JP2003038194A - β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法 - Google Patents

β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 医薬、農薬、レジスト等の原料又は合成中間
体として有用なβ−ヒドロキシラクトン類の効率的な製
造方法を提供する。 【解決手段】 アースロバクター(Arthrobacter)属、
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、カセオバク
ター(Caseobacter)属、コリネバクテリウム(Coryneb
acterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属、ノ
カルディア(Nocardia)属、アミコラトプシス(Amycol
atopsis )属及びロドコッカス(Rhodococcus)属等の
微生物又は該処理物に4−ハロ−3−ヒドロキシニトリ
ル類を接触させ、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン
類を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は微生物によるβ−ヒ
ドロキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法に関する。
β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類は、レジスト、
医薬品、農薬などの合成原料として有用である。
【0002】
【従来の技術】β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類
の化学的製造方法としては、例えば、グリシドールと一
酸化炭素を高温高圧下で貴金属触媒を触媒として反応さ
せる方法(米国特許第4,968,817号)、3−ブ
テン酸を白金触媒下で過酸化水素を作用させてエポキシ
化したものを水和した後にラクトン化する方法(Angew.
chem.,Int.Ed.Eng 994-1000(1966))等が知られている
が、何れも爆発等の危険性が高い方法である。また、L
−アスコルビン酸又はD−イソアスコルビン酸を出発原
料として用い、7工程を経て製造する方法(Synthesis
570-572 (1987))、L−リンゴ酸から3工程で製造する
方法(特開平6-172256号)等も知られているが、多工程
の反応を経由するために操作が煩雑となり、収率の面で
も決して望ましいものではない。
【0003】β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類の
生物学的製造方法としては、シュードモナス属細菌を微
生物触媒として、ethyl-4-chloro-3-hydroxybutyrateか
ら(S)-3-hydroxy-γ-butyrolactoneを製造する方法(Te
trahedr.Asym. 11. 3109-3112 (1996))やエンテロバク
ター属細菌を微生物触媒として、methyl-4-chloro-3-h
ydroxybutyrateから(S)-3-hydroxy-γ-butyrolactoneが
知られている。しかし、いずれの方法も酵素の安定性、
基質(例えばmethyl-4-chloro-3-hydroxybutyrate等)
に対する酵素の耐性、生成物の光学純度に満足できるも
のではなかった。また、基質の調製について、煩雑な工
程を経て調製する必要があり工業的に有利な方法とは言
い難い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、4−
ハロ−3−ヒドロキシニトリル類を原料とした工程の短
い、工業的に有利なβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクト
ン類の製造方法を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記課題を
解決すべく鋭意検討した結果、4−ハロ−3−ヒドロキ
シニトリル類を原料とし、該ニトリルに微生物菌体又は
該処理物を接触させることによりβ−ヒドロキシ−γ−
ブチロラクトン類に変換することができることを見出
し、本発明を完成するに至った。
【0006】すなわち本発明は、(1) 一般式(I)
【化5】 [Xはハロゲン、R、Rは水素または炭素数1〜5
のアルキル基を示す。]で示される4−ハロ−3−ヒド
ロキシニトリル類に、アースロバクター(Arthrobacte
r)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、カ
セオバクター(Caseobacter)属、コリネバクテリウム
(Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomona
s)属、ノカルディア(Nocardia)属、アミコラトプシ
ス(Amycolatopsis )属又はロドコッカス(Rhodococcu
s)属の群から選択される少なくとも1種の微生物又は
該処理物を接触させて、下記一般式(II)
【化6】 [R、Rは水素または炭素数1〜5個のアルキル基
を示す。]で示されるβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラク
トン類を採取するβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン
類の製造法、である。
【0007】本発明により、製造工程の短いβ−ヒドロ
キシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法を提供すること
ができる。さらには、4−ハロ−3−ヒドロキシ酸類及
び/又は4−ハロ−3−ヒドロキシアミド類による酵素
の失活を回避でき、より高収率でβ−ヒドロキシ−γ−
ブチロラクトン類を得ることができる。4-ハロ-3-ヒド
ロキシブチロニトリルに微生物を作用させて、対応する
アミド体又はカルボン酸体へ変換することができること
は、既に、本発明者の一部が見いだしていたが(特許29
83695号及び特許301471号公報参照)、前記反応で対応
するラクトン体が生成することは、知られていなかっ
た。さらには、4-ハロ-3-ヒドロキシニトリル類から対
応するアミド体を経由してβ−ヒドロキシ−γ−ブチロ
ラクトン類が製造できることは全く予想できなかったこ
とである。
【0008】
【発明の実施の形態】本発明で用いられる微生物として
は、一般式[1]
【化7】 [Xはハロゲン、R、Rは水素または炭素数1〜5
のアルキル基を示す。]で示されるニトリル類を一般式
[2]
【化8】 [R、Rは水素または炭素数1〜5個のアルキル基
を示す。]で示されるβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラク
トン類に変換できるものであればいずれの微生物も含ま
れる。例えば、アースロバクター(Arthrobacter)属、
ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、カセオバク
ター(Caseobacter)属、コリネバクテリウム(Coryneb
acterium)属、シュードモナス(Pseudomonas)属ノカ
ルディア(Nocardia)属、アミコラトプシス(Amycolat
opsis )属またはロドコッカス(Rhodococcus)属に属
する微生物、具体的には、アースロバクターオキシダン
ス(Arthrobacter oxydans)IFO 12138、ブレビバクテ
リウム ヘルボラム(Brevibacteriu helvolum)ATCC 1
1822、コリネバクテリウム フラベシエンス(Coryneba
cterium flavescens)IAM 1642、コリネバクテリウム
ニトリロフィラス(Corynebacterium nitrilophilus)A
TCC 21419、ノカルディア ポリクロモゲネス(Nocardi
a polychromogenes)IFM 19、アミコラトプシス ファ
スチディオーサ(Amycolatopsis fastidiosa)ATCC 311
81、ロドコッカス エリスロポリス(Rhodococcus eryt
hropolis)IFO 12540、などが挙げられ、これらの微生
物は、アメリカン タイプカルチャー コレクション
(ATCC)、財団法人発行研究所(IFO)、千葉大学真核
微生物研究センター(IFM)又は東京大学分子細胞生物
学研究所(IAM)から容易に入手することができる。ま
た、経済産業省 産業技術総合研究所生命工学工業技術
研究所に寄託されているカセオバクター sp. BC23(FE
RM P-11261)、ロドコッカス ロドクロウスJ-1(FERM
BP-1478)、シュードモナス sp. BC15-2(FERM BP-332
0)、Pseudomonas sp. SK31(FERM P-11310)、Pseudom
onas sp. SK87(FERM P-11311)、シュードモナス sp.
SK13(FERM BP-3325)、Rhodococcus sp. SK70(FERM
P-11304)、Rhodococcus sp. HR11(FERM P-11306)、R
hodococcus sp. SK49(FERMP-11303)などを挙げること
もできる。
【0009】本発明で使用する微生物を培養するための
培地組成としては、通常これらの微生物が生育し得るも
のならば何でも使用することができる。例えば、炭素源
としてグルコース、フラクトース、シュークロース、マ
ルトース等の糖類、酢酸、クエン酸などの有機酸類、エ
タノール、グリセロール等のアルコール類など、窒素源
としてペプトン、肉エキス、酵母エキス、蛋白質加水分
解物、アミノ酸等の一般天然窒素源の他に各種無機、有
機酸アンモニウム塩等が使用でき、この他無期塩、微量
金属類ビタミン等が必要に応じて適宜使用される。この
際、より高い酵素活性を誘導させるために、n-プロピオ
ニトリル、n-ブチロニトリル、iso-ブチロニトリル、4-
クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリル、ベンジルシア
ニドなどの各種ニトリル化合物、n-プロピオアミド、n
-ブチルアミド、iso-ブチルアミドなどの各種アミド化
合物、γ-ブチロラクタム、δ-バレロラクタム、ε-カ
プロラクタムなどのラクタム化合物などを培地に添加す
ることも有効な場合がある。上記微生物の培養は常法に
よればよく、例えばpH4〜10、温度10〜40℃の
範囲にて好気的に10〜180時間培養する。培養は、
液体培養、固体培養のいずれで行うこともできる。
【0010】本発明において、微生物又は該処理物と
は、前記の方法により培養して得た微生物の培養液又は
遠心分離等により得た菌体、菌体破砕物、菌体抽出物、
粗酵素、精製酵素をいう。また、これらの微生物又は該
処理物をアクリルアミド、カラギーナン、アガロース等
で固定化したもの、イオン交換樹脂等に吸着させたもの
でも良い。反応に使用する微生物又は該処理物は、反応
様式により適宜選択される。また、前記の微生物又は該
処理物を使用し、4−ハロ−3−ヒドロキシニトリル類
からβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類を得る方法
としては、培養して得た微生物の培養液又は遠心分離等
により得た菌体を適当な水性媒体と混合した菌体懸濁液
を基質に添加する方法、菌体処理物(例えば菌体破砕
物、菌体抽出物など)、常法により固定化した菌体、常
法により精製した酵素、酵素固定化物等を基質に添加す
る方法、微生物の培養時に培地に基質を添加して培養と
同時に反応を行う方法等が例示できる。
【0011】反応中の基質濃度は、特に限定するもので
ないが、0.1〜80(W/V)%程度が好ましく、基
質は反応液に一括して加えるか、又は分割して添加する
ことも可能である。反応温度は特に限定するものではな
いが、ラクトン化反応がアミド体又はカルボン酸体を経
由するため、基質ニトリル化合物が消費し尽くされるま
では、1〜60℃にて行うことが好ましい。
【0012】また、高収率でラクトン化物を得るために
は、基質ニトリル化合物が消費し尽くされた後、60〜
100℃に加熱することが好ましい。該加熱処理を行う
際は、酵素反応後、培養液、菌体処理物等が混合した酵
素反応溶液をそのまま、又は遠心分離等で菌体等を除去
した溶液を使用し、実施することができる。反応pHは
特に限定するものではないが、反応の開始時においてp
H4〜10の範囲で行うことが望ましい。反応時間は基
質濃度、菌体濃度等によって変わるが、通常1〜120
時間で終了するように条件を設定することが好ましい。
【0013】かくして反応液中に生成蓄積したβ−ヒド
ロキシ−γ−ブチロラクトン類は、公知の方法を用いて
採取および精製することができる。例えば、反応液から
遠心分離などの方法を用いて菌体を除いた後、水を溜去
して濃縮することによりβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラ
クトン類を得ることができる。また、蒸留によりさらに
精製することもできる。
【0014】
【実施例】以下、本発明を実施例によって具体的に説明
するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0015】〔実施例1〕 (1) 培地の調製および微生物の培養 培地Aの調製;表1に示す組成の培地のpHを7.2に調整
後、5mlずつ試験管に分注し、121℃で15分間オートクレ
ーブで滅菌した。オートクレーブ後、メンブランフィル
ターで除菌した5質量%のイソブチロニトリルおよびイ
ソブチルアミド水溶液を、0.1mlずつ添加し、培地Aとし
た。
【表1】
【0016】培地Bの調製;表2に示す組成の培地のpH
を7.2に調整後、5mlずつ試験管に分注し、121℃で15分
間オートクレーブで滅菌した。オートクレーブ後、メン
ブランフィルターで除菌した5質量%のプロピオニトリ
ル水溶液を、0.1mlずつ添加し、培地Bとした。
【表2】
【0017】表3に示す微生物を培地A又は培地Bに植菌
し、30℃にて72時間振とう培養を行った。
【表3】
【0018】(2)反応 上記の方法により培養して得た、表3記載の菌体を遠心
分離により集菌し、50mMリン酸緩衝液(pH 7.2)1.5ml
にて洗浄後、10重量%の4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニ
トリル水溶液1mlを添加して、菌体を懸濁させ、30℃に
て24時間反応させた。分析条件は、カラム:ジーエルサ
イエンス社製のイナートシルODS-3V(4.6mmID×25m
m)、溶離液:0.1%リン酸水溶液、流速:1ml/min、カラ
ム温度:40℃、検出:示差屈折検出器(日本分光社製)
で行った。反応液から遠心分離にて除菌した溶液を高速
液体クロマトグラフィーにて分析したところ、全ての反
応液において、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンの
生成が認められた。
【0019】〔実施例2〕グルコース10g/l、K2HPO40.5
g/l、KH2PO40.5g/l、MgSO4・7H2O 0.5g/l、酵母エキス1
g/l、ポリペプトン7.5g/lからなる培地(pH 7.2)10ml
を試験管に入れて、121℃、15分間オートクレーブ滅菌
した後、ロドコッカス ロドクロウス J-1菌株を接種
して、28℃で48時間振とう培養し、これを前培養液とし
た。上記組成の培地に、尿素15g/l、CoCl210mg/lを加え
た培地(pH 7.2)100mlを500ml容三角フラスコに入れ
て、121℃、15分間オートクレーブ滅菌した後、前培養
液4mlを接種して、28℃で96時間振とう培養した。
【0020】上記の方法により培養して得た菌体を遠心
分離にて集菌し、培養液と同量の50mMリン酸緩衝液(pH
7.7)で洗浄した後、10mlの同緩衝液に菌体を懸濁し
た。蒸留水6.75mlに4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニト
リル3gを加えて、上記菌体懸濁液0.25mlを添加して、30
℃で1.5時間、次いで70℃で4時間処理した。
【0021】反応液から遠心分離にて除菌後、上清を実
施例1と同様に高速液体クロマトグラフィーにて分析し
たところ、4-クロロ-3-ヒドロキシブチロニトリルは検
出されず、β−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトンの生成
が認められた。この反応液上清から酢酸エチルで抽出を
行い、溶媒を減圧下溜去した後、残渣をIR、1H-NMRおよ
13C-NMR分析を行い、生成物がβ−ヒドロキシ−γ−
ブチロラクトンであることを確認した。
【0022】
【発明の効果】本発明によれば、4−ハロ−3−ヒドロ
キシニトリル類を原料とした工程の短い、経済性に優れ
たβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類の製造方法を
提供することができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) (C12P 17/04 C12R 1:365 C12R 1:13) 1:38 (C12P 17/04 C12R 1:15) (C12P 17/04 C12R 1:365) (C12P 17/04 C12R 1:38) (72)発明者 田村 公夫 広島県大竹市御幸町20番1号 三菱レイヨ ン株式会社中央技術研究所内 Fターム(参考) 4B064 AE45 CA02 CA03 CC03 CD12 CE02 CE08 DA01

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 一般式(I) 【化1】 [Xはハロゲン、R、Rは水素または炭素数1〜5
    のアルキル基を示す。]で示される4−ハロ−3−ヒド
    ロキシニトリル類を下記一般式(II) 【化2】 [R、Rは水素または炭素数1〜5個のアルキル基
    を示す。]で示されるβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラク
    トン類に変換する能力を有する微生物またはその処理物
    を一般式(I)で示される4−ハロ−3−ヒドロキシニ
    トリル類に接触させ、一般式(II)で示されるβ−ヒド
    ロキシ−γ−ブチロラクトン類を採取するβ−ヒドロキ
    シ−γ−ブチロラクトン類の製造法。
  2. 【請求項2】 一般式(I) 【化3】 [Xはハロゲン、R、Rは水素または炭素数1〜5
    のアルキル基を示す。]で示される4−ハロ−3−ヒド
    ロキシニトリル類に、アースロバクター(Arthrobacte
    r)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、カ
    セオバクター(Caseobacter)属、コリネバクテリウム
    (Corynebacterium)属、シュードモナス(Pseudomona
    s)属、ノカルディア(Nocardia)属、アミコラトプシ
    ス(Amycolatopsis )属及びロドコッカス(Rhodococcu
    s)属の群から選択される少なくとも1種の微生物又は
    該処理物を接触させ、さらに加熱処理を行い、下記一般
    式(II) 【化4】 [R、Rは水素または炭素数1〜5個のアルキル基
    を示す。]で示されるβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラク
    トン類を採取するβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン
    類の製造法。
  3. 【請求項3】 加熱処理の温度が60〜100℃である
    請求項2記載のβ−ヒドロキシ−γ−ブチロラクトン類
    の製造法。
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