JP2002348641A - 建築・土木構造用Cr含有鋼板およびその製造方法 - Google Patents
建築・土木構造用Cr含有鋼板およびその製造方法Info
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Abstract
ばかりでなく、長時間耐食性および溶接熱影響部の靱性
にも優れた建築・土木構造用Cr含有鋼板を安価に提供す
ることにある。 【解決手段】 この発明のCr含有鋼板は、所定の鋼組成
を有し、引張強さ(TS)が350〜450MPaでかつ、0.1%耐
力が引張強さ(TS)に対して70%以下であることを特徴
とする。また、この発明のCr含有鋼板の製造方法は、所
定の鋼組成を有する鋼素材に対して熱間圧延を行なった
後、Ac1変態点(℃)以上でかつ750℃超の温度に1時間
以上保持した後、50℃/h以下の冷却速度で550〜700℃
の温度域内の所定温度まで冷却した後、前記所定温度で
2時間以上の保熱処理を行うか、あるいは、700℃から5
50℃までの冷却時間が5時間以上となる徐冷処理を行
い、さらに500℃までを50℃/h以下の冷却速度で冷却す
ることを特徴とする。
Description
その製造方法に関するものであり、より詳細には、鋼板
(母材)の強度、靱性に優れているばかりでなく、長時
間(例えば100年程度)使用による腐食に伴う強度低下
が小さく(以下「長時間耐食性に優れる」という。)、
溶接熱影響部の靱性にも優れた建築・土木構造用Cr含有
鋼板を安価に製造することにある。また、この鋼板は、
特に構造物の完成後に人目に触れず、しかも外壁材のよ
うな厳しい環境にさらされない用途に使用するのに適し
ている。なお、本発明における鋼板は、鋼帯を含むもの
とする。
主にSS400等の普通鋼材、SM490等の高張力鋼材、および
これらの鋼材に塗装やめっきを施した表面処理鋼材が使
用されてきた。しかしながら、近年の建物の大型化や設
計の多様性に伴い、各種鋼材や材料の利用が検討されは
じめている。
サイクルコスト(LCC)を重視した材料選定が検討され
るようになってきており、例えば住宅に対しては100年
以上の寿命を前提とした設計が求められ始めている。構
造物の長寿命化を考えた場合、めっき鋼板のめっき厚を
厚くする方法も考えられるが、溶接を必要とする建築構
造物を考えた場合、溶接後の溶接部の処理に多大な負荷
を要し、実用化には適さないという問題がある。
保守費用がほとんど必要なく、またリサイクルも容易で
あるFe−Cr系合金の、建築・土木構造用材料への適用が
大いに期待されている。
属組織から、SUS430に代表されるフェライト系ステンレ
ス鋼、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレス
鋼、SUS410に代表されるマルテンサイト系ステンレス
鋼、およびSUS329に代表される2相ステンレス鋼に大別
される。このような各種Cr含有鋼の中で、オーステナイ
ト系ステンレス鋼は、材料強度、耐食性、溶接性、溶接
部靱性、および汎用性の観点で優れ、従来から建築・土
木構造用材料としての適用が試みられてきた。
ス鋼には、(1)Ni、Cr等の合金元素を多量に含有して
いるため、普通鋼に比べ格段に高価である、(2)応力
腐食割れ感受性が高い、(3)普通鋼に比べて熱膨張率
が大きく熱伝導度が小さいため、溶接時の熱影響に起因
した歪みが蓄積し易く、精度を要求される部材等への適
用が難しい、といった問題があることから、従来、普通
鋼やこれに塗装あるいはめっきを施した表面処理鋼が使
用されていた汎用構造材への適用は難しく、適用範囲が
制限されるという問題があった。
装を施した表面処理鋼の代替として、オーステナイト系
ステンレス鋼よりもCr含有量の少ないCr含有鋼の建築・
土木用材料への適用が検討されており、特にマルテンサ
イト系ステンレス鋼の建築・土木用材料への適用が考え
られている。マルテンサイト系ステンレス鋼は、前述の
ように、高価なNiを多く含むオーステナイト系ステンレ
ス鋼に比べ格段に安価であり、また熱膨張率が小さくか
つ熱伝導率が大きいことに加え、普通鋼に比べ著しく耐
食性に優れ、しかも高い強度を有するという特徴があ
る。
は、高Cr含有鋼で問題となるσ脆性や475℃脆性等の心
配がなく、さらにオーステナイト系ステンレス鋼で問題
となる塩化物イオンを含む腐食環境下での応力腐食割れ
が生じる心配もないという利点がある。しかしながら、
SUS410鋼に代表されるマルテンサイト系ステンレス鋼
は、C含有量が0.1mass%程度と高いため、溶接部靱性
や溶接部の加工性に劣り、しかも溶接に際しては予熱を
必要とするため溶接作業性も劣ることから、溶接が必要
な部材への適用には問題を残していた。
13463号公報には、Cr:10〜18mass%、Ni:0.1〜3.4mas
s%、Si:1.0mass%以下、およびMn:4.0mass%以下を
含有し、さらにC:0.030mass%以下、N:0.020mass%
以下に低減し、溶接熱影響部にマッシブマルテンサイト
組織を生成させることによって、溶接部の性能を向上さ
せた溶接構造用マルテンサイト系ステンレス鋼が提案さ
れている。
0〜13.5mass%、Si:0.5mass%以下、およびMn:1.0〜
3.5mass%を含有し、またC:0.020mass%以下、N:0.0
20mass%以下に低減し、さらにNiを0.1mass%未満に低
減することによって、溶接前後における予熱、後熱を必
要としない、溶接部靱性および加工性に優れた構造用マ
ルテンサイト系ステンレス鋼が提案されている。
特公昭57−28738号公報に開示された技術による鋼材
は、建築用部材の代表であるSS400鋼並みの低強度とす
ることが困難であり、たとえ熱処理により低強度とした
場合でも、耐力(PS)と引張強さ(TS)の比((PS/T
S)×100(%))で表される降伏比(YR)の値が高く、
構造部材として用いた場合の耐震性に劣り、しかも熱処
理に伴う鋭敏化により、長時間耐食性に劣るため、腐食
により強度が著しく低下するという問題があった。
0.005〜0.1mass%、Si:0.05〜1.5mass%、Mn:0.05〜
1.5mass%、Cr:8〜16%を含有し、またN:0.05mass%
以下、(C+N):0.1mass%以下、P:0.04mass%以
下、S:0.05mass%以下に低減し、母材部をフェライト
相組織とし、また、溶接熱影響部に体積率で50%以上の
マルテンサイト相を析出させることにより、溶接部靭性
を改善した建築構造用ステンレス鋼が提案されている。
開示された技術による鋼は、降伏比(YR)が60%程度に
低下しているものの、引張強さ(TS)が455〜580MPaと
高く、曲げ加工や形鋼への成形加工に際し負荷が大きい
という問題があった。
有鋼板、特に鋼板(母材)の強度、靱性に優れているば
かりでなく、長時間耐食性および溶接熱影響部の靱性に
も優れた建築・土木構造用Cr含有鋼板およびその安価な
製造方法を提供することにある。
達成するため鋭意検討を行ったところ、組成成分の適正
化を図った鋼を適正条件で熱処理することによって、強
度、靭性、および長時間耐食性の全てを満足し、しかも
溶接熱影響部の靱性に優れた鋼板を製造できることを見
出した。
成したものである。すなわち、本発明の要旨は以下のと
おりである。 (1)質量%で、C:0.0015〜0.02%、N:0.0015〜0.
02%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:5%超、1
3%未満、Al:0.1%以下、P:0.05%以下、S:0.03%
以下、およびNi:0.01〜3.0%を含有し、残部がFeおよ
び不可避的不純物からなる鋼組成を有し、引張強さ(T
S)が350〜450MPaでかつ、0.1%耐力が引張強さ(TS)
に対して70%以下であることを特徴とする建築・土木構
造用Cr含有鋼板。
量%でCo:0.01〜1.0%、V:0.01〜0.5%、W:0.001
〜0.05%のうちの1種または2種以上を含有することを特
徴とする上記(1)に記載の建築・土木構造用Cr含有鋼
坂。
量%でCu:3.0%以下およびMo:3.0%以下のうちの1種
または2種を含有することを特徴とする上記(1)また
は(2)に記載の建築・土木構造用Cr含有鋼板。
量%でB:0.0002〜0.0030%を含有することを特徴とす
る上記(1)、(2)または(3)に記載の建築・土木
構造用のCr含有鋼板。
N:0.0015〜0.02%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜3.0
%、Cr:5%超、13%未満、Al:0.1%以下、P:0.05%
以下、S:0.03%以下、およびNi:0.01〜3.0%を含有
し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有
する鋼素材に対して熱間圧延を行なった後、下記(1)
式にて定義されるAc1変態点(℃)以上でかつ750℃超
の温度に1時間以上保持した後、50℃/h以下の冷却速度
で550〜700℃の温度域内の所定温度まで冷却する1次冷
却処理を施した後、前記所定温度で2時間以上の保熱処
理を行うか、あるいは、700℃から550℃までの冷却時間
が5時間以上となる徐冷処理を行い、さらに500℃まで
を50℃/h以下の冷却速度で冷却する2次冷却処理を施
すことを特徴とする建築・土木構造用Cr含有鋼板の製造
方法。
C、N、Ni、MnおよびCuはそれぞれ元素の含有量(質量
%)を意味する。
下記a群〜c群のうちの1種または2種以上を含有するこ
とを特徴とする上記(5)に記載の建築・土木構造用の
Cr含有鋼板の製造方法。
W:0.001〜0.05%のうちの1種または2種以上 b群:質量%でCu:3.0%以下およびMo:3.0%以下のうち
の1種または2種 c群:質量%でB:0.0002〜0.0030%
0〜45OMPaでかつ、0.1%耐力が引張強さ(TS)に対して
70%以下である特性を有し、建築・土木構造用部材とし
ての使用にあたり、優れた長時間耐食性を有する。尚、
ここでいう「優れた長時間耐食性」とは、100年の使用
においても、具体的には、後述する塩水噴霧→乾燥→湿
潤を1サイクルとする100年の使用を模擬した腐食試験
の後においても、腐食に伴う強度低下が使用前の10%以
下である性能を意味する。
溶接部の靱性劣化の原因となる熱影響部での粗大粒の生
成を、該熱影響部での組織を実質的にマルテンサイト組
織とすることにより抑え、良好な溶接部靱性を有する。
さらに、本発明によるCr含有鋼の製造方法によれば、N
i、Cu、Cr、Moなどの元素を極端に増量することや、N
b、Tiの添加、あるいはC、Nの低減といった製鋼段階
でのコストアップを伴うことなしに、優れた長時間耐食
性を有する建築・土木構造用鋼を得ることができる。
明する。まず、本発明において、Cr含有鋼板の成分組成
を上記範囲に限定した理由について説明する。尚、以下
の成分組成において示す「%」は全て質量%を意味す
る。
よび溶接割れ防止のためには、可能な限り低減するのが
好ましく、また、過度に添加すると強度が高くなり、目
標とする強度が得られない。さらに、CおよびNは、溶
接熱影響部のマルテンサイト相の硬さに大きな影響を及
ぼすばかりでなく、炭窒化物の析出に伴うCr欠乏層の形
成を助長し、耐食性を劣化させる原因となる。このため
CおよびNの上限は、ともに0.02%とした。一方、Cお
よびN量の過度の低減は、精錬コストの増大を招くばか
りでなく、溶接熱影響部でのマルテンサイト生成能を低
下させ、粗大フェライト粒の生成を助長し、溶接熱影響
部の靱性を劣化させる。このためCおよびNの下限を、
ともに0.0015%に限定した。尚、CおよびNのより好ま
しい組成範囲は、ともに0.0020〜0.010%である。
0.1%未満では十分な脱酸効果が得られず、一方、1.0%
を超える含有は、靱性や加工性の低下を招くばかりでな
く、溶接熱影響部でのマルテンサイト生成能を低下させ
る。このためSi含有量は0.1〜1.0%に限定する。尚、Si
含有量のより好ましい組成範囲は、0.1〜0.5%である。
のマルテンサイト生成能を増加させ、靱性を改善する効
果をもつ。Mnはまた、Siと同様、脱酸剤としての働きを
もつ。しかし0.1%未満の含有ではその効果に乏しく、
一方、3.0%を超えて含有すると加工性の低下やMnS形成
に伴う耐食性の低下を招くため、Mn含有量を0.1〜3.0%
に限定した。尚、Mn含有量のより好ましい組成範囲は0.
1〜1.5%である。
は、外壁材のような厳しい腐食環境での使用は想定して
いないが、構造物の完成後に人目に触れず、よりマイル
ドな腐食環境での使用においても、長期間の使用に際し
錆汁がたれてこないことが必要であるが、Cr含有量が5
%以下だと錆汁が生じる場合がある。一方、本発明に関
わる安価なCr含有鋼においては、13%以上のCrを鋼中に
含有させることはコスト増加を招く。このため、Cr含有
量は5%超、13mass%未満に限定する。
すると酸化物系介在物が増加し、製鋼段階でのノズル詰
まり等の原因となったり、へげ等の表面欠陥の原因とな
り耐食性低下を招く。このためAl含有量の上限は0.1%
に限定した。
り、その含有量が0.05%を超えると、熱間加工時に割れ
を生じさせたり耐食性の劣化が顕著になる。このため、
P含有量は0.05%以下に限定した。尚、P含有量のより
好ましい組成範囲は0.03%以下である。
に、MnSとして発銹の起点となる。またSは、結晶粒界
に偏析し粒界脆化を促進する有害な元素であり、その含
有量が0.03%を超えると、その悪影響が顕著になる。こ
のため、S含有量は0.03%以下に限定した。
では特に溶接部の靱性を向上させるために添加する。し
かしながら、Ni含有量が0.01%に満たないとその効果に
乏しく、一方、3.0%を超えて添加しても効果が飽和す
るだけでなく、素材が硬質化し加工性が劣化する。この
ため、Niの含有量は0.01〜3.0%に限定する。本発明で
は、上記鋼組成に限定することを必須の発明特定事項と
するが、以下に述べる元素を必要に応じて添加してもよ
い。
接部靭性を要求する場合に有効な添加元素である。ま
た、Coを添加しない場合に比べ、長時間耐食性も改善す
る。しかし、Co含有量が0.01%未満では、その効果が十
分に得られず、一方、1.0%を超えて含有させると、素
材が硬質化して目標の強度特性が得られず、加工性も劣
化する傾向がある。このため、Co含有量は0.01〜1.0%
にすることが好ましい。尚、Co含有量のより好ましい組
成範囲は、0.03〜1.0%である。
にCoと共に複合的に添加した場合にその効果が著しい。
複合添加によって長時間耐食性が改善される機構は明ら
かではないが、長時間腐食において、最も強度低下の原
因となる局部的かつ急激な腐食に対して、鋼板表面ある
いはスケール中に濃化したCo,V,Wが有効に働き、被
腐食面全体が均一に腐食されるようになったためと考え
られる。しかし、VとWの含有量がそれぞれ0.01%と0.
001%を下回ると、複合添加による効果が十分に得られ
ず、一方、VとWの含有量がそれぞれ0.5%と0.05%を
超えると、炭窒化物の析出が著しくなり、母材および溶
接熱影響部の靭性が著しく低下する傾向がある。このた
め、VおよびWの含有量はそれぞれ0.01〜0.5%および
0.001〜0.05%の範囲にすることが好ましい。より好ま
しい含有量は、V:0.05〜0.3%、W:0.005〜0.03%で
ある。
要とする場合に添加することが有効である。しかし、Cu
を3.0%を超えて含有させると、目標とする強度が得ら
れなくなるばかりでなく、熱間圧延等における熱間割れ
の恐れが生じるため、Cu含有量の上限は3.0%にするこ
とが好ましい。なお、Cu含有量は、より好ましくは上記
効果が顕著となる0.1〜1.0%の範囲とする。
し、Moを3.0%を超えて含有させると、目標とする強度
が得られなくなり加工性も低下するうえ、オーステナイ
ト相の安定性が低下し、特に溶接熱影響部の靱性が低下
する傾向がある。このため、Mo含有量は3.0%以下とす
ることが好ましい。なお、加工性と耐食性の両立という
観点からは、0.1〜1.0%の範囲にすることがより好適で
ある。
改善に効果がある。しかし、B含有量が0.0002%未満で
はその効果に乏しく、一方、0.0030%を超えて含有させ
ると、硬化が大きくなり、母材、溶接熱影響部ともに、
靱性・加工性が損なわれる傾向がある。このためB含有
量は0.0002〜0.0030%にすることが好ましい。なお、B
含有量のより好ましい組成範囲は0.0005〜0.0010%であ
る。
(TS)が350〜450MPaの範囲である必要がある。引張強
さ(TS)が350MPa未満では、建築・土木構造用としての
用途には強度不足である。引張強さ(TS)が450MPa超で
あると、曲げ加工や形鋼への成形を行う時に、大きな負
荷を要し、そのため、成形可能な形状が狭く限定されて
しまう。そして、引張強さが上記範囲にあるとともに、
降伏比(YR)、すなわち、0.1%耐力(0.1PS)と引張強
さ(TS)の比0.1PS/TS×100(%)が70%以下である必
要がある。降伏比が70%超であると、鋼材の塑性変形能
が小さすぎて、耐震性を要求される建築・土木構造用材
として適さなくなるためである。
について説明する。本発明の製造方法において用いる鋼
片の組成範囲については、上記鋼板の組成と同一範囲に
限定する。
主な特徴は、前記組成範囲に限定した鋼片に対して熱間
圧延を行なった後の熱処理方法にあり、具体的には、下
記(1)式にて定義されるAc1変態点(℃)以上でかつ7
50℃超の温度に1時間以上保持した後、50℃/h以下の冷
却速度で550〜700℃の温度域内の所定温度まで冷却する
1次冷却処理を施した後、(a)前記所定温度で2時間
以上の保熱処理を行うか、あるいは、(b)700〜550℃
までの温度域を5時間以上かけて冷却する徐冷処理を行
い、さらに500℃までを50℃/h以下の冷却速度で冷却す
る2次冷却処理を施すことにある。
(1)式にて定義されるAc1変態点以上でかつ750℃超の
温度に加熱し、該温度域において1時間以上の保持を施
す1次加熱を行うことが必要である。1次加熱条件とし
て、加熱温度をAc1変態点以上でかつ750℃超の温度と
し、かつ保持時間を1時間以上としたのは、鋼板の金属
組織を実質的にオーステナイト組織とし、炭窒化物を固
溶させるためである。なお、1次加熱温度の上限は特に
限定しないが、1000℃超の温度に加熱すると、オーステ
ナイトの結晶粒径が粗大化して、熱処理後の鋼板の靭性
が低下する傾向があるため1000℃以下とするのが好まし
い。
る保熱処理あるいは徐冷処理の温度域までを50℃/h以
下の冷却速度で冷却する1次冷却を行い、引き続き550℃
以上700℃以下の所定温度において2時間以上の保持を
施す保熱処理あるいは550〜700℃以下の温度域を5時間
以上かけて冷却する徐冷処理を行い、さらに保熱処理あ
るいは徐冷処理の温度域から500℃までの間を50℃/h以
下の冷却速度で冷却する2次冷却を行う。
却は、1次加熱によりオーステナイトとした組織からの
フェライト相の析出、炭窒化物の析出、および炭窒化物
析出に伴ってその周りに生成する脱クロム層の回復を目
的としている。詳細な機構については調査中であるが、
主として1次冷却および保熱処理または徐冷処理によ
り、オーステナイト相からのフェライト相の生成・成長
を徐々に進行させることにより、フェライト相中への微
細な炭窒化物の析出が抑制され、オーステナイト相中で
炭窒化物が粗大化し、軟質・低降伏比(YR)化が可能にな
ったものと考えられる。さらに、主として保熱処理また
は徐冷処理および2次冷却を行うことにより、炭窒化物
の周りに生成した脱クロム層の回復が十分に起こり、長
時間耐食性が改善したものと考えられる。
りも速すぎたり、保熱処理または徐冷処理の時間が短か
ったりすると、フェライト相中への微細炭窒化物の析出
や脱クロム相の生成、あるいは極端な場合には、一部の
金属組織がマルテンサイト化してしまい、強度の上昇、
降伏比(YR)の上昇、靭性の低下、長時間耐食性の低下と
いった不具合を生じる。なお、2次冷却終了後の冷却速
度は特に限定されず、炉冷、空冷、あるいは時間短縮の
目的で強制的な冷却を行っても問題ない。
0℃超とすると、フェライトの生成量が少ないため、炭
窒化物の析出・粗大化が不十分となる。一方、550℃未
満とすると、フェライト中に炭窒化物が析出し、これが
微細炭窒化物として残存し、いずれの場合も強度上昇や
降伏比の増大を引き起こす。尚、保熱処理は、600〜700
℃の範囲の所定温度で5時間以上とすることがより好ま
しい。また、保熱処理は一定温度に保持するものである
が、±20℃の範囲で温度変動があっても問題はない。
50℃までの温度域を5時間以上かけて冷却する徐冷処理
を行うようにしてもかまわない。この場合、700〜550℃
までの冷却時間が5時間未満であると、フェライト中に
析出した炭窒化物の成長が起こらず、強度上昇や降伏比
の増大を引き起こす。
まで温度低下するまでは冷却速度50℃/h以下の2次冷
却処理とした理由は、一部の金属組織がマルテンサイト
化して、強度上昇、降伏比(YR)の上昇、靱性の低下が
生じることを回避するためである。
に対し、上述した条件で1次加熱、1次冷却、保熱処理ま
たは徐冷処理、および2次冷却からなる熱処理を行うこ
とにより、フェライト相の析出・成長、および炭窒化物
の析出・成長が適正に制御される結果、鋼板の軟質化、
低降伏比(YR)化および高靭性化が図れると共に、長時間
耐食性および溶接熱影響部の靱性を向上させることが可
能になる。
適な一例について説明する。まず、成分組成を上記適正
範囲に調整した溶鋼を、転炉または電気炉等の通常の溶
製法にて溶製したのち、真空脱ガス法(RH法)、VOD
法、AOD法等の公知の精錬方法で精錬し、ついで連続鋳
造あるいは造塊−分塊法でスラブ等に鋳造して、例えば
鋼片のような鋼素材とする。
により熱延鋼板とされる。熱間圧延工程における加熱温
度は特に限定されないが、この加熱温度が高すぎると結
晶粒の粗大化を招き、靱性・加工性が劣化するばかりで
なく、δフェライトが生成し熱間圧延時に割れが生じる
場合があり、前記加熱温度が低すぎると圧延が困難とな
るおそれがある。このため、熱間圧延工程における加熱
温度は1000〜1300℃とするのが好ましい。また、熱間圧
延工程では所定の板厚の熱延鋼板とすることができれば
よいので、熱間圧延条件は特に限定しないが、熱間圧延
の仕上温度は800〜1100℃とするのが生産性の面から好
ましい。
第1加熱を行う。第1加熱時の加熱温度は、Ac1変態点
以上でかつ750℃超えとし、その温度での保持時間を1
時間以上とする。
まで50℃/h以下、好ましくは5〜40℃/h、さらに好ま
しくは5〜30℃/hの冷却速度で冷却(1次冷却)し、
引き続き、前記所定温度で2時間以上保持を行うか、あ
るいは700℃から500℃までの温度域を5時間以上かけて
冷却を行い、さらに500℃までを50℃/h以下、好ましく
は5〜40℃/hの冷却速度で冷却(2次冷却)する。な
お、1次冷却を完了する所定温度は、550〜700℃の範囲
内であればかまわない。
より、鋼板の金属組織は実質的にフェライト単相組織と
なり、鋼板の軟質化、低降伏比(YR)化および高靭性化
を達成することができ、さらに長時間耐食性も改善され
る。熱延焼鈍後の鋼板は、そのまま、あるいはショット
ブラスト、酸洗等によって脱スケール処理を行ったのち
製品となる。また、必要に応じて防錆剤等を表面に塗布
してもよい。さらに、表面の硬質化、あるいは表面粗さ
の低減や表面光沢を必要とする場合などは、脱スケール
処理後に調質圧延により冷間での軽圧下を施したり、研
磨等により仕上を行ってもよい。
して用いることができ、また、必要に応じて角状あるい
は円筒状のパイプ、各種形鋼等の素材として用いること
ができ、溶接や加工により成形した後、構造用部材とし
て用いることもできる。また、本発明のCr含有鋼は、厚
鋼板や熱間圧延により製造される形鋼、さらには棒鋼と
いった、建築・土木分野において利用できる種々の鋼材
への適用が可能である。
形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々
の変更を加えることができる。
で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これらスラブを
再加熱後、熱間圧延により板厚4.5mmおよび6.0mmの熱延
板とした。スラブ再加熱温度は1100〜1200℃、熱間圧延
の仕上温度は800〜1050℃、巻き取り温度は600〜900℃
であった。得られた熱延板に対し、表2に示す条件によ
り熱処理(焼鈍処理)を施した。その後、ショットブラ
ストおよび酸洗により脱スケール処理を行った。
験、腐食試験および溶接試験を行い、鋼板の強度、伸
び、靱性および長時間耐食性ならびに溶接熱影響部の靱
性を評価した。それらの測定方法については以下のとお
りである。
平行になるようJIS 13号B試験片(JIS Z 2201)を採取
し、引張試験を実施し、0.1%耐力(0.1PS)、引張強さ
(TS)、降伏比(YR)および伸び(El)を測定した。
の圧延方向に垂直な方向になるように、2mmVノッチ、サ
ブサイズシャルピー試験片(JIS Z 2202)を採取し、0℃
における吸収エネルギー(vE0)を測定した。
方向に垂直な方向になるようにI開先を作製し、1.2mm
φのY309LおよびY309LSiタイプ溶接ワイヤを用い、半自
動MIG溶接機により溶接継手を作製し、溶接熱影響部の
靱性を評価した。溶接条件は、雰囲気ガス:Ar(ガス流
量:15L/min)+CO2(ガス流量:4L/min)、あるい
はCO2(ガス流量:11L/min),電圧:20〜30V、電流:
150〜250A、ギャップ:2〜4mm、溶接速度:16〜50cm/m
inの1パス溶接とした。得られた溶接継手から、図1(a)
に示すように、Vノッチ先端位置1が止端部2から1mm
溶接金属3側の位置となるように、2mmVノッチ、サブサ
イズシヤルピー試験片5(JISZ 2202)を採取し、0℃に
おける吸収エネルギー(vE0)を測定した。なお、図1
(b)に示すノッチ先端位置1における溶接金属部と溶接
熱影響部の比率a:bはおよそ1:4であった。
℃、3h → 乾燥:60℃、3h → 湿潤:50℃、2hを1
サイクルとする腐食試験を300サイクル行った。この試
験方法により、100年使用後相当の耐食性(長時間耐食
性)を評価することができる。腐食試験後の鋼板から引
張方向が圧延方向と平行になるようJIS 13号B試験片を
採取し、引張試験を実施し、次式により腐食に伴う強度
低下率ΔTSを求めた。
における最高荷重点での荷重(N)であり、Pmaxは、腐
食試験後の鋼板を用いた引張試験における最高荷重点で
の荷重(N)を意味する。上記各測定方法によって得ら
れた評価結果を表2に併せて示す。
法に従う鋼素材組成および熱処理条件によって製造した
発明例の鋼板はいずれも、目標範囲とする引張り強さ(T
S):350〜450MPa、0.1%耐力(0.1PS)の引張強さ(TS)
に対する比である降伏比(YR):70%以下の強度特性と
良好な母材靭性を有するとともに、良好な溶接熱影響部
の靱性を有し、同時に100年使用後相当の強度低下率が1
0%以内であり、良好な長時間耐食性を有することがわ
かる。一方、本発明の製造方法に従う鋼スラブ組成およ
び熱処理条件のいずれかが適正範囲外である比較例の鋼
板では、前記強度特性が目標範囲でなかったり、あるい
は母材および溶接部の靱性や、長時間耐食性が劣ってい
るのがわかる。
の適正化に加え、熱延板に対し適切な熱処理を施すこと
により、鋼板(母材)の強度特性、靱性、および溶接熱
影響部の靱性に優れるだけでなく、長時間耐食性も優れ
たCr含有鋼を製造することができる。また、本発明に従
うCr含有鋼は、建築・土木構造用材料としての用途をは
じめとする、安価な材料の提供に対する要求に応えるも
のであり、また、ライフサイクルコストを大幅に低減す
ることができ、その工業的利用価値は極めて大きい。
る溶接金属部と溶接熱影響部との関係を説明するための
図である。
Claims (6)
- 【請求項1】 質量%で、C:0.0015〜0.02%、N:0.
0015〜0.02%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:
5%超、13%未満、Al:0.1%以下、P:0.05%以下、
S:0.03%以下、およびNi:0.01〜3.0%を含有し、残部
がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有し、 引張強さ(TS)が350〜450MPaでかつ、0.1%耐力が引張
強さ(TS)に対して70%以下であることを特徴とする建
築・土木構造用Cr含有鋼板。 - 【請求項2】 前記鋼組成のFeの一部に代えて、質量%
でCo:0.01〜1.0%、V:0.01〜0.5%、W:0.001〜0.0
5%のうちの1種または2種以上を含有することを特徴と
する請求項1に記載の建築・土木構造用Cr含有鋼板。 - 【請求項3】 前記鋼組成のFeの一部に代えて、質量%
でCu:3.0%以下およびMo:3.0%以下のうちの1種また
は2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記
載の建築・土木構造用Cr含有鋼板。 - 【請求項4】 前記鋼組成のFeの一部に代えて、質量%
でB:0.0002〜0.0030%を含有することを特徴とする請
求項1、2または3に記載の建築・土木構造用のCr含有鋼
板。 - 【請求項5】 質量%で、C:0.0015〜0.02%、N:0.
0015〜0.02%、Si:0.1〜1.0%、Mn:0.1〜3.0%、Cr:
5%超、13%未満、Al:0.1%以下、P:0.05%以下、
S:0.03%以下、およびNi:0.01〜3.0%を含有し、残
部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有する鋼
素材に対して熱間圧延を行なった後、下記(1)式にて
定義されるAc1変態点(℃)以上でかつ750℃超の温度
に1時間以上保持した後、50℃/h以下の冷却速度で550
〜700℃の温度域内の所定温度まで冷却する1次冷却処
理を施した後、前記所定温度で2時間以上の保熱処理を
行うか、あるいは、700℃から550℃までの冷却時間が5
時間以上となる徐冷処理を行い、さらに500℃までを50
℃/h以下の冷却速度で冷却する2次冷却処理を施すこ
とを特徴とする建築・土木構造用Cr含有鋼板の製造方
法。 記 Ac1変態点(℃)=35×{(Cr+1.72Mo+2.09Si+4.86Nb+8.29V+1.77Ti +21.4Al+40B)−(7.14C+8.0N+3.28Ni+1.89Mn +0.51Cu)}+310 ‐‐‐‐‐‐(1) 但し、(1)式中のCr、Mo、Si、Nb、V、Ti、Al、B、
C、N、Ni、MnおよびCuはそれぞれ元素の含有量(質量
%)を意味する。 - 【請求項6】 前記鋼素材中のFeの一部に代えて、下記
a群〜c群のうちの1種または2種以上を含有することを
特徴とする請求項5に記載の建築・土木構造用のCr含有
鋼板の製造方法。 記 a群:質量%でCo:0.01〜1.0%、V:0.01〜0.5%、
W:0.001〜0.05%のうちの1種または2種以上 b群:質量%でCu:3.0%以下およびMo:3.0%以下のうち
の1種または2種 c群:質量%でB:0.0002〜0.0030%
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