JP2002370085A - 土壌や地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法 - Google Patents

土壌や地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明は、原位置処理が可能で、高い生物学
的脱窒能力や揮発性有機化合物低減能力を有し、有機物
や窒素を環境中へ放出することによる2次汚染が極めて
少ない土壌や地下水の硝酸態窒素および揮発性有機化合
物の低減方法を提供することを目的とする。 【解決手段】 本発明は、炭素数が10以上の脂肪酸、
炭素数12以上のアルコール、炭素数が14以上の直鎖
状飽和脂肪酸と1価アルコールのエステル、炭素数が1
4以上の直鎖状飽和脂肪酸と多価アルコールのエステ
ル、炭素数が16以上の脂肪酸とグリセリンのエステル
などを土壌中に埋設して土壌や地下水の硝酸態窒素およ
び揮発性有機化合物を低減させる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、土壌中や地下水中
に存在する硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方
法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、主に農業の高密度化や茶栽培業に
代表される高い窒素肥料を要求する作物栽培のための過
剰施肥化により、土壌や地下水の硝酸態窒素による汚染
が顕在化している。このような地下水の汚染の対策とし
ては、地下水を地上に汲み上げ、イオン交換樹脂を用い
て硝酸態窒素を濃縮して除去する技術がすでに知られて
いる。このような技術の例としては、例えば、産業用水
調査会発行の「用水と廃水」、Vol.34 、No.7(1992)、
三宅酉作著「イオン交換樹脂による地下水中の硝酸性窒
素除去」に記載されたものがある。また、土壌中の硝酸
態窒素を除去する方法としては生物学的脱窒法がある。
この生物学的脱窒法を用いた例としては、大豆油を脱窒
菌の炭素源とした例(産業用水調査会発行の「用水と廃
水」、Vol.41 、No.10(1999)、圓岡 大治他著「硝酸性
・亜硝酸性窒素汚染地下水のバイオレメディエーショ
ン」)、土壌にハイテスト糖蜜及び/又は異性化糖を添
加する例(特開平6−169641号公報)、土壌に脱
窒菌の担体を添加する例(特開平11−128902号
公報)、土壌に海草と珪藻土を用いた発酵材を添加する
例(特開2001−8550号公報)などが知られてい
る。
【0003】さらに、土壌中や地下水中のジクロロメタ
ン、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジ
クロロエチレン、シス−1,2ジクロロエチレン、1,
1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエ
タン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ベ
ンゼン、および1,3−ジクロロプロペンなどの揮発性
有機化合物に関しては、これらの揮発性有機化合物が環
境中に放出されることによる2次汚染が問題となってい
る。このような2次汚染を防止するための揮発性有機化
合物の低減方法としては、土壌中に存在する微生物を用
いる方法がある。このような微生物は水素供与体とリ
ン、窒素などの栄養塩の存在下で効果的に分解すること
が知られている。このような揮発性有機化合物の低減方
法としては、例えば、D.E.Ellis, et al., Environment
al Science and Technology, 34(11), P2254(2000))に
記載されている。また、特開平9−276894号公報
や特開平11−90484号公報には、水素供与体とし
てクエン酸やエタノールなどの常温で液体である有機物
を用いた揮発性有機化合物の低減方法が開示されてい
る。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】従来の硝酸態窒素およ
び揮発性有機化合物の低減方法においては、以下のよう
な問題を有していた。地下水中の硝酸態窒素を除去する
従来技術においては、地下水を地上に一度汲み上げてイ
オン交換により硝酸態窒素を濃縮しており、濃縮された
硝酸態窒素の再処理が必要であった。このように地下水
を地上に一度汲み上げてイオン交換処理を行っているた
め、厳密な意味での原位置処理とは言い難い方法であ
り、構造が複雑で大型になるという問題があった。従来
の生物学的脱窒法においては、糖類などの水溶性有機物
や水溶でなくとも常温で液体の有機物を土壌や地下水へ
添加しているため、有機物が土壌中を容易に移動し、拡
散して、有機物による2次汚染が生じる可能性が高いと
いう問題があった。また、従来の生物学的脱窒法におい
て、土壌中に脱窒菌の担体を添加する特開平11−12
8902号公報に開示された方法では、脱窒菌が効率よ
く利用できる有機物が共存しないとき、効率高く生物学
的脱窒を行うことができず、脱窒菌のセルロース等の物
質が必ずしも有効な水素供与体には成り得ないという問
題があった。
【0005】また、例えば特開2001−8550号公
報に開示された、ある種の天然資源の廃棄物を炭素源と
する方法は、廃棄物の有効活用という点では好ましい
が、天然の廃棄物には本来窒素が必ず含まれるために、
このような廃棄物を窒素の除去を目的として用いる場合
でも、逆に窒素の供給源となるおそれがあった。一方、
揮発性有機化合物を除去する場合において、微生物を用
いた場合には、水素供与体と窒素、リンなどの栄養塩が
水溶性であるために、これらが土壌中や地下水中へ容易
に拡散して2次汚染の可能性があった。本発明は、これ
ら従来技術における問題を解決するものであり、原位置
処理が可能であり、高い生物学的脱窒能力や揮発性有機
化合物の低減能力を有し、有機物や窒素を土壌等から環
境中へ放出することが防止された、2次汚染の極めて少
ない、土壌や地下水における硝酸態窒素および揮発性有
機化合物の低減方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】発明者らは、従来技術に
おける問題を解決するために鋭意研究の結果、特定の炭
素数と特定の化学構造を有する特定の化学物質群を用
い、さらにそれら化学物質群を特定の形態で環境中に設
置することにより、前記問題が解決されることを見い出
し本発明を完結するに至った。すなわち、本発明に係る
土壌や地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化合
物の低減方法は、以下の方法により実施される。 1. 炭素数が10以上の脂肪酸、例えばその構造が直
鎖状飽和型である脂肪酸を土壌中または地下水中に混入
する。 2. 炭素数12以上のアルコール、例えばその構造が
飽和型であるアルコールを土壌中または地下水中に混入
する。 3. 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸と1価アル
コールのエステルを土壌中または地下水中に混入する。 4. 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸と多価アル
コールのエステルまたはその誘導体を土壌中または地下
水中に混入する。 5. 炭素数が16以上の脂肪酸とグリセリンのエステ
ルを土壌中または地下水中に混入する。 6. 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは炭素数12
以上の脂肪酸アマイドを土壌中または地下水中に混入す
る。 7. 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは炭素数12
以上の脂肪酸アマイドを土壌中または地下水中に混入す
る。 8. 鉄またはアルミニウムを上記低減物質と共存させ
る。 9. 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは炭素数12
以上の脂肪酸アマイドを土壌中または地下水中に混入時
に、あらかじめ炭素数が12以上の脂肪アミンまたは炭
素数12以上の脂肪酸アマイドと対象とする被低減物を
含む培地で培養された微生物も混入させる。
【0007】
【発明の実施の形態】本発明に係る土壌や地下水におけ
る硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法におい
て用いる脂肪酸とは、アルキル基をRで表した時、下記
一般式(1)で示される構造を有する化学物質である。
この場合、炭素数が10以上であることが必須である。
【0008】
【化1】
【0009】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪酸として、より好
ましくは、一般式(1)におけるアルキル基が直鎖状で
一重結合のみから成る(以下飽和型と称する)脂肪酸で
ある。脂肪酸は本質的に水に不溶であるが、炭素数が1
0未満では融点が低く、常温で液体状態となり、土壌中
や地下水中へ容易に拡散して、有機物による2次汚染の
おそれが高いため好ましくない。また、炭素数が10以
上であっても、二重結合の存在は一般的に融点の低下を
招くため好ましくない。さらに、側鎖やベンゼン環など
の存在は生分解性そのものを低下させるため、微生物を
使った処理方法においては好ましくない。従って、本発
明に係る硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法
において用いる脂肪酸としては、炭素数が10以上であ
り、直鎖状で飽和型である。以上の要件を満たす脂肪酸
としては、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パ
ルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、リグノセリ
ン酸、ベヘニン酸、およびこれら脂肪酸の混合物、塩、
水素添加品などが例示される。また、混合物としては、
単体脂肪酸を人為的に混合してもよく、また牛脂脂肪
酸、ヤシ油脂肪酸などの天然脂肪酸の混合物でもよい。
【0010】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いるアルコールとは、アル
キル基をRで表した時、下記一般式(2)で示される構
造を有する化学物質である。この場合、炭素数が12以
上であることが必須である。
【0011】
【化2】
【0012】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いるアルコールとして、よ
り好ましくは、一般式(2)におけるアルキル基が直鎖
状で飽和型のアルコールである。アルコールは本質的に
水に不溶であるが、炭素数が12未満では融点が低く、
常温で液体状態となり、土壌中や地下水中へ容易に拡散
して、有機物による2次汚染のおそれが高いため好まし
くない。また、炭素数が12以上であっても、二重結合
の存在は一般的に融点の低下を招くため好ましくない。
従って、本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機化合
物の低減方法において用いるアルコールとしては炭素数
が12以上であり、直鎖状で飽和型である。以上の要件
を満たすアルコールとしては、ラウリルアルコール、ミ
リスチルアルコール、ステアリルアルコール、セチルア
ルコール、ベヘニルアルコール、およびこれらアルコー
ルの混合物、塩などが例示される。また、混合物として
は、単体アルコールを人為的に混合してもよく、また天
然アルコールの混合物でもよい。
【0013】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪酸と1価アルコー
ルのエステルとは、アルキル基をR、Rで表した
時、下記一般式(3)で示される構造を有する化学物質
である。この場合、脂肪酸の炭素数が14以上かつ直鎖
状で飽和型であることが必須である。
【0014】
【化3】
【0015】脂肪酸の炭素数が14未満では融点が低
く、常温で液体状態となり、土壌中や地下水中へ容易に
拡散して、有機物による2次汚染のおそれが高いため好
ましくない。また、炭素数が14以上であっても、二重
結合の存在は一般的に脂肪酸の融点の低下を招くため好
ましくない。さらに、側鎖やベンゼン環などの存在は生
分解性そのものを低下させるため、微生物を使った処理
方法においては好ましくない。従って、本発明に係る硝
酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法において用
いる脂肪酸と1価アルコールのエステルとは、脂肪酸の
炭素数が14以上かつ直鎖状で飽和型である。以上の要
件を満たす脂肪酸としては、ミリスチン酸ミリスチル、
パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ステア
リン酸メチル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸コレ
ステリル、ステアリン酸バチル、ベヘニン酸オクチルド
デシル、ベヘニン酸ベヘニル、およびこれらエステルの
混合物や脂肪酸が2塩基酸であるフタル酸ジステアリル
などが例示される。
【0016】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪酸と多価アルコー
ルのエステルまたはその誘導体は、脂肪酸の炭素数が1
4以上かつ直鎖状で飽和型であることが必須である。脂
肪酸の炭素数が14未満では融点が低く、常温で液体状
態となり、土壌や地下水中へ容易に拡散し有機物の2次
汚染のおそれが高いため好ましくない。また、脂肪酸の
炭素数が14以上であっても、二重結合の存在は一般的
に融点の低下を招くため通常は好ましくない。さらに、
側鎖やベンゼン環などの存在は生分解性そのものを低下
させるため、微生物を使った処理方法においては好まし
くない。
【0017】従って、本発明に係る硝酸態窒素および揮
発性有機化合物の低減方法において用いる脂肪酸と多価
アルコールのエステルまたはその誘導体は、脂肪酸の炭
素数が14以上かつ直鎖状で飽和型である。以上の要件
を満たす脂肪酸としては、ソルビタンモノミリスチレー
ト、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステ
アレート、ソルビタンジステアレート、ソルビタントリ
ステアレート、ソリビタンモノベヘネート、ポリオキシ
エチレンソルビタンモノステアレート、ポリエチレング
リコールモノステアレート、ポリエチレングリコールジ
ステアレート、セスキステアリン酸ソルビタン、トリス
テアリン酸ソルビタン、ヘキサステアリン酸ポリオキシ
エチレンソルビット、およびこれらエステルの混合物
や、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシ
エチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリ
ルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル、グ
リセリンセチルエーテル、グリセリンステアリルエーテ
ル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエ
ーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシ
ルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンオクチル
フェニルエーテルなどのエーテル類が例示される。
【0018】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪酸とグリセリンの
エステルとは、アルキル基をR、R、Rで表した
時、下記一般式(4)及び一般式(5)で示される構造
を有する化学物質である。この場合、脂肪酸の炭素数が
16以上であることが必須である。
【0019】
【化4】
【0020】
【化5】
【0021】脂肪酸の炭素数が16未満では融点が低
く、常温で液体状態となり、土壌中や地下水中へ容易に
拡散して、有機物による2次汚染のおそれが高いため好
ましくない。従って、本発明に係る硝酸態窒素および揮
発性有機化合物の低減方法において用いる脂肪酸とグリ
セリンのエステルとは、脂肪酸の炭素数が16以上であ
る。この要件を満たす脂肪酸としては、ステアリン酸モ
ノグリセライド、パルミチン酸ステアリン酸モノグリセ
ライド、オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モ
ノジグリセライド、オレイン酸ステアリン酸モノジグリ
セライド、オレイン酸ステアリン酸モノグリセライド、
ベヘニン酸モノグリセライド、モノステアリン酸テトラ
グリセル、トリステアリン酸テトラグリセル、ペンタス
テアリン酸テトラグリセル、モノステアリン酸ヘキサグ
リセル、ペンタステアリン酸ヘキサグリセル、モノステ
アリン酸デカグリセル、ジステアリン酸デカグリセル、
トリステアリン酸デカグリセル、ペンタステアリン酸デ
カグリセル、ヘプタステアリン酸デカグリセル、デカス
テアリン酸デカグリセル、モノステアリン酸ポリオキシ
エチレングリセリン、モノステアリン酸ポロピレングリ
コール、およびこれらエステルの混合物などが例示され
る。
【0022】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪アミンとは、アル
キル基をRで表した時、下記一般式(6)で表される1
級アミン、下記一般式(7)で表される2級アミン、下
記一般式(8)で表される3級アミン、下記一般式
(9)で表されるジアミン、及び下記一般式(10)で
表されるアルキルアミン酢酸塩であり、これらの脂肪ア
ミンは炭素数が12以上であることが必須である。
【0023】
【化6】
【0024】
【化7】
【0025】
【化8】
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
【0028】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪アミンとして、よ
り好ましくは上記一般式(6)から一般式(10)にお
けるアルキル基が直鎖状で飽和型である脂肪アミンであ
る。さらに、脂肪アミンとしてより好ましくは、2級ア
ミンの場合は炭素数が16以上、3級アミンの場合は炭
素数が22以上、ジアミンの場合は炭素数が16以上、
アルキルアミン酢酸塩の場合は炭素数が14以上である
脂肪アミンである。前記の通り限定した炭素数未満では
融点が低く、常温で液体状態となり、土壌や地下水中へ
容易に拡散して、有機物による2次汚染のおそれが高い
ため好ましくない。たとえ炭素数が前記限定数以上であ
っても二重結合の存在は、一般的に融点の低下を招くた
め通常は好ましくない。さらに、側鎖やベンゼン環など
の存在は生分解そのものを低下させるため、微生物を使
った処理方法においては好ましくない。
【0029】従って、本発明に係る硝酸態窒素および揮
発性有機化合物の低減方法において用いる脂肪アミンと
して、2級アミンの場合は炭素数が16以上、3級アミ
ンの場合は炭素数が22以上、ジアミンの場合は炭素数
が16以上、アルキルアミン酢酸塩の場合は炭素数が1
4以上である。以上の要件を満たす脂肪アミンとして
は、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、ステアリルア
ミン、ジパルミチルアミン、ジステアリルアミン、ジメ
チルベヘニルアミン、パルミチルプロピレンジアミン、
ステアリルプロピレンジアミン、ミリスチルアミンアセ
テート、ステアリルアミンアセテート、ステアリン酸ジ
エチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジエチルアミ
ノプロピルアミドおよびこれら脂肪アミンの混合物、塩
などが例示される。
【0030】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる脂肪酸アマイドとは、
炭素数が12以上であることが必須である。炭素数が1
2未満では融点が低く、常温で液体状態となり、土壌や
地下水中へ容易に拡散し有機物の2次汚染のおそれが高
いため好ましくない。以上の要件を満たす脂肪酸アマイ
ドとしては、ラウリン酸アマイド、ミリスチン酸アマイ
ド、パルミチン酸アマイド、ステアリン酸アマイド、オ
レイン酸アマイド、エルカ酸アマイド、エチレンビスス
テアリン酸アマイド、ジパルミチルケトン、ジステアリ
ルケトン、およびこれら脂肪酸アマイドの混合物などが
例示される。
【0031】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる鉄、アルミニウムは、
いずれも金属単体が主成分であれば純度、大きさ、形状
などは特に限定しないが、表面積を大きくするために直
径1cm以下の粒状が好ましい。
【0032】本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法において用いる微生物は、本発明に係
る硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法におい
て用いる条件下であらかじめ培養されたものであればよ
く、細菌、真菌などの種類や自然界由来か否かの起源を
問うものではない。本発明に係る硝酸態窒素および揮発
性有機化合物の低減方法の実施には、地下水の場合には
ボーリングなどの工事により形成された穴や、対象とな
る場所の既設井戸を通じて地下水中へ、本発明に係る脂
肪酸、アルコールなどを直接添加すればよい。また、本
発明は、ポンプなどで地下水を汲み上げて、本発明に係
る脂肪酸、アルコールなどに汲み上げた地下水を通過さ
せるよう構成することも可能である。このような処理方
法により、土着の脱窒菌が本発明の脂肪酸、アルコール
やそれらの生分解生成物などを水素供与体として利用
し、効率的に脱窒反応が生じるため、地下水中の硝酸態
窒素を除去することができる。
【0033】本発明の特徴は、本発明に係る脂肪酸やア
ルコールなどの水素供与体は、土壌中や地下水中で固体
として存在するため、脂肪酸やアルコールの移動は極め
て短く限定的であり、有機物による2次汚染は最小限に
抑えられる。事前の現場診断による水質測定結果によ
り、地下水中のリンが不足すると判断される場合には、
水溶性リン酸塩などを本発明に係る水素供与体と同時に
土壌や地下水に添加することが好ましい。このように、
本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減
方法において、脱窒菌を同時に添加する場合には、本発
明の効果をさらに促進させることが可能となる。
【0034】また、畑などの土の下部土壌に本発明に係
る脂肪酸、アルコールなどを直接埋設することにより、
窒素肥料の硝化が進み硝酸態窒素になった後、土着の脱
窒素菌が本発明において用いた脂肪酸、アルコールなど
を水素供与体として利用して、効率的に脱窒反応が生じ
る。これにより、本発明によれば、地下水への硝酸態窒
素の流出を回避することができる。また、本発明におい
て用いた脂肪酸、アルコールなどの低減剤は、土壌中で
固体として存在するため、その移動は極めて短く限定的
であり、有機物の環境への放出による2次汚染は最小限
に抑えられる。本発明で用いる脂肪酸、アルコールなど
は、土壌中で固体であり、それ自身が担体となり得るた
めに別途担体を設ける必要がなく、本発明で用いる脂肪
酸、アルコールなどを水素供与体とする脱窒菌が近傍の
土壌を担体として脱窒反応を行うことも可能である。
【0035】また、本発明に係る揮発性有機化合物を低
減する方法としては、以下の3つの方法がある。 1 本発明で用いる脂肪酸、アルコール、硫黄、硫黄化
合物、生分解性樹脂などの水素供与体を汚染土壌に直接
埋設する方法 2 汚染土壌を掘り返し、その土壌で形成された小山
(パイル)中に本発明で用いる脂肪酸、アルコール、硫
黄、硫黄化合物、生分解性樹脂などの水素供与体を埋設
する方法 3 本発明で用いる脂肪酸、アルコール、硫黄、硫黄化
合物、生分解性樹脂などの水素供与体と必要な栄養塩類
を地下水中へ直接添加する方法 本発明で用いる脂肪酸、アルコール、硫黄、硫黄化合
物、生分解性樹脂などの水素供与体は、土着の揮発性有
機化合物分解菌の水素供与体となり、効果的に揮発性有
機化合物を分解することができる。本発明においては、
脂肪酸、アルコール、硫黄、硫黄化合物、生分解性樹脂
などの水素供与体が、土壌中で固体として存在するた
め、その移動が極めて短く限定的であり、揮発性有機化
合物の環境への放出による2次汚染は最小限に抑えられ
る。
【0036】窒素原子を含まない本発明で用いる脂肪
酸、アルコールなどの水素供与体の場合で、栄養塩とし
て窒素が必要な場合には、別途窒素成分を加えればよ
い。また、本発明で用いる脂肪アミン、脂肪酸アマイド
のような窒素原子を含む場合は、水素供与体のみならず
窒素供給源としての機能も同時に有することとなり、別
途窒素成分を供給する必要はない。すなわち、このよう
な構成では窒素も固体として供給され、その移動が極め
て制限されるので、余剰窒素が環境へ放出されることが
なく2次汚染を低減でき、より好ましいものとなる。
【0037】本発明において用いる硫黄は、硫黄細菌と
呼ばれる微生物に対して水素供与を行い、脱窒反応を起
こさせる。好ましくは、硫黄とともにアルカリ供給剤を
共存させる。硫黄の水素供与の際に生じる硫酸によるP
H低下をアルカリ供給剤で中和することにより、土壌の
PHを著しく変化させることなく脱窒反応を起こすこと
ができる。アルカリ供給剤としては、脱窒菌の菌体合成
に必須な炭素源の供給も兼ねることができる炭酸カルシ
ウムを主成分としたものが好ましい。炭酸カルシウムを
主成分としたものの代表例としては、炭酸カルシウム原
石、貝殻類、サンゴ類、石灰岩類などがある。本発明に
用いる生分解性樹脂とは、微生物により分解可能な樹脂
の総称であり、より好ましくは生分解性の優れたエステ
ル結合を有する生分解性樹脂である。具体的な例として
は、乳酸重合体、ヒドロキシ酪酸とヒドロキシ吉草酸の
共重合体、ポリオール類と脂肪族ジカルボン酸との縮合
重合物、ポリ(ε−カプロラクトン)などがある。揮発
性有機化合物を分解する菌は、生分解性樹脂またはその
分解生成物を基質として増殖し、揮発性有機化合物を効
果的に分解するものである。
【0038】鉄やアルミニウムなどの金属を上記水素供
与体と同時に添加することは、対象とする地下水や土壌
中の還元雰囲気を高めるため好ましい。これは、それぞ
れ下記式(11)及び(12)に従って発生する水素の
作用によるものである。従って、このように水素供与体
と金属とを同時に添加することにより、脱窒速度、揮発
性有機化合物の分解速度の向上を図ることが可能とな
る。
【0039】
【化11】
【0040】
【化12】
【0041】また、本発明で用いる脂肪酸やアルコール
などの水素供与体と、対象とする揮発性有機化合物を必
須とする培地中においてあらかじめ培養された微生物と
を同時に添加することは、揮発性有機化合物の分解速度
をさらに向上させることが可能であり、より好ましいも
のとなる。本発明で用いる脂肪酸、アルコールなどの水
素供与体を土壌に埋設する、または井戸水などに添加す
るには、本発明に係る水素供与体を顆粒状に成形して流
動性を向上させて添加するか、融点以上に過熱溶融させ
たものを流動状態を保ったままで土壌中へ注入すること
も可能である。
【0042】
【実施例】次に、実施例によって本発明をさらに詳しく
具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定さ
れるものではない。
【0043】《実施例1》図1は実施例1の硝酸態窒素
および揮発性有機化合物の低減方法の土壌実験を実施す
るために用いた人工土壌実験施設を示す断面図である。
図1に示すように、実施例1において用いた人工土壌実
験施設は、コンクリート枠1により互いに分離された1
4区画の実験槽7を有し、これらの実験槽7の底部には
測定水採取口4が形成されている。各実験槽7の上部に
は、硝酸態窒素溶液を添加するためのノズルが配置され
ており、これらのノズルは硝酸態窒素溶液が流れるパイ
プ6に連通している。
【0044】上記のように構成された人工土壌実験施設
を用いて下記の実験を行った。実験槽7の内部には砂利
層3と実験土壌2が配設されている。各実験土壌2には
ニンジン苗5が植えられている。実験槽7の地表面積は
11mであり、実験土壌2の土壌深さは1.4mであ
る。実験土壌2として黒ボク土を用いた。この実験土壌
2の下には、底部から20cm厚みで砂利を敷いた砂利
層3が形成されている。14区画の実験槽7には、葉長
約14cmのニンジン苗を5株づつを植え、あらかじめ
硝酸態窒素濃度90mg/Lに調整した硝酸態窒素液
を、定量ポンプを用いて100mL/日の割合で添加し
続けた。14区画の実験槽7のうち、区画番号1〜9が
本発明に係る実験材料を土壌中に混合し、区画番号10
〜14が比較材料を土壌中に混合して実験を行った。
【0045】各試験区及び各比較区における実験土壌2
は、土壌乾燥重量比で1重量%の実験材料(脂肪酸、ア
ルコールなど)、及び比較材料(従来技術で用いた材
料)をあらかじめ均一に混合して作成した。上記のよう
に構成された人工土壌実験施設において、砂利層3を通
過した水を集めて、JIS法に従い65日後の硝酸態窒
素濃度、アンモニア態窒素濃度、および全炭素濃度の分
析を行った。その実験結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】表1に示すように、試験区の区画番号1か
ら区画番号5においては、実験材料としてステアリン
酸、ラウリルアルコール、パルミチン酸セチル、ソルビ
タンジステアレート、パルミチン酸ステアリン酸モノジ
グリセライドをそれぞれ用いた。試験区の区画番号6で
はステアリン酸65重量%、パルミチン酸30重量%、
ミリスチン酸5重量%を混合して実験材料として用い
た。試験区の区画番号7では硫黄(粒径約2cm)を実
験材料として用いた。試験区の区画番号8では硫黄と炭
酸カルシウムの混合物(重量比3:8)を実験材料とし
て用いた。また、試験区の区画番号9ではステアリン酸
と平均粒径約15μmの鉄粉を土壌に対して1重量%混
合して用いた。比較区の区画番号10から区画番号13
の比較材料としては、セルロース粉末、ラクトース、大
豆油、天然バーク発酵資材のそれぞれを土壌中に混合し
て用いた。また、比較区の区画番号14は、何も混合せ
ず土壌のみとした。
【0048】表1において、試験区に用いた実験材料が
本発明に係る土壌や地下水の硝酸態窒素および揮発性有
機化合物の低減方法において用いられる材料であり、比
較区の区画番号10から区画番号13において用いた比
較材料が従来技術において用いられていた材料である。
なお、比較区の区画番号14は土壌のみである。表1か
ら明らかなように、本発明に係る土壌や地下水の硝酸態
窒素および揮発性有機化合物の低減方法による土壌(試
験区)からの水は、比較区として示した従来技術および
土壌のみの区画からの水にくらべて大幅に硝酸態窒素濃
度が低下しており、土壌通過時に脱窒反応が効果的に起
っていることが理解できる。また、鉄粉を共存させる
(区画番号9)ことにより、土壌における還元性が向上
し、脱窒反応をさらに促進させている。
【0049】さらに、本発明に係る硝酸態窒素および揮
発性有機化合物の低減方法は、比較区として示した従来
技術にくらべて、全炭素濃度が極めて小さく、有機物に
よる2次汚染を効果的に防止することができる。また、
アンモニア態窒素濃度の結果から明らかなように、本発
明による実験土壌においては従来技術の天然バーク発酵
資材(区画番号13)に見られるような窒素放出源には
なっていない。実施例1における各実験を通じて、ニン
ジンの生育に対する有意差は認められなかった。以上の
実験結果から、本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有
機化合物の低減方法は、土壌そのものはもちろん、その
土壌を通過する地下水への硝酸態窒素の漏出および有機
化合物による2次汚染を低減することができるという優
れた効果を有する。
【0050】《実施例2》図2は実施例2の硝酸態窒素
および揮発性有機化合物の低減方法の地下水実験を実施
するために用いた人工地下水実験施設を示す断面図であ
る。図2に示すように、実施例2において用いた人工地
下水実験施設は、コンクリートブロック枠11により形
成された実験槽17の中に実験材料を混合した実験土壌
12と砂利槽13とを入れて実験を行った。人工地下水
実験施設のコンクリートブロック枠11により囲われた
実験槽17において、実験土壌12は地表面積が18m
、土壌深さが6.0mである。この実験土壌12の下
に50cmの深さで砂利層13が設けられている。実験
土壌12としては黒ボク土と真土とを6:4程度の割合
で混合した土を用いた。
【0051】実験槽17には、直径20cmの塩化ビニ
ール管により構成された人工井戸14が設けられてい
る。この人工井戸14は、実験槽17の一端の内壁面
(この内壁面を基準位置とする)から0.5mの位置に
設けられており、深さを約6m有して砂利層13に通じ
ている。また、人工地下水実験施設の実験槽17の内壁
面(基準位置)から2mで、深さが地表面から4mの位
置に硝酸態窒素液を添加する硝酸態窒素液添加パイプ1
6が埋設されている。基準面である一方の内壁面と対向
する他の内壁面には外部に通じる測定水採取口15が設
けられている。この測定水採取口15は、底面から50
cm(砂利層13の最上部に相当)の位置に形成されて
おり、地下水である測定水をサンプリングするために設
けられている。
【0052】上記のように構成された人工土壌実験施設
をそれぞれ用いて下記の実験を12区画において行っ
た。各実験槽17において、硝酸態窒素液添加パイプ1
6の先端(地表面から4mの位置)から、あらかじめ硝
酸態窒素濃度40mg/Lに調整した硝酸態窒素液を、
定量ポンプを用いて12mL/日の割合で実験土壌12
に添加し続けた。上記の条件下において、人工地下水の
移動は約6.5m/年と見積もられる。発明者らは、人
工地下水実験施設を用いて、各試験区及び各比較区にお
いて人工井戸14から各水素供与体を800g添加し
た。そして、試験開始後30日後において、底面から5
0cm(砂利層の最上部に相当)の位置に形成された測
定水採取口15から水をサンプリングして、その採取し
た水をJIS法に従い硝酸態窒素濃度、アンモニア態窒
素濃度、および全炭素濃度の分析を行った。この結果を
各試験区及び各比較区毎に下記表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】表2に示すように、試験区の区画番号1か
ら区画番号6においては、実験材料としてミリスチン
酸、ステアリルアルコール、ミリスチン酸ミリスチル、
ソルビタンモノパルミテート、ペンタステアリン酸テト
ラグリセル、ヤシ油脂肪酸をそれぞれ用いた。試験区の
区画番号7ではペンタステアリン酸テトラグリセルと平
均粒径約65μmの鉄粉を土壌に対して1重量%混合し
て用いた。比較区の区画番号8から区画番号11の比較
材料としては、セルロース粉末、糖みつ、大豆油、天然
バーク発酵資材のそれぞれを土壌中に混合して用いた。
また、比較区の区画番号12は、何も混合せず土壌のみ
とした。
【0055】表2から明らかなように、本発明に係る硝
酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法による土壌
(試験区)からの水は、比較区として示した従来技術お
よび土壌のみの区画(表2の区画番号12)からの水に
くらべて大幅に硝酸態窒素濃度が低下しており、地下水
中で脱窒反応が効果的に起っていることが理解できる。
また、鉄粉を共存させた場合(区画番号7)には、還元
性が向上するため脱窒反応をさらに促進させている。
【0056】さらに、本発明に係る硝酸態窒素および揮
発性有機化合物の低減方法により得られた水は、比較区
として示した従来技術により得られた水にくらべて、地
下水中の全炭素濃度が極めて小さい。このため、有機物
による2次汚染を効果的に防止することができ、アンモ
ニア態窒素濃度の結果から従来技術の天然バーク発酵資
材に見られる様な窒素放出源にはならない。以上の実験
の結果から、本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機
化合物の低減方法は、土壌そのものはもちろん、その土
壌を通った地下水への硝酸態窒素の漏出の低減および有
機化合物による2次汚染の防止をできるという優れた効
果を有する。
【0057】《実施例3》図3は実施例3の硝酸態窒素
および揮発性有機化合物の低減方法を実施するために用
いたカラム実験装置の構成を示す図である。ここでカラ
ムとは硝酸態窒素および揮発性有機化合物を低減する機
能を有する容器のことであり、井戸水などの地下水を通
過させて硝酸態窒素および揮発性有機化合物を低減すも
のである。実施例3においては、直径28cm、高さ2
mの樹脂製カラムを用いた。図3に示すように、カラム
21の内部には実験材料22が充填されている。このカ
ラム21には、井戸23からポンプ24により汲み上げ
られた井戸水がカラム21の導入口25を通して流入し
ている。カラム21の内部を上昇しつつ実験材料22に
接触した井戸水は、カラム21の上部に形成された流出
口26から排出するよう構成されている。
【0058】上記のように構成されたカラム実験装置を
用いて下記通りのカラム実験を行った。硝酸態窒素によ
り汚染された既設の井戸(硝酸態窒素濃度14mg/
L)から、ポンプ24により井戸水を地上に汲み上げ
て、カラム21へ流入させた。実施例3においては、直
径28cm、高さ2mの樹脂製カラムを6本使用して、
それぞれを2回用いて12種類の実験材料の実験を行っ
た。各実験において、カラム内部には脂肪酸やアルコー
ルなどの本発明に係る実験材料(カラム番号1〜8)、
および比較として従来技術の比較材料(カラム番号9〜
12)をそれぞれ充填して、汲み上げた地下水を通過さ
せた。これらの実験において、カラム内の実験材料の実
質充填高さはそれぞれ1.8mである。カラム内の地下
水の通過時間は5.5時間であり、実験期間中の平均環
境温度は21℃であった。実験開始である井戸水通過開
始から30日間経過時点でのカラム通過後の井戸水の硝
酸態窒素濃度、アンモニア態窒素濃度、および全炭素濃
度を測定した。その測定結果を表3にまとめて示す。
【0059】
【表3】
【0060】表3に示すように、試験区のカラム番号1
からカラム番号6においては、実験材料としてベヘン
酸、ミリスチルアルコール、ステアリン酸メチル、ソル
ビタンモノミリスチレート、オレイン酸ステアリン酸モ
ノジグリセライド、牛脂脂肪酸をそれぞれ用いた。試験
区のカラム番号7ではミリスチルアルコールと平均粒径
10μmのアルミ粉末を土壌に対して1重量%混合して
用いた。また、試験区のカラム番号8では牛脂脂肪酸と
平均粒径約15μmの鉄粉を土壌に対して1重量%混合
して用いた。比較区の比較材料としては、セルロース粉
末(カラム番号9)、ショ糖(カラム番号10)、コー
ン油を含浸させたセルロース粉末(コーン油正味1.2
kg相当)(カラム番号11)、天然バーク発酵資材
(カラム番号12)を土壌中に混合して用いた。
【0061】表3から明らかなように、本発明に係る硝
酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法による試験
区における結果は、比較区として示した従来技術による
結果に比べて大幅に硝酸態窒素濃度が低下しており、試
験区のカラム通過時に脱窒反応が効果的に生じているこ
とが理解できる。また、本発明の土壌や地下水の硝酸態
窒素および揮発性有機化合物の低減方法は、比較区とし
て示した従来技術にくらべて全炭素濃度が極めて小さ
く、処理水への有機物による2次汚染を効果的に防止す
ることができる
【0062】《実施例4》図4は実施例4の硝酸態窒素
および揮発性有機化合物の低減方法を実施するために用
いた実験施設を示す図である。図4の(a)は実験施設
の平面図であり、(b)はその側面図である。図4に示
すように、枡状のコンクリート枠31により形成された
実験槽34の内部には、汚染土壌32と実験土壌33が
収納されている。図4の(a)に示すように、汚染土壌
32は実験土壌33に取り囲まれるように実験槽34の
略中央部分に設けられている。実施例4において、枡状
のコンクリート枠31は上方が開放した1m四方の立方
体形状であり、このコンクリート枠31で形成された実
験槽34の内部には黒ボク土とロームとを等量づつ混合
した人工土壌を入れて、屋外(平均気温21℃)に約2
ヶ月間放置した。その後、上記のように形成された人口
土壌に対して、その表面で直径30cm、深さが50c
mに掘土して円筒状の穴を形成し、その穴を汚染土壌3
2により埋め戻した。
【0063】汚染土壌は、1,1,1−トリクロロエタ
ン、1,1−ジクロロエチレンにより汚染された土壌
(環告46号による溶出試験により、1,1,1−トリ
クロロエタンで約1400μg/L、1,1−ジクロロ
エチレンで約50μg/L含有)1.2tonに対し、
本発明に係る脂肪酸やアルコールなどの実験材料(窒素
原子を含まないもの)、および比較として用いる従来技
術における比較材料を1重量%添加し、黒ボク土とロー
ムとを等量づつ均一に混合して形成した。上記のように
形成された汚染土壌には、栄養塩(窒素源)として濃度
100mg/Lのリン酸水素二アンモニウムを140L
/日の割合で供給した。上記状態において、実験開始か
ら20日経過後の汚染土壌32における1,1,1−ト
リクロロエタンおよび1,1−ジクロロエチレン濃度を
ガスクロマトグラフ質量分析法により測定した。また、
埋め戻した汚染土壌32の周囲の土(図4においてAか
らDで示した4隅における深さ50cmの地点の土)を
サンプリングし、土壌乾燥重量当たりの全炭素濃度と全
窒素濃度の4点平均値を求めた。これらの実験結果をま
とめて表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】表4に示すように、試験区の区画番号1か
ら区画番号7においては、実験材料としてステアリン
酸、ベヘニアルアルコール、ステアリン酸コレステロー
ル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテ、オレ
イン酸モノグリセライド、牛脂脂肪酸、芳香族ポリエス
テル樹脂(ε−カプロラクトンポリマー)をそれぞれ用
いた。比較区の区画番号8から区画番号12の比較材料
としては、セルロース粉末、カプリル酸、オレイン酸、
乳酸、エタノールのそれぞれを土壌中に混合して用い
た。また、比較区の区画番号13は、何も混合せず土壌
のみとした。
【0066】表4に示すように、本発明に係る低減剤を
用いた試験区の結果は、比較区として示した従来技術の
比較材料を用いた土壌および有機物を添加しない土壌
(区画番号13)とを比較すると、1,1,1−トリク
ロロエタンおよび1,1−ジクロロエチレンの減少が見
られた。なお、比較区の区画番号10のオレイン酸は、
不飽和脂肪酸であり、1,1,1−トリクロロエタンお
よび1,1−ジクロロエチレンの濃度は低いが、高い水
溶性を有しているため、土壌中で容易に拡散して2次汚
染が生じるという問題がある。また、汚染土壌32の周
囲の土中の全炭素濃度は、本発明で用いる脂肪酸または
アルコールなどの低減剤を用いた土壌の場合は、従来技
術の有機物を用いた場合に比べて低い値となった。な
お、実施例4においては窒素原子を含まない実験材料を
用いているため、リン酸水素二アンモニウムを土壌に供
給している。このため、すべての試験区において、汚染
土壌32の周囲の土中から窒素が検出された。この結果
から、本発明に係る硝酸態窒素および揮発性有機化合物
の低減方法によれば、周辺土壌への有機物の拡散、漏出
が最小限に止まり、高い揮発性有機化合物除去性能を有
しながら、有機物による2次汚染を効果的に防止するこ
とが可能である。
【0067】《実施例5》実施例5の硝酸態窒素および
揮発性有機化合物の低減方法では、前述の実施例4と同
じ実験施設(図4)を用いた。そして、本発明で用いる
脂肪酸、アルコールなどの低減剤としてステアリン酸を
用い、このステアリン酸と同時に平均粒径約15μmの
鉄粉を添加して、これを区画番号1の汚染土壌とした。
また、区画番号2の汚染土壌には、区画番号1の汚染土
壌と同濃度のステアリン酸と平均粒径約180μmのア
ルミ粉を添加した。これらの汚染土壌(区画番号1,
2)に対して、実施例4と同様の実験を行った。これら
の実験結果を表5に示す。
【0068】
【表5】
【0069】表5に示すように、区画番号1,2のいず
れの試験区においても鉄粉およびアルミ粉による還元作
用により、前述の実施例4と比較して揮発性有機化合物
の除去率の向上が認められた。
【0070】《実施例6》実施例6の硝酸態窒素および
揮発性有機化合物の低減方法では、前述の実施例4と同
じ実験施設(図4)を用いた。そして、本発明で用いる
脂肪酸、アルコールなどの低減剤として牛脂脂肪酸を用
い、予め培養した微生物を土壌に接種して実施例4と同
様の実験を行った。実施例6において用いた微生物は、
農地(茶畑)の地表から30cmの深さの地点から採取
された土壌に対して、1,1,1−トリクロロエタンを
5000μg/L、1,1−ジクロロエチレンを500
0μg/L、リン酸水素二アンモニウムを800mg/
L、唯一炭素源として牛脂脂肪酸0.5重量%となるよ
うに調整して、その培地を温度16℃にて12日間培養
したものである。実施例6の実験結果を表6に示す。
【0071】
【表6】
【0072】表6に示すように、実施例6においては微
生物の添加が有効に作用して、前述の実施例4と比較し
て揮発性有機化合物の除去率の向上が認められた。
【0073】《実施例7》実施例7の硝酸態窒素および
揮発性有機化合物の低減方法では、前述の実施例4と同
じ実験施設(図4)を用いた。そして、本発明で用いる
脂肪酸、アルコールなどの低減剤として窒素原子を含ん
だ下記物質群を用いて実施例4と同様の実験を行った。
試験区の区画番号1から区画番号5においては、窒素原
子を含んだ実験材料としてミリスチルアミン、ジステア
リルアミン、ステアリルアミンアセテート、ステアリン
酸アマイド、ジステアリルケトンをそれぞれ用いた。ま
た、比較区としての区画番号6と区画番号7において
は、実験材料としてメタノールと酢酸をそれぞれ用い、
区画番号8においては、有機物の添加を行わなかった。
実施例7においては、比較区の土壌に対して栄養塩(窒
素源)の添加は行わなかった。実施例7の実験結果をま
とめて表7に示す。
【0074】
【表7】
【0075】表7に示すように、比較区のいずれの汚染
土壌においても栄養塩の欠乏から1,1,1−トリクロ
ロエタンおよび1,1−ジクロロエチレンの減少は見ら
れなかった。しかし、実施例7の試験区の汚染土壌にお
いては窒素原子を含んだ物質群により効果的な減少を示
した。また、汚染土壌周囲の土中の有機物濃度(全炭素
濃度)および全窒素濃度に関して、実施例7の窒素原子
を含んだ物質群を用いた試験区は、従来技術の有機物を
用いた比較区にくらべて低い値となった。また、窒素を
含む栄養塩を添加していないため、全窒素濃度は全ての
区画で微少な値となった。また、本実施例ではリンの添
加は特に行わなかったが、土壌中に存在するリン成分を
使用して、目的を達成することができた。表7に示した
実験結果から明らかなように、実施例7の窒素原子を含
んだ物質群を用いることにより、水素供与体および窒素
源を固体として同時に添加できるため、水溶性の物質を
添加する必要がなく、有機物のみならず窒素による2次
汚染も効果的に低減させることができる。
【0076】《実施例8》実施例8の硝酸態窒素および
揮発性有機化合物の低減方法においては、主にテトラク
ロロエチレンにより汚染された土壌に設けられた井戸を
用いて実験を行った。事前の調査により、土壌の表面は
約125mが汚染されており、この地表から6m以下
にある帯水層が汚染されていることが判明していた。こ
の帯水層では、テトラクロロエチレン濃度が約0.25
mg/Lであった。汚染土壌にある井戸を通じて、ステ
アリルアミン30kgを6日間かけて徐々に添加し、9
0日後のテトラクロロエチレン濃度、全炭素濃度、およ
び全窒素濃度を井戸から採取した水により分析した。そ
の結果、90日後のテトラクロロエチレン濃度は0.0
8mg/Lに低下し、全炭素濃度の初期値に対する上昇
が0.2mg/Lに止まり、全窒素濃度は検出限界以下
であった。
【0077】なお、実施例8において用いたステアリル
アミンは、本発明に係る低減剤の一例であり、前述の各
実施例において試験区で用いた低減剤を使用することが
できることは云うまでもない。その場合、低減剤の選択
や添加量については、対象とする土壌の環境やコストな
どの諸条件を考慮して決定され、本発明の主眼を損なわ
ない範囲で変更できる。また、実施例8においては、本
発明に係る低減剤の土壌への添加方法として、該当土壌
に均一に混合することを例示したが、本発明はこのよう
な形態に限定されるものではなく、たとえば、本発明に
係る低減剤の物質群を高密度に集合させた壁状帯を地下
水の流れに対し直角方向に配置する方法や、雨水などの
浸透方向に直角に配置する方法を用いることもできる。
本発明は特定の低減剤の物質群に硝酸態窒素を含んだ水
に接触させることであるため、このような接触をもたら
す各種の配置が本発明に含まれることは云うまでもな
い。
【0078】
【発明の効果】以上、実施例について詳細に説明したと
ころから明らかなように、本発明は次の効果を有する。
本発明に係る土壌や地下水の硝酸態窒素および揮発性有
機化合物の低減方法は、地下水を汲み上げて他の位置へ
移動させる必要の無い原位置処理が可能であり、高い生
物学的脱窒能力や揮発性有機化合物の低減能力を有して
おり、有機物や窒素を環境中へ放出することによる2次
汚染が極めて小さい優れた効果を奏する。発明をある程
度の詳細さをもって好適な形態について説明したが、こ
の好適形態の現開示内容は構成の細部において変化して
しかるべきものであり、各要素の組合せや順序の変化は
請求された発明の範囲及び思想を逸脱することなく実現
し得るものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る実施例1において用いた人工土壌
実験施設の構成を示す断面図である。
【図2】本発明に係る実施例2において用いた人工地下
水実験施設の構成を示す断面図である。
【図3】本発明に係る実施例3において用いたカラム実
験装置の構成を示す図である。
【図4】本発明に係る実施例4から実施例7において用
いた実験施設の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 コンクリート枠 2 実験土壌 3 砂利層 4 測定水採取口 5 ニンジン苗 6 硝酸態窒素溶液添加用パイプ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 薦田 等 大阪府門真市大字門真1006番地 松下電器 産業株式会社内 Fターム(参考) 4D004 AA41 AB05 AB06 AC07 CA18 CC11 CC12 CC15 CC17 4D040 BB02 BB07 BB93

Claims (21)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素数が10以上の脂肪酸を土壌中に埋
    設することを特徴とする土壌における硝酸態窒素および
    揮発性有機化合物の低減方法。
  2. 【請求項2】 脂肪酸が直鎖状飽和脂肪酸である請求項
    1記載の土壌における硝酸態窒素および揮発性有機化合
    物の低減方法。
  3. 【請求項3】 炭素数12以上のアルコールを土壌中に
    埋設することを特徴とする土壌における硝酸態窒素およ
    び揮発性有機化合物の低減方法。
  4. 【請求項4】 アルコールが飽和アルコールである請求
    項3記載の土壌における硝酸態窒素および揮発性有機化
    合物の低減方法。
  5. 【請求項5】 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸と
    1価アルコールのエステルを土壌中に埋設することを特
    徴とする土壌における硝酸態窒素および揮発性有機化合
    物の低減方法。
  6. 【請求項6】 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸と
    多価アルコールのエステルまたはその誘導体を土壌中に
    埋設することを特徴とする土壌における硝酸態窒素およ
    び揮発性有機化合物の低減方法。
  7. 【請求項7】 炭素数が16以上の脂肪酸とグリセリン
    のエステルを土壌中に埋設することを特徴とする土壌に
    おける硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低減方法。
  8. 【請求項8】 炭素数が10以上の脂肪酸を地下水中に
    添加するかまたは地下水を炭素数が10以上の脂肪酸に
    通過させることを特徴とする地下水における硝酸態窒素
    および揮発性有機化合物の低減方法。
  9. 【請求項9】 脂肪酸が直鎖状飽和脂肪酸である請求項
    8記載の地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化
    合物の低減方法。
  10. 【請求項10】 炭素数12以上のアルコールを地下水
    中に添加するかまたは地下水を炭素数12以上のアルコ
    ールに通過させることを特徴とする地下水における硝酸
    態窒素および揮発性有機化合物の低減方法。
  11. 【請求項11】 アルコールが飽和アルコールである請
    求項10記載の地下水における硝酸態窒素および揮発性
    有機化合物の低減方法。
  12. 【請求項12】 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸
    と1価アルコールのエステルを地下水中に添加するかま
    たは地下水を炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸と1
    価アルコールのエステルに通過させることを特徴とする
    地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化合物の低
    減方法。
  13. 【請求項13】 炭素数が14以上の直鎖状飽和脂肪酸
    と多価アルコールのエステルまたはその誘導体を地下水
    中に添加するかまたは地下水を炭素数が14以上の直鎖
    状飽和脂肪酸と多価アルコールのエステルまたはその誘
    導体に通過させることを特徴とする地下水における硝酸
    態窒素および揮発性有機化合物の低減方法。
  14. 【請求項14】 炭素数が16以上の脂肪酸とグリセリ
    ンのエステルを地下水中に添加するかまたは地下水を炭
    素数が16以上の脂肪酸とグリセリンのエステルに通過
    させることを特徴とする地下水における硝酸態窒素およ
    び揮発性有機化合物の低減方法。
  15. 【請求項15】 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは
    炭素数12以上の脂肪酸アマイドを土壌に埋設すること
    を特徴とする土壌における硝酸態窒素および揮発性有機
    化合物の低減方法。
  16. 【請求項16】 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは
    炭素数12以上の脂肪酸アマイドを地下水中に添加する
    ことを特徴とする地下水における硝酸態窒素および揮発
    性有機化合物の低減方法。
  17. 【請求項17】 硫黄または硫黄化合物を土壌中に埋設
    することを特徴とする土壌や地下水における硝酸態窒素
    および揮発性有機化合物の低減方法。
  18. 【請求項18】 硫黄または硫黄化合物を地下水中に添
    加するか、または地下水を硫黄または硫黄化合物に通過
    させることを特徴とする土壌や地下水における硝酸態窒
    素および揮発性有機化合物の低減方法。
  19. 【請求項19】 生分解性樹脂を土壌中に埋設すること
    を特徴とする土壌や地下水における硝酸態窒素および揮
    発性有機化合物の低減方法。
  20. 【請求項20】 鉄またはアルミニウムを土壌または地
    下水に混入する請求項1、3、5、6、7、8、10、
    12、13、14、15、16、17、18、または1
    9のいずれかに記載の土壌や地下水における硝酸態窒素
    および揮発性有機化合物の低減方法。
  21. 【請求項21】 炭素数が12以上の脂肪アミンまたは
    炭素数12以上の脂肪酸アマイドを土壌に埋設する時ま
    たは地下水に添加する時に、あらかじめ炭素数が12以
    上の脂肪アミンまたは炭素数12以上の脂肪酸アマイド
    と対象とする被低減物質を含む培地で培養された微生物
    を混入する請求項15又は16のいずれかに記載の土壌
    や地下水における硝酸態窒素および揮発性有機化合物の
    低減方法。
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