JP2004049176A - 生体細胞の培養基板、生体細胞の培養方法、生体細胞の死誘導部材、生体細胞の死誘導方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】生体細胞の培養を行うための生体細胞の培養基板において、基板1表面の少なくとも一部を直接処理して基板1表面に複数の微小突起1aから成る微小突起群を形成し、且つ形成する各微小突起1aの高さH及び密度を制御することにより、基板1に接触した生体細胞の態様をコントロールすることができる。また、前記各微小突起1aの高さHを数nm〜数十nmとし且つ相互の間隔が数十nm〜数百nmの密度で微小突起群を形成した場合には、前記微小突起群に接触した範囲の生体細胞のみを死に誘導することができる。前記微小突起群は、基板1上で生体細胞を培養する部位を包囲するように形成しても良い。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の動植物の細胞や組織等(以下、「生体細胞」と称する)のパターンニング化,ネットワーク形成や、組織(例えば、人工皮膚,人工臓器等)化などを行う際に使用するものであり、生体細胞の生死をコントロールする、生体細胞の死誘導部材と死誘導方法及び培養基板と培養基板を用いた生体細胞の培養方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
多くの生体細胞は、何かに接着して生育する接着依存性を有しており、浮遊状態では長期間生存することができない。そのため、生体細胞の接着・非接着等を制御する技術の開発は、生体細胞・組織の状態を制御して培養することにつながり、単なる生体細胞の培養や、培養した生体細胞による物質生産に利用されるばかりでなく、例えば生体細胞の生化学的現象や性質の解明、生体細胞・組織を用いた薬剤の生活活性や毒性の解明、特定の細胞活動により人工的に合成が困難(又は不可能)な物質生産,組織構築等への利用が考えられ、医学,薬学,環境,臨床,バイオ研究等を始めとする幅広い分野において極めて重要である。
【0003】
そして近年、種々の生体細胞を培養する方法が研究されているが、生体細胞の基板への付着性をコントロールする技術としては、細胞接着因子等の介在物質を利用した方法や化学的方法による基板表面の疎水化・親水化を利用した方法が中心である。例えば特許第2609556号には、神経細胞の分化形態制御を行うために、プラスチツク基質にフォトレジストのパターンを形成し、アンモニアプラズマ処理を行った後、グルタルアルデヒド溶液と反応させ、次いでラミニン、コラーゲン等の細胞接着性蛋白質をコートし、最後にフォトレジストを除去することにより、培養基質の神経細胞に対する親和性が強くなる部分をパターン化し形成することが開示されている。
【0004】
また特許第2609073号公報には、疎水性(細胞非接着性)の基板表面に細胞接着性の親水性高分子を有する化合物を含んだ感光性組成物をパターン状に固定化して、又は高分子を固定したことにより細胞接着性を有する基板表面に細胞非接着性親水性高分子を有する化合物を含んだ感光性組成物をパターン状に固定化して、細胞接着性表面および細胞非接着性表面よりなる配列パターンを有する細胞の配列制御用具、及びこの細胞の配列制御用具を用いた細胞の配列制御法が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、現在知られている生体細胞の培養方法は、表面に細胞接着因子等介在物質を固定したり、表面に化学的方法によって疎水化・親水化を施した培養基板を用いていることから、表面の安定性や均一性の問題から、培養基板の繰り返し利用が出来ず、また培養期間中に接着性等が変化してしまうという問題があり、長期間の生体細胞の培養や、生体細胞の接着・非接着を完全に仕分けてパターンニングすることは困難であり、細胞パターンニング,細胞ネットワーク形成,組織形成等への応用には大きな制限があった。
【0006】
そこで、本発明は、繰り返し利用が可能で、実用性(取扱容易性や耐久性)が有り、局所的な生体細胞・組織の死誘導を確実にコントロールすることで、生体細胞のパターンニング、ネットワーク化及び組織構築等を可能とする生体細胞の死誘導部材と死誘導方法及び培養基板と培養基板を用いた生体細胞の培養方法を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これまでの生体細胞の培養方法による問題点に鑑み鋭意研究を重ねた結果、生体細胞が基板表面の微細構造(基板表面に形成された微小突起)に反応し、形成する微小突起の高さや密度によっては生体細胞が死に至って基板から離脱する死誘導を制御できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち本発明は、生体細胞の培養を行うための生体細胞の培養基板において、基板表面の少なくとも一部を直接処理して基板表面に複数の微小突起から成る微小突起群を形成し、且つ形成する各微小突起の高さ及び密度を制御することにより、基板に接触した生体細胞の態様をコントロールする生体細胞の培養基板(第1発明)、あるいは、この生体細胞の培養基板において各微小突起の高さを数nm〜数十nmとし且つ相互の間隔が数十nm〜数百nmの密度で微小突起群を形成することにより、前記微小突起群に接触した範囲の生体細胞のみを死に誘導する生体細胞の培養基板(第2発明)、あるいは、これらの生体細胞の培養基板において、微小突起群を、基板上で生体細胞を培養する部位を包囲するように形成した生体細胞の培養基板(第3発明)に関するものである。
【0009】
また、前記の第1乃至第3発明の何れかの生体細胞の培養基板を用いて、生体細胞を培養する生体細胞の培養方法に関するものである。
【0010】
更に、基板表面を直接処理することによって複数の微小突起から成る微小突起群を形成し、各微小突起の高さを数nm〜数十nmとし、且つ相互の間隔を数十nm〜数百nmの密度とした生体細胞の死誘導部材(第5発明)、あるいは生体細胞に第5発明の生体細胞の死誘導部材を接触させることにより、死誘導部材の微小突起群に接触した範囲の生体細胞のみを死に誘導する生体細胞の死誘導方法(第6発明)に関するものである。
【0011】
そして、前記手段を使用して生体細胞の死誘導をコントロールし、またコントロールして生体細胞を培養することにより、生体細胞のパターンニング,生体細胞のネットワーク化,組織構築等を行うものである。
【0012】
なお、ここで生体細胞の死誘導部材(又は培養基板)に用いられる基板材料としては、ガラスや結晶,金属,樹脂などの種々の材料の基板を用いることができ、結晶としては高配向性グラファイト(HOPG),ガリウムひ素(GaAs),シリコングラファイト,酸化インジウム,グラッシーカーボンなど、金属としてはチタン,白金,金など、樹脂としてはポリスチレン,ポリエチレンなどを用いることができる。
【0013】
また、生体細胞の死誘導部材(又は培養基板)の基板表面を直接処理して直接微小突起を形成する方法としては、結晶成長、エッチング、型抜き、機械加工、レーザー加工などの既知の任意の方法を用いることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明の発明者らは、生体細胞の培養の研究を行っている過程で、哺乳類の生体細胞が、基板表面のナノメートルサイズ微細構造(基板表面に形成された微小突起)に反応することを見出した。
【0016】
〈実施形態1〉
そこで、この基板表面の微小突起群の高さ,密度等を種々に変更して、生体細胞の変化を観察する実験を行った。
【0017】
図1は微小突起群の形成された基板表面を概念的に示したものであり、図1中の1はGaAsから成る基板で、基板1の表面には複数の微小突起1aから成る微小突起群が形成されている。
【0018】
微小突起1aから成る微小突起群は、GaAsの基板1の上に約480℃程度の温度においてInAsを堆積させると数秒でGaAs基板とInAsから成る上層との格子定数の差による歪みのために上層のInAsが自己組織化(歪みエネルギーを小さくするように構造が変化)することで形成することができる。このときに、上層の堆積量と温度とを調整することで、微小突起のサイズと密度を制御することができ、nmサイズの高さの微小突起を形成することもできる。
【0019】
次に、前記方法により種々の高さ,密度で微小突起1aを形成した基板1を各々シャーレ内にセットし、各基板1上に各々生体細胞としてマウス小脳由来神経芽細胞を載置して細胞数の時間的変化を確認する実験を行った。このときの、実験の条件は以下の通りとした。
【0020】
・細胞種:マウス小脳由来神経芽細胞
・細胞径:平均25マイクロメートル
・初期細胞数:約1×105/ml
・培養液:FBS(fetal bovine serum:牛胎児血清)含有ダルベッコ改変培地
・培養環境条件:温度37℃、5%炭酸ガス雰囲気
・培養状態:前記培養環境条件における静置培養
・細胞数の確認方法:顕微鏡目視計数とトーマ型細胞計算板の併用
実験の結果、ひとつの基板1において、時間の変化と共に生体細胞が萎縮し、生存細胞数が急激に減少していることが確認された。
【0021】
その基板1における細胞数の時間的変化を図2のグラフに示す。図2に示すように、実験開始後約10分迄の間に大半の生体細胞がアポトーシス(細胞の自然死)して基板より離脱し、約17分を経過した時点で、全ての生体細胞が死滅していることが確認された。
【0022】
そして、図2の結果を示した基板1表面を確認したところ、図1中における高さHが数nm〜数十nmの微小突起1aが、相互の間隔Lが数十nm〜数百nmとなる密度で形成されていた。
【0023】
この結果から、高さ(H)が数nm〜数十nmオーダーの微小突起1aを、相互の間隔(L)が数十nm〜数百nmオーダーの密度で形成した基板1には、基板1に接触した生体細胞をアポトーシスにより死に至らしめる死誘導作用があるものと考えられる。
【0024】
<実施形態2>
そこで次に、図3(a)に示すように部分的に微小突起1aから成る微小突起群を形成した基板1上に、図3(b)に示すように他で培養した生体細胞(マウス小脳由来神経芽細胞)2を載置して観察を行った。なお、観察する際の条件は、実施形態1での実験条件と同様とした。
【0025】
その結果、図3(c)に示すように微小突起1aの形成された部位の生体細胞2のみがアポトーシスにより死に至り、基板1から剥離する現象が確認された。
【0026】
また、同じ基板1を用いて生体細胞の培養を行ったところ、微小突起1aの形成された部位の生体細胞は成長することなく死に至り、結果的には図3(c)と同様に微小突起1aの形成されていない部位のみで生体細胞の成長が確認された。
【0027】
そして、基板1に所要のパターンを残して微小突起1aを形成し、その基板1上に培養した生体細胞を載置する、若しくはその基板1を用いて生体細胞を培養することにより、生体細胞のパターンニングを行ったり、また生体細胞の周囲を囲むように微小突起1aを形成することで、増えすぎた生体細胞は微小突起1aに接触して死に至って剥離して、微小突起1aで囲んだ範囲内に一定数の生体細胞を保持することも可能であることが判った。
【0028】
以上のようにこの技術を用いて生体細胞を任意にパターンニングすることにより、生体細胞のネットワーク化及び組織構築等を行うことや、定数細胞を所定位置に配した生体細胞のチップ化なども可能であると考えられる。
【0029】
<実施形態3>
更に次に、表面に高さHが数nm〜数十nmの微小突起1aを、相互の間隔Lが数十nm〜数百nmオーダーの密度で形成した基板1を、図4(a)に示すようにロッド3先端に設置し、これをプローブ4として図4(b)に示すように生体細胞(小脳組織)2表面に60分間密着させ、その後、密着させていた部分の組織界面の状態を顕微鏡および染色により確認する実験を行った。
【0030】
その結果、組織中の基板1が接触(密着)していた部位の生体細胞2aのみに萎縮が認められ、その部分の生体細胞のみが図4(c)に示すようにアポトーシスしていることが確認された。
【0031】
即ちこの結果から、表面に高さ数nm〜数十nmオーダーの微小突起1aを、数十nm〜数百nmオーダーの密度で形成した基板1は生体細胞の死誘導部材として用いることができ、これを生体細胞に接触させることで、生体細胞の組織界面の死誘導部材の接触した部位の細胞のみをアポトーシスにより死に至らしめることができる。また、例えば任意に培養した生体細胞に所要のパターンのみを残してこの生体細胞の死誘導部材を接触させることで、生体細胞のパターンニング等にも利用可能であると考えられる。
【0032】
更に、この死誘導部材の使用方法は、生体内(in vivo)でも適用できるものであることから、例えば癌細胞等に用いることで健全な細胞を傷付けずに癌細胞だけを死滅させることも可能と考えられ、将来的には癌治療等への活用が期待できる。
【0033】
以上各実施形態により説明した生体細胞の死誘導の作用は、特定の細胞種に限定するものではなく、動植物などの種々の細胞,組織に有効である。
【0034】
なお、各実施形態においては、生体細胞の培養基板(又は死誘導部材)に用いられる基板材料としてGaAs等を用いたが、その他にガラスや結晶,金属,樹脂などの種々の材料の基板を用いることができ、結晶としては高配向性グラファイト(HOPG),ガリウムひ素,シリコングラファイト,酸化インジウム,グラッシーカーボンなど、金属としてはチタン,白金,金など、樹脂としてはポリスチレン,ポリエチレンなどを用いることができる。
【0035】
また、基板1上に微小突起1aを形成するにあたり、前記の方法においてInAsに代えてInGaAsを用いても良い。また、基板1上に微小突起1aから成る微小突起群を形成する他の方法としては、GaAs基板の上にGa金属を約300℃程度の温度で薄く堆積させ、濡れ性によりGaが半球状になって付着したところにAsを照射することにより、GaボールにAsが入り込んで、ナノメートルサイズのピラミッド状GaAs微小突起を形成することも出来る。この方法においても、堆積量と温度を調整することにより微小突起のサイズと密度を制御することができる。更に、結晶成長、エッチング、型抜き、機械加工、レーザー加工などの既知の任意の方法を用いることもできる。
【0036】
【発明の効果】
以上のように本発明の生体細胞の培養基板及び死誘導部材は、局所的な生体細胞の死誘導を確実にコントロールでき、また基板材料を直接表面処理して形成した微小突起群、即ちその微小な構造によるものであるため、繰り返し利用が可能で、実用性(取扱容易性や耐久性)を有し、長期間の生体細胞の培養や、パターンニングなどを容易に実現できるので、生体細胞ネットワーク形成,組織形成等が可能であり、また生体細胞の死誘導部材においては、生体内での使用、例えば癌治療等への活用も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態1の基板1表面の概念図。
【図2】実施形態1の時間的変化に対する細胞数変化特性図。
【図3】実施形態2の微小突起群が形成された基板1上で行った実験の概略説明図。
【図4】実施形態3の基板1が設置されたプローブ4を用いて行った実験の概略説明図。
【符号の説明】
1…基板
1a…微小突起
2…生体細胞
3…ロッド
4…プローブ
Claims (6)
- 生体細胞の培養を行うための生体細胞の培養基板において、
基板表面の少なくとも一部を直接処理して基板表面に複数の微小突起から成る微小突起群を形成し、且つ形成する各微小突起の高さ及び密度を制御することにより基板に接触した生体細胞の態様をコントロールすることを特徴とする生体細胞の培養基板。 - 前記各微小突起の高さを数nm〜数十nmとし且つ相互の間隔が数十nm〜数百nmの密度で微小突起群を形成することにより、前記微小突起群に接触した範囲の生体細胞のみを死に誘導することを特徴とする請求項1に記載の生体細胞の培養基板。
- 微小突起群を、基板上で生体細胞を培養する部位を包囲するように形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の生体細胞の培養基板。
- 請求項1乃至3の何れかに記載の生体細胞の培養基板を用いて、生体細胞を培養することを特徴とする生体細胞の培養方法。
- 基板表面を直接処理することによって複数の微小突起から成る微小突起群を形成し、前記各微小突起の高さを数nm〜数十nmとし、且つ相互の間隔を数十nm〜数百nmの密度としたことを特徴とする生体細胞の死誘導部材。
- 生体細胞に、請求項5に記載の生体細胞の死誘導部材を接触させることにより、前記死誘導部材の微小突起群に接触した範囲の生体細胞のみを死に誘導することを特徴とする生体細胞の死誘導方法。
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