JP2002127301A - 耐候性表面処理鋼材および処理方法 - Google Patents

耐候性表面処理鋼材および処理方法

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JP2002127301A JP2000322393A JP2000322393A JP2002127301A JP 2002127301 A JP2002127301 A JP 2002127301A JP 2000322393 A JP2000322393 A JP 2000322393A JP 2000322393 A JP2000322393 A JP 2000322393A JP 2002127301 A JP2002127301 A JP 2002127301A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】耐候性安定錆が早期に、しかも外観を損なうこ
となく形成される耐候性表面処理鋼材およびその処理方
法を提供する。 【解決手段】下層に、乾燥膜厚が5〜50μmで、かつ
硫酸クロムを0.1〜15mass%含む有機樹脂塗膜を有
し、上層に、乾燥膜厚が5〜30μmで、かつ硫酸クロ
ムを含まず、塩基性物質を0.1〜12mass%含む有機
樹脂塗膜を有する耐候性表面処理鋼材で、上記の成分を
それぞれ含有する有機樹脂塗料を乾燥膜厚が上記所定の
厚さになるように下塗りおよび上塗りする方法により得
ることができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海岸地域等の塩分
の影響を受けて大気腐食が進行する厳しい環境下におい
ても、鋼材を腐食から保護する作用を有する錆層(以
下、「耐候性安定錆」または単に「安定錆」という)が
早期に、かつ確実に、しかも外観を損なうことなく形成
される耐候性表面処理鋼材およびその処理方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】一般に、鋼にP、Cu、Cr、Ni等の
元素を添加することにより、大気中における鋼の耐食性
を向上させることができる。これらの低合金鋼は耐候性
鋼と呼ばれ、屋外において数年で腐食に対する保護性の
ある錆、すなわち「耐候性錆」が鋼表面に形成され、以
後塗装等の防食処理を必要としない、いわゆるメンテナ
ンスフリー鋼である。しかしながら、耐候性錆が形成さ
れるまでに数年かかるため、それまでの期間中に赤錆や
黄錆等の浮き錆や流れ錆が生じて好ましくない外観を呈
するのみならず、周囲環境の汚染源にもなるという問題
点を残している。特に、海岸地域等の海塩粒子が飛来す
る環境においては、この傾向が著しいばかりでなく、耐
候性鋼の特質である耐候性錆が形成されないという問題
があった。この問題については、例えば特開平1−14
2008号公報に記載されるように、鋼材表面にリン酸
塩皮膜を形成させる方法が提案されている。しかし、リ
ン酸塩皮膜を形成させる前に適当な前処理を施す必要が
ある等、処理の内容が複雑であり、また鋼材の溶接が必
要な場合、溶接部に処理を施すことは容易ではなく、建
築構造物への適用にも問題がある。また、この方法で
は、海塩粒子等の塩分が飛来する厳しい大気腐食環境下
では、耐候性錆が形成されにくいと思われる。また、特
開平6−226198号公報には、硫酸クロムまたは硫
酸銅を1〜65質量%含む有機樹脂塗料を鋼材表面に被
覆して安定さびを早期に生成させる方法が開示されてい
る。しかし、この方法は、流れ錆を防止する効果は大き
いが、使用環境や用途によっては被覆材の表面に緑ない
し白色の反応副生成物(硫酸鉄)が析出し、外観を損な
うという問題があり、特に、橋梁桁内部等の結露の激し
い環境において顕著である。また、田園地帯等の比較的
マイルドな大気腐食環境下において安定さびの生成が遅
れる場合があった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、耐候
性鋼等の低合金鋼や普通鋼などのいわゆる錆を生成する
鋼材の表面に、耐候性安定錆が早期に、かつ確実に、し
かも外観を損なうことなく形成される耐候性表面処理鋼
材、および、前記表面処理鋼材を得るための表面処理方
法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、20年以
上の大気曝露試験により生成した錆を解析した結果、耐
候性安定錆がα−(Fe、Cr)OOH(以下、「クロ
ムゲーサイト」という)からなる微細結晶の緻密な集合
により構成されていることを解明した。したがって、耐
候性安定錆を早期に生成させて浮き錆や流れ錆の生成を
抑えるためには、緻密なクロムゲーサイトの生成をいか
に促進させるかがポイントとなる。なお、微細化したα
−(Fe、Cr)OOHは、X線回折では回折ピークを
与えない、いわゆるX線的非晶質物質となるが、メスバ
ウアー分光分析では、明瞭に耐候性安定錆(クロムゲー
サイト)が形成されていることが確認できる。そこで、
クロムゲーサイトの生成を促進させるために検討を重ね
た結果、鋼材表面あるいは鋼材表面に形成された錆層に
硫酸クロムを適正量含有する有機樹脂塗料を塗布し、さ
らにその上に炭酸塩(例えば、NaHCO3 、Na2
CO3)、リン酸塩(例えば、Na2 HPO4 、NaH
2 PO4 )等の塩基性物質を適正量含有する有機樹脂
塗料を塗布する表面処理を施すことにより、流れ錆の発
生を伴わず、また硫酸鉄等の反応副生成物による表面汚
損を伴うことなく、鋼材表面に耐候性安定錆を早期に、
確実に形成させ得ることを見いだした。本発明は上記の
知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記
(1)の耐候性表面処理鋼材、および(2)の表面処理
方法にある。 (1)下層に乾燥膜厚が5〜50μmで、かつ硫酸クロ
ムを0.1〜15mass%含む有機樹脂塗膜を有し、上層
に乾燥膜厚が5〜30μmで、かつ硫酸クロムを含ま
ず、塩基性物質を0.1〜12mass%含む有機樹脂塗膜
を有する耐候性表面処理鋼材。 (2)鋼材の表面に、塗料固形分に対して硫酸クロムを
0.1〜15mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚が5〜
50μmになるように塗布した後、さらにその上に硫酸
クロムを含まず、塗料固形分に対して塩基性物質を0.
1〜12mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚が5〜30
μmになるように塗布する表面処理方法。前記の「鋼
材」は、特に鋼種を限定されるものではなく、普通鋼で
あっても、耐候性鋼等の低合金鋼であってもよい。いわ
ゆる錆を生成する鋼材であればよい。「乾燥膜厚」と
は、有機樹脂塗料を塗布した後、塗料の調製時に加える
有機溶剤などが揮散した乾燥後の膜厚である。また、
「塗料固形分」とは、バインダーとしての樹脂と、この
樹脂に添加する硫酸クロムまたは塩基性物質、および樹
脂に添加する顔料等の塗料添加剤をいい、有機溶剤な
ど、塗装後の自然乾燥により揮散して、鋼材表面に形成
される有機樹脂塗膜中に残存しないものは含まない。
【0005】
【発明の実施の形態】以下、本発明の耐候性表面処理鋼
材および表面処理方法について詳細に説明する。錆の構
造が緻密であれば、鋼材表面は物理的に大気腐食環境か
ら遮断されやすく、また浮き錆や流れ錆の根本的な原因
である鉄イオンの溶出が軽減する。しかしながら、錆中
に割れや細孔などの欠陥があると水や酸素の供給経路と
なり、錆の防食性能が低下する。したがって、鋼材表面
に緻密で欠陥のない連続した錆層を形成させる必要があ
る。本発明の耐候性表面処理鋼材は、上記のように、母
材鋼の表面に二層の有機樹脂塗膜を有する鋼材である。
【0006】下層の有機樹脂塗膜(以下、有機樹脂塗膜
を単に「塗膜」ともいう)には、0.1〜15mass%の
硫酸クロムが含まれている。硫酸クロムは、塗膜中に水
分が浸透してきたときに、クロムイオンと硫酸イオンに
解離し、塗膜と母材鋼の界面に到達する。硫酸イオンお
よび水分は鋼を腐食させ、鉄イオンを生成させる。一
方、クロムイオンは、この鉄イオンを耐候性安定錆の主
成分であるクロムゲーサイトに変化させる。また、硫酸
イオンも初期に鉄イオンの生成を加速するだけではな
く、安定錆の微細化、緻密化に関与していると考えられ
る。塩分の飛来するような厳しい大気腐食環境中でもこ
の効果を得るには、下層塗膜中に0.1mass%以上の硫
酸クロムが含まれていることが必要である。これによっ
て、本発明の耐候性表面処理鋼材が大気腐食環境に置か
れたとき、耐候性安定錆が早期に生成し、しかもこの錆
は極めて緻密で、大気腐食環境中に存在する塩化物イオ
ン(Cl-1)等の腐食性アニオンの透過を抑制する優れ
た作用効果を有するものとなる。また、下層塗膜中の硫
酸クロムの含有量を15mass%以下に限定したのは、こ
れを超える量を含有させると、初期の母材鋼の腐食が大
きすぎて、結果的に耐候性安定錆の保護性が低下し、厳
しい大気腐食環境における防食効果が保証され得ず、硫
酸イオンと母材鋼との反応により生成する硫酸鉄が鋼材
の表面に析出して、外観が著しく損なわれるからであ
る。下層塗膜に含まれる有機樹脂(基材樹脂をいう)の
種類は特に制限を受けるものではなく、エポキシ樹脂、
ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アクリ
ル樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等を使用すること
ができる。下層塗膜には、硫酸クロムの他に、ベンガ
ラ、二酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン
ブルー等の着色顔料、タルク、シリカ、マイカ、硫酸バ
リウム、炭酸カルシウム等の体質顔料、酸化クロム、ク
ロム酸亜鉛、クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛等の防錆顔料、
その他チキソ剤、分散剤、酸化防止剤等、慣用の添加剤
が含まれていてもよい。下層塗膜の膜厚(乾燥膜厚)を
5〜50μmとしたのは、5μm未満では安定錆生成能
力が劣り、50μmを超えると効果が飽和し、経済的に
不利であるとともに、大気腐食環境としてあまり厳しく
ない田園地帯などにおいて安定錆の生成が遅延する場合
があるからである。上層塗膜中の樹脂としては、下層塗
膜中の樹脂と同種の樹脂を主成分とする樹脂を用いるの
がよい。異なる種類の樹脂を用いると、下層塗膜と上層
塗膜との間の密着性が低下し、上層塗膜が剥離してくる
ため適当ではない。上層塗膜には、上記の下層塗膜の場
合と同様、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラッ
ク、フタロシアニンブルー等の着色顔料、タルク、シリ
カ、マイカ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔
料、酸化クロム、クロム酸亜鉛、クロム酸鉛、塩基性硫
酸鉛等の防錆顔料、その他チキソ剤、分散剤、酸化防止
剤等の添加剤が含まれていてもよい。しかし、硫酸クロ
ムは含まれない。上層塗膜に硫酸クロムが含まれると、
母材鋼から溶解した鉄が硫酸鉄として塗膜の外面で析出
し、外観が損なわれやすいばかりか、安定錆の生成が抑
制される場合がある。上層塗膜を設ける目的として、下
層塗膜に含まれる硫酸クロムに起因して生じる上述した
硫酸鉄の生成、析出の抑制とともに、下層塗膜中の硫酸
クロムの逃散防止があげられる。上層塗膜がない場合、
硫酸クロムが溶出していくので、安定錆を生成させるた
めに過剰の硫酸クロムを下層塗膜に含有させておくこと
が必要になるが、上層塗膜が存在すると、硫酸クロムの
溶出が抑えられるので、少量の硫酸クロムで安定錆を生
成させることができる。さらに、上層塗膜の存在によっ
て、上記生成した硫酸鉄を表面に析出させず、母材鋼と
塗膜の界面または塗膜内部で取り込むことが可能とな
り、錆の生成が促進され、その結果、塗膜中の硫酸クロ
ムと結びついて安定錆となる。
【0007】このように、本発明の表面処理鋼材では、
上層塗膜と下層塗膜とが互いにその役割を補完しあい、
相乗的に作用して、母材鋼表面に早期に耐候性安定錆を
形成させることが可能になる。上層塗膜には、0.1〜
12mass%の塩基性物質を含有させる。なお、ここでい
う塩基性物質とは、水溶液とした場合に、pH7以上を
示す物質で、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や
水酸化カリウム(KOH)、前述した炭酸塩(例えば、
NaHCO3 、Na2 CO3 )、リン酸塩(例え
ば、Na2 HPO4、NaH2 PO4 )等があげられ
る。これら塩基性物質を含有させるのは、例えば、橋梁
桁内部等の直接には雨があたりにくく、結露の激しい環
境で副生成物として生成した硫酸鉄が塗膜の表面で緑色
ないし白色生成物として析出する前に、塗膜内でこれと
反応させ、塗膜外での析出に伴う外観の汚損を効果的に
防止するためである。塩基性物質の含有量を0.1〜1
2mass%と規定したのは、含有量が0.1mass%未満で
あると、上記の硫酸鉄析出抑制効果が顕著には認められ
ず、また、12mass%を超えて含有させると、効果が飽
和するだけでなく、添加した塩基性物質が塗膜の表面で
析出して、外観を損なう場合があるからである。なお、
この塩基性物質は、下層塗膜に含有させても差し支えは
ないが、その場合の含有量は12mass%とするのが望ま
しい。上層塗膜の膜厚(乾燥膜厚)は5〜30μmとす
る。膜厚が5μm未満では硫酸鉄析出抑制効果が小さ
く、外観が損なわれる場合があり、一方、30μmを超
えると、塗膜の表面から母材鋼への水分の透過が過度に
抑制され、安定錆の生成が著しく遅延する場合がある。
本発明の表面処理方法は、前記本発明の耐候性表面処理
鋼材を得るための表面処理方法で、前記のように、鋼材
の表面に、塗料固形分に対して0.1〜15mass%の硫
酸クロムを含む有機樹脂塗料(以下、単に「塗料」とも
いう)を塗布して下層塗膜を形成させ、さらにその上に
0.1〜12mass%の塩基性物質を含む塗料を塗布して
上層塗膜を形成させる方法である。下層塗膜の形成に使
用される塗料(下塗り塗料)および上層塗膜の形成に使
用される塗料(上塗り塗料)は、いずれも使用時に適当
量の有機溶剤(以下、単に「溶剤」という)または水に
より塗装作業に適した粘度に調整される。溶剤または水
分は、塗装後自然乾燥により蒸散していくが、特に下塗
り塗料に含まれる水分の一部は、耐候性安定錆の生成反
応にも寄与するするものと考えられる。下塗り塗料、上
塗り塗料のいずれにおいても、前述した着色顔料、体質
顔料、防錆顔料、その他、慣用の添加剤が含まれていて
よい。さらに、下塗り塗料には、鉄、銅、ニッケルの化
合物や、リン酸あるいはその水溶液が含まれていてもよ
く、むしろその方が好適である。鉄イオンや銅イオン、
ニッケルイオンあるいはリン酸はクロムイオンと共存す
ることにより、クロムゲーサイトの生成を促進させる作
用効果を有する。ただし、鉄、銅、ニッケルの化合物を
硫酸化合物として添加するときは、硫酸クロムとの合計
量で15mass%以下にしておくことが好ましい。前記合
計量が15%を超えると、硫酸イオンによる初期の腐食
が加速されすぎる結果、安定錆の生成が阻害されたり、
あるいは塗膜の表面に硫酸鉄が析出して外観が損なわれ
るおそれが生じるからである。これらの下塗り塗料、上
塗り塗料の塗装には、通常の塗装と同じくエアスプレ
ー、エアレススプレーあるいは刷毛塗り等慣用の方法を
用いることができるため、場所を選ばずに施工が可能で
あり、また比較的薄膜の塗装でよいため経済性にも優れ
ている。さらには、現地塗装が可能なため、現地で鋼材
の切断、溶接等の加工を施した後の塗装や、表面に錆が
発生した鋼材の塗装にも対応できる。なお、所定の乾燥
膜厚になるように塗料を塗布するには、あらかじめ塗布
時の塗膜の膜厚(塗膜厚)と乾燥後の膜厚との関係を求
めておき、その関係に基づいて塗布時の塗膜厚を定めれ
ばよい。このようにして得られる本発明の表面処理鋼板
は、厳しい大気腐食環境下においても赤錆や黄錆等の浮
き錆や流れ錆を生じることなく、鋼材表面に耐候性安定
錆を早期に形成させ、鋼材の耐候性を確保することがで
きる。さらに、この表面処理鋼板は、大気腐食環境とし
てはそれほど厳しくない田園地帯等のマイルドな環境下
においても早期に安定錆を形成させ得る。また、橋梁桁
内部等の結露の激しい場所において生じやすい硫酸鉄の
析出もみられない。また、上記の耐候性安定錆に何らか
の外力が作用して亀裂や剥離が生じても、健全部の塗膜
中に硫酸クロムが残存していれば、その硫酸クロムが損
傷部に供給され、再度耐候性安定錆が生成する自己補修
性能が期待できる。
【0008】
【実施例】本発明の表面処理方法により作製したサンプ
ルについて、暴露試験を行った後、腐食減量、クロムゲ
ーサイトの生成状態および外観を調査した。また、箱形
試験材を用いて結露環境における副生成物(硫酸鉄)発
生状況を調査した。用いた試験鋼 (1)および (2)の化学
組成を表1に示す。また、塗料に用いた基材樹脂A、B
およびCの組成を表2に示す。表2において、硬化剤を
使用する基材樹脂BとCは2液タイプで、樹脂(基材樹
脂+添加剤)と硬化剤を塗装直前に混合して使用した。
【0009】
【0010】
【表1】
【0011】
【表2】
【0012】表面処理前の母材試験片の寸法は150m
m×70mm×3.2mm(厚さ)とし、ブラスト処理
により除錆度がSa(SISスウェーデン規格)で2.
5になるまで除錆した。表3および表4(表3の続き)
に暴露試験に用いたサンプルの作製条件を示す。
【0013】
【0014】
【表3】
【0015】
【表4】
【0016】表3および表4に示した配合の樹脂に適当
量の溶剤を加えて粘度を0.2〜1N・s/m2 (2
00〜1000センチポアズ、B型粘度計を用いて測
定)にした塗料を作製し、エアスプレーにより母材試験
片の両面に塗装してサンプルとした。このサンプルを水
平に設置した状態で、兵庫県の田園地帯に1年間または
2年間曝露した。曝露試験後、表面に残存する塗膜およ
び錆を除去して母材試験片の質量を測定し、あらかじめ
測定しておいた塗装前の質量との差から腐食減量を求め
た。なお、表3および表4には、腐食減量の半分である
片面の平均腐食減量を腐食深さに換算して示した。クロ
ムゲーサイトの生成状態については、錆の断面を偏向顕
微鏡およびラマン分光法で構造解析し、塗膜と母材鋼の
界面に連続した、ゲーサイトからなる耐候性安定錆が形
成されていれば良好(○印で表示)、形成されていなけ
れば不良(×印で表示)と評価した。塗膜表面の外観に
ついては、硫酸鉄の析出、上層塗膜の浮きやはがれ等の
有無を調査し、それらがほとんど認められない場合は良
好(○印で表示)、それらのいずれかが発生していた場
合は不良(×印で表示)と評価した。また、箱形試験材
による副生成物(硫酸鉄)発生状況の調査では、橋梁桁
内部等の結露の激しい環境を模擬するために、縦300
mm×横300mm×高さ50mmの箱形の容器を試験
材とし、この箱の底部に膜厚が1mmになるようにイオ
ン交換水を容れ、温度25℃、相対湿度60%の恒温恒
湿槽で1日放置する(その間に、箱内の水は蒸発する)
工程を1サイクルとして、これを50サイクル繰り返す
試験を行った。箱形試験材に硫酸鉄の生成が認められな
い場合は良好(○印で表示)、硫酸鉄が生成した場合
(×印で表示)、および、硫酸鉄は生成しないが、添加
した塩基性物質の析出により外観が白く変色した場合
(△印で表示)は不良と評価した。調査結果を表3およ
び表4に併せて示す。この結果から、本発明例1〜9
(表3参照)では、曝露試験後のサンプルに流れ錆や硫
酸鉄による汚損は認められず、曝露試験条件がマイルド
であったにもかかわらず、早期(曝露期間1年以内)に
耐候性安定錆の生成が認められた。また、箱形試験材に
よる調査でも、硫酸鉄の生成は認められなかった。一
方、比較例10〜17(表4参照)では、塩基性物質の
含有量が規定範囲外の場合(比較例17)、下層塗膜と
上層塗膜の基材樹脂が異なる場合(比較例11)、膜厚
が規定範囲外の場合(比較例12〜14)および硫酸ク
ロムの含有量が規定範囲外の場合(比較例15、1
6)、上層塗膜の剥離や硫酸鉄の析出が認められ、ある
いは耐候性安定錆の生成が不十分であった。また、箱形
試験材による調査で硫酸鉄または塩基性物質の生成が認
められた(比較例11、12、15、17)。比較例1
0では、曝露試験では良好な結果が得られたが、箱形試
験材による調査で硫酸鉄の析出が認められた。
【0017】
【発明の効果】本発明の耐候性表面処理鋼板は、厳しい
大気腐食環境下においても赤錆や黄錆等の浮き錆や流れ
錆を生じることなく、鋼材表面に耐候性安定錆を早期に
形成させ、鋼材の耐候性を確保することができる。さら
に、この表面処理鋼板は、大気腐食環境としてはそれほ
ど厳しくないマイルドな環境においても早期に安定錆を
形成させ得る。また、橋梁桁内部等の結露の激しい場所
において生じやすい硫酸鉄の析出もみられない。この表
面処理鋼板は鋼材の防食に関するメンテナンスを必要と
せず、かつ景観性を損なうことがないので、土木・建築
構造物用の鋼材として好適である。この表面処理鋼板
は、本発明の処理方法によって容易に、かつ経済的に得
ることができる。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成12年10月23日(2000.10.
23)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正内容】
【書類名】明細書
【発明の名称】耐候性表面処理鋼材および処理方法
【特許請求の範囲】
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、海岸地域等の塩分
の影響を受けて大気腐食が進行する厳しい環境下におい
ても、鋼材を腐食から保護する作用を有する錆層(以
下、「耐候性安定錆」または単に「安定錆」という)が
早期に、かつ確実に、しかも外観を損なうことなく形成
される耐候性表面処理鋼材およびその処理方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】一般に、鋼にP、Cu、Cr、Ni等の
元素を添加することにより、大気中における鋼の耐食性
を向上させることができる。これらの低合金鋼は耐候性
鋼と呼ばれ、屋外において数年で腐食に対する保護性の
ある錆、すなわち「耐候性錆」が鋼表面に形成され、以
後塗装等の防食処理を必要としない、いわゆるメンテナ
ンスフリー鋼である。
【0003】しかしながら、耐候性錆が形成されるまで
に数年かかるため、それまでの期間中に赤錆や黄錆等の
浮き錆や流れ錆が生じて好ましくない外観を呈するのみ
ならず、周囲環境の汚染源にもなるという問題点を残し
ている。特に、海岸地域等の海塩粒子が飛来する環境に
おいては、この傾向が著しいばかりでなく、耐候性鋼の
特質である耐候性錆が形成されないという問題があっ
た。
【0004】この問題については、例えば特開平1−1
42008号公報に記載されるように、鋼材表面にリン
酸塩皮膜を形成させる方法が提案されている。しかし、
リン酸塩皮膜を形成させる前に適当な前処理を施す必要
がある等、処理の内容が複雑であり、また鋼材の溶接が
必要な場合、溶接部に処理を施すことは容易ではなく、
建築構造物への適用にも問題がある。また、この方法で
は、海塩粒子等の塩分が飛来する厳しい大気腐食環境下
では、耐候性錆が形成されにくいと思われる。
【0005】また、特開平6−226198号公報に
は、硫酸クロムまたは硫酸銅を1〜65質量%含む有機
樹脂塗料を鋼材表面に被覆して安定さびを早期に生成さ
せる方法が開示されている。しかし、この方法は、流れ
錆を防止する効果は大きいが、使用環境や用途によって
は被覆材の表面に緑ないし白色の反応副生成物(硫酸
鉄)が析出し、外観を損なうという問題があり、特に、
橋梁桁内部等の結露の激しい環境において顕著である。
また、田園地帯等の比較的マイルドな大気腐食環境下に
おいて安定さびの生成が遅れる場合があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、耐候
性鋼等の低合金鋼や普通鋼などのいわゆる錆を生成する
鋼材の表面に、耐候性安定錆が早期に、かつ確実に、し
かも外観を損なうことなく形成される耐候性表面処理鋼
材、および、前記表面処理鋼材を得るための表面処理方
法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、20年以
上の大気曝露試験により生成した錆を解析した結果、耐
候性安定錆がα−(Fe、Cr)OOH(以下、「クロ
ムゲーサイト」という)からなる微細結晶の緻密な集合
により構成されていることを解明した。したがって、耐
候性安定錆を早期に生成させて浮き錆や流れ錆の生成を
抑えるためには、緻密なクロムゲーサイトの生成をいか
に促進させるかがポイントとなる。なお、微細化したα
−(Fe、Cr)OOHは、X線回折では回折ピークを
与えない、いわゆるX線的非晶質物質となるが、メスバ
ウアー分光分析では、明瞭に耐候性安定錆(クロムゲー
サイト)が形成されていることが確認できる。
【0008】そこで、クロムゲーサイトの生成を促進さ
せるために検討を重ねた結果、鋼材表面あるいは鋼材表
面に形成された錆層に硫酸クロムを適正量含有する有機
樹脂塗料を塗布し、さらにその上に炭酸塩(例えば、N
aHCO3 、Na2 CO3)、リン酸塩(例えば、N
2 HPO4 、NaH2 PO4 )等の塩基性物質を
適正量含有する有機樹脂塗料を塗布する表面処理を施す
ことにより、流れ錆の発生を伴わず、また硫酸鉄等の反
応副生成物による表面汚損を伴うことなく、鋼材表面に
耐候性安定錆を早期に、確実に形成させ得ることを見い
だした。
【0009】本発明は上記の知見に基づいてなされたも
のであり、その要旨は、下記(1)の耐候性表面処理鋼
材、および(2)の表面処理方法にある。 (1)下層に乾燥膜厚が5〜50μmで、かつ硫酸クロ
ムを0.1〜15mass%含む有機樹脂塗膜を有し、上層
に乾燥膜厚が5〜30μmで、かつ硫酸クロムを含ま
ず、塩基性物質を0.1〜12mass%含む有機樹脂塗膜
を有する耐候性表面処理鋼材。 (2)鋼材の表面に、塗料固形分に対して硫酸クロムを
0.1〜15mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚が5〜
50μmになるように塗布した後、さらにその上に硫酸
クロムを含まず、塗料固形分に対して塩基性物質を0.
1〜12mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚が5〜30
μmになるように塗布する表面処理方法。
【0010】前記の「鋼材」は、特に鋼種を限定される
ものではなく、普通鋼であっても、耐候性鋼等の低合金
鋼であってもよい。いわゆる錆を生成する鋼材であれば
よい。
【0011】「乾燥膜厚」とは、有機樹脂塗料を塗布し
た後、塗料の調製時に加える有機溶剤などが揮散した乾
燥後の膜厚である。また、「塗料固形分」とは、バイン
ダーとしての樹脂と、この樹脂に添加する硫酸クロムま
たは塩基性物質、および樹脂に添加する顔料等の塗料添
加剤をいい、有機溶剤など、塗装後の自然乾燥により揮
散して、鋼材表面に形成される有機樹脂塗膜中に残存し
ないものは含まない。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の耐候性表面処理鋼
材および表面処理方法について詳細に説明する。
【0013】錆の構造が緻密であれば、鋼材表面は物理
的に大気腐食環境から遮断されやすく、また浮き錆や流
れ錆の根本的な原因である鉄イオンの溶出が軽減する。
しかしながら、錆中に割れや細孔などの欠陥があると水
や酸素の供給経路となり、錆の防食性能が低下する。し
たがって、鋼材表面に緻密で欠陥のない連続した錆層を
形成させる必要がある。
【0014】本発明の耐候性表面処理鋼材は、上記のよ
うに、母材鋼の表面に二層の有機樹脂塗膜を有する鋼材
である。
【0015】下層の有機樹脂塗膜(以下、有機樹脂塗膜
を単に「塗膜」ともいう)には、0.1〜15mass%の
硫酸クロムが含まれている。硫酸クロムは、塗膜中に水
分が浸透してきたときに、クロムイオンと硫酸イオンに
解離し、塗膜と母材鋼の界面に到達する。硫酸イオンお
よび水分は鋼を腐食させ、鉄イオンを生成させる。一
方、クロムイオンは、この鉄イオンを耐候性安定錆の主
成分であるクロムゲーサイトに変化させる。また、硫酸
イオンも初期に鉄イオンの生成を加速するだけではな
く、安定錆の微細化、緻密化に関与していると考えられ
る。
【0016】塩分の飛来するような厳しい大気腐食環境
中でもこの効果を得るには、下層塗膜中に0.1mass%
以上の硫酸クロムが含まれていることが必要である。こ
れによって、本発明の耐候性表面処理鋼材が大気腐食環
境に置かれたとき、耐候性安定錆が早期に生成し、しか
もこの錆は極めて緻密で、大気腐食環境中に存在する塩
化物イオン(Cl-1)等の腐食性アニオンの透過を抑制
する優れた作用効果を有するものとなる。また、下層塗
膜中の硫酸クロムの含有量を15mass%以下に限定した
のは、これを超える量を含有させると、初期の母材鋼の
腐食が大きすぎて、結果的に耐候性安定錆の保護性が低
下し、厳しい大気腐食環境における防食効果が保証され
得ず、硫酸イオンと母材鋼との反応により生成する硫酸
鉄が鋼材の表面に析出して、外観が著しく損なわれるか
らである。
【0017】下層塗膜に含まれる有機樹脂(基材樹脂を
いう)の種類は特に制限を受けるものではなく、エポキ
シ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹
脂、アクリル樹脂、アルキド樹脂、フタル酸樹脂等を使
用することができる。
【0018】下層塗膜には、硫酸クロムの他に、ベンガ
ラ、二酸化チタン、カーボンブラック、フタロシアニン
ブルー等の着色顔料、タルク、シリカ、マイカ、硫酸バ
リウム、炭酸カルシウム等の体質顔料、酸化クロム、ク
ロム酸亜鉛、クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛等の防錆顔料、
その他チキソ剤、分散剤、酸化防止剤等、慣用の添加剤
が含まれていてもよい。
【0019】下層塗膜の膜厚(乾燥膜厚)を5〜50μ
mとしたのは、5μm未満では安定錆生成能力が劣り、
50μmを超えると効果が飽和し、経済的に不利である
とともに、大気腐食環境としてあまり厳しくない田園地
帯などにおいて安定錆の生成が遅延する場合があるから
である。
【0020】上層塗膜中の樹脂としては、下層塗膜中の
樹脂と同種の樹脂を主成分とする樹脂を用いるのがよ
い。異なる種類の樹脂を用いると、下層塗膜と上層塗膜
との間の密着性が低下し、上層塗膜が剥離してくるため
適当ではない。
【0021】上層塗膜には、上記の下層塗膜の場合と同
様、ベンガラ、二酸化チタン、カーボンブラック、フタ
ロシアニンブルー等の着色顔料、タルク、シリカ、マイ
カ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の体質顔料、酸化
クロム、クロム酸亜鉛、クロム酸鉛、塩基性硫酸鉛等の
防錆顔料、その他チキソ剤、分散剤、酸化防止剤等の添
加剤が含まれていてもよい。しかし、硫酸クロムは含ま
れない。上層塗膜に硫酸クロムが含まれると、母材鋼か
ら溶解した鉄が硫酸鉄として塗膜の外面で析出し、外観
が損なわれやすいばかりか、安定錆の生成が抑制される
場合がある。
【0022】上層塗膜を設ける目的として、下層塗膜に
含まれる硫酸クロムに起因して生じる上述した硫酸鉄の
生成、析出の抑制とともに、下層塗膜中の硫酸クロムの
逃散防止があげられる。上層塗膜がない場合、硫酸クロ
ムが溶出していくので、安定錆を生成させるために過剰
の硫酸クロムを下層塗膜に含有させておくことが必要に
なるが、上層塗膜が存在すると、硫酸クロムの溶出が抑
えられるので、少量の硫酸クロムで安定錆を生成させる
ことができる。さらに、上層塗膜の存在によって、上記
生成した硫酸鉄を表面に析出させず、母材鋼と塗膜の界
面または塗膜内部で取り込むことが可能となり、錆の生
成が促進され、その結果、塗膜中の硫酸クロムと結びつ
いて安定錆となる。
【0023】このように、本発明の表面処理鋼材では、
上層塗膜と下層塗膜とが互いにその役割を補完しあい、
相乗的に作用して、母材鋼表面に早期に耐候性安定錆を
形成させることが可能になる。
【0024】上層塗膜には、0.1〜12mass%の塩基
性物質を含有させる。なお、ここでいう塩基性物質と
は、水溶液とした場合に、pH7以上を示す物質で、例
えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム
(KOH)、前述した炭酸塩(例えば、NaHCO3
、Na2 CO3 )、リン酸塩(例えば、Na2 HP
4、NaH2 PO4 )等があげられる。
【0025】これら塩基性物質を含有させるのは、例え
ば、橋梁桁内部等の直接には雨があたりにくく、結露の
激しい環境で副生成物として生成した硫酸鉄が塗膜の表
面で緑色ないし白色生成物として析出する前に、塗膜内
でこれと反応させ、塗膜外での析出に伴う外観の汚損を
効果的に防止するためである。
【0026】塩基性物質の含有量を0.1〜12mass%
と規定したのは、含有量が0.1mass%未満であると、
上記の硫酸鉄析出抑制効果が顕著には認められず、ま
た、12mass%を超えて含有させると、効果が飽和する
だけでなく、添加した塩基性物質が塗膜の表面で析出し
て、外観を損なう場合があるからである。なお、この塩
基性物質は、下層塗膜に含有させても差し支えはない
が、その場合の含有量は12mass%とするのが望まし
い。
【0027】上層塗膜の膜厚(乾燥膜厚)は5〜30μ
mとする。膜厚が5μm未満では硫酸鉄析出抑制効果が
小さく、外観が損なわれる場合があり、一方、30μm
を超えると、塗膜の表面から母材鋼への水分の透過が過
度に抑制され、安定錆の生成が著しく遅延する場合があ
る。
【0028】本発明の表面処理方法は、前記本発明の耐
候性表面処理鋼材を得るための表面処理方法で、前記の
ように、鋼材の表面に、塗料固形分に対して0.1〜1
5mass%の硫酸クロムを含む有機樹脂塗料(以下、単に
「塗料」ともいう)を塗布して下層塗膜を形成させ、さ
らにその上に0.1〜12mass%の塩基性物質を含む塗
料を塗布して上層塗膜を形成させる方法である。
【0029】下層塗膜の形成に使用される塗料(下塗り
塗料)および上層塗膜の形成に使用される塗料(上塗り
塗料)は、いずれも使用時に適当量の有機溶剤(以下、
単に「溶剤」という)または水により塗装作業に適した
粘度に調整される。溶剤または水分は、塗装後自然乾燥
により蒸散していくが、特に下塗り塗料に含まれる水分
の一部は、耐候性安定錆の生成反応にも寄与するするも
のと考えられる。下塗り塗料、上塗り塗料のいずれにお
いても、前述した着色顔料、体質顔料、防錆顔料、その
他、慣用の添加剤が含まれていてよい。
【0030】さらに、下塗り塗料には、鉄、銅、ニッケ
ルの化合物や、リン酸あるいはその水溶液が含まれてい
てもよく、むしろその方が好適である。鉄イオンや銅イ
オン、ニッケルイオンあるいはリン酸はクロムイオンと
共存することにより、クロムゲーサイトの生成を促進さ
せる作用効果を有する。ただし、鉄、銅、ニッケルの化
合物を硫酸化合物として添加するときは、硫酸クロムと
の合計量で15mass%以下にしておくことが好ましい。
前記合計量が15%を超えると、硫酸イオンによる初期
の腐食が加速されすぎる結果、安定錆の生成が阻害され
たり、あるいは塗膜の表面に硫酸鉄が析出して外観が損
なわれるおそれが生じるからである。
【0031】これらの下塗り塗料、上塗り塗料の塗装に
は、通常の塗装と同じくエアスプレー、エアレススプレ
ーあるいは刷毛塗り等慣用の方法を用いることができる
ため、場所を選ばずに施工が可能であり、また比較的薄
膜の塗装でよいため経済性にも優れている。さらには、
現地塗装が可能なため、現地で鋼材の切断、溶接等の加
工を施した後の塗装や、表面に錆が発生した鋼材の塗装
にも対応できる。なお、所定の乾燥膜厚になるように塗
料を塗布するには、あらかじめ塗布時の塗膜の膜厚(塗
膜厚)と乾燥後の膜厚との関係を求めておき、その関係
に基づいて塗布時の塗膜厚を定めればよい。
【0032】このようにして得られる本発明の表面処理
鋼板は、厳しい大気腐食環境下においても赤錆や黄錆等
の浮き錆や流れ錆を生じることなく、鋼材表面に耐候性
安定錆を早期に形成させ、鋼材の耐候性を確保すること
ができる。さらに、この表面処理鋼板は、大気腐食環境
としてはそれほど厳しくない田園地帯等のマイルドな環
境下においても早期に安定錆を形成させ得る。また、橋
梁桁内部等の結露の激しい場所において生じやすい硫酸
鉄の析出もみられない。
【0033】また、上記の耐候性安定錆に何らかの外力
が作用して亀裂や剥離が生じても、健全部の塗膜中に硫
酸クロムが残存していれば、その硫酸クロムが損傷部に
供給され、再度耐候性安定錆が生成する自己補修性能が
期待できる。
【0034】
【実施例】本発明の表面処理方法により作製したサンプ
ルについて、暴露試験を行った後、腐食減量、クロムゲ
ーサイトの生成状態および外観を調査した。また、箱形
試験材を用いて結露環境における副生成物(硫酸鉄)発
生状況を調査した。用いた試験鋼 (1)および (2)の化学
組成を表1に示す。また、塗料に用いた基材樹脂A、B
およびCの組成を表2に示す。表2において、硬化剤を
使用する基材樹脂BとCは2液タイプで、樹脂(基材樹
脂+添加剤)と硬化剤を塗装直前に混合して使用した。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】表面処理前の母材試験片の寸法は150m
m×70mm×3.2mm(厚さ)とし、ブラスト処理
により除錆度がSa(SISスウェーデン規格)で2.
5になるまで除錆した。表3および表4(表3の続き)
に暴露試験に用いたサンプルの作製条件を示す。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
【0040】表3および表4に示した配合の樹脂に適当
量の溶剤を加えて粘度を0.2〜1N・s/m2 (2
00〜1000センチポアズ、B型粘度計を用いて測
定)にした塗料を作製し、エアスプレーにより母材試験
片の両面に塗装してサンプルとした。このサンプルを水
平に設置した状態で、兵庫県の田園地帯に1年間または
2年間曝露した。
【0041】曝露試験後、表面に残存する塗膜および錆
を除去して母材試験片の質量を測定し、あらかじめ測定
しておいた塗装前の質量との差から腐食減量を求めた。
なお、表3および表4には、腐食減量の半分である片面
の平均腐食減量を腐食深さに換算して示した。
【0042】クロムゲーサイトの生成状態については、
錆の断面を偏向顕微鏡およびラマン分光法で構造解析
し、塗膜と母材鋼の界面に連続した、ゲーサイトからな
る耐候性安定錆が形成されていれば良好(○印で表
示)、形成されていなければ不良(×印で表示)と評価
した。
【0043】塗膜表面の外観については、硫酸鉄の析
出、上層塗膜の浮きやはがれ等の有無を調査し、それら
がほとんど認められない場合は良好(○印で表示)、そ
れらのいずれかが発生していた場合は不良(×印で表
示)と評価した。
【0044】また、箱形試験材による副生成物(硫酸
鉄)発生状況の調査では、橋梁桁内部等の結露の激しい
環境を模擬するために、縦300mm×横300mm×
高さ50mmの箱形の容器を試験材とし、この箱の底部
に膜厚が1mmになるようにイオン交換水を容れ、温度
25℃、相対湿度60%の恒温恒湿槽で1日放置する
(その間に、箱内の水は蒸発する)工程を1サイクルと
して、これを50サイクル繰り返す試験を行った。箱形
試験材に硫酸鉄の生成が認められない場合は良好(○印
で表示)、硫酸鉄が生成した場合(×印で表示)、およ
び、硫酸鉄は生成しないが、添加した塩基性物質の析出
により外観が白く変色した場合(△印で表示)は不良と
評価した。
【0045】調査結果を表3および表4に併せて示す。
この結果から、本発明例1〜9(表3参照)では、曝露
試験後のサンプルに流れ錆や硫酸鉄による汚損は認めら
れず、曝露試験条件がマイルドであったにもかかわら
ず、早期(曝露期間1年以内)に耐候性安定錆の生成が
認められた。また、箱形試験材による調査でも、硫酸鉄
の生成は認められなかった。
【0046】一方、比較例10〜17(表4参照)で
は、塩基性物質の含有量が規定範囲外の場合(比較例1
7)、下層塗膜と上層塗膜の基材樹脂が異なる場合(比
較例11)、膜厚が規定範囲外の場合(比較例12〜1
4)および硫酸クロムの含有量が規定範囲外の場合(比
較例15、16)、上層塗膜の剥離や硫酸鉄の析出が認
められ、あるいは耐候性安定錆の生成が不十分であっ
た。また、箱形試験材による調査で硫酸鉄または塩基性
物質の生成が認められた(比較例11、12、15、1
7)。比較例10では、曝露試験では良好な結果が得ら
れたが、箱形試験材による調査で硫酸鉄の析出が認めら
れた。
【0047】
【発明の効果】本発明の耐候性表面処理鋼板は、厳しい
大気腐食環境下においても赤錆や黄錆等の浮き錆や流れ
錆を生じることなく、鋼材表面に耐候性安定錆を早期に
形成させ、鋼材の耐候性を確保することができる。さら
に、この表面処理鋼板は、大気腐食環境としてはそれほ
ど厳しくないマイルドな環境においても早期に安定錆を
形成させ得る。また、橋梁桁内部等の結露の激しい場所
において生じやすい硫酸鉄の析出もみられない。この表
面処理鋼板は鋼材の防食に関するメンテナンスを必要と
せず、かつ景観性を損なうことがないので、土木・建築
構造物用の鋼材として好適である。
【0048】この表面処理鋼板は、本発明の処理方法に
よって容易に、かつ経済的に得ることができる。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 幸 英昭 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内 (72)発明者 鹿島 和幸 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内 (72)発明者 土井 教史 大阪府大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友金属工業株式会社内 (72)発明者 川西 征史 兵庫県尼崎市南塚口町6丁目10番73号 神 東塗料株式会社内 (72)発明者 上田 雅文 兵庫県尼崎市南塚口町6丁目10番73号 神 東塗料株式会社内 Fターム(参考) 4D075 AE03 CA32 CA33 DA03 DB02 DC10 EC02 4F100 AA07 AA07A AA08 AA08B AA20 AA23 AB03 AK01A AK01B AK23 AS00C BA03 BA07 CC00A CC00B EH46 EH462 GB07 GB90 JL09 YY00A YY00B

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】下層に、乾燥膜厚が5〜50μmで、かつ
    硫酸クロムを0.1〜15mass%含む有機樹脂塗膜を有
    し、上層に、乾燥膜厚が5〜30μmで、かつ硫酸クロ
    ムを含まず、塩基性物質を0.1〜12mass%含む有機
    樹脂塗膜を有することを特徴とする耐候性表面処理鋼
    材。
  2. 【請求項2】鋼材の表面に、塗料固形分に対して硫酸ク
    ロムを0.1〜15mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚
    が5〜50μmになるように塗布した後、さらにその上
    に硫酸クロムを含まず、塗料固形分に対して塩基性物質
    を0.1〜12mass%含む有機樹脂塗料を乾燥膜厚が5
    〜30μmになるように塗布することを特徴とする表面
    処理方法。
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