JP4513261B2 - 地下水浄化システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、汚染地下水の生物学的浄化に係り、窒素化合物及びトリクロロエチレン、テトラクロロエチレンなどの有機塩素系化合物で汚染された地下水の浄化システムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の地下水浄化方法およびシステムに関しては、各種のものが提案され、知られている。例えば、地中の地下水を揚水ポンプで揚水し、この揚水した地下水に地上の装置によって、微生物、栄養塩(例えば窒素化合物、リン酸塩である硝酸カリウム、リン酸2水素化カリウム 炭酸ナトリウム等の無機栄養塩類)、を付与し、この地下水を再び地中に注水して有機塩素系化合物の汚染された地下水の浄化を行う方法がある(例えば、特許文献1および2)。
また、複数種類の有用微生物からなる有用微生物群、この有用微生物群の栄養塩(鉄、コバルト等の重金属)、有用微生物群の繁殖を補助する基質を含有する透水性の処理層(成形体)を形成し、この地中に埋設した処理層中で、汚染された地下水の浄化を行う方法がある(例えば、特許文献3)。
【0003】
【特許文献1】
特開平9−10752号公報(第6〜7頁、第1図)
【特許文献2】
特開平9−253688号公報(第4頁、第1図)
【特許文献3】
特開平11−333493号公報(第4〜6頁、第1図)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来の地下水の浄化方法、システムおいては、揚水した地下水にまたは地中に形成した処理層に含有させた従来の栄養塩類では水に対する溶解度が大きすぎ、供給する栄養塩の地下水への溶出が早く過剰な栄養塩の付与と、さらに長期的な安定した栄養塩の付与ができない。このため前記過剰栄養塩よる特に湖沼や内海などの閉鎖系の水系でのプランクトン、藻、赤潮の異常発生をまねく課題があった。
また、地下水を揚水ポンプで揚水し、この揚水した地下水に地上の装置によって、微生物等とともに、栄養塩を付与し、この地下水を再び地中に注水するシステムにおいては、栄養塩の供給量のバラツキによる過剰栄養化の恐れがあるとともに、システムの複雑化をまねく課題があった。
【0005】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、地下水中への過剰な栄養塩の付与による悪影響を防止し、さらに生息する微生物を増殖、活性化させて効率的に地下水の浄化を行うとともに地上に備える構成を簡略化した地下水浄化システムを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達するために、本発明は、炭素数が6以上のカルボン酸を主成分または炭素数が12以上のアルコールを主成分とするとともに、地下水流帯に接触するように地中に埋設された透水性を有する固体栄養塩付与体と、この固体栄養塩付与体の地下水流帯における下流側に設けた揚水井戸と、この揚水井戸から汲み上げた地下水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクの地下水を前記固体栄養塩付与体の下方から注水する注水管を備え、地下水中の嫌気性微生物に地中に埋設した固体栄養塩付与体からの栄養塩を付与して、前記嫌気性微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解(還元的脱塩素化反応)を促進するもので、固体栄養塩付与体は水に対する溶解度が小さく、従って栄養塩は水に対して徐々に溶解することになり、富栄養塩化による様々な悪影響を防止することができるとともに長期間栄養塩を安定して供給することができる。
また、貯留タンクからの地下水を、透水性を有する固体栄養塩付与体に注水することにより、注水のための穴を別途掘削する必要がなく、固体栄養塩付与体内の過剰栄養塩化と目詰まりを防止することができる。
また、地中の透水帯により近傍から注水することによって、効果的に固体栄養塩付与体に下方から注水することにより、効率的に地下水の循環を図ることができ、固体栄養塩付与体は徐々に溶解し、嫌気性菌の活動が促進され、地下水の嫌気性化が図れる。
【0007】
さらに前記嫌気性微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解(還元的脱塩素化反応)を促進することができる。また地上に備える構成の簡略化を図ることができる。
【0008】
【発明の実施の形態】
請求項1記載の発明は、炭素数が6以上のカルボン酸を主成分または炭素数が12以上のアルコールを主成分とした透水性を有する固体栄養塩付与体を備え、地下水中の微生物に地中に埋設した固体栄養塩付与体からの栄養塩を付与して、前記微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解を促進するもので、固体栄養塩付与体は水に対する溶解度が小さく、従って栄養塩は水に対して徐々に溶解することになり、富栄養塩化による様々な悪影響を防止することができるとともに長期間栄養塩を安定して供給することができる。
【0009】
さらに微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解を促進することができる。また地上に備える構成の簡略化を図ることができる。
【0012】
請求項記載の発明は、複数の固体栄養塩付与体を併設して一体化したもので、個々の固体栄養塩付与体を小形に製作することができ、また実施状況に応じて固体栄養塩付与体の全体の必要サイズを任意に選択することができる。
【0013】
請求項記載の発明は、揚水井戸と固体栄養塩付与体間の一定の汚染範囲に強制的な地下水流を発生させたもので、地下水の自然の流れが無いか非常に少ない状況等においても、地下水に固体栄養塩付与体から安定して栄養塩を供給することができる。
【0015】
【実施例】
以下、本発明の地下水浄化システムの実施例について、図面を参照しながら説明する。
(実施例1)
本発明の実施例1を、図1〜図4を参照しながら説明する。図1(a)は本実施例1に係る地下水浄化システムの一例を示す断面図、図1(b)は図1(a)の平面配置図、図2(a)は他の例を示す断面図、図2(b)は図2(a)の平面配置図、図3(a)〜(e)は固体栄養塩付与体の斜視図、図4は固体栄養塩付与体への注水状態を示す斜視図である。
【0016】
図1(a)(b)において、地中1を掘削し、ここに固体栄養塩付与体10を埋設している。この固体栄養塩付与体10から一定距離をおいて揚水井戸3を形成し、この中に揚水管4を位置させてポンプ5で地下水を汲み上げる。6は貯留タンクで、ポンプ5で汲み上げた地下水を貯留し、ここで貯留した地下水は注水管7を介して、固体栄養塩付与体10に注水され、注水された地下水は、透水性を有する固体栄養塩付与体10を通って地中の地下水に戻す。
固体栄養塩付与体10は、地下水の流れのある地下水流帯に接触するように埋設し、また揚水井戸3は固体栄養塩付与体10の地下水流の下流側に設けられている。図中の実線矢印は揚水および注水の流れ方向を示し、破線矢印は地下水の流れ方向を示す。
【0017】
固体栄養塩付与体10は水に対する溶解度が小さく、従って栄養塩は水に対して徐々に溶解することになり、富栄養塩化による様々な悪影響を防止することができるとともに長期間栄養塩を安定して供給することができる。さらに、自然条件下で生息する嫌気性微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解(還元的脱塩素化反応)を促進することができる。また、地上に備える構成の簡略化を図ることができる。
【0018】
また、地下水流中の一部から揚水した地下水の注水により、固体栄養塩付与体10から嫌気性微生物への栄養塩がより安定して供給されるとともに地中(B)2の土壌、地下水に栄養塩を広く拡散させることができる。また固体栄養塩付与体10の目詰まりを防止することができる。
【0019】
また、図2(a)(b)に示す実施例は、揚水井戸3を中央部にしてこの周囲に複数の固体栄養塩付与体10を配置したものである。図2(a)(b)に示すように、中央部に設けた揚水井戸3の周囲に複数の固体栄養塩付与体10を配置し、揚水井戸3の揚水管4からポンプ5で地下水を汲み上げる。
貯留タンク6でポンプ5が汲み上げた地下水を貯留し、ここで貯留した地下水は注水管7を介して、固体栄養塩付与体10に注水され、注水された地下水は、透水性を有する複数の固体栄養塩付与体10を通って地中の地下水に戻す。また、揚水井戸3に地下水のレベルセンサ(図示せず)を設置し、揚水ポンプ5は地下水位に応じて自動的に運転、停止をさせてもよい。
【0020】
尚、図1に示す実施例において、複数の揚水井戸3と固体栄養塩付与体10とを一定距離をおいて平行に対向させて配置し、上記した動作と同様に循環させても、揚水井戸3と固体栄養塩付与体10間の一定の汚染範囲に強制的な地下水流を発生させてもよい(図示せず)。
これにより、地下水の自然の流れが無いか非常に少ない状況等において、揚水井戸3と固体栄養塩付与体10間の一定の汚染範囲に強制的な地下水流を発生させるとともに、揚水井戸3と固体栄養塩付与体10間の土壌、地下水に固体栄養塩付与体10から嫌気性微生物への栄養塩が供給されるとともに、地中の土壌、地下水に自然条件下で生息する嫌気性微生物を増殖、嫌気性微生物を活性化させて効率的に有機塩素系化合物の分解(還元的脱塩素化反応)を促進し、地下水の浄化を行うことができる。
【0021】
次に、本発明の実施例における固体栄養塩付与体10の材料組成、構成例を図3に示す。固体栄養塩付与体10は、炭素数が6以上のカルボン酸を主成分または炭素数が12以上のアルコールを主成分としたものである。
【0022】
本発明に用いる固体栄養塩付与体10のカルボン酸としては、炭素数が6以上であることが必須であり、炭素数が6未満では水に対する溶解度が大きすぎ、短期間でその形状をとどめなくなり、一時的な過剰な栄養塩の付与と、さらに長期的な安定した栄養塩の付与ができないことから好ましくない。
また、炭素数の上限は特に設ける必要はないが、工業的に大量に入手可能な材料としては炭素数18程度と考えられるが、炭素数が18以下のものに限られるものではないことはいうまでもない。
また、本実施の形態に用いるカルボン酸は直鎖状構造を有し、さらには飽和モノカルボン酸であることが好ましい。
【0023】
また、本発明に用いる固体栄養塩付与体10のアルコールとしては、炭素数が12以上であることが必須であり、炭素数が12未満では水に対する溶解度が大きすぎ、短期間でその形状をとどめなくなり、一時的な過剰な栄養塩の付与と、さらに長期的な安定した栄養塩の付与ができないことから好ましくない。炭素数の上限は特に設ける必要はないが、工業的に大量に入手可能な材料としては炭素数20程度と考えられる。ただ、本発明におけるアルコールは炭素数20以下のものに限定されるものではない。
【0024】
前記カルボン酸やアルコールは、粒状体に形成するかまたは、主成分であるカルボン酸やアルコールをセルロース、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール等の生体親和性の高い材料を用いた坦体に坦持させ、坦持体として用いることができる。カルボン酸やアルコールを成形するためには、物質の融点以上に加熱した状態で金型などに挿入後、冷却固化させる方法などの通常の方法で容易になしうる(これらの基本的な構成等は特許第3298562号公報に記載されている)。
【0025】
これらは、例えば粒径が1から3mmの粒状体、板状や棒状体としての成形品またはカルボン酸やアルコールを通気性のあるウレタン体、連続発泡体、紐上または織布、不織布上に固定化(コーティング)する等の手段によって実用に供する成形品とすることができる。
さらに前記粒状体、坦持体等の成形品を内部へ水が進入可能な袋、もしくは箱に挿入して、地中に充填、埋設した状態で地下水を通過させるための透水性を有する固体栄養塩付与体10を構成するものである。
【0026】
次に固体栄養塩付与体10の構成例を図3(a)〜(e)で説明する。図3(a)および(b)は、坦持体を円状または多角形状の柱状体に成形したもので、(c)は、粒状体または一定の大きさに成形した多数の坦持体を、透水性を有する枠体1に収納して柱状体に構成したものある。
また、(d)のように板状に構成してもよく、さらに(e)に示すように、前記柱状体を複数用いてこれらを併設し一体化した固体栄養塩付与体10を構成してもよい。
特に、複数の固体栄養塩付与体10を併設して一体化したものは、個々の固体栄養塩付与体10を小形に製作することができ、実施状況に応じて固体栄養塩付与体10の全体の必要サイズを任意に選択することができる。また固体栄養塩付与体10は、透水性のあるフイルター、シート等で覆って地中に埋設してもよい。
尚、地中を掘削して形成した穴に前記粒状体、坦持体等の成形品を直接充填して固体栄養塩付与体10を構成してもよく、また充填する時に必要に応じて砂、砂利等を混入させてもよい。
【0027】
次に本発明の実施例における固体栄養塩付与体10への地下水供給の構成例を図4に示す。揚水した地下水を、固体栄養塩付与体10の下方から注水するもので、固体栄養塩付与体10の下方に設けた散水体8の開口9から注水するようにし、これによって固体栄養塩付与体10全体への均一な注水と地中の透水帯に対してより近傍から注水することで効果的に地下水の循環を図ることができる。また固体栄養塩付与体10の目詰まりを防止することができる。
【0028】
参考例1
次に本発明の参考例1に係る地下水浄化システムについて、図面を参照しながら説明する。図5(a)は本参考例1に係る地下水浄化システムの一例を示す断面図、図5(b)は固体栄養塩付与10へ窒素等の嫌気性をつくりだす構成を示す斜視図である。本参考例1が実施例1と異なる点は、地中の固体栄養塩付与体に対して、外部から窒素等を、供給管13を介して地下水に供給して嫌気性処理を行う点である。
図5(a)(b)において、地下水の流れのある地下水流帯に接触するように地中1を掘削し、ここに固体栄養塩付与体10を埋設している。
この固体栄養塩付与体10の下方に位置して多数の噴出口15を有する散気管14を設けて、散気管14に供給管13を介して気体供給ポンプ12から窒素(嫌気性手段)を供給する。この窒素は噴出口15から固体栄養塩付与体10内に流入して、固体栄養塩付与体10内を通過する地下水と接触させて嫌気性状態の環境をつくるものである。
固体栄養塩付与体10上方に捕集体16を設け、管路17を介してこの嫌気性菌から代謝されるガスを処理する有機溶剤処理装置18に連結している。固体栄養塩付与体10は実施例1の場合と同様のものを用いているものである。
本実施例2においても、実施例1と同様の効果が得られるもので、地下水に固体栄養塩付与体10から分解微生物への栄養塩が供給されるとともに、固体栄養塩付与体10を通過する地下水に窒素を接触させて、嫌気性処理を行って嫌気性化を図り、地中の土壌、地下水に自然条件下で生息する微生物を増殖、活性化させて効率的に地下水の浄化を行うことができる。
さらに、炭素数が6以上のカルボン酸を主成分または炭素数が12以上のアルコールを主成分とした固体栄養塩付与体10を地中に充填、埋設することによって、固体栄養塩付与体10は水に対する溶解度が小さく、従って栄養塩は水に対して徐々に溶解することになり、富栄養塩化による様々な悪影響を防止することができるとともに長期間栄養塩を安定して供給することができる。
また、本実施例において、地下水中の微生物に、固体栄養塩付与体10からの富栄養塩化の防止を図りつつ長期間栄養塩を安定して供給するとともに、嫌気性処理手段により分解微生物の活性化によるPCB、トリクロロエチレンなどの有機塩素系化合物の分解を促進することができる。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、本発明は、固体栄養塩付与体は水に対する溶解度が小さく、これによって栄養塩は水に対して徐々に溶解することになり、過剰栄養塩化による様々な悪影響を防止することができるとともに長期間栄養塩を安定して供給し、嫌気性微生物の増殖、嫌気性微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解(還元的脱塩素化反応)を促進することができる。また地上に備える構成の簡略化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)本発明の実施例1に係る地下水浄化システムを示す断面図
(b)同平面配置図
【図2】(a)本発明の実施例1に係る地下水浄化システムの他の例を示す断面図
(b)同平面配置図
【図3】(a)〜(e)本発明の実施例1に係る地下水浄化システムの固体栄養塩付与体の斜視図
【図4】本発明の実施例1に係る地下水浄化システムの固体栄養塩付与体への注水状態を示す斜視図
【図5】(a)本発明の参考例1に係る地下水浄化方法を示す断面図
(b)固体栄養塩付与2へ窒素を供給する構成をす斜視図
【符号の説明】
1 地中
2 地中( B )
3 揚水井戸
4 揚水管
5 ポンプ
6 貯留タンク
7 注水管
8 散水体
9 開口
1 0 固体栄養塩付与体
1 2 気体供給ポンプ
1 3 供給管
1 4 散気管
1 5 噴出口
1 6 捕集体
1 7 管路
1 8 有機溶剤処理装置

Claims (3)

  1. 炭素数が6以上のカルボン酸を主成分または炭素数が12以上のアルコールを主成分とするとともに、地下水流に接触するように地中に埋設された透水性を有する固体栄養塩付与体と、この固体栄養塩付与体の地下水流における下流側に設けた揚水井戸と、この揚水井戸から汲み上げた地下水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクの地下水を前記固体栄養塩付与体の下方から注水する注水管を備え、地下水中の微生物に地中に埋設した前記固体栄養塩付与体からの栄養塩を付与して、前記微生物の活性化による有機塩素系化合物の分解を促進する地下水浄化システム。
  2. 複数の固体栄養塩付与体を併設して一体化した請求項1に記載の地下水浄化システム。
  3. 揚水井戸と固体栄養塩付与体間の一定の汚染範囲に強制的な地下水流を発生させる請求項1または2記載の地下水浄化システム。
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