JP2002360153A - ベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤 - Google Patents

ベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤

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隆三 上野
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昭彦 田畑
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英明 佐藤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 焼成・冷却後の製品の体積、外観、味および
香りに影響を与えることなくベーカリー製品を長期間に
渡って保存することのできる、ベーカリー製品保存用被
覆有機酸製剤を提供する。 【解決手段】 64〜98℃の融点を有する被覆剤で有
機酸を被覆して成るベーカリー製品、ただし酵母発酵で
製造されるものを除く、保存用被覆有機酸製剤を提供す
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、酵母発酵で製造さ
れるものを除くベーカリー製品保存用の被覆有機酸製剤
に関する。尚、以下の記述中、特に断りのない場合には
ベーカリー製品は酵母発酵で製造されるものを除いたも
のを意味するものとする。
【0002】
【従来の技術】食品の保存性を向上させるには、言うま
でもなく微生物の汚染度を可能な限り低くすることにあ
る。そのため、従来から食品の保存を目的として、食品
毎の性状に適した様々な保存料が提案されている。その
中でも最も一般的に、且つ広範囲の食品に用いられてい
るものがソルビン酸である。ソルビン酸は安定な化合物
であり、食品の味や香りに影響を与えることが少なく、
且つ細菌、カビ、酵母類に対し優れた抗菌力を有するた
め、以前から食品分野、特に魚肉練り製品や魚介乾製
品、漬け物等の分野で幅広く用いられてきた代表的な食
品保存料の一つである。ところが、魚肉すり身中にソル
ビン酸を直接添加すると、pHが低下し、その低下に伴
い魚肉練り製品の弾力が低下するため、魚肉練り製品の
品質が著しく低下する。このような問題点を解決するた
めに魚肉練り製品の分野では、ソルビン酸を油脂類で被
覆した、所謂被覆ソルビン酸製剤が用いられている。被
覆ソルビン酸製剤に使用される油脂類としては、牛脂硬
化油、菜種油硬化油、大豆油硬化油等の硬化油が知られ
ているが、菜種油硬化油、大豆油硬化油等は融点が高
く、これらを用いた被覆ソルビン酸製剤を魚肉練り製品
に使用すると、斑点が生じ、魚肉練り製品としての価値
を低下させるため、実際には融点の低い牛脂硬化油が被
覆剤として使用されてきた。このような被覆ソルビン酸
製剤を魚肉すり身に添加すると、常温ではソルビン酸が
殆ど溶出しないため、pHが低下せず、加熱工程後にソ
ルビン酸が溶出するため、魚肉練り製品の弾力を阻害せ
ず、且つ優れた保存性を有する魚肉練り製品を得ること
ができる。
【0003】一方、ベーカリー製品(酵母発酵で製造さ
れるものも含む)の保存には、主にプロピオン酸、又は
その塩類(主にナトリウム塩)が用いられてきた。しかし
ながら、プロピオン酸やその塩類は、酵母に対しては効
果が無く、その他のカビや細菌に対してもソルビン酸に
比べ抗菌力が弱い上、特有の臭気を有するために十分な
量を添加することができない実状があり、ベーカリー製
品(酵母発酵で製造されるものも含む)の保存料としては
十分なものとは言えなかった。又、ソルビン酸は酵母類
に対しても抗菌性を示すため、ベーカリー製品の製造過
程でソルビン酸を直接添加すると、焼成時に膨張しない
という欠点があることも知られていた。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、スポン
ジケーキの製造過程で、従来魚肉練り製品用として知ら
れていた被覆ソルビン酸製剤を添加してスポンジケーキ
の製造を試みたが、融点の低い被覆剤で被覆した被覆有
機酸製剤を用いた場合には、焼成の早期に有機酸が溶出
し、焼成・冷却後のスポンジケーキの体積が無添加のも
のに比べ著しく減少してしまうという問題があった。ま
た、融点の高い被覆剤で被覆した被覆有機酸製剤を用い
た場合には、焼成直後、被覆剤が完全に溶解しておら
ず、即ち有機酸が完全に溶出しておらず、その結果とし
て保存性が悪化するという問題が生じた。本発明の目的
は、特にベーカリー製品の保存に適し、焼成時にベーカ
リー製品の膨らみを阻害することのない、被覆有機酸製
剤を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】これまで、ベーカリー製
品の焼成時に膨らみを阻害せず、且つ保存性を与えるこ
とのできる食品保存剤は知られていなかった。そこで、
本発明者らは鋭意研究の末、焼成・焼成・冷却後の製品
の体積、外観、味、香りに影響を与えることなく、ベー
カリー製品を長期間に渡って保存することのできるベー
カリー製品添加用被覆有機酸製剤を完成させるに至っ
た。
【0006】即ち、本発明は、64〜98℃、好ましく
は64〜68℃の融点を有する被覆剤で有機酸を被覆し
て成るベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤に関する。
【0007】本発明に用いられる有機酸としては、ソル
ビン酸、フマル酸等、一般に食品に用いられているもの
が利用できるが、食品に添加した際の味や抗菌力の点か
らソルビン酸が好ましい。有機酸としてソルビン酸を用
いる場合、ソルビン酸と被覆剤との成分比は、1:1〜
1:10程度が好ましく、1:1〜1:3程度であれば
より好ましい。
【0008】本発明において有機酸を被覆するために用
いられる被覆剤は、64〜98℃の融点を有するもので
あれば特に制限されないが、64〜68℃の融点を有す
るものが好ましい。この範囲の融点を有する被覆剤を用
いることで焼成時にベーカリー製品の膨張を阻害するこ
と無く、焼成後には保存性に優れたベーカリー製品を得
ることが可能となる。ベーカリー製品に添加した際の味
や香りを考慮すると被覆剤としては硬化油が好ましく用
いられる。その様な硬化油としては、菜種油硬化油、大
豆油硬化油、ひまし油硬化油等の一般に市販されている
硬化油が挙げられる。その中でも菜種油硬化油が特に好
ましい。又、これら硬化油は、被覆剤としての融点が6
4〜98℃の範囲内であれば、2種以上を含有していて
もよく、さらに他の成分として、ミツロウ、脂肪酸(パ
ラフィン、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸
等)、脂肪酸のグリセライド(モノ、ジ、トリ)、ソルビ
タン脂肪酸エステル、レシチン等を含有していてもよ
い。硬化油へこれらの成分を被覆剤に混合する際の混合
割合としては、被覆剤としての融点が64〜98℃の範
囲をはずれないように適宜調整すれば良い。例えばレシ
チンを混合する場合には、硬化油100重量部に対して
0.01〜100重量部程度が好ましく、0.05〜10
重量部混合するのがより好ましい。
【0009】本発明において、有機酸を被覆剤で被覆す
る方法としては、被覆剤、例えば硬化油を加熱溶融して
有機酸と混合後、溶融造粒、押出造粒、解砕造粒、又は
圧縮成型する方法や硬化油を溶媒に溶解して有機酸と混
合後、噴霧乾燥する方法等が考えられる。溶融造粒する
方法が好ましく用いられる。こうして得られる被覆粒子
は、取り扱い性やベーカリー製品に添加した際の分散性
等を考慮すると、12メッシュ以下となるような粒径を
有するものが好ましい。
【0010】本発明でいうベーカリー食品は、穀粉原
料、例えば小麦およびコーンスターチなどに、つなぎ成
分、例えば水、牛乳、卵およびバター等を加えて生地を
形成し、生地を加熱調理、例えば焼成、油で揚げる、蒸
す等することによって膨張させて得られる食品をいう。
加熱調理により膨張させるために、生地には通常ベーキ
ングパウダー、重曹、卵、バターおよびマーガリンなど
が添加される。なお、本発明のベーカリー食品には、酵
母発酵によって膨張されるものは含まれない。本発明の
ベーカリー食品は、それぞれの食品を製造する上で必要
な公知の副材料、例えば卵、バター、マーガリン等の油
脂類、砂糖および塩などを加えてもよい。本発明の被覆
有機酸製剤を利用可能なベーカリー製品として具体的に
は、スポンジケーキ、アメリカンマフィン、ドーナツ等
があげられ、その中でもスポンジケーキに添加する場合
が最も効果が高い。
【0011】又、従来から食品分野で一般的に用いられ
ている食品保存剤で、加熱加工時ににベーカリー製品の
膨張を阻害しないものであれば、本発明の被覆有機酸製
剤と併用することも可能である。その様な食品保存剤と
しては、ソルビン酸カリウム、プロピオン酸ナトリウム
等が例示される。これらの食品保存剤と本発明の被覆有
機酸製剤を併用することにより、より保存性に優れたベ
ーカリー製品を得ることができる。
【0012】以下、実施例を挙げて本発明を詳述する。
【実施例】実施例1 (被覆ソルビン酸製剤の製造)レシチン1gと菜種油硬化
油666gを加熱溶解し、約100℃に達した時点で撹
拌しつつソルビン酸333gを徐々に添加した。これを
ホモミキサーにより8000rpmで5分間、均一に混
合した後、約80℃に加温した滴下ロート(ロートの内
径:2mm)に充填した。ロートより5000rpmで
回転しているアトマイザーに滴下し、大気中に噴霧、冷
却することで被覆ソルビン酸製剤を得た。得られた製剤
を50℃、1.5時間静置し、実施例の被覆ソルビン酸
製剤として以下の試験に用いた。又、菜種油硬化油に代
えて大豆油硬化油を用い、上記と同様の製法で被覆ソル
ビン酸製剤を製造した。但し、大豆油硬化油の場合は、
60℃、1.5時間静置して得た被覆ソルビン酸製剤を
以下の試験に用いた。更に比較例として菜種油硬化油に
代えて牛脂硬化油を用い、上記と同様の製法で被覆ソル
ビン酸製剤を製造し、45℃、1時間静置して比較例の
被覆ソルビン酸製剤を得た。
【0013】(被覆剤の融点の測定)上記製法により得ら
れた被覆ソルビン酸製剤を予め常温・真空下で1時間乾
燥した後、密封試料容器(Ag製、15μl)に入れ、示
差走査熱量計(DSC6200型:セイコーインスツル
メント社製)により、温度範囲30〜140℃、昇温速
度4℃/minの条件で測定し、ピークトップを融点と
した。その結果、菜種油硬化油を使用した被覆剤の融点
は68℃、大豆油硬化油を使用した被覆剤の融点は68
℃、牛脂硬化油を使用した被覆剤の融点は60℃であっ
た。
【0014】実施例2 (スポンジケーキの製造)全卵112.5gを約37℃に
加温し、ハンドミキサーにより30秒混合した。次に上
白糖93.75gを添加し、40℃の温浴中で比重が0.
28g/ccになるまで混合した後、予め本発明の被覆
ソルビン酸製剤を添加した薄力粉93.75gを加え、
ゴムベラで混合して生地を調製した。得られた生地をケ
ーキ型(直径:18cm)に流し込み、約10cmの高さ
から3回程度落として生地中の空気を抜いた後、オーブ
ンにて170℃、30分間焼成した。焼成後、得られた
スポンジケーキを約10cmの高さから3回程度落とし
てヒビを入れ、スポンジケーキ内の空気を抜いて冷却し
た。尚、薄力粉に予め添加する本発明の被覆ソルビン酸
製剤は、篩いにかけ48メッシュ以下としたものを生地
全量に対して0.3重量%(ソルビン酸として0.1%)添
加した。又、比較例として牛脂硬化油を使用した被覆ソ
ルビン酸製剤0.3%(ソルビン酸として0.1%)、ソル
ビン酸0.1%、ソルビン酸カリウム0.14%(ソルビ
ン酸として0.1%)、プロピオン酸カルシウム0.12
%(プロピオン酸として0.1%)を添加して同様にスポ
ンジケーキを製造した。下記に各試験区に使用した薬剤
を示す。
【0015】本発明1:菜種油硬化油を使用した被覆ソ
ルビン酸製剤0.3% 本発明2:大豆油硬化油を使用した被覆ソルビン酸製剤
0.3% 比較例1:牛脂硬化油を使用した被覆ソルビン酸製剤
0.3% 比較例2:ソルビン酸0.1% 比較例3:ソルビン酸カリウム0.14% 比較例4:プロピオン酸カルシウム0.12%
【0016】(スポンジケーキの体積の測定)容積350
0cm(直径21cm×高さ10cm)の容器にスポン
ジケーキを入れ、容器とスポンジケーキの空隙に粟粒を
流し込み、容器内をスポンジケーキと粟粒で充満させた
後、使用した粟粒をメスシリンダーに移し、体積を測定
した。粟粒の体積を容器容積から減じたものをスポンジ
ケーキの体積とした。更にスポンジケーキの重量を測定
し、100g当たりの体積を算出した。
【0017】(スポンジケーキの保存試験)製造したスポ
ンジケーキを30℃の恒温器中に保存し、経日的に外観
を観察した。 (結果)本発明の被覆ソルビン酸製剤を添加したスポンジ
ケーキは、焼成時の膨張阻害が無く、保存性も良好であ
った。結果を表1、2に示す。
【0018】
【表1】体積の測定
【0019】
【表2】外観観察(カビ発生の有無) 注)カビ発生なし:−,カビ確認:+
【0020】実施例3 (アメリカンマフィンの製造)ショートニング8.2g、
食塩0.37g、上白糖10.25gを比重が0.7とな
るまでハンドミキサーで混合し、そこに全卵8.2gを
添加して比重が0.6となるまでハンドミキサーで混合
した。次に牛乳22.13g、水8.2g、バニラエッセ
ンス0.03gを加え、ハンドミキサーで1分30秒混
合した。さらに予め薬剤とベーキングパウダーを添加済
みの小麦粉42.82g(薄力粉40.98g、ベーキン
グパウダー1.64g、添加剤0.2g)を添加し、ゴム
べらで混合して生地を調製した。調製した生地の全量を
マフィン型(直径6.5cm)に流し込み、160℃のオ
ーブンで35分間焼成した。焼成後、室温にて冷却し、
アメリカンマフィンを得た。尚、薄力粉に予め添加する
本発明の被覆ソルビン酸製剤は、篩いにかけ48メッシ
ュ以下としたものを生地全量に対して0.6重量%(ソル
ビン酸として0.2%)添加した。又、比較例としてソル
ビン酸0.1%、ソルビン酸0.2%、ソルビン酸カリウ
ム0.25%(ソルビン酸として0.2%)、プロピオン酸
カルシウム0.27%(プロピオン酸として0.2%)を添
加して同様にアメリカンマフィンを製造した。下記に各
試験区に使用した薬剤を示す。
【0021】本発明3:菜種油硬化油を使用した被覆ソ
ルビン酸製剤0.6% 比較例5:ソルビン酸0.1% 比較例6:ソルビン酸0.2% 比較例7:ソルビン酸カリウム0.25% 比較例8:プロピオン酸カルシウム0.27%
【0022】(アメリカンマフィンの体積の測定)実施例
2と同様の方法でアメリカンマフィンの体積を測定し
た。 (アメリカンマフィンの保存試験)製造したアメリカンマ
フィンを30℃の恒温器中に保存し、経日的に菌数を測
定した。 (菌株測定方法)標準寒天培地(日本製薬(株)製)22.5
gを精製水1000mlに加熱溶解し、121℃で15
分間高圧蒸気滅菌した後、これを50℃に保ちながら、
検体1mlを入れたシャーレに約20ml注入し、混釈
しながら液体を凝固させ、37℃で48時間培養した。
その後、形成されたコロニー数をカウントした。尚、検
体は、アメリカンマフィン約5gを滅菌済み生理食塩水
(NaCl、0.9%)で10倍希釈し、ストマッカーに
て十分混合した液の上澄みを使用した。但し、コロニー
数が多く、コロニーの重なりによりカウントが困難であ
ることが予想される場合は、適時、同生理食塩水にて上
澄みを10倍系列で希釈したものを使用した。 (結果)本発明の被覆ソルビン酸製剤を添加したアメリカ
ンマフィンは、焼成時の膨張阻害が無く、保存性も良好
であった。結果を表3、4に示す。
【0023】
【表3】体積の測定
【0024】
【表4】保存試験
【0025】
【発明の効果】本発明の被覆有機酸製剤を用いることに
より、焼成後の製品の体積、外観、味、香りに影響を与
えることなく、保存性の高いベーカリー製品を製造する
ことができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田畑 昭彦 兵庫県川西市東多田3−1−6−401 (72)発明者 佐藤 英明 兵庫県西宮市高塚町7−18 上野製薬第2 紫光寮2 Fターム(参考) 4B032 DB06 DB13 DK07 DK18 DL20

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 64〜98℃の融点を有する被覆剤で有
    機酸を被覆して成るベーカリー製品、ただし酵母発酵で
    製造されるものを除く、保存用被覆有機酸製剤。
  2. 【請求項2】 被覆剤が64〜68℃の融点を有する請
    求項1に記載のベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤。
  3. 【請求項3】 被覆剤が、菜種油硬化油、大豆油硬化
    油、ひまし油硬化油から成る群から選択される1または
    2種以上の硬化油を含有する請求項1または2に記載の
    ベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤。
  4. 【請求項4】 被覆剤が、菜種油硬化油およびレシチン
    より成る請求項3記載のベーカリー製品保存用被覆有機
    酸製剤。
  5. 【請求項5】 有機酸が、ソルビン酸およびフマル酸か
    ら成る群から選択される前記請求項いずれか1項に記載
    のベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤。
  6. 【請求項6】 有機酸がソルビン酸である請求項5記載
    のベーカリー製品保存用被覆有機酸製剤。
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