JP2003082495A - 含弗素乃至含弗素・酸素系被膜層を形成させたステンレス鋼とその製造方法 - Google Patents

含弗素乃至含弗素・酸素系被膜層を形成させたステンレス鋼とその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】 オーステナイト系ステンレスの欠点として、
塩素や塩化物などを含む環境にさらされると、孔食や異
状腐食さらには応力腐食割れなどを発生する。その対策
として、表面に耐食性の防食被膜を施すことにより改善
を計る。 【解決手段】 塩素、沃素、臭素などを除く他の酸若し
くはその水溶性中性塩の一種若しくは二種以上に、弗酸
か若しくはそのナトリウム、カリウム、アンモニウム塩
を適宜配合添加した溶液を電解液とし、処理すべきステ
ンレス鋼を直流又は直流に交流を重ね合せた交直重乗電
流の陽極側か若しくは交流電流の一極に接続し、他の導
電性対極を対向せしめた状態で該電解液中に浸漬して通
電して電解処理することにより、含弗素乃至含弗素・酸
素系の被膜層を形成させる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、電気化学的手法によ
り、ステンレス鋼の表層部乃至はその近傍に対し、弗素
若しくは弗素と酸素とををイオン状で拡散、浸透せしめ
ることにより含弗素系乃至含弗素・酸素系の被膜層を形
成させ、従来のステンレス鋼表面に形成されている酸素
系不動態化被膜に比べてより耐食性に優れた新規な被膜
の形成によって齎せる効果により、該ステンレス鋼の鋼
種に応じて保有する固有の耐食性をより一層飛躍的に向
上させ、特にオーステナイト系ステンレス鋼に特有の塩
素による孔食発生から異状腐食さらには応力腐食割れに
至る諸問題を大幅に改善したステンレス鋼とその製造方
法とに係る。
【0002】
【従来の技術】ステンレス鋼の耐食性は、ステンレスの
鋼種に応じた各合金成分自身の耐食性によるものではな
く、その製造工程に於て、熱濃硝酸の溶液中に一定時間
浸漬する通称不動態化処理により、その表面に生成させ
てあるÅ単位(10−1nm)の極めて薄い含酸素系不
動態化被膜の作用効果によるものであり、その成分組成
としてのクロムやニッケル、或はモリブデンなどの合金
元素の種類やその多寡はその不動態化被膜の生成を促す
ための要素に過ぎないことは衆知の事実である。その一
証拠として、前述の不動態化被膜の膜厚も前述の通り極
めて薄いためステンレス鋼素材の切断や切削、或は研磨
工程などに伴って簡単に破壊されるが、田園地帯などの
清浄な空気中であれば放置するだけでも大気中の酸素に
よる酸化作用によって自然に不動態化し、反対に海塩粒
子の多い海岸地帯や大気汚染の激しい工業地帯等に於て
は、該被膜の生成が妨げられることもよく知られてい
る。ところが、このようなステンレス鋼の不動態化被膜
も、ハロゲン元素特に塩素イオン(Cl)を含む環境
下に於ては、たちまちの内にピット状の異状腐食を発生
するし、またこれに外部からの応力がかかった状態や或
は応力が残留していると異状腐食や、ひいては応力腐食
割れ(SCC)などが発生することなども公知であり、
このような塩素による腐食現象のことを一般に孔食と呼
称し、特にオーステナイト系ステンレス鋼にとっての宿
命的とも云える致命傷となっていることも公知の事実で
ある。ところで、このような孔食発生に係るClの作
用のメカニズムについては未だ定説はないものの、大別
して.Clによって吸着置換される吸着説、.C
の浸透破壊による浸透説、.FeSやMnSなど
の介在物の存在箇所から発生する欠陥説などが提唱され
ており、何れもClが不動態化被膜に吸着し、該被膜
の最も弱い個所を破壊して遂に金属が溶出するために孔
食が発生し、さらにこれを起点として応力腐食割れ(S
CC)が始まると云う理論については疑う余地のない事
実である。一方、このような孔食の発生防止対策として
は、環境因子としては接触する溶液の組成やpH,温度
などを改善するという間接的手段や、冶金的因子として
は合金元素の添加、或は溶接などの熱影響部に対しては
熱処理として溶体化処理を施すことなどが対策として講
じられてはいるものの、何れもステンレス鋼自体に係わ
る具体的かつ抜本策とは云い難く、その画期的防止対策
の必要性が強く望まれて来た。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述のよう
にステンレス鋼の合金成分を変更したり、或は冶金的な
加熱処理のように煩雑な処理を施すことなく、既存のス
テンレス鋼の表面に対し酸素のほかに新規な弗素系の耐
食性被膜層を形成させることにより、従来の酸素系不動
態化膜の欠点を補って耐食性特に耐孔食性の大幅な改善
と、ひいては孔食個所を起点として発生する異状腐食や
応力腐食割れの防止を計った画期的なステンレス鋼とそ
の製造方法を提供せんとすることにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本出願人は、過去ステン
レス鋼の溶接後の焼け取り作業が極めて危険な毒劇物に
該当する硝弗酸に依存して来た現状に鑑み、研究の結
果、安全無害な中性塩電解焼け取り法を開発し、「合金
鋼の脱スケール法」の名称のもとに特許第543867
号ほかを取得し、従来の毒劇物硝弗酸の使用を抑制し
て、より安全無害な焼け取り作業を可能にして来た経緯
がある。その発明の要旨とするところは、燐酸、硫酸、
弗酸などの無機中性塩溶液にグリセリンを混合して電解
液とし、被処理ステンレス鋼を陽極とする直流電解法で
ある。この方法によれば、上記の溶接などに伴って発生
する焼け取り作業が極めて効果的に実施出来るため、過
去長期に渡り有効に実用化して来たが、これらの内の弗
酸及びその中性塩の使用は、飽くまでもステンレスの溶
接などに伴って発生する焼け、つまり酸化鉄、酸化クロ
ムなどを主体とするスケールをより効果的に溶解除去す
ることを目的とし、通電に伴って発生する発生期の弗酸
によるスケールの溶解の作用効果を期待したものに過ぎ
なかった。ところが、その後多くの研究を重ねているう
ちに、弗酸の中性塩を配合した電解液を用いて電解焼け
取りを施したステンレス鋼には、何故か耐食性特に耐塩
素孔食性に優れていることを見出したことから、さらに
X線光電子分析装置ESCAなどを用いて精査した結
果、酸素のほかに従来のステンレス鋼にはその存在が全
く知られていなかった弗素(F)が浸透、拡散し存在し
ていることを発見、さらにその存在は表層のみにとどま
らず約数十Åの深部にまで、また処理方法の如何によっ
てはその深度並びに強度も大幅に変化し、それに伴って
耐孔食性も順次増強することから、従来の単なるÅ単位
の薄い酸素系不動態化膜に比較しClに対しより強い
含弗素系乃至含弗素・酸素系被膜層を持つステンレス鋼
とその製造方法を発明するに至ったものである。上述の
経緯から、本発明の課題に鑑み、問題解決の手段として
次の如く提案する。即ちその要旨とするところは、電解
液の主剤としては、ステンレス鋼に対し逆に腐食や孔食
を発生させる性質のある塩酸や塩化物などは実用に耐え
ないことは勿論であり、その他沃素、臭素ならびにその
塩類も同様に好ましくはないが、これらを除いた硫酸、
硝酸、燐酸、クエン酸、酒石酸、蓚酸、酢酸、グルコン
酸グリコール酸、コハク酸などの酸若しくはその水溶性
塩類の一種若しくは二種類以上に対し、弗酸若しくはそ
のナトリウム、カリウム、アンモニウム塩を適宜配合添
加した溶液を電解液とし、処理すべきステンレス鋼を直
流の陽極に又は直流に交流を重ね合わせた交直重乗電流
の陽極側か若しくは交流電源の一極側に接続した状態で
該電解液中に浸漬し、ステンレス鋼か黒鉛或はタングス
テン、モリブデン材などの難溶性電極を対極として対向
せしめた状態で通電する所謂浸漬電解法を行うか、また
は他の一方法としては処理すべきステンレス鋼を該電源
の一極に接続すると共に、該ステンレス鋼の表面上に於
て該対極との間に、天然又は合成、人造繊維よりなる織
布若しくは不織布よりなる滞水性物質を介在させさらに
該電解液を含浸せしめた状態で該対極をステンレス鋼の
表面上で摺動しながら移動し通電処理することにより該
ステンレス鋼の表面に対し弗素イオンを拡散、浸透させ
るものであり、その組成や形状については未だ明らかで
はないがFとして表面層から数十Å程度の内部にまで浸
透させ、耐食性に優れた被膜層を形成させることに成功
した。
【0005】
【作用】上述の電解処理によって得られたステンレス鋼
の耐食性については、SUS304の2B材を試片とし
て用い、購入したままの未処理品と比較対照的に本発明
方法で処理した各試片を、JISに規定されている10
%塩化第二鉄を用いる孔食試験法に基づいて同一条件で
2時間浸漬後引き上げて水洗しその切断面と表面との状
況を比較したところ、未処理品は、素材メーカーの製造
工程に於て従来方式の酸素系不動態化被膜処理が施され
ているにも拘らず、その表面には若干の孔食が発生、ま
たその切断面については、試片をシャーリング加工した
際に該被膜が完全に破壊されていることと、切断に伴っ
て発生した残留応力が原因で無数の孔食の発生が認めら
れたが、これに対し本発明方法に基づく試片については
切断面といえども孔食は全く認められず、極めて顕著な
差異が認められた。また上記テストに引続き、購入した
ままの前記未処理材の表面に、サンドペーパーを掛けた
り、或は稀硫酸中に浸漬して該不動態化被膜を故意に破
壊した試片について、前記と全く同様の孔食試験を行っ
たところ、該表面には前述の切断面と同様に無数の孔食
の発生が認められ、ステンレス鋼の活性化のおそろしさ
と、不動態化被膜の防食上の有効性とがよく確認され
た。以上のテスト結果が示すように、従来公知の硝酸法
に基づいて生成する酸素系不動態化被膜は、該被膜を物
理的手段で剥離するか或は稀硫酸のような還元性の酸を
用いて溶解除去して所謂活性態となった試片に比べれ
ば、該不動態化膜の効用により或る程度の耐孔食性は認
められるものの、ステンレス製品、とりわけその溶接加
工製品が、海水や食塩を始めとする塩化物を取扱う産業
界に於て多発している無数の孔食事例や、孔食を起点と
して発生する応力腐食割れ事故が充分それを証明してい
るように決して完全なものではなく、これに比べて、本
発明方法に基づく試片については完璧とも云える程の極
めて高い耐孔食性が確認された。このような耐孔食性を
更に追求するために、本発明者が先に特許第19254
60号(特公平5−23386)「金属の不動態化効果
の簡易測定方法」を権利化し、これに基づき商品化して
業界でも広く採用されている商品名「ステンチェッカ
ー」を用いて測定比較したところ、ペーパー掛けした試
片は、不動態化電位(起電位)はゼロを示して完全な活
性態(0.2V以下)を示すのに対し、購入したままの
市販品の2B材は約0.5Vの起電位と、1規定濃度の
稀硫酸を用いる電解液中での0.2Vまで低下するまで
の維持時間が約30秒程度を示し、通常の不動態化度で
あることが認められ、またさらに、本発明方法に基づく
試片は約0.6〜0.7V、約60秒とこれよりも更に
高い不動態化電位を示し、やはり同様に従来法よりも更
に高い不動態化効果のあることが立証された。そこで更
に、本発明方法に基づく弗素(F)被膜層の存在を立証
するために、上記の各試片について、ESCA法による
表面層並びにその近傍の元素分析を行ったところ、従来
の硝酸法による2B材に於ける不動態化の場合は予想通
り酸素(O)が検出され、Fについては、製鉄ラインに
於ける不動態化に先だって通常必ず実施されている硝弗
酸酸洗に由来するものと考えられるバックグラウンド程
度の微量が検出されたのに対し、本発明方法による試片
については、Oの存在のほかに、バックグラウンド値を
遥かに超えた極めて多量のFが検出されてその存在が立
証されたことから上記の各事実と併せて、従来法の定説
となっている酸素系よりも塩素に対して遥かに強力な含
弗素乃至は含弗素・酸素系不動態化被膜の生成法を発明
するに至ったものである。以上詳述の通り、Clが不
動態化被膜に吸着しこれを破壊することにより発生する
孔食現象も、本発明方法によれば、ステンレス鋼表面か
ら電解法により拡散、浸透させて該表層部付近に形成さ
れた含弗素系被膜の作用で、Clの侵入を効果的に防
御することにより完全に防止されるものであることが明
らかとなった。
【0006】
【実施例】以下に記述する実施例中の素材はすべてオー
ステナイト系の中でも最も代表的なステンレス鋼種のS
US304の2B材を用いた。表1は、下記の各実施例
に於ける各試片のX線光電子分析ESCA法による各元
素分析の諸条件を示すものであり、対象元素としては何
れもF,O,C,Fe,Cr,Niについて、夫々最表
層部と6Åエッチング後の表面について測定を行い、そ
の内のFとOの光電子スペクトルの変化を取纏めて図1
に示した。また表2は、各試片毎の前記各元素のピーク
面積と感度係数とから簡易的に求めた各元素の存在割合
を示したものである。 実施例1.(比較例) ステンレスメーカーから購入したまま何ら手を加えない
未処理のSUS304の2B材を対象に前述の条件によ
るESCA分析を行ったところ、図1並びに表2に於け
る試料に示す如く、極く微量のFが検出されたが、こ
れは前述の製鉄プラントのAPラインに於て使用される
酸洗用の硝弗酸処理による影響かとも思考されるもの
で、本実施例に於けるバックグラウンド値である。一
方、Oの存在は、同じくAPラインの最終工程に於て施
される熱硝酸浸漬法による不動態化処理により形成され
たものであり、約6Åエッチング後の表面には更により
強いピークが検出されることからみても、一般に公知の
酸素系不動態化被膜の形成とその存在とが明らかに認め
られた。次に、前述のステンチェッカーによる測定値も
不動態電位は約0.5V、維持時間も約30秒で、略々
通常通りの不動態化状態にあることが確認された。 実施例2.(比較例) 実施例1に於けるSUS304の2B材を、さらに20
%の硝酸を60℃に加温した溶液中に5分間浸漬処理
し、APラインに於て形成された不動態被膜の上にさら
に重ねて従来公知の手段による不動態化処理を施し、同
様にESCA分析を行った結果は、図1並びに表2の試
料に示した如く、Fについては表層部に比べて6Åエ
ッチング面に於ては稍々減少の傾向にあり、また前記ス
テンチェッカーによる不動態電位の値も略々変化ないこ
とから、市販の2B材を更に幾ら重ねて不動態化処理し
ても耐食性向上の面では全く効果ないことが立証され、
むしろF値は低下を示した。 実施例3.そこで本発明方法による実施例として、電解
液として、硫酸ソーダ15%にクエン酸を5%、さらに
弗化ナトリウムを0.5%添加した水溶液を電解液と
し、電源器としては直流電源の陽極電圧を15Vとし、
これにさらに交流の17Vを重ね合せた交直重乗電流と
し、処理すべき前述のSUS304の2B材をこれに接
続、他の陰極側には黒鉛を接続して電解液中に対立せし
め3分間通電して電解処理した。終了後引上げて前記比
較例と全く同様にESCA分析を行ったところ、図1並
びに表2の各試料に示す如く、表層部に於ては勿論、
6Åエッチング面に於ては更に多量のFが検出され、可
成り深部にまでFが拡散、浸透していることを示し、O
もこれに伴って富化されていることが確認され、不動態
化電位も約0.65V、維持時間も60秒まで上昇が認
められた。 実施例4.実施例3に於ける電源器を単純な直流電源の
陽極に代え、他は全く同様な条件で電解処理した結果、
図1並びに表2の試料に示す如く、Fについては表層
部では実施例3と同等で、6Åエッチング面では稍々低
下しているものの、同様に多量のFが浸透していること
が確認され、不動態化電位も約0.55V、維持時間も
50秒を記録した。 実施例5.実施例3に於ける電源器を交流電源に代え
て、他は全く同様な条件で電解処理した結果、図1並び
に表2の試料に示す如く、Fについてはバックグラウ
ンド値と同じであるが、6Åエッチング後の面では可成
りの高い値を示しており、更にエッチングを継続しなが
らFの検出を続けたところ、約30Å付近でFが消失し
ていることが確認された。なお、不動態化電位の測定結
果も0.5V、維持時間は35秒と記録され、一般的に
は不動態化被膜が形成されにくい交流電解にもかかわら
ず、Oの測定値も富化されて充分不動態化効果を伴って
いることが確認された。 実施例6.上述の実施例(比較例)1と2、並びに本発
明の実施例3,4,5の各条件に基づいて夫々処理して
作製した別の試料′、′、′、′、′につい
て、夫々を塩化第二鉄の10%水溶液を用いる孔食試験
法に基づいて、2時間浸漬処理した後の孔食試験結果
は、′と′とについては平方センチメートル当り5
乃至6個の孔食発生が認められたが、本発明の実施例
3、4、5に基づく試料′、′、′については何
れも孔食は全く認められず、完全な耐塩素孔食性のある
ことが確認された。 実施例7.次に、実施例6に於ける諸条件と全く同一と
し、夫々の試料の条件としては、その中心部をアルゴン
TIG溶接を施したうえで実施例6と同様に実施したと
ころ、何れも溶接焼けは全く同程度に除去されたが、更
に引続き実施した孔食試験の結果では比較例の試料
″、″については、クロム欠乏現象を伴う溶接周辺
部を中心に平方センチメートル当り20乃至25個にも
及ぶ夥しい孔食の発生が認められたのに対し、本発明の
実施例に基づく試料″、″、″については何れも
孔食は認められず、溶接施工に伴う金属組織変化や多少
の溶接ヒュームなどの異物の付着状態に於ても、完全に
孔食発生防止効果のあることが確認された。 実施例8.実施例7に於ける電解処理方法について、電
解液中に被処理材とその対極とを対向的に浸漬処理する
方法に対し、被処理材を交流電源の一極に直接接続し、
対極自体はステンレス製とし、その表面に滞水性の布を
被せたうえでこれに更に電解液を含浸させ、該処理ステ
ンレス材の表面に直接接触させ、摺動するように処理し
たところ、浸漬電解法と摺動電解法との間に大差は認め
られず、むしろ溶接個所の周辺などで金属組織変化を伴
うステンレス製品や残留応力の除去が困難な切断面など
への局部的処理に対しては極めて効果的なことが立証さ
れ、オーステナイト系ステンレスの溶接加工製品に於け
るクロム欠乏層や組織変化を生じた個所に多発する応力
腐食割れの防止対策用など局部処理に適用して特に有効
な方法である。 実施例9.電解液の組成について、基材としては硫酸ソ
ーダ、燐酸ソーダ、酒石酸ソーダ、クエン酸ソーダ、蓚
酸ソーダ、リンゴ酸ソーダ、酢酸ソーダ、グルコン酸ソ
ーダ、グリコール酸ソーダ、コハク酸ソーダなどが何れ
も好適で効果の面で大差なく、またソーダ塩に代りカリ
ウム塩やアンモニウム塩を用いても略々同等の効果が、
またさらに、前記中性塩に代り夫々の酸を用いたとこ
ろ、ステンレス鋼表面に対する溶解反応が強過ぎて若干
効果は劣るものの、弗素イオンの浸透効果は認められ、
pH調整を行うことによりその効果は増強し、何れも濃
度的には0.1%付近から飽和濃度付近までが実用的で
あった。また一方の添加剤については、弗酸と弗酸のナ
トリウム、カリウム、アンモニウム塩による比較では略
々同等の被膜形成効果のあることが認められ、また添加
濃度については0.01%付近乃至それ以上飽和濃度ま
で効果があり、実用的には0.05%から0.5%程度
の濃度が有効なことが認められた。
【0007】
【発明の効果】本発明は、電気化学的手法により、ステ
ンレス鋼表面乃至その近傍に対し含弗素乃至含弗素・酸
素系被膜層を形成させることにより、従来極めて困難視
されていた耐塩素孔食性の飛躍的改善と、ひいてはオー
ステナイト系ステンレスの欠点とされている異状腐食や
応力腐食割れの防止策の改善を齎したステンレス鋼とそ
の加工方法とを提供するもので、産業上益するところ甚
だ大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本図は、本発明の各実施例に於ける各試片のE
SCA光電子スペクトル測定結果の内のFとOに係る表
層部と約6Åエッチング後の表面に於ける各スペクトル
を示す。

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ステンレス鋼の表層部乃至その近傍に対
    し、弗素若しくは弗素と酸素とをイオン状で拡散、浸透
    せしめることにより含弗素、酸素系被膜層を形成させ、
    その被膜の作用効果によって該鋼種相応の耐食性特に塩
    素による耐孔食性をより向上せしめたことを特徴とする
    含弗素乃至含弗素・酸素系被膜層を形成させたステンレ
    ス鋼。
  2. 【請求項2】 ステンレス鋼を直流の陽極に、又は交流
    の一極に、若しくは直流に交流を重ね合わせた交直重乗
    電流の陽極側に接続し、他の電導性対極との間に、塩
    素、沃素、臭素を含まぬ他の有機或は無機酸若しくはそ
    の水溶性塩類に弗酸若しくはそのナトリウム、カリウ
    ム、アンモニウム塩の一種若しくは二種以上を配合添加
    した溶液を電解液とし、対向する電極との間に前記ステ
    ンレス鋼を介在せしめた状態で電解処理することによ
    り、ステンレス鋼表層に含弗素乃至含弗素・酸素系被膜
    層を形成させることを特徴とするステンレス鋼の製造方
    法。
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