JP3839953B2 - 建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は戸建て住宅、集合住宅、大型建築物、ビルディングや橋梁等の建造物の構造部材として用いられる耐食性、溶接性及び溶接部特性に優れた鋼材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
建築物の安全基準の厳格化や機能性の追求等により、柱や梁用などの鋼材には、一層の高機能化が求められている。特に耐食性は、構造物の耐用年数を左右する重要な因子であり、その向上が求められている。その究極の例が、さびの発生を解消した建築構造用ステンレス鋼である。構造用としては、耐食性や靱性に優れるSUS304(18Cr−8Ni)の使用実績が多い。
【0003】
しかし、ステンレス鋼はCrやNiなどの高価な元素を多量に必要とするため素材コストや製造コストは高価であり、機能的には優れるもののその経済性には問題がある。そこでさびや腐食の発生は不可避であるものの安価でかつ腐食の進行を抑制し、腐食量を最小限に抑えた鋼材が開発されている。例えば、特開昭60−162507号公報等には密着性と耐食性に優れた黒皮スケール皮膜を製造する方法が開示されているが製造工程が複雑で経済性に問題がある。
【0004】
また、特開平8−199289号公報には、0.50〜1.50%のCrを含有した鋼を熱間圧延工程で製造する厚さ10μm以下の酸化スケールを有するH形鋼が開示されている。しかし、酸化物層を貫通して腐食が進行するようになると耐食性向上の効果が失われ、建築物の長期耐久性を向上させることは不可能であると考えられる。
【0005】
一方、Crを16%を超えて添加させたフェライト系ステンレス鋼、例えばSUS430鋼は耐食性には優れているが、熱延鋼板の金属組織は圧延方向に長く伸びた粗大フェライト粒組織であり、曲げ加工性が悪く、さらに溶接熱影響部のフェライト組織が粗大化し、溶接部靱性が著しく低下する。構造用等に使用される厚手材では溶接部の靱性低下が重大な問題であり、さらに溶接後の冷却時に割れを生じる場合もあるため、溶接を必要とする一般建築構造用にフェライト系ステンレス鋼は使用されなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、建築物の柱や梁などの構造材を考えた場合、腐食環境は、外装材ができあがるまでとその後の2つの期間に大別される。後者は外気の自由な流入が外装材や内装材により規制されるため腐食環境としてはあまり厳しくない。むしろ、時間は短いものの風雨や埃などに直接曝される前者の期間の方が環境の腐食性は厳しい。また、外装材の施工が終了するまでに、鋼材表面にさびが発生すると、その後外装材が形成された後も、さび層下で腐食が進行しやすいという問題が生じる。すなわち、実質的に構造材の耐久性を支配しているのは、さび発生に対する耐食性であり、それに必要なCr量を鋼材に含有することで十分である。
【0007】
さらに、Cr量を必要最小限とすることとし、その他の成分を調整することにより、高温で十分な量のオーステナイト相を生成させ、溶接部フェライト組織の粗大化を防止させるとともに、オーステナイト/フェライト相の相変態を利用し、熱延ままでフェライト組織を微細化することも可能と考えられる。すなわち、成分のバランスおよび相変態を有効に利用し、フェライト系熱延鋼板のフェライト組織を適度に細かくし、さらには溶接熱影響部でのフェライト組織の粗大化を防止することにより、一般建築構造用として使用できる機械的性質を具備させることができる。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題に対して、各種成分鋼を製造し、その変態挙動を調査した。そして成分および熱延条件を最適化することにより、オーステナイト/フェライト相の相変態を利用し、熱延ままで最適なフェライト組織を得ることができ、一般建築構造用として使用できる、住宅環境での耐食性に優れたフェライト系ステンレス鋼を生み出した。本発明の主旨は、以下の通りである。
【0009】
Cr量およびその他の成分バランスを調整し、1100℃〜1250℃近傍の高温域でオーステナイト相を生成させる。その量は成分含有量から予測することができ、下式を満足するように成分調整すれば高温で十分な量のオーステナイト相を生成し、溶接熱影響部では最低限必要な50%のマルテンサイト相を残すことが可能となる。
Cr(%)+Mo(%)+1.5Si(%)-Mn(%)-2Ni(%)-0.5Cu(%)-30C(%)-20N(%)≦12
【0010】
熱間圧延前の加熱はオーステナイト相が粗大化しない温度範囲とし、圧延中にオーステナイト相がフェライト相に変態しないように800℃以上で圧延を終了する。圧延中にフェライト相が生成すると圧延によって伸ばされ粗大化し、熱延鋼板中に粗大伸展粒が形成する。800℃以上で熱延終了後に700℃以上で捲取り、コイルの自己熱で徐冷する。この徐冷期間中にオーステナイト相を完全にフェライト相に変態せしめ、かつ一般構造用として適当な粒径に調整する。700℃未満の捲取り温度、あるいは5℃/分を越える冷却速度ではオーステナイト相のフェライト相への変態が十分に完了せず、一部硬質のマルテンサイト相を形成し、延性が著しく低下し、一般構造用鋼としては不適となる。
【0011】
また、Niは高温でのオーステナイト相の量を増やす効果を有するが、1%を超えて含有するとオーステナイト相が著しく安定化し、上記条件下でフェライト相への変態が進行せず、マルテンサイト相が生成する。
【0012】
このようにオーステナイト域での熱間圧延および捲取後徐冷時のフェライトへの変態によりに適度な細粒フェライト組織を得ることができ、一般建築用鋼材として必要な機械的性質を具備することができる。
【0013】
上記のように成分および熱延の最適化により、優れた耐食性と機械的性質を有する一般構造用フェライト系ステンレス鋼が実現可能となった。すなわち、本願発明の構成は以下の通りである。
(1) 重量%で、
C :0.005%〜0.1%、 Si:0.05%〜1.5%、
Mn:0.05%〜1.5%、 P :0.04%以下、
S :0.05%以下、 N :0.05%以下、
(C+N):0.1%以下、 Cr:8〜16%
Ni:0.05〜1%
を含有し、さらに下式の条件を満足し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を1100℃以上、1250℃以下の温度に加熱し、800℃以上で熱間圧延を終了し、700℃以上で捲取り、室温までの平均冷却速度を5℃/分以下とすることを特徴とする住宅環境での耐食性、溶接性および溶接部特性に優れた建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法。
Cr(%)+Mo(%)+1.5Si(%)-Mn(%)-2Ni(%)-0.5Cu(%)-30C(%)-20N(%)≦12
(2) 前記鋼が、重量%で、
Mo:0.1〜2.5%、 Cu:0.1〜2.5%
の1種以上を、さらに含有することを特徴とする前記(1)記載の建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の鋼の成分範囲などの限定理由について述べる。
Cは、鋼の強度を向上させる元素ために有効な元素である。しかし、0.005%未満では、構造用鋼として必要な強度を得ることができない。また、0.1%を越える過剰の添加は、マルテンサイト相を硬質化し、溶接熱影響部の靭性を著しく低下させ、溶接時に割れを生じることもある。このため、下限を0.005%、上限を0.1%とした。
【0015】
Nは、不可避的不純物元素であり、鋼の強度を向上させるのに有効であるが、0.05%を越える過剰の添加は、マルテンサイト相を硬質化し、溶接熱影響部の靭性を著しく低下させ、溶接時に割れを生じることもある。上限を0.05%とした。
【0016】
CおよびNはいずれも溶接熱影響部に出現するマルテンサイト相を硬質化させる効果があり、過度に硬質化するとマルテンサイト相が割れの起点となり、溶接熱影響部の靱性を逆に低下させ、マルテンサイト相によるフェライト相の粗大化効果を減じる。従って、(C+N)の上限を0.1%以下とした。
【0017】
Siは、脱酸剤として鋼中の固溶酸素を低減し熱間加工性を確保するため溶鋼に添加する必要がある。0.05%未満では脱酸効果が弱い。一方、1.5%を超えて添加すると母材と溶接部の靭性を損なうため、下限を0.05%、上限を1.5%とした。
【0018】
Mnは、脱酸剤および脱硫剤として溶鋼に添加する必要がある。0.05%未満では所定の効果が得られない。一方、1.5%を超えて添加すると母材と溶接部の靭性や割れ性を損なうため、下限を0.05%、上限を1.5%とした。
【0019】
Pは、多量に存在すると溶接性を害するのみならず、さび発生を促進する現象が現れる。そのため、0.04%以下に限定した。
【0020】
Sは、主にMnSなどの硫黄系介在物として、さびの起点となるだけではなく、腐食速度を高める原因にもなる。さらに、粒界に偏析し熱間加工性を害する。そのため、0.05%以下に規制する必要がある。Sは不純物として少ないほど好ましい。
【0021】
Crは、大気環境において、腐食の発生抑制と腐食速度を低減する効果を有する。また、一旦腐食が起こり、さび層か形成された際にも、さび層下での鋼材の全面腐食の速度を低減する作用がある。しかし、Cr添加量が少ないと、さび発生抑制と腐食速度低減に関して、その効果が急激に減ずる。一方16%以上添加すると上記成分範囲内で溶接熱影響部にマルテンサイト相を50%以上生成させることは実質不可能となるため、下限を8%、上限を16%とした。
【0022】
Niは、高温で析出するγ相の量を増大するとともに溶接熱影響部に析出するマルテンサイト相の靭性を向上させ、溶接部の靱性を改善する重要な元素である。その効果を発現させるためには0.05%以上の添加が必要であるが、1%以上添加すると熱延時に析出するγ相が安定となり、本願発明が規定する熱延方法を用いてもフェライト相に変態せず、γ相から変態したマルテンサイト相となる。母材部の金属組織がマルテンサイト相となると強度が著しく上昇し、加工が困難となるため建築構造用鋼材として不適となる。従って、上限を1%とした。
【0023】
MoおよびCuは、Crと同様に大気環境において、腐食の発生抑制と腐食速度を低減する効果を有する。但し、その量が少ないと効果が弱く、過度に添加すると原材料費や製造費用などが増し経済性が低下する。そこで、下限を0.1%、上限を2.5%とした。
【0024】
各成分の含有範囲を満足しつつ、一般構造用として必要な溶接性および溶接部特性を満足させるためには、下式を満足するように成分バランスを調整し、溶接熱影響部に体積率で50%以上のマルテンサイト相を析出させ、溶接熱影響部の0℃におけるシャルピー衝撃値を2kgm/cm2 以上としなければならない。
Cr(%)+Mo(%)+1.5Si(%)-Mn(%)-2Ni(%)-0.5Cu(%)-30C(%)-20N(%)≦12
【0025】
上記式の左辺が12を越えると溶接熱影響部に体積率で50%以上のマルテンサイト相を析出させることは難しく、フェライト相の結晶粒径の粗大化を招く。一般建築構造用としての溶接部靱性を確保し、溶接施工時の割れを防止するためには、上記成分範囲を満足しつつ、上記式範囲内に成分バランスを調整し、溶接熱影響部に50%以上の比較的軟質なマルテンサイト相を析出させることにより、0℃におけるシャルピー衝撃値を2kgm/cm2 以上としなければならない。
【0026】
一般建築構造用として上記成分鋼の熱延鋼板を製造するためには、熱延前に1100℃以上、1250℃以下に加熱し、800℃以上で熱間圧延を終了し、700℃以上で捲取り、室温までの平均冷却速度を5℃/分以下とした方法で熱間圧延しなければならない。1100℃未満の加熱温度では800℃以上で熱延を終了することが難しく、1250℃を超えて加熱すると金属組織が粗大化し、しわ疵の原因となり、スケールの生成が顕著となり歩留りも低下する。熱延終了温度が800℃未満であると圧延中にγ相の一部がフェライト相に変態し、圧延によって伸びたフェライト相が残留し、熱延鋼帯の加工性および靱性を低下させる。
【0027】
さらに700℃未満の捲取り温度、あるいは捲取り後5℃/分を越える冷却速度では、高温で生成したγ相がフェライト相に全て変態せず、一部マルテンサイト相に変態する。マルテンサイト相が残留すると強度が著しく上昇し、加工が困難となるため一般建築構造用鋼材としては不適となる。
【0028】
以上の範囲で製造された熱延鋼帯は金属組織はフェライト相(一部炭化物)で、構造用鋼材として十分な加工性を備え、さらに溶接部あるいは熱影響部には高温で生成したγ相(室温ではマルテンサイト相)によりフェライト組織の粗大化が抑制され、構造用として十分な靱性を得ることができる。但し、表面の意匠性あるいは機械的性質の安定性を確保するために熱延後に熱処理工程あるいは酸洗工程を付与させても本願発明の効果は維持される。
【0029】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
表1に示した種々の組成の鋼を溶解し、200mm厚のインゴットを鋳造した。これを1200℃に加熱後、熱間圧延にて厚さ6mmの熱延板を作製した。熱延板の金属組織を観察し、フェライト相の平均結晶粒径を測定した。さらに、熱延板の圧延方向と平行にJIS5号の引張試験片を作製し、0.1%耐力、引張強度、破断伸びを測定した。また、幅500mmの試験片を切り出し、圧延方向と平行に曲げ半径12mmで室温曲げ加工を行い、割れ発生の有無、曲げ加工表面の観察を行った。熱延および熱延後焼鈍の条件、金属組織の観察結果、引張試験の結果、曲げ試験結果を表2に示す。
【0030】
次に、上記熱延板から圧延方向とは平行に溶接するように溶接試験用試験片を切り出した。開先加工した同じ素材から切り出した2枚の試験片をTIGで溶接した。溶接にはSUS410系あるいはSUS308系のワイヤ−を使用し、溶接台に固定した試験片を予熱無しで溶接した。溶接方向とは直角に板厚5mmのシャルピー試験片(JIS4号試験片のサブサイズ)を切り出し、ノッチの位置が溶接金属と母材部の境界から0.5mm母材部よりの溶接熱影響部となるように加工した。その試験片を用いて0℃にてシャルピー試験を行い、その吸収エネルギーからシャルピー衝撃値を測定した。溶接に使用したワイヤーおよびマルテンサイト相の面積率、シャルピー衝撃値の測定結果を表3に示す。
【0031】
さらに、溶接した試験片の一部をそのまま屋外に3週間曝した後に錆の状況を観察したが、本願発明鋼には明確な錆は生じていなかった。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
以上の結果から、本願発明の方法にて製造した熱延鋼板は、母材部においては建築構造用として十分な機械的性質を有し、曲げ加工性に優れ、さらには溶接熱影響部の靱性にも優れていることが確認された。短時間であるが屋外暴露において錆の発生も無いことから、住宅内での比較的錆にくい環境においては長期間錆発生しないと予測され、住宅環境での建築構造用鋼材として最適な鋼材であるといえる。
【0036】
【発明の効果】
本発明によれは、戸建て住宅、集合住宅、大型建築物、ビルディングや橋梁等の建造物の構造部材として用いられる耐食性に優れた一般鋼材を安価に供給することが可能となる。
Claims (2)
- 重量%で、
C :0.005%〜0.1%、
Si:0.05%〜1.5%、
Mn:0.05%〜1.5%、
P :0.04%以下、
S :0.05%以下、
N :0.05%以下、
(C+N):0.1%以下、
Cr:8〜16%
Ni:0.05〜1%
を含有し、さらに下式の条件を満足し、残部がFeおよび不可避不純物からなる鋼を1100℃以上、1250℃以下の温度に加熱し、800℃以上で熱間圧延を終了し、700℃以上で捲取り、室温までの平均冷却速度を5℃/分以下とすることを特徴とする住宅環境での耐食性、溶接性および溶接部特性に優れた建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法。
Cr(%)+Mo(%)+1.5Si(%)-Mn(%)-2Ni(%)-0.5Cu(%)-30C(%)-20N(%)≦12 - 重量%で、
Mo:0.1〜2.5%、
Cu:0.1〜2.5%、
の1種以上を、さらに含有することを特徴とする請求項1記載の建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法。
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JP10835298A JP3839953B2 (ja) | 1998-04-17 | 1998-04-17 | 建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法 |
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JP10835298A JP3839953B2 (ja) | 1998-04-17 | 1998-04-17 | 建築構造用ステンレス鋼帯の製造方法 |
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- 1998-04-17 JP JP10835298A patent/JP3839953B2/ja not_active Expired - Fee Related
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