなっており,このSn効果によって摺動性が向上していることが判る。
【0079】
尚、比較例2からも判る通り、単なるエッチングでは選択的化学エッチングが行われず、即ち多孔質性の凹凸が形成されておらず、しかも表面層におけるSn割合は高くなっておらず、摺動性は向上していない。又、このような表面特性を持つ基材の上に実施例と同様な皮膜が設けられても、皮膜の密着性は悪く、しかも耐食性・摺動性も劣っている。
【0080】
【発明の効果】
Sn効果によって摺動性が向上する。かつ、表面層から易腐蝕性成分が除去されているので、耐久性にも富む。更には、PTFEや二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤の膜を強固に密着固定でき、無給油環境下や腐食性環境下においても良好な摺動性や耐焼付性の銅系合金材が得られる。
Claims (11)
- Snを含有する銅系合金材であって、
前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、
1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である
ことを特徴とする銅系合金材。 - Snを含有する銅系合金材であって、
前記銅系合金材における銅系合金に含まれるSn以外の成分が主として選択的に除去されて該銅系合金材表面層に凹凸部が形成されており、
1.05≦(前記銅系合金材の表面層に形成された凹凸部が形成された領域におけるSn含有割合)/(前記銅系合金材の表面層の凹凸部が形成されていない領域におけるSn含有割合)である
ことを特徴とする銅系合金材。 - 銅系合金材表面の中心線平均粗さRaが0.5〜5μmであることを特徴とする請求項1又は請求項2の銅系合金材。
- 銅系合金材のSn含有量が1〜30質量%であることを特徴とする請求項1〜請求項3いずれかの銅系合金材。
- 銅系合金材表面の凹凸部は、過酸化物、ペルオキソ化合物、クロム酸および過マンガン酸の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を含む溶液で処理することにより形成されたものであることを特徴とする請求項1〜請求項4いずれかの銅系合金材。
- 凹凸部が形成された銅系合金材の表面に金属リン酸塩および/または金属酸化物が設けられてなることを特徴とする請求項1〜請求項5いずれかの銅系合金材。
- Snを含有する銅系合金材の製造方法であって、
前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する
ことを特徴とする銅系合金材製造方法。 - Snを1〜30質量%の割合で含有する銅系合金材の製造方法であって、
前記Snを含有する銅系合金材を選択的化学エッチング液で処理する
ことを特徴とする銅系合金材製造方法。 - 選択的化学エッチング液が過酸化物、ペルオキソ化合物、クロム酸および過マンガン酸の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を含む溶液であることを特徴とする請求項7又は請求項8の銅系合金材製造方法。
- 選択的化学エッチング液が、りん酸、硫酸、硝酸、塩酸、フッ化水素酸、ジルコンフッ酸、チタンフッ酸、チタン酸、モリブデン酸、タングステン酸、バナジン酸、ニオブ酸、及び有機キレート剤の群の中から選ばれる一種または二種以上の化合物を更に含む溶液であることを特徴とする請求項9の銅系合金材製造方法。
- 選択的化学エッチング液が、亜鉛、カルシウム、マグネシウム、マンガン、ニッケル、コバルト、モリブデン、タングステン、銅、錫、チタン、ジルコニウム、バナジウム、インジウム、及びクロムの群の中から選ばれる一種または二種以上の金属イオンを更に含む溶液であることを特徴とする請求項9又は請求項10の銅系合金材製造方法。
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