JP4074536B2 - 母材および溶接熱影響部の靱性に優れた鋼材 - Google Patents
母材および溶接熱影響部の靱性に優れた鋼材 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は母材および溶接熱影響部(Heat Affected Zone:以降HAZと記載する)靭性の優れた鋼材に関するものである。本発明の鋼材は、良好な母材靭性および小入熱溶接から超大入熱溶接までの広範な溶接条件において良好なHAZ靭性を有するので、建築、橋梁、造船、ラインパイプ、建設機械、海洋構造物、タンクなどの各種溶接鋼構造物に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
一般に、溶接鋼構造物用鋼は、鋳片を加熱炉にて加熱し、粗圧延、仕上げ圧延を施されて製造される。このような鋼の靭性は最終の結晶粒径が小さいほど高くなる。最終の結晶粒径を細かくするためには、粗圧延前の加熱オーステナイト(γ)粒径を細かくすることが重要である。通常、粗圧延前には1200℃程度まで加熱されるため、1200℃程度でも消失しない析出物、例えば、TiNなどを鋼中に分散させることで加熱γ粒の成長を抑制することが行われる。
【0003】
一方、溶接熱影響部(HAZ)においては、溶融線に近づくほど溶接時の加熱温度は高くなり、特に溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域では上記TiNは鋼中に溶解し始める。入熱量が少ない場合は、溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域は実質的にほとんどなく、TiNの消失はほとんどない。しかしながら、大入熱溶接の場合、TiNの個数密度が低いと、TiNが消失し、加熱γ粒が著しく粗大化してしまう。そのため、冷却後のHAZ組織が粗大化して靭性が劣化する。
【0004】
このような問題点を解決する手段として、REM:0.0010〜0.0200%かつCa:0.0010〜0.0200%を含有し、かつ、鋼中に円相当径0.05μm以下のTiNを1×103個/mm2以上、円相当径0.03〜0.20μmのTiNを1×103/mm2以上1×105/mm2未満分散させたことを特徴とした母材および溶接熱影響部靭性に優れた非調質高張力鋼材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、REM:0.0010〜0.0200%かつCa:0.0010〜0.0200%を含有し、かつ、重量%で、Ti酸化物:90%以下、Ca酸化物およびREM酸化物の合計:5〜20%、Al2O3:70%以下からなる介在物組成を有する酸化物系介在物を200nm以上の円相当径を有するものの個数で1×103個/mm2以上1×105個/mm2未満分散させたことを特徴とした母材および溶接熱影響部靭性に優れた非調質高張力鋼材が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
【特許文献1】
特開2001−20031号公報
【特許文献2】
特開2001−20033号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特許文献1、及び特許文献2によって示される鋼も、母材の靭性を高めることができず、また、HAZ部においても十分な靭性を得ることは困難であった。さらに、溶接入熱量が20kJ/mm程度を超えるような大入熱溶接HAZにおいては十分な靭性を得ることはより困難であった。その原因は母材靭性、HAZ靭性のいずれに対してもピン止め粒子の個数密度が不足するからである。
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、良好な母材靭性、および、大入熱溶接においても、良好なHAZ靭性を有するよう十分な個数密度のピン止め粒子を鋼中に分散させた鋼材を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、母材靭性およびHAZ靭性の向上を狙いとして、加熱γ粒成長抑制、微細析出物の多量分散について鋭意研究し、新たな金属学的効果を知見して本発明に至った。
【0010】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0011】
(1) 質量%で、
C :0.01%〜0.3%、
Si:0.01%〜0.5%、
Mn:0.3〜3.0%、
P :0.025%以下、
S :0.015%以下、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.005〜0.03%、
O :0.001〜0.006%、
N :0.002〜0.010%、
REM:0.003〜0.02%
を含有し、
さらに、
Zr:0.03%以下、
Ta:0.05%以下、
Co:0.05%以下、
W:0.05%以下
の1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、
円相当径で5〜100nmのTiNが2×106個/mm2以上分散していることを特徴とする母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【0012】
(2) 円相当径で10〜30nmのTiNが106個/mm2以上分散していることを特徴とする(1)に記載の母材および溶接熱影響部の靱性に優れた鋼材。
【0014】
(3) 下記(1)式で定義されるMTiNが4.0×10−5〜2.0×10−4であり、かつ下記(2)式で定義されるDTiNが−2.4×10−3〜4.1×10−3であることを特徴とする(1)または(2)に記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
MTiN=[%Ti]×[%N] ・・・(1)
DTiN=[%N]−0.292×[%Ti] ・・・(2)
ここで、[%N]は質量%で表した鋼中のN濃度、[%Ti]は質量%で表した鋼中のTi濃度である。
【0015】
(4) 円相当径で50〜500nmのREM含有介在物が105個/mm2以上分散していることを特徴とする(1)〜(3)いずれかに記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【0017】
(5) 質量%で、さらに、
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1%以下、
Cr:1%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.006%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする(1)〜(4)いずれかに記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
【0018】
【発明の実施の形態】
鋼材の靭性を向上させるためには、鋼材の結晶粒径を微細にすることが重要である。そのためには、圧延の出発組織である粗圧延前の加熱γ粒を微細にすることが重要である。粗圧延前には、通常1200℃程度に加熱されるため、この温度でも消失しない微細粒子を鋼中に分散させることで加熱γ粒の成長を抑制することができる。円相当径5〜100nmのTiNは素材が1200℃程度に加熱される時のγ粒の成長を抑制し、加熱後の組織微細化に寄与する。また、溶接入熱量が比較的少ない場合のHAZでは、溶融線近傍の1400℃以上に加熱されている領域が実質的にほとんどなく、TiNはほとんど消失しないため、HAZのγ組織微細化にも寄与する。しかし、個数が2×106個/mm2未満では、加熱後の組織微細化が不十分である。通常TEMで観察される粒子の最小径は5nm程度であり、100nmを越えるTiNは5〜100nmのTiNに比べて、その数が極端に少なく、γ粒の微細化にはほとんど寄与しない。したがって、円相当径5〜100nmのTiNの個数は2×106個/mm2以上とすることで、良好な母材およびHAZの靭性に優れた鋼材が得られる。
【0019】
ここで、母材とは溶接を施す前の鋼材を意味しており、この母材は溶接施工した際のHAZ部の靭性が良好な性質を有するものである。
【0020】
また、鋼中のTiNの粒径には分布があるため、ピン止め効果のより大きい粒径範囲のTiNを活用すると効率的である。そこで、粒径ごとのピン止め力を評価した結果、円相当径で5〜100nmの個数密度を上記の通り満足させながら、円相当径で10〜30nmのTiNの個数密度を106個/mm2以上とすることで、ピン止め効果がより大きくなることから、より良好な母材およびHAZの靭性が得られることが判明した。また、ピン止め効果のより大きい円相当径10〜30nmのTiNの個数密度が106個/mm2未満の場合、加熱γ粒がやや粗大化しやすく、母材およびHAZ靭性がやや低下する。したがって、円相当径で10〜30nmのTiNの個数密度を106個/mm2以上とするのが好ましい。
【0021】
以下に、各々の化学成分の限定理由について説明する。
【0022】
Cの下限である0.01質量%は、母材および溶接部の強度、靭性を確保するための最小量である。しかし、Cが多すぎると母材およびHAZの靭性を低下させるとともに溶接性を劣化させるため、その上限を0.3質量%とする。
Siは脱酸のために鋼に含有され、母材の強度確保に有効である。よって、下限を0.01質量%とする。しかし、多すぎると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、上限を0.5質量%とする。良好なHAZ靭性を得るためにはSiを0.3質量%以下にするのが望ましい。
【0023】
Mnは母材および溶接部の強度、靭性の確保に不可欠であり、下限を0.3質量%とする。しかし、Mnが多すぎるとHAZ靭性を劣化させたり、スラブの中心偏析を助長し、溶接性を劣化させるため上限を3.0質量%とする。
【0024】
Pは本発明鋼において不純物元素であり、0.025質量%以下とする。Pの低減はスラブ中心偏析の軽減を通じて母材およびHAZの機械的性質を改善し、さらには、HAZの粒界破壊を抑制する。Pは不純物元素のため下限は特に規定するものではない。
【0025】
Sは、多すぎると中心偏析を助長したり、延伸したMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの機械的性質が劣化する。したがって、上限を0.015質量%とする。Sは上記の通り少ないほど好ましいため下限は特に規定するものではない。
【0026】
Alは、脱酸のために鋼に添加される。Alを0.10質量%を超えて添加すると、介在物がアルミナとなりクラスターを形成し粗大化する。そのため、靭性が劣化する。また、0.001質量%未満の場合、溶鋼中の酸素濃度がやや高くなりすぎ、靭性を劣化させる粗大な介在物が増加し易くなる。したがって、Alは0.001質量%以上0.1質量%以下とする。
【0027】
Tiは、ピン止め粒子として有効なTiNを生成するために重要な元素である。母材及びHAZの靭性を確保するためには、0.005質量%以上が好ましい。一方、Ti濃度が0.03質量%超の場合、生成するTiNが粗大化し、ピン止めに有効な10〜50nmのTiNを十分な個数生成させることができない。さらに粗大なTiNは母材の靭性が低下する原因となる。したがって、Tiは0.01質量%以上0.03質量%以下が好ましい。
【0028】
Nは、ピン止め粒子として有効なTiNを生成するために重要な元素である。母材及びHAZの靭性を確保するためには、0.002質量%以上が好ましい。一方、0.010質量%を超える場合、固溶Nが過剰となり、粗大なTiNが生成するため、母材およびHAZ靭性が低下する。したがって、N濃度は0.002〜0.010質量%の範囲が好ましい。
【0029】
鋼中のTi濃度とN濃度の好ましい範囲は図1の境界線上を含む網掛け部である。
【0030】
Oは、ピン止め粒子であるREM含有介在物を構成する元素の一つである。Oが0.001質量%未満の場合、酸化物の個数が不足し、HAZ靭性が劣化する。一方、Oが0.006質量%を超える場合、鋼の清浄度が低下して機械的性質が劣化する。
【0031】
また、残部のFeおよび不可避的不純物からなる化学成分とは、特に規定するものではないが、通常はCu、Ni、Cr、H等の微量成分が混入している。
【0032】
次に、本発明者らはTiNを効果的に多数均一分散するため、種々のTi及びN濃度に調整した溶鋼を鋳造し、鋼材中のTiNの存在形態を調査した。その結果、TiNの径及び個数密度は、下記(1)式で定義されるMTiN、すなわち鋼中Ti濃度とN濃度の積の値に依存し、質量%で表した濃度の積MTiNが4.0×10-5〜2.0×10-4である場合、最も多数のTiNが均一微細分散し、得られた鋼材を圧延加工した際、母材靭性が非常に優れた鋼となる結果を得た。MTiNが4.0×10-5未満の場合、TiNの析出駆動力が小さくなりやすく、析出する個数がやや減少する。一方、MTiNが2.0×10-4超の場合、TiNの成長速度が大きくなりやすく、析出物がやや粗大になる。したがって、MTiNの範囲は4.0×10-5〜2.0×10-4が好ましい。
【0033】
MTiN=[%Ti]×[%N] ・ ・ ・(1)
しかし、同時に鋼中TiとNの原子数の比も重要であり、鋼中TiとNの原子数の比がTi窒化物の構成比である1:1から大きく逸脱すると、材質の劣化を生じやすくなる。具体的には、鋼中Ti濃度がNに対する当量を大きく越える場合、すなわち下記(2)式で定義されるDTiNが2.4×10-3未満であると、固溶Tiが増加し、Ti炭化物を生成してHAZ靭性を劣化させやすくなる。よってDTiNの下限は−2.4×10-3が好ましい。一方、鋼中N濃度が当量を大きく越える場合、すなわちDTiNが4.1×10-3を超えると、固溶Nが増大し、母材及びHAZ靭性を劣化させやすくなる。よってDTiNの上限は4.1×10-3が好ましい。
【0034】
DTiN=[%N]−0.292×[%Ti] ・ ・ ・(2)
ここで、[%N]は質量%で表した鋼中のN濃度、[%Ti]は質量%で表した鋼中のTi濃度である。
【0035】
鋼中のTi濃度とN濃度のさらに好ましい範囲は図2の境界線上を含む網掛け部である。
【0036】
さらに、HAZにおいては溶融線に近づくほど溶接時の加熱温度は高くなり、特に溶融線近傍の1400℃以上に加熱される領域では上記TiNは鋼中に溶解し始め、溶接入熱量が多い場合には、TiN個数密度が不足していると、ピン止め粒子が消失するため、加熱γ粒が著しく粗大化してしまう。そのため、冷却後のHAZ組織が粗大化して靭性が劣化しやすくなる。そこで、大入熱HAZにおいても良好な靭性を得るためには、1400℃に加熱されても消失しない微細粒子をピン止め粒子として多量に分散させることが重要である。そのような粒子として、円相当径が50〜500nmでREMを含有する介在物を鋼中に105個/mm2以上分散させることが有効であることを見出した。この粒子は1400℃においても鋼中で安定に存在し、γ粒の成長を抑制するピン止め粒子として有効に作用するため、より好ましい。また、REMを含有する介在物は溶鋼中で生成するため、固体鉄中で析出するTiNに比べてやや粒径が大きいことから、50nm未満の介在物は極めて少なく、50nm未満のREMを含有する介在物は加熱γ粒の微細化には実質的に寄与しない。一方、500nmを越えるREM含有介在物は靭性を劣化させる原因となるのでできるだけ少ない方が好ましい。さらに、加熱γ粒微細化に有効な50〜500nmのREMを含有する介在物個数が105個/mm2未満の場合は、大入熱溶接時の加熱γ粒がやや粗大である。したがって、50〜500nmのREMを含有する介在物個数は105個/mm2以上が好ましい。
【0037】
ここで、REMはCe,La,Ndなどのいわゆるランタノイドであり、いずれを用いても、また、2種以上が複合する場合においても同等の効果を有する。また、REM含有介在物は、酸化物、硫化物、酸硫化物のいずれでもよい。
【0038】
本発明で規定した微細粒子の分散状態は、例えば、以下にような方法で定量的に測定される。
【0039】
例えば、5〜100nmのTiNの分散状態は、母材鋼材の任意の場所から抽出レプリカ試料を作製し、これを透過電子顕微鏡(TEM)を用いて10000〜100000倍の倍率で少なくとも1000μm2以上の面積にわたって観察し、対象となる大きさの析出物の個数を測定し、単位面積当たりの個数に換算する。このとき、TiNの同定は、TEMに付属のエネルギー分散型X線分光法(EDX)による組成分析と、TEMによる電子線回折像の結晶構造解析によって行われる。
【0040】
一方、このような同定を測定するすべての析出物に対して行うことが煩雑な場合、簡易的に次の手順を用いても良い。まず、対象となる大きさの析出物の個数を上記の要領で測定する。次に、このような方法で個数を測定した析出物のうち少なくとも10個程度以上について上記の要領で同定を行い、TiNが存在している割合を算出する。そして、はじめに測定された析出物の個数にこの割合を掛け合わせる。鋼中の炭化物が上記のTEM観察を邪魔する場合、500℃以下の熱処理によって炭化物を凝集・粗大化させ、対象となる複合析出物の観察を容易にすることができる。
【0041】
また、10〜30nmのTiNや、50〜500nmのREM含有介在物の分布状態についても、同様の方法で定量的に測定される。
【0042】
鋼中に円相当径が50〜500nmでREMを含有する介在物を鋼中に105個/mm2以上分散させるためには、REM濃度を適当な範囲に調整することが重要である。REM濃度が0.003質量%未満の場合、鋼中のREM含有介在物の個数密度が少なすぎ、加熱γ粒が粗大化し、靭性が劣化する。一方、REM濃度が0.02質量%超の場合、REM含有介在物が粗大化し、ピン止めに有効な50〜500nmの粒径のものが減少し、1μm超の靭性を劣化させる粗大なREM含有介在物が増加する。したがって、鋼中のREM濃度は質量%で0.003%〜0.02%の範囲が好ましい。
【0043】
続いて、Cu、Ni、Mo、Cr、Nb、V、B、Zr、Ta、Co、W、Ca、Mgの1種または2種以上を選択成分として添加することが好ましい理由について説明する。
【0044】
Cu、Niは溶接性およびHAZ靭性に悪影響を及ぼすことなく母材の強度、靭性を向上させる。しかし、1.5質量%を超えると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、いずれも1.5質量%以下が好ましい。また、これら成分を選択成分として添加する場合に、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない(以下の選択成分についても同様である。)。
【0045】
Mo、Crは母材の強度、靭性を向上させる。しかし、1質量%を超えると母材の靭性、溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、いずれも1.0質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0046】
Nbは母材組織の微細化に有効な元素であり、母材の機械的性質を控除させる。しかし、0.05質量%を超えるとHAZ靭性が劣化するため、0.05質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0047】
Vは母材の靭性を向上させる。しかし0.05質量%を超えると溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、0.05質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0048】
Bは焼き入れ性を高めて母材やHAZの機械的性質を向上させる。しかし、0.002質量%を超えて添加するとHAZ靭性や溶接性が劣化するため、0.002質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0049】
Zrは、Mnに優先して高温で硫化物を形成し、熱間圧延時に硫化物が延伸化されることを軽減し、製品の母材やHAZの機械的性質の向上に有効である。但し0.03質量%を越えるとHAZ靱性が劣化するため、上限は0.03質量%が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。Ta、Co、Wは母材の強度、靭性を向上させる。しかし、0.05質量%を超えると母材の靭性、溶接性およびHAZ靭性が劣化するため、0.05質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0050】
Caは、Mnに優先して高温で硫化物を形成し、熱間圧延時に硫化物が延伸化されることを軽減し、製品の母材やHAZの機械的性質の向上に有効である。しかし、0.005質量%を越えると粗大な介在物が増加し鋼の機械的性質を劣化させるため、0.005質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0051】
Mgは、Mnに優先して高温で硫化物を形成し、熱間圧延時に硫化物が延伸化されることを軽減し、製品の母材やHAZの機械的性質の向上に有効である。しかし、0.006質量%を越えると粗大な介在物が増加し鋼の機械的性質を劣化させるため、0.006質量%以下が好ましい。また、下限は特に規定するものではないが、0質量%は含まない。
【0052】
また、本発明鋼の製造方法は、鉄鋼業の製鋼工程において、本願発明の範囲内の所定の化学成分に調整し、連続鋳造を行い、鋳片を再加熱した後に厚板圧延によって形状と母材材質を付与することで製造される。REM含有介在物個数を上記した範囲に調整するためには、Ce、La等のREMを10質量%以上含有する合金、例えば、ミッシュメタル、Fe−Si−REM合金を添加すればよい。さらに、必要に応じ、鋼材に各種の熱処理を施して母材の材質を制御することも行われる。鋳片を再加熱することなく、ホットチャージ圧延することも可能である。
【0053】
本発明が適用される鋼材の素材である鋳片は厚みに関係なく同等の効果を有する。
【0054】
【実施例】
表1に示す組成の厚鋼材を試作した。試作鋼は転炉で吹錬し、真空精錬装置であるRHで脱水素、脱酸、合金添加をした後、連続鋳造した。鋳片の厚みは240mmである。鋼中のTiNの量は、主として鋼中のTi濃度、N濃度を変化させ、また、REM含有介在物の個数は主として鋼中のREM濃度を変化させることで調整した。REM濃度の調整に用いたREM合金はREM含有量が30質量%程度のミッシュメタルあるいはFe−Si−REM合金であり、これらの合金の効果は同等であった。
【0055】
表1には、介在物の分散状態を併示した。表2に鋼材の製造条件、機械的性質、溶接条件および溶接部の靭性を示す。
【0056】
表1のTiNおよびREM含有介在物の個数の測定は、鋼材の板厚1/4厚部から抽出レプリカ試料を作製し、これを、30000倍の倍率で2000μm2の面積に渡ってTEM観察することでおこなった。個数を測定した粒子の内、30個についてEDXで組成分析を行い、TiNあるいはREM含有介在物の存在割合を求めた。
【0057】
本発明鋼は、母材および溶接入熱量が10〜100kJ/mmのエレクトロガス溶接部あるいはエレクトロスラグ溶接部の溶融線において従来にない良好な靭性を有する。
【0058】
本発明鋼は、Ti,N,REMの量を厳密に制御し、γ粒成長抑制に有効なTiNとREM含有介在物の分散状態を有することで良好な母材靭性および大入熱溶接においても良好なHAZ靭性を達成している。
【0059】
一方、比較鋼は化学成分やTiNやREM含有介在物の分散状態が適正でないため、母材およびHAZの機械的性質が劣っている。
【0060】
鋼12は、鋼中のN濃度が低すぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さいため、母材およびHAZの靭性が低い。
【0061】
鋼13は、MTINの値が大きすぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さく、粗大なTiNも多数析出するため、母材およびHAZの靭性が低い。
【0062】
鋼14は、DTiNがの値が低すぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さいため、母材の靭性が低い。
【0063】
鋼15は、DTiNの値が大きすぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さく、さらに、粗大なTiNが多数析出するため、母材およびHAZの靭性が低い。
【0064】
鋼16は、N濃度が低すぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さいのに加えて、REM濃度も低すぎ、50〜500nmのREM含有介在物の個数が少ないため、母材およびHAZの靭性が低い。
【0065】
鋼17は、N濃度が低すぎ、5〜100nmのTiNの個数密度が小さいのに加えて、REM濃度が高すぎ、粗大なREM含有介在物の個数が多いことと、50〜500nmのREM含有介在物の個数が少ないことのため、HAZの靭性が低い。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【発明の効果】
本発明により、母材およびHAZ部の靭性が良好な鋼材の製造が可能となり、各種の溶接構造物の安全性が格段に向上できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】母材及び溶接熱影響部の靭性を良好にする鋼中のTi濃度とN濃度の関係を示す図である。
【図2】母材及び溶接熱影響部の靭性をさらに良好にする鋼中のTi濃度とN濃度の関係を示す図である。
Claims (5)
- 質量%で、
C :0.01%〜0.3%、
Si:0.01%〜0.5%、
Mn:0.3〜3.0%、
P :0.025%以下、
S :0.015%以下、
Al:0.001〜0.10%、
Ti:0.005〜0.03%、
O :0.001〜0.006%、
N :0.002〜0.010%、
REM:0.003〜0.02%
を含有し、
さらに、
Zr:0.03%以下、
Ta:0.05%以下、
Co:0.05%以下、
W:0.05%以下
の1種または2種以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物からなる化学成分を有し、
円相当径で5〜100nmのTiNが2×106個/mm2以上分散していることを特徴とする母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。 - 円相当径で10〜30nmのTiNが2×106個/mm2以上分散していることを特徴とする請求項1に記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
- 下記(1)式で定義されるMTiNが4.0×10−5〜2.0×10−4であり、かつ下記(2)式で定義されるDTiNが−2.4×10−3〜4.1×10−3であることを特徴とする請求項1または2に記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
MTiN=[%Ti]×[%N] ・・・(1)
DTiN=[%N]−0.292×[%Ti] ・・・(2)
ここで、[%N]は質量%で表した鋼中のN濃度、[%Ti]は質量%で表した鋼中のTi濃度である。 - 円相当径で50〜500nmのREM含有介在物が105個/mm2以上分散していることを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
- 質量%で、さらに、
Cu:1.5%以下、
Ni:1.5%以下、
Mo:1%以下、
Cr:1%以下、
Nb:0.05%以下、
V:0.05%以下、
B:0.002%以下、
Ca:0.005%以下、
Mg:0.006%以下
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の母材および溶接熱影響部の靭性に優れた鋼材。
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