JP2004027906A - シリンダブロックの製造方法及びシリンダブロック軸受部用プリフォーム - Google Patents
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Abstract
【解決手段】シリンダブロック軸受部用プリフォーム1の両端をなす平坦部10A、20Aには、この部分を貫通する貫通孔1a、1aが形成されている。貫通孔1aは、上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパー形状をなす。シリンダブロックの製造方法では、貫通孔1a、1aの形成されたプリフォーム1を作製するプリフォーム作製工程を行い、金型内のピン53、54を貫通孔1aに挿入してプリフォーム1を金型に保持するプリフォーム保持工程を行い、プリフォーム1にアルミニウム合金溶湯を鋳込む軸受部の鋳込み工程を行う。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリンダブロックの製造方法及びプリフォームに関し、特に、シリンダブロック軸受部の製造方法及びシリンダブロック軸受部に用いられるプリフォームに関する。
【0002】
【従来の技術】
乗用車等のエンジンを構成するシリンダブロック100は、通常では図3に示されるように、シリンダライナ等を有する上部側のシリンダブロック本体部102とベアリングキャップ101を備えている。ベアリングキャップ101は、シリンダブロック本体部102の下部に対向して設けられており、本体部102に対向する位置には半円柱形状をした凹部110aが形成されている。また、ベアリングキャップの凹部110aに対向する本体部102の位置にも半円柱形状をした凹部102aが形成されている。凹部110aと凹部102aとにより画成される円柱形状をした空間には、図示せぬクランクシャフトが回転可能に支承され、凹部110aと凹部102aとによりシリンダブロックの軸受部を構成する。ベアリングキャップ101の半円柱形状をした凹部110aの近傍の位置には、凹部110aの中心点を中心として略対称の位置関係で、図3の上下方向に貫通する貫通孔101aが2つ形成されている。貫通孔101aには、図示せぬボルトがそれぞれ1本ずつ挿入される。ボルトは、貫通孔の図3における下側から上側へ向かって挿入され、貫通孔を貫通し、本体102に形成された図示せぬ2つの孔部にそれぞれ螺合することにより、ベアリングキャップが本体部102に固定されるように構成されている。
【0003】
従来より、ベアリングキャップ101については、その外形よりも小さい略相似形状をなし粒子や繊維や粒子と繊維との混合物により構成されたプリフォームを、アルミニウム合金で鋳込むことにより製造する方法が知られている。この方法では、アルミニウム合金で鋳込む前に、予めプリフォームを金型内にセットする。プリフォームを金型内にセットした後にアルミニウム合金溶湯を金型内に給湯して鋳込むことによって、プリフォーム内にアルミニウム合金が含浸し、また、プリフォームの周囲にアルミニウム合金層が生成されたベアリングキャップが製造される。最後に、ベアリングキャップにボルトを挿入するための2つのボルト貫通穴を形成する切削加工を行うことによって、ベアリングキャップ101を製造する。
【0004】
図4は、従来のシリンダブロック200を構成するシリンダブロック本体部202とクランクロアケース201とを示す。かかる構成では、図3のベアリングキャップ101に相当する部分がシリンダ数に対応して複数配列され、それらが一体に鋳造されている。クランクロアケース201は、シリンダブロック本体部202の下部に対向して設けられており、本体部202に対向する位置には半円柱形状をした凹部210aが複数形成されている。また、本体部202にも半円柱形状をした凹部202aが形成され、凹部210aと凹部202aとによりクランクシャフトの軸受部が構成される。凹部210aの近傍の位置には、凹部210aの中心点を中心として略対称の位置関係で、図4の上下方向に貫通する貫通孔201aが形成され、図示せぬボルトがそれぞれ挿通されて、本体202に形成された図示せぬ孔部にそれぞれ螺合することにより、クランクロアケースが本体部202に固定されるように構成されている。
【0005】
クランクロアケース201と同一外形をなす金型キャビティ内に、図3のベアリングキャップ101と同一又は類似形状のプリフォームを複数並設セットして、アルミニウム合金溶湯を充填することにより、図4に示されるクランクロアケース201が一体に鋳造される。なお明細書中、ベアリングキャップやクランクロアケースが、本発明の対象である「シリンダブロック軸受部」を構成する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来のシリンダブロック軸受部の製造方法では、上述のように、プリフォームを金型内にセットする必要があるが、このセットが適切でない場合にはプリフォームがアルミニウム合金溶湯の影響により変形して割れが生じるという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、金型内の適切な位置にプリフォームを確実にセットすることができ、且つ、鋳込み時にプリフォームが変形して割れが生じるのを防止できるシリンダブロックの製造方法及び当該製造方法に用いられるシリンダブロック軸受部用プリフォームを提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、粒子、繊維、又は粒子と繊維との混合物を成形することにより、テーパ形状をなす2つの貫通孔が形成されたシリンダブロック軸受部用プリフォームを作製するプリフォーム作製工程と、該貫通孔の一部又は全体と略同一のテーパ形状をなすピンを各該貫通孔にそれぞれ挿入することにより該プリフォームを金型に保持するプリフォーム保持工程と、該プリフォームにアルミニウム合金溶湯を鋳込むことによって、該プリフォーム内に該アルミニウム合金を含浸させて該プリフォームが存在する部分を該プリフォームと該アルミニウム合金とからなる複合部材とし、該プリフォーム上であってクランクシャフトとの摺動部となる部分にアルミニウム合金層を生成する軸受部の鋳込み工程とを有するシリンダブロックの製造方法を提供している。
【0009】
ここで、該貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなし、外周面がテーパ面をなした2本のピンを各該貫通孔の両開口端から対向させて挿入することが好ましい。
【0010】
また、該2本のピンの先端部分は更に先細り形状をしており、該貫通孔内で互いに点接触又は面接触した状態でプリフォームを金型に保持することが好ましい。
【0011】
また、該ピンには、その外周面から突出する段部が設けられ、該ピンを該貫通孔に挿入するときには該段部が該プリフォームの該貫通孔の開口端周辺部に当接することが好ましい。
【0012】
また、該貫通孔を画成する該プリフォームと該ピンとの間には、0.1〜0.2mmの値を採るクリアランスが確保されていることが好ましい。
【0013】
本発明は更に、粒子、繊維、又は粒子と繊維との混合物が成形されてなり、2本の金型内保持用ピンを挿入するためのテーパ形状の2つの貫通孔が形成されているシリンダブロック軸受部用プリフォームを提供している。
【0014】
ここで、該貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしていることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の第1の実施の形態によるシリンダブロックの製造方法及びシリンダブロック軸受部用プリフォーム1について図1に基づき説明する。なお、第1の実施の形態は、ベアリングキャップをシリンダブロック軸受部に適用した場合について説明する。先ず、ベアリングキャップ用プリフォーム1の形状について説明する。ベアリングキャップ用プリフォーム1は、従来のベアリングキャップ用プリフォームと同様に、シリンダブロックを構成するベアリングキャップと略相似形状をなしており、アルミニウム合金で鋳込まれてベアリングキャップとなる。
ベアリングキャップは、従来のベアリングキャップと同様に、図示せぬシリンダブロック本体部と共にシリンダブロックを構成し、シリンダブロック本体部の下部に対向して設けられる。
【0016】
ベアリングキャップ用プリフォーム1は、図1に示されるように、上面10の両端近傍の部分が平坦部10A、10Aをなしている。上面10の中央の位置には、プリフォーム1の内方へ凹んだ凹部10aが形成されている。凹部10aは、プリフォーム1の上面10と下面20とを結ぶ方向に切った断面では半円形状をしている。凹部10aを含めたプリフォーム1の全外周面上には、後述のようにアルミニウム合金層が生成されるが、この凹部10a相当位置には、円柱形状をした図示せぬクランクシャフトの半径方向の断面における半円分が当接し、クランクシャフトはベアリングキャップに対して回転可能に支持されるように構成されている。図示せぬクランクシャフトの残りの半円分は、図示せぬシリンダブロック本体部の下部に形成された図示せぬ半円柱形状の凹部に当接し、クランクシャフトはシリンダブロック本体部に対して回転可能に支持される。図1におけるベアリングキャップ用プリフォーム1の下面20は上面10に倣った形状になっており、両端近傍の部分が平坦部20A、20Aをなし、中央の位置には、断面が略円弧形状にプリフォーム1の外方へ緩やかに突出する凸部20Bが設けられている。ベアリングキャップ用プリフォーム1の、図1における左右の側面は、それぞれ平面30、40になっている。
【0017】
ベアリングキャップ用プリフォーム1の、図1における左右両端の平坦部10A、20Aには、それぞれ貫通孔1a、1aが1つずつ合計2つ形成されている。これら2つの貫通孔1a、1aは、それぞれ上面10、下面20の平坦部10A、20Aにおいて開口して開口端1b、1cをなし、上面10、下面20の開口端1b、1cを結ぶ方向に垂直な方向に切った断面は、いずれの位置においても円形状をしており、その全体は、上底を共有する同一形状の2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしている。即ち、図1に示されるように、2つの貫通孔1a、1aはそれぞれ上面10の開口端1bから下面20へ向かってプリフォーム1の厚さの略半分の位置に至るまでの部分は、除々に窄まった先細りのテーパ形状をなす。そして、その略半分の位置から下面の開口端1cへ至るまでの部分は、当該開口端1cへ向かって除々に拡径するテーパ形状をなしている。これら2つのテーパの勾配はそれぞれ1°30′である。後述のように、2つの貫通孔1a、1aにはそれぞれ、ベアリングキャップ用プリフォーム1を金型50内の所定の位置に保持するためのピン53、54が挿入可能に構成されている。この貫通孔1a、1aは、鋳造後のベアリングキャップをシリンダブロック本体部に固定するためのネジ穴として利用できる。ベアリングキャップ用プリフォーム1の寸法の詳細については、図1における左右両端部をなす平坦部10A、20A間の厚さが40mm、凹部10aの中央の位置の一番薄い部分の厚さが15mmであり、凹部10aの直径が60mmである。
【0018】
テーパ形状の2つの貫通孔1a、1aが形成されているため、後述の金型50内に設けられたピン53、54を貫通孔1a、1aに挿入してプリフォーム1を金型50内に保持することができる。また、貫通孔1a、1aやピン53、54がテーパ形状をしているため、プリフォーム1を金型50内の所定位置に正確且つ確実に保持することができ、鋳込み時にプリフォーム1が変形して割れが生じてしまうことを防止できる。また、鋳込んだ後にピン53、54を貫通孔1a、1aから引抜くのを容易にする抜け勾配とすることができる。
【0019】
また、従来では、プリフォームが鋳込まれることによって製造されたベアリングキャップの、プリフォームの平坦部相当位置に、ベアリングキャップをシリンダブロック本体部に固定するためのボルトを挿入する2つの貫通孔を形成する穿孔加工を行う必要があったが、本実施の形態では、鋳込む前からプリフォーム1に貫通孔1a、1aが形成されているため、アルミニウム合金による鋳造後も貫通孔相当部分が既に提供されており、内周面にネジ加工又は仕上げ加工のみを施せばよく、鋳造後に穿孔加工を行わずに済む。よってアルミニウム合金の廃棄量を減少できる。
【0020】
本実施の形態とは異なり、仮に、それぞれの貫通孔が単一のテーパ形状をなしているとすれば、プリフォームの例えば上面の開口面積が小さく下面の開口面積が大きくなる。この場合、貫通穴をボルト穴として最終的に仕上げ加工する場合には、下面側の開口面積が基準となり、上面側に向かって徐々に削り代が大きくなってゆき、上面側で最大の削り代となる。しかし上述したように本実施の形態では、2つの貫通孔1a、1aが、上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているため、肉厚方向中央に向かって削り代が大きくなるものの、単一のテーパ形状の貫通孔の場合と比較して削り代の厚さを大きく削減することができる。
【0021】
また、2つの貫通孔1a、1aが、上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているため、貫通孔1a、1aの両開口端1b、1cにおける開口面積を大きくすることができる。仮にそれぞれの貫通孔が単一のテーパ形状をなしているとすれば、上述のとおりプリフォームの例えば上面の開口面積が小さく下面の開口面積が大きくなる。この場合、ぞれぞれの貫通孔内に延びるテーパ状のピンも1本であり、ピンは可動金型から延びた先細り形状となる。かかるピンにプリフォームの貫通孔を挿通させるためには、図示せぬロボットの爪を貫通孔に挿入してプリフォーム1を掴んで運搬するのであるが、ロボットの爪はプリフォーム上面の開口面積の小さい側を掴んで開口面積の大きい側からピンに挿通させる必要がある。小さい開口に爪を挿入するのは困難であるため、プリフォームの搬送に支障を来すことになる。しかし本実施の形態では、プリフォーム1を可動金型51にセットするときに、ロボットの爪を貫通孔1a、1aに挿入してプリフォーム1を掴んで運搬するのであるが、上述したようにプリフォーム1の貫通孔1a、1aの開口端における開口面積が大きくなっているため、ロボットは爪を貫通孔1a、1aに容易に挿入することができ、プリフォーム1を確実に掴むことができる。
【0022】
次に、ベアリングキャップ用プリフォーム1を金型50内に保持するための金型50の構成について説明する。金型50は、図1に示されるように、可動金型51と固定金型52とからなり、これら可動金型51と固定金型52とによってキャビティ50aが画成されている。キャビティ50aは、ベアリングキャップ用プリフォーム1の外形よりも若干大きい略相似形状をしている。即ち、図1におけるキャビティ50aの上半分は可動金型51によって画成され、下半分は固定金型52によって画成されており、平坦部10A、10Aに対向する可動金型51の位置は平坦部51A、51Aをなす。また、凹部10aに対向する可動金型51の位置には、キャビティ50aの内方へ突出し断面が半円形状をした凸部51Bが設けられている。平坦部20A、20Aに対向する固定金型52の位置は平坦部52A、52Aをなしており、凸部20Bに対向する固定金型52の位置には、断面が略円弧形状にキャビティ50aの外方へ緩やかに凹んで、プリフォーム1の凸部20Bと略同一形状をなす凹部52aが形成されている。平面30に対向する可動金型51、固定金型52の位置は平面51C、52Cをなしており、平面40に対向する可動金型51、固定金型52の位置も平面51D、52Dをなしている。
【0023】
可動金型51の平坦部51A、51Aには、ピン53、53がそれぞれ1本ずつ設けられている。ピン53、53は、固定金型52へ向かって突出しており、金型50が閉じられてキャビティ50aが画成されているときの、図1におけるキャビティ50aの上下方向の長さの略半分の位置に至るまで延びている。ピン53、53の突出する方向に垂直に切ったピン53、53の断面は円形をしている。ピン53、53は、段部と小径部とからなり、ピン53、53の基端から先端へ向かった所定の位置までの部分がフランジ状に突出した段部53A、53Aをなし、これ以外の部分は小径部53Bをなしており、小径部53Bは貫通孔1aに挿入可能に構成されている。
【0024】
段部53Aは、図1に示されるように、プリフォーム1の貫通孔1aにピン53が挿入されたときに、ピン53の先端寄りの段部53Aの端部においてプリフォーム1の平坦部10Aと当接するように構成されている。プリフォーム1と段部53A、53Aとが当接することによって、図1におけるプリフォーム1の上面10と可動金型51とが所定の距離を隔てて離間した状態とされる。金型50内においてプリフォーム1を鋳込むときに、プリフォーム1の上面10と可動金型51との間にアルミニウム合金溶湯が入り込み、プリフォーム1の上面10を覆うようにしてアルミニウム合金層が上面10上に生成される。従って、ピン53が延びる方向における段部53A、53Aの厚さは、プリフォーム1の上面10上に生成されるアルミニウム合金層の厚さと一致する。ピンの段部53A、53Aの厚さは5mm程度である。
【0025】
ここで、プリフォーム1上にこの程度の厚さのアルミニウム合金層を生成するのは、切削加工による最終仕上げを施すことによって、クランクシャフトとの摺動部を形成する際に、この切削加工を容易とするためである。プリフォーム1を鋳込むことによって、プリフォーム1内にアルミニウム合金が含浸してプリフォーム1とアルミニウムとからなる複合材が生成されるのであるが、この複合材が凹部10a相当位置においておいてむき出しの状態になっていると、複合材を直接切削加工することになり、加工性が低下するためである。
【0026】
小径部53Bは、先端に向かって径が除々に小さくなるテーパ形状部53Cと、小径部53Bの先端に位置しテーパ形状部53Cに連続して接続された曲面部53Dからなる。テーパ形状部53Cの勾配は1°30′であり、貫通孔1aのテーパの勾配に一致する。曲面部53Dは略半球形状をしており、その半径は4mmである。前述のように、プリフォーム1の2つの貫通孔1a、1aは、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているが、テーパ形状部53Cは、これら2つの裁頭円すいの内の一方の平坦部10Aに開口するものよりも若干小さい相似形状となっている。このことによって、テーパ形状部53Cのテーパ面と貫通孔1aとの間には、0.1〜0.2mmのクリアランスが確保された状態となっている。クリアランスがこのような小さな値を採るため、プリフォーム1をアルミニウム合金溶湯で鋳込む際に、ピン53と貫通孔1aとの間にアルミニウム合金溶湯が入りにくくなり、変形や割れを防ぐことができる。また、鋳込んだ後に、ピン53を貫通孔1aから抜き取る際の抜取り性を良好にすることができる。
【0027】
図1に示されるように、キャビティ50aの下面を画成する固定金型52の2つの平坦部52A上であってピン53に対向する位置にも、貫通孔1a、1aに挿入可能に構成されたピン54、54がそれぞれ1本ずつ設けられている。ピン54、54は、可動金型51へ向かって突出しており、金型50が閉じられてキャビティ50aが画成されているときの、図1におけるキャビティ50aの上下方向の長さの略半分の位置に至るまで延びている。従って、金型50が閉じられてピンが貫通孔1a、1aに挿入されているときには、ピン53、53の先端とピン54、54の先端とがそれぞれ互いに当接するように構成されている。ピン54、54の形状は、ピン53、53の形状と略同一であり、ピン54の延びる方向における段部54Aの厚さがピン53、53の段部53Aの厚さよりも厚い点のみにおいてピン54はピン53とは異なる。
【0028】
なお、プリフォーム1の図1における側面をなす平面30、40と、可動型51、固定型52との間は、段部54Aの厚さと略同一の距離をもって離間されている。従って、製造されるベアリングキャップは、その周囲の全面にアルミニウム合金層が生成される。
【0029】
ピン53、54の先端部分が略半球形状をした曲面部53Dからなるため、ピン53、54の先端部分をテーパ形状部53Cよりも更に先細り形状とすることができ、貫通孔1a、1aにピン53、54を挿入する際に、ピン53、54の先端部分がプリフォーム1に接触してしまうのを防止することができる。
【0030】
また、ピン53、54に段部53A、54Aが設けられているため、アルミニウム合金溶湯を鋳込んだときにプリフォーム1がキャビティ50a内で移動するのを防止することができ、正確な位置にプリフォーム1を確実に保持することができる。また、プリフォーム1内にアルミニウム合金溶湯を良好に含浸させるには、プリフォーム1の周囲の全面にアルミニウム合金を巡らせて、全面からアルミニウム合金溶湯が含浸するようにさせる必要があるが、ピン53、54の段部53A、54Aにプリフォーム1が当接することによって、キャビティ50aを画成する金型50の内周面からプリフォーム1を所定の距離だけ離間した位置に保持することができるため、鋳込むときにプリフォーム1の周囲の全面にアルミニウム合金を巡らせることができる。
【0031】
次に、本実施の形態によるシリンダブロックの製造方法におけるベアリングキャップの製造方法について説明する。先ず、プリフォーム作製工程を行う。具体的には、粒子のみ、繊維のみ、又はこれら粒子と繊維との混合物に酸化ケイ素系の添加剤を加えた後に、圧縮成形してプリフォーム1を製造する。圧縮成形で用いられる型には、貫通孔1a、1aを形成するための部分が設けられており、圧縮成形されて製造されたプリフォーム1には貫通孔1a、1aが形成されている。
【0032】
ここで、プリフォーム1を構成する材料としては、線膨張係数については鋼よりも値が小さく、且つ、縦弾性係数(ヤング率)についてはある程度値の大きいもの、より好ましくは鋼よりも縦弾性係数の大きいものが用いられる。鋼の線膨張係数は12×10−6/Kであり、縦弾性係数(ヤング率)は2.1×1011N/m2であるから、プリフォーム1を構成する粒子、繊維としては、線膨張係数が12×10−6/Kよりも小さく、縦弾性係数は2.1×1011N/m2よりも大きいものを用いる。このことによって、プリフォーム1にアルミニウム合金が含浸してなる複合材は、アルミニウム合金よりも熱膨張率(線膨張率及び体積膨張率)が小さく、剛性の高いものとなる。
【0033】
プリフォーム1を構成する粒子や繊維としては、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、ムライト(Al2O3−SiO2)などの酸化物、スピネル(MgO−Al2O3)、炭化ケイ素(SiC)などの酸化物、窒化ケイ素(Si3N4)などの窒化物が好適に用いられる。また、これらの粒子と繊維とを混合したものが好適に用いられる。この場合には、粒子と繊維とが同等の材質であることは必要とされない。
【0034】
本実施の形態では、より詳細には平均粒径が6μmで最大10μm以下のAl2O3粒子と、断面の径が3μmのAl2O3繊維とを5:5の割合で混合し、この混合物にシリカ(SiO2)ゾルをバインダーとして2.5wt%添加してAl2O3粒子とAl2O3繊維の表面を改質した後に圧縮成形することによって、体積率が25%のベアリングキャッププリフォーム1を製造した。Al2O3粒子及びAl2O3繊維の線膨張係数は7.0×10−6/Kであり、鉄の熱膨張係数(12×10−6/K)よりも十分に小さい。なお、プリフォーム1を鋳込んで製造されるベアリングキャップの複合材の部分における線膨張係数は16×10−6/K、アルミニウム合金層の部分における線膨張係数は22×10−6/Kとなる。シリカゾルをバインダーとして添加したのは、粒子や繊維の表面を改質させて表面処理を行うことによってアルミニウム合金との濡れ性を向上させて、アルミニウム合金溶湯をプリフォーム1内に含浸し易くさせるためである。
【0035】
次に、プリフォーム保持工程を行う。具体的には、先ずプリフォーム作製工程で製造したプリフォーム1を700℃に予熱する。次にロボットによりプリフォーム1を運搬し、プリフォーム1の貫通孔1a、1aの開口端1b、1bから、可動金型51側のピン53、53を挿入してゆき、プリフォーム1を段部53Aに当接させる。そして、可動金型51を移動させることによって、プリフォーム1の貫通孔1a、1aの開口端1c、1cから固定金型52のピン54、54を挿入してゆき、段部54Aをプリフォーム1に当接させると同時に、ピン53の先端の曲面部53Dとピン54の先端の曲面部54Dとを点接触させる。このとき、金型50が閉じられた状態となり、キャビティ50aが画成され、プリフォーム1が金型50の最適な位置に確実にセットされる。
【0036】
次に、軸受部の鋳込み工程を行う。具体的には、キャビティ50a内に680℃のアルミニウム合金溶湯を給湯し一定の圧力を付与してダイカスト鋳造法により鋳込み、プリフォーム1の内部にアルミニウム合金溶湯を含浸させてプリフォーム1とアルミニウム合金とからなる複合材とし、また、プリフォーム1の周囲にアルミニウム合金層を生成する。以上の軸受部の鋳込み工程を経た後に、最終仕上げとして、図示せぬクランクシャフトとの摺動部となるプリフォーム1の上面10上のアルミニウム合金層に切削加工を施して、ベアリングキャップを製造する。また、貫通穴1a、1aに相当する部分の内周面にボルト挿通穴のための仕上げ切削加工を施す。このとき上述したように、2つの貫通孔1a、1aが、上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているため、削り代を大きく減少できる。
【0037】
本発明によるシリンダブロックの製造方法及びシリンダブロック軸受部用プリフォームは、上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変形や改良が可能である。例えば、上述した実施の形態では、ベアリングキャップをシリンダブロック軸受部として説明したが、図4に示されるようなクランクロアケースをシリンダブロック軸受部とした場合も本発明を同様に適用できる。例えば、図1に示されるベアリングキャップ用プリフォームと同一又は類似形状のプリフォームを複数用意し、図4に示されるクランクロアケースと同一外形を画成するキャビティ内に複数のプリフォームを並設させて、キャビティ内にアルミニウム合金溶湯を充填させることにより、一体のクランクロアケースが提供できる。
【0038】
また本実施の形態においては、ピンの小径部のテーパの勾配の値は1°30′であったが、1〜2°の値の範囲内であればよい。また、小径部の先端部分は半円形状をなし、その半径は4mmであったが、1〜9mmの値の範囲内であればよい。半径をこの値の範囲とすることによって、ピンを貫通孔に挿入する際に、ピンの先端部が、貫通孔を画成するプリフォームに接触してしまうのを防止することができる。
【0039】
また、本実施の形態では、プリフォーム1を製造する際に、粒子のみ、繊維のみ、又はこれら粒子と繊維との混合物に酸化ケイ素系の添加剤を加えた後に圧縮成形した。圧縮成形することが好ましいのであるが、圧縮せずに成形するようにしてもよい。
【0040】
また、可動金型51に設けた2つのピン53、53と固定金型52に設けた2つのピン54、54とを貫通孔1a、1aに挿入することによってプリフォーム1を保持したが、可動金型、固定金型のうちの一方にのみ2つのピンを設け、このピンによってプリフォームを保持してもよい。この場合には、2つの貫通孔は、2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状ではなく、1つの裁頭円すいからなるテーパ形状であればよい。また、この場合には、金型が閉じられた状態のときに、プリフォームを貫通するピンの先端が、対向する相手側金型に当接することが好ましい。
【0041】
また、本実施の形態では、ピン53、54の先端部分が半球形状の曲面部53D、54Dにより構成されていたが、この形状には限定されない。例えば、図2に示されるように、ピンの先端部分以外の小径部の勾配とは異なる値の勾配を有するテーパ形状部63Eと、平坦面63Fとにより構成されるようにしてもよい。この場合には、先端部分のテーパ形状部63Eの勾配は、10°程度とすることが好ましい。この値とすることにより、ピンの先端部分が更に先細り形状となり、貫通孔にピンを挿入する際に、ピンの先端部がプリフォームに接触してしまうのを防止することができる。金型が閉じられた状態のときには、対向する2つのピンは互いに平坦面63Fで面接触するのが好ましい。
【0042】
【発明の効果】
請求項1記載のシリンダブロックの製造方法によれば、2つの貫通孔が形成されたシリンダブロック軸受部用プリフォームを作製するプリフォーム作製工程を備えているため、プリフォーム保持工程で、金型内に設けられたピンを貫通孔に挿入することによりプリフォームを金型内の所定の位置に保持することができる。また、貫通孔とピンとがテーパ形状をしているため、鋳込み時にプリフォームが変形して割れが生じてしまうことを防止でき、また、鋳込んだ後にピンを貫通孔から引抜くのを容易にすることができる。また、軸受部の鋳込み工程を行う前に、既にプリフォームに貫通孔が形成されているため、軸受部の鋳込み工程を行った後に貫通孔を形成するような穿孔加工を行わずに済む。また貫通孔を利用し、貫通孔の内周面加工のみでボルト穴とすることができる。
【0043】
請求項2記載のシリンダブロックの製造方法によれば、貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしており、外周面がテーパ面をなした2本のピンを貫通孔の両開口端から対向させて挿入するようにしたため、貫通孔の両開口端における開口面積を大きくすることができ、プリフォームを可動金型又は固定金型にセットする際に、ロボットの爪を貫通孔に挿入してプリフォームを掴んで運搬する場合、プリフォームの貫通孔の開口端における開口面積が大きくなっているため、ロボットの爪を貫通孔に挿入し易く、プリフォームを確実に掴むことができる。
【0044】
また、仮にそれぞれの貫通孔が単一のテーパ形状をなしているとすれば、プリフォームの例えば上面の開口面積が小さく下面の開口面積が大きくなる。この場合、貫通穴をボルト穴として最終的に仕上げ加工する場合には、下面側の開口面積が基準となり、上面側に向かって徐々に削り代が大きくなってゆき、上面側で最大の削り代となる。しかし請求項2記載の貫通穴では、2つの貫通孔が、上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているため、上面開口と下面開口を基準としてプリフォームの肉厚方向の中心に向かって切削加工すればよく、単一のテーパ形状の貫通孔の場合と比較して削り代を大きく削減することができる。
【0045】
請求項3記載のシリンダブロックの製造方法によれば、2本のピンの先端部分が更に先細り形状をしており、貫通孔内で互いに点接触又は面接触するようにしたため、ピンを貫通孔に挿入する際に、ピンの先端部分がプリフォームに接触するのを防止することができる。
【0046】
請求項4記載のシリンダブロックの製造方法によれば、ピンには、その外周面から突出する段部が設けられ、ピンを貫通孔に挿入するときには段部がプリフォームの貫通孔の開口端周辺部に当接するため、鋳込み時にプリフォームが移動するのを防止でき、金型内の正確な位置に確実に保持することが可能である。
【0047】
また、プリフォーム内にアルミニウム合金溶湯を良好に含浸させるには、プリフォームの周囲の全面にアルミニウム合金を巡らせて、全面からアルミニウム合金溶湯が含浸するようにさせる必要があるが、ピンの段部にプリフォームが当接することによってプリフォームをキャビティの内周面から所定の距離だけ離間した位置に保持することができるため、鋳込むときにプリフォームの周囲の全面にアルミニウム合金を巡らせることができる。
【0048】
請求項5記載のシリンダブロックの製造方法によれば、貫通孔を画成するプリフォームとピンとの間には、0.1〜0.2mmの値を採るクリアランスが確保されているため、プリフォームをアルミニウム合金溶湯で鋳込む際に、ピンと貫通孔との間にアルミニウム合金溶湯が入りにくくなり、プリフォーム変形や割れを防ぐことができる。また、鋳込んだ後に、ピンを貫通孔から抜き取る際の抜取り性を良好にすることができる。
【0049】
請求項6記載のシリンダブロック軸受部用プリフォームによれば、2本の金型内保持用ピンを挿入するためのテーパ形状の2つの貫通孔が形成されているため、鋳造後に貫通孔の内周面に仕上げ加工をするだけで、貫通孔を、シリンダブロック軸受部をシリンダブロック本体に取付けるためのボルトを挿通させるボルト穴とすることができる。また、金型内に設けられたテーパ形状のピンを用いることにより、貫通孔とピンとが共にテーパ形状をすることで、鋳込み時にプリフォームが変形して割れが生じてしまうことを防止でき、また、鋳込んだ後にピンを貫通孔から引抜くのを容易にすることができる。
【0050】
請求項7記載のシリンダブロック軸受部用プリフォームによれば、貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしているため、貫通孔の両開口端における開口面積を大きくすることができ、請求項2の効果と同様に、ロボットの爪によるプリフォームの把持能力や、削り代の削減に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態によるシリンダブロック軸受部用プリフォームを示す断面図。
【図2】本発明の実施の形態によるシリンダブロック軸受部用プリフォームを、金型内に保持するためのピンの変形例を示す要部断面図。
【図3】従来のシリンダブロックを構成するシリンダブロック本体部とベアリングキャップとを示す要部斜視図。
【図4】従来のシリンダブロックを構成するシリンダブロック本体部とクランクロアケースとを示す要部斜視図。
【符号の説明】
1 シリンダブロック軸受部用プリフォーム
1a 貫通孔
1b、1c 開口端
50 金型
53、54 ピン
53A、54A 段部
Claims (7)
- 粒子、繊維、又は粒子と繊維との混合物を成形することにより、テーパ形状をなす2つの貫通孔が形成されたシリンダブロック軸受部用プリフォームを作製するプリフォーム作製工程と、
該貫通孔の一部又は全体と略同一のテーパ形状をなすピンを各該貫通孔にそれぞれ挿入することにより該プリフォームを金型に保持するプリフォーム保持工程と、
該プリフォームにアルミニウム合金溶湯を鋳込むことによって、該プリフォーム内に該アルミニウム合金を含浸させて該プリフォームが存在する部分を該プリフォームと該アルミニウム合金とからなる複合部材とし、該プリフォーム上であってクランクシャフトとの摺動部となる部分にアルミニウム合金層を生成する軸受部の鋳込み工程とを有することを特徴とするシリンダブロックの製造方法。 - 該貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしており、外周面がテーパ面をなした2本のピンを各該貫通孔の両開口端から対向させて挿入することを特徴とする請求項1記載のシリンダブロックの製造方法。
- 該2本のピンの先端部分が更に先細り形状をしており、該貫通孔内で互いに点接触又は面接触した状態でプリフォームを金型に保持することを特徴とする請求項2記載のシリンダブロックの製造方法。
- 該ピンには、その外周面から突出する段部が設けられ、該ピンを該貫通孔に挿入するときには該段部が該プリフォームの該貫通孔の開口端周辺部に当接することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一に記載のシリンダブロックの製造方法。
- 該貫通孔を画成する該プリフォームと該ピンとの間には、0.1〜0.2mmの値を採るクリアランスが確保されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一に記載のシリンダブロックの製造方法。
- 粒子、繊維、又は粒子と繊維との混合物が成形されてなり、2本の金型内保持用ピンを挿入するためのテーパ形状の2つの貫通孔が形成されていることを特徴とするシリンダブロック軸受部用プリフォーム。
- 該貫通孔は、それぞれ上底を共有する2つの裁頭円すいを組合せた2つのテーパ形状をなしていることを特徴とする請求項6記載のシリンダブロック軸受部用プリフォーム。
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