JP2001342534A - 加工性および高温における強度−延性バランスに優れるCr基合金 - Google Patents

加工性および高温における強度−延性バランスに優れるCr基合金

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 1000℃以上の高温において、従来合金では達
成しえなかった優れた強度−延性バランスを具え、しか
も被削性と冷間圧延性を有するCr基合金を提供する。 【解決手段】 Cr:60 mass %以上、C+N:50 mass
ppm 以下、S:20 massppm 以下、O:100 mass ppm以
下、かつ析出物としてのCr:100 mass ppm以下を含有
し、さらに必要により、W:0.1 〜10.0 mass %、Ti:
0.1 〜5.0 mass%、Mo:0.1 〜5.0 mass%およびRe:0.
1 〜5.0 mass%から選ばれるいずれか1種または2種以
上を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成とす
る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、冷間加工性、被削
性などの加工性のほか、 600℃以上の高温とりわけ1000
℃以上の超高温域における強度−延性バランスに優れる
Cr基合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術】最近の産業・工業の分野における技術進
歩、また環境問題に対する関心の高まりなどから、600
℃以上の高温、特に1000℃以上の超高温域において、高
強度でしかも高延性を具えた金属材料の出現が強く要請
されるようになってきた。ところで、従来から用いられ
てきた高温材料は、主としてNi基、Cr基、Co基の合金で
あった。例えば、特開昭55−154542号公報には、Cr:20
〜35mass%、Si:1〜8mass%、C:1.7 〜3.5 mass%
を含み、M型の炭化物を形成させたNi基合金が、
また特開昭55−154542号公報には、Ni:20〜47mass%、
Co:6〜35mass%、Cr:18〜36mass%、C:0.6 〜2.5
mass%、Si:0.5 〜2.5 mass%を含むNi−Co−Cr系合金
がそれぞれ提案されている。しかしながら、これらの合
金は、強度または延性のいずれかの特性が十分でないた
めに、実用的には500 ℃程度の温度までしか使用するこ
とができなかった。また、これらNiやCoを多量に含む合
金は、材料の価格自体が高価であり、熱膨張係数が大き
く、被削性も劣るといった多くの問題も抱えていた。
【0003】Ni基やCo基の合金より安価で、熱膨張係数
の小さい高温材料としては、Cr系の合金が有望である。
例えば、特開平11−80902 号公報には、C:0.5 〜1.5
mass%、Si:1.0 〜4.0 mass%、Mn:0.5 〜2.0 mass
%、Cr:35〜60mass%を含有する、高温でのエロージョ
ン・コロージョン性を高めた高Cr合金が提案されてい
る。しかし、この高Cr合金は、高温域とくに1000℃以上
では、十分な強度を得ることが難しい上、C含有量が高
いために冷間圧延性や被削性に劣るという問題があっ
た。このようなCr系合金の強度を高めるには、Cr量の一
層の増加が必要である。ところが、従来の技術でCr量を
60mass%以上にすると、延性がほとんどなくなってしま
うために、溶製後の加工が不可能になるという問題があ
った。このため、60mass%以上のCr基合金は今なお実用
化されるまでには至っていない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、超高
温環境での使用に耐えうる材料への要請が益々高まりつ
つある状況にもかかわらず、高温で十分な強度と延性を
有し、冷間圧延性や常温での被削性を具えた実用的な材
料はこれまでに存在しなかった。そこで、本発明の目的
は、従来技術が抱えている上記問題を解消することにあ
り、600 ℃以上の高温とくに1000℃以上の超高温域にお
いて、従来合金では達成しえなかった優れた強度−延性
バランスを具えるとともに、優れた冷間圧延性や常温に
おける被削性を有するCr基合金を提供することにある。
なお、強度−延性バランスの具体的な目標値は、引張試
験における断面積の減少率RAと引張強さTSとの積で
表されるRA×TSが1000〜1250℃の温度範囲で12000
%・MPa 以上であるものとする。
【0005】
【課題を解決するための手段】発明者らは、経済性や熱
膨張係数の上から有利なCr基合金を対象にして、上記課
題の解決に向けて鋭意研究した。その結果、60mass%以
上のCrを含有するCr基合金であっても、合金中のC+
N、S、Oおよび析出物としてのCrの含有量を限界量以
下に低減することにより、常温における被削性、冷間圧
延性などの加工性と、高温における強度−延性バランス
とを両立させうることを見いだし、本発明を完成するに
いたった。また、発明者らは高温におけるさらなる強度
上昇には、W、Ti、Mo、Reの添加が有効であることをも
知見した。
【0006】このようにして完成した本発明は、Cr:60
mass %以上、C+N:50 mass ppm 以下、S:20 mas
s ppm 以下、O:100 mass ppm以下、かつ析出物として
のCr:100 mass pm 以下を含有し、残部はFeおよび不可
避的不純物からなることを特徴とする加工性および高温
における強度−延性バランスに優れるCr基合金である。
また、本発明は、Cr:60 mass %以上、C+N:50 mas
s ppm 以下、S:20 mass ppm 以下、O:100 mass ppm
以下、かつ析出物としてのCr:100 mass ppm 以下を含
有し、さらにW:0.1 〜10.0 mass %、Ti:0.1 〜5.0
mass%、Mo:0.1 〜5.0 mass%およびRe:0.1 〜5.0 ma
ss%、のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上
を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなること
を特徴とする加工性および高温における強度−延性バラ
ンスに優れるCr基合金である。そして、これら発明合金
は、引張試験における断面積の減少率RAと引張強さT
Sとの積で表される、強度−延性バランスRA×TSが
1000〜1250℃の温度範囲で12000 %・MPa 以上である特
性を有している。さらに、上記各発明のCr基合金は、C
r:99.9 mass %以上のクロム原料を用いて、1.3 ×10
−3Pa以下の真空度にてスカル溶解したものであること
が好ましい。
【0007】
【発明の実施の形態】まず、本発明を想到する契機とな
った実験について説明する。原料の純度および溶解条件
を変化させることにより、70mass%Crを含有するCr基合
金を種々溶製し、熱間鍛造により25mmの棒状試片とし
た。これら棒状試片を1250℃に加熱後水冷したのち、直
径6.5 mm、長さ120 mmの丸棒試験片を切り出した。この
丸棒試験片を用いて、直接通電方式の高温引張り試験機
(グリーブル試験機)により、1100℃における強度(引
張強さ)と延性(断面積の減少率)を測定した。
【0008】図1に、高温での強度−延性バランス(断
面積の減少率RAと引張強さTSとの積)におよぼすC
+N量の影響を示す。図1から、高温域における強度−
延性バランスを改善するためには、S量およびO量を制
限したうえで、C+N量を低減することが必要であるこ
とがわかる。また、図2に、常温での被削性に及ぼす析
出物としてしてのCr(以後、「析出Cr」と略記する)の
影響を示す。ここに、被削性は、バイト:超硬P20、
送り:0.155 mm/rev、切り込み:1.5 mmの条件で行う乾
切削において、工具寿命が60分になるときの切削速度
(V60)を、AISI規格のB1112(いおう快削
鋼)でのV60の値を基準値:100として比較した、
被削率で評価した。図2から、被削性は析出Cr量に大き
く左右され、被削性の向上のためには析出Cr量を制限す
ることが必要であることが示される。本発明はかかる知
見に基づいて完成したものである。
【0009】次に、本発明の成分を上記範囲に限定した
理由について説明する。 ・Cr:60mass%以上 Crは、高温域における強度を確保するために必要な元素
であり、その含有量が60mass%未満では、1000℃以上で
の強度確保が困難となるので、60mass%以上含有させる
ことが必要である。なお、十分な特性を発揮させるには
65mass%以上含有させることが好ましい。また、Cr量の
上限はとくに定める必要がないが、溶製上の理由から9
9.99 mass%が限界である。
【0010】・C+N:50 mass ppm 以下 CおよびNは、1000℃以下でCr炭・窒化物を形成して、
合金の脆化による圧延性の低下および耐食性の低下を招
く。また、このCおよびNは、600 ℃以上の高温域では
固溶状態で存在し延性を低下させる。これらの特性低下
を招かないようにするには、C+Nとしての含有量を50
mass ppm以下とする必要がある。なお、延性の低下をよ
り少なくするために、好ましくはC+Nを30 mass ppm
以下、より好ましくは20 mass ppm 以下にするのがよ
い。また、下限値は特に規定しないが、工業的には、溶
製時間を考慮して、0.1 mass ppmまでとするのが望まし
い。
【0011】・S:20 mass ppm 以下 Sは、Cr基合金中にわずかに含まれる、Ti、Cu、Mnなど
の微量金属元素と硫化物を形成して存在するか、固溶状
態で粒界に偏析して存在し、いずれの場合とも高温での
延性低下および冷間圧延性の低下を招く。このような悪
影響は、S量が20 mass ppm を超えると著しくなるの
で、その上限を20 mass ppm とする。なお、延性低下を
より少なくするためには、S量を10 mass ppm 以下に抑
制するのが望ましい。また、Sの下限量については特に
定めないが、溶製コストを考えると0.1 mass ppmまでと
するのが望ましい。
【0012】・O:100 mass ppm以下 Oは、合金中のCrのほか、わずかに含まれるAl、Siなど
の微量金属元素と酸化物を形成し、延性の低下を招く。
このような悪影響を避けるには、O量(全O量)を100
mass ppm以下に制限する必要がある。なお、より高い延
性を維持するためには、O量を50 mass ppm 以下とする
のが好ましい。O量の下限は定めないが、溶製コストを
考えて、5 mass ppmとするのが好ましい。
【0013】・析出物としてのCr:100 mass ppm以下 析出Cr(析出物としてのCr)は、主に酸化物、炭窒化物
として存在する。従来の耐熱合金ではCr析出物を高温強
度の向上のために利用していたが、本発明においては、
このCr析出物とくにCr酸化物は、延性を低下させて1000
℃以上での強度−延性バランスの確保を困難にする。ま
た、Cr炭窒化物が昇温中に溶解すると、600 〜800 ℃付
近における延性を低下させる。さらに、高純度の高Cr合
金においては、Cr析出物は被削性を低下させるととも
に、耐食性をも低下させる。このようなCr析出物による
悪影響は、析出Crの量が100 mass ppmを超えると顕著に
あらわれる。よって、析出Crの量は100 mass ppm以下に
制限する。析出Cr量の下限はとくに定めないが、溶製技
術、溶製時間の点から0.01 mass ppm とするのが好まし
い。
【0014】・W:0.1 〜10.0 mass %、Ti:0.1 〜5.
0 mass%、Mo:0.1 〜5.0 mass%、Re:0.1 〜5.0 mass
% W、Ti、MoおよびReは、Cr基合金の高温強度を、延性を
損なうことなく上昇させるのに有効な元素である。この
ような効果は、いずれの元素とも0.1 mass%以上の添加
により発現させられるが、多量の添加は延性を低下させ
るので避けなければならない。このため、Wの含有量は
10.0 mass %以下、Ti、MoおよびReの含有量は、いずれ
も5.0 mass%以下とする。なお、これら元素の好ましい
含有範囲は、W:1.0 〜9.0 mass%、Ti:1.0 〜4.0 ma
ss%、Mo:1.0 〜4.0 mass%、Re:1.0 〜4.0 mass%で
ある。また、これら元素を複合添加する場合には、延性
確保の上から合計量で15mass%以下に止めるのが望まし
い。
【0015】以上述べた成分元素以外は、Feおよび不可
避的不純物とする。なお、残余の元素をFeとしたのは、
Cr−Fe合金が延性とコストの点からもっとも有利である
からである。本発明合金は、とくに1000℃以上の高温域
において優れた強度と延性を有しているが、かかる合金
は、とくに高純度の原料を用いることと、溶解条件につ
いて留意する以外は常法にしたがって製造することがで
きる。これらのうち、例えば、クロム原料としてCr:9
9.9mass%以上の純度のものを使用すること、溶解条件
として、ルツボからの不純物の混入が少ないスカル溶解
法により、圧力が1.3 ×10−3Pa以下(10−5 Torr 以
下)、好ましくは1.3 ×10−4Pa以下(10−6 Torr 以
下)の高真空の下で溶解することが望ましい。
【0016】
【実施例】表1に示す成分からなる各種Cr基合金を溶製
した。溶製には、原料として高純度クロム(純度99.95
mass%)、超高純度電解鉄(純度99.998mass%)を使用
し、1.3 ×10−4Paの真空下で水冷銅るつぼを用いるス
カル溶解法を採用した。このインゴットを1050〜1200℃
で熱間鍛造して直径25mmの棒状試片とした。これら棒状
試片を1250℃に加熱後水冷してから、直径6.5 mm、長さ
120 mmの丸棒試験片を切り出した。この試験片を用い
て、直接通電方式の高温引張り試験機(グリーブル試験
機)により高温での延性(断面積の減少率)および引張
強さを測定した。比較のために、同様の試験を商用の耐
熱材料である54 mass %Ni−18mass %Cr−3 mass %M
o合金についても実施した。
【0017】
【表1】
【0018】また、常温における被削性は、AISI規
格のB1112(いおう快削鋼)の切削において、工具
寿命が60分となるときの切削速度(V60)の値を10
0とし、この値を基準とする相対値で表した被削率で評
価した。冷間圧延性は以下の方法で調査した。溶解後の
インゴットを1250℃に再加熱し、熱間圧延機にて5.0 mm
厚まで圧延した。この熱延板を1100℃で10分間焼鈍し
たのち、室温にて圧延率50%(板厚2.5 mm)で冷間圧
延し、全長1.5 mの冷延板とした。冷延板の先・後端部
を除いた1mの範囲において、耳割れの有無、深さを測
定することにより、次の基準にしたがって冷間圧延性を
評価した。 ○:割れなし又は割れの深さ0.5 mm未満 △:割れの深さ0.5 〜5 mm未満 ×:割れの深さ5 mm以上 なお、上記○で評価したもののうち、圧延率90%で冷間
圧延した場合でも耳割れが発生しなかったものは◎とし
た。
【0019】得られた試験結果を表2に示す。Cr量が60
mass%未満の合金A1およびA2は1000℃での強度が低
下している。また、従来から耐熱材料として用いられて
いる54 mass %Ni−18 mass %Cr−3 mass%Mo合金は、
1000℃を超えると急激に延性が低下し、1200℃でのRA
は0%となる。これに対して、発明合金は1000℃以上の
高温でいずれも強度−延性バランスを表すRA×TSが
12000 (%・MPa)以上を示し、きわめて優れた強度
−延性バランスを有していることが分かる。また、W、
Ti、MoおよびReのうちのいずれか1種以上を添加した発
明合金は、一層優れた強度−延性バランスを示す。ま
た、発明合金の被削性は良好であり、表3に示す従来の
耐熱合金のそれに比べても優れている。発明合金の冷間
圧延性も被削性と同様に良好であり、とくにC+N、S
を低減した場合には、圧延率90%の冷間圧延を施した場
合でも、耳割れがまったく発生しなかった。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
1000℃以上の高温域における強度−延性バランスに優
れ、被削性、冷間圧延性にも優れたCr基合金を提供する
ことが可能になる。従って、本発明は、高温材料が必要
とされる各種の産業分野に利用され、地球環境の改善に
も寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】C+N量が1100℃における強度−延性バランス
に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】析出Cr量が被削性に及ぼす影響を示すグラフで
ある。

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Cr:60 mass %以上、 C+N:50 mass ppm 以下、 S:20 mass ppm 以下、 O:100 mass ppm以下、かつ 析出物としてのCr:100 mass ppm 以下 を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなること
    を特徴とする加工性および高温における強度−延性バラ
    ンスに優れるCr基合金。
  2. 【請求項2】 Cr:60 mass %以上、 C+N:50 mass ppm 以下、 S:20 mass ppm 以下、 O:100 mass ppm以下、かつ 析出物としてのCr:100 mass ppm 以下 を含有し、さらに W:0.1 〜10.0 mass %、 Ti:0.1 〜5.0 mass%、 Mo:0.1 〜5.0 mass%および Re:0.1 〜5.0 mass%、 のうちから選ばれるいずれか1種または2種以上を含有
    し、残部はFeおよび不可避的不純物からなることを特徴
    とする加工性および高温における強度−延性バランスに
    優れるCr基合金。
  3. 【請求項3】 引張試験における断面積の減少率RAと
    引張強さTSとの積で表される、強度−延性バランスR
    A×TSが1000〜1250℃の温度範囲で12000%・MPa 以
    上である、請求項1または2に記載のCr基合金。
  4. 【請求項4】 Cr:99.9 mass %以上のクロム原料を用
    いて、1.3 ×10−3Pa以下の真空度にてスカル溶解して
    なる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のCr基合金。
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