JP2000328178A - 溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents

溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材およびその製造方法

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JP2000328178A JP2000027553A JP2000027553A JP2000328178A JP 2000328178 A JP2000328178 A JP 2000328178A JP 2000027553 A JP2000027553 A JP 2000027553A JP 2000027553 A JP2000027553 A JP 2000027553A JP 2000328178 A JP2000328178 A JP 2000328178A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 本発明は、溶接入熱量が20kJ/mmを超
えるような大入熱溶接においても良好なHAZ靭性を有
する鋼材を提供すること。 【解決手段】 重量%で、C:0.03〜0.2%、S
i:0.4%以下、Mn:0.5〜2%、P:0.01
5%以下、S:0.006%以下、Al:0.001〜
0.01%、Ti:0.005〜0.02%、Mg:
0.0001〜0.001%、O:0.001〜0.0
04%、N:0.0025〜0.006%、さらに、C
a:0.0005〜0.004%及びREM:0.00
03〜0.003%の内の1種又は2種を含有し、残部
がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、
MgとAlから成る酸化物を内包する0.01以上0.
5μm未満のTiNが10000個/mm2以上存在
し、さらに、0.5〜5μmの大きさの酸化物の(Ca
+REM)/Alの平均値が0.2以上であることを特
徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は溶接熱影響部(He
at Affected Zone:HAZ)靭性の優
れた鋼材に関するものである。本発明の鋼材は、小入熱
溶接から超大入熱溶接までの広範な溶接条件において良
好なHAZ靭性を有するので、建築、橋梁、造船、ライ
ンパイプ、建設機械、海洋構造物、タンクなどの各種溶
接鋼構造物に用いられる。
【0002】
【従来の技術】HAZにおいては、溶融線に近づくほど
溶接時の加熱温度は高くなり、特に溶融線近傍の140
0℃以上に加熱される領域では加熱オーステナイト
(γ)が著しく粗大化してしまい、冷却後のHAZ組織
が粗大化して靭性が劣化する。この傾向は溶接入熱量が
大きくなるほど顕著である。
【0003】このような問題点を解決する手段として、
特開昭60−245768号公報、特開昭60−152
626号公報、、特開昭63−210235号公報、特
開平2−250917号公報、特開平1−73320号
公報は、粗大なγ粒の内部に、Ti酸化物やTiNとM
nSの複合析出物を核とした粒内変態フェライトを積極
的に生成させ、HAZ靭性の向上を図ってきた。しかし
ながら、これらの技術によって製造された鋼も、溶接入
熱量が20kJ/mmを超えるような大入熱溶接HAZ
においては十分な靭性を得ることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明が解決しようと
する課題は、溶接入熱量が20kJ/mmを超えるよう
な大入熱溶接においても、良好なHAZ靭性を有する鋼
材を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、溶接入熱
量が20kJ/mmを超える大入熱溶接HAZ靭性の向
上を狙いとして、加熱γ粒成長抑制、適正なTiと
Nの存在形態について鋭意検討し、新たな金属学的効果
を知見して本発明に至った。
【0006】本発明の要旨は、以下の通りである。
【0007】(1) 質量%で、C:0.03〜0.2
%、Si:0.4%以下、Mn:0.5〜2%、P:
0.015%以下、S:0.006%以下、Al:0.
001〜0.01%、Ti:0.005〜0.02%、
Mg:0.0001〜0.001%、O:0.001〜
0.004%、N:0.0025〜0.006%、さら
に、Ca:0.0005〜0.004%、REM:0.
0003〜0.003%の内の1種又は2種を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有
し、MgとAlから成る酸化物を内包する0.01以上
0.5μm未満のTiNが10000個/mm2以上存
在し、さらに、0.5〜5μmの大きさの酸化物の(C
a+REM)/Alの平均値が0.2以上であることを
特徴とする溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
【0008】(2) 質量%で、さらに、Cu:1.5
%以下、Ni:1.5%以下、Mo:1%以下、Cr:
1%以下、Nb:0.05%以下、V:0.05%以
下、B:0.002%以下の1種または2種以上を含有
することを特徴とする上記(1)項記載の溶接熱影響部
靭性の優れた鋼材。
【0009】(3) さらに、質量%を用いて下記の
(1)式あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−
0.01%〜+0.005%の範囲とすることを特徴と
する上記(1)項又は(2)項記載の溶接熱影響部靭性
の優れた鋼材。 O−0.17×REM−0.4×Ca−0.66×Mg
−0.89×Al≧0 の場合、 有効Ti量=Ti−2×(O−0.17×REM−0.4×Ca −0.66×Mg−0.89×Al)−3.4×N ・・・(1) O−0.17×REM−0.4×Ca−0.66×Mg
−0.89×Al<0の場合、 有効Ti量=Ti−3.4×N ・・・(2)
【0010】(4) MgおよびCa添加前のスラグ中
T.Fe+MnOが10質量%であることを特徴とする
上記(1)項乃至(3)項のいずれかに記載の溶接熱影
響部靭性の優れた鋼材の製造方法。
【0011】(5) Mg、Ca以外の元素を添加した
後にMg、Caを添加することを特徴とする上記(1)
項乃至(3)項のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の
優れた鋼材の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】本発明で知見した新たな金属学的
効果について以下に説明する。
【0013】まず、加熱γ粒成長抑制について説明す
る。溶融線近傍HAZは加熱温度が1400℃にも及ぶ
ため、炭化物や窒化物が溶解・粗大化することでγ粒界
の移動をピンニングする力が著しく低下し、γ粒の成長
を避けることはできなかった。そこで、1400℃以上
の高温でも熱的に安定である酸化物によるピンニングに
よってγ粒成長を抑制することを検討した。その結果、
鋼中に微量のMgとAlを含有させることで、0.01
〜0.1μmの大きさの従来にない極めて微細な(M
g,Al)酸化物が多量に生成することを見いだした。
さらに、0.01以上0.5μm未満の大きさの微細な
TiNがこの(Mg,Al)酸化物上に複合析出し、1
400℃以上の高温で従来にない非常に強力なピンニン
グ力を発揮することを明らかにした。なお、TiN複合
粒子は、0.01超0.2μm以下とすることが好まし
い。
【0014】この(Mg、Al)酸化物はTiNとの格
子整合性がよいため、TiNの析出核として有効に作用
する。そして、0.01〜0.1μmの(Mg,Al)
酸化物にTiNが複合することでその表面積が増し、よ
り強力なピンニング力が発現される。
【0015】図1は溶接冷却時の800℃から500℃
までの冷却時間が330sである場合のHAZ靭性に及
ぼすγ粒径の影響を示す。この冷却時間は板厚80mm
の鋼板を約70kJ/mmの溶接入熱量でエレクトロス
ラグ溶接した場合に相当する。図1からγ粒の細粒化に
伴いHAZ靭性が向上する。これは、γ粒の細粒化に伴
ってγ粒界から変態する粒界フェライトやフェライトサ
イドプレートが小さくなり、HAZ組織が微細化される
ためである。このような効果はγ粒径が150μm以下
のときに顕著である。
【0016】図2は1400℃で30s間保持した場合
のγ粒径に及ぼす0.01以上0.5未満μmの複合析
出TiNの個数の影響を示す。この加熱条件は、板厚8
0mmの鋼板を約70kJ/mmの溶接入熱量でエレク
トロスラグ溶接したときの溶融線近傍HAZに相当す
る。図2から複合析出TiNの個数が10000個/m
2未満の場合にはγ粒径が150μm以上になり、H
AZ組織が十分に微細化されないために良好な靭性は得
られない。γ粒成長抑制に有効なこのような複合析出T
iNの分散状態は、Mg、Al、Ti、Ca、REM、
O、Nの量を本発明の範囲に制御することで達成され
る。
【0017】次に、0.5〜5μmの酸化物組成と、
0.01以上0.5未満μmの複合析出TiNの個数と
の関係について説明する。
【0018】図3は、0.5〜5μmの酸化物組成の
内、質量%で表した(Ca+REM)含有量とAl含有
量との比、(Ca+REM)/Alと0.01以上0.
5未満μmの複合析出TiNの個数との関係を示す。こ
こで、REMとは、La、Ceなどの希土類金属元素を
示す。(Ca+REM)/Alが0.2以上の場合、複
合析出TiNの個数が10000個/mm2以上にな
る。溶鋼中のAlが本発明の範囲である場合、0.5〜
5μmの酸化物中の(Ca+REM)/Alを上げるこ
とによりこのサイズの酸化物中のMgが減少し、逆に、
0.01〜0.5μmの(Mg,Al)酸化物の個数が
増加するためである。
【0019】次に各々の化学成分の限定理由について説
明する。
【0020】Cの下限は母材及び溶接部の強度、靭性を
確保するための最小量である。しかし、Cが多すぎると
母材及びHAZの靭性を低下させるとともに溶接性を劣
化させるため、その上限を0.2%とする。
【0021】Siは脱酸のために鋼に含有されるが、多
すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、上限
を0.4%とする。本発明の脱酸はTiだけでも十分可
能であり、良好なHAZ靭性を得るためにはSiを0.
3%以下にするのが望ましい。
【0022】Mnは母材及び溶接部の強度、靭性の確保
に不可欠であるため下限を0.5%とする。しかし、M
nが多すぎるとHAZ靭性を劣化させたり、スラブの中
心偏析を助長し、溶接性を劣化させるため上限を2%と
する。
【0023】Pは本発明鋼において不純物元素であり
0.015%以下とする。Pの低減はスラブ中心偏析の
軽減を通じて母材およびHAZの機械的性質を改善し、
さらには、HAZの粒界破壊を抑制する。
【0024】Sは多すぎると中心偏析を助長したり、延
伸したMnSが多量に生成するため、母材およびHAZ
の機械的性質が劣化する。したがって、上限を0.00
6%とする。なお、Siの下限は0.002%以上とす
ることが好ましい。
【0025】Alは、γ粒成長のピンニング粒子である
複合析出TiNの析出核である0.01〜0.1μmの
(Mg,Al)酸化物の個数を制御する上で重要であ
る。Alが0.001%未満の場合、(Mg,Al)酸
化物の個数が10000個/mm2未満となり、複合析
出TiNの個数が不足することでγ粒が十分に細粒化さ
れず、良好なHAZ靭性が得られない。一方、Alが
0.01%を超える場合、0.5〜5μmの酸化物中の
(Ca+REM)/Alが1未満となり、0.01〜
0.1μmの(Mg,Al)酸化物の個数が10000
個/mm2未満となり、複合析出TiNの個数が不足す
ることでγ粒が充分に細粒化されず、良好なHAZ靭性
が得られない。
【0026】Tiは、ピンニング粒子としての複合析出
TiNの分散状態を制御する上で重要であり、後述する
有効Ti濃度の適正範囲と相俟って狭い範囲に限定され
なければならない。Tiが0.005%未満の場合、
(Mg,Al)酸化物上に複合析出するTiNの個数が
10000個/mm2未満となり、HAZ靭性向上に必
要なγ粒成長抑制効果が得られない。一方、Tiが0.
02%を超える場合、有効Ti量が適正範囲内にあって
も実質的にTiCが過剰に生成し、HAZ靭性が低下す
る。このため、Ti:0.005〜0.02%とした
が、0.007〜0.02%が好ましい。TiNは厚板
圧延でのスラブ加熱時のγ粒成長抑制を通じて母材組織
を微細化し、鋼板の強度と靭性を向上させることにも貢
献する。
【0027】ここで、適正なTiとNの存在形態につい
て説明する。鋼中のTiはOと結合して酸化物を生成
し、残りのTiはNと結合してTiNを形成し、さらに
残ったTiが存在すれば、Cと結合してTiCを形成す
るが、TiCは析出脆化をもたらす。一方、鋼中のTi
が酸化物およびTiNとしてすべて消費されれば、Ti
と結合できなかった過剰なNが地鉄中に固溶するが、固
溶Nもまた脆化をもたらす。このように、酸化物および
窒化物として消費された残りのTiが存在するか否かに
よってTiとNの存在形態が異なり、このことが靭性に
大きな影響を及ぼす。本発明では、酸化物および窒化物
として消費された残りのTi量を「有効Ti量」として
質量%を用いて(1)式および(2)式で定義する。
【0028】O−0.17×REM−0.4×Ca−
0.66×Mg−0.89×Al≧0 の場合、 有効Ti量=Ti−2×(O−0.17×REM−0.4×Ca −0.66×Mg−0.89×Al)−3.4×N ・・・(1) O−0.17×REM−0.4×Ca−0.66×Mg
−0.89×Al<0の場合、 有効Ti量=Ti−3.4×N ・・・(2)
【0029】(1)式および(2)式の各元素の係数は
想定される酸化物および窒化物から化学量論的に決定さ
れた値である。1400℃を超えるような溶融線近傍H
AZでは、TiとNの存在形態はさらに複雑である。そ
の理由は、溶接加熱時にTiCとTiNの多くが地鉄中
に一旦固溶し、固溶したTi、N、Cは溶接冷却時にT
iNあるいはTiCとして再析出するとともに、一部は
固溶のまま存在するからである。このようなTiとNの
存在形態を制御してHAZ靭性の向上を目指すために
は、TiとNの各々の量を規定するとともに、有効Ti
量の概念を用いて他の成分とのバランスを図ることが重
要である。図4は溶接入熱量が50kJ/mmの場合を
シミュレートした1400℃加熱再現HAZ靭性に及ぼ
す有効Ti量の影響を示す。有効Ti量が−0.01%
〜+0.005%の範囲で良好な靭性を示す。すなわ
ち、この範囲がTiCの析出脆化とNの固溶脆化の両方
を回避できる適正な成分範囲であること示している。有
効Ti量が−0.01%未満の場合は固溶N量が過剰と
なり、有効Ti量が+0.005%を超える場合にはT
iC析出量が過剰となり、HAZ靭性が劣化する。
【0030】このように有効Tiを考慮することによ
り、さらに良好なHAZ靭性が得られる。
【0031】Mgは本発明の特徴的な元素であり、最も
重要な役割を有する。Mgを適量含有することで本発明
における酸化物の分散状態を達成することができる。M
gが0.0001%未満の場合、TiNの析出核である
(Mg,Al)酸化物の個数が不足する。一方、酸化物
として消費されるMgは0.001%あれば十分であ
り、これを超えるMgは金属学的に何ら効果をもたらさ
ない。Mgは蒸気圧が高くて酸化力が強い非常に活性な
元素であることから、必要以上に鋼中に含有させること
は製造コストの上昇を招き好ましくない。
【0032】Oは、TiNの析出核である(Mg,A
l)酸化物の個数を確保する上で必要である。Oが0.
001%未満の場合、酸化物の個数が不足し、HAZ靭
性が劣化する。一方、Oが0.004%を超える場合、
鋼の清浄度が低下して機械的性質が劣化する。
【0033】Nは、ピンニング粒子である複合析出Ti
Nの個数を確保する上で必要であり、有効Ti量の適正
範囲と相俟って狭い範囲に限定されなければならない。
Nが0.0025%未満の場合、TiNの個数が確保で
きない。一方、Nが0.006%を超える場合、有効T
i量が適正範囲内にあっても実質的に固溶Nが過剰とな
り、HAZ靭性が低下する。
【0034】Ca及び/又はREMは、ピンニング粒子
である複合析出TiNの析出核として作用する0.05
〜0.5μmの(Mg,Al)酸化物の個数を確保する
上で重要である。鋼中のAlが0.001〜0.01%
の場合であって、Ca及び/又はREMが、それぞれ
0.0005%未満、0.0003%未満の場合、0.
5〜5μmの酸化物中のCa及び/又はREMの濃度が
低くなり、(Ca+REM)/Alが0.2未満とな
る。このため、0.05〜0.5μmの(Mg,Al)
酸化物の個数が減少し、γ粒径が小さくならず、良好な
HAZ靭性を得ることができない。一方、0.5〜5μ
mの酸化物中の(Ca+REM)/Alを0.2以上に
するためには、Caが0.004%以下及び/又はRE
Mが0.003%以下であれば十分であり、これを超え
て添加してもピンニング効果が飽和する。Ca及びRE
Mは非常に酸化力が強い活性な元素であることから、必
要以上に鋼中に含有させることは製造コストの上昇を招
き好ましくない。なお、Ca及びREMは、その1種又
は2種を鋼中に含有させればよい。
【0035】続いて、母材の強化元素であるCu、N
i、Mo、Cr、Nb、V、Bを添加する理由について
説明する。
【0036】Cu、Niは溶接性およびHAZ靭性に悪
影響を及ぼすことなく母材の強度、靭性を向上させる。
しかし、それぞれ1.5%を超えると溶接性およびHA
Z靭性が劣化する。
【0037】Mo、Crは母材の強度、靭性を向上させ
る。しかし、それぞれ1%を超えると母材靭性、溶接性
およびHAZ靭性が劣化する。
【0038】Nbは母材組織の微細化に有効な元素であ
り、母材の機械的性質を向上させる。しかし0.05%
を超えるとHAZ靭性が劣化する。
【0039】Vは母材の強度を向上させる。しかし0.
05%を超えると溶接性およびHAZ靭性が劣化する。
【0040】Bは焼き入れ性を高めて母材やHAZの機
械的性質を向上させる。しかし0.002%を超えて添
加するとHAZ靭性や溶接性が劣化する。
【0041】本発明鋼材は、鉄鋼業の製鋼工程において
所定の化学成分に調整し、連続鋳造を行い、鋳片を再加
熱した後に厚板圧延によって形状と母材材質を付与する
ことで製造される。必要に応じ、鋼材に各種の熱処理を
施して母材の材質を制御することも行われる。鋳片を再
加熱することなく、ホットチャージ圧延することも可能
である。
【0042】本発明で規定した介在物の分散状態は、例
えば、以下のような方法で定量的に測定される。0.0
1以上5μm未満の(Mg,Al)酸化物とTiNの複
合析出物の分散状態は、母材鋼板の任意の場所から抽出
レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TE
M)を用いて10000〜50000倍の倍率で少なく
とも1000μm2以上の面積にわたって観察し、対象
となる大きさの複合析出物の個数を測定し、単位面積当
たりの個数に換算する。このとき、(Mg,Al)酸化
物とTiNの同定は、TEMに付属のエネルギー分散型
X線分光法(EDS)による組成分析と、TEMによる
電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。このよ
うな同定を測定するすべての複合析出物に対して行うこ
とが煩雑な場合、簡易的に次の手順による。まず、四角
い形状の析出物をTiNとみなし、対象となる大きさの
TiN中に酸化物が複合しているものの個数を上記の要
領で測定する。次にこのような方法で個数を測定した複
合析出物のうち少なくとも10個以上について上記の要
領で同定を行い、(Mg,Al)酸化物とTiNが複合
的に存在している割合を算出する。そして、はじめに測
定された複合析出物の個数にこの割合を掛け合わせる。
鋼中の炭化物が以上のTEM観察を邪魔する場合、50
0℃以下の熱処理によって炭化物を凝集・粗大化させ、
対象となる複合析出物の観察を容易にすることができ
る。
【0043】0.5〜5μmのTi−Mg系酸化物の個
数の測定例を示す。母材鋼板の任意の場所から小片試料
を切り出し、これを1400〜1450℃で10分間以
上保持することで酸化物以外の0.5〜5μmの介在物
を溶体化させ、その後水冷する。これを鏡面研磨し、光
学顕微鏡を用いて1000倍の倍率で少なくとも1mm
2以上の面積にわたって観察する。対象となる酸化物の
うち少なくとも10個以上についてX線マイクロアナラ
イザー(EPMA)に付属の波長分散型分光法(WD
S)を用いて組成を分析し、酸化物の平均組成における
Ca、REMとAlの含有量を質量%で求める。このと
き、酸化物組成の分析値に地鉄のFeが検出される場合
は、分析値からFeを除外して酸化物の平均組成を求め
る。
【0044】MgとCaは酸素との親和力が強く、蒸気
圧も高いため、酸化され、酸化物として溶鋼中から除去
されたり、蒸発してロスする。そのため添加歩留まりが
低い。歩留まりを向上させるためには、酸化ロスと蒸発
ロスを極力抑制することが重要である。
【0045】酸化ロスを小さくするためには、MgやC
a添加前の溶鋼中の酸素やスラグ中のFeO濃度とMn
O濃度を低減することが重要である。本発明の鋼材に
は、Si、Mn、Al、Tiなどの脱酸元素が含まれて
おり、これらの元素を添加した後にMgやCaを添加す
ることによって、酸化ロスを小さくすることができる。
すなわち、MgやCa以外の元素を添加し、溶鋼中の酸
素濃度を低下させるため、MgやCaの酸化ロスが低減
する。
【0046】スラグからの酸素供給によってMgやCa
が酸化ロスするのを抑制するため、スラグ中のFeO濃
度とMnO濃度を低減することが有効である。MgやC
aの添加前のスラグ中のT.Fe+MnOを質量%で1
0%を超えるとMgやCaの歩留まりが著しく低下す
る。したがって、T.Fe+MnOを10%以下とす
る。この値は小さいほど、Mgの酸化ロス防止には有効
であり、5%以下が望ましい。
【0047】MgやCaの蒸発ロスを抑制するため、で
きるだけ精錬工程の末期に添加することが有利である。
したがって、精錬工程で他の元素を添加したのちに、添
加するのがよい。これは上述のように酸化ロスを抑制す
ることからも有利である。ただし、成分の微調整のた
め、Mg、Ca添加後に、Mg、Ca以外の元素を少量
添加しても構わない。
【0048】Mgを溶鋼に添加するには、Mg含有合
金、MgO含有酸化物の1種もしくは、2種以上を用い
る。
【0049】Mg含有合金、MgO含有酸化物を溶鋼に
添加する方法は、粉状にしたMg合金、MgO含有酸化
物を不活性ガスを搬送ガスとして取鍋内の溶鋼中に吹き
込む方法、塊状のものを取鍋内溶鋼、RH、DH等の真
空槽内溶鋼に上方添加する方法、粉状のものを例えば鉄
で被覆しワイヤ状にしたものを取鍋内溶鋼または/およ
びタンディッシュ内溶鋼または/およびモールド内溶鋼
に添加する方法が考えられる。これらのいずれの方法を
用いてもよく、その効果は同等である。さらに、これら
の方法を組み合わせてもよい。
【0050】CaはCaを含有する合金であれば何を用
いても構わない。一般的にはCa−Si合金が用いられ
る。
【0051】Mgの添加時期は、Ca添加前、Ca添加
と同時、Ca添加後のいずれか、または、これらの組み
合わせのいずれでもよい。
【0052】MgとCaを同時に添加する場合は、Mg
含有合金または/およびMgO含有酸化物をCa含有合
金と混合して添加する方法、MgとCaの両方を含有す
る合金を添加する方法のいずれの方法でもよく、その効
果は同等である。
【0053】
【実施例】(実施例1)表1に鋼の化学成分と介在物の
分散状態を、表2に鋼板の製造条件と機械的性質を示
す。
【0054】表1のピンニング粒子の個数の測定は、鋼
板母材の板厚中心部から抽出レプリカ試料を作製し、こ
れを、30000倍の倍率で2000μm2の面積にわ
たってTEM観察することで行った。また、表1の0.
5〜5μmの大きさの酸化物の個数の測定は、同じく、
鋼板母材の板厚中心部から小片を切り出して1400℃
で20分間保定した後に水冷し、鏡面研磨面を1000
倍の倍率で4mm2の面積にわたって光学顕微鏡観察す
ることで行った。さらに、EPMA−WDSによって、
0.5〜5μmの20個の酸化物について組成を分析
し、地鉄(Fe)の分析値を差し引いて平均組成を求
め、(Ca+REM)/Alの値を求めた。
【0055】本発明鋼は溶接入熱量が20〜100kJ
/mmのエレクトロガス溶接部あるいはエレクトロスラ
グ溶接部の溶融線において従来にない良好なHAZ靭性
を有する。本発明鋼1〜10は、Al、Ti、Mg、C
a、REM、O、Nの量を厳密に制御し、有効Ti量な
る概念を用いてHAZにおけるTiとNの存在形態を適
正化し、さらに、γ粒成長抑制に有効な酸化物の分散状
態を有することで大入熱溶接においても良好なHAZ靭
性を達成している。一方、比較鋼11〜29は化学成分
や酸化物の分散状態が適正でないため、母材およびHA
Zの機械的性質が劣っている。
【0056】鋼11は、C量が低すぎるために、鋼12
は、C量が高すぎるために、母材およびHAZの靭性が
劣る。鋼13は、Si量が高すぎるためにHAZ靭性が
劣る。鋼14は、Mn量が低すぎるために、鋼15は、
Mn量が高すぎるために、母材およびHAZの靭性が劣
る。鋼16は、P量が高すぎるために母材およびHAZ
の靭性が劣る。鋼17は、S量が高すぎるために母材お
よびHAZ靭性が劣る。鋼18は、Al量が低すぎるた
めにTiNの析出核である(Mg,Al)酸化物の個数
が少なく、γ粒が粗大化してHAZ靭性が劣る。鋼19
はAl量が高すぎるため、0.5〜5μmの酸化物中の
(Ca+REM)/Alが小さく、ピンニング粒子の個
数が少ないため、HAZ靭性が劣る。鋼20は、Ti量
が低すぎるため、ピンニング粒子であるTiNの個数が
少なく、HAZ組織が著しく粗大化してHAZ靭性が劣
る。鋼21は、Ti量が高すぎるため、有効Ti量が適
正範囲から外れ、TiC析出脆化によってHAZ靭性が
劣る。鋼22は、Mg量が低すぎるため、TiNの析出
核である(Mg,Al)酸化物の個数が少なく、γ粒が
粗大化してHAZ靭性が劣る。鋼23は、REM量が低
すぎるため、0.5〜5μmの酸化物中の(Ca+RE
M)/Alが小さく、ピンニング粒子の個数が少ないた
め、HAZ靭性が劣る。鋼24は、O量が低すぎるた
め、(Mg,Al)酸化物の個数が少なく、γ粒が粗大
化してHAZ靭性が劣る。鋼25は、O量が高すぎるた
め、鋼の清浄度が悪くなり、破壊起点が増えてHAZ靭
性が劣る。鋼26は、N量が低すぎるため、ピンニング
粒子であるTiNの個数が少なく、HAZ組織が著しく
粗大化してHAZ靭性が劣る。鋼27は、N量が高すぎ
るため、有効Ti量が適正範囲から外れ、固溶Nが過剰
となりHAZ靭性が劣る。鋼28と鋼29は、各々の元
素は適正範囲にあるが、有効Ti量が不適当なため、T
iC析出脆化あるいは固溶N脆化によりHAZ靭性が劣
る。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】(実施例2)表1の本発明鋼1の組成の鋼
を溶製するに際して、Mg添加前の取鍋スラグ中のT.
Fe+MnO濃度を種々変化させた。その時の成品にお
けるMgの歩留まりを図5に示す。Mgの歩留まりは、
T.Fe+MnO濃度が低いほど高い。T.Fe+Mn
O濃度を質量%で10%以下望ましくは5%以下にする
ことでMg歩留まりは著しく向上する。
【0060】(実施例3)表1の本発明鋼1の組成の鋼
を溶製するに際して、Si、Mn、Ti、Al、Mg、
Caの添加時期を変化させた。その時の成品におけるM
gとCaの歩留まりを比較した結果を表3に示す。Mg
添加前のスラグ中T.Fe+MnO濃度はいずれも2%
であった。
【0061】Mg、Ca以外の元素を添加した後に、M
gやCaを添加した場合には、MgとCaの両方の歩留
まりが10%以上で良好であるのに対して、Mg、Ca
以外の元素をMgやCaの添加後に添加した場合には、
Mg、Caのいずれかまたは、両方の歩留まりが低い。
【0062】
【表3】
【0063】
【発明の効果】本発明により大入熱溶接においても良好
なHAZ靭性を有する鋼材の製造が可能となり、各種の
溶接構造物の安全性が格段に向上した。また、本発明鋼
を使用することで高能率溶接の適用領域が広がり、溶接
施工コストを大幅に低減することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】HAZ靭性に及ぼすγ粒径の影響を示す図であ
る。
【図2】1400℃加熱γ粒径に及ぼすピンニング粒子
個数の影響を示す図である。
【図3】ピンニング粒子個数に及ぼす0.5〜5μmの
大きさの酸化物中(Ca+REM)/Alの影響を示す
図である。
【図4】1400℃加熱HAZ靭性に及ぼす有効Ti量
の影響を示す図である。
【図5】Mgの添加歩留まりに及ぼすスラグ中のT.F
e+MnO濃度の影響を示す図である。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.03〜0.2%、S
    i:0.4%以下、Mn:0.5〜2%、P:0.01
    5%以下、S:0.006%以下、Al:0.001〜
    0.01%、Ti:0.005〜0.02%、Mg:
    0.0001〜0.001%、O:0.001〜0.0
    04%、N:0.0025〜0.006%、さらに、C
    a:0.0005〜0.004%、REM:0.000
    3〜0.003%の内の1種又は2種を含有し、残部が
    Feおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、M
    gとAlから成る酸化物を内包する0.01以上0.5
    μm未満のTiNが10000個/mm2以上存在し、
    さらに、0.5〜5μmの大きさの酸化物の(Ca+R
    EM)/Alの平均値が0.2以上であることを特徴と
    する溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。
  2. 【請求項2】 質量%で、さらに、Cu:1.5%以
    下、Ni:1.5%以下、Mo:1%以下、Cr:1%
    以下、Nb:0.05%以下、V:0.05%以下、
    B:0.002%以下の1種または2種以上を含有する
    ことを特徴とする請求項1記載の溶接熱影響部靭性の優
    れた鋼材。
  3. 【請求項3】 さらに、質量%を用いて下記の(1)式
    あるいは(2)式で計算される有効Ti量が−0.01
    %〜+0.005%の範囲とすることを特徴とする請求
    項1又は2記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材。 O−0.17×REM−0.4×Ca−0.66×Mg
    −0.89×Al≧0 の場合、 有効Ti量=Ti−2×(O−0.17×REM−0.4×Ca −0.66×Mg−0.89×Al)−3.4×N ・・・(1) O−0.17×REM−0.4×Ca−0.66×Mg
    −0.89×Al<0の場合、 有効Ti量=Ti−3.4×N ・・・(2)
  4. 【請求項4】 MgおよびCa添加前のスラグ中T.F
    e+MnOが10質量%であることを特徴とする請求項
    1乃至3のいずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた
    鋼材の製造方法。
  5. 【請求項5】 Mg、Ca以外の元素を添加した後にM
    g、Caを添加することを特徴とする請求項1乃至3の
    いずれかに記載の溶接熱影響部靭性の優れた鋼材の製造
    方法。
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