JP2004045402A - 路面摩擦状態推定装置 - Google Patents

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Hidekazu Ono
小野 英一
Yoshitoshi Watanabe
渡辺 良利
Masanori Miyashita
宮下 政則
Yuji Murakishi
村岸 裕治
Katsuhiro Asano
浅野 勝宏
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Abstract

【課題】セルフアライニングトルク(SAT)の推定値からグリップ状態を推定する。
【解決手段】推定手段36で車両の路面−タイヤ間で発生している実際のSATを推定し、スリップ角推定手段34で車両の車輪スリップ角を推定し、スリップ角推定手段で推定された前輪スリップ角に応じたSAT基準値を設定し、設定したSAT基準値と推定手段が推定したSATとの比較結果に基づいて、車輪に対するグリップ状態を推定する。
【選択図】図22

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、路面摩擦状態推定装置に係り、特に、セルフアライニングトルク(SAT)の推定値からグリップ状態を推定する路面摩擦状態推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
特開平11−287749号公報には、タイヤの操舵角と操舵トルクとを検出すると共に、操舵角に対する操舵トルクの特性を演算し、演算結果に基づいてタイヤが接地する路面の摩擦係数μ(路面μ)を演算する技術が開示されている。
【0003】
この従来技術では、グリップ状態に相当する物理量である路面μを操舵角の変化量に対する操舵トルクの変化量として求めているため、ノイズの影響を受け易い推定手法となっている。すなわち、変化量を求めることはノイズを増幅させる微分を行うことを意味しており、このため推定値はノイズを多く含む値となる。
【0004】
また、この従来技術では、操舵角の切り増し時にのみ路面μを推定しているので、タイヤに与えられる負荷が最も大きくなる最大舵角時には切り増しができないことから摩擦係数を推定できない。本来、タイヤに与えられる負荷が最も大きい、すなわち限界に近いときに路面μの推定、すなわち限界の路面μの推定を行った方が推定精度が向上するが、従来技術では、最大舵角時には路面μの推定ができず、最大舵角時に至る手前でしか路面μの推定ができない、という問題がある。
【0005】
ところで、SATとスリップ角または操舵角との間には、タイヤトレッドのねじれやパワーステアリング装置のクーロン摩擦等によってヒステリシス特性が生じる。このため、操舵角の切り増し時と切り戻し時とでは特性が異なり、スリップ角または操舵角の変化に対するSATの変化に着目する従来の手法では、推定値にばらつきが生じることとなる。
【0006】
また、保舵時にハンドルが動かない程度にドライバが操舵力を減少させた場合、スリップ角または操舵角には変化が生じないにも拘わらずSATが減少する結果、「グリップ状態が低下」したと誤判定される可能性がある。すなわち、上記従来技術では、切り増し時のみ推定を行うことによってこのような誤判定を避けると共に推定値のばらつきを低減させていたが、この結果切り戻しや保舵時にはグリップ状態等の路面摩擦状態を推定できない、という問題がある。
【0007】
また、切戻しや保舵時に路面摩擦状態を推定できないということは、例えば保舵状態で低μ路から高μ路へ乗り移ったり、高μ路から低μ路に乗り移ったりしてグリップ状態が変化した場合には、変化した時点では路面摩擦状態を推定できず、次に操舵角を切り増しするまでグリップ状態の推定ができないことを意味している。このため、従来技術によるグリップ状態の推定値は、速い適応性が要求されるパワーステアリング装置やABSの特性をグリップ状態に応じて切り替える制御パラメータとして利用することはできない。
【0008】
また、特開平11−334634号、及び特開平11−59466号には、操舵角と車速とに基づいて設定された基準操舵トルクと操舵トルクとを比較し、操舵トルクが基準操舵トルクより大きい状態が一定時間継続した場合に、タイヤの空気圧が低下したと判定する技術が記載されている。
【0009】
上記従来技術では、操舵系の摩擦を含む操舵トルクを利用しているため、操舵トルクの空気圧に対する変化がこの摩擦によって影響されるため正確に検出できなくなり、摩擦の影響のために高い精度で空気圧の低下を推定することができない、という問題がある。
【0010】
また、操舵角と操舵トルクとの間には、上記操舵系の摩擦の他に車両運動の動特性の影響も受ける。このため、速い操舵を行ったとき等に推定精度が劣化することが危惧される。
【0011】
上記問題に対する対策として、従来技術では操舵トルクが基準操舵トルクに対して大きい状態が一定時間以上継続した場合という条件を付加し、この条件によって精度劣化の問題を緩和している。しかしながら、この条件によって推定の機会が少なくなり、結果的に推定時間が遅れる、という問題点が新たに生じる。
【0012】
本発明は上記問題点を解消するためになされたもので、保舵時のドライバの操舵トルク変動に影響を受けないグリップ状態の推定が可能になると共に、レーンチェンジなど比較的速い操操舵時においてもグリップ状態の推定が可能になる路面摩擦状態推定装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために第1の発明は、車両が走行中の路面摩擦状態を推定する路面摩擦状態推定装置であって、前記車両の路面−タイヤ間で発生している実際のセルフアライニングトルクを推定する推定手段と、前記車両の車輪スリップ角を推定するスリップ角推定手段と、前記スリップ角推定手段で推定された前記前輪スリップ角に応じたセルフアライニングトルク基準値を設定するセルフアライニングトルク基準値設定手段と、前記セルフアライニングトルク基準値設定手段が設定したセルフアライニングトルク基準値と前記推定手段が推定したセルフアライニングトルクとの比較結果に基づいて、前記車輪に対するグリップ状態を推定するグリップ状態推定手段と、を含んで構成したものである。
【0014】
本発明では、前記スリップ角と前記セルフアライニングトルク基準値の直線的な特性に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定することができる。また、タイヤ発生力特性を理論的に記述したブラッシュモデルによる勾配を有する直線の前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定することができる。
【0015】
また、第2の発明は、車両が走行中の路面摩擦状態を推定する路面摩擦状態推定装置であって、前記車両の路面−タイヤ間で発生している実際のセルフアライニングトルクを推定する推定手段と、前記車両の車輪のサイドフォースを推定するサイドフォース推定手段と、前記サイドフォース推定手段で推定された前記前輪のサイドフォースに応じたセルフアライニングトルク基準値を設定するセルフアライニングトルク基準値設定手段と、前記セルフアライニングトルク基準値設定手段が設定したセルフアライニングトルク基準値と前記推定手段が推定したセルフアライニングトルクとの比較結果に基づいて、前記車輪に対するグリップ状態を推定するグリップ状態推定手段と、を含で構成したものである。
【0016】
この発明では、前記サイドフォースと前記セルフアライニングトルク基準値の直線的な特性に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定することができる。また、タイヤ発生力特性を理論的に記述したブラッシュモデルによる勾配を有する直線の前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定することができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明を前輪によって操舵する車両に適用した場合の実施の形態を詳細に説明する。まず、本実施の形態を説明する前に、本実施の形態の前提となる路面摩擦状態推定装置について説明する。
【0018】
図1に示すように、車両に搭載された電動パワーステアリング装置には、ステアリングシャフト10の上端部に固定されたステアリングホイール(ハンドル)12が設けられている。ステアリングシャフト10の下端部は、ラック・アンド・ピニオン式のステアリングギヤ14に連結されている。
【0019】
ステアリングギヤ14のラックの両側部にはタイロッド16が各々連結されており、各タイロッド16の先端部の各々にはサスペンション機構を介してタイヤが連結されている。
【0020】
また、ステアリングシャフト10には、操舵角を検出する操舵角センサ18、及び操舵トルクを検出するトルクセンサ20がステアリングシャフトと同軸上に取り付けられている。操舵角センサ18は、ステアリングホイール12の回転により生じる操舵角を検出して操舵角信号を出力する。また、トルクセンサ20は、運転者がステアリングホイール12を回転することによりステアリングシャフト10に発生した回転トルクを検出し、ステアリングホイール12の回転操作方向に応じた操舵トルク信号を出力する。
【0021】
このトルクセンサ20から出力された操舵トルク信号は、パワーステアリング装置用コンピュータ及びモータ駆動回路を含んで構成された電気制御装置22に入力される。
【0022】
ステアリングシャフト10のトルクセンサ20取付位置より下側には、一対のすぐばかさ歯車等で構成された減速機24が取り付けられている。減速機24は、電気制御装置22によって制御される電気モータ26の回転軸に連結されている。電気制御装置22によって電気モータ26を駆動し、電気モータの回転力を減速機24を介してステアリングシャフト10に伝達することにより、ステアリングホイール12の操舵力をパワーアシストすることができる。
【0023】
また、車両には、車体速度(車速)を検出する車速センサ30が取り付けられており、電気制御装置22には電動パワーステアリング装置に流れる電流からパワーアシストトルクを検出してアシストトルク信号を出力するアシストトルクセンサ32が取り付けられている。
【0024】
上記の操舵角センサ18及び車速センサ30は、機能ブロックで考えたときにスリップ角推定手段、SAT推定手段、スリップ角基準値演算手段、及び摩擦状態推定手段として機能するマイクロコンピュータのスリップ角推定手段34に接続されている。スリップ角推定手段34は、操舵角及び車速に基づいて操舵輪である前輪のスリップ角を演算する。また、操舵トルクセンサ20及びアシストトルクセンサ32は、操舵トルク及びアシストトルクに基づいてSATを推定するSAT推定手段36に接続されている。
【0025】
SAT推定手段36は、推定されたSATからスリップ角基準値を演算するスリップ角基準値演算手段38に接続されている。
【0026】
なお、上記ではスリップ角推定手段34、SAT推定手段36、スリップ角基準値演算手段38、及び摩擦状態推定手段40を1つのマイクロコンピュータで構成したが、別々の装置で構成してもよい。
【0027】
以下、上記各手段の作用を説明する。スリップ角推定手段34は、入力された操舵角信号及び車速信号に基づいて、車両運動の動特性を利用して次式の状態方程式を用いて前輪のスリップ角を推定する。
【0028】
【数1】
Figure 2004045402
【0029】
ただし、
v:横速度(m/s)、
r:ヨー角速度(rad/s)、
α:前輪スリップ角(rad)、
u:車速(m/s)、
:前輪コーナリングパワー(N/rad)、
:後輪コーナリングパワー(N/rad)、
:前軸重心間距離(m)、
Lr:後軸重心間距離(m)、
M:車両質量(kg)、
:ヨー慣性(kgm2)、
:ハンドル実舵間ギヤ比、
θ:ハンドル角(操舵角)、
であり、記号^は、推定値であることを示している。
【0030】
上記(1)、(2)式をサンプル時間τで離散化し、車速の関数として表現すると、次の(3)、(4)式が得られる。
【0031】
【数2】
Figure 2004045402
【0032】
ただし、(3)式のAs、Bsは、
【0033】
【数3】
Figure 2004045402
【0034】
である。
【0035】
従って、前輪スリップ角αは、サンプル時間τ毎に上記(4)式で演算することができる。
【0036】
SAT推定手段36は、ハンドルと同軸上に取り付けられたトルクセンサ20によって計測された操舵トルク(トルクセンサ計測値)Tと、電動パワーステアリング装置のモータ電流Iから演算されたアシストトルクTとを加算して次式に基づき路面反力であるSAT推定値TSATを推定する。
【0037】
【数4】
Figure 2004045402
【0038】
ただし、gはピニオンリード、gはボールネジリード、kはアシストモータトルク定数であり、いずれも定数である。
【0039】
なお、パワーステアリング装置の粘性摩擦を考慮し、操舵速度を用いて次式に基づいて演算すれば、より正確にSAT推定値TSATを推定することができる。
【0040】
【数5】
Figure 2004045402
【0041】
ただし、cはパワーステアリング装置のモータ、ピニオン軸、及びラック等各要素の粘性を等価的にピニオン軸(ハンドル操舵軸)の粘性に換算した値である。
【0042】
さらに、外乱オブザーバを用いることによって、パワーステアリング装置の慣性も考慮したSAT推定値TSATの推定が可能となる。以下、外乱オブザーバを用いた推定について説明する。電動パワーステアリング装置の動特性は、以下の微分方程式によって記述される。
【0043】
【数6】
Figure 2004045402
【0044】
ただし、Mはラック質量、Jはモータ慣性である。ここで、(7)式の右辺を外乱オブザーバで推定する外乱とみなした場合、次式のような外乱オブザーバが構成できる。
【0045】
【数7】
Figure 2004045402
【0046】
であり、Gはオブザーバゲイン、記号^は各状態量の推定値を示している。(8)式は、離散化によって次式に示す操舵速度dθ/dt、及び操舵角θから外乱dを推定する漸化式となる。
【0047】
【数8】
Figure 2004045402
【0048】
ただし、A、B、C、Dは、(8)式を離散化したシステム行列である。また、SATの推定値は、下記の(13)式で演算することができる。
【0049】
【数9】
Figure 2004045402
【0050】
スリップ角基準値演算手段38は、SAT推定手段36によって推定されたSAT推定値からパワーステアリング装置のクーロン摩擦等によって生じるヒステリシス特性を考慮したスリップ角の基準値(スリップ角基準値)を演算する。スリップ角基準値の演算は、以下で説明するロジックによって行われる。このロジックは、SAT推定値の変化に対するスリップ角基準値の変化の比で表される勾配(傾き)を有する演算式であって、クーロン摩擦によってSAT推定値が変動する領域の勾配Kをこの領域以外の領域の勾配Kより小さくした各領域毎に異なる演算式によって演算するものである。
【0051】
図2は、スリップ角−SATモデルのスリップ角基準値の上限と下限とを表したものであり、各々の境界を表す直線の傾きはKである。この直線の傾きKは、高グリップ状態で操舵した時に生じるSATと前輪スリップ角との関係を表している。また、上限と下限の間の幅はヒステリシス特性の大きさを表しており、2直線の横軸上の間隔は、クーロン摩擦によって生じる摩擦トルクTfricを表している。
【0052】
また、この傾きKは、走行する車速に応じて変化させることにより、より精密に摩擦状態を推定することができる。さらに、この傾きKは、装着したタイヤ種別によっても変更することが望まれるものであり、スタッドレスタイヤやサマータイヤ等の種別が判別している場合には、タイヤ種別に応じて変更しても良い。
【0053】
図3は、スリップ角基準値の演算方法を示すものである。直進状態では、SATは0であり、このときのスリップ角基準値として0を出力する。次に操舵が行われ、SATが発生した場合、スリップ角基準値は、SATに対し傾きKの直線に基づいて演算される。コンピュータ内では、離散化されたロジックにより、以下の式に基づいて演算される。
【0054】
【数10】
Figure 2004045402
【0055】
ただし、αは、スリップ角基準値であり、kは時刻を表している。この傾きKは、Kに比較して小さく設定されており、クーロン摩擦等によってSATが変動しても発生するスリップ角の変動を小さくすることを表現している。さらに、操舵が行われ、(14)式によるスリップ角基準値の演算値が図3におけるA点まで達し、さらにSATが増加する場合には、スリップ角基準値はスリップ角−SATモデルの下限を表す直線に沿って次式に従って増加する。
【0056】
【数11】
Figure 2004045402
【0057】
また、さらに操舵が行われてB点まで達したところで切り増しが終了し、SATが減少し始めた場合には、スリップ角基準値は傾きK1で(14)式に従って減少する。この領域では、SATの変動に対し、スリップ角基準値の変動は小さくなるように設定されている。これは、旋回時の保舵状態においてドライバの操舵力を多少変化させてもパワーステアリング装置のクーロン摩擦等の影響によって舵角や前輪スリップ角には影響が現れないことを表現したものである。
【0058】
なお、B点からSATの減少によって到達したC点において再びSATが増加する場合には、スリップ角基準値は(14)式に従いB点に向かって増加する。また、切戻しによりC点からさらにSATが減少し、スリップ角−SATモデルの上限に達した場合には、スリップ角基準値は上限を表す直線に沿って(15)式に従って減少する。このように各領域によって異なる2種類の傾きK、Kを有する演算式によって図3に示すヒステリシス特性が実現され、高グリップ状態、すなわち高μ路面走行等グリップ状態に十分な余裕のある状態を仮定したときの前輪スリップ角がSATの時系列信号から推定できる。したがって、スリップ角基準値は、グリップ状態が十分に高く余裕がある操舵領域において発生する前輪のスリップ角をSAT推定値から演算したものになる。また、スリップ角基準値は、グリップ状態が充分に高く余裕がある操舵領域において発生する前輪のスリップ角であるので、セルフアライニングトルクの推定値に対するヒステリシス特性が除去されている。
【0059】
摩擦状態推定手段40は、スリップ角推定手段34によって推定された前輪スリップ角の推定値とスリップ角基準値演算手段によって演算されたスリップ角基準値とを比較し、グリップ状態が低下する程、スリップ角基準値に比較してスリップ角が大きくなることを利用してグリップ状態、すなわち路面摩擦状態を演算する。
【0060】
グリップ状態(路面摩擦状態)は、前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差を用いて、図11に示すマップから演算することができる。ここで演算されるグリップ状態は、[0、1]の範囲で基準化されたものであり、大きい程グリップが高いことを表している。図11に示すマップから前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差が大きくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は小さく推定され、前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差が小さくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は大きく推定される。なお、この偏差に代えて、前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との比を用いて路面摩擦状態を推定してもよい。
【0061】
ここで、低μ路走行時等のグリップ状態が低下した状態で操舵が行われた場合には、前輪スリップ角の微小変化にSAT推定値の微小変化の比で表される傾き(スリップ角−SAT曲線のスリップ角が所定値の点における接線の傾き)は、図4に示すように、高グリップ状態と比較して小さくなる。このため、図3とは逆に、SATを横軸、前輪スリップ角を縦軸に記述した場合には、図5に示すように、高グリップ状態を仮定したスリップ角基準値と比較すると低グリップ状態の前輪スリップ角は大きくなり、SATの前輪スリップ角に対する傾きはグリップ状態が小さくなるに従って大きくなる。スリップ角基準値は、グリップ状態が十分に高く余裕がある操舵領域において発生する前輪のスリップ角をSATから演算したものであるので、この特性を利用して、前輪スリップ角とスリップ角基準値とを比較することによりグリップ状態の低下を判別することが可能となる。なお、上記で説明したように前輪スリップ角とスリップ角基準値との偏差をそのままグリップ低下の指標として利用しても良いが、スリップ角基準値に対して、車速、タイヤ種別、または制駆動等の状態に応じた重み付けを行い、基準化して用いても良い。
【0062】
第1の路面摩擦状態推装置では、SATの時系列信号から高グリップ状態におけるスリップ角を推定するモデルを用い、このモデルの出力であるスリップ角基準値と実際の前輪スリップ角(舵角から推定)とを比較することによってグリップ状態を判定している。このモデルは、ヒステリシス特性が考慮されたものとなっており、例えば保舵時にハンドルが動かない程度にドライバが操舵力を減少させた場合でも、モデル出力であるスリップ角基準値は大きく落ち込まないモデルとなっている。このため、ドライバの操舵力が変動する保舵状態においてもスリップ角基準値と前輪スリップ角推定値を比較することによってグリップ状態を推定することができる。
【0063】
第1の路面摩擦状態推装置は、従来技術と同様にSATとスリップ角との物理的関係を利用して路面摩擦状態を推定するものであるが、逆にスリップ角からSATの基準値をスリップ角−SATモデルによって演算し、SATの基準値と実際のSAT(SAT推定値)とを比較することによってグリップ状態を含む路面摩擦状態を推定することも考えられる。
【0064】
しかしながら、前述のように実際のSATは、保舵状態においてドライバの操舵力変動の影響を大きく受ける。このため、誤差要因の大きなSATをモデル出力と比較する構成では、推定誤差が大きく、保舵時の推定は従来技術と同様に困難となる。
【0065】
これに対し、本第1の路面摩擦状態推装置では保舵時に変動の小さなスリップ角に着目し、スリップ角とスリップ角基準値との比較を行っているため、保舵時や切り戻し時においても正確にグリップ状態を含む路面摩擦状態を推定することが可能となっている。
【0066】
また、切戻しや保舵時に推定できるということは、例えば、保舵状態で低μ路から高μ路へ乗り移ったり、高μ路から低μ路に乗り移ったりしてグリップ状態が変化する場合に、推定遅れが生じることなく変化した時点で推定できることを意味している。このため、従来技術では不可能であった速い適応性が要求されるパワーステアリング装置やABSの特性をグリップ状態に応じて切り替える制御パラメータとして利用することも可能である。
【0067】
次に、上記第1の路面摩擦状態の推定の実験結果について説明する。上記で説明したように、スリップ角推定手段34では、車両運動の動特性を利用し、上記(3)、(4)式に基づいて前輪のスリップ角が推定される。SAT推定手段36では、ハンドルと同軸上に取り付けられたトルクセンサ20によって計測された操舵トルクと、電動パワーステアリング装置の電流から演算されるアシストトルクとを加算し、さらにパワーステアリング装置の粘性摩擦を考慮し、操舵速度を用いて(6)式に基づいてSATが推定される。
【0068】
図6は、高μ路を30km/hで走行中に操舵を行ったときの(3)、(4)式によって演算された前輪スリップ角と(6)式によって演算されたSAT推定値との関係を示したものである。図6には、高グリップ状態で操舵した時に生じるSATと前輪スリップ角との関係に対応するスリップ角基準値の上下限(図2参照)を示す直線を同時に破線で示している。
【0069】
また、図7に同じ実験結果を用い、操舵角と粘性を考慮しない(5)式に基づいて演算されたSATとの関係を示す。操舵角の代わりにタイヤ発生力の基本的な状態量であるスリップ角を用いると共にパワーステアリング装置で発生する粘性摩擦を考慮してSATを求めることによって、再現性良く破線上(上下限を示す直線)を通ることがわかる。この特性は、グリップ状態を含む路面摩擦状態の推定の基礎になるものであり、図7と比較して推定精度が向上することが期待できる。
【0070】
また、図8(A)、(B)は、この実験結果の時間応答(SATは、粘性補償を行った値)を示したものである。この実験では、図8(A)に示すように操舵と保舵とを繰り返すステップ操舵が行われており、このときの前輪スリップ角推定値は、操舵角に応じてステップ的な波形となっている。これに対し、SATは、図8(B)に示すように保舵中に減少しており、また減少時の波形には再現性が見られない。これは、保舵中のドライバの操舵力が変動していることを表しており、SATをモデル出力と比較する手法では、変動の影響を受けて正確なグリップ状態の推定が困難であることが予測できる。
【0071】
これに対し、保舵中のスリップ角の波形は安定しており、スリップ角をモデル出力(スリップ角基準値)と比較する本第1の路面摩擦状態推装置では保舵中においても正確にグリップ状態の推定が可能となることが理解できる。
【0072】
スリップ角基準値演算手段38では、SAT推定手段36によって推定されたSAT推定値からパワーステアリング装置のクーロン摩擦等によって生じるヒステリシス特性を考慮したスリップ角の基準値が演算される。まず、操舵角が0で、SATが0となる直進状態において、スリップ角基準値の初期値を0に設定する。次いで、操舵が開始され、SATが出力されると(14)、(15)式の漸化式に従ってスリップ角基準値が演算される。ここで、高グリップ状態で操舵した時に生じるSATと前輪スリップ角との関係を表す傾きK2は、車速に応じて変化するように設定している。図9は、図8(B)のSATから上記アルゴリズムによってスリップ角基準値を演算した結果と前輪スリップ角推定値とを比較して示したものである。ヒステリシス特性を考慮したアルゴリズムによって、モデルの入力であるSATの波形は保舵時に減少や振動的な特性を有しているにもかかわらず、出力であるスリップ角基準値は略一定の値となっている。また、この実験が行われた高μ路においては、スリップ角基準値はスリップ角推定値と良い一致が見られることがわかる。
【0073】
図10は、図9と同様の実験をグリップ状態の低下する低μ路において実施した結果を示したものである。この実験では図9と略同様の舵角の操舵が行われており、スリップ角推定値は図9と同様の出力が得られているにもかかわらず、SATから演算されるスリップ角の基準値は小さく、SATの推定値とSATの基準値との間には偏差が生じていることがわかる。これは、グリップ状態の低下により、高グリップ状態を仮定したスリップ角基準値と比較して実際の前輪スリップ角が大きくなるために生じたものである。
【0074】
摩擦状態推定手段40では、スリップ角推定手段34によって推定された前輪スリップ角とスリップ角基準値演算手段38によって演算されたスリップ角基準値とを比較し、グリップ状態が演算される。グリップ状態は、前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差を用いて、図11に示すマップから演算する。ここで演算されるグリップ状態は、[0、1]の範囲で基準化されたものであり、大きい程グリップが高いことを表している。図11に示すマップから前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差が大きくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は小さく推定され、前輪スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差が小さくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は大きく推定される。
【0075】
図12は、高μ路走行時のグリップ状態とスリップ角推定値とを示すものである。高μ路走行時には、この程度のスリップ角では、スリップ角の有無に関わらず常に高いグリップ状態となっていることが推定できている。図13は、低μ路走行時における図12と同様のグリップ状態とスリップ角推定値とを示している。低μ路走行時には、グリップ状態が低下していることが理解できる。また、操舵中にスリップ角が0付近になる時点でグリップ状態は1となり、直進に近い領域ではグリップが回復する現象が正確に推定できていることが理解できる。
【0076】
次に、SAT推定値に生じるヒステリシス特性の原因となる摩擦トルクTfricの推定について説明する。ここでは、ハンドル切り増し中に絶対値が最大となったときのSAT推定値とハンドル切り戻し時点のSAT推定値との差を演算し、この差を操舵系の内部クーロン摩擦によって生じる摩擦トルクTfricとして推定する。
【0077】
ハンドルを左方向に操舵した時に生じるSAT推定値TSATを正、ハンドルを右方向に操舵した時に生じるSAT推定値TSATを負とし、操舵角速度センサから供給された操舵角速度信号の符号が反転したことを検出すると、このタイミング以降のSAT推定値TSATの最大値を次のように演算する。
【0078】
操舵角速度信号が負から正に反転して、ハンドルが左方向(正方向)に操舵された場合、正のSAT推定値TSATが発生するので、SAT推定値TSATの最大値Tmaxを以下の式に従って演算する。
【0079】
【数12】
Figure 2004045402
【0080】
次に、操舵の切り戻しによって操舵角速度が正から負に反転したことを検出すると、この時点のSAT推定値TSATと上記のように求められた最大値Tmaxとを用いて、下記式に従って摩擦トルクTfricを演算する。
【0081】
【数13】
Figure 2004045402
【0082】
一方、操舵角速度が正から負に反転して、ハンドルが右方向に操舵された場合、負のSAT推定値TSATが発生するので、次式に従って、SAT推定値TSATの最小値Tminを演算する。
【0083】
【数14】
Figure 2004045402
【0084】
次に、操舵の切り戻しによって操舵角速度が負から正に反転したことを検出すると、この時点のSAT推定値TSATと上記のように求めた最小値Tminとを用いて、次式に従って摩擦トルクTfricを演算する。
【0085】
【数15】
Figure 2004045402
【0086】
この結果、ハンドルの切り戻しのたびに生じるヒステリシス特性に対して、ハンドル切り戻しの度に摩擦トルクTfricが推定されるので、常に正確なヒステリシス特性の大きさを推定することができる。
【0087】
特に悪路走行時には、路面外乱が操舵系内部のクーロン摩擦に対してディザー効果として働き、クーロン摩擦項が減少してクーロン摩擦が変化する。そこで、上述のようにハンドル切り戻しの度に摩擦トルクTfricを推定すれば、クーロン摩擦の大きさが変化する場合においても、逐次最新のヒステリシス特性の補償を行うことができる。
【0088】
第1の路面摩擦状態推装置では、SATからスリップ角を求めるモデルを用い、ヒステリシス特性を有するSATを入力としたときのモデル出力であるスリップ角基準値を求めることによりヒステリシス特性を除去し、スリップ角基準値とスリップ角の推定値との比較によってグリップ状態を推定する例について説明した。以下で説明する第2の路面摩擦状態推装置は、ヒステリシス特性を有するSATから直接ヒステリシス特性を除去し、ヒステリシス特性を除去したSAT補正値とスリップ角とからグリップ状態を路面摩擦状態として推定するものである。
【0089】
本第2の路面摩擦状態推装置を図14を参照して説明する。本第2の路面摩擦状態推装置は、マイクロコンピュータを機能ブロックで考えたときの図1に示すスリップ角基準演算手段に代えて、SATからヒステリシス特性を除去するヒステリシス特性除去手段42を設け、摩擦状態推定手段44において、ヒステリシス特性を除去したSAT補正値とスリップ角推定手段34で推定されたスリップ角の推定値とに基づいてグリップ状態を含む路面摩擦状態を推定するようにしたものである。
【0090】
以下、各手段の作用について説明する。ヒステリシス特性除去手段42は、SAT推定手段36において推定されたヒステリシス特性を有するSAT推定値からヒステリシス特性発生の原因となるパワーステアリング装置のクーロン摩擦等の影響を除去し、ヒステリシス特性の無いSAT推定値をSAT補正値として出力する。
【0091】
摩擦状態推定手段44は、スリップ角とヒステリシス特性を除去したSAT補正値とから以下のようにしてグリップ状態を路面摩擦状態として演算し出力する。
【0092】
ヒステリシス特性除去手段42によるヒステリシス特性除去の演算は、以下のロジックによって行われる。このロジックは、SAT推定値の変化に対するSAT補正値の変化の比で表される傾きを有する演算式であって、クーロン摩擦によってSAT推定値が変動する領域の傾きKをこの領域以外の領域の傾き(=1)より小さくした各領域毎に異なる演算式によって演算するものである。
【0093】
図15は、ヒステリシス特性を有するSAT推定値とヒステリシス特性を除去したSAT推定値(SAT補正値)との関係を示す座標面であり、座標面上の2本の直線の幅は、ヒステリシス特性の大きさを表したものである。ヒステリシス特性を有するSAT推定値とヒステリシス特性を除去したSAT推定値とは、ヒステリシス特性分だけ大きさが相違しているだけであるので、各々の直線の傾きは1である。
【0094】
図16は、ヒステリシス特性除去演算の方法を示すものである。SAT推定値及びスリップ角共に0となる直進状態では、ヒステリシス特性は発生しておらず、このときのSAT補正値は0を出力する。次に操舵が行われ、SATが発生した場合、SAT補正値は、SAT推定値に対しKの傾きで演算される。コンピュータ内では、離散化されたロジックにより、以下に示す(16)式に従って演算される。
【0095】
【数16】
Figure 2004045402
【0096】
ただし、TSAT0は、ヒステリシス特性を除去したSAT補正値である。この傾きKは、1に比較して小さく設定されており、クーロン摩擦等によってSAT推定値が変動してもSAT補正値の変動は小さくなるようにされている。
【0097】
上記(16)式は、セルフアライニングトルク推定値の現在値、セルフアライニングトルク推定値の前回値、及びセルフアライニングトルク補正値の前回値からセルフアライニングトルク推定値の現在値がクーロン摩擦によるヒステリシス領域内にあるか否かを判断し、ヒステリシス領域内にある場合には、セルフアライニングトルク補正値の現在値とセルフアライニングトルク補正値の前回値との差によって演算される補正値変化の大きさが、セルフアライニングトルク推定値の現在値とセルフアライニングトルク推定値の前回値との差によって演算される推定値変化の大きさより小さくなり、ヒステリシス領域外にある場合には、補正値変化と推定値変化とが一致するようにセルフアライニングトルク補正値の現在値を演算することを表している。
【0098】
さらに、操舵が行われ、(16)式によるSAT補正値の演算値が図16におけるA点まで達し、さらにSAT推定値が増加する場合には、SAT補正値は、モデルの下限を示す直線に沿って次式に従って増加する。
【0099】
【数17】
Figure 2004045402
【0100】
また、さらに操舵が行われてB点まで達したところで切り増しが終了し、SAT推定値が減少し始めた場合には、傾きKで(16)式に従ってSAT補正値は減少する。この領域では、SAT推定値の変動に対し、SAT補正値の変動は小さくなるように設定されている。これは、旋回時の保舵状態においてドライバの操舵力を多少変化させてもパワーステアリング装置のクーロン摩擦等の影響によってSAT補正値には影響が現れないようにしたものである。なお、B点からSATの減少によって到達したC点において再びSAT推定値が増加する場合には、(16)式に従いB点に向かってSAT補正値は増加するように演算される。また、切戻しによりC点からさらにSAT推定値が減少し、モデル上限に達した場合には、SAT補正値は上限を示す直線に沿って(17)式に従って減少するように演算される。このような2種類の傾きの設定によってSAT推定値に対するSAT補正値は一義的に定まり、図16に示すヒステリシス特性が除去される。
【0101】
図17(A)は、高μ路面走行時のSAT推定値、図17(B)はこのSAT推定値から(16)、(17)式に基づいてヒステリシス特性を除去したSAT補正値を各々示したものである。図17(A)、(B)の比較によりヒステリシス除去の効果によって、クーロン摩擦等の影響と考えられる保舵時の変動が略補償されていることがわかる。
【0102】
また、図18(A)は、高μ路、低μ路走行時のスリップ角とSAT推定値との関係、図18(B)は、スリップ角とSAT補正値との関係を各々示したものである。図18(B)からスリップ角とSAT補正値との関係は略線形になっており、ヒステリシス特性が除去されていることが理解できる。
【0103】
路面摩擦状態推定手段44は、スリップ角推定手段34によって推定された前輪スリップ角とヒステリシス特性が除去されたSAT補正値とに基づいてグリップ状態を路面摩擦状態として以下に示すように演算する。
【0104】
すなわち、路面摩擦状態推定手段44では、スリップ角に車速やタイヤ種別に応じて変化する係数を乗じて導出されたSAT基準値と、SAT補正値とを比較し、SAT基準値とSAT補正値と差に応じてグリップ状態を出力する。SAT基準値を導出するための係数は高グリップ状態を仮定して設定するものであり、低μ路走行時等低グリップ状態時にはSAT補正値はSAT基準値に比較して小さくなる。路面摩擦状態推定手段44では、この性質を利用し、SAT基準値の絶対値とSAT補正値の絶対値との偏差が大きい程グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は小さくなるように演算して出力する。
【0105】
図19(A)、(B)は、SAT補正値(実線)と車速に応じて変化する係数を前輪スリップ角に乗じて導出されたSAT基準値(破線)とを比較したものである。高グリップ状態を仮定してスリップ角から演算されたSAT基準値は、図19(A)に示すように、高μ路走行時にはSAT補正値と略一致するのに対し、グリップ状態が低下する低μ路走行時には、図19(B)に示すように、SAT補正値との間に偏差が生じていることが理解できる。
【0106】
従って、路面摩擦状態推定手段44では、SAT補正値及びSAT基準値各々の絶対値の差を用いて、図20に示すマップからグリップ状態を含む路面摩擦状態を演算する。ここで演算されるグリップ状態を含む路面摩擦状態は、[0、1]の範囲で基準化されたものであり、大きいほどグリップ状態、すなわち路面摩擦状態が高いことを表している。図20に示すマップからSAT基準値の絶対値とSAT補正値の絶対値との差が大きくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は小さく推定され、SAT基準値の絶対値とSAT補正値の絶対値との差が小さくなるに従って、グリップ状態、すなわち路面摩擦状態は大きく推定される。
【0107】
図21(A)、(B)は、高μ路走行時のグリップ状態とスリップ角推定値、低μ路走行時のグリップ状態とスリップ角推定値を各々示している。図21(A)に示すように、高μ路走行時には、この程度のスリップ角では、スリップ角の有無に関わらず常に高いグリップ状態となっていることが推定できている。また、図21(B)に示すように、低μ路走行時には、グリップ状態が低下していることが理解できる。また、操舵中にスリップ角が0付近になる時点でグリップ状態は1となり、直進に近い領域ではグリップ状態が回復する現象が正確に推定できていることが理解できる。
【0108】
第1の路面摩擦状態推装置ではスリップ角のモデルとの比較によって、また第2の路面摩擦状態推装置では、SATのモデルとの比較によって、各々グリップ状態を含む路面摩擦状態を推定する例について説明したが、このようにモデルとの比較という構成に限られるものではなく、ヒステリシス除去後のSATとスリップ角の関数としてグリップ状態を記述したり、ヒステリシス除去後のSATとスリップ角の2次元マップでグリップ状態を含む路面摩擦状態を推定しても良い。
【0109】
また、上記では電動パワーステアリング装置を搭載した車両へ適用した例について説明したが、操舵トルクとアシストトルクとに対応するパワーステアリング装置の油圧が計測できれば、油圧パワーステアリング装置の車両にも適用できるものである。
【0110】
次に、図22を参照して空気圧の低下を判定する本発明の第1の実施の形態について説明する。本実施の形態は、操舵トルクとアシストトルクとを加算してSAT推定値を演算するSAT推定手段36、SAT推定値から操舵系の摩擦によって生じるヒステリシス特性を除去し、路面−タイヤ間で発生しているSATをSAT補正値として推定するSAT補正手段42、操舵角と車速に基づいて前輪のスリップ角を推定するスリップ角推定手段34が設けられている。本実施の形態では、図14の摩擦状態推定手段に代えてSAT補正値と前輪スリップ角とに基づいて空気圧の低下を判定する空気圧低下判定手段50が設けられている。
【0111】
次に、空気圧低下判定手段50による空気圧低下の推定原理について説明する。タイヤ発生力特性を理論的に記述したブラッシュモデルによると、サイドフォースFfy及セルフアライニングトルク(SAT)Tは、以下の式で表される。
【0112】
【数18】
Figure 2004045402
【0113】
ただし、
【0114】
【数19】
Figure 2004045402
【0115】
である。
【0116】
ここで、
Fz:接地荷重、
l:タイヤ接地長、
Ky:単位幅かつ単位長さ当たりのトレッドラバーの横方向剛性、
b:接地面の幅、
λ:横スリップ、
である。
【0117】
この横スリップλと前輪スリップ角との間には、
【0118】
【数20】
Figure 2004045402
【0119】
の関係が有るが、一般的にξ>0の領域ではスリップ角αは小さいので、下記の(22)式のようにみなすことができる。
【0120】
【数21】
Figure 2004045402
【0121】
以上の関係からスリップ角0付近におけるスリップ角の微小変化に対するサイドフォースの微小変化の比∂Ffy/∂αで表される勾配(以下、サイドフォース勾配という)、及びスリップ角の微小変化に対するSAT補正値の微小変化の比で表される勾配∂T/∂α(以下、SAT補正値の勾配という)は、各々以下のように表される。
【0122】
【数22】
Figure 2004045402
【0123】
ここで、空気圧が低下すると、路面に対するタイヤの接地長が増加するので、サイドフォース勾配、またはSAT補正値の勾配を演算し、サイドフォース勾配、またはSAT補正値の勾配が増加したか否かを判断することにより、タイヤの空気圧低下を判断することができる。本実施の形態の空気圧低下判定装置は、この特徴に着目し、空気圧低下に伴う接地長の増加をサイドフォース勾配の増加またはSAT補正値の勾配の増加として検出するものである。
【0124】
なお、上記(23)式、(24)式より、サイドフォース勾配はタイヤ接地長の2乗に比例するのに対し、SAT勾配はタイヤ接地長の3乗に比例し、SAT勾配の方がタイヤ接地長の変化がより顕著に表れるので、空気圧の低下をより精度良く検出することができる。
【0125】
以下、本実施の形態の作用について説明する。本実施の形態は、SAT勾配に基づいて、空気圧の低下を判定するようにしたものである。SAT推定手段36は、図14で説明したのと同様に、操舵トルクとアシストトルクとを加算してSAT推定値を演算する。ここで推定されたSAT推定値は、操舵系の内部摩擦を含んだ値であるので、SAT補正手段42は、SAT推定値から操舵系の摩擦によって生じるヒステリシス特性を除去し、路面−タイヤ間で発生している実際のSATをSAT補正値として推定する。また、スリップ角推定手段34は、図14で説明したように、操舵角と車速とに基づいて前輪のスリップ角を推定する。
【0126】
空気圧低下判定手段50は、上記で説明した推定原理に基づいて、上記で説明した空気圧低下に伴う接地長の増加をSAT補正値の勾配の増加として検出する。すなわち、空気圧低下判定手段50は、前輪スリップ角とSAT補正値とからスリップ角に対するSAT補正値の勾配を演算し、このSAT補正値の勾配が一定値以上になった場合に、空気圧が低下したと判定する。
【0127】
このSAT補正値の勾配は、オンライン同定法(オンライン最小2乗法)を用いて推定演算することができる。このオンライン最小2乗法は、以下で説明する図23(B)のSAT補正値の勾配を推定し、推定された勾配と一定値(基準勾配を表す一点鎖線の勾配)との比較を行うものである。
【0128】
このオンライン最小2乗法を用いる場合、直進付近の微小な操舵状態においても勾配を推定することが可能であるため、直進に近い走行条件でも空気圧低下の判定が可能となる。また、SAT補正値の勾配のみに着目するため、バンク走行時等路面カントによるSAT特性の切片がずれる状況においても路面カントの影響を受けることなく正確に空気圧低下の判定ができると、いう効果が得られる。
【0129】
なお、本実施の形態では、SAT補正値の勾配を用いて空気圧の低下を判定する例について説明したが、本実施の形態はこれに限定されるものではなく、上記の第2の実施の形態で用いた前輪スリップ角に応じて設定されるSAT基準値を用い、このSAT基準値とSAT補正値とを比較し、SAT補正値がSAT基準値より大きくなった場合に、タイヤの空気圧が低下したと判定するようにしてもよい。すなわち、空気圧低下判定手段50では、SAT補正値とSAT基準値との差を演算し、この差が閾値を越えた場合に空気圧の低下と判定したり、またはSAT補正値とSAT基準値との比を演算し、この値が閾値を超えた場合に空気圧が低下したと判定してもよい。また、ここで用いられる閾値は、スリップ角や車速に応じて可変に設定しても良い。
【0130】
図23(A)は、空気圧が正常の状態で一定車速(30km/h)で走行中に、ステップ操舵を繰り返した時の操舵角とSAT推定値との関係、すなわち操舵角とドライバの操舵する操舵トルクにパワーステアリングのアシストトルクを加算した値との関係を示したものである。
【0131】
特開平11−59466号公報及び特開平11−334634号公報に記載された従来技術では、一点差線で示す基準トルクを設定し、SAT推定値が基準トルクを超えた場合に空気圧が低下したと判定している。しかしながら、図23(A)に示すように操舵角とSAT推定値との間にはヒステリシス特性が存在しているので、空気圧が正常にも拘わらず、操舵の過渡時等では基準値を超えている。
【0132】
従来技術では、空気圧低下判定を保舵時に限定する等によってこのような過渡状態における誤作動の防止を図っているが、この対策は推定できる走行条件を限定するものであり、判定遅れ等の問題が生じるものである。
【0133】
これに対し本実施の形態では、SAT推定値及びSAT基準値を用いる場合には、図23(B)に示すように、横軸を図23(A)の操舵角に代えてスリップ角としている。スリップ角は、タイヤの横力発生の基になる物理量であり、スリップ角とSATとの間には時間遅れ等の動特性が存在しない。これに対し、操舵角とSATとの間には、操舵角とスリップ角の間に車両運動に伴う動特性が存在するため、この動特性の影響を受ける。
【0134】
本実施の形態では、横軸を車両運動の動特性の影響を受けないスリップ角としているため、過渡時においても空気圧低下判定を行うことができる。
【0135】
図23(B)は、上記のように横軸をスリップ角としたときのSAT推定値(破線)と操舵系の摩擦を除去したSAT補正値(実線)との変化を示したものである。横軸をスリップ角とすることで、車両運動の動特性の影響による特性のふくらみが除去され直線的な特性が得られていることが理解できる。
【0136】
さらに、SAT補正手段42において操舵系の摩擦を除去することによって、ヒステリシス特性も除かれていることが理解できる。図23(B)には、同時に本実施の形態の空気圧低下判定手段50において設定されたSAT基準値を一点鎖線で示している。この実験では、原点近傍の領域を除きSAT補正値が常にSAT基準値以下となっており、直進状態を除く広い領域で空気圧の低下判定が精度良く行われていることが理解できる。
【0137】
次に、図24を参照して本発明の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、第1の実施の形態のスリップ角推定手段34に代えて、横加速度を検出する横加速度センサ44、ヨー角速度を検出するヨー角速度センサ46、及び横加速度とヨー角速度とに基づいて、前輪のサイドフォースを推定するサイドフォース推定手段52を設けたものである。
【0138】
SAT推定手段36は、上記で説明したように、操舵トルクとアシストトルクを加算してSAT推定値を演算する。ここで推定されたSAT推定値は、操舵系の内部摩擦を含んだ値であるので、SAT補正手段42は、SAT推定値から操舵系の摩擦によって生じるヒステリシス特性を除去し、路面−タイヤ間で発生している実際のSATをSAT補正値として推定する。
【0139】
サイドフォース推定手段52は、横加速度センサ44で検出された横加速度とヨー角速度センサ46で検出されたヨー角速度とに基づいて、前輪のサイドフォースを推定する。空気圧低下判定手段54は、SAT補正値と前輪サイドフォースとに基づいて空気圧の低下を判定する。
【0140】
ここで、前輪サイドフォース(横力)Fは、以下の式で示される車体の運動方程式から求めることができる。
【0141】
【数23】
Figure 2004045402
【0142】
ただし、前輪サイドフォースFは、(25)、(26)式を連立し、後輪サイドフォースFrを消去することによって、以下の(27)式のように表すことができる。
【0143】
【数24】
Figure 2004045402
【0144】
ただし、
【0145】
【数25】
Figure 2004045402
【0146】
である。
【0147】
また、M、v、r、u、I、L、L、は、上記(1)、(2)式で説明したのと同じ物理量であり、 Fは前輪サイドフォース、Fは後輪サイドフォースである。
【0148】
したがって、サイドフォース推定手段52は、図25に示すように、(27)式に基づいてヨー角速度にハイパスまたはバンドパスフィルタ処理を施して近似演算したヨー角速度微分値dr/dtに近似した値を出力するフィルタ52B、横加速度信号にヨー角速度に施したフィルタ処理と同じカットオフ周波数でローパスフィルタ処理を施して近似演算した横加速度微分値dv/dtに近似した値を出力するローパスフィルタ52A、及びローパスフィルタ52A出力とフィルタ52B出力とから上記(27)式に基づいて前輪のサイドフォースFを推定する演算手段52Cから構成されている。
【0149】
また、空気圧低下判定手段54は、前輪サイドフォースに応じたSAT基準値を設定するSAT基準値設定手段54B、ヨー角速度に施したフィルタ処理と同じカットオフ周波数でSAT補正値に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ54A、及び前輪サイドフォースに応じて設定されたSAT基準値とローパスフィルタ54Aでローパスフィルタ処理されたSAT補正値とを比較し、SAT補正値がSAT基準値より大きくなった場合に、空気圧が低下したと判定する比較手段54Cから構成されている。
【0150】
比較手段54Cでは、SAT補正値とSAT基準値の差を演算し、この差が閾値を越えた場合に空気圧が低下したと判定したり、SAT補正値とSAT基準値との比を演算し、この比の値が閾値を超えた場合に空気圧が低下したと判定することができる。また、ここで用いられる閾値はスリップ角や車速に応じて可変に設定しても良い。
【0151】
図26は、横軸を上記(27)式に従って推定された前輪サイドフォースとしたときのSAT補正値を示したものである。横軸をサイドフォースとする場合も横軸をスリップ角とした場合と同様に、操舵系の摩擦を除去することによってSATのヒステリシス特性が除去されていることが理解できる。図26には、同時に本実施の形態の空気圧低下判定手段54のSAT基準値設定手段54Bにおいて設定されたSAT基準値を一点鎖線で示している。
【0152】
この実験では、原点近傍の領域を除き常にSAT補正値はSAT基準値以下となっており、直進状態を除く広い領域で空気圧低下判定が行われることが予測できる。
【0153】
ところで、前述の第1の実施の形態の構成では、ヨー角速度や横加速度等の車両運動状態量を計測するセンサが必要ないという特徴があるが、空気圧低下に伴うスリップ角推定の誤差の影響を受けるという問題もある。すなわち、車両運動方程式のパラメータであるコーナリングスティッフネスは、サイドフォース勾配と同じものであり、サイドフォース勾配は(23)式に示すように空気圧変化に伴うタイヤの接地長変化の影響を受ける。このため、車両運動の動特性も空気圧変化の影響を受け、例えば、自然空気漏れ等の4輪同時に空気圧が低下した状態とパンク等の前輪1輪のみ低下する状態とでは、同じ操舵を行った場合のスリップ角の大きさが異なる。
【0154】
これに対し、第1の実施の形態では、パラメータを固定した車両運動モデルに基づいてスリップ角を推定しているため、4輪同時に空気圧が低下した状態と前輪1輪のみ空気圧が低下した状態とで同じ値を出力する。この演算結果は、空気圧低下判定の誤差要因になり得ると考えられる。
【0155】
これに対し、第2の実施の形態では(27)式に基づいて推定演算されるサイドフォースを用いている。このサイドフォースは(27)式から明らかなように、実際のサイドフォースを反映した車両運動の動特性から直接導出している結果、コーナリングスティッフネスの影響を受けていない。このため、4輪同時に空気圧が低下した状態や前輪1輪のみ空気圧が低下した状態との異なる状況によらず、常に正確なサイドフォースの推定が可能である。
【0156】
また、空気圧低下判定手段と54して、SAT基準値設定手段54Bを用いることなく、前輪サイドフォースとヨー角速度に施したフィルタと同じカットオフ周波数をもつローパスフィルタ処理を施したSAT補正値とから、サイドフォースの微小変化に対するSAT補正値の微小変化の比で表されるサイドフォースにた対するSAT補正値の勾配を演算し、このサイドフォースに対するSAT補正値の勾配が一定値以上になった場合に、空気圧が低下したと判定することもできる。
【0157】
なお、サイドフォースに対するSAT補正値の勾配は、前述のスリップ角に対するSAT補正値の勾配を求めるアルゴリズムのスリップ角をサイドフォースに置き換えた演算によって推定することが可能である。また、SATとサイドフォースの特性の場合、バンク走行時等路面カントによる影響は受けないため、推定パラメータのうち切片を0に固定して考えても良い。この場合、オンライン最小2乗法の推定パラメータは、勾配のみとなり演算負荷の低減効果も期待できる。以下にこのときのアルゴリズムを詳述する。
【0158】
ここでは、SATとサイドフォースに次の関係が成立していると仮定する。
【0159】
【数26】
Figure 2004045402
【0160】
ただし、kは、サイドフォースに対するSAT補正値の勾配である。このとき上記(28)式にオンライン最小2乗法を適用すると、以下の(29)式が得られる。
【0161】
【数27】
Figure 2004045402
【0162】
ただし、λfは忘却係数である。
【0163】
この手法は、図26のSAT補正値の勾配を推定し、推定された勾配と所定値(一点鎖線で表される勾配)との比較を行うものである。この手法を用いる場合、直進付近の微小な操舵状態においても勾配を推定することが可能であるため、直進に近い走行条件でも空気圧低下の判定が可能となる。また、ブラッシュモデルによって記述する場合、サイドフォースに対するSAT補正値の勾配kは(27),(28)式より、
【0164】
【数28】
Figure 2004045402
【0165】
となる。これは、トレッドラバーの剛性や接地幅に依存することなく、接地長のみ検出できることを意味している。したがって、サイドフォースに対するSAT補正値の勾配を導出する手法の場合、スタッドレスやサマーといったタイヤ種別やタイヤサイズに依存せず、精度良く空気圧の低下判定が可能である。
【0166】
以上説明したように本実施の形態によれば、保舵時のドライバの操舵トルク変動に影響を受けない推定が可能になると共に、レーンチェンジなど比較的速い操操舵時においても推定が可能になる。
【0167】
したがって、SAT補正手段において操舵系の摩擦を除去するため、保舵時にハンドルが動かない程度にドライバが操舵トルクを変動させても、変動分が摩擦として除去されるためにSAT補正値は一定に保たれ、正確な空気圧低下判定が行われる。
【0168】
また、タイヤ発生力の基になる前輪スリップ角を推定し、このスリップ角とSAT補正値との関係から空気圧低下判定を行うため、推定値が車両運動の動特性の影響を受けず、速い操舵の状態でも正確な判定が可能となる。
【0169】
なお、本実施の形態では、上記(23)式に従って、スリップ角に対するサイドフォース勾配を演算し、このサイドフォース勾配が所定値以上になったときに空気圧が低下したと判断するようにしてもよい。
【0170】
上記で説明したように、タイヤの空気圧が低下するとタイヤと路面との接地長が長くなるため、タイヤと路面との間の摩擦係数が大きくなったのと等価とみなすことができ、タイヤの空気圧低下と路面摩擦状態とは密接な関係にある。従って、路面摩擦状態推定について説明した実施の形態はタイヤの空気圧低下推定に用いることができ、タイヤの空気圧低下推定について説明した実施の形態は路面摩擦状態推定に用いることができる。
【0171】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、保舵時のドライバの操舵トルク変動に影響を受けないグリップ状態の推定が可能になると共に、レーンチェンジなど比較的速い操操舵時においてもグリップ状態の推定が可能になる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】電動パワーステアリング装置が搭載された車両に本発明を適用した第1の実施の形態を示すブロック図である。
【図2】スリップ角基準値の上限及び下限を示す線図である。
【図3】スリップ角基準値の演算方法を説明するための線図である。
【図4】SAT−スリップ角特性の路面摩擦状態による相違を示す線図である。
【図5】低グリップ状態でのスリップ角を示す線図である。
【図6】粘性補償後のSATとスリップ角との関係を示す線図である。
【図7】粘性補償前のSATとスリップ角との関係を示す線図である。
【図8】(A)は操舵角の時間変化を示す線図であり、(B)はSATとスリップ角の時間変化を示す線図である。
【図9】高μ路走行時のスリップ角基準値及びスリップ角推定値の時間変化を示す線図である。
【図10】低μ路走行時のスリップ角基準値及びスリップ角推定値の時間変化を示す線図である。
【図11】スリップ角の絶対値とスリップ角基準値の絶対値との差と、グリップ状態との関係を示す線図である。
【図12】高μ路走行時のグリップ状態とスリップ角の時間変化を示す線図である。
【図13】低μ路走行時のグリップ状態とスリップ角の時間変化を示す線図である。
【図14】電動パワーステアリング装置が搭載された車両に本発明を適用した第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図15】SAT補正値の上限及び下限を示す線図である。
【図16】SAT推定値からSAT補正値を演算する方法を説明するための線図である。
【図17】(A)はSAT推定値の時間変化を示す線図であり、(B)はヒステリシス特性を除去したSAT補正値の時間変化を示す線図である。
【図18】(A)は高μ路及び低μ路におけるスリップ角とSAT推定値との関係を示す線図であり、(B)は高μ路及び低μ路におけるスリップ角とSAT補正値との関係を示す線図である。
【図19】(A)は高μ路走行時のSAT基準値とSAT補正値との時間変化を示す線図であり、(B)は低μ路走行時のSAT基準値とSAT補正値との時間変化を示す線図である。
【図20】SAT基準値の絶対値とSAT補正値の絶対値との差と、グリップ状態との関係を示す線図である。
【図21】(A)は高μ路走行時のグリップ状態とスリップ角推定値とを示す線図、(B)は低μ路走行時のグリップ状態とスリップ角推定値とを示す線図である。
【図22】本発明をタイヤの空気圧低下を推定する装置に適用した第1の実施の形態を示すブロック図である。
【図23】(A)は操舵角とSAT推定値との関係を示す線図であり、(B)はスリップ角とSAT推定値及びSAT補正値との関係を示す線図である。
【図24】本発明をタイヤの空気圧低下を推定する装置に適用した第2の実施の形態を示すブロック図である。
【図25】図28のサイドフォース推定手段及び空気圧低下判定手段の詳細を示すブロック図である。
【図26】サイドフォースとSAT補正値との関係を示す線図である。
【符号の説明】
10 ステアリングシャフト
12 ステアリングホイール
14 ステアリングギヤ
16 タイロッド
18 操舵角センサ
20 トルクセンサ
22 電気制御装置
24 減速機
26 電気モータ
30 車速センサ
32 アシストトルクセンサ
34 スリップ角推定手段
36 SAT推定手段
38 スリップ角基準値演算手段
40 摩擦状態推定手段
42 ヒステリシス特性除去手段
44 摩擦状態推定手段

Claims (8)

  1. 車両が走行中の路面摩擦状態を推定する路面摩擦状態推定装置であって、
    前記車両の路面−タイヤ間で発生している実際のセルフアライニングトルクを推定する推定手段と、
    前記車両の車輪スリップ角を推定するスリップ角推定手段と、
    前記スリップ角推定手段で推定された前記前輪スリップ角に応じたセルフアライニングトルク基準値を設定するセルフアライニングトルク基準値設定手段と、
    前記セルフアライニングトルク基準値設定手段が設定したセルフアライニングトルク基準値と前記推定手段が推定したセルフアライニングトルクとの比較結果に基づいて、前記車輪に対するグリップ状態を推定するグリップ状態推定手段と、
    を含む路面摩擦状態推定装置。
  2. 前記スリップ角と前記セルフアライニングトルク基準値の直線的な特性に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項1記載の路面摩擦状態推定装置。
  3. タイヤ発生力特性を理論的に記述したブラッシュモデルによる勾配を有する直線の前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項1または請求項2記載の路面摩擦状態推定装置。
  4. 高グリップ状態を仮定して設定される前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項1または請求項2記載の路面摩擦状態推定装置。
  5. 車両が走行中の路面摩擦状態を推定する路面摩擦状態推定装置であって、
    前記車両の路面−タイヤ間で発生している実際のセルフアライニングトルクを推定する推定手段と、
    前記車両の車輪のサイドフォースを推定するサイドフォース推定手段と、
    前記サイドフォース推定手段で推定された前記前輪のサイドフォースに応じたセルフアライニングトルク基準値を設定するセルフアライニングトルク基準値設定手段と、
    前記セルフアライニングトルク基準値設定手段が設定したセルフアライニングトルク基準値と前記推定手段が推定したセルフアライニングトルクとの比較結果に基づいて、前記車輪に対するグリップ状態を推定するグリップ状態推定手段と、
    を含む路面摩擦状態推定装置。
  6. 前記サイドフォースと前記セルフアライニングトルク基準値の直線的な特性に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項5記載の路面摩擦状態推定装置。
  7. タイヤ発生力特性を理論的に記述したブラッシュモデルによる勾配を有する直線の前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項5または請求項6記載の路面摩擦状態推定装置。
  8. 高グリップ状態を仮定して設定される前記セルフアライニングトルク基準値に基づいて、前記セルフアライニングトルク基準値を設定する請求項5または請求項6記載の路面摩擦状態推定装置。
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JP2009180581A (ja) * 2008-01-30 2009-08-13 Fuji Heavy Ind Ltd 路面摩擦係数推定装置
JP2010111246A (ja) * 2008-11-06 2010-05-20 Mitsubishi Electric Corp 路面摩擦係数推定装置

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