JP2004010995A - 剥離方法および剥離装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】線材の表面に付着または形成される酸化皮膜その他各種の物質を、塩酸等の有害化学物質を使用する必要なく除去することができ、それにより線材表面の酸化皮膜等除去のための特別な溶液供給や、使用済み物質の処理等の必要を無くして線材剥離加工に伴うコストの低減、さらに大気中への有害物質の放出等による環境面の問題も皆無とすることができる皮膜等の剥離方法およびそれに使用する剥離装置を提供する。
【解決手段】金属または非金属からなる線状物質3の表面に液体を介在させて振動体2を近接配置し、振動体2を高周波振動させることによって発生するキャビテーション作用により、線状物質3の表面に付着または形成された物質を剥離する。
【選択図】 図1

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば鋼線、非鉄金属線材、非金属線材等の各種線状物質の表面からスケールその他の物質を除去するための剥離方法および剥離装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば鋼線等にメッキ被覆加工等を施す線材メーカーにおいては、材料となる鋼材を鉄鋼メーカーから購入し、ダイスと呼ばれる孔が開いた各種の型を順次に使用して所要の線径に加工した後、メッキなどの処理を施すのが一般的である。
【0003】
すなわち、ダイスの孔径は材料径よりも小径であり、この小径の孔に材料を強制的に押し込んで加工する。大径の材料から小径の線材に加工するには、孔径の異なる多種類のダイスを使用する必要がある。ダイスを多数使用すると、線材の表面に繰り返し圧縮応力が加わり、材料の表面が加工硬化を起こし、脆性が増大してゆく。
【0004】
このため、ダイス加工の最終工程では、線材を一旦加熱炉に入れて焼鈍等の熱処理を行い、線材の表面に発生した加工硬化を除去する手法が用いられている。この場合、一旦加熱された線材の表面には、大気中での酸化反応により、酸化被膜が形成される。
【0005】
メッキなどの処理を線材に施す場合には、線材の表面に酸化被膜が付着しているとメッキの剥離の原因になるため、この酸化被膜を塩酸の浴槽にて溶融除去するのが一般的である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した塩酸の浴槽を使用する場合には、線材の予熱により塩酸が蒸気となって大気中に飛散するため、浴槽をカバーによって被覆したり、発生した塩酸蒸気を中和する中和設備を設ける等、塩酸によって外部環境に与えられる被害を最小限に留めるために大規模な設備を必要とする。
【0007】
また、塩酸は、線材表面の酸化皮膜を溶かしていくと次第に濃度が薄まるため、新たな塩酸の液補充を必要とする一方、使用済みの塩酸液は廃却処理する必要があり、これらのコストや環境面に対する影響等が大きな課題となる。
【0008】
なお、近年では非鉄金属の線材、あるいは非金属の線状物質、例えばカーボン繊維、プラスチック繊維等の多くの線状物質が開発されており、それらの各加工段階における表面処理についても種々の剥離剤等が必要とされ、それらの場合にも上記同様の課題が発生している。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、線材の表面に付着または形成される酸化皮膜その他各種の物質を、塩酸等の有害化学物質を使用する必要なく除去することができ、それにより線材表面の酸化皮膜等除去のための特別な溶液供給や、使用済み物質の処理等の必要を無くして線材剥離加工に伴うコストの低減、さらに大気中への有害物質の放出等による環境面の問題も皆無とすることができる皮膜等の剥離方法およびそれに使用する剥離装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
発明者においては、線状物質の無害な表面剥離技術について種々検討を行なった結果、清水等の液体を用いた振動作用によって当該剥離が達成できることを見出した。すなわち、振動体を液体中で、または液体に接している状態で高周波振動させると、その振動体が液体に対して負圧を与える方向に移動する際に、瞬間的にキャビテーション気泡と呼ばれる気泡が発生する。次に、振動体が瞬間的に液体の加圧方向へ移動すると、先に発生したキャビテーション気泡は、瞬間的に崩壊する。この気泡の崩壊に伴い、数百Mpaもある大きな衝撃波が発生し、周囲に伝達される。
【0011】
キャビテーション気泡の崩壊時に発生する衝撃波は大きな値を示すが、発生するエネルギ量がそれほど大きくないため、大きな空間部では衝撃波の減衰が生じる。しかし、振動体の振動方向に沿う領域を例えば数mm以下の狭い領域とした場合には、衝撃波があまり大きな減衰をせず、その領域を画成する反対側の面に到達する。このような狭い領域で振動体を継続して高周波振動させると、発生した衝撃波が衝撃波反射波となって狭い領域に閉じこめられる。
【0012】
この時、上記キャビテーション発生領域内に線状物質を配置しておくと、衝撃波は線状物質の表層部分に衝撃的に作用し、ショットブラストによる剥離作用と同様な剥離作用を及ぼすことが見出された。
【0013】
すなわち、発明者において種々の実験の結果、上述した鋼線材表面の酸化被膜の如く、線状物質の表面に付着または形成されている物質に対し、清水等の無害な液体中において前記キャビテーション作用を付与することにより、これらを剥離できるとの確信が得られた。
【0014】
本発明は以上の点に着目してなされたものであり、請求項1に係る発明では、金属または非金属からなる線状物質の表面に液体を介在させて振動体を近接配置し、前記振動体を高周波振動させることによって発生するキャビテーション作用により、前記線状物質の表面に付着または形成された物質を剥離することを特徴とする剥離方法を提供する。
【0015】
ここで、液体としては、清水等の無害な液体のほか、各種コロイド溶液、あるいは湿り蒸気等も適用することができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、請求項1記載の剥離方法において、前記液体中にてキャビテーション気泡の連続的な生成と崩壊とを繰返させ、そのキャビテーション気泡の崩壊時に発生する衝撃波を前記線状物質の表面に連続的に与えることにより、前記線状物質の表面の剥離を行なうことを特徴とする剥離方法を提供する。
【0017】
請求項3に係る発明では、請求項1記載の剥離方法において、キャビテーション気泡の崩壊時に発生する衝撃波を狭隘な空間部内で反射させ、この反射波を前記衝撃波とともに前記線状物質に作用させることにより、前記線状物質の表面の剥離を行なうことを特徴とする剥離方法を提供する。
【0018】
請求項4に係る発明では、請求項1記載の剥離方法において、前記液体に与える高周波振動を超音波領域の振動とすることを特徴とする剥離方法を提供する。
【0019】
請求項5に係る発明では、請求項1から4までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体の表面と前記線状物質の表面との間隙値を10mm以下にすることを特徴とする剥離方法を提供する。特に望ましい間隙値は、液体として清水を適用する場合、数mm以下である。
【0020】
請求項6に係る発明では、高周波電源およびこの電源により駆動される振動子を有する高周波振動発生装置と、前記振動子と一体もしくはこれに連結された振動体と、この振動体の表面に対して平行に配された金属または非金属からなる線状物質と、前記振動体と前記線状物質との間隙に液体を保持させる液体保持装置とを備え、前記振動体の高周波振動により前記液体にキャビテーションを発生させて前記線状物質の表面に付着または形成された物質を剥離可能としたことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0021】
請求項7に係る発明では、請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は筒型形状であり、その内周側の空間に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0022】
請求項8に係る発明では、請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は平板形状であり、その一側面側に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0023】
請求項9に係る発明では、請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は割筒形状であり、その凹面側の空間に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0024】
請求項10に係る発明では、請求項8または9記載の剥離装置において、前記線状物質を前記振動体の反対側から挟む配置で、キャビテーションによる衝撃波を反射させる反射体を設けたことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0025】
請求項11に係る発明では、請求項6から10までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体または反射体にキャビテーション発生部分から前記液体を異なる部位に吸引する吸引手段を設けたことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0026】
請求項12に係る発明では、請求項6から11までのいずれかに記載の剥離装置において、前記線状体の長さ方向に沿って複数の振動体をそれぞれ振動方向を異ならせて配置し、前記線状物質をその長さ方向に移動させて表面剥離を行なわせる構成としたことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0027】
請求項13に係る発明では、請求項6から12までのいずれかに記載の剥離装置において、前記高周波振動発生装置の振動子は、圧電型セラミックス、磁歪材料または超磁歪材料により構成されていることを特徴とする剥離装置を提供する。
【0028】
請求項14に係る発明では、請求項6から13までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体もしくは反射体の表面と前記線状物質の表面との間隙値を10mm以下にしたことを特徴とする剥離装置を提供する。
【0029】
請求項15に係る発明では、請求項6から14までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動子、振動体および反射体は、少なくとも前記液体との接液部に、キャビテーション気泡に壊触されにくい高硬度の材料を適用して構成されていることを特徴とする剥離装置を提供する。
【0030】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態においては、一例として、剥離作用を施す線状物質として、例えばダイス加工後の鋼線材を適用し、その線材の表面から酸化皮膜を剥離するための剥離装置および同装置を使用した剥離方法について説明する。ただし、これに限らず、各種線状物質の表面に形成または付着される各種物質の剥離に適用できることは勿論である。
【0031】
第1実施形態(図1〜図3)
図1は、本発明に係る剥離装置の第1実施形態を示す基本構成図であり、図2は図1のA−A線断面図である。図3は、剥離作用を説明するための概念図であり、図1のB部を拡大して示している。
【0032】
図1および図2に示すように、この剥離装置は、高周波振動を発生させる高周波振動発生装置1と、この高周波振動発生装置1に連結されて高周波振動をする例えば水平に配置された円筒型の振動体2と、この振動体2をその軸心位置が剥離処理対象となる線材3の中心線と一致する位置に配置する支持装置4と、少なくとも振動体2と線材3との対向隙間の全体を液体、例えば清水5によって浸漬する液体保持装置としての水槽6とを備えている。
【0033】
高周波振動発生装置1は、商用電源(AC100V)に接続された高周波電源装置7と、この高周波電源装置7に電源ケーブル8を介して接続された振動子9とを備え、振動子9は例えば超音波領域の振動を行なう構成とされている。この振動子9は、例えばブロック状のもので、圧電型セラミックス、磁歪材料または超磁歪材料によって構成されており、その振動方向は上下方向(矢印a方向)に設定されている。この振動子9が、支持アーム10を介して基台等の静止部11に吊下げ状態で強固に支持されている。
【0034】
そして、振動子9の下面側には、円筒型の振動体2の外周面が連結されている。この円筒型の振動体2は、その軸心が略水平となる向きで水槽6内に配置され、水槽6内に収容された清水5に例えば略全体的に浸漬された状態となっている。なお、振動子9の下部の一部も清水5に浸る状態となっている。これらの振動子9および振動体2の清水5との接液部、例えば振動子9の全体および振動子2の下部は、高硬度の材料、例えば超合金である炭化タングステン、あるいは硬化セラミックス等を適用して構成され、これにより後述するキャビテーション気泡に壊触されにくいものとされている。
【0035】
線材3は、上述したようにダイス加工後の鋼線であり、その表面には酸化被膜3aが形成されている。この線材3は円筒型の振動体2の軸心位置に水平に挿通され、図示しない送りローラ等の搬送手段によって長さ方向(矢印b方向)に連続的に移動されるようになっている。そして線材3と、この線材3が挿通されている筒型の振動体2の内周面との間には周囲の全体に亘り、径方向に沿って10mm以下、望ましくは0.1〜数mmの間隔(ギャップ)δが設定されている。
【0036】
このような構成の高周波振動発生装置において、高周波電源装置7から振動子9に高周波電流が供給されると、この電流によって振動子9が上下方向に超音波領域で高周波振動する。そして、この振動子9の振動は、その下端に接している筒型の振動体2に伝達され、振動体2は常時、振動子9の振動に追随した同量の上下振動を行う。
【0037】
図3は図1のB部を拡大して、振動体2の下部と線材3の下面側との間隙部に発生するキャビテーション現象を示している。すなわち、清水5中に発生する気泡の発生と崩壊とにより、線材3の表面から酸化被膜3aが除去される様子を模式的に示している。
【0038】
今、振動子1が高周波で振動すると、振動子1の振動が剥離用筒としての振動体2に伝達される。振動体2が高周波で振動をすると、線材3との間隙部にキャビテーションと呼ばれる泡の発生と崩壊が繰り返して発生するキャビテーション発生部2aが形成される。キャビテーション発生部2aでは、局所的に大きな衝撃波が連続で形成される。この衝撃波発生のメカニズムを、図3に模式的に表している。
【0039】
図3に示すように、キャビテーション発生部2aでは、振動体2の振動により、この振動体2が瞬間的に下方に移動すると、キャビテーション発生部2aの狭隘な領域は瞬間的に負圧となり、それにより気泡(以下、「キャビテーション気泡」という)12が発生する。次に、振動体2が瞬間的に上方へ移動すると、先に発生したキャビテーション気泡には、瞬間的に崩壊する。このキャビテーション気泡12の崩壊に伴って、数百Mpaもある大きな衝撃波13が発生し、周囲に伝達される。このキャビテーション気泡12の崩壊時に発生する衝撃波13は大きな値を示すが、発生するエネルギ量がそれほど大きくないために大きな空間部では衝撃波13の減衰が生ずる。しかし、振動体2と線材3との間隙値(ギャップδ)を数mm以下に保つと、衝撃波13はあまり大きな減衰をしなくて、反対側の面に到達する。振動体2を高周波で振動させると、発生した衝撃波13が衝撃波反射波14となって狭い領域に閉じこめることが可能となる。
【0040】
この時、衝撃波13は、線材3の酸化皮膜3aに衝撃的に作用し、ショットブラストブラストなどの剥離作用と同様な剥離作用を線材3の表面の酸化皮膜3aに及ぼす。線材3が図3の右側から左側の方向(矢印a方向)へ移動すると、線材3の酸化皮膜3aは、図1に示したように、剥離した酸化皮膜3bとなって筒型形状の振動体2の内部から水槽6の下方へと排出される。なお、図2に示したように、キャビテーション発生部2aは、振動子1の振動方向aに相対する方向に集中的に発生する。
【0041】
以上のように、振動体2が高周波で振動することにより、キャビテーション気泡12の発生が多くなり、発生する衝撃波の密度も高めることができる。なお、振動体2の表面にも被改質材3の表面3aと同じく高衝撃波が発生するが、超硬合金である炭化タングステンや硬質セラミックスなどの材料を使用することにより、高衝撃波による材料の壊触を防止することができる。
【0042】
このようなキャビテーションによる剥離作用を、実験結果に基づいて説明する。
【0043】
図4は、本発明の効果を示す実施例に基づく酸化皮膜剥離量の特性図であり、たて軸に酸化皮膜剥離量、よこ軸にギャップ値を示している。
【0044】
実験は、振動子と線材のギャップ値を変化させた場合に1分間当りで酸化皮膜が剥離する量を電子天びんはかりにて測定したものである。
【0045】
図4に示すように、本実施形態では、ギャップ値が0.3〜1mmでは、約30g/分の酸化皮膜が線材3より剥離することが確認された。ギャップ値が10mm程度までは、酸化皮膜の剥離効果があるのが認められた。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、線材3と高周波で振動する振動体2とを清水5に浸漬した状態で、線材3の表面の酸化被膜3aにキャビテーション気泡12の生成と崩壊とを繰り返して作用させ、それによりキャビテーション気泡12の崩壊時に発生する衝撃波を線材3の表面の酸化被膜3aに作用させ、この酸化被膜3aを剥離除去することができる。
【0047】
したがって、線材3の表面に付着または形成される酸化皮膜3aその他各種の物質を、塩酸等の有害化学物質を使用する必要なく除去することができ、それにより線材3の表面の酸化皮膜等除去のための特別な溶液供給や、使用済み物質の処理等の必要を無くして、線材剥離加工に伴うコストの低減、さらに大気中への有害物質の放出等による環境面の問題も皆無とすることができる。
【0048】
第2実施形態(図5)
図5は、本発明の第2実施形態を示す要部説明図である。
【0049】
この図5に示すように、本実施形態では振動体2が筒型ではなく、水平な平板形状をなし、その一側面(下面)側に線材3を配した構成となっている。また、線材3を振動体2の反対側(下側)から挟む配置で、キャビテーションによる衝撃波を反射させる固定型の反射体15が設けられている。その他の構成については、第1実施形態と略同様であるから、説明を省略する。
【0050】
本実施形態においては、キャビテーション発生部2aが振動体2の下面と線材3の上面との間隙に主として形成される。また、振動体2の振動は清水5を介して下方にも伝達され、線材3の下面と反射体15の上面との間隙においてもキャビテーション発生部2aが形成される。
【0051】
このような構成の本実施形態においても、第1実施形態と同様の剥離効果が得られるとともに、線材3の左右方向の両側が開放状態となっているため、剥離した酸化皮膜3bが大きな場合でも、間隙部に目詰まりを生じることを防ぐ効果が大きい。また、線材3を装置にセットする場合には、両側が開放状態になっていると、人の手などが入り易いため、セットに要する時間を短縮できる利点がある。また、振動体2と固定型の反射体15とが上下に分割されているため、平板型の振動体2のみを加振すればよく、それだけ振動体2の軽量化が図れ、振動子9の駆動力が小さくて済む利点がある。
【0052】
第3実施形態(図6)
図6は、本発明の第3実施形態を示す要部説明図である。
【0053】
この図5に示すように、本実施形態では第1実施形態と第2実施形態の双方の構成を取り入れて実施した場合についてのものである。
【0054】
すなわち、図6に示すように、振動体2は水平な割筒形状のものであり、この振動体2の下面中央部には半円弧状の凹面部16が形成されるとともに、その両側には平旦な下面17が形成されている。これにより振動体2は線材3の中央部分を除く上側半分を覆う状態となっている。
【0055】
一方、線材3を振動体2の反対側(下側)から挟む配置で、キャビテーションによる衝撃波を反射させる固定型の反射体15が設けられている。この反射体15は、振動体2を天地逆にした状態の対称形状を有し、この反射体15の上面中央部には半円弧状の凹面部18が形成されるとともに、その両側には平旦な上面19が形成されている。これにより、反射体15は、線材3の中央部分を除く下側半分を覆う状態となっている。その他の構成については、第1、第2実施形態と略同様であるから、説明を省略する。
【0056】
このような構成の本実施形態においても、第1実施形態と同様の剥離効果が得られるとともに、線材3の剥離した酸化皮膜3bは振動体2の下面と反射体15との隙間20から側方に排出されるため、第2実施形態と同様の利点も得られる。さらに、本実施形態の場合には、振動体2の凹面部16によって線材3を円弧状に覆っているため、キャビテーションの発生領域が第2実施形態の平板型振動体2を用いるものと比較して広くなり、それだけ剥離機能が高まる利点がある。
【0057】
さらに、本実施形態においても、振動体2と固定型の反射体15とが上下に分割されているため、割筒型の振動体2のみを加振すればよく、それだけ振動体2の軽量化が図れ、振動子9の駆動力が小さくて済む利点がある。
【0058】
第4実施形態(図7)
本発明の第4実施形態は、振動体2または反射体15にキャビテーション発生部分から清水5を異なる部位に吸引する吸引手段を設け、振動体2または反射体15の内面と線材3との間隙部に剥離後の酸化皮膜が目詰まりすることを防止できる構成としたものである。
【0059】
図7は、本実施形態の一例として、前述した第1実施形態の振動体2に吸引手段を設けた構成を示す説明図である。なお、第1実施形態で説明した構成部分については、図7に図1と同一の符号を付して説明を省略する。
【0060】
この図7に示すように、本実施形態では、筒型形状の振動体2の下側壁部分に内外周面を貫通する複数の吸い込み口21が設けられ、これらの各吸込み口21の下端部に吸込みパイプ22がそれぞれ接続されている。各吸込みパイプ22は水槽6の底壁を貫通して外部に引出され、その引出端がストレーナ23を介して吸引ポンプ24に接続されている。
【0061】
そして、線材3の剥離作業に際して吸引ポンプ24を駆動することにより、線材3より剥離した酸化皮膜は吸い込み口から清水5と一緒に吸引し、振動体2の内面と線材3が剥離した酸化皮膜で目詰まりが生じるのを防止することができる。吸い込み口10の中間部には、ストレーナ23が配置されているので、吸引時に回収された剥離した酸化皮膜3bを分離回収することができる。
【0062】
このような本実施形態によると、線材3の下方に位置する振動体2の下部において、その線材3から剥離した酸化皮膜3aを清水5とともに吸込み口21を介して外部に吸引することができるので、振動体2の内面と線材3との間隙部に剥離後の酸化皮膜3aによる目詰まりが生じるのを防止することができる。
【0063】
また、吸引ポンプ24の吸引によって吸い込み口10の入口部には負圧発生部25が形成される。この負圧発生部25が形成されると、振動体2の振動によるキャビテーション気泡12がより発生し易くなり、更に高密度のキャビテーション気泡12の生成と崩壊が可能となる利点がある。
【0064】
なお、本実施形態の構成を第2、第3実施形態の構成に適用することも可能であり、その場合においても前記同様の効果が奏される。
【0065】
第5実施形態(図8)
前記各実施形態で示した構成において、振動体2の振動方向に沿う線材3との隙間部分にはキャビテーションが発生しやすい一方で、振動方向と直角な方向の隙間部分では振動による圧力変化が少ないため、キャビテーションの発生量が少ない傾向がある。
【0066】
そこで、本実施形態では、線材3の長さ方向に沿って複数の振動体2をそれぞれ振動方向を異ならせて配置し、線材3をその長さ方向に移動させて表面剥離を行なわせる構成とし、キャビテーションが線材3の表面全体に満弁なく行き渡るようにしたものである。
【0067】
図8は、本実施形態の一例として、第1実施形態の振動体2を複数、間隔的に配置した状態を示す説明図である。この図8に示すように、筒型形状の振動体2…が複数、所定の間隔で線材3の長さ方向に沿って配置されている。これらの各振動体2…には、高周波振動のための振動子9…がそれぞれ連結されており、その各振動子9は、例えば線材3の長さ方向に沿って順次に、(1)上向き、(2)横向き、(3)下向きの如く向きを異ならせてある。すなわち、線材3の長さ方向と直角な平面において各振動子9の方向を、(1)、(2)、(3)の如く一定の割合でずらした配置となっている。したがって、線材3が各振動体2…内を通過する場合に、それぞれ異なる各方向からの振動により、キャビテーション発生部も異なる位置に設定され、異なる面における剥離作用が順次に行われる。
【0068】
本実施形態によれば、各振動子9の振動方向を、線材3の長手方向に対して直角の断面において一定の割合にて変化させることにより、振動体2の振動方向に沿う隙間部分と、その振動方向と直交する方向とのキャビテーションの発生度合の差を解消し、キャビテーションが鋼線の表面に満弁なくに行き渡るようにすることができる。
【0069】
なお、前記の各振動体2の振動方向設定については、図8に示したものに限られず、例えば方向変化角度をさらに小さく設定する等、種々の変更、応用が可能である。
【0070】
以上の第1〜第5実施形態によると、下記の効果が奏される。
1)高周波の振動子9の振動を利用してキャビテーションを発生させることにより、鋼線などの線材3の酸化被膜3a等のスケール除去を清水5中の環境で行なうことができる。
2)特殊な化学薬品などを使用しないので、良好な作業環境を得ることができるとともに、塩酸などの化学薬品などを使用した場合に比べて中和設備などが不要になり、大幅にランニングコストを低減することができる。
3)キャビテーション気泡が崩壊するときに発生する衝撃波を利用するため、鋼線などの酸化スケールを除去する能力は、ブラスト等の他の方式と比較して同等以上である。
4)ブラスト方式などでは、ブラスト剤の定期的な交換が必要であるが、本発明では、振動体がキャビテーションに壊触されない高硬度の材料で製作された場合には、消耗品に相当する部品がないため、半永久的に装置を稼動することが可能である。
【0071】
【発明の効果】
以上で詳述したように、本発明によれば、線材の表面に付着または形成される酸化皮膜その他各種の物質を、塩酸等の有害化学物質を使用する必要なく除去することができ、それにより線材表面の酸化皮膜等除去のための特別な溶液供給や、使用済み物質の処理等の必要を無くして線材剥離加工に伴うコストの低減、さらに大気中への有害物質の放出等による環境面の問題も皆無とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る剥離装置の第1実施形態を示す基本構成図。
【図2】図1のA−A線断面図。
【図3】前記実施形態におけるキャビテーションの作用を示す原理図。
【図4】本発明の効果を示す実施例に基づく酸化皮膜剥離量の特性図。
【図5】本発明の第2実施形態を示す構成図。
【図6】本発明の第3実施形態を示す構成図。
【図7】本発明の第4実施形態を示す構成図。
【図8】本発明の第5実施形態を示す構成図。
【符号の説明】
1 高周波振動発生装置
2 振動体
2a キャビテーション発生部
3 線材
3a 酸化皮膜
4 支持装置
5 清水
6 水槽
7 高周波電源装置
8 電源ケーブル
9 振動子
10 支持アーム
11 静止部
12 キャビテーション気泡
13 衝撃波
14 衝撃波反射波
15 反射体
16 振動体の凹面部
17 振動体の下面
18 反射体の凹面部
19 反射体の上面
20 振動体の下面と反射体との隙間
21 吸い込み口
22 吸込みパイプ
23 ストレーナ
24 吸引ポンプ

Claims (15)

  1. 金属または非金属からなる線状物質の表面に液体を介在させて振動体を近接配置し、前記振動体を高周波振動させることによって発生するキャビテーション作用により、前記線状物質の表面に付着または形成された物質を剥離することを特徴とする剥離方法。
  2. 請求項1記載の剥離方法において、前記液体中にてキャビテーション気泡の連続的な生成と崩壊とを繰返させ、そのキャビテーション気泡の崩壊時に発生する衝撃波を前記線状物質の表面に連続的に与えることにより、前記線状物質の表面の剥離を行なうことを特徴とする剥離方法。
  3. 請求項1記載の剥離方法において、キャビテーション気泡の崩壊時に発生する衝撃波を狭隘な空間部内で反射させ、この反射波を前記衝撃波とともに前記線状物質に作用させることにより、前記線状物質の表面の剥離を行なうことを特徴とする剥離方法。
  4. 請求項1記載の剥離方法において、前記液体に与える高周波振動を超音波領域の振動とすることを特徴とする剥離方法。
  5. 請求項1から4までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体の表面と前記線状物質の表面との間隙値を10mm以下にすることを特徴とする剥離方法。
  6. 高周波電源およびこの電源により駆動される振動子を有する高周波振動発生装置と、前記振動子と一体もしくはこれに連結された振動体と、この振動体の表面に対して平行に配された金属または非金属からなる線状物質と、前記振動体と前記線状物質との間隙に液体を保持させる液体保持装置とを備え、前記振動体の高周波振動により前記液体にキャビテーションを発生させて前記線状物質の表面に付着または形成された物質を剥離可能としたことを特徴とする剥離装置。
  7. 請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は筒型形状であり、その内周側の空間に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置。
  8. 請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は平板形状であり、その一側面側に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置。
  9. 請求項6記載の剥離装置において、前記振動体は割筒形状であり、その凹面側の空間に線状物質を配したことを特徴とする剥離装置。
  10. 請求項8または9記載の剥離装置において、前記線状物質を前記振動体の反対側から挟む配置で、キャビテーションによる衝撃波を反射させる反射体を設けたことを特徴とする剥離装置。
  11. 請求項6から10までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体または反射体にキャビテーション発生部分から前記液体を異なる部位に吸引する吸引手段を設けたことを特徴とする剥離装置。
  12. 請求項6から11までのいずれかに記載の剥離装置において、前記線状体の長さ方向に沿って複数の振動体をそれぞれ振動方向を異ならせて配置し、前記線状物質をその長さ方向に移動させて表面剥離を行なわせる構成としたことを特徴とする剥離装置。
  13. 請求項6から12までのいずれかに記載の剥離装置において、前記高周波振動発生装置の振動子は、圧電型セラミックス、磁歪材料または超磁歪材料により構成されていることを特徴とする剥離装置。
  14. 請求項6から13までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動体もしくは反射体の表面と前記線状物質の表面との間隙値を10mm以下にしたことを特徴とする剥離装置。
  15. 請求項6から14までのいずれかに記載の剥離装置において、前記振動子、振動体および反射体は、少なくとも前記液体との接液部に、キャビテーション気泡に壊触されにくい高硬度の材料を適用して構成されていることを特徴とする剥離装置。
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