JP2002212676A - ワイヤソー用鋼線およびその製造方法 - Google Patents

ワイヤソー用鋼線およびその製造方法

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JP2002212676A
JP2002212676A JP2001004527A JP2001004527A JP2002212676A JP 2002212676 A JP2002212676 A JP 2002212676A JP 2001004527 A JP2001004527 A JP 2001004527A JP 2001004527 A JP2001004527 A JP 2001004527A JP 2002212676 A JP2002212676 A JP 2002212676A
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wire
cementite
steel wire
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JP2001004527A
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English (en)
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Yasuhiko Sakaguchi
泰彦 阪口
Kimio Mine
公雄 峰
Shohei Kanari
昌平 金成
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JFE Steel Corp
JFE Techno Research Corp
Original Assignee
Kawasaki Steel Corp
Kawatetsu Techno Research Corp
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  • Processing Of Stones Or Stones Resemblance Materials (AREA)
  • Heat Treatment Of Strip Materials And Filament Materials (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課 題】 引張り強さ3800MPa 以上の高強度とともに
シリコン結晶切断面積90m3 以上の高耐摩耗性を有する
ワイヤソー用鋼線とその製造方法を提供する。 【解決手段】 C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、
Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あるいは
さらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.
05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種
または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物から
なる組成と、パーライト1中に球状セメンタイト4が分
散してなる組織とを有するワイヤソー用鋼線。製造方法
の要点はパテンチングよりも前に球状化焼鈍を行って形
成させた球状セメンタイトを一部残留させる条件でパテ
ンチングを行うこと。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、シリコン結晶スラ
イシング用ワイヤソーとしての使途に十分な耐摩耗性お
よび強度を有するワイヤソー用鋼線(ソーワイヤ)およ
びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】前記ワイヤソーは、従来、一般に自動車
タイヤ用スチールコード用ワイヤ(以下、コード用ワイ
ヤ)の製造工程で製造されている(特開平5−200667号
公報、特開平4−280944号公報、特開平11−269607号公
報等)。これら従来技術によるコード用ワイヤの製造工
程は、素材線径5.5 mm程度→冷間伸線とパテンチングの
繰り返し→線径1.0 mm程度→パテンチング(約900 ℃に
加熱→約600 ℃で変態:微細パーライトまたはベイナイ
ト組織)+ブラスめっき→仕上伸線(湿式)→線径0.2
〜0.8 mm前後、というものである。
【0003】例えば、特開平5−200667号公報には、
C:0.8 〜1.10%、Si:0.10〜1.00%、Mn:0.10〜1.00
%、さらにCr、Ni、Cuの1種以上を添加した鋼からな
り、最終熱処理線径0.7 〜2.5mm とし、オーステナイト
化処理後、恒温変態温度350 ℃以上500 ℃以下の範囲で
処理を行い、上部ベイナイト組織としたワイヤを伸線加
工して得られる0.15μm以下のソーワイヤの製造方法が
開示されている。
【0004】また、特開平4−280944号公報には、C:
0.9 〜1.1 %、Si:0.4 %以下、Mn:0.5 %以下、Cr:
0.1 〜0.3 %、Cu:0.2 〜0.8 %、Al:0.003 %以下を
主成分とする直径0.4 mm以下であって引張り強さ360kgf
/mm2以上の高強度高延性極細鋼線が開示されている。ま
た、特開平11−269607号公報には、C:0.8 〜1.2 %、
Si:0.1 〜1.5 %、Mn:0.2 〜1%、Cr:0〜1%、A
l:0.003 %以下、Mo:0〜0.5 %、V:0〜0.3 %お
よびCo:0〜2%を含み、かつセメンタイトの体積比率
が6.0 ×C(%)〜12.0×C(%)であり、このセメン
タイトの平均粒径が2〜10nmであるセメンタイトとフェ
ライトからなる鋼である伸線強化型高強度線材とその製
造方法が開示されている。
【0005】しかしながら、かかる従来法で製造された
ソーワイヤ(以下、単にワイヤともいう。)の耐摩耗性
は、シリコン結晶の切断面積で評価して30〜65m2 程度
という不十分なものである。シリコン結晶の切断は、例
えば、2ローラにワイヤを、該ワイヤがこれら2ローラ
間で所定のピッチで並列するように、巻回してワイヤソ
ーを構成し、ワイヤを高速で一方向走行または往復走行
させながら、前記2ローラ間のワイヤ並列走行部にシリ
コンインゴットをゆっくりと押しつけていくことにより
行われる。このときシリコンインゴットにはSiC 製の砥
粒を混ぜたスラリーがかけられ、この砥粒がシリコンイ
ンゴットのワイヤ接触部を削ることにより切断が進行す
るが、ワイヤも砥粒によって摩耗する。
【0006】なお、前記切断面積は、「シリコンインゴ
ット断面積×(シリコンインゴット長さ/ワイヤピッチ
−1)×繰り返し使用回数(断線するまでに切断できた
インゴット本数)」で表される。例えば□150mm ×長さ
400mm のシリコンインゴットを、特開平5−200667号公
報記載の方法で製造した線径(直径)180 μmのワイヤ
で、ピッチ570 μm、砥粒サイズ#800、一方向走行とし
てスライス試行する実験を行ったところ、2回目のスラ
イス終了時でワイヤの最大摩耗量(最も摩耗した箇所の
線径減少量)が14.5μmとなり、さらに3回目を試行し
たが途中でワイヤが断線し、スライスできなかった。特
開平4−280944号公報、特開平11−269607号公報の方法
で製造したものについても同様の結果であった。
【0007】さらに、線径を120 μmと細くして同様に
スライス試行実験したところ、3本中2本が1回目のス
ライス時に断線し(断線するまでに切断できたインゴッ
ト本数=1/3 本)、シリコンインゴット切断用としては
使用できなかった。また、スライスにより形成されたシ
リコン基板(以下、単に基板ともいう)についてみる
と、ワイヤがインゴットに入ってから出るまでの間に摩
耗縮径するために、基板のワイヤ出側部厚がワイヤ入側
部厚よりも20μm程度大きくなっていた。この基板厚差
は、基板平均厚350 μmの約6%と大きく、基板に反り
を発生させ次工程の基板加工での割れ等の原因となる。
基板はますます薄くなる傾向にあり、前記基板厚差はさ
らに大きな問題となっている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】前記従来技術の問題点
に鑑み、本発明は、引張り強さ3800MPa 以上の高強度と
ともにシリコン結晶切断面積90m2 以上の高耐摩耗性を
有する線径200 μm以下のワイヤソー用鋼線とその製造
方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、前記目的
を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高耐摩耗性を付与
するには、柔らかいフェライトを固溶硬化や析出硬化
(特に析出硬化)の利用により硬化させる、より具体的
には、(パーライト+球状セメンタイト)組織とするこ
とが極めて有効であるという知見を得た。
【0010】耐摩耗性を高めるには、硬い物質であるこ
と、およびマトリックスが粘っこい材質であることがポ
イントとなる。伸線加工されたパーライトからなる現状
のソーワイヤの耐摩耗性をさらに向上させるには、パー
ライト中のセメンタイトを増加させることが考えられ
る。パーライトとしてのセメンタイト量は、旧オーステ
ナイト(γ)粒界へのセメンタイトの生成を防止する条
件では、一般的に共析C(約0.80%)で最多で、さらに
増加させるには、パーライト変態以外の段階でセメンタ
イトを生成させる、すなわち、パーライト変態の前段階
でセメンタイトを作っておくのがよい。
【0011】また、一般のパーライトの伸線加工材で
は、フェライト地への転位の集積が従来考えられていた
ほど多くなく、フェライトの加工硬化は疑問視されてい
る。してみれば、加工フェライトはさほど耐摩耗性が良
いとはいえず、このフェライト地を強化するためにもフ
ェライト中にセメンタイトを分散させ、フェライトの耐
摩耗性を向上させることが、ソーワイヤ全体の耐摩耗性
を向上させることにつながる。なお、フェライトの耐摩
耗性を向上させるもう1つの方法は、固溶硬化を利用す
る方法であり、そのために合金元素が添加される。ただ
し、その効果はセメンタイト増加による効果よりも小さ
い。
【0012】パーライト変態の前段階でセメンタイトを
作っておくためには、素材として過共析鋼を用い、パー
ライト変態促進処理(パテンチング)の前に積極的にセ
メンタイトの球状化処理を行い、パテンチングの際に
は、球状セメンタイトの完全固溶を抑制してこれを残留
させる熱処理条件に設定することが肝要である。また、
適切な合金元素を添加すると、その一部が球状セメンタ
イトのFeと置換してその完全固溶を抑制するため、パテ
ンチングの際に、温度は比較的低温で保持時間に余裕を
もたせたヒートサイクルを採用することができ、一方、
マトリックス(ここではフェライト)に固溶したものは
前記のように固溶硬化を通じて耐摩耗性を向上させる。
【0013】また、上記のような球状化処理を行ってお
くと、パテンチングの加熱段階でγ粒が1〜20μm程度
に微細化し、この細粒化したγを母体として変態生成し
たパーライト組織もブロックサイズの微細なものとな
り、ソーワイヤ全体として延性が向上する。本発明は、
以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨を
以下に述べる。
【0014】本発明は、C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜
0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み残
部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、パーライト
中に球状セメンタイトが分散してなる組織とを有するこ
とを特徴とする線径200 μm以下、引張り強さ3800MPa
以上のワイヤソー用鋼線である。また、本発明は、C:
0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、
Al:0.005 %以下を含み、さらに、Ni:0.05〜1.5 %、
Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5
%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Fe
および不可避的不純物からなる組成と、パーライト中に
球状セメンタイトが分散してなる組織とを有することを
特徴とする線径200 μm以下、引張り強さ3800MPa 以上
のワイヤソー用鋼線である。
【0015】本発明に係るワイヤソー用鋼線(本発明鋼
線)の組織は、平均ラメラ間隔DL=10〜25nm、平均層
状セメンタイト体積率VL =12〜15%、平均球状セメン
タイト体積率VC =1 〜20%になる組織であることが好
ましい。また、本発明鋼線の組織は、個々の球状セメン
タイト径が2〜1000nmの範囲にあり、また平均球状セメ
ンタイト間隔δC =(2.0 〜10)×平均球状セメンタイ
ト径dC になる組織であることが好ましい。
【0016】また、本発明は、素材に粗伸線、中間伸
線、パテンチング、仕上伸線を順次施すワイヤソー用鋼
線の製造方法において、前記素材を、C:0.90〜2.0
%、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005
%以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、C
r:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5
%のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残部Fe
および不可避的不純物からなる組成を有する鋼線とし、
前記パテンチングよりも前に球状化焼鈍を行うことを特
徴とするワイヤソー用鋼線の製造方法(本発明製法)で
ある。
【0017】本発明製法によるパテンチングでは、オー
ステナイト化処理を温度800 〜1000℃×保持時間2〜50
秒、変態処理を温度500 〜600 ℃×保持時間5〜90秒で
行うことが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】本発明において、化学成分含有量
(濃度)の%は質量パーセントを意味する。また、球状
セメンタイトとは、被観察断面形状のアスペクト比(=
長径/短径)が1.5 以下のセメンタイト相を意味し、そ
れ以外のセメンタイト相は層状セメンタイトと称する。
層状セメンタイトはそのほとんどがパーライト変態時の
共析変態生成物である。
【0019】本発明では、パーライト中に球状セメンタ
イトを分散させた組織になる鋼線を、線径200 μm以下
の細径線とする。そのためにはC、Si、Mn、Alの含有量
は以下のように限定される必要がある。 C:0.90〜2.0 % Cは、0.90%未満では球状セメンタイトが過少となって
耐摩耗性向上効果に乏しく、一方、2.0 %超では球状セ
メンタイトが過多となりまた粗粒化して伸線加工性が劣
化する。よってCは0.90〜2.0 %とする。なお、好まし
くは、1.20%超である。
【0020】Si:0.15〜0.30% Siは、非金属介在物の減少に寄与するが0.15%未満では
その効果に乏しく、一方、0.30%超では鋼線表面の脱炭
が進行し、耐摩耗性が劣化しやすくなる。よってSiは0.
15〜0.30%とする。なお、好ましくは、0.15〜0.25%で
ある。 Mn:0.2 〜0.6 % Mnは、脱酸、非金属介在物の組成制御および焼入性向上
に有効な元素であるが、0.2 %未満ではその効果に乏し
く、一方、0.6 %超では中心部に偏析する量が増えてマ
ルテンサイトを誘発し、該中心部にクラックが発生しや
すくなって変形能、加工性が劣化し線材の取り扱いが困
難となる。よってMnは0.2 〜0.6 %とする。なお、好ま
しくは、0.35〜0.45%である。
【0021】Al:0.005 %以下 Alは、Al2O3 主体の硬い非金属介在物を生成し、伸線加
工時あるいはシリコン結晶切断時の断線の一大原因とな
るのであるが、0.005 %以下とすることでこれを回避し
うる。よってAlは0.005 %以下とする。なお、好ましく
は、0.002 %以下である。
【0022】本発明ではさらに、適宜Ni、Cr、Mo、Vの
1種または2種以上を添加するが、それぞれの含有量は
以下の範囲とするのが好ましい。 Ni:0.05〜1.5 % Ni添加によりフェライトの延性が増し耐摩耗性が向上す
るのであるが、0.05%未満ではその効果が顕現せず、一
方、1.5 %超ではその効果が飽和するから、0.05〜1.5
%の範囲が好ましい。
【0023】Cr:0.05〜2.0 % Cr添加によりラメラ間隔が狭まって強度が上昇し、また
含Cr球状セメンタイトの固溶が抑制されてその残存量を
確保しやすくなるのであるが、0.05%未満ではその効果
が不十分であり、一方、2.0 %超ではパーライト変態が
遅延し、また鋳片に粗大炭化物が生成しやすくなるか
ら、0.05〜2.0 %の範囲が好ましい。
【0024】Mo:0.05〜0.5 % Mo添加により固溶硬化が進展し強度が上昇し、また含Mo
球状セメンタイトの固溶が抑制されてその残存量を確保
しやすくなるのであるが、0.05%未満ではその効果が不
十分であり、一方、0.5 %超ではパーライト変態が遅延
し、また鋳片に粗大炭化物が生成しやすくなるから、0.
05〜0.5 %の範囲が好ましい。
【0025】V:0.01〜0.5 % V添加によりマトリックスが強化され、また有害なNが
固定され、また微細な含V球状炭化物が生成するのであ
るが、0.01%未満ではその効果が不十分であり、一方、
0.5 %超では炭化物が過剰となり鋳片冷却過程でVCを生
じて鋳片割れを伴うようになるから、0.01〜0.5 %の範
囲が好ましい。
【0026】以上の元素およびFe以外は不可避的不純物
である。不可避的不純物のうちとくにPおよびSは、伸
線加工性および延性を劣化させるので、それぞれ0.010
%以下に制限することが望ましい。次に、本発明鋼線の
組織は、図1に模式図を示すように、層状セメンタイト
2とフェライト(層状フェライト)3とが交互に配列し
た層構造のパーライト1中に、該パーライト1を構成す
る層状セメンタイト2に属さないところの、パーライト
変態前から残存する球状セメンタイト4が分散してなる
ものである。
【0027】パーライト1は高強度にした鋼線の延性を
確保するのに最適な組織であり、その中に分散する球状
セメンタイト4は析出硬化を通じてフェライト3の延性
を低下させずに強度を高める。これにより、線径200 μ
m以下のソーワイヤに引張り強さ(TS)3800MPa 以上
の高強度とシリコン結晶切断面積90m2 以上の高耐摩耗
性を兼備させることができる。
【0028】この組織は、平均ラメラ間隔DL =10〜25
nm、平均層状セメンタイト体積率V L =12〜15%、平均
球状セメンタイト体積率VC =1〜20%になる組織であ
ることが好ましい。平均ラメラ間隔DL については、10
nm未満ではTS4300MPa 以上の高強度が得られるものの
球状セメンタイト量が不足しやすく耐摩耗性を高め難く
なり、一方、25nm超ではTS3800MPa 以上を確保するの
がやや困難となるから、10〜25nmの範囲が好ましい。な
お、より好ましくは15〜20nmである。
【0029】平均層状セメンタイト体積率VL について
は、12%未満では十分なパーライト量を確保し難く初析
セメンタイトが発生して耐摩耗性の向上代が低減し、一
方、15%超では伸線加工が困難となるから、12〜15%の
範囲が好ましい。平均球状セメンタイト体積率VC につ
いては、1%未満ではフェライト地の耐摩耗性を確保す
るのが難しくなり、一方、20%超ではパーライトの層状
組織が破壊されるようになって延性が低下するから、1
〜20%の範囲が好ましい。
【0030】また、この組織は、個々の球状セメンタイ
ト径が2〜1000nm、平均球状セメンタイト間隔δC
(2.0 〜10)×平均球状セメンタイト径dC になる組織
であることが好ましい。球状セメンタイト径について
は、2nm未満では析出硬化の作用はあっても面積率の定
量測定が困難であり、一方、1000nm超では延性が低下し
て伸線加工が困難となるから、個々の粒径では2〜1000
nmの範囲が好ましい。
【0031】平均球状セメンタイト間隔δC について
は、2.0 ×dC 未満では延性が低下して伸線加工が困難
となり、一方、10×dC (dC は平均球状セメンタイト
径)超では強度および耐摩耗性が不十分となるから、
(2.0 〜10)×dC の範囲が好ましい。平均ラメラ間隔
L 、平均層状セメンタイト体積率VL 、平均球状セメ
ンタイト体積率VC 、平均球状セメンタイト径dC 、平
均球状セメンタイト間隔δC は組織パラメータと総称さ
れる。組織パラメータの測定方法を図1に基づき説明す
る。なお、図1はTEM(透過型電子顕微鏡)の1視野
に対応し、電顕観察用薄膜試料は層状セメンタイト2の
厚み方向断面を直視できるように角度調整されている。
【0032】この視野(その面積をSTとする)内の像を
画像解析することにより、層状セメンタイト2の総延長
L2と総面積S2、層状フェライト3の総延長L3と総面積S
3、および球状セメンタイト4の個数N4(部分的に視野
に入るものは1/2 個と数える)と総面積S4が算出され
る。N4が十分大きい値(例えば500 以上)になるまで視
野を変えてL2,S2,L3,S3,N4,S4 を算出し、それまでの結
果に加算する。なお、STについても同様に加算する。L
2,S2,L3,S3,N4,S4,STの最終加算結果(同じ記号で表
す)を用いて、以下の式により組織パラメータを算出す
る。
【0033】 平均ラメラ間隔DL =S2/L2 +S3/L3 (1) 平均層状セメンタイト体積率VL =S2/ST ×100(%) (2) 平均球状セメンタイト体積率VC =S4/ST ×100(%) (3) 平均球状セメンタイト径dC =√(3/2) ×2×√ (S4/N4/π) (4) 平均球状セメンタイト間隔δC =√(ST/N4) −2×√(S4/N4/ π) (5) 次に、本発明製法について説明する。
【0034】素材は、本発明鋼線と同じ組成(C:0.90
〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:
0.005 %以下を含み、あるいはさらに、Ni:0.05〜1.5
%、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜
0.5 %のうちから選ばれた1種または2種以上を含み残
部Feおよび不可避的不純物からなる組成)を有する鋼線
(線径5.5 〜4.5 mm程度)を用いる。
【0035】処理工程は、「粗伸線(線径3〜2.5 mm程
度)→中間伸線(1.3 〜0.7 mm程度)→パテンチング→
仕上伸線(線径200 μm以下)」を順次行う工程におい
て、パテンチングよりも前(パテンチングの直前とは限
らない)に球状化焼鈍を行うものとする。粗伸線と中間
伸線とは、仕上伸線で必要な加工度(減面率96%以上、
好ましくは98%以上)を得るための仕上前線径を得るた
めのもので、従来技術の範囲内でセブロンクラック、表
面疵などの有害な欠陥が発生しない加工条件を選択する
ことにより実施できるので、本発明ではその加工条件を
特に限定しない。仕上伸線についても、従来技術の範囲
内で実施できる。なお、仕上伸線性を改善する観点から
は、パテンチング後仕上伸線前の鋼線にブラスあるいは
銅などのめっきを施すことが好ましい。
【0036】球状化焼鈍自体は、セメンタイトを球状化
させうる熱処理である限り如何なるヒートパターンのも
のであってもよく、例えばA1 点超〜Acm点未満の温度
域で適当な時間(好ましくは1時間以上)保持するパタ
ーンや、Acm点以上に加熱後A1 点超〜Acm点未満の温
度域に冷却し引続きそこで保持するパターンや、A1
の上下を往復させるパターンなどが好ましく用いうる。
【0037】球状化焼鈍の実行段階は、中間伸線〜パテ
ンチング間、粗伸線〜中間伸線間の何れか一方または両
方とするのが好ましい。この段階で球状化焼鈍を行う
と、蓄積された伸線加工歪エネルギーにより微細球状化
が進行するからである。また、粗伸線性改善のためには
粗伸線前にも球状化焼鈍を行うのが好ましい。なお、必
要に応じて粗伸線前段階あるいはその前の球状化焼鈍前
段階で軟化焼鈍を行うことができる。この軟化焼鈍は、
フェライト再結晶温度以上〜A1 点未満で行うのが好ま
しい。
【0038】パテンチングでは、オーステナイト化処理
を処理温度800 〜1000℃×保持時間2〜50秒、変態処理
(パーライト変態処理)を処理温度500 〜600 ℃×保持
時間5〜90秒で行うことが好ましい。オーステナイト化
処理は、オーステナイト中に球状セメンタイトを微細か
つ均一に残存させ、かつ基地Fe中に、次のパーライト変
態処理でラメラ間隔や層状セメンタイト体積率などの組
織パラメータが所望値となる範囲の固溶C量を確保しう
る条件で実行される。
【0039】このオーステナイト化処理においては、処
理温度800 ℃未満ではCが固溶し難く、また処理温度10
00℃超では球状セメンタイトが十分残存し難く、また保
持時間2秒未満では基地Fe中の固溶C量が不足しがちと
なり、また保持時間50秒超では球状セメンタイトが十分
残存し難いから、処理温度800 〜1000℃×保持時間2〜
50秒とするのが好ましい。
【0040】変態処理は、前記オーステナイト化処理後
のオーステナイトを微細パーライトに変態させる条件で
実行される。具体的には、処理温度に保った鉛浴などか
らなる変態装置に被処理材を装入(浴の場合は浸漬)
し、変態完了予測時点まで保持した後抽出する。この変
態処理においては、処理温度500 ℃未満ではパーライト
が生成し難く、、また処理温度600 ℃超ではパーライト
が粗大化し易く強度、伸線性の確保が困難となり、また
保持時間5秒未満では変態完了に至らず変態装置外でも
変態するため組織を微細に制御し難く、また保持時間90
秒超では変態生成したパーライトに異常(層状セメンタ
イトの崩壊)が起こり易くなるうえ生産性も悪化するか
ら、処理温度500 〜600 ℃×保持時間5〜90秒とするの
が好ましい。
【0041】
【実施例】〔1〕表1に示す種々の組成になる鋼を真空
溶解にて溶製、鋳造した。その各鋳片を熱間圧延(圧延
後は常温まで冷却)して鋼線素材(線径5.5mm )とし、
該素材について、軟化焼鈍(一部不実施)→粗伸線(線
径2.9 mm)→球状化焼鈍(一部不実施)→中間伸線(線
径1.13mm)→パテンチング→仕上伸線(線径160 μm)
を順次行った。軟化焼鈍の有無および条件、球状化焼鈍
の有無および条件、パテンチングの条件を表2に示す。
【0042】仕上伸線後の鋼線について以下の調査を行
った。なお、一部のものは仕上伸線で断線を生じた。断
線したものを伸線性=NG 、断線しなかったものを伸線性
=Gとして表2に示す。 (1) 断面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察し、球状セ
メンタイトの存在を確認できたものはさらにTEM観察
を行い、その観察像を画像解析して、ラメラ間隔DL
層状セメンタイト体積率VL 、球状セメンタイト体積率
C 、球状セメンタイト径dC 、球状セメンタイト間隔
δC を測定した(測定視野面積は球状セメンタイト個数
が1000個以上になる面積とした)。
【0043】(2) 伸線性=Gの鋼線についてJIS Z
2241に準拠した引張試験によりTSを測定した。 (3) 伸線性=Gの鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×40
0mm 長さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件
で2本切断し、該切断後の最大摩耗量(切断後のワイヤ
長さ方向5箇所について最小径を測定して平均し、この
平均値を初期の線径から差し引いたもの)を測定した。 <切断条件> ・ワイヤ使用長300km ・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行) ・切断ピッチ500 μm(切断面積=0.152 ×799 ×2=
36m2 ) ・砥粒SiC(#800)を混ぜたスラリーをかけながら切断 この調査の結果を表2に示す。本発明例では、TS3800
MPa 以上の高強度が得られるとともに、最大摩耗量が4.
2 〜8.0 μmと小さく、高耐摩耗性が得られた。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】〔2〕上記〔1〕の鋼線素材(線径5.5mm
)のうち、表1の鋼Cおよび鋼Uに対応するものを表
3に示す条件で伸線加工(熱処理も含む)し、得られた
鋼線について〔1〕の(1),(2) と同様の調査を行い、さ
らに、該鋼線をワイヤソーに用いて150mm 角×400mm 長
さのシリコン多結晶インゴットを下記の切断条件で何本
まで切断できるか(切断面積(m2 )=0.152 ×(0.4
/切断ピッチ−1)×切断本数)を調査した。 <切断条件> ・ワイヤ使用長300km ・ワイヤ走行スピード600 m/min(一方向走行) ・切断ピッチ500 μm ・砥粒SiC(#800)を混ぜたスラリーをかけながら切断 この調査の結果を表3に示す。比較例では、線径180 μ
m で2本(切断面積36m2 )まで、線径140 μm で0.3
本(切断面積5.4 m2 )までしか切断できず、線径140
μm では実用にならなかった。一方、本発明例では、線
径180 μm で8本(切断面積144 m2 )まで、線径140
μm で5本(切断面積90m2 )まで切断することがで
き、線径140 μm のワイヤソーが実用に供し得た。
【0047】
【表3】
【0048】
【発明の効果】かくして本発明によれば、引張り強さ38
00MPa 以上の高強度とともにシリコン結晶切断面積90m
2 以上の高耐摩耗性を有する線径200 μm以下のワイヤ
ソー用鋼線が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明鋼線の組織的特徴を示す模式図である。
【符号の説明】
1 パーライト 2 層状セメンタイト 3 フェライト(層状フェライト) 4 球状セメンタイト
フロントページの続き (72)発明者 峰 公雄 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川鉄テ クノリサーチ株式会社内 (72)発明者 金成 昌平 千葉県千葉市中央区川崎町1番地 川鉄テ クノリサーチ株式会社内 Fターム(参考) 3C069 AA01 BA06 BB01 BB02 CA04 EA03 4K043 AA02 AB01 AB05 AB06 AB10 AB11 AB15 AB18 AB22 AB23 AB27 AB30 DA05

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、
    Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み残部Feおよ
    び不可避的不純物からなる組成と、パーライト中に球状
    セメンタイトが分散してなる組織とを有することを特徴
    とする線径200 μm以下、引張り強さ3800MPa 以上のワ
    イヤソー用鋼線。
  2. 【請求項2】 C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.30%、
    Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、さらに、
    Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、Mo:0.05〜0.5
    %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれた1種または2
    種以上を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる組成
    と、パーライト中に球状セメンタイトが分散してなる組
    織とを有することを特徴とする線径200 μm以下、引張
    り強さ3800MPa 以上のワイヤソー用鋼線。
  3. 【請求項3】 素材に粗伸線、中間伸線、パテンチン
    グ、仕上伸線を順次施すワイヤソー用鋼線の製造方法に
    おいて、前記素材を、C:0.90〜2.0 %、Si:0.15〜0.
    30%、Mn:0.2 〜0.6 %、Al:0.005 %以下を含み、あ
    るいはさらに、Ni:0.05〜1.5 %、Cr:0.05〜2.0 %、
    Mo:0.05〜0.5 %、V:0.01〜0.5 %のうちから選ばれ
    た1種または2種以上を含み残部Feおよび不可避的不純
    物からなる組成を有する鋼線とし、前記パテンチングよ
    りも前に球状化焼鈍を行うことを特徴とするワイヤソー
    用鋼線の製造方法。
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