JP2001247934A - ばね用鋼線およびその製造方法ならびにばね - Google Patents

ばね用鋼線およびその製造方法ならびにばね

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JP2001247934A
JP2001247934A JP2000059436A JP2000059436A JP2001247934A JP 2001247934 A JP2001247934 A JP 2001247934A JP 2000059436 A JP2000059436 A JP 2000059436A JP 2000059436 A JP2000059436 A JP 2000059436A JP 2001247934 A JP2001247934 A JP 2001247934A
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steel wire
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mass
wire
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Nozomi Kawabe
望 河部
Hiroshi Izumida
寛 泉田
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Sumitomo Electric Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 パテンティング時間を短くして生産性に優れ
ると共に、高温における軟化抵抗に優れ、かつ疲労特性
や耐食性にも優れるばね用鋼線とその製造方法ならびに
ばねを提供する。 【解決手段】 成分が質量%で、C:0.60〜0.70、Si:
1.80〜2.20、Mn:0.10〜0.50、Mo:0.60〜1.20、Cr:0.
30以下を含み、焼入れ・焼戻ししたマルテンサイトを主
体とする組織により構成されるばね用鋼線である。そし
て、次の特性を具える。引張強度:1900〜2350MPa、絞
り:35%以上、結晶子サイズ:10〜30nm、格子歪:0.15
〜0.3%、Mo炭化物析出物のサイズ:0.2μm以下、残留
オーステナイトの含有量:5vol%以下、表面粗さ:Rz14
μm以下。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、疲労特性および耐
熱性に優れるばね用鋼線とその製造方法並びにこの鋼線
を用いたばねに関するものである。
【0002】
【従来の技術】通常、ばね用鋼線は次の工程を経て製造
される。溶解鋳造→圧延→パテンティング→(皮剥ぎ→
焼鈍)→伸線→オイルテンパー処理(OT処理)
【0003】そして、OT処理後にコイリングを行い、さ
らに必要に応じて窒化処理やショットピーニングを施し
ている。
【0004】また、従来の「(高強度)弁ばね用SiCr鋼
オイルテンパー線」は、C:0.50〜0.70、Si:1.20〜1.
60、Mn:0.50〜0.80、Cr:0.50〜0.80質量%を基本化学
成分としており、伸線加工前に550〜700℃程度でパテン
ティングしてパーライト変態させる工程を含んでいた。
【0005】その他、疲労特性を向上させる目的でC、
Si、Cr、Mn等の添加量を多くしたり、Mo、V、Nb等の炭
化物形成元素を添加することが行われている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の弁ばね
用SiCr鋼オイルテンパー線では、今日高まりつつある耐
疲労特性に応えられないと言う問題がある。高い疲労限
を得るためにコイリング加工したばねに窒化処理を施す
ことが行われている。この窒化処理は、より高温で処理
できれば鋼線表面が硬くなって疲労限を向上できるが、
高温にさらされたことによる鋼線内部の強度低下の影響
の方が大きくなると全体として疲労限が低下してしま
う。そのため、上記の弁ばね用SiCr鋼オイルテンパー線
では高温での窒化処理が難しく、疲労限を向上させるこ
とができなかった。
【0007】これに対して、Moを添加すると耐熱性が向
上し、高温での窒化処理後もマトリックスの硬度低下が
小さく、疲労限の向上が期待できる。しかし、Moを添加
すると製造工程の途中で伸線加工をするために、その前
工程で行うパーライト変態における変態時間がかかり過
ぎ、生産性が低下すると言う問題がある。具体的には、
Moの添加がなければ約3分以下で変態できるが、Moの添
加により10〜20分程度かかり、到底実用的な生産性とは
言えない。これは、Crが含有されていると特に顕著であ
る。また、十分にパーライト組織を有していないと加工
性が低く、後の伸線工程が行えない。
【0008】さらに、ばね用鋼線として要求される特性
としては次に示す項目が挙げられ、これらの特性を考慮
する必要がある。
【0009】ばね加工が容易であるような靭性が確保
されていること。 耐熱性に優れること。この耐熱性には、例えばエンジ
ンの弁ばねとして使用されるときには200℃前後で使用
されてへたらないことと、ばね加工処理の一環として実
施される窒化処理(400〜550℃)で強度が低下しないこ
との2点が含まれる。 疲労特性に優れること。 耐食性に優れること。弁ばね等では、耐食性はあまり
問題にならないが、懸架用ばね等では特に重要である。 生産性に優れること。特に、鋼線製造工程におけるパ
テンティング時間の短縮は重要課題である。
【0010】従って、本発明の主目的は、パテンティン
グ時間を短縮することで製造性に優れ、かつ高温での窒
化処理が可能で耐疲労性を改善でき、その上、疲労限に
も優れたばね用鋼線と、その製造方法ならびに前記鋼線
を用いたばねとを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明ばね用鋼線は、成
分が質量%で、C:0.60〜0.70、Si:1.80〜2.20、Mn:
0.10〜0.50、Mo:0.60〜1.20、Cr:0.30未満を含み、焼
戻しマルテンサイトを主体とする組織により構成される
ばね用鋼線であって、下記の特性を具えることを特徴と
する。 引張強度:1900〜2350MPa 絞り:35%以上 Mo炭化物析出物のサイズ:0.2μm以下 残留オーステナイトの含有量:5vol%以下 表面粗さ:Rz14μm以下
【0012】また、上記構成に加えて、結晶子サイ
ズ:10〜30nm、格子歪:0.15〜0.35%という要件を満た
すこと、上記Mo炭化物析出物のサイズ、残留オーステ
ナイトの含有量、表面粗さの限定に代えて、結晶子サイ
ズ:10〜30nm、格子歪:0.15〜0.35%という要件を満た
すことも本発明鋼線の特徴である。ここで、さらにV
を0.05〜0.15質量%含むことや、さらにNiを0.05〜2.
00質量%含むことも望ましい。化学成分を上記のように
限定した理由は次の通りである。
【0013】C:0.60〜0.70質量%:鋼線の基本強度の
維持に有効な元素である。0.60%未満では強度が不足
し、0.70%を超えると靭性が低下する。
【0014】Si:1.80〜2.20質量%:耐熱性を向上させ
るために必要な元素である。すなわち、フェライト中に
固溶し、鋼の強度を高めると共に、焼戻し軟化抵抗を高
めることに有効である。下限値未満ではこの効果が得ら
れず、上限値を超えてもその効果が飽和し、靭性が低下
するからである。
【0015】Mn:0.10〜0.50質量%:ベイナイト変態が
短時間にできて生産性に優れるからである。下限値未満
では強度が不足し、上限値を超えるとパテンティング時
間が長くなって生産性が低下する。
【0016】Mo:0.60〜1.20質量%:耐熱性を向上させ
るために必要な元素である。すなわち、炭化物を析出し
て焼戻し軟化抵抗を高め、鋼線の強度、靭性、耐熱性を
向上させる。下限値未満では、この効果が少なく、特に
強度が低下する。上限を超えるとパテンティングに時間
がかかり、生産性が低下する。
【0017】Cr:0.03質量%未満:耐熱性、焼入れ性を
向上させ、窒化深さを大きくするために有効な元素であ
るが、添加量が多いとコスト高を招くだけである。この
範囲内であればCrの含有量を極力少なくでき、かつ短時
間でのベイナイト変態が可能である。Crは含有していな
くても構わない。
【0018】V:0.05〜0.15質量%:結晶粒の微細化を
促進し、靭性や耐へたり性を向上できるからである。下
限値を下回ると、この効果が期待できず、上限値を上回
ると靭性が低下する。
【0019】Ni:0.05〜2.0質量%:耐食性および靭性
を向上させるために有効な元素だからである。下限値未
満では、耐食性改善効果があまり期待できず、上限値を
超えてもコスト高を招くだけで一層の靭性向上が期待で
きないからである。
【0020】なお、上記化学成分以外に不純物を含んで
も構わないことは言うまでもない。不純物の含有量とし
て、Pを0.02質量%以下、Sを0.02質量%以下とすること
が好ましい。特に、各々を0.01質量%以下とすることが
一層望ましい。また、非金属介在物の粒径は30μm以
下、より好ましくは15ミクロン以下である。
【0021】焼入れ・焼戻ししたマルテンサイトを主体
とする組織としたのは、このような組織を有する材料が
耐熱性、疲労特性の向上に最も好ましいからである。
【0022】引張り強さは、疲労強度を高めるために19
00MPa以上必要であり、靭性を考慮すると2350N/mm2以下
であることが望ましい。
【0023】絞りを35%以上としたのは、35%未満では
コイリング加工しにくいからである。
【0024】結晶子サイズを10〜30nmとしたのは、下限
値を下回ると生産性が低くなり、上限値を超えるとへた
りが大きくなるからである。
【0025】格子歪を0.15〜0.3%としたのは、下限値
を下回ると強度不足となり、上限値を超えるとへたりが
大きくなるからである。
【0026】Mo炭化物析出物のサイズを0.2μm以下とし
たのは、0.2μmを超えると耐熱性改善効果が小さく、か
つ靭性が低くなるからである。
【0027】残留オーステナイトの含有量を5vol%以下
としたのは、疲労限を向上させるためである。
【0028】表面粗さは凹凸が小さい方が良好である。
Rz14μm以下であれば疲労限が高くなり好ましい。鋼線
の表面粗さを調整する手段としては、電界研磨、機械研
磨といった研磨や、ショットピーニングなどが挙げられ
る。この表面粗さの調整は、ばね加工前でもばね加工後
でもいずれに行っても構わない。
【0029】また、本発明ばね用鋼線の製造方法は、ベ
イナイトを主体とした組織の素線を伸線加工する工程
と、伸線加工した線材を900〜1050℃に加熱し、その後
急冷してマルテンサイトを主体とした組織に変態させる
工程と、さらに400〜550℃に加熱して焼き戻す工程とを
具えることを特徴とする。
【0030】この製造方法も、基本的な製造手順は「溶
解鋳造→圧延→パテンティング→(皮剥ぎ→焼鈍)→伸
線→オイルテンパー処理(OT処理)」である。すなわ
ち、パテンティング処理により素線をベイナイト化し、
OT処理により焼入れ・焼戻しマルテンサイト組織とす
る。
【0031】ここで、パテンティング工程は、パテンテ
ィング温度を360〜450℃とすることが好ましい。パーラ
イト変態よりも短い時間でベイナイト変態でき、かつマ
ルテンサイトが生じない温度範囲を選択した。また、こ
の温度範囲内により、パーライト組織の含有量も5vol%
以下とできる。特に、400℃前後が望ましい。約400℃を
中心として、温度が上がっても下がってもパテンティン
グに要する時間が長くなる傾向が見られる。変態時間は
10分未満、特に5分以内が生産性向上のため好適であ
る。なお、オーステナイト化する加熱温度は900〜1050
℃程度である。そして、この加熱温度からパテンティン
グ温度までの冷却速度は2〜100℃/sec程度が好適であ
る。
【0032】パテンティング工程と伸線工程との間に皮
剥ぎ工程または焼鈍工程を行うことが一般的である。皮
剥ぎ工程は、例えば皮剥ぎダイスにより脱炭層の除去を
行う。焼鈍工程は500〜600℃×10〜30分程度が好適であ
る。
【0033】伸線工程は、上記のパテンティング処理に
より、靭性も十分な鋼線とできるため、10〜50%程度の
減面率が選択できる。
【0034】オイルテンパー処理では、900〜1050℃に
加熱してベイナイトをオーステナイトにする。次に、急
冷して焼入れし、マルテンサイトを主体とする組織に変
態させる。ここでの加熱温度が900℃未満でも1050℃を
超えても靭性が不足する。また、急冷する際の冷媒は油
が一般的であるが、水でも良い。そして、400〜550℃に
加熱して焼き戻す。焼戻し温度が400℃未満では靭性が
不足し、550℃を超えると強度が不足する。上記オイル
テンパー処理における加熱は、高周波加熱でも雰囲気加
熱でも良い。
【0035】そして、本発明ばねは、前述の本発明鋼線
により構成されることを特徴とする。上記の鋼線は耐熱
性、疲労特性に優れるため、エンジンの弁ばね、クラッ
チ用ばね、あるいは懸架用ばねとして最適である。その
他、150℃以上250℃以下、特に200℃前後の種々の環境
において用いられるばねとして好適である。
【0036】本発明のばねは、上述の本発明鋼線をコイ
リング加工することで得られる。その後、必要に応じ
て、ショットピーニング、窒化処理、電界研磨を単独で
又は組み合わせて利用できる。ショットピーニングにつ
いては、線表面圧縮残留応力の付与、線表面の残留応力
の円周方向分布ばらつき低減、線表面粗さの平滑化な
ど、いずれもばねの特性向上に効果がある。ショットピ
ーニングは、1段だけでなく、2段、3段の処理を行っ
ても良い。窒化処理は、表面硬度を増加し、疲労強度を
向上させることに有効である。窒化処理温度は400℃以
上が望ましい。500℃を超える高温の窒化処理も可能で
ある。そして、電界研磨はばねの表面粗さを低減するこ
とに有効である。ただし、本発明ばねは、これらの表面
処理を行わなくても十分優れた特性を得ることができ
る。
【0037】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を説明
する。
【0038】(試験例1)真空溶解炉にて溶解鋳造した
インゴットに圧延、パテンティング、伸線を繰り返し、
最終伸線前に皮剥ぎを行った後、OT処理を行った。用い
た共試材の化学成分は表1に示す通りである。
【0039】
【表1】
【0040】パテンティング条件は、1000℃に加熱して
オーステナイト化した後、450℃で5分間保持してベイナ
イト組織とした。伸線は50%以上の減面率の加工を行っ
た。皮剥ぎは、皮剥ぎダイスで表面の脱炭層を除去し、
6mm径のものを5.5mm径とした。また、OT処理後の線径は
全て4mmである。
【0041】<パテンティングの評価>上記の試作条件
のうち、パテンティングの処理時間について評価を行っ
た。量産性を考慮すると、5分以内でパテンティングで
きることが好ましい。そこで、5分以内でベイナイト変
態した鋼種を表2における「パテンティング」の欄に
「○」で示した。その結果、共試材J,K,Mはパテンティ
ングに5分超の時間がかかった。
【0042】
【表2】
【0043】なお、伸線加工前の試料の横断面、縦断面
をピクリン酸アルコールでエッチングした後、光学顕微
鏡で観察を行い、各断面上に占めるベイナイトの面積率
から、他相の大きさを推定し、体積%としてベイナイト
の比率を算出した。パテンティング後の組織はいずれも
ほぼベイナイトを主体としており、わずかにパーライト
が含まれるものの、その含有率は5vol%以下であっ
た。
【0044】<靭性の評価>次に、共試材J,K,Mを除く
他の共試材について、靭性の評価を行った。OT処理条件
として、1000℃に加熱してオーステナイト化し、水もし
くは油中に鋼線を入れて焼き入れ処理をし、その後、45
0〜530℃で5分間加熱して焼戻しを行った。このときの
焼戻し温度は、引張強度が2000±50MPaになるように調
整した。
【0045】この引張試験で、絞りが35%以上のものを
良好とし、表2の「靭性」の欄に「○」で示し、そうで
ないものを「×」で示した。なお、実際には、「○」印
のものは、全て絞りが40%以上であった。その結果、共
試材H,I,L,Nは絞りが35%未満であった。
【0046】<耐熱性の評価>次に、共試材H,I,L,Nを
除く残りの共試材に耐熱性の評価を行った。高温での歪
取り焼鈍または窒化処理を前提に考慮して、500℃で1
時間保持後における線材の表面硬度の低下を評価した。
評価は、OT処理後の線材表面のビッカース硬度が580〜6
20の共試材を選び、これに500℃で1時間の熱処理をし
た後、再度硬度測定を行った。そして、熱処理後のビッ
カース硬度が560以上の共試材を表2の「耐熱」の欄に
「○」で示し、そうでないものを「×」で示した。ここ
で、熱処理後に560以上のビッカース硬度を具えていた
のは共試材E,F,Gだけであった。
【0047】<疲労特性の評価>共試材E,F,Gについ
て、OT処理後に歪取り焼鈍を行い、それらの鋼線につい
て中村式回転曲げ疲労試験を行った。試験機の回転速度
を7000rpm.とし、1×107回まで試験を行い、破断しない
振幅応力を疲労限とした。また、現在量産されている化
学成分の高強度ばね鋼(共試材O)の疲労限と比較し
た。その結果、共試材Oは720MPaであったのに対し、共
試材E,F,Gはいずれも770MPa以上であり、高い疲労限を
達成した。表2では疲労限が750MPa以上であったものに
ついて、「疲労」の欄に「○」を、そうでないものに
「×」を付している。
【0048】<耐食性の評価>続いて、共試材E,F,Gに
ついて、耐食性の評価として、遅れ破壊特性を調べた。
比較のため、共試材Oについても同様の試験を行った。
試験は、共試材に700MPaのせん断応力をかけたまま、20
%チオシアン酸アンモニウム溶液(50℃)の中に浸漬
し、破断までの時間を測定することで行った。共試材E,
F,Oは3〜15時間で破断が発生した。また、共試材Gは5〜
20時間で破断し、他の共試材に比べてやや良好であっ
た。表2では、「耐食」の欄において、3〜15時間で破断
したものを「△」、5〜20時間で破断したものを「○」
で示している。
【0049】(試験例2)次に、前記共試材Eと同じ化
学成分の鋼種を用い、真空溶解炉にて溶解鋳造したイン
ゴットに圧延、パテンティング、伸線を繰り返し、最終
伸線前に皮剥ぎを行った後、OT処理を行った。パテンテ
ィング、伸線条件は試験例1と同様である。また、OT条
件として、オーステナイト化温度を850〜1100℃まで50
℃きざみに変化させ、焼戻しを500℃、3分とした。得ら
れた4mm径の共試材について結晶子サイズと疲労特性を
調べてみた。結晶子サイズの測定方法は後述する試験例
3において説明する。疲労特性は試験例1における「疲
労特性の評価」と同一条件にて行った。その結果、900
〜1050℃でオーステナイト化したものは、疲労限が770M
Pa以上であり、結晶子サイズが10〜30nmであった。これ
に対して、オーステナイト化温度を850℃としたもの
は、疲労限が770MPa未満であった。
【0050】(試験例3)試験例2と同様に共試材Eを
用い、OT処理までを行った。OT条件として、オーステナ
イト化温度を1000℃とし、焼戻しを350〜600℃、50℃き
ざみで各3分とした。そして、得られた4mm径の共試材
について格子歪と疲労特性を調べてみた。
【0051】格子歪及び結晶子サイズは、以下のHallの
方法により求めた。X線回折において、回折波の方向
(回折角)はBraggの式(2dsinθB=λ)で表される。
ここで、dは回折を起こす結晶面の面間隔、θBは回折
角、λはX線の波長である。この式は、無限大の結晶を
仮定したものであり、有限の大きさ(結晶子サイズ・
ε)の結晶であれば、この結晶の形状の効果により回折
角θBは有限の幅θ1(θ1=1/ε・cosθB)をもつ。さ
らに、結晶に不均一歪と呼ばれる加工や結晶欠陥に起因
した格子歪(η)がある時には、面間隔にばらつきが生
じてθ2(θ2=2ηtanθB)と言う幅を持つようにな
る。測定される回折ピークの幅θΔは、光学系などで決
まる装置固有の幅をθ0として、 θΔ=θ0+θ1+θ2=θ0+1/ε・cosθB+2ηtanθB となり、変形して、 →(θΔ−θ0)cosθB/λ=2ηsinθB/λ+1/ε と言う式が与えられる。実際の測定では、数本の回折ピ
ークを測定して、各々のピークの半価幅θΔを求め、各
ピークについて、無歪で結晶子サイズの十分大きな標準
試料を用いてθ 0を測定し、(θΔ−θ0)を求める。こ
の結果から、sinθ/λを横軸に、(θΔ−θ0)cosθ/
λを縦軸にプロットして直線で近似する。この直線の勾
配が2ηに、切片が1/εになる。これにより結晶子サイ
ズと格子歪を求めるものがHallの方法である。
【0052】疲労特性は試験例1における「疲労特性の
評価」と同一条件にて行った。
【0053】その結果、格子歪が0.15〜0.3%であるも
のは疲労限が750MPa以上であった。また、疲労限が優れ
るこれらの共試材は、焼戻し温度が400〜550℃であっ
た。
【0054】(試験例4)試験例2、3での共試材の組
織を観察すると、疲労限が760MPa以上のものはMo炭化物
の粒径が0.05μm以下であり、これより大きいものは疲
労限が低かった。
【0055】さらに、試験例2、3での共試材について
残留オーステナイト量を評価した。残留オーステナイト
量は、X線回折で求めた。その結果、疲労限が760MPa以
上のものは焼戻しマルテンサイトを主体とする組織で、
残留オーステナイト量が5vol%以下であった。
【0056】(試験例5)試験例1の共試材Eの表面粗
さを研磨により機械的に変え、Rzで5、11、13、16μm
となるように調整した。そして、疲労限を調べたとこ
ろ、Rzが小さいほど疲労限のばらつきが小さく、高くな
る傾向が認められた。しかし、Rzで16μmのものは疲労
限が大きく劣った。
【0057】
【発明の効果】以上説明したように、本発明鋼線によれ
ば、高温での影響を少なくして疲労限を向上し、高温で
の窒化処理が可能なばね用オイルテンパー線を得ること
ができる。特に、Moを添加した鋼線の疲労限向上に有効
で、窒化処理を行わなくても良好な特性が得られる。さ
らには、耐食性にも優れる鋼線が得られる。従って、本
発明鋼線は自動車エンジンの弁ばねなどに最適である。

Claims (7)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 成分が質量%で、C:0.60〜0.70、Si:
    1.80〜2.20、Mn:0.10〜0.50、Mo:0.60〜1.20、Cr:0.
    30未満を含み、焼入れ・焼戻ししたマルテンサイトを主
    体とする組織により構成されるばね用鋼線であって、下
    記の特性を具えることを特徴とするばね用鋼線。 引張強度:1900〜2350MPa 絞り:35%以上 Mo炭化物析出物のサイズ:0.2μm以下 残留オーステナイトの含有量:5vol%以下 表面粗さ:Rz14μm以下
  2. 【請求項2】 成分が質量%で、C:0.60〜0.70、Si:
    1.80〜2.20、Mn:0.10〜0.50、Mo:0.60〜1.20、Cr:0.
    30未満を含み、焼入れ・焼戻ししたマルテンサイトを主
    体とする組織により構成されるばね用鋼線であって、下
    記の特性を具えることを特徴とするばね用鋼線。 引張強度:1900〜2350MPa 絞り:35%以上 結晶子サイズ:10〜30nm 格子歪:0.15〜0.3%
  3. 【請求項3】 成分が質量%で、C:0.60〜0.70、Si:
    1.80〜2.20、Mn:0.10〜0.50、Mo:0.60〜1.20、Cr:0.
    30未満を含み、焼入れ・焼戻ししたマルテンサイトを主
    体とする組織により構成されるばね用鋼線であって、下
    記の特性を具えることを特徴とするばね用鋼線。 引張強度:1900〜2350MPa 絞り:35%以上 結晶子サイズ:10〜30nm 格子歪:0.15〜0.3% Mo炭化物析出物のサイズ:0.2μm以下 残留オーステナイトの含有量:5vol%以下 表面粗さ:Rz14μm以下
  4. 【請求項4】 さらにVを0.05〜0.15質量%含むことを
    特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のばね用鋼
    線。
  5. 【請求項5】 さらにNiを0.05〜2.00質量%含むことを
    特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のばね用鋼
    線。
  6. 【請求項6】 ベイナイトを主体とした組織の素線を伸
    線加工する工程と、伸線加工した線材を900〜1050℃に
    加熱し、その後急冷してマルテンサイトを主体とした組
    織に変態させる工程と、さらに400〜550℃に加熱して焼
    き戻す工程とを具えることを特徴とするばね用鋼線の製
    造方法。
  7. 【請求項7】 請求項1〜5のいずれかに記載の鋼線をコ
    イリングしたことを特徴とするばね。
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