JP2003275296A - 血液適合性材料 - Google Patents

血液適合性材料

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 蛋白の多層吸着を抑制し、長期使用において
も優れた血液適合性を発揮する医療用材料を提供するこ
と。 【解決手段】 スルホン及び/又はスルホキシドの官能
基と脂肪族鎖とエステル基から形成されるポリマーから
なる血液適合性材料。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は血液又は血液成分と
接触する医療用器具、具体的には、人工腎臓、人工心肺
などの人工臓器、それらに使用する血液チューブなどの
医療用器具、血液フィルターや血液成分吸着剤などに適
した血液適合性に優れたポリマーからなる血液適合性材
料に関する。さらに詳しくは、スルホン及び/又はスル
ホキシドの官能基と脂肪族鎖とエステル基から形成され
るポリマーからなる、医療用材料に適した血液適合性材
料に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、医療技術の進歩に伴って、生体組
織や血液と、各種の材料が接触する機会は増加してお
り、材料の生体親和性が大きな問題になってきた。中で
も、蛋白質や血球などの血液成分が材料表面に吸着し変
性することは、血栓形成、炎症反応等の通常では認めら
れない悪影響を生体側に引き起こすばかりでなく、材料
の劣化にもつながり、医療用材料の根本的、かつ、緊急
に解決せねばならない重要な課題となってきている。
【0003】例えば、血液の体外循環に用いる血液回路
や血管内に挿入するカテーテルなどの部材は、外科的医
療において必要不可欠なものであり、外科的医療の技術
の進展に大きく貢献してきた。医療用材料として、高い
機械的強度及び成形性の観点から、ポリエチレン、ポリ
プロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチ
ル、シリコーンゴム、ポリテトラフルオロエチレン、セ
ルロースなどの汎用樹脂が使用されている。これらの素
材の機械的物性が、部材としての要求特性に大きく考慮
されてきた一方で、血液適合性については全く改善され
ず、主に、ヘパリンなどの抗凝固剤の血中投与により、
かろうじて血液凝固などの異物反応を抑制していた。
【0004】しかしながら、最近ヘパリンの長期継続投
与は、脂質代謝異常などの肝臓障害、出血時間の延長あ
るいはアレルギー反応等の副作用を併発することが認め
られている。以上の背景から、血液接触型医療器具を使
用する際に、抗凝固剤の使用量を低減させるか、全く使
用しなくても血液凝固を引き起こさない、血液適合性に
優れた素材の開発が強く望まれるようになってきた。ま
た、細胞培養の担体やDDS(ドラッグデリバリーシス
テム)のキャリア、創傷被覆材などにも血液適合性が求
められている。
【0005】こうした背景から様々な材料開発がこれま
で行われてきた。例えば、基材表面を網目構造にし、そ
こに血管内皮細胞を増殖させ、その表面をもってして血
栓形成を抑制する材料がある(A.Voorhees et al .,Ann
Surg.,332(1952))。これらの材料は、いかに偽内膜を
薄くするか、その脱落を起こしにくくするかが問題であ
り、未だ安定した材料は得られていない。抗血液凝固剤
のヘパリンを基材表面に固定化し、血液適合性を高めた
材料の開発も行われた(V.Gott et al .,Science,142,1
297(1963))。しかし血中にはヘパリン分解酵素が存在
するので、最終的にはヘパリンが失活してしまい、この
タイプのものは長期の使用ができない、という問題を抱
えている。
【0006】また、血栓溶解剤であるウロキナーゼを基
材表面に固定化させる方法も考えられている(B.Kussero
w et al .,Trans.Am.Soc.Artif.Int.Organs.,17,1(197
1))が、固定化されたウロキナーゼは活性が低くなって
しまい、期待した効果が得られなくなってしまう、とい
う問題があり、ウロキナーゼの活性が低下しない固定化
方法が望まれている。血液成分の吸着を抑制するような
合成高分子を表面に固定化する試みもなされている(E.M
errill,Ann.NY.Acad.Sci.,6,283(1977))。水溶性で、高
い運動性を有するポリエチレンオキサイドの固定化はそ
の一例で、分子鎖の運動がいわゆる散漫層を形成し、蛋
白質の吸着が抑制され血栓が形成しにくくなるが、この
ような高含水のポリマーは血小板へダメージを与えやす
いという欠点を有しているとの報告(B.D.RATNER et a
l, J.of Polymer Sci.:Polymer Symposium 66,(197
9))もある。
【0007】表面修飾においては、血管内面を覆う内皮
細胞が最も理想的な材料であるとの観点から、この細胞
膜の主成分であるリン脂質を利用したポリマーが色々と
合成され、研究が進められている。中でも、ホスホリル
コリン基を有するメタクリル酸エステル、2−メタクリ
ロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)は優れ
た血液適合性を示し(Y.Iwasaki et al., J.Biomed.Mat
er.Res.,36,508(1997))、各種医療用具への応用が検討
されている。しかし、材料自身及び固定化方法の煩雑さ
による高コスト化、均質な固定化表層の獲得の困難さ、
といった面での問題が残っている。
【0008】他方で、上例のような表面固定化法とは異
なり、材料表面の構造制御によって抗血栓性を発現させ
る試みもある。この方法はこれまで述べてきた方法が抱
える固定化材料の脱落等の問題を根本から解決するもの
であり、幅広い応用が期待されるものである。これらは
材料表面と血漿蛋白及び血小板との間の物理化学的因子
に基づいた相互作用に着目した設計がなされている。中
でも、材料表面上に微小な表面自由エネルギー差を形成
させた材料が高い血液適合性を示すことが報告されてい
る。代表例としては、ポリマー表面に親水−疎水ミクロ
ドメイン構造を有するヒドロキシエチルメタクリレート
−スチレン−ヒドロキシエチルメタクリレートブロック
共重合体(C.Nojima et al .,ASAIO Transactions,33,5
96(1987))や、ポリマーの結晶性を制御した、ポリアミ
ドセグメントを有するポリプロピレンオキシドブロック
共重合体(N.Yui et al.,J.Biomed.Mater.Res.,20,929
(1981))等があるが、血液との接触に際して補体の活性
化を促すアミノ基や水酸基といった官能基を持ってお
り、血液適合性材料としては不十分である。
【0009】一方、硫黄酸化物を含有した高分子を用い
た医療用材料としては、脂肪族スルホンに関しては、例
えば、遠藤により報告されているもの(金沢大学十全医
学会雑誌Vol.94,No.3,P466-478(1985))や、特開昭58
−92446号公報には、1,5−シクロオクタジエン
と二酸化硫黄の共重合で合成した脂肪族ポリスルホンの
膜が開示されている。これらはいずれも、人工肺に用い
る材料として、酸素透過性の向上を目的としたものであ
り、血漿タンパク質の吸着の抑制や抗血栓性などの血液
適合性の改善については言及していない。また、D.N.Gr
ayにより炭素数6から18のαオレフィンと二酸化硫黄
を共重合させて得た脂肪族ポリスルホン(Polymer Engin
eering and Science, October, Vol.17, No.10,719-723
(1997))が、やはり人工肺用材料として報告されている
が、血液適合性については炭素数16の脂肪族ポリスル
ホンの血液凝固性を確認しているのみである。ガラスや
シリコン化ガラス表面に比べて血栓生成時間の延長を認
めているが、これは長い脂肪族鎖の低い自由エネルギー
による影響と結論づけている。
【0010】以上述べたように、抗血栓性などの血液適
合性を目的として積極的にスルホンの官能基を導入した
ものは見当たらない。また、これらはいずれもスルホン
基と脂肪族鎖から形成されている。スルホキシドに関し
ては、Li Dengらにより、金担体上に形成させたトリ
(プロピレンスルホキシド)基を持つアルカンチオレー
トとウンデカンチオールの混合物からなる自己集合単分
子層では、その表面へのタンパク吸着が減少することが
報告されている(J.Am.Chem.Soc., Vol.118, No.21, 51
36-5137(1966).)が、このスルホキシドは繰り返し単位
が3程度のオリゴマーであり、ポリマーとしてのスルホ
キシドの血液適合性についての記載はない。
【0011】また、脂肪族鎖とスルホンやスルホキシド
の官能基を有するポリマーの合成法としては、上述した
遠藤やD.N.Grayの報告や特開昭58−92446号公報
に見られるような対応するアルケンと二酸化硫黄との共
重合や、今井らの報告(高分子論文集、Vol.37、No.6、
445−448、(1980))に見られるような脂肪
族ジチオールと脂肪族ジハライドとの縮重合で得られた
ポリスルフィドを酸化する方法が知られているのみであ
る。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、前記
問題点を解決し、血液又は血液成分と接触する医療器
具、具体的には、人工腎臓、人工心肺などの人工臓器、
それらに使用する血液チューブなどの医用器具、血液フ
ィルターや血液成分吸着剤などに適した血液適合性材料
を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】本発明は、以下のとおり
である。 [1] スルホン及び/又はスルホキシドの官能基と脂
肪族鎖とエステル基から形成されるポリマーからなる血
液適合性材料。 [2] スルホン及び/又はスルホキシドの官能基と脂
肪族鎖とエステル基により主鎖のコポリマーが形成され
ている請求項1記載の血液適合性材料。 [3] 脂肪族鎖がメチレン基、エチレン基、プロピレ
ン基及びブチレン基から選ばれる一種又は二種以上の組
み合わせである請求項2記載の血液適合性材料。 [4] 脂肪族鎖とスルホン及び/またはスルホキシド
の官能基からなり両末端に水酸基を持つジオールと、両
末端にカルボキシル基を持つジカルボン酸の縮重合によ
り合成することを特徴とする血液適合性材料の製造方
法。 [5] 脂肪族鎖がメチレン基、エチレン基、プロピレ
ン基及びブチレン基から選ばれた一種又は二種以上の組
み合わせである請求項4記載の血液適合性材料の製造方
法。
【0014】一般に、血液と接触した材料表面にはアル
ブミン、γ−グロブリン、フィブリノーゲンのような血
漿蛋白質が吸着し、その後、これらは高次構造を変化さ
せる。この高次構造の変化により、更なる蛋白質の吸着
が促進され、材料表面には多層の蛋白吸着層が形成され
る。このような多層蛋白吸着層は、これと接触する血小
板を活性化させ、最終的には血液が凝固することとな
る。そのため、血漿蛋白質の材料表面への吸着を抑制
し、血小板の活性化を回避することが血液適合性を得る
上で重要であると考えられている。
【0015】例えば、「高分子と医療」(竹本喜一ほ
か,P5,三田出版会(1989))によれば、血漿タンパク
質との相互作用が著しく低い材料表面は、優れた抗凝血
性を示すことが指摘されている。材料表面への蛋白質の
吸着に関しては、材料に収着された水の構造が材料表面
と蛋白質との相互作用をコントロールする重要な因子で
あり、収着水構造がバルク水の構造と類似している場合
にタンパク質の吸着が大幅に抑制されることをすでに本
発明者が見出している(特開平09-122462号公報)。因
みにここで使用した「収着」という用語は「吸着」と
「吸収」を統合した用語であり、収着水とは材料の表面
に吸着あるいは表面近傍に吸収された水のことである。
【0016】すなわち、材料表面と高分子溶質の存在す
る水溶液が接する面においては、通常、様々な界面現象
が観測される。例えば、高分子溶質が蛋白質であり、材
料が疎水性の強いものであれば、多量の蛋白質の吸着が
観測される。材料表面を親水性に加工することによっ
て、ある程度の吸着の抑制は可能であるが、多くの例外
が認められ、親水性(濡れ性)、すなわち、蛋白非吸着
表面といえる程単純な現象ではないことが知られてい
る。
【0017】本発明者は、材料近傍の水構造に着目し、
収着水構造を解析する上で赤外吸収スペクトルを用い、
種々の官能基を有する材料の収着水構造と蛋白質の吸着
特性に関し研究を行った結果、赤外吸収スペクトルにお
ける材料表面と相互作用した水の吸収バンドの分布がバ
ルク水のそれに近いほど、材料表面への蛋白質の吸着が
抑制される傾向があることを見出している。本発明者
は、種々の官能基に相互作用する水の構造に関して鋭意
検討した結果、スルホン基、スルホキシド基に相互作用
する水の構造が特にバルク水に近いことを発見し、これ
らの官能基を含有するポリマーが蛋白質の吸着を大幅に
抑制し得ることを見出し、さらに該ポリマーの合成法と
して脂肪族鎖とスルホン及び/またはスルホキシドの官
能基からなり両末端に水酸基を持つジオールと、両末端
にカルボキシル基を持つジカルボン酸の縮重合で鎖長延
長することにより、本発明を完成したものである。
【0018】本発明において、血液適合性材料とは、血
液と接触した際に発生する血液凝固が抑制された材料の
ことをさすが、より詳しくは、血液凝固を引き起こす原
因となる材料表面への血小板の付着と活性化は材料表面
に血漿蛋白質が吸着することが引き金になるが、この血
漿蛋白質の吸着が抑制された材料のことを指す。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明
する。材料表面の収着水構造を評価するために、本発明
者は、赤外吸収スペクトルの収着水由来である3400
cm-1付近の吸収ピークの重心波数を用いた。赤外吸収
スペクトルにおける3400cm-1付近の吸収ピークを
3650cm -1付近、3550cm-1付近、3450c
-1付近、3250cm-1付近の4種のコンポーネント
にカーブフィッティングプログラムを用いて分離する。
得られた各コンポーネントのピーク波数及び相対面積比
より、相対面積比を重みとして重みつき平均により重心
波数(Cwn)を求める。
【0020】一般に、表面への蛋白吸着が比較的多いと
みられる、例えば、芳香族ポリスルホンやポリメタクリ
ル酸メチル、ポリアクリロニトリルの主たる官能基であ
る、芳香環、エステル結合、ニトリル基を有するトルエ
ン、酢酸メチル、アセトニトリルに水を1質量%添加し
相互作用した水の赤外吸収スペクトルを調べてみると、
その重心波数はそれぞれ3653cm-1、3573cm
-1、3549cm-1であり、バルク水の3366cm-1
より大きく高波数側に偏っている。
【0021】これに対して、一般に、蛋白質の吸着を抑
制する傾向のある、例えば、ポリエチレングリコールや
ポリビニルピロリドンの主たる官能基であるエーテル結
合、アミド結合を有するテトラヒドロフラン、ジメチル
ホルムアミドに水を1質量%添加し相互作用した水の赤
外吸収スペクトルを調べると、その重心波数は3507
cm-1、3480cm-1と比較的バルク水に近い数字を
示した。このことから相互作用する水の構造がバルク水
に近くなる官能基を有する材料表面ほど蛋白質の吸着が
抑制されることが推定される。
【0022】ところが、親水性の官能基として、スルホ
ン基、スルホキシド基を有するジメチルスルホン、ジメ
チルスルホキシドに水を1質量%添加し、相互作用した
水の赤外吸収スペクトルを調べると、驚くべきことに、
その重心波数はそれぞれ3405cm-1、3440cm
-1で、バルク水のそれにさらに近いことがわかった。本
発明者はこの知見をもとに、スルホン基、スルホキシド
基を有するポリマーとして2,2’−スルホニルジエタ
ノールとこはく酸の共重合体及び2,2’−スルフィニ
ルジエタノールとこはく酸の共重合体を合成し、その膜
を作製して蛋白質の吸着を調べてみたところ、予想通
り、大幅な蛋白吸着抑制効果が達成されることを確認で
きた。
【0023】ポリマーの構造としては、スルホン基、ス
ルホキシド基の特性をより顕著に発揮させるため、それ
以外の構造の影響はできるだけ小さい方がよい。スルホ
ン基やスルホキシド基及びエステル基を連結する炭素鎖
は、疎水性の強い芳香族鎖(必然的に炭素数6以上にな
る)は避けるべきで、脂肪族鎖が好ましく、しかも可能
な限り鎖長は短い方がよい。本発明の生体適合性材料を
形成する脂肪族鎖は、炭素数5以上ではポリマー全体の
疎水性が強くなり、蛋白が吸着しやすくなる傾向がある
ため、炭素数1から4のものが使用可能である。また、
直鎖状、枝分かれ状のいずれでもよく、このようなもの
としては、例えば、炭素数1の場合はメチレン鎖、炭素
数2の場合はエチレン鎖、炭素数3の場合は1,3−プ
ロピレン鎖、1−メチルエチレン鎖、炭素数4の場合は
1,4−ブチレン鎖、1−メチル−1,3−プロピレン
鎖、2−メチル−1,3−プロピレン鎖、1,1−ジメ
チルエチレン鎖、1,2−ジメチルエチレン鎖などが挙
げられるが、好ましくは炭素数1から3、より好ましく
は1から2、さらに好ましくは1のものが好ましい。
【0024】本発明のポリマーの合成法の例としては、
スルホンやスルホキシドの官能基を有する両末端水酸基
のジオールを両末端カルボン酸のジカルボン酸との縮重
合で鎖長延長して得る方法が挙げられる。この合成反応
は水酸基とカルボキシル基のエステル化反応であり、工
業的にも実施しやすい特長を有する。また脂肪族鎖を有
し両末端が水酸基であるスルフィドのモノマーを用いて
ジカルボン酸との縮重合でポリマーを合成した後、酢酸
やぎ酸を触媒として過酸化水素で酸化してスルホンやス
ルホキシドとする方法もある。
【0025】本発明の血液適合性材料を形成するジカル
ボン酸の例としては、脂肪族鎖の炭素数0の場合はしゅ
う酸、炭素数1の場合はマロン酸、炭素数2の場合はこ
はく酸、炭素数3の場合はグルタル酸、炭素数4の場合
はアジピン酸などがある。また、このジカルボン酸の脂
肪族鎖中にスルホン基やスルホキシド基が含有されてい
てもよく、むしろポリマーのスルホン基含有率、スルホ
キシド含有率が高くなり好適である。
【0026】本発明の血液適合性材料を形成するスルホ
ン基を有するジオールの例としては、 例えば2,2’
−スルホニルジエタノールが挙げられる。またスルホキ
シドの前駆体としてのスルフィドの例としては、例えば
2,2’−チオジエタノールが挙げられる。本発明の化
合物は、その赤外線吸収スペクトルが1020cm-1
近においてスルホキシド基由来の特性吸収、1120c
-1及び1320cm-1付近においてスルホン基由来の
特性吸収また1730cm-1付近においてエステル基由
来の特性吸収を示すのでこれによって同定することがで
きる。
【0027】本発明の化合物の分子量は、それ自体を基
材として用いる場合は、数平均分子量で30,000〜
300,000が好ましい。数平均分子量が300,0
00を越えると成形が難しくなり、30,000未満に
なると機械的強度が低下する。他の基材材料にブレンド
したりコーティングしたりして用いる場合は、数平均分
子量で3,000〜100,000が好ましい。数平均
分子量が100,000を越えるとコーティングが困難
になり、3,000未満では水に溶出しやすくなる。
【0028】本発明の化合物は、分子量や脂肪族鎖の構
造を適当に選ぶことにより、基材そのものとして用いる
ことができるが、用途によっては本発明品を溶剤に溶解
し、他の基材表面にコーティングしてもよく、他のポリ
マーとブレンドして用いることもできる。いずれの場合
でも、本発明のポリマーは水に不溶なので、使用時に溶
出することなく、優れた血液適合性を持続して発揮する
ことができる。本発明の血液適合材料は、例えば、直接
血液成分と接触して用いることが主たる目的となる医療
用材料として、人工腎臓、人工心肺等の人工臓器類、人
工血管、血液透析膜用や人工心肺用の血液チューブ、ブ
ラッドアクセス、又は血液バッグ、カテーテル、さらに
血漿分離膜や血球分離膜等の血液フィルターや血液成分
吸着材等に用いることができる。
【0029】また、血液や細胞など生体へ及ぼす影響が
少ないことから、各種細胞培養の担体やDDSのキャリ
アや創傷被覆材などにも優れた性能を発揮する。このよ
うな材料として本発明の血液適合材料を用いる場合、該
材料自体を基材として用いて中空糸、シート、フィル
ム、チューブとして成形するのみならず、種々の他のポ
リマーとブレンドして用いることもできる。さらに本発
明の血液適合材料を溶媒に溶解し、この溶液を各種基材
表面に塗布し、生体接触表面のみを改質することも可能
である。
【0030】
【実施例】実施例によって本発明を具体的に説明する
が、本発明はこれらの例によって限定されるものではな
い。 <測定法> ・蛋白付着量測定法:BCA法による定量法で行った。
ウシγ−グロブリン20mg(SIGMA社製)を2mlの
1M燐酸緩衝液(和光純薬製)に溶解し、その蛋白溶液
に試験平膜(約1×1cm)を37℃で1時間浸漬させ
た。その後、試験片を1M燐酸緩衝液で洗浄し、1%の
ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬製)を溶解させた1
M燐酸緩衝液0.5mlに37℃で4時間浸漬して吸着
した蛋白を溶解させた。この液中の蛋白濃度をBCAプ
ロテインアッセイキット(PIERCE社製)を用いて
定量した。
【0031】BCAキットによる蛋白の定量は取り扱い
説明書に従って行った。試料を0.1ml採取し、調製
済みのマイクロBCA試薬液を2.0ml加えて軽く攪
拌し、37℃で30分加熱した後、紫外分光光度計で5
62nmの波長における吸光度を測定した。あらかじめ
作製した検量線を使って蛋白濃度を求め、膜の単位面積
あたりの蛋白吸着量を算出した。
【0032】・収着水の重心波数の測定法 得られた平膜を湿度98%RH、温度25℃の雰囲気下
に1時間静置した後、手早く赤外吸収スペクトル測定用
窓材である2枚のフッ化カルシウム板に挟み、日本分光
製FT/IR300を用い、25℃で15回積算測定し
て透過法赤外吸収スペクトルを求めた。別途、乾燥した
同膜の赤外吸収スペクトルを測定しておき、差スペクト
ルをとることにより、膜に収着した水の赤外吸収スペク
トルを得た。
【0033】得られた赤外吸収スペクトルにおける水の
伸縮振動の吸収に由来する3400cm-1付近の吸収ピ
ークを、約3650cm-1、約3550cm-1、約34
50cm-1及び約3250cm-1を中心とする4種のコ
ンポーネントにカーブフィッティングプログラム(日本
分光製CFT-300)を用いて分離した。得られた各コンポ
ーネントのピーク波数及び相対面積比より、相対面積比
を重みとして重みつき平均により重心波数を求めた。
【0034】
【実施例1】2,2’−スルホニルジエタノール(Al
drich製)10.0gとこはく酸(和光純薬(株)
製)7.3gにエステル化の触媒として濃硫酸0.2g
を混合し、攪拌しながら100℃に加熱し、133Paに
減圧して反応で生成する水を除去しながら10時間反応
させた。これを100mlのジメチルスルホキシド(和
光純薬(株)製)に溶解して、1000mlのエタノー
ルに滴下し、ポリマーの沈殿物を得た。沈殿物をエタノ
ールでよく洗浄し、60℃で6時間真空脱溶媒して2,
2’−スルホニルジエタノールとこはく酸の共重合体1
3.0gを得た。この重合体の数平均分子量は、ジメチ
ルスルホキシド−d6を溶媒とした1H−NMR測定にお
ける末端OH基の定量分析から求めたところ、約5,2
00であった。
【0035】続いて、芳香族ポリスルホン(UDEL
P−1700(登録商標)、テイジンアモコエンジニア
リングプラスチックス(株)製)22質量部を1−メチ
ル−2−ピロリドン76質量部に溶解したものに、2,
2’−スルホニルジエタノールとこはく酸の共重合体2
質量部を添加して溶解し、製膜用ドープを調整した。ド
クターブレードを用いて、得られたドープをガラス板上
にキャストした後50℃に温調された1−メチル−2−
ピロリドン:水=95:5の凝固浴中へ1分間浸漬し、
続いて1−メチル−2−ピロリドン:水=50:50の
凝固浴中へ20分間浸漬して相分離させた後、60℃の
熱水で20分づつ3回繰り返し洗浄して平膜Aを得た。
得られた平膜Aを用いて上記測定法に従って平膜Aの収
着水の重心波数(Cwn)、及び蛋白付着率を求めた。
その結果を表1に示す。
【0036】
【実施例2】実施例1において製膜用ドープの組成を芳
香族ポリスルホン17質量部、1−メチル−2−ピロリ
ドン76質量部、2,2’−スルホニルジエタノールと
こはく酸の共重合体7質量部とすること以外同様の操作
を行い、平膜Bを得た。得られた平膜Bについて上記測
定法に従って収着水の重心波数(Cwn)及び蛋白付着
率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、図2に平
膜Bに収着した水の赤外吸収スペクトル及びそれを4つ
のコンポーネントに分けてカーブフィッティングしたと
ころを示す。
【0037】
【実施例3】2,2’−チオジエタノール(和光純薬
(株)製)10.0gとこはく酸9.2gにエステル化
の触媒として濃硫酸0.2gを混合し、攪拌しながら8
5℃に加熱し、133Paに減圧して反応で生成する水を
除去しながら10時間反応させた。これを100mlの
ジメチルスルホキシド(和光純薬(株)製)に溶解し
て、1000mlのエタノールに滴下し、ポリマーの沈
殿物を得た。沈殿物をエタノールでよく洗浄して60℃
で減圧下エタノールを除去して2,2’−チオジエタノ
ールとこはく酸の共重合体13.7gを得た。次に2,
2’−チオジエタノールとこはく酸の共重合体10gを
1000mlのテトラヒドロフラン(和光純薬(株)
製)に溶解し、30%過酸化水素水5.6mlと酢酸2
4mlの混合液を撹拌しながらゆっくり滴下した。30
℃で一晩放置反応させた後、テトラヒドロフランと酢酸
を減圧留去しさらに60℃で6時間真空脱溶媒して2,
2’−スルフィニルジエタノールとこはく酸の共重合体
9.7gを得た。この重合体の数平均分子量は、ジメチ
ルスルホキシド−d6を溶媒とした1H−NMR測定にお
ける末端OH基の定量分析から求めたところ、約4,9
00であった。
【0038】続いて、芳香族ポリスルホン(UDEL
P−1700)22質量部を1−メチル−2−ピロリド
ン76質量部に溶解したものに、2,2’−スルフィニ
ルジエタノールとこはく酸の共重合体2質量部を添加し
て溶解し、製膜用ドープを調整した。ドクターブレード
を用いて、得られたドープをガラス板上にキャストした
後50℃に温調された1−メチル−2−ピロリドン:水
=95:5の凝固浴中へ1分間浸漬し、続いて1−メチ
ル−2−ピロリドン:水=50:50の凝固浴中へ20
分間浸漬して相分離させた後、60℃の熱水で20分づ
つ3回繰り返し洗浄して平膜Cを得た。得られた平膜C
について上記測定法に従って収着水の重心波数(Cw
n)、及び蛋白付着率を求めた。その結果を表1に示
す。
【0039】
【実施例4】実施例3において製膜用ドープの組成を芳
香族ポリスルホン17質量部、1−メチル−2−ピロリ
ドン76質量部、2,2’−スルフィニルジエタノール
とこはく酸の共重合体7質量部とすること以外同様の操
作を行い、平膜Dを得た。得られた平膜Dについて上記
測定法に従って収着水の重心波数(Cwn)、及び蛋白
付着率を求めた。その結果を表1に示す。さらに、図3
に平膜Dに収着した水の赤外吸収スペクトル及びそれを
4つのコンポーネントに分けてカーブフィッティングし
たところを示す。
【0040】
【比較例1】芳香族ポリスルホン(UDEL P−17
00)24質量部、1−メチル−2−ピロリドン76質
量部からなるドープを調整した。ドクターブレードを用
いて、得られたドープをガラス板上にキャストした後、
50℃に温調された1−メチル−2−ピロリドン:水=
95:5の凝固浴中へ1分間浸漬し、続いて、1−メチ
ル−2−ピロリドン:水=50:50の凝固浴中へ20
分間浸漬して相分離させた後、60℃の熱水で20分づ
つ3回繰り返し洗浄して平膜Eを得た。
【0041】得られた平膜Eについて、上記測定法に従
って収着水の重心波数(Cwn)を求めた。その結果を
表1に示す。さらにその際得た赤外吸収スペクトル及び
それを4つのコンポーネントに分けてカーブフィッティ
ングしたところを図4に示した。図1のバルク水に比べ
ると大きく異なり、低波側の3250cm-1付近の成分
が消失し、3450cm-1付近の比率も小さい。相対的
に3650cm-1付近と3550cm-1付近の高波数側
の成分の比率が大きくなっている。平膜Eについて上記
測定法に従って蛋白付着率を求めた結果を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
【参考例1】ジメチルスルホン(関東化成(株)製)1
0gに蒸留水(和光純薬(株)製)0.1gを添加し、
60℃で十分攪拌混合したのち、少量採取し、これを赤
外吸収スペクトル測定用窓材である2枚のフッ化カルシ
ウム板にはさみ、日本分光製FT/IR300を用い、
25℃で15回積算測定して透過法赤外吸収スペクトル
を求めた。予め、蒸留水を添加していないジメチルスル
ホンの赤外吸収スペクトルを測定しておき、差スペクト
ルをとることにより、ジメチルスルホンと相互作用した
水の赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収スペ
クトルから上記の収着水の重心波数の測定法と同様にし
て重心波数を求め、Cwn=3405cm-1を得た。
【0044】
【参考例2】ジメチルスルホキシド(和光純薬製)10
gに蒸留水(和光純薬製)0.1gを添加し、25℃で
十分攪拌混合したのち、少量採取し、赤外吸収スペクト
ル測定用窓材である2枚のフッ化カルシウム板にはさ
み、参考例1と同様の条件で赤外吸収スペクトルを測定
した。別途、蒸留水を添加していないジメチルスルホキ
シドの赤外吸収スペクトルを測定しておき、差スペクト
ルをとることにより、ジメチルスルホキシドと相互作用
した水の赤外吸収スペクトルを得た。得られた赤外吸収
スペクトルから参考例1と同様にして重心波数を求め、
Cwn=3440cm-1を得た。
【0045】
【参考例3】酢酸メチル(和光純薬製)10gに蒸留水
(和光純薬製)0.1gを添加し、25℃で十分攪拌混
合したのち、少量採取し、赤外吸収スペクトル測定用窓
材である2枚のフッ化カルシウム板にはさみ、参考例1
と同様の条件で赤外吸収スペクトルを測定した。別途、
蒸留水を添加していない酢酸メチルの赤外吸収スペクト
ルを測定しておき、差スペクトルをとることにより、酢
酸メチルと相互作用した水の赤外吸収スペクトルを得
た。得られた赤外吸収スペクトルから参考例1と同様に
して重心波数を求め、Cwn=3573cm-1を得た。
【0046】
【参考例4】少量の蒸留水(バルク水)を赤外吸収スペ
クトル測定用窓材である2枚のフッ化カルシウム板には
さみ、参考例1と同様の条件で赤外吸収スペクトルを測
定した。得られた赤外吸収スペクトルから参考例1と同
様にして重心波数を求め、Cwn=3366cm-1を得
た。その赤外吸収スペクトルとカーブフィッティングし
た様子を図1に示す。
【0047】
【発明の効果】本発明のポリマーは血液適合性に優れる
ため、蛋白質や血球などの血液成分の吸着が少なく、吸
着した蛋白質の変性や接触した血小板の粘着、活性化を
抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例4に記載のバルク水の赤外吸収スペクト
ル及びそれを4つのコンポーネントに分けてカーブフィ
ッティングしたところを示す図である。
【図2】実施例2の平膜Bに収着した水の赤外吸収スペ
クトル及びそれを4つのコンポーネントに分けてカーブ
フィッティングしたところを示す図である。
【図3】実施例4の平膜Dに収着した水の赤外吸収スペ
クトル及びそれを4つのコンポーネントに分けてカーブ
フィッティングしたところを示す図である。
【図4】比較例1の平膜Eに収着した水の赤外吸収スペ
クトル及びそれを4つのコンポーネントに分けてカーブ
フィッティングしたところを示す図である。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 スルホン及び/又はスルホキシドの官能
    基と脂肪族鎖とエステル基から形成されるポリマーから
    なる血液適合性材料。
  2. 【請求項2】 スルホン及び/又はスルホキシドの官能
    基と脂肪族鎖とエステル基により主鎖のコポリマーが形
    成されている請求項1記載の血液適合性材料。
  3. 【請求項3】 脂肪族鎖がメチレン基、エチレン基、プ
    ロピレン基及びブチレン基から選ばれる一種又は二種以
    上の組み合わせである請求項2記載の血液適合性材料。
  4. 【請求項4】 脂肪族鎖とスルホン及び/またはスルホ
    キシドの官能基からなり両末端に水酸基を持つジオール
    と、両末端にカルボキシル基を持つジカルボン酸の縮重
    合により合成することを特徴とする血液適合性材料の製
    造方法。
  5. 【請求項5】 脂肪族鎖がメチレン基、エチレン基、プ
    ロピレン基及びブチレン基から選ばれた一種又は二種以
    上の組み合わせである請求項4記載の血液適合性材料の
    製造方法。
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