JP2002226370A - シトルリンを含有する活性酸素消去剤 - Google Patents

シトルリンを含有する活性酸素消去剤

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 優れた活性酸素消去能力を持ち、しかも安全
性の高い、天然由来の抗酸化物質を提供する。 【解決手段】 本発明により、シトルリンが活性酸素消
去能力を有する事が、初めて示された。シトルリンを有
効成分とする新規な活性酸素消去剤は、優れた活性酸素
消去能力を有し、かつ安全性が高いという特徴を持つ。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シトルリンを含有
する活性酸素消去剤、及びシトルリンを用いて活性酸素
障害を防御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】活性酸素障害を防止するために、食品や
化粧品へ抗酸化物質を添加する事が、広く行われてい
る。その様な目的で、主に化学合成した人工の化合物を
用いる例が多い。その様な目的で用いられている抗酸化
剤として、アスコルビン酸、トコフェロール、ユビキノ
ン、グルタチオン、カロチノイド等が挙げられる。しか
し、これら従来の抗酸化剤はしばしば人体に対して副作
用を有すると共に、環境汚染の原因となっていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】従来技術の問題点を解
決するため、優れた活性酸素消去能力を持ち、しかも安
全性の高い、天然由来の抗酸化物質の発見および利用が
嘱望されていた。その様な優れた性質を有する新規の抗
酸化物質を検索することにより、食品の品質、安全性の
向上や人体の不老、美顔の欲求を充足する化粧品を創出
するにあたり、活性酸素を効率よく消去し、同時に副作
用や環境汚染の心配のない構成成分が得られ、食品や化
粧品の分野において非常に有益であると思われる。
【0004】
【課題を解決するための手段】種々の環境ストレスに対
応するために、植物細胞は乾燥、塩、低温等の乾燥スト
レスにより、プロリン、ベタイン、マンニトール、ピニ
トール等の溶質を蓄積させる。これらの溶質は、高濃度
に蓄積しても細胞の代謝活動を阻害しないことから、適
合溶質と呼ばれている。これら適合溶質は、浸透圧調節
剤として水ストレスの緩和に貢献するだけでなく、高温
耐性賦与、活性酸素消去、生体膜の安定化、炭素/窒素
/エネルギー源の貯蔵転流、NAD(P)H/NAD(P)+ 比の調節
など、多くの機能が推定、議論され、解析の対象になっ
ている。そこで、これまでに知られていない適合溶質性
物質を得る事ができたら、優れた抗酸化物質になると思
われる。
【0005】図1に示す構造を有するシトルリンは、動
物において窒素代謝の過程で生成する事が広く知られて
いる物質である。即ち、シトルリンは尿素の生合成に関
与し、尿素回路の中間体の一つであることが知られてい
る。しかし、植物においては、シトルリンの機能はほと
んど知られていなかった。
【0006】本発明者らは、スイカ等のウリ科植物にお
いて、環境ストレスに応答してシトルリンが大量に蓄積
する現象に着目した。即ち、ボツアナ原産の野生スイカ
において乾燥処理により、シトルリンは約600mM もの高
濃度で細胞内に蓄積するという知見から、環境ストレス
を防御するためにシトルリンが有効ではないかと考えて
検討を行った。
【0007】葉緑体の電子伝達系は、活性酸素種を生成
する主要な発生源であり、乾燥ストレスに伴って、その
産生量が増大すると考えられている。活性酸素種の中で
も、ヒドロキシルラジカルは最も反応性が高く、蛋白
質、DNA 、脂質を攻撃して代謝機能不全、細胞死へと至
らしめる。従って、乾燥耐性の野生種スイカは、ヒドロ
キシラジカルの生成を抑制する機構、或いは生成したヒ
ドロキシルラジカルを速やかに消去する機構に優れてい
ると予想される。本発明者らは、種々のストレス応答に
対するシトルリンの効果を検討したところ、シトルリン
は活性酸素、特にヒドロキシルラジカル(OH. )の消去
能力に優れ、しかも副作用等が見られないことを明らか
にした。
【0008】他の研究者らにより、マンニトールやプロ
リンなどの適合溶質は、活性酸素種と反応してこれを消
去することで、過酸化ストレス障害から植物を防御して
いる可能性が議論されている。そこで本発明者らは、下
記の実施例で示す様に、シトルリンとヒドロキシルラジ
カルとの反応速度を解析し、これを他の適合溶質と比較
することにより、活性酸素スカベンジャーとしてのシト
ルリンの機能を評価した。その結果、シトルリンは他の
適合溶質と比較して、効率よくヒドロキシルラジカルを
消去する事が示された。
【0009】ヒドロキシルラジカルは、極めて反応性の
高い活性酸素種で、ほとんどの有機化合物と拡散律速に
近い速度で反応する。酵素蛋白質についても、そのアミ
ノ酸残基が酸化修飾を受け、不可逆的に失活することが
報告されている。マンニトールやプロリンなどの適合溶
質は、ラジカルが酵素と反応して失活する前にこれを捕
捉することで、酵素蛋白質を保護する作用を持つことが
示唆されている。そこで本発明者らは、シトルリンが、
ヒドロキシルラジカルから酵素を保護する作用を示し得
るかどうかにつき検討を行った。即ち、蛋白質、DNA 等
の生体高分子の活性酸素による損傷が、効果的に防御さ
れることを、下記の実施例において実証した。
【0010】ところで、スーパーオキシドジスムター
ゼ、ペルオキシダーゼ、カタラーゼ等の酵素もまた、活
性酸素を除去する事が知られている。これらの酵素によ
り消去される活性酸素種は、主としてO2 - 、H2O2等の、
比較的寿命の長い活性酸素種である。一方、アスコルビ
ン酸、トコフェロール、ユビキノン、グルタチオン、カ
ロチノイド等や、適合溶質により消去される活性酸素種
は、主としてヒドロキシルラジカル(OH. )であり、ヒ
ドロキシルラジカルは寿命が短く、反応性が高い性質が
ある。本発明は、ヒドロキシルラジカルを効率よく消去
する事が可能な活性酸素消去剤を、新たに与えるもので
ある。
【0011】安全性という点では、シトルリンはヒトを
含めた哺乳類の体内にも若干量存在し、代謝的に無害で
あるために、シトルリンを含有する活性酸素消去剤の安
全性は高いと考えられる。シトルリンと構造の類似した
アミノ酸の一つにアルギニンがあるが、本発明者らはシ
トルリンの生理学的な安全性を検討した。シトルリン側
鎖のカルバミド基は電荷を持たないが、アルギニン側鎖
のグアニジン基は生理的pH条件下で正に荷電する。
【0012】一般に、電解性の溶質は、酵素活性の阻
害、生体膜の変性、オルガネラの機能低下などにより細
胞の代謝活動に損害を与える。それに対して適合溶質
は、生理的pHにおいて全体として電荷を持たないことが
多く、高濃度では蓄積しても細胞の代謝活動に阻害的で
はない。従って、シトルリンはアルギニンと異なり、蛋
白質機能、細胞代謝に対して悪影響を及ぼさないと予想
される。下記の実施例において、アルギニンとシトルリ
ンの生体内における安全性を、高濃度のシトルリン及び
アルギニンが諸酵素の活性に及ぼす阻害の程度を調べる
ことで検定したところ、シトルリンはアルギニンと比較
して、酵素活性を阻害する作用が低いことが示された。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明は、シトルリンを含有する
活性酸素消去剤である。上述した様に、シトルリンは生
体内に存在して窒素代謝に関与する事が知られている既
知の物質であるが、シトルリンが活性酸素、特にヒドロ
キシルラジカルを除去する作用を有することは、これま
で全く知られていなかった。本発明者らは、シトルリン
は、シドロキシルラジカルを効率よく消去し、蛋白質や
核酸を活性酸素障害より防御する事を実証した。
【0014】ここで、活性酸素消去剤とは、シトルリン
を含有する製剤であり、固体でも液体に溶解した状態で
も良い。シトルリンを単独で使用することも可能である
が、通常は必要に応じて賦形剤、保存剤等の他の補助剤
を添加することが好ましい。本発明の活性酸素消去剤は
シトルリンを含有する事を特徴とするが、本発明の活性
酸素消去剤は、使用時におけるシトルリン濃度が10mMか
ら1000mM、好ましくは50mMから400mM の範囲内である事
が好ましく、この様な濃度においてシトルリンの活性酸
素消去作用は顕著である。本発明の活性酸素消去剤は、
任意の量のシトルリンを含有することが可能であり、必
要とする効果を示す様に、シトルリンの濃度を調製する
ことができる。また、シトルリンを溶解する溶剤として
は、必要量のシトルリンを溶解し、かつシトルリンの活
性酸素消去作用に悪影響を及ぼさない限り、任意の溶剤
を用いることが可能である。生物に適用する場合には、
その目的に適合するために、適切なpH緩衝作用及び塩濃
度を有する溶剤である事は、特に好ましい。
【0015】図1より判る様に、シトルリンは親水性の
高い物質であるが、シトルリンをエステル化等の手法で
誘導体化してその疎水性を高めることにより、脂質等の
疎水性物質に対する保護効果をより高めたり、細胞膜の
透過性を高めることもまた可能である。その様な目的の
為に好ましいシトルリンの誘導体化の手段としては、具
体的にはエステル化、アシル化による誘導体化が挙げら
れる。
【0016】シトルリンは活性酸素の除去に有効である
ために、シトルリンを含有することにより活性酸素消去
作用を有する医薬組成物、化粧品組成物又は食品添加物
を作製することができる。シトルリンを含有する医薬組
成物は、例えば心筋梗塞等により虚血に陥った臓器への
血流再開に伴う、いわゆる再潅流障害(reperfusioninj
ury)に有効である可能性が考えられる。再潅流障害に
は、再潅流時に白血球等により生じる活性酸素が関与し
ており、シトルリンが再潅流時の活性酸素を消去するこ
とにより、再潅流障害を防止できるのではないかと考え
られる。また、活性酸素が細胞を障害して老化の原因と
なる事が知られているので、シトルリンを含有する医薬
組成物は、老化に対して有効である可能性が考えられ
る。
【0017】また、シトルリンを化粧品組成物に添加す
ることにより、紫外線等により生じた肌の障害を予防で
きると考えられる。活性酸素による肌の障害は、美顔の
欲求を考えると、化粧品業界にとっては大きな問題であ
る。シトルリンを含有する化粧品組成物は、活性酸素が
生じることによる肌の障害、例えばシミやソバカスの予
防に有効である可能性があり、シトルリンを含有する化
粧品の価値は非常に大きい。
【0018】その様な医薬組成物、化粧品組成物を又は
食品添加物を作製するにあたり、本技術分野における通
常の方法を用いることができる。即ち、10mMから1000mM
の範囲内の有効量を含有する様に、種々の賦形剤、保存
剤、及びその他必要な補助剤を添加して、本発明の組成
物を調製する事ができる。その様な種々の技術は本分野
では良く知られており、慣用技術を用いることにより、
本発明の医薬組成物、化粧品組成物又は食品添加物を作
製することができる。
【0019】シトルリンの活性酸素消去作用を用いて、
活性酸素障害を防御する方法もまた、本発明の範囲内で
ある。本発明はシトルリンの活性酸素消去作用を見出し
たものであり、効率よく活性酸素障害を防御するため
の、新たな方法を与えるものである。活性酸素障害を防
御する目的は、10mMから1000mM、好ましくは50mMから40
0mM の濃度のシトルリンを用いる事により達成する事が
可能である。
【0020】また、シトルリンの活性酸素除去作用を利
用して、活性酸素により品質が劣化する、「嫌活性酸素
物質」の保存性を改善することができる。本願明細書中
における「嫌活性酸素物質」とは、活性酸素により品質
が劣化する可能性を有する物質を総称的に意味するもの
であるが、具体的には、医薬品、食品や化粧品等が含ま
れる。その様な物にシトルリンを添加して、活性酸素に
よる品質劣化を防止する方法も、本発明の範囲内であ
る。
【0021】また、シトルリンを含む活性酸素消去剤を
植物に投与することにより、植物の活性酸素障害を回避
することができると考えられる。具体的には、シトルリ
ンを植物の根から吸わせることにより、又は葉に散布す
ることにより、活性酸素障害を回避することができる可
能性がある。その様な目的においては、「ハイポネック
ス」等の液体肥料にシトルリンを添加して植物に投与す
る事は、特に好ましい。
【0022】
【実施例】(シトルリンが酵素活性に及ぼす効果)高濃
度のシトルリン及びアルギニンが、リンゴ酸脱水酵素
(MDH )及び乳酸脱水素酵素(LDH )の活性に及ぼす阻
害の程度を調べることで、シトルリンの安全性をアルギ
ニンと比較した。アルギニンのイオン対としては塩化物
イオンを用い、その塩化物をイオンの影響を評価するた
めに塩化カリウムの検定も行った。
【0023】野生型スイカ(Citrullus lanatus sp.No
101117-1)の葉組織を液体窒素冷却下で破砕し、抽出バ
ッファー(50mM Tris-HCl pH=7.5, 5mM DTT, 5μg/ml B
SA,15% glycerol)により抽出した後、10,000g で5分
間遠心した上清を、リンゴ酸脱水酵素(MDH )粗抽出画
分として用いた。乳酸脱水素酵素(LDH )はオリエンタ
ル社のブタ精製酵素標品を用いた。MDH 反応溶液は100m
M Tris-HCl pH7.5, 150 μM NADH, 250 μM オキサロ酢
酸と10μL の酵素液を含み、全量を1mL とした。LDH 反
応溶液は10mM Tris-HCl pH7.5, 150 μM NADH, 250 μ
M lithium pyruvateと10μL の酵素液を用いた。シトル
リンなどの各種の溶質が酵素活性に及ぼす影響を見ると
きは、異なる濃度の溶質を添加した後にpHを7.5 に、KO
H を用いて再調整した。反応は25℃で基質添加により開
始し、NADHの減少に伴う340nm の吸光度変化によりその
初速度を測定した。MDH における結果を図2に、LDH に
おける結果を図3に、それぞれ示す。なお、図2及び図
3において、白抜きのカラムはシトルリンの結果を、黒
抜きのカラムは塩化アルギニンを、斜線のカラムは塩化
カリウムを、それぞれ示す。
【0024】その結果、高濃度のシトルリンは、野生種
スイカのリンゴ酸脱水素酵素(MDH)に対して阻害的な
影響を全く与えなかった(図2、白抜きカラム)。シト
ルリン存在下におけるMDH 活性は、非存在下に比べて若
干上昇しており、200mM シトルリン下で約109 %であっ
た。また、哺乳類の乳酸脱水素酵素(LDH )活性に対し
ても阻害効果は小さく、600mM シトルリン存在下におい
て約10%低下しただけであった(図3、白抜きカラ
ム)。
【0025】それに対して高濃度の塩化アルギニンは、
MDH とLDH の両酵素に対して強い阻害効果を及ぼした
(図2及び図3、黒抜きカラム)。600mM 塩化アルギニ
ン存在下におけるMDH とLDH の活性は、それぞれコント
ロールの10%並びに54%にまで低下した。これらの値
は、同濃度の塩化カリウムによる両酵素の阻害(それぞ
れ21%、64%)よりも厳しいものであった(図2及び図
3、斜線カラム)。このことは、アルギニンイオンはカ
リウムイオンよりも両酵素の活性に対して阻害的である
ことを表している。この結果は、シトルリン添加による
細胞代謝への阻害効果はほとんどないことが判明した。
従って、シトルリンは、化粧品、食品添加物、医薬品の
構成成分として安全性に優れていることが示された。
【0026】(シトルリンとヒドロキシルラジカルとの
反応の、反応速度論的解析)シトルリンとヒドロキシル
ラジカルとの反応速度を解析し、活性酸素スカベンジャ
ーとしてのシトルリンの機能の評価を行った。ヒドロキ
シルラジカルは、アスコルビン酸−過酸化水素系により
活性させ、サリチル酸の水酸化をラジカル検出の指標と
して用いた。反応液組成は、40mM K-Pi バッファー、pH
7.4, 0.26mMascorbate, 0.15mM FeEDTA, 0.6mM H2O2, 2
mM salicylateと種々の適合溶質を含み、全量を400 μL
とした。25℃で90分間反応させた後、サリチル酸とヒ
ドロキシルラジカルとの反応産物である2,3-Dihydroxy-
benzoic acidを誘導体化して発色させ、510nm の吸光度
により定量した。その結果、シトルリンとヒドロキシル
ラジカルとの二次反応速度定数は、競争反応理論により
算出した。基準反応速度定数として、マンニトールの文
献値1.7x109M-1 s-1を用いた。
【0027】生成させたヒドロキシルラジカルに対す
る、サリチル酸と適合溶質間の競争補足反応の度合いを
図4に示す。図4において、○はグリシンベタイン、▲
はプロリン、□はマンニトール、●はシトルリンを、そ
れぞれ示す。サリチル酸の水酸化の減少は、ヒドロキシ
ルラジカルが適合溶質によって効率良く補足されている
ことを示す。この図から、解析に用いた4種の溶質のう
ち、シトルリンが最も効率良いスカベンジャー活性を有
することが示唆された。
【0028】図4から、各種溶質によるサリチル酸水酸
化の50%阻害濃度を算出し、その結果を表1に示す。溶
質とヒドロキシルラジカルとの二次反応速度定数を概算
したところ、サリチル酸の酸化をを50%防御するシトル
リンの濃度は約4.3mM であることから、シトルリンのI
50値は約3x109M-1 s-1となった。よって、優れたラジ
カルスカベンジャーとして知られるマンニトールに比
べ、ほぼ同等か若干優れた反応性を有すると考えられ
た。またシトルリンの値は、植物一般で乾燥ストレスに
より蓄積されるプロリンやグリシンベタインの値に比
べ、約1桁および2桁速いことが示された。以上の結果
から、シトルリンは、ヒドロキシルラジカルの捕捉能に
非常に優れていることが明らかとなった。従ってシトル
リンは、従来の抗酸化物資に比べて活性酸素の消去能力
に大変優れていることが示された。よってシトルリン
は、化粧品、食品添加物、医薬品の品質を改良するにあ
たり、極めて有用な化合物であると考えられる。
【0029】
【表1】
【0030】(生体分子の活性酸素障害に対する、シト
ルリンによる保護)シトルリンが、ヒドロキシルラジカ
ルから酵素や核酸等の生体分子を保護する作用を示し得
るかどうかにつき検討を行った。即ち、アスコルビン酸
−過酸化水素系により発生したヒドロキシルラジカル
が、ピルビン酸キナーゼ(PK)の酵素活性に及ぼす影響
を検討した。失活反応組成液は、100mM Tris-HClバッフ
ァーpH7.4, 2.5U ブタPK(オリエンタル社), 0.2mM as
corbate, 0.15mM FeEDTA, 0.6mM H2O2と種々の濃度のシ
トルリンを含む様に調製し、全量を250 μL とした。失
活反応は25℃でH2O2を添加することにより開始し、一定
時間毎に10μL を分取して酵素の残存活性を測定した。
活性測定反応液組成は、80mM Tris-HCl バッファーpH7.
4, 7.5mM MgCl2, 75mM KCl, 3.75mM ADP, 0.15mM NADH,
10UブタLDH, 0.8mM PEP及び10μL 失活処理済PK酵素を
含む様に調製した。反応は、25℃で基質を添加すること
により開始し、NADHの増減に伴う340nm の吸光度変化に
よりその初速度を測定した。シトルリンが、ピルビン酸
キナーゼのヒドロキシルラジカルによる失活に及ぼす影
響を図5に示す。図5において、○はシトルリン無添
加、●はシトルリン200mM 添加、▲はシトルリン400mM
添加、□は活性酸素なしを、それぞれ示す。
【0031】PKの活性に関して、シトルリンは顕著な防
御効果を有する事が、図5より示された。シトルリンを
添加しない場合、活性酸素による120 分後のPK残存活性
は初期値の約36%まで低下した。これに対し、200mM ま
たは400mM シトルリン添加により残存活性は、それぞれ
61%、74%まで上昇していた。以上の結果から、この過
酸化ストレス実験系においては、シトルリンはPKに対し
て顕著な防御効果を有することが示唆された。
【0032】更に、シトルリンが活性酸素障害からDNA
を防御し得るか、検討を行った。200ng の環状プラスミ
ドDNA と種々の濃度のシトルリンを含む溶液に、3mM H2
O2,0.01mM FeEDTA によりヒドロキシルラジカルを発生
させ、2時間後にDNA の損傷をアガロースゲル電気泳動
により評価した。結果を図6に示す。図6において、レ
ーン1は電気泳動サイズマーカー、レーン2は未処理プ
ラスミドDNA 、レーン3は二価鉄のみを添加した系、レ
ーン4は二価鉄及び過酸化水素を添加し、過酸化水素を
発生させた系、レーン5は活性酸素を発生させた系(レ
ーン4)にシトルリンを50mM添加して活性酸素を消去さ
せた系、レーン6は活性酸素を発生させた系(レーン
4)にシトルリンを100mM 添加して活性酸素を消去させ
た系、レーン7は活性酸素を発生させた系(レーン4)
にシトルリンを200mM 添加して活性酸素を消去させた系
を、それぞれ示す。
【0033】図6の結果より、活性酸素を発生させた系
(レーン4から7)における比較を行った。シトルリン
を添加しない場合には、活性酸素により環状プラスミド
DNAの2本鎖が切断されて直鎖状DNA を生じ、アガロー
スゲル電気泳動において明瞭に検出された(レーン
4)。これに対し、シトルリンを50mM(レーン5)、10
0mM (レーン6)ないし200mM (レーン7)添加した系
においては、シトルリン添加により、DNA の切断は大幅
に軽減された。以上の結果から、シトルリンは、活性酸
素による損傷からDNA を保護する優れた効果を有するこ
とが示された。
【0034】
【発明の効果】本発明により、シトルリンが活性酸素消
去能力を有する事が、初めて示された。シトルリンを有
効成分とする新規な活性酸素消去剤は、優れた活性酸素
消去能力を有し、かつ安全性が高いという特徴を持つ。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、シトルリンの分子構造を示す図であ
る。
【図2】図2は、リンゴ酸脱水素酵素(MDH )の活性
に、シトルリンとアルギニンが及ぼす効果を示したグラ
フである。
【図3】図3は、乳酸脱水素酵素(LDH )の活性に、シ
トルリンとアルギニンが及ぼす効果を示したグラフであ
る。
【図4】図4は、種々の適合溶質及びシトルリンが、サ
リチル酸の酸化を防御する活性を示したグラフである。
【図5】図5は、ヒドロキシルラジカルにより障害され
たピルビン酸キナーゼ(PK)の酵素活性に、シトルリン
が及ぼす保護効果を示したグラフである。
【図6】図6は、ヒドロキシルラジカルにより障害され
た環状プラスミドの構造に、シトルリンが及ぼす保護効
果を示した写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) A61P 39/06 A61P 39/06 C09K 15/22 C09K 15/22 (72)発明者 明石 欣也 奈良県奈良市学園大和町5−730 学園前 合同宿舎243号 Fターム(参考) 4B018 MD19 ME06 4C083 AC681 EE12 4C206 AA01 AA02 HA28 MA01 MA04 NA06 NA07 ZA89 ZC37 4H025 AA37 BA01

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 シトルリンを含有する、活性酸素消去
    剤。
  2. 【請求項2】 シトルリンを含有して活性酸素消去作用
    を有することを特徴とする、医薬組成物。
  3. 【請求項3】 シトルリンを含有して活性酸素消去作用
    を有することを特徴とする、食品添加物。
  4. 【請求項4】 シトルリンを含有して活性酸素消去作用
    を有することを特徴とする、化粧品組成物。
  5. 【請求項5】 シトルリンを添加することにより、活性
    酸素障害を防御する方法。
  6. 【請求項6】 シトルリンを添加して活性酸素量を低下
    させることにより、嫌活性酸素物質の保存性を改善する
    方法。
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