JP2003167198A - 顕微鏡 - Google Patents
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Abstract
なく、一貫して同じ光軸上を進行させて試料面まで到達
させることにより、光の利用効率に優れ、簡単な光学系
の構成で観察分解能に優れた顕微鏡を提供する。 【解決手段】 レーザー光源1からのレーザー光を波長
変換素子2に入射させて同軸上で基本波とその2倍波と
を得、これらの光を位相変調素子4に入射させて、2倍
波はビーム整形することなく出射させ、基本波はビーム
中央部の強度が周辺部よりも弱くなるように位相変調し
て出射させて、基本波をイレース光として、2倍波をポ
ンプ光として集光光学系8により観察試料9に集光させ
ることにより、ポンプ光により観察試料9内の分子を基
底状態から第1電子励起状態に励起し、イレース光によ
り第1電子励起状態から他の電子状態へ遷移させて、観
察試料9からからの発光を検出光学系10〜14で検出
する。
Description
した試料を機能性の高いレーザー光源からの複数の波長
の光により照明して、高い空間分解能を得る高性能かつ
高機能の新しい光学顕微鏡に関するものである。
の顕微鏡が開発されてきた。また、近年では、レーザー
技術および電子画像技術をはじめとする周辺技術の進歩
により、更に高機能の顕微鏡システムが開発されてい
る。
84552号公報において、複数波長の光で試料を照明
することにより発する二重共鳴吸収過程を用いて、得ら
れる画像のコントラストの制御のみならず化学分析も可
能にした高機能な顕微鏡が提案されている。
の分子を選択し、特定の光学遷移に起因する吸収および
蛍光を観測するものである。この原理について、図7〜
図10を参照して説明する。図7は、試料を構成する分
子の価電子軌道の電子構造を示すもので、先ず、図7に
示す基底状態(S0状態)の分子がもつ価電子軌道の電
子を波長λ1の光により励起して、図8に示す第1電子
励起状態(S1状態)とする。次に、別の波長λ2の光
により同様に励起して図9に示す第2電子励起状態(S
2状態)とする。この励起状態により、分子は蛍光ある
いは燐光を発光して、図10に示すように基底状態に戻
る。
図8の吸収過程や図10の蛍光や燐光の発光を用いて、
吸収像や発光像を観察する。この顕微鏡法では、最初に
レーザー光等により共鳴波長λ1の光で図8のように試
料を構成する分子をS1状態に励起させるが、この際、
単位体積内でのS1状態の分子数は、照射する光の強度
が増加するに従って増加する。
収断面積と単位体積当たりの分子数との積で与えられる
ので、図9のような励起過程においては、続いて照射す
る共鳴波長λ2に対する線吸収係数は、最初に照射した
波長λ1の光の強度に依存することになる。すなわち、
波長λ2に対する線吸収係数は、波長λ1の光の強度で
制御できることになる。このことは、波長λ1および波
長λ2の2波長の光で試料を照射し、波長λ2による透
過像を撮影すれば、透過像のコントラストは波長λ1の
光で完全に制御できることを示している。
による脱励起過程が可能である場合には、その発光強度
はS1状態にある分子数に比例する。したがって、蛍光
顕微鏡として利用する場合には画像コントラストの制御
が可能となる。
法では、上記の画像コントラストの制御のみならず、化
学分析も可能にする。すなわち、図7に示される最外殻
価電子軌道は、各々の分子に固有なエネルギー準位を持
つので、波長λ1は分子によって異なることになり、同
時に波長λ2も分子固有のものとなる。
も、ある程度特定の分子の吸収像あるいは蛍光像を観察
することが可能であるが、一般にはいくつかの分子にお
ける吸収帯の波長領域は重複するので、試料の化学組成
の正確な同定までは不可能である。
微鏡法では、波長λ1および波長λ2の2波長により吸
収あるいは発光する分子を限定するので、従来法よりも
正確な試料の化学組成の同定が可能となる。また、価電
子を励起する場合、分子軸に対して特定の電場ベクトル
をもつ光のみが強く吸収されるので、波長λ1および波
長λ2の偏光方向を決めて吸収または蛍光像を撮影すれ
ば、同じ分子でも配向方向の同定まで可能となる。
00102号公報において、二重共鳴吸収過程を用いて
回折限界を越える高い空間分解能をもつ蛍光顕微鏡も提
案されている。
の概念図で、基底状態S0の分子が、波長λ1の光で第
1電子励起状態であるS1に励起され、更に波長λ2の
光で第2電子励起状態であるS2に励起されている様子
を示している。なお、図11はある種の分子のS2から
の蛍光が極めて弱いことを示している。
の場合には、極めて興味深い現象が起きる。図12は、
図11と同じく二重共鳴吸収過程の概念図で、横軸のX
軸は空間的距離の広がりを表わし、波長λ2の光を照射
した空間領域A1と波長λ2の光が照射されない空間領
域A0とを示している。
1の光の励起によりS1状態の分子が多数生成され、そ
の際に空間領域A0からは波長λ3で発光する蛍光が見
られる。しかし、空間領域A1では、波長λ2の光を照
射したため、S1状態の分子のほとんどが即座に高位の
S2状態に励起されて、S1状態の分子は存在しなくな
る。このような現象は、幾つかの分子により確認されて
いる。これにより、空間領域A1では、波長λ3の蛍光
は完全になくなり、しかもS2状態からの蛍光はもとも
とないので、空間領域A1では蛍光自体が完全に抑制さ
れ(蛍光抑制効果)、空間領域A0からのみ蛍光が発す
ることになる。
ると、極めて重要な意味を持っている。すなわち、従来
の走査型レーザー顕微鏡等では、レーザー光を集光レン
ズによりマイクロビームに集光して観察試料上を走査す
るが、その際のマイクロビームのサイズは、集光レンズ
の開口数と波長とで決まる回折限界となり、原理的にそ
れ以上の空間分解能は期待できない。
波長λ2との2種類の光を空間的に上手く重ね合わせ
て、波長λ2の光の照射により蛍光領域を抑制すること
で、例えば波長λ1の光の照射領域に着目すると、蛍光
領域を集光レンズの開口数と波長とで決まる回折限界よ
りも狭くでき、実質的に空間分解能を向上させることが
可能となる。したがって、この原理を利用することで、
回折限界を越える二重共鳴吸収過程を用いた超解像顕微
鏡、例えば蛍光顕微鏡を実現することが可能となる。
例えば特開平11−95120号公報において、超解像
顕微鏡の機能を十分に活かすための蛍光ラベラー分子
や、利用する波長λ1および波長λ2の2つの光の試料
への照射タイミング等が開示されている。この先行技術
では、少なくとも基底状態を含む3つの量子状態を有
し、第1電子励起状態を除く高位のエネルギー状態から
基底状態へ脱励起するときの遷移が蛍光による緩和過程
よりも熱緩和過程が支配的である各種分子を染色する蛍
光ラベラー分子と、生化学的な染色技術を施した生体分
子とを化学結合させた試料を、染色する分子を励起する
波長λ1の光でS1状態に励起し、続いて波長λ2の光
により即座に高位の量子準位に励起することで、S1状
態からの蛍光を抑制するようにしている。このように分
子の光学的性質を利用して、空間的な蛍光領域を人為的
に抑制することで、空間分解能の向上を図ることができ
る。
的な立場から説明することができる。すなわち、一般
に、分子はそれを構成する各原子がσまたはπ結合によ
って結ばれている。言い換えると、分子の分子軌道は、
σ分子軌道またはπ分子軌道を有していて、これらの分
子軌道に存在する電子が各原子を結合する重要な役割を
担っている。そのなかでも、σ分子軌道の電子は各原子
を強く結合し、分子の骨格である分子内の原子間距離を
決めている。これに対して、π分子軌道の電子は各原子
の結合にほとんど寄与しないで、むしろ分子全体に極め
て弱い力で束縛されている。
励起すると、分子の原子間隔が大きく変化し、分子の解
離を含む大きな構造変化が起こる。その結果、原子の運
動エネルギーや構造変化のために、光が分子に与えたエ
ネルギーのほとんどが熱エネルギーに変化する。したが
って、励起エネルギーは蛍光という光の形態では消費さ
れない。また、分子の構造変化は極めて高速(ピコ秒よ
り短い)に起こるので、その過程で仮に蛍光が起きても
その寿命が極めて短い。
ても分子の構造自体はほとんど変化せず、高位の量子的
な離散準位に長時間とどまり、ナノ秒オーダで蛍光を放
出して脱励起する性質を有している。
つことと、二重結合をもつこととは同等であり、用いる
蛍光ラベラー分子には、二重結合を豊富にもつ分子を選
定することが必要条件となる。このことは、二重結合を
もつ分子でもベンゼンやピラジン等の6員環分子におい
て、S2励起状態からの蛍光が極めて弱いことが確かめ
られている(例えば、M.Fujii et.al.Chem.Phys.Lett.1
71(1990)341)。
環分子を含む分子を蛍光ラベラー分子として選定すれ
ば、S1状態からの蛍光寿命が長く、しかも光励起によ
りS1状態からS2状態に励起することで、分子からの
蛍光を容易に抑制できるので、超解像性を効果的に利用
することができる。すなわち、これら蛍光ラベラー分子
により染色して観察を行なえば、高空間分解能で試料の
蛍光像を観察することができるのみならず、その分子の
側鎖の化学基を調整することにより、生体試料の特定の
化学組織のみを選択的に染色できるので、試料の詳細な
化学組成までも分析可能となる。
の波長や偏光状態等が特定の条件を満たすときにのみ起
こるので、これを用いることで分子の構造を非常に詳細
に知ることができる。すなわち、光の偏光方向と分子の
配向方向とは強い相関関係があり、2つ波長の光のそれ
それの偏光方向と分子の配向方向とが特定の角度をなす
とき、二重共鳴吸収過程が強く起こる。したがって、2
つ波長の光を試料に同時に照射して、それぞれの光りの
偏光方向を回転することにより、蛍光の消失の程度が変
化するので、その様子から観測しようとする組織の空間
配向の情報も得ることができる。このことは、2つ光の
波長を調整することでも可能である。
20号公報記載の技術によると、超解像性以外にも、高
い分析能力を有していることがわかる。さらに、波長λ
1と波長λ2との2つの光の照射タイミングを工夫する
ことで、S/Nを改善し、かつ蛍光抑制を効果的に起こ
すことができ、超解像性をより効果的に発現することが
可能となる。
て、例えば特開2001−100102号公報には、蛍
光ラベラー分子をS0状態からS1状態へ励起する波長
λ1の光(特にレーザー光)をポンプ光とし、S1状態
からS2状態へ励起する波長λ2の光をイレース光とし
て、図13に示すように、光源81からポンプ光を、光
源82からイレース光をそれぞれ放射させ、ポンプ光は
ダイクロイックミラー83で反射させた後、輪帯光学系
84により試料85上に集光させ、イレース光は位相板
86で中空ビーム化した後、ダイクロイックミラー83
を透過させてポンプ光と空間的に重ね合わせて輪帯光学
系84により試料85上に集光させるようにしたものが
提案されている。
ゼロとなる光軸近傍以外の蛍光は抑制されるので、結果
的にポンプ光の広がりより狭い領域(Δ<0.61・λ
1/NA、NAは輪帯光学系84の開口数)に存在する
蛍光ラベラー分子のみが観察されることになり、結果的
に超解像性が発現することになる。なお、イレース光を
中空ビーム化する位相板86は、例えば、図14に示す
ように、光軸に対して点対称な位置で位相差πを与える
ように構成したものや、液晶面を用いた液晶空間変調器
を用いることができる。
れている超解像蛍光顕微鏡にあっては、以下に説明する
ような問題がある。
うに構成した場合を例にとって説明する。図15に示す
超解像蛍光顕微鏡は、上記の特開2001−10010
2号公報に開示されているもので、ローダミン6Gで染
色された試料100を観察するものである。この顕微鏡
では、モードロック型のNd:YAGレーザー101か
ら出射される波長1064nmのレーザー光をベータ硼
酸バリウム(BBO)結晶からなる波長変換素子102
により2倍高調波の波長532nmのレーザー光に波長
変換し、このレーザー光をハーフミラー103で透過光
と反射光との二光路に分岐して、その透過光をポンプ光
としてダイクロイックミラー104および105を順次
透過させた後、対物レンズ106により二次元移動ステ
ージ107上に載置された試料100に集光させるよう
にしている。
反射ミラー108で反射させた後、Ba(NO3)2 結
晶からなるラマンシフター109で波長599nmのレ
ーザー光に波長変換し、このレーザー光をイレース光と
して反射ミラー110で反射させた後、位相板111に
より中空ビームに整形し、さらにダイクロイックミラー
104によりポンプ光と同軸上に揃えて、ダイクロイッ
クミラー105を経て対物レンズ106により試料10
0に集光させるようにしている。
ズ106を経てダイクロイックミラー105で反射させ
た後、蛍光集光レンズ112、シャープカットフィルタ
ー113およびピンホール114を経てフォトマル11
5で受光するようになっている。なお、試料100に投
射されるポンプ光およびイレース光は、フォトマル11
6で受光され、その出力に基づいてNd:YAGレーザ
ー101から出射されるレーザー光の強度が一定となる
ように制御されるようになっている。
下のような問題が生じる。 1)光路分割用のハーフミラー103や光路合成用のダ
イクロイックミラー104を用いるため、光量のロス等
が発生する。 2)ポンプ光とイレース光との光路長が異なるため、N
d:YAGレーザー101をパルス発光させた場合に
は、試料面上における光の照射タイミングがずれるの
で、その補償光学系が必要となる。 3)ダイクロイックミラー104で、ポンプ光とイレー
ス光とを同軸上に揃えるには、実際にはそれぞれの光に
対して独立のあおり機構が必要になると共に、その調整
には熟練した技術を要することになる。 4)ポンプ光とイレース光とが独立に位置ずれを起こし
た場合には、試料面で所望の空間的な重なりが実現せ
ず、蛍光抑制が理想条件より大きくずれて、空間分解能
の劣化や蛍光強度の揺らぎが大きくなる。
発明の目的は、ポンプ光とイレース光とを光路分岐する
ことなく、一貫して同じ光軸上を進行させて試料面まで
到達させることにより、光の利用効率に優れ、しかも簡
単な光学系の構成で観察分解能に優れた顕微鏡を提供す
ることにある。
項1に係る発明は、少なくとも基底状態を含む3つの電
子状態を有する分子を含む試料を観察する顕微鏡であっ
て、レーザー光源と、このレーザー光源から出射したレ
ーザー光の基本波の一部を、同軸上で2倍波に変換する
波長変換素子と、この波長変換素子から出射した上記2
倍波はビーム整形することなく出射させ、上記基本波は
ビーム中央部の強度が周辺部よりも弱くなるように位相
変調して出射する位相変調素子と、この位相変調素子か
ら出射した上記基本波および2倍波を観察試料に集光す
る集光光学系と、上記観察試料からからの発光を検出す
る検出光学系と、を有し、上記2倍波により、上記観察
試料内の上記分子を基底状態から第1電子励起状態に励
起し、上記基本波により第1電子励起状態から他の電子
状態へ遷移させるよう構成したことを特徴とするもので
ある。
顕微鏡において、上記レーザー光源は、Nd:YAGレ
ーザーであることを特徴とするものである。
に記載の顕微鏡において、上記波長変換素子は、非線形
光学素子からなることを特徴とするものである。
顕微鏡において、上記非線形光学素子は、ベータ棚酸バ
リウムの結晶からなることを特徴とするものである。
ずれか一項に記載の顕微鏡において、上記位相変調素子
は、空間的に屈折率分布を有する位相板からなることを
特徴とするものである。
顕微鏡において、上記位相板は、入射するビームの光軸
対称に90度毎にλ/4(λは基本波の波長)の位相差
を与えるよう構成されていることを特徴とするものであ
る。
顕微鏡において、上記位相板は、入射するビームの光軸
を中心とする円形領域で位相変調するよう構成されてい
ることを特徴とする。
顕微鏡において、上記円形領域は、上記基本波に対する
位相変調度合いがπであることを特徴とするものであ
る。
顕微鏡において、上記円形領域は基板上に形成された蒸
着膜を有しており、入射するレーザー光のビーム径に対
する上記円形領域の半径比をρ、上記円形領域における
レーザー光の透過率をB、上記円形領域以外の上記基板
におけるレーザー光の透過率をAとするとき、A−2B
ρ2=0、を満たすことを特徴とするものである。
記載の顕微鏡において、上記位相変調素子は、液晶空間
光変調器からなることを特徴とするものである。
て説明する。図1は蛍光抑制効果の基礎をなす2重共鳴
吸収過程を説明するための振動励起準位を含む分子のエ
ネルギーダイヤグラムを示すもので、分子の基底状態
(S0)、蛍光発光に強く関与する第1電子励起状態
(S1)および2重共鳴吸収過程に強く関与する第2電
子励起状態(S2)が模式的に描かれている。
子では、無数の振動励起状態(v1,v2,・・・,v
n)が存在し、しかも各電子励起状態と量子的に強く結
合している。一方、基底状態(S0)と第1電子励起状
態(S1)とのエネルギー間隔は一般に大きく、振動励
起状態(v1,v2,・・・,vn)は比較的広いエネ
ルギー間隔をもち、いわゆる「まばら」に存在する。こ
れに対し、第1電子励起状態よりも高い電子励起状態間
のエネルギー間隔は極めて接近している。その結果、振
動励起状態(v′1,v′2,・・・,v′n)は、こ
の接近した電子励起状態間のエネルギー領域に極めて
「密」に存在し、あたかも連続的なプロードな量子状態を
形成する。しかも、量子化学の理論によれば、電子励起
状態自身もその波動関数が互いに混合するため、その傾
向がますます強まる。
も高いエネルギーをもつ振動励起準位は、第2電子励起
状態(S2)とも確率的にカップリングするので、もし
この振動励起準位でイレース光によりS1状態の分子を
励起すれば、その確率で第2電子励起状態(S2)の分
子が生成されので、原理的には2重共鳴吸収過程が可能
となる。また、この振動励起準位に分子を励起するとS
1状態に戻らず、蛍光を発することなく基底状態(S
0)に直接脱励起することもある。
観点から考察すると、イレース光の光子エネルギー、言
い換えると波長の選定条件は、実質上、極めて緩くな
る。特に、超解像顕微鏡法の基礎をなす蛍光抑制効果を
誘起するためには、基底状態(S0)から第1電子励起
状態(S1)に遷移しても蛍光を発光することができな
いような小さい光子エネルギーのイレース光を用いれば
よい、と言うことを意味する。そして、そのような条件
の一つとして、イレース光子エネルギーがポンプ光のそ
れの半分となる場合が存在する。波長換算すると、イレ
ース光の波長がポンプ光のそれの倍となる条件である。
例えば、ローダミン系の分子では、ポンプ光が波長50
0nm近傍、イレース光が波長1000nm前後、とい
う条件で蛍光抑制効果を誘起できる。
光のビーム形状整形が不可欠であるが、上記のようなポ
ンプ光とイレース光との波長選定は、ビーム形状整形作
業の際に極めて魅力的な条件を提供する。すなわち、超
解像顕微鏡おけるイレース光のビーム整形は、該ビーム
を位相変調するのが一般であり、例えば上記の特開20
01−100102号公報には、イレース光の光路に光
軸面において光軸に対して対称に4分割した位相板を挿
入してイレースを空間変調することにより、イレース光
を理想的な中空ビームに整形することが開示されてい
る。また、図14に示したような光軸に関して位相が2
π周回するような位相差をイレース光に与える位相板の
例もある。これらの位相板の機能を一言で言えば、集光
したときに光軸対称のビーム面を通過する光の位相が反
転するために、言い換えるとπずれているために、ビー
ム中央で電場強度がゼロになると言うことである。
光の波長をポンプ光の倍に設定して、空間位相変調によ
るイレース光のビーム整形を行なうと、非常に興味深い
現象が期待できる。すなわち、図14で示したような位
相板をイレース光波長に対して設計すると、当然、イレ
ース光は集光すると光軸上で電場がキャンセルされ、中
空状のビームとなる。このような位相板は、具体的に
は、ガラス基板に厚みコントロールした蒸着膜を形成し
たり、ガラス基板を直接エッチングしたりして作製する
ことができる。
た位相板は、ビームプロファイルに対してポンプ光には
如何なる影響も与えない。なぜなら、近赤外・可視光領
域ではガラス基板をはじめとする多くの物質は屈折率が
ほぼ一定であるからである。例えば、BK7では屈折率
がほぼ1.5であり、数%程度しか変化しない。このた
め、ポンプ光は位相板を通過しても、光軸に対して対称
位置を通る光は位相がイレース光と比較して2倍の2π
の変化を与えることになり、結局、この光を集光しても
電場はキャンセルされず、位相板通過する前の光を集光
した場合と同様のガウシアン関数タイプの光軸中央で強
度極大を持つ、見慣れたパターンが得られることにな
る。
の場合、レーザー光源が用いられている。また、レーザ
ー光の波長変換には、一般に非線形光学結晶が用いられ
ており、この結晶にレーザー光(基本波)を通すことに
より、その一部の光を非線形光学効果により波長が半分
の光(2倍波)に変換するようにしている。この場合、
結晶からは入射レーザー光と波長変換された光とが同軸
上に出射されるので、通常はダイクロイックミラー等で
波長分離し、単色化して利用される。このような非線形
光学結晶としてはベータ硼酸バリウム(BBO)が有名
であり、代表的な固体レーザーであるNd:YAGレー
ザー等の波長変換素子として多用されている。
最適設計して、基本波と2倍波とを同軸で通過させる
と、2倍波は形状が変化せずレーザー光特有のガウシア
ンビームのままであるが、基本波は中空形状のビームと
なる。したがって、非線形光学結晶から同軸上に出射さ
れる基本波および2倍波を、それぞれイレース光および
ポンプ光として利用して位相板に入射させるようにすれ
ば、イレース光とポンプ光とを同軸上に重ね合わせる光
学素子が不要となり、光学系を極めて簡単に構成するこ
とが可能となる。しかも、イレース光およびポンプ光は
同じダイバージェンスで発光しているので、同じ顕微鏡
対物レンズで試料上に集光する際も、ポンプ光用および
イレース光用の独立したダイバージェンス調整レンズが
不要となる。さらに、ポンプ光およびイレース光は独立
して位置ずれすることがないので、観察分解能の低下防
止にも寄与することができる。これにより、上述した従
来の超解像蛍光顕微鏡における問題を完全に解決するこ
とが可能となる。
の形態について、図2〜図6を参照して説明する。
で、図2は顕微鏡の光学系の構成を示す図であり、図3
〜5は図2の構成の顕微鏡で使用可能な位相板の三つの
変形例を示す図である。本実施の形態の顕微鏡は、イレ
ース光を中空ビーム化して超解像性を発現させて空間分
解能を向上させたレーザー走査型の超解像蛍光顕微鏡
で、ローダミン6Gで染色された生体試料を観察するも
のである。
励起波長帯域で基底状態(S0)から第1電子励起状態
(S1)への励起による吸収が最大となる。また、第1
電子励起状態(S1)から、よりエネルギー的に高い高
位の電子励起状態に励起できる吸収帯が、波長600〜
650nmの領域に存在するが、波長1000nm前後
の近赤外領域にも上述したように振動励起準位が存在す
る。
びイレース光発生用のレーザー光源としてレーザーダイ
オード(LD)励起型のモードロックNd:YAGレー
ザー1を用い、その基本波(波長1064nm)をイレ
ース光として、2倍波(波長532nm)をポンプ光と
して用いる。なお、LD励起型のモードロックNd:Y
AGレーザー1は、レーザー共振器の設計パラメータの
調整により、MHzオーダーの繰り返し周波数で、ピコ
秒のレーザーパルスを発振することができる。例えば、
スイス:Time-Bandwidth社製のGE−100シリーズ
は、標準仕様で、100MHzの繰り返し周波数におい
て、パルス幅:6psecのパルス光を平均出力50mWで
発振することができる。これは、1パルスの持つエネル
ギーが、500pJに対応する。また、共振器を設計変
更することで、繰り返し周波数を、25MHz〜1GH
zの間で調整することができる。
Nd:YAGレーザー1からのレーザー光は、BBO結
晶の非線形光学素子からなる波長変換素子2に入射させ
て、同軸上で基本波であるイレース光と2倍波であるポ
ンプ光とを発生させ、これらの光をシャープカットフィ
ルタ3を経て位相変調素子である位相板4に入射させ
る。
に示したように光軸に対して点対称な位置で位相差πを
与えるように最適化して構成し、これによりイレース光
を中空ビーム化する。なお、ポンプ光については位相板
4を通過する際に光軸に対して点対称な位置で位相が2
π変わるので、基本的には位相板4で空間変調されず、
ビームプロファイルも変化しない。
ス光は、キューベット型のハーフミラーからなるビーム
セパレーター5を透過させた後、互いに直交する軸を中
心に揺動可能な2枚のガルバノ揺動ミラー6,7を有す
るガルバノビームスキャナーを経て、対物レンズ8によ
りローダミン6Gで染色された例えば生体試料9の表面
に集光させ、その集光点をガルバノビームスキャナーに
よりビデオレートに同期して移動させて試料面上を2次
元走査する。なお、図2では、図面を簡略化するため
に、ガルバノ揺動ミラー6,7を互いに平行な軸を中心
に揺動するように示している。
より試料9から発する蛍光は、対物レンズ8によりコリ
メートしたのち、入射光路とは逆の経路を辿って、ガル
バノビームスキャナーを経てビームセパレーター5に入
射させ、該ビームセパレーター5で反射される蛍光を投
影レンズ10によりピンホール11に集光させる。ピン
ホール11は、試料9の蛍光発光点に対して共焦点位置
に配置し、このピンホール11を透過した蛍光を、ポン
プ光カットノッチフィルター12およびイレース光カッ
トノッチフィルター13を透過させて、それぞれポンプ
光およびイレース光を除去した後、光電子増倍管14で
受光して蛍光出力信号を得る。ここで、投影レンズ1
0、ピンホール11、ポンプ光カットノッチフィルター
12、イレース光カットノッチフィルター13および光
電子増倍管14は、検出光学系を構成する。
号は、パルスカウンティング法により計数し、その計数
値を図示しないパーソナルコンピュータのフレームメモ
リに格納して、試料9の蛍光2次元画像をCRT等のモ
ニタにリアルタイムで表示する。
d:YAGレーザー1からのレーザー光を波長変換素子
2に入射させて、同軸上で基本波と2倍波とを得、基本
波をイレース光として用い、2倍波をポンプ光として用
いるようにしたので、上述した従来の超解像蛍光顕微鏡
における問題を完全に解決でき、光の利用効率に優れ、
しかも簡単な光学系の構成で観察分解能に優れた超解像
蛍光顕微鏡を実現することができる。
可能な位相板の第1変形例を示すもので、図3(a)は
正面図、図3(b)は平面図である。この位相板21は
蒸着技術で作製したもので、レーザービーム面すなわち
瞳面の光軸を中心に90度毎にλ/4(λは基本波)の
位相差を与えるようにしたものである。すなわち、瞳面
を光軸を中心に90度毎に4つの領域22−1〜22−
4に分割し、イレース光波長に対して光軸対称領域で位
相差πを与えるように、領域22−2にはλ/4の蒸着
膜を形成し、領域22−3には2λ/4の蒸着膜を形成
し、領域22−4には3λ/4の蒸着膜を形成したもの
である。
微鏡対物レンズにより試料面に集光すると、光軸中央で
電場強度が相殺され、中央で電場強度がゼロとなるドー
ナツツ状の疑似ベッセルビームを得ることができる。こ
れは、イレース光の形状として優れた資質を有する。
波である波長1064nmのレーザー光をイレース光と
する場合には、BK7のガラス基板23上にフッ化マグ
ネシウムを、領域22−2では厚さ350nmに、領域
22−3では厚さ700nmに、領域22−4では厚さ
1050nmにそれぞれ蒸着する。このようにすれば、
各領域で350nmの厚み差が付けられているので、イ
レース光に対してλ/4ずつの位相差を与えることがで
きる。また、この位相板21に半分の波長532nmで
ある2倍波を通過させると、この波長領域では屈折率が
全く変化しないので、光軸対称位置を通る光は、丁度、
1波長分変化し、ビーム波面の位相分布は全く変化しな
い。
の領域22−1〜22−4に分割し、その3つの領域に
フッ化マグネシウムをそれぞれ所望の厚さ蒸着して作製
するので、その作製に用いるマスクの製造およびマスク
の位置合わせが簡単にでき、位相板21を容易かつ安価
に作製することができる。
可能な位相板の第2変形例を示すもので、図4(a)は
正面図、図4(b)は平面図である。この位相板31
は、図3に示した位相板21と同様に蒸着技術で作製し
たもので、レーザー光の断面中央の円形領域32に、光
軸対称位置で位相差πを与えるように蒸着膜を形成した
ものである。
波である波長1064nmのレーザー光をイレース光と
する場合には、BK7のガラス基板33上の領域32上
にフッ化マグネシウムを厚さ2λ/4(700nm)蒸
着する。この位相板31を用いて、領域32よりも大き
い径の円形のレーザー光を入射させれば、領域32を透
過するレーザー光は空間変調されるので、この位相板3
1を透過したレーザー光を対物レンズにより試料面に集
光させれば、やはり光軸中央で電場強度が相殺されてゼ
ロとなるドーナツ状のイレース光を得ることができる。
この位相板31は、形状が単純で、簡単かつ安価に製作
でき、極めて実用的である。
場強度をゼロにするためには、波動光学の理論から、下
記の定量的な条件が要請される。すなわち、フーリエ光
学理論(例えば、矢田貝豊彦著:現代人の物理「光とフ
ーリエ変換」朝倉書店)によると、上記の位相板31を
用いた場合の焦点面(x,y)上での集光パターンI
(x,y)は、下記の(1)式で与えられる。
レーザー光の波長、ρはレーザー光のビーム径に対する
領域32の半径比、Bは領域32のレーザー光の透過
率、Aは領域32以外の基板33のレーザー光の透過
率、J1(x,y)はベッセルの1次関数である。
0)で電場強度がゼロとなる条件は、A−2Bρ2=
0、となる。したがって、例えば位相板の透過率が全領
域で100%(A=B=1)の場合には、ρ=0.70
7となる。この場合には、対物レンズの瞳径と位相板3
1の領域32の径との比が、0.707となるように光
学系を構成すればよい。
可能な位相板の第3変形例を示す斜視図である。この位
相板41は、ガラス基板を化学エッチングにより、入射
するビームの光軸を中心に90度毎に4つの領域42−
1〜42−4に分割して、イレース光波長に対して光軸
対称領域で位相差πを与えるように、領域42−1と領
域42−2との間、領域42−2と領域42−3との
間、および領域42−3と領域42−4との間で、それ
ぞれλ/4の段差を形成したもので、その作用は図3に
示した位相板21と同様である。具体的には、Nd:Y
AGレーザーの基本波である波長1064nmのレーザ
ー光をイレース光とする場合には、BK7のガラス基板
43に上記領域間のλ/4の段差として325.5nm
の段差を形成する。この位相板41は、ガラス基板等を
直接、化学エッチングして作製できるので、簡単かつ安
価にできる。
形態における光学系の構成を示す図である。この顕微鏡
は、図2に示した顕微鏡において、位相変調素子として
位相板4に代えて液晶空間光変調器51を用いてイレー
ス光をビーム整形するようにしたものである。このた
め、本実施の形態では、シャープカットフィルタ3を経
て同軸上で出射されるイレース光とポンプ光とをハーフ
ミラー52で反射させて液晶空間光変調器51に入射さ
せ、ここで回折させてイレース光をビーム整形した後、
ハーフミラー52および反射ミラー53を経てビームセ
パレーター5に入射させる。その他の構成は、図2と同
様であるので、図2と同一素子には同一参照番号を付し
て説明を省略する。
長に対して空間変調するように、その液晶面の屈折率分
布をプログラミングする。このようにすれば、イレース
光のみを中空ビームに整形し、その2倍波のポンプ光に
対しては回折面において2倍の位相変調すなわち2πの
位相差を与えてビーム形状を変化させないようにするこ
とができる。したがって、本実施の形態においても第1
実施の形態と同様の効果を得ることができる。
定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能で
ある。例えば、イレース光をビーム整形する位相変調素
子は、上述した位相板や液晶空間光変調器に限らず、他
の公知の素子を使用することができる。
ー光源からのレーザー光を波長変換素子に入射させて同
軸上で基本波と2倍波とを得、これらの光を位相変調素
子に入射させて、2倍波はビーム整形することなく出射
させ、基本波はビーム中央部の強度が周辺部よりも弱く
なるように位相変調して出射させ、この位相変調素子か
ら出射される基本波をイレース光とし、2倍波をポンプ
光として集光光学系により観察試料に集光させて、ポン
プ光により観察試料内の分子を基底状態から第1電子励
起状態に励起し、イレース光により第1電子励起状態か
ら他の電子状態へ遷移させて、観察試料からからの発光
を検出光学系で検出するようにしたので、上述した従来
の超解像顕微鏡における種々の問題を解決でき、光の利
用効率に優れ、しかも簡単な光学系の構成で観察分解能
に優れた超解像顕微鏡を得ることができる。
学系の構成を示す図である。
変形例を示す正面図および平面図である。
よび平面図である。
ある。
学系の構成を示す図である。
を示す概念図である。
である。
る。
戻る状態を示す概念図である。
ための概念図である。
の概念図である。
である。
ある。
図である。
Claims (10)
- 【請求項1】 少なくとも基底状態を含む3つの電子状
態を有する分子を含む試料を観察する顕微鏡であって、 レーザー光源と、 このレーザー光源から出射したレーザー光の基本波の一
部を、同軸上で2倍波に変換する波長変換素子と、 この波長変換素子から出射した上記2倍波はビーム整形
することなく出射させ、上記基本波はビーム中央部の強
度が周辺部よりも弱くなるように位相変調して出射する
位相変調素子と、 この位相変調素子から出射した上記基本波および2倍波
を観察試料に集光する集光光学系と、 上記観察試料からからの発光を検出する検出光学系と、 を有し、上記2倍波により、上記観察試料内の上記分子
を基底状態から第1電子励起状態に励起し、上記基本波
により第1電子励起状態から他の電子状態へ遷移させる
よう構成したことを特徴とする顕微鏡。 - 【請求項2】 上記レーザー光源は、Nd:YAGレー
ザーであることを特徴とする請求項1に記載の顕微鏡。 - 【請求項3】 上記波長変換素子は、非線形光学素子か
らなることを特徴とする請求項1または2に記載の顕微
鏡。 - 【請求項4】 上記非線形光学素子は、ベータ硼酸バリ
ウムの結晶からなることを特徴とする請求項4に記載の
顕微鏡。 - 【請求項5】 上記位相変調素子は、空間的に屈折率分
布を有する位相板からなることを特徴とする請求項1〜
4のいずれか一項に記載の顕微鏡。 - 【請求項6】 上記位相板は、入射するビームの光軸を
中心に90度毎にλ/4(λは基本波の波長)の位相差
を与えるよう構成されていることを特徴とする請求項5
に記載の顕微鏡。 - 【請求項7】 上記位相板は、入射するビームの光軸を
中心とする円形領域で位相変調するよう構成されている
ことを特徴とする請求項5に記載の顕微鏡。 - 【請求項8】 上記円形領域は、上記基本波に対する位
相変調度合いがπであることを特徴とする請求項7に記
載の顕微鏡。 - 【請求項9】 上記円形領域は基板上に形成された蒸着
膜を有しており、入射するレーザー光のビーム径に対す
る上記円形領域の半径比をρ、上記円形領域におけるレ
ーザー光の透過率をB、上記円形領域以外の上記基板に
おけるレーザー光の透過率をAとするとき、A−2Bρ
2=0、を満たすことを特徴とする請求項8に記載の顕
微鏡。 - 【請求項10】 上記位相変調素子は、液晶空間光変調
器からなることを特徴とする請求項1〜4に記載の顕微
鏡。
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