JP2003103748A - 印刷機上製版方法および印刷機 - Google Patents

印刷機上製版方法および印刷機

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JP2003103748A
JP2003103748A JP2001306550A JP2001306550A JP2003103748A JP 2003103748 A JP2003103748 A JP 2003103748A JP 2001306550 A JP2001306550 A JP 2001306550A JP 2001306550 A JP2001306550 A JP 2001306550A JP 2003103748 A JP2003103748 A JP 2003103748A
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Hitoshi Hirose
廣瀬  均
Hajime Yagi
八木  哉
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Mitsubishi Heavy Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 印刷機上で印刷用版体を作製する場合に、
筋、斑のない良好な平面性を有する塗布層を確実に得る
ことが可能とする。 【解決手段】 版胴、ブランケット胴および圧胴から成
る印刷部を備えた平版印刷機の版胴上に固定した印刷用
版体上に感光性版剤供給塗布装置から感光性版剤を供給
塗布して感光性平版印刷版となすことを含む、印刷機上
で印刷用の製版を作製する方法において、当該印刷用版
体上に、ワイヤバーで直接感光性版剤を塗布する。ある
いは、ワイヤバーとゴムローラとの組合わせまたはアニ
ロックスローラとゴムローラとの組合わせで感光性版剤
を塗布する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、印刷機上製版方法
および印刷機に関する。さらに詳しくは、版胴、ブラン
ケット胴および圧胴から成る印刷部を備えた平版印刷機
の版胴上に印刷版を作製する印刷機上製版方法およびそ
のような方法を可能とする平版印刷機に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、平版印刷機を利用した製版方
法、すなわち、印刷機上製版方法は公知である。例え
ば、特開昭11−216835号公報には改良された印
刷機上製版方法が記載されている。
【0003】上記の印刷機上製版方法は、版胴、ブラン
ケット胴および圧胴から成る印刷部を備えた平版印刷機
上において、(A):版胴上に固定した画像露光済み感
光性平版印刷版上にそれに接触配置された製版処理剤供
給ローラから製版処理剤を供給し、次いで、(B):版
胴とブランケット胴を接触回転させて上記の感光性平版
印刷版上に物理的刺激を与えることにより画像を形成さ
せる、感光性平版印刷版の印刷機上製版方法であって、
ブランケット胴と圧胴を離間状態にし、更に、圧胴への
紙の送給を停止した状態とした後、上記(B)の操作を
行うことを特徴とする方法であり、版胴上に画像露光済
み感光性平版印刷版を固定して製版を行なった後に引き
続き印刷を行う方法であり、紙の無駄(損紙)の低減お
よび製版処理剤(印刷インク、湿し水など)へのゴミの
混入低減を図った方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、第一
に、オフセット印刷機に代表される平版印刷機につい
て、印刷機上製版方法を実施するにあたって具体的に生
じる問題の内、版胴上に固定した印刷用版体上に感光性
版剤供給塗布装置から感光性版剤を供給塗布して感光性
平版印刷版となす際に、筋、斑のない良好な平面性を有
する塗布層を確実に得るための方法と、その方法を実現
するための、信頼性の高い装置を開発することにある。
【0005】本発明の目的は、さらに広く、上記以外の
一般的な印刷機において、版胴上に固定した印刷用版体
上に各種の製版剤を供給塗布する際に、筋、斑のない良
好な平面性を有する塗布層を確実に得るための方法と、
その方法を実現するための、信頼性の高い装置を開発す
ることにもある。
【0006】これに対し従来は、印刷機上製版方法を実
施するにあたって感光性版剤を供給塗布する方法とし
て、たとえば特開平9−99535号公報に、ローラー
コータ方式、ブレード方式、スプレー方式が使用できる
と言った程度の記載があるのが知られているのみで、具
体的にどのような方法、装置が良いかは知られていなか
った。
【0007】本願発明のさらに他の目的および利点は、
以下の説明から明らかになるであろう。
【0008】
【課題を解決するための手段】すなわち、本願発明の1
態様は、版胴、ブランケット胴および圧胴から成る印刷
部を備えた平版印刷機の版胴上に固定した印刷用版体上
に感光性版剤供給塗布装置から感光性版剤を供給塗布し
て感光性平版印刷版となす、印刷機上で印刷用製版を作
製する方法(印刷機上製版方法)であって、当該印刷用
版体上に、ワイヤバー(バーコータとも言う)で直接感
光性版剤を塗布すること、あるいはワイヤバーとゴムロ
ーラとの組合わせまたはアニロックスローラ(アニロッ
クスロール)とゴムローラ(ゴムロール)との組合わせ
で感光性版剤を塗布することを特徴とする印刷機上製版
方法である。なお、感光性版剤以外の例えば感熱性版剤
等の他の版剤を使用する場合も本願発明の別の1態様で
ある。
【0009】通常、印刷機上製版方法では、版胴、ブラ
ンケット胴および圧胴から成る印刷部を備えた平版印刷
機上において、版胴と他のローラとを離間状態にし且つ
圧胴への紙の送給を停止した状態とした後、版胴上に固
定した印刷用版体上に感光性版剤供給塗布装置から感光
性版剤を供給塗布して感光性平版印刷版となし、次い
で、レーザー光源等により感光性平版印刷版を画像露光
した後、画像露光済み感光性平版印刷版上に製版処理剤
供給機構から製版処理剤を供給し、更に、必要に応じて
物理的刺激を与え、そして、画像を形成する。
【0010】そしてこの印刷版を使用して、感光性平版
印刷版上の画像表面にインク着肉装置および湿し装置か
らそれぞれ印刷インキ及び湿し水を供給し、版胴、ブラ
ンケット胴および圧胴を接触回転させると共にブランケ
ット胴と圧胴との間に印刷紙を供給して印刷する。
【0011】さらに、その後、この印刷版を除去するに
は、再度、版胴と他のローラとを離間状態にし且つ圧胴
への紙の送給を停止した状態とした後、版剤除去機構に
より印刷用版体上の画像部分を除去して印刷用版体を再
生する。
【0012】従って、特に再生方式を伴った印刷機上製
版方法は、再生式印刷機上製版方法と呼ばれることが多
い。なお、本願発明は、上記の内、感光性版剤の塗布に
係るものであるから、本質的に再生式か否かによって制
限されるわけではない。
【0013】このような機上製版方法においては、良好
な印刷版を得るには、版胴上に固定した印刷用版体上に
感光性版剤供給塗布装置から感光性版剤を供給塗布して
感光性平版印刷版となす際に良好な平面性を有する塗布
層を確実に得ることが重要である。
【0014】検討の結果、ワイヤバーで直接印刷版体上
に塗布する方法が良好であることが判明した。
【0015】ワイヤバーを使用する塗布方式は、簡便に
数μm〜数十μmの薄膜を形成する方法として実験室で
使用されているが工業的に利用されている事例は多くな
い。
【0016】その理由は、そのような高い精度での薄膜
形成は、一般に専用の製造設備によって行われるため、
コンパクトにする必要性が大きくなく、かつ連続長時間
運転のための安定性が重視され、スリットコータ(ダイ
コータ)が用いられているためと考えられる。
【0017】スリットコータは、隙間制御のため磨耗部
分がなく連続長時間運転に適しているが、機械的隙間を
数μmの精度で一定に保持するために、非常に高い剛性
が必要であり、強度部材が大きくなり、従来の印刷機に
取り付けることはスペース的な問題がある。
【0018】さらに、一般的な印刷機では、見当調整の
ために版胴が機械的に動く機構を有していることからス
リットコータの適用は、ほぼ不可能である。
【0019】一方、ワイヤバーは被塗布体に接触するこ
とで、一定の隙間が形成されることから、押し付け力を
制御することで、ワイヤーバーと被塗布体(版胴)の間
の機械的な寸法精度の許容範囲が広いという特徴があ
り、短時間の塗布操作を繰り返し行うという本方式にと
って好適である。
【0020】一般的に望ましい版剤の粘度は通常1〜1
00mP・sである。
【0021】装置条件としては、ワイヤバーの回転速度
を版胴周速に応じて設定することや、塗布状況に応じて
前記ワイヤバーの螺旋角度および/またはワイヤ線径を
選択することが挙げられる。
【0022】なお、当該印刷用版体上に、ワイヤバーで
直接版剤を塗布するかわりに、ワイヤバーとゴムローラ
との組合わせまたはアニロックスローラとゴムローラと
の組合わせで版剤を塗布することも有用であることが判
明した。
【0023】後者の方式によれば、筋状模様の発生をさ
らに容易に抑制することができると共に、印刷用版体面
の歪みへの追従性も向上するため、塗布厚みがより均一
になるという効果が得られる。
【0024】なお、ワイヤバー単独、ワイヤバーとゴム
ローラとの組合わせまたはアニロックスローラとゴムロ
ーラとの組合わせの全ての場合について、版剤の供給は
安定しており、液余りなく供給できることが判明した。
【0025】また、いずれの場合も、装置としては、部
品点数が少なくコンパクトにできる。
【0026】ワイヤバー単独の場合は、特に部品点数が
少ない。掻き取りブレードは取り付けても良いが、無く
ても良い。
【0027】その他の場合も、比較的小型で構造の簡単
なワイヤバーやアニロックスローラを使用でき、部品点
数が少なくて済む。
【0028】なお、前記版剤としては、再度、版剤除去
剤により印刷用版体上の画像を除去して印刷用版体を再
生し得ることが好ましい。
【0029】本願発明の他の態様は、感光性版剤を供給
塗布して感光性平版印刷版となすための感光性版剤供給
塗布装置を含む印刷機上製版装置を備え、版胴、ブラン
ケット胴および圧胴から成る印刷部を備えた平版印刷機
であって、感光性版剤を版胴上に塗布するため印刷用版
体上に接して使用されるコータとしてワイヤバーまたは
ワイヤバーと組合わされたゴムローラまたはアニロック
スローラと組合わされたゴムローラを使用することを特
徴とする平版印刷機である。
【0030】なお、さらにその他の態様としては、先述
したように印刷機の版胴上に固定した印刷用版体上に製
版剤供給塗布装置から感熱性版剤等のその他の製版剤を
供給塗布することを含む、印刷機上製版方法であって、
当該印刷用版体上に、ワイヤバーで直接製版剤を塗布す
ること、またはワイヤバーとゴムローラとの組合わせま
たはアニロックスローラとゴムローラとの組合わせで製
版剤を塗布することを特徴とする印刷機上製版方法やそ
のための装置がある。
【0031】なお、以下に説明する発明の実施の形態や
図面の中で、本発明の更なる特徴が明らかにされる。
【0032】
【発明の実施の形態】以下に、本願発明の実施の形態を
図を使用して説明する。同一の部分については同一の符
号を付す場合がある。なお、これらの図及び説明は本願
発明を例示するものであり、本願発明の範囲を制限する
ものではない。例えば、ワイヤバーを回転させずに固定
したり、各ロールの回転方向として、図示の方向とは反
対の方向を選択することが可能な場合もあり得る。本願
発明の趣旨に合致する限り他の実施の形態も本願発明の
範疇に属し得ることは言うまでもない。
【0033】本願発明に係る印刷機上製版方法は、通
常、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」及
び「疎水化剤除去工程」からなる。また、このようにし
て作製した印刷用版体の再生方法は「インキ除去工程」
及び「再生工程」からなるのが普通である。この疎水化
剤というのは、親水性に準備された印刷用版体面を、イ
ンクを付着させるために疎水化させるものであり、本願
発明に係る版剤の1例である。
【0034】図1は、本実施形態に係わる印刷用版体の
表面を示す断面図を示している。
【0035】印刷用版体(版体)Pは、基材1と、中間
層2と、コート層3とから構成されている。この図にお
いて、コート層3の表面(版体表面、版面)上には、後
述する感光性版剤層4が形成されている。
【0036】なお、本願明細書において版体表面または
版面とは、以下の説明から明らかになるとおり、コート
層3の表面のみ、コート層3の表面と感光性版剤層の表
面とよりなるもの、感光性版剤層のみの各種要素から構
成され得るものであり、具体的構成は、場合に応じて判
断されるべきものである。
【0037】同様に、「版体」と言う場合は感光性版剤
層を含む場合も含まない場合もあり得るため、具体的構
成は、場合に応じて判断されるべきものである。
【0038】基材1は、アルミニウムやステンレス等の
金属、有機高分子フィルム等のポリマーフィルムなどで
構成されている。ただし、基材1の材質は、これらアル
ミニウムやステンレス等の金属あるいはポリマーフィル
ムに限定されるものではない。
【0039】基材1の表面上には、中間層2が形成され
ている。中間層2としては、例えば、シリカ(Si
2)、シリコーン樹脂、シリコーンゴム等のシリコー
ン形化合物がその材質として利用される。そのうち特
に、シリコーン樹脂としては、シリコーンアルキド、シ
リコーンウレタン、シリコーンエポキシ、シリコーンア
クリル、シリコーンポリエステル等が使用される。この
中間層2は、基材1と、後述する親水性を示すコート層
3との付着を確実なものとならしめるため、また密着性
を向上させるために形成されているものである。基材1
とコート層3との間に、必要により中間層2を介するこ
とにより、コート層3の付着強度を十分に保つことが可
能となる。ただし、基材1とコート層3との付着強度が
十分に確保できる場合には、中間層2はなくてもさしつ
かえない。さらに、基材1がポリマーフィルム等から構
成されている場合は、必要に応じて、基材1の保護のた
めに形成されることもある。
【0040】中間層2上には、光触媒としてたとえば酸
化チタン光触媒を含むコート層3が形成されている。
【0041】このコート層3表面は、例えば紫外線を照
射することによって高い親水性を示すようになる。
【0042】この後、感光性版剤層を形成する「疎水化
剤塗布工程」、紫外線照射等で当該感光性版剤層におけ
る画像や文字等を印刷するための部分である画線部をコ
ート層3に固着する「画線部書き込み工程」と画線部以
外の部分である非画線部の感光性版剤を除去する「疎水
化剤除去工程」が続く。
【0043】図2は、非画線部の感光性版剤を除去した
後、紫外線照射により親水性を示すコート層3が露出し
た状態を表している。この親水性を示すコート層3の露
出により、印刷用版体Pの非画線部を形成することが可
能となる。
【0044】このコート層3には親水特性を維持するた
め、あるいはコート層3の強度や基材1との密着性を向
上させることを目的として、次に示す様な物質を添加し
ても良い。
【0045】例えば、シリカ、シリカゾル、オルガノシ
ラン、シリーコン樹脂等のシリカ系化合物、また、ジル
コニウム、アルミニウム等からなる金属酸化物又は金属
水酸化物、さらにはフッ素系樹脂を挙げることができ
る。
【0046】酸化チタン光触媒としては、ルチル型、ア
ナターゼ型、ブルッカイト型があるが、本実施形態にお
いてはいずれも利用可能であり、それらの混合物を用い
てもよい。また、後述するように、光触媒のバンドギャ
ップエネルギーより高いエネルギーをもつ光照射下で感
光性版剤を分解する光触媒性能を高くするためには、酸
化チタン光触媒の粒子径はある程度小さい方が好まし
く、具体的に酸化チタン光触媒の粒径は0.1μm以下
であることが好ましい。
【0047】なお、光触媒としては酸化チタン光触媒が
好適であるが、これに限定されるものではない。
【0048】本実施形態において使用可能でかつ市販さ
れている酸化チタン光触媒を具体的に列挙すれば、石原
産業製のST−01、ST−21、その加工品ST−K
01、ST−K03、水分散タイプSTS−01、ST
S−02、STS−21、また、堺化学工業製のSSP
−25、SSP−20,SSP−M、CSB、CSB−
M、塗料タイプのLACTI−01、LACTI−03
−A、テイカ製のTKS−201、TKS−202、T
KC−301、TKC−302、田中転写製のPTA、
TO、TPX、等を挙げることができる。ただし、これ
らの酸化チタン光触媒以外にあっても適用可能なこと
は、もちろんである。
【0049】また、コート層3の膜厚は、0.01〜1
0μmの範囲内にあることが好ましい。
【0050】膜厚があまりに小さければ、前記した性質
を十分に生かすことが困難となり、また、膜厚があまり
に大きければ、コート層3がヒビ割れし易くなり、耐刷
性低下の要因となるためである。
【0051】なお、このヒビ割れは膜厚が20μmを越
えるようなときに顕著に観察されるから、前記範囲を緩
和するとしても当該20μmをその上限として認識する
必要がある。また、実際上は0.1〜3μm程度の膜厚
とするのがより好ましい。
【0052】さらに、このコート層3の形成方法として
は、ゾル塗布法、有機チタネート法、蒸着法等を適宜選
択して形成すればよい。このとき例えば、ゾル塗布法を
採用するのであれば、それに用いられる塗布液には、光
触媒およびコート層3の強度や基材1との密着性を向上
させる前記各種の物質の他に、溶剤、架橋剤、界面活性
剤等を添加しても良い。
【0053】また塗布液は、常温乾燥タイプでも加熱乾
燥タイプでも良いが、後者の方がより好ましい。加熱に
よりコート層3の強度を高めた方が、版体の耐刷性を向
上させるのに有利となるからである。
【0054】さらに、例えば、真空中で金属基板上へ蒸
着法にて不定形の酸化チタン層を成長させた後、加熱処
理により結晶化させる方法など、物理的手法により高い
強度をもつ光触媒コート層を作製することも可能であ
る。
【0055】感光性版剤層4は、コート層3表面上に反
応ないし固着された際に疎水化剤として作用する感光性
版剤を、水や有機溶剤といった液体中に溶解あるいは分
散させた液(感光性版剤液)をコート層3表面上に塗布
し、乾燥させることで形成される。その場合の粘度とし
ては、1〜100mP・sが適当である。1〜10mP
・sがさらに望ましい。
【0056】なおここでいう「感光性版剤」は、たとえ
ば、「加熱処理によりコート層の表面(版体表面)に反
応ないし固着される性質と、光触媒のバンドギャップエ
ネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射することで
光触媒の作用により分解される性質とを併せ持つ」感光
性版剤であると、再生の際に使用するエネルギーよりも
低いエネルギーで、感光性版剤の分解を伴うことなくコ
ート層の表面に固着できて好ましい。
【0057】また、感光性版剤液は、後述する感光性版
剤の種類に応じて、必要であれば、水性又は油性に調整
される。
【0058】なお、本願発明において、「水性」の基準
としては、塗布する段階での液中の有機溶剤含有量が3
0重量%以下であり、また「油性」の基準としては、塗
布する段階での液中の有機溶剤含有量が30重量%を越
えるものである。なお、このような区別とは別に各種ア
ルコール等の親水性の極性基を有する有機溶剤を含有さ
せることもできる。
【0059】用いる有機溶剤としては、感光性版剤が溶
解,乳化あるいは分散可能なものであればよく、取扱性
やコストの点からは、パラフィン系又はイソパラフィン
系の溶剤が好適であるが、これに限定されるものではな
い。
【0060】以下では、本発明による印刷用版体の作製
方法と再生方法について説明する。印刷用版体の作製方
法は、「疎水化剤塗布工程」、「画線部書き込み工程」
及び「疎水化剤除去工程」からなる。また、印刷用版体
Pの再生方法は、「インキ除去工程」及び「再生工程」
からなる。
【0061】先ず、印刷用版体の作製方法について説明
する。図3に、印刷用版体の作製と版体Pの再生の概念
図を示す。
【0062】なお、以下において「印刷用版体の作製」
すなわち製版とは、感光性版剤液を版体表面上に塗布し
た後、該版体表面の少なくとも一部をデジタルデータに
基づいて加熱処理して疎水性画線部を形成し、加熱処理
されなかった版体表面上の感光性版剤を除去することを
いうものとする。このような画線部の形成は画線部の書
き込みとも言われる。
【0063】先ず、コート層3表面に、酸化チタン光触
媒のバンドギャップエネルギーより高いエネルギーをも
つ波長の光を照射し、図2に示すような状態、すなわち
印刷用版体Pの版体表面全面を水Wの接触角が10°以
下の親水性表面とするような状態を現出させておく。
【0064】この、酸化チタン光触媒のバンドギャップ
エネルギーより高いエネルギーをもつ波長の光とは、よ
り具体的には、波長380nm以下の光を含む紫外線を
挙げることができる。
【0065】そして、疎水化剤塗布工程として、この親
水性のコート層3表面に、感光性版剤液(この図では符
号4Lで示す)を塗布し、乾燥させ、図1の状態、すな
わちコート層3上に感光性版剤層4が形成された状態を
作る。
【0066】図3(a)は、感光性版剤液を塗布した状
態を、図3(b)は、塗布液を乾燥させた状態を、各々
示している。
【0067】コート層3表面のこの状態を「印刷用版体
作製時の初期状態」という。
【0068】なお、上記でいう「印刷用版体作製時の初
期状態」とは、実際上の印刷工程におけるその開始時と
みなしてよい。より具体的にいえば、ある与えられた任
意の画像に関して、それをデジタル化したデータが既に
用意されていて、これを版体上に書き込もうとするとき
の状態を指すものとみなせる。
【0069】上記状態となっている、感光性版剤層4に
覆われたコート層3表面に対して、画線部書き込み工程
として、画線部を書き込む。
【0070】この画線部は、画像に関するデジタルデー
タに準拠して、そのデータに対応するように行われる。
なお、ここでいう画線部とは、水の接触角が50°以
上、好ましくは80°以上の疎水性部分であり、印刷用
の疎水性インキが容易に付着し、一方、湿し水の付着は
困難な状態になっている。
【0071】この疎水性の画線部を画像データに基づい
て現出させる方法として、感光性版剤層4を加熱し、感
光性版剤をコート層3上に反応ないし固着させる方法が
好適である。画線部を加熱した後、加熱されなかった部
分(非加熱部分)である、疎水性画線部以外の部分に塗
布された感光性版剤を除去することにより、非画線部を
現出させ、印刷用版体を作製することができる。
【0072】こうした加熱方法としては、光触媒のバン
ドギャップエネルギーより低いエネルギーをもつ光を照
射することにより加熱処理を行うのが好ましい。この
「光触媒のバンドギャップエネルギーより低いエネルギ
ーをもつ光」とは、具体的には、赤外線を挙げることが
できる。こうした光を照射すれば、感光性版剤を、分解
させることなくコート層3上に反応ないし固着させるこ
とができる。
【0073】ここでは、図3(c)に示すように、赤外
線書き込みヘッド6を用いた赤外線照射によって、少な
くとも一部の感光性版剤層4を加熱し、感光性版剤をコ
ート層3表面に反応あるいは固着させて画線部4aを形
成するようにしている。
【0074】画線部4aを形成した後、図3(d)に示
すように、洗浄スプレー7を用いて、水または水を含む
洗浄液を感光性版剤層4に吹き付け、非加熱部分の感光
性版剤層4を洗浄・除去して、非画線部5を現出させ
る。これで、図3(e)に示すように、コート層3表面
への画線部4aと非画線部5の形成が完了し、印刷可能
な状態となる。
【0075】なお、加熱処理等による画線部形成後、コ
ート層3と感光性版剤層4の画線部との接着強度は高め
られるが、未露光部におけるコート層3と感光性版剤層
4との接着強度は低いままであるので、この印刷版体上
に印刷インクを供給した後に版胴とブランケット胴を接
触回転させて感光性版剤層4上に物理的刺激を与え、印
刷インクの粘着性により、未露光部を剥離してブランケ
ット胴に付着除去する方法もある。
【0076】感光性版剤層4の表面に酸素バリヤー層と
してのポリビニルアルコール層が設けられている場合
は、印刷インクと共に湿し水を利用することもできる
(特願平9−145138号参照)。
【0077】また、印刷インクや湿し水の代わりに、未
露光部に浸透して当該未露光部におけるコート層3と感
光性版剤層4との接着強度を低下させる様な親水化剤
(浸透剤)、例えば、界面活性剤、有機溶剤、アルカリ
剤などを使用することが出来る(特願平9−17011
7号)。通常、これらの剤は、画像形成後、水洗処理に
より除去される。
【0078】なお、感光性版剤液の塗布面を加熱し、疎
水性の画線部を画像データに基づいて現出させる方法と
して、ここでは、光で画線部を書き込んで光のエネルギ
ーで加熱するように構成した例を示しているが、他の構
成、例えばサーマルヘッドによる感光性版剤層4の直接
加熱であってもよいことはいうまでもない。
【0079】上記までの処理が終了したら、コート層3
表面に、印刷用の疎水性インキと湿し水とを混合した状
態で塗布する。すると、例えば図4に示すような、印刷
用版体が製作されたことになる。
【0080】この図において、網掛けされた部分は、感
光性版剤が光触媒を含むコート層3表面と反応もしくは
固着して形成された部分、すなわち疎水性部分の画線部
4aに、疎水性インキが付着した状態を示している。残
りの白地の部分、すなわち親水性部分である非画線部5
には、湿し水が優先的に付着する一方、疎水性インキは
はじかれて付着しなかった状態を示している。このよう
に絵柄が浮かび上がることにより、コート層3表面は、
印刷用版体としての機能を有することになる。
【0081】この後、通常の印刷工程を実行し、これを
終了させる。
【0082】次に、印刷用版体Pの再生方法の例につい
て説明する。
【0083】なお、「版体の再生」とは、少なくとも一
部が疎水性を示し、残りが親水性を示す版体表面を、全
面均一に親水化した後、この親水性の版体表面に感光性
版剤液を塗布し、乾燥させることによって、再び「印刷
用版体作製時の初期状態」に復活させることを意味す
る。
【0084】まず、インキ除去工程として、印刷終了後
のコート層3表面に付着したインキ、湿し水、紙粉など
を拭き取る。
【0085】その後、再生工程として、少なくとも一部
が疎水性を示すコート層3表面全面に、光触媒のバンド
ギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を照射
する。こうすることで、画線部4aを形成する感光性版
剤を分解して除去し、コート層3表面全面を、水の接触
角が10°前後の親水性表面とする、すなわち図2に示
す状態とすることが可能である。
【0086】ここでは、図3(f)に示すように、紫外
線照射ランプ8を用いて、紫外線照射のみで画線部4a
を形成する感光性版剤を分解し、コート層3a表面、す
なわち親水性表面を露出させている。
【0087】紫外線照射により全面親水性に回復したコ
ート層3表面に、感光性版剤液4Lを再度常温で塗布
し、乾燥させることによって、印刷用版体作製時の初期
状態に戻すことが可能である。
【0088】また、コート層3表面全面に、光触媒のバ
ンドギャップエネルギーより高いエネルギーをもつ光を
照射して感光性版剤を分解する操作と、水または水を含
む洗浄液でコート層3表面を洗浄する操作とを交互に繰
り返すことにより、さらに容易にコート層3表面全面
を、水の接触角が10°前後の親水性表面とすることが
可能である。
【0089】上記感光性版剤としては、加熱により版体
表面の親水性部分と反応もしくは強く固着し親水性表面
に疎水性を付与する作用を有する一方、常温では反応も
しくは固着が実質的に起らないことはもちろん、それと
ともに紫外線照射下において光触媒の作用で容易に分解
されるものが好ましい。
【0090】具体的には有機チタン化合物、有機シラン
化合物が好ましい。これら化合物は、加熱により光触媒
表面に存在する水酸基と反応してコート層の表面に固定
化され、単分子層的な疎水基層を形成する。
【0091】なお、本実施形態でいう有機チタン化合物
はテトラアルコキシド系有機チタンに限られるものでは
なく、また、有機シラン化合物もテトラアルコキシド系
有機シランに限られるものではない。
【0092】このような、有機チタン化合物の例を以下
〜に、有機シラン化合物の例を以下〜に、各々
示す。 テトライソプロポキシチタン、テトラ−n−ブトキ
シチタン、テトラステアロキシチタンなどのアルコキシ
チタン。 トリ−n−ブトキシチタンステアレート、イソプロ
ポキシチタントリステアレートなどのチタンアシレー
ト。 ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトネー
ト、ジヒドロキシ−ビスラクタトチタンなどのチタンキ
レート。 トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシ
ラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルトリメトキシ
シラン、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシ
ラン、テトラエトキシシラン、メチルジメトキシシラ
ン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルト
リエトキシシランなどのアルコキシシラン。 トリメチルクロロシラン、ジメチルジクロロシラ
ン、メチルトリクロロシラン、メチルジクロロシラン、
ジメチルクロロシランなどのクロロシラン。 ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラ
ン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロ
ロプロピルメチルジクロロシラン、γ−クロロプロピル
メチルジメトキシシラン、γ−クロロプロピルメチルジ
エトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラ
ンなどのシランカップリング剤。 パーフロロアルキルトリメトキシシランなどのフロ
ロアルキルシラン。
【0093】なお、感光性版剤はこれらに限るものでは
無い。さらに、これらの化合物は必要に応じて溶剤など
で希釈して使用して良く、さらに必要に応じて熱可塑性
樹脂、疎水性の油脂、フッ素系化合物などを混合して用
いても良いことは言うまでもない。
【0094】本願発明で言う「感光性版剤」とは、この
ように他の剤で希釈し、他の剤と混合したものも含むも
のである。すなわち、感光性版剤液も、本願発明で印刷
用版体上に塗布される「感光性版剤」の範疇に属する。
【0095】さらにまた、感光性版剤として、脂肪酸デ
キストリンが好ましい。この化合物は、加熱により酸化
チタン光触媒表面に存在する水酸基と強く相互作用して
表面に固定化されるため、脂肪酸デキストリンで形成さ
れた画線部は、例えば湿し水によって置換されることな
く、安定して印刷することができる。
【0096】なお、このパルミチン酸デキストリンの他
にも、(パルミチン酸/2−エチルヘキサン酸)デキス
トリン、ミスチリン酸デキストリンが好適であるが、脂
肪酸デキストリンとしては、これらに限られるものでは
ない。
【0097】なお、上記の印刷用版体の作製、印刷およ
び版体の再生を印刷機上で行うための印刷機の1例を図
5に示す。
【0098】この印刷機10は、版胴11を中心とし
て、その周囲に版体クリーニング装置12、紫外線照射
装置13、疎水化剤塗布装置14、乾燥装置15、画線
部書き込み装置16、インキングローラ17、湿し水供
給装置18、ブランケット胴19および圧胴21を備え
たものとなっている。
【0099】印刷用版体Pは、版胴11に巻き付けられ
て設置されている。
【0100】版体クリーニング装置12は、印刷終了後
のコート層3上のインキ、湿し水、紙粉などを除去する
ものである。
【0101】紫外線照射装置(再生装置)13は、紫外
線をコート層3表面に照射することで、画線部4aを形
成する感光性版剤を分解除去するものである。
【0102】疎水化剤塗布装置14は、紫外線を照射す
ることにより分解除去される感光性版剤、すなわち有機
チタン化合物、有機シラン化合物あるいは脂肪酸デキス
トリンなどを含む液(感光性版剤液)を、コート層3表
面のほぼ全面に塗布するものである。
【0103】乾燥装置15は、印刷用版体Pを乾燥させ
るものであり、コート層3上に塗布された感光性版剤液
を乾燥させて有機溶剤等をとばして、感光性版剤層4を
容易に形成させるものである。
【0104】画線部書き込み装置16は、コート層3表
面に赤外線を照射して、画線部4aを形成させるもので
ある。
【0105】なお、紫外線照射装置13、疎水化剤塗布
装置14、乾燥装置15及び画線部書き込み装置16
は、版胴11の回転方向(図中矢印方向)に対してこの
順となるように、版胴11の周囲に設けられており、版
胴11の回転に伴い版体の再生及び作製が連続的に行え
るので、版体の再生及び作製を効率よく行えるようにな
っている。
【0106】印刷工程は、インキングローラ17、湿し
水供給装置18及びブランケット胴19を版胴11に対
して接する状態とし、そして、紙20が圧胴21により
ブランケット胴19に接するようにして、かつ図5に示
す矢印の方向に搬送していく。こうすることによって、
連続的な印刷が行われるようになっている。
【0107】このような印刷機の機上で印刷用版体を作
製する工程において、当該印刷用版体上に、ワイヤバー
で直接感光性版剤を塗布することが装置をコンパクトに
でき、塗布面の平面性にも優れた方法であることが判明
した。
【0108】図6は、平版印刷機の版胴上に固定した印
刷用版体上に感光性版剤供給塗布装置から感光性版剤を
供給塗布するに際し、当該印刷用版体上に、ワイヤバー
を用い、滴下式で直接感光性版剤を塗布する様子を示す
モデル図である。また図7は、ワイヤバーのワイヤをバ
ーに巻き付けた様子をモデル的に示す図である。滴下式
供給手段としては公知のどのようなものを使用すること
もできる。
【0109】図6において、感光性版剤100は感光性
版剤滴下管102からワイヤバー101上に滴下され、
ワイヤバー101で直接感光性版剤を印刷用版体上に塗
布される。なお、版胴11等に記入された矢印は、版胴
等の回転方向を示す。
【0110】この感光性版剤供給塗布装置は、感光性版
剤滴下管102およびワイヤバー101並びに図示され
ていない感光性版剤タンクおよび当該感光性版剤タンク
と感光性版剤滴下管102とを結ぶ感光性版剤供給配管
を含んでなり、また、たいていの場合回収パン103
と、感光性版剤タンクへの感光性版剤戻り配管(図示さ
れていない)とを含む。
【0111】本願発明においては、上記滴下式に代え
て、図8のようなチャンバー方式を採用しても良い。チ
ャンバー方式供給手段についても、公知のどのようなも
のを使用することもできる。
【0112】図8において、外部から供給した感光性版
剤は、ほぼV字型をなすバックアッププレート104の
下部の液溜め105に溜められ、ワイヤバー101と接
触する。
【0113】バックアッププレート104は本来、ワイ
ヤバー101を支え、その暴れを防止するためのもので
あるが、その下部をチャンバーとして利用したものであ
る。
【0114】チャンバーとしては公知のどのようなタイ
プのものでも良いが、上記のようにすると部品点数が少
なくて済む利益が得られる。
【0115】また、図8からも分かるように、かなり密
閉度が高いので、埃の混入の恐れが少なく、また液体の
揮発を抑制できるので、感光性版剤の濃度変化を小さく
抑えられるという利点がある。
【0116】このようなワイヤバーで直接印刷版体上に
塗布すると、塗布面に生じる筋状の模様を問題のないレ
ベルに抑えられることが判明した。
【0117】なお、ワイヤバーは、版胴の出来るだけ上
の方に接するように設置することが、版面とワイヤーバ
ーの間に液だまりができやすく、溶液の自重によるワイ
ヤー隙間からのすり抜けが起こりにくく、液だれが起こ
りにくいため好ましい。
【0118】その結果、溶剤の使用量が少なく、液漏
れ、飛び散りが少ない条件が得られる。
【0119】ただし、回収パンをワイヤバーの下に設置
する都合上、ワイヤバーを無制限に上の方に設置するこ
とはできないので、設計の際には、このことを考慮した
上で、版胴の出来るだけ上の方に接するように設置する
のが好ましい。
【0120】さらに、ワイヤバーによる直接塗布方式を
採用することで、感光性版剤の厚塗りが可能となり、少
ない塗布回数で所定の感光性版剤の膜厚が得られるメリ
ットも生じる。版胴の1回転で所定の感光性版剤の膜厚
を得ることも可能である。
【0121】検討の結果、版胴の1回転で10〜20μ
mの膜厚を実現できることが判明した。
【0122】また、上記ワイヤバーの回転速度を版胴周
速に応じて設定すると、さらに良好な結果が得られるこ
とが判明した。
【0123】ワイヤバーのワイヤの隙間を、量的にコン
トロールされた感光性版剤が通過し、均一な塗布が可能
となるためと思われる。
【0124】このワイヤバーの回転速度は、版胴との接
圧を変え、いわゆる連れ回りの度合いを調節することに
よっても良いが、モータ等を取り付け、積極的に調節す
ることが望ましい。
【0125】なお、「版胴周速に応じて設定する」こと
としては、たとえば版胴周速に対し一定の比率のワイヤ
バーの回転速度を選択することが挙げられる。
【0126】ワイヤバーの回転速度は、ワイヤバーの周
速と版胴の周速とが実質的に同じであると、印刷用版体
の表面の傷付きを最小限にでき、好ましい。
【0127】なお、上記の趣旨に従い、本願発明で言う
「版胴周速」とは、ワイヤバーと接する面での周速を意
味する。従ってより厳密に言えば、印刷用版体を含めた
意味での「版胴周速」である。
【0128】ワイヤバーはワイヤを巻いたものでも良い
が、転造により製作してもよい。
【0129】また、塗布状況に応じて、ワイヤバーのワ
イヤの螺旋角度および/またはワイヤ線径を適宜選択す
ると良好な塗布面が得られることが判明した。
【0130】ワイヤ線径を適宜選択すると、感光性版剤
の供給量を調節でき、ワイヤの螺旋角度を適切にする
と、塗布斑を少なくできることが判明した。
【0131】図7を用いて説明すると、ワイヤバー20
1の螺旋角度αが0.05〜60゜の間にあり、ワイヤ
バーの線径(直径)が0.02mm〜1.0mmの間に
あることが好ましい。
【0132】なお、螺旋角度はワイヤバーの全体に渡っ
て同一である必要はなく、場所によって適宜変わってい
ても良い。転造で製作したワイヤバーはこの螺旋角度を
20゜〜60゜の範囲で容易に変更できる点で好まし
い。
【0133】印刷機の機上で版体を作製する工程におい
て、印刷用版体に、ワイヤバーで直接感光性版剤を塗布
する代わりに、ワイヤバーとゴムローラとの組合わせま
たはアニロックスローラとゴムローラとの組合わせで感
光性版剤を塗布した場合も、筋状の模様がなく塗布斑の
ない塗布面が得られる。
【0134】図9は、平版印刷機の版胴11上に固定し
た印刷用版体P上に感光性版剤供給塗布装置から感光性
版剤を供給塗布するに際し、当該印刷用版体P上に、ワ
イヤバー301とゴムローラ304との組合わせを用い
る様子を示すモデル図である。アニロックスローラとゴ
ムローラとの組合わせの場合もこの図と同様である。
【0135】図9において、感光性版剤300は感光性
版剤滴下管302からゴムローラ304上に滴下され、
次いでゴムローラ304から感光性版剤が印刷用版体上
に塗布される。ゴムローラ304の下には回収パンがあ
る。
【0136】なお、版胴11等に記入された矢印は、版
胴等の回転方向を示す。
【0137】ワイヤバー301は、そのワイヤの隙間
を、量的にコントロールされた感光性版剤が通過するこ
とによって、感光性版剤の均一な塗布を可能とするもの
である。
【0138】ワイヤバー301とゴムローラ304との
周速の相互関係およびゴムローラ304と版胴11との
周速の相互関係は、上記のワイヤバーと版胴との周速の
相互関係と同様にすることができる。ワイヤバーやアニ
ロックスローラやゴムローラ305はモータ等で駆動で
きる。
【0139】ワイヤバー301に変えてアニロックスロ
ーラを使用しても同様な効果が得られる。
【0140】アニロックスローラは金属ローラ上に、た
とえば斜め網目状の溝(彫刻溝、セルとも呼ばれる)を
設けたもので、その溝を、量的にコントロールされた感
光性版剤が通過することによって、感光性版剤の均一な
塗布を可能とするもので、ワイヤバー式に比べて縦筋ム
ラが出にくいが、セル彫刻のため小型化しにくい。網目
状の溝の深さは0.05〜0.5mmが好ましい。
【0141】そして、ゴムローラ304によって、筋状
の模様の発生を抑え、斑のない均一な厚みの感光性版剤
の塗布層を作製することができる。
【0142】さらに、ゴムローラ304の使用により、
感光性版剤の塗布層を薄く作製することができ、重ね塗
りが可能となる。感光性版剤の塗布層の厚みは、たとえ
ば、1回塗りで、0.5〜1μmにすることができる。
【0143】なお、ゴムローラ304と版胴11との周
速差および/または回転方向を変えることにより、感光
性版剤の塗布厚さを変更することができる。
【0144】さらに、上記滴下式に代えてチャンバー方
式を採用しても良い。
【0145】なお、ゴムローラの硬度は、JIS K6
253の規格で20〜40度の間であることが望まし
い。版胴の凹凸や印刷用版体の凹凸に追従して、均一な
塗布をすることが可能になり、印刷用版体面を傷つけな
いからである。
【0146】また、版胴にギャップがある場合には、版
胴上の印刷用版体に塗布する際、ギャップの位置に至っ
た場合には、ワイヤバーやゴムローラを印刷用版体と離
間させないと、ギャップの端部分に感光性版剤の溜まり
ができ、その落下によって各所を汚す可能性がある。
【0147】真空吸引や、吸液性のスポンジや布で溜ま
りを回収して除去することは可能であるが、そのような
特別な装置なしに、ギャップの位置に対して、ワイヤバ
ーやゴムローラ等の感光性版剤供給塗布装置部品を、版
胴上から離脱させて塗布を中止することが好ましく、印
刷用版体に接触させるローラ上で膜厚を制御し、ローラ
を回転させて印刷用版体に転写させる場合には、この溜
まりを防止することがより容易であることが判明した。
この版胴上からの離脱は自動的に行うようにすることが
できる。
【0148】ワイヤバーまたはゴムローラを印刷用版体
上から離脱させ、塗布を中止するための手段としては公
知のどのようなものでも良い。
【0149】なお、上記は、印刷機として平版印刷機を
使用し、塗布剤として感光性版剤を使用する形態につい
て説明したが、本願発明は、さらに広く、上記以外の一
般的な印刷機において、版胴上に固定した印刷用版体上
に各種の製版剤を供給塗布する際に、筋、斑のない良好
な平面性を有する塗布層を確実に得るための方法と、そ
の方法を実現するための、信頼性の高い装置をその形態
に含めることもできることが判明した。
【0150】すなわち、印刷機の版胴上に固定した印刷
用版体上に製版剤供給塗布装置から製版剤を供給塗布す
ることを含む、印刷機上製版方法であって、当該印刷用
版体上に、ワイヤバーで直接製版剤を塗布すること、ま
たはワイヤバーとゴムローラとの組合わせまたはアニロ
ックスローラとゴムローラとの組合わせで製版剤を塗布
することを特徴とする印刷機上製版方法やそのための装
置である。
【0151】平版印刷機でなくとも、印刷用版体を載置
した版胴を使用し、印刷用版体上に何らかのコーティン
グを施す際に筋、斑のない良好な平面性を提供できるこ
とは技術的に有用である。
【0152】具体的には、感光性版剤以外の版剤(たと
えば感熱性版剤)、上記中間層2やコート層3を形成す
るための薬剤、感光性版剤の増感剤や酸素バリヤーとし
て作用する剤からなるオーバコート剤、版剤を除去する
ために使用する版剤除去剤、親水化剤、現像液、ガム、
印刷インク、湿し水などの製版処理剤のコーティングに
有用である。本願発明で製版剤とは具体的には上記のよ
うな剤を意味する。
【0153】以下の実施例では、本発明の印刷用版体の
作製方法及び再生方法における印刷用版体作製および版
体再生の手順を具体的に説明する。
【0154】まず、その面積が葉書サイズ、厚さが0.
3mmのアルミニウム製の基材1を用意し、これに堺化
学工業製プライマーLAC PR−01を塗布、乾燥さ
せた。乾燥後のプライマーの厚みは0.8μmであっ
た。このプライマー層は図1における中間層2に対応し
ている。その後、堺化学工業製の酸化チタン光触媒コー
ティング剤LAC TI−01を塗布し100℃で乾燥
させて、厚み0.4μmの酸化チタン光触媒を含むコー
ト層3を成膜した。
【0155】次に、版面全面、すなわちコート層3表面
全面に、低圧水銀ランプを用いて波長254nm、照度
20mW/cm2の紫外線を20秒照射した後、紫外線
照射部分について直ちにCA−W型接触角計で水の接触
角を測定したところ、接触角は7°となり、非画線部と
して十分な親水性を示した。
【0156】なお、上記基材1は、予め、下記ドラム表
面の曲率に合わせて変形させておいた。
【0157】ついで、直径290mmのドラム上に上記
基材1を取り付け、テトラ−n−ブトキシチタン(日本
曹達(株))2gをアイソパーL(エクソン化学製)9
8gに溶解した液を、親水性となっている版面全面に塗
布し、乾燥した。
【0158】この塗布に際し、印刷用版体上に、ワイヤ
バーで直接感光性版剤を塗布する方法、ワイヤバーとゴ
ムローラとの組合わせまたはアニロックスローラとゴム
ローラとの組合わせで感光性版剤を塗布する方法の三つ
の方法を採用した。なお、乾燥は常温、無風で行った。
【0159】版剤粘度は7mPa・s、ワイヤバーの線
径は0.3mm、螺旋角度は0.86゜、ワイヤバーの
直径は20mm、アニロックスローラの直径は50m
m、網目は深さ0.3mm,幅0.5mm,密度10本
/cm、ゴムローラの直径は50mmであった。
【0160】ワイヤバーでは1回塗り、その他の場合は
10回塗りを実施した。
【0161】この結果、版体の表面に厚さ10〜30μ
mの膜を形成することができた。
【0162】この膜の表面は、筋、斑と言った表面形状
の異常が無く、平面性に優れていることが目視で確認さ
れた。また、後の印刷工程においても印刷像に歪み等の
欠点は生じなかった。
【0163】塗布後、ドラム回転を停止した場合は膜厚
20μmを超えると、塗布液膜は重力による垂れが発生
したが、ドラムを2〜12rpm(回転/分)で回転さ
せると、重力方向が周期的に変化し、結果的に垂れによ
る不均一は発生しないことがわかった。ドラム回転速度
は、液粘度、比重、濡れ性によって異なるものと推察さ
れる。
【0164】この後、波長850nm、出力250m
W、ビーム径15μmの赤外線を用いた画像書き込み装
置により、版面に画線率10%から100%までの10
%刻みの網点画像を書き込むことで、照射部分のテトラ
−n−ブトキシチタンを加熱し、版面と反応させた。そ
の後、非画線部のテトラ−n−ブトキシチタンを水で洗
浄して版面から除去した。画線率100%の部分と非画
線部についてCA−W型接触角計で水の接触角を測定し
たところ、画線率100%の部分と非画線部の接触角は
それぞれ92°と7°で、版体が出来ていることを示し
た。
【0165】この印刷用版体を、(株)アルファー技研
の卓上オフセット印刷機ニューエースプロに取り付け、
東洋インキ製のインキHYECOO B紅MZと三菱重
工業製の湿し水リソフェロー1%溶液を用いて、アイベ
スト紙に印刷速度3500枚/時にて印刷を行った。こ
の結果、網点画像を書き込んだ部分にはインキが付着
し、一方、画像を書き込まなかった非画線部にはインキ
が付着せず、紙面上には網点が綺麗に印刷できた。
【0166】印刷終了後、版面上に付着したインキ、湿
し水、紙粉などをきれいに拭き取った版面全面に、低圧
水銀ランプを用いて波長254nm、照度20mW/c
2の紫外線を20秒照射した。その後、網点を書き込
んでいた部分について直ちにCA−W型接触角計で水の
接触角を測定したところ、接触角は8°となり、十分な
親水性を示すことを確認した。
【0167】
【発明の効果】印刷機上で印刷用版体を作製する場合
に、筋、斑のない良好な平面性を有する塗布層を確実に
得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る印刷用版体の構成を示す断面図で
ある。
【図2】本発明に係る印刷用版体のコート層表面が親水
性を示している状況を示すモデル図である。
【図3】版体表面への版の作製と版体の再生との概念図
である。
【図4】版体表面に描かれた画像(画線部)とその白地
(非画線部)との一例を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る印刷機の構成の一例を示す概略構
成図である。
【図6】ワイヤバーを用い、印刷用版体上に滴下式で直
接感光性版剤を塗布する様子を示すモデル図である。
【図7】ワイヤバーのワイヤをバーに巻き付けた様子を
モデル的に示す図である。
【図8】チャンバー方式の説明図である。
【図9】ワイヤバーとゴムローラとの組合わせを用い、
印刷用版体上に滴下式で直接感光性版剤を塗布する様子
を示すモデル図である。
【符号の説明】
P 印刷用版体(版体) 1 基材 2 中間層 3 コート層 4 感光性版剤層 4a 画線部 5 非画線部 6 赤外線書き込みヘッド 7 洗浄スプレー 8 紫外線照射ランプ 10 印刷機 11 版胴 12 版体クリーニング装置 13 紫外線照射装置(再生装置) 14 疎水化剤塗布装置 15 乾燥装置 16 画線部書き込み装置 17 インキングローラ 18 湿し水供給装置 19 ブランケット胴 20 紙 21 圧胴 100,300感光性版剤 101,301ワイヤバー 102,302感光性版剤滴下管 103 回収パン 104 バックプレート 105 液溜め 304 ゴムローラ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 2C034 AA12 2H025 AB03 AC01 AC08 AD01 AD03 BJ10 EA04 EA10 2H084 AA11 AA30 AA38 AE03 BB02 BB04 BB13 CC05 2H096 AA06 CA12 EA02 EA04

Claims (18)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 印刷機の版胴上に固定した印刷用版体上
    に製版剤供給塗布装置から製版剤を供給塗布することを
    含む、印刷機上製版方法であって、当該印刷用版体上
    に、ワイヤバーで直接製版剤を塗布することを特徴とす
    る印刷機上製版方法。
  2. 【請求項2】 印刷機が平版印刷機であり、製版剤が感
    光性版剤であることを特徴とする請求項1に記載の印刷
    機上製版方法。
  3. 【請求項3】 前記ワイヤバーの回転速度を版胴周速に
    応じて設定することを特徴とする請求項1または2に記
    載の印刷機上製版方法。
  4. 【請求項4】 前記塗布における塗布状況に応じて、前
    記ワイヤバーのワイヤの螺旋角度および/またはワイヤ
    線径を選択することを特徴とする請求項1〜3のいずれ
    かに記載の印刷機上製版方法。
  5. 【請求項5】 印刷機の版胴上に固定した印刷用版体上
    に製版剤供給塗布装置から製版剤を供給塗布することを
    含む、印刷機上製版方法であって、当該印刷用版体に、
    ワイヤバーとゴムローラとの組合わせまたはアニロック
    スローラとゴムローラとの組合わせで製版剤を塗布する
    ことを特徴とする印刷機上製版方法。
  6. 【請求項6】 印刷機が平版印刷機であり、製版剤が感
    光性版剤または乾熱性版剤であることを特徴とする請求
    項5に記載の印刷機上製版方法。
  7. 【請求項7】 前記ゴムローラがJIS K6253の
    規格で20〜40度の間の硬度を有することを特徴とす
    る請求項5または6に記載の印刷機上製版方法。
  8. 【請求項8】 前記版胴のギャップの位置に対しては、
    塗布を中止することを特徴とする請求項1〜7のいずれ
    かに記載の印刷機上製版方法。
  9. 【請求項9】 前記感光性版剤が、再度、版剤除去剤に
    より印刷用版体上の画像を除去して印刷用版体を再生し
    得ることを特徴とする請求項2〜8のいずれかに記載の
    印刷機上製版方法。
  10. 【請求項10】 製版剤を供給塗布するためのコータと
    印刷用版体を載置した版胴とを備えた印刷機であって、
    印刷用版体上に接して使用されるコータとしてワイヤバ
    ーまたはワイヤバーと組合わされたゴムローラまたはア
    ニロックスローラと組合わされたゴムローラを使用する
    ことを特徴とする印刷機。
  11. 【請求項11】 印刷機が平版印刷機であり、製版剤が
    感光性版剤であることを特徴とする請求項10に記載の
    印刷機。
  12. 【請求項12】 前記ワイヤバーまたはゴムローラの回
    転速度を版胴周速に応じて変更し得るようになす手段を
    有することを特徴とする請求項10または11に記載の
    印刷機。
  13. 【請求項13】 前記製版剤を前記コータに供給するた
    めの、滴下式供給手段またはチャンバ式供給手段を有す
    ることを特徴とする請求項10〜12のいずれかに記載
    の印刷機。
  14. 【請求項14】 前記チャンバ式供給手段がバックアッ
    ププレートの一部から構成されるものであることを特徴
    とする請求項13に記載の印刷機。
  15. 【請求項15】 前記版胴のギャップの位置に対して
    は、ワイヤバーまたはゴムローラを印刷用版体上から離
    脱させ、塗布を中止するための手段を有することを特徴
    とする請求項10〜14のいずれかに記載の印刷機。
  16. 【請求項16】 前記ワイヤバーのワイヤの螺旋角度が
    0.05゜〜60゜の間にあり、ワイヤバーの線径が
    0.02mm〜1.0mmの間にあることを特徴とする
    請求項10〜15のいずれかに記載の印刷機。
  17. 【請求項17】 前記ゴムローラの硬度がJIS K6
    253の規格で20〜40度の間の硬度であることを特
    徴とする10〜16のいずれかに記載の印刷機。
  18. 【請求項18】 前記印刷機が、再生式印刷機上製版方
    法を実施するための平版印刷機であることを特徴とする
    請求項11〜17のいずれかに記載の印刷機。
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