JP2002541440A - 記憶の固定を調節する方法及び組成物 - Google Patents

記憶の固定を調節する方法及び組成物

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Abstract

(57)【要約】 本発明は、哺乳動物における記憶の固定に関与する遺伝子を同定する方法及び記憶の固定を達成する因子を同定する方法を提供する。これらの方法は、好ましくは、(1)海馬への脳弓媒介の求心性シグナル伝達の少なくとも部分的な破壊を造るように操作された非ヒト哺乳動物(該破壊は、記憶の固定に影響を及ぼす)又は(2)学習した行動をするように学習及び記憶試験を受けさせた損傷を与えてない哺乳動物を利用する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】 政府による援助 この発明は、資金提供の一部が政府機関からの補助金から成り立っており、政
府が本発明における権利を有する。
【0002】 発明の背景 40年以上前に最初に報告された患者H.M.の有名な症例以来、側頭葉にお
ける構造がヒトの記憶に特別な役割を果たしていることが分かっている(Sco
ville他(1957)J.Neurol.Neurosurg.Psych iat 20:11−21)。側頭葉両側の損傷によって起こる症候群は、深刻な
先行性健忘症(アクセス可能な長期記憶への情報の蓄積が不能であるが、以前に
蓄積された情報の再生については比較的無傷である)によって特徴付けられる。
脳に損傷を受けたヒト及び動物についてのその後の研究では、相互連結した大脳
辺縁系構造の幾つか(これらが合わさって哺乳動物内における「記憶系」の構成
要素となっていると考えられている)に焦点が置かれている(例えばSquir
e、L.R.Memory and Brain、Oxford、ニューヨーク
、1987参照)。異なる種の情報蓄積の調節には異なる種の構成要素が特殊化
されていると思われるが、合わさった系は「宣言的」記憶と呼ばれるものについ
てきわめて重要である。この種の記憶を形成する能力の損失は、側頭葉に影響を
与える多くの神経疾患の結果起こるものであり、通常の老化の結果起こるもので
もある(Milner他(1998)Neuron20:445)。この系が情
報蓄積を制御するメカニズムは知られていない。
【0003】 これまでの数十年間、神経系における情報蓄積について、細胞生物学レベルで
多くのことが分かってきている。1960年代に始まった典型的な一連の研究の
結果、臨界時間枠(訓練の間及び直後)においてmRNA及び蛋白質の合成を阻
害することによって、長期記憶を阻害することが分かっている[Flexner
他(1963)Science141:57;Barondes、S11 Pr
otein synthesis dependent and Protei
n synthesis independent memory stora
ge proceses.Short−Term Memory(Deutsh
c,D.&D.、J.A.編)379−390(Academic、ニューヨー
ク、1975);Davis他(1984)Psychol.Bull.96:
518;Castellucci他(1989)J.Neurobiol.20
:1−9]。初期の学習及び以前に蓄積された情報の再生は、蛋白質合成の一時
的な阻害によっては影響を受けなかった。従って、新たな遺伝子発現が、脳内で
の短期改変から長期記憶への変換又は固定に必要であると仮定された。最近にな
って、長期記憶の形成は、cAMP応答要素結合蛋白質(CREB)転写因子族
によって調節される遺伝子発現の活性化に特異的に依存することが示されている
[Tully他(1994)Cell79:35;Bartsch他(1995
Cell83:979;Guzowski他(1977)PNAS94:26
93;Silva他(1998)Ann.Rev.Neurosci.21:1
27]。転写活性化に必要な段階は、Ser−133におけるCREBのリン酸
化であるが、これは多くの異なる細胞内第二メッセンジャー経路の活性化に応答
して起こる[Impey他(1998)Neuron21:869;Silva
他、上述]。しかし、長期記憶形成の間にCREB依存性遺伝子発現がどのよう
にして、いつ、脳内のどこで調節されるのかという重要なことは分かっていない
【0004】 側頭葉損傷の結果と蛋白質合成阻害の結果が明らかに類似した行動につながる
ということから、側頭葉記憶系が、長期記憶の確立に必要とされるニューロン遺
伝子発現の直接的な調節に関与していると推測される。本明細書では、この仮定
の下に行った試験を報告する。抑制性(inhibitory)回避訓練(一度の試行で長
期記憶を生む)を受けたラット及び様々な脳領域を、Ser−133におけるC
REBのリン酸化の時間依存性変化について検定した。これによって、訓練に続
く海馬形成において、ニューロン内で限局性及び持続性のCREBリン酸化が起
こることが明らかにされた。このCREB応答が、健忘症を引き起こす大脳辺縁
系損傷によって変化するかどうかを研究した。脳弓の損傷は、長期記憶の顕著な
損傷を引き起こし、訓練に続くCREBリン酸化を完全に阻害した。我々が得た
データは、側頭葉記憶系の損傷に由来する健忘症を分子レベルで説明するものと
考えられる。
【0005】発明の概要 本発明の一つの特徴は、哺乳類において記憶固定を向上させる作用物質を同定
する方法を提供する。
【0006】 ある態様においては、海馬への脳弓媒介求心性(afferant)シグナルを少なく
とも部分的に阻害する(このシグナルの阻害によって、記憶固定に影響が与えら
れる)ように処理した非ヒト哺乳類を用いたアッセイを行う。例えばそのような
動物は、脳弓の少なくとも一部分を機械的又は化学的に破壊することによって得
ることができる。ある好ましい態様においては、脳弓の損傷は、1種以上のニュ
ーロン型を選択的に破壊することによって、例えばコリン作動性脳弓ニューロン
、GABA作動性脳弓ニューロン及びセロトニン作動性脳弓ニューロンからなる
群より選ばれる1種以上のニューロンを選択的に破壊することによって、得るこ
とができる。
【0007】 ある態様においては本方法は、脳弓損傷の存在しない哺乳類における学習行動
が得られるような学習又は記憶計画で哺乳動物を条件付ける段階を含む。記憶固
定に与える影響について評価対象となる試験作用物質を哺乳動物に投与し、その
動物の学習行動について、試験作用物質の効果を評価する。試験作用物質の非存
在下における学習行動に比較して学習行動が増加した場合、試験作用物質が記憶
固定を向上させたことを意味する。例えば、哺乳動物において少なくとも約24
時間後に学習行動が保持された場合、作用物質は記憶固定を向上させるものであ
るといえる。
【0008】 他の態様において、試験作用物質が脳弓損傷哺乳動物に与える効果は、動物の
海馬におけるCREBのリン酸化程度を測定し、訓練を受けていない対照哺乳動
物におけるCREBのリン酸化程度と比較することによって、調べることができ
る。試験哺乳動物におけるCREBのリン酸化程度が対照哺乳動物のCREBの
リン酸化程度を上回る場合、作用物質は記憶固定を促進することを意味する。
【0009】 ある好ましい態様においては、動物はマウスやラットなどの齧歯類である。あ
るいはトランスジェニック動物であってもよい。
【0010】 ある好ましい態様においては、試験作用物質は分子量2500amu未満の有
機分子である。
【0011】 ある好ましい態様においては、複数の異なる試験作用物質(例えばライブラリ
ー、特に少なくとも10、100又は1000種の異なる試験作用物質のライブ
ラリー)について本方法を実施する。
【0012】 本発明の他の特徴は、(例えば薬学的に許容可能な賦形剤内に調合された)主
題の方法によって同定された1種以上の化合物を含む薬剤調製物に関する。
【0013】 本発明の他の特徴は、記憶固定に関与する哺乳類遺伝子を同定する方法に関す
る。この方法は、対照動物(例えば記憶固定を経ている又は訓練を受けていない
動物)から得た遺伝子の発現レベルと、試験動物(海馬への脳弓媒介求心性シグ
ナルを少なくとも部分的に阻害して記憶固定を阻害した動物)から得た遺伝子の
発現レベルとを比較することを含む。試験動物において、対照動物と比較してア
ップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けた遺伝子は、記憶固定
に関与する遺伝子(例えば「LTM遺伝子」)の候補である。
【0014】 例えば、主題の方法は差次的(differential)クローニング技術によって実施
することができる。例えば、記憶固定を経た動物内で発現される遺伝子を代表す
る核酸プローブの第一のライブラリーを、記憶固定に影響する脳弓損傷を受けた
動物内で発現される遺伝子を代表する核酸プローブの第二のライブラリーと比較
することができる。第二の核酸ライブラリーと比較して、第一の核酸ライブラリ
ーにおいてアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けた遺伝子
が同定される。好ましい態様において、核酸ライブラリーは海馬組織に由来する
ものである。
【0015】 ある態様において、アッセイは、第一の核酸ライブラリーにおいてアップレギ
ュレーション又はダウンレギュレーションを受けたと同定された遺伝子によって
コードされる産物の活性レベルを検出する段階を含む。
【0016】 本発明の他の特徴は、ここに記載した方法によって同定されたLTM遺伝子及
び遺伝子産物を標的にすることによって、記憶固定を変調する作用物質を同定す
る方法を提供する。一般に本方法は、LTM遺伝子によってコードされる産物の
活性を検出する反応系を提供することを含む。系を試験化合物に接触させ、試験
化合物が遺伝子産物の活性を変えることができるかどうかを調べる。
【0017】 本発明の他の特徴は、LTM遺伝子の発現レベルを変えることによって、記憶
固定を変調する作用物質を同定する方法を提供する。一般に本方法は、LTM遺
伝子の発現レベルを検出するための反応系を提供し、システムを試験化合物と接
触させ、試験化合物が遺伝子発現のレベルを変化させたかを調べることを含む。
【0018】 本発明の他の特徴は、ここに開示したアッセイによって同定した薬剤の調製物
を動物に投与することによって、記憶固定を向上させる、さもなくばCNSニュ
ーロンの機能動作を向上させる方法を提供する。例えば、学習及び記憶向上を目
的とした処理を行うことができる。
【0019】 ある態様において、本方法はニューロン成長因子、ニューロン生存因子及びニ
ューロン向性(tropic)因子の1種以上を、薬剤調製物に連結して投与すること
を含む。
【0020】 ある態様において、本方法はCREB依存性転写を活性化させる作用物質を、
記憶向上効果を得るのに十分な量で、薬剤調製物に連結して投与することを含む
。例えば、CREB活性化剤はcAMP増強剤(例えばアデニル酸シクラーゼ活
性化剤、cAMP類似体、cAMPホスホジエステラーゼ阻害剤)であってもよ
い。
【0021】 本発明の他の特徴は、患者の海馬におけるCREBリン酸化レベルを検出する
ことによって、患者の学習及び/又は記憶機能動作を評価する方法を提供する。
例えば、患者の海馬におけるCREBリン酸化レベルは、非侵襲性の分光分析法
[例えば磁気共鳴映像法(MRI)、磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)、
大脳コンピューター断層撮影法(CCT)、生体内NMR(例えば31P NMR
)、陽電子放射断層撮影法(PET)など]によって検出することができる。
【0022】 本発明の他の特徴は、本発明の方法に従って同定した1種以上のLTM遺伝子
の発現を検出することによって患者の学習及び/又は記憶機能動作を評価する方
法を提供する。
【0023】 本発明の更に他の特徴は、脳弓シグナルの特徴をまとめることによって、哺乳
類における記憶固定を変調する作用物質を同定する方法を提供する。一般に、本
方法は (i)海馬への脳弓媒介求心性シグナルを少なくとも部分的に阻害するように
処理して記憶固定に影響を与えた非ヒト動物を提供し; (ii)脳弓損傷の存在しない哺乳動物における学習行動が得られるような学
習又は記憶計画で哺乳類を条件付けし; (iii)神経伝達物質あるいはそのアゴニスト又はアンタゴニストによる、
哺乳動物の学習行動に与える影響を調べる ことを包含する。神経伝達物質の非存在下における学習行動と比較したとき、学
習行動に変化があった場合、神経伝達物質が記憶固定に影響を与えることを意味
する。
【0024】 ある好ましい態様において、本方法は2種以上の神経伝達物質あるいはそのア
ゴニスト又はアンタゴニストを連結して投与することを含む。
【0025】 更に他の特徴は、記憶固定に影響を与える海馬への脳弓媒介求心性シグナルに
よって産生される、1種以上の神経伝達物質あるいはそのアゴニスト又はアンタ
ゴニストを動物に投与することを包含する、動物における記憶固定を向上させる
方法を提供する。好ましい態様においては、記憶固定に影響を与える海馬への脳
弓媒介求心性シグナルによって産生される、2種以上の神経伝達物質あるいはそ
のアゴニスト又はアンタゴニストが投与される。ある態様においては、少なくと
も1種の神経伝達物質は、記憶固定を向上させる神経伝達物質のアゴニストであ
る。ある態様においては、少なくとも1種の神経伝達物質は、記憶固定を阻害す
る神経伝達物質のアンタゴニストである。
【0026】 本発明の他の特徴は、海馬への脳弓媒介求心性シグナルによって産生される、
2種以上の神経伝達物質あるいはそのアゴニスト又はアンタゴニストを包含する
薬剤調製物を提供する。この神経伝達物質は、哺乳動物における記憶固定に影響
を与えるのに十分な量で提供される。
【0027】 特に述べない限りは、本発明の実施には、当業者に実施可能な細胞生物学、細
胞培養、分子生物学、トランスジェニック生物学、微生物学、組換えDNA及び
免疫学の従来技術を用いることができる。そのような技術は、様々な文献に記載
がある[例えば、Molecular Cloning A Laborato
ry Manual第二版、Sambrook、Fritsch及びMania
tis編(Cold Spring Harbor Laboratory P
ress:1989);DNA Cloning第I巻及びII巻(D.N.G
lover編、1985);Oligonucleotide Synthes
is(M.J.Gait編、1984);Mullis他、米国特許第4,68
3,195号;Nucleic Acid Hybridization(B.
D.Hames及びS.J.Higgins編、1984);Transcri
ption And Translation(B.D.Hames及びS.J
.Higgins編、1984);Culture Of Animal Ce
lls(R.I.Freshney、Alan R.Liss,Inc.、19
87);Immobilized Cells And Enzymes(IR
L Press、1986);B.Perbal、A Practical G
uide To Molecular Cloning(1984);学術論文
Method In Enzymology(Academic Press,
Inc.、ニューヨーク);Gene Transfer Vectors F
or Mammalian Cells(J.H.Miller及びM.P.C
alos編、1987、Cold Spring Harbor Labora
tory);Methods In Enzymology、第154巻及び1
55巻(Wu他編)、Immunochemical Methods In
Cell And Molecular Biology(Mayer及びWa
lker編、Academic Press、ロンドン、1987);Hand
book Of Experimental Immunology第I−IV
巻(D.M.Weir及びC.C.Blackwell編,1986);Man
ipulating the Mouse Embryo(Cold Spri
ng Harbor Laboratory Press、Cold Spri
ng Harbor、ニューヨーク、1986)参照]。
【0028】 本発明のその他の特徴及び利点については、下記の詳細な説明及び請求の範囲
により明らかにする。
【0029】発明の詳細な説明 I.大要 行動科学の研究によって、ある不可欠な時間間隔をおいてヒト精神が記憶を固
定することが分かっている。記憶固定の第一段階は、ある新しい概念又は学習経
験にさらされてから最初の数分間におこる。第二段階は、その日の晩に寝ている
間に起こる。学習経験が個人にとって進行中の意義あるものである場合には、次
の数週間が記憶固定の更なる期間として与えられる。実際にはこの段階では、短
期記憶から長期記憶へ物質が移動して蓄えられる。
【0030】 長期記憶の形成には、遺伝子の発現が必要であることが、数十年前から知られ
ている。長期記憶(LTM)の形成について最も一般的となっている仮説は、記
憶事項を新たに導入すると、すでに存在するニューロンの連結パターンが変化し
て、情報を長期蓄積とするニューロンネットワークを形成するというものである
。シナプスの効能の変調は、選択されたシナプス内のシナプス伝達の変化か、シ
ナプス接触の変化によって誘導される。これらの変化は、伝達又はシナプス再編
のもとになる分子にの変化によって起こる。ニューロン中の蛋白質の(耐久性の
ある記憶と比較して)短い寿命を克服するためには、LTM形成に遺伝子発現の
変調が必要であることが示唆される。
【0031】 学習及び記憶の動物モデルにおいて、訓練時期に新規な蛋白質が合成される必
要があるということが、長期記憶と他の種の記憶保持とを区別する決定的な特徴
であった。従って、長期記憶の蓄積は、遺伝子発現、変化する蛋白質合成、及び
新たなシナプス連結の成長についての細胞プログラムに関連している。例えば、
記憶形成のこの特性が、cAMP応答性転写に関与し且つ転写因子のcAMP応
答性要素結合蛋白質(CREB)族を媒介する、特異的な分子レベルでの原因を
有するであろうことが近年の研究によって示唆されている。
【0032】 CREBは、cAMP応答性要素と共に、そのプロモーターにおいて遺伝子の
転写を変調する核蛋白質である。カルシウム又はcAMPいずれかの濃度の増加
によって、CREBのリン酸化及び活性化が刺激される。蛋白質キナーゼAによ
るリン酸化に続いて、CREBはcAMP応答性遺伝子の上流に位置するエンハ
ンサー要素CREに結合し、転写を引き起こす。新たに合成された蛋白質のうち
の幾つかは、後期応答性遺伝子の活性化を最終的に引き起こす補助の転写因子で
あり、その産物はLTMを導くシナプス効力の変調を担う。
【0033】 CREBは、異なる脳構造を利用する様々な種類の処理の記憶形成に寄与する
。CREBがLTMに寄与する遺伝子の転写を調節するということを示唆する証
拠が存在する。例えばアメフラシ目において、CREB活性化は、オリゴヌクレ
オチドを含むCREをに培養されたニューロンにマイクロ注入することによって
阻害されている。ショウジョウバエにおいて、CREB機能は、逆遺伝学的方法
を用いることによって阻害されている。従ってLTMは、CREB抑制体アイソ
ホームの誘導発現によって特異的に阻害され、活性化体アイソホームの誘導発現
によって強化されている。マウスにおけるCREBの役割は、CREB遺伝子に
標的突然変異誘発を起こしたノックアウト系統の行動分析によって確認されてい
る。これらの突然変異体において、学習及び短期記憶は正常であるが、長期記憶
は阻害されている。概して、長期記憶のコード化には高度に保存された分子メカ
ニズムが関与していることを、得られたデータが示唆している。
【0034】 中央側頭葉及び関連する視床構造に損傷を有する動物では、記憶固定の深刻な
阻害が見られるが、健忘症の原因は知られていない。本発明者らは、損傷により
引き起こされる健忘症の一形態が、海馬の特定の小領域における遺伝子発現の異
常な調節に関連していることを示す証拠をここに提供する。抑制性回避訓練によ
って、CREBのリン酸化が急速かつ持続して増加するが、これは記憶固定に必
要とされるCRE媒介遺伝子発現に必須の段階である。CREBリン酸化におけ
る変化は、主に海馬領域のCA1及び歯状回に制限されており、訓練後6時間持
続する。脳弓損傷の動物は、抑制性回避を学習し、制御レベルでの記憶を6時間
後まで示すが、24時間後までには健忘症を顕す。健忘症の動物も、訓練後の海
馬CREBリン酸化の増加を示さなかった。これらの結果は、脳弓を通過する海
馬のインプットが、海馬ニューロンのCREB媒介遺伝子発現の調節を通じて、
この形態の記憶の固定を調節することを示唆している。
【0035】 本発明の一つの特徴は、記憶形成に役割を担う他の遺伝子(ここで「LTM遺
伝子」と称する)及び遺伝子産物(ここで「LTM蛋白質」と称する)を同定す
るアッセイ及び試薬に関し、LTMの基礎となる脳弓−及び海馬媒介メカニズム
を保持する機構モデルを特に企図する。一般に本方法は、記憶固定を経た又は訓
練を受けていないことを特徴とする対照動物からの遺伝子の発現レベルを、海馬
への脳弓媒介求心性シグナルを少なくとも部分的に阻害して記憶固定を阻害した
試験動物からの遺伝子の発現レベルと比較することを含む。対照動物に比較して
試験動物内でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けた遺伝
子は、記憶固定に関与する遺伝子の候補である。
【0036】 本発明の更に他の特徴は、作用物質を同定することを企図したアッセイにおけ
る上記のような遺伝子及び遺伝子産物の使用に関する。この作用物質は、ある種
のLTM遺伝子の機能を変調することによって、動物における長期記憶を変える
のに用いることができる。下に詳述するように、細胞に基づくアッセイ又は細胞
を用いないアッセイにおいて、(例えば蛋白質の酵素活性を変調することによっ
て、蛋白質の半減期を変調することによって、蛋白質と他の蛋白質、核酸、炭水
化物又は他の生物学的分子との相互作用を変調することによって、あるいは蛋白
質の細胞局在化を変調することによって)LTM蛋白質の活性を阻害する又は強
化する能力の有無について試験作用物質を評価することができる。
【0037】 本発明は更に、記憶固定の間に哺乳類の脳内で活性化される(1種以上の)L
TM遺伝子の発現を変調する(増強する又は阻害する)作用物質を同定する方法
に関する。一つの態様において、哺乳動物に評価対象の作用物質を投与し、海馬
におけるLTM遺伝子の発現レベルを評価する。他の態様においては、脳弓に損
傷を有し記憶固定を阻害された哺乳動物に評価対象の作用物質を投与し、哺乳動
物に学習及び/又は記憶試験を行い、哺乳動物に学習行動を与える。損傷のある
動物の脳における遺伝子発現のパターン及び量を調べ、対照哺乳動物の脳におけ
る遺伝子発現のパターン及び量と比較する。損傷のある動物において、対照動物
で観察された遺伝子発現パターンの少なくとも一部を再現する作用物質は、記憶
固定を調節する作用物質の候補である。
【0038】 本発明は更に、海馬への脳弓媒介求心性シグナルを少なくとも部分的に阻害し
て記憶固定に影響を与えた動物を用いた、記憶固定を増強する作用物質を同定す
る方法を提供する。動物は、脳弓損傷の存在しない哺乳類における学習行動が得
られるような学習又は記憶計画で条件付けられる。試験作用物質を動物に投与し
、記憶固定に与える影響を評価する。試験作用物質の非存在下と比較して、学習
行動が増加している場合、試験作用物質が記憶固定を向上させたことを意味する
【0039】 本発明の更に他の特徴は、主題の薬剤スクリーニングアッセイで同定された化
合物の使用に関する。スクリーニングは、動物における学習及び/又は記憶欠陥
の発生を変調させる(増加させる又は減少させる)、従って動物の学習能力及び
/又は記憶能力を変調させる能力について行うものである。その結果、本発明の
化合物は(例えば毒物、脳損傷、癲癇、子供の精神遅滞及びアルツハイマー病を
含む老人性痴呆などによる)記憶障害の治療剤として有用である。
【0040】 本発明の更に他の特徴は、記憶固定に影響する、海馬への脳弓媒介求心性シグ
ナルによって産生される神経伝達物質の作用を再現する化合物の使用に関する。
例えば、主題の発明は、動物における記憶固定を向上させる方法を提供する。こ
の方法は、記憶固定に影響する、海馬への脳弓媒介求心性シグナルによって産生
される一種以上の神経伝達物質あるいはそのアゴニスト又はアンタゴニストを投
与することを含む治療計画を用いる。好ましい態様においては本方法は、脳弓に
よって産生される神経伝達物質の作用を模倣する少なくとも2種の異なる作用物
質を結合して投与することを含む。
【0041】 II.定義 本明細書、実施例、付属の請求項において便宜的に用いられる、用語及び言い
回しの意味するところを下に述べる。
【0042】 「細胞」「宿主細胞」又は「組換え宿主細胞」は、本明細書において交換可能
に用いている用語である。この用語は特定の主題の細胞のみを参照するのではな
く、その細胞の後代又は潜在的な後代をも参照する。突然変異又は環境による影
響によって、後の世代にある種の変化が起こりうるので、実際にはそのような後
代は親細胞と同一ではないが、ここで用いる用語の範囲に含まれる。
【0043】 「相補的な」配列とは、ハイブリダイズして安定した二重鎖を形成するのに十
分な相補性を有する配列のことを言う。
【0044】 「CREB」族の蛋白質(時としてATF族として参照される)は、cAMP
応答転写を媒介することのできる3種、CREB、CREM及びATF−1がよ
く知られている[DeGroot他(1993)Mol Endocrinol 7:145−153]。これらの基本領域、ロイシンジッパー蛋白質は、cAM
P応答性要素(CRE)部位と呼ばれるDNA配列に結合する。この部位は、c
AMPに応答して合成される遺伝子の上流調節領域にしばしば見られる。分子分
析によって、CRE部位及び、その部位とCREB族との相互作用が、cAMP
応答性に必要であることが分かっている。PKAの触媒作用性サブユニットは、
核に転移した後、CREBの位置133におけるセリン残基を直接リン酸化し、
従って蛋白質を活性化し直接cAMP導入経路に連結して新たな遺伝子発現を誘
導する[Backsai他(1993)Science260:222−226
;及びHagiwara他(1993)Mol Cell Biol13:48
52−4859]。
【0045】 良く知られるように、特定のポリペプチドに対する遺伝子は、個人のゲノム内
に1種又は複数存在しうる。そのような重複する遺伝子は、同一であるか、又は
ある種の改変を含みうる(例えばヌクレオチド置換、付加、欠失などを含むが、
全て実質的に同じ活性を有するポリペプチドをコードする)。あるポリペプチド
を「コードするDNA配列」とは、従って特定の個体内の1種以上の遺伝子のこ
とを言う。その上更に、ヌクレオチド配列中のある差異が個体間で存在しうる(
これは対立遺伝子と呼ばれる)。このような対立遺伝子の差異は、コードされる
ペプチドのアミノ酸配列における差異を生じうるし、生じないかもしれないが、
依然として同じ生物学的活性の蛋白質をコードする。
【0046】 本明細書でいう「遺伝子」又は「組換え遺伝子」とは、エクソン及び(場合に
よっては)イントロン配列を含む、ポリペプチドをコードするオープンリーディ
ングフレームを包含する核酸分子のことを言う。「イントロン」とは、所与の遺
伝子中に存在し、蛋白質に翻訳されず、一般にエクソンの間にあるDNA配列の
ことを言う。
【0047】 「相同性」又は「同一性」又は「類似性」は、2個のペプチド間又は2個の核
酸分子間の配列類似性のことをいう。相同性は、比較のために整列させた各配列
中のある位置を比較することによって調べることができる。比較した配列中のあ
る位置が同じ塩基又はアミノ酸で占められている場合には、分子はその位置にお
いて相同性があるといえる。配列間の相同性の程度は、それら配列の有する一致
又は相同位置の個数の関数で表される。「パーセント同一(percent identical
)」とは、2個のアミノ酸配列間又は2個のヌクレオチド間の配列同一性のこと
をいう。それぞれの同一性は、比較のために整列させた各配列中のある位置を比
較することによって調べることができる。比較した配列中の同等の位置が同じ塩
基又はアミノ酸で占められている場合には、分子はその位置において同一である
といえる。同等の部位が同じ又は類似の(例えば立体化学的及び/又は電子的特
性が類似である)アミノ酸残基で占められている場合には、分子はその位置にお
いて相同性を有する(類似である)といえる。相同性/類似性又は同一性の百分
率で表したものは、比較したそれら配列がある位置で有する一致又は類似アミノ
酸の個数の関数を意味する。FASTA、BLAST、ENTREZなどの様々
な整列アルゴリズム及び/又はプログラムを用いることができる。FASTA及
びBLASTは、GCG配列分析パッケージ(ウィスコンシン大学、ウィスコン
シン州マディソン)の一部として入手することができ、例えば初期値を用いて使
用することができる。ENTREZは国立バイオテクノロジー情報センター、国
立薬学図書館、国立衛生研究所(メリーランド州ベセズダ)より入手できる。あ
る態様においては、2個の配列のパーセント同一性はGCGプログラムによって
、ギャップウェイトを1として(例えば各アミノ酸ギャップを、2配列間の1個
のアミノ酸又はヌクレオチドのミスマッチと同等に扱って)調べることができる
【0048】 本明細書でいう「相互作用」は、(例えば2ハイブリッドアッセイを用いて)
検出可能な分子間の相互作用を含むことを意図する。「相互作用」の語は、さら
に分子間の「結合」相互作用を含むことを意図する。相互作用は蛋白質−蛋白質
間のものでもあってもよいし、蛋白質−核酸間のものであってもよい。
【0049】 本明細書でいう核酸(DNA、RNAなど)について「単離された」とは、巨
大分子の天然資源中に存在する他のDNA又はRNAからそれぞれ分離された分
子のことをいう。例えば、特定のポリペプチドをコードする単離された核酸は好
ましくは、天然状態でゲノムDNAの遺伝子の両側に直に隣接する10キロベー
ス(kb)未満の核酸配列、より好ましくは、天然に存在する5kb未満のフラ
ンキング配列、最も好ましくは天然に存在する1.5kb未満のフランキング配
列を含む。本明細書でいう「単離された」とは、組換えDNA技術によって産生
された場合には細胞由来の物質、ウイルス由来の物質又は培養基を実質的に含ま
ない、化学合成された場合には化学的前駆体又は他の化学物質を実質的に含まな
い、核酸又はペプチドについても用いられる。その上更に、「単離された核酸」
は天然には断片として存在せず、天然状態では発見されることのない核酸断片を
含むことを意図する。「単離された」の語は、他の細胞蛋白質から単離されたポ
リペプチドのこともいい、精製及び組換えポリペプチドの両方を含むことを意図
する。
【0050】 本明細書でいう「変調する」とは、応答のアップレギュレーションすなわち誘
発、ならびにダウンレギュレーションすなわち抑制の両方のことをいう。
【0051】 本明細書でいう「非ヒト動物」とは、齧歯類、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、
ウシ等の哺乳類、ニワトリ、両生類、爬虫類等を含む。好ましい非ヒト動物は、
ラット及びマウスを含む齧歯類から選択され、もっとも好ましくはマウスである
。本明細書でいう「キメラ動物」とは、組換え遺伝子の存在する動物、又は組換
えが全てではないが幾つかの細胞において発現される動物のことをいう。「組織
特異的キメラ動物」とは、幾つかの組織においてのみ、ある1種の組換え遺伝子
が存在する及び/又は発現される又は阻害される動物のことをいう。
【0052】 本明細書でいう「核酸」とは、デオキシリボ核酸(DNA)、或いは適当な場
合には、リボ核酸(RNA)等のポリヌクレオチドのことをいう。この用語は、
同等物として、ヌクレオチド類似物から作製されたRNA又はDNAいずれかの
類似物を含み、記載の態様に合わせて、単鎖(センス又はアンチセンス)及び二
重鎖ポリヌクレオチドを含む。
【0053】 本明細書でいう「プロモーター」は、プロモーターに操作可能に連結された、
選択されたDNA配列の発現を調節し、選択されたDNA配列の細胞内での発現
に影響するDNA配列を意味する。この語は、「組織特異的」プロモーター、す
なわち特定の細胞(例えば特定の組織の細胞)内でのみ選択されたDNA配列の
発現に影響するプロモーターを含む。この語は、選択されたDNAの発現をある
組織においてのみならず他組織においても調節するいわゆる「漏出」プロモータ
ーも含む。この語は更に、非組織特異的プロモーター及び構造的に発現するプロ
モーター又は誘導性(すなわち発現レベルを制御することができる)プロモータ
ーも含む。
【0054】 「蛋白質」「ポリペプチド」及び「ペプチド」の語は、遺伝子産物のことを参
照し、本明細書においては置き換え可能に用いられる。
【0055】 「組換え蛋白質」は、組換えDNA技術によって産生された本発明のポリペプ
チドのことをいう。この技術では一般に、ポリペプチドをコードするDNAを好
適な発現ベクター内に挿入し、そのベクターを用いて宿主細胞を形質転換させて
異種蛋白質を産生する。その上更に、組換え遺伝子について用いる「由来する」
の表現は、天然由来の蛋白質のアミノ酸配列を有する、或いは天然に存在する蛋
白質の置換や欠失(末端切断を含む)突然変異によって得られた天然蛋白質に類
似したアミノ酸配列を有する蛋白質である「組換え蛋白質」を含むことを意図す
る。
【0056】 「転写調節配列」とは、操作可能に連結した、蛋白質コード領域の転写を誘導
又は制御する、開始シグナル、エンハンサー及びプロモーターなどのDNA配列
のことをいう。好ましい態様においては、発現が企図される細胞種内での組換え
遺伝子の発現を制御するプロモーター配列(又は他の転写調節配列)によって、
組換え遺伝子のうちの一つの転写が制御される。また、組換え遺伝子は、天然に
存在する蛋白質の転写を制御する配列と同一又は異なる転写調節配列によって制
御することができることは理解されよう。
【0057】 「トランスフェクション」とは、核酸(例えば発現ベクター)を、核酸媒介遺
伝子導入によって受容細胞に導入することをいう。「形質転換」とは、細胞が外
来DNA又はRNAを取り込んで細胞の遺伝子型が変化し、例えば形質転換細胞
がポリペプチドの組換え形状のを発現するか、あるいは導入遺伝子からのアンチ
センス発現の場合には、天然に存在する形状の蛋白質の発現が阻害される過程の
ことをいう。
【0058】 「導入遺伝子」とは、ポリペプチドをコードする核酸配列、或いはそれに対す
るアンチセンス転写のことをいう。この遺伝子は、その遺伝子が導入されるトラ
ンスジェニック動物又は細胞に対して部分的又は全体的に異種である(すなわち
外来である)か、或いはその遺伝子が導入されるトランスジェニック動物又は細
胞の内生遺伝子に相同であるが、その遺伝子が挿入される細胞のゲノムを変える
ように、動物のゲノム内に挿入されることを企図されるか、あるいは挿入されて
いる(例えば、天然遺伝子の位置とは異なる位置に挿入されるか、挿入の結果ノ
ックアウトを生む)。導入遺伝子は、選択された核酸の最適な発現に必要であろ
う1個以上の転写調節配列及び他の核酸(例えばイントロン)を含む。
【0059】 「トランスジェニック動物」とは、1種以上の細胞が人工に(例えば当分野で
知られる遺伝子導入技術によって)導入された異種の核酸を含むあらゆる動物、
好ましくは非ヒト動物、鳥類又は両生類のことをいう。核酸は、組換えウイルス
で細胞の前駆体に導入することによって直接的又は間接的に細胞に導入する。「
遺伝子操作」の語には、古典的な交雑や生体内受精は含まれないが、組換えDN
A分子の導入を意図する。この分子は、染色体内に統合してもよいし、あるいは
染色体外で複製するDNAであっても良い。ここに記載する典型的なトランスジ
ェニック動物においては、導入遺伝子は細胞に組換え形状(例えばアゴニスト又
はアンタゴニスト形状)の蛋白質を発現させる。しかし、例えば下に述べるFL
P又はCREレコンビナーゼ依存性構造体などの、組換え遺伝子が休止している
トランスジェニック動物も企図する。その上更に、「トランスジェニック動物」
は、遺伝子阻害が(組換え及びアンチセンス技術を含む)人工的に引き起こされ
た組換え動物も含まれる。
【0060】 「ベクター」とは、それに連結された他の核酸を運搬することのできる核酸分
子のことをいう。好ましいベクターの一つとして、エピソームすなわち染色体外
複製が可能な核酸が挙げられる。好ましいベクターは、それが連結された核酸の
自律的複製及び発現を可能にするベクターである。操作可能に連結された遺伝子
の発現を誘導することのできるベクターを、以下「発現ベクター」と称する。一
般に、組換えDNA技術において用いられる発現ベクターは、「プラスミド」の
形状をしている。プラスミドは、一般に環状の二重鎖 DNAループであり、ベクターの形状で染色体には結合しないもののことをいう
。プラスミドは最も一般的に用いられているベクターなので、本明細書において
「プラスミド」及び「ベクター」の語は置き換え可能に用いられる。しかし本発
明においては、同等の機能を有しその点で当分野で公知とされる他の形状の発現
ベクターを含むことを企図する。
【0061】 III.例証的な態様 A.動物モデルの作製 本発明者らは、長期記憶の固定には、海馬における脳弓媒介遺伝子発現が含ま
れるという知見を得た。本発明の一つの特徴は、脳弓媒介記憶固定を研究するた
めの動物モデルを提供する。例えば主題の動物を、記憶固定を向上させる化合物
を同定する、並びに脳弓媒介求心性シグナルを海馬へ送ったために記憶固定にお
いてアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けた海馬遺伝子を
同定する、薬剤スクリーニングに用いることができる。下に詳述するように、抑
制性回避訓練によってCREB(cAMP応答性要素結合蛋白質)のリン酸化が
急速かつ持続して増加する。これはこれは記憶固定に必要とされるCRE媒介遺
伝子発現に必須の段階である。CREBリン酸化における変化は、主に海馬領域
のCA1及び歯状回に制限されており、訓練後6時間持続する。脳弓損傷の動物
は、抑制性回避を学習し、制御レベルでの記憶を6時間後まで示すが、24時間
後までには健忘症を顕す。健忘症の動物も、訓練後の海馬CREBリン酸化の増
加を示さなかった。これらの結果は、脳弓を通過する海馬のインプットが、海馬
ニューロンのCREB媒介遺伝子発現の調節を通じて、この形態の記憶の固定を
調節することを示唆している。
【0062】 本発明の方法において損傷動物は、脳弓または関連の脳構造(例えば鼻周囲皮
質、扁桃、中間中隔核、青斑、海馬、乳頭体に損傷を有し、記憶固定が阻害され
ている。哺乳動物における損傷は、機械的又は化学的破壊によって引き起こすこ
とができる。例えば脳弓損傷は、外科切除、電気分解、神経毒及び他の化学的除
去技術、脳弓の活性を一時的に抑制する麻酔剤(テトロドトキシン又はリドカイ
ン)の注射などの可逆性不活性化によって引き起こすことができる。
【0063】 更に例証するために、采及び脳弓(齧歯類)並びに脳弓(霊長類)の損傷を、
定位除去によって作製することができる。特に脳弓構造のニューロンは、例えば
横断又は吸入切断によって軸索切断できる。脳弓の完全な横断によって、コリン
作動性及びGABA作動性並びに電気的活性が阻害され、海馬形成において形態
的な再変性が誘導される。一般に、主題の方法に利用される脳弓横断は、海馬傍
回領域と新皮質を分断することはない。これらの態様において、海馬形成による
過程とは独立した海馬傍回によって実施される機能を阻害しないように、従って
海馬系の完全な損傷の結果起こるような重度の健忘症を引き起こさないように、
脳弓横断を行うことができる。
【0064】 ある態様においては、動物としてラットを用いることができる。以下簡単に述
べると、動物を(例えばケタミン−キシラジン混合物の腹膜内注射によって)麻
酔にかけ、定位装置にかける。頭皮の矢状方向の切開を行い、ブレグマの後方2
.0mmから側面3.0mmにわたる開頭術を行う。吸気装置(例えば20口径
吸い口を供えたもの)を定位枠に取り付け、動物の脳の正しい定位位置に吸い口
を置いて采及び脳弓を吸引する。帯状皮質を通じて吸引し、采−脳弓の片面を完
全に横断し、(場合によっては)海馬の背面先端(tip)並びに上に重なる帯状
皮質を除去して海馬標的の部分的な除神経を行うことによって、片面だけの吸引
損傷が得られる[例えばGage他(1983)Brain Res.268:
27及びGage他(1986)Neuroscience19:241参照]
【0065】 他の例証的な態様において、動物としてサルを用いることができる。サルを[
例えばイソフルラン(1.5−2.5%)などで]麻酔にかける。マンニトール
(0.25g/kg、iv)で前処理したあと、Kordower他[(199
0)J.Comp.Neurol.298:443]に記載の方法に従って左脳
弓の片面横断を行うことができる。以下簡単に述べると、外科手術用ドリルを用
いて、前面上矢状静脈洞を露出する側矢状骨弁を作製する。硬膜を引っ込め、保
持開創器を用いて大脳半球間の溝を露出する。脳梁を縦方向に切開する。モンロ
ー孔の高さで、脳弓ははっきりした2−3mm幅の白色の繊維束として容易に認
識される。脳弓は、ボール解剖器具によって最初に横断することができる。脳弓
の切断端を吸引して、損傷を確実に得ることができる。
【0066】 更に他の例証的な態様において、興奮毒を用いて又は他の化学的手段を用いて
、脳弓ニューロン又は脳弓ニューロンによって刺激される海馬細胞を阻害する又
は除去することによって、脳弓損傷を得ることができる。ある好ましい対応にお
いて、特定のニューロン(例えばコリン作動性、GABA作動性及び/又はセロ
トニン作動性のニューロン)の、並びにある態様においては、前記ニューロン型
のうち特定の形態亜類型の、選択的な阻害によって脳弓損傷を得ることができる
。例えば、脳弓構造をメタンフェタミン[例えばd−メタンフェタミン(d−M
A)、メチレンジオキシアンフェタミン(MDA)、メチレンジオキシメタンフ
ェタミン(MDMA)、5,7−ジヒドロキシトリプタミン(5,7−DHT)
など]で処理することによって、セロトニン作動性ニューロンの選択的除去を行
うことができる。コリン作動性ニューロンによる海馬への求心性脳弓シグナルは
、アトロピン阻害によって消去することができる。コリン作動性ニューロンを除
去する他の方法としては、192IgG−サポリン(192IgG−sap)を
用いる(例えば脳弓及び海馬内へ脳室内注射する)ものがある。他の態様におい
ては、除去工程の一部として、6−OHDAやイボテン酸などの作用物質を用い
て選択的に脳弓ドーパミン神経を破壊するものがある。脳弓損傷を得る他の作用
物質の例としては、N−メチル−D−アスパラギン酸塩(NMDA)、キノリン
酸及びメチルアゾキシメタノールが挙げられる。
【0067】 好ましい態様においては、動物はイヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤ
ギ、ニワトリ、サル、類人猿、ラット、ウサギなどの非ヒト動物である。ある好
ましい態様においては、動物はヒトではない霊長類である。他の好ましい態様に
おいては、動物は齧歯類である。
【0068】 損傷動物及び正常動物を用いて、認識機能特に学習及び記憶を調べる試験には
、様々なものがある。学習及び/又は記憶試験の例としては、抑制性回避試験、
前後関係(contextual)恐怖条件付け、視覚的遅延見本不合わせ、空間的遅延見
本不合わせ、視覚的弁別、バーンズ円形迷路、モリス水迷路、放射状腕迷路試験
などが挙げられる。
【0069】 典型的な受動的な回避試験では、スライド式のドアで暗室から分離することの
できる照明室からなる装置を利用する。訓練において、動物を一定時間照明室に
置いてから、ドアを開く。短期間の反応潜時ののち、動物は暗室へ移動し、それ
が記録される。暗室へ入る際に、ドアを閉めて脚ショックを与える。試験を繰り
返し、反応潜時を記録することによって、経験が保持されたかどうかを、様々な
時間間隔の後(例えば24時間又は48時間)に調べる。多種存在する受動的回
避試験の一つをプロトコルとして用いる[例えばRush(1988)Beha v Neural Biol 50:255参照]。
【0070】 典型的な迷路試験の態様は、水迷路記憶試験である。この方法では一般に、円
形水槽からなる装置を用いる。水槽中の水は、粉ミルクを添加して濁らせる。水
槽の底に据えられた移動式のスタンドによって支持されている透明なプレキシガ
ラスのプラットホームを、水面の僅か下に冠水させる。通常、泳いでいるラット
はプラットホームの位置を知覚できないが、記憶障害が無い限りは前回の経験と
訓練から位置を思い出す可能性がある。プラットホームの位置が分かるまでの時
間を測定し、潜時とする。実験の間、天井やライトなど方向の手掛かりとなるも
のは変化させないでおく。記憶に障害があるラットはより長い潜時を示す。
【0071】 他の記憶試験としては、まばたき条件付け試験が挙げられる。この試験では、
白色雑音又は一定の音に続いて緩やかに空気を送り出して被験体のまばたきを刺
激する。
【0072】 更に他の記憶試験としては、恐怖条件付け(例えば「手掛かり」による及び「
前後関係」による恐怖条件付けなど)が挙げられる。一つの態様においては、一
連の刺激(音、ショックなど)を与えて、ショックにより誘導される凝固からの
回復を測定して一連の潜時を記録し、凝固をモニターする。
【0073】 損傷動物に用いられる他の記憶試験としては、穴あき板試験が挙げられる。4
隅に(すなわち4個の)穴のある試験用閉鎖容器の床板が回転する装置を利用す
る。穴の一つには試行の度に報酬として与えられる餌が置かれており、頭を穴に
突っ込み餌を回収するようにマウスを訓練する。各穴に餌の報酬(例えばフルー
ツケーキ)を入れてスクリーンをかぶせてアクセス不能にする。スクリーンは穴
に入った報酬の芳香のみを通過させるが、無理にアクセスすることはできない。
一個の穴に餌を置くとき、フルーツケーキの小片をアクセスできるようにそのス
クリーン上に置く。装置全体は回転台の上に置かれており、装置を回転させるこ
とによって、近位(proximal)の(例えば嗅覚による)手掛かりへの依存を容易
に避けることができる。出発管を装置の中心に設置する。被験体が管から放たれ
て、餌の置かれた(正解の)穴を探し出す。
【0074】 B.薬剤試験用の動物モデルの使用 本発明の脳弓損傷動物の用途の一つとして、記憶固定を向上させる又は阻害す
る化合物の(例えば様々な「試験作用物質」からの)同定に用いることが挙げら
れる。一般に主題の方法は、海馬への脳弓媒介シグナリングを少なくとも部分的
に分断する処理を行った動物を利用する。この分断によって、動物における記憶
固定及び学習行動に影響が与えられる。脳弓損傷の存在しない哺乳動物における
学習行動が得られるような学習又は記憶計画で哺乳類を条件付けする。試験作用
物質を動物に投与し、記憶固定に与える影響を評価する。試験作用物質の非存在
下と比較して、学習行動が増加している場合、試験作用物質が記憶固定を向上さ
せたことを意味する。
【0075】 本発明の方法において、記憶段階が完了してから例えば少なくとも約12−2
4時間後、14−22時間後、16−20時間後及び/又は18−19時間後に
、学習行動の保持を測定し、作用物質が記憶固定を促進するかどうかを調べるこ
とができる。ある特定の態様においては、学習行動の保持は学習段階が完了して
から24時間後に測定される。
【0076】 ここで「対照哺乳動物」とは、処理を受けていない損傷哺乳動物(すなわち評
価対象となる作用物質を投与されていない損傷動物)、訓練を受けた対照哺乳動
物(すなわち損傷を有さないで学習行動を示すように訓練を受けた哺乳動物)及
び/又は訓練を受けていない対照哺乳動物(すなわち損傷の有無に関わらず、学
習行動を示すように訓練を受けていない哺乳動物)であり得る。
【0077】 本発明における評価対象となる作用物質は、学習行動を示すための学習及び記
憶試験に哺乳動物がかけられる前又は後のいずれかで哺乳動物に投与することが
できる。どのような作用物質も本発明の方法において評価することができる。試
験作用物質の例としては、小さな有機分子(分子量2500amu未満の分子、
好ましくは1000、750又は500amu未満の分子)が挙げられる。その
ような分子の例としては、ペプチド及び非ペプチド成分、核酸、炭水化物などが
挙げられる。
【0078】 一つの態様においては、脳弓媒介LTMに必要とされる神経伝達物質及びホル
モン(例えばアセチルコリン、ドーパミン、セロトニン、ノルエピネフリン、コ
ルチゾルなど)の活性の再現性を基準にして選択した作用物質を組み合わせたも
ので動物を処理する。神経伝達物質及びホルモン自体に加えて、それら神経伝達
物質の受容体(例えばグルタミン酸塩、アセチルコリン、ドーパミン、セロトニ
ン、ノルエピネフリン、コルチゾルの受容体)に対するアゴニスト及びアンタゴ
ニスト、第二メッセンジャー変調剤(例えばcAMP類似物、ホルボールエステ
ル、ホスホジエステラーゼ阻害剤)、並びにCREBリン酸化に影響する作用物
質(例えばcAMP依存性蛋白質キナーゼ、MAPキナーゼ、カルシウム−カル
モジュリン依存性蛋白質キナーゼ)を用いてアッセイを実施することができる。
【0079】 学習段階完了の後に学習行動を保持するという能力が哺乳動物にあるかどうか
は、様々な方法で調べることができる。例えば、CREBリン酸化の量を測定す
ることができるし、学習記憶試験を行うこともできる。
【0080】 多くの態様において、複数の異なる試験作用物質についてアッセイを繰り返す
ことが望ましい。例えば、少なくとも10種の異なる試験作用物質について、或
いは他の態様においては、少なくとも100種、または少なくとも1000種の
異なる試験作用物質について、主題のアッセイを繰り返す。
【0081】 主題のアッセイにおいて活性であると同定された化合物は、薬剤候補を効率よ
く得られるように、更なる試験にかけ、医化学及び構造−活性関係について研究
することができる。候補薬剤を薬学的に許容可能な賦形剤内に調合して、更なる
試験及び/又は治療を目的として動物に投与することができる。
【0082】 他の態様において、主題の方法を用いて、海馬におけるCREBリン酸化を調
節する能力を試験作用物質が有するかどうかを検定することによって、記憶固定
を促進する作用物質を同定することができる。一般に、アッセイのこの態様は、
哺乳動物における学習行動が得られるような学習又は記憶試験を行った試哺乳動
物に、評価対象の作用物質を投与することを含む。哺乳動物の海馬におけるCR
EBのリン酸化程度を評価し、訓練を受けていない対照哺乳動物の海馬における
CREBのリン酸化程度と比較する。訓練を受けた哺乳動物におけるCREBの
リン酸化程度が対照哺乳動物のCREBのリン酸化程度を上回る場合、作用物質
は記憶固定を促進することを意味する。ある好ましい態様においては、訓練を受
けた哺乳動物について、海馬への脳弓媒介求心性シグナルを少なくとも部分的に
阻害するように処理して記憶固定に影響を与える。
【0083】 更に他の態様においては本発明は、記憶固定に関与する1種以上のLTM遺伝
子の発現を促進又は阻害する作用物質を同定する方法を提供する。例えば、評価
対象の作用物質を哺乳動物に投与して、海馬におけるLTM遺伝子の発現レベル
を調べる。他の態様においては、評価対象の作用物質を、脳弓に損傷を有し記憶
固定を阻害された哺乳動物に投与して、哺乳動物における学習行動が得られるよ
うな学習及び/又は記憶試験を行う。損傷動物の脳における遺伝子発現のパター
ン及び量を調べ、対照動物の脳における遺伝子発現のパターン及び量と比較する
。対照動物において観察された遺伝子発現パターンの少なくとも一部を、損傷動
物において再現する作用物質は、記憶固定を調節する作用物質の候補である。
【0084】 C.ゲノム科学における動物モデルの使用 一つの態様においては、主題の方法を用いて、哺乳動物の脳弓媒介記憶固定に
関与する遺伝子、「長期記憶遺伝子」又は「LTM遺伝子」を同定することがで
きる。一般に、本方法は「対照動物」(例えば記憶固定を経ているか又は訓練を
受けていない動物)からの遺伝子発現のレベルと、「試験動物」(海馬への脳弓
媒介求心性シグナルを少なくとも部分的に阻害するように処理して記憶固定に影
響を与えたことを特徴とする動物)からの遺伝子発現のレベルとを比較すること
を包含する。対照動物に比較して試験動物において遺伝子がアップレギュレーシ
ョン又はダウンレギュレーションを受けている場合には、その遺伝子は記憶固定
に関与している遺伝子の候補である。
【0085】 一つの態様において、LTM遺伝子は下記段階を含む方法によって同定するこ
とができる。(i)記憶固定を経た動物内で発現される遺伝子を代表する核酸プ
ローブの、第一のライブラリーを作製し;(ii)海馬への脳弓媒介求心性シグ
ナルを少なくとも部分的に阻害するように処理して記憶固定に影響を与えた動物
内で発現される遺伝子を代表する核酸プローブの、第二のライブラリーを作製し
;(iii)第二の核酸ライブラリーと比較して第一の核酸ライブラリーにおい
てアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けている遺伝子を同
定する。ある態様においては、第一及び第二の核酸ライブラリーは、海馬組織に
由来するものである。ある態様においては主題の方法は、第一の核酸ライブラリ
ーにおいてアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受けていると
同定された遺伝子によってコードされる産物の活性レベルを検出する段階を更に
含むことができる。
【0086】 発達上の、生理学的な、薬理学的な又は他の鍵となる現象に応答して活性化又
は発現される遺伝子を検出及び単離する多くの方法が開発されてきた。こうした
方法は、本発明において容易に適用できると考えられる。
【0087】 特定方法の一つに、米国特許第5,525,471号(Zeng)に記載のサ
ブトラクティブハイブリダイゼーションがある。サブトラクティブハイブリダイ
ゼーションは、1つのDNA又はRNA個体群に存在するが他の個体群には存在
しない配列の選択的クローニングに特に有用である。対照細胞/組織(ドライバ
ーcDNA)及び特定の変化又は応答を研究する間又は研究した後の細胞/組織
(テスターcDNA)の両方から1本鎖相補DNAライブラリーを作製すること
によって、選択的クローニングを行うことができる。2個のcDNAライブラリ
ーは変性されて互いにハイブリダイズされ、ドライバー及びでスターcDNA鎖
の間で二重鎖が形成される。この方法においては共通の配列は除去され、残った
ハイブリダイズしていない単鎖DNAは、研究されている特定の変化又は現象に
関連する実験の細胞/組織に存在する配列について増幅される。
【0088】 差次的クローニング方法の他の例としては、例えば下記に記載のものを参照で
きる。Zeng他(1994)「酵素分解サブトラクション(EDS)による差
次的cDNAクローニング」、Nucleic Acids Research 22:4381;Hubank他(1994)「cDNAの代表的な差異分析に
よる、mRNA発現における差異の同定」、Nucleic Acids Re search 22:5640;Suzuki他(1996)「新規な方法『ED
S』による、差次的発現された遺伝子の効果的な単離」Nucleic Aci d Research 24:797;Milner(1995)「サブトラクテ
ィブハイブリダイゼーションの運動モデル」、Nucleic Acids R esearch 23:176;Kunkel他(1996)「X染色体欠失を有
する男性患者のDNAに存在しないDNA断片の特異的クローニング」、PNA 82:4778;Liang他(1993)「差次的ディスプレーによる真核
生物mRNAの分布及びクローニング:改善と最適化」、Nucleic Ac ids Res. 21:3269;及びSupplement34(1996)
「PCRに基づくサブトラクティブcDNAクローニング」節5.9.1−5.
11.1、Ausubel,F.M.他(1989)Current Prot ocols in Molecular Biology 、Greene Pu
blishing Associates and Wiley−Inters
cience、ニューヨーク。
【0089】 ある例においては、希有なクローンが存在する相対度数を増加させ、一方で過
剰なクローンが存在する相対度数を同時に減少させるような方法で構築した、正
規化したライブラリーを用いることが望ましいであろう。正規化ライブラリーに
ついては、例えばSoares他(Soares,M.B.他、1994、Pr oc.Natl.Acad.Sci.USA 91:9228−9232。ここに
参照して説明に変える)が参照できる。ビオチン化ヌクレオチドを用いた別の正
規化方法を用いることもできる(後に詳述する)。
【0090】 D.LTM蛋白質をコードする核酸 下に述べるように、本発明の一つの特徴は、記憶固定に関与する蛋白質をコー
ドするヌクレオチド配列を包含する核酸の単離に関する。この蛋白質を、以下「
LTM」蛋白質又はポリペプチドと称する。「同等」の語は、ここに述べるよう
なLTM蛋白質活性を有する、機能的に同等なLTMポリペプチド又は機能的に
同等なペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むものとする。同等なヌクレ
オチド配列は、1個以上のヌクレオチド置換、付加又は欠失によって異なる配列
、例えば対立遺伝子変異体を含む。
【0091】 好ましい核酸は、脊椎動物のLTM核酸である。特に好ましい脊椎動物LTM
核酸は、哺乳動物のものである。種にかかわらず、特に好ましいLTM核酸は、
脊椎動物LTM蛋白質のアミノ酸配列に少なくとも80%の類似性を有するポリ
ペプチドをコードする。一つの態様においては、核酸は、主題のLTMポリペプ
チドの少なくとも1種の生物活性を有するポリペプチドをコードするcDNAで
ある。
【0092】 本発明で好ましい更に他の核酸は、少なくとも2、5、10、25、50、1
00、150又は200アミノ酸残基を包含するLTMポリペプチドをコードす
る。例えば、プローブ/プライマー又はアンチセンス分子(すなわちノンコーデ
ィング核酸分子)として用いるのに好ましい核酸としては、長さが少なくとも約
6、12、20、30、50、100、125、150又は200塩基のものが
挙げられる。一方コーディング核酸分子としては、300、400、500、6
00、700、800、900、950、975、1000塩基のものが挙げら
れる。
【0093】 本発明の他の特徴は、クローンされたLTM遺伝子をコードする核酸と緊縮条
件下でハイブリダイズする核酸を提供する。DNAハイブリダイゼーションを促
進する適当な緊縮条件、例えば6.0×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(
SSC)(45℃)、それに続く2.0×SSC(50℃)は、当業者に公知の
ものであり、例えばCurrent Protocols in Molecu
lar BIology、John Wiley&Sons、ニューヨーク(1
989)6.3.1−6.3.6を参照できる。例えば洗浄段階における塩濃度
は、低緊縮条件の約2.0×SSC(50℃)から高緊縮条件の約0.2×SS
C(50℃)までから選択することができる。加えて、洗浄工程における温度は
、低緊縮条件の室温(約22℃)から高緊縮条件の約65℃へ増加させることが
できる。温度及び塩濃度の両方を変化させることもできるし、温度又は塩濃度の
いずれかを一定に保って他方を変化させることもできる。好ましい核酸は、LT
M遺伝子の核酸配列と、少なくとも75%の相同性、より好ましくは80%の相
同性、さらにより好ましくは85%の相同性を有する。LTM遺伝子の核酸配列
と少なくとも90%、より好ましくは95%、最も好ましくは98−99%の相
同性を有する核酸も、もちろん本発明の範囲に含まれる。
【0094】 主題の方法によって、成人及び胚から得たゲノムDNAからクローンした、L
TMポリペプチドをコードする核酸を得ることも可能である。例えば、ここに記
載したプロトコル或いは当分野で公知の方法に従って、LTM蛋白質をコードす
る遺伝子を、cDNA又はゲノムライブラリーからクローンすることができる。
主題の核酸の単離に好適な組織及び/又はライブラリーの例としては、胸部等が
挙げられる。LTM蛋白質をコードするcDNAは、細胞(例えば胚細胞を含む
、脊椎動物細胞、哺乳動物細胞、ヒト細胞など)から全mRNAを単離すること
によって得られる。次いで、二重鎖cDNAを全mRNAから調製し、数ある公
知の方法のいずれかを用いて好適なプラスミド又はバクテリオファージベクター
に挿入することができる。LTM蛋白質をコードする遺伝子は、本発明により提
供されるヌクレオチド配列の情報に基づいて、既定のポリメラーゼ連鎖反応を用
いてクローンすることができる。本発明の核酸は、DNA、RNA又はそれらの
類似体であってもよい。
【0095】 (i)発現ベクター 本発明は更に、少なくとも1個の転写調節配列に操作可能に連結した、LTM
ポリペプチドをコードする核酸を含む発現ベクターを提供する。「操作可能に連
結した」とは、ヌクレオチド配列が、そのヌクレオチド配列の発現が可能となる
ように調節配列に連結されていることを意味する。調節配列は、当業者に知られ
るものであり、主題のLTM蛋白質の発現を誘導するものが選択される。ここで
いう「転写調節配列」とは、プロモーター、エンハンサー及び他の発現制御要素
を含む。そのような調節配列については、例えばGoeddel;Gene E
xpression Technology:Methods in Enzy
mology185、Academic Press、カリフォルニア州サンデ
ィエゴ(1990)に記載がある。一つの態様においては、発現ベクターは、主
題のLTMポリペプチドに対するアゴニスト活性を有するペプチドをコードする
組換え遺伝子、或いは主題のLTMポリペプチドに対するアンタゴニスト活性を
有するペプチドをコードする組換え遺伝子を含む。そのような発現ベクターを用
いて細胞のトランスフェクションを行い、ここに記載した核酸によってコードさ
れる、融合蛋白質を含むポリペプチドを産生することができる。その上更に、本
発明の遺伝子構造体を遺伝子治療プロトコルの一部として用いて、主題LTM蛋
白質のアゴニスト又はアンタゴニストいずれかの形状のものをコードする核酸を
運搬する(deliver)ことができる。従って、本発明の他の特徴は、特定の細胞
種におけるLTMポリペプチドの生体内又は生体外トランスフェクション及び発
現に用いる発現ベクターを含む。このトランスフェクション及び発現は、組織(
例えば海馬組織)内でLTM誘導シグナリング機能を再構成するように或いは阻
害するように行われる。
【0096】 上記したようなウイルスによる運搬法に加えて、ウイルスを用いない方法を用
いて、動物の組織内において主題のLTMポリペプチドを発現させることもでき
る。非ウイルス性の遺伝子運搬方法のほとんどは、巨大分子を取り込んで細胞内
に運搬する、哺乳動物細胞の通常のメカニズムに依存している。好ましい態様に
おいては、本発明の非ウイルス性ターゲッティング手段は、標的細胞が主題のL
TMポリペプチド遺伝子を取り込むエンドサイトーシス経路に依存する。この種
のターゲッティング手段の例としては、リポソームに由来する系、ポリリシン複
合体、人工ウイルスエンベロープなどが挙げられる。
【0097】 (ii)プローブ及びプライマー その上更に、哺乳動物から得たLTM遺伝子のクローニングによって決定され
るヌクレオチドの配列を用いることによって、他の細胞型(例えば他の組織細胞
)におけるLTM同族体並びに他の哺乳動物から得たLTM同族体の、同定及び
/又はクローニングに用いることを企図したプローブ及びプライマーを作製する
ことができる。例えば、本発明は更に、実質的に精製されたオリゴヌクレオチド
を包含するプローブ/プライマーを提供する。このオリゴヌクレオチドは、LT
M遺伝子のセンス又はアンチセンス配列或いは天然に存在するその突然変異体の
、少なくとも約12、好ましくは25、より好ましくは40、50又は75の連
続したヌクレオチドに、緊縮条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列の領
域を包含する。
【0098】 同様に、主題のLTM配列に基づくプローブを用いて、同一又は同族蛋白質を
コードする、転写体又はゲノム配列を検出することができる。好ましい態様にお
いては、プローブはそれに結合させた検出可能な標識群を包含する。例えば標識
群としては、放射性同位体、蛍光化合物、酵素、酵素共同因子が挙げられる。
【0099】 下に詳述するように、そのようなプローブは、LTM蛋白質を誤発現する細胞
又は組織を同定する診断試験キットの一部として用いることができる。患者から
得た試料細胞中のLTMをコードする核酸のレベルを測定する、例えばLTMm
RNAレベルを検出するまたはゲノムLTM遺伝子が突然変異又は欠失したかを
調べることによって同定する。以下簡単に述べると、ヌクレオチドプローブを、
主題のLTM遺伝子から作製する。これによりLTMをコードする転写体の有無
に関して、未処理の組織及び組織試料を組織学的にスクリーニングすることが可
能になる。抗LTM抗体の診断的使用の場合と同様に、LTMメッセージ又はゲ
ノムLTM配列に対するプローブを、例えば記憶障害の素因にはっきり現れうる
突然変異の予測及び治療評価の両方に用いることができる。ここに述べるように
、オリゴヌクレオチドプローブをイムノアッセイと組み合わせて用いて、LTM
蛋白質発現(又は非発現)に関連したある異常性に関係しうる疾患の、分子レベ
ルでの原因調査を行うことができる。例えば、ポリペプチド合成における変種は
、コード配列における突然変異から分化しうる。
【0100】 (iii)アンチセンス、リボザイム及び三重鎖法 本発明の他の特徴は、「アンチセンス」治療における単離LTM核酸の使用に
関する。「アンチセンス」治療とは、主題のLTM蛋白質を1種以上コードする
細胞mRNA及び/又はゲノムDNAと、細胞内条件下で特異的にハイブリダイ
ズ(結合)して、(例えば転写及び/又は翻訳を阻害することによって)蛋白質
の発現を阻害するオリゴヌクレオチド分子又はそれら誘導体の投与又はインシト
ゥー産生のことをいう。結合は典型的な塩基対相補性によるものであっても良い
し、あるいは例えばDNA二重鎖に結合する場合には、二重鎖の主溝内での特異
的相互作用によるものであってもよい。一般に「アンチセンス」治療とは、当分
野で一般的に用いられている一連の方法のことをいい、オリゴヌクレオチド配列
への特異的な結合に依存するあらゆる治療を含む。
【0101】 本発明のアンチセンス構造体は、例えば細胞内で転写されたときにRNAを産
生する発現プラスミドとして運搬することができる。このRNAは、LTM蛋白
質をコードする細胞mRNAの独特な部位に少なくとも相補性を有する。或いは
アンチセンス構造体は、エクスビボで産生され、細胞内に導入されたときにLT
M遺伝子のmRNA及び/又はゲノム配列とハイブリダイズして発現の阻害を起
こすオリゴヌクレオチドプローブである。そのようなオリゴヌクレオチドプロー
ブは、好ましくは内生のヌクレアーゼ(例えばエキソヌクレアーゼ及び/又はエ
ンドヌクレアーゼ)に耐性を有し、従って生体内で安定している改変オリゴヌク
レオチドである。アンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることのできる核
酸分子の例としては、DNAのホスホルアミデート、ホツホチオエート及びメチ
ルホスホネート類似体が挙げられる(さらに米国特許第5,176,996号;
第5,264,564号及び第5,256,775号参照)。加えて、アンチセ
ンス治療に有用なオリゴマーを作製する一般的な方法は、例えば、Van de
r Krol他(1988)Biotechniques6:958−976;
及びStein他(1988)Cancer Res48:2659−2668
に記載がある。アンチセンスDNAについては、翻訳開始部位に由来するオリゴ
デオキシリボ核酸(例えば対象とするLTMヌクレオチド配列の−10から+1
0領域)が好ましい。
【0102】 アンチセンスを用いた方法は、LTMmRNAに相補的なオリゴヌクレオチド
(DNA又はRNAのいずれか)の設計を含む。アンチセンスオリゴヌクレオチ
ドは、LTMmRNA転写物に結合して翻訳を阻害する。絶対的な相補性は、あ
ることが好ましいが、必要ではない。RNA部分に対して配列が「相補的である
」とは、RNAとハイブリダイズして安定した二重鎖を形成するのに十分な相補
性を有することを意味する。二重鎖アンチセンス核酸の場合には、二重鎖DNA
のうちの一本鎖を試験しても良いし、三重鎖の形成を調べても良い。ハイブリダ
イズ能は、相補性の程度及びアンチセンス核酸の長さの両方に依存しうる。一般
に、核酸のハイブリダイズが長いほど、RNAに含まれる塩基ミスマッチが多く
なるが、依然として安定した二重鎖(場合によっては三重鎖)を形成する。当業
者は、標準的な手順を用いることによってハイブリダイズした複合体の溶解点を
調べることによって、ミスマッチの許容度を確認することができる。
【0103】 メッセージの5’末端(例えばAUG開始コドンまでを含む5’非翻訳配列)
に相補的なオリゴヌクレオチドは、翻訳の阻害において最も効果的に作用すべき
である。しかし近年になって、mRNAの3’非翻訳配列に対して相補性を有す
る配列は、同様にmRNAの翻訳の阻害に効果があることが示されている[Wa
gner、R.(1994)Nature372:333参照]。従って、LT
M遺伝子の5’又は3’非翻訳の非コード領域に相補的なオリゴヌクレオチドを
アンチセンス法に用いて、内生LTMmRNAの翻訳を阻害しうる。mRNAの
5’非翻訳領域に相補的なオリゴヌクレオチドは、AUG開始コドンの相補的部
位を含んでいなければならない。mRNAコード領域に相補的なアンチセンスオ
リゴヌクレオチドは、効力の低い翻訳阻害剤であるが、本発明に従って用いるこ
とが可能である。5’、3’又はLTMmRNAのコード領域のいずれにハイブ
リダイズするように企図されていようと、アンチセンス核酸は少なくとも6個の
ヌクレオチドの長さでなければならず、好ましくは約100個未満、より好まし
くは約50、25、17又は10個未満である。
【0104】 どのような標的配列を選択する場合でも、最初に生体外研究を行って、アンチ
センスオリゴヌクレオチドによる遺伝子発現を阻害する能力の定量を行うことが
好ましい。これらの研究ではアンチセンス遺伝子阻害とオリゴヌクレオチドの非
特異的生物学的効果とを区別するための対照を用いることが好ましい。これらの
研究ではさらに、標的RNA又は蛋白質のレベルと内部対照RNA又は蛋白質の
レベルとを比較することが望ましい。加えて、アンチセンスオリゴヌクレオチド
を用いて得た結果を、対照オリゴヌクレオチドを用いて得た結果と比較すること
が考えられる。対照オリゴヌクレオチドは試験オリゴヌクレオチドとほぼ同じ長
さであること、並びに標的配列への特異的ハイブリダイゼーションが起こるのを
回避するのに最低限必要な程度、オリゴヌクレオチドのヌクレオチド配列がアン
チセンス配列と異なっていることが望ましい。
【0105】 オリゴヌクレオチドは、DNA又はRNA又はそれらのキメラ混合物又は誘導
体又は改変体であってもよく、単鎖又は二重鎖であってもよい。オリゴヌクレオ
チドは塩基部分、糖部分又はリン酸塩主鎖が、例えば分子、ハイブリダイゼーシ
ョンの安定を向上させるために改変されていても良い。オリゴヌクレオチドは他
の追加の基、例えばペプチド(生体内での宿主細胞受容体を標的とするためのも
のなど)、又は細胞膜通過輸送を促進する作用物質[Letsinger他(1
989)Proc.Natl.Acad.Sci.USA86:6553−65
56;Lemaitre他(1987)Proc.Natl.Acad.Sci
.USA84:648−652;PCT公開番号WO88/09810(198
8年12月15日公開)参照]、又は血液脳関門[例えばPCT公開番号WO8
9/10134(1988年4月25日公開)]、ハイブリダイゼーションに誘
導される切断剤[Krol他(1988)BioTechniques6:95
8−976]、或いは挿入剤[Zon(1988)Pharm.Res.5:5
39−549]を含んでいても良い。このために、オリゴヌクレオチドを他の分
子(例えばペプチド、ハイブリダイゼーションに誘導される架橋剤、運搬剤、ハ
イブリダイゼーションに誘導される切断剤等)と連結させてもよい。
【0106】 アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも一個の改変した塩基部分を包
含しても良い。そのような塩基部分の例としては、5−フルオロウラシル、5−
ブロモウラシル、5−クロロウラシル、5−ヨードウラシル、ヒポキサンチン、
キサンチン、4−アセチルシトシン、5−(カルボキシヒドロキシエチル)ウラ
シル、5−カルボキシメチルアミノメチル−2−チオウリジン、5−カルボキシ
メチルアミノメチルウラシル、ジヒドロウラシル、β−D−ガラクトシルクオジ
ン(queosine)、イノシン、N6−イソペンテニルアデニン、1−メチルグアニ
ン、1−メチルイノシン、2,2−ジメチルグアニン、2−メチルアデニン、2
−メチルグアニン、3−メチルシトシン、5−メチルシトシン、N6−アデニン
、7−メチルグアニン、5−メチルアミノメチルウラシル、5−メトキシアミノ
メチル−2−チオウラシル、β−D−マンノシルクオジン、5’−メトキシカル
ボキシメチルウラシル、5−メトキシウラシル、2−メチルチオ−N6−イソペ
ンテニルアデニン、ウラシル−5−酸素酢酸(v)、ヴィブトキソジン(wybuto
xosine)、疑似ウラシル、クオジン、2−チオシトシン、5−メチル−2−チオ
ウラシル、2−チオウラシル、4−チオウラシル、5−メチルウラシル、ウラシ
ル−5−酸素酢酸メチルエステル、ウラシル−5−酸素酢酸(v)、5−メチル
−2−チオウラシル、3−(3−アミノ−3−N−2−カルボキシプロピル)ウ
ラシル、(acp3)w及び2,6−ジアミノプリンが挙げられるが、これらに
限定されるものではない。
【0107】 アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも一個の改変した糖部分を包含
しても良い。そのような糖部分の例としては、アラビノース、2−フルオロアラ
ビノース、キシルロース及びヘキソースが挙げられるが、これらに限定されるも
のではない。
【0108】 更に他の態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも一個
の改変したリン酸塩主鎖を包含しても良い。そのようなリン酸塩主鎖の例として
は、ホスホロチオアート、ホスホロジチオアート、ホスホロアミドチオアート、
ホスホロアミド酸塩、ホスホロジアミド酸塩、メチルホスホン酸塩、アルキルホ
スホトリエステル及びホルムアセタル又はそれらの類似体が挙げられる。
【0109】 更に別の態様において、アンチセンスオリゴヌクレオチドは、α−アノマーオ
リゴヌクレオチドである。α−アノマーオリゴヌクレオチドは、相補的RNAと
共に特異的な二重鎖ハイブリッドを形成する。ただし通常のβユニットと異なっ
て、鎖は互いに平行となる[Gautier他(1987)Nucl.Acid
s Res.15:6625−6641]。オリゴヌクレオチドは2’−O−メ
チルリボヌクレオチド[Inoue他(1987)Nucl.Acids Re
s.15:6131−6148)又はキメラRNA−DNA類似体[Inoue
他(1987)FEBS Lett.215:327−330]である。
【0110】 本発明のオリゴヌクレオチドは、当分野で公知の標準的方法によって、例えば
自動DNA合成装置(Biosearch、Applied Biosystems等の市販のもの)を使用
して合成してもよい。例えば、ホスホロチオアートオリゴヌクレオチドは、St
ein他の方法[(1988)Nucl.Acids Res.16:3209
]によって合成してもよいし、メチルホスホネートオリゴヌクレオチドは、制御
された有孔ガラス高分子支持体を用いて調製することもできる[Sarin他(
1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA85:7448−7
451)。
【0111】 LTMコード領域配列に相補的なアンチセンスヌクレオチドが用いられるが、
転写された非翻訳領域に相補的なものが最も好ましい。
【0112】 アンチセンス分子は、生体内でLTM遺伝子を発現する細胞、特に海馬に運搬
されなければならない。アンチセンスDNA又はRNAを細胞に運搬するのに多
くの方法が開発されてきた。例えばアンチセンス分子は組織部位に直接注射する
こともできるし、望ましい細胞を標的にするように改変されたアンチセンス分子
(例えば標的細胞表面に発現された受容体又は抗原に特異的に結合するペプチド
又は抗体に連結させたアンチセンス)を全身投与することもできる。
【0113】 しかし、内生mRNAの翻訳を抑制するのに十分な細胞内アンチセンス濃度を
達成するのは多くの場合難しい。従って、アンチセンスオリゴヌクレオチドが強
力polIII又はpolIIプロモーターの制御下に置かれた組換えDNA構
造体を利用する方法が好ましい。患者内での標的細胞のトランスフェクトにその
ような構造体を用いることによって、内生LTM転写物と相補的な塩基対を形成
する単鎖RNAの十分な転写量が得られ、LTMmRNAの翻訳が阻害される。
例えば、生体内でベクターを導入し、細胞に取り込ませてアンチセンスRNAの
転写を誘導させることができる。そのようなベクターは、望ましいアンチセンス
RNAを産生するように転写される限りは、エピソームにとどまったままであっ
てもよいし、あるいは染色体に融合されてもよい。そのようなベクターは、当分
野で標準的な組換えDNA技術法によって構築することができる。ベクターとし
ては、哺乳動物細胞内で複製及び発現に用いられる、プラスミド、ウイルス又は
当分野で知られる他のものを用いることができる。アンチセンスRNAをコード
する配列の発現は、哺乳動物、特にヒト細胞で作用することが当分野で知られる
プロモーターによって行うことができる。そのようなプロモーターは、誘導性の
ものであってもよいし、構成性のものであってもよい。そのようなプロモーター
の例としては、SV40初期プロモーター領域(Bemoist及びChamb
on(1981)Nature290:304−310)、ラウス肉腫ウイルス
の3’長末端繰り返し単位に含まれるプロモーター(Yamamoto他(19
80)Cell22:787−797)、ヘルペスチミジンキナーゼプロモータ
ー(Wagner他(1981)Proc.Natl.Acad.Sci.US
A78:1441−1445)、メタロチオネイン遺伝子の調節配列(Brin
ster他(1982)Nature296:39−42)等が挙げられるが、
これらに限定されるものではない。あらゆる種類のプラスミド、コスミド、YA
C又はウイルスベクターが、組織部位(例えば脈絡叢又は海馬)に直接導入する
ことのできる組換えDNA構造体の調製に用いることができる。あるいは、ウイ
ルスベクターを用いて、望ましい組織を選択的に感染することができる(例えば
脳には、ヘルペスウイルスベクターを用いることができる)。この場合、投与は
別の経路(例えば全身性投与)によって行われてもよい。
【0114】 LTMmRNA転写物を触媒的に切断するように企図されたリボザイム分子を
用いて、LTMmRNAの翻訳及びLTMの発現を防ぐことができる[例えばP
CT公開番号WO90/11364(1990年10月4日公開);Sarve
r他(1990)Science247:1222−1225及び米国特許第5
,093,246号参照]。部位特異的認識配列においてmRNAを切断するリ
ボザイムを用いてLTMmRNAを破壊できるが、ハンマーヘッドリボザイムの
使用が好ましい。ハンマーヘッドリボザイムは、標的mRNAと相補的塩基対を
形成するフランク領域によって特徴付けられる位置において、mRNAを切断す
る。標的mRNAが2塩基対配列5’−UG−3’を有することが唯一の必要条
件である。ハンマーヘッドリボザイムの構築及び産生は、当分野で公知のもので
あり、Haseloff及びGerlach(1988)Nature334:
585−591に記載がある。ヒトLTMcDNAのヌクレオチド配列内には、
ハンマーヘッドリボザイムによって切断されうる部位が数百存在する(図1)。
好ましくは、LTMmRNAの5’末端付近に切断認識部位が位置するように、
すなわち、効果を得て、非機能性mRNA転写物の細胞内蓄積を最小化するよう
に、リボザイムが構築されている。
【0115】 本発明のリボザイムには、RNAエンドリボヌクレアーゼ(以下「チェック型
リボザイム」と称する)が含まれ、例えばTetrahymena thermophila内で天然に
見られるもの(IVS又はL−19IVS RNAとして知られる)が挙げられ
、トーマス・チェックと共同研究者による文献に詳しい記述がある[Zaug他
(1984)Science224:574−578;Zaug及びCech(
1986)Science231:470−475;Zaug他(1986)N
ature324:429−433;University Patents Inc.によるPCT公
開番号WO88/04300;Been及びCech(1986)Cell47
:207−216]。チェック型リボザイムは標的RNA配列にハイブリダイズ
する8個の塩基対活性部位を有する(その後この部位において標的RNAが切断
される)。本発明は、LTM遺伝子に存在する8塩基対活性部位配列を標的とす
るチェック型リボザイムを包含する。
【0116】 アンチセンスを用いる方法と同様に、リボザイムは改変オリゴヌクレオチド(
例えば安定性を向上させた、標的を選ぶなどの点で改変したもの)から構成する
ことができ、生体内でLTM遺伝子を発現する細胞に運搬されなければならない
。好ましい運搬方法としては、強力構造性polIII又はpolIIプロモー
ターの制御下でリボザイムを「コード」し、トランスフェクトされた細胞が十分
な量のリボザイムを産生して内生LTMメッセージを阻害し翻訳を阻害するよう
な、DNA構造体を用いる。リボザイムはアンチセンス分子と異なって触媒活性
を有するので、効果を得るには低い細胞内濃度しか必要とされない。
【0117】 内生LTM遺伝子発現は、標的相同組換えを用いたLTM遺伝子又はそのプロ
モーターの不活化又は「ノックアウト」によって減少させることができる[例え
ばSmithies他(1985)Nature317:230−234;Th
omas及びCapecchi(1987)Cell51:503−512;T
hompson他(1989)Cell5:313−321参照;それぞれここ
に参照して説明に変える]。例えば、内生LTM遺伝子(LTM遺伝子のコード
領域又は調節領域)に相同性を有するDNAによって両側を挟まれる突然変異の
非機能的LTM(又は完全に関連性のないDNA配列)(更に選択標識及び/又
は不の選択標識を有していてもよい)を用いて、生体内でLTMを発現する細胞
をトランスフェクトする。標的相同組換えによってDNA構造体を挿入すること
によって、LTM遺伝子を不活化する。そのような方法は、ES(胚幹)細胞に
改変を加えて不活性なLTMを有する動物後代を得る農業分野に特に好適である
(例えばThomas及びCapecchi、1987並びにThompson
、1989、上述参照)。しかし、好適なウイルスベクターを用いて組換えDN
A構造体が必要部位に直接投与される又は必要部位を標的にすることによって(
例えばヘルペスウイルスベクターを用いて海馬及び/又は脈絡叢などの脳組織に
運搬することによって)、この方法をヒトに適用することも可能である。
【0118】 あるいは、LTM遺伝子の調節領域(すなわちLTMプロモーター及び/又は
エンハンサー)に相補的なデオキシリボヌクレオチド配列を標的にし、三重螺旋
構造を形成して体内の標的細胞のLTM遺伝子の転写を阻害することによって、
内生LTM遺伝子発現を低減させることができる[例えば一般にはHelene
,C.(1991)Anticancer Drug Des.6(6):56
9−84;Helene,C.他(1992)Ann.N.Y.Acad.Sc
i.660:27−36;及びMaher,L.J.(1992)Bioass
ays14(12):807−15参照]。
【0119】 同様に、本発明のアンチセンス構造体を用いて、TLM蛋白質のうちの一つの
正常な生物学的活性に拮抗させることによって、生体内及びエクスビボ組織培養
の両方において、組織処理(例えば脂質代謝)を行うことができる。
【0120】 その上更に、アンチセンス法(例えばアンチセンス分子のミクロ注入、或いは
転写がLTMmRNA又は遺伝子配列に関してアンチセンスであるプラスミドに
よるトランスフェクション)と同様に、LTM蛋白質のうちの一つの正常な生物
学的活性に拮抗させて、脂質代謝におけるLTMの役割を調べることができる。
そのような方法は細胞培養に用いることができるが、下に述べるようにある種の
トランスジェニック動物にも用いることができる。
【0121】 転写を阻害するための三重鎖螺旋形成に用いられる核酸分子は、好ましくは一
本鎖であり、デオキシリボヌクレオチドからなる。これらのオリゴヌクレオチド
の塩基組成は、Hoogsteen型塩基対法則によって形成される三重鎖螺旋
の形成を促進するものでなければならない。三重鎖の形成には一般に、二重鎖の
うちの一本鎖に相当な大きさのプリン又はピリミジンのストレッチが必要とされ
る。ヌクレオチド配列はピリミジンに基づくものであってもよい。この場合は得
られる三重鎖螺旋の関連しあう三本の鎖にまたがって、TAT及びCGCトリプ
レット暗号を形成する。ピリミジンに富んだ分子は、二重鎖のうちの一本鎖のプ
リンに富んだ領域に相補性を有する塩基を、その鎖と平行するように提供する。
加えて、プリンに富んだ、例えばG残基ストレッチを含む、核酸分子を選択して
もよい。これらの分子はGC塩基対に富んだDNA二重鎖とともに三重鎖を形成
する。標的となる二重鎖のうちの一本鎖にプリン残基のほとんどが位置しており
、三重鎖の三本の鎖にまたがってCGCトリプレット暗号を形成する。
【0122】 或いは、三重螺旋形成のために標的とされうる配列は、いわゆる「スイッチバ
ック」核酸分子を作製することによって増加させることができる。スイッチバッ
ク分子は、二重鎖のうちの第一の一本鎖と塩基対をなし、次いで他方の一本鎖と
塩基対をなすというように、5’−3’、3’−5’の交互的な方法で合成され
る。これによって二重鎖のうちの一本鎖にかなりの大きさのプリン又はピリミジ
ンのストレッチを存在させる必要がなくなる。
【0123】 本発明のアンチセンスRNA及びDNA、リボザイム及び三重螺旋分子は、D
NA及びRNA分子の合成について当分野で公知であるどのような方法によって
調製してもよい。オリゴデオキシリボヌクレオチド及びオリゴリボヌクレオチド
を化学的に合成する当分野で公知の方法の例としては、固相ホスホルアミド化学
合成が挙げられる。或いはRNA分子は、アンチセンスRNA分子をコードする
DNA配列の生体外及び生体内転写によって作製してもよい。そのようなDNA
配列は、好適なRNAプロモーター(例えばT7又はSP6ポリメラーゼプロモ
ーター)を組み込む様々なベクターに組み込むことができる。或いは、使用する
プロモーターによって構造的に又は誘導的にアンチセンスRNAを合成するアン
チセンスcDNA構造体を、細胞系に安定的に導入することができる。
【0124】 その上更に、細胞内安定性及び半減期を向上させるために、様々な公知の改変
を核酸分子に導入してもよい。可能な改変の例としては、分子の5’及び/又は
3’末端への、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのフランキング
配列の添加、オリゴデオキシリボヌクレオチド主鎖内でのホスホジエステラーゼ
結合のかわりのホスホロチオアート又は2’O−メチルの使用が挙げられるが、
これらに限定されるものではない。
【0125】 E.LTM蛋白質 本発明は更に、単離形状の、さもなくば実質的に他の細胞蛋白質(特に、LT
Mポリペプチドに関連したシグナル伝達因子及び/又は転写因子)を含まない、
単離LTMポリペプチドの利用を可能にする。「実質的に他の細胞蛋白質を含ま
ない」(以下「他の細胞蛋白質」を「夾雑蛋白質」とも称する)又は「実質的に
純粋又は精製された調製物」とは、夾雑蛋白質を(乾燥重量で)約20%未満、
好ましくは夾雑蛋白質を約5%未満含むLTMポリペプチド調製物を包含するも
のと定義する。機能的な形状の主題のポリペプチドはまず、本明細書に述べるよ
うに、クローンした遺伝子を用いて精製された物質として調製することができる
。ペプチド、DNA又はRNA配列について「精製された」とは、他の生物学的
な巨大分子(例えば他の蛋白質)の実質的非存在下で主題の分子が存在すること
を意味する。ここで「精製された」とは、同種の生物学的巨大分子が乾燥重量で
好ましくは少なくとも80重量%、より好ましくは95−99重量%、最も好ま
しくは少なくとも99.8重量%存在することを意味する(ただし水、緩衝液及
び他の小分子、特に分子量5000未満の分子は存在してもよい)。ここでいう
「純粋な」は、好ましくは上記した「精製された」の用語について述べたのと同
じ数値範囲で定義される。「単離された」及び「精製された」の用語は、自然に
存在する状態の天然材料、或いは構成要素(例えばアクリルアミドゲル)に分離
されたが純粋な(例えば夾雑蛋白質、変性剤などのクロマトグラフィー試薬又は
アクリルアミドやゲルなどのポリマーを含まない)物質又は溶液として得られた
ものではない天然材料のことは意味しない。好ましい態様においては、精製され
たLTM調製物は、通常はLTMを産生する同じ動物からの夾雑蛋白質を全く含
まない。これは、例えばヒトLTM蛋白質を非ヒト細胞中で組換え発現すること
によって得られる。
【0126】 1種以上の特定のモチーフ及び/又はドメインに相当する或いは任意の長さの
全長蛋白質又は断片、例えば長さが少なくとも5、10、25、50、75、1
00、125、150アミノ酸のものは、本発明の範囲に含まれる。
【0127】 LTM蛋白質の単離したペプチジル部分は、そのようなペプチドをコードする
核酸の断片から組換え技術によって産生されたペプチドをスクリーンすることに
よって得ることができる。加えて断片は、当分野で公知の方法(一般的なメリー
フィールド固相f−Moc又はt−Boc化学反応)を用いて化学合成すること
ができる。例えば、本発明のLTMポリペプチドは、望ましい長さの重複しない
断片に、好ましくは望ましい長さの重複する断片に、任意に切断してもよい。断
片は(組換え技術又は化学合成によって)作製することができ、これらのペプチ
ジル断片から野生型(例えば「標準(authentic)」)LTM蛋白質のアゴニス
ト又はアンタゴニストとして機能するものを試験によって同定することができる
【0128】 本発明の他の特徴は、LTM蛋白質の組換え体に関する。天然LTM蛋白質に
加えて、本発明において好ましい組換えポリペプチドは、LTM蛋白質のアミノ
酸配列と少なくとも85%の相同性、より好ましくは90%の相同性、最も好ま
しくは95%の相同性を有する核酸によってコードされる。好ましい態様におい
て、本発明のLTM蛋白質は、哺乳動物のLTM蛋白質である。非調節のポリペ
プチド鎖に比較して、ある種の翻訳後調節(例えばリン酸化)が起こった場合、
LTM蛋白質の見かけの分子量が増加することは理解されよう。
【0129】 本発明は更に、主題のLTMポリペプチドの組換え体に関する。そのような組
換えLTMポリペプチドは、野生型(「標準の」)LTM蛋白質の有する生物学
的活性の少なくとも一つのアゴニスト又はアンタゴニストのいずれかとして機能
できることが好ましい。
【0130】 一般に、LTM蛋白質の活性を有する(例えば「生物活性を有する」)とここ
で称されるポリペプチドは、天然に存在するLTM蛋白質の生物学的/生化学的
活性の全て又は一部を模倣するか、拮抗する。そのような生物学的活性の例とし
ては、記憶固定並びに海馬における他の脳弓媒介活性を変調する能力が挙げられ
る。本発明によると、ポリペプチドが天然に存在するLTM蛋白質の特異的アン
タゴニスト又はアゴニストである場合、そのポリペプチドは生物学的活性を有し
ているといえる。
【0131】 本発明は更に、主題のLTMポリペプチドを産生する方法に関する。例えば、
主題のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を発現するように設計された
核酸ベクターでトランスフェクトした宿主細胞を適当な条件下で培養し、ペプチ
ドを発現させることができる。細胞を回収し、溶解し、蛋白質を単離する。細胞
培養は宿主細胞、培養基及び他の副産物を含む。好適な培養基は、当分野で公知
のものである。組換えLTMポリペプチドは、細胞培養基、宿主細胞又はそれら
両方から、当分野で公知の蛋白質精製方法を用いて単離することができる。方法
の例としては、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、
限外濾過、電気泳動、及びそのようなペプチドに特異的な抗体を用いる免疫親和
性精製が挙げられる。好ましい態様において、組換えLTMポリペプチドは、精
製を容易にする領域を含む融合蛋白質、例えばGST融合蛋白質である。
【0132】 その上更に、天然に存在する形状の蛋白質の生物学的活性の一部のみを促進又
は阻害することを目的として、LTMアゴニスト(模倣性)又はLTMアンタゴ
ニストとして、限られた能力のみが機能する、主題のLTMポリペプチドの同族
体を提供することが、ある状況においては有利である。従って、限定された機能
を有する同族体で処理することによって、天然に存在する形状のLTM蛋白質の
生物学的活性の全てを誘導するアゴニスト又はアンタゴニストで処理した場合に
比べて副作用を少くして、特異的な生物学的効果を誘導することができる。
【0133】 主題のLTM蛋白質それぞれの同族体は、突然変異誘発(例えば別個の点突然
変異や末端切除)によって作製することができる。例えば突然変異体は、元にな
るLTMポリペプチドの生物学的活性と実質的に同じものを又は部分のみを保持
する同族体から作製することができる。あるいは、天然に存在する形状の蛋白質
の機能を(例えばLTM蛋白質を含む、LTMカスケードの下流又は上流構成物
との競合結合によって)阻害することができる、蛋白質のアンタゴニストの形状
を作製することができる。加えて、構造的に活性なアゴニスト形状の蛋白質を作
製することもできる。従って、本発明によって提供されるLTM蛋白質及びその
同族体は、記憶固定について正又は負のレギュレーターであり得る。
【0134】 本発明の組換えLTMポリペプチドは、野生型LTM蛋白質の同族体、例えば
その蛋白質に関連するユビキチン結合又は他の酵素標的を変化させる突然変異に
よる、蛋白質分解切断に耐性を有する蛋白質をさらに含む。
【0135】 他の化学基(例えばグリコシル基、脂質、リン酸塩、アセチル基等)と共有結
合又は凝集複合体を形成することによって、LTMポリペプチドを化学的に改変
して、LTM誘導体を作製してもよい。LTM蛋白質の共有結合誘導体は、化学
基と蛋白質のアミノ酸側鎖上の官能基とを或いはポリペプチドのN末端又はC末
端とを結合させることによって調製することができる。
【0136】 主題のLTMポリペプチドの構造は、治療効果、予防効果、安定性(例えばエ
クスビボ貯蔵寿命及び生体内蛋白質分解への耐性)、又は翻訳後修飾(例えば蛋
白質のリン酸化パターンの改変)の向上を目的として改変することができる。そ
のような改変ペプチドが、天然に存在する蛋白質の活性の少なくとも一つを保持
するように設計された場合、或いはその特異的アンタゴニストを産生するように
設計された場合、改変ペプチドはここに詳細を記載したLTMポリペプチドの機
能的同等物とみなされる。そのような改変ペプチドは、例えばアミノ酸の置換、
欠失又は付加によって産生することができる。
【0137】 例えば、ロイシンとイソロイシン又はバリン、アスパラギン酸塩とグルタミン
酸塩、トレオニンとセリンの単離置換、或いはアミノ酸と構造的に関連したアミ
ノ酸との同様の置換(すなわち等配電子及び/又は等電突然変異)によって、得
られる分子の生物学的活性に大きな影響が与えられないということは十分予想で
きることである。保存的置換は、側鎖に関連性を有するアミノ酸の同族内で行わ
れる。一般に、コードされるアミノ酸は以下の4つの族に分けることができる。
(1)酸性=アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩;(2)塩基性=リジン、アル
ギニン、ヒスチジン;(3)非極性=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシ
ン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;及び(4)非
荷電極性=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、トレオ
ニン、チロシン。同様に、アミノ酸は以下のように分類できる。(1)酸性=ア
スパラギン酸塩、グルタミン酸塩;(2)塩基性=リジン、アルギニン、ヒスチ
ジン、(3)脂肪族=グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、
セリン、トレオニン(ただしセリン及びトレオニンは脂肪族−ヒドロキシルとし
て別に分類することもできる);(4)芳香族=フェニルアラニン、チロシン、
トリプトファン;(5)アミド=アスパラギン、グルタミン;及び(6)硫黄含
有=システイン及びメチオニン(例えばBiochemistry第二版、L.
Stryer編、W.H.Freeman and Co.、1981参照)。
ペプチドのアミノ酸配列に変化を与えた結果、機能的な(例えば、得られるポリ
ペプチドは野生型を模倣する又は拮抗するという意味で、機能的である)LTM
同族体が得られたかどうかは、変異体ペプチドが、細胞内で野生型蛋白質と同様
の応答を産生する又はそのような応答を競合阻害する能力を有するかどうかを評
価することによって、容易に調べることができる。1個以上の置換があったポリ
ペプチドも、同様にして容易に調べることができる。
【0138】 本発明は更に、主題TLM蛋白質の突然変異体の組合わせセット、並びに末端
切断突然変異体を産生する方法を企図する。本発明の方法は、脂質受容体からの
シグナル伝達を変調する機能を有する変異体配列(例えば同族体)と思われるも
のを同定するのに特に有用である。そのような組合せライブラリーをスクリーニ
ングする目的は、例えば、アゴニスト又はアンタゴニストとして作用することの
できる、又は全体として新規な活性を有することのできる、新規なLTM同族体
を産生することにある。具体的には、本発明によってLTM同族体を処理して、
記憶固定シグナル経路の選択的・構成的な活性化を提供することができる。従っ
て、組合せ由来の同族体を、天然に存在する蛋白質に比較して増加した効力を有
するように作製することができる。
【0139】 同様に、本組合せ方法を用いて、記憶固定を選択的に阻害する(拮抗する)L
TM同族体を産生することができる。突然変異誘発によって、他のシグナル経路
蛋白質(又はDNA)に結合し、シグナルの伝達を防ぐことのできるLTM同族
体(例えばドミナントネガディブ突然変異体)を提供することができる。その上
更に、本発明の方法によってLTMのある領域を処理して、融合蛋白質で用いる
のにより好適な領域を提供することができる。
【0140】 一つの態様においては、LTM変異体の斑入り(variegated)ライブラリーを
、核酸レベルでの組合せ突然変異誘発によって産生することができる。このライ
ブラリーは斑入り遺伝子ライブラリーによってコードされる。例えば、潜在的な
LTM配列の変質セットが別のポリペプチドとして或いはLTM配列セットを含
む(例えばファージ提示用の)大きな融合蛋白質セットとして発現できるように
、合成オリゴヌクレオチドの混合物を酵素によって遺伝子配列内に連結すること
ができる。
【0141】 そのような潜在的なLTM同族体のライブラリーを変質オリゴヌクレオチド配
列から産生することのできる方法は数多く存在する。変質遺伝子の化学合成を自
動cDNA合成装置によって行い、次いで合成遺伝子を適当な発現ベクター内に
連結する。遺伝子の変質セットを用いるのは、潜在的なLTM配列の望ましいセ
ットをコードする配列全てを一つの混合物内に提供するためである。変質オリゴ
ヌクレオチドの合成は、当分野で公知である[例えばNarang,SA(19
83)Tetrahedron39:3;Itakura他(1981)Rec
ombinant DNA、第三回クリーブランド巨大分子シンポジウム議事録
、AG Walton編、アムステルダム:Elsevier、pp273−2
89;Itakura他(1984)Annu.Rev.Biochem.53
:323;Itakura他(1984)Science198:1056;I
ke他(1983)Nucleic Acid Res.11:477参照]。
そのような方法は、他の蛋白質の誘導発生に用いられてきた[例えばScott
他(1990)Science249:386−390;Roberts他(1
992)Proc.Natl.Acad.Sci.USA89:2429−24
33;Devlin他(1990)Science249:404−406;C
wirla他(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA87
:6378−6382;並びに米国特許第5,223,409号、第5,198
,346号、及び第5,096,815号参照]。
【0142】 点突然変異又は末端切断によって作製した組合せライブラリーの遺伝子産物を
スクリーンする方法、及びある特性を有する遺伝子産物についてcDNAライブ
ラリーをスクリーンする方法は、当分野において様々なものが知られている。そ
のような方法は、LTM同族体の組合せ突然変異誘発によって作製された遺伝子
ライブラリーの高速スクリーンに適合させることができる。大きな遺伝子ライブ
ラリーをスクリーンするのに最も広く用いられている方法としては、遺伝子ライ
ブラリーを複製可能な発現ベクター内にクローンし;得られたベクターのライブ
ラリーで適当な細胞を形質転換し;望ましい活性の検出によって、産物が検出さ
れた遺伝子をコードするベクターの単離が比較的容易になる条件下で、組合せ遺
伝子を発現させることを包含するものが挙げられる。下に述べる例証的なアッセ
イそれぞれは、高処理量分析に敏感に反応するが、これは組合せ突然変異誘発技
術によって作製された大量の変質LTM配列のスクリーンに必要である。
【0143】 本発明は更に、本発明のLTMポリペプチドと脂質摂取シグナルカスケードの
上流又は下流構成要素(例えば結合蛋白質又は相互作用体)との結合を阻害しう
る模倣体(例えばペプチド又は非ペプチド作用体など)を産生するLTM蛋白質
の低減を提供する。従って、上記したような突然変異誘発技術は、例えば上流で
機能しうる蛋白質(その活性に対する活性化体及び抑制体の両方を含む)への、
或いはLTMポリペプチドの下流で機能しうる蛋白質又は核酸(LTMポリペプ
チドによって正又は負いずれかの調節を受ける)への、主題のLTMポリペプチ
ドの結合に関与する蛋白質−蛋白質相互作用に参加するTLM蛋白質の決定子の
位置を調べるのに有用である。具体的には、(LTMの上流又は下流構成要素な
どの)分子認識に関与する主題のLTMポリペプチドの重要部分を決定し、その
部分について標準のLTM蛋白質の結合を競合的に阻害する、LTMに由来する
ペプチド模倣体の作製に用いることができる。例えば他の細胞外蛋白質の結合に
関与する主題のLTM蛋白質それぞれのアミノ酸残基の位置を調べるのに走査突
然変異誘発を用いることによって、相互作用を促進するLTM蛋白質の残基を模
倣するペプチド模倣体化合物を作製することができる。そのような模倣体を用い
て、LTM蛋白質の通常の機能に干渉することができる。例えばそのような残基
を有する非加水分解性ペプチド類似体は、ベンゾジアゼピン(例えばFreidinger
他、in Peptides:Chemistry and Biology、G.R.Marshall編、ESCOM Publisher
:オランダ国ライデン、1988参照)、アゼピン(例えばHuffman他、in Pept
ides:Chemistry and Biology、G.R.Marshall編、ESCOM Publisher:オランダ国
ライデン、1988参照)、置換γラクタム環(Garvey他、in Peptides:Chemi
stry and Biology、G.R.Marshall編、ESCOM Publisher:オランダ国ライデン、
1988)、ケト−メチレン疑似ペプチド(Ewenson他(1986)J.Med.Chem.
29:295;及びEwenson他、in Peptides:Structure and Function(第9回
アメリカペプチドシンポジウム議事録)、Pierce Chemical Co.、イリノイ州ロ
ックランド、1985)、b回転ジペプジドコア(Nagai他(1985)Tetrahe
dron Lett26:647;及びSato他(1986)J.Chem.Soc.Perkin.Trans.1
:1231)、及びb−アミノアルコール(Gordon他(1985)Biochem.Biop
hys.Res.Commun.126:419;及びDann他(1986)Biochem.Biophys.Res
.Commun.134:71)を用いて作製することができる。
【0144】 F.LTM蛋白質細胞発現 本発明は更に、主題のLTMポリペプチドの組換え体を発現する、トランスフ
ェクトされた宿主細胞に関する。宿主細胞はどのような原核細胞又は真核細胞で
あってもよい。従って、哺乳動物LTM蛋白質のクローンに由来し、全長蛋白質
全体又は選択された部分をコードするヌクレオチド配列を用いて、微生物又は真
核細胞の処理を通じて、組換え形状のLTMポリペプチドを産生することができ
る。ポリヌクレオチド配列を遺伝子構造体(例えばベクター)内に連結し、真核
細胞(酵母菌、鳥類、昆虫又は哺乳類)又は原核細胞(細菌細胞)いずれかの宿
主内に形質転換又はトランスフェクトするというのが、MAPキナーゼ、p53
、WT1、PTPホスファターゼ、SRCなど公知の他の蛋白質を作製する際に
用いられている標準的な工程である。同様の工程又はその改変を、本発明に合わ
せた微生物手段又は組織培養技術による組換えLTMポリペプチドの調製に用い
ることができる。
【0145】 LTM蛋白質又はその部分をコードする核酸を、原核細胞、真核細胞又はその
両方における発現に適したベクター内に連結させることによって、組換えLTM
遺伝子を作製することができる。組換え形状の主題のLTMポリペプチドの産生
に用いる発現ベクターには、プラスミド及び他のベクターが含まれる。LTMポ
リペプチドの発現に好適なベクターの例としては、原核細胞(例えば大腸菌)内
での発現に用いられる、pBR322由来プラスミド、pEMBL由来プラスミ
ド、pEX由来プラスミド、pBTac由来プラスミド及びpUC由来プラスミ
ド等が挙げられる。
【0146】 酵母菌内での組換え蛋白質の発現に用いられるベクターは数多く存在する。例
えば、YEP24、YIP5、YEP51、YEP52、pYES2及びYRP
17は、S. cerevisiae内に遺伝子構造体を導入するのに有用なクローニング及
び発現媒体である(例えばBroach他(1983)in Experimental Manipulation
of Gene Expression、M.Inouye編、Academic Press、p83参照。ここに参照
して説明に変える)。これらのベクターは、大腸菌においてはpBR322or
iの存在によって、S. cerevisiaeにおいては酵母菌2ミクロンプラスミドの複
製決定子の存在によって、複製することができる。加えて、アンピシリンなどの
薬剤耐性標識を用いることもできる。
【0147】 好ましい哺乳動物発現ベクターは、細菌内でのベクターの増殖を促進する原核
細胞配列と、真核細胞内で発現される1種以上の真核細胞転写ユニットとの両方
を含む。真核細胞のトランスフェクションに好適な哺乳動物発現ベクターの例と
しては、pcDNAI/amp、pcDNAI/neo、pRc/CMV、pS
V2gpt、pSV2neo、pSV2−dhfr、pTk2、pRSVneo
、pMSG、pSVT7、PKO−neo及びpHygに由来するベクターが挙
げられる。これらのベクターのうち幾つかは、細菌プラスミド(pBR322等
)から得た配列によって、原核細胞及び真核細胞の両方における複製及び薬剤耐
性選択を促進するように改変することができる。あるいは、ウシパピローマウイ
ルス(BPV−1)、又はエプスタイン−バーウイルス(pHEBo、pREP
由来及びp205)等のウイルス誘導体を、真核細胞内での蛋白質の一時的発現
に用いることができる。プラスミドの調製及び宿主生物の形質転換に用いられて
いる様々な方法は、当分野で公知のものである。原核細胞及び真核細胞両方につ
いて好適な発現系、並びに一般的な組換え手順については、Molecular Cloning
A Laboratory Manual、第二版、Sambrook、Fritsch及びManiatis編(Cold Sprin
g Harbor Laboratory Press:1989)第16及び17章が参照できる。
【0148】 ある例においては、バキュロウイルス発現系を用いて組換えLTMポリペプチ
ドを発現するのが望ましい。バキュロウイルス発現系の例としては、pVL由来
ベクター(pVL1392、pVL1393及びpVL94 1等)、pAcU
W由来ベクター(pAcUW1等)及びpBlueBac由来ベクター(β−g
al含有pBlueBacIII等)が挙げられる。
【0149】 例えばN末端部分を欠損した形状すなわちシグナルペプチドを欠損した末端切
断突然変異体など、LTM蛋白質の一部分のみを発現するのが望ましい場合、発
現が望まれる配列を含むオリゴヌクレオチド断片に、開始コドン(ATG)を添
加することが必要である。N末端位置のメチオニンが、メチオニンアミノペプチ
ダーゼ(MAP)を用いて酵素切断できることが当分野で知られている。これま
でMAPは大腸菌[Ben−Bassat他(1987)J.Bacteriol.169:751−
757]及びネズミチフス菌からクローンされており、その生体外活性が組換え
蛋白質において実証されている[Miller他(1987)Proc.Natl.Acad.Sci.8
4:2718−1722]。従って、N末端メチオニンの除去は、望ましい場合
には、MAPを産生する宿主(例えば大腸菌又はCM89又はS. cerevisiae)
の生体内でLTM由来ポリペプチドを発現することによって、あるいは精製した
MAPを生体外で使用することによって(例えばMiller他の手順、上述参照)実
施することができる。
【0150】 他の態様において、下に詳述するトランスジェニック動物を用いて組換え蛋白
質を産生してもよい。
【0151】 G.融合蛋白質及び免疫原 他の態様において、ポリペプチドのコード配列を、異なるポリペプチドをコー
ドするヌクレオチド配列を含む融合遺伝子の一部として組み込むことができる。
この種の発現系は、LTM蛋白質の免疫原性断片を産生するのが望ましい条件下
において有用である。例えば、VP6キャプシド蛋白質ロタウイルスを、単量体
状の又はウイルス粒子状のLTMポリペプチド部分の免疫担体蛋白質として用い
ることができる。対応する抗体が作製される主題のLTM蛋白質の部分に相当す
る核酸配列を、後期ワクシニアウイルス構造蛋白質のコード領域を含む融合遺伝
子構造体内に組み込むことができ、ビリオンの一部としてのLTMエピトームを
包含する融合蛋白質を発現する一連の組換えウイルスを作製することができる。
B型肝炎表面抗原融合蛋白質を利用した免疫原性融合蛋白質を使用することによ
って、組換えB型肝炎ビリオンを同じ役割に利用できることは、実証されている
。同様に、LTM蛋白質部分とポリオウイルスキャプシド蛋白質とを含む融合蛋
白質をコードするキメラ構造体を作製して、一連のポリペプチド抗原の免疫原性
を高めることができる[例えばEP公開番号第0259149号;及びEvans他
(1989)Nature339:385;Huang他(1988)J.Virol.62
:3855;及びSchlienger他(1992)J.Virol.66:2参照]。
【0152】 ペプチドに基づく免疫化のための複数抗原ペプチドシステムを用いて、免疫原
を作製することもできる。ここでは、LTMポリペプチドの望ましい部分を、枝
分かれしたオリゴマーリジンコア上にペプチドを有機化学合成して直接得る[例
えばPosnett他(1988)J.Biol.Chem.263:1719及びNardelli他(1
992)J.Immunol.148:914参照]。LTM蛋白質の抗原決定基は、細菌
細胞によっても発現及び提示することができる。
【0153】 融合蛋白質を免疫原性の向上に利用することに加えて、融合蛋白質は蛋白質発
現の促進に用いることができるということは公知である。従って、融合蛋白質を
本発明のLTMポリペプチドの発現に用いることができる。例えばLTMポリペ
プチドを、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST融合)蛋白質として
産生することができる。そのようなGST融合蛋白質は、例えばグルタチオン変
性基質を用いることによって、LTMポリペプチドの容易な精製を可能にする[
例えばCurrent Protocols in Molecular Biology、Ausubel他編(John Wiley &
Sons、ニューヨーク、1991)参照]。
【0154】 他の態様において、精製リーダー配列(例えば組換え蛋白質の望ましい部位の
N末端に位置するポリ(His)/エンテロキナーゼ切断部位配列)をコードす
る融合遺伝子を用いることによって、Ni2+金属樹脂を用いた親和性クロマト
グラフィーによる、発現された融合蛋白質の精製が可能になる。次いで精製リー
ダー配列をエンテロキナーゼで処理して除去し、精製蛋白質を得ることができる
[例えばHochuli他(1987)J.Chromatography411:177;及び
Janknecht他PNAS88:8972参照]。
【0155】 融合遺伝子を作製する技術は、当業者に知られるものである。基本的に、様々
なポリペプチド配列をコードする様々なDNA断片の結合は、従来法によって実
施される。ブラント末端又は付着末端を用いて連結し、制限酵素で切断して適当
な末端を得て、適当であれば付着末端を埋め、アルカリホスファターゼで処理し
て望ましくない連結を排除し、そして酵素を用いて結合する。他の態様において
は、自動DNA合成装置を用いる従来法によって融合遺伝子を合成することがで
きる。或いは、2個の連続的遺伝子断片の間に相補的な張り出しを与えるアンカ
ープライマーを用いてアニールを行いキメラ遺伝子配列を作製することによって
、遺伝子断片のPCR増幅を行うことができる(例えばCurrent Protocols in M
olecular Biology、Ausubel他編、John Wiley & Sons:1992参照)。
【0156】 H.抗体 本発明の他の特徴は、哺乳動物LTM蛋白質に特異的に反応する抗体に関する
。例えば、cDNA配列に基づく、LTM蛋白質に由来する免疫原を用いること
によって、抗蛋白質/抗ペプチド抗血清又はモノクローナル抗体を標準的プロト
コルによって作製することができる[例えばAntibodies:A Laboratory Manual
、Harlow及びLane編(Cold Spring Harbor Press:1988)参照]。マウス、
ウサギなどの哺乳動物を、免疫原性形状のペプチド(例えば抗体応答を誘導する
ことのできる哺乳動物LTMポリペプチド又は抗原性断片、又は上記した融合蛋
白質)で免疫化することができる。蛋白質又はペプチドに免疫原性を与える方法
には、担体への結合や、当分野で公知の他の方法が含まれる。LTM蛋白質の免
疫原性部分は、アジュバントの存在下に投与することができる。免疫化の進行は
、血漿又は血清の抗体価を検出することによってモニターすることができる。抗
原とする免疫原と共に、標準的なELISA又は他のイムノアッセイを用いて、
抗体のレベルを評価することができる。好ましい態様において主題の抗体は、哺
乳動物のLTM蛋白質の抗原決定基又はその関連同族体(例えば少なくとも90
%の相同性を有する、より好ましくは少なくとも94%の相同性を有する)に対
して免疫特異性を有する。
【0157】 LTMポリペプチドの抗原調製物で動物を免疫化した後、抗LTM抗血清を得
ることができる。望ましい場合には、血清からポリクローナル抗LTM抗体を得
ることができる。モノクローナル抗体を産生するためには、免疫化動物から抗体
産生細胞(リンパ球)を回収し、標準的な体細胞融合法によって不死化細胞(骨
髄腫細胞等)に融合してハイブリドーマ細胞を得る。このような方法は当分野で
公知のものであり、例えばハイブリドーマ法[もともとKohier及びMilsteinに開
発された方法である。(1975)Nature256:495−497]、ヒ
トB細胞ハイブリドーマ法[Kozbar他(1983)Immunology Today4:72]
、及びヒトモノクローナル抗体を産生するEBVハイブリドーマ法[Cole他(1
985)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、pp
77−96]が挙げられる。ハイブリドーマ細胞を免疫化学的にスクリーンして
、本発明の哺乳動物LTMポリペプチドに特異的に反応する抗体、並びにそのよ
うなハイブリドーマ細胞の培養から単離されたモノクローナル抗体を産生するこ
とができる。一つの態様においては、抗ヒトLTM抗体は、ATCC寄託番号9
8125−98128のDNAによってコードされる蛋白質のいずれかに特異的
に反応する。
【0158】 ここでいう「抗体」は、主題の哺乳動物LTMポリペプチドの一つに特異的に
反応する抗体断片を含むことを意図する。抗体は従来法によって断片化すること
ができ、全抗体について上記したのと同様の方法で断片をスクリーンすることが
できる。例えば、抗体をペプシンで処理することによって(ab)2断片を作製
することができる。得られたF(ab)2断片を処理してジスルフィド架橋を切
断し、Fab断片を得ることができる。本発明の抗体は、抗体の少なくとも1個
のCDR領域によって与えられる、LTM蛋白質に対する親和性を有する二重特
異性単鎖及びキメラ分子をさらに包含することを企図する。好ましい態様におい
ては、抗体はそれに付加した検出可能な標識(例えば放射性同位体、蛍光化合物
、酵素又は酵素補助因子)を更に包含する。
【0159】 LTMエピトープに特異的に結合する抗体を、組織試料の免疫組織化学染色に
用いて、主題のLTMポリペプチドそれぞれの発現量及びパターンを評価するこ
ともできる。抗LTM抗体を、免疫沈降及び免疫ブロッティングに診断的に用い
て、臨床試験工程の一部として、組織内のLTM蛋白質レベルを検出し評価する
ことができる。例えば、そのような測定は、増殖性疾患の発症又は進行の予測評
価に有用である。同様に、ある個人におけるLTM蛋白質レベルをモニターする
ことができるので、上記したような疾患を有する個人に行う治療計画の効力を調
べることができる。LTMポリペプチドのレベルは、例えば生検により産生され
た大脳髄液の試料中などの、体液中の細胞から測定してもよい。抗Ti抗体を用
いる診断的アッセイには、例えば、変性疾患の初期診断の補助となるイムノアッ
セイが含まれる。抗LTMポリペプチド抗体を用いる診断アッセイには、早期診
断及び新形成又は増殖性疾患の表現型決定の補助となるイムノアッセイが含まれ
る。
【0160】 本発明の抗LTM抗体の他の用途としては、発現ベクター(λgt11、λg
t18−23、λZAP及びλORF8等)内に構築されたcDNAライブラリ
ーの免疫学的スクリーニングに用いるものが挙げられる。正しい読み枠及び方向
に挿入されたコード領域を有するこの種のメッセンジャーライブラリーは、融合
蛋白質を産生することができる。例えば、λgt11は、アミノ末端がβ−ガラ
クトシダーゼアミノ酸配列からなり、カルボキシ末端が異種ポリペプチドからな
る融合蛋白質を産生する。例えば特定のLTM蛋白質の他のオルソログ体(orth
ologue)又は同種からの他のパラログ体(paralogue)などの、LTM蛋白質の
抗原性エピトープは、例えば抗LTM抗体で感染したプレートから得たニトロセ
ルロースフィルターに反応する抗体によって検出することができる。ついでこの
アッセイにより検出された正のファージを、感染プレートから単離することがで
きる。従って、ヒトからの(スプライシング変異体を含む)アイソホームに入れ
替えて、LTM同族体の存在を他の動物から検出してクローンすることができる
【0161】 I.薬剤スクリーニングアッセイ 本発明の他の特徴は、ある作用物質を同定するアッセイの実施に用いられる、
LTM遺伝子及びLTM遺伝子産物の使用に関する。ある作用物質とは、あるL
TM遺伝子の機能を変調することによって、動物の長期記憶固定の改善に使用す
ることができるものである。下に詳述するように、細胞に基づくアッセイ又は細
胞を含まないアッセイにおいて、LTM蛋白質の活性を阻害する又は促進する能
力について試験作用物質を評価することができる。実施例に記載するように、L
TM遺伝子は、細胞表面受容体から転写因子の分泌蛋白質にまで渡る。従って本
発明は、例えばLTM蛋白質の酵素活性を変調する、LTM蛋白質の半減期を変
調する、LTM蛋白質と他の蛋白質、核酸、炭水化物又は他の生物学的分子との
相互作用を変調する、或いはLTM蛋白質の細胞内局在化を変調する化合物等を
検出する薬剤スクリーニングフォーマットを意図する。様々なアッセイフォーマ
ットが可能であり、本発明に鑑みて、様々なフォーマットが当業者によって実行
されうる。
【0162】 化合物が細胞に与える影響のモニターは、基本的な薬剤スクリーニングにおい
て行われるだけでなく、臨床的な試行においても行われる。そのような臨床的な
試行においては、遺伝子のパネルの発現を、特定の薬剤による治療効果の「読み
出し」として用いてもよい。
【0163】 (i)細胞を含まないアッセイ 化合物及び天然抽出物のライブラリーを試験する多くの薬剤スクリーニングプ
ログラムのうち、所与の時間内に調べることのできる化合物の数を最大化するた
めに、高処理量アッセイが望ましい。細胞を含まない系において行われるアッセ
イ、たとえば精製又は準精製蛋白質を用いたアッセイは、迅速に結果が得られ、
試験化合物によって媒介される分子標的における変化を比較的容易に検出できる
という点で、「一次」スクリーンとしてしばしば好まれる。その上更に、試験化
合物の細胞毒及び/又は生物学的利用能は、生体外系において無視することがで
きる。そのかわりにアッセイは、上流又は下流要素又は内生酵素活性との結合親
和性の変化に現れうる、薬剤が分子標的に与える効果に主に焦点を置く。主題の
方法によって同定された多くのLTM蛋白質は、細胞を用いないアッセイフォー
マットの幾つかにおいて敏感に反応する。細胞質性のものであれ細胞外のもので
あれ、溶解性蛋白質を組換え発現し、少なくとも部分的に精製し、又は溶解物と
して提供し、細胞を含まないアッセイに用いることができる。ある例において、
膜関連蛋白質は、洗剤又はリポソーム内で精製するか、或いは細胞膜分画又は細
胞小器官調製物として単離することができる。
【0164】 従って、例証的な本発明のスクリーニングアッセイにおいて、LTM蛋白質及
びLTM蛋白質と相互作用する1種以上の蛋白質(又は核酸)を含む反応混合物
を作製することができる(そのような分子を以下「LTM相互作用パートナー」
又は「LTM−IP」と称する)。LTM−IPの例としては、上流で機能する
蛋白質(LTM活性の活性化体及び抑制体両方を含む)、及びLTMポリペプチ
ドの下流で機能する蛋白質又は核酸(LTMポリペプチドによってそれらは正又
は負いずれかの調節を受ける)が挙げられる。反応混合物は、1種以上の試験化
合物を更に含む。LTM蛋白質と上流又は下流LTM−IPとの複合体の検出及
び定量化を行うことによって、LTMとLTM−IPとの間の複合体形成の阻害
又は強化について、化合物の効力を調べる手段が提供される。化合物の効力は、
様々な濃度の試験化合物を用いて得たデータから用量応答曲線を得ることによっ
て評価することができる。その上更に、対照アッセイを実施して、比較の基線を
提供することができる。一つの対照アッセイにおいて、単離された及び精製され
たLTMポリペプチドがLTM−IPを含む組成物に添加され、複合体の形成が
試験化合物の非存在下に定量される。
【0165】 LTMポリペプチドと結合パートナーによる複合体形成は、様々な方法によっ
て検出することができる。複合体の形成の変調は例えば、検出可能に標識化した
蛋白質(放射性元素、蛍光標識化又は酵素標識化蛋白質);イムノアッセイ;又
はクロマトグラフィー検出を用いて定量することができる。
【0166】 通常、LTM又はその相互作用パートナーのいずれかを固定して、未複合形状
の蛋白質からの複合体分離を促進し、アッセイの自動化を促進するのが望ましい
。作用物質候補の存在下又は非存在下における、LTM蛋白質と上流又は下流要
素との結合は、反応物を容れるのに好適であればどのような容器内においても達
成することができる。例としては、マイクロタイタープレート、試験管及びマイ
クロ遠心分離管が挙げられる。一つの態様においては、蛋白質が基質に結合する
のを可能にする領域を添加した、融合蛋白質を提供することができる。例えば、
グルタチオン−S−トランスフェラーゼ/LTM (GST/LTM)融合蛋白
質をグルタチオンセファローズビーズ(Sigma Chemical、ミズーリ州セントルイ
ス)又はグルタチオン変性マイクロタイタープレート上に吸着させ、細胞溶解物
又はLTM−IP及び試験化合物を含む他の調製物と結合させ、(試験化合物の
非存在下で)複合体形成を誘導する条件下で(例えば塩及びpHに関して生理的
な条件下で(ただし僅かな緊縮条件が望ましいことがある)混合物を保温するこ
とができる。保温に続いて、ビーズを洗浄して未結合のLTM−IPを除去し、
基質を固定化し基質中のLTM−IPの量を調べるか、又は中複合体が解離した
後の上澄中の量を調べる。或いは、複合体を基質から解離し、SDS−PAGE
で分離し、ビーズ画分中のLTM−IPレベルを、標準的な泳動方法を用いてゲ
ルから定量することができる。
【0167】 蛋白質又は核酸を基質上に固定する他の方法を、主題のアッセイに用いること
もできる。例えば、LTM又はその同源の結合パートナーどちらかを、ビオチン
及びストレプトアビジンの結合を利用して固定化することができる。例えば、ビ
オチン化LTM蛋白質は、ビオチン−NHS(N−ヒドロキシ−スクシンイミド
)から公知の技術(例えばビオチン化キット、Pierce Chemicals、イリノイ州ロ
ックフォード)を用いて調製し、ストレプトアビジンで被覆した96ウェルプレ
ート(Pierce Chemical)のウェル内に固定することができる。或いは、LTM
蛋白質に反応性を有するが上流又は下流結合パートナーには干渉しない抗体を、
プレートのウェルに固着させ、抗体結合によってLTM蛋白質をウェル内にとら
えることができる。上記のように、LTM−IP及び試験化合物の調製物を、L
TMを提示するプレートのウェルで保温し、ウェル内にとらえられた複合体の量
を定量することができる。そのような複合体を検出する方法の例としては、GS
T固定複合体について上記したものの他に、LTM結合パートナーに反応する或
いはLTM蛋白質に反応し結合パートナーと競合する抗体を用いた免疫検出;結
合パートナーに関連する酵素活性(内生又は外来性活性)を検出する酵素結合ア
ッセイが挙げられる。後者の例において、酵素は化学的に結合させる、あるいは
LTM−IPとの融合蛋白質として提供することができる。具体的には、LTM
−IPを化学的にセイヨウワサビペルオキシダーゼと架橋又は融合させることが
でき、酵素の色素生成基質(例えば3,3’−ジアミノ−ベンザジン−テトラヒ
ドロクロリド又は4−クロロ−1−ナフトール)を用いて、複合体にとらえられ
たポリペプチドの量を評価することができる。同様に、ポリペプチド及びグルタ
チオン−S−トランスフェラーゼを包含する融合蛋白質を提供することができ、
1−クロロ−2,4−ジニトロベンゼンを用いてGST活性を検出することによ
って、複合体形成を定量することができる(Habig他(1974)J.Biol.Chem.
249:7130)。
【0168】 複合体にとらえられた蛋白質を定量するのに免疫検出を用いる方法では、蛋白
質に対する抗体、例えば抗LTM抗体を用いることができる。或いは、複合体中
に検出される蛋白質は、容易に入手できる抗体(例えば市販のもの)が認識する
第二のポリペプチド配列を含む融合蛋白質の形状で、「エピトープ標識付け」し
たものであってもよい。例えば、GST部分に対する抗体を用いた結合の定量化
に、上記したGST融合蛋白質を用いることもできる。他に有用なエピトープ標
識としては、c−mycからの10残基配列を含むmycエピトープ(例えばEl
lison他(1991)J.Biol.Chem.266:21150−21157参照);p
FLAGシステム(International Biotechnologies, Inc.);又はpEZZ−
蛋白質Aシステム(Pharmacia、ニュージャージー州)が挙げられる。
【0169】 細胞を含まない他の態様としては、LTM蛋白質又はLTM蛋白質を含む複合
体の内生活性を検出し、その活性を促進又は阻害する化合物を同定するアッセイ
が挙げられる。例えば、LTP蛋白質、LTM蛋白質の酵素活性の基質、及び試
験作用物質を含む反応混合物を作製することができる。基質が産物に変換される
速度を測定し、LTM蛋白質と基質のみの混合物による対照試料と比較すること
ができる。基質が産物に変換される速度が低減する場合には、試験作用物質がL
TM活性の阻害剤である可能性があり、速度が増加する場合には、試験作用物質
がLTM活性のアンタゴニストである可能性がある。
【0170】 好ましい態様において、基質は容易に検出される(例えば基質から産物への変
換が、反応混合物における比色又は蛍光の変化として、分光器手段によって検出
可能である)か、或いはイムノアッセイによって検出可能なエピトープを生成又
は破壊する。
【0171】 (ii)細胞結合アッセイ 上記した細胞を用いないアッセイに加えて、本発明によって提供され容易に入
手可能なLTM蛋白質は、小分子アゴニスト/アンタゴニストなどを同定する、
細胞に基づくアッセイを可能にする。細胞内においてLTM蛋白質の活性を変化
させる試験作用物質の能力は、LTM蛋白質を含む複合体の形成を直接検出し、
LTM蛋白質の内生酵素活性を検出し、LTM蛋白質の細胞内局在化における変
化を直接検出し、LTM蛋白質への翻訳後修飾又はLTM蛋白質の安定性の変化
を検出し、或いはそのような現象における下流の結果を検出することを含む。
【0172】 そのようなアッセイは、単純な結合アッセイであってもよい。例えば、LTM
蛋白質が受容体である場合、受容体に結合する化合物、或いは対応するリガンド
に結合する受容体の能力に影響を与える化合物を、アッセイを用いて同定するこ
とができる。他の態様においては、LTM蛋白質の存在又は活性に対して表現型
が敏感に反応する細胞が例えば細胞内で形態上の変化を生じる場合には、そのよ
うな細胞は、目的の試験作用物質の存在下又は非存在下で、試験作用物質によっ
て媒介される標的細胞によるLTM応答の変調を測定するアッセイを用いて、組
換えLTM蛋白質の過剰又は低発現を誘導することができる。細胞を用いないア
ッセイと同様に、LTM依存性応答(阻害又は強化)において統計的に有意な変
化を引き起こす作用物質はを同定することができる。例えば、LTM蛋白質の存
在又は活性に応答してアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受
ける遺伝子又は遺伝子産物の発現レベルを検出することができる。好ましい態様
において、そのような遺伝子の調節領域(例えば5’フランキングプロモーター
及びエンハンサー領域)は、容易に検出可能な遺伝子産物をコードする検出標識
(ルシフェラーゼ等)と操作可能に連結される。
【0173】 LTM蛋白質自体又は他の蛋白質との複合体が、DNAと結合し遺伝子の転写
を変調する現象において、LTM応答性調節配列が検出可能な標識遺伝子に操作
可能に連結されている、転写に基づくアッセイを用いることができる。
【0174】 本発明の他の対応において、主題の薬剤スクリーニングアッセイはLTM蛋白
質を利用して「蛋白質複合体」アッセイとすることができる[例えば米国特許第
5,283,317号;Zervos他(1993)Cell72:223−232;
Madura他(1993)J.Biol.Chem.268:12046−12054;Bartel他
(1993)Biotechniques14:920−924;Iwabuchi他(1993)Onc
ogene8:1693−1696;及びPCT公開番号WO94/10300参照
]。以下簡単に述べると、蛋白質複合体アッセイは、2個の異なる融合蛋白質か
ら機能的転写活性化体蛋白質を生体内で再構成することに基づいている。特に本
方法は、ハイブリッド蛋白質を発現するキメラ遺伝子を利用する。具体的には、
LTM蛋白質をコードする配列と枠内で融合した、転写活性化体のDNA結合領
域をコードする配列で、第一のキメラ遺伝子を作製する。第二のハイブリッド蛋
白質は、他のポリペプチド(例えばLTM蛋白質と結合するLTM−IP)と枠
内で結合した転写活性化領域をコードする。2個の融合蛋白質が相互作用できる
場合、例えばLTM依存性複合体を形成する場合には、それらを転写活性化体の
2個の領域に近接させる。この近接によって、第一の融合蛋白質のDNA結合領
域が結合した転写調節部位に操作可能に連結したレポーター遺伝子の転写が引き
起こされる。レポーター遺伝子の発現が検出され、LTMと試料蛋白質との相互
作用の測定に用いられる。
【0175】 a.宿主細胞 主題のアッセイを作製するのに好適な宿主細胞の例としては、原核生物、酵母
菌又は高等真核細胞、特に哺乳動物細胞が挙げられる。原核生物には、グラム陰
性菌又はグラム陽性菌が含まれる。好適な哺乳動物宿主細胞系の例としては、サ
ル腎臓細胞のCOS−7系(ATCC CRL1651)(Gluzman(1
981)Cell23:175)、CV−1細胞(ATCC CCL70)、L
細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa及
びBHK細胞系が挙げられる。選択又はスクリーニングを行うためには、宿主細
胞が適当な表現型を有する必要があるということは理解されよう。
【0176】 酵母菌が用いられる場合には、培養可能であり、且つ外来性受容体が宿主細胞
のシグナル伝達機構で好適なものに組み合わせられるものであれば、どの種を用
いてもよい。好適な種の例としては、Kluyverei lactis、Schizosaccharomyces
pombe及びUstilaqo maydisが挙げられるが、Saccharomyces cerevisiaeが好まし
い。本発明の実施に用いることのできる他の酵母菌の例としては、Neurospora c
rassa、Aspergillus niger、Aspergillus nidulans、Pichia pastoris、Candida
tropicalis及びHansenula polymorphaが挙げられる。ここでいう「酵母菌」と
は、分類学上で厳密にいう酵母菌をふくむだけでなく、すなわち単細胞生物、酵
母菌様多細胞真菌類又はフィラメント状真菌類を含む。
【0177】 好適な宿主細胞の選択は、検出シグナルの選択によっても影響される。例えば
、下に述べるようなレポーター構造体は、目的のLTM蛋白質に結合したシグナ
ル伝達経路に応答する、転写活性(又は不活性)についての選択又はスクリーニ
ングが可能な特徴を提供する。レポーター遺伝子は、宿主細胞経路にすでに存在
する未改変の遺伝子、例えば酵母菌中で成長停止にかかわる遺伝子であってもよ
い。レポーター遺伝子は、「受容体応答性」プロモーターの操作可能に連結され
た宿主細胞遺伝子であってもよい。あるいは、同様に連結された異種遺伝子(例
えば「レポーター遺伝子構造体」)であってもよい。好適な遺伝子及びプロモー
ターは後述する。他の態様において、第二のメッセンジャー産生は、例えば細胞
内カルシウムの可動化又はリン脂質代謝が定量される、検出工程において直接測
定することができる。更に他の態様において、指示(indicator)遺伝子を用い
て受容体媒介シグナリングを検出することができる。
【0178】 b.LTM蛋白質:酵素 ある態様においてLTM蛋白質は、増強又は阻害して動物中のLTM効能を変
化させることのできる内生酵素活性を含む。LTM蛋白質の活性の例としては、
プロテアーゼ活性(例えばセリン蛋白質、システインプロテアーゼ、アスパラギ
ン酸プロテアーゼ、金属プロテアーゼ)、キナーゼ活性、リパーゼ活性、ホスフ
ァターゼ活性、パーミアーゼ活性、リガーゼ活性、ユビキチン連結活性、グリコ
シル化又は脱グリコシル化活性等が挙げられる。一般に、ほとんどの酵素活性に
ついて、天然及び合成の基質が存在する。従って、本発明は特に、LTM又は酵
素的に活性なその断片、及びその活性の基質を利用して活性を増強する又は阻害
する化合物を同定するアッセイを意図する。
【0179】 c.LTM蛋白質:サイトカイン受容体 ある態様において、上記したアッセイにおいて同定されたLTM遺伝子は、脳
弓媒介記憶固定の一部としてアップレギュレーション又はダウンレギュレーショ
ンを受ける受容体をコードしうる。異なる上科を構成するサイトカイン受容体の
ほとんどは、内生蛋白質チロシンキナーゼ領域を有さないが、受容体の刺激は通
常、受容体自体を含む細胞内蛋白質の急速なチロシンリン酸化を誘導する。サイ
トカイン受容体上科の多くがJak蛋白質チロシンキナーゼ科を活性化し、その
結果STAT転写活性因子がリン酸化される[例えばFrank他(1995)PN
AS92:7779−7783;Scharfe他(1995)Blood86:2077−
2085;Bacon他(1995)PNAS92:7307−7311);及びSak
atsume他(1995)J.Biol Chem270:17528−17534参照]。J
akリン酸化の下流で起こる現象についても明らかにされている。例えば、サイ
トカイン受容体は、シグナルトランスデューサー及び転写の活性化体(STAT
)蛋白質であるSTAT1α、STAT2β及びSTAT3、並びに2個のST
AT関連蛋白質であるp94及びp95のリン酸化を引き起こすことができる。
STAT蛋白質は核に移転し、特定のDNA配列に結合する。これはサイトカイ
ンが特定の遺伝子を活性化するメカニズムを示唆している。
【0180】 本アッセイにおいて、リン酸化における変化など、第二のメッセンジャーの検
出誘導に加えて、測定される検出手段は、STAT蛋白質に応答する転写調節要
素を含むレポーター構造体又は指示遺伝子を含む。
【0181】 d.LTM蛋白質:核レポーター 海馬でアップレギュレーション又はダウンレギュレーションを受ける他の受容
体は、核受容体である。核受容体はリガンド依存性転写因子と見なすことができ
る。これらの受容体は細胞外シグナル(主にホルモン)との直接結合と、転写応
答を提供する。その転写活性機能は、原形質膜を容易に通過し細胞内の受容体と
結合する内生小分子(例えばステロイドホルモン、ビタミンD、エクジソン、レ
チノイン酸及び甲状腺ホルモンなど)によって調節される[Laudet及びAdelmant
(1995)Current Biology5:124]。これら受容体の多くは、可変アミ
ノ末端領域;高度に保存されたDNA結合領域;及び適度に保存されたカルボキ
シ末端リガンド結合領域の、3領域を含んでいるようである[Power他(199
3)Curr.Opin.Cell Biol.5:499−504]。
【0182】 ある態様において、選択を行うために、ホルモン依存性受容体を利用するよう
に主題のアッセイを改変してもよい。例えば、核受容体に結合する転写応答要素
は、リガンドが受容体に結合するのに応答して、レポーター構造体の発現を誘導
するのに用いることができる。そのような応答要素は、核受容体との相互作用を
通じてリガンド応答性を与えるエンハンサー様DNA配列である(例えばEvans
他の米国特許第5,298,429号及び第5,071,773号参照)。その
上更に上記文献は、酵母菌におけるそのような受容体の機能的発現について記載
している[さらに例えばCaplan他(1995)J Biol Chem270:5251−
7;及びBaniahmad他(1995)Mol Endocrinol9:34−43参照]。
【0183】 e.LTM蛋白質:レポーターチロシンキナーゼ 更に他の態様において、LTM遺伝子は、受容体チロシンキナーゼをコードし
てもよい。受容体チロシンキナーゼは、細胞外領域及び細胞質領域のチロシンキ
ナーゼ触媒領域の構成の構造類似性に基づいて5つのサブグループに分類するこ
とができる。サブグループI(上皮細胞増殖因子(EGF)受容体様)、II(
インスリン受容体様)及びeph/eck族は、システインに富んだ配列を含む
[Hirai他(1987)Science238:1717−1720;並びにLin
dberg及びHunter(1990)Mol.Cell.Biol.10:6316−6324]。こ
れら3つの受容体チロシンキナーゼサブグループのキナーゼ領域の機能領域は、
隣接する配列としてコードされる[Hanks他(1988)Science241
:42−52]。サブグループIII(血小板由来成長因子(PDGF)受容体
様)及びIV(繊維芽細胞成長因子(FGF)受容体)は、細胞外領域に免疫グ
ロブリン(Ig)様の折り重なりを有する、並びに無関係のアミノ酸可変ストレ
ッチによって2部分に分割されたキナーゼ領域を有する、という特徴がある[Ya
nden及びUllrich(1988)上述;及びHanks他(1988)上述]。
【0184】 ある態様において、LTM蛋白質はEPH族の受容体であってもよい。幾つか
のEPH族受容体について発現パターンが調べられており、その結果はこれらの
分子が成人CNS組織の発達及び維持に重要な役割を担っていることを示唆して
いる。ここでいう「EPH受容体」又は「EPH型受容体」は、少なくとも7個
のパラロガス遺伝子を包含する(ただしこのクラス内にはより多くのオルソログ
体、例えば異なる種から得られる同族体が存在する)受容体チロシンキナーゼの
1クラスのことをいう。EPH受容体は一般に、相同性によって関連づけられる
別々のグループであり容易に認識される。例えばEPH受容体は一般に、N末端
近傍の特徴的なシステイン残基の配置及び2個のフィブロネクチン3型繰り返し
単位を含む細胞外領域によって特徴付けられる[Hirai他(1987)Scie
nce238:1717−1720;Lindberg他(1990)Mol Cell Biol1
0:6316−6324;Chan他(1991)Oncogene6:1057−1061
;Maisonpierre他(1993)Oncogene8:3277−3288;Andres他(1
994)Oncogene9:1461−1467;Henkemeyer他(1994)Oncogene
9:1001−1014;Ruiz他(1994)Mech Dev46:87−100;Xu
他(1994)Development120:287−299;Zhou他(1994)J Neu
rosci Res37:129−143;並びにTuzi及びGullick(1994)Br J Can
cer69:417−421]。EPH受容体の例としては、eph、elk、e
ck、sek、mek4、hek、hek2、eek、erk、tyro1、t
yro4、tyro5、tyro6、tyro11、cek4、cek5、ce
k6、cek7、cek8、cek9、cek10、bsk、rtk1、rtk
2、rtk3、myk1、myk2、ehk1、ehk2、pagliacci
o、htk、erk及びnuk受容体が挙げられる。「EPH受容体」の語は、
本発明のリガンドに結合する能力を保持する、膜形状の受容体蛋白質並びに可溶
性細胞外断片を意味する。
【0185】 例証的な態様において、細胞内蛋白質のリン酸化(例えばMEKK、MEK、
Mapキナーゼなど)を検出することによって、或いはc−fos及び/又はc
−junに応答性を有する転写調節要素を含むレポーター構造体又は指示遺伝子
を用いることによって、検出シグナルが提供される。
【0186】 f.LTM蛋白質:G蛋白質共役受容体 CNSを通じて見られるシグナル伝達カスケードの1種は、異種三量体「G蛋
白質」を利用する。多くの異なるG蛋白質が、受容体と相互作用することが知ら
れている。G蛋白質シグナリング系は、G蛋白質共役受容体(GCR)、GTP
結合蛋白質(G蛋白質)及び細胞内標的蛋白質の、3つの構成要素を含む。従っ
て、主題の薬剤スクリーニングアッセイのある態様においては、LTMがGCR
又はG蛋白質であることが予想される。
【0187】 α、β及びγサブユニットからなるG蛋白質は、休止状態において、ヌクレオ
チドグアノシン二リン酸(GDP)と複合体を形成し、受容体と接触した状態に
おかれる。ホルモン又は他の第一のメッセンジャーが受容体に結合したとき、受
容体は配座を変え、その結果G蛋白質との相互作用が変化する。これによりαサ
ブユニットによるGDP放出が刺激され、多量に存在するヌクレオチドグアノシ
ン三リン酸(GTP)と置換され、G蛋白質を活性化する。次いでG蛋白質が解
離してβ及びγ複合体からαサブユニットを分離する。Gαサブユニット又はG
βγ複合体のいずれかは、経路によって、エフェクターと相互作用する。次にエ
フェクター(通常は酵素)が不活性前駆体分子を活性な「第二メッセンジャー」
に変換し、このメッセンジャーが細胞質中に拡散し、代謝カスケードを刺激する
。数秒の後、GαはGTPをGDPに変換し、これによって自身を不活性化する
。不活性化GαはGβγ複合体と再び結合する。
【0188】 数百(もしくは数千)の受容体が、異種三量体G蛋白質を通じてメッセージを
伝達するが、そのうち少なくとも17の異なった形態が単離されている。最も大
きな可変性がαサブユニット中に見られたが、幾つかの異なるβ及びγ構造も報
告されている。加えて、幾つかの異なるG蛋白質依存性エフェクターが存在する
【0189】 ほとんどのG蛋白質共役受容体は、原形質膜を7回通過する1本の蛋白質鎖か
らなっている。そのような受容体はしばしば7−膜内外受容体(STR)と称さ
れる。100種以上の異なるSTRがこれまで確認されており、その多くは同じ
リガンドに結合するはっきりと異なる受容体である。更に多くのSTRが発見さ
れることが予想される。
【0190】 LTM遺伝子として同定されうるG蛋白質共役受容体の例としては、ドーパミ
ン作動性、ムスカリン様コリン作動性、αアドレナリン作動性、βアドレナリン
作動性、オピオイド(Δ及びμを含む)、カンナビノイド、セロトニン作動性、
及びGABA作動性受容体が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本アッセイのLTM蛋白質は、G蛋白質共役受容体であってもよく、本アッセイ
を行うことを目的として遺伝子工学的に処理される細胞内で、組換え発現されて
もよい。
【0191】 G蛋白質共役受容体に対する公知のリガンドの例としては、アデノシン、cA
MP、ATP、UTP、ADP、メラトニンなどのプリン及びヌクレオチド;5
−ヒドロキシトリプタミン、アセチルコリン、ドーパミン、アドレナリン、ヒス
タミン、ノルアドレナリン、チラミン、オクトパミン及び他の関連化合物等の生
体アミン(及び関連の天然リガンド);副腎皮質刺激ホルモン(acth)、色
素胞刺激ホルモン(msh)、メラノコルチン、ニューロテンシン(nt)、ボ
ンベシン及び関連のペプチド、エンドセリン、コレシストキニン、ガストリン、
ニューロキニンb(nk3)、無脊椎動物タキキニン様ペプチド、サブスタンス
k(nk2)、サブスタンスp(nk1)、ニューロペプチドy(npy)、甲
状腺刺激ホルモン放出因子(trf)、ブラジキニン、アンジオテンシンII、
βエンドルフィン、c5aアナフィラトキシン、カルシトニン、ケモカイン(別
称インタークリン)、副腎皮質刺激性放出因子(crf)、ダイノルフィン、エ
ンドルフィン、fmlp及び他のホルミル基誘導ペプチド、フォリトロピン(f
sb)、菌類交配フェロモン、ガラニン、胃酸分泌抑制ポリペプチド受容体(g
ip)、グルカゴン様ペプチド(gips)、グルカゴン、性腺刺激ホルモン放
出ホルモン(gnrh)、成長ホルモン放出ホルモン(ghrh)、昆虫利尿ホ
ルモン、インターロイキン−8、ロイトロピン(leutropin)(lh/hcg)
、メトエンケファリン、モルヒネ様ペプチド、オキシトシン、副甲状腺ホルモン
(pth)及びpthrp、下垂体アデニリリシクラーゼ活性化ペプチド(pa
cap)、セクレチン、ソマトスタチン、ロンビン、甲状腺刺激ホルモン(ts
h)、血管作用性小腸ペプチド(vip)、バソプレシン、バソトシンなどのペ
プチド;ip−プロスタシクリン、pg−プロスタグランジン、tx−トロンボ
キサン等のエイコサノイド;脊椎動物の11−cisレチナール、無脊椎動物の
11−cisレチナール及び他の関連化合物等のレチナールに基づく化合物;カ
ンナビノイド、アナンダミド、リソホスファチジン酸、血小板活性化因子、ロイ
コトリエン等の脂質及び脂質に基づく化合物;カルシウムイオン及びグルタミン
酸塩等の興奮性アミノ酸及びイオンが挙げられる。従って試験化合物は、ある好
ましい態様においては、そのようなリガンドの類似体である。
【0192】 g.スクリーニング及び選択アッセイ:第二のメッセンジャー産生 試験化合物の生物学的活性がスクリーンされるとき、細胞内第二メッセンジャ
ー産生が直接測定される。アデニリルシクラーゼ、サイクリックGMP、ホスホ
ジエステラーゼ、ホスホイノシチダーゼC及びホスホリパーゼA2、並びに様々
なイオン等の様々な細胞内エフェクターが、受容体又はイオンチャネルにより調
節されることが同定されている。
【0193】 一つの態様において、G蛋白質によるGPTアーゼの酵素活性は、公知の方法
を用いてγ32P GTP分析を行うことによって、原形質膜調製物内で測定する
ことができる(例えばSignal Transduction:A Practical Approach、G.Milliga
n編、Oxford University Press、英国オックスフォード参照)。cAMPを変調
する受容体が試験される場合、標識化していないcAMPの存在下でcAMPを
定量する競合アッセイなどの、cAMP検出に用いられる標準的方法を用いるこ
とが可能である。
【0194】 ある受容体及びイオンチャネルが、ホスホリパーゼCの活性を刺激し、それが
ホスファチジルイノシトール4,5二リン酸の1,4,5−IP3(これは細胞
内Ca++を可動化する)及びジアシルグリセロール(DAG)(これは蛋白質
キナーゼCを活性化する)への分解を刺激する。標準的な脂質抽出方法によって
イノシトール脂質を抽出して分析することができる。DAGは薄層クロマトグラ
フィーを用いて測定することもできる。3種のイノシトール脂質全て(IP1、
IP2、IP3)の水溶性誘導体を、放射性同位元素法又はHPLCを用いて定
量することもできる。
【0195】 PIP2分解の他の産物であるDAGは、ホスファチジルコリンからも産生す
ることができる。受容体媒介シグナリングに応答して起こるこのリン脂質の分解
は、様々な放射性同位元素標識法を用いて測定することができる。
【0196】 ホスホリパーゼA2の活性化は、例えば細胞内でアラキドン酸塩を産生するな
どの公知の方法を用いて容易に定量することができる。
【0197】 ある受容体及びイオンチャネルの場合、細胞のリン酸化における変化をスクリ
ーンするのが望ましい。そのようなアッセイフォーマットは、目的の受容体が受
容体キナーゼ又はホスファターゼである場合に有用であり、例えば、抗ホスホチ
ロシン、抗ホスホセリン又は抗ホスホトレオニン抗体を用いた免疫ブロット法が
挙げられる[Lyons及びNelson(1984)Proc.Natl.Acad.S
ci.USA81:7426−7430]。加えて、リン酸化を調べる試験は、
受容体自体はキナーゼではないが、シグナル伝達経路の下流で機能する蛋白質キ
ナーゼ又はホスファターゼを活性化する場合にも有用である。
【0198】 そのようなカスケードの一つは、様々な細胞系における有糸分裂促進、分化及
びストレス応答を媒介すると思われるMAPキナーゼ経路である。成長因子受容
体を刺激した結果、Ras活性化が起こり、次いでc−Raf、MEK並びにp
44及びp42MAPキナーゼ(ERK1及びERK2)の連続的活性化が起こ
る。活性化MAPキナーゼは、次いでキーとなる調節蛋白質(MAPキナーゼが
核に移転したときにリン酸化されるp90RSK及びElk−Iなど)の多くを
リン酸化する。相同性を有する経路が、哺乳動物及び酵母菌細胞に存在する。例
えば、S. cerevisiaeフェロモンシグナル経路の基本部分は、STE11、ST
E7及びFUS3/KSS1遺伝子(後者のペアは別のものであり、機能的に重
複する)の産物から構成される蛋白質キナーゼカスケードを包含する。従って、
このキナーゼカスケードの構成要素のリン酸化及び/又は活性化を検出し、受容
体結合の定量に用いることができる。チロシンリン酸化における増加を測定する
ためのホスホチロシンに特異的な抗体が入手可能であり、リン特異的な抗体は市
販されている(New England Biolabs、マサチューセッツ州ベヴァリー)。
【0199】 更に他の対応において、標的となる受容体のシグナル伝達経路又はイオンチャ
ネルは、発現にアップレギュレーションを与えるか、さもなくば細胞に添加する
ことのできる基質を切断することのできる酵素を活性化する。シグナルは、検出
可能な基質を用いる(この場合、基質シグナルの量がモニターされる)ことによ
って、或いは検出可能な産物を産生する基質を用いることによって、検出するこ
とができる。好ましい態様において、活性化された酵素によって基質が産物に変
換されると、試験細胞の光学的特性に検出可能な変化が起こる。例えば基質及び
/又は産物が色素的に又蛍光的に活性になる。例証的な態様において、シグナル
伝達経路は蛋白質分解酵素の活性に変化を起こし、基質ペプチドを切断する速度
が変化する(又は単に基質に対して酵素を活性化する)。ペプチドは、蛍光原ド
ナーラジカル(例えば蛍光放射ラジカル)及びアクセプターラジカル(例えばア
クセプターラジカル及び蛍光原ドナーラジカルが共有結合的に近接するとき、蛍
光原ドナーラジカルの蛍光エネルギーを吸収する芳香族ラジカル)等を含んでい
る[例えばUSSN5,527,681、5,506,115、5,429,7
66、5,424,186及び5,316,691;並びにCapobianco他(19
92)Anal Biochem204:96−102参照]。例えば基質ペプチドは、蛍光
ドナー基(例えば1−アミノ安息香酸(アントラニル酸又はABZ)又はアミノ
メチルクマリン(AMC)など)をペプチド上のある位置に、そして蛍光クエン
チ基(例えばルシファーイエロー、メチルレッド又はニトロベンゾ−2−オキソ
−1,3−ジアゾール(NBD)など)をペプチド上の遠位末端付近の異なる位
置において有する。活性化された酵素の切断部位は、ドナー基とアクセプター基
の各部位間に位置する。蛍光ドナー分子からクエンチャーに移転した分子内共鳴
エネルギーは、二者が空間的に十分近接する場合、例えばペプチドが未反応であ
る場合、ドナー分子の蛍光を消す。しかしペプチドの切断に際して、クエンチャ
ーはドナー基から分離され、蛍光断片から離れる。従って酵素を活性化した結果
、検出ペプチドは切断されて蛍光基が消されなくなる。
【0200】 更に他の態様において、第二メッセンジャー(カルシウム、イノシトールリン
酸の加水分解産物、cAMPなど)の濃度に活性が依存する酵素あるいは色素性
又は蛍光性プローブを用いることによって、検出可能なシグナルを産生すること
ができる。例えば、細胞内カルシウムの可動化又は細胞外からのカルシウムの流
入を、標準的方法によって測定することができる。適当なカルシウム指示体、蛍
光、生物発光、金属指示薬、又はCa++感受性極小電極を選択するためには、
細胞型及び研究対象となる現象の規模及び時定数を考慮に入れる[Bone(199
0)Environ Health Perspect84:45−56]。Ca++検出の例証的な方
法としては、標準法によりCa++感受性蛍光染料fura−1又はindo−
1で細胞を充填し、Ca++に起こるあらゆる変化を蛍光計で測定する。
【0201】 上記したある態様が示唆するように、第二メッセンジャー産生の直接的測定に
加えて、受容体又はイオンチャネル経路のシグナル伝達活性は、転写産物の検出
によって、例えば遺伝子の受容体/チャネル媒介転写活性(又は抑制)を検出す
ることによって、測定することができる。転写産物の検出は、遺伝子転写物を検
出し、産物を(例えばイムノアッセイによって)直接検出し、蛋白質の活性(例
えば酵素活性又は色素/蛍光活性)を検出することを含む。それぞれは、ここで
指示遺伝子発現を検出する手段として参照する。指示遺伝子は、宿主細胞の改変
していない内生遺伝子であってもよいし、改変した内生遺伝子であってもよいし
、あるいは完全に異種の構造体の一部(例えばレポーター遺伝子構造体の一部)
であってもよい。
【0202】 一つの態様において、指示遺伝子は改変していない内生遺伝子である。ある例
においては、例えば試験系の信号対雑音を改善するために、又は応答レベルを特
定の検出方法に好適なレベルに調整するために、シグナル経路によって内生指示
遺伝子の転写活性レベルを増加させるのが望ましい。一つの態様において、シグ
ナル経路の転写活性能は、細胞内シグナルカスケードに関与する1種以上の蛋白
質、特にその経路に関与する酵素の過剰発現によって増幅させることができる。
例えば、Junキナーゼ(JNK)は、MEK/MEKK経路のシグナルによる
転写活性化レベルを増加させることができる。この方法はもちろん、異種レポー
ター遺伝子の転写レベルの増加にも用いることができる。
【0203】 他の態様において、内生指示遺伝子の感度を、指示遺伝子の天然の座において
プロモーター配列を処理することによって向上させることができる。そのような
処理は、内生調節要素の点突然変異から、調節要素の全部分又は本質的部分の総
体置換まで、多岐に渡る。一般に、指示遺伝子のゲノム配列の処理は、当分野で
公知の方法(相同組換えなど)を用いて実施することができる。
【0204】 他の例証的な態様において、内生遺伝子のプロモーター(又は他の転写調節配
列)を異種プロモーター配列で「切り替え排除(switched out)」することがで
きる。例えば、指示遺伝子座にキメラ遺伝子を作製することができる。ここでも
また、相同組換えなどの方法を用いて、指示遺伝子のゲノム座において調節配列
をそのように変えることができる。
【0205】 更に他の態様において、異種レポーター遺伝子構造体を用いて、指示遺伝子の
機能を提供することができる。レポーター遺伝子構造体は、レポーター遺伝子を
少なくとも1個の転写調節要素に操作可能に連結することによって調製される。
転写調節要素が1個のみ含まれる場合には、それは調節可能なプロモーターでな
ければならない。少なくとも1個の選択された転写調節要素が、選択された細胞
表面受容体の活性によって間接的又は直接的に調節されなければならない。それ
によってレポーター遺伝子の転写を通じて受容体の活性をモニターすることがで
きる。
【0206】 多くのレポーター遺伝子及び転写調節要素が業者に知られており、その他のも
のは当業者に公知の方法によって同定又は合成が可能であろう。
【0207】 h.スクリーニング及び選択アッセイ:レポーター遺伝子 レポーター遺伝子の例としては、CAT(クロラムフェニコールアセチルトラ
ンスフェラーゼ)[Alton及びVapnek(1979)Nature282:864
−869]、ルシフェラーゼ及び他の酵素検出系(例えばβ−ガラクトシダーゼ
);ホタルルシフェラーゼ[deWet他(1987)Mol.Cell.Biol.7:725−
737];細菌ルシフェラーゼ[Engebrecht及びSilverman(1984)PNA
S1:4154−4158;Baldwin他(1984)Biochemistry23:366
3−3667];アルカリホスファターゼ[Toh他(1989)Eur.J.Biochem.
182:231−238;Hall他(1983)J.Mol.Appl.Gen.2:101]、
ヒト胎盤分泌アルカリホスファターゼ[Cullen及びMalim(1992)Methods i
n Enzymol.216:362−368]が挙げられるが、これらに限定されるもの
ではない。
【0208】 レポーター遺伝子構造体に用いられる、又は指示遺伝子のゲノム座を改変する
、転写調節要素の例としては、プロモーター、エンハンサー並びに抑制体及び活
性化体結合部位が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好適な転写
調節要素は、細胞表面蛋白質と細胞表面蛋白質の活性を変調するエフェクター蛋
白質との接触により発現が迅速に誘導される(一般に数分以内)遺伝子の転写調
節領域に由来してもよい。そのような遺伝子の例としては、c−fosなどの最
初期遺伝子[Sheng他(1990)Neuron4:477−485参照]が挙げられ
るが、これに限定されるものではない。最初期遺伝子は、リガンドが細胞表面蛋
白質に結合すると迅速に誘発される遺伝子である。遺伝子構造体に用いるのに好
ましい転写調節要素は、最初期遺伝子からの転写調節要素、最初期遺伝子の特徴
の幾つか又は全てを有する他の遺伝子に由来する要素、又は操作可能に連結され
た遺伝子がそのような特徴を発現できるように構築された合成要素が挙げられる
。転写調節要素が由来する好ましい遺伝子の特徴の例としては静止細胞における
発現は低い又は検出されないこと、細胞外刺激から数分内で転写レベルが迅速に
誘導されること、誘導が一時的で新規な蛋白質合成に依存しないこと、続いて起
こる転写の停止には新規な蛋白質合成を必要とすること、これらの遺伝子から転
写されるmRNAの半減期は短いことなどが挙げられるが、これらに限定される
ものではない。これらの特徴全てが存在している必要はない。
【0209】 上記したものの他に、プロモーター及び転写調節要素の例としては、血管作用
性小腸ペプチド(VIP)遺伝子プロモーター(cAMP応答性;Fink他(
1988)Proc.Natl.Acad.Sci..85:6662−666
6); ソマトスタチン遺伝子プロモーター(cAMP応答性;Montminy他(1
986)Proc.Natl.Acad.Sci..8.3:6682−6686
);プロエンケファリンプロモーター(cAMP、ニコチン様アゴニスト及びホ
ルボールエステル応答性;Comb他(1986)Nature323:353−3
56);ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ遺伝子プロモーター(c
AMP応答性;Short他(1986)J.Biol.Chem.261:9721−9726
);NGFI−A遺伝子プロモーター(NGF、cAMP及び血清応答性;Chan
gelian他(1989)Proc.Natl.Acad.Sci..86:377
−381);及び当業者に公知のもの又は容易に調製できものが挙げられる。
【0210】 サイクリックAMPを変調する受容体の場合、特定のセリン(S133)にお
けるリン酸化によって調節される活性を有する転写因子である、サイクリックA
MP応答要素結合蛋白質CREBを用いて、転写に基づく読み出しを構築するこ
とができる。このセリン残基がリン酸化されると、cAMPレベルの増加に応答
することが知られるプロモーターの5’にみられるCRE(cAMP応答性要素
)として知られる認識配列に、CREBが結合する。リン酸化されたCREBが
CREに結合すると、このプロモーターからの転写が増加する。
【0211】 CREBのリン酸化は、cAMPレベルの増加及び細胞内Caレベルの増加の
両方に応答して起こる。cAMPレベルが増加した結果、PKAが活性化され、
CREBがリン酸化されて、CREの結合と転写活性が起こる。細胞内カルシウ
ムレベルが増加すると、カルシウム/カルモジュリン応答性キナーゼIV(Ca
MキナーゼIV)が活性化される。CaMキナーゼIVによるCREBのリン酸
化は、PKAによるCREBのリン酸化と事実上同様であり、CRE含有プロモ
ーターの転写を活性化する。
【0212】 従って、発現が1個以上のCREを含む基礎(basal)プロモーターによって
引き起こされるレポーター遺伝子を含む細胞内に、転写に基づく読み出しを構築
することができる。(リガンドが結合して受容体の活性が変化した結果)Ca+
+の細胞内濃度が変化すると、a)CREBが細胞内で共発現される、及びb)
内生酵母菌CaMキナーゼがカルシウムの増加に応答してCREBをリン酸化す
る又は外因発現CaMキナーゼIVが同じ細胞内に存在する、という条件を満た
す場合にレポーター遺伝子の発現レベルが変化する。すなわち、PLC活性が刺
激された結果、CREBがリン酸化され、CRE構造体からの転写が増加する。
これに対し、PLC活性が阻害された結果、CRE応答性構造体からの転写が増
加する。
【0213】 Bonni他(1993)Science262:1575−1579に記載され
ているように、SK−N−MC細胞をCNTFで処理すると、STAT/p91
及びSTAT関連蛋白質と特異的なDNA配列との相互作用が向上するという知
見は、これらの蛋白質が、CNTFにより刺激される遺伝子発現における変化の
主要なレギュレーターであることを示唆している。この可能性と一致して、ST
AT/p91結合に必要なコンセンサスDNA配列と同様のDNA配列要素が、
CNTFによって誘導されることが以前から知られている多くの遺伝子(例えば
ヒトc−fos、マウスc−fos、マウスtis11、ラットjunB、ラッ
トSOD−1及びCNTF)の上流に存在することが発見されている。上記文献
では、非応答性レポーター遺伝子にCNTF応答性を与える能力を、STAT/
p91結合部位が有していることが実証されている。従って本発明において、例
えばサイトカイン受容体からのSTAT蛋白質を介するシグナル伝達を検出する
ために用いられるレポーター構造体を、細菌クロラムフェニコールアセチルトラ
ンスフェラーゼ遺伝子(−71fosCAT)又は他に検出可能な標識遺伝子に
融合したマウスc−fos遺伝子の−71から+109を用いて作製することが
できる。サイトカイン受容体による誘導によって、STAT及びSTAT関連蛋
白質のチロシンリン酸化を刺激することができ、これが次いでこれらの蛋白質の
移転及びSTAT−RE蛋白質との結合を引き起こす。これによって、プロモー
ター内にこのDNA要素を含む遺伝子の転写が活性化される。
【0214】 好ましい態様において、レポーター遺伝子は、スクリーン又は選択が可能な表
現型の変化を起こす発現を有する遺伝子である。選択可能な変化の場合には、表
現型の変化によって、レポーター遺伝子を発現する細胞と発現しない細胞との間
の成長率又は生存率に差が生じる。スクリーン可能な変化の場合には、表現型の
変化によって検出可能な特徴における差が生じ、それによって標識を発現する細
胞と発現しない細胞とを区別することができる。受容体エフェクターである試験
ポリペプチドを発現する細胞を、細胞培養から増幅する手段を提供できるという
点で、スクリーニングより選択が好ましい。
【0215】 標識遺伝子の発現が受容体の活性化に依存するように、標識遺伝子が受容体シ
グナリング経路に結合される。この結合は、標識遺伝子を受容体応答性プロモー
ターに操作可能に連結することによって達成することができる。「受容体応答性
プロモーター」とは、標的受容体のシグナル伝達経路の産物によって調節される
プロモーターのことをいう。
【0216】 或いはプロモーターは、受容体経路によって抑制され、よって細胞に有害な産
物の発現を抑制するものであってもよい。受容体に抑制されるプロモーターを用
いて、アゴニストをスクリーンする場合には、プロモーターを有害遺伝子に連結
させる。あるいはアンタゴニストをスクリーンする場合には、有益な遺伝子に連
結させる。抑制は、受容体に誘導されるプロモーターと、標識遺伝子によってコ
ードされるmRNAの少なくとも部分に対してアンチセンスであるmRNAをコ
ードする遺伝子とを、(コーディング又はフランキング領域のいずれかで)操作
可能に連結させ、そのmRNAの翻訳をそがいすることによって行うことができ
る。抑制は、受容体に誘導されるプロモーターとDNA結合抑制体蛋白質をコー
ドする遺伝子とを操作可能に連結し、好ましいオペレーター部位をプロモーター
又は標識遺伝子の他の好適な領域内に組み込むことによっても行うことができる
【0217】 J.同定された作用物質の 薬剤調製物 主題のアッセイにおいてある試験化合物(例えば記憶固定の相乗因子又は阻害
剤)を同定した後、本アッセイの実施者は、選択した化合物の生体外及び生体内
における効力及び特異性を引き続き試験するであろう。引き続き行う生体内試験
用であれ、承認薬剤の動物への投与用であれ、主題のアッセイで同定された作用
物質を、動物(好ましくはヒト)への生体内投与用に薬学的に許容可能な賦形剤
に調合することができる。
【0218】 したがって、主題のアッセイで選択された化合物又はその薬学的に許容可能な
塩は、生物学的に許容可能な媒体、例えば水、緩衝生理食塩水、ポリオール(グ
リセロール、プロピレングリコール、液体ポリエチレングリコールなど)又はそ
れらの好適な混合物と共に、投与用に調合してもよい。選択された媒体内での有
効成分の最適な濃度は、医薬品化学の分野で知られる手順に従って経験的に決定
することができる。ここでいう「生物学的に許容可能な媒体」は、薬剤調製物の
望ましい投与経路に適した、あらゆる溶媒、分散媒などを含む。薬学的に活性な
物質にそのような媒体を使用することは、当分野で知られている。従来の媒体又
は作用物質が、化合物の活性と相容れない場合を除いては、本発明の薬剤調製物
に使用することが企図される。好適な賦形剤およびその他の蛋白質を含めた調合
は、例えば「Remington’s Pharmaceutical Sciences」(Remington’s Pharmac
eutical Sciences、Mack Publishing Company、米国ペンシルバニア州イースト
ン、1985)に記載がある。これらの賦形剤には、注射可能な「沈殿(deposi
t)調合物」が含まれる。上記に基づいたそのような薬剤調合物の例としては、
1種以上の薬学的に許容可能な賦形剤又は希釈液と共に用いられ、好適なpH及
び生理液と等浸透圧の緩衝媒体に含まれる、溶液状又は凍結乾燥粉末状の化合物
が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましい態様においては、
化合物を、局所及び/又は全身投与用の無菌調製物に配合することができる。凍
結乾燥調製物の場合には、マンニトル又はグリシン等(ただしこれらに限定され
るものではない)の支持賦形剤を用いて、望ましいpHの適当な等張緩衝溶液が
得られるように、望ましい体積の適当な緩衝溶液が提供される。同様の溶液が、
望ましい体積の等張溶液における化合物の薬剤組成物に用いられ、その例として
は、常に望ましいpH(例えば天然pH)の等張の薬学的調製物を得られるよう
な好適な濃度のリン酸塩又はクエン酸塩と緩衝生理食塩水との使用が挙げられる
が、これに限定されるものではない。
【0219】 ある態様において、本発明の薬剤は、治療用LTM遺伝子を用いた遺伝子治療
のための遺伝子運搬系である。このような遺伝子治療系を患者に導入する際には
、当分野で公知の数多くある方法のうちどのようなものを用いてもよい。例えば
、遺伝子運搬系の薬剤調製物を(例えば静脈注射によって)全身に導入すること
がでる。主に、遺伝子運搬賦形剤、受容体遺伝子の発現を制御する転写調節配列
による細胞型又は組織型発現、又はその組合せによって提供されるトランスフェ
クションの特異性から、標的細胞における蛋白質の特異的な導入が起こる。他の
態様において、組換え遺伝子の初期の運搬は非常に制限されており、動物内への
導入は局所的なものになっている。例えば、遺伝子運搬賦形剤は、カテーテルに
よって(米国特許第5,328,470号参照)又は定位注射によって(例えば
Chen他(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA91:
3054−3057)導入することができる。
【0220】 遺伝子治療構造体の薬剤調製物は、許容可能な希釈液中の遺伝子運搬系から基
本的に構成することができるか、遺伝子運搬賦形剤が埋め込まれている緩効性基
質を包含することができる。あるいは、完全な遺伝子運搬系を、組換え細胞から
影響を受けずに産生することができる場合(例えばレトロウィルスベクターの場
合)には、薬剤調製物は遺伝子運搬系を産生する1種以上の細胞を包含すること
ができる。
【0221】 K.治療方法 様々な態様において、本発明は1種以上の主題のLTM遺伝子(例えば遺伝子
治療法)、それに対するアンチセンス構造体、LTM蛋白質(例えば蛋白質治療
法)、そのペプチド模倣体、又は主題の薬剤スクリーニングアッセイによって同
定された化合物を用いた、治療及び予感染予防の方法を企図する。これらの作用
物質は、生物体における学習及び/又は記憶欠陥の発生を変える(増加させる又
は減少させる)のに有用であり、従って生物体の学習能力及び/又は記憶容量を
変えるのに有用である。他の態様においては、本発明の調製物を、通常の記憶機
能を強化するのに用いることができる。
【0222】 本発明に従って治療することのできる記憶障害は、機能的メカニズム(不安、
鬱病)、生理的老化(老化に関連した記憶障害)、薬剤、又は解剖学上の損傷(
痴呆)など、様々な原因に由来する。上記した調製物が有用であると考えられる
ものは、学習障害、記憶障害(例えば毒物、脳損傷、老化、精神分裂症、癲癇、
子供の精神遅滞及びアルツハイマー病を含む老人性痴呆などによるもの)が挙げ
られる。
【0223】 ある態様においては、本発明は健忘症の治療を企図する。健忘症は、宣言的記
憶における特異的な欠陥であると説明されている。記憶の忠実な暗号化には、情
報の登録、反復、保持が必要である。最初の2つの要素は、海馬及び中央側頭葉
構造に関与しているようである。保持又は貯蓄は、異様式(heteromodal)関連
領域に関与しているようである。健忘症は、貯蓄された記憶の消失又は新規な記
憶形成の不能として体験される。貯蓄された記憶の消失は、逆行性健忘症として
知られる。新規な記憶形成の不能は、先行性健忘症として知られる。
【0224】 記憶障害についての病訴は一般的なことである。集中力、覚醒及び注意力の乏
しさは全て、記憶処理をある程度阻害しうる。従って、主観的な記憶障害の病訴
を、真性の健忘症から区別しなければならない。これは通常、より総体的な評価
及び特異的な神経心理学試験を通じて、臨床にて行われる。視覚的及び言語的な
記憶における障害は、そのような試験を通じて区別することができる。自明のこ
とだが、健忘症においては、論理的思考など他の精神的能力が保持される。上記
した、記憶に関する神経生物学の理論によると、健忘症には病理生物学的な種類
が比較的少ないであろうことが予想される。臨床上、健忘症の問題は、健康な個
人に突然起こる疾患の結果起こることが多い。
【0225】 主題の方法によって治療されうる健忘症の例としては、継続時間の短い健忘症
、アルコールによる一時的記憶喪失、ヴェルニッケ−コルサコフ症候群(初期)
、部分複雑発作、一過性健忘、薬物療法(トリアゾラム(ハルシオン))に関連
する健忘症、脳底動脈片頭痛が挙げられる。主題の方法は、後脳震盪、単純疱疹
脳炎の結果起こるものなどの継続時間の長い健忘症の治療に用いることもできる
【0226】 (i)効果的用量 本発明の治療法に用いられる化合物の毒性及び治療効果は、細胞培養又は実験
動物において、標準的な薬学的手順によって調べることができる。例えば、LD
50(個体群の50%が致死になる用量)及びED50(個体群の50%に治療
効果のある用量)を調べることができる。毒性と治療効果との間の用量率が治療
指数であり、比率LD50/ED50として表すことができる。治療指数の大き
な化合物が好ましい。毒性の副作用を有する化合物を用いてもよいが、感染して
いない細胞に与えうる損傷を最小限にとどめて副作用を低減するために、感染組
織部位を標的とするそのような化合物の投与系の設定には注意を要する。
【0227】 細胞培養アッセイ及び動物研究から得たデータは、ヒトにおける投与量の範囲
を公式化するのに用いることができる。そのような化合物の用量は、毒性がほと
んど又は全くないED50を含む、循環濃度範囲内が好ましい。用量は、用いる
投与形状、利用する投与経路に応じて、この範囲内で変化させることができる。
本発明の方法で用いられる化合物について、治療効果のある用量は、最初のうち
は細胞培養アッセイから評価することができる。細胞培養で測定されるIC50
(すなわち、症状の最大半減の阻害を達成する試験化合物の濃度)を含む循環血
漿濃度範囲を達成するように、動物モデルにおいて用量を公式化する。この情報
を用いて、ヒトにおける用量をより正確に決定する。 例えば高速液体クロマト
グラフィーによって、血漿におけるレベルを測定してもよい。
【0228】 L.診断及び予後アッセイ 本発明は、記憶固定の低下に特徴付けられる疾患の恐れが被験者にあるかどう
か調べる方法を提供する。好ましい態様において本方法は、(i)LTM蛋白質
をコードする遺伝子の完全性に影響を与える変化、又は(ii)LTM遺伝子の
誤発現、のうち少なくとも一つに特徴付けられる遺伝子損傷の存在又は不在を被
験者からの細胞試料中に検出することを包含することを特徴とする。具体的には
そのような遺伝子損傷は、(i)LTM遺伝子からの1個以上のヌクレオチドの
欠失、(ii)LTM遺伝子への1個以上のヌクレオチドの添加、(iii)L
TM遺伝子の1個以上のヌクレオチドの置換、(iv)LTM遺伝子の総体的染
色体再配列、(v)LTM遺伝子のメッセンジャーRNA転写レベルにおける総
体的変化、(vii)LTM遺伝子の異常変形、例えばゲノムDNAのメチル化
パターンにおけるもの、(vii)LTM遺伝子のメッセンジャーRNA転写体
の非野生型スプライシングの存在、(viii)LTM蛋白質の非野生型レベル
、(ix)LTM遺伝子の対立遺伝子喪失、及び(x)LTM蛋白質の不適切な
翻訳後修飾、のうち、少なくとも一つの存在を確認することによって検出するこ
とができる。下に詳述するように本発明は、LTM遺伝子における損傷を検出す
る多くのアッセイ法を提供し、重要なことには、疾患の根底にある様々な分子レ
ベルでの原因の違いを区別することを可能にする。
【0229】 例証的な態様において、LTM遺伝子のセンス又はアンチセンス配列、或いは
その天然に存在する突然変異体、或いは主題のLTM遺伝子に天然で関連する5
’又は3’フランキング配列又はイントロン配列、或いはその天然に存在する突
然変異体とハイブリダイズすることのできるヌクレオチド配列の領域を含む、(
精製された)オリゴヌクレオチドプローブを包含する核酸組成物が提供される。
細胞の核酸はハイブリダイゼーションによってアクセス可能になり、プローブを
試料の核酸に接触させてから、プローブと試料核酸とのハイブリダイゼーション
が検出される。このような方法を、ゲノム又はmRNAのレベルにおける損傷(
欠失、置換など)の検出、並びにmRNA転写レベルの測定に用いることができ
る。
【0230】 好ましい態様において本方法は、LTM遺伝子の完全性に影響を与える変化に
特徴付けられる遺伝子損傷の存在又は不在を被験者からの細胞試料中に検出する
ことを包含することを特徴とする。具体的にはそのような遺伝子損傷は、(i)
LTM遺伝子からの1個以上のヌクレオチドの欠失、(ii)LTM遺伝子への
1個以上のヌクレオチドの添加、(iii)LTM遺伝子の1個以上のヌクレオ
チドの置換、及び(iv)LTM遺伝子のメッセンジャーRNA転写体の非野生
型スプライシングの存在、のうち、少なくとも一つの存在を確認することによっ
て検出することができる。下に詳述するように本発明は、LTM遺伝子における
損傷を検出する多くのアッセイ法を提供する。
【0231】 ある態様において、損傷の検出には、アンカーPCR又はRACE PCR等
のポリメラーゼ連鎖反応(PCR)(例えば米国特許第4,683,195号及
び第4,683,202号参照)における、或いは連結連鎖反応(LCR)[例
えばLandegran他(1988)Science241:1077−1080;及
びNakazawa他(1994)PNAS91:360−364参照]における、プロ
ーブ/プライマーの利用が含まれる。後者はLTM遺伝子における点突然変異の
検出に特に有用である[Abravaya他(1995)Nuc Acid Res23:675−6
82参照]。単に例証的な態様において、方法は以下の段階を含む。(i)患者
から細胞試料を採取し、(ii)細胞試料から核酸(例えばゲノム、mRNA又
は両方)を単離し、(iii)LTM遺伝子(存在する場合には)のハイブリダ
イゼーション及び増幅が起こる条件下で、核酸試料と、LTM遺伝子と特異的に
ハイブリダイズする1種以上のプライマーとを接触させ、そして(iv)増幅産
物の存在又は不在を検出するか、又は増幅産物の寸法を調べて対照試料の寸法と
比較する。PCR及び/又はLCRは、ここに記載した突然変異体の検出に用い
られるあらゆる方法と組み合わせて、予備的な増幅段階として用いるのが望まし
いと思われる。
【0232】 本発明の他の態様において、LTM遺伝子のセンス又はアンチセンス配列、或
いはその天然に存在する突然変異体、或いは主題のLTM遺伝子に天然で関連す
る5’又は3’フランキング配列又はイントロン配列、或いはその天然に存在す
る突然変異体とハイブリダイズすることのできるヌクレオチド配列の領域を含む
、(精製された)オリゴヌクレオチドプローブを包含する核酸組成物が提供され
る。細胞の核酸はハイブリダイゼーションによってアクセス可能になり、プロー
ブを試料の核酸に接触させてから、プローブと試料核酸とのハイブリダイゼーシ
ョンが検出される。このような方法を、ゲノム又はmRNAのレベルにおける損
傷(欠失、置換など)の検出、並びにmRNA転写レベルの測定に用いることが
できる。このようなオリゴヌクレオチドプローブは、例えば記憶固定の低下にお
いて現れうる、突然変異についての予測及び治療評価の両方に用いることができ
る。
【0233】 ここに記載した方法は、例えばここに記載した少なくとも1種のプローブ核酸
又は抗体試薬を包含するパッケージ診断キットを利用することによって実施して
もよい。この方法は、例えば兆候を見せている患者を診断するあるいは記憶又は
LTM遺伝子に関する疾患の家族歴を診断する臨床の場において、便利に用いる
ことができる。
【0234】 上で述べた、野生型又は突然変異LTM蛋白質に対する抗体は、疾病の診断及
び予後に用いることもできる。そのような診断法は、LTM蛋白質発現のレベル
における異常、或いは構造及び/又は組織、細胞、細胞以下のLTM蛋白質の位
置における異常を検出するのに用いることができる。構造における差異の例とし
ては、突然変異LTM蛋白質と正常LTM蛋白質の寸法、電気陰性度、抗原性に
おける差異が挙げられる。分析対象の組織又は細胞種からの蛋白質は、当業者に
公知の方法(例えばウエスタンブロット分析。ただしこれに限定されるものでは
ない)を用いて容易に検出又は単離することができる。ウエスタンブロット分析
を実施する方法についての詳しい説明は、例えばSambrook他、1989、上述、
第18章が参照できる。ここで用いた蛋白質の検出及び分離方法は、例えばHarl
ow, E.及びLane, D.による文献に記載されたものであってもよい(1988、"A
ntibodies: A Laboratory Manual"、Cold Spring Harbor Laboratory Press、C
old Spring Harbor、ニューヨーク。参照して説明に代える)。
【0235】 これは例えば、蛍光標識抗体(下記参照)を用いる免疫蛍光法と光学顕微鏡、
フローサイトメトリー又は蛍光測定検出法とを組み合わせたものによって行うこ
とができる。本発明に有用な抗体(又はその断片)を、LTM蛋白質の原位置検
出を目的として、免疫蛍光法又は免疫電子顕微鏡法で用いられるように、組織学
的に更に用いることもできる。原位置検出は、患者から組織学的な試料を取り出
し、本発明の標識化抗体を適用することによって行うことができる。標識化抗体
(又は断片)を、生物学的試料に被覆するように適用するのが好ましい。このよ
うな手順を用いることによって、LTM蛋白質の存在を調べられるだけでなく、
研究する組織内での分布を調べることもできる。原位置検出を行うために、本発
明を用いて、様々な組織学的方法(染色工程など)の改変が可能であるというこ
とは当業者には自明のことであろう。
【0236】 しばしば、抗原又は抗体の結合が可能な支持体として、固相支持体又は担体が
用いられる。公知の支持体又は担体の例としては、ガラス、ポリスチレン、ポリ
プロピレン、ポリエチレン、デキストラン、ナイロン、アミラーゼ、天然及び改
変セルロース、ポリアクリルアミド、斑糲岩、及び磁鉄鉱が挙げられる。担体の
特性としては、本発明の目的を達するために、ある程度可溶性であるか不溶性で
あるかのいずれである。支持体材料は、結合分子が抗原又は抗体に結合できる限
りは、実質上どのような構造配置をとってもよい。従って支持配置は球状(ビー
ズなど)、円柱状(試験管の内部表面、ロッドの外部表面など)であってもよい
。あるいは、表面はシートや試験片などのように平らであってもよい。好ましい
支持体はポリスチレンビーズである。抗体又は抗原結合用の好適な担体が他に多
く存在すること、通常の実験手順でそのような担体を確認できることは当業者の
知るところである。
【0237】 抗LTM蛋白質特異的抗体を標識化する手段の一つには、酵素への結合を介し
て酵素イムノアッセイ(EIA)に用いるものがある[Voller、"The Enz
yme Linked Immunosorbent Assay(ELISA)"、Diagnostic Horizons2:1−7
、1978、Microbiological Associates Quarterly Publication、メリーラン
ド州ウォーカーズビル;Voller他、J.Clin.Pathol.31:507−520(19
78);Butler、Meth.Enzymol.73:482−523(1981);Maggio(
編)Enzyme Immunoassay、CRC Press、フロリダ州ボカラトン、1980;Ishik
awa他(編)Enzyme Immunoassay、Kgaku Shoin、東京、1981]。抗体に結合
する酵素は、例えば分光光度、蛍光光度、又は視覚手段によって検出することの
できる化学基が産生されるように、好適な基質、好ましくは色素原基質に反応す
る。抗体を検出可能に標識化するのに用いることのできる酵素の例としては、リ
ンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、Δ−S−ステロイドイソメ
ラーゼ、酵母菌アルコールデヒドロゲナーゼ、α−グリセロリン酸塩、デヒドロ
ゲナーゼ、トリホスフェートイソメラーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、
アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガ
ラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−6
−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼ及びアセチルコリンエステラーゼ
が挙げられるが、これらに限定されるものではない。検出は、酵素に対する色素
原基質を用いた比色法によって行うことができる。検出は、基質の酵素反応の程
度を、同様に調製した基準と視覚的に比較して行ってもよい。
【0238】 検出は、他の様々なイムノアッセイを用いて行ってもよい。例えば、抗体又は
抗体断片を放射性元素標識化し、ラジオイムノアッセイ(RIA)によって指紋
遺伝子野生型又は突然変異体を検出することができる(例えばWeintraub,B.、Pr
inciples of Radio Immunoassays、Seventh Training Course on Radioligand A
ssay Techniques、The Endocrine Society、1986年3月参照。参照して説明
に代える)。放射性同位元素は、γ線計数器又はシンチレーション計数器を用い
て、又はオートラジオグラフィーによって、検出することができる。
【0239】 抗体を、蛍光化合物で標識化することもできる。蛍光標識化された抗体は、適
当な波長の光にさらしたとき、その存在を蛍光によって検出することができる。
最も一般的に用いられている蛍光標識化合物の例としては、フルオレセインイソ
チオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコ
シアニン、o−フタルアルデヒド(phthaldehyde)及びフルオレサミンが挙げら
れる。
【0240】 抗体は、152Euや他のランタン系列元素などの蛍光放射金属で検出可能に標
識付けすることができる。これらの金属は、ジエチレントリアミン五酢酸(DT
PA)又はエチレンジアミン四酢酸(EDTA)等の金属キレート群を用いて抗
体に付加することができる。
【0241】 抗体は、化学ルミネセンス化合物に結合させて、検出可能に標識化することが
できる。化学ルミネセンス標識化抗体の存在は、化学反応中に起こるルミネセン
スを検出することによって調べる。特に有用な化学ルミネセンス標識用化合物の
例としては、ルミノール、イソルミノール、 定理(theromatic)アクリジニウ
ムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩及び蓚酸エステルが挙げられる。
同様に、生物発光化合物を用いて、本発明の抗体を標識化してもよい。生物発光
は、生物系に見られる化学ルミネセンスの一種であり、そこでは触媒蛋白質が化
学ルミネセンス反応の効率を増加させる。生物発光蛋白質の存在は、ルミネセン
スの存在を検出することによって調べることができる。標識化に用いられる重要
な生物発光化合物としては、ルシフェリン、ルシフェラーゼ及びエクオリンが挙
げられる。
【0242】 その上更に、LTM遺伝子又は遺伝子産物において変化を検出する上記した方
法のいずれかを用いて、処置又は治療の経過をモニターすることができるという
ことが理解されよう。
【0243】 M.トランスジェニック動物 これらの系は、様々な用途に用いることができる。例えば、細胞及び動物に基
づくモデル系を用いて、LTM遺伝子及び蛋白質の特徴を更に調べることができ
る。加えて、そのようなアッセイは、疾患の症状を改善することのできる化合物
を同定するスクリーニング法の一部として利用することができる。従って、動物
及び細胞に基づくモデルを用いて、標的とする疾患に効力のある薬剤、医薬品、
治療及び介入を同定することができる。
【0244】 本発明の一つの特徴は、本発明の導入遺伝子を含み、好ましくは(任意である
が)その動物の1種以上の細胞内で外来LTM蛋白質を発現する、(動物の)細
胞から構成されるトランスジェニック動物に関する。LTM導入遺伝子は、野生
型形状の蛋白質をコードすることができる、又はその同族体(アゴニスト、アン
タゴニスト、アンチセンス構造体など)をコードすることができる。好ましい態
様において、導入遺伝子の発現は特定の細胞サブセット、組織、又は(例えば望
ましいパターンに発現を制御するcis作用性配列を利用する)発生段階に限定
されている。本発明において、そのようなLTM蛋白質のモザイク発現は、多く
の整列分析に不可欠となり得て、(例えば、通常は正常である胚中の小さな組織
パッチにおける発達を総体的に変えうる、LTM発現の不在が与える)効果を評
価する手段を更に提供することができる。この目的のために、組織特異的調節配
列及び条件調節配列を用いて、導入遺伝子の発現をある空間パターンに制御する
ことができる。その上更に、発現の一時的パターンを、例えば、条件組換え系又
は原核細胞転写調節配列によって提供することができる。
【0245】 導入遺伝子の発現を可能にする遺伝学的方法は、当業者に知られる、生体内で
の部位特異的遺伝子操作によって調節することができる。例えば、標的配列の遺
伝的組換えに触媒作用を及ぼすレコンビナーゼの調節された発現を可能にする遺
伝子系を用いることができる。ここでいう「標的配列」とは、レコンビナーゼに
よって遺伝子組換えされるヌクレオチド配列のことをいう。標的配列は、レコン
ビナーゼ認識配列によって両側を挟まれており、一般にレコンビナーゼ活性を発
現する細胞内で切除されるか、反転される。レコンビナーゼに触媒される組換え
現象は、標的配列が組み替えられた結果、主題LTM蛋白質の一つの発現が活性
化又は抑制されるように、設計することができる。例えば、(アンタゴニスト性
の同族体又はアンチセンス転写物をコードする)組換えLTM遺伝子の発現に干
渉する標的配列の切除は、その遺伝子の発現を活性化するように設計することが
できる。蛋白質発現の干渉は、LTM遺伝子をプロモーター要素又は内部停止コ
ドンから空間的に分離することなど、様々なメカニズムの結果起こる。その上更
に、遺伝子のコード配列が、レコンビナーゼ認識配列に両側を挟まれ、最初にプ
ロモーター要素に関して3’から5’の方向で細胞内にトランスフェクトされる
ように、導入遺伝子を作製することができる。この例において、標的配列が反転
すると、プロモーターにより誘導される転写活性化を可能にするプロモーター要
素と同じ方向にコード配列の5’末端を置くことによって、主題の遺伝子の向き
が変えられる。
【0246】 本発明のトランスジェニック動物は全て、その複数の細胞内に、本発明の導入
遺伝子を含んでいる。この導入遺伝子は、「宿主細胞」の表現型を変える。ここ
に記載した1種以上の導入遺伝子構造体を利用して本発明のトランスジェニック
生物体を作成することが可能なので、トランスジェニック生物体の作製について
は、一般に外来遺伝物質について参照することによって説明される。当業者は、
この一般的説明を適用して、以下に記す方法及び材料を利用して特異的な導入遺
伝子配列を生物体内に組み込むことができる。
【0247】 例証的な態様において、バクテリオファージP1のcre/loxPレコンビ
ナーゼ系[Lakso他(1992)Proc.Natl.Acad.Sci.US
A89:6232−6236;Orban他(1992)Proc.Natl.Ac
ad.Sci.USA89:6861−6865]又はSaccharomyces cerevisi
ae のFLPレコンビナーゼ系[O’Gorman他(1991)Science251
:1351−1355;PCT公開番号WO92/15694]のいずれかを用
いて、生体内における部位特異的遺伝的組換え系を作製することができる。cr
eレコンビナーゼは、複数のloxP配列間に位置する介在標的配列の、部位特
異的組換えを引き起こす。loxP配列は、Creレコンビナーゼの結合相手と
なる34塩基対ヌクレオチド繰り返し配列であり、Creレコンビナーゼ媒介遺
伝的組換えに必要である。loxP配列の方向は、Creレコンビナーゼが存在
するときに、介在標的配列が切除されるかあるいは反転されるかを決定する[Ab
remski他(1984)J.Biol.Chem.259:1509−1514]。loxP配
列が直接反復として方向付けられているときは標的配列の切除が引き起こされ、
loxP配列が反転繰り返しとして方向付けられているときは標的配列の反転が
引き起こされる。
【0248】 従って、標的配列の遺伝的組換えは、Creレコンビナーゼの発現に依存する
。レコンビナーゼの発現は、外因的に添加された作用物質によって(例えば組織
特異的、発達段階特異的な、誘発性又は阻害性の)調節制御の影響を受ける、プ
ロモーター要素によって調節することができる。この調節制御の結果、レコンビ
ナーゼ発現がプロモーター要素によって媒介される細胞においてのみ、標的配列
の遺伝的組換えが起こる。従って、組換えLTM蛋白質の活性化発現はレコンビ
ナーゼ発現の制御を通じて調節することができる。
【0249】 cre/loxPレコンビナーゼ系を使用して組換えLTM蛋白質の発現を調
節するには、Creレコンビナーゼ及び主題の蛋白質の両方をコードする導入遺
伝子を含むトランスジェニック動物を作製する必要がある。Creレコンビナー
ゼと組換えLTM遺伝子の両方を含む動物は、「二重」トランスジェニック動物
の作製を通じて提供することができる。そのような動物を提供するのに便利な方
法は、それぞれ導入遺伝子、例えばLTM遺伝子とレコンビナーゼ遺伝子を含む
2種のトランスジェニック動物を交配することである。
【0250】 レコンビナーゼ−媒介発現フォーマット中でLTM導入遺伝子を含むトランス
ジェニック動物をまず作製することの利点は、主題の蛋白質が、アゴニスト性で
あれアンタゴニスト性であれ、トランスジェニック動物の発現に有害でありうる
という見込みに基づくものである。そのような例において、主題の導入遺伝子が
全ての組織において休止している創始者個体群を、増殖させて維持することがで
きる。この創始者個体群中の各個体は、例えば1種以上の組織及び/又は望まし
い一時的パターンで、レコンビナーゼを発現する動物と交雑させることができる
。従って、例えばアンタゴニスト性のLTM導入遺伝子が休止している、創始者
個体群を作製することによって、その創始者からの後代を研究することが可能に
なる。そこでは特定の組織における又はある発達段階におけるLTM媒介誘導が
阻害されると、例えば致死表現型が得られる。
【0251】 LTM 導入遺伝子の発現を促進するためには複数の原核細胞蛋白質の同時発
現を必要とする原核細胞プロモーター配列を用いて、類似した条件導入遺伝子を
提供することができる。プロモーターの例及び対応するトランス活性化原核細胞
蛋白質の例は、米国特許第4,833,080号に記載がある。
【0252】 その上更に、条件導入遺伝子の発現を、遺伝子治療に類した方法によって誘導
することができる。ここでは、トランス活性化蛋白質(レコンビナーゼ又は原核
細胞蛋白質)をコードする遺伝子が組織に運搬されて、細胞型特異的な方法で発
現される。この方法によって、トランス活性化体の導入によって誘起されるまで
、成熟してもLTM導入遺伝子の休止状態が保たれる。
【0253】 例証的な態様において、本発明の「トランスジェニック非ヒト動物」が、非ヒ
ト動物の生殖細胞系に導入遺伝子を導入することによって作製される。様々な発
達段階にある胚の標的細胞を用いて、導入遺伝子を導入することができる。胚標
的細胞の発達段階に応じて、様々な方法が用いられる。本発明の実施に用いられ
る動物の特異的な系は、良好な健康状態、良好な胚発生量、胚における良好な前
核の可視性、及び良好な繁殖適合性について、選択される。加えて、ハプロタイ
プが重要な因子である。例えば、トランスジェニックマウスが作製される場合、
C57BL/6又はFVB系がしばしば用いられる(Jackson Labo
ratory、メイン州バーハーバー)。好ましい系統は、H−2b、H−2d
又はH−2qハプロタイプを有するもの、例えばC57BL/6又はDBA/1
である。本発明の実施に用いられる系は、それ自体がトランスジェニック及び/
又はノックアウトであってもよい(すなわち、1種以上の遺伝子が部分的に又は
完全に抑制されている動物から得たものであってもよい)。
【0254】 一つの態様において、導入遺伝子構造体が、単段階(single stage)胚内に導
入される。接合体はミクロ注入の最もよい標的である。マウスにおいて、雄性前
核は直径約20マイクロメーターの大きさに届き、1−2plのDNA溶液の再
現性のある注入を可能にする。遺伝子導入の標的として接合体を使用することに
は、注入されたDNAがほとんどの場合において第一の卵割前に宿主遺伝子に組
み込まれるという大きな利点がある[Brinster他(1985)Proc
.Natl.Acad.Sci.USA82:4438−4442]。その結果
、トランスジェニック動物の全ての細胞が、組み込まれた導入遺伝子を有するこ
とになる。これは、生殖細胞の50%が導入遺伝子を取り込むので、創始者から
後代への導入遺伝子の効果的な伝達にも用いることができる。
【0255】 通常、受精胚は、前核が現れるまで好適な媒体中に保温される。前核が現れる
時期に、下に記すように、導入遺伝子を包含するヌクレオチド配列を雌性又は雄
性前核に導入する。マウスなどの幾つかの種においては、雄性前核が好ましい。
卵核又は接合体雌性前核によって処理される前に、接合体の雄性DNA相補体(
complement)側に外来遺伝物質を添加するのが最も好ましい。おそらく雄性DN
Aのプロタミンをヒストンに置換することによって、雄性DNA相補体に影響を
与える分子を卵核又は雌性前核が放出し、それによって雌性及び雄性DNA相補
体の組合いが促進され、二倍体接合体が形成されると考えられている。
【0256】 従って、雌性前核によって影響を与える前に、雄性DNA又は他のDNA相補
体に外来遺伝物質を添加するのが好ましい。例えば、雄性前核が形成されてでき
るだけすぐ(雄性及び雌性前核が十分に分離されており両方が細胞膜近くに位置
する時)に、外来遺伝物質を初期雄性前核に添加する。或いは、精子の逆濃縮(
decondensation)を誘発した後に精子の核に外来遺伝物質を添加してもよい。次
いで外来遺伝物質を含む精子を卵子に添加する。或いは導入遺伝子構造体を卵子
に添加してすぐ後に、逆濃縮した精子を添加してもよい。
【0257】 導入遺伝子ヌクレオチド配列の胚内への導入は、当分野で公知の方法であれば
どのようなもの(例えばミクロ注入電気穿孔、リポフェクションなど)を用いて
実施してもよい。導入遺伝子ヌクレオチド配列の胚内への導入に続いて、胚は様
々な時間、生体外で保温するか、代理宿主に再移植するか、あるいはその両方を
おこなってもよい。成熟に至るまでの生体外保温は、本発明の範囲に含まれる。
一般的な方法としては、種に応じて1−7日間、生体外で胚を保温し、代理宿主
に再移植する。
【0258】 本発明の目的を達成するため、接合体は実質的に、完全な生物対に発達するこ
とのできる二倍体細胞の構成体である。一般に接合体は、1個の配偶子又は複数
の配偶子からの2個の半数体核が、天然又は人工で融合することによって形成さ
れた核を含む卵を包含する。従って配偶子核は、天然の適合性を有するもの、す
なわち機能的生物体への分化及び発達を経ることのできる、生存能力のある接合
体を生むものでなければならない。一般に、正倍数性接合体が好ましい。異数性
接合体が得られた場合、染色体の数は、配偶子の由来する生物体の正倍数性の数
から1以上異なってはならない。
【0259】 生物学的要因に加えて、物理的な要因も、接合体核又は接合体核の一部分を形
成する遺伝物質に添加することのできる外来遺伝物質の量(例えば体積)を決定
する。遺伝物質が除去されない場合には、添加できる外来遺伝物質の量は、物理
的に損傷を与えることなく吸収される量によって限定される。一般に、挿入され
る外来遺伝物質の体積は、約10ピコリットルを越えない。添加による物理的効
果は、接合体の生存能力を物理的に破壊しないように、あまり大きくしてはなら
ない。外来遺伝物質を含んでいる得られる接合体の遺伝物質は、機能的生物体へ
の接合体の分化及び発達の誘導及び維持を、生物学的に行えるものでなければな
らない。従って、DNA配列の数及び種類の生物学的限度は、特定の接合体及び
外来遺伝物質の機能に依存して変化するが、当業者には自明のことであろう。
【0260】 接合体に添加される導入遺伝子構造体のコピー数は、添加された外来遺伝物質
の全量に依存し、形質転換を起こさせることのできる量である。論理的には1個
のコピーのみが必要である。しかし一般に、1個のコピーを確実に機能させるた
めに、例えば1,000−20,000個の導入遺伝子構造体コピーなど、多数
のコピーが用いられる。本発明に関しては、外来DNA配列の表現型の発現を向
上させるために、挿入された外来DNA配列それぞれの機能的コピーを1個以上
用いることが有利であろう。
【0261】 外来遺伝物質の核遺伝物質への添加を可能にする方法は、細胞、核膜又は他に
存在する細胞又は遺伝構造に害を与えない限りはどのようなものでも用いること
ができる。外来遺伝物質は、好ましくはミクロ注入によって核遺伝物質に挿入さ
れる。細胞及びセル構造のミクロ注入は、当分野で公知のものである。
【0262】 再移植は、標準的方法を用いて行われる。通常、代理宿主に麻酔をかけ、胚を
卵管挿入する。特定の宿主内に移植する胚の数は、種によって異なるが、通常は
その種が天然で産する後代の数と比較できるようにする。
【0263】 代理宿主のトランスジェニック後代は、好適な手段によって、導入遺伝子の存
在及び/又は発現についてスクリーンしてもよい。多くの場合、スクリーニング
は導入遺伝子の少なくとも部分に相補的なプローブを用いるサザンブロット分析
法又はノーザン分析法によって行われている。導入遺伝子によってコードされる
蛋白質に対する抗体を用いるウェスタンブロット分析法を、導入遺伝子産物の存
在をスクリーンするための別の又は追加の方法として用いてもよい。通常、DN
Aは尾部組織から調製され、サザン分析又はPCRによって導入遺伝子について
分析される。あるいは導入遺伝子を最高レベルで発現すると思われる組織又は細
胞は、サザン分析又はPCRを用いて、導入遺伝子の存在及び発現について調べ
られるが、この分析にはどのような組織又は細胞型を用いてもよい。
【0264】 導入遺伝子の存在を評価する別の又は追加の方法の例としては、好適な生物化
学的アッセイ(酵素及び/又は免疫学的アッセイなど)、特定の標識又は酵素活
性についての組織学的染色、フローサイトメトリー分析などが挙げられるが、こ
れらに限定されるものではない。血液の分析が、血中の導入遺伝子産物の存在を
検出するのに有用であり、導入遺伝子が様々なタイプの血液細胞及び他の血液構
成成分のレベルに与える影響を評価するのにも有用である。
【0265】 トランスジェニック動物の後代は、トランスジェニック動物を好適な相手と交
雑することによって、あるいはトランスジェニック動物から得た卵及び/又は精
子の体外受精によって得ることができる。好適な相手との交雑が行われる場合に
は、相手はトランスジェニック及び/又はノックアウトであってもよいし、そう
でなくてもよい。相手がトランスジェニックの場合には、同じ又は異なる導入遺
伝子を含んでいてもよいし、或いは両方を含んでいてもよい。あるいは、交雑相
手は親の系統であってもよい。体外受精が用いられる場合には、受精胚を代理宿
主内に移植してもよいし、生体外で保温してもよいし、あるいは両方を行っても
よい。どの手段を用いても、上記した方法又は適当な他の方法によって、導入遺
伝子の存在について後代を評価することができる。
【0266】 本発明に従って作製されたトランスジェニック動物は、外来遺伝物質を含みう
る。上で詳述したように、ある態様において外来遺伝物質は、LTM蛋白質(ア
ゴニスト性又はアンタゴニスト性のいずれか)及びアンチセンス転写体、又はL
TM突然変異体の産生につながるDNA配列でありうる。さらにそのような態様
において、その配列は、特異的な型の細胞における導入遺伝子産物の発現を好ま
しくは可能にする転写調節要素(例えばプロモーター)に連結しうる。
【0267】 レトロウイルス感染を用いて、導入遺伝子を非ヒト動物に導入することもでき
る。発達中の非ヒト胚を生体外で胚盤胞段階まで培養することができる。この間
に、割球をレトロウイルス感染の標的とすることができる[Jaenich,R.(197
6)Proc.Natl.Acad.Sci.USA73:1260−1264
]。酵素処理で透明帯を除去することによって割球を効果的に感染することがで
きる(Manipulating the Mouse Embryo、Hogan編、Cold Spring Harbor Laborat
ory Press、Cold Spring Harbor、1986)。一般に、導入遺伝子の導入に用
いられるウイルスベクター系は、導入遺伝子を有する複製欠陥レトロウイルスで
ある[Jahner他(1985)Proc.Natl.Acad.Sci.82:6
927−6931;Van der Putten他(1985)Proc.Natl.Aca
d.Sci.USA82:6148−6152]。トランスフェクションは、ウ
イルス産生細胞の単層上に割球を培養することによって容易に且つ効果的に得る
ことができる[Van der Putten、上述;Stewart他(1987)EMBO J.6:38
3−388]。或いは、より遅い段階で感染を行うこともできる。ウイルス又は
ウイルス産生細胞を割腔に注入することができる[Jahner他(1982)Nat
ure298:623−628]。トランスジェニック非ヒト動物を形成した細
胞のサブセットにおいてのみ、組み込みが起こるので、創始者のほとんどが導入
遺伝子についてモザイクである。更に創始者は、後代において分離する、ゲノム
の様々な位置における導入遺伝子の、様々なレトロウイルス性挿入を含みうる。
加えて、妊娠中期胚の子宮内レトロウイルス感染によって、導入遺伝子を生殖細
胞系に導入することも可能である(Jahner他、上述)。
【0268】 導入遺伝子導入に用いられる三種類目の標的細胞は、胚性幹細胞(ES)であ
る。ES細胞は、生体外で培養し、胚に融合した着床前胚から得られる[Evans
他(1981)Nature292:154−156;Bradley他(1984)
Nature309:255−258;Gossler他(1986)Proc.Na
tl.Acad.Sci.USA83:9065−9069;及びRobertson他
(1986)Nature322:445−448]。導入遺伝子は、DNAト
ランスフェクション又はレトロウイルスイルス媒介形質導入によって、ES細胞
内に効率よく導入することができる。そのように形質転換したES細胞はその後
、非ヒト動物から得た胚細胞と連結することができる。ES細胞はその後、胚の
コロニーを作り、得られるキメラ動物の生殖細胞系に関与する[Jaenisch, R.(
1988)Science240:1468−1474参照]。
【0269】 ある態様において、動物のゲノムの改変を目的とする相同組換えを用いる方法
である、遺伝子ターゲティング法を用いて、培養胚性幹細胞に変化を導入するこ
とができる。ES細胞中の目的のLTM遺伝子を標的にすることによって、これ
らの変化を動物の生殖細胞系に導入し、キメラを作製することができる。遺伝子
ターゲティング法は、標的LTM座に相同的な部分を含み、LTMゲノム配列へ
の意図した配列改変(例えば挿入、欠失、点突然変異)を更に含むDNA標的構
造体を、組織培養細胞に導入することによって行われる。処理された細胞は、正
確な標的化についてスクリーンされ、適切に標的となったものについて同定及び
分離が行われる。
【0270】 胚性幹細胞における遺伝子ターゲティングは、1種以上のLTMゲノム配列と
相同組換えを経るように計画された標的導入遺伝子構造体の使用を通じてLTM
遺伝子機能を阻害する手段として、本発明によって企図される体系である。標的
構造体は、LTM遺伝子の要素と組み替えが起こる際に、正の選択標識が標的遺
伝子のコード配列内に挿入される(又は置換される)ように整列させることがで
きる。挿入された配列はLTM遺伝子を機能的に阻害する一方、正の選択の特性
を示す。LTM標的構造体の例は、下に詳述する。
【0271】 一般に、ノックアウト動物を作製するのに用いられる胚性幹細胞(ES細胞)
は、作製するノックアウト動物と同じ種のものである。従って、例えばマウス胚
性幹細胞がノックアウトマウスの作製に用いられる。
【0272】 胚性幹細胞は、当業者に公知の方法で作成及び維持される[例えばDoetschman
他(1985)J.Embryol.Exp.Morphol.87:27−45参照]。ES細胞の全
ての系を用いることができるが、選ばれる系は通常、ノックアウト構造の生殖細
胞系が伝達されるように発達中の胚の生殖細胞系に統合されてその一部となる、
細胞の能力について選択されたものである。従って、この能力を有すると思われ
るES細胞系は全て使用に適している。ES細胞の産生に一般的に用いられてい
るマウス系の一つは、129J系である。他のES細胞系は、ハツカネズミ細胞
系D3である(American Type Culture Collection、カタログ番号CKL193
4)。他に好ましいES細胞系はWW6細胞系である(Ioffe他(1995)P
roc.Natl.Acad.Sci.USA92:7357−7361)。当
業者に公知の方法で、ノックアウト構造体挿入用に細胞を培養し、調製する[Ro
bertson in: Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells:A Practical Appr
oach、E. J. Robertson編、IRL Press、ワシントンD.C.、1987;Bradle
y他(1986)Current Topics in Devel.Biol.20:357−371;及びby
Hogan他、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual、Cold Sprin
g Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、1986参
照]。
【0273】 EC細胞へのノックアウト構造体の挿入は、当分野で公知の様々な方法によっ
て実施することができる。その例としては、電気穿孔法、ミクロ注入、リン酸カ
ルシウム処理などが挙げられる。好ましい挿入方法は電気穿孔法である。
【0274】 細胞に挿入される各ノックアウト構造体は、第一に、線形でなければならない
。従って、ノックアウト構造体がベクターに挿入された場合(下に詳述)、ベク
ター配列内のみを切断し、ノックアウト構造体配列を切断しないように選択され
た好適な制限エンドヌクレアーゼで切断することによってDNAを線形化する。
【0275】 挿入を行うために、当業者に知られるように、選択された挿入方法に好適な条
件下でノックアウト構造体をES細胞に添加する。1種以上の構造体がES細胞
内に導入される場合には、各ノックアウト構造体を同時に導入することができる
【0276】 ES細胞が電気穿孔される場合、電気穿孔器を用いてそのマニュアルに従って
ES細胞及びノックアウト構造体DNAを電気パルスにさらす。電気穿孔の後、
好適な保温条件下でES細胞を回復させる。次いで、ノックアウト構造体の存在
について、細胞をスクリーンする。
【0277】 スクリーニングは、様々な方法を用いて行うことができる。例えば標識遺伝子
が抗生物質耐性遺伝子である場合には、ES細胞を致死濃度の抗生物質の存在下
に培養してもよい。生存したES細胞は、ノックアウト構造体に組み込まれたと
考えられる。標識遺伝子が抗生物質耐性遺伝子でない場合には、ES細胞ゲノム
DNAのサザンブロットを、標識配列にのみハイブリダイズするように設計され
たDNA配列を用いて調べることができる。或いは、PCRを用いることもでき
る。最後に、標識遺伝子が検出可能な活性を有する酵素(例えばb−ガラクトシ
ダーゼ)をコードする遺伝子である場合には、好適な条件下で細胞に酵素基質を
添加して、酵素活性を分析することができる。他に有用な標識及び細胞内でその
存在を検出する手段は、当業者には自明であろう。これらの標識は全て、本発明
の技術範囲に含まれる。
【0278】 ノックアウト構造体は、ES細胞ゲノムの数カ所に統合してもよいし、ランダ
ム挿入現象によって各ES細胞ゲノムの異なる位置に統合してもよい。望ましい
挿入位置は、ノックアウトされるDNA配列(例えばLTMコード配列、転写調
節配列など)に相補的な位置である。通常、ノックアウト構造体を取り込んだE
S細胞の約1−5%未満が、望ましい位置で実際にノックアウト構造体を統合し
ている。ノックアウト構造体を正しく統合したES細胞を同定するために、標準
的方法を用いて全DNAをES細胞から抽出することができる。次いで、特定の
制限酵素で切断したゲノムDNAに特異的なパターンでハイブリダイズするよう
に設計された1種のプローブ又は複数のプローブを用いて、サザンブロット上で
DNAを調べる。別の方法として、又は追加の方法として、特定の寸法及び配列
のDNA断片を増幅するように特異的に設計されたプローブを用いて(すなわち ノックアウト構造体を正しい位置にふくむ細胞のみが正しい寸法のDNA断片
を産生する)、PCRによってゲノムDNAを増幅させることができる。
【0279】 ノックアウト構造体を正しい位置にふくむ好適なES細胞を同定した後、細胞
を胚内に挿入する。挿入は当業者に公知の様々な方法で行うことができるが、ミ
クロ注入が好ましい。ミクロ注入を行うには、約10−30個の細胞をミクロピ
ペット内に集め、外来のノックアウト構造体を含むES細胞の、発達中の胚への
統合を可能にする、適当な発達段階において、胚内に注入する。例えば、実施例
に述べるように、形質転換したES細胞を胚細胞中にミクロ注入することができ
る。
【0280】 ES細胞挿入に用いられる好適な胚の発達段階は、種によって異なるが、マウ
スの場合約3.5日である。胚は、妊娠した雌の子宮を潅流することによって得
られる。これを実施する好適な方法は、当業者に公知のものであり、例えばBr
adley他(上述)に詳述されている。
【0281】 正しい発達段階にある胚が全て好適に用いることができるが、好ましくは胚は
雄性である。マウスにおいて、好ましい胚は、ES細胞遺伝子にコードされる毛
色とは異なる毛色をコードする遺伝子を有する胚である。モザイク毛色(この存
在はES細胞が発達中の胚に組み込まれたことを意味する)を調べることによっ
て、ノックアウト構造体の存在について後代を容易にスクリーンすることができ
る。従って例えばES細胞系が白色の毛の遺伝子を有する場合には、黒又は茶色
の毛の遺伝子を有する胚を選択する。
【0282】 ES細胞が胚内に導入された後、偽妊娠の育ての母親に移植して妊娠させる。
どのような育ての母親を用いてもよいが、一般には良好に出産し繁殖する能力と
、子供を世話する能力を有するものが選択される。そのような育ての母親は一般
に、同じ種の精管切除した雄との交雑によって調製される。偽妊娠の育ての母親
への移植段階が、移植の成否に重要であり、種によっても異なるが。マウスにつ
いては、この段階は偽妊娠後約2−3日である。
【0283】 育ての母親から生まれた後代は、毛色選択の計画がとられた場合(上記及び実
施例参照)には、まずモザイク毛色についてスクリーンされる。加えて又は別の
方法として、上記したようにサザンブロット法及び/又はPCRを用いて、後代
の尾部組織から得たDNAを、ノックアウト構造体の存在についてスクリーンし
てもよい。見かけがモザイクである後代が、生殖細胞系にノックアウト構造体を
有すると考えられる場合には、互いに交雑して同型接合ノックアウト動物を作製
する。この交雑の産物であるマウスと、異種接合体及び野生型マウスとして知ら
れるマウスから得た等量のゲノムDNAを用いてサザンブロットを行うことによ
って、同型接合を同定することができる。
【0284】 ノックアウト後代を同定及び特徴付けするのに他の方法を用いることもできる
。例えばノーザンブロット法を用いることによって、ノックアウト遺伝子及び/
又は標識遺伝子をコードする転写体の存在又は不在について、mRNAを調べる
ことができる。加えて、特定のLTM蛋白質に対する抗体又は標識遺伝子産物に
対する抗体を用いるウェスタンブロットを用いて、後代の様々な組織においてノ
ックアウトされたLTM遺伝子の発現レベルを調べることができる。最後に、好
適な抗体を用いて、後代からの様々な細胞の原位置分析(細胞を固定し抗体で標
識化するなど)及び/又はFACS(蛍光活性化細胞分離)分析を行い、ノック
アウト構造体遺伝子産物の存在又は不在について調べることができる。
【0285】 ノックアウト又は破壊トランスジェニック動物を作製する方法には、他にも公
知のものがある[例えばManipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor
Laboratory Press、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、1986)参照]。L
TM遺伝子の不活化の組織特異的及び/又は一時的制御がレコンビナーゼ配列に
よって制御できるように、相同組換えで標的配列を挿入することによって、レコ
ンビナーゼ依存性ノックアウトを作製することもできる(後述する)。
【0286】 1種以上のノックアウト構造体及び/又は1種以上の導入遺伝子発現構造体を
含む動物を、様々な方法で調製することができる。好ましい調製方法は、それぞ
れが望ましいトランスジェニック表現型の一つを包含する一連の哺乳類を作製す
るものである。そのような動物を、一連の交雑、戻し交配、選択を通じて一緒に
育て、全ての望ましいノックアウト構造体及び/又は発現構造体を含む動物1個
体を最終的に作製する。得られる動物は、ノックアウト構造体及び/又は導入遺
伝子の存在を除いては野生型と類遺伝子性(一般には同一)である。
【0287】 本発明を、下記の実施例によって更に例証するが、実施例は発明を制限するも
のではない。本明細書を通じて参照した全ての文献(論文、特許、特許出願など
)は、参照して説明に代える。
【0288】実施例 (i)方法 外科手術:200−250gの雄のLongEvansラット64体を、行動
実験に用いた。ラットをそれぞれワイヤメッシュの檻に入れ、12時間/12時
間の明暗周期を維持した。全てのラットは餌及び水を自由に得られるようにした
。ペントバルビタールナトリウム(55mg/kg、腹膜内)によってラットを
麻酔にかけ、定位固定装置にかけた。そこで中線切開を行い、頭皮を後退させて
頭蓋を露出させた。ブレグマの後方0.4及び1.4mm、中線の横0.4及び
01.4mmの位置で頭蓋にドリルで穿孔し、脳弓に電解損傷を与えた。各部位
において、単極電極(テフロン(登録商標)被覆ワイヤ、直径125 m)を、 頭蓋表面から測定して4.4mmまで沈めた。1mAのDC電流を12秒の持続 時間で電極に通した。電極を取り外し、切り口を縫合した。対照動物には疑似手 術を行った。脳弓上の頭蓋にドリルで穿孔し、電極を挿入した後、電流を通さず に電極を取り外した。手術後、動物に抗生物質(クラフォラン、0.1ml、筋 肉内)を予防投与し、温暖状態を保持して自発的運動が起こるまでモニターした 。安定状態が得られた後、元の檻に戻し、行動試験を行う前に7日間回復期間を 与えた。
【0289】 抑制性回避訓練:抑制性回避室は、2つの区画(安全室及びショック室)に分
かれた矩形パースペクス箱で構成される。安全室(21(L)×24.5(H)
×17(W)cm)は白色で、箱の蓋に固定された照明器具により照明されてい
る。ショック室(30.5(L)×20.3(H)×21.5(W)cm)は暗
く、黒いパースペクスでできている。定電流スクランブラー回路を通じて、ショ
ック室の格子床から脚へのショックが加えられる。2つの区画は、自動操作のス
ライディングドアによって隔てられている。この装置は、音響減衰で照明してい
ない部屋に設置された。
【0290】 訓練期間中、頭をドアから遠ざけるように各ラットを安全室に置いた。10秒
後、ドアを自動的に開き、ラットが自由にショック室へ入れるようにした。ラッ
トがショック室へ入ると1秒後にドアが閉まるように設定され、脚への短いショ
ック(1.5mAで2秒間)がラットに与えられた。ショック室へ入る待ち時間
を、習得の測定単位とした。ラットを装置から取り出し元の檻に戻した。直後(
0時間)、又は6、24、48時間後にラットを安全室に戻してショック室へ入
る待ち時間を測定する、保持試験を行った。保持試験においては脚へのショック
を与えず、試験を540秒で終了した。二元ANOVAとそれに続くStude
nt Newman−Keulsのpost−hoc検定によって行動データの
統計的分析を行った。
【0291】 行動試験に続いて、ペントバルビタールナトリウムによってラットを深く麻酔
にかけ、心臓内に0.9%食塩水を、次いで10%ホルマリンを潅流した。脳を
切開して、凍結ミクロトームで40 m切片を作製するまでスクロースホルマリ
ン溶液中に保存した。切片をガラススライド上に載せ、クレシルバイオレットで
染色し、脳弓損傷の精度(accuracy)を調べた。
【0292】 全ての生化学的分析について、上記した抑制性回避装置内でのラットの訓練試
行は1回だけ行った。訓練に続いて、ラットはすぐに(0時間で)犠牲にされた
か、或いは元の檻に戻されて3、6又は9時間後に犠牲にされた。各生化学的実
験において、4種のラット[手術をしていない正常ラットで、抑制性回避作業の
訓練を受けたもの(「ショック」);手術をしていないラットで、抑制性回避装
置に置かれたが脚ショックを受けていないもの(「ショックなし」);脳弓に損
傷を与えたラットで、作業の訓練を受けたもの(「脳弓−ショック));及び脳
弓に損傷を与えたラットで、抑制性回避装置に置かれたが脚ショックを受けてい
ないもの(「脳弓−ショックなし」)]を用意した。各時点で、これら4条件そ
れぞれから得た脳を迅速に切開し、下記に述べるウェスタンブロット分析用に凍
結するか、或いは免疫組織化学用に潅流した。
【0293】 ウエスタンブロット分析:抗PCPEB(Ser−133)及び抗CREBポ
リクローナル抗体をUpstate Biotechnology(ニューヨーク州、レークプラシッ
ド)から購入した。プロテアーゼ阻害剤を含む低温溶解緩衝液(0.2M Na
Cl、0.1M Hepes、10%グリセロール、2mM NaF、2mM
Na427、5mM EDTA、1mM EGTA、2mM DTT、0.5
mM PMSF、1mMベンザミジン、10mg/mlロイペプチン、400U
/mlアプロチニン、1mMミクロシスチン)内でポリトロンを用いる均質化に
よって、ラット海馬から抽出物を得た。氷上に10分置いた後、試料を16,0
00g、4℃で15分間、遠心分離にかけた。上澄み液を回収し、BioRad蛋白質
アッセイBioRad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を用いて全
蛋白質濃度を測定した。溶解物をアリコートに分け、−80℃で保存した。25
g/レーンに相当する等量の全蛋白質を、変性10%SDS−PAGEゲル上で
分離し、電気ブロット法(electroblotting)によってImmobilon−P
(PVDF)移転膜(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)上に移
転させる。膜を5%BLOTTO緩衝液で前処理し、抗PCRBB(1/200
0)又は抗CREB(1/1000)抗血清を含むとトリス緩衝食塩水(TBS
)と共に4℃で一晩保温した。膜をTBSで洗浄し、二次HRP標識化ロバ抗ウ
サギ抗体(1/4000)を含むTBSで1時間処理し、再度洗浄して、HRP
−ストレプトアビジン複合体及びECL検出試薬(Amersham、イリノイ州アーリ
ントンハイツ)と共に保温した。膜をBioMaxMS薄膜(Eastman Kodak、ニュー
ヨーク州ロチェスター)に接触させ、NIHイメージを用いて定量的濃度分析を
行った。一元及び二元ANOVAとそれに続くStudent Newman−
Keuls又はDunnett両側検定のpost−hoc分析によって統計的
分析を行った。
【0294】 免疫組織化学:20U/mlヘパリン(Sigma、ミズーリ州セントルイス)を
含む低温リン酸緩衝食塩水(PBS)を、次いで低温4%パラホルムアルデヒド
を含むPBSを、ラットの心臓内に潅流した。30%スクロースを含む同じ固定
液で脳を一晩固定し、30%スクロース/PBS中で一晩凍結保護した。凍結ミ
クロトーム上で、前頭面の40 m切片を作製した。マニュアル(ImmunoPureA
BCペルオキシダーゼウサギIgG染色キット、Pierce、イリノイ州ロックフォ
ード)に従ってストレプトアビジン−ビオチン複合体イムノペルオキシダーゼ法
を用いて、浮遊切片に免疫染色をほどこした。以下簡単に述べると、0.3%過
酸化水素、0.3%トリトンX−100及び10%正常ヤギ血清中で、切片の一
連の前保温を行った。切片を1/1000に希釈したP−CREB抗体と4℃で
48時間保温し、PBSで3回洗浄し、次いで1/400に希釈したビオチン化
ヤギ抗ウサギIgGを含むPBSと室温で30分処理した。切片をPBSで3回
洗浄し、アビジン−ビオチン化ERPで保温した。切片を0.25mg/mlの
ジアミンベンジデン(benzidene)(Sigma)中で室温にて5−8分保温し
、染色を発色させた。水で洗浄した後、切片をゼラチン被覆スライド上に載せ、
空気乾燥してクレシルバイオレットで軽く対比染色した。
【0295】 (ii)結果 脳弓損傷は長期記憶の固定を阻害する。 脳弓は、海馬を隔壁及び視床下部に連結する塊状の繊維束である。これまでの
研究により、脳弓損傷のある動物は抑制性回避訓練の後に、長期記憶に障害があ
ることが示されている14。以下本発明者らによって調べられた、この欠陥のより
詳細な性質を述べる。外科手術から回復し脳弓に電解損傷を与えたラットを、抑
制性回避作業における記憶習得及び保持について試験した。
【0296】 図1aは、脳弓損傷の代表的な顕微鏡写真を示す。32の損傷ラットのうち2
5個体において、背側脳弓が切断され、采が著しく損傷していた。脳弓及び采の
損傷に加え、全ての被験ラットにおいて、前外側及び三角中隔核及び中隔采(se
ptofimbrial)核が少なくとも部分的に損傷していた。残る7個体は、脳弓及び
采に部分的な損傷があり、中隔核に僅かな損傷か見られた。どの個体においても
、下にある視床構造及び海馬形成には損傷が見られなかった。
【0297】 抑制性回避作業において、動物には、嫌悪刺激を受けた場所についての連想を
形成することが求められる。動物は、緩やかに強制された場所を避けることによ
って、記憶を実証する。本発明者らの実験では、つながった照明室及び暗室を有
する装置の照明室にラットを置くことで訓練を行った。2室間のドアを開き、光
を避け暗室へ向かうというラットの持つ天然の性向にラットを従わせた。暗室に
入ったラットには脚へのショック(1.5mAで2秒間)を与えた。続く試行に
おいて、ラットが暗室を避ける性向によって、記憶保持を測定した。
【0298】 図1bは、1回の抑制性回避作業試行における習得及び保持に、脳弓損傷が与
える影響を例証する(保持の遅延を0、6、24及び48時間で測定した)。図
から分かるように、対照ラット及び脳弓に損傷を有するラットは、作業習得に関
しては違いが見られなかった。初めてショック室に入るまでの待ち時間は、2個
体群で類似しており、統計的には異なっていなかった(p>0.05)。
【0299】 しかし2個体群は、総合的な保持プロファイルにおいて異なっていた。短い遅
延間隔(訓練の0及び6時間後)では、対照ラット及び脳弓に損傷を有するラッ
トは、非常に類似した保持レベルを示した。分散を分析したところ、これらの短
い遅延間隔では、2個体群は異なっていなかった(p>0.05)。これに対し
て、長い(24及び48時間)保持間隔では、2個体群の行動に明らかな違いが
認められた。分散を分析したところ、24及び48時間において、対照群と脳弓
群の間に有意な違いが見られた(F(1,28)=18.268、p<0.00
02)。この違いは、対照ラットにおける待ち時間の増加と、脳弓損傷ラットに
おける待ち時間の無変化を反映している。従って、脳弓の損傷によって作業の完
全健忘は起こらない(これは習得試行から保持試行になったときの待ち時間の増
加によって示されている)が、脳弓損傷は、記憶を強化し時がたつにつれて回復
させる時間依存性固定過程を阻害することは明らかである。
【0300】 長期記憶形成は海馬ニューロンにおけるCREBリン酸化の持続的増加に関連
する 抑制性回避学習に応答して、脳のどの部位でCREB活性化が起こるのかを調
べるために、海馬、扁桃体、皮質及び小脳から抽出した蛋白質内のリン酸化CR
EB(PCREB)について定量的ウエスタンブロット分析を行った。PCRE
Bの測定は、訓練後0、15、30及び60分のラットと、訓練していない対照
ラットで行った。訓練ラットの海馬は、対照と比較して、全ての時点で最も高く
最も一貫したPCREBの誘導を示した。扁桃体及び皮質における増加はより少
なく不定であった。その一方、小脳では変化が検出されなかった(データ示さず
)。従って、海馬におけるCREBリン酸化の変化に研究の焦点を置いた。
【0301】 対照群(手術していない)ラットに、抑制性回避作業の訓練試行を一回行い、
訓練から0、3、6及び9時間後に、海馬のPCREBレベルをウエスタンブロ
ット分析によって測定した。図2a(上列)及び2b(白い四角)に示すように
訓練直後の海馬のPCREBは、暗室に入れられたがショックを受けなかった対
照ラットと比較して、手術をしてないショックラットにおいて152.3±12
.4%に増加した。このPCREBの増加は訓練の3時間後(158.6±8.
3%)、6時間後(155.1±12.4%)及び9時間後(150.7±22
8.6%)にも持続した。一元ANOVAによって、時間の有意な主効果が示さ
れ(F(4、26)=3.346、p<0.02)、ショックなしの対照群と比
較して、これらのラットにおけるPCREBは訓練の0、3及び6時間後に有意
に大きかったことがDunnettのpost hoc比較によって確認された
(p<0.05)。CREIB蛋白質を検出する抗血清を用いたウェスタンブロ
ット免疫染色で同じ試料を調べたところ、訓練後に有意な変化は見られなかった
(図2a、上列;2c、白い四角)。従って、訓練は特異的に海馬CREB蛋白
質のリン酸化を引き起こしたと結論付けられる。
【0302】 PCREBの増加が、抑制性回避作業の固定に関連するのか訓練装置の環境に
引き起こされる他の刺激に関連するのかを調べるために、抑制性回避室に入れた
がショックを受けていない手術なしラットの、海馬におけるPCREBレベルを
分析した(図2d)。装置に入れた直後に犠牲にしたショックなし群と比較して
、装置に入れた3時間(80.3±6.31%)、6時間(101.6±8.9
%)、又は9時間(107.5±12.2%)後にCREBリン酸化における有
意な変化は見られなかった(p>0.05)。これはPCREBにおける持続的
増加が、抑制性回避記憶の固定に特異的であることを示唆している。
【0303】 免疫組織化学によって、海馬中のどの細胞が訓練に応答してPCREBを増加
させるのかを調べた。訓練を受けていないラット海馬の免疫染色を行ったところ
、低レベルのPCREBを示した(例えば図3a)。歯状回及びCA3のニュー
ロンにおいて、むらのある染色が観察された。一方、CA1ニューロンは概して
PCREBについて陰性であった。しかし抑制性回避訓練の結果、PCREB免
疫染色に強力で領域特異的な増加が得られた。最も顕著なことに、CA1及び歯
状回において染色されたニューロンが増加した(例えば図3b)が、CA3領域
においては少量の増加が検出された(データ示さず)。PCREB免疫反応性の
増加は訓練直後に観察され(図3a、b)、訓練の3時間及び6時間後も同じニ
ューロン群において持続した(データ示さず)。
【0304】 脳弓損傷は訓練に誘導される海馬CREBリン酸化の増加を阻害する。 次に、脳弓損傷を有する動物において、抑制性回避訓練に続いて正常なPCR
EB応答が起こるかどうかを調べた。訓練していない脳弓損傷ラットの海馬は、
手術をしていないショックなし対照ラットのPCREBに匹敵する、基底レベル
のPCREB(対照の117.4±4.6%)を示した。しかし、手術なし対照
動物とは異なり、脳弓損傷を有するラットの海馬におけるCREBリン酸化レベ
ルは、訓練の0時間後(108.7±11.2%)又は6時間後(80.1±6
.7%)に有意な増加を示さなかった(図2a、下列;2b、黒丸)。二元分散
分析を行ったところ、手術なし訓練群と、脳弓訓練群との間に有意な差が確認さ
れた(F(5,28)=6.713=0.0003)。Student New
man Keulsのpost hoc分析を行ったところ、手術なしショック
群と比較して、訓練の0時間及び6時間後に、脳弓ショック群は有意に少ないC
REBリン酸化を見せた(p<0.05)。脳弓損傷動物の海馬におけるCRE
B蛋白質の全量は、対照とは異なっておらず、対照と同じように、訓練後6時間
まで変化しなかった(図2c、黒丸)。従って、抑制性回避訓練によって、脳弓
損傷はCREBリン酸化における選択的欠陥をひきおこす。
【0305】 脳弓損傷が海馬の特定のニューロンサブセットにおけるCREBリン酸化を選
択的に阻害したかどうかを調べるために、訓練前及び直後の脳弓損傷動物の一連
の脳断片について、免疫組織化学研究を行った。PCREB抗血清を用いたこれ
らの実験の代表的な断片を図3c及びdに示す。ウエスタンブロット分析によっ
て得られたデータを調べたところ、脳弓損傷ラットの海馬小領域にはPCREB
の誘導は見られなかった。従って、抑制性回避訓練による正常な海馬のCREB
活性化は、脳弓損傷ラットにおいては起こらなかった。
【0306】 (iii)考察 上記の実験から、抑制性回避訓練が、脳内における転写因子CREBリン酸化
の空間的に制限された増加を引き起こすことが示された。海馬におけるCREB
応答及び長期記憶の固定の両方が、脳弓の完全性に依存する。従って、側頭葉記
憶系に起こるある損傷が、記憶の長期蓄積に必要なCREBに調節される遺伝子
発現を干渉することによって、健忘症を引き起こすことが、データから示唆され
る。
【0307】 海馬CREBリン酸化及び抑制性回避記憶 ショウジョウバエからマウスに至る種において、長期シナプス可塑性及び記憶
の固定には、CREBによって調節される遺伝子発現が必要であることが示され
ている11。CREBによる遺伝子発現の活性化には、Ser133におけるリン
酸化が必要である。従って、脳内のCREBリン酸化部位を検出することによっ
て、特定の形式の記憶蓄積に関与する神経回路を調べることができる。本発明者
らは、CA1領域及び歯状回のニューロンが、抑制性回避訓練に対してCREB
リン酸化を増加させて選択的に応答するという知見を得た。これらのPCREB
データは、トランスジェニックマウスの海馬ニューロン内のCRE媒介遺伝子発
現が抑制性回避訓練に続いて増加することを示したImpey他15の最近のデー
タと一致している。これらのデータは、海馬ニューロンのサブセットが抑制性回
避記憶の蓄積に関与していることを示唆している。
【0308】 海馬PCREBの増加は長時間(>6時間)持続した。この知見は、CREB
媒介遺伝子発現の持続的活性が、記憶痕跡の固定に重要であることを示唆してい
る。この考えに一致して、訓練後3−6時間の期間中に蛋白質キナーゼA阻害剤
を海馬内注射することによって、記憶を阻害することができる。逆に、同じ期間
にPKA活性化体を注射することによって、記憶を強化することができる16、17
【0309】 抑制性回避記憶は一回の試行内で起こり、非常に長く続く。嫌悪刺激を特異的
部位に組み合わせることによって(脚へのショック)、記憶が作り出される。本
発明者らは、新しい環境を探査するだけでは海馬のPCREB応答を刺激するに
は至らず、ショックを伴うことが必要であることを発見した。しかし、ショック
のみについての研究はしなかった。ショックは、ショック時点で環境に存在する
感覚刺激(それがどのようなものであれ)への連想(すなわち「フラッシュバル
ブ」記憶)を刺激すると推論される。従って、実験装置の暗室以外の環境に動物
を置いたとしても、与えたショックが海馬におけるPCREB応答を引き起こさ
ないであろうと推測する理由はないと考えられる。しかし興味深いことにImpey
15の実験では、動物を訓練装置に充分に慣らしたときにショックのみを与える
と、海馬におけるCRE媒介遺伝子発現の増加が刺激されなかったことが示され
ている。
【0310】 CREBリン酸化及び記憶固定の脳弓制御 脳弓損傷が長期抑制性回避記憶の固定に与える影響は、側頭葉損傷が様々な形
態の宣言的記憶に与える結果と非常に近い3。本発明者らは、初期の学習及び作
業が脳弓損傷動物において損なわれていなくても、学習の24時間後に深刻な記
憶欠陥が現れることを発見した。従ってこの簡単なパラダイムは、側頭葉記憶系
が情報蓄積の調節にどのように機能するかというより大きな問題に取り組むのに
有用なモデルとなるであろう。
【0311】 抑制性回避訓練に対する海馬PCREB応答性は、脳弓損傷を有する動物にお
いて欠けていた。CREBリン酸化及び遺伝子発現の活性化が長期記憶の固定に
必要であるという上記の証拠を考えると、本発明者らの得たデータは、脳弓損傷
が記憶に与える影響は、正常なPCREB応答の不在によって完全に説明される
。しかし興味深いことに、海馬におけるCREBリン酸化が全く存在しないにも
かかわらず、脳弓損傷動物は情報を学習し数時間に渡って保持できる。訓練の2
4時間後でさえ、脳弓損傷動物は健忘症があるにもかかわらず抑制性回避経験の
記憶を提示した。初期の学習及び記憶は、新しい蛋白質合成の不在においても起
こるシナプスの変化を反映しうる18。24時間後における残留記憶は、海馬以外
の構造変化によって、あるいはCREBリン酸化以外のメカニズムによる遺伝子
発現の調節によって、説明されうる。いずれの場合にも、海馬のPCREB応答
における選択的な欠陥が記憶に与える影響について、より明瞭な説明は脳弓損傷
によって与えられる。
【0312】 脳弓損傷がPCREB応答及び長期抑制性回避記憶の固定を阻害する理由につ
いて考察する。脳弓は海馬と隔壁、視床下部及び脳幹とを連結する軸索を含んで
いる。海馬におけるCREB依存性遺伝子発現を調節するシグナルが、脳弓を通
じて送られるというのが合理的な作業仮説である。実際、抑制性回避訓練直前に
脳弓内の活性が一時的に抑止される場合には、記憶に与える影響は完全な脳弓損
傷と同程度に深刻である19。しかし訓練から48時間後、記憶保持試験直前には
脳弓の不活性化は影響を与えなかった。従って、脳弓の活性は記憶の固定には必
要であるが、記憶の発現には必要ではない。この結果は、背側海馬の不活性化に
よる影響(記憶のコード化及び快復の両方が阻害された)と対照をなす20
【0313】 臨床上の意義 初期の学習は、その動物の空間位置の情報を伝えるシナプスにおける伝達の変
化に由来しうる。これらの変化が恒久的なものであるかどうかは、適宜の新しい
遺伝子発現に依存する。脳弓を通じて海馬ニューロンへ伝わるシグナルが、長期
記憶の確定に必要な遺伝子発現を変調することによって、記憶固定に寄与してい
ると考えられる。重要な化学シグナル及びそれらの伝達経路を同定することによ
って、側頭葉記憶系の損傷に関する健忘症の治療を提案することができる。
【0314】 参考文献 14.de Castro,J.及びHall,T.W“Fomix lesions: Effects on active and pa
ssive avoidance behavior”Physiol. Psychol.3:201−204(1975
)。 15.Impey,S.、Smith,D.M.、Obnetan,K.、Donahue,R.、Wade,C.及びStorm,D.R
.“Stimulation of cAMP response element(CRE)−mediated transcription d
uring contextual learning”Nature Neurosci1:595−601(1998)
。 16.Bernabeu,R.、Bevilaqua,L.、Ardenghi,P.、Bromberg,E、Schmitz,P.、Bi
anchin,M.、Izquierdo,I.及びMedina,J.H.“Involvement of hippocampal cAMP
/cAMP−dependent protein kinase signaling pathways in a late memory con
solidation phase of aversively motivated learning in rats."Proc.N
ad.Acad.Sci.USA94:7041−7046(1997)。 17.Izquierdo,I.及びMedina,J.H.“Memory formation:The sequence of bio
chemical events in the hippocampus and its connection to activity in oth
er brain areas.”Neurobiol.Learn.Mem.68:285−316(1997)。 18.Frey,U.及びMorris,R.G.M.“Synaptic tagging:synapse specificity du
ring protein synthesis−dependent long−term potentiation.”Nature
(1997)。 19.Baldi,E.、Lorenzini,C.A.、Sacchetti,B.、Tassoni,G.及びBucherelli,C
.“Entorhinal cortex and fimbria−fomix role in rat’s passive avoidance
response memorization.”Brain Res.799:270−277(1998)。 20.Lorenzini,C.A.、Baldi,E.、Bucherelli,C.、Sacchetti,B.及びTassoni,G
.“Role of dorsal hippocampus in acquisition, consolidation and retrieva
l of rat’s passive avoidance response:a tetrodotoxin functional inacti
vation study.”Brain Res.730:32−39(1996)。
【図面の簡単な説明】
【図1A】 抑制性回避訓練において障害を与える、脳弓の損傷を示す。(a)代表的な脳
弓の損傷(星印)。
【図1B】 抑制性回避訓練において障害を与える、脳弓の損傷を示す。(b)習得試行と
習得試行の0〜6時間後に行った記憶保持試験において、脳弓に損傷を有するラ
ットは疑似の対照レベルで行動した。24時間後までには、脳弓に損傷を有する
動物は、対照ラットに比べて深刻な障害を示した(脳弓損傷、n=8;疑似の対
照、n=8、p<0.003)。
【図2A】 抑制性回避訓練のあと、海馬のCREBリン酸化における長期に渡る増加が正
常なラットには見られたが、脳弓損傷ラットには見られなかった。手術をしてい
ないラットと脳弓損傷ラットから抽出した海馬のウエスタンブロット分析を、抗
PCREB及び抗CREBを用いて行った。(a)手術をしていないラットと脳
弓損傷ラットから抽出した海馬のPCREB及びCREBウエスタンブロット免
疫染色の例。3例は、(1)訓練器具に入れられたがショックを与えられなかっ
た動物、(2)訓練器具に入れられて訓練ショックを与えられた直後(「0時間
」と称する)に犠牲にされた動物、及び(3)訓練器具に入れられて訓練ショッ
クを与えられてから6時間後(「6時間」と称する)に犠牲にされた動物の、3
つの条件を示している。
【図2B】 抑制性回避訓練のあと、海馬のCREBリン酸化における長期に渡る増加が正
常なラットには見られたが、脳弓損傷ラットには見られなかった。手術をしてい
ないラットと脳弓損傷ラットから抽出した海馬のウエスタンブロット分析を、抗
PCREB及び抗CREBを用いて行った。(b)訓練後様々な時点で取り出し
た、あるいはショックを与えていない対照から取り出した、手術をしていない海
馬と脳弓損傷海馬のPCREBウエスタンブロット免疫染色の密度分析。手術を
していない動物においては、ショックを与えていない対照と比較して、PCRE
Bにおける有意な増加が訓練後0時間(n=8、p<0.05)、3時間(n=
4、p<0.05)及び6時間(n=8、p<0.05)で見られた。これに対
して、脳弓損傷の動物においては、訓練後にPCREBの有意な増加がみられな
かった。データは、「非ショック」非手術対照の平均値の平均%±標準誤差とし
て表した。
【図2C】 抑制性回避訓練のあと、海馬のCREBリン酸化における長期に渡る増加が正
常なラットには見られたが、脳弓損傷ラットには見られなかった。手術をしてい
ないラットと脳弓損傷ラットから抽出した海馬のウエスタンブロット分析を、抗
PCREB及び抗CREBを用いて行った。(c)上記(b)と同じ試料を用い
て行った、CREBウエスタンブロット免疫染色の密度分析。訓練後0時間、3
時間、6時間の、手術をしていない動物及び脳弓損傷の動物の海馬において、C
REBの総量に有意な差は見られなかった。データは、「非ショック」非手術対
照の平均値の平均%±標準誤差として表した(時点あたりn=4)。
【図2D】 抑制性回避訓練のあと、海馬のCREBリン酸化における長期に渡る増加が正
常なラットには見られたが、脳弓損傷ラットには見られなかった。手術をしてい
ないラットと脳弓損傷ラットから抽出した海馬のウエスタンブロット分析を、抗
PCREB及び抗CREBを用いて行った。(d)訓練装置に入れて脚へのショ
ックを与えない状態で0、3、6及び9時間おいて犠牲にした手術をしていない
ラットから取り出した、海馬のPCREBウエスタンブロット免疫染色の密度分
析。どの時点においても、PCREBレベルの有意な変化は見られなかった。デ
ータは、「非ショック」非手術対照の平均値の平均%±標準誤差として表した(
0時間、n=8;3時間、n=4;6時間、n=8;9時間、n=4)。
【図3A】 抑制性回避訓練の後のCREBリン酸化は、主としてCA1及び歯状回におい
て誘導された。脚ショック訓練の前(非ショック)及び直後(0時間)の、手術
をしていないラット脳切片(a及びb)並びに脳弓損傷ラット脳切片(c及びd
)における抗PCREBを用いた免疫組織化学染色の例を示す。倍率10×の、
40 m切片(ブレグマの約3.80mm後方)を示す。CA1及び歯状回(D
G)の小領域を示した。
【図3B】 抑制性回避訓練の後のCREBリン酸化は、主としてCA1及び歯状回におい
て誘導された。脚ショック訓練の前(非ショック)及び直後(0時間)の、手術
をしていないラット脳切片(a及びb)並びに脳弓損傷ラット脳切片(c及びd
)における抗PCREBを用いた免疫組織化学染色の例を示す。倍率10×の、
40 m切片(ブレグマの約3.80mm後方)を示す。CA1及び歯状回(D
G)の小領域を示した。
【図3C】 抑制性回避訓練の後のCREBリン酸化は、主としてCA1及び歯状回におい
て誘導された。脚ショック訓練の前(非ショック)及び直後(0時間)の、手術
をしていないラット脳切片(a及びb)並びに脳弓損傷ラット脳切片(c及びd
)における抗PCREBを用いた免疫組織化学染色の例を示す。倍率10×の、
40 m切片(ブレグマの約3.80mm後方)を示す。CA1及び歯状回(D
G)の小領域を示した。
【図3D】 抑制性回避訓練の後のCREBリン酸化は、主としてCA1及び歯状回におい
て誘導された。脚ショック訓練の前(非ショック)及び直後(0時間)の、手術
をしていないラット脳切片(a及びb)並びに脳弓損傷ラット脳切片(c及びd
)における抗PCREBを用いた免疫組織化学染色の例を示す。倍率10×の、
40 m切片(ブレグマの約3.80mm後方)を示す。CA1及び歯状回(D
G)の小領域を示した。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61P 25/00 C12Q 1/68 A C12N 15/09 ZNA G01N 33/50 Z C12Q 1/68 C12N 15/00 ZNAA G01N 33/50 A61K 37/24 (81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY, DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GW,ML, MR,NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,K E,LS,MW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZW ),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU, TJ,TM),AE,AL,AM,AT,AU,AZ, BA,BB,BG,BR,BY,CA,CH,CN,C R,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EE,ES ,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HR,HU, ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KP,K R,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV ,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO, NZ,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,S I,SK,SL,TJ,TM,TR,TT,TZ,UA ,UG,US,UZ,VN,YU,ZA,ZW (72)発明者 マーク エフ.ベア アメリカ合衆国 02806 ロードアイラン ド、ブリストル、メタコム アベニュー 244 (72)発明者 レオン エヌ.クーパー アメリカ合衆国 ロードアイランド、プロ ビデンス、インターベイル ロード 49 (72)発明者 スティーブン エム.タウベンフェルド アメリカ合衆国 02096 ロードアイラン ド、プロビデンス、ウェイランド アベニ ュー 234 ナンバー6 (72)発明者 ケーステン エイ.ウィグ アメリカ合衆国 02906 ロードアイラン ド、プロビデンス、フォース ストリート 130 Fターム(参考) 2G045 AA25 AA29 AA40 CB17 CB26 DA12 DA13 DA14 DA36 DA77 FA11 FA36 FB03 JA01 4B024 AA01 AA11 BA80 CA02 GA18 HA12 4B063 QA01 QQ02 QQ42 QR32 QR55 QS34 QX01 4C084 AA02 AA17 AA19 AA20 BA44 CA62 DB52 DB59 MA02 NA14 ZA011 ZA012 ZA151 ZA152 【要約の続き】

Claims (43)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 哺乳動物における記憶の固定を増進させる薬剤を同定する方
    法であって、該方法は、 (i)海馬への脳弓媒介の求心性シグナル伝達の少なくとも部分的な破壊を造るよ
    うに操作された非ヒト哺乳動物を用意し、 (ii)その哺乳動物を脳弓損傷のない哺乳動物において学習した行動を生じる学
    習又は記憶管理に慣れさせ; (iii)その哺乳動物に、記憶の固定に対する効果について評価すべき試験薬剤
    を投与し;そして (iv)その試験薬剤のその哺乳動物の学習した行動に対する効果を確認する ことを含み、学習した行動の試験薬剤の非存在時と比べての増加が、その試験薬
    剤が記憶の固定を増進させることを示す、当該方法。
  2. 【請求項2】 脳弓の損傷を、脳弓の少なくとも一部分の機械的破壊により
    生成する、請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】 脳弓の損傷を、脳弓の少なくとも一部分の化学的破壊により
    生成する、請求項1に記載の方法。
  4. 【請求項4】 脳弓の損傷を、一種以上のニューロン型の選択的破壊により
    生成する、請求項1、2又は3に記載の方法。
  5. 【請求項5】 脳弓の損傷を、脳弓コリン作動性ニューロン、脳弓GABA
    作動性ニューロン及び脳弓セロトニン作動性ニューロンよりなる群から選択する
    一種以上のニューロン型の選択的破壊により生成する、請求項4に記載の方法。
  6. 【請求項6】 哺乳動物が、ゲッ歯類である、請求項1に記載の方法。
  7. 【請求項7】 哺乳動物が、トランスジェニック動物である、請求項1に記
    載の方法。
  8. 【請求項8】 試験薬剤が、2500amu未満の分子量を有する有機分子
    である、請求項1に記載の方法。
  9. 【請求項9】 複数の異なる試験薬剤について反復する、請求項1に記載の
    方法。
  10. 【請求項10】 少なくとも10種類の異なる試験薬剤について反復する、
    請求項9に記載の方法。
  11. 【請求項11】 請求項1に記載のアッセイにおいて同定された化合物を含
    み、製薬上許容し得る賦形剤に配合された医薬組成物。
  12. 【請求項12】 海馬への求心性シグナルの破壊を受けた哺乳動物において
    、海馬への求心性シグナルの伝達を促進する薬剤を同定する方法であって: (i)哺乳動物を、学習した行動をするように学習及び記憶試験を受けさせて; (ii)その哺乳動物に、評価すべき薬剤を投与し;そして (iii) 学習フェーズ終了後に、その哺乳動物の、学習した行動を保持する能
    力を測定する; ことを含み、もしこの哺乳動物が、学習した行動を、少なくとも約24時間後に
    保持していれば、この薬剤は、海馬への求心性シグナルの伝達を促進する、上記
    の方法。
  13. 【請求項13】 求心性シグナルの伝達が、脳弓媒介のシグナル伝達を含む
    、請求項12に記載の方法。
  14. 【請求項14】 哺乳動物における記憶の固定を促進する薬剤を同定する方
    法であって、該方法は、下記のステップ: (i)哺乳動物に、評価すべき薬剤を投与し、その哺乳動物を、学習した行動をす
    るように、学習及び記憶試験を受けさせ; (ii)その哺乳動物の海馬におけるCREBのリン酸化の程度を測定し;そして
    (iii)その哺乳動物の海馬におけるCREBのリン酸化の程度を、訓練を受け
    ていない対照用哺乳動物におけるCREBのリン酸化の程度と比較する ことを含み、その哺乳動物におけるCREBのリン酸化の程度が対照用哺乳動物
    におけるCREBのリン酸化の程度より高ければ、その薬剤は記憶の固定を促進
    する、上記の方法。
  15. 【請求項15】 哺乳動物を、海馬への脳弓媒介の求心性シグナル伝達の少
    なくとも部分的な破壊を造るように操作してあり、該破壊が記憶の固定に影響を
    及ぼす、請求項14に記載の方法。
  16. 【請求項16】 記憶の固定の破壊により引き起こされる記憶喪失を治療す
    る薬剤を同定する方法であって、該方法は: (i)海馬への求心性シグナルの破壊を受けた哺乳動物を、学習した行動をするよ
    うに、学習及び記憶試験を受けさせ; (ii)その哺乳動物に、評価すべき薬剤を投与し;そして (iii)学習フェーズの終了後に、その哺乳動物の、学習した行動を保持する能
    力を測定する ことを含み、もしこの哺乳動物が、学習した行動を、少なくとも約24時間後に
    保持していれば、この薬剤は、記憶の固定の破壊により引き起こされた記憶喪失
    の治療に用いることができる。
  17. 【請求項17】 記憶の固定に関与する哺乳動物遺伝子を同定する方法であ
    って、記憶の固定を受けているか又は訓練されていない対照用動物からの遺伝子
    の発現レベルを、海馬への脳弓媒介の求心性シグナル伝達の少なくとも部分的な
    破壊を受けている試験動物からの遺伝子の発現レベルと比較することを含み、該
    破壊が、海馬への求心性シグナルの破壊を有する記憶の固定に影響を及ぼし、試
    験において対照用動物と比較してアップ又はダウンレギュレートされた遺伝子が
    、記憶の固定に関与する遺伝子の候補である、当該方法。
  18. 【請求項18】 記憶の固定に関与する哺乳動物遺伝子を同定する方法であ
    って、該方法は: (i)記憶の固定を受けた動物において発現された遺伝子を表す核酸プローブの第
    一のライブラリーを生成し; (ii)海馬への脳弓媒介の求心性シグナル伝達の少なくとも部分的な破壊を有す
    る動物において発現された遺伝子を表す核酸プローブの第二のライブラリーを生
    成し、該破壊は、海馬への求心性シグナルの破壊を有する記憶の固定に影響を及
    ぼし; (iii)核酸の第一のライブラリーにおいて、核酸の第二のライブラリーと比較
    してアップ又はダウンレギュレートされた遺伝子を同定する ことを含む、当該方法。
  19. 【請求項19】 第一及び第二の核酸ライブラリーを、海馬組織から誘導す
    る、請求項18に記載の方法。
  20. 【請求項20】 第一の核酸ライブラリーにおいてアップ又はダウンレギュ
    レートされるとして同定された遺伝子にコードされる生成物の活性レベルを測定
    するステップを更に含む、請求項19に記載の方法。
  21. 【請求項21】 海馬への求心性シグナルの破壊を受けた哺乳動物における
    記憶の固定を促進する薬剤を同定する方法であって、下記: (i)哺乳動物を、学習した行動をするように、学習及び記憶試験を受けさせ; (ii)その哺乳動物に、評価すべき薬剤を投与し; (iii)請求項18に記載の方法により同定された遺伝子の発現の程度を測定し
    ;そして (iv)この遺伝子の発現を、対照用哺乳動物における発現レベルと比較する ことを含む、上記の方法。
  22. 【請求項22】 記憶の固定を調節する薬剤を同定する方法であって、下記
    : (i)請求項18に記載の第一の核酸ライブラリーにおいてアップ又はダウンレギ
    ュレートされるとして同定された遺伝子によりコードされる産物の活性の検出の
    ための反応システムを用意し; (ii)該システムを試験化合物と接触させ;そして (iii)試験化合物がこの遺伝子産物の活性を変化させるかどうかを測定する ことを含む、上記の方法。
  23. 【請求項23】 記憶の固定を調節する薬剤を同定する方法であって、下記
    : (i)請求項18に記載の第一の核酸ライブラリーにおいてアップ又はダウンレギ
    ュレートされるとして同定された遺伝子の発現レベルの検出のための反応システ
    ムを用意し; (ii)該システムを試験化合物と接触させ;そして (iii)この試験化合物が、この遺伝子の発現レベルを変化させるかどうかを測
    定する ことを含む、上記の方法。
  24. 【請求項24】 請求項18、22又は23に記載のアッセイにおいて同定
    された化合物を、製薬上許容し得る賦形剤に配合して含む医薬製剤。
  25. 【請求項25】 動物において、記憶の固定を増進させ、或は、CNSニュ
    ーロンの機能的性能を増進させる方法であって、請求項11又は24に記載の医
    薬製剤を動物に投与することを含む当該方法。
  26. 【請求項26】 学習及び記憶を増大させ、或は、CNSニューロンの機能
    的性能を増進させる方法であって、請求項11又は24に記載の医薬製剤を動物
    に投与することを含む、当該方法。
  27. 【請求項27】 この医薬製剤と結合して、神経成長因子、神経生存因子及
    び神経向性因子の少なくとも一つを投与することを更に含む、請求項25又は2
    6に記載の方法。
  28. 【請求項28】 この医薬製剤と結合して、CREB依存性転写を活性化す
    る薬剤を、記憶増進効果を生じるのに十分な量で投与することを更に含む、請求
    項25又は26に記載の方法。
  29. 【請求項29】 CREB活性化剤が、cAMP上昇剤である、請求項28
    に記載の方法。
  30. 【請求項30】 少なくとも一のcAMPアゴニストが、アデニレートシク
    ラーゼを活性化する、請求項29に記載の方法。
  31. 【請求項31】 CREB活性化剤が、cAMP類似体である、請求項28
    に記載の方法。
  32. 【請求項32】 CREB活性化剤が、cAMPホスホジエステラーゼイン
    ヒビターである、請求項28に記載の方法。
  33. 【請求項33】 被験者を学習及び/又は記憶機能性能について評価する方
    法であって、その被験者の海馬におけるCREBリン酸化のレベルを検出するス
    テップを含む当該方法。
  34. 【請求項34】 被験者の海馬におけるCREBリン酸化のレベルを、非侵
    襲的分光法例えば磁気共鳴イメージング(MRI)、磁気共鳴分光法(MRS)、脳
    のコンピューターによる断層撮影法(CCT)、イン・ビボnmr(例えば、31
    NMR)又は陽子放出断層撮影(PET)イメージングにより検出する、請求項3
    3に記載の方法。
  35. 【請求項35】 被験者を学習及び/又は記憶機能性能について評価する方
    法であって、患者の海馬において、請求項18で同定された少なくとも一つの遺
    伝子の発現又はその遺伝子の産物の活性のレベルを検出するステップを含む当該
    方法。
  36. 【請求項36】 哺乳動物における記憶の固定を調節する薬剤を同定する方
    法であって、該方法は、下記 (i)海馬への脳弓媒介の求心性シグナリングの少なくとも部分的な破壊を造るた
    めに操作を受けた非ヒト哺乳動物を用意し、該破壊は記憶の固定に影響し; (ii)その哺乳動物を、脳弓損傷のない哺乳動物において学習した行動を生じる
    学習及び記憶管理に慣れさせ; (iii)神経伝達物質又はそれらのアゴニスト若しくはアンタゴニストの一つの
    哺乳動物の学習行動に対する効果を確認する; ことを含み、神経伝達物質の非存在下と比べての学習行動の変化が、その神経伝
    達物質が記憶の固定に影響することを示す、上記の方法。
  37. 【請求項37】 哺乳動物における記憶の固定を増進する合同治療を同定す
    る方法であって、該方法は、下記 (i)海馬への脳弓媒介の求心性シグナリングの破壊を造るように操作された非ヒ
    ト哺乳動物を用意し; (ii)その哺乳動物を、脳弓損傷のない哺乳動物において学習行動を生じる学習
    又は記憶管理に慣れさせ; (iii)2種以上の神経伝達物質又はそれらのアゴニスト若しくはアンタゴニス
    トを共同的に投与し;そして (iv)該共同的に投与した神経伝達物質のこの哺乳動物の学習行動に対する効果
    を確認する; ことを含み、共同的に投与した神経伝達物質の非存在下と比較しての学習行動の
    増加が、それらの共同的に投与した神経伝達物質が記憶の固定を増進することを
    示す、上記の方法。
  38. 【請求項38】 動物における記憶の固定を増進させる方法であって、その
    哺乳動物に、記憶の固定に影響する海馬への脳弓媒介の求心性シグナリングによ
    り生成される少なくとも一種の神経伝達物質又はそのアゴニスト若しくはアンタ
    ゴニストを投与することを含む当該方法。
  39. 【請求項39】 記憶の固定に影響する海馬への脳弓媒介の求心性シグナリ
    ングにより生成される少なくとも二種の神経伝達物質又はそのアゴニスト若しく
    はアンタゴニストを投与することを含む、請求項38に記載の方法。
  40. 【請求項40】 少なくとも一種の神経伝達物質が、記憶の固定を増進する
    神経伝達物質のアゴニストである、請求項38又は39に記載の方法。
  41. 【請求項41】 少なくとも一種の神経伝達物質が、記憶の固定を阻害する
    神経伝達物質のアンタゴニストである、請求項38又は39に記載の方法。
  42. 【請求項42】 海馬への脳弓媒介の求心性シグナリングにより生成される
    少なくとも二種の神経伝達物質又はそれらのアゴニスト若しくはアンタゴニスト
    を含む医薬製剤であって、該神経伝達物質を哺乳動物における記憶の固定に影響
    を与えるのに十分な量で与える当該医薬組成物。
  43. 【請求項43】 海馬への脳弓媒介の求心性シグナリングにより生成される
    少なくとも二種の神経伝達物質又はそれらのアゴニスト若しくはアンタゴニスト
    の医薬製剤を含むキットであって、該神経伝達物質を哺乳動物における記憶の固
    定に影響を与えるのに十分な量で与える当該キット。
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