JP2004002948A - 原油タンク底板用鋼材 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.001〜0.20%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.50%、Cr:0.50〜1.50%または2.5〜6.0%を含有し、さらにCu、Ni、Moをそれぞれ0.10%未満とし、かつCu、Ni、Moの合計量を0.20%以下に調整し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成とする。また、さらに、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上および/またはZr:0.2%以下、Ca:0.006%以下、REM:0.006%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有してもよい。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、原油を輸送するタンクまたは貯蔵するタンクに用いて好適な原油タンク用鋼材に係り、とくに原油タンク底板で発生する局部腐食を防止できる原油タンク底板用鋼材に関する。なお、本発明でいう鋼材は、厚鋼板、薄鋼板、形鋼を含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
従来、原油を輸送または貯蔵するタンク(以下、原油タンクともいう)においては、原油そのものは腐食抑制作用があるため、使用される鋼材には腐食は生じないと考えられていた。
ところが、最近、原油タンク内の、とくにタンク底板で鋼材にお椀型の局部腐食が発生することが明らかになっている。
【0003】
かかる局部腐食の原因として
▲1▼過剰な洗浄による原油保護フィルム(原油による、タンク内の腐食を抑制する保護的なフィルム)の離脱、
▲2▼原油中の硫化物の高濃度化、
▲3▼防爆用に封入されるイナートガス(O2約5vol%、CO2 約13vol%、SO2 約0.01vol%、残部N2ガスを代表組成とするエンジンの排ガス)中の、O2、CO2 、SO2 の高濃度化、
▲4▼微生物の関与
などの項目があげられているが、いずれも推定の域を出ず、未だ明確な原因は判明していない。
【0004】
そのため、現状では鋼材に防錆塗料を塗布して、鋼材を腐食環境から遮断する方法以外に有効な方法がないと考えられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、防錆塗料の塗布はその塗布面積が膨大であり、また約10年に1度は塗り替えが必要となるため、多大な費用がかかるという問題があった。
一方、鋼材側からの対策は現在までのところ殆どなく、対策がとられていないに等しいが、例えば特開2000−17381号公報には、船舶外板、バラストタンク、カーゴオイルタンク、鉱炭船カーゴホールド等の使用環境で優れた耐食性を有する造船用耐食鋼が提案されている。特開2000−17381号公報に記載された造船用耐食鋼は、C:0.01〜0.25%と、Si、Mn、P、S、Alを適正量に調整したうえで含み、さらにCu:0.01〜2.00%、Mg:0.0002〜0.015%を含有しており、このような組成の鋼とすることにより、鋼材の耐食性および耐局部腐食性が向上するとしている。しかしながら、特開2000−17381号公報に記載された鋼材でもなお、原油タンク底板で発生する局部腐食に対する抵抗性を安定して十分に具備しているとは考えがたく、原油タンク底板で発生する局部腐食に対し、更なる抵抗性を付与された鋼材の開発が要望されている。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、原油を輸送するタンクまたは原油を貯蔵するタンクの底板として、塗装なしで用いて好適な、原油タンク底板用鋼材を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、まず、原油の輸送タンク内または原油の貯蔵タンク内の腐食に関与する因子の抽出を行い、それら因子の組み合わせによる実験室腐食試験を行った。その結果、実原油タンクの底板で生じる局部腐食と同じ形態の局部腐食の再現に成功し、原油タンク内の底板で生じる局部腐食の支配因子および腐食機構を明確にした。
【0008】
すなわち、液中に含まれるO2およびH2Sが、実原油タンクの底板で発生する局部腐食の支配因子として働くことが明らかとなった。ただし、この局部腐食は、O2を含みかつH2Sを含まない試験液(O2分圧約21%のガスを含んだ水溶液)、もしくはH2Sのみを含んだ試験液(H2S分圧100%のガスを含んだ水溶液)中では発生せず、O2とH2Sが共存し、かつ低O2分圧(O2分圧:2〜8%)、低H2S分圧(H2S分圧:5〜20%)の環境下で生じることがわかった。O2とH2Sが共存し、試験液中の両者の含有量が高い場合は全面腐食が大きいものの局部腐食は発生しない。低O2、低H2S分圧の環境下では、まず鋼材表面に強固な腐食生成皮膜が形成され、この腐食生成皮膜がCl− 存在下で部分的に破壊されて、局部腐食が発生するのである。さらに発生した局部腐食内部にはCl− が濃縮し、pHが低下するため、局部腐食が板厚方向に大きな速度で成長するのである。
【0009】
以上のことから、本発明者らは、原油タンク底板で発生する局部腐食に対し、優れた抵抗性を有する鋼材は、局部腐食の原因となる強固な腐食生成皮膜を生じさせない特性と局部腐食内部にCl− が濃縮しない特性を具備する必要があることを見いだした。
ついで、本発明者らは、低O2、低H2S分圧の環境下での腐食生成皮膜形成に及ぼす各種合金元素の影響を調査した。その結果、Cu、Ni、Moは腐食生成皮膜の生成を著しく助長するが、Cl− によって破壊されない強固な腐食生成皮膜を生じさせるには8%以上の大量添加が必要であり、それ未満ではCl− によって破壊される腐食生成皮膜を生じ、むしろ局部腐食の発生を助長することを見出した。
【0010】
また、Crは、1.50%以下では、腐食生成皮膜の生成を助長する作用が小さく、1.50%を超えると腐食生成皮膜の生成を助長する。しかし、2.5%以上になると、Cl− によって破壊されない強固な腐食生成皮膜を生成させることを見出した。すなわち、Crは1.50%を超え、2.5%未満の範囲では局部腐食のカソード反応サイトの役割を果たす孔食の発生に適した腐食生成皮膜を生成させ、孔食の発生を助長するが、この範囲以下でも以上でも孔食発生を抑制する作用があることを見出した。また、これらの腐食生成皮膜と地鉄の界面におけるCl− の濃縮度合いを調べたところ、Crを添加した鋼のみ腐食生成皮膜と地鉄の界面には、Cl− はほとんど存在せず、CrはCl− の遮断作用があることを見出した。
【0011】
このようなことから、本発明者らは、Cu、Ni、Moをそれぞれ所定値以下に低減し、さらに合計量を所定値以下に調整すること、およびCr含有量を適正範囲内とすることにより、鋼材に腐食生成皮膜形成およびCl− の濃縮を抑制する特性を具備させることができ、原油タンク底板で発生する局部腐食に優れた抵抗性を有する鋼材とすることができることを見出した。
【0012】
以上の知見は、Cl− 濃度がNaCl換算で3質量%前後の通常濃度の腐食環境におけるものであり、本発明者らの更なる研究により、Cl− 濃度がNaCl換算で5質量%以上の高濃度の腐食環境下においては、上記したように、Cu、Ni、Mo含有量を低減し、Cr含有量を適正範囲内に調整した鋼材であっても、局部腐食が発生する場合があることを知見した。そこで、本発明者らは、更なる検討を行い、このような高Cl− 濃度の腐食環境下における局部腐食を防止するためには、0.10質量%を超えるAlの多量含有が有効であることを見出した。
【0013】
このようなことから、本発明者らは、Cu、Ni、Moをそれぞれ所定値以下に低減し、さらに合計量を所定値以下に調整すること、Cr含有量を適正範囲内とすること、およびAl含有量を適正範囲内とすることにより、高Cl− 濃度の腐食環境下においても、鋼材に強固な腐食生成皮膜を形成させ、Cl− の濃縮および局部腐食の進行を抑制する特性を具備させることができ、原油タンク底板で発生する局部腐食に優れた抵抗性を有する鋼材とすることができることを見出した。
【0014】
本発明は上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明は、質量%で、C:0.001〜0.20%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.5〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.50%、Cr:0.50〜1.50%を含有し、さらにCu、Ni、Moをそれぞれ、Cu:0.10%未満、Ni:0.10%未満、Mo:0.10%未満に調整し、かつCu、Ni、Moの合計量が0.20%以下であるように調整し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする原油タンク底板用鋼材である。
【0015】
また、本発明は、質量%で、C:0.001〜0.20%、Si:0.10〜0.40%、Mn:0.5%〜2.0%、P:0.020%以下、S:0.010%以下、Al:0.01〜0.50%、Cr:2.5〜6.0%を含有し、さらにCu、Ni、Moをそれぞれ、Cu:0.10%未満、Ni:0.10%未満、Mo:0.10%未満とし、かつCu、Ni,Moの合計量が0.20%以下であるように調整し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする原油タンク底板用鋼材である。
【0016】
また、本発明では、前記各組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることが好ましく、また、本発明では、前記各組成に加えてさらに、質量%で、Zr:0.2%以下、Ca:0.006%以下、REM:0.006%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明鋼材の組成限定理由について説明する。なお、以下、質量%は単に%と記す。
C:0.001〜0.20%
Cは、鋼材の強度を増加させる元素であり、本発明では所望の強度を得るために、0.001%以上の含有を必要とする。一方0.20%を超える含有は、溶接熱影響部の靱性を劣化させる。このため、Cは0.001〜0.20%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.01〜0.15%である。
【0018】
Si:0.10〜0.40%
Siは、脱酸剤として作用するとともに、強度を増加させる元素であり、本発明では、0.10%以上の含有を必要とするが、0.40%を超える含有は、鋼の靱性を劣化させる。このため、Siは0.10〜0.40%の範囲に限定した。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、鋼材の強度を増加させる元素であり、所望の強度を確保するために0.5%以上を必要とする。一方、2.0%を超える含有は、鋼の靱性および溶接性を低下させる。このため、Mnは0.5〜2.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.5〜1.5%であり、より好ましくは、0.8〜1.2%である。
【0019】
P:0.020%以下
Pは、粒界に偏析して鋼の靱性を低下させる有害な元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.020%を超えて含有すると靱性が顕著に低下する。このため、Pは0.020%以下に限定した。なお、0.005%未満の低減は製造コストの増大を招くので、Pは0.005〜0.020%とするのが好ましい。
【0020】
S:0.010%以下
Sは、非金属介在物のMnSを形成して原油タンク底板の耐全面腐食性を低下させる有害な元素であり、できるだけ低減するのが好ましいが、0.010%を超える含有は、原油タンク底板の耐全面腐食性の顕著な低下を招く。このため、Sは0.010%以下に限定した。なお、0.003%未満の低減は製造コストの増大を招くので、Sは0.003〜0.010%するのが好ましい。
【0021】
Al:0.01〜0.50%
Alは、脱酸剤として作用する元素であり、本発明では0.01%以上の含有を必要とする。一方、0.50%を超えて含有すると、鋼の靱性が著しく劣化する。このため、Alは0.01〜0.50%の範囲に限定した。なお、Alは、Cl− により破壊された腐食生成皮膜を修復し局部腐食の進行を抑制する作用を有している。このような作用は0.10%を超えてAlを含有する場合に顕著となる。0.10%を超えてAlを含有することにより、鋼の靭性はやや劣化するが、しかし、Cl− 濃度がNaCl換算で5質量%以上の高濃度の腐食環境下でCl− により腐食生成皮膜が破壊されても、修復され、局部腐食の進行が抑制される。なお、好ましくは0.10超え〜0.20%である。
【0022】
なお、通常のCl− 濃度(NaCl換算で3質量%)の腐食環境での用途であれば、靭性劣化を考慮して、Alは0.01〜0.10%の範囲で十分であり、好ましくは、0.02〜0.05%である。
Cr:0.50〜1.50%、または2.5〜6.0%
Crは、腐食の進行にともない腐食生成皮膜中に移行し、Cl− の皮膜への侵入を遮断して、腐食生成皮膜と地鉄の界面におけるCl− の濃縮を低減させる作用を有する。このような効果は、0.50%以上の含有で認められる。一方、1.50%を超えて含有すると、局部腐食のカソード反応サイトの役割を果たす強固な腐食生成皮膜の形成を促進し、局部腐食を促進させる。
【0023】
また、Crは、2.5%以上の含有で、Cl− の皮膜への進入を遮断するとともに、Cl− によって破壊されない強固な腐食生成皮膜を生成させる作用を有する。一方、6.0%越えて含有すると、腐食生成皮膜に緻密さが失われ、Cl− の皮膜への侵入が起こるため、局部腐食が発生する。このため、Crは0.50〜1.50%に、または2.5〜6.0%の範囲に限定した。なお、好ましくは、0.80〜1.20%、または、3.0〜5.0%である。
【0024】
Cu:0.10%未満
Cuは、局部腐食のカソード反応サイトの役割を果たす強固な腐食生成皮膜の生成を促進する元素であり、本発明ではできるだけ低減する。Cuを0.10%以上含有すると腐食生成皮膜の形成が顕著に促進され、局部腐食の進行が助長される。このため、Cuは0.10%未満に限定した。なお、好ましくは0.05%未満である。
【0025】
Ni:0.10%未満
Niも、Cuと同様に、局部腐食のカソード反応サイトの役割を果たす強固な腐食生成皮膜の生成を促進する元素であり、本発明ではCuと同様にできるだけ低減する。Niを0.10%以上含有すると腐食生成皮膜の形成が顕著に促進され、局部腐食の進行が助長される。このため、Niは0.10%未満に限定した。なお、好ましくは0.05%未満である。
【0026】
Mo:0.10%未満
Moは、Cu、Niと同様に、局部腐食のカソード反応サイトの役割を果たす強固な腐食生成皮膜の生成を促進する元素であり、本発明ではCu、Niと同様にできるだけ低減する。Moを0.10%以上含有すると腐食生成皮膜の形成が顕著に促進され、局部腐食の進行が助長される。このため、Moは0.10%未満に限定した。なお、好ましくは0.05%未満である。
【0027】
Cu+Ni+Mo≦0.20
Cu、Ni、Moは、それぞれ上記した所定値以下に低減、調整したうえ、Cu、Ni、Moの合計量を、0.20%以下とする。これらの元素は同時に存在すると重畳作用があるため、単独では0.10%未満の含有でもCu、Ni、Moの合計量が、0.20%を超えると、単独で過剰に含有している場合と同様に局部腐食が顕著となる。
【0028】
上記した基本組成に加えてさらに、Ti、Nb、V、Bのうちから選ばれた1種または2種以上、および/またはZr、Ca、REMのうちから選ばれた1種または2種以上を選択して含有することが好ましい。
Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Ti、Nb、V、Bはいずれも、鋼材の強度を増加させる元素であり、必要に応じ選択して1種または2種以上含有することができる。しかし、Ti:0.2%、Nb:0.2%、V:0.2%、B:0.005%を、それぞれ超えて含有すると、靱性が劣化する。このため、Ti:0.2%、Nb:0.2%、V:0.2%、B:0.005%を、それぞれの上限とすることが好ましい。
【0029】
Zr:0.2%以下、Ca:0.006%以下、REM:0.006%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
Zr、Ca、REMはいずれも非金属介在物であるMnSの形成を抑制する作用を有しており、必要に応じて選択して含有できる。しかし、Zr:0.2%、Ca:0.006%、REM:0.006%を、それぞれ超えて含有すると、靱性が劣化する。このため、Zr:0.2%、Ca:0.006%、REM:0.006%を、それぞれの上限とするのが好ましい。
【0030】
本発明の鋼材では、上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。なお、不可避的不純物としては、N:0.007%以下、O:0.008%以下が許容できる。
また、上記した組成を有する本発明鋼材の組織は、フェライト単相、フェライト+パーライト、ベイナイト単相、あるいは一部ベイナイトを含む、フェライト+パーライト相のうちのいずれの組織でも何ら問題はない。上記した組織のいずれでも、上記した組成を有する鋼材であれば、原油タンク底板で発生する局部腐食を防止できる優れた局部腐食抵抗性を有する。
【0031】
つぎに、本発明鋼材の好ましい製造方法について説明する。
まず、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法、造塊法等の通常公知の鋳造方法で鋼素材とすることが好ましい。なお、溶鋼に取鍋精錬、真空脱ガス等の処理を付加しても良いことは言うまでもない。
【0032】
ついで、得られた鋼素材を加熱したのち、所望の寸法形状に熱間圧延されるか、あるいは鋼素材の温度が熱間圧延可能な程度に高温である場合には加熱することなく、あるいは均熱する程度でただちに熱間圧延する直送圧延により所望の寸法形状に熱間圧延される。
本発明では、熱間圧延は、所望の寸法形状が得られる条件であれば特に限定されないが、圧延温度、圧下量、冷却条件を制御する、いわゆるTMCP法を適用してもよいことはいうまでもない。なお、圧延後の冷却速度は、空冷とすることが好ましいが、0.1〜20℃/sの範囲の冷却速度で 800℃以下、好ましくは 500℃以上の温度域まで冷却することが靱性の観点から好ましい。また、局部腐食抵抗性を阻害する組織、たとえば、マルテンサイト相が生成されるような冷却条件、例えば25℃/s以上の速い冷却速度を避ける必要がある。
【0033】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼素材(スラブ:120 mm厚)とした。これらスラブを、1200℃に加熱して、熱間圧延を施し、15mm厚の鋼板とした。なお、圧延後は、10℃/sで制御冷却した。
【0034】
これら鋼板から、試験片1(5mm厚×50mm幅×100mm長さ)を切り出し、図1に示す腐食試験装置にセットし、腐食試験を行った。腐食試験装置は、腐食試験槽2、恒温槽3の二重型の装置を用いた。
試験片1を、実原油タンク底板の腐食環境を模擬した腐食試験槽2の試験液6内(液相部)へセットした。使用した試験液6は、ASTM D 1141に規定される人工海水を試験母液とし、試験母液に5%O2+10%H2Sの分圧比に調整した混合ガス4を導入したものを使用した。混合ガスのバランス調整用不活性ガスはN2ガスを用いた。試験液6の温度は、恒温槽3に入れた水7の温度を調整することにより、50℃に保持した。なお、試験期間は1ヶ月間とした。
【0035】
試験後、試験片表面に生成した錆を除去し、腐食形態を目視で観察し、局部腐食発生の有無を判定した。
得られた結果を表1に併記する。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
表1から、本発明例はいずれも、局部腐食の発生は認められず、原油タンク底板に発生する局部腐食に対する抵抗性に優れた鋼材であることがわかる。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、いずれも局部腐食の発生が認められた。(実施例2)
表2に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼素材(スラブ:120 mm厚)とした。これらスラブを、1200℃に加熱して、熱間圧延を施し、15mm厚の鋼板とした。なお、圧延後は、5℃/sで制御冷却した。
【0039】
これら鋼板から、実施例1と同様に、試験片1(5mm厚×50mm幅×100mm長さ)を切り出し、図1に示す腐食試験装置にセットし、腐食試験を行った。腐食試験装置は、実施例1と同様に、腐食試験槽2、恒温槽3の二重型の装置を用いた。
試験片1を、実施例1と同様に、実原油タンク底板の腐食環境を模擬した腐食試験槽2の試験液6内(液相部)へセットした。使用した試験液6は、実施例1と同様に、ASTM D 1141に規定される人工海水を試験母液とし、試験母液に5%O2+10%H2Sの分圧比に調整した混合ガス4を導入したものを使用した。混合ガスのバランス調整用不活性ガスは、実施例1と同様に、N2ガスを用いた。試験液6の温度は、実施例1と同様に、恒温槽3に入れた水7の温度を調整することにより、50℃に保持し、試験期間は1ヶ月間とした。
【0040】
試験後、実施例1と同様に、試験片表面に生成した錆を除去し、腐食形態を目視で観察し、局部腐食発生の有無を判定した。
得られた結果を表2に併記する。
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
表2から、本発明例はいずれも、局部腐食の発生は認められず、原油タンク底板に発生する局部腐食に対する抵抗性に優れた鋼材であることがわかる。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、いずれも局部腐食の発生が認められた。(実施例3)
表3に示す組成を有する溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により鋼素材(スラブ:120 mm厚)とした。これらスラブを、1200℃に加熱して、熱間圧延を施し、15mm厚の鋼板とした。なお、圧延後は、10℃/sで制御冷却した。
【0044】
これら鋼板から、試験片1(5mm厚×50mm幅×100mm長さ)を切り出し、図1に示す腐食試験装置にセットし、腐食試験を行った。腐食試験装置は、腐食試験槽2、恒温槽3の二重型の装置を用いた。
試験片1を、実原油タンク底板の腐食環境を模擬した腐食試験槽2の試験液6内(液相部)へセットした。使用した試験液6は、ASTM D 1141に規定される人工海水、または8質量%塩化ナトリウム水溶液を試験母液とし、これら試験母液に5%O2+10%H2Sの分圧比に調整した混合ガス4を導入したものを使用した。混合ガスのバランス調整用不活性ガスはN2ガスを用いた。試験液6の温度は、恒温槽3に入れた水7の温度を調整することにより、50℃に保持した。なお、試験期間は1ヶ月間とした。
【0045】
試験後、試験片表面に生成した錆を除去し、腐食形態を目視で観察し、局部腐食発生の有無を判定した。
得られた結果を表3に併記する。
【0046】
【表5】
【0047】
【表6】
【0048】
本発明例では、ASTM D 1141に規定される人工海水を試験母液とした場合には、局部腐食の発生は認められないが、8質量%塩化ナトリウム水溶液を試験母液とした場合には、Al含有量が0.10%以下の鋼板No.3−19、No.3−20、No.3−21では局部腐食の発生が認められた。一方、本発明の範囲を外れる比較例は、いずれもASTM D 1141に規定される人工海水を試験母液とした場合にも、局部腐食の発生が認められた。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、原油タンク底板に発生する局部腐食が防止でき、原油タンク底板を塗装なしで構成でき、産業上格段の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例で使用した腐食試験装置の概要を示す模式図である。
【符号の説明】
1 試験片
2 腐食試験槽
3 恒温槽
4 混合ガス
5 ガス排出口
6 試験液
7 水
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.001〜0.20%、 Si:0.10〜0.40%、
Mn:0.5〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.010%以下、 Al:0.01〜0.50%、
Cr:0.50〜1.50%
を含有し、さらにCu、Ni、Moをそれぞれ、Cu:0.10%未満、Ni:0.10%未満、Mo:0.10%未満とし、かつCu、Ni、Moの合計量が0.20%以下であるように調整し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする原油タンク底板用鋼材。 - 質量%で、
C:0.001〜0.20%、 Si:0.10〜0.40%、
Mn:0.5%〜2.0%、 P:0.020%以下、
S:0.010%以下、 Al:0.01〜0.50%、
Cr:2.5〜6.0%
を含有し、さらにCu、Ni、Moをそれぞれ、Cu:0.10%未満、Ni:0.10%未満、Mo:0.10%未満とし、かつCu、Ni,Moの合計量が0.20%以下であるように調整し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有することを特徴とする原油タンク底板用鋼材。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下、B:0.005%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1または2に記載の原油タンク底板用鋼材。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Zr:0.2%以下、Ca:0.006%以下、REM:0.006%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を含有する組成とすることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の原油タンク底板用鋼材。
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