JP2004010392A - 多孔質ゲルの製造方法およびそれを用いた断熱材 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明は多孔質ゲルの製造方法に関するものであり、簡単な方法で微細な細孔を有する多孔質ゲルを製造するものである。
【解決手段】湿潤ゲルに水と共沸を形成する有機溶媒を共存させ、共沸により湿潤ゲルから水を取り除くことにより、簡単な方法で微細な細孔を有する多孔質ゲルが製造できるのである。また多孔質ゲルを含む断熱材は断熱性能が高く、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下とすることができるのである。
【選択図】 図1
【解決手段】湿潤ゲルに水と共沸を形成する有機溶媒を共存させ、共沸により湿潤ゲルから水を取り除くことにより、簡単な方法で微細な細孔を有する多孔質ゲルが製造できるのである。また多孔質ゲルを含む断熱材は断熱性能が高く、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下とすることができるのである。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は断熱材や触媒の担体として利用される多孔質ゲルの製造方法およびそれを用いた断熱材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
断熱材や触媒の担体として利用される多孔質ゲルは一般に表面積が大きく、かつ微細な細孔を有しており、エアロゲルやキセロゲルと呼ばれる。微細な細孔を有する多孔質ゲルを得るには、いわゆるゾルーゲル法では、微細な細孔を有する湿潤ゲルを作る必要がある。しかし、通常乾燥を行うと、微細な細孔に含まれる溶媒が気化する際に形成する毛管力により、細孔は収縮方向の力が加わり、細孔がつぶれてしまう。細孔に掛かる力は一般に(式1)により表される。
【0003】
【式1】
ここでΔPは毛管力、γは溶媒の表面張力、θは溶媒の接触角、dは細孔の径を表す。細孔の径が小さいほど毛管圧は大きくなり、細孔がつぶれやすいのである。従来はこれを回避するために主に2つの方法が用いられていた。
【0004】
一つは溶媒を超臨界状態にして乾燥する方法(USP 4327065;USP 4610863)である。これは溶媒を臨界点以上の温度と圧力にし、超臨界流体とすることにより、溶媒の表面張力を下げるとともに、液体のように細孔内で濡れるとう減少をなくすために、毛管圧を減少させることにより、細孔をつぶさず乾燥させる方法である。
【0005】
もう一つは細孔の表面を疎水化した後、非超臨界の条件で乾燥させる方法である(特開平5−51277号公報;特許第2840881号公報)。これは湿潤ゲル中の細孔の表面を疎水化剤により疎水化することにより、接触角を減少させることにより毛管圧を減少させ、細孔をつぶすことなく乾燥させる方法である。
【0006】
いずれの乾燥方法においても水を含むゲルから水を取り除くため、水を含むゲルを収納した容器に大量の溶媒を入れ、ゲル中の水を溶媒で置換した後、上部の液を汲み出すまたはろ過をおこなった後、再度溶媒を追加し、溶媒交換をおこなうことを数回繰り返すことによりがおこなわれていた。この後、疎水化剤により疎水化を行っていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、溶媒を追加した後水との交換をおこなった後、水の溶け出した溶媒を汲み出す際は、ゲルの微粒子を吸い出し収率が低下するだけでなく、溶液を吸い出す経路に取り付けたフィルターが詰まり、非常に手間が掛かる課題がある。ろ過をおこなう場合もフィルターの目詰まり等が発生し、ゲルからの脱水に非常に手間が掛かる課題があった。
【0008】
また、溶媒を大量に使用するために非常に不経済である。さらに溶媒と水のなじみが悪いと脱水が十分行われず、多孔質ゲルの細孔を壊してしまい、断熱材として使用した場合は断熱性能を低下させると言う課題がある。さらに、脱水ゲルに含まれる溶液によっては疎水化を阻害し、多孔質ゲルの細孔を壊してしまう課題があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、多孔質ゲルの製造方法であって、脱水工程中に少なくとも水と共沸を形成する有機溶媒を存在させ、水を有機溶媒との共沸により脱水することにより、ろ過などを行うことなく脱水できるので、簡単に多孔質ゲルを製造することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の発明は、シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は水と共沸を形成する有機溶媒を存在させ、水を有機溶媒との共沸により脱水することにより、反応器からろ過器に移してろ過を行うなど複雑な操作を行うことなく簡単に孔質ゲルを製造方法できるようになるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0011】
請求項2記載の発明は、特に請求項1記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒は親水性であることにより、湿潤ゲル中に含まれる水に有機溶媒が溶け込み、湿潤ゲルの骨格に応力を与えることなく湿潤ゲルから水を湿潤ゲル外に運び出す。よって、ゲルの細孔が壊れないために、簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0012】
請求項3記載の発明は、特に請求項1または2記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒の水への溶解度は13%以上であることにより、湿潤ゲルの骨格に応力を与えることなく湿潤ゲルの脱水を行うことができる。よって、より簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、特に請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒がメチルエチルケトンより分子量の大きなケトンまたはブタノールより分子量の大きなアルコールであることにより、疎水化剤と溶媒との反応などを阻止できるので、乾燥の際の溶媒からの表面張力による収縮を回避することができるので、さらに簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0014】
請求項5記載の発明は、特に請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、水と共沸を形成しない疎水性有機溶媒を用いることにより、親水性溶媒を水から疎水性溶媒に移動させることができ、親水性溶媒を再利用できるため、より経済的で簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0015】
請求項6記載の発明は、特に請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を存在させ、水を蒸留により脱水することにより、さらに簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができる。簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0016】
請求項7記載の発明は、特に請求項6に記載の発明において、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒が、ジメチルフォルムアミド、カルビトール、ブチルセロソルブまたはジメチルスルホキシドであることにより、疎水化剤と溶媒との反応などを阻止できるので、乾燥の際の溶媒からの表面張力による収縮を回避することができるので、さらに簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0017】
請求項8記載の発明について説明する。多孔質ゲルは、粒状、粉状の形状を持ち、これを断熱したい製品や部分に配置する。配置する際には、多孔質ゲルを適当なバインダで固めた状態でも、ケースに充填した状態でも良い。本断熱材の特徴はその熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下であることが特徴である。ガラスウールやロックウールなどの断熱材は、繊維状の物質により、断熱材内部の空気が対流しないような構成をしている。よって、その断熱材の熱伝導率は、静止した空気の熱伝導率とガラス繊維等の固体熱伝導率の合算となり、静止空気の熱伝導率を下回ることはない。
【0018】
しかし、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明の製造方法により製造された多孔質ゲルは非常に微細な構造を有しているので、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明の製造方法で製造された多孔質ゲルを主成分とする断熱材の熱伝導率は静止空気の熱伝導率以下となるのが特徴である。空気は窒素や酸素などの気体分子から構成されているが、これらの気体分子は対流がない状態でもブラウン運動により運動している。運動する気体分子同士が衝突することにより熱エネルギが伝えられる状態が静止空気の熱伝導である。気体分子同士が衝突するまでの距離は「平均自由工程」と呼ばれる。本発明の製造方法で製造された多孔質ゲルの細孔の大きさは、大気圧下での空気を構成する気体の平均自由工程よりも小さいので、気体分子同士の衝突を防ぐため気体同士の衝突による伝熱を防ぐことができるのである。よって、本開発の製造方法による多孔質ゲルを主成分とすることにより、静止空気の熱伝導率以下の熱伝導を有する断熱材が実現できるのである。
【0019】
【実施例】
(実施例1)
多孔質ゲルの基本的な工程フローを図1に示す。
本実施例では、原料として水ガラスをゲル原料とし、前記ゲル原料をメタノールで希釈し、酸を添加しゾルーゲル反応により湿潤ゲルを形成させ、トリメチルクロロシラン(以降TMCSと称する)、ヘキサメルルジシラザン(以降HHDSと称する)またはジメチルジメトキシラン(以降DMDMSと称する)を疎水化剤として用い、湿潤ゲルの表面を疎水化し、前記疎水化湿潤ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程により多孔質ゲルを製造した。
【0020】
具体的にはシリカ分12%の水ガラス8kgに酸を添加しpHを3とし、加水分解と重合反応を起こさせ、ゾルーゲル反応が進行し、湿潤ゲルを得る。以上がゲル化工程である。この後脱水工程を行い湿潤ゲル中の水を取り除いた。
【0021】
疎水化工程は、疎水化剤を1/3モルをそれぞれの湿潤ゲルに加えた。その後3時間静置した場合と、48時間静置した場合を行い疎水湿潤ゲルを製造した。
【0022】
乾燥工程は、疎水化湿潤ゲルを窒素気流下の電気炉に入れ、110℃で加熱し、乾燥した多孔質ゲルを得た。
【0023】
脱水工程について図2に基づき詳しく説明する。1は反応容器であり、内部に反応物を入れる。2は湿潤ゲルであり、反応器1の中に入っている。3は溶液であり反応容器1内で湿潤ゲル2を満たしている。4はヒータであり、反応容器の加熱を行う。5は撹拌機であり、反応容器1の内部を撹拌する。6は蒸発管であり、反応容器1から蒸発した気体が流れ込む。7は凝縮容器であり、蒸発管6により運ばれた気体を凝縮させ、液体として回収する。8は回収パイプであり、凝縮容器7で凝縮した液を反応容器1に戻す役割を持つ。9はドレン管であり、凝縮容器7にある液体を凝縮容器7外へ排出する役割をする。シリカ原料としては、水ガラスの他にシリカのアルコキシドを使用しても良い。
【0024】
本実施例の実験例1を示す。
【0025】
「実験例1」
水と共沸を形成する有機溶媒としてメチルエチルケトン(以降MEKと称する)、ブタノール、メチルイソブチルケトン(以降MIBKと称する)、酢酸エチルとヘキサンとを使用した。反応容器1に湿潤ゲル2を入れ、湿潤ゲル2に含まれる水の約10倍量の有機溶媒を入れヒータ4により加熱し、蒸発した蒸気は蒸発管6により凝縮容器7に導かれ凝縮する。必要によりドレン管9より凝縮容器7内の溶液を外部に排出する。共沸温度までヒータ4で加熱すると湿潤ゲル中の水は反応容器1から除かれ、水が除去される。その後、反応容器に疎水化剤を加え疎水化工程を行い、乾燥工程の後、多孔質ゲルを得た。比較例として、水との共沸を作らない溶媒としてメタノールを用い、多孔質ゲルを作成した。作成方法は他の溶媒の場合と同じである。各溶媒の物性と各溶媒を用いた際の多孔質ゲルの物性を(表1)に示す。
【0026】
【表1】
表1で明らかなように、水との共沸を形成する有機溶媒と共沸をつくらない有機溶媒では、出来上がる多孔質ゲルの表面積と断熱材として使用した場合の主要な性能である熱伝導率で大きな違いが生じた。水との共沸を形成する有機溶媒の場合は各共沸の温度で、各共沸割合で水と有機溶媒の混合物が蒸発する。湿潤ゲルに含まれる水を共沸で留去するに必要な量以上の有機溶媒を用いた場合は、水が留去された後は有機溶媒のみになり、湿潤ゲルは脱水される。しかし、例えばメタノールなどの水と共沸をつくらない有機溶媒の場合は、有機溶媒の沸点で有機溶媒は気化し、最終的には水が残る。水はその後の疎水化工程で使用する疎水化剤と反応するため十分な疎水性を有する疎水化ゲルが作成できなくなる。
【0027】
さらに、水があると乾燥の際も、水を蒸発させることになり、水は表面張力が大きいために多孔質ゲルの微細な細孔をつぶしたわけである。水と共沸を形成する有機溶媒を脱水工程中に存在させることにより、簡単な操作で多孔質ゲルを作成することができた。
【0028】
水と共沸を形成する有機溶媒の中では、トルエンを用いた場合が最も比表面積が小さく、熱伝導率も大きくなった。湿潤ゲルのシリカ表面は水で覆われている。この水を加熱・共沸で除去する時には、湿潤ゲルの内部の水と有機溶媒が連続的に置換するのが好ましい。
【0029】
しかし、トルエンのように疎水性の有機溶媒の場合はトルエン溶液と水は2層に分離し互いにはじくので、湿潤ゲルの内部で水が蒸発する際には、一旦水が気化し空気層ができ、その後トルエンが浸入する。そのため、水が気化する際の体積変化や表面張力などがゲルの骨格に応力を与えるため、表面積つまり多孔質度が低下し、熱伝導率も上昇したのである。水と共沸を形成する有機溶媒として親水性の有機溶媒とすると、簡単に高性能な多孔質ゲルを得ることができるのである。
【0030】
さらに、MEKとブタノールを用いたものは表面積が大きく、多孔質度が特に高い。静止空気の熱伝導率は26mW/m・K程度であるので、MEKとブタノールを用いたもの静止空気よりも熱伝導率が小さい。これは多孔質ゲルの細孔の大きさが、静止空気の平均自由工程よりも小さいことを表し、非常に微細な細孔を持っていることを示している。熱伝導率が非常に小さな材料は、断熱材の原料とするには非常にふさわしいと言える。MEKとブタノールがMIBKや酢酸エチルに比べ特に多孔質になったのは、水に対する溶解度である。水に対する溶解度が大きいものは、共沸による水除去の際、湿潤ゲルの細孔内部において、水から有機溶媒へと連続的に交換されるので、湿潤ゲルの骨格にはほとんど応力を与えず、細孔をつぶすことなく脱水ができたからである。水と共沸を形成する有機溶媒のうち、水への溶解度が13%以上の有機溶媒を用いることにより、簡単な方法で非常に高性能な多孔質ゲルを作成することができた。この多孔質ゲルの熱伝導率は静止空気よりも小さく、断熱性が非常に高い。
【0031】
「実験例2」
実験方法は実験例1と同じで、使用する有機溶媒としては、アセトン、MEK、エタノールおよびブタノールを使用した。なお、疎水化剤はTMCSを湿潤ゲルのシリカのモル数に対して、1/5のモル数の量を使用した。結果を(表2)に示す。
【0032】
【表2】
表2から明らかなように、共沸を形成しないアセトンは実験例1の場合と同じように比表面積が小さく、熱伝導率が高い結果となった。エタノールは水との共沸を形成するため脱水時には湿潤ゲルの骨格に影響はない。しかし、エタノールは疎水化剤であるTMCSと反応性が高いので、疎水化剤が消費されゲル表面を有効に疎水化できなかったため、乾燥時にゲルの収縮が生じたためMEKやブタノールに比べ比表面積が小さくなり、熱伝導率が増加したのである。溶媒分子が大きくなると疎水化剤との反応性が小さくなる。
【0033】
本実験例で明らかなように、MEKより大きな分子量のケトン、ブタノールより大きな分子量のアルコールで水との共沸を形成する有機溶媒は、簡単な方法で高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。この多孔質ゲルの熱伝導率は静止空気よりも小さく、断熱性が非常に高い。
【0034】
「実験例3」
実験方法は実験例1と同じで、水と共沸を形成する親水性有機溶媒としては、MEKを使用した。実験例1と異なるのは凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置したことである。疎水性有機化合物としては親水性有機溶媒と沸点の差が多い方が好ましい。
【0035】
本実験ではカルビトールを使用した。疎水性有機化合物を使用しても、使用しなくても、出来上がる多孔質ゲルに差はなく、いずれも簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができた。凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置しない時は、MEKと水の混合物が凝縮容器7に溜まる。MEKと水の溶解度は共沸時の組成比とほぼ同じであるので、ほとんど2層には分かれない。よって、回収管8より有機溶媒のみを反応容器1に戻し、再利用することはできない。
【0036】
また、水とMEKは共沸を形成するので簡単には蒸留で分離することはできない。しかし、凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置した時は、親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物と水の2層に分かれる。MEKの多くは疎水性有機化合物の層に移動する。よって、多孔質ゲル作成後、2層のうちの水層を廃棄し、有機溶媒層を反応容器1に移動させ、ヒータ4により加熱すると共沸を形成しないため沸点差によって親水性有機化合物と疎水性有機化合物を分離することができる。親水性有機化合物と疎水性有機化合物は次回の多孔質ゲルの製造時に使用できるので、非常に経済的である。
【0037】
(実施例2)
製造する装置は実施例1と同じである。脱水工程は反応容器1に湿潤ゲル2をいれ、さらに水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を入れ溶液3とする。ヒータ4により加熱を行い溶液3の温度は上昇し、水と有機溶媒は共沸を形成しないので、水は沸点に達すると大量に蒸発し、蒸発管6を通り、凝縮器7に溜まる。脱水が完了すると溶液3の成分は水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒のみとなる。この後疎水化工程と乾燥工程を行う。
【0038】
なお、本実施例の場合は溶媒の沸点が高いので、乾燥工程中に減圧をしても良い。本実施例の方法は蒸発する液体はほとんど水だけであるので、共沸により水を留去する方法に比べて蒸発させる液体の量が少なくて良いので、加熱で必要なエネルギ量が少なく、溶媒の移動も少ないのでより簡単に多孔質ゲルが製造できるのである。水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒として、ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブ、ジチチルスルホキシドおよびエチレングリコールを使用した。製造した多孔質ゲルの物性等を(表3)に示す。
【0039】
【表3】
いずれも簡単な方法で多孔質なゲルを製造することができた。ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブおよびジチチルスルホキシドを用いたものは多孔質ゲルの比表面積が大きく、熱伝導率が小さいのに対して、エチレングリコールを用いたものは他に比べ比表面積が小さく、熱伝導利が大きい結果となった。これはエチレングリコールが疎水化剤と僅かに反応するため、湿潤ゲルの疎水化度が僅かに低く、乾燥工程時に僅かに収縮したのである。
このように脱水工程中に水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を存在させ、水を蒸留によって脱水することにより、より簡単な方法で多孔質なゲルを製造することが出るのである。
【0040】
また、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒として、ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブ、ジチチルスルホキシドとしたものは、さらに高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。
【0041】
(実施例3)
実施例1または2で作成された多孔質ゲルを用い、この多孔質ゲルを粉砕し粒径を約40mmにした。この粉砕多孔質ゲルにバインダとしてフェノールの粒子を20%ブレンドし、さらにガラス繊維を5%入れブレンドした。これを型に入れ、250℃で30分保持し、成形した。成型品の熱伝導率は20mW/m・Kであり、例えばガラスウール断熱材の約35mW/m・Kと言う熱伝導率に比べ十分小さい。本発明の製造方法で製造された多孔質ゲルを含み断熱材とすることにより、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下である断熱材が実現できるのである。
【0042】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、簡単な方法で微細な細孔を有する多孔質ゲルを製造することができる。
【0043】
さらに、本発明の微細な細孔を有する多孔質ゲルを含む断熱材は断熱性能が高く、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下とすることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における多孔質ゲルの工程フローチャート
【図2】
実施例1における脱水工程の説明図
【発明の属する技術分野】
本発明は断熱材や触媒の担体として利用される多孔質ゲルの製造方法およびそれを用いた断熱材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
断熱材や触媒の担体として利用される多孔質ゲルは一般に表面積が大きく、かつ微細な細孔を有しており、エアロゲルやキセロゲルと呼ばれる。微細な細孔を有する多孔質ゲルを得るには、いわゆるゾルーゲル法では、微細な細孔を有する湿潤ゲルを作る必要がある。しかし、通常乾燥を行うと、微細な細孔に含まれる溶媒が気化する際に形成する毛管力により、細孔は収縮方向の力が加わり、細孔がつぶれてしまう。細孔に掛かる力は一般に(式1)により表される。
【0003】
【式1】
ここでΔPは毛管力、γは溶媒の表面張力、θは溶媒の接触角、dは細孔の径を表す。細孔の径が小さいほど毛管圧は大きくなり、細孔がつぶれやすいのである。従来はこれを回避するために主に2つの方法が用いられていた。
【0004】
一つは溶媒を超臨界状態にして乾燥する方法(USP 4327065;USP 4610863)である。これは溶媒を臨界点以上の温度と圧力にし、超臨界流体とすることにより、溶媒の表面張力を下げるとともに、液体のように細孔内で濡れるとう減少をなくすために、毛管圧を減少させることにより、細孔をつぶさず乾燥させる方法である。
【0005】
もう一つは細孔の表面を疎水化した後、非超臨界の条件で乾燥させる方法である(特開平5−51277号公報;特許第2840881号公報)。これは湿潤ゲル中の細孔の表面を疎水化剤により疎水化することにより、接触角を減少させることにより毛管圧を減少させ、細孔をつぶすことなく乾燥させる方法である。
【0006】
いずれの乾燥方法においても水を含むゲルから水を取り除くため、水を含むゲルを収納した容器に大量の溶媒を入れ、ゲル中の水を溶媒で置換した後、上部の液を汲み出すまたはろ過をおこなった後、再度溶媒を追加し、溶媒交換をおこなうことを数回繰り返すことによりがおこなわれていた。この後、疎水化剤により疎水化を行っていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、溶媒を追加した後水との交換をおこなった後、水の溶け出した溶媒を汲み出す際は、ゲルの微粒子を吸い出し収率が低下するだけでなく、溶液を吸い出す経路に取り付けたフィルターが詰まり、非常に手間が掛かる課題がある。ろ過をおこなう場合もフィルターの目詰まり等が発生し、ゲルからの脱水に非常に手間が掛かる課題があった。
【0008】
また、溶媒を大量に使用するために非常に不経済である。さらに溶媒と水のなじみが悪いと脱水が十分行われず、多孔質ゲルの細孔を壊してしまい、断熱材として使用した場合は断熱性能を低下させると言う課題がある。さらに、脱水ゲルに含まれる溶液によっては疎水化を阻害し、多孔質ゲルの細孔を壊してしまう課題があった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような課題を解決しようとするものであり、多孔質ゲルの製造方法であって、脱水工程中に少なくとも水と共沸を形成する有機溶媒を存在させ、水を有機溶媒との共沸により脱水することにより、ろ過などを行うことなく脱水できるので、簡単に多孔質ゲルを製造することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の発明は、シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は水と共沸を形成する有機溶媒を存在させ、水を有機溶媒との共沸により脱水することにより、反応器からろ過器に移してろ過を行うなど複雑な操作を行うことなく簡単に孔質ゲルを製造方法できるようになるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0011】
請求項2記載の発明は、特に請求項1記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒は親水性であることにより、湿潤ゲル中に含まれる水に有機溶媒が溶け込み、湿潤ゲルの骨格に応力を与えることなく湿潤ゲルから水を湿潤ゲル外に運び出す。よって、ゲルの細孔が壊れないために、簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0012】
請求項3記載の発明は、特に請求項1または2記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒の水への溶解度は13%以上であることにより、湿潤ゲルの骨格に応力を与えることなく湿潤ゲルの脱水を行うことができる。よって、より簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0013】
請求項4記載の発明は、特に請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、水と共沸を形成する有機溶媒がメチルエチルケトンより分子量の大きなケトンまたはブタノールより分子量の大きなアルコールであることにより、疎水化剤と溶媒との反応などを阻止できるので、乾燥の際の溶媒からの表面張力による収縮を回避することができるので、さらに簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0014】
請求項5記載の発明は、特に請求項1〜4のいずれか1項に記載の発明において、水と共沸を形成しない疎水性有機溶媒を用いることにより、親水性溶媒を水から疎水性溶媒に移動させることができ、親水性溶媒を再利用できるため、より経済的で簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0015】
請求項6記載の発明は、特に請求項1〜5のいずれか1項に記載の発明において、シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を存在させ、水を蒸留により脱水することにより、さらに簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができる。簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0016】
請求項7記載の発明は、特に請求項6に記載の発明において、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒が、ジメチルフォルムアミド、カルビトール、ブチルセロソルブまたはジメチルスルホキシドであることにより、疎水化剤と溶媒との反応などを阻止できるので、乾燥の際の溶媒からの表面張力による収縮を回避することができるので、さらに簡単な方法でより高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。このような方法で製造した多孔質ゲルを用いて作成した断熱材が静止空気以下の熱伝導率である高性能な断熱材が実現できる。
【0017】
請求項8記載の発明について説明する。多孔質ゲルは、粒状、粉状の形状を持ち、これを断熱したい製品や部分に配置する。配置する際には、多孔質ゲルを適当なバインダで固めた状態でも、ケースに充填した状態でも良い。本断熱材の特徴はその熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下であることが特徴である。ガラスウールやロックウールなどの断熱材は、繊維状の物質により、断熱材内部の空気が対流しないような構成をしている。よって、その断熱材の熱伝導率は、静止した空気の熱伝導率とガラス繊維等の固体熱伝導率の合算となり、静止空気の熱伝導率を下回ることはない。
【0018】
しかし、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明の製造方法により製造された多孔質ゲルは非常に微細な構造を有しているので、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明の製造方法で製造された多孔質ゲルを主成分とする断熱材の熱伝導率は静止空気の熱伝導率以下となるのが特徴である。空気は窒素や酸素などの気体分子から構成されているが、これらの気体分子は対流がない状態でもブラウン運動により運動している。運動する気体分子同士が衝突することにより熱エネルギが伝えられる状態が静止空気の熱伝導である。気体分子同士が衝突するまでの距離は「平均自由工程」と呼ばれる。本発明の製造方法で製造された多孔質ゲルの細孔の大きさは、大気圧下での空気を構成する気体の平均自由工程よりも小さいので、気体分子同士の衝突を防ぐため気体同士の衝突による伝熱を防ぐことができるのである。よって、本開発の製造方法による多孔質ゲルを主成分とすることにより、静止空気の熱伝導率以下の熱伝導を有する断熱材が実現できるのである。
【0019】
【実施例】
(実施例1)
多孔質ゲルの基本的な工程フローを図1に示す。
本実施例では、原料として水ガラスをゲル原料とし、前記ゲル原料をメタノールで希釈し、酸を添加しゾルーゲル反応により湿潤ゲルを形成させ、トリメチルクロロシラン(以降TMCSと称する)、ヘキサメルルジシラザン(以降HHDSと称する)またはジメチルジメトキシラン(以降DMDMSと称する)を疎水化剤として用い、湿潤ゲルの表面を疎水化し、前記疎水化湿潤ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程により多孔質ゲルを製造した。
【0020】
具体的にはシリカ分12%の水ガラス8kgに酸を添加しpHを3とし、加水分解と重合反応を起こさせ、ゾルーゲル反応が進行し、湿潤ゲルを得る。以上がゲル化工程である。この後脱水工程を行い湿潤ゲル中の水を取り除いた。
【0021】
疎水化工程は、疎水化剤を1/3モルをそれぞれの湿潤ゲルに加えた。その後3時間静置した場合と、48時間静置した場合を行い疎水湿潤ゲルを製造した。
【0022】
乾燥工程は、疎水化湿潤ゲルを窒素気流下の電気炉に入れ、110℃で加熱し、乾燥した多孔質ゲルを得た。
【0023】
脱水工程について図2に基づき詳しく説明する。1は反応容器であり、内部に反応物を入れる。2は湿潤ゲルであり、反応器1の中に入っている。3は溶液であり反応容器1内で湿潤ゲル2を満たしている。4はヒータであり、反応容器の加熱を行う。5は撹拌機であり、反応容器1の内部を撹拌する。6は蒸発管であり、反応容器1から蒸発した気体が流れ込む。7は凝縮容器であり、蒸発管6により運ばれた気体を凝縮させ、液体として回収する。8は回収パイプであり、凝縮容器7で凝縮した液を反応容器1に戻す役割を持つ。9はドレン管であり、凝縮容器7にある液体を凝縮容器7外へ排出する役割をする。シリカ原料としては、水ガラスの他にシリカのアルコキシドを使用しても良い。
【0024】
本実施例の実験例1を示す。
【0025】
「実験例1」
水と共沸を形成する有機溶媒としてメチルエチルケトン(以降MEKと称する)、ブタノール、メチルイソブチルケトン(以降MIBKと称する)、酢酸エチルとヘキサンとを使用した。反応容器1に湿潤ゲル2を入れ、湿潤ゲル2に含まれる水の約10倍量の有機溶媒を入れヒータ4により加熱し、蒸発した蒸気は蒸発管6により凝縮容器7に導かれ凝縮する。必要によりドレン管9より凝縮容器7内の溶液を外部に排出する。共沸温度までヒータ4で加熱すると湿潤ゲル中の水は反応容器1から除かれ、水が除去される。その後、反応容器に疎水化剤を加え疎水化工程を行い、乾燥工程の後、多孔質ゲルを得た。比較例として、水との共沸を作らない溶媒としてメタノールを用い、多孔質ゲルを作成した。作成方法は他の溶媒の場合と同じである。各溶媒の物性と各溶媒を用いた際の多孔質ゲルの物性を(表1)に示す。
【0026】
【表1】
表1で明らかなように、水との共沸を形成する有機溶媒と共沸をつくらない有機溶媒では、出来上がる多孔質ゲルの表面積と断熱材として使用した場合の主要な性能である熱伝導率で大きな違いが生じた。水との共沸を形成する有機溶媒の場合は各共沸の温度で、各共沸割合で水と有機溶媒の混合物が蒸発する。湿潤ゲルに含まれる水を共沸で留去するに必要な量以上の有機溶媒を用いた場合は、水が留去された後は有機溶媒のみになり、湿潤ゲルは脱水される。しかし、例えばメタノールなどの水と共沸をつくらない有機溶媒の場合は、有機溶媒の沸点で有機溶媒は気化し、最終的には水が残る。水はその後の疎水化工程で使用する疎水化剤と反応するため十分な疎水性を有する疎水化ゲルが作成できなくなる。
【0027】
さらに、水があると乾燥の際も、水を蒸発させることになり、水は表面張力が大きいために多孔質ゲルの微細な細孔をつぶしたわけである。水と共沸を形成する有機溶媒を脱水工程中に存在させることにより、簡単な操作で多孔質ゲルを作成することができた。
【0028】
水と共沸を形成する有機溶媒の中では、トルエンを用いた場合が最も比表面積が小さく、熱伝導率も大きくなった。湿潤ゲルのシリカ表面は水で覆われている。この水を加熱・共沸で除去する時には、湿潤ゲルの内部の水と有機溶媒が連続的に置換するのが好ましい。
【0029】
しかし、トルエンのように疎水性の有機溶媒の場合はトルエン溶液と水は2層に分離し互いにはじくので、湿潤ゲルの内部で水が蒸発する際には、一旦水が気化し空気層ができ、その後トルエンが浸入する。そのため、水が気化する際の体積変化や表面張力などがゲルの骨格に応力を与えるため、表面積つまり多孔質度が低下し、熱伝導率も上昇したのである。水と共沸を形成する有機溶媒として親水性の有機溶媒とすると、簡単に高性能な多孔質ゲルを得ることができるのである。
【0030】
さらに、MEKとブタノールを用いたものは表面積が大きく、多孔質度が特に高い。静止空気の熱伝導率は26mW/m・K程度であるので、MEKとブタノールを用いたもの静止空気よりも熱伝導率が小さい。これは多孔質ゲルの細孔の大きさが、静止空気の平均自由工程よりも小さいことを表し、非常に微細な細孔を持っていることを示している。熱伝導率が非常に小さな材料は、断熱材の原料とするには非常にふさわしいと言える。MEKとブタノールがMIBKや酢酸エチルに比べ特に多孔質になったのは、水に対する溶解度である。水に対する溶解度が大きいものは、共沸による水除去の際、湿潤ゲルの細孔内部において、水から有機溶媒へと連続的に交換されるので、湿潤ゲルの骨格にはほとんど応力を与えず、細孔をつぶすことなく脱水ができたからである。水と共沸を形成する有機溶媒のうち、水への溶解度が13%以上の有機溶媒を用いることにより、簡単な方法で非常に高性能な多孔質ゲルを作成することができた。この多孔質ゲルの熱伝導率は静止空気よりも小さく、断熱性が非常に高い。
【0031】
「実験例2」
実験方法は実験例1と同じで、使用する有機溶媒としては、アセトン、MEK、エタノールおよびブタノールを使用した。なお、疎水化剤はTMCSを湿潤ゲルのシリカのモル数に対して、1/5のモル数の量を使用した。結果を(表2)に示す。
【0032】
【表2】
表2から明らかなように、共沸を形成しないアセトンは実験例1の場合と同じように比表面積が小さく、熱伝導率が高い結果となった。エタノールは水との共沸を形成するため脱水時には湿潤ゲルの骨格に影響はない。しかし、エタノールは疎水化剤であるTMCSと反応性が高いので、疎水化剤が消費されゲル表面を有効に疎水化できなかったため、乾燥時にゲルの収縮が生じたためMEKやブタノールに比べ比表面積が小さくなり、熱伝導率が増加したのである。溶媒分子が大きくなると疎水化剤との反応性が小さくなる。
【0033】
本実験例で明らかなように、MEKより大きな分子量のケトン、ブタノールより大きな分子量のアルコールで水との共沸を形成する有機溶媒は、簡単な方法で高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。この多孔質ゲルの熱伝導率は静止空気よりも小さく、断熱性が非常に高い。
【0034】
「実験例3」
実験方法は実験例1と同じで、水と共沸を形成する親水性有機溶媒としては、MEKを使用した。実験例1と異なるのは凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置したことである。疎水性有機化合物としては親水性有機溶媒と沸点の差が多い方が好ましい。
【0035】
本実験ではカルビトールを使用した。疎水性有機化合物を使用しても、使用しなくても、出来上がる多孔質ゲルに差はなく、いずれも簡単な方法で高性能な多孔質ゲルを製造することができた。凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置しない時は、MEKと水の混合物が凝縮容器7に溜まる。MEKと水の溶解度は共沸時の組成比とほぼ同じであるので、ほとんど2層には分かれない。よって、回収管8より有機溶媒のみを反応容器1に戻し、再利用することはできない。
【0036】
また、水とMEKは共沸を形成するので簡単には蒸留で分離することはできない。しかし、凝縮容器7に親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物を配置した時は、親水性有機溶媒と共沸を形成しない疎水性有機化合物と水の2層に分かれる。MEKの多くは疎水性有機化合物の層に移動する。よって、多孔質ゲル作成後、2層のうちの水層を廃棄し、有機溶媒層を反応容器1に移動させ、ヒータ4により加熱すると共沸を形成しないため沸点差によって親水性有機化合物と疎水性有機化合物を分離することができる。親水性有機化合物と疎水性有機化合物は次回の多孔質ゲルの製造時に使用できるので、非常に経済的である。
【0037】
(実施例2)
製造する装置は実施例1と同じである。脱水工程は反応容器1に湿潤ゲル2をいれ、さらに水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を入れ溶液3とする。ヒータ4により加熱を行い溶液3の温度は上昇し、水と有機溶媒は共沸を形成しないので、水は沸点に達すると大量に蒸発し、蒸発管6を通り、凝縮器7に溜まる。脱水が完了すると溶液3の成分は水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒のみとなる。この後疎水化工程と乾燥工程を行う。
【0038】
なお、本実施例の場合は溶媒の沸点が高いので、乾燥工程中に減圧をしても良い。本実施例の方法は蒸発する液体はほとんど水だけであるので、共沸により水を留去する方法に比べて蒸発させる液体の量が少なくて良いので、加熱で必要なエネルギ量が少なく、溶媒の移動も少ないのでより簡単に多孔質ゲルが製造できるのである。水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒として、ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブ、ジチチルスルホキシドおよびエチレングリコールを使用した。製造した多孔質ゲルの物性等を(表3)に示す。
【0039】
【表3】
いずれも簡単な方法で多孔質なゲルを製造することができた。ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブおよびジチチルスルホキシドを用いたものは多孔質ゲルの比表面積が大きく、熱伝導率が小さいのに対して、エチレングリコールを用いたものは他に比べ比表面積が小さく、熱伝導利が大きい結果となった。これはエチレングリコールが疎水化剤と僅かに反応するため、湿潤ゲルの疎水化度が僅かに低く、乾燥工程時に僅かに収縮したのである。
このように脱水工程中に水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を存在させ、水を蒸留によって脱水することにより、より簡単な方法で多孔質なゲルを製造することが出るのである。
【0040】
また、水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒として、ジメチルフォルミアミド、カルビトール、ブチルセロロソルブ、ジチチルスルホキシドとしたものは、さらに高性能な多孔質ゲルが製造できるのである。
【0041】
(実施例3)
実施例1または2で作成された多孔質ゲルを用い、この多孔質ゲルを粉砕し粒径を約40mmにした。この粉砕多孔質ゲルにバインダとしてフェノールの粒子を20%ブレンドし、さらにガラス繊維を5%入れブレンドした。これを型に入れ、250℃で30分保持し、成形した。成型品の熱伝導率は20mW/m・Kであり、例えばガラスウール断熱材の約35mW/m・Kと言う熱伝導率に比べ十分小さい。本発明の製造方法で製造された多孔質ゲルを含み断熱材とすることにより、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下である断熱材が実現できるのである。
【0042】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、簡単な方法で微細な細孔を有する多孔質ゲルを製造することができる。
【0043】
さらに、本発明の微細な細孔を有する多孔質ゲルを含む断熱材は断熱性能が高く、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下とすることができるのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1における多孔質ゲルの工程フローチャート
【図2】
実施例1における脱水工程の説明図
Claims (8)
- シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は水と共沸を形成する有機溶媒を存在させ、水を有機溶媒との共沸により脱水する多孔質ゲルの製造方法。
- 水と共沸を形成する有機溶媒は親水性である請求項1記載の多孔質ゲルの製造方法。
- 水と共沸を形成する有機溶媒の水への溶解度は13%以上である請求項1または2記載の多孔質ゲルの製造方法。
- 水と共沸を形成する有機溶媒がメチルエチルケトンより分子量の大きなケトンまたはブタノールより分子量の大きなアルコールである請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔質ゲルの製造方法。
- 脱水工程において、水と共沸を形成しない疎水性有機溶媒を用いる請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔質ゲルの製造方法。
- シリカ原料をゾルーゲル法によりゲル化させ湿潤ゲルを形成させてなるゲル化工程と、湿潤ゲル中の水を取り除き脱水ゲルを形成させる脱水行程と、アルキル基が結合した珪素を有する疎水化剤を用い、前記脱水ゲルの表面を疎水化し、疎水化脱水ゲルを得る疎水化工程と、前記疎水化脱水ゲルを溶媒の臨界点以下の温度または圧力条件で乾燥する乾燥工程とを有し、前記脱水工程は水よりも沸点が高く親水性であり水と共沸を形成しない有機溶媒を存在させ、水を蒸留により脱水する多孔質ゲルの製造方法。
- 水よりも沸点が高く親水性である有機溶媒が、ジメチルフォルムアミド、カルビトール、ブチルセロソルブまたはジメチルスルホキシドである請求項6記載の多孔質ゲルの製造方法。
- 請求項1〜7のいずれか1項に記載の多孔質ゲルの製造方法で製造された多孔質ゲルを有し、熱伝導率が静止空気の熱伝導率以下である断熱材。
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JP2002163926A JP2004010392A (ja) | 2002-06-05 | 2002-06-05 | 多孔質ゲルの製造方法およびそれを用いた断熱材 |
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CN114602394A (zh) * | 2022-01-28 | 2022-06-10 | 西安理工大学 | 去除了表面致密层的有机气凝胶及其制备方法 |
-
2002
- 2002-06-05 JP JP2002163926A patent/JP2004010392A/ja not_active Withdrawn
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