JP2010015026A - 超解像顕微鏡およびこれに用いる空間変調光学素子 - Google Patents

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Abstract

【課題】イレース光の光量ロスを生じることなく位相変調でき、必要最小限のイレース光パワーで、顕著な超解像機能を誘導できる超解像顕微鏡を提供する。
【解決手段】試料63中の物質を安定状態から第1量子状態に励起して発光させる第1照明光および該物質を更に他の量子状態に遷移させて発光を抑制する第2照明光を、一部空間的に重ね合わせて出射する光源部20と、光源部20からの第1照明光および第2照明光を試料63に集光して照射する顕微鏡対物レンズ62を含む照明光学系と、第1照明光および第2照明光の照射により試料63から発光する光応答信号を検出する検出部50と、顕微鏡対物レンズ62を含む光学系の光路中に配置され、第2照明光の一部を空間変調する変調領域3を有し、顕微鏡対物レンズ62により、第1照明光が極大値を持ち、第2照明光が極小値を持つように試料63に集光させるための空間変調光学素子1と、を備える。
【選択図】図5

Description

本発明は、顕微鏡、特に染色した試料を複数の波長の光により照明して、高い空間分解能で観察する高性能かつ高機能の新規な超解像顕微鏡に関するものである。
光学顕微鏡の技術は古く、種々のタイプの顕微鏡が開発されてきた。また、近年では、レーザ技術および電子画像技術をはじめとする周辺技術の進歩により、さらに高機能の顕微鏡システムが開発されている。
このような背景の中、複数波長の光で試料を照明して二重共鳴吸収過程を誘導することにより、得られる画像のコントラストの制御のみならず化学分析も可能にした高機能な顕微鏡が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この顕微鏡は、二重共鳴吸収を用いて特定の分子を選択して、特定の光学遷移に起因する吸収および蛍光を観察するものである。この原理について、図7〜図10を参照して説明する。図7は、試料を構成する分子の価電子軌道の電子構造を示すもので、先ず、図7に示す基底状態(S0状態:安定状態)の分子がもつ価電子軌道の電子を波長λの光により励起して、図8に示す第1励起状態(S1状態)とする。次に、別の波長λの光により同様に励起して、図9に示す第2励起状態(S2状態)とする。この励起状態により、分子は蛍光あるいは燐光を発光して、図10に示すように基底状態に戻る。
二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法では、図9の吸収過程や図10の蛍光や燐光の発光を用いて、吸収像や発光像を観察する。この顕微鏡法では、最初にレーザ光等により共鳴波長λの光で図8のように試料を構成する分子をS1状態に励起させるが、この際、単位体積内でのS1状態の分子数は、照射する光の強度が増加するに従って増加する。
ここで、線吸収係数は、分子一個当りの吸収断面積と単位体積当たりの分子数との積で与えられるので、図9のような励起過程においては、続いて照射する共鳴波長λに対する線吸収係数は、最初に照射した波長λの光の強度に依存することになる。すなわち、波長λに対する線吸収係数は、波長λの光の強度で制御できることになる。このことは、波長λおよび波長λの2波長の光で試料を照射し、波長λによる透過像を撮影すれば、透過像のコントラストは波長λの光で完全に制御できることを示している。
また、図9の励起状態から図10に示す基底状態への蛍光または燐光による脱励起過程が可能である場合には、その発光強度はS1状態にある分子数に比例する。したがって、蛍光顕微鏡として利用する場合にも画像コントラストの制御が可能となる。
さらに、二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法は、上記の画像コントラストの制御のみならず、化学分析も可能である。すなわち、図7に示す最外殻価電子軌道は、各々の分子に固有のエネルギー準位を持つので、波長λは分子によって異なることになり、同時に波長λも分子固有のものとなる。
ここで、従来の単一波長で試料を照明する場合でも、ある程度特定の分子の吸収像あるいは蛍光像を観察することが可能である。しかし、一般に、いくつかの分子は、吸収帯の波長領域が重複するため、単一波長で試料を照明する場合には、試料の化学組成の正確な同定までは不可能である。
これに対し、二重共鳴吸収過程を用いた顕微鏡法では、波長λおよび波長λの2波長により吸収あるいは発光する分子を限定するので、従来法よりも正確な試料の化学組成の同定が可能となる。また、価電子を励起する場合、分子軸に対して特定の電場ベクトルをもつ光のみが強く吸収されるので、波長λおよび波長λの偏光方向を決めて吸収または蛍光像を撮影すれば、同じ分子でも配向方向の同定まで可能となる。
また、最近では、二重共鳴吸収過程を用いて回折限界を超える高い空間分解能をもつ蛍光顕微鏡も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
図11は、分子における二重共鳴吸収過程の概念図で、基底状態S0の分子が、波長λの光で第1励起状態S1に励起され、さらに波長λの光で第2励起状態S2に励起されている様子を示している。なお、図11は、ある種の分子のS2状態からの蛍光が極めて弱いことを示している。
図11に示すような光学的性質を持つ分子の場合には、極めて興味深い現象が起きる。図12は、図11と同じく二重共鳴吸収過程の概念図で、横軸のX軸は空間的距離の広がりを表わし、波長λの光を照射した空間領域A1と波長λの光が照射されない空間領域A0とを示している。
図12において、空間領域A0では波長λの光の励起によりS1状態の分子が多数生成され、その際に空間領域A0からは波長λ3で発光する蛍光が見られる。しかし、空間領域A1では、波長λの光を照射したため、S1状態の分子のほとんどが即座に高位のS2状態に励起されて、S1状態の分子は存在しなくなる。このような現象は、幾つかの分子により確認されている。これにより、空間領域A1では、波長λ3の蛍光は完全になくなり、しかもS2状態からの蛍光はもともとないので、空間領域A1では完全に蛍光自体が抑制され(蛍光抑制効果)、空間領域A0からのみ蛍光が発することになる。
さらに、波長λが蛍光発光帯域と重複するときは、誘導放出過程により分子は、S1状態から高位の振動準位に強制的に遷移するので、蛍光抑制効果はさらに増強される。言い換えると、波長λの光照射により、分子をS1状態以外の蛍光収率の低い量子準位に強制的に遷移させれば、蛍光抑制効果が発現することになる。このような分子としては、フォトクロミック性の分子、希土類や金属を含む蛍光体、量子ドット等がある。
このことは、顕微鏡の応用分野から考察すると、極めて重要な意味を持っている。すなわち、従来の走査型レーザ顕微鏡等では、レーザ光を集光レンズによりマイクロビームに集光して観察試料上を走査するが、その際のマイクロビームのサイズは、集光レンズの開口数と波長とで決まる回折限界となり、原理的にそれ以上の空間分解能は期待できない。
ところが、図12の場合には、波長λと波長λとの2種類の光を、空間的に一部重ね合わせて蛍光領域を抑制するので、例えば波長λの光の照射領域に着目すると、蛍光領域を集光レンズの開口数と波長とで決まる回折限界よりも狭くでき、実質的に空間分解能を向上させることが可能となる。以下、波長λの光をポンプ光、波長λの光をイレース光とも呼ぶ。したがって、この原理を利用することで、回折限界を超える二重共鳴吸収過程を利用した超解像顕微鏡、例えば超解像蛍光顕微鏡を実現することが可能となる。
例えば、ローダミン6G色素を用いた場合、波長532nmの光(ポンプ光)を照射すると、ローダミン6G分子は、S0状態からS1状態へ励起されて波長560nmにピークを有する蛍光を発光する。この際、波長599nmの光(イレース光)を照射すると、二重共鳴吸収過程が起こって、ローダミン6G分子は蛍光発光がしにくいS2状態に遷移する。すなわち、これらのポンプ光とイレース光とをローダミン6Gに同時に照射すると蛍光が抑制されることになる。
図13は、従来提案されている超解像顕微鏡の要部構成図である。この超解像顕微鏡は、通常のレーザ走査型蛍光顕微鏡を前提としたもので、主に3つの独立したユニット、すなわち、光源ユニット110、スキャンユニット130および顕微鏡ユニット150からなっている。
光源ユニット110は、ポンプ光用光源111およびイレース光用光源112を有し、ポンプ光用光源111から出射されるポンプ光をダイクロイックプリズム114に入射させ、イレース光用光源112から出射されるイレース光は、位相板113により位相変調してからダイクロイックプリズム114に入射させて、ダイクロイックプリズム114でポンプ光とイレース光とを同軸上に合成して出射させている。
ここで、ローダミン6G色素で染色された試料を観察する場合には、ポンプ光用光源111は、Nd:YAGレーザを用い、その2倍高調波である波長532nmの光をポンプ光として出射するように構成される。また、イレース光用光源112は、Nd:YAGレーザとラマンシフタとを用い、Nd:YAGレーザの2倍高調波をラマンシフタで波長599nmに変換した光をイレース光として出射するように構成される。
位相板113は、光軸の周りをイレース光の位相差が2π周回するように構成されるもので、例えば図14に示すように、光軸の周りに独立した8領域を有し、イレース光波長に対して1/8ずつ位相が異なるようにガラス基板をエッチングして形成される。この位相板113を通過した光を集光すれば、光軸上で電場が相殺された中空状のイレース光が生成される。
スキャンユニット130は、光源ユニット110から同軸で出射されるポンプ光およびイレース光を、ハーフプリズム131を通過させた後、2枚のガルバノミラー132および133により2次元方向に揺動走査して、後述の顕微鏡ユニット150に出射させる。また、スキャンユニット130は、顕微鏡ユニット150から入射する蛍光を、往路と逆の経路を辿ってハーフプリズム131で分岐し、その分岐された蛍光を投影レンズ134、ピンホール135、ノッチフィルタ136および137を経て光電子増倍管138で受光するようになっている。
図13は、図面を簡略化するため、ガルバノミラー132,133を同一平面内で揺動可能に示している。なお、ノッチフィルタ136および137は、蛍光に混入したポンプ光およびイレース光を除去するものである。また、ピンホール135は、共焦点光学系を成す重要な光学素子で、観察試料内の特定の断層面で発光した蛍光のみを通過させるものである。
顕微鏡ユニット150は、いわゆる通常の蛍光顕微鏡で、スキャンユニット130から入射するポンプ光およびイレース光をハーフプリズム151で反射させて、顕微鏡対物レンズ152により少なくとも基底状態を含む3つの電子状態を有する分子を含む観察試料153上に集光させる。また、観察試料153で発光した蛍光は、再び顕微鏡対物レンズ152でコリメートしてハーフプリズム151で反射させることにより、再び、スキャンユニット130に戻すとともに、ハーフプリズム151を通過する蛍光の一部は接眼レンズ154に導いて、蛍光像として目視観察できるようにしている。
この超解像顕微鏡によると、観察試料153の集光点上においてイレース光の強度がゼロとなる光軸近傍以外の蛍光が抑制されて、結果的にポンプ光の広がりより狭い領域に存在する蛍光ラベラー分子のみを計測できる。したがって、各計測点の蛍光信号をコンピュータ上で2次元的に配列すれば、回折限界の空間分解能を上回る解像度を有する顕微鏡画像を形成することが可能となる。
ところで、図13に示した超解像顕微鏡において、解像度およびS/Nの良好な顕微鏡画像を得るためには、ポンプ光の光路とイレース光の光路とを完全に同軸に合わせて、焦点面においてポンプ光のピーク位置をイレース光の中央中空部に完全に一致させる必要がある。
しかしながら、この超解像顕微鏡では、イレース光を位相板113で位相変調してからダイクロイックプリズム114に入射させて、ダイクロイックプリズム114において全く独立した光路から入射するポンプ光と合成するようにしている。このため、ポンプ光と位相変調されたイレース光とが完全に同軸となるように、ポンプ光用光源111、イレース光用光源112、位相板113およびダイクロイックプリズム114を光学的に位置調整するのが困難となり、焦点面において、ポンプ光のピーク位置がイレース光の辺緑部にずれて、ポンプ光の集光領域全体が蛍光抑制され、解像度およびS/Nの劣化を招くことが懸念される。
このような問題を解決するものとして、本発明者は、ポンプ光およびイレース光を、同心円状に2分割した波長選択領域を有する輪帯フィルタに入射させて、ポンプ光は内側の円形の波長選択領域を透過させ、イレース光は外側の輪帯の波長選択領域を透過させることにより、ポンプ光およびイレース光を完全に同軸とし、その後、イレース光については、輪帯位相板により位相変調してから、これらポンプ光およびイレース光を顕微鏡対物レンズに入射させることにより、ポンプ光は試料上に光強度の極大値を持つように集光させ、イレース光は試料上に光強度の極小値を持つように集光させるようにした超解像顕微鏡を提案している(例えば、特許文献3参照)。
この超解像顕微鏡によれば、ポンプ光とイレース光とを合成してから、輪帯フィルタおよび輪帯位相板に入射させるようにしたので、面倒な光学調整を要することなく、ポンプ光およびイレース光を観察試料の全く同じ結像点に集光させることができ、超解像効果を確実に発現することが可能となる。
特開平8−184552号公報 特開2001−100102号公報 特開2008−58003号公報
しかしながら、本発明者による実験検討によると、先に提案した上記特許文献3に開示の超解像顕微鏡には、改良すべき点があることが判明した。すなわち、この超解像顕微鏡では、イレース光については、輪帯フィルタにより、光束の中央部を意図的にカットしている。このため、カットによる光量ロス分、蛍光抑制で用いるイレース光パワーが弱くなって、超解像機能の発現が弱くなる。その結果、顕著な超解像機能を誘導するには、輪帯フィルタによる光量ロスを補償するように、イレース光光源から出射するイレース光パワーを高くする必要があり、消費電力の増大等を招く場合がある。
また、ポンプ光とイレース光との合成光からイレース光を分離して位相変調するのに、輪帯フィルタと輪帯位相板との2枚の光学素子を要するため、コスト高になるとともに、イレース光のみを確実に位相変調するように位置調整するのに時間を要することが懸念される。
したがって、かかる点に鑑みてなされた本発明の第1の目的は、イレース光に相当する第2照明光を、光量ロスを生じることなく位相変調でき、必要最小限の第2照明光パワーで、顕著な超解像機能を誘導できる超解像顕微鏡を提供することにある。
さらに、本発明の第2の目的は、簡単かつ安価に構成できて、イレース光に相当する第2照明光のみを確実に空間変調できる超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子を提供することにある。
上記第1の目的を達成する請求項1に係る超解像顕微鏡の発明は、少なくとも2以上の励起量子状態をもつ物質を含む試料を観察する超解像顕微鏡であって、
前記物質を安定状態から第1量子状態に励起して発光させるための第1照明光、および、前記物質を更に他の量子状態に遷移させて前記発光を抑制するための第2照明光を、一部空間的に重ね合わせて前記試料に集光して照射する、顕微鏡対物レンズを含む照明光学系と、
前記第1照明光および前記第2照明光の照射により前記試料から発光する光応答信号を検出する検出部と、
前記照明光学系の前記第1照明光および前記第2照明光が通る光路中に配置され、前記第2照明光の少なくとも一部を空間変調する変調領域を有し、前記顕微鏡対物レンズにより、前記第1照明光を前記試料上に光強度の極大値を持つように集光させ、かつ、前記第2照明光を前記試料上に光強度の極小値を持つように集光させるための空間変調光学素子と、
を備えることを特徴とするものである。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の超解像顕微鏡において、
前記照明光学系は、シングルモードファイバを有し、該シングルモードファイバから前記第1照明光および前記第2照明光を、空間的に光軸を一致させて射出させることを特徴とするものである。
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の超解像顕微鏡において、
前記照明光学系は、前記顕微鏡対物レンズの集光点を含む近傍領域において、前記第2照明光を、少なくとも光軸方向に中空部を有する中空パターン状のビーム形状で集光させることを特徴とするものである。
請求項4に係る発明は、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡において、
前記空間変調光学素子は、前記変調領域が、前記第1照明光に対しては反射作用または透過型の位相変調作用を有し、前記第2照明光に対しては透過型の位相変調作用を有することを特徴とするものである。
請求項5に係る発明は、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡において、
前記照明光学系は、前記第1照明光および前記第2照明光を偏向して前記試料を走査する走査光学系を有し、
前記空間変調光学素子は、前記走査光学系における共役瞳面に配置されていることを特徴とするものである。
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の超解像顕微鏡において、
前記走査光学系における共役瞳面は、前記顕微鏡対物レンズの瞳面であることを特徴とするものである。
請求項7に係る発明は、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡において、
前記変調領域は、多層膜を含むことを特徴とするものである。
さらに、上記第2の目的を達成する請求項8に係る超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子の発明は、
試料中の少なくとも2以上の励起量子状態をもつ物質を安定状態から第1量子状態に励起して発光させるための第1照明光、および、前記物質を更に他の量子状態に遷移させて前記発光を抑制するための第2照明光を、一部空間的に重ね合わせて前記試料に集光して照射する、顕微鏡対物レンズを含む照明光学系と、
前記第1照明光および前記第2照明光の照射により前記試料から発光する光応答信号を検出する検出部と、
を有する超解像顕微鏡の前記照明光学系の前記第1照明光および前記第2照明光が通る光路中に配置される空間変調光学素子であって、
前記顕微鏡対物レンズにより、前記第1照明光が前記試料上に光強度の極大値を持つように集光され、かつ、前記第2照明光が前記試料上に光強度の極小値を持つように集光されるように、前記第2照明光の少なくとも一部を空間変調する変調領域を有することを特徴とするものである。
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の空間変調光学素子において、
前記変調領域は、光学基板上に分割して形成された複数領域のうち、一部の領域に形成され、前記第1照明光に対しては反射作用または透過型の位相変調作用を有し、前記第2照明光に対しては透過型の位相変調作用を有することを特徴とするものである。
請求項10に係る発明は、請求項9に記載の空間変調光学素子において、
前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の符号を、他の領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の符号と異ならせることを特徴とするものである。
請求項11に係る発明は、請求項10に記載の超解像顕微鏡において、
前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の絶対値を、他の領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の絶対値と同じにすることを特徴とするものである。
請求項12に係る発明は、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の空間変調光学素子において、
前記変調領域は、前記第1照明光に対して反射作用を有することを特徴とするものである。
請求項13に係る発明は、請求項9乃至11のいずれか一項に記載の空間変調光学素子において、
前記変調領域は、前記第1照明光に対して透過型の位相変調作用を有し、該変調領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の符号を、他の領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の符号と同じにすることを特徴とするものである。
請求項14に係る発明は、請求項13に記載の超解像顕微鏡において、
前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の絶対値を、他の領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の絶対値と同じにすることを特徴とするものである。
請求項15に係る発明は、請求項8乃至14のいずれか一項に記載の空間変調光学素子において、
前記変調領域は、多層膜を含むことを特徴とするものである。
本発明に係る超解像顕微鏡によれば、第1照明光および第2照明光が通る照明光学系の光路中に、第2照明光の少なくとも一部を空間変調する変調領域を有する空間変調光学素子を配置して、第2照明光を変調するので、光量ロスを生じることなく第2照明光を空間変調できる。したがって、必要最小限の第2照明光パワーで、顕著な超解像機能を誘導することができる。
さらに、本発明に係る超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子によれば、1つの光学部材として簡単かつ安価に構成できるとともに、イレース光に相当する第2照明光のみを確実に空間変調することができる。
(本発明の概要)
先ず、本発明の実施の形態の説明に先立って、本発明の概要について説明する。なお、以下の説明では、第1照明光をポンプ光、第2照明光をイレース光として説明する。本発明の基本的な考え方は、超解像顕微鏡を組み立てる際の最大の難点であるポンプ光とイレース光との位置合わせを機械的な精度で実現し、個別ビームに対する光軸調整作業を省いた点にある。その代わり、照明光学系内には、イレース光を空間変調する変調領域を有する空間変調光学素子を配置する。この空間変調光学素子は、例えば、イレース光のビーム面および集光光学系で規定される瞳面を複数の光学領域に分割し、その一部の光学領域を、ポンプ光に対しては反射作用または透過型の位相変調作用を有し、イレース光に対しては透過型の位相変調作用を有する変調領域とする。すなわち、変調領域を、ポンプ光に対しては反射鏡または分光分散素子として機能させ、イレース光に対しては位相変調素子として機能させることにより、調整の必要がなく、かつイレース光の光量ロスがないシステム構成をもつ超解像顕微鏡を提案することにある。
このため、ポンプ光およびイレース光は、例えば、ピンホールのような微小な射出口を通して同時に放射させる。これらの光は、色収差の無い光学系で同軸にコリメートして顕微鏡光学系に導入して、同一の顕微鏡対物レンズにより試料面に集光させ、必要に応じて、試料と集光したビームとを空間的に相対的に走査して、顕微鏡鏡計測を行う。
この場合、強調すべき点は、ポンプ光およびイレース光を、ピンホールのような微小な射出口から放射させると、これらの光は同じ放射角で放射されるので、色収差の無い光学系でコリメートすれば、多少平行度に関して誤差が生じても、全く同じ光路を空間伝播する。したがって、色収差の無い対物レンズで集光すれば、位置ずれすることなくポンプ光およびイレース光を試料面に集光させることができる。
このとき重要なのは、イレース光のみ空間変調して、焦点面でのビーム形状を中空状に整形し、ポンプ光は空間変調を受けることなく、ガウスビームとして集光させる点にある。このため、本発明では、ポンプ光とイレース光とが同軸にコリメートされた光路中に、波長選択性を有する変調領域を備える空間変調光学素子を配置し、これによりイレース光のみを空間変調してビーム整形を行う。ここで、空間変調光学素子の変調領域は、光学多層膜、回折光子、プリズムのような波長分散性を有する変調素子を用いて構成することができる。
すなわち、同軸・同径に揃ったポンプ光およびイレース光の光路中に、ポンプ光およびイレース光に対して光学的応答が異なる空間変調光学素子を配置し、ポンプ光に対しては通常のドーナッツ状でないガウスビームを集光させ、イレース光に対しては位相変調作用により、ドーナッツ状のスポットを集光させるようにすればよい。
超解像顕微鏡法では、ポンプ光の波長とイレース光の波長とが離れているので、その差、すなわち波長分散性を利用して、同じ光学素子でありながら、それぞれの光に対して光応答が異なる空間変調光学素子を設計することができる。その有力な方法として、光学多層膜が挙げられる。光学多層膜においては、共鳴波長では良質な反射鏡として機能し、共鳴波長から外れた波長では反射率が著しく低下し、単なる透過性の膜として機能する。しかも、多層膜の屈折率は1より大きいので、位相遅れを発生させる位相板としても機能させることができる。
(第1実施の形態)
図1および図2は、本発明の第1実施の形態に係る超解像顕微鏡に用する空間変調光学素子を説明するための図で、図1(a)および(b)は、空間変調光学素子の概略構成を示す断面図および平面図、図2は、その光学的特性を示す図である。この空間変調光学素子1は、ガラス基板2を、ポンプ光およびイレース光の円形瞳面内で、同心円状に複数の領域に分割し、その円形瞳面の中央部分に相当する領域を変調領域3として、該変調領域3に多層膜4をコートしたものである。ここでは、多層膜4は、ポンプ光に対して反射作用を有する光学反射膜として機能する。
図1に示すように、多層膜4は、ポンプ光に対して屈折率が異なる第1物質5(屈折率n(λ))と第2物質6(屈折率n(λ))とを、ガラス基板1上にバッファ層7を介して交互に蒸着により積層して構成する。これら第1物質5および第2物質6は、それぞれの膜厚をdおよびdとすると、ポンプ光に対して光学反射膜として機能させる場合は、ポンプ光の波長をλとすると、例えば、光路長がλ/4であればよいので、下記(1)式を満たせばよい。
[数1]
)=λ/4,d)=λ/4 (1)
この条件で設計された多層膜4は、ポンプ光とは波長が異なるイレース光については干渉条件から外れるので、イレース光は反射させずに通過させる。その際、イレース光は位相遅れを受ける。すなわち、多層膜4は、イレース光に対しては位相変調作用を有し、位相板として機能する。したがって、この場合、多層膜4を通過したイレース光と、通過しないイレース光とを比較すると、同じ瞳面で下記(2)式で示される位相差δが発生する。なお、(2)式において、λは、イレース光の波長を示し、mは第1物質5と第2物質6とを対とする総対数を示す。
[数2]
δ=m{d)+d)}−m(d+d) (2)
ここで、位相差δが、下記の(3)式を満たす場合は、多層膜4を通過したイレース光の波面と、それ以外の領域を通過したイレース光の波面とを比較すると、図2に示すように、電場振幅において完全に同じ振幅で符号が反転する。なお、(3)式において、Lは、整数を示す。
[数3]
δ=(2L+1)λ/2 (3)
したがって、瞳面内において、多層膜4を通過しないイレース光と、通過したイレース光との光量が同じであれば、瞳面内を通過したイレース光を集光すると、焦点において完全に電場強度が相殺される。すなわち、焦点面において、干渉により光強度が存在しない、すなわち光強度の極小値を有するドーナッツ形状の集光ビームが得られる。これは、例えば、特許第3993553号公報に開示されている輪体型の位相板と同等の機能をもつ。すなわち、イレース光を、図1に示す空間変調光学素子1を通過させることにより、超解像顕微鏡用の集光イレース光スポットを形成することができる。
一方、ポンプ光は、多層膜4を有する変調領域3では反射されるために、通過できない。結果的に、空間変調光学素子1を通過できるのは、位相変調を受けない多層膜4以外の領域を通過したポンプ光のみである。この場合は、例えば、Y.Iketaki,et.al.Opt.Lett.,19(1994)1804-1806.に開示されているように、光強度の極大値を有する通常の集光ビームが得られる。
したがって、図1および図2に示した空間変調光学素子1に、同じ瞳径のポンプ光とイレース光とを同軸に入射させて、その透過光を顕微鏡対物レンズにより集光させれば、イレース光は、顕微鏡対物レンズの集光点を含む近傍領域において、少なくとも光軸方向に中空部を有する中空パターン状(ドーナッツ形状)のビーム形状、より具体的には、カプセル状(3次元的なダークホール形状)または管状(マカロニ状)に集光させることができ、ポンプ光は通常の集光ビームの形状で集光させることができる。しかも、ポンプ光およびイレース光は、同じ空間点に集光するので、超解像顕微鏡における最大の課題であるイレース光とポンプ光との光学調整を省くことができる。なお、空間変調光学素子1にポンプ光およびイレース光を入射させるには、ポンプ光およびイレース光を同じシングルモードファイバから取り出し、これを色収差の無いレンズでコリメートして入射させるように、照明光学系を構成するのが好ましい。
このように照明光学系を構成すれば、以下のような効果が期待できる。
(1)ポンプ光およびイレース光を、シングルモードファイバから取り出すので、これらを完全球面波とすることができる。したがって、色収差の無いレンズでコリメートすれば、波面収差の無い完全な平面波を得ることができるので、空間変調光学素子1において位相変調をより確実に行うことが可能となる。
(2)ポンプ光およびイレース光を、シングルモードファイバから取り出して、色収差のないレンズでコリメートすることにより、空間変調光学素子1が多少傾いて配置されたり、空間変調光学素子1のガラス基板2の平行度が悪かったりした場合でも、色収差のない顕微鏡対物レンズで集光すれば、試料上に同じ空間ポイントで結像させることができ、ビームずれを解消できる。
(3)シングルモードファイバの射出口は、機械的に固定されるので、ポンプ光およびイレース光の集光点の位置が空間的に変動しない、極めて機械的に安定な照明光学系を構築することができる。
ところで、上述したように、空間変調光学素子1の多層膜4を通過したイレース光と、それ以外の領域を通過したイレース光とが、電場振幅において完全に同じ振幅で符号が反転している場合、焦点面においてドーナッツ形状の集光ビームを得るには、多層膜4を通過しないイレース光と通過したイレース光との光量が等しいことが必要条件である。具体的には、瞳面に入射するイレース光の強度が均一であるならば、多層膜4の面積をS、全瞳面の面積をSとすると、下記の(4)式を満たす必要がある。
[数4]
=S/2 (4)
特に、図1(b)に示すように、瞳の形状が半径Rの円形で、変調領域3も半径ρの円形である場合は、(4)式から、R/ρは、21/2となる。しかしながら、これは限定された最適条件である。つまり、瞳および変調領域3の形状やサイズが調整できる場合は、「変調領域3を通過したイレース光とそれ以外の領域を通過したイレース光とは、電場振幅において完全に同じ振幅で符号が反転している」と言う条件は、絶対的なものではなく、「変調領域3を通過したイレース光とそれ以外の領域を通過したイレース光とは、符号が反転している」と言う極めて広い最適条件が提示できる。
ここで、イレース光の電場の最大振幅をEとし、多層膜4による位相遅れ角をδとする。この場合、多層膜4を通過したイレース光とそれ以外の領域を通過したイレース光との振幅を同じ瞳面で調べると、多層膜4を通過したイレース光の振幅強度Einは、下記の(5)式で表される。なお、下式において、ωはイレース光の周波数、上部に右矢を付して示すkおよびrは、それぞれ波数ベクトルおよび位置ベクトルである。
Figure 2010015026
一方、変調領域3外を通過したイレース光の振幅強度Eoutは、下記の(6)式で表される。
Figure 2010015026
ここで、上記(5)式と(6)式とを比較すると、δだけ位相がずれている。したがって、EinおよびEoutは、Eから−Eの間で任意の値をとるので、δの値によって、符号が異なる値をとることになる。特に、上記(3)式の場合は、振幅の絶対値も同じになる特別な場合である。
以上のことから、EinおよびEoutは、符号が異なれば、上記(4)式の条件に限らず、下記の(7)式で示されるより広い条件となる。
[数7]
(S−S)Eout+SEin=0 (7)
すなわち、(7)式の条件で、SとSとの比率や位相差δを調整することで、イレース光の焦点における電場を相殺し、ゼロとすることができる。
したがって、EinとEout との符号が異なれば、必ずしも(3)式の条件を満たさずとも、SとSとの比率の調整で(7)式の条件を実現することができる。具体的には、多層膜4の面積Sの調整で可能であるが、瞳径全体の面積Sをアイリスにより調整して対応することも可能であり、従来法と比較しても、ゆるい調整で超解像顕微鏡法の照明条件を実現することが可能となる。
以上、イレース光に対する空間変調光学素子1の条件について説明したが、ポンプ光に対しても、更に広い適用条件を提示することができる。
(第2実施の形態)
図3は、本発明の第2実施の形態に係る超解像顕微鏡に用する空間変調光学素子の光学的特性を示す図である。この空間変調光学素子1は、図1に示した構成において、多層膜4を、ポンプ光に対して透過型の位相板として機能させるようにしたものである。
図3において、ポンプ光の電場の最大振幅をEとし、多層膜4による位相遅れ角をδとする。この場合、多層膜4を通過したポンプ光とそれ以外の領域を通過したポンプ光との振幅を同じ瞳面で調べると、多層膜4を通過したポンプ光の振幅強度Einは、下記の(8)式で表される。なお、下式において、ωはポンプ光の周波数、上部に右矢を付して示すkおよびrは、それぞれ波数ベクトルおよび位置ベクトルである。
Figure 2010015026
一方、変調領域3外を通過したポンプ光の振幅強度Eoutは、下記の(9)式で表される。
Figure 2010015026
上記(8)式と(9)式とを比較すると、イレース光の場合と同様に、δだけ位相がずれている。したがって、EinおよびEoutは、Eから−Eの間で任意の値をとるので、ポンプ光の場合は、δの値を調整して、同じ符号の値をとるように設定する。
この場合、図3に示すように、多層膜4を通過したポンプ光と、それ以外の領域を通過したポンプ光とは、同じ極性を持つので、集光した際に、イレース光とは異なり電場は相殺されずに加算される。結果として、この場合は、焦点で強度を有するガウス型の集光スポットが得られる。すなわち、多層膜4を設計する際、δとδとを調整して、ポンプ光では同極性とし、イレース光では異なる極性とすればよい。具体的には、ポンプ光とイレース光とは、波長が異なるので、多層膜4における屈折率も異なる。したがって、屈折率差を利用して、層数や厚みを最適化する。例えば、吸収端近傍の異常分散が強いような波長領域において、ポンプ光とイレース光との屈折率差が十分大きい透明な物質を用いることで、多層膜にせずとも1層で上記と同じ効果をもつ、最も単純な空間変調光学素子を構成可能である。
(第3実施の形態)
図4は、本発明の第3実施の形態に係る超解像顕微鏡に用する空間変調光学素子を説明するための図で、図4(a)は、空間変調光学素子の概略構成を示す平面図、図4(b)は、その光学特性を説明するための図である。この空間変調光学素子1は、ガラス基板2上の入射光束の全領域を変調領域3とし、この変調領域3を光軸の周りに複数領域、ここでは8領域に分割して、その8領域にイレース光波長λに対して、λ/8ずつ位相が異なるように、多層膜4を形成したものである。ここで、多層膜4は、図4(b)に、ポンプ光およびイレース光の位相分布を模式的に示すように、ポンプ光に対しては、図3の場合と同様に、同相で透過させ、イレースに対しては、位相分布が2πで周回するラゲール・ガウシアンビームとなるように全体を位相変調するように構成する。
図4に示した空間変調光学素子1を用いて、この空間変調光学素子1を透過したポンプ光およびイレース光を顕微鏡対物レンズにより試料上に集光すれば、第2実施の形態の場合と同様に、ポンプ光に対しても光量ロスを生じることなく、集光面上で、ポンプ光については光軸上に光強度が最大値を有するスポットを形成でき、イレース光については光軸上に光強度が極小値を有する中空状のスポットを形成することができる。
以上、第1実施の形態〜第3実施の形態に示した空間変調光学素子1によれば、1つの光学部材として簡単かつ安価にできるとともに、ポンプ光とイレース光との合成光からイレース光のみを確実に位相変調することができる。
以下、上記実施の形態で説明した空間変調光学素子を用いる本発明に係る超解像顕微鏡の実施の形態について、図を参照して説明する。
(第4実施の形態)
図5は、本発明の第4実施の形態に係る超解像顕微鏡の光学系の要部構成図である。この超解像顕微鏡は、主に3つの独立したユニット、すなわち、光源ユニット20、スキャンユニット40および顕微鏡ユニット60を有しており、スキャンユニット40および顕微鏡ユニット60は、瞳投影レンズ系70を介して光学的に結合されている。
光源ユニット20は、ポンプ光用光源21、イレース光用光源22、ダイクロイックプリズムや偏光プリズムからなるビームコンバイナ23、ファイバ集光レンズ24、シングルモードファイバ25およびファイバコリメータレンズ26を有している。ポンプ光用光源21から出射されるポンプ光およびイレース光用光源22から出射されるイレース光は、ビームコンバイナ23でほぼ同軸に合成した後、ファイバ集光レンズ24を経て同一のシングルモードファイバ25にほぼ同軸に入射させ、これによりシングルモードファイバ25の射出口から放射立体角を揃えて完全球面波として出射させる。シングルモードファイバ25から出射されるポンプ光およびイレース光は、色収差のないファイバコリメータレンズ26で平面波に変換して、スキャンユニット40に導入する。
本実施の形態では、ローダミン6G色素で染色された試料を観察するため、ポンプ光用光源21は、例えば連続波を出射するHe−Neレーザを用い、その波長543nmの発振線をポンプ光とする。また、イレース光用光源22は、例えば連続波を出射するHe−Neレーザを用い、その波長633nmの発振線をイレース光とする。したがって、後述の空間変調光学素子を含む光学系は、これらの波長に対して最適化したものとする。
スキャンユニット40は、光源ユニット20から出射されるポンプ光およびイレース光を、偏光ビームスプリッタ41を通過させた後、走査光学系である2枚のガルバノミラー44および45により2次元方向に揺動走査して、瞳投影レンズ系70を介して顕微鏡ユニット60に入射させる。なお、図5では、図面を簡略化するため、ガルバノミラー44,45を同一平面内で揺動可能に示している。
顕微鏡ユニット60は、スキャンユニット40から瞳投影レンズ系70を介して入射するポンプ光およびイレース光をハーフプリズム61で反射させて、集光手段である顕微鏡対物レンズ62によりローダミン6G色素で染色された観察試料63上に集光させる。また、観察試料63で発光した蛍光は、顕微鏡対物レンズ62でコリメートしてハーフプリズム61で反射させることにより、瞳投影レンズ系70を経てスキャンユニット40に戻すと同時に、ハーフプリズム61を通過する蛍光の一部は、蛍光像として目視観察できるように接眼レンズ64に導く。なお、顕微鏡対物レンズ62は、その鏡筒も含めて示している。
また、スキャンユニット40は、顕微鏡ユニット60から瞳投影レンズ系70を経て入射する蛍光を、往路とは逆の経路を辿って偏光ビームスプリッタ41で所要の偏光成分を分岐し、その分岐された蛍光を投影レンズ46、ピンホール47を、ノッチフィルタ48および49を経て検出部である光電子増倍管50で受光する。
なお、ピンホール47は、観察試料内の特定の断層面で発光した蛍光のみを通過させるものであり、ノッチフィルタ48および49は、蛍光に混入したポンプ光およびイレース光を除去するものである。
図5に示す超解像顕微鏡は、顕微鏡対物レンズ62の瞳面を、瞳投影レンズ系70によりスキャンユニット40内のガルバノミラー44,45の近傍に投影して共役瞳面を形成し、これにより瞳面を軸にしてガルバノミラー44,45による照明光の空間走査が行われる。
本実施の形態では、顕微鏡ユニット60内の瞳面またはその近傍に、図1に示した構成の空間変調光学素子1と、ビーム径を制限するアイリス(可変絞り)65とを設置し、空間変調光学素子1によりイレース光ビームのみを中空状に空間変調し、この空間変調されたイレース光と、空間変調を受けないポンプ光とを、アイリス65を経て色収差の無い顕微鏡対物レンズ62により、ローダミン6Gで染色された試料63上に集光させる。これにより、イレース光については、光軸方向に中空部を有する中空パターン状(ドーナッツ形状)のビーム形状として、回折限界以下のサイズとなった蛍光スポットを、ガルバノミラー44,45により空間走査する。
ここで、空間変調光学素子1は、波長543nmのポンプ光と、波長633nmのイレース光とに対して最適化した同心円状の2領域からなり、図1(b)に示したように、中央部の領域を変調領域3として、該変調領域3に多層膜4を形成して構成する。この多層膜4を有する変調領域3は、ポンプ光に対しては、反射鏡として機能し、イレース光に対しては、位相をλ/2だけ遅延させる位相変調素子として機能する。すなわち、上記(1)式〜(3)式を満たすものとする。
具体的には、多層膜4は、ガラス基板2上に、バッファ層7として波長532nmでの屈折率が1.52のSiOを厚さ532.7nmコートし、このバッファ層7上に、波長532nmでの屈折率が2.16のTaOと、波長532nmでの屈折率が1.52のSiOとを、TaOについては厚さ62.8nm、SiOについては厚さ89.9nmで、交互に11層まで蒸着により積層して構成する。
この構成の多層膜4は、ポンプ光に対しては、5%程度の透過漏れ光が発生するが、ほぼ反射鏡として機能する。また、イレース光に対しては位相板として機能し、多層膜4を通過すると、多層膜4を通過しないイレース光との間で、相対的に位相をほぼπだけ遅延させる。なお、本実施の形態では、空間変調光学素子1を、同心円状の2領域とし、その中央領域を、多層膜4を有する変調領域3として構成したが、位相型のフレネルゾーンプレートのように、さらに多くの輪体状の領域を形成して、多層膜4を有する変調領域3を2領域以上形成することもできる。
また、空間変調光学素子1を通過したポンプ光およびイレース光は、集光面でイレース光を完全な中空ビームとするために、アイリス65でビーム径を調整する。すなわち、瞳面における強度分布が均一であれば、瞳の形状が半径Rの円形で、変調領域3も半径ρの円形であれば、上述したように、上記(4)式を満たすには、R/ρは、21/2となる。しかし、一般のレーザ走査型顕微鏡は、ビームの強度分布が均一でなく、ガウス状の分布をもつ。したがって、完全な中空ビームを形成するためには、上記(7)式に準じて、R/ρを調整する必要がある。そのため、瞳面の直後に設けたアイリス65でビーム外径を調整して、R/ρの最適化を図る。さらに、アイリス65は、変調領域3を透過するイレース光の位相遅れ誤差も調整可能である。
このように、本実施の形態では、イレース光とポンプ光とを、同軸に合成した後、空間変調光学素子1に入射させて、イレース光については、空間変調光学素子1の多層膜4を有する変調領域3を通過したイレース光と、変調領域3を通過しないイレース光との間で、相対的に位相をほぼπだけ遅延させ、これによりイレース光の中空ビームを形成するようにしている。したがって、空間変調光学素子1において、イレース光の光量ロスが生じないので、イレース光用光源22から出射するイレース光の光パワーを必要最小限として、顕著な超解像機能を誘導することができる。
また、空間変調光学素子1およびアイリス65は、顕微鏡ユニット60内の瞳面またはその近傍に配置し、その共役瞳面またはその近傍にガルバノミラー44,45を配置して、ポンプ光およびイレース光を空間走査するので、走査による波面収差の発生を抑えることができる。したがって、超解像顕微鏡性能を左右するイレース光の集光形状を乱すことなく、広い視野で高い結像性能を保つことができるとともに、観察試料63上ではポンプ光およびイレース光を常に同軸上で集光でき、良好な状態で超解像機能を発現できる。
さらに、光源ユニット20においては、ポンプ光用光源21から出射されるポンプ光およびイレース光用光源22から出射されるイレース光を、ビームコンバイナ23で合成した後は、いずれの光もデリバリすることなく、同一光学系、すなわちファイバ集光レンズ24およびシングルモードファイバ25を経て出射させている。しかも、シングルモードファイバ25から出射される完全球面波のポンプ光およびイレース光を、ファイバコリメータレンズ26により同じ条件でコリメートしている。したがって、面倒な光学調整を要することなく、ポンプ光およびイレース光を、波面収差を与えることなく、同じダイバージェンス(ビーム広がり)で顕微鏡対物レンズ62により観察試料63の全く同じ結像点に集光させることができる。
(第5実施の形態)
図6は、本発明の第5実施の形態に係る超解像顕微鏡の光学系の要部構成図である。この超解像顕微鏡は、図5に示した超解像顕微鏡において、光源ユニット20を、1台のレーザ光源27を用い、このレーザ光源27から出射されるレーザ光を、ファイバ集光レンズ24、シングルモードファイバ25およびファイバコリメータレンズ26を経てスキャンユニット40に導入するようにしたものである。
ここで、レーザ光源27は、例えば、マルチラインで発振するHe−Neレーザを用い、波長543nmの発振線をポンプ光として用い、波長633nmの発振線をイレース光として用いる。その他の構成および動作は、第4実施の形態と同様であるので、ここでは説明を省略する。
本実施の形態によれば、1台のHe−Neレーザから、ポンプ光とイレース光とを同時に取り出すことができるので、第4実施の形態におけるよりも構成を簡略化できるとともに、第4実施の形態では必要となる、ポンプ光とイレース光との光軸を調整してシングルモードファイバ25に導入する作業を省くことができ、調整もより簡単にできる。
なお、本発明は、上記実施の形態にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上記第4実施の形態および第5実施の形態に示した超解像顕微鏡では、図1に示した構成の空間変調光学素子1を用いたが、図3または図4に示した構成の空間変調光学素子1を用いることもできる。また、上記第4実施の形態および第5実施の形態に示した超解像顕微鏡では、ガルバノミラー44,45によりポンプ光およびイレース光を偏向して観察試料63を2次元走査するようにしたが、顕微鏡対物レンズ62および/または観察試料63を載置する試料ステージを移動させて、ポンプ光およびイレース光により観察試料63を2次元走査したり、1つのガルバノミラーによるポンプ光およびイレース光の1次元移動(主走査)と、その1次元移動と直交する方向への顕微鏡対物レンズ62あるいは試料ステージの1次元移動(副走査)との組み合わせて、観察試料63を2次元走査したり、することもできる。
また、図5に示す構成において、シングルモードファイバ25として偏波面保存ファイバを用いて、蛍光抑制効果を効果的に誘導することもできる。すなわち、一般に、蛍光抑制効果は、ポンプ光とイレース光との偏光方向が一致したときに強く発現することが知られている(例えば、N.Bokor et.al,Opt.Commun.272,263(2007))。したがって、偏波面保存ファイバを用い、かつ、ポンプ光とイレース光との偏光方向を最初から固定してスキャンユニット40に導入すれば、各蛍光色素に対して、弱いイレース光高度で効果的に蛍光抑制効果を誘導することができる。
さらに、本発明は、特に商用レーザ走査型顕微鏡を改良して、超解像顕微鏡を簡単に構成することができる。すなわち、商用レーザ走査型顕微鏡においては、多波長のレーザ光を1本のシングルモードファイバから取り出して、ガルバノミラーにより空間走査するタイプのものがある。このような商用レーザ走査型顕微鏡の場合は、イレース光およびポンプ光の波長に対応するレーザ光源を用意して、シングルモードファイバから出射したイレース光およびポンプ光をコリメートした後、上述した空間変調光学素子1を通過させるようにすれば、商用レーザ走査型顕微鏡に容易に超解像機能を付加することができる。
また、第4実施の形態では、ポンプ光とイレース光とを、ビームコンバイナ23およびシングルモードファイバ25を用いて同軸に合成するようにしたが、2入力1出力の光合成ファイバを用いて同軸に合成することもできる。さらに、このようなシングルモードファイバ25や光合成ファイバを用いることなく、通常のダイクロックミラー等によりポンプ光およびイレース光を同軸に合成した後、空間変調光学素子1に入射させるようにすることもできる。この場合は、ポンプ光およびイレース光は、ダイバージェンスと角度ずれの影響が全く同じに受けるので、光学調整の際の利便性が向上する。
さらに、空間変調光学素子1は、顕微鏡対物レンズの鏡枠に内蔵させることもできる。このようにすれば、市販のレーザ走査型顕微鏡システムの構成を変化させることなく、顕微鏡対物レンズの交換のみで超解像機能を付加することができるので、顕微鏡の利便性を向上することができる。
この場合、特に、空間変調光学素子を顕微鏡対物レンズの瞳面に配置すれば、ガルバノミラーでイレース光を空間走査しても、波面収差が少ないので超解像顕微鏡機能を左右するイレース光の集光形状を乱すことなく、広い視野で高い結像性能を保つことができる。
さらに、空間変調光学素子1は、例えば、反射ミラーやプリズムに、多層膜や回折格子等を有する変調領域を形成して構成することもできる。一例として、図1に示した空間変調光学素子1と同様の光学特性を有する空間変調光学素子を構成する場合は、反射ミラーやプリズム等の反射面に透過型の多層膜をコーティングして変調領域を形成し、該変調領域に入射して、多層膜を透過して反射面で反射され、さらに多層膜を透過して変調領域から出射されるイレース光の位相が、変調領域に入射することなく、反射面で反射されて出射されるイレース光の位相に対して反転するように構成すればよい。
また、本発明に係る超解像顕微鏡は、蛍光相関分光法により試料を観察する場合にも有効に適用することができる。この場合は、図5および図6において、走査光学系であるガルバノミラー44,45は不要となる。
本発明の第1実施の形態に係る超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子の概略構成を示す断面図および平面図である。 図1に示す空間変調光学素子の光学的特性を示す図である。 本発明の第2実施の形態に係る超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子の光学特性を示す図である。 本発明の第3実施の形態に係る超解像顕微鏡に用いる空間変調光学素子の概略構成を示す断面図および光学的特性を示す図である。 本発明の第4実施の形態に係る超解像顕微鏡の光学系の要部構成を示す図である。 本発明の第5実施の形態に係る超解像顕微鏡の光学系の要部構成を示す図である。 試料を構成する分子の価電子軌道の電子構造を示す概念図である。 図7に示す分子の第1励起状態を示す概念図である。 図7に示す分子の第2励起状態を示す概念図である。 図7に示す分子が第2励起状態から基底状態に戻る状態を概念的に示す図である。 分子における二重共鳴吸収過程を説明するための概念図である。 分子における二重共鳴吸収過程を説明するための概念図である。 従来の超解像顕微鏡の要部構成図である。 図13に示す位相板の構成を示す拡大平面図である。
符号の説明
1 空間変調光学素子
2 ガラス基板
3 変調領域
4 多層膜
5 第1物質
6 第2物質
7 バッファ層
20 光源ユニット
21 ポンプ光用光源
22 イレース光用光源
23 ビームコンバイナ
24 ファイバ集光レンズ
25 シングルモードファイバ
26 ファイバコリメータレンズ
40 スキャンユニット
41 偏光ビームスプリッタ
44,45 ガルバノミラー
46 投影レンズ
47 ピンホール
48,49 ノッチフィルタ
50 光電子増倍管
60 顕微鏡ユニット
61 ハーフプリズム
62 顕微鏡対物レンズ
63 観察試料
64 接眼レンズ
65 アイリス(可変絞り)
70 瞳投影レンズ系

Claims (15)

  1. 少なくとも2以上の励起量子状態をもつ物質を含む試料を観察する超解像顕微鏡であって、
    前記物質を安定状態から第1量子状態に励起して発光させるための第1照明光、および、前記物質を更に他の量子状態に遷移させて前記発光を抑制するための第2照明光を、一部空間的に重ね合わせて前記試料に集光して照射する、顕微鏡対物レンズを含む照明光学系と、
    前記第1照明光および前記第2照明光の照射により前記試料から発光する光応答信号を検出する検出部と、
    前記照明光学系の前記第1照明光および前記第2照明光が通る光路中に配置され、前記第2照明光の少なくとも一部を空間変調する変調領域を有し、前記顕微鏡対物レンズにより、前記第1照明光を前記試料上に光強度の極大値を持つように集光させ、かつ、前記第2照明光を前記試料上に光強度の極小値を持つように集光させるための空間変調光学素子と、
    を備えることを特徴とする超解像顕微鏡。
  2. 前記照明光学系は、シングルモードファイバを有し、該シングルモードファイバから前記第1照明光および前記第2照明光を、空間的に光軸を一致させて射出させることを特徴とする請求項1に記載の超解像顕微鏡。
  3. 前記照明光学系は、前記顕微鏡対物レンズの集光点を含む近傍領域において、前記第2照明光を、少なくとも光軸方向に中空部を有する中空パターン状のビーム形状で集光させることを特徴とする請求項1または2に記載の超解像顕微鏡。
  4. 前記空間変調光学素子は、前記変調領域が、前記第1照明光に対しては反射作用または透過型の位相変調作用を有し、前記第2照明光に対しては透過型の位相変調作用を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡。
  5. 前記照明光学系は、前記第1照明光および前記第2照明光を偏向して前記試料を走査する走査光学系を有し、
    前記空間変調光学素子は、前記走査光学系における共役瞳面に配置されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡。
  6. 前記走査光学系における共役瞳面は、前記顕微鏡対物レンズの瞳面であることを特徴とする請求項5に記載の超解像顕微鏡。
  7. 前記変調領域は、多層膜を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の超解像顕微鏡。
  8. 試料中の少なくとも2以上の励起量子状態をもつ物質を安定状態から第1量子状態に励起して発光させるための第1照明光、および、前記物質を更に他の量子状態に遷移させて前記発光を抑制するための第2照明光を、一部空間的に重ね合わせて前記試料に集光して照射する、顕微鏡対物レンズを含む照明光学系と、
    前記第1照明光および前記第2照明光の照射により前記試料から発光する光応答信号を検出する検出部と、
    を有する超解像顕微鏡の前記照明光学系の前記第1照明光および前記第2照明光が通る光路中に配置される空間変調光学素子であって、
    前記顕微鏡対物レンズにより、前記第1照明光が前記試料上に光強度の極大値を持つように集光され、かつ、前記第2照明光が前記試料上に光強度の極小値を持つように集光されるように、前記第2照明光の少なくとも一部を空間変調する変調領域を有することを特徴とする空間変調光学素子。
  9. 前記変調領域は、光学基板上に分割して形成された複数領域のうち、一部の領域に形成され、前記第1照明光に対しては反射作用または透過型の位相変調作用を有し、前記第2照明光に対しては透過型の位相変調作用を有することを特徴とする請求項8に記載の空間変調光学素子。
  10. 前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の符号を、他の領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の符号と異ならせることを特徴とする請求項9に記載の空間変調光学素子。
  11. 前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の絶対値を、他の領域を透過した前記第2照明光の電場振幅の絶対値と同じにすることを特徴とする請求項10に記載の超解像顕微鏡。
  12. 前記変調領域は、前記第1照明光に対して反射作用を有することを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載の空間変調光学素子。
  13. 前記変調領域は、前記第1照明光に対して透過型の位相変調作用を有し、該変調領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の符号を、他の領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の符号と同じにすることを特徴とする請求項9乃至11のいずれか一項に記載の空間変調光学素子。
  14. 前記変調領域は、当該変調領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の絶対値を、他の領域を透過した前記第1照明光の電場振幅の絶対値と同じにすることを特徴とする請求項13に記載の超解像顕微鏡。
  15. 前記変調領域は、多層膜を含むことを特徴とする請求項8乃至14のいずれか一項に記載の空間変調光学素子。
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