JP2004026947A - インクジェット用水性顔料インク及び記録物 - Google Patents
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Abstract
【課題】分散安定性に優れノズル目詰まりがなく、且つインクジェット記録の際に印字濃度が高く、印字部の光沢度低下も少なく、且つ耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物を提供する。
【解決手段】インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあることを特徴とするインクジェット用水性顔料インク。また印字部の75度光沢度が40%以上である記録物。
【選択図】 なし
【解決手段】インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあることを特徴とするインクジェット用水性顔料インク。また印字部の75度光沢度が40%以上である記録物。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つインクジェット記録に際しても高濃度で、しかも印字部の光沢度低下がなく印字品質に優れると共に印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりインクジェット用インクとしては、特開昭53−61412号公報、特開昭54−89811号公報、特開昭55−65269号公報に開示されるように酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料をグリコール系溶剤と水に溶解したものがよく用いられている。しかし、水溶性染料としては、インクの安定性を得るために、水に対する溶解性の高いものが一般的に用いられており、インクジェット記録物の耐水性が悪く、また、これらの水溶性染料は本来耐光性が劣るために、インクジェット記録物の耐光性も悪いという問題があった。
【0003】
このような耐水性、耐光性の不良を改良するため、特開昭56−57862号公報に開示されるように、染料の構造を変えたり、塩基性の強いインクを調製することが試みられている。また、特開昭50−49004号公報、特開昭57−36692号公報、特開昭59−20696号公報、特開昭59−146889号公報に開示されるように、記録紙とインクとの反応をうまく利用して耐水性の向上を図ることも行われている。これらの方法は、ある種の記録紙については著しい効果をあげているが、インクジェット方式においては種々の記録紙を用いるため、水溶性染料を使用するインクでは記録物の充分な耐水性及び耐光性が得られないことが多い。
【0004】
また、耐水性の良好なインクとしては、油溶性染料を高沸点溶剤に分散ないし溶解したもの、油溶性染料を揮発性の溶剤に溶解したものがあるが、溶剤の臭気や溶剤の排出に対して環境上嫌われることがあり、大量の記録を行う場合や装置の設置場所によっては、溶剤回収等の必要性が問題となることがある。
【0005】
上記欠点を改良するためにいわゆる水性の顔料インクが過去に様々に提案されているが、微細なノズルからインク滴を吐出させる必要がある為にノズルの目詰まりを起こしやすく、また水溶性染料は紙層に深く浸透するのに対して顔料は紙層表面にとどまり耐擦過性に劣ると云う問題があり、耐擦過性を改良するためにインク中に接着剤を含有させると印字濃度低下と云う問題があった。更にインクジェット記録用紙が高光沢の表面を有している場合には、顔料インクである為に印字部の光沢度低下と云う問題もあった。
【0006】
耐擦過性改良の試みとして特開平4−59880、特開平5−263029には水性顔料インク中に水溶性高分子化合物を添加することが提案されているが、耐擦過性は改良されても、高分子化合物添加で水性顔料インクの粘度が高くなる傾向があり、ノズル目詰まりを起こしやすいと云う問題があった。
【0007】
また水性顔料インクの粘度上昇を極力抑えて耐擦過性を改良する試みとして、特開平9−208870、特開2001−49155には樹脂エマルジョンを添加して耐擦過性を改良する試みが提案されている。しかし樹脂エマルジョン添加で耐擦過性は改良するが、樹脂エマルジョン製造に際して使用される界面活性剤の影響で泡立ちが大きく、インクジェットの噴射特性が必ずしも十分ではなく、添加量が多くなるとノズル目詰まりも発生し易かった。また添加量によっては印字濃度の低下の問題もあった。
【0008】
特開平5−247370号公報では顔料及び高分子化合物を含む画像記録用着色組成物において、顔料が分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されているが、顔料を高分子化合物で被覆した場合に、高分子化合物の被覆状態及び高分子化合物の種類によっては、インクの分散安定性が不十分でノズル目詰まりが発生すると云う問題があった。
【0009】
一方、本発明の水性顔料インクと組み合わせて用いられるインクジェット記録用紙に於いても、表面光沢のある画像を得る為に従来より、インク受容層中に気相法シリカによる合成シリカ微粒子(以降、気相法シリカと称す)やアルミナ微粒子を用いることが、特公平3−56552号、特開平2−113986号、同平2−188287号、同平7−276789号、同平8−34160号、同平8−132728号、同平8−174992号、同平8−269893号、同平9−286161号、同平9−286162号、同平10−81064号、同平10−175365号、同平10−203006号、同平10−217601号、同平11−34481号公報等に記載されている。これらの微粒子を用いることにより、インク受容層がインクを吸収したり保持したりする空隙を多く有する層(空隙層)を形成させ、記録シートのインク吸収性を更に高める技術が開示されており、また、微粒子であるが故に光沢を発現しやすく光沢性の高い記録シートを得ることができる。しかしながら、高光沢なインクジェット記録用紙であるほど、その反面、水性顔料インクで印字した部分の印字光沢度が低下して不自然な印字品質を招く傾向があった。またインクジェット記録用紙の表面光沢度を高めるために、インク受容層表面の平滑度を上げると更に耐擦過性に悪影響を与えると云う問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、微粒子径で分散安定性に優れてノズル目詰まりがなく、且つインクジェット記録に際しても高濃度で、しかも印字部の光沢度低下がなく印字品質に優れ、しかも印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、要するに、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にすることで、上記した課題を解決するに至った。
【0012】
樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下とするものである。
【0013】
顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5とするものである。
【0014】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200とするものである。
【0015】
上記のインクジェット用水性顔料インクを用いて、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字した記録物であって、印字部の75°光沢度が40%以上であるものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェット用水性顔料インク及び記録物について、詳細に説明する。即ち本発明は、先ず、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にするものである。
【0017】
一般にインクジェット用水性顔料インク中への樹脂エマルジョン粒子の添加により、高光沢で平滑なインクジェット記録用紙に対しても耐擦過性の良好な印字を与えることが出来る。しかしインクの作成条件によってはノズル目詰まりを起こし印字不良が発生することがある。また十分な耐擦過性の改良を行うために樹脂エマルジョン粒子の添加量を多くすると印字濃度低下を起こす場合もあったが、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径を50nm以下とし、且つその含有量をインク全質量中の0.5質量%〜10質量%にすることで、高濃度で且つ印字部の耐擦過性を改良し、しかもノズル目詰まりも改良することが出来た。
【0018】
本発明の樹脂エマルジョン粒子は、被膜形成能を有する樹脂であることが好ましく、樹脂エマルジョン粒子の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する樹脂エマルジョン粒子の量はインク全体に対し、質量比で0.5〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。添加量が0.5質量%より少ないと耐擦過性に対して効果が無く、10質量%を越えるとインクの保存時に被膜を形成してノズル目詰まりが生じやすく、また印字部の濃度低下を起こし易い。
【0020】
また、樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度は30℃以下であることが耐擦過性の更なる向上の為に好ましく、より好ましくは25℃以下、最も好ましくは20℃以下であることが好ましい。ここで最低成膜温度とは、樹脂エマルジョン粒子を水に分散させて得られた樹脂エマルジョンをアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。
【0021】
顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であることが好ましい。上記の範囲より親水性高分子化合物の比率が高くなるとノズル目詰まりが発生しやすく、また顔料に対する親水性高分子化合物の割合が上記の範囲より少なくても、顔料インクの分散安定性に劣り、ノズル目詰まりを起こしやすい。また印字部の光沢度低下を生じる。更に印字部の耐擦過性も低下する傾向がある。
【0022】
本発明において、顔料を被覆するのに用いる親水性高分子化合物は、皮膜を形成する高分子化合物であればよく、天然高分子化合物や合成高分子化合物に限定されず様々な親水性高分子化合物が用いることができ、例えばスチレン系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、ポリエステル系高分子化合物、ポリウレタン系高分子化合物が挙げられる。
【0023】
また、親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定して分散させるには、親水性高分子化合物は親水性の高い性質を有している必要があり、そのためしばしば多量の親水性高分子化合物がインク中に溶解することになる。この場合、溶解している高分子化合物は着色顔料を被覆している高分子化合物層への絡みつきに伴う粒子間架橋により、長期の保管により高分子化合物で被覆された顔料の凝集を促進することがある。またインクジェット記録を行った場合には、ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によってノズル目詰まりを起こしやすくなる。
【0024】
一方、親水性高分子化合物の親水性が低い場合には親水性高分子化合物で被覆した顔料の水性媒体中での分散安定性はより低くなり、やはりノズル目詰まりを起こし易い。
【0025】
そこで、親水性高分子化合物の水性媒体への溶解を最小限に押さえ、かつ当該水性媒体中での安定した分散を可能とすることが、しばしば必要となる。
【0026】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、例えば界面活性剤や分散剤等を用いて、もともと親水性が無いかそれが乏しい親水性高分子化合物を用いるという方法もあり得るが、着色画像がより優れた耐水性を発現する点や吐出安定性が良好な点からすれば、界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製するのが好ましい。
【0027】
この界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製する方法としては、例えば、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物を用いる様にするのが良い。中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物としては、典型的には、塩基による中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を塩基で中和してなる親水性高分子化合物が挙げられる。本発明では、界面活性剤や分散剤等などの助けを借りずとも、それ自体のみで、水性媒体に安定に分散できるこの高分子化合物を、自己乳化型高分子化合物と呼ぶ場合がある。
【0028】
本発明では、例えば酸価を有する高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した自己乳化型高分子化合物を親水性高分子化合物として用いるのが好ましい。酸価を有する高分子化合物としては、例えば酸価60〜200のものが用いられる。尚、酸価とは、高分子化合物1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mg・KOH/gで表す(以下、単位は略記する。)。この様な高分子化合物は、例えば前記特定酸価の高分子化合物の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来るが、この際は、インクのpHが7.5〜9.0となる様にすることが好ましい。
【0029】
酸価が60未満の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面親水性が乏しく、分散安定性が不充分となり易く、また、酸価が200を越える場合には高分子化合物の親水性が著しく高まり、高分子化合物による顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0030】
一方、インクのpHが7.5より低い場合には、親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性は低下し易く、また、pHが9.0以上の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0031】
最適には、本発明のインクとするに当たって、酸価が60〜200の高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した親水性高分子化合物を用いるとともに、インクのpHが7.5〜9.0となる様にしたものが、本発明において著しい効果を示す。
【0032】
本発明において、好ましい親水性高分子化合物は、スチレン系高分子化合物または(メタ)アクリル系高分子化合物であり、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体を塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり、本発明では、いずれか一方が必須であればよいが、より好適な親水性高分子化合物は、アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0034】
本発明においては、例えば親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物の水性媒体中への溶解をより少なくするには、全てのカルボキシル基を有する単量体成分のうちの、アクリル酸の比率をより少なく、メタアクリル酸の比率をより増せばよい。
【0035】
即ち、最適な親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物は、スチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーを主成分とし、アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体であって、メタアクリルがアクリル酸より多く共重合された、塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物である。
【0036】
インクのpHを塩基性にするには、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物に対して中和、即ち塩基を加えればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。塩基としては、親水性高分子化合物が分解しない程度の高温で容易に揮発する、揮発性塩基を採用するのが好ましい。
【0037】
しかしながら、より高酸価の高分子化合物をより強い塩基を用いて中和を行うと、インク中での親水性高分子化合物の溶解度がより高まることから、塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。インクジェット記録においては、ノズルの目詰まりや保存時の分散安定性、印刷物の耐水性に悪影響が極めて少ないため、弱塩基であるアルコールアミン、特にトリエタノールアミンは最適な塩基である。
【0038】
本発明の水性顔料インクに用いられる顔料は、特に限定されるものではなく、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。カラー画像を得る場合には、インクとしては、有彩色顔料を用いるのが好ましい。
【0039】
かかる顔料の使用量は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、最終的に得られるインク中で、通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0040】
インクには、必要に応じて、親水性高分子化合物を溶解しない様な、或いは溶解し難い有機溶剤を含ませることが出来る。インクに用いられる有機溶剤は、一例として乾燥防止剤や浸透剤として用いられる。
【0041】
乾燥防止剤は、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等がある。
【0042】
特にグリセリンは、親水性高分子化合物で被覆した顔料表面の親水性高分子化合物に強い水素結合により結びついて親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性をより高めると同時に、仮にインク中に親水性高分子化合物が少量溶解していたとしてもそれに対しても強い水素結合で結びつくことによって、ノズル端面での乾燥を防止するという点でより好ましい。
【0043】
浸透剤は記録媒体へのインクの侵透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり、浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0044】
これら有機溶剤の添加量は、インク中、乾燥防止剤の場合は1〜80質量%、浸透剤の場合は0.1〜10質量%とするのが好適である。
【0045】
本発明のインク中の、顔料に対する親水性高分子化合物の割合を測定する方法は、例えば超遠心分離機にて遠心沈降した物を十分に乾燥し、その後熱分析装置にて、熱分解温度の差異に基づいて、高分子化合物と顔料の比率を測定する事が出来る。インク中に、乾燥防止剤、浸透剤等の添加剤などを含んでいる場合には、顔料と親水性高分子化合物が分解しない様な温度で、前者添加剤を乾燥除去してから測定を行うことで、より測定精度は増すことが出来る。
【0046】
本発明の水性顔料インクを得る具体的な方法は、酸価を有する親水性高分子化合物を用いて顔料を被覆する場合には以下の方法が好ましい。この方法によれば、水性媒体中に分散した高分子化合物と顔料に由来する成分が、親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなり、親水性高分子化合物で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない親水性高分子化合物のみの粒子や、溶解した親水性高分子化合物をいずれも全く含まないか、含んでいても極めて極少量であるインクを容易に得ることが出来る。
【0047】
この方法は、例えば次の(1)〜(5)をこの順に行うことが出来る。
(1)酸価を有する親水性高分子化合物に、顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
【0048】
この工程は、例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて、溶液や加熱溶融された状態で、顔料を、当該高分子化合物に均一に溶解または分散させ、最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0049】
特に当該高分子化合物への顔料の微分散が必要な場合には、顔料を分散する手段として、従来知られている分散方法のうち、相対的に高せん断力のかかる状態が形成される分散手段、具体的には2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。
【0050】
(2)少なくとも、水、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも当該高分子化合物の一部が溶解している顔料懸濁液を得る。(懸濁工程)
【0051】
当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は当該高分子化合物に対して良溶媒として機能するものであり、有機溶剤としては、当該高分子化合物に対して適宜選択することが出来、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、アミド類等高分子化合物を溶解させるものであれば使用可能である。
【0052】
本工程に用いられる分散媒は、主体は親水性高分子化合物に対しては貧溶媒として機能する水であり、水性顔料インクとして用いるため、イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
【0053】
本工程では、水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく、均一でない場合は、必要に応じて、界面活性剤を用いるか、あるいは機械的にO/W型に乳化させるか、助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。前記の通りの理由により、界面活性剤は用いたとしても、最小限に止める。
【0054】
分散媒を形成する、必要に応じて用いられる当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は、それのみを用いる様にしてもよいが、それと水と塩基のみで、分散安定性に優れた顔料懸濁液を得難い場合には、それに、当該高分子化合物に対して親水性有機溶剤を、助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤及び助溶剤は、いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0055】
当該高分子化合物が、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として、助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0056】
かかる水と有機溶剤の比率は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、水/有機溶剤の質量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0057】
この工程により、固形着色コンパウンドの表面に存在する、酸価を有する親水性高分子化合物は、徐々に、塩基により、その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され、当該コンパウンドの固体形状から、混合物は懸濁状態となる。
【0058】
懸濁液を得るための攪拌方法としては、公知慣用の手法がいずれも採用でき、例えば従来の1軸のプロペラ型の攪拌翼の他に、目的に応じた形状の攪拌翼や攪拌容器を用いて、通常は、容易に懸濁可能である。
【0059】
懸濁液を得るに当たって、大きなせん断力が働かない単なる混合攪拌では微粒子化しない場合や、顔料が比較的凝集しやすい場合には、それに加えて更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機としては、例えば高圧ホモジナイザーや、商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが、顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0060】
(3)顔料懸濁液中に溶解している親水性高分子化合物成分を、顔料表面に沈着させて親水性高分子化合物で表面被覆された着色顔料を得る。(再沈殿工程)
【0061】
本工程は、前記懸濁工程で得られた顔料懸濁液中の顔料表面に、当該懸濁液中に存在する溶解高分子化合物成分及び分散高分子化合物成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは、顔料、或いは当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に吸着した状態の粒子を懸濁液の液媒体から、分離沈降させることを意味するものではない。従って、この工程で得られるものは、固形成分と液体成分とが明らかに分離した単なる混合物ではなく、当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に被覆した着色顔料が懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液である。
【0062】
この懸濁工程の顔料懸濁液中の顔料表面へ高分子化合物の沈着は、例えば、少なくとも一部、当該親水性高分子化合物が溶解及び/又は分散している顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか、及び/又は、顔料懸濁液から有機溶剤を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0063】
しかしながら、顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体をさらに加えて行う方法が、凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く攪拌しながら水または水性媒体を滴下することによって、凝集物の発生を防止しながら顔料表面に高分子化合物を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
【0064】
また得られた分散液の乾燥を防止するために、乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか、再沈殿後に添加することが好ましい。
【0065】
この様にして、上記(1)混練工程(2)懸濁工程(3)再沈殿工程によって、所望の粒子径の着色高分子化合物粒子が得られるが、通常その平均粒子径範囲は、01〜100nmである。
【0066】
(4)再沈殿工程で得られた親水性高分子化合物で被覆された着色顔料分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮。(脱溶剤工程)
【0067】
再沈殿工程で得られた着色高分子化合物粒子水分散液はそのまま用いることもできるが、共存している有機溶剤の影響で着色高分子化合物粒子が膨潤状態にある場合が多いため、保存安定性をより向上させるためや、或いはより火災や公害に対する安全性を高めるために、更に脱溶剤を行うことが好ましい。
【0068】
この様にして除去された有機溶剤は、例えば連続生産を目的とする場合には、焼却することなく、閉鎖系にてリサイクルして再利用することも出来る。
【0069】
この(1)〜(4)の工程を経て得た、着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液は、それの調製に用いた高分子化合物と顔料に由来する全成分が、専ら親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなる水性分散液となり、フリーの顔料粒子、親水性高分子化合物のみの粒子及び溶解した親水性高分子化合物の三者を実質的に含まないものである。
【0070】
こうして得られた分散液は、通常、親水性高分子化合物で被覆した顔料と、分散媒のみから実質的になる。分散液中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の含有率は、それと分散媒の合計に対して、通常、10〜40質量%とする。勿論、これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には、分散液中にはそれも含まれる。
【0071】
(5)インク化工程
前記工程によって得られる、水以外の液媒体を全く含まないか、或いはほとんど含まない、サブミクロンオーダーの着色高分子化合物粒子水分散液に更に、平均粒子径が50nm以下の樹脂エマルジョン粒子を添加した後に、分散安定性、噴射特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
【0072】
インクの調整は、例えば、前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加、濃度調整・粘度調整の他、pH調整剤、分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加剤することができる。但し、各種添加剤は、親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面に存在する親水性高分子化合物を溶解しないものを選択して専らその様な性質のもののみを用いるか、同高分子化合物を溶解しうるものであっても実質溶解しない様な濃度にその使用量を極力最小限に止める等の工夫が必要である。界面活性剤は、最終的な調整のみならず、本発明のインク調製に採用される工程の全てにおいて、全く用いない様にするのが、インクから得られる画像の耐水性等の観点からも好ましい。
【0073】
また、粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために、通常は、(4)の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか、(5)のインク化工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0074】
次に、本発明のインクジェット記録用紙に関して述べる。本発明のインク受理層中に用いられるシリカ微粒子は気相法によるものである。合成シリカには、湿式法によるものと気相法によるものがある。通常シリカ微粒子といえば湿式法シリカを指す場合が多い。湿式法シリカとしては、ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾル、またはこのシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカ、シリカゾルをゲル化させ、その生成条件を変えることによって数ミクロンから10ミクロン位の一次粒子がシロキサン結合をした三次元的な二次粒子となったシリカゲル、更にはシリカゾル、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等を加熱生成させて得られるもののようなケイ酸を主体とする合成ケイ酸化合物等がある。
【0075】
本発明に用いられる気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは、日本アエロジル(株)からアエロジル、トクヤマ(株)からQSタイプとして市販されており入手することができる。
【0076】
本発明に用いられる気相法シリカの一次粒子の平均粒径は、通常50nm以下が好ましく、より高い光沢とインク吸収性を得るためには、3〜10nmでかつBET法による比表面積が250m2/g以上(好ましくは250〜500m2/g)のものを用いるのが好ましい。本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0077】
本発明において、インク受容層に含有させる気相法シリカの量は、8g/m2以上が好ましく、10〜30g/m2の範囲がより好ましい。このように多量の気相法シリカを含有させることによって、インク吸収性が向上する。また、気相法シリカとともに水溶性バインダーが用いられおり、該バインダー量を少なくする方がインク吸収性の面で有利であるが、その反面ひび割れが生じやすくなる。
【0078】
本発明に使用するアルミナは平均一次粒子径が50nm以下の微粒子である。アルミナ微粒子は多孔質のものであってもよく、形状は不定形、針状、球形など任意の形状のものを用いることができる。アルミナ微粒子の製造方法は特にこだわらないが、不純物が少なく、平均粒子径が整っている点から気相法が好ましい。
【0079】
本発明において、水溶性バインダーとしては、皮膜特性を維持するためのバインダーであれば特に制限されないが、親水性バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い親水性バインダーが好ましく用いられる。特に好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。
【0080】
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80以上の部分または完全ケン化したもので、皮膜形成性及び皮膜脆弱性を改良する観点から平均重合度200〜5000、好ましくは500〜4000のものが用いられる。
【0081】
また、カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。また、他の親水性バインダーも併用することができるが、ポリビニルアルコールに対して20質量%以下であることが好ましい。
【0082】
これらのバインダーの使用量としては、気相法シリカやアルミナ微粒子に対して10〜30質量%の範囲が好ましい。
【0083】
本発明のインク受理層には、表面張力の調整のために界面活性剤を添加することができる。用いられる界面活性剤はアニオン系、カチオン系、ノニオン系、ベタイン系のいずれのタイプでもよく、また低分子のものでも高分子のものでもよい。1種もしくは2種以上界面活性剤をインク受理層塗液中に添加するが、2種以上の界面活性剤を組み合わせて使用する場合は、アニオン系のものとカチオン系のものとを組み合わせて用いることは好ましくない。界面活性剤の添加量はインク受容層塗液に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【0084】
本発明においてインク受理層は、耐水性、ドット再現性を向上させる目的で適当な硬膜剤で硬膜することができる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンのようなケトン化合物、ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5トリアジン、米国特許第3,288,775号記載のような反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載のような反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載のようなN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載のようなイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載のようなアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載のようなカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載のようなエポキシ化合物、ムコクロル酸のようなハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンのようなジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ホウ酸、及びホウ酸塩のような無機硬膜剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。硬膜剤の添加量はインク受容層を構成する水溶性ポリマーに対して0.01〜40質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜30質量%である。
【0085】
本発明において、インク受理層には、更に、界面活性剤、硬膜剤の他に着色染料、着色顔料、インク染料の定着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤などの公知の各種添加剤を添加することもできる。
【0086】
本発明においてインク受理層の塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができる。例えば、スライドビード方式、カーテン方式、エクストルージョン方式、エアナイフ方式、ロールコーティング方式、ロッドバーコーティング方式等がある。
【0087】
本発明におけるインクジェット記録用紙は気相法シリカやアルミナ微粒子を含有するインク受理層の他にインク吸収層、インク定着層、下引き層、中間層、保護層等を設けてもよい。
【0088】
本発明に用いられる支持体としては耐水性支持体が好ましい。耐水性支持体としては、透明な支持体も不透明な支持体も用いることができる。透明な支持体としては、従来公知のものがいずれも使用でき、例えばポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、セロハン、セルロイド等のフィルムもしくは板及びガラス板等が挙げられ、これらの中でもポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが最も好ましく用いられる。このような透明な耐水性支持体はその厚さが約10〜200μm程度のものであることが好ましい。
【0089】
不透明な耐水性支持体としては、合成紙、樹脂被覆紙、顔料入り不透明フィルム、発泡フィルム等の従来公知のものがいずれも使用できる。光沢、平滑性の点から樹脂被覆紙、各種フィルムがより好ましいが、手触り感、高級感から写真用支持体に類似の樹脂被覆紙と白色度と強度が高い顔料入りのポリエチレンテレフタレートからなるフィルムがさらに好ましく用いられる。
【0090】
本発明において好ましく用いられる耐水性支持体としての樹脂被覆紙を構成する原紙は、特に制限はなく、一般に用いられている紙が使用できるが、例えば写真用支持体に用いられているような平滑な原紙がより好ましい。原紙を構成するパルプとしては天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を1種もしくは2種以上混合して用いられる。この原紙には一般に製紙で用いられているサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合される。
【0091】
さらに、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤等が表面塗布されていてもよい。
【0092】
また、原紙の厚みに関しては特に制限はないが、紙を抄造中または抄造後カレンダー等にて圧力を印加して圧縮するなどした表面平滑性の良いものが好ましく、その坪量は30〜250g/m2が好ましい。
【0093】
樹脂被覆紙の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂や電子線で硬化する樹脂を用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテンなどのオレフィンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレン共重合体などのオレフィンの2つ以上からなる共重合体及びこれらの混合物であり、各種の密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)のものを単独にあるいはそれらを混合して使用できる。
【0094】
また、樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウムなどの白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、イルガノックス1010、イルガノックス1076などの酸化防止剤、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルーなどのブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫などのマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤などの各種の添加剤を適宜組み合わせて加えるのが好ましい。
【0095】
本発明において好ましく用いられる支持体である樹脂被覆紙は、走行する原紙上にポリオレフィン樹脂の場合は、加熱溶融した樹脂を流延する、いわゆる押出コーティング法により製造され、その両面が樹脂により被覆される。また、電子線により硬化する樹脂の場合は、グラビアコーター、ブレードコーターなど一般に用いられるコーターにより樹脂を塗布した後、電子線を照射し、樹脂を硬化させて被覆する。また、樹脂を原紙に被覆する前に、原紙にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すことが好ましい。支持体のインク受容層が塗布される面(表面)は、その用途に応じて光沢面、マット面などを有し、特に光沢面が優位に用いられる。裏面に樹脂を被覆する必要はないが、カール防止の点から樹脂被覆したほうが好ましい。裏面は通常無光沢面であり、表面あるいは必要に応じて表裏両面にもコロナ放電処理、火炎処理などの活性処理を施すことができる。また、樹脂被覆層の厚みとしては特に制限はないが、一般に5〜50μmの厚味に表面または表裏両面にコーティングされる。
【0096】
本発明における支持体には帯電防止性、搬送性、カール防止性などのために、各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤などを適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【0097】
上記の方法によって、本発明のインクジェット記録用紙のJIS−P8142に準じたインク受理層表面の75°光沢度を40%以上に調製する。
【0098】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0099】
(実施例1)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に分散機を用いて分散処理を行い、顔料懸濁液を得た。
【0100】
得られた懸濁液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0101】
この水分散液に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加えた後に、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が5.0質量%になるように調整したインク100部中に、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)12.5部添加し、攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、インクジェット用水性顔料インクとした。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の4.4%である)。
【0102】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料は50nmの平均粒子径を有しておりそのpHは8.4であった。
【0103】
(実施例2)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度40℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)とする以外は実施例1と同様にして実施例2のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0104】
(実施例3)
実施例1において、キナクリドン顔料9.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を6.8部用いる以外は実施例1と同様にして実施例3のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0105】
(実施例4)
実施例1において、キナクリドン顔料15.2部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を0.8部用いる以外は実施例1と同様にして実施例4のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0106】
(実施例5)
実施例1において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価51)を用いる以外は実施例1と同様にして実施例5のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0107】
(実施例6)
実施例1において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価220)を用いる以外は実施例1と同様にして実施例6のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0108】
(比較例1)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)1.0部用いる以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット用水性顔料インクを作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の0.4%である)。
【0109】
(比較例2)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)35.0部用いる以外は実施例1と同様にして比較例2のインクジェット用水性顔料インクを作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約10.4%である)
【0110】
(比較例3)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径145nm、固形分濃度40%)12.5部用いる以外は実施例1と同様にして比較例3のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0111】
(インクジェット記録用紙<1>)
支持体として、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる120g/m2の基紙の表面に低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布し、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布してなる樹脂被覆紙を用意した。
【0112】
上記支持体上に、下記の塗布液を塗布し、塗布面を10℃で20秒間冷却し次いで30℃〜55℃の温度で乾燥した。乾燥後50℃25%RHにて12時間加温処理して、インクジェット記録用紙を作成した。気相法シリカの付着量は固形分で15g/m2である。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を75%に調製した。
【0113】
<インク受容層塗布液>
気相法シリカ 100部
(平均一次粒子径7nm、BET法による比表面積300m2/g)
カチオン性ポリマー 4部
ホウ酸 6部
ポリビニルアルコール 20部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
【0114】
(インクジェット記録用紙<2>)
支持体として、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる120g/m2の基紙の表面に低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布し、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布してなる樹脂被覆紙を用意した。
【0115】
上記支持体上に、下記の塗布液を塗布し、塗布面を10℃で20秒間冷却し次いで30℃〜55℃の温度で乾燥した。乾燥後50℃25%RHにて12時間加温処理して、インクジェット記録用紙を作成した。アルミナ微粒子の付着量は固形分で14g/m2である。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を75%に調製した。
【0116】
<インク受容層塗布液>
アルミナ微粒子 100部
(平均一次粒子径9nm、BET法による比表面積250m2/g)
カチオン性ポリマー 4部
ホウ酸 6部
ポリビニルアルコール 20部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
【0117】
(インクジェット記録用紙<3>)
支持体は、LBKP(濾水度400mlcsf)80部とNBKP(濾水度450mlcsf)20部からなる木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が10/10/10の顔料25部、市販アルキルケテンダイマー0.10部、市販カチオン系(メタ)アクリルアミド0.03部、市販カチオン化澱粉0.80部、硫酸バンド0.40部を調整後、長網抄紙機を用いて坪量90g/m2で抄造した。
【0118】
上記支持体上に、平均粒径が65nmのコロイダルシリカ(スノーテックスYL:日産化学工業社製)100部、接着剤として市販のスチレン・ブタジエンラテックス(0693:日本合成ゴム社製)5部を主成分とした組成物を固形分濃度25%として、エアーナイフコーターで乾燥塗工量15g/m2となるように塗工、乾燥し、キャストコート処理してインクジェット記録用紙<3>を得た。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を76%に調製した。
【0119】
(評価試験)
上記の水性顔料インクについて、下記のインク評価試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録用紙に文字の印刷を行った。
【0120】
(目詰まり特性試験)
上記プリンタに水性顔料インクを充填し、10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印字品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べた。評価は下記の基準に従って行った。評価A、Bが可である。
評価A:0〜2回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価B:3〜5回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価C:6回以上の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られないかった。
【0121】
(印字品質試験)
上記の水性顔料インク及びインクジェット記録用紙について、下記の印字品質試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録用紙にベタ印刷を行った。実施例1及び3〜6に関しては、各インクをインクジェット記録用紙<1>に印字し、実施例2に関しては、インクジェット記録用紙<2>に印字した。また比較例1〜3に関しては、インクジェット記録用紙<1>に印字し、比較例4に関しては、実施例1のインクを使用して、インクジェット記録用紙<3>に印字した。
【0122】
(印字光沢性)
JIS−P8142に準じてベタ印字部の75°光沢度を測定した。70%以上が良好である。
【0123】
(印字濃度)
ベタ印字部の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定した。△以上が実用的に好ましい。
○:反射濃度値が1.3以上
△:反射濃度値が1.0以上で1.3未満
×:反射濃度値が1.0未満
【0124】
(印字部の耐擦過性)
印字部を消しゴム(トンボ鉛筆 PE−01A)で押し圧50gで5往復擦り、試験前後の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定して、残存率を計算した。
○:85%以上
△:75%以上で85%未満
×:75%以下又は測定不可能で実用的に問題になるレベル
【0125】
【表1】
【0126】
表1に明らかなように、比較例1のように樹脂エマルジョン粒子の添加量が少ないと耐擦過性が不良であり、逆に比較例2のように添加量が多いと耐擦過性は良好だがノズル目詰まりが発生しやすく、印字濃度も低く光沢度低下も大きい。比較例3のように樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が大きいと比較例2と同様にノズル目詰まりを起こしやすく、従って印字濃度も低く光沢度低下も大きい。更に耐擦過性も悪い。比較例4のようにインクジェット記録用紙に平均粒径65nmのコロイダルシリカを使用してキャストコート処理したものは印字部の光沢度は高いものの、耐擦過性で劣っていた。
【0127】
【発明の効果】
本発明のインクジェット用水性顔料インクは、親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクであって、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、且つその含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にして、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40°以上であるインクジェット記録用紙を組み合わせねことで、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つ高光沢度のインクジェット記録用紙に対して高濃度で印字部の光沢度低下もなく、更に耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物を得る。
【発明の属する技術分野】
本発明は、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つインクジェット記録に際しても高濃度で、しかも印字部の光沢度低下がなく印字品質に優れると共に印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来よりインクジェット用インクとしては、特開昭53−61412号公報、特開昭54−89811号公報、特開昭55−65269号公報に開示されるように酸性染料、直接染料、塩基性染料等の水溶性染料をグリコール系溶剤と水に溶解したものがよく用いられている。しかし、水溶性染料としては、インクの安定性を得るために、水に対する溶解性の高いものが一般的に用いられており、インクジェット記録物の耐水性が悪く、また、これらの水溶性染料は本来耐光性が劣るために、インクジェット記録物の耐光性も悪いという問題があった。
【0003】
このような耐水性、耐光性の不良を改良するため、特開昭56−57862号公報に開示されるように、染料の構造を変えたり、塩基性の強いインクを調製することが試みられている。また、特開昭50−49004号公報、特開昭57−36692号公報、特開昭59−20696号公報、特開昭59−146889号公報に開示されるように、記録紙とインクとの反応をうまく利用して耐水性の向上を図ることも行われている。これらの方法は、ある種の記録紙については著しい効果をあげているが、インクジェット方式においては種々の記録紙を用いるため、水溶性染料を使用するインクでは記録物の充分な耐水性及び耐光性が得られないことが多い。
【0004】
また、耐水性の良好なインクとしては、油溶性染料を高沸点溶剤に分散ないし溶解したもの、油溶性染料を揮発性の溶剤に溶解したものがあるが、溶剤の臭気や溶剤の排出に対して環境上嫌われることがあり、大量の記録を行う場合や装置の設置場所によっては、溶剤回収等の必要性が問題となることがある。
【0005】
上記欠点を改良するためにいわゆる水性の顔料インクが過去に様々に提案されているが、微細なノズルからインク滴を吐出させる必要がある為にノズルの目詰まりを起こしやすく、また水溶性染料は紙層に深く浸透するのに対して顔料は紙層表面にとどまり耐擦過性に劣ると云う問題があり、耐擦過性を改良するためにインク中に接着剤を含有させると印字濃度低下と云う問題があった。更にインクジェット記録用紙が高光沢の表面を有している場合には、顔料インクである為に印字部の光沢度低下と云う問題もあった。
【0006】
耐擦過性改良の試みとして特開平4−59880、特開平5−263029には水性顔料インク中に水溶性高分子化合物を添加することが提案されているが、耐擦過性は改良されても、高分子化合物添加で水性顔料インクの粘度が高くなる傾向があり、ノズル目詰まりを起こしやすいと云う問題があった。
【0007】
また水性顔料インクの粘度上昇を極力抑えて耐擦過性を改良する試みとして、特開平9−208870、特開2001−49155には樹脂エマルジョンを添加して耐擦過性を改良する試みが提案されている。しかし樹脂エマルジョン添加で耐擦過性は改良するが、樹脂エマルジョン製造に際して使用される界面活性剤の影響で泡立ちが大きく、インクジェットの噴射特性が必ずしも十分ではなく、添加量が多くなるとノズル目詰まりも発生し易かった。また添加量によっては印字濃度の低下の問題もあった。
【0008】
特開平5−247370号公報では顔料及び高分子化合物を含む画像記録用着色組成物において、顔料が分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されているが、顔料を高分子化合物で被覆した場合に、高分子化合物の被覆状態及び高分子化合物の種類によっては、インクの分散安定性が不十分でノズル目詰まりが発生すると云う問題があった。
【0009】
一方、本発明の水性顔料インクと組み合わせて用いられるインクジェット記録用紙に於いても、表面光沢のある画像を得る為に従来より、インク受容層中に気相法シリカによる合成シリカ微粒子(以降、気相法シリカと称す)やアルミナ微粒子を用いることが、特公平3−56552号、特開平2−113986号、同平2−188287号、同平7−276789号、同平8−34160号、同平8−132728号、同平8−174992号、同平8−269893号、同平9−286161号、同平9−286162号、同平10−81064号、同平10−175365号、同平10−203006号、同平10−217601号、同平11−34481号公報等に記載されている。これらの微粒子を用いることにより、インク受容層がインクを吸収したり保持したりする空隙を多く有する層(空隙層)を形成させ、記録シートのインク吸収性を更に高める技術が開示されており、また、微粒子であるが故に光沢を発現しやすく光沢性の高い記録シートを得ることができる。しかしながら、高光沢なインクジェット記録用紙であるほど、その反面、水性顔料インクで印字した部分の印字光沢度が低下して不自然な印字品質を招く傾向があった。またインクジェット記録用紙の表面光沢度を高めるために、インク受容層表面の平滑度を上げると更に耐擦過性に悪影響を与えると云う問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明が解決しようとする課題は、微粒子径で分散安定性に優れてノズル目詰まりがなく、且つインクジェット記録に際しても高濃度で、しかも印字部の光沢度低下がなく印字品質に優れ、しかも印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、要するに、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にすることで、上記した課題を解決するに至った。
【0012】
樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下とするものである。
【0013】
顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5とするものである。
【0014】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200とするものである。
【0015】
上記のインクジェット用水性顔料インクを用いて、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字した記録物であって、印字部の75°光沢度が40%以上であるものである。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェット用水性顔料インク及び記録物について、詳細に説明する。即ち本発明は、先ず、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にするものである。
【0017】
一般にインクジェット用水性顔料インク中への樹脂エマルジョン粒子の添加により、高光沢で平滑なインクジェット記録用紙に対しても耐擦過性の良好な印字を与えることが出来る。しかしインクの作成条件によってはノズル目詰まりを起こし印字不良が発生することがある。また十分な耐擦過性の改良を行うために樹脂エマルジョン粒子の添加量を多くすると印字濃度低下を起こす場合もあったが、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径を50nm以下とし、且つその含有量をインク全質量中の0.5質量%〜10質量%にすることで、高濃度で且つ印字部の耐擦過性を改良し、しかもノズル目詰まりも改良することが出来た。
【0018】
本発明の樹脂エマルジョン粒子は、被膜形成能を有する樹脂であることが好ましく、樹脂エマルジョン粒子の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0019】
本発明で使用する樹脂エマルジョン粒子の量はインク全体に対し、質量比で0.5〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。添加量が0.5質量%より少ないと耐擦過性に対して効果が無く、10質量%を越えるとインクの保存時に被膜を形成してノズル目詰まりが生じやすく、また印字部の濃度低下を起こし易い。
【0020】
また、樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度は30℃以下であることが耐擦過性の更なる向上の為に好ましく、より好ましくは25℃以下、最も好ましくは20℃以下であることが好ましい。ここで最低成膜温度とは、樹脂エマルジョン粒子を水に分散させて得られた樹脂エマルジョンをアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。
【0021】
顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であることが好ましい。上記の範囲より親水性高分子化合物の比率が高くなるとノズル目詰まりが発生しやすく、また顔料に対する親水性高分子化合物の割合が上記の範囲より少なくても、顔料インクの分散安定性に劣り、ノズル目詰まりを起こしやすい。また印字部の光沢度低下を生じる。更に印字部の耐擦過性も低下する傾向がある。
【0022】
本発明において、顔料を被覆するのに用いる親水性高分子化合物は、皮膜を形成する高分子化合物であればよく、天然高分子化合物や合成高分子化合物に限定されず様々な親水性高分子化合物が用いることができ、例えばスチレン系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、ポリエステル系高分子化合物、ポリウレタン系高分子化合物が挙げられる。
【0023】
また、親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定して分散させるには、親水性高分子化合物は親水性の高い性質を有している必要があり、そのためしばしば多量の親水性高分子化合物がインク中に溶解することになる。この場合、溶解している高分子化合物は着色顔料を被覆している高分子化合物層への絡みつきに伴う粒子間架橋により、長期の保管により高分子化合物で被覆された顔料の凝集を促進することがある。またインクジェット記録を行った場合には、ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によってノズル目詰まりを起こしやすくなる。
【0024】
一方、親水性高分子化合物の親水性が低い場合には親水性高分子化合物で被覆した顔料の水性媒体中での分散安定性はより低くなり、やはりノズル目詰まりを起こし易い。
【0025】
そこで、親水性高分子化合物の水性媒体への溶解を最小限に押さえ、かつ当該水性媒体中での安定した分散を可能とすることが、しばしば必要となる。
【0026】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、例えば界面活性剤や分散剤等を用いて、もともと親水性が無いかそれが乏しい親水性高分子化合物を用いるという方法もあり得るが、着色画像がより優れた耐水性を発現する点や吐出安定性が良好な点からすれば、界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製するのが好ましい。
【0027】
この界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製する方法としては、例えば、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物を用いる様にするのが良い。中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物としては、典型的には、塩基による中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を塩基で中和してなる親水性高分子化合物が挙げられる。本発明では、界面活性剤や分散剤等などの助けを借りずとも、それ自体のみで、水性媒体に安定に分散できるこの高分子化合物を、自己乳化型高分子化合物と呼ぶ場合がある。
【0028】
本発明では、例えば酸価を有する高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した自己乳化型高分子化合物を親水性高分子化合物として用いるのが好ましい。酸価を有する高分子化合物としては、例えば酸価60〜200のものが用いられる。尚、酸価とは、高分子化合物1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mg・KOH/gで表す(以下、単位は略記する。)。この様な高分子化合物は、例えば前記特定酸価の高分子化合物の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来るが、この際は、インクのpHが7.5〜9.0となる様にすることが好ましい。
【0029】
酸価が60未満の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面親水性が乏しく、分散安定性が不充分となり易く、また、酸価が200を越える場合には高分子化合物の親水性が著しく高まり、高分子化合物による顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0030】
一方、インクのpHが7.5より低い場合には、親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性は低下し易く、また、pHが9.0以上の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0031】
最適には、本発明のインクとするに当たって、酸価が60〜200の高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した親水性高分子化合物を用いるとともに、インクのpHが7.5〜9.0となる様にしたものが、本発明において著しい効果を示す。
【0032】
本発明において、好ましい親水性高分子化合物は、スチレン系高分子化合物または(メタ)アクリル系高分子化合物であり、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体を塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物が挙げられる。
【0033】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり、本発明では、いずれか一方が必須であればよいが、より好適な親水性高分子化合物は、アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0034】
本発明においては、例えば親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物の水性媒体中への溶解をより少なくするには、全てのカルボキシル基を有する単量体成分のうちの、アクリル酸の比率をより少なく、メタアクリル酸の比率をより増せばよい。
【0035】
即ち、最適な親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物は、スチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーを主成分とし、アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体であって、メタアクリルがアクリル酸より多く共重合された、塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物である。
【0036】
インクのpHを塩基性にするには、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物に対して中和、即ち塩基を加えればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。塩基としては、親水性高分子化合物が分解しない程度の高温で容易に揮発する、揮発性塩基を採用するのが好ましい。
【0037】
しかしながら、より高酸価の高分子化合物をより強い塩基を用いて中和を行うと、インク中での親水性高分子化合物の溶解度がより高まることから、塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。インクジェット記録においては、ノズルの目詰まりや保存時の分散安定性、印刷物の耐水性に悪影響が極めて少ないため、弱塩基であるアルコールアミン、特にトリエタノールアミンは最適な塩基である。
【0038】
本発明の水性顔料インクに用いられる顔料は、特に限定されるものではなく、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。カラー画像を得る場合には、インクとしては、有彩色顔料を用いるのが好ましい。
【0039】
かかる顔料の使用量は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、最終的に得られるインク中で、通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0040】
インクには、必要に応じて、親水性高分子化合物を溶解しない様な、或いは溶解し難い有機溶剤を含ませることが出来る。インクに用いられる有機溶剤は、一例として乾燥防止剤や浸透剤として用いられる。
【0041】
乾燥防止剤は、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等がある。
【0042】
特にグリセリンは、親水性高分子化合物で被覆した顔料表面の親水性高分子化合物に強い水素結合により結びついて親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性をより高めると同時に、仮にインク中に親水性高分子化合物が少量溶解していたとしてもそれに対しても強い水素結合で結びつくことによって、ノズル端面での乾燥を防止するという点でより好ましい。
【0043】
浸透剤は記録媒体へのインクの侵透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり、浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0044】
これら有機溶剤の添加量は、インク中、乾燥防止剤の場合は1〜80質量%、浸透剤の場合は0.1〜10質量%とするのが好適である。
【0045】
本発明のインク中の、顔料に対する親水性高分子化合物の割合を測定する方法は、例えば超遠心分離機にて遠心沈降した物を十分に乾燥し、その後熱分析装置にて、熱分解温度の差異に基づいて、高分子化合物と顔料の比率を測定する事が出来る。インク中に、乾燥防止剤、浸透剤等の添加剤などを含んでいる場合には、顔料と親水性高分子化合物が分解しない様な温度で、前者添加剤を乾燥除去してから測定を行うことで、より測定精度は増すことが出来る。
【0046】
本発明の水性顔料インクを得る具体的な方法は、酸価を有する親水性高分子化合物を用いて顔料を被覆する場合には以下の方法が好ましい。この方法によれば、水性媒体中に分散した高分子化合物と顔料に由来する成分が、親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなり、親水性高分子化合物で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない親水性高分子化合物のみの粒子や、溶解した親水性高分子化合物をいずれも全く含まないか、含んでいても極めて極少量であるインクを容易に得ることが出来る。
【0047】
この方法は、例えば次の(1)〜(5)をこの順に行うことが出来る。
(1)酸価を有する親水性高分子化合物に、顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
【0048】
この工程は、例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて、溶液や加熱溶融された状態で、顔料を、当該高分子化合物に均一に溶解または分散させ、最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0049】
特に当該高分子化合物への顔料の微分散が必要な場合には、顔料を分散する手段として、従来知られている分散方法のうち、相対的に高せん断力のかかる状態が形成される分散手段、具体的には2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。
【0050】
(2)少なくとも、水、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも当該高分子化合物の一部が溶解している顔料懸濁液を得る。(懸濁工程)
【0051】
当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は当該高分子化合物に対して良溶媒として機能するものであり、有機溶剤としては、当該高分子化合物に対して適宜選択することが出来、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、アミド類等高分子化合物を溶解させるものであれば使用可能である。
【0052】
本工程に用いられる分散媒は、主体は親水性高分子化合物に対しては貧溶媒として機能する水であり、水性顔料インクとして用いるため、イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
【0053】
本工程では、水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく、均一でない場合は、必要に応じて、界面活性剤を用いるか、あるいは機械的にO/W型に乳化させるか、助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。前記の通りの理由により、界面活性剤は用いたとしても、最小限に止める。
【0054】
分散媒を形成する、必要に応じて用いられる当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は、それのみを用いる様にしてもよいが、それと水と塩基のみで、分散安定性に優れた顔料懸濁液を得難い場合には、それに、当該高分子化合物に対して親水性有機溶剤を、助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤及び助溶剤は、いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0055】
当該高分子化合物が、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として、助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0056】
かかる水と有機溶剤の比率は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、水/有機溶剤の質量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0057】
この工程により、固形着色コンパウンドの表面に存在する、酸価を有する親水性高分子化合物は、徐々に、塩基により、その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され、当該コンパウンドの固体形状から、混合物は懸濁状態となる。
【0058】
懸濁液を得るための攪拌方法としては、公知慣用の手法がいずれも採用でき、例えば従来の1軸のプロペラ型の攪拌翼の他に、目的に応じた形状の攪拌翼や攪拌容器を用いて、通常は、容易に懸濁可能である。
【0059】
懸濁液を得るに当たって、大きなせん断力が働かない単なる混合攪拌では微粒子化しない場合や、顔料が比較的凝集しやすい場合には、それに加えて更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機としては、例えば高圧ホモジナイザーや、商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが、顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0060】
(3)顔料懸濁液中に溶解している親水性高分子化合物成分を、顔料表面に沈着させて親水性高分子化合物で表面被覆された着色顔料を得る。(再沈殿工程)
【0061】
本工程は、前記懸濁工程で得られた顔料懸濁液中の顔料表面に、当該懸濁液中に存在する溶解高分子化合物成分及び分散高分子化合物成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは、顔料、或いは当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に吸着した状態の粒子を懸濁液の液媒体から、分離沈降させることを意味するものではない。従って、この工程で得られるものは、固形成分と液体成分とが明らかに分離した単なる混合物ではなく、当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に被覆した着色顔料が懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液である。
【0062】
この懸濁工程の顔料懸濁液中の顔料表面へ高分子化合物の沈着は、例えば、少なくとも一部、当該親水性高分子化合物が溶解及び/又は分散している顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか、及び/又は、顔料懸濁液から有機溶剤を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0063】
しかしながら、顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体をさらに加えて行う方法が、凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く攪拌しながら水または水性媒体を滴下することによって、凝集物の発生を防止しながら顔料表面に高分子化合物を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
【0064】
また得られた分散液の乾燥を防止するために、乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか、再沈殿後に添加することが好ましい。
【0065】
この様にして、上記(1)混練工程(2)懸濁工程(3)再沈殿工程によって、所望の粒子径の着色高分子化合物粒子が得られるが、通常その平均粒子径範囲は、01〜100nmである。
【0066】
(4)再沈殿工程で得られた親水性高分子化合物で被覆された着色顔料分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮。(脱溶剤工程)
【0067】
再沈殿工程で得られた着色高分子化合物粒子水分散液はそのまま用いることもできるが、共存している有機溶剤の影響で着色高分子化合物粒子が膨潤状態にある場合が多いため、保存安定性をより向上させるためや、或いはより火災や公害に対する安全性を高めるために、更に脱溶剤を行うことが好ましい。
【0068】
この様にして除去された有機溶剤は、例えば連続生産を目的とする場合には、焼却することなく、閉鎖系にてリサイクルして再利用することも出来る。
【0069】
この(1)〜(4)の工程を経て得た、着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液は、それの調製に用いた高分子化合物と顔料に由来する全成分が、専ら親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなる水性分散液となり、フリーの顔料粒子、親水性高分子化合物のみの粒子及び溶解した親水性高分子化合物の三者を実質的に含まないものである。
【0070】
こうして得られた分散液は、通常、親水性高分子化合物で被覆した顔料と、分散媒のみから実質的になる。分散液中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の含有率は、それと分散媒の合計に対して、通常、10〜40質量%とする。勿論、これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には、分散液中にはそれも含まれる。
【0071】
(5)インク化工程
前記工程によって得られる、水以外の液媒体を全く含まないか、或いはほとんど含まない、サブミクロンオーダーの着色高分子化合物粒子水分散液に更に、平均粒子径が50nm以下の樹脂エマルジョン粒子を添加した後に、分散安定性、噴射特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
【0072】
インクの調整は、例えば、前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加、濃度調整・粘度調整の他、pH調整剤、分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加剤することができる。但し、各種添加剤は、親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面に存在する親水性高分子化合物を溶解しないものを選択して専らその様な性質のもののみを用いるか、同高分子化合物を溶解しうるものであっても実質溶解しない様な濃度にその使用量を極力最小限に止める等の工夫が必要である。界面活性剤は、最終的な調整のみならず、本発明のインク調製に採用される工程の全てにおいて、全く用いない様にするのが、インクから得られる画像の耐水性等の観点からも好ましい。
【0073】
また、粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために、通常は、(4)の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか、(5)のインク化工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0074】
次に、本発明のインクジェット記録用紙に関して述べる。本発明のインク受理層中に用いられるシリカ微粒子は気相法によるものである。合成シリカには、湿式法によるものと気相法によるものがある。通常シリカ微粒子といえば湿式法シリカを指す場合が多い。湿式法シリカとしては、ケイ酸ナトリウムの酸などによる複分解やイオン交換樹脂層を通して得られるシリカゾル、またはこのシリカゾルを加熱熟成して得られるコロイダルシリカ、シリカゾルをゲル化させ、その生成条件を変えることによって数ミクロンから10ミクロン位の一次粒子がシロキサン結合をした三次元的な二次粒子となったシリカゲル、更にはシリカゾル、ケイ酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等を加熱生成させて得られるもののようなケイ酸を主体とする合成ケイ酸化合物等がある。
【0075】
本発明に用いられる気相法シリカは、湿式法に対して乾式法とも呼ばれ、一般的には火炎加水分解法によって作られる。具体的には四塩化ケイ素を水素及び酸素と共に燃焼して作る方法が一般的に知られているが、四塩化ケイ素の代わりにメチルトリクロロシランやトリクロロシラン等のシラン類も、単独または四塩化ケイ素と混合した状態で使用することができる。気相法シリカは、日本アエロジル(株)からアエロジル、トクヤマ(株)からQSタイプとして市販されており入手することができる。
【0076】
本発明に用いられる気相法シリカの一次粒子の平均粒径は、通常50nm以下が好ましく、より高い光沢とインク吸収性を得るためには、3〜10nmでかつBET法による比表面積が250m2/g以上(好ましくは250〜500m2/g)のものを用いるのが好ましい。本発明で云うBET法とは、気相吸着法による粉体の表面積測定法の一つであり、吸着等温線から1gの試料の持つ総表面積、即ち比表面積を求める方法である。通常吸着気体としては、窒素ガスが多く用いられ、吸着量を被吸着気体の圧、または容積の変化から測定する方法が最も多く用いられている。多分子吸着の等温線を表すのに最も著名なものは、Brunauer、Emmett、Tellerの式であってBET式と呼ばれ表面積決定に広く用いられている。BET式に基づいて吸着量を求め、吸着分子1個が表面で占める面積を掛けて、表面積が得られる。
【0077】
本発明において、インク受容層に含有させる気相法シリカの量は、8g/m2以上が好ましく、10〜30g/m2の範囲がより好ましい。このように多量の気相法シリカを含有させることによって、インク吸収性が向上する。また、気相法シリカとともに水溶性バインダーが用いられおり、該バインダー量を少なくする方がインク吸収性の面で有利であるが、その反面ひび割れが生じやすくなる。
【0078】
本発明に使用するアルミナは平均一次粒子径が50nm以下の微粒子である。アルミナ微粒子は多孔質のものであってもよく、形状は不定形、針状、球形など任意の形状のものを用いることができる。アルミナ微粒子の製造方法は特にこだわらないが、不純物が少なく、平均粒子径が整っている点から気相法が好ましい。
【0079】
本発明において、水溶性バインダーとしては、皮膜特性を維持するためのバインダーであれば特に制限されないが、親水性バインダーがインクの初期の浸透時に膨潤して空隙を塞いでしまわないことが重要であり、この観点から比較的室温付近で膨潤性の低い親水性バインダーが好ましく用いられる。特に好ましい親水性バインダーは完全または部分ケン化のポリビニルアルコールまたはカチオン変性ポリビニルアルコールである。
【0080】
ポリビニルアルコールの中でも特に好ましいのは、ケン化度が80以上の部分または完全ケン化したもので、皮膜形成性及び皮膜脆弱性を改良する観点から平均重合度200〜5000、好ましくは500〜4000のものが用いられる。
【0081】
また、カチオン変性ポリビニルアルコールとしては、例えば特開昭61−10483号に記載されているような、第1〜3級アミノ基や第4級アンモニウム基をポリビニルアルコールの主鎖あるいは側鎖中に有するポリビニルアルコールである。また、他の親水性バインダーも併用することができるが、ポリビニルアルコールに対して20質量%以下であることが好ましい。
【0082】
これらのバインダーの使用量としては、気相法シリカやアルミナ微粒子に対して10〜30質量%の範囲が好ましい。
【0083】
本発明のインク受理層には、表面張力の調整のために界面活性剤を添加することができる。用いられる界面活性剤はアニオン系、カチオン系、ノニオン系、ベタイン系のいずれのタイプでもよく、また低分子のものでも高分子のものでもよい。1種もしくは2種以上界面活性剤をインク受理層塗液中に添加するが、2種以上の界面活性剤を組み合わせて使用する場合は、アニオン系のものとカチオン系のものとを組み合わせて用いることは好ましくない。界面活性剤の添加量はインク受容層塗液に対して0.001〜10質量%が好ましい。
【0084】
本発明においてインク受理層は、耐水性、ドット再現性を向上させる目的で適当な硬膜剤で硬膜することができる。硬膜剤の具体的な例としては、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド系化合物、ジアセチル、クロルペンタンジオンのようなケトン化合物、ビス(2−クロロエチル尿素)−2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5トリアジン、米国特許第3,288,775号記載のような反応性のハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、米国特許第3,635,718号記載のような反応性のオレフィンを持つ化合物、米国特許第2,732,316号記載のようなN−メチロール化合物、米国特許第3,103,437号記載のようなイソシアナート類、米国特許第3,017,280号、同2,983,611号記載のようなアジリジン化合物類、米国特許第3,100,704号記載のようなカルボジイミド系化合物類、米国特許第3,091,537号記載のようなエポキシ化合物、ムコクロル酸のようなハロゲンカルボキシアルデヒド類、ジヒドロキシジオキサンのようなジオキサン誘導体、クロム明ばん、硫酸ジルコニウム、ホウ酸、及びホウ酸塩のような無機硬膜剤等があり、これらを1種または2種以上組み合わせて用いることができる。硬膜剤の添加量はインク受容層を構成する水溶性ポリマーに対して0.01〜40質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜30質量%である。
【0085】
本発明において、インク受理層には、更に、界面活性剤、硬膜剤の他に着色染料、着色顔料、インク染料の定着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料の分散剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、蛍光増白剤、粘度安定剤、pH調節剤などの公知の各種添加剤を添加することもできる。
【0086】
本発明においてインク受理層の塗布方法は、特に限定されず、公知の塗布方法を用いることができる。例えば、スライドビード方式、カーテン方式、エクストルージョン方式、エアナイフ方式、ロールコーティング方式、ロッドバーコーティング方式等がある。
【0087】
本発明におけるインクジェット記録用紙は気相法シリカやアルミナ微粒子を含有するインク受理層の他にインク吸収層、インク定着層、下引き層、中間層、保護層等を設けてもよい。
【0088】
本発明に用いられる支持体としては耐水性支持体が好ましい。耐水性支持体としては、透明な支持体も不透明な支持体も用いることができる。透明な支持体としては、従来公知のものがいずれも使用でき、例えばポリエステル樹脂、ジアセテート樹脂、トリアセテート樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリイミド樹脂、セロハン、セルロイド等のフィルムもしくは板及びガラス板等が挙げられ、これらの中でもポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが最も好ましく用いられる。このような透明な耐水性支持体はその厚さが約10〜200μm程度のものであることが好ましい。
【0089】
不透明な耐水性支持体としては、合成紙、樹脂被覆紙、顔料入り不透明フィルム、発泡フィルム等の従来公知のものがいずれも使用できる。光沢、平滑性の点から樹脂被覆紙、各種フィルムがより好ましいが、手触り感、高級感から写真用支持体に類似の樹脂被覆紙と白色度と強度が高い顔料入りのポリエチレンテレフタレートからなるフィルムがさらに好ましく用いられる。
【0090】
本発明において好ましく用いられる耐水性支持体としての樹脂被覆紙を構成する原紙は、特に制限はなく、一般に用いられている紙が使用できるが、例えば写真用支持体に用いられているような平滑な原紙がより好ましい。原紙を構成するパルプとしては天然パルプ、再生パルプ、合成パルプ等を1種もしくは2種以上混合して用いられる。この原紙には一般に製紙で用いられているサイズ剤、紙力増強剤、填料、帯電防止剤、蛍光増白剤、染料等の添加剤が配合される。
【0091】
さらに、表面サイズ剤、表面紙力剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、染料、アンカー剤等が表面塗布されていてもよい。
【0092】
また、原紙の厚みに関しては特に制限はないが、紙を抄造中または抄造後カレンダー等にて圧力を印加して圧縮するなどした表面平滑性の良いものが好ましく、その坪量は30〜250g/m2が好ましい。
【0093】
樹脂被覆紙の樹脂としては、ポリオレフィン樹脂や電子線で硬化する樹脂を用いることができる。ポリオレフィン樹脂としては、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリペンテンなどのオレフィンのホモポリマーまたはエチレン−プロピレン共重合体などのオレフィンの2つ以上からなる共重合体及びこれらの混合物であり、各種の密度、溶融粘度指数(メルトインデックス)のものを単独にあるいはそれらを混合して使用できる。
【0094】
また、樹脂被覆紙の樹脂中には、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、炭酸カルシウムなどの白色顔料、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミドなどの脂肪酸アミド、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウムなどの脂肪酸金属塩、イルガノックス1010、イルガノックス1076などの酸化防止剤、コバルトブルー、群青、セシリアンブルー、フタロシアニンブルーなどのブルーの顔料や染料、コバルトバイオレット、ファストバイオレット、マンガン紫などのマゼンタの顔料や染料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤などの各種の添加剤を適宜組み合わせて加えるのが好ましい。
【0095】
本発明において好ましく用いられる支持体である樹脂被覆紙は、走行する原紙上にポリオレフィン樹脂の場合は、加熱溶融した樹脂を流延する、いわゆる押出コーティング法により製造され、その両面が樹脂により被覆される。また、電子線により硬化する樹脂の場合は、グラビアコーター、ブレードコーターなど一般に用いられるコーターにより樹脂を塗布した後、電子線を照射し、樹脂を硬化させて被覆する。また、樹脂を原紙に被覆する前に、原紙にコロナ放電処理、火炎処理などの活性化処理を施すことが好ましい。支持体のインク受容層が塗布される面(表面)は、その用途に応じて光沢面、マット面などを有し、特に光沢面が優位に用いられる。裏面に樹脂を被覆する必要はないが、カール防止の点から樹脂被覆したほうが好ましい。裏面は通常無光沢面であり、表面あるいは必要に応じて表裏両面にもコロナ放電処理、火炎処理などの活性処理を施すことができる。また、樹脂被覆層の厚みとしては特に制限はないが、一般に5〜50μmの厚味に表面または表裏両面にコーティングされる。
【0096】
本発明における支持体には帯電防止性、搬送性、カール防止性などのために、各種のバックコート層を塗設することができる。バックコート層には無機帯電防止剤、有機帯電防止剤、親水性バインダー、ラテックス、硬化剤、顔料、界面活性剤などを適宜組み合わせて含有せしめることができる。
【0097】
上記の方法によって、本発明のインクジェット記録用紙のJIS−P8142に準じたインク受理層表面の75°光沢度を40%以上に調製する。
【0098】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0099】
(実施例1)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に分散機を用いて分散処理を行い、顔料懸濁液を得た。
【0100】
得られた懸濁液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0101】
この水分散液に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加えた後に、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が5.0質量%になるように調整したインク100部中に、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)12.5部添加し、攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、インクジェット用水性顔料インクとした。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の4.4%である)。
【0102】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料は50nmの平均粒子径を有しておりそのpHは8.4であった。
【0103】
(実施例2)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度40℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)とする以外は実施例1と同様にして実施例2のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0104】
(実施例3)
実施例1において、キナクリドン顔料9.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を6.8部用いる以外は実施例1と同様にして実施例3のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0105】
(実施例4)
実施例1において、キナクリドン顔料15.2部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を0.8部用いる以外は実施例1と同様にして実施例4のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0106】
(実施例5)
実施例1において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価51)を用いる以外は実施例1と同様にして実施例5のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0107】
(実施例6)
実施例1において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価220)を用いる以外は実施例1と同様にして実施例6のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0108】
(比較例1)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)1.0部用いる以外は実施例1と同様にして比較例1のインクジェット用水性顔料インクを作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の0.4%である)。
【0109】
(比較例2)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)35.0部用いる以外は実施例1と同様にして比較例2のインクジェット用水性顔料インクを作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約10.4%である)
【0110】
(比較例3)
実施例1において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径145nm、固形分濃度40%)12.5部用いる以外は実施例1と同様にして比較例3のインクジェット用水性顔料インクを作成した。
【0111】
(インクジェット記録用紙<1>)
支持体として、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる120g/m2の基紙の表面に低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布し、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布してなる樹脂被覆紙を用意した。
【0112】
上記支持体上に、下記の塗布液を塗布し、塗布面を10℃で20秒間冷却し次いで30℃〜55℃の温度で乾燥した。乾燥後50℃25%RHにて12時間加温処理して、インクジェット記録用紙を作成した。気相法シリカの付着量は固形分で15g/m2である。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を75%に調製した。
【0113】
<インク受容層塗布液>
気相法シリカ 100部
(平均一次粒子径7nm、BET法による比表面積300m2/g)
カチオン性ポリマー 4部
ホウ酸 6部
ポリビニルアルコール 20部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
【0114】
(インクジェット記録用紙<2>)
支持体として、LBKP(50部)とLBSP(50部)のパルプ配合からなる120g/m2の基紙の表面に低密度ポリエチレン(70部)と高密度ポリエチレン(20部)と酸化チタン(10部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布し、裏面に高密度ポリエチレン(50部)と低密度ポリエチレン(50部)からなる樹脂組成物を25g/m2塗布してなる樹脂被覆紙を用意した。
【0115】
上記支持体上に、下記の塗布液を塗布し、塗布面を10℃で20秒間冷却し次いで30℃〜55℃の温度で乾燥した。乾燥後50℃25%RHにて12時間加温処理して、インクジェット記録用紙を作成した。アルミナ微粒子の付着量は固形分で14g/m2である。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を75%に調製した。
【0116】
<インク受容層塗布液>
アルミナ微粒子 100部
(平均一次粒子径9nm、BET法による比表面積250m2/g)
カチオン性ポリマー 4部
ホウ酸 6部
ポリビニルアルコール 20部
(ケン化度88%、平均重合度3500)
【0117】
(インクジェット記録用紙<3>)
支持体は、LBKP(濾水度400mlcsf)80部とNBKP(濾水度450mlcsf)20部からなる木材パルプ100部に対して、軽質炭酸カルシウム/重質炭酸カルシウム/タルクの比率が10/10/10の顔料25部、市販アルキルケテンダイマー0.10部、市販カチオン系(メタ)アクリルアミド0.03部、市販カチオン化澱粉0.80部、硫酸バンド0.40部を調整後、長網抄紙機を用いて坪量90g/m2で抄造した。
【0118】
上記支持体上に、平均粒径が65nmのコロイダルシリカ(スノーテックスYL:日産化学工業社製)100部、接着剤として市販のスチレン・ブタジエンラテックス(0693:日本合成ゴム社製)5部を主成分とした組成物を固形分濃度25%として、エアーナイフコーターで乾燥塗工量15g/m2となるように塗工、乾燥し、キャストコート処理してインクジェット記録用紙<3>を得た。JIS−P8142に準じたインク受容層表面の75°光沢度を76%に調製した。
【0119】
(評価試験)
上記の水性顔料インクについて、下記のインク評価試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録用紙に文字の印刷を行った。
【0120】
(目詰まり特性試験)
上記プリンタに水性顔料インクを充填し、10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印字品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べた。評価は下記の基準に従って行った。評価A、Bが可である。
評価A:0〜2回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価B:3〜5回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価C:6回以上の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られないかった。
【0121】
(印字品質試験)
上記の水性顔料インク及びインクジェット記録用紙について、下記の印字品質試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録用紙にベタ印刷を行った。実施例1及び3〜6に関しては、各インクをインクジェット記録用紙<1>に印字し、実施例2に関しては、インクジェット記録用紙<2>に印字した。また比較例1〜3に関しては、インクジェット記録用紙<1>に印字し、比較例4に関しては、実施例1のインクを使用して、インクジェット記録用紙<3>に印字した。
【0122】
(印字光沢性)
JIS−P8142に準じてベタ印字部の75°光沢度を測定した。70%以上が良好である。
【0123】
(印字濃度)
ベタ印字部の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定した。△以上が実用的に好ましい。
○:反射濃度値が1.3以上
△:反射濃度値が1.0以上で1.3未満
×:反射濃度値が1.0未満
【0124】
(印字部の耐擦過性)
印字部を消しゴム(トンボ鉛筆 PE−01A)で押し圧50gで5往復擦り、試験前後の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定して、残存率を計算した。
○:85%以上
△:75%以上で85%未満
×:75%以下又は測定不可能で実用的に問題になるレベル
【0125】
【表1】
【0126】
表1に明らかなように、比較例1のように樹脂エマルジョン粒子の添加量が少ないと耐擦過性が不良であり、逆に比較例2のように添加量が多いと耐擦過性は良好だがノズル目詰まりが発生しやすく、印字濃度も低く光沢度低下も大きい。比較例3のように樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が大きいと比較例2と同様にノズル目詰まりを起こしやすく、従って印字濃度も低く光沢度低下も大きい。更に耐擦過性も悪い。比較例4のようにインクジェット記録用紙に平均粒径65nmのコロイダルシリカを使用してキャストコート処理したものは印字部の光沢度は高いものの、耐擦過性で劣っていた。
【0127】
【発明の効果】
本発明のインクジェット用水性顔料インクは、親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクであって、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、且つその含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にして、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40°以上であるインクジェット記録用紙を組み合わせねことで、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つ高光沢度のインクジェット記録用紙に対して高濃度で印字部の光沢度低下もなく、更に耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インク及び記録物を得る。
Claims (5)
- インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の平均粒子径が50nm以下であり、その含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあることを特徴とするインクジェット用水性顔料インク。
- 樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下である請求項1記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であることを特徴とする請求項1又は2記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 親水性高分子化合物の酸価が60〜200である請求項1〜3のいずれか1項記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 請求項1,2,3又は4記載のインクジェット用水性顔料インクを用いて、インク受容層中に気相法による一次粒子の平均粒径が50nm以下の合成シリカ微粒子及び/又はアルミナ微粒子を含有し、該インク受容層表面の75°光沢度が40%以上であるインクジェット記録用紙に印字した記録物であって、印字部の75°光沢度が40%以上である記録物。
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