JP2004137302A - インクジェット用水性顔料インク - Google Patents
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Abstract
【課題】分散安定性に優れノズル目詰まりがなく、且つインクジェット記録時の印字部の濃度が高く画像鮮明性にも優れ、且つ耐擦過性にも優れたインクジェット用水性顔料インクを提供する。
【解決手段】空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上とする。
【選択図】 なし
【解決手段】空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上とする。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つインクジェット記録時の印字濃度が高く、更に色調のズレがなく画像鮮明であると共に、印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インクに関する。特にオーバーヘッドプロジェクター(OHP)等を用いて、投影画像を観察する透光性のインクジェット記録媒体に好適なインクジェット用水性顔料インクに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、記録の高速化、カラー化、高密度化が容易なことから注目されており、インクジェット記録方式を用いた記録装置も広く普及している。こうしたインクジェット記録方式に適用される記録媒体として、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
一方、OHP用フィルム等の透光性の記録画像を形成することのできる記録媒体に対する要求も強まり、このような記録媒体としては、例えば、特許文献2に記載のものが挙げられる。
【0004】
インクジェット記録方式では、インクとして各種の水溶性染料を水又は、水と有機溶剤との混合液に溶解させたものが使用されている。然しながら、水溶性染料を用いた場合には、これらの水溶性染料は本来耐光性が劣るため、記録画像の耐光性が問題になる場合が多い。
【0005】
また、インクが水溶性であるために、記録画像の耐水性が問題となる場合が多い。即ち、記録画像に雨、汗、あるいは飲食用の水がかかったりした場合、記録画像が滲んだり、消失したりすることがある。
【0006】
一方、ボールペン等の染料を用いた文房具においても同様の問題があり、耐光性、耐水性の問題を解決するために種々の文房具用水性顔料インクの提案がなされている。水性顔料インク実用化のため、分散安定性、ペン先でのインクの固化防止、ボールペンのボールの摩耗防止等を検討している例として、特許文献3、特許文献4等が挙げられる。最近では、水性顔料インクを用いたボールペンや、マーカーが商品として上市されるようになってきた。
【0007】
また、水性顔料インクを用いたインクジェット用インクとしては、特許文献5、特許文献6等に、特定の水溶性溶剤と高分子分散剤を用いた顔料インクが提案されている。上記ように、インクジェット用顔料インクに関する提案は既に数多くなされている。
【0008】
近年、記録の高速化、多色化等のインクジェット記録装置の性能の向上に伴って、インクジェット用記録媒体に対しても、より高度で広範な特性が要求されるに到っている。即ち、(1)染料本来の色調からのずれを生じない、適正な色混合が行えること、(2)インクの吸収能力が高い(吸収容量が大きく、吸収時間が速い)こと、(3)ドットの光学濃度が高く、ドット周辺がぼけないこと、(4)ドット形状が真円に近く、その周辺が滑らかであること、(5)温度、湿度の変化による特性変化が小さく、カールを起こさないこと、(6)ブロッキングを起こさないこと、(7)画像が長期保存に安定で変質しない(特に、高温高湿環境下)こと、(8)記録媒体自体が長期保存に安定で変質しない(特に、高温高湿環境下)こと、等々の特性を同時に満足させることが要求されている。
【0009】
また、OHP用記録シート等においては、更に加えて記録媒体自体が透明性に優れていることも重ねて要求されている。上記のように、最近では画像の記録媒体上での耐水性、耐光性を向上させるために、顔料インクとして、インクジェット用のタイプのものを用いた例が数多く報告されている。
【0010】
水性顔料インクとしては、なるべく微粒子径に分散された着色顔料が求められており、具体的なインクジェット用水性顔料インクの例として、特許文献7では、(a)顔料と高分子化合物分散剤とを2−ロールミリング装置に充填し;(b)摩砕して顔料と高分子化合物分散剤との分散体を得;そして(c)この顔料分散体を水性媒体中に分散させる工程からなる、改良された特性を有するインクジェット用水性顔料インクの調整方法が、また、特許文献8では、(a)顔料とカルボキシル基含有ポリアクリル系高分子化合物とを含有する固体顔料調合物、(b)水で希釈可能な有機溶媒、(c)湿潤剤、(d)水を含有するインクジェット用水性顔料インクが提案されている。
【0011】
しかしながら、これらの技術は顔料の微粒子化には有効なものの、溶解している分散剤高分子化合物の影響で、インクの水分蒸発に伴いノズル付近のインク粘度上昇によるノズル目詰まりを生じ易く、また、印刷物の耐水性も著しく劣っていた。
【0012】
特許文献9では顔料及び高分子化合物を含む画像記録用着色組成物において、顔料が分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されているが、顔料を高分子化合物で被覆した場合に、高分子化合物の被覆状態及び高分子化合物の種類によっては、インクジェット記録時の印字濃度が低かったり、或いは印字部の耐擦過性が改良されないと云う問題もあった。
【0013】
また顔料インクのもう一つの課題として、或る条件のもとで、急激に凝集するという現象が挙げれる。凝集が急激に起こると、顔料本来の色調からずれを生じて、適正な色混合を行うことが不可能のなるといった問題が発生する。また、特に記録媒体として、OHPフィルムのような透明体を用いた場合には大きな問題となる。
【0014】
特に、OHP用記録シート等の透明性を要求されるものについては、顔料の凝集が強力に起こった場合、顔料本来の色調からずれを生じて、適正な色混合が行えなくなるといった問題だけではなく、表面が曇ってしまうことにより、印字部が光を透過しなくなってしまうという重大な問題が発生する。このように、記録の高速化、画像の高密度化、カラー化、耐水化等が進むにつれて、色調、画像品位の低下が深刻な問題となっている。
【0015】
かかる課題に対し、特許文献10では空孔分布曲線の最大ピークが100nmのインク受理層に対して、粒子径が100nm以上の顔料インクを使用することで、インク受理層中への顔料インクの沈み込みがない為に色調のズレを生せず、画像が鮮明な記録媒体を得る技術が開示されているが、一方顔料インクのインク受理層中への沈み込みがない為に耐擦過性に劣ると云う新たな課題の発生もあった。
【0016】
【特許文献1】
特開昭59−35977号公報
【特許文献2】
特開昭60−220750号公報
【特許文献3】
特開平1−249869号公報
【特許文献4】
特開平1−301760号公報
【特許文献5】
特開昭56−147859号公報
【特許文献6】
特開昭56−147860号公報
【特許文献7】
特許第2512861号公報
【特許文献8】
特開平3−153775号公報
【特許文献9】
特開平5−247370号公報
【特許文献10】
特開平8−300802号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した諸特性をバランスよく同時に満足し、前述したような、耐水性、耐光性を発現する顔料を用いた場合でも、ノズル目詰まりがなく、高濃度で耐擦過性も良好であり、しかも顔料本来の色調からずれを生じることなく、適正な色混合を行うことが可能で、OHPフィルムのような透光性基材を用いた場合でも、インクジェットによる画像記録部が光透過性に優れるインクジェット用水性顔料インクを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明のインクジェット用水性顔料インクを発明するに至った。
【0019】
即ち、本発明における第一の水性顔料インクとしては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0020】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200とするものである。
【0021】
本発明の第二の水性顔料インクとしては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあり、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であって、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0022】
樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下であることが好ましい。
【0023】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200であることが好ましい。
【0024】
前記インクジェット記録媒体として、透光性のものを用いることが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェット用水性顔料インクについて、詳細に説明する。即ち本発明は、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0026】
本発明は、親水性高分子化合物で被覆した顔料を主成分として含有するインクジェット用水性顔料インクを用いる場合に、親水性高分子化合物で被覆した顔料の粒子径よりも小さい径の空孔を多数有するインク受理層を形成した記録媒体を用いることにより、画像部の耐擦過性に優れると共に、鮮明な記録画像の形成を可能とし、特に透過光観察に用いられる透光性の画像記録に当たっては、高い明度、鮮明度を有する投影画像の形成を可能とするものである。
【0027】
上記のように本発明は、インク受理層表面に付着したインク滴中の液媒体成分のみが、インク受理層中の空孔を通ってインク受理層内部に吸収され、その結果、顔料粒子の大部分は、記録面の表面付近に分離、積層されるというメカニズムにより、顔料がインク受理層中に浸透あるいは吸収された場合と比較して、顔料の急激な凝集が起こりにくいというような効果をもたらすものと考えられる。
【0028】
次に、本発明の記録媒体中の成分について、更に詳しく説明する。本発明の記録媒体は、基材及び基材上に形成された少なくとも1層以上のインク受理層により形成される。
【0029】
基材としては、プラスティックフィルム、紙、布、ガラス、合成紙、板等が使用することができる。透光性記録媒体の場合には、透明フィルムであることが望ましい。
【0030】
インク受理層は、特定の空孔ピークを有するように設計されていれば、特に、制限されないが、好ましくは、平均粒子径が100nm未満の微細粒子及びバインダー樹脂によって、構成されるものがよい。
【0031】
微細粒子として使用されるものは、例えば、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、酸化イットリウム等のものが挙げられ、更にこれらのコロイド分散体、ゾルを用いることがより好ましい。
【0032】
バインダーとして使用されるものは、例えば、ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、アクリル樹脂、無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、SBRラテックス、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0033】
尚、本発明においてインク受理層の空孔分布曲線は、水銀圧入法を用いた、ポアサイザー(島津製作所製)等のポロシメーターを用いて測定される。本発明においては、使用するインク中の親水性高分子化合物で被覆された顔料粒子の平均粒子径が100nm以上であるために、空孔分布曲線のピークが100nm未満にのみ存在することが必須である。この範囲より大きい場合には、インク中の顔料粒子もインク受理層内部に浸透してしまうため、顔料の分散が不安定となって、凝集を起こし易く、結果として十分な濃度と明度をもった画像の形成ができない。
【0034】
インクジェット記録媒体を作成するに当たっては、まず、インク受理層形成用組成物を、必要により他の添加剤と共に、水あるいはアルコール、又は他の適当な有機溶媒に溶解、又は分散し、塗工液を調製する。
【0035】
得られた塗工液を、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スプレーコート法、グラビアコーター法、カーテンコーター法等により基材表面に塗工する。その後、例えば熱風乾燥炉、熱ドラム等を用いて乾燥し、本発明の記録媒体が得られる。更に必要に応じてスーパーカレンダー処理等を施してもよい。
【0036】
インク受理層の塗工量としては、総量として0.2〜50g/m2の範囲、好ましくは1〜30g/m2の範囲内がよい。塗工量が少ない場合には基材の一部が表面に露出していてもよい。また、塗工量が0.2g/m2に満たない場合には、インク受理層を設けなかった場合に比べて効果がなく、一方、50g/m2を越えて設けた場合には特に、低温低湿環境下におけるカールの発生が著しいので好ましくない。塗工量を厚さで表した場合の塗工量は0.5〜100μmの厚みになる範囲が好適である。
【0037】
一方、本発明の水性顔料インクに関しては、顔料に対する親水性高分子化合物の割合が、前記の範囲より多くなると印字濃度が低下し、また顔料に対する親水性高分子化合物の割合が前記の範囲より少ないと印字部の耐擦過性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明において、顔料を被覆するのに用いる親水性高分子化合物は、皮膜を形成する高分子化合物であればよく、天然高分子化合物や合成高分子化合物に限定されず様々な親水性高分子化合物が用いることができ、例えばスチレン系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、ポリエステル系高分子化合物、ポリウレタン系高分子化合物が挙げられる。
【0039】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定して分散させるには、親水性高分子化合物は親水性の高い性質を有している必要があり、そのためしばしば多量の親水性高分子化合物がインク中に溶解することになる。この場合、溶解している高分子化合物は着色顔料を被覆している高分子化合物層への絡みつきに伴う粒子間架橋により、長期の保管により高分子化合物で被覆された顔料の凝集を促進することがある。またインクジェット記録を行った場合には、ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によってノズル目詰まりを起こしやすくなる。
【0040】
一方、親水性高分子化合物の親水性が低い場合には被覆した顔料の水性媒体中での分散安定性はより低くなり、やはりノズル目詰まりを起こし易い。
【0041】
そこで、親水性高分子化合物の水性媒体への溶解を最小限に押さえ、かつ当該水性媒体中での安定した分散を可能とすることが、しばしば必要となる。
【0042】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、例えば界面活性剤や分散剤等を用いて、もともと親水性が無いかそれが乏しい親水性高分子化合物を用いるという方法もあり得るが、着色画像がより優れた耐水性を発現する点や吐出安定性が良好な点からすれば、界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製するのが好ましい。
【0043】
この界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製する方法としては、例えば、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物を用いる様にするのが良い。中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物としては、典型的には、塩基による中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を塩基で中和してなる親水性高分子化合物が挙げられる。本発明では、界面活性剤や分散剤等などの助けを借りずとも、それ自体のみで、水性媒体に安定に分散できるこの高分子化合物を、自己乳化型高分子化合物と呼ぶ場合がある。
【0044】
本発明では、例えば酸価を有する高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した自己乳化型高分子化合物を親水性高分子化合物として用いるのが好ましい。酸価を有する高分子化合物としては、例えば酸価60〜200のものが用いられる。尚、酸価とは、高分子化合物1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mg・KOH/gで表す(以下、単位は略記する。)。この様な高分子化合物は、例えば前記特定酸価の高分子化合物の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来るが、この際は、インクのpHが7.5〜9.0となる様にすることが好ましい。
【0045】
酸価が60未満の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面親水性が乏しく、分散安定性が不充分となり易く、また、酸価が200を越える場合には高分子化合物の親水性が著しく高まり、高分子化合物による顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなり、又印字部の耐擦過性も悪くなる傾向がある。
【0046】
一方、インクのpHが7.5より低い場合には、親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性は低下し易く、また、pHが9.0以上の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0047】
最適には、本発明のインクとするに当たって、酸価が60〜200の高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した親水性高分子化合物を用いるとともに、インクのpHが7.5〜9.0となる様にしたものが、本発明において著しい効果を示す。
【0048】
本発明において、好ましい親水性高分子化合物は、スチレン系高分子化合物または(メタ)アクリル系高分子化合物であり、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体を塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物が挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり、本発明では、いずれか一方が必須であればよいが、より好適な親水性高分子化合物は、アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0050】
本発明においては、例えば親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物の水性媒体中への溶解をより少なくするには、全てのカルボキシル基を有する単量体成分のうちの、アクリル酸の比率をより少なく、メタアクリル酸の比率をより増せばよい。
【0051】
即ち、最適な親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物は、スチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーを主成分とし、アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体であって、メタアクリルがアクリル酸より多く共重合された、塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物である。
【0052】
インクのpHを塩基性にするには、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物に対して中和、即ち塩基を加えればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。塩基としては、親水性高分子化合物が分解しない程度の高温で容易に揮発する、揮発性塩基を採用するのが好ましい。
【0053】
しかしながら、より高酸価の高分子化合物をより強い塩基を用いて中和を行うと、インク中での親水性高分子化合物の溶解度がより高まることから、塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。インクジェット記録においては、ノズルの目詰まりや保存時の分散安定性、印刷物の耐水性に悪影響が極めて少ないため、弱塩基であるアルコールアミン、特にトリエタノールアミンは最適な塩基である。
【0054】
本発明の水性顔料インクに用いられる顔料は、特に限定されるものではなく、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。カラー画像を得る場合には、インクとしては、有彩色顔料を用いるのが好ましい。
【0055】
かかる顔料の使用量は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、最終的に得られるインク中で、通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0056】
インクには、必要に応じて、親水性高分子化合物を溶解しない様な、或いは溶解し難い有機溶剤を含ませることが出来る。インクに用いられる有機溶剤は、一例として乾燥防止剤や浸透剤として用いられる。
【0057】
乾燥防止剤は、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等がある。
【0058】
特にグリセリンは、親水性高分子化合物で被覆した顔料表面の親水性高分子化合物に強い水素結合により結びついて親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性をより高めると同時に、仮にインク中に親水性高分子化合物が少量溶解していたとしてもそれに対しても強い水素結合で結びつくことによって、ノズル端面での乾燥を防止するという点でより好ましい。
【0059】
浸透剤は記録媒体へのインクの浸透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり、浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0060】
これら有機溶剤の添加量は、インク中、乾燥防止剤の場合は1〜80質量%、浸透剤の場合は0.1〜10質量%とするのが好適である。
【0061】
本発明の水性顔料インクを得る具体的な方法は、酸価を有する親水性高分子化合物を用いて顔料を被覆する場合には以下の方法が好ましい。この方法によれば、水性媒体中に分散した高分子化合物と顔料に由来する成分が、親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなり、親水性高分子化合物で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない親水性高分子化合物のみの粒子や、溶解した親水性高分子化合物をいずれも全く含まないか、含んでいても極めて極少量であるインクを容易に得ることが出来る。
【0062】
この方法は、例えば次の(1)〜(5)をこの順に行うことが出来る。
(1)酸価を有する親水性高分子化合物に、顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
【0063】
この工程は、例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて、溶液や加熱溶融された状態で、顔料を、当該高分子化合物に均一に溶解または分散させ、最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0064】
特に当該高分子化合物への顔料の微分散が必要な場合には、顔料を分散する手段として、従来知られている分散方法のうち、相対的に高せん断力のかかる状態が形成される分散手段、具体的には2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。
【0065】
(2)少なくとも、水、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも当該高分子化合物の一部が溶解している顔料懸濁液を得る。(懸濁工程)
【0066】
当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は当該高分子化合物に対して良溶媒として機能するものであり、有機溶剤としては、当該高分子化合物に対して適宜選択することが出来、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、アミド類等高分子化合物を溶解させるものであれば使用可能である。
【0067】
本工程に用いられる分散媒は、主体は親水性高分子化合物に対しては貧溶媒として機能する水であり、水性顔料インクとして用いるため、イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
【0068】
本工程では、水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく、均一でない場合は、必要に応じて、界面活性剤を用いるか、あるいは機械的にO/W型に乳化させるか、助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。前記の通りの理由により、界面活性剤は用いたとしても、最小限に止める。
【0069】
分散媒を形成する、必要に応じて用いられる当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は、それのみを用いる様にしてもよいが、それと水と塩基のみで、分散安定性に優れた顔料懸濁液を得難い場合には、それに、当該高分子化合物に対して親水性有機溶剤を、助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤及び助溶剤は、いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0070】
当該高分子化合物が、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として、助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0071】
かかる水と有機溶剤の比率は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、水/有機溶剤の質量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0072】
この工程により、固形着色コンパウンドの表面に存在する、酸価を有する親水性高分子化合物は、徐々に、塩基により、その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され、当該コンパウンドの固体形状から、混合物は懸濁状態となる。
【0073】
懸濁液を得るための攪拌方法としては、公知慣用の手法がいずれも採用でき、例えば従来の1軸のプロペラ型の攪拌翼の他に、目的に応じた形状の攪拌翼や攪拌容器を用いて、通常は、容易に懸濁可能である。
【0074】
懸濁液を得るに当たって、大きなせん断力が働かない単なる混合攪拌では微粒子化しない場合や、顔料が比較的凝集しやすい場合には、それに加えて更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機としては、例えば高圧ホモジナイザーや、商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが、顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0075】
(3)顔料懸濁液中に溶解している親水性高分子化合物成分を、顔料表面に沈着させて親水性高分子化合物で表面被覆された着色顔料を得る。(再沈殿工程)
【0076】
本工程は、前記懸濁工程で得られた顔料懸濁液中の顔料表面に、当該懸濁液中に存在する溶解高分子化合物成分及び分散高分子化合物成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは、顔料、或いは当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に吸着した状態の粒子を懸濁液の液媒体から、分離沈降させることを意味するものではない。従って、この工程で得られるものは、固形成分と液体成分とが明らかに分離した単なる混合物ではなく、当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に被覆した着色顔料が懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液である。
【0077】
この懸濁工程の顔料懸濁液中の顔料表面へ高分子化合物の沈着は、例えば、少なくとも一部、当該親水性高分子化合物が溶解及び/又は分散している顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか、及び/又は、顔料懸濁液から有機溶剤を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0078】
しかしながら、顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体をさらに加えて行う方法が、凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く攪拌しながら水または水性媒体を滴下することによって、凝集物の発生を防止しながら顔料表面に高分子化合物を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
【0079】
また得られた分散液の乾燥を防止するために、乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか、再沈殿後に添加することが好ましい。
【0080】
この様にして、上記(1)混練工程(2)懸濁工程(3)再沈殿工程によって、所望の粒子径の着色高分子化合物粒子が得られる。
【0081】
(4)再沈殿工程で得られた親水性高分子化合物で被覆された着色顔料分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮(脱溶剤工程)
【0082】
再沈殿工程で得られた着色高分子化合物粒子水分散液はそのまま用いることもできるが、共存している有機溶剤の影響で着色高分子化合物粒子が膨潤状態にある場合が多いため、保存安定性をより向上させるためや、或いはより火災や公害に対する安全性を高めるために、更に脱溶剤を行うことが好ましい。
【0083】
この様にして除去された有機溶剤は、例えば連続生産を目的とする場合には、焼却することなく、閉鎖系にてリサイクルして再利用することも出来る。
【0084】
この(1)〜(4)の工程を経て得た、着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液は、それの調製に用いた高分子化合物と顔料に由来する全成分が、専ら親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなる水性分散液となり、フリーの顔料粒子、親水性高分子化合物のみの粒子及び溶解した親水性高分子化合物の三者を実質的に含まないものである。
【0085】
こうして得られた分散液は、通常、親水性高分子化合物で被覆した顔料と、分散媒のみから実質的になる。分散液中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の含有率は、それと分散媒の合計に対して、通常、10〜40質量%とする。勿論、これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には、分散液中にはそれも含まれる。
【0086】
(5)インク化工程
前記工程によって得られる、水以外の液媒体を全く含まないか、或いはほとんど含まない、サブミクロンオーダーの着色高分子化合物粒子水分散液は、そのままでも基本的に水性顔料インクとして用いることが出来るが、更に、分散安定性、噴射特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
【0087】
インクの調整は、例えば、前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加、濃度調整・粘度調整の他、pH調整剤、分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加剤することができる。但し、各種添加剤は、親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面に存在する親水性高分子化合物を溶解しないものを選択して専らその様な性質のもののみを用いるか、同高分子化合物を溶解しうるものであっても実質溶解しない様な濃度にその使用量を極力最小限に止める等の工夫が必要である。界面活性剤は、最終的な調整のみならず、本発明のインク調製に採用されうる工程の全てにおいて、全く用いない様にするのが、インクから得られる画像の耐水性等の観点からも好ましい。
【0088】
また、粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために、通常は、(4)の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか、(5)のインク化工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0089】
本発明の第二の実施の形態としては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあり、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であって、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0090】
一般にインクジェット用水性顔料インク中への樹脂エマルジョン粒子の添加により、耐擦過性の改良を行うことは出来る。しかしインクの作成条件によってはノズル目詰まりを起こし印字不良が発生することがある。また十分な耐擦過性の改良を行うために樹脂エマルジョン粒子の添加量を多くすると印字濃度低下を起こす場合もあったが、樹脂エマルジョン粒子の含有量をインク全質量中の0.5質量%〜10質量%にして、且つ顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5にすることで、高濃度で、且つ印字部の耐擦過性を改良し、しかもノズル目詰まりも改良することが出来た。
【0091】
本発明の樹脂エマルジョン粒子は、被膜形成能を有する樹脂であることが好ましく、樹脂エマルジョン粒子の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0092】
本発明で使用する樹脂エマルジョン粒子の量はインク全体に対し、質量比で0.5〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。添加量が0.5質量%より少ないと耐擦過性改良に対して効果が無く、10質量%を越えるとインクの保存時に被膜を形成してノズル目詰まりが生じやすく、また印字部の濃度低下を起こし易い。
【0093】
また、樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度は30℃以下であることが耐擦過性の更なる向上の為に好ましく、より好ましくは25℃以下、最も好ましくは20℃以下であることが好ましい。ここで最低成膜温度とは、樹脂エマルジョン粒子を水に分散させて得られた樹脂エマルジョンをアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。
【0094】
本発明の顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆された顔料粒子は、その平均粒子径が、1次粒子の凝集体として、100〜500nmの範囲内のものがよい。顔料粒子の平均粒子径は、遠心沈降法、X線透過法、レーザー回折法、篩い分け法等、従来公知の方法によって測定することができる。
【0095】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0096】
(水性顔料インク<A>)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に下記の条件で分散処理を行い、顔料分散液を得た。
【0097】
分散機: サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア: ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率: 50%(体積)
粉砕時間: 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去した。
【0098】
得られた分散液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0099】
この水分散物92部に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加え、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が2.7質量%になるように調整・攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、水性顔料インク<A>とした。
【0100】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径を粒度分布測定装置(島津製作所製)を用いて測定したところ、120nmであった。また、そのpHは8.4であった。
【0101】
(水性顔料インク<B>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料9.6部、親水性高分子化合物の添加量を6.4部とする以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<B>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0102】
(水性顔料インク<C>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料15.2部、親水性高分子化合物の添加量を0.8部とする以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<C>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は150nmであった。
【0103】
(水性顔料インク<D>)
水性顔料インク<A>において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価51)を用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<D>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は135nmであった。
【0104】
(水性顔料インク<E>)
水性顔料インク<A>において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価220)を用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<E>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は105nmであった。
【0105】
(水性顔料インク<F>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料5部に対して親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)を11部用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<F>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0106】
(水性顔料インク<G>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料15.8部に対して親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)を0.2部用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<G>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は160nmであった。
【0107】
(水性顔料インク<H>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料16部に対して親水性高分子化合物を用いない以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<H>を作成した。得られた水性顔料インク中の顔料の平均粒子径は180nmであった。
【0108】
(インクジェット記録媒体<1>〜<4>)
下記の組成の塗工液を調製し、得られた塗工液をワイヤーバーを用いて、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー、東レ製)上に乾燥後の塗工厚が30μmになるように塗布した後、120℃にて5分間乾燥して、本発明及び比較用の記録媒体を調製した。
(塗工液組成、記録媒体1〜4)
無機微粒子(固形分換算値): 14部
ポリビニルアルコール(PVA−217、クラレ製): 1部
ポリビニルピロリドン(PVP−K−90、GAF製): 1部
水: 84部
(無機微粒子の種別)
記録媒体1;アルミナゾル(日産化学製)
記録媒体2;コロイダルシリカ(スノーテックスZL、日産化学製)
記録媒体3;酸化チタンゾル(多木化学製)
記録媒体4;合成シリカ(サイリシア、富士シリシア化学製)
【0109】
(インクジェット記録媒体<5>)
基材として、厚さが100μmの白色のポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー399、ICI製)を用いた以外は、記録媒体1と同様にして、記録媒体5を調製した。
【0110】
上記の各記録媒体1〜5のそれぞれの空孔分布を水銀圧入ポロシメーター(ポアサイザーMIC−9130、島津製作所製)を用いて測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0111】
(評価試験)
上記の水性顔料インクについて、下記のインク評価試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録媒体に文字の印刷を行った。
【0112】
(目詰まり特性試験)
上記プリンタに水性顔料インクを充填し、10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印字品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べた。評価は下記の基準に従って行った。評価A、Bが可である。
評価A:0〜2回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価B:3〜5回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価C:6回以上の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られなかった。
【0113】
(印字品質試験)
上記の水性顔料インク及びインクジェット記録媒体について、下記の印字品質試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録媒体にベタ印刷を行った。
【0114】
(印字濃度)
ベタ印字部の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定した。△以上が実用的に好ましい。
◎:反射濃度値が1.5以上
○:反射濃度値が1.3以上で1.5未満
△:反射濃度値が1.0以上で1.3未満
×:反射濃度値が1.0未満
【0115】
(画像ムラ)
画像ムラは、上記プリンターを用いてベタ印字した印字物において、濃淡ムラが認められないものを「○」、印字物と眼とを50cm離した距離からの目視で確認することができるものを「×」、その中位のものを「△」とした。△以上が実用的に使用できる。
【0116】
(画像の色調及び光透過度)
上記のようにして作成された印字物を透過型オーバーヘッドプロジェクタにより投影し、各印字部の色調が明らかに変化している、あるいは投影画像が暗くなっているものを「×」、若干色調が変化している、あるいは投影画像が暗くなっているものを「△」、全く問題のないものを「○」とした。△以上が実用的に使用できる。
【0117】
(印字部の耐擦過性)
印字部を消しゴム(トンボ鉛筆 PE−01A)で押し圧50gで5往復擦り、試験前後の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定して、残存率を計算した。
◎:90%以上
○:85%以上で90%未満
△:75%以上で85%未満
×:75%以下又は測定不可能で実用的に問題になるレベル。評価結果をまとめて、表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に明らかなように、比較例1のように、空孔ピークが180nmと大きい場合には、顔料インクのインク受理層中への沈み込みにより、印字濃度が低く、また顔料の凝集により色調のズレを生じる。比較例2のように顔料を被覆する親水性高分子の量が多いと印字濃度が出ない。更に比較例3や4のように顔料を被覆する親水性高分子の量が少ないか、高分子で被覆されない場合はインクジェット記録媒体の選択が適当でも耐擦過性が悪い。
【0120】
(水性顔料インク<I>)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に下記の条件で分散処理を行い、顔料分散液を得た。
【0121】
分散機: サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア: ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率: 50%(体積)
粉砕時間: 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去した。
【0122】
得られた分散液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0123】
この水分散液に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加えた後に、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が5.0質量%になるように調整したインク100部中に、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)12.5部添加し、攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、インクジェット用水性顔料インクとした。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の4.4%である。)
【0124】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径を粒度分布測定装置(島津製作所製)を用いて測定したところ、120nmであった。また、そのpHは8.4であった。
【0125】
(水性顔料インク<J>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度40℃、固形分濃度40%)とする以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<J>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0126】
(水性顔料インク<K>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料9.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を6.4部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<K>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0127】
(水性顔料インク<L>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料15.2部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を0.8部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<L>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は150nmであった。
【0128】
(水性顔料インク<M>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)1.25部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<M>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の0.5%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0129】
(水性顔料インク<N>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)33.0部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<N>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約9.8%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0130】
(水性顔料インク<O>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)35.0部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<O>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約10.4%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0131】
(水性顔料インク<P>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料16.0部で親水性高分子化合物を含まない以外は、水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<P>を作成した。得られた水性顔料インク中の顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0132】
【表2】
【0133】
表2に明らかなように、比較例7のように樹脂エマルジョン粒子の全インク中の含有量が多いと、やはりノズル目詰まりを起こしやすい。また印字濃度も出にくい傾向がある。比較例8のようにインク中の顔料が親水性高分子化合物で被覆されないと印字部の耐擦過性に劣る。比較例9はインクジェット記録媒体に関するものであり、水性顔料インクが適当に選択されていても、インク受理層の空孔ピークが顔料インクの粒径に対して大きいと印字濃度が低く、色調のズレも大きいと云う結果を招く。
【0134】
【発明の効果】
本発明によると、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上とすることで、経時分散安定性に優れ、かつ印字濃度と画像鮮明性に優れ、更に耐擦過性にも優れるという格別顕著な技術的効果を奏する。又水性顔料インク中に樹脂エマルジョン粒子を、インク全質量の0.5〜10質量%の範囲で含有させる事で、更に耐擦過性を改良出来る。
【発明の属する技術分野】
本発明は、分散安定性に優れてノズル目詰まりもなく、且つインクジェット記録時の印字濃度が高く、更に色調のズレがなく画像鮮明であると共に、印字部の耐擦過性に優れたインクジェット用水性顔料インクに関する。特にオーバーヘッドプロジェクター(OHP)等を用いて、投影画像を観察する透光性のインクジェット記録媒体に好適なインクジェット用水性顔料インクに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式は、記録の高速化、カラー化、高密度化が容易なことから注目されており、インクジェット記録方式を用いた記録装置も広く普及している。こうしたインクジェット記録方式に適用される記録媒体として、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
一方、OHP用フィルム等の透光性の記録画像を形成することのできる記録媒体に対する要求も強まり、このような記録媒体としては、例えば、特許文献2に記載のものが挙げられる。
【0004】
インクジェット記録方式では、インクとして各種の水溶性染料を水又は、水と有機溶剤との混合液に溶解させたものが使用されている。然しながら、水溶性染料を用いた場合には、これらの水溶性染料は本来耐光性が劣るため、記録画像の耐光性が問題になる場合が多い。
【0005】
また、インクが水溶性であるために、記録画像の耐水性が問題となる場合が多い。即ち、記録画像に雨、汗、あるいは飲食用の水がかかったりした場合、記録画像が滲んだり、消失したりすることがある。
【0006】
一方、ボールペン等の染料を用いた文房具においても同様の問題があり、耐光性、耐水性の問題を解決するために種々の文房具用水性顔料インクの提案がなされている。水性顔料インク実用化のため、分散安定性、ペン先でのインクの固化防止、ボールペンのボールの摩耗防止等を検討している例として、特許文献3、特許文献4等が挙げられる。最近では、水性顔料インクを用いたボールペンや、マーカーが商品として上市されるようになってきた。
【0007】
また、水性顔料インクを用いたインクジェット用インクとしては、特許文献5、特許文献6等に、特定の水溶性溶剤と高分子分散剤を用いた顔料インクが提案されている。上記ように、インクジェット用顔料インクに関する提案は既に数多くなされている。
【0008】
近年、記録の高速化、多色化等のインクジェット記録装置の性能の向上に伴って、インクジェット用記録媒体に対しても、より高度で広範な特性が要求されるに到っている。即ち、(1)染料本来の色調からのずれを生じない、適正な色混合が行えること、(2)インクの吸収能力が高い(吸収容量が大きく、吸収時間が速い)こと、(3)ドットの光学濃度が高く、ドット周辺がぼけないこと、(4)ドット形状が真円に近く、その周辺が滑らかであること、(5)温度、湿度の変化による特性変化が小さく、カールを起こさないこと、(6)ブロッキングを起こさないこと、(7)画像が長期保存に安定で変質しない(特に、高温高湿環境下)こと、(8)記録媒体自体が長期保存に安定で変質しない(特に、高温高湿環境下)こと、等々の特性を同時に満足させることが要求されている。
【0009】
また、OHP用記録シート等においては、更に加えて記録媒体自体が透明性に優れていることも重ねて要求されている。上記のように、最近では画像の記録媒体上での耐水性、耐光性を向上させるために、顔料インクとして、インクジェット用のタイプのものを用いた例が数多く報告されている。
【0010】
水性顔料インクとしては、なるべく微粒子径に分散された着色顔料が求められており、具体的なインクジェット用水性顔料インクの例として、特許文献7では、(a)顔料と高分子化合物分散剤とを2−ロールミリング装置に充填し;(b)摩砕して顔料と高分子化合物分散剤との分散体を得;そして(c)この顔料分散体を水性媒体中に分散させる工程からなる、改良された特性を有するインクジェット用水性顔料インクの調整方法が、また、特許文献8では、(a)顔料とカルボキシル基含有ポリアクリル系高分子化合物とを含有する固体顔料調合物、(b)水で希釈可能な有機溶媒、(c)湿潤剤、(d)水を含有するインクジェット用水性顔料インクが提案されている。
【0011】
しかしながら、これらの技術は顔料の微粒子化には有効なものの、溶解している分散剤高分子化合物の影響で、インクの水分蒸発に伴いノズル付近のインク粘度上昇によるノズル目詰まりを生じ易く、また、印刷物の耐水性も著しく劣っていた。
【0012】
特許文献9では顔料及び高分子化合物を含む画像記録用着色組成物において、顔料が分散媒に対して実質的に不溶性であり且つ極性基を有する硬化重合体の薄膜で被覆された顔料であることを特徴とする画像記録用着色組成物が提案されているが、顔料を高分子化合物で被覆した場合に、高分子化合物の被覆状態及び高分子化合物の種類によっては、インクジェット記録時の印字濃度が低かったり、或いは印字部の耐擦過性が改良されないと云う問題もあった。
【0013】
また顔料インクのもう一つの課題として、或る条件のもとで、急激に凝集するという現象が挙げれる。凝集が急激に起こると、顔料本来の色調からずれを生じて、適正な色混合を行うことが不可能のなるといった問題が発生する。また、特に記録媒体として、OHPフィルムのような透明体を用いた場合には大きな問題となる。
【0014】
特に、OHP用記録シート等の透明性を要求されるものについては、顔料の凝集が強力に起こった場合、顔料本来の色調からずれを生じて、適正な色混合が行えなくなるといった問題だけではなく、表面が曇ってしまうことにより、印字部が光を透過しなくなってしまうという重大な問題が発生する。このように、記録の高速化、画像の高密度化、カラー化、耐水化等が進むにつれて、色調、画像品位の低下が深刻な問題となっている。
【0015】
かかる課題に対し、特許文献10では空孔分布曲線の最大ピークが100nmのインク受理層に対して、粒子径が100nm以上の顔料インクを使用することで、インク受理層中への顔料インクの沈み込みがない為に色調のズレを生せず、画像が鮮明な記録媒体を得る技術が開示されているが、一方顔料インクのインク受理層中への沈み込みがない為に耐擦過性に劣ると云う新たな課題の発生もあった。
【0016】
【特許文献1】
特開昭59−35977号公報
【特許文献2】
特開昭60−220750号公報
【特許文献3】
特開平1−249869号公報
【特許文献4】
特開平1−301760号公報
【特許文献5】
特開昭56−147859号公報
【特許文献6】
特開昭56−147860号公報
【特許文献7】
特許第2512861号公報
【特許文献8】
特開平3−153775号公報
【特許文献9】
特開平5−247370号公報
【特許文献10】
特開平8−300802号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記した諸特性をバランスよく同時に満足し、前述したような、耐水性、耐光性を発現する顔料を用いた場合でも、ノズル目詰まりがなく、高濃度で耐擦過性も良好であり、しかも顔料本来の色調からずれを生じることなく、適正な色混合を行うことが可能で、OHPフィルムのような透光性基材を用いた場合でも、インクジェットによる画像記録部が光透過性に優れるインクジェット用水性顔料インクを提供することにある。
【0018】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明のインクジェット用水性顔料インクを発明するに至った。
【0019】
即ち、本発明における第一の水性顔料インクとしては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0020】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200とするものである。
【0021】
本発明の第二の水性顔料インクとしては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあり、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であって、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0022】
樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下であることが好ましい。
【0023】
親水性高分子化合物の酸価が60〜200であることが好ましい。
【0024】
前記インクジェット記録媒体として、透光性のものを用いることが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明のインクジェット用水性顔料インクについて、詳細に説明する。即ち本発明は、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0026】
本発明は、親水性高分子化合物で被覆した顔料を主成分として含有するインクジェット用水性顔料インクを用いる場合に、親水性高分子化合物で被覆した顔料の粒子径よりも小さい径の空孔を多数有するインク受理層を形成した記録媒体を用いることにより、画像部の耐擦過性に優れると共に、鮮明な記録画像の形成を可能とし、特に透過光観察に用いられる透光性の画像記録に当たっては、高い明度、鮮明度を有する投影画像の形成を可能とするものである。
【0027】
上記のように本発明は、インク受理層表面に付着したインク滴中の液媒体成分のみが、インク受理層中の空孔を通ってインク受理層内部に吸収され、その結果、顔料粒子の大部分は、記録面の表面付近に分離、積層されるというメカニズムにより、顔料がインク受理層中に浸透あるいは吸収された場合と比較して、顔料の急激な凝集が起こりにくいというような効果をもたらすものと考えられる。
【0028】
次に、本発明の記録媒体中の成分について、更に詳しく説明する。本発明の記録媒体は、基材及び基材上に形成された少なくとも1層以上のインク受理層により形成される。
【0029】
基材としては、プラスティックフィルム、紙、布、ガラス、合成紙、板等が使用することができる。透光性記録媒体の場合には、透明フィルムであることが望ましい。
【0030】
インク受理層は、特定の空孔ピークを有するように設計されていれば、特に、制限されないが、好ましくは、平均粒子径が100nm未満の微細粒子及びバインダー樹脂によって、構成されるものがよい。
【0031】
微細粒子として使用されるものは、例えば、シリカ、アルミナ、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化スズ、酸化セリウム、酸化イットリウム等のものが挙げられ、更にこれらのコロイド分散体、ゾルを用いることがより好ましい。
【0032】
バインダーとして使用されるものは、例えば、ポリビニルアルコール、デンプン、カチオン化デンプン、カゼイン、ゼラチン、アクリル樹脂、無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、SBRラテックス、アルギン酸ソーダ、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0033】
尚、本発明においてインク受理層の空孔分布曲線は、水銀圧入法を用いた、ポアサイザー(島津製作所製)等のポロシメーターを用いて測定される。本発明においては、使用するインク中の親水性高分子化合物で被覆された顔料粒子の平均粒子径が100nm以上であるために、空孔分布曲線のピークが100nm未満にのみ存在することが必須である。この範囲より大きい場合には、インク中の顔料粒子もインク受理層内部に浸透してしまうため、顔料の分散が不安定となって、凝集を起こし易く、結果として十分な濃度と明度をもった画像の形成ができない。
【0034】
インクジェット記録媒体を作成するに当たっては、まず、インク受理層形成用組成物を、必要により他の添加剤と共に、水あるいはアルコール、又は他の適当な有機溶媒に溶解、又は分散し、塗工液を調製する。
【0035】
得られた塗工液を、例えば、ロールコーター法、ブレードコーター法、エアナイフコーター法、ゲートロールコーター法、バーコーター法、サイズプレス法、スプレーコート法、グラビアコーター法、カーテンコーター法等により基材表面に塗工する。その後、例えば熱風乾燥炉、熱ドラム等を用いて乾燥し、本発明の記録媒体が得られる。更に必要に応じてスーパーカレンダー処理等を施してもよい。
【0036】
インク受理層の塗工量としては、総量として0.2〜50g/m2の範囲、好ましくは1〜30g/m2の範囲内がよい。塗工量が少ない場合には基材の一部が表面に露出していてもよい。また、塗工量が0.2g/m2に満たない場合には、インク受理層を設けなかった場合に比べて効果がなく、一方、50g/m2を越えて設けた場合には特に、低温低湿環境下におけるカールの発生が著しいので好ましくない。塗工量を厚さで表した場合の塗工量は0.5〜100μmの厚みになる範囲が好適である。
【0037】
一方、本発明の水性顔料インクに関しては、顔料に対する親水性高分子化合物の割合が、前記の範囲より多くなると印字濃度が低下し、また顔料に対する親水性高分子化合物の割合が前記の範囲より少ないと印字部の耐擦過性が低下する傾向がある。
【0038】
本発明において、顔料を被覆するのに用いる親水性高分子化合物は、皮膜を形成する高分子化合物であればよく、天然高分子化合物や合成高分子化合物に限定されず様々な親水性高分子化合物が用いることができ、例えばスチレン系高分子化合物、アクリル系高分子化合物、ポリエステル系高分子化合物、ポリウレタン系高分子化合物が挙げられる。
【0039】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定して分散させるには、親水性高分子化合物は親水性の高い性質を有している必要があり、そのためしばしば多量の親水性高分子化合物がインク中に溶解することになる。この場合、溶解している高分子化合物は着色顔料を被覆している高分子化合物層への絡みつきに伴う粒子間架橋により、長期の保管により高分子化合物で被覆された顔料の凝集を促進することがある。またインクジェット記録を行った場合には、ノズル端面での水分蒸発に伴うインクの粘度上昇やノズル周辺へのインク濃縮物の付着によってノズル目詰まりを起こしやすくなる。
【0040】
一方、親水性高分子化合物の親水性が低い場合には被覆した顔料の水性媒体中での分散安定性はより低くなり、やはりノズル目詰まりを起こし易い。
【0041】
そこで、親水性高分子化合物の水性媒体への溶解を最小限に押さえ、かつ当該水性媒体中での安定した分散を可能とすることが、しばしば必要となる。
【0042】
親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に安定に分散させるには、例えば界面活性剤や分散剤等を用いて、もともと親水性が無いかそれが乏しい親水性高分子化合物を用いるという方法もあり得るが、着色画像がより優れた耐水性を発現する点や吐出安定性が良好な点からすれば、界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製するのが好ましい。
【0043】
この界面活性剤や分散剤等を含まない様に調製する方法としては、例えば、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物を用いる様にするのが良い。中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を中和剤により中和して得た親水性高分子化合物としては、典型的には、塩基による中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物を塩基で中和してなる親水性高分子化合物が挙げられる。本発明では、界面活性剤や分散剤等などの助けを借りずとも、それ自体のみで、水性媒体に安定に分散できるこの高分子化合物を、自己乳化型高分子化合物と呼ぶ場合がある。
【0044】
本発明では、例えば酸価を有する高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した自己乳化型高分子化合物を親水性高分子化合物として用いるのが好ましい。酸価を有する高分子化合物としては、例えば酸価60〜200のものが用いられる。尚、酸価とは、高分子化合物1gを中和するに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム(mg)数を言い、mg・KOH/gで表す(以下、単位は略記する。)。この様な高分子化合物は、例えば前記特定酸価の高分子化合物の酸価の全て又は一部を中和することにより得ることが出来るが、この際は、インクのpHが7.5〜9.0となる様にすることが好ましい。
【0045】
酸価が60未満の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面親水性が乏しく、分散安定性が不充分となり易く、また、酸価が200を越える場合には高分子化合物の親水性が著しく高まり、高分子化合物による顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなり、又印字部の耐擦過性も悪くなる傾向がある。
【0046】
一方、インクのpHが7.5より低い場合には、親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性は低下し易く、また、pHが9.0以上の場合は親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料の被覆が膨潤等により不十分となり易く、親水性高分子化合物で被覆した顔料同士の凝集やノズル目詰まりを生じやすくなる。
【0047】
最適には、本発明のインクとするに当たって、酸価が60〜200の高分子化合物を用いて、それを塩基で中和した親水性高分子化合物を用いるとともに、インクのpHが7.5〜9.0となる様にしたものが、本発明において著しい効果を示す。
【0048】
本発明において、好ましい親水性高分子化合物は、スチレン系高分子化合物または(メタ)アクリル系高分子化合物であり、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体を塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物が挙げられる。
【0049】
(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタアクリル酸の総称であり、本発明では、いずれか一方が必須であればよいが、より好適な親水性高分子化合物は、アクリル酸およびメタアクリル酸の両方に由来する構造を有しているものである。
【0050】
本発明においては、例えば親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物の水性媒体中への溶解をより少なくするには、全てのカルボキシル基を有する単量体成分のうちの、アクリル酸の比率をより少なく、メタアクリル酸の比率をより増せばよい。
【0051】
即ち、最適な親水性高分子化合物としての自己乳化型高分子化合物は、スチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーを主成分とし、アクリル酸とメタアクリル酸との共重合体であって、メタアクリルがアクリル酸より多く共重合された、塩基で少なくとも一部中和した自己乳化型高分子化合物である。
【0052】
インクのpHを塩基性にするには、中和により水性媒体に分散し得る高分子化合物に対して中和、即ち塩基を加えればよい。塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、トリエチルアミン、モルホリン等の塩基性物質の他、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン等のアルコールアミンが使用可能である。塩基としては、親水性高分子化合物が分解しない程度の高温で容易に揮発する、揮発性塩基を採用するのが好ましい。
【0053】
しかしながら、より高酸価の高分子化合物をより強い塩基を用いて中和を行うと、インク中での親水性高分子化合物の溶解度がより高まることから、塩基の強さや使用量(中和率)を調節することが好ましい。インクジェット記録においては、ノズルの目詰まりや保存時の分散安定性、印刷物の耐水性に悪影響が極めて少ないため、弱塩基であるアルコールアミン、特にトリエタノールアミンは最適な塩基である。
【0054】
本発明の水性顔料インクに用いられる顔料は、特に限定されるものではなく、公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばカーボンブラック、チタンブラック、チタンホワイト、硫化亜鉛、ベンガラ等の無機顔料や、フタロシアニン顔料、モノアゾ系、ジスアゾ系等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、キナクリドン顔料等の有機顔料等が用いられる。カラー画像を得る場合には、インクとしては、有彩色顔料を用いるのが好ましい。
【0055】
かかる顔料の使用量は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、最終的に得られるインク中で、通常0.5〜20質量%となるような量となる様に調製するが好ましい。
【0056】
インクには、必要に応じて、親水性高分子化合物を溶解しない様な、或いは溶解し難い有機溶剤を含ませることが出来る。インクに用いられる有機溶剤は、一例として乾燥防止剤や浸透剤として用いられる。
【0057】
乾燥防止剤は、インクジェットの噴射ノズル口でのインクの乾燥を防止する効果を与えるものであり、通常水の沸点以上の沸点を有するものが使用される。このような乾燥防止剤としては、従来知られている公知慣用のものがいずれも使用できるが、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール類等がある。
【0058】
特にグリセリンは、親水性高分子化合物で被覆した顔料表面の親水性高分子化合物に強い水素結合により結びついて親水性高分子化合物で被覆した顔料の分散安定性をより高めると同時に、仮にインク中に親水性高分子化合物が少量溶解していたとしてもそれに対しても強い水素結合で結びつくことによって、ノズル端面での乾燥を防止するという点でより好ましい。
【0059】
浸透剤は記録媒体へのインクの浸透や記録媒体上でのドット径の調整を行うものであり、浸透剤としては、例えばエタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール、エチレングリコールヘキシルエーテルやジエチレングリコールブチルエーテル等のアルキルアルコールのエチレンオキシド付加物やプロピレングリコールプロピルエーテル等のアルキルアルコールのプロピレンオキシド付加物等がある。
【0060】
これら有機溶剤の添加量は、インク中、乾燥防止剤の場合は1〜80質量%、浸透剤の場合は0.1〜10質量%とするのが好適である。
【0061】
本発明の水性顔料インクを得る具体的な方法は、酸価を有する親水性高分子化合物を用いて顔料を被覆する場合には以下の方法が好ましい。この方法によれば、水性媒体中に分散した高分子化合物と顔料に由来する成分が、親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなり、親水性高分子化合物で被覆されていないフリーの顔料粒子や、顔料を含まない親水性高分子化合物のみの粒子や、溶解した親水性高分子化合物をいずれも全く含まないか、含んでいても極めて極少量であるインクを容易に得ることが出来る。
【0062】
この方法は、例えば次の(1)〜(5)をこの順に行うことが出来る。
(1)酸価を有する親水性高分子化合物に、顔料を分散して固形着色コンパウンドを得る。(混練工程)
【0063】
この工程は、例えば従来知られているロールやニーダーやビーズミル等の混練装置を用いて、溶液や加熱溶融された状態で、顔料を、当該高分子化合物に均一に溶解または分散させ、最終的に固体混練物(固形着色コンパウンド)として取り出すことにより行うことが出来る。
【0064】
特に当該高分子化合物への顔料の微分散が必要な場合には、顔料を分散する手段として、従来知られている分散方法のうち、相対的に高せん断力のかかる状態が形成される分散手段、具体的には2本ロールを用いて高せん断力下で分散を行うことが好ましい。
【0065】
(2)少なくとも、水、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤、塩基、前記固形着色コンパウンドを混合し、分散によって少なくとも当該高分子化合物の一部が溶解している顔料懸濁液を得る。(懸濁工程)
【0066】
当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は当該高分子化合物に対して良溶媒として機能するものであり、有機溶剤としては、当該高分子化合物に対して適宜選択することが出来、例えばアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル等のエステル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、アミド類等高分子化合物を溶解させるものであれば使用可能である。
【0067】
本工程に用いられる分散媒は、主体は親水性高分子化合物に対しては貧溶媒として機能する水であり、水性顔料インクとして用いるため、イオン交換水以上の純度を有することが好ましい。
【0068】
本工程では、水及び有機溶剤の混合液が均一であることが好ましく、均一でない場合は、必要に応じて、界面活性剤を用いるか、あるいは機械的にO/W型に乳化させるか、助溶剤を併用して均一化させて用いることが好ましい。前記の通りの理由により、界面活性剤は用いたとしても、最小限に止める。
【0069】
分散媒を形成する、必要に応じて用いられる当該高分子化合物を溶解する有機溶剤は、それのみを用いる様にしてもよいが、それと水と塩基のみで、分散安定性に優れた顔料懸濁液を得難い場合には、それに、当該高分子化合物に対して親水性有機溶剤を、助溶剤として一部併用してより良い乳化安定性を持たせる様にしてもよい。尚、当該高分子化合物を溶解する有機溶剤及び助溶剤は、いずれも1種又は2種以上を併用してもよい。
【0070】
当該高分子化合物が、例えばスチレン、置換スチレン、(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも一つのモノマーと、(メタ)アクリル酸との共重合体の場合には、メチルエチルケトン等のケトン系溶剤を主として、助溶剤としてイソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤から選ばれる少なくとも1種類以上の組み合わせが良い。
【0071】
かかる水と有機溶剤の比率は、本発明における効果を達成すれば特に規定されないが、水/有機溶剤の質量比が10/1〜1/1となるような量が好ましい。
【0072】
この工程により、固形着色コンパウンドの表面に存在する、酸価を有する親水性高分子化合物は、徐々に、塩基により、その酸価の少なくとも一部又は全部が中和され、当該コンパウンドの固体形状から、混合物は懸濁状態となる。
【0073】
懸濁液を得るための攪拌方法としては、公知慣用の手法がいずれも採用でき、例えば従来の1軸のプロペラ型の攪拌翼の他に、目的に応じた形状の攪拌翼や攪拌容器を用いて、通常は、容易に懸濁可能である。
【0074】
懸濁液を得るに当たって、大きなせん断力が働かない単なる混合攪拌では微粒子化しない場合や、顔料が比較的凝集しやすい場合には、それに加えて更に高せん断力を与えて微粒子の安定化を行っても良い。この場合の分散機としては、例えば高圧ホモジナイザーや、商品名マイクロフルイダイザーやナノマイザーで知られるビーズレス分散装置等を用いるのが、顔料の再凝集が少なく好ましい。
【0075】
(3)顔料懸濁液中に溶解している親水性高分子化合物成分を、顔料表面に沈着させて親水性高分子化合物で表面被覆された着色顔料を得る。(再沈殿工程)
【0076】
本工程は、前記懸濁工程で得られた顔料懸濁液中の顔料表面に、当該懸濁液中に存在する溶解高分子化合物成分及び分散高分子化合物成分を沈着させる工程である。本工程の「再沈殿」とは、顔料、或いは当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に吸着した状態の粒子を懸濁液の液媒体から、分離沈降させることを意味するものではない。従って、この工程で得られるものは、固形成分と液体成分とが明らかに分離した単なる混合物ではなく、当該溶解高分子化合物や分散高分子化合物が顔料表面に被覆した着色顔料が懸濁液の液媒体に安定的に分散した着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液である。
【0077】
この懸濁工程の顔料懸濁液中の顔料表面へ高分子化合物の沈着は、例えば、少なくとも一部、当該親水性高分子化合物が溶解及び/又は分散している顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体を加えて行うか、及び/又は、顔料懸濁液から有機溶剤を除去して行うことによって容易に行うことが出来る。
【0078】
しかしながら、顔料懸濁液に、当該高分子化合物に対して貧溶媒として機能する水または水性媒体をさらに加えて行う方法が、凝集物も少なく好ましい。再沈殿は懸濁液を緩く攪拌しながら水または水性媒体を滴下することによって、凝集物の発生を防止しながら顔料表面に高分子化合物を確実に沈着(再沈殿)させることが可能となる。
【0079】
また得られた分散液の乾燥を防止するために、乾燥防止剤を水性媒体中に前もって存在させておくか、再沈殿後に添加することが好ましい。
【0080】
この様にして、上記(1)混練工程(2)懸濁工程(3)再沈殿工程によって、所望の粒子径の着色高分子化合物粒子が得られる。
【0081】
(4)再沈殿工程で得られた親水性高分子化合物で被覆された着色顔料分散液からの低沸点有機溶剤の除去及び/または濃縮(脱溶剤工程)
【0082】
再沈殿工程で得られた着色高分子化合物粒子水分散液はそのまま用いることもできるが、共存している有機溶剤の影響で着色高分子化合物粒子が膨潤状態にある場合が多いため、保存安定性をより向上させるためや、或いはより火災や公害に対する安全性を高めるために、更に脱溶剤を行うことが好ましい。
【0083】
この様にして除去された有機溶剤は、例えば連続生産を目的とする場合には、焼却することなく、閉鎖系にてリサイクルして再利用することも出来る。
【0084】
この(1)〜(4)の工程を経て得た、着色高分子化合物粒子(親水性高分子化合物で被覆した顔料)水性分散液は、それの調製に用いた高分子化合物と顔料に由来する全成分が、専ら親水性高分子化合物で被覆した顔料のみからなる水性分散液となり、フリーの顔料粒子、親水性高分子化合物のみの粒子及び溶解した親水性高分子化合物の三者を実質的に含まないものである。
【0085】
こうして得られた分散液は、通常、親水性高分子化合物で被覆した顔料と、分散媒のみから実質的になる。分散液中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の含有率は、それと分散媒の合計に対して、通常、10〜40質量%とする。勿論、これまでの工程で各種添加剤を含めた場合には、分散液中にはそれも含まれる。
【0086】
(5)インク化工程
前記工程によって得られる、水以外の液媒体を全く含まないか、或いはほとんど含まない、サブミクロンオーダーの着色高分子化合物粒子水分散液は、そのままでも基本的に水性顔料インクとして用いることが出来るが、更に、分散安定性、噴射特性を考慮してインクの調整を行うことが好ましい。
【0087】
インクの調整は、例えば、前記乾燥防止剤や浸透性有機溶剤の添加、濃度調整・粘度調整の他、pH調整剤、分散・消泡・紙への浸透のための界面活性剤、防腐剤、キレート剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等を必要に応じて添加剤することができる。但し、各種添加剤は、親水性高分子化合物で被覆した顔料の表面に存在する親水性高分子化合物を溶解しないものを選択して専らその様な性質のもののみを用いるか、同高分子化合物を溶解しうるものであっても実質溶解しない様な濃度にその使用量を極力最小限に止める等の工夫が必要である。界面活性剤は、最終的な調整のみならず、本発明のインク調製に採用されうる工程の全てにおいて、全く用いない様にするのが、インクから得られる画像の耐水性等の観点からも好ましい。
【0088】
また、粗大粒子によるノズル目詰まり等を回避するために、通常は、(4)の脱溶剤工程後に遠心分離やフィルターろ過により粗大粒子を除去するか、(5)のインク化工程でインク調整後に所望の粒径のフィルターで濾過する。
【0089】
本発明の第二の実施の形態としては、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあり、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であって、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上にするものである。
【0090】
一般にインクジェット用水性顔料インク中への樹脂エマルジョン粒子の添加により、耐擦過性の改良を行うことは出来る。しかしインクの作成条件によってはノズル目詰まりを起こし印字不良が発生することがある。また十分な耐擦過性の改良を行うために樹脂エマルジョン粒子の添加量を多くすると印字濃度低下を起こす場合もあったが、樹脂エマルジョン粒子の含有量をインク全質量中の0.5質量%〜10質量%にして、且つ顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5にすることで、高濃度で、且つ印字部の耐擦過性を改良し、しかもノズル目詰まりも改良することが出来た。
【0091】
本発明の樹脂エマルジョン粒子は、被膜形成能を有する樹脂であることが好ましく、樹脂エマルジョン粒子の具体例としては、スチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、スチレン−ブタジエン共重合体、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0092】
本発明で使用する樹脂エマルジョン粒子の量はインク全体に対し、質量比で0.5〜10質量%の範囲で用いることが好ましい。添加量が0.5質量%より少ないと耐擦過性改良に対して効果が無く、10質量%を越えるとインクの保存時に被膜を形成してノズル目詰まりが生じやすく、また印字部の濃度低下を起こし易い。
【0093】
また、樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度は30℃以下であることが耐擦過性の更なる向上の為に好ましく、より好ましくは25℃以下、最も好ましくは20℃以下であることが好ましい。ここで最低成膜温度とは、樹脂エマルジョン粒子を水に分散させて得られた樹脂エマルジョンをアルミニウム等の金属板の上に薄く流延し、温度を上げていった時に透明な連続フィルムの形成される最低の温度をいう。
【0094】
本発明の顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆された顔料粒子は、その平均粒子径が、1次粒子の凝集体として、100〜500nmの範囲内のものがよい。顔料粒子の平均粒子径は、遠心沈降法、X線透過法、レーザー回折法、篩い分け法等、従来公知の方法によって測定することができる。
【0095】
【実施例】
次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。尚、以下の実施例中における「部」は『質量部』を表わす。
【0096】
(水性顔料インク<A>)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に下記の条件で分散処理を行い、顔料分散液を得た。
【0097】
分散機: サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア: ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率: 50%(体積)
粉砕時間: 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去した。
【0098】
得られた分散液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0099】
この水分散物92部に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加え、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が2.7質量%になるように調整・攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、水性顔料インク<A>とした。
【0100】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径を粒度分布測定装置(島津製作所製)を用いて測定したところ、120nmであった。また、そのpHは8.4であった。
【0101】
(水性顔料インク<B>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料9.6部、親水性高分子化合物の添加量を6.4部とする以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<B>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0102】
(水性顔料インク<C>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料15.2部、親水性高分子化合物の添加量を0.8部とする以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<C>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は150nmであった。
【0103】
(水性顔料インク<D>)
水性顔料インク<A>において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価51)を用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<D>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は135nmであった。
【0104】
(水性顔料インク<E>)
水性顔料インク<A>において、親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価220)を用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<E>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は105nmであった。
【0105】
(水性顔料インク<F>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料5部に対して親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)を11部用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<F>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0106】
(水性顔料インク<G>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料15.8部に対して親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)を0.2部用いる以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<G>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は160nmであった。
【0107】
(水性顔料インク<H>)
水性顔料インク<A>において、キナクリドン顔料16部に対して親水性高分子化合物を用いない以外は水性顔料インク<A>と同様にして水性顔料インク<H>を作成した。得られた水性顔料インク中の顔料の平均粒子径は180nmであった。
【0108】
(インクジェット記録媒体<1>〜<4>)
下記の組成の塗工液を調製し、得られた塗工液をワイヤーバーを用いて、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー、東レ製)上に乾燥後の塗工厚が30μmになるように塗布した後、120℃にて5分間乾燥して、本発明及び比較用の記録媒体を調製した。
(塗工液組成、記録媒体1〜4)
無機微粒子(固形分換算値): 14部
ポリビニルアルコール(PVA−217、クラレ製): 1部
ポリビニルピロリドン(PVP−K−90、GAF製): 1部
水: 84部
(無機微粒子の種別)
記録媒体1;アルミナゾル(日産化学製)
記録媒体2;コロイダルシリカ(スノーテックスZL、日産化学製)
記録媒体3;酸化チタンゾル(多木化学製)
記録媒体4;合成シリカ(サイリシア、富士シリシア化学製)
【0109】
(インクジェット記録媒体<5>)
基材として、厚さが100μmの白色のポリエチレンテレフタレートフィルム(ルミラー399、ICI製)を用いた以外は、記録媒体1と同様にして、記録媒体5を調製した。
【0110】
上記の各記録媒体1〜5のそれぞれの空孔分布を水銀圧入ポロシメーター(ポアサイザーMIC−9130、島津製作所製)を用いて測定した。その結果を表1及び表2に示す。
【0111】
(評価試験)
上記の水性顔料インクについて、下記のインク評価試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録媒体に文字の印刷を行った。
【0112】
(目詰まり特性試験)
上記プリンタに水性顔料インクを充填し、10分間連続して英数文字を印刷した。その後、プリンターを停止し、キャップをせずに、温度40℃、湿度25%の環境下で、1週間放置した。放置後に再び英数文字を印刷し、放置前と同等の印字品質が得られるまでに要した復帰動作の回数を調べた。評価は下記の基準に従って行った。評価A、Bが可である。
評価A:0〜2回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価B:3〜5回の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られた。
評価C:6回以上の復帰動作で初期と同等の印字品質が得られなかった。
【0113】
(印字品質試験)
上記の水性顔料インク及びインクジェット記録媒体について、下記の印字品質試験を行った。その評価結果は下記の表1に示した通りであった。印刷方法は以下の通りであった。インクジェットプリンタPM−670C(セイコーエプソン株式会社製)によって、上記インクジェット記録媒体にベタ印刷を行った。
【0114】
(印字濃度)
ベタ印字部の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定した。△以上が実用的に好ましい。
◎:反射濃度値が1.5以上
○:反射濃度値が1.3以上で1.5未満
△:反射濃度値が1.0以上で1.3未満
×:反射濃度値が1.0未満
【0115】
(画像ムラ)
画像ムラは、上記プリンターを用いてベタ印字した印字物において、濃淡ムラが認められないものを「○」、印字物と眼とを50cm離した距離からの目視で確認することができるものを「×」、その中位のものを「△」とした。△以上が実用的に使用できる。
【0116】
(画像の色調及び光透過度)
上記のようにして作成された印字物を透過型オーバーヘッドプロジェクタにより投影し、各印字部の色調が明らかに変化している、あるいは投影画像が暗くなっているものを「×」、若干色調が変化している、あるいは投影画像が暗くなっているものを「△」、全く問題のないものを「○」とした。△以上が実用的に使用できる。
【0117】
(印字部の耐擦過性)
印字部を消しゴム(トンボ鉛筆 PE−01A)で押し圧50gで5往復擦り、試験前後の反射濃度をマクベス社製反射濃度計で測定して、残存率を計算した。
◎:90%以上
○:85%以上で90%未満
△:75%以上で85%未満
×:75%以下又は測定不可能で実用的に問題になるレベル。評価結果をまとめて、表1に示す。
【0118】
【表1】
【0119】
表1に明らかなように、比較例1のように、空孔ピークが180nmと大きい場合には、顔料インクのインク受理層中への沈み込みにより、印字濃度が低く、また顔料の凝集により色調のズレを生じる。比較例2のように顔料を被覆する親水性高分子の量が多いと印字濃度が出ない。更に比較例3や4のように顔料を被覆する親水性高分子の量が少ないか、高分子で被覆されない場合はインクジェット記録媒体の選択が適当でも耐擦過性が悪い。
【0120】
(水性顔料インク<I>)
キナクリドン顔料13.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−メタアクリル酸高分子化合物(酸価150)2.4部の二本ロール混練物16部を、水46部、グリセリン4部、トリエタノールアミン1.7部、メチルエチルケトン18部、イソプロピルアルコール8部の混合溶液に入れ、室温で3時間攪拌し、更に下記の条件で分散処理を行い、顔料分散液を得た。
【0121】
分散機: サンドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メデイア: ジルコニウムビーズ(1mm径)
粉砕メデイアの充填率: 50%(体積)
粉砕時間: 3時間
更に遠心分離処理(12000RPM、20分間)を行い、粗大粒子を除去した。
【0122】
得られた分散液93.7部に、攪拌しながら、グリセリン6部と水69部の混合液を毎分5mlの速度で滴下し、マゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。得られた水分散液をロータリーエバポレーターを用いてメチルエチルケトンとイソプロピルアルコール及び水の一部を留去し、最終のマゼンタ色着色高分子化合物粒子水分散液を得た。
【0123】
この水分散液に乾燥防止剤であるグリセリン3部、浸透剤であるプロピレングリコールプロピルエーテル5部を加えた後に、インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の顔料換算で、濃度が5.0質量%になるように調整したインク100部中に、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)12.5部添加し、攪拌した後、1μmフィルターを用いてろ過を行い、インクジェット用水性顔料インクとした。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の4.4%である。)
【0124】
得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径を粒度分布測定装置(島津製作所製)を用いて測定したところ、120nmであった。また、そのpHは8.4であった。
【0125】
(水性顔料インク<J>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度40℃、固形分濃度40%)とする以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<J>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0126】
(水性顔料インク<K>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料9.6部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を6.4部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<K>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は100nmであった。
【0127】
(水性顔料インク<L>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料15.2部と親水性高分子化合物としてスチレン−アクリル酸−2メチルヘキシルアクリル酸高分子化合物(酸価100)を0.8部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<L>を作成した。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は150nmであった。
【0128】
(水性顔料インク<M>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)1.25部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<M>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の0.5%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0129】
(水性顔料インク<N>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、平均粒子径23nm、固形分濃度40%)33.0部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<N>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約9.8%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0130】
(水性顔料インク<O>)
水性顔料インク<I>において、樹脂エマルジョン粒子としてスチレンアクリル酸共重合体エマルジョン(最低成膜温度10℃、固形分濃度40%)35.0部用いる以外は水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<O>を作成した。(樹脂エマルジョン粒子の含有量はインク全質量の約10.4%である)。得られた水性顔料インク中の親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0131】
(水性顔料インク<P>)
水性顔料インク<I>において、キナクリドン顔料16.0部で親水性高分子化合物を含まない以外は、水性顔料インク<I>と同様にして水性顔料インク<P>を作成した。得られた水性顔料インク中の顔料の平均粒子径は120nmであった。
【0132】
【表2】
【0133】
表2に明らかなように、比較例7のように樹脂エマルジョン粒子の全インク中の含有量が多いと、やはりノズル目詰まりを起こしやすい。また印字濃度も出にくい傾向がある。比較例8のようにインク中の顔料が親水性高分子化合物で被覆されないと印字部の耐擦過性に劣る。比較例9はインクジェット記録媒体に関するものであり、水性顔料インクが適当に選択されていても、インク受理層の空孔ピークが顔料インクの粒径に対して大きいと印字濃度が低く、色調のズレも大きいと云う結果を招く。
【0134】
【発明の効果】
本発明によると、空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上とすることで、経時分散安定性に優れ、かつ印字濃度と画像鮮明性に優れ、更に耐擦過性にも優れるという格別顕著な技術的効果を奏する。又水性顔料インク中に樹脂エマルジョン粒子を、インク全質量の0.5〜10質量%の範囲で含有させる事で、更に耐擦過性を改良出来る。
Claims (6)
- 空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料を水性媒体中に含むインクにおいて、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であり、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上であることを特徴とするインクジェット用水性顔料インク。
- 親水性高分子化合物の酸価が60〜200である請求項1記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 空孔分布曲線の最大ピークが100nm未満であるインク受理層を有するインクジェット記録媒体に対して印字する為の親水性高分子化合物で被覆した顔料及び樹脂エマルジョン粒子を水性媒体中に含むインクにおいて、樹脂エマルジョン粒子の含有量がインク全質量の0.5〜10質量%の範囲にあり、顔料(A)と親水性高分子化合物(B)の割合(A/B)が、固形分の質量比でA/B=60/40〜95/5であって、且つ親水性高分子化合物で被覆した顔料の平均粒子径が100nm以上であることを特徴とするインクジェット用水性顔料インク。
- 樹脂エマルジョン粒子の最低成膜温度が30℃以下である請求項3記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 親水性高分子化合物の酸価が60〜200である請求項3又は4記載のインクジェット用水性顔料インク。
- 該インクジェット記録媒体が透光性であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載のインクジェット用水性顔料インク。
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