JP2003083345A - 転がり軸受のシール装置 - Google Patents

転がり軸受のシール装置

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景介 横山
Takahiko Uchiyama
貴彦 内山
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Abstract

(57)【要約】 【課題】泥水や多量の粉塵等の存在する過酷な使用環境
においても、異物によるシール部の磨耗を防止し、長期
間に渡って良好な密封性能を維持する転がり軸受のシー
ル装置を実現する。 【解決手段】転がり軸受の外輪に取付けられる芯金と、
この芯金に固着されたシール部材と、転がり軸受の内輪
に取付けられ、シール部材とシール部を構成するスリン
ガとによって転がり軸受のシール装置を構成し、このス
リンガに樹脂被覆を施す。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、車両または産業機
械装置等に使用される転がり軸受のシール装置に関す
る。
【0002】
【従来の技術】この種の転がり軸受のシール装置の従来
技術としては、特開平10−252762号の技術があ
る。この技術は、芯金とスリンガとシール部材から成る
シール装置であり、転がり軸受の端部開口に装着され、
シール部材に設けられたシールリップの先端縁とスリン
ガとを摺接させ、転がり軸受のシールを行うものであ
る。
【0003】これによって、転がり軸受の内部に封入し
たグリースが外部に漏洩することを防止すると共に、外
部から雨水や粉塵等の異物が転がり軸受内部に侵入する
ことを防止している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述した従来の技術に
おいては、雨水や少量の粉塵等の清浄な環境下で使用さ
れる場合は、グリース潤滑であっても十分な性能を発揮
していた。しかしながら、トンネル工事の現場等に設置
される産業用機械装置や自動車用のハブユニットに使用
される転がり軸受のシール装置にあっては、泥水や多量
の粉塵に曝される過酷な環境下で長期間にわたって使用
されるため、スリンガとシール部材のシールリップとで
構成されるシール部に侵入した泥水や粉塵がシール部に
巻込まれ、これらが研磨材のようになってスリンガを磨
耗させシール装置の密封性を低下させるという問題があ
った。
【0005】また、スリンガの磨耗した部位の角がシー
ル部材のシールリップの先端を磨耗させ、異物の侵入を
促進する結果、グリースを劣化させ、異物が軸受の転動
面まで侵入し軸受寿命を低下させるという問題があっ
た。本発明は、上記の問題点を解決するためになされた
もので、泥水や多量の粉塵等の存在する過酷な使用環境
においても、異物によるシール部の磨耗を防止し、長期
間に渡って良好な密封性能を維持する転がり軸受のシー
ル装置を実現することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明は、上記課題を解
決するために、転がり軸受の外輪に取付けられる芯金
と、この芯金に固着されたシール部材と、転がり軸受の
内輪に取付けられ、シール部材とシール部を構成するス
リンガとによって転がり軸受のシール装置を構成し、こ
のスリンガに樹脂被覆を施したことを特徴とする。
【0007】
【発明の実施の形態】以下に、図面を参照して本発明に
よる転がり軸受のシール装置の実施の形態について説明
する。 第1実施の形態例 図1は、本発明の第1実施の形態を示す部分断面図であ
る。
【0008】図において、1はシール装置であり、芯金
2、シール部材3およびスリンガ4から構成されてい
る。芯金2は、低炭素鋼板等の金属板をプレス加工等の
加工手段を用いて打抜き加工および塑性加工することに
よって、外筒部2aと底板部2bを有する略缶状の形状
に一体成形される。
【0009】シール部材3は、ニトリルゴム、アクリル
ゴム、フッ素ゴム等の弾性を有するゴム材料組成物を射
出成形等の成形手段によって成形され芯金2に固着され
る。この固着手段としては、接着やカシメ等の手段があ
るが、インサート成形等の成形手段を用いて芯金2と一
体に成形する方法を用いてもよい。スリンガ4は、ステ
ンレス鋼板等の耐食性を有する金属板をプレス加工等の
加工手段を用いて打抜き加工および塑性加工することに
よって、内筒部4aと鍔部4bを有する略帽子状の形状
に一体成形され、静電塗装法やスプレー等で塗布する等
の方法を用いて樹脂被覆5が全面に施される。
【0010】シール部材3には、外側シールリップ3
a、中間シールリップ3bおよび内側シールリップ3c
設けられ、それぞれ外側シールリップ3aが樹脂被覆5
を介してスリンガ4の鍔部4bに当接し、中間シールリ
ップ3bおよび内側シールリップ3cがやはり樹脂被覆
5を介してスリンガ4の内筒部4aの外周面と当接して
シール部を構成している。
【0011】樹脂被覆5の樹脂材料としては、ポリエチ
レン樹脂、ナイロン11樹脂、けん化酢酸ビニル樹脂
(以下、けん化EVA樹脂と言う。)、エポキシ樹脂、
ポリエステル樹脂、フッ素樹脂等の樹脂材料が使用され
る。また、フッ素樹脂としては、PTFE(Poly
Tetra FluoroEthylene)、FEP
(Fluorinated Ethylene Pro
pylene)、PFA(tetra fluoro
ethylenePerFluoro Alkylvi
nyl ether)、ETFE(Ethylene
Tetra Fluoro Ethylene)等があ
る。
【0012】ポリエチレン樹脂は、耐化学薬品性、耐ス
トレスクラッキング性、耐低温衝撃性、耐候性、耐食塩
水性に特に優れ、90℃近辺までの使用が可能である。
ナイロン11樹脂は、耐磨耗性、酸以外の耐化学薬品
性、耐衝撃性、耐候性、耐食塩水性に特に優れ、100
℃近辺までの使用が可能である。また、摺動性が良好で
あるため低い摩擦係数を保つことができる。
【0013】けん化EVA樹脂は、耐磨耗性、耐化学薬
品性、耐候性、耐低温衝撃性、耐食塩水性に特に優れ、
90℃近辺までの使用が可能である。エポキシ樹脂は、
耐磨耗性、耐化学薬品性、耐低温衝撃性、耐食塩水性、
難燃性に特に優れ、125℃近辺までの使用が可能であ
る。ポリエステル樹脂は、耐磨耗性、耐ストレスクラッ
キング性、耐化学薬品性、耐候性、耐食塩水性に特に優
れ、125℃近辺までの使用が可能である。
【0014】フッ素樹脂は、非常に優れた特性をあわせ
持っており、耐磨耗性、耐衝撃性、耐化学薬品性、耐食
性、耐候性、耐食塩水性、撥水性に特に優れ、−240
℃から260℃までの温度範囲で使用可能であり、短時
間であれば300℃まで使用できる。次に、上述した第
1実施の形態例の構成の作用について説明する。
【0015】シール装置1の芯金2は、図示しない転が
り軸受の外輪の端部に設けられた嵌合部に外筒部2aの
外周面を嵌合し、スリンガ4は、図示しない転がり軸受
の内輪の端部に設けられた嵌合部に内筒部4aの内周面
を嵌合して、芯金2の底部2aが転がり軸受の転動面側
になるよう組付けられる。この時、シール部材3の外側
シールリップ3a、中間シールリップ3bおよび内側シ
ールリップ3cは、それぞれ適切な押付け力によってス
リンガ4に当接し、転がり軸受の回転と共に、その先端
部をスリンガ4との間で摺動させて接触型の運動用シー
ルを構成する。
【0016】シール装置1の各シール部の潤滑は、転が
り軸受の内部に封入されたグリースが内側シールリップ
3cとスリンガ4の内筒部4aとの当接部から僅かにに
じみ出し、これが中間シールリップ3bの当接部を経由
してスリンガ4の鍔部4bに到達し、その遠心力によっ
て鍔部4bに沿って外径側に広がり、外側シールリップ
の当接部に達し極薄い油膜を形成することによってなさ
れている。
【0017】これによって、各シール部は、適度の潤滑
状態を維持して摩擦トルクを低く抑え、密封性能を発揮
する。シール装置1が、上述したような過酷な環境下で
使用されると、外側シールリップ3aの外径側に存在す
る芯金2とスリンガ4の鍔部4bとの隙間を通過して、
泥水や粉塵等の異物が浸入し、外側シールリップ3aと
スリンガ4の鍔部4bとで構成するシール部に到達する
頻度が増加する。
【0018】そこで、この場合の本発明の樹脂被覆5を
施したスリンガ4による効果を調べるため、自動車用の
ハブユニットに使用される転がり軸受のシール装置を用
いて、下記の試験を実施した。 シール装置の内径:60mm 回転速度:1000rpm 偏心量:0.5mmTIR(Total Indica
tor Runout最大振れ) 暴露条件:毎分2リットルの泥水をハブユニットのシー
ル装置に向けて、放水10秒、停止20秒のサイクルを
繰返すことにより行った。
【0019】試験時間 :100時間 以上の試験条件により、ハブユニットシール単体回転試
験機を用いて樹脂被覆5を施した各種の試料の回転試験
を実施し、耐磨耗性および密封性を比較した。また、比
較のために、従来例として樹脂被覆を施さないスリンガ
を用いたシール装置も同時に試験した。
【0020】回転試験を行った試料の樹脂被覆材料表お
よび試験結果を表1に示す。なお、ポリエチレン樹脂、
ナイロン11樹脂、けん化EVA樹脂、エポキシ樹脂、
ポリエステル樹脂を被覆するにあたっては、静電塗装法
を用いた。また、フッ素樹脂は、これを有機溶剤に分散
させたものをスプレー等で塗布し、150℃〜200℃
の温度で加熱してスリンガ4に被覆した。
【0021】
【表1】
【0022】表1中のスリンガ磨耗深さおよびシールリ
ップ磨耗量は、それぞれ試料1のポリエチレン樹脂の磨
耗状態を1とした場合の相対値である。また、密封性
は、ハブユニットシールに塗布したグリース中に含まれ
る試験後の水分量で評価し、1%未満を良好として○、
2%以上5%未満をやや不良として△、5%以上を不良
として×で表示した。
【0023】表1に示したように、本発明の樹脂被覆5
を施したスリンガ4の特性は、従来例と比較して、その
耐磨耗性および密封性が非常に優れていることが解る。
また、本試験結果によって、 a)本発明の樹脂被覆を施した試料1〜6のスリンガの
回転試験後における磨耗深さは、ほぼ同等であるのに対
して、従来例のものはおよそ13倍の磨耗量を示す。
【0024】b)試料1〜6のシールリップの回転試験
後における磨耗量は、ほぼ同等であるのに対して、従来
例のものはおよそ32倍の磨耗量を示す。 c)試料1〜6の回転試験後におけるグリース中に含ま
れる水分量は、従来例のものに比較して非常に少ない。
ことが解った。
【0025】以上の試験結果を考察すると、シール装置
に樹脂被覆を施したスリンガを用いることによって、泥
水(異物)の侵入によるスリンガの磨耗が少なく、シー
ルリップが常に樹脂被覆と接しているために研磨されに
くく、良好な密封性が保たれると考えられる。これに対
して、樹脂被覆を施さないスリンガを用いた従来例の場
合は、侵入した泥水に含まれる異物が研磨材のようにな
りスリンガを磨耗させ、このスリンガの磨耗した部位の
角がシールリップの磨耗を促進し、スリンガとシールリ
ップとの間の密封性を低下させた結果、グリース中に含
まれる水分量が非常に多かったと考えられる。
【0026】なお、樹脂被覆の膜圧としては、5μm以
上、100μm以下の範囲が望ましい。すなわち、膜厚
5μm未満の場合は、異物による磨耗によってスリンガ
の素地まで磨耗が到達しスリンガの金属部が磨耗する。
これによってスリンガの金属部の磨耗した部位の角でシ
ールリップが磨耗し密封性を低下させ、結果として転が
り軸受の寿命を低下させる。
【0027】一方、膜厚が100μmよりも大きい場合
は、膜厚を均一に保つのが困難となり寸法安定性に問題
が生じる。従って、本発明のスリンガを用いたシール装
置を有する転がり軸受は、泥水や多量の粉塵が存在する
ような過酷な使用環境においても優れた密封性を発揮
し、このような過酷な環境下で使用される車両または産
業機械装置等の転がり軸受として好適である。
【0028】第2実施の形態例 図2は、本発明の第2実施の形態を示す部分断面図であ
る。第1実施の形態と同様の部分は、同一の符号を付し
てその説明を省略する。10は、スリンガ4に部分的に
施された樹脂被覆であり、少なくともスリンガ4のシー
ルリップ3a〜3cの当接面に被覆が施されており、結
果として内筒部4aの内周面には樹脂被膜が存在しない
状態になっている。
【0029】この部分的な樹脂被覆は、第1実施の形態
例と同様に全面に被覆を施した後に、旋削等の加工手段
を用いて削り取る。あるいは、スリンガ4の内筒部4a
の内周面にマスキング処理を施した後に被覆を施す等に
よって製作する。また、スリンガ4の内筒部4aの内周
面の内径と略同等の外径を持つ円柱部を有するジグを製
作し、複数個のスリンガの内径部を挿入して塔状に配置
し、シールリップの当接面を被覆する方法もある。この
方法によれば、上記の方法に比較して一度に多量の被覆
処理が可能になり、樹脂被覆を施したスリンガの生産性
を向上することができる。
【0030】なお、製造の都合上、スリンガ4の鍔部4
bの外側シールリップ3aの当接面の反対側の面にも、
樹脂が被覆されることがあってもよい。次に、第2実施
の形態例の構成の作用について説明する。スリンガとシ
ールリップの摺動部には樹脂被覆が存在するため、過酷
な使用環境下であってもスリンガとシールリップの密封
性を良好に保つことができ第1実施の形態例と同様の本
来の効果が得られる。
【0031】さらに、本実施の形態例の特長は、以下の
ようである。スリンガ4の内筒部4aの内周面は、図示
しない転がり軸受の内輪の端部の設けられた嵌合部に圧
入されるが、圧入嵌合部には樹脂被覆が存在しないた
め、樹脂材料のクリープによる圧入部の締結力低下の恐
れがなくなる。これによって、スリンガの締結力不足に
よる緩みの発生がなくなり、スリンガの脱落や位置ずれ
等を防止し、長期間に渡って密封性を維持できるという
効果が得られる。これは、特に高温で長時間使用される
場合に有用である。
【0032】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、スリン
ガに樹脂被覆を施すことにより、異物の侵入時のスリン
ガの磨耗を低減し、スリンガの磨耗に伴うシールリップ
の磨耗をも低減することができ、過酷な使用環境下であ
ってもスリンガとシールリップの密封性を良好に保つこ
とができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施の形態を示す部分断面図
【図2】本発明の第2実施の形態を示す部分断面図
【符号の説明】
1 シール装置 2 芯金 3 シール部材 3a 外側シールリップ 3b 中間シールリップ 3c 内側シールリップ 4 スリンガ 5,10 樹脂被覆
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 竹原 徹 神奈川県藤沢市鵠沼神明一丁目5番50号 日本精工株式会社内 Fターム(参考) 3J016 AA01 BB02 BB03 BB16 BB18 CA01 CA02

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 転がり軸受の外輪に取付けられる芯金
    と、該芯金に固着されたシール部材と、前記転がり軸受
    の内輪に取付けられ前記シール部材とシール部を構成す
    るスリンガを有する転がり軸受のシール装置において、 前記スリンガに樹脂被覆を施したことを特徴とする転が
    り軸受のシール装置。
  2. 【請求項2】 請求項1において、 前記樹脂被覆を少なくとも前記スリンガのシール構成部
    の面に施したことを特徴とする転がり軸受のシール装
    置。
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