JP2004011538A - 吸収溶液ポンプ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】回転軸(13)にスリーブ(16A)が固着された箇所で当該回転軸(13)を軸支するベアリング(1、1)の内周面(6)に、回転軸(13)と概略平行な(回転軸(13)に対する傾斜が、例えば±10°の範囲内であるような)方向に延在する潤滑液用溝(4A、4B、4C)が形成されている。
【選択図】図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸収式冷凍機で吸収溶液を循環するために用いられる吸収溶液ポンプの改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
図8は、主として本発明の吸収溶液ポンプを使用する吸収式冷凍機のブロック構成を示している。
【0003】
再生器Geと凝縮器Cnと蒸発器Evと吸収器Abとを主要機器として構成される公知の吸収式冷凍機Raにおいて、再生器GeでバーナBによって加熱され冷媒を蒸発分離された濃縮臭化リチウム溶液が吸収器Abに至り、蒸発器Evからの冷媒水蒸気を吸収して希溶液となるよう構成されている。
【0004】
吸収器Abで冷媒を吸収して希溶液となった臭化リチウム溶液は、希溶液ラインLに介装された吸収溶液ポンプPaによって再生器Geに循環させられる。
【0005】
図9は、上記のような吸収式冷凍機Raにあって、再生器Geと吸収器Ab間で臭化リチウム水溶液を循環させる吸収溶液ポンプPaを示している。
吸収溶液ポンプPaは、モータ部Mで駆動される回転軸13は、モータMを挟む様に配置されたベアリング21、21で軸支されている。ここで、ベアリング21、21で軸支される回転軸13の部分には、スリーブ16が一体的に嵌装・固着されている。回転軸13には、インペラImが片持ちされている。
吸収溶液ポンプPaは、係る構成の遠心型キャンドポンプである。
【0006】
吸収溶液ポンプPaの耐用寿命は一般に、20,000〜25,000時間で、その耐用時間はベアリング21、21の耐用寿命で支配されている。耐用寿命を低下させる因子は、通常の摩耗や、吸収式冷凍機内部の腐食によって発生する微細な腐食生成物の噛み込み等がある。
【0007】
吸収溶液ポンプPaの耐用寿命は、吸収式冷凍機Raの耐用寿命に及ばないのが現状であって、吸収溶液ポンプPaの故障あるいは予防保全のために吸収式冷凍機Raを停止させて吸収溶液ポンプPaを交換することが必至となっている。
【0008】
図10〜図12はベアリング21を示していて、フラン樹脂含浸カーボンで形成され、軸13に固着されたメトコ16C溶射ステンレス316材のスリーブ16を介して軸13を支持するよう構成されている。
【0009】
斜視で示す図10及びその軸方向断面を示す図11、軸13とスリーブ16を含めた正面を示す図12において、円筒状のベアリング21は内周面26に複数の、例えば4条のスパイラル状の潤滑液用溝24a、24b、24c、24d(24で総称)が設けられている。潤滑液用溝24は、前後の側端面27、27間に連通していて、潤滑液が内周面26の半径方向および軸方向の全域にいきわたるよう配設されている。
【0010】
図12は、ベアリング21と潤滑液用溝24との関係を示している。回転軸13に固着されたスリーブ16が、ベアリング21の内周面26で軸支されていて、内周面26とスリーブ16の外周面16aとの間の隙間Sdに存在する潤滑液の液膜で内周面26と外周面16aとのすべりを保証している。
【0011】
しかしながら、スリーブ16にかかるポンプ送液による負荷によっては液膜を保証する隙間Sdが、図12のように、スリーブ軸心の偏心によって隙間Smのよう減少してこの部分の液膜圧を上昇させ、たとえば潤滑液用溝24cに押し込むことになる。
スリーブ軸心の荷重部位に対して、潤滑液用溝24は必ず交差するため、隙間Smの発生位置の近傍にある潤滑液用溝24は常時、液膜圧を低下する様に作用する。
【0012】
即ち、潤滑液用溝24cに押し込まれた高圧の潤滑液は、両側端面27に通じるスパイラル状の潤滑液用溝24cを介してベアリング21の両側端部27、27(図10参照)から外部へ逃げて、隙間Sm近傍の液膜圧を低下させて液膜切れを助長することになる。
【0013】
このように、スパイラル状の潤滑液用溝24により、スリーブ16とベアリング内周面26との間の高圧局部で液膜切れが起こり、スリーブ外周面16aとベアリング内周面26との間に固体摩擦による摩耗あるいは損傷を引き起こしている。
【0014】
ベアリング21の短寿命あるいは故障によって吸収溶液ポンプPaの交換作業を行う場合、一般に吸収溶液ポンプPaが設けられている配設位置が低位置のため、吸収式冷凍機Ra内の吸収溶液全量を抜き取る必要があり、また、作業が容易でなく工事費用が嵩むという問題がある。
【0015】
さらに吸収式冷凍機Raの循環液の大気開放により内部装置の腐食進行を促進させ吸収式冷凍機Ra全体の耐久性を損なう問題がある。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述した従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、潤滑液がベアリング外に漏出して液量が減少することを防止することが出来る様な吸収式冷凍機の吸収溶液ポンプを提供することを目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の吸収溶液ポンプは、回転軸(13)にスリーブ(16A)が固着された箇所で当該回転軸(13)を軸支するベアリング(1、1)の内周面(6)に、回転軸(13)と概略平行な(回転軸(13)に対する傾斜が、例えば±10°の範囲内であるような)方向に延在する潤滑液用溝(4)が形成されている(請求項1)。
【0018】
係る構成を具備する本発明によれば、回転軸と概略平行な潤滑液用溝を荷重位置を避けて配置することが出来る。従来のスパイラル状の溝の場合のように、潤滑液用溝は常時その一部に対してスリーブが押し付けられてはいない。そのため、溝に対してスリーブが常時、或いは連続的に押し付けられる従来技術に比較して、潤滑液が溝を介して逃げる量が減少する。
【0019】
しかも、溝の周方向には、潤滑液は逃げないので液膜が保証されるので、潤滑液の液量の減少が防止され、液膜厚が保証されて所謂「液切れ」も防止される。
【0020】
ここで、本発明における潤滑液用溝は、その延在する方向が回転軸の軸方向に対して、完全に平行である必要は無く、±10°程度の範囲であれば、平行に含めてよい。
【0021】
また、本発明の吸収溶液ポンプは、ベアリングの材質はアンチモン含浸カーボン(ロックウェル硬度HRc=65)或いはフェノール樹脂含浸カーボン(ロックウェル硬度HRc=70)であり、スリーブの材質はタングステン溶射ステンレス(例えば、タングステンカーバイト溶射SUS316、HRC=70)であることを特徴としている(請求項2)。
【0022】
従来の技術では、ベアリングの材質はフラン樹脂含浸カーボン(HRc硬度=56)であり、スリーブの材質はメトコ16C溶射ステンレス316(HRc硬度=60)で、材質硬度は高くなく、ベアリングとスリーブとの耐磨耗性から、吸収溶液ポンプの寿命を吸収式冷凍機の寿命よりも長くすることは、従来技術では困難であった。
【0023】
これに対して、上述した構成を具備する本発明の吸収溶液ポンプであれば、スリーブ及びベアリングについては耐摩耗性の良好な材料を採用することにより、吸収溶液ポンプの寿命を長くして、ポンプ交換までの時間を吸収式冷凍機の寿命と同等にすることが可能となった。
【0024】
ここで、ベアリングとスリーブとの材料の硬度の差が大き過ぎると、硬い方が柔らかい方を削って、より摩耗し易くなるので両者の硬度の差は小さい方がベアリング面の寿命延長にとっては良い。
上述したベアリングとスリーブの材料は、吸収溶液ポンプの交換が不要となるため、ライフサイクルコスト面でメリットがある。
さらに、本発明の吸収溶液ポンプは、回転軸(13)にスリーブ(16A)が固着された箇所で当該回転軸(13)を軸支するベアリング(1、1)の内周面(6)に、回転軸(13)と概略平行な(回転軸(13)に対する傾斜が、例えば±10°の範囲内であるような)方向に延在する潤滑液用溝(4)が形成されており、前記ベアリングの材質はアンチモン含浸カーボン(ロックウェル硬度HRc=65)或いはフェノール樹脂含浸カーボン(ロックウェル硬度HRc=70)であり、前記スリーブの材質はタングステン溶射ステンレス(例えば、タングステンカーバイト溶射SUS316、HRC=70)であることを特徴としている(請求項3)。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1〜図4は、図9で説明した吸収溶液ポンプPaの従来のベアリング21に相当するベアリング1であって、円筒状の内、外径及び軸方向長さは前記ベアリング21と同じである。
【0026】
本発明の要旨は、回転軸13にスリーブが固着された箇所でその回転軸13を軸支するベアリング1と、図9における従来のスリーブ16に相当するスリーブ16Aに関するものである。本発明には、材質は従来と同様ではあるが、その形状を変更したものと、形状は従来と同様で、材質だけを変更したものとが存在する。但し、形状及び材質を変更したものも、本発明の対象となる。
【0027】
図9で示された回転軸13に固着されたスリーブ16Aを軸支するベアリング1の斜視を示す図1、その側面を示す図2及び図2のX矢視を示す図3において、ベアリング1は、両側端面7、7間に内孔の内周面6を有する円筒状のベアリング体2で構成されている。実施例におけるベアリング体2の外径Dは48mmであり、内周面6の径は28mmである。
【0028】
内周面6に、図においては、並行する3条の潤滑液用溝4A、4B、4C(4で総称する)が、例えば図6で示す様に、回転軸13の軸心に概略並行に延在して両側端面7、7間に連通して形成されている。潤滑液用溝4の軸心に対する平行度は厳密の必要はなく、例えば±10度程度であってもよい。
【0029】
潤滑液用溝4は、図1においては半径方向外方に突起して形成された3角形状であるが、図3及び図4に示す半円形状であってもよい。
【0030】
図3及び図4に示す潤滑液用溝4は、局部Aを拡大表示した図4に示すように、半径方向外方に半円形に突起して形成されている。図示の潤滑液用溝4の例では、突起端部4bは半円の溝形状で、内周面6に接続する部分4aは平行に形成されていて、突起端部4bの半径Rは2.4mm、接続する部分4aの高さは0.5mmである。
潤滑液用溝4は、回転軸13の荷重が負荷される領域を避ける様に配置されている。
【0031】
潤滑液用溝4の形状は、全て(の潤滑液用溝4)が同一形状でなくてもよく、ベアリング1にかかる負荷の傾向に応じて溝深さ、幅等の形状をかえてもよい。
【0032】
ベアリング1の材質は、アンチモン含浸カーボン(HRc硬度=65)或いはフェノール樹脂含浸カーボン(HRc硬度=70)であり、スリーブ16Aの材質はタングステン溶射ステンレス(HRc硬度=70)である。
本吸収溶液ポンプに使用するベアリング面の硬度差は、少ないことがよい。
【0033】
図5を参照して、上記のベアリング1に対して吸収溶液ポンプPaが運転されると、トルク変動を伴う送液力を含む外力によって軸13及びスリーブ16Aはベアリング内孔の内周面6に対して偏心して回転する。偏心方向が図5のように下方に指向した場合には、最小の回転隙間Qmでは潤滑液の圧力が最高圧の液膜になって軸13及びスリーブ16Aを支持する。
【0034】
最小の回転隙間Qmは、回転軸13の荷重が作用する位置、図5では真下の位置となる。そして、潤滑液用溝4A、4B、4Cは、係る位置(最小の回転隙間Qmの位置:回転軸13の荷重が作用する位置:図5では真下の位置)を避けて配置されている。そのため、溝に対してスリーブが常時、或いは連続的に押し付けられる従来のスパイラル状溝の技術に比較して、潤滑液が潤滑液用溝4A、4B、4Cを介して逃げる量が減少する。
しかも、潤滑液用溝4A、4B、4Cの周方向には、潤滑液は逃げないので液膜が保証され、液膜厚が保証されて、所謂「液切れ」も防止される。
【0035】
そして、潤滑液用溝4A、4B、4Cへ高い圧力が掛からないので、液膜圧が潤滑液用溝4A、4B、4Cを介して、ベアリング端面17、17に圧力伝播して外部にいたる可能性は極めて少ない。
【0036】
図示の実施形態では上記のように作用するので、従来のベアリングの欠点、すなわち、円周方向の全域に連通したスパイラル状溝を介して最高圧液膜の圧力を常時ベアリング外部に連通させて液膜圧を低下させてしまう欠点が解消される。
【0037】
前記の構成諸元によるベアリング1とスリーブ16Aを装着した吸収溶液ポンプPaでは、耐用時間が60000時間を越えることがわかった。この耐用時間の延長によって吸収式冷凍機の通常最大積算運転時間の60000時間を、吸収溶液ポンプPaの交換なしで運転できることになった。
【0038】
本発明において、ベアリング1とスリーブ16Aを上述した様な材料で構成した場合と、従来のポンプとを、起動発停を繰り返す耐久試験を実施した場合における摩耗量(摩耗体積)により、比較して示すのが、図7である。
図7において、「従来例」として示す吸収溶液ポンプでは、ベアリングはフラン樹脂含浸カーボン(HRC=56)で、スリーブ及びスラストはメトコ16C溶射SUS(HRC=60)である。
これに対して、本発明を適用した「実施例1」では、ベアリングはアンチモン含浸カーボン(HRC=65)で、スリーブ及びスラストはタングステンカーバイト溶射SUS316(HRC=70)である。
また、「実施例2」では、ベアリングはフェノール樹脂含浸カーボン(HRC=70)で、スリーブ及びスラストはタングステンカーバイト溶射SUS316(HRC=70)である。
【0039】
従来例の摩耗体積が99.26mm3であるのに対して、実施例1の摩耗体積は45.95mm3であり、実施例3の摩耗体積は30.77mm3である。
同一の条件では、本発明の実施例1、2の方が摩耗量が小さく、耐摩耗性が向上していることが明らかである。
【0040】
図示の実施形態はあくまでも例示であって本発明の技術的範囲を限定するものではない。例えば、潤滑液用溝4の形状は角溝でもよく、溝の条数は多数でも少数でもよい。
【0041】
【発明の効果】
本発明の作用効果を、以下に列挙する。
(1) 本発明の吸収溶液ポンプによれば、ベアリングの潤滑液用溝が回転軸と平行な方向に延在するので、スリーブとベアリング間が押しつけられて液膜が高圧になってもベアリング外部に液膜圧が逃げにくくなって、液膜切れによるベアリング損傷を防止できる。
(2) ベアリングの材質をアンチモン含浸カーボン或いはフェノール樹脂含浸カーボンとし、スリーブの材質をタングステン溶射ステンレスにすることで耐摩耗性がよくなり、寿命が延長された。
(3) 上記の吸収溶液ポンプの寿命延長によって、従来は吸収式冷凍機の寿命限度内でやむを得ず吸収溶液ポンプを交換していたことが不要になり、吸収式冷凍機の耐用時間を超えて運転できるようになり、吸収溶液ポンプの交換作業と費用が省けるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の吸収溶液ポンプのベアリングを示す斜視図。
【図2】図1のベアリングの側面図。
【図3】図2のX矢視図。
【図4】図3のA部拡大図。
【図5】スリーブとベアリングの潤滑液用溝との関係を示す説明図。
【図6】ベアリング内周面を図5のY−Y線で破断して展開した状態で示す図。
【図7】本発明の作用効果を対照表として示す図。
【図8】本発明の吸収溶液ポンプが使用される吸収式冷凍機のブロック構成図。
【図9】吸収溶液ポンプの側断面構成図。
【図10】従来のベアリングの斜視図。
【図11】図10を1部破断して示す側断面図。
【図12】従来のスリーブとベアリングの潤滑液用溝との関係を示す説明図。
【符号の説明】
Pa・・吸収溶液ポンプ
1・・・ベアリング
4(4A、4B、4C)・・潤滑液用溝
6・・・内周面
7・・・側端面
13・・回転軸
16A・・スリーブ
Claims (3)
- 回転軸にスリーブが固着された箇所で当該回転軸を軸支するベアリングの内周面に、回転軸と概略平行な方向に延在する潤滑液用溝が形成されていることを特徴とする吸収溶液ポンプ。
- ベアリングの材質はアンチモン含浸カーボン或いはフェノール樹脂含浸カーボンであり、スリーブの材質はタングステン溶射ステンレスであることを特徴とする吸収溶液ポンプ。
- 回転軸にスリーブが固着された箇所で当該回転軸を軸支するベアリングの内周面に、回転軸と概略平行な方向に延在する潤滑液用溝が形成されており、前記ベアリングの材質はアンチモン含浸カーボン或いはフェノール樹脂含浸カーボンであり、前記スリーブの材質はタングステン溶射ステンレスであることを特徴とする吸収溶液ポンプ。
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