JP2002322545A - 延性に優れたMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼板および製造法 - Google Patents
延性に優れたMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼板および製造法Info
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Abstract
適したMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス
鋼板を提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.08%以下,Si:4.0%
以下,Mn:1.5%以下,P:0.05%以下,S:0.005%
以下,Cr:20〜30%,Ni:20〜35%,Mo:3〜8%,
N:0.02〜0.3%,Al:0(無添加)〜4.0%,Cu:0
(無添加)〜4.0%,La+Ce:0(無添加)〜0.3%以
下,B:0(無添加)〜0.05%で、残部がFeおよび不可
避的不純物からなり、σ相が1.0体積%以下であるオー
ステナイト系ステンレス鋼板。この鋼板は、鋳造材を材
温1240〜1280℃で1時間以上加熱したのち抽出し20%以
上の圧延率で初期熱延し、次いで材温1200〜1280℃で1
時間以上加熱したのち抽出して仕上熱延し、熱延鋼板を
材温1120〜1200℃で焼鈍する方法で製造できる。
Description
却炉の熱交換器など、主に耐食性と耐高温腐食性が必要
とされる用途に使用されるステンレス鋼板であって、特
に延性を改善したMo含有高Cr高Niオーステナイト系
ステンレス鋼板およびその製造法に関する。
棄物を対象とした焼却処理設備の熱交換器などの用途に
は、特に高い耐食性および耐熱性が要求される。このた
め、従来より質量%でCr20%以上,Ni20%以上,Mo3
%以上を含有する「Mo含有高Cr高Niオーステナイト
系ステンレス鋼」が使用されている。例えば、海水熱交
換器に使用できる鋼種として、JIS G 4305に規定されて
いるSUS317J4L(22Cr−25Ni−6Mo−0.2N−低C)
や、SUS317J5L(21Cr−24.5Ni−4.5Mo−1.5Cu−極
低C)を挙げることができる。
ート型やチューブ型等があるが、プレート型は熱の変換
効率に優れるという長所を有している。
なMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼
は、SUS304,SUS316等の一般的な汎用オーステナイト系
ステンレス鋼と比較して延性に劣るという欠点がある。
JIS G 4305に規定されている「伸び」の値を見ても、SU
S304系,SUS316系では40%以上であるのに対し、SUS317
J4L,SUS317J5Lでは35%以上とされており、これらのM
o含有高Cr高Ni鋼に、汎用オーステナイト系鋼種と同
等の伸びを要求することは、常識的には困難であること
がわかる。
延性が低いという欠点は、例えば鋼板を加工して熱交換
器のプレートを製造する場合に、曲げ加工部に割れが発
生するなどの問題を引き起こす。特に最近では、熱交換
器のプレート形状は熱交換率の向上を狙って一層複雑に
なる傾向があるため、これに用いる鋼板にはSUS304やSU
S316並みの延性が要求されるようになってきた。
含むMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼
において、SUS304やSUS316並みの延性を安定して呈する
鋼板の組織状態・特性を特定するとともに、そのような
鋼板を成分組成に特段の制約を設けることなく製造する
方法を提供しようというものである。
果、Mo含有高Cr高Niオーステナイト系鋼板の金属組
織と延性の関係、さらには製造法に関し、次のような知
見を得た。 質量%でCr:20%以上,Ni:20%以上,Mo:3%以
上を含有するオーステナイト系ステンレス鋼板には、通
常、圧延方向にσ相が引き延ばされて存在し、C方向に
厳しい引張り加工や曲げ加工を施したとき、このσ相を
起点に割れが生じること。 鋼板中に存在するσ相の量が1.0体積%を超えると上
記割れは頻繁に生じるのに対し、σ相の量が1.0体積%
以下になると上記割れは急に生じなくなること。 σ相が1.0体積%以下の鋼板を安定的に製造する手段
として、鋼塊(インゴット)や連続鋳造スラブに特定条
件での2ヒート圧延または3ヒート以上の圧延を施して
熱延鋼板とし、さらにこの鋼板を特定条件で焼鈍するこ
とが有効であること。 冷延鋼板を得る場合は、上記の方法で製造した鋼板を
冷間圧延した後、さらに特定条件で焼鈍する必要がある
こと。 上記の方法は、成分組成に特段の制約を設けることな
く、既存のSUS317J4L,SUS317J5Lを含むMo含有高Cr高
Niオーステナイト系鋼種に無理なく適用できること。
したものである。すなわち、請求項1の発明は、質量%
で、C:0.08%以下,Si:4.0%以下,Mn:1.5%以
下,P:0.05%以下,S:0.005%以下,Cr:20〜30
%,Ni:20〜35%,Mo:3〜8%,N:0.02〜0.3%,
Al:0(無添加)〜4.0%,Cu:0(無添加)〜4.0%,
La+Ce:0(無添加)〜0.3%以下,B:0(無添加)
〜0.05%で、残部がFeおよび不可避的不純物からな
り、σ相が1.0体積%以下である延性に優れたMo含有高
Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼板である。
含有量範囲の下限0%は、その元素が無添加の場合を意
味する。つまり、請求項1の対象鋼としては、Al,C
u,La,Ce,Bをいずれも含有しない鋼と、Al,C
u,La,Ce,Bのうち1種以上を含有する鋼が含まれ
る。なお、ここでいう「鋼板」には「鋼帯」が含まれる
(以下同様)。
板の圧延方向に対しC方向が長手方向になるように採取
した引張試験片および曲げ試験片を用い、それぞれJIS
Z 2241およびJIS Z 2248に準拠した引張試験および180
°密着曲げ試験を行ったとき、40%以上の伸びを呈し、
かつ曲げ加工部に割れが発生しない鋼板を特定したもの
である。ここで、C方向とは圧延方向に直角な方向(幅
方向)である。以上の鋼板は、プレート型熱交換器のプ
レート用鋼板に適したものである。
である延性に優れたMo含有高Cr高Niオーステナイト
系ステンレス鋼板の製造法として、2ヒート熱延を採用
する方法を特定したものである。すなわち、質量%で、
C:0.08%以下,Si:4.0%以下,Mn:1.5%以下,
P:0.05%以下,S:0.005%以下,Cr:20〜30%,N
i:20〜35%,Mo:3〜8%,N:0.02〜0.3%,Al:0
(無添加)〜4.0%,Cu:0(無添加)〜4.0%,La+
Ce:0(無添加)〜0.3%以下,B:0(無添加)〜0.05
%であるオーステナイト系ステンレス鋼の鋳造材を材温
1240〜1280℃で1時間以上加熱したのち抽出し20%以上
の圧延率で熱間圧延して中間スラブとし(初期熱延工
程)、中間スラブを材温1200〜1280℃で1時間以上加熱
したのち抽出し熱間圧延して熱延鋼板とし(仕上熱延工
程)、熱延鋼板を材温1120〜1200℃で焼鈍することを特
徴とするものである。「初期熱延工程」と「仕上熱延工
程」を合わせて2ヒート熱延となる。
織を有している鋼材であり、一般的には鋼塊(インゴッ
ト)と連続鋳造スラブがこれに相当する。材温とは材料
温度であり、鋼材の中心部および表層部が規定温度範囲
に保持されることを要する。なお、熱延鋼板の焼鈍の場
合、焼鈍時間は特に規定していない。したがって、例え
ば材温が1120〜1200℃の範囲のある温度に昇温したのち
直ちに冷却する、いわゆる均熱0秒の焼鈍も含まれる。
延に代わり、3ヒート以上の多ヒート熱延を採用するも
のである。すなわち、上記「初期熱延工程」と「仕上熱
延工程」の間に、1回または複数回の「中間熱延工程」
を挿入したものである。ただしこの場合、初期熱延工程
と1回または複数回の中間熱延工程のトータル圧延率を
20%以上とする。ここで「中間熱延工程」は、中間スラ
ブを材温1240〜1280℃で1時間以上加熱したのち抽出し
熱間圧延して更に加工度の高い中間スラブとする工程で
ある。「初期熱延工程」と1回または複数回の「中間熱
延工程」と「仕上熱延工程」を合わせて3ヒート以上の
多ヒート熱延となる。
造法において、対象鋼を特に請求項1に記載した鋼に限
定したものである。請求項6の発明は、請求項3〜5の
発明において、熱延鋼板の焼鈍後に、「冷延−焼鈍工
程」を1回または複数回行う点を規定したものである。
ここで「冷延−焼鈍工程」は、冷間圧延して冷延鋼板を
製造し、その冷延鋼板を材温1120〜1200℃で焼鈍する工
程である。この冷延鋼板の焼鈍にも、均熱0秒の焼鈍が
含まれる。
ト系ステンレス鋼板を用いて熱交換器のプレートを構成
する場合、今後プレート形状がより複雑化していくこと
を考慮すると、その鋼板には以下のような「延性」を付
与することが望まれる。 i) C方向の伸びが少なくとも40%以上であること。 ii) C方向における180°密着曲げで割れが生じないこ
と。
0%以上,Ni:20%以上,Mo:3%以上を含有するオー
ステナイト系鋼板において上記i)ii)の「延性」を実現
するには、鋼板中に存在するσ相の総量を1.0体積%以
下にすることが極めて重要であることがわかった。この
点を図1に基づいて説明する。
法No.2,3,4,6,7,9,10,14,19,23,25,27,28
の熱延焼鈍鋼板について、鋼板中のσ相の体積%とC方
向伸びおよびC方向180°密着曲げによる割れの有無の
関係を示したものである。図1からわかるように、鋼板
中のσ相の量が1.0体積%を超える領域では、C方向伸
びは40%を下回る範囲でばらついており、180°密着曲
げで割れが生じている。この領域では、σ相を低減して
もC方向伸びの目立った向上は認められず、また180°
密着曲げによる割れも解消しない。これに対し、鋼板中
のσ相の量が1.0体積%以下の領域では、C方向伸びは
安定して40%以上を呈し、180°密着曲げで割れは生じ
ていない。なお、図1には後述の表2の一部のものしか
プロットしていないが、鋼板中のσ相の量と延性の関係
は、表2中の本発明で規定する成分組成範囲にある全て
のサンプルについて上記と同様の結果であった。
ステナイト系鋼においては、鋼板中のσ相の量が1.0体
積%を境にして、鋼板のC方向の「延性」は急変するこ
とがわかる。つまり、当該鋼種の鋼板において、1.0体
積%というσ相の存在量は、鋼板の性質を2分する臨界
的な値であると言うことができる。
観察において、σ相の占める面積率を測定することによ
って求めることができる。具体的には、JIS G 0555に規
定される試験方法および判定方法に準拠して求めること
ができるが、金属組織の画像処理によってもこれと同様
の測定結果を得ることができる。
高温強度の確保およびオーステナイト相の安定化に有効
である反面、高温で粒界へのCr炭化物の析出を促すの
で、多量に含有すると粒界近傍にCr欠乏層を形成し粒
界腐食の原因となる。これらを考慮し、Cは0.08質量%
以下の範囲で含有させる必要がある。より好ましいC含
有量の範囲は0.06質量%以下である。下限については特
に規定しない。0.01質量%以上のCを含有する多くの鋼
を対象とできる他、極低C鋼も対象とできる。
た、ステンレス鋼表面に濃化して耐食性・耐熱性に優れ
た皮膜を形成させる。しかし、Si含有量が4.0質量%を
超えると高温域でのσ脆化感受性の増大や熱間加工性の
低下を招くため、4.0質量%以下の範囲で含有させる必
要がある。より好ましいSi含有量の範囲は0.2〜1.5質
量%である。
オーステナイト形成元素である。しかし、鋼板が曝され
る環境によってはMnが皮膜中に濃化し、耐食性・耐熱
性に悪影響を及ぼす場合があるので、1.5質量%以上の
含有は避けるべきである。より好ましいMn含有量の範
囲は0.2〜0.8質量%である。
リクス中の粒界に偏析し、溶融塩による腐食や粒界侵食
を促進させるのでその含有量は少ないほど好ましい。本
発明においてPは0.05質量%程度まで許容される。
ーステナイト粒界に偏析して鋼材の熱間加工性や耐溶接
高温割れ性を劣化させる。Mo含有高Cr高Niを熱交換
器プレートに適用することを考慮すると、S含有量は0.
005質量%以下に抑える必要がある。
な元素であり、海水環境,高温腐食環境への適用を考慮
すると20質量%以上の含有が望まれる。しかし、Cr含
有量が30質量%を超えると鋼板の加工性が低下するとと
もに、オーステナイト相の金属組織を維持するうえで高
価なNiを多量に添加する必要が生じる。また、鋼のσ
脆化感受性が著しく増大する。したがって、Cr含有量
は20〜30質量%に規定した。
過酷な環境において十分な耐食性,耐SCC性,耐高温腐
食性を発揮させるために、少なくとも20質量%以上含有
させる必要がある。しかし、Ni含有量が35質量%を超
えると、上記特性の向上メリットよりコスト増のデメリ
ットが大きくなる。したがって、Ni含有量は20〜35質
量%に規定した。
耐高温腐食性を著しく改善する。しかし、Moの多量添
加は高温域でのσ脆化感受性を増大させ、またコスト増
を招く。これらの点を考慮し、Mo含有量は3〜8質量%
に規定した。
ために0.02質量%以上含有させる。しかし、過剰のN添
加は耐高温酸化性や熱間加工性を劣化させることがある
ので、上限を0.3質量%に規定した。
腐食環境では鋼材の表層に濃化してAl2O3皮膜を生成
し耐高温腐食性の改善に寄与する。しかし、多量のAl
添加はAl2O3系介在物の形成を助長し、鋼板の耐食
性,加工性、さらには熱間加工性も劣化させる。このた
め、Alを添加する場合は4.0質量%以下の含有量とする
必要がある。なお、Al添加の効果を十分享受するため
には0.01〜4.0質量%の範囲で含有させることが望まし
い。
食割れ性を大幅に改善するため、用途によっては添加が
非常に有効である。しかし、多量のCu添加は熱間加工
性を害するので、Cuを添加する場合は4.0質量%以下の
含有量とする必要がある。なお、Cu添加の効果を十分
に享受するためには0.2〜4.0質量%の範囲で含有させる
ことが望ましい。
iオーステナイト系ステンレス鋼の熱間延性を改善する
元素である。これらは必要に応じてLa+Ceが0.3質量
%以下、Bが2質量%以下の範囲内で添加することがで
きる。
て、耐食性,耐熱性,耐高温酸化性,高温強度等を改善
する元素を少量添加したMo含有高Cr高Niオーステナ
イト系ステンレス鋼についても、本発明の製造法により
σ相が1.0体積%以下の延性に優れた鋼板を得ることが
できる。例えば、鋼中のSを固定するCaは0.05質量%
以下の範囲で含有させることができ、鋼中のCやNを固
定するTi,V,Zr,Nb,Hf,Ta,W,Reなどは0.
5質量%を上限として含有させることができる。
iオーステナイト系鋼の場合、一般的な「連続鋳造→熱
間圧延」プロセス(連鋳法)ではσ相の生成等に起因し
て熱延中にスラブや鋼板に割れが生じやすく、良好な鋼
板を製造することは必ずしも容易ではない。スラブを加
熱炉で高温長時間(例えば1250℃×10時間)加熱した
り、熱延パススケジュールを最適化したり、熱延におい
て中間加熱を行ったりする工夫によって割れのない鋼板
を得ることは可能である。しかし、割れが解消したとし
ても、σ相が1.0体積%以下に抑えられた延性に優れた
鋼板を工業的に安定して得ることは非常に難しい。
(造塊法)は、連鋳法に比べ生産性は劣るが、鋼塊の加
熱温度・加熱時間を比較的自由にコントロールでき、ま
た熱間加工度を多くとることができる。したがって連鋳
法よりもσ相の消失効果は大きいように思われる。しか
し、実際にはやはりσ相が1.0体積%以下の延性に優れ
た鋼板を安定的に得ることは非常に難しい。
ーステナイト系鋼材中のσ相を効率よく安定的に消去さ
せる方法について鋭意研究し、σ相が1.0体積%以下の
鋼板の工業的な製造を可能にした。その方法は、2ヒー
ト以上の熱延とその後の熱処理を組み合わせるものであ
る。従来からも、特に難熱間加工材等において、特殊な
熱延条件や熱処理条件を組み合わせることによって割れ
や欠陥の少ない鋼板を製造可能にした例はある。しか
し、Mo含有高Cr高Ni鋼板のσ相消失を目的として、
特に成分組成上の厳しい制限を設けることなく、熱延お
よび熱処理条件を工夫することによってσ相を顕著に低
減した工業的成功例は見当たらない。以下、本発明の鋼
板製造法について説明する。
オーステナイト系ステンレス鋼の鋳造材を、材温1240〜
1280℃で1時間以上加熱したのち抽出して熱間圧延する
ことにより中間スラブを製造する。本明細書ではこの工
程を「初期熱延工程」と呼んでいる。材温1240〜1280℃
とは鋼材の中心部を含めた全体がこの温度範囲になるこ
とを意味する。この状態で少なくとも1時間以上保持す
る必要がある。保持時間の上限は特に規定しないが、鋼
材表面の高温酸化の問題や生産性を考慮すると、10時間
以内とすることが望ましい。
く仕上圧延に供する場合は、この初期熱延工程での圧延
率を20%以上とする必要がある。圧延温度は特に規定し
ないが、本発明の対象鋼はSUS304系鋼,SUS316系鋼など
と比較して熱間変形抵抗が高く熱延機の負荷が大きくな
ること、および熱間変形能が低いため表面割れが生じや
すいことから、なるべく高目の温度で圧延することが有
利である。例えば最終パス温度を900℃以上とすること
が望ましく、1000℃以上とすることが一層望ましい。ま
た、熱延後の冷却過程におけるσ相の再析出防止の観点
から、1000〜600℃における冷却速度が約5℃/分以上と
なるように中間スラブを冷却することが望ましい。その
場合の冷却方法は水冷が一般的であるが、その他の強制
冷却方法を用いてもよい。
鋳造スラブをスラブ加熱炉に挿入して加熱し、抽出した
後、例えば連続熱延ラインの上流側にあるリバース式の
粗圧延機を用いて熱延することで初期熱延工程が実施で
きる。得られた中間スラブはラインの途中で取り出し、
次工程の加熱に供すればよい。
(インゴット)を加熱炉に挿入して加熱し、抽出した
後、分塊圧延機にて熱延することで初期熱延工程が実施
できる。
を加熱、熱延してさらに加工度の高い中間スラブにする
工程である。先の初期熱延工程のみで仕上熱延に供し得
る寸法・形状のスラブが直接製造できる場合はこの工程
を省略してよい。逆に、初期熱延工程と1回の中間熱延
工程によっても、まだ仕上熱延に供し得るスラブが得ら
れない場合は、複数回の中間熱延工程を採用することが
できる。
熱延温度,熱延後の冷却速度は、前述の初期熱延工程と
同様の条件範囲とすることができる。すなわち、加熱温
度は材温1240〜1280℃、加熱時間は1時間以上とする必
要があり、加熱時間の上限は10時間が好ましい。熱延温
度は最終パス温度を900℃以上とすることが望ましく、1
000℃以上とすることが一層望ましい。得られた中間ス
ラブの冷却速度は1000〜600℃における冷却速度が約5℃
/分以上となるように、水冷その他の強制冷却を行うこ
とが望ましい。
圧延率はトータルで20%以上を確保しなくてはならな
い。つまり、仕上熱延に供する中間スラブはトータル20
%以上の圧延率で熱延されたものとなるように、圧下量
を配分する必要がある。
仕上げるための最後の熱延工程である。中間スラブを材
温1200〜1280℃で1時間以上加熱し、その後抽出して熱
間圧延し、熱延鋼板を製造する。工業的には、鋼帯巻取
り装置を備えた熱延機(ステッケルミルなど)や、通常
の連続熱延ラインを用いて実施できる。
工程と比べ少し低温まで許容されるが、加熱時間,熱延
温度,熱延後の冷却速度は、前述と同様の条件範囲とす
ることができる。すなわち、加熱温度は材温1200〜1280
℃、加熱時間は1時間以上とする必要があり、加熱時間
の上限は10時間が好ましい。熱延温度は最終パス温度を
900℃以上とすることが望ましく、1000℃以上とするこ
とが一層望ましい。得られた熱延鋼板の冷却速度は1000
〜600℃における冷却速度が約5℃/分以上となるよう
に、水冷その他の強制冷却を行うことが望ましい。
温1120〜1200℃で焼鈍する必要がある。これにより、歪
は完全に除去されるとともに、組織の再結晶化が図ら
れ、鋼板中のσ相は1.0体積%以下となる。冷却過程に
おいてσ相が再析出しないように、冷却速度は1000〜60
0℃における冷却速度が約5℃/分以上となるようにする
ことが望ましい。そのために、水冷その他の強制冷却を
行うことが望ましい。なお、焼鈍時間は短時間で十分で
あり、長くても30分以内とすることが望ましい。現実的
には、例えば材温が1120〜1200℃の範囲に昇温したのち
直ちに冷却する、いわゆる均熱0秒の焼鈍を採用するこ
とができる。
て、鋼材中のσ相は顕著に低減される。その理由は、以
下の現象がヒート回数に応じて繰り返されるためだと考
えられる。 熱延での圧下によりσ相が微細化するとともに加工歪
が導入される。 その次の加熱においては加工歪に起因してσ相を構成
する元素の拡散速度が増大するため、微細化したσ相は
急速に消失に向かう。ただし、たとえ多ヒート熱延を行
っても前記の製造条件を外れるとMo含有高Cr高Niオ
ーステナイト系鋼板の延性改善効果はほとんど得られな
くなる点が興味深い(後述の実施例および前述の図1参
照)。その原因は現時点で十分に解明されていない。
が1.0体積%以下のものを得るには、上記のようにして
行った熱延鋼板の焼鈍後に冷間圧延および焼鈍を行えば
よい。ただし、焼鈍は材温1120〜1200℃で行う必要があ
り、上記の熱延後の焼鈍と同様に、冷却過程においてσ
相が再析出しないように、冷却速度は1000〜600℃にお
ける冷却速度が約5℃/分以上となるように、水冷その他
の強制冷却を行うことが望ましい。焼鈍時間は短時間で
十分であり、長くても30分以内とすることが望ましい。
この焼鈍においても、いわゆる均熱0秒の焼鈍を採用す
ることができる。目標板厚に応じてこの「冷延−焼鈍工
程」は1回または複数回行うことができる。
iオーステナイト系ステンレス鋼を溶製し、表1に示す
化学組成の鋼塊(S-3は約300kg,他は約30kg)を得た。
S-1〜S-6は本発明で規定する化学組成を満たす「発明対
象鋼」である。S-7はSi,Ni,Mo含有量が本発明規定
範囲を超えて高い「比較鋼」である。
m,長さ130mmのブロックを切り出し、これらを材温1230
〜1270℃×0.5〜10時間の種々の条件で加熱した後、抽
出して、熱間圧延し、水冷する方法で板厚15〜30mmの中
間スラブを製造した(初期熱延工程)。中間スラブのう
ち、板厚19〜30mmの一部のものについては、さらに材温
1250℃×1時間の加熱を施した後、抽出して、熱間圧延
し、水冷する方法で板厚15mmの中間スラブとした(中間
熱延工程)。その後、中間スラブ(板厚15〜30mm)を材
温1180〜1270℃×0.5〜10時間の種々の条件で加熱した
後、抽出して、熱間圧延し、水冷する方法で板厚4mmの
熱延鋼板を製造した(仕上熱延工程)。なお、比較のた
め、鋼塊から切り出した一部のブロックについては直
接、仕上熱延工程に供した。次いで、熱延鋼板を材温11
10〜1170℃×均熱0秒の条件で焼鈍し、水冷した。各熱
延工程および焼鈍後の冷却過程では、いずれも600℃以
上の温度における冷却速度は5℃/分以上であった。
測定した。測定方法は、鋼板C断面の金属組織観察を行
いJIS G 0555に規定される試験方法および判定方法に準
拠した。熱延条件,焼鈍条件および鋼板中のσ相の量を
表2に示す。
件である。1ヒートのみの加熱および熱間圧延を行った
製造法No.1,2では、鋼板のσ相を1.0体積%以下にする
ことはできなかった。2ヒート以上の熱延を行った製造
法No.3〜28では、初期熱延工程(または初期熱延工程
と中間熱延工程)の加熱条件およびトータル圧延率,
仕上熱延工程の加熱条件,焼鈍温度、の全てが本発明
規定範囲にあるもののみ、鋼板のσ相を1.0体積%以下
にすることができた。これらは、先の図1で説明したと
おり、C方向伸びは40%以上を呈し、180°密着曲げで
割れは生じていないものである。なお、製造法No.25
は、Si,Mo含有量が多い比較鋼S-7を用いたものであ
る。このようなσ脆化感受性の高い鋼では、本発明の製
造条件によってもσ相を十分抑制することはできない。
た熱延焼鈍鋼板について、さらに板厚2.0mmまで冷間圧
延を行い、その後、材温1150℃,1130℃,1110℃の3水
準の温度で均熱0秒の焼鈍を施した。また、これらの一
部を切り出して、さらに板厚0.8mmまで冷間圧延し、そ
の後、材温1150℃,1130℃,1110℃の3水準の温度で均
熱0秒の焼鈍を施した。板厚2.0mmおよび0.8mmの冷延焼
鈍鋼板について、実施例1と同様の方法で鋼板中のσ相
の量を測定するとともに、JIS Z 2241に準じたC方向の
引張試験およびJIS Z 2248に準じたC方向の180°密着
曲げ試験を行い、伸びよおび曲げ加工部の割れの有無を
調べた。冷延焼鈍履歴および試験結果を表3に示す。
件である。冷延後の焼鈍を1120℃以上の温度で行うこと
によって冷延焼鈍鋼板中のσ相の量を1.0体積%以下に
維持することができ、それらは良好な延性を呈した。
インを用いてMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステ
ンレス鋼の熱延鋼板および冷延鋼板を製造した。厚さ40
0mm,重量約10トンの鋼塊を鋳造した。化学分析の結
果、この鋼の成分組成(質量%)は以下のとおりであっ
た。C:0.025%,Si:0.43%,Mn:0.29%,P:0.0
17%,S:0.0006%,Cr:24.83%,Ni:24.60%,M
o:4.77%,N:0.120%,Cu:0.42%,La+Ce:0.0
18%,残部は実質的にFe。
し、1000℃以上の温度域で分塊圧延を行い、板厚250mm
の中間スラブとした(初期熱延工程)。この中間スラブ
を連続熱延ラインのスラブ加熱炉に挿入して材温1250℃
で1時間均熱保持後抽出し、同ラインのリバース式粗圧
延機にて1000℃以上の温度域で熱間圧延し、板厚180mm
の中間スラブとした(中間熱延工程)。これを同ライン
から取り出し、再度、同ラインのスラブ加熱炉に挿入し
て材温1230℃で1時間均熱保持後抽出し、950℃以上の
温度域で熱間圧延して鋼帯とし、水冷したのち巻取り、
板厚8mm,板幅1000mm,重量約8トンの熱延コイルを得た
(仕上熱延工程)。その後、このコイルを連続焼鈍ライ
ンにて材温1140℃で均熱0秒焼鈍し、水冷することで熱
延焼鈍鋼板とした。熱延焼鈍鋼板のコイルから長さ1000
mmのサンプルを採取した。
間圧延し、次いで材温1150℃で均熱0秒の焼鈍を施した
(冷延−焼鈍工程)。この段階のコイルから長さ1000mm
のサンプルを採取した。その後、このコイルをさらに板
厚0.8mmまで冷間圧延し、次いで材温1150℃で均熱0秒の
焼鈍を施した(2回目の冷延−焼鈍工程)。この段階で
も長さ1000mmのサンプルを採取した。
(板厚8mmの熱延焼鈍鋼板,板厚2.5mmの冷延焼鈍鋼板,
および板厚0.8mmの冷延焼鈍鋼板)について、前述と同
様の方法で、σ相の量,C方向の伸び,およびC方向の
180°密着曲げにおける割れの有無を調べた。その結
果、いずれのサンプルにおいても、鋼板中のσ相の量は
1.0体積%以下に低減されており、C方向伸びは40%以
上を呈し、C方向の180°密着曲げでも割れは認められ
なかった。
ものである。 高耐食性のMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステ
ンレス鋼において、SUS304やSUS316並みの延性を安定し
て呈する鋼板の組織状態・特性を明らかにしたので、製
造現場の品質管理や今後の製造法研究に寄与し得る。 本発明の高耐食性のMo含有高Cr高Niオーステナイ
ト系ステンレス鋼板は延性が安定的に改善されているた
め、加工の自由度が向上し、より複雑な加工を要する部
材への適用が可能となる。したがって、用途拡大を通じ
本系鋼の普及に寄与し得る。 本発明の製造法は鋼の成分組成に特段の制約を設ける
必要がないので、SUS317J4L,SUS317J5Lを含む多くの既
存Mo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼種
に適用することができる。したがって、量産の容易化を
通じ本系鋼の特に既存鋼種の普及に寄与し得る。
る鋼板中のσ相の量と延性の関係を表すグラフである。
Claims (6)
- 【請求項1】 質量%で、C:0.08%以下,Si:4.0%
以下,Mn:1.5%以下,P:0.05%以下,S:0.005%
以下,Cr:20〜30%,Ni:20〜35%,Mo:3〜8%,
N:0.02〜0.3%,Al:0(無添加)〜4.0%,Cu:0
(無添加)〜4.0%,La+Ce:0(無添加)〜0.3%以
下,B:0(無添加)〜0.05%で、残部がFeおよび不可
避的不純物からなり、σ相が1.0体積%以下である延性
に優れたMo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレ
ス鋼板。 - 【請求項2】 鋼板の圧延方向に対しC方向が長手方向
になるように採取した引張試験片および曲げ試験片を用
い、それぞれJIS Z 2241およびJIS Z 2248に準拠した引
張試験および180°密着曲げ試験を行ったとき、40%以
上の伸びを呈し、かつ曲げ加工部に割れが発生しない請
求項1に記載の鋼板。 - 【請求項3】 質量%で、C:0.08%以下,Si:4.0%
以下,Mn:1.5%以下,P:0.05%以下,S:0.005%
以下,Cr:20〜30%,Ni:20〜35%,Mo:3〜8%,
N:0.02〜0.3%,Al:0(無添加)〜4.0%,Cu:0
(無添加)〜4.0%,La+Ce:0(無添加)〜0.3%以
下,B:0(無添加)〜0.05%であるオーステナイト系
ステンレス鋼の鋳造材を材温1240〜1280℃で1時間以上
加熱したのち抽出し20%以上の圧延率で熱間圧延して中
間スラブとし(初期熱延工程)、中間スラブを材温1200
〜1280℃で1時間以上加熱したのち抽出し熱間圧延して
熱延鋼板とし(仕上熱延工程)、熱延鋼板を材温1120〜
1200℃で焼鈍することを特徴とする、σ相が1.0体積%
以下である延性に優れたMo含有高Cr高Niオーステナ
イト系ステンレス鋼板の製造法。 - 【請求項4】 質量%で、C:0.08%以下,Si:4.0%
以下,Mn:1.5%以下,P:0.05%以下,S:0.005%
以下,Cr:20〜30%,Ni:20〜35%,Mo:3〜8%,
N:0.02〜0.3%,Al:0(無添加)〜4.0%,Cu:0
(無添加)〜4.0%,La+Ce:0(無添加)〜0.3%以
下,B:0(無添加)〜0.05%であるオーステナイト系
ステンレス鋼の鋳造材を材温1240〜1280℃で1時間以上
加熱したのち抽出し熱間圧延して中間スラブとし(初期
熱延工程)、次いで、中間スラブを材温1240〜1280℃で
1時間以上加熱したのち抽出し熱間圧延して更に加工度
の高い中間スラブとする工程(中間熱延工程)を1回ま
たは複数回行い、その際、初期熱延工程と1回または複
数回の中間熱延工程のトータル圧延率を20%以上とし、
その後、中間スラブを材温1200〜1280℃で1時間以上加
熱したのち抽出し熱間圧延して熱延鋼板とし(仕上熱延
工程)、熱延鋼板を材温1120〜1200℃で焼鈍することを
特徴とする、σ相が1.0体積%以下である延性に優れた
Mo含有高Cr高Niオーステナイト系ステンレス鋼板の
製造法。 - 【請求項5】 鋳造材が、質量%で、C:0.08%以下,
Si:4.0%以下,Mn:1.5%以下,P:0.05%以下,
S:0.005%以下,Cr:20〜30%,Ni:20〜35%,M
o:3〜8%,N:0.02〜0.3%,Al:0(無添加)〜4.0
%,Cu:0(無添加)〜4.0%,La+Ce:0(無添加)
〜0.3%以下,B:0(無添加)〜0.05%で、残部がFe
および不可避的不純物からなるオーステナイト系ステン
レス鋼である請求項3または4に記載の製造法。 - 【請求項6】 熱延鋼板の焼鈍後において、さらに、冷
間圧延を行い、冷延鋼板を材温1120〜1200℃で焼鈍する
工程(冷延−焼鈍工程)を1回または複数回行う請求項
3〜5に記載の製造法。
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